(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029780
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】電力系統運用計画装置、電力系統運用計画装置用コンピュータプログラム、および電力系統運用計画方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20250228BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20250228BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20250228BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 120
H02J3/00 180
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134602
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】若尾 真治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】森 友輔
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 直也
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA03
5G066AE04
5G066AE09
5G066DA04
5G066FA01
5G066FC02
5G066HB06
5G066JA01
5G066JA05
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】明確な算出手順により、気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することができる電力系統運用計画装置を提供する。
【解決手段】電力系統運用計画装置1は、再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統に、投入される調整力にかかる電力の電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する計算問題作成部102と、計算問題作成部102により作成された目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出する計算問題実行部103と、を有し、計算問題実行部103により算出された、複数の気象予測情報に基づく調整力にかかる電力による運用計画、および調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の気象予測情報を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の、電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する計算問題作成部と、
前記計算問題作成部により作成された前記目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する計算問題実行部と、を有し、
前記計算問題実行部により算出された、複数の気象予測情報に基づく前記調整力にかかる電力による運用計画、および前記調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の前記気象予測情報を出力する、
電力系統運用計画装置。
【請求項2】
前記計算問題作成部により作成された前記目的関数は、前記電力価格に関する項に前記調整力にかかる追加電力の電力価格に関する項を有し、
前記計算問題実行部は、前記調整力にかかる電力のうち前記追加電力の大きさを算出する、
請求項1に記載の電力系統運用計画装置。
【請求項3】
前記計算問題作成部は、複数の前記気象予測情報のうち少なくとも1つに対応した、前記調整力にかかる電力を抑制した場合における経済的損失に関する項を有する潮流計算問題にかかる前記目的関数を作成し、
前記計算問題実行部は、前記計算問題作成部により作成された前記目的関数に基づき、調整力にかかる電力の抑制量を算出する、
請求項1に記載の電力系統運用計画装置。
【請求項4】
前記計算問題作成部は、複数の前記気象予測情報に対応した潮流計算問題にかかる目的関数を作成する潮流計算問題作成部と、複数の前記気象予測情報のうち少なくとも1つに対応した、緊急的な電力制御に対応した潮流計算問題にかかる前記目的関数を作成する緊急制御計画計算問題作成部とを備え、
前記計算問題実行部は、前記潮流計算問題作成部により作成された前記目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の前記気象予測情報に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する複数パターン計算問題実行部と、前記緊急制御計画計算問題作成部により作成された前記目的関数に基づき、前記緊急的な電力制御に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する緊急制御計画計算問題実行部とを備える、
請求項1に記載の電力系統運用計画装置。
【請求項5】
前記計算問題実行部により算出された、複数の気象予測情報に対応した前記調整力にかかる前記電力の大きさに基づき判断された前記電力系統の系統混雑の予測、および運用実績にかかる系統混雑の実績に基づき、前記系統混雑の予測と前記系統混雑の実績の関係を示す混同行列を作成する混同行列作成部を備える、
請求項1に記載の電力系統運用計画装置。
【請求項6】
コンピュータに、
再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する計算問題作成ステップと、
前記計算問題作成ステップにより作成された前記目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する計算問題実行ステップと、を実行させ、
前記計算問題実行ステップにより算出された、複数の気象予測情報に基づく前記調整力にかかる電力による運用計画、および前記調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の前記気象予測情報を出力させる、
電力系統運用計画装置用コンピュータプログラム。
【請求項7】
再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する計算問題作成手順と、
前記計算問題作成手順により作成された前記目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する計算問題実行手順と、を有し、
前記計算問題実行手順により算出された、複数の気象予測情報に基づく前記調整力にかかる電力による運用計画、および前記調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の前記気象予測情報を出力する、
電力系統運用計画方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、電力系統に電力を供給する複数の発電機の運転計画を作成する電力系統運用計画装置、電力系統運用計画装置用コンピュータプログラムおよび電力系統運用計画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統に電力を供給する再生可能エネルギー発電設備を含む複数の発電機の操作量を算出する電力系統運用計画装置が知られている。特に、再生可能エネルギー発電設備の操作量は天候に応じて決定する必要があるため、予測値に対して算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-194849号公報
【特許文献2】特開2022―077459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今の電力自由化により、新規電気事業者が電気事業に参入し、従来に比べ複雑な電力供給および電力消費がなされるようになった。このため、電力需要量と供給量(以降「電力需給」と総称する場合がある)の調整は、きめ細かに行うことが必要とされる。電力需給の調整は、適切なコストにより行われることが好ましい。
【0005】
近年、新規電気事業者により太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電設備(以降、「再エネ設備」と呼ぶ場合がある)が電力系統に大量に導入されている。電力系統に再エネ設備を接続して電力需給の調整を行うためには、電力系統の電圧や電流、有効電力潮流などの制約条件に基づき、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することが必要とされる。調整力とは、調整に用いられる電力設備からの出力である。
【0006】
しかしながら、再エネ設備が偏在化することに起因し、局所的に送電線、変圧器の電流や有効電力潮流が過大となり、電力系統において系統混雑が発生するとの問題が生じている。送配電事業者は、再エネ設備の出力予測値に基づき位相変圧器の制御、系統構成の変更、再エネ設備の抑制、調整力として用いられる確保済みの電源の出力計画の変更、コネクトアンドマネージにかかる計画の立案などにより、系統混雑を解消する。
【0007】
再エネ設備の出力は気象に応じて変動するため、出力予測値は誤差を含む。このため誤差を考慮した再エネ設備の出力予測に基づき系統運用計画を立案し、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することが重要である。気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することが好ましい。
【0008】
また、従来技術では、機械学習などの統計的手法に基づき、確率的に算出した気象予測情報を活用して系統運用計画を立案していた。このような従来技術による系統運用計画に基づき再エネ設備を含む調整力の操作量を算出した場合、統計的手法には必ず誤差が伴うので、系統混雑を解消するための最も経済的となる系統運用にならない。
【0009】
このため、太陽光発電や風力発電などの再エネ設備により発電を行う電気事業者に、再エネ設備の操作量の理由説明を求められる場合もある。例えば再エネ設備の出力を抑制する場合、再エネ設備により発電を行う電気事業者に経済損失が発生するため、明確な理由が求められる。
【0010】
機械学習などの統計的手法により再エネ設備を含む調整力の操作量を算出した場合、操作量の算出根拠は必ずしも明確ではない。再エネ設備を含む調整力の操作量は、明確な算出手順により算出されることが好ましい。
【0011】
本実施形態は、上記の問題点に鑑み、明確な算出手順により、気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することができる電力系統運用計画装置、電力系統運用計画装置用コンピュータプログラム、および電力系統運用計画方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本実施形態の電力系統運用計画装置は、次のような特徴を有する。
(1)再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の、電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する計算問題作成部を有する。
(2)前記計算問題作成部により作成された前記目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した前記調整力にかかる電力の大きさを算出する計算問題実行部を有する。
(3)前記計算問題実行部により算出された、複数の気象予測情報に基づく前記調整力にかかる電力による運用計画、および前記調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の前記気象予測情報を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成を示す図
【
図2】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1のプログラムフローを示す図
【
図3】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の電力系統情報201の一例を示す図
【
図4】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の発電計画情報202の一例を示す図
【
図5】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の小売計画情報203の一例を示す図
【
図6】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の気象不確実性情報204の一例を示す図
【
図7】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の需給維持調整力計画情報205の一例を示す図
【
図8】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の調整力候補情報206の一例を示す図
【
図9】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の制御対象機器情報207の一例を示す図
【
図10】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の再エネ設備情報208の一例を示す図
【
図11】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1により表示される気象予測情報の一例を示す図
【
図12】第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1により表示される日射量にかかる情報の一例を示す図
【
図13】第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成を示す図
【
図14】第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1のプログラムフローを示す図
【
図15】第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の緊急制御候補情報211の一例を示す図
【
図16】第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成を示す図
【
図17】第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の系統混雑履歴情報212の一例を示す図
【
図18】第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1により表示される混同行列の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
後述する潮流計算問題作成部102、緊急制御計画計算問題作成部112を総括して「計算問題作成部」と、複数パターン計算問題実行部103、緊急制御計画計算問題実行部113を総括して「計算問題実行部」と呼ぶ場合がある。
【0015】
[第1実施形態]
[1-1.構成]
図1を参照して本実施形態の一例として、電力系統運用計画装置1の構成について説明する。電力系統運用計画装置1は、コンピュータにより構成される。電力系統運用計画装置1は、明確な算出手順により、気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出する。調整力とは、調整に用いられる電力設備からの出力である。
【0016】
電力系統運用計画装置1は、処理部10、記憶部20、数理問題ソルバー30、入力部40、出力部50を有する。記憶部20、数理問題ソルバー30、入力部40、出力部50は、処理部10に接続される。処理部10は、記憶部20、数理問題ソルバー30、入力部40、出力部50の制御を行う。
【0017】
記憶部20は、ハードディスクや半導体メモリのような記憶媒体にて構成される。記憶部20は、処理部10に接続される。記憶部20は、処理部10によりデータの書き込み、読出しが制御される。
【0018】
記憶部20のデータは、入力部40を介して入力され記憶される。記憶部20は、電力系統情報201、発電計画情報202、小売計画情報203、気象不確実性情報204、需給維持調整力計画情報205、調整力候補情報206、制御対象機器情報207、再エネ設備情報208を記憶する。
【0019】
電力系統情報201は、各ノードのIDごとの、電圧下限、電圧上限に関する情報である。電力系統情報201は、各ブランチのIDごとの、始端ノードID、終端ノードID、インピーダンス、静電容量に関する情報を含む。
図3に電力系統情報201の一例を示す。
【0020】
発電計画情報202は、発電事業者が保有する各電源の有効電力出力計画値、無効電力下限値、無効電力上限値が、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶された情報である。各電源の無効電力下限値、上限値に関する情報は、系統運用者により収集される。
図4に発電計画情報202の一例を示す。
【0021】
小売計画情報203は、有効電力負荷の計画値、無効電力負荷の想定値が、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶された情報である。無効電力負荷の想定値は、有効電力負荷の計画値に基づき相関式により算出される。
図5に小売計画情報203の一例を示す。
【0022】
気象不確実性情報204は、日射量予報値、再エネ出力予測値が、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶された情報である。近年、気象の不確実性を考慮して、同時刻に想定される複数の気象予測情報を提供する技術が開発されている。提供される複数の気象予測情報をアンサンブル予報と呼ぶ場合がある。アンサンブル予報にかかる複数の気象予測情報のそれぞれに付与されたIDを、メンバーと呼ぶ。メンバーは、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶される。再エネ出力予測値は、日射量に基づき変換式により算出される。
図6に気象不確実性情報204の一例を示す。
【0023】
需給維持調整力計画情報205は、需給維持のための調整力の計画における、調整力の下げ調整可能幅、調整力の上げ調整可能幅、調整力kWh価格が、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶された情報である。調整力とは、調整に用いられる電力設備からの出力であり、系統運用者の指示により制御される。需給維持調整力計画情報205には、有効電力出力の上げ調整可能な電力の幅(ΔkW)、下げ調整可能な電力の幅(ΔkW)が記憶されている。調整力kWh価格は、単位電力量(kWh)あたりの調整にかかる費用である。
図7に需給維持調整力計画情報205の一例を示す。
【0024】
調整力候補情報206は、系統混雑解消のための調整力の候補にかかる調整力の最大上げ調整可能幅、調整力ΔkW価格、調整力kWh価格が、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶された情報である。調整力ΔkW価格は、単位電力(ΔkW)を確保するためのコストである。
図8に調整力候補情報206の一例を示す。
【0025】
制御対象機器情報207は、変圧器の3次側の各ノードに投入される、調整力以外の制御対象機器である調相設備投入量下限値、調相設備投入量上限値に関する情報である。制御対象機器情報207は、変圧器のブランチにおけるタップ比下限、タップ比上限に関する情報を含む。
図9に制御対象機器情報207の一例を示す。
【0026】
再エネ設備情報208は、再エネ設備の容量である再エネ設備容量が、各ノードIDに対応して記憶された情報である。
図10に再エネ設備情報208の一例を示す。
【0027】
処理部10は、マイクロコンピュータのCPU(Central Processing Unit)等により構成される。処理部10は、データ管理部101、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105、表示部106を有する。データ管理部101、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105は、ソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。
【0028】
処理部10は、記憶部20、数理問題ソルバー30、入力部40、出力部50に接続される。処理部10は、記憶部20、数理問題ソルバー30、入力部40、出力部50の制御を行う。
【0029】
データ管理部101は、入力部40から入力されたデータを処理して記憶部20に記憶させる。データ管理部101は、処理部10の潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105にて演算処理された算出結果やデータを出力部50に送信する。
【0030】
潮流計算問題作成部102は、記憶部20に記憶されたデータに基づき電力系統における各データを作成し、最適潮流計算問題を作成する。作成された最適潮流計算問題は、複数パターン計算問題実行部103に送信される。
【0031】
複数パターン計算問題実行部103は、潮流計算問題作成部102により作成された最適潮流計算問題を受信し、最適解の算出を行う。複数パターン計算問題実行部103は、最適潮流計算問題を、後述する数理問題ソルバー30に送信し、数理問題ソルバー30により最適解を算出させる。その後、複数パターン計算問題実行部103は、数理問題ソルバー30により算出された最適解を受信し、運用計画選択部104に送信する。
【0032】
運用計画選択部104は、複数パターン計算問題実行部103から送信された最適解を受信し、最適解のうち、実際の運用に用いる最適解を計画に選択し運用計画を作成する。作成された運用計画は、運用計画送信部105に送信される。
【0033】
運用計画送信部105は、運用計画選択部104により作成された運用計画を受信する。運用計画送信部105は、最適解が選択された運用計画を、表示部106およびデータ管理部101を介して出力部50に送信する。
【0034】
表示部106は、例えば液晶ディスプレイのような表示装置により構成される。表示部106は、運用計画送信部105から送信された最適解が選択された運用計画を表示する。また、表示部106は、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105にて演算処理された算出結果や、記憶部20に記憶されたデータを表示する。
【0035】
数理問題ソルバー30は、ソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。数理問題ソルバー30は、処理部10に接続される。数理問題ソルバー30は、複数パターン計算問題実行部103から最適潮流計算問題を受信し、最適解の算出を行う。算出された最適解は、複数パターン計算問題実行部103に送信される。数理問題ソルバー30は、例えば主双対内点法やニュートン法により最適解の算出を行う。
【0036】
入力部40は、キーボード、マウス、タッチパネル等の操作装置、または受信回路、外部メモリ接続回路により構成される。入力部40は、処理部10に接続される。作業者により操作され、入力部40から記憶部20に記憶される情報が入力される。通信または外部の記憶装置から入力部40を介して、記憶部20に記憶される情報が入力されるようにしてもよい。入力部40から入力された情報またはデータは、データ管理部101により処理され記憶部20に記憶される。
【0037】
出力部50は、送信回路、外部メモリ接続回路等により構成される。出力部50は、処理部10に接続される。出力部50は、運用計画送信部105から送信された運用計画を外部機器に送信する。また、出力部50は、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105にて演算処理された算出結果や、記憶部20に記憶されたデータを外部機器に送信する。出力部50に接続される外部機器は、プリンタやモニタなどのI/O機器、外部の記憶装置であってもよいし、外部の制御装置やコンピュータ機器であってもよい。
【0038】
以上が、本実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成である。
【0039】
[1-2.作用]
【0040】
次に、
図1~12に基づき本実施形態の電力系統運用計画装置1の動作について説明する。
【0041】
電力系統運用計画装置1は、後述する明確な算出手順により、同時刻に想定される複数の気象予測情報に基づき、気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出する。
【0042】
電力系統運用計画装置1は、再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の、電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する潮流計算問題作成部102と、潮流計算問題作成部102により作成された目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出する複数パターン計算問題実行部103と、を有し、複数パターン計算問題実行部103により算出された、複数の気象予測情報に基づく調整力にかかる電力による運用計画、および調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の気象予測情報を出力する。
【0043】
潮流計算問題作成部102により作成された目的関数は、電力価格に関する項に調整力にかかる追加電力の電力価格に関する項を有し、複数パターン計算問題実行部103は、調整力にかかる電力のうち追加電力の大きさを算出する。
【0044】
前述のように近年、気象の不確実性を考慮して、同時刻に想定される複数の気象予測情報を提供する技術が開発されている。提供される複数の気象予測情報をアンサンブル予報と呼ぶ場合がある。アンサンブル予報にかかる複数の気象予測情報のそれぞれを、メンバーと呼ぶ。
【0045】
将来における気象は、時々刻々変化する。このため気象予測は、不確実性を有する。気象予測の不確実性に対応するため、各時刻における複数の気象予測情報を提供するアンサンブル予報と呼ばれる技術が開発されている。5kmメッシュで、3時間ごとに21パターンの予報を算出したメソアンサンブル予報GPVが、気象庁により2019年から配信されている。本実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、複数の気象予測情報に対応するものである。
【0046】
電力系統運用計画装置1の動作の概要は、以下のとおりである。
【0047】
処理部10のデータ管理部101は、入力部40から入力されたデータを処理して記憶部20に記憶させる。
【0048】
処理部10の潮流計算問題作成部102は、記憶部20に記憶されたデータに基づき電力系統における各データを作成し、最適潮流計算問題を作成する。
【0049】
処理部10の複数パターン計算問題実行部103は、潮流計算問題作成部102により作成された最適潮流計算問題を受信し、数理問題ソルバー30により最適解の算出を行う。数理問題ソルバー30は、最適潮流計算問題にかかる最適解の算出を行う。数理問題ソルバー30は、例えば主双対内点法やニュートン法により最適解の算出を行う。
【0050】
処理部10の運用計画選択部104は、複数パターン計算問題実行部103から最適解を受信し、最適解のうち、実際の運用に用いる最適解を計画に選択し運用計画を作成する。運用計画に選択された最適解が、調整力の操作量に相当する。調整力の操作量は、同時刻に想定される複数の気象予測情報ごとに算出される。
【0051】
処理部10の運用計画送信部105は、同時刻に想定される複数の気象予測情報に対応した運用計画を、表示部106およびデータ管理部101を介して出力部50に送信する。
【0052】
処理部10の表示部106は、運用計画送信部105から送信された最適解が選択された運用計画を表示する。出力部50は、運用計画送信部105から送信された運用計画を外部機器に送信する。
【0053】
電力系統運用計画装置1の動作の詳細は、以下のとおりである。
【0054】
データ管理部101は、入力部40から入力されたデータを処理して電力系統情報201、発電計画情報202、小売計画情報203、気象不確実性情報204、需給維持調整力計画情報205、調整力候補情報206、制御対象機器情報207、再エネ設備情報208として記憶部20に記憶させる。
【0055】
データ管理部101は、小売計画情報203に含まれた無効電力負荷の想定値を、入力された有効電力負荷の計画値に基づき(式1)により算出する。
【数1】
・・・・・(式1)
【0056】
(式1)において各パラメータは以下のとおりである。
Qi
load:ノードiの無効電力負荷
Pi
L:ノードiの有効電力負荷
a:事前に設定された定数、例えばa=-41
b:事前に設定された定数、例えばb=0.11
c:事前に設定された定数、例えばc=0.0015
【0057】
データ管理部101は、気象不確実性情報204に含まれたノードiのアンサンブル予報のメンバーmに対する再エネ出力予測値を算出する。再エネ設備が太陽光発電設備である場合、再エネ出力予測値P
i,m
REは、(式2)により算出される。
【数2】
・・・・・(式2)
【0058】
(式2)において各パラメータは以下のとおりである。
補正係数:例えば0.80などの値を用いる
設備容量:再エネ設備情報208の情報を用いる
【0059】
電力系統運用計画装置1において、以下のパラメータが演算に用いられる。
【0060】
[最適潮流計算問題の変数]
最適潮流計算問題に用いられる変数の一例を以下に示す。下記の各変数のうち、添え字にmが付されたものは、実際の需給時刻においてアンサンブル予報の各メンバーが実現したと仮定した場合の値である。
Δpg
cres:母線gにおける系統混雑解消のための上げ調整力追加確保量である。Δpg
cres≧0である。
pg,m
cres:母線gにおけるアンサンブル予報のメンバーmに対する調整力の系統混雑解消のための発動量である。
【0061】
qg,m
gen:母線gの発電機のアンサンブル予報のメンバーmに対する無効電力出力である。
vi,m:母線iのアンサンブル予報のメンバーmに対する電圧である。vi,m≧0である。
θi,m:母線iのアンサンブル予報のメンバーmに対する位相である。
【0062】
si,m:調相設備iのアンサンブル予報のメンバーmに対する投入量である。電圧1puの時の遅れ無効電力供給量を表す。
tik,m:ノードi、kを結ぶブランチのアンサンブル予報のメンバーmに対するタップ比である。tik,m≧0である。
αij,m
line:ノードi、jを結ぶブランチの有効電力潮流について、始端をi、終端をjとした場合の制約逸脱量である。
【0063】
[最適潮流計算問題の定数]
最適潮流計算問題に用いられる定数の一例を以下に示す。
Cg
cres:母線gの調整力の系統混雑解消のための上げ調整力候補の調整力Δkw価格である。調整力候補情報206に含まれるデータである。
Dg
cres:母線gの調整力kWh価格である。調整力候補情報206に含まれるデータである。
M:他のコストと比較して十分に大きい値であり、例えば999999などの値とする。
【0064】
Pg
gen:母線gにおける発電機の発電事業者による有効電力出力の計画値である。発電計画情報202に含まれるデータである。
Pg,m
bres:母線gおけるアンサンブル予報のメンバーmに対する調整力の需給インバランスに対する発動量である。アンサンブル予報に基づき算出した系統全体の見かけの需要(負荷-再エネ)の想定値と発電計画情報202、小売計画情報203にかかる電力のインバランスに基づき、データ管理部101により事前に算出される。例えば需給維持調整力計画情報205に基づき、調整力kWh価格が安い順に出力を算出する。
【0065】
Pi,m
load:母線iのアンサンブル予報のメンバーmに対する見かけの需要である。Pi,m
load=Pi
L-Pi,m
REにより算出される。
Qi
load:母線iの無効電力負荷の想定値である。小売計画情報203に含まれるデータである。
【0066】
Gik:コンダクタンス行列のi、k要素である。電力系統情報201にかかるインピーダンス、静電容量、タップ比初期値のデータに基づき、データ管理部101により事前に算出される。
Bik:サセプタンス行列のi、k要素である。電力系統情報201にかかるインピーダンス、静電容量、タップ比初期値のデータに基づき、データ管理部101により事前に算出される。
【0067】
Tik
org:母線iと母線kを結ぶブランチのタップ比初期値である。電力系統情報201に含まれるデータである。
Pg
res,min:母線gの需給維持のための調整力の下げ調整可能幅である。需給維持調整力計画情報205に含まれるデータである。
【0068】
Pg
res,max:母線gの調整力の需給維持のための調整力の上げ調整可能幅である。需給維持調整力計画情報205に含まれるデータである。
Pg
cres,max:母線gの調整力の系統混雑解消のための調整力の上げ調整可能幅である。調整力候補情報206に含まれるデータである。
Pij
line,max:母線iと母線jを結ぶブランチの有効電力潮流の大きさの上限値である。
si
min:調相設備iの投入量の下限値を表す。
si
max:調相設備iの投入量の上限値を表す。
tij
min:母線iと母線jを結ぶブランチのタップ比の下限値を表す。
tij
max:母線iと母線jを結ぶブランチのタップ比の上限値を表す。
【0069】
[最適潮流計算問題の集合]
最適潮流計算問題に用いられる集合の一例を以下に示す。
[G]:発電機が設置されている母線番号の集合
[B]:母線の集合
[R]:アンサンブル予報のメンバーの集合
[L]:全ブランチの始端、終端ノードの組合せの集合
[T]:タップ比を変数とするブランチの始端、終端ノードの組合せの集合
[S]:調相設備投入ノードの集合
【0070】
潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105にかかる動作は、
図2に示すプログラムにより実現される。
図2に示すプログラムは、電力系統運用計画装置1の処理部10に内蔵される。
【0071】
(ステップS01:最適潮流計算問題の作成)
潮流計算問題作成部102は、最適潮流計算問題を作成する。ステップS01にかかる動作は、処理部10の潮流計算問題作成部102により実行される。潮流計算問題作成部102は、記憶部20に記憶された、電力系統情報201、発電計画情報202、小売計画情報203、気象不確実性情報204、需給維持調整力計画情報205、調整力候補情報206、制御対象機器情報207、再エネ設備情報208に基づき最適潮流計算問題を作成する。
【0072】
(式3)は、最適潮流計算問題にかかる目的関数の一例である。
【数3】
・・・・・(式3)
【0073】
(式3)においてp(m)は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報のメンバーmを取り得る確率である。アンサンブル予報のメンバーmの発生確率が一様であると仮定した場合、メンバーの数が21である場合には、一律にp(m)=1/21となる。
【0074】
第1項のCg
cresΔpg
cresは、上げ調整力を追加確保した場合における電力価格(ΔkW価格)である。第2項のDg
crespg,m
cresは、調整力の有効電力出力に対する電力価格(kWh価格)である。第2項は、Dg
crespg,m
cresにp(m)が乗算された、調整力の有効電力出力に対する電力価格(kWh価格)の期待値である。第3項のMαij,m
lineは、制約逸脱量に基づくペナルティ関数を構成する。第3項は、Mαij,m
lineにp(m)が乗算された、ペナルティ関数の期待値である。
【0075】
(式3)に示す目的関数は、母線番号[G]において電力価格が最小になるΔpg
cresおよびpg,m
cresを選択することを目的とする。目的関数は、(式3)における第1項、第2項の一方により構成されるようにしてもよい。
【0076】
以下に、最適潮流計算問題の制約条件について説明する。有効電力、無効電力に関する交流の潮流方程式は、(式4)、(式5)に示すとおりである。
【数4】
・・・・・(式4)
【数5】
・・・・・(式5)
【0077】
メンバーmに対する、母線gの調整力の有効電力出力の上下限制約は、(式6)に示すとおりである。設定されたΔp
g
resに応じて上限が可変となる。
【数6】
・・・・・(式6)
【0078】
母線gの調整力の系統混雑解消のための上げ調整可能幅に関する制約は、(式7)に示すとおりである。
【数7】
・・・・・(式7)
【0079】
メンバーmに対する、母線gの発電機の無効電力出力の上下限制約は、(式8)に示すとおりである。
【数8】
・・・・・(式8)
【0080】
メンバーmに対する、母線iの電圧の上下限制約は、(式9)に示すとおりである。
【数9】
・・・・・(式9)
【0081】
メンバーmに対する、母線i、j間のブランチのノードi端およびノードj端の有効電力潮流の上限制約は(式10)に示すとおりである。α
ij,m
lineは、上下限制約を満たせない場合、正値となる。
【数10】
・・・・・(式10)
【0082】
メンバーmに対する、母線ref(位相基準)の位相が0である制約は、(式11)に示すとおりである。
【数11】
・・・・・(式11)
【0083】
メンバーmに対する、調相設備iの投入量の上下限制約は、(式12)に示すとおりである。
【数12】
・・・・・(式12)
【0084】
メンバーmに対する、ノードi、jを結ぶブランチのタップ比の上下限制約は、(式13)に示すとおりである。
【数13】
・・・・・(式13)
【0085】
(ステップS02:最適潮流計算問題の実行)
複数パターン計算問題実行部103は、ステップS01にて作成された最適潮流計算問題を実行し(式3)にかかる目的関数の最適解を算出する。ステップS02にかかる動作は、処理部10の複数パターン計算問題実行部103により実行される。(式3)にかかる目的関数の最適解は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報について算出される。
【0086】
複数パターン計算問題実行部103は、(式3)~(式13)にかかる最適潮流計算問題を数理問題ソルバー30に送信する。数理問題ソルバー30は、最適潮流計算問題を主双対内点法やニュートン法で解く。数理問題ソルバー30は、(式3)にかかる目的関数の最適解として、(式4)~(式13)にかかる制約条件を充足するΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)を算出する。
【0087】
qg,m
gen(無効電力出力)、vi,m(電圧)、θi,m(位相)、αij,m
line(制約逸脱量)は、Δpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)が算出されることにより、従属的に算出される。
【0088】
集合[R](アンサンブル予報のメンバーの集合)の要素が多い場合、変数が多くなる。このため、数理問題ソルバー30による最適潮流計算問題の最適解の算出が困難である可能性がある。この場合、集合[R]の要素をアンサンブル予報のメンバーmのうちの1つに限定し、複数パターン計算問題実行部103により最適潮流計算問題を解く処理を、アンサンブル予報のメンバーmに対応する回数にて繰り返す処理を行うようにしてもよい。すなわちステップS01とステップS02の処理を、アンサンブル予報のメンバーmの回数にて繰り返すようにしてもよい。
【0089】
(式3)にかかる目的関数の最適解であるΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)は、アンサンブル予報のメンバーによらず、ただ1つの解として算出される。一方、pg,m
cres(調整力の発動量)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報のメンバーmごとに算出される。複数パターン計算問題実行部103は、数理問題ソルバー30により算出された最適解であるΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)およびqg,m
gen(無効電力出力)、vi,m(電圧)、θi,m(位相)、αij,m
line(制約逸脱量)を受信する。
【0090】
(ステップS03:運用計画の解の選択)
運用計画選択部104は、ステップS02にて算出された最適解に基づき、翌日の運用計画にΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)の解を選択する。ステップS03にかかる動作は、処理部10の運用計画選択部104により実行される。集合[R](アンサンブル予報のメンバーの集合)の全体集合を一つの要素として最適潮流計算問題を解いた場合、Δpg
cresの解は1つとなり、この解を翌日の運用計画のΔpg
cresとする。
【0091】
ステップS01とステップS02の処理を、アンサンブル予報のメンバーmの回数にて繰り返す処理を行った場合、アンサンブル予報のメンバーmの回数に対応する数のΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)の解が得られる。この場合、ペナルティ関数にかかるαij,m
line(制約逸脱量)が最小となるΔpg
cresを選択するようにしてもよいし、(式3)にかかる目的関数が最小となるΔpg
cresを選択するようにしてもよい。
【0092】
(ステップS04:運用計画の送信)
運用計画送信部105は、ステップS03にて選択された運用計画を出力部50に送信する。ステップS04にかかる動作は、処理部10の運用計画送信部105により実行される。運用計画送信部105は、運用計画をデータ管理部101を介し出力部50に送信する。
【0093】
出力部50は、プリンタやモニタなどのI/O機器、外部の記憶装置、制御装置、コンピュータ機器などの外部機器が接続される。これらの外部機器は、例えば発電事業者の運用管理システムであってもよい。出力部50は、これらの外部機器に対し運用計画を送信する。
【0094】
表示部106は、ステップS02にて算出された目的関数の最適解の一覧、ステップS03で選択した運用計画を表示する。また、表示部106は、運用計画に用いた気象予測情報を表示する。
図11、
図12に表示される気象予測情報の一例を示す。
【0095】
図11は、気象予測情報における雲量の予報値を、電力系統が示された地図上において可視化したものである。
図12は、対象となる地点における日射量の予報値の情報を可視化したものである。
図12は、一例としてノードN2、ノードN5、ノードN10の各地点における日射量の予報値を示す。
【0096】
図11により、気象予測の不確実性を把握することができる。
図11において、ノードN2、ノードN5の周辺には雲があり、ノードN2、ノードN5における気象予測の不確実性が高いことが読み取れる。
図12により、アンサンブル予報の各メンバーmの日射量予報値のばらつきを把握することができる。ノードN2、ノードN5の日射量のばらつきは大きく、ノードN10の日射量のばらつきは小さいことが読み取れる。ノードN2とノードN5は地理的に近い位置関係にあるため、日射量の変動傾向が類似している。
【0097】
以上が、本実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の動作である。
【0098】
[1-3.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統運用計画装置1は、再生可能エネルギー発電設備を含む電力系統の、調整に用いられる電力設備からの出力である調整力にかかる電力の、電力価格に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成する潮流計算問題作成部102と、潮流計算問題作成部102により作成された目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出する複数パターン計算問題実行部103と、を有し、複数パターン計算問題実行部103により算出された、複数の気象予測情報に基づく調整力にかかる電力による運用計画、および調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の気象予測情報を出力するので、明確な算出手順により、気象に応じて変動する再生可能エネルギー発電設備の出力に対応した、再生可能エネルギー発電設備を含む調整力の操作量を算出することができる電力系統運用計画装置1を提供することができる。
【0099】
本実施形態によれば、算出根拠が明確である調整力に基づき、電力系統の運用計画を策定することができる。本実施形態によれば、電力系統の運用計画の策定に用いられる調整力を算出した根拠となる気象予測情報を、明確にすることができる。また、出力された、調整力にかかる電力の算出の根拠となった複数の気象予測情報を参照して、各地点の地理的な相関関係に基づき調整力を選択することにより、より確度の高い運用計画を策定することができる。
【0100】
本実施形態によれば、複数パターン計算問題実行部103は、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出するので、統計的手法によらず調整力にかかる電力の大きさを算出することができる。統計的手法によれば、過去の実績データとして、過去の気象予測情報、および気象予測情報に対応した調整力にかかる電力のデータが必要とされる。しかしながら、本実施形態によれば、複数パターン計算問題実行部103は、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した、調整力にかかる電力の大きさを算出するので、これらの過去の実績データは不要である。
【0101】
また、従来技術にかかる一つの統計的手法によれば、気象を正規分布により予測し、再生可能エネルギー発電設備の出力を算出していた。安全に電力系統を運用するために、正規分布において発生確率の低い、例えば3σにかかる気象である場合をも想定して、再生可能エネルギー発電設備の出力を予測し、調整力が確保される場合も多かった。
【0102】
このため、過剰に調整力を確保することとなり、不経済となる場合があった。しかしながら、本実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、統計的手法によらず調整力にかかる電力の大きさを算出するので、より経済的となる運用計画を策定することができる。
【0103】
(2)本実施形態によれば、電力系統運用計画装置1の潮流計算問題作成部102により作成された目的関数は、電力価格に関する項に調整力にかかる追加電力の電力価格に関する項を有し、複数パターン計算問題実行部103は、調整力にかかる電力のうち追加電力の大きさを算出するので、より経済的となる追加電力の大きさを算出することができる。これにより、より経済的となる運用計画を策定することができる。
【0104】
[2.第2実施形態]
[2-1.構成および作用]
図13を参照して、第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1について説明する。第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1に加え、処理部10に緊急性判断部111、緊急制御計画計算問題作成部112、緊急制御計画計算問題実行部113を、記憶部20に緊急制御候補情報211を有する。第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、処理部10に緊急性判断部111、緊急制御計画計算問題作成部112、緊急制御計画計算問題実行部113を、記憶部20に緊急制御候補情報211を有する点が、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と異なる。
【0105】
その他の第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成は、
図1に示す第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成と同じである。第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0106】
緊急制御計画計算問題作成部112は、複数の気象予測情報のうち少なくとも1つに対応した、調整力にかかる電力を抑制した場合における経済的損失に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成し、緊急制御計画計算問題実行部113は、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された目的関数に基づき、調整力にかかる電力の抑制量を算出する。
【0107】
緊急制御候補情報211は、記憶部20に記憶される。緊急制御候補情報211は、緊急的に確保することができる制御候補を示す情報である。緊急制御候補情報211は、緊急的な系統混雑解消のための調整力の候補にかかる調整力の最大上げ調整可能幅、調整力ΔkW価格、調整力kWh価格を、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶している。調整力ΔkW価格は、単位電力(ΔkW)を確保するためのコストである。
【0108】
また、緊急制御候補情報211は、再エネ抑制可能最大量、再エネ抑制に伴う経済的損失にかかるデータを、日時ごとに、各ノードIDに対応して記憶している。
図15に緊急制御候補情報211の一例を示す。
【0109】
緊急性判断部111、緊急制御計画計算問題作成部112、緊急制御計画計算問題実行部113は、ソフトウェアモジュールまたはハードウェアにより構成される。
【0110】
緊急性判断部111は、複数パターン計算問題実行部103により算出された最適潮流計算問題の最適解に基づき、緊急的に確保することができる制御候補により、調整力を確保することが必要であるかの判断を行う。
【0111】
緊急制御計画計算問題作成部112は、記憶部20に記憶されたデータに基づき電力系統における各データを作成し、緊急的に確保する調整力にかかる最適潮流計算問題を作成する。緊急的に確保することができる制御候補により調整力を確保することが必要であると判断された場合に、緊急制御計画計算問題作成部112は、最適潮流計算問題を作成する。作成された最適潮流計算問題は、緊急制御計画計算問題実行部113に送信される。
【0112】
緊急制御計画計算問題実行部113は、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された最適潮流計算問題を受信し、最適解の算出を行う。緊急制御計画計算問題実行部113は、最適潮流計算問題を、数理問題ソルバー30に送信し、数理問題ソルバー30により最適解を算出させる。その後、緊急制御計画計算問題実行部113は、数理問題ソルバー30により算出された最適解を受信し、最適解のうち、実際の運用に用いる最適解を計画に選択し運用計画を作成する。作成された運用計画は、運用計画送信部105に送信される。
【0113】
第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1において、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1に加え、以下のパラメータが演算に用いられる。
【0114】
[最適潮流計算問題の変数および定数]
最適潮流計算問題に用いられる変数の一例を以下に示す。
pi,m
sup:母線iにおけるアンサンブル予報のメンバーmに対する再エネ抑制量である。pi,m
sup≧0である。
最適潮流計算問題に用いられる定数の一例を以下に示す。
Ci
sup:母線iの再エネ抑制に伴う経済的損失である。緊急制御候補情報211に含まれるデータである。
Pi
sup,max:母線iの再エネの抑制可能最大量である。緊急制御候補情報211に含まれるデータである。
【0115】
潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103、運用計画選択部104、運用計画送信部105にかかる動作は、
図14に示すプログラムにより実現される。
図14に示すプログラムは、電力系統運用計画装置1の処理部10に内蔵される。
【0116】
データ管理部101は、入力部40から入力されたデータを処理して電力系統情報201、発電計画情報202、小売計画情報203、気象不確実性情報204、需給維持調整力計画情報205、調整力候補情報206、制御対象機器情報207、再エネ設備情報208、緊急制御候補情報211として記憶部20に記憶させる。
【0117】
(ステップS01:最適潮流計算問題の作成)
潮流計算問題作成部102は、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と同様に最適潮流計算問題を作成する。ステップS01にかかる動作は、処理部10の潮流計算問題作成部102により実行される。潮流計算問題作成部102は、(式3)に示す最適潮流計算問題を作成する。
【0118】
(ステップS02:最適潮流計算問題の実行)
複数パターン計算問題実行部103は、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と同様にステップS01にて作成された最適潮流計算問題を実行し(式3)にかかる目的関数の最適解を算出する。ステップS02にかかる動作は、処理部10の複数パターン計算問題実行部103により実行される。(式3)にかかる目的関数の最適解は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報について算出される。
【0119】
複数パターン計算問題実行部103は、(式3)~(式13)にかかる最適潮流計算問題を数理問題ソルバー30に送信する。数理問題ソルバー30は、最適潮流計算問題を主双対内点法やニュートン法で解く。数理問題ソルバー30は、(式3)にかかる目的関数の最適解として、(式4)~(式13)にかかる制約条件を充足するΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)を算出する。
【0120】
(式3)にかかる目的関数の最適解であるΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)は、アンサンブル予報のメンバーによらず、ただ1つの解として算出される。一方、pg,m
cres(調整力の発動量)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報のメンバーmごとに算出される。複数パターン計算問題実行部103は、数理問題ソルバー30により算出された最適解であるΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)およびqg,m
gen(無効電力出力)、vi,m(電圧)、θi,m(位相)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)、αij,m
line(制約逸脱量)を受信する。
【0121】
(ステップS11:緊急制御計画計算問題作成部による処理を実行するかの判断)
次に緊急性判断部111は、ステップS11の処理を実行する。ステップS11にかかる動作は、処理部10の緊急性判断部111により実行される。ステップS11において、緊急性判断部111は、緊急制御計画計算問題作成部112によりステップS12にかかる処理を実行するかの判断を行う。
【0122】
緊急制御計画計算問題作成部112によるステップS12にかかる処理を実行すると判断した場合(ステップS11のYES)、プログラムはステップS12に移行し、ステップS12にかかる処理を実行すると判断しない場合(ステップS11のNO)、プログラムは、ステップS03に移行する。
【0123】
例えば、最適潮流計算問題である(式3)にかかる目的関数において、ペナルティαij,m
line(制約逸脱量)が正値となるメンバーmが所定の数量以上存在する場合、またはペナルティαij,m
line(制約逸脱量)が予め定められた所定の値以上となるメンバーmが存在する場合、制約逸脱量が過大であり緊急に調整力の操作量を算出することが好ましい。このような場合に、緊急性判断部111は、緊急制御計画計算問題作成部112による処理を実行すると判断する。
【0124】
または、気象予測情報を参照し、例えば電力系統の付近に低気圧が存在する場合、緊急性判断部111は、緊急制御計画計算問題作成部112による処理を実行すると判断するようにしてもよい。
【0125】
(ステップS12:緊急制御用の最適潮流計算問題の作成)
緊急性判断部111により、ステップS12にかかる処理を実行すると判断された場合、緊急制御計画計算問題作成部112は、ステップS12の処理を実行する。ステップS12にかかる動作は、処理部10の緊急制御計画計算問題作成部112により実行される。
【0126】
ステップS12において、緊急制御計画計算問題作成部112は、緊急制御用の最適潮流計算問題を作成する。(式14)は、緊急制御用の最適潮流計算問題にかかる目的関数の一例である。
【数14】
・・・・・(式14)
【0127】
(式14)においてp(m)は、複数の気象予測情報であるアンサンブル予報のメンバーmを取り得る確率である。アンサンブル予報のメンバーmの発生確率が一様であると仮定した場合、メンバーの数が21である場合には、一律にp(m)=1/21となる。
【0128】
第1項のCg
cresΔpg
cresは、上げ調整力を追加確保した場合における電力価格(ΔkW価格)である。第2項のDg
crespg,m
cresは、調整力の有効電力出力に対する電力価格(kWh価格)である。第2項は、Dg
crespg,m
cresにp(m)が乗算された、調整力の有効電力出力に対する電力価格(kWh価格)の期待値である。第3項のMαij,m
lineは、制約逸脱量に基づくペナルティ関数を構成する。第3項は、Mαij,m
lineにp(m)が乗算された、ペナルティ関数の期待値である。
【0129】
第4項のCi
suppi,m
supは、母線iにおいて再エネを抑制した場合の経済的損失である。第4項は、Ci
suppi,m
supにp(m)が乗算された、再エネを抑制した場合の経済的損失の期待値である。
【0130】
(式14)に示す目的関数は、母線番号[G]において電力価格が最小になるΔpg
cres、pg,m
cresおよびpi,m
supを選択することを目的とする。
【0131】
以下に、最適潮流計算問題の制約条件について説明する。有効電力に関する交流の潮流方程式は、(式15)に示すとおりである。p
i,m
loadは、再エネ抑制による発電の減少分に関する項である。
【数15】
・・・・・(式15)
【0132】
母線iの再エネの抑制可能最大量に関する制約は、(式16)に示すとおりである。
【数16】
・・・・・(式16)
【0133】
第2実施形態にかかる電力系統運用計画装置1における緊急的に確保可能な調整力についても、第1実施形態に示す(式4)~(式13)の制約式が適用される。アンサンブル予報のメンバーmの集合[R]のうち、上記のステップS02においてペナルティが発生したメンバーmに限定して(式14)にかかる緊急制御用の最適潮流計算問題にかかる目的関数を適用するようにしてもよい。
【0134】
(ステップS13:緊急制御用の最適潮流計算問題の実行)
緊急制御計画計算問題実行部113は、ステップS12にて作成された緊急制御用の最適潮流計算問題を実行し(式14)にかかる目的関数の最適解を算出する。ステップS13にかかる動作は、処理部10の緊急制御計画計算問題実行部113により実行される。
【0135】
緊急制御計画計算問題実行部113は、(式14)~(式16)および(式4)~(式13)にかかる最適潮流計算問題を数理問題ソルバー30に送信する。数理問題ソルバー30は、最適潮流計算問題を主双対内点法やニュートン法で解く。数理問題ソルバー30は、(式14)にかかる目的関数の最適解として、(式15)~(式16)、(式4)~(式13)にかかる制約条件を充足するΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、pi,m
sup(再エネ抑制量)を算出する。
【0136】
qg,m
gen(無効電力出力)、vi,m(電圧)、θi,m(位相)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)、αij,m
line(制約逸脱量)は、Δpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、pi,m
sup(再エネ抑制量)が算出されることにより、従属的に算出される。
【0137】
緊急制御計画計算問題実行部113は、数理問題ソルバー30により算出された最適解であるΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)、pg,m
cres(調整力の発動量)、pi,m
sup(再エネ抑制量)およびqg,m
gen(無効電力出力)、vi,m(電圧)、θi,m(位相)、si,m(調相設備iの投入量)、tik,m(タップ比)、αij,m
line(制約逸脱量)を受信する。
【0138】
(ステップS03:運用計画の解の選択)
次に運用計画選択部104は、ステップS03の処理を実行する。ステップS03にかかる動作は、処理部10の運用計画選択部104により実行される。運用計画選択部104は、ステップS02にて算出された最適解に基づき、翌日の運用計画にΔpg
cres(上げ調整力追加確保量)の解を選択する。
【0139】
緊急性判断部111により、ステップS12にかかる処理を実行すると判断された場合、運用計画選択部104は、さらにステップS13にて算出された最適解に基づき、運用計画にpi,m
sup(再エネ抑制量)の解を選択する。
【0140】
(ステップS04:運用計画の送信)
次に、運用計画送信部105は、ステップS03にて選択された運用計画を出力部50に送信する。ステップS04にかかる動作は、処理部10の運用計画送信部105により実行される。運用計画送信部105は、運用計画をデータ管理部101を介し出力部50に送信する。
【0141】
表示部106は、ステップS02にて算出された目的関数の最適解の一覧、ステップS03で選択した運用計画を表示する。また、表示部106は、運用計画に用いた気象予測情報を表示する。
【0142】
以上が、本実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の動作である。
【0143】
上記では、電力系統運用計画装置1は、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103に加え、さらに緊急制御計画計算問題作成部112、緊急制御計画計算問題実行部113を備えるものとした。しかしながら、電力系統運用計画装置1は、潮流計算問題作成部102、複数パターン計算問題実行部103に代替し、緊急制御計画計算問題作成部112、緊急制御計画計算問題実行部113を備えるものであってもよい。または、電力系統運用計画装置1は、潮流計算問題作成部102において緊急制御計画計算問題作成部112における処理を、複数パターン計算問題実行部103において緊急制御計画計算問題実行部113における処理を実行するものであってもよい。
【0144】
[2-2.効果]
(1)本実施形態によれば、電力系統運用計画装置1の緊急制御計画計算問題作成部112は、複数の気象予測情報のうち少なくとも1つに対応した、調整力にかかる電力を抑制した場合における経済的損失に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成し、緊急制御計画計算問題実行部113は、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された目的関数に基づき、調整力にかかる電力の抑制量であるΔpi,m
sup(再エネ抑制量)を算出するので、明確な算出手順により、気象に応じて変動する再エネ設備の出力に対応した、再エネ設備を含む調整力の操作量を算出することができる。
【0145】
緊急制御計画計算問題作成部112は、電力を抑制した場合における経済的損失に関する項を有する潮流計算問題にかかる目的関数を作成し、緊急制御計画計算問題実行部113は、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された目的関数に基づき、調整力にかかる電力の抑制量を算出するので、より経済的な抑制量を算出することができる。
【0146】
本実施形態によれば電力系統運用計画装置1は、明確な算出根拠により緊急的な制御にかかる抑制量を算出するので、電気事業者に対し明確な算出根拠を示すことができる。緊急的な制御にかかる抑制は、電気事業者に経済損失が発生するため、電気事業者に対し明確な算出根拠を示すことが必要とされる場合がある。
【0147】
(2)本実施形態によれば、電力系統運用計画装置1は、計算問題作成部として、複数の気象予測情報に対応した潮流計算問題にかかる目的関数を作成する潮流計算問題作成部102と、複数の気象予測情報のうち少なくとも1つに対応した、緊急的な電力制御に対応した潮流計算問題にかかる目的関数を作成する緊急制御計画計算問題作成部112とを備え、計算問題実行部として、潮流計算問題作成部102により作成された目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出する複数パターン計算問題実行部103と、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された目的関数に基づき、緊急的な電力制御に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出する緊急制御計画計算問題実行部113とを備えるので、より確度の高い調整力にかかる電力の大きさを算出することができる。これにより、より安定に電力系統を制御することができる。
【0148】
複数パターン計算問題実行部103が、潮流計算問題作成部102により作成された目的関数に基づき、同地域の同時刻における複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出した後に、緊急制御計画計算問題実行部113が、緊急制御計画計算問題作成部112により作成された目的関数に基づき、緊急的な電力制御に対応した調整力にかかる電力の大きさを算出するので、緊急的に確保される調整力にかかる電力の大きさを軽減することができる。これにより、より安定に電力系統を制御することができる。また、過剰な調整力にかかる電力の確保が軽減されるため、より経済的に電力系統を運用することができる。
【0149】
[3.第3実施形態]
[3-1.構成および作用]
図16を参照して、第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1について説明する。第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1に加え、処理部10に混同行列作成部114を、記憶部20に系統混雑履歴情報212を有する。第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1は、処理部10に混同行列作成部114を、記憶部20に系統混雑履歴情報212を有する点が、第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と異なる。
【0150】
その他の第3実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成は、
図1に示す第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1の構成と同じである。第1実施形態にかかる電力系統運用計画装置1と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0151】
電力系統運用計画装置1の混同行列作成部114は、複数パターン計算問題実行部103により算出された、複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさに基づき判断された電力系統の系統混雑の予測、および運用実績にかかる系統混雑の実績に基づき、系統混雑の予測と系統混雑の実績の関係を示す混同行列を作成する。
【0152】
混同行列作成部114は、複数パターン計算問題実行部103により算出された最適潮流計算問題の最適解に基づき、系統混雑の発生有無を系統混雑履歴情報212として記憶部20に記憶させる。また、混同行列作成部114は、入力部40から入力された当日の系統混雑の発生有無を系統混雑履歴情報212として記憶部20に記憶させる。
【0153】
系統混雑履歴情報212の一例を
図17に示す。系統混雑履歴情報212は、日時ごとに、ブランチID、アンサンブル予報のメンバーまたは実績、系統混雑有無に関する情報を記憶する。系統混雑有無の情報については、αij、mline>0の場合を系統混雑有り、それ以外を無しとする。
【0154】
また、混同行列作成部114は、系統混雑履歴情報212を参照して混同行列を作成する。混同行列とは、系統混雑の予測と系統混雑の実績が合致する数量および合致しない数量をまとめた行列である。混同行列は、機械学習における分類問題の計算結果の要約で多く用いられる。
【0155】
図18に混同行列の一例を示す。
図18は、24時間×30日=720時間に対する混同行列の例である。
図18の例では、720時間のうち、計算結果が「系統混雑無し」で実績が「系統混雑無し」の場合が520時間であることを表す。同様に全4パターンの組合せに対する結果を行列形式で表現している。
図18において、「計算結果」が「電力系統の混雑の予測」に、「実績」が「電力系統の混雑の実績」に相当する。
【0156】
なお、
図17の例のようにアンサンブル予報による系統混雑有無の計算結果がメンバーによって異なる場合、「系統混雑有り」のメンバーが1つ以上存在するときに、「系統混雑有り」と判断する。系統混雑有無の判断の方法は、上記に限定されない。例えば、「系統混雑有り」のメンバーが予め定められた指定数以上存在するときに、「系統混雑有り」と判断するようにしてもよい。
【0157】
混同行列を作成する対象期間は、入力部40からユーザーにより指定される。また、混同行列は、ブランチごとに作成されるようにしてもよいし、全ブランチに対して一括で作成されるようにしてもよい。
【0158】
混同行列作成部114は、作成した混同行列を表示部106に送信し、表示部106は混同行列を表示する。また、混同行列作成部114は、作成した混同行列を出力部50に送信する。
【0159】
[3-2.効果]
本実施形態によれば、電力系統運用計画装置1は、複数パターン計算問題実行部103により算出された、複数の気象予測情報に対応した調整力にかかる電力の大きさに基づき判断された電力系統の系統混雑の予測、および運用実績にかかる系統混雑の実績に基づき、系統混雑の予測と系統混雑の実績の関係を示す混同行列を作成する混同行列作成部114を備えるので、ユーザーは、電力系統の混雑の予測精度について、視覚的に把握することができる。また、ユーザーは、電力系統の混雑の有無の予測結果が外れる場合の傾向を把握することができる。
【0160】
混同行列において計算結果が「系統混雑無し」、実績が「系統混雑有り」である場合、事前に計画した調整力の確保量が不十分であり、系統混雑が発生たことを示している。系統運用者は、混同行列作成部114により作成された混同行列に基づき、このような調整力の確保量が不十分であるブランチに対して追加の対策を行うかの判断を行うことができる。
【0161】
[4.他の実施形態]
変形例を含めた実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。以下は、その一例である。
【0162】
(1)上記実施形態における各部は、電力系統運用計画装置用コンピュータプログラムにかかるステップ、または電力系統運用計画方法にかかる手順により実現されるものであってもよい。潮流計算問題作成部102、または緊急制御計画計算問題作成部112により実行されるステップが計算問題作成ステップ、実行される手順が計算問題作成手順により実現されるものであってもよい。ステップS01が計算問題作成ステップ、計算問題作成手順に相当する。複数パターン計算問題実行部103、または緊急制御計画計算問題実行部113により実行されるステップが計算問題実行ステップ、実行される手順が計算問題実行手順により実現されるものであってもよい。ステップS02が計算問題実行ステップ、計算問題実行手順に相当する。
【0163】
(2)記憶部20に記憶されるデータは、上記実施形態に限られない。上記実施形態に加えて任意のデータが記憶部20に記憶されるようにしてもよい。
【0164】
(3)上記実施形態ではαij,m
lineをノードi、jを結ぶブランチの有効電力潮流について、始端をi、終端をjとした場合の制約逸脱量とした。その他の制約条件に対しても同様にして制約逸脱量を表す変数を導入することもできる。例えば電圧の上下限制約を表す(式9)に対して母線iの電圧の制約逸脱量を表す変数αi,m
vを導入することができる。
【符号の説明】
【0165】
1・・・電力系統運用計画装置
10・・・処理部
20・・・記憶部
30・・・数理問題ソルバー
40・・・入力部
50・・・出力部
101・・・データ管理部
102・・・潮流計算問題作成部
103・・・複数パターン計算問題実行部
104・・・運用計画選択部
105・・・運用計画送信部
106・・・表示部
111・・・緊急性判断部
112・・・緊急制御計画計算問題作成部
113・・・緊急制御計画計算問題実行部
114・・・混同行列作成部
201・・・電力系統情報
202・・・発電計画情報
203・・・小売計画情報
204・・・気象不確実性情報
205・・・需給維持調整力計画情報
206・・・調整力候補情報
207・・・制御対象機器情報
208・・・再エネ設備情報
211・・・緊急制御候補情報
212・・・系統混雑履歴情報