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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029794
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ポリフェニレンサルファイド織物
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/283 20210101AFI20250228BHJP
   D03D 9/00 20060101ALI20250228BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20250228BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20250228BHJP
   B01D 39/08 20060101ALI20250228BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20250228BHJP
   H01M 8/1018 20160101ALI20250228BHJP
   H01M 8/1067 20160101ALI20250228BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20250228BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
D03D15/283
D03D9/00
D03D1/00 Z
D01F6/76 D
B01D39/08
H01M8/10 101
H01M8/1018
H01M8/1067
C25B9/60
C25B1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134621
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】518381846
【氏名又は名称】東洋紡せんい株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】西田 右広
(72)【発明者】
【氏名】河端 秀樹
【テーマコード(参考)】
4D019
4K021
4L035
4L048
5H126
【Fターム(参考)】
4D019AA03
4D019BA13
4D019BB02
4D019BC11
4D019BC12
4D019BC20
4D019BD01
4D019CB06
4D019DA02
4D019DA03
4K021AA01
4K021DA15
4K021DB46
4K021DC03
4L035AA05
4L035BB32
4L035EE01
4L035FF04
4L035MF02
4L048AA19
4L048AA34
4L048AA42
4L048AA46
4L048AA48
4L048AA49
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC09
4L048AC10
4L048BA01
4L048BA06
4L048CA06
4L048CA15
4L048DA24
4L048DA37
4L048DA40
5H126AA05
5H126BB06
5H126FF02
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ08
(57)【要約】
【課題】スクリーン、フィルター、及び電気絶縁材料として好適な、PPS長繊維フィラメントを少なくとも一部に使用してなる織物を提供する。
【解決手段】単糸繊度2~50デシテックス、構成単糸本数1~4本、及び総繊度2~200デシテックスのPPS長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸に配し、PPS長繊維フィラメントがリニア型のPPS樹脂を原料とする織物であって、PPS長繊維フィラメントの無定形領域の粘弾性構造パラメータである測定周波数0.5Hzの力学的損失正接Tanδの最大値Tanδmaxが0.02~0.05、Tanδが最大値を示すときの雰囲気温度Tmaxが130~160℃であり、かつJIS L1013.8.5.1(標準時試験)に規定する引張強さ及び伸び率において、その応力歪曲線が降伏点を有するとともに、破断伸度が15~35%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が2デシテックス以上50デシテックス以下、構成単糸本数が1本以上4本以下、及び総繊度が2デシテックス以上200デシテックス以下のポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸に配してなり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントがリニア型のポリフェニレンサルファイド樹脂を原料とする織物であって、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの無定形領域の粘弾性構造パラメータである測定周波数0.5Hzにおける力学的損失正接Tanδの最大値Tanδmaxが0.02以上0.05以下であり、Tanδが最大値を示すときの雰囲気温度Tmaxが130℃以上160℃以下であり、かつJIS L1013.8.5.1(標準時試験)に規定するポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの引張強さ及び伸び率において、その応力歪曲線が降伏点を有するとともに、破断伸度が15%以上35%以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド織物。
【請求項2】
ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの繊維断面が丸断面であり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの単繊維径が15μmφ以上70μmφ以下であり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの複屈折率Δnが0.100以上0.300以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド織物。
【請求項3】
ポリフェニレンサルファイド織物の織組織が平織、綾織、又は朱子織のいずれかで構成され、ポリフェニレンサルファイド織物の目開き寸法が1μm以上200μm以下であり、ポリフェニレンサルファイド織物の開口率が10%以上60%以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド織物。
【請求項4】
ポリフェニレンサルファイド織物を水平に静置した状態において、処理温度160℃にて30分間の乾熱処理実施前後の開口率の変動率が±3%以内であり、温度20±2℃、相対湿度65±5%RHの環境において、シクロヘキサノン及びイソホロンのそれぞれの溶媒にポリフェニレンサルファイド織物を24時間浸漬したあとの重量変化率がいずれも3.0%未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド織物。
【請求項5】
請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とするスクリーン。
【請求項6】
請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とするフィルター。
【請求項7】
請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とする電気絶縁材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSともいう)繊維を用いた織物に関するものである。本発明のPPS織物は、特定の条件のPPS長繊維フィラメントを織物の少なくとも一部に用いて製織したものであり、スクリーン、フィルター、濾過布、電気絶縁材として好適に使用できるものである。
【背景技術】
【0002】
PPS繊維は、耐熱性、耐薬品性、難燃性に優れるというPPS由来の優れた特性を有し、この特徴を活かして各種フィルター、電気絶縁材、印刷用スクリーン、電池セパレータなどの幅広い用途で使用されている。
【0003】
PPS樹脂は大別して、架橋型PPSとリニア型PPSの2種類があり、繊維用には靭性の高いリニア型が用いられている。PPS樹脂は、N-メチルピロリドンなどの極性溶媒に硫化ナトリウムを溶解し、パラジクロルベンゼンと重縮合反応させることによって製造されることができる。得られたペレットを溶融紡糸してステープルファイバーやスパンボンド不織布、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸を得る。PPS樹脂の反応生成物は、多種の副反応生成物、不純物を含むため、精製工程に掛かるコストが製造コストの大きなウエイトを占める現状にある。
【0004】
PPS繊維のガラス転移温度は概ね80~90℃、融点は280~290℃、その他物理的特性も同じく半結晶性材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)に類似するが、溶融紡糸時にPPS樹脂やオリゴマー成分が熱分解し、硫黄や塩素を含んだ有毒、且つ腐食性の強い酸性ガスを発生し、ポリマー配管や押出機のバレル、スクリュー、及び紡糸ノズルなどの金属材料を腐食させるばかりか、作業者の健康を害する可能性が否定できない。溶融紡糸後は、残留PPS樹脂による配管腐蝕防止のため、残存するPPS樹脂を完全に排出させるべく、PET樹脂やポリプロピレン樹脂などの汎用樹脂を用いて樹脂流路(ポリマーライン)を置換洗浄することが必要になるなど、PPS繊維を製造するための留意点が多々存在し、保守管理の面でも十分なケアを必要とする合成樹脂材料のひとつである。
【0005】
PPS樹脂を用いた繊維、繊維構造物については、従来から様々な製造方法が提案され、上市されている。例えば特許文献1には、スパンボンド法によるPPS長繊維不織布の製造方法が提案されている。具体的には、PPSを主成分とする樹脂を紡糸口金から吐出した後、エジェクターにて紡糸速度3000m/分以上で牽引、延伸、ネット上に捕集して不織布ウェブ化した後、エンボスロールを用いて不織布ウェブを熱溶着する技術を開示し、簡便な工程で繊維径が小さく、熱的安定性に優れた不織布を得ることが可能である。しかしながら、スパンボンド法を用いた長繊維不織布は、引裂強度や破断伸度が低いこと、微小曲げ変形にも追随し難いこと、及び目付や厚みのバラツキも大きいという欠点を有する。
【0006】
また、特許文献2には、PPS樹脂を用いたステープルファイバーを用いて、紡績糸とし、次いで織物とした後、親水化処理する方法が提案されている。この方法は、セパレータなど樹脂含浸して使用する用途や電気絶縁体などの用途では支障ないが、フィルター用途に用いる場合はステープルファイバーが有端繊維であるために、繊維の素抜けや切断・脱落による汚染が懸念される。また、フィルタープレス濾過布用途などの用途では、水切れやケーク離れが悪い。従って、この方法は、スクリーンやフィルター、濾過布用途に対して好ましいとは言えない。
【0007】
更に、特許文献3には、PPS樹脂を用いたスパンボンド不織布とメルトブローン不織布を積層してなるSМ積層不織布、若しくはSМS積層不織布が提案されている。ここでSはスパンボンドを指し、Мはメルトブローンを指す。この方法によれば、気体や液体の精密濾過が可能になり、コスト的にも生産効率的にも好ましいが、多層積層体となるために厚みが出てしまい、微小曲げ変形にも追随し難くなるという欠点がある。また、メルトブローン不織布単体の使用も考えられる。この場合は、柔軟性に富み、微小曲げ変形にも追随し易い特性を有するが、薄くて帯電し易く、強度も弱いため、取扱性や作業性にも技術ノウハウが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2011/070999号公報
【特許文献2】特許公表2018‐534441号公報
【特許文献3】WO2008/035775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解消するために創案されたものであり、スクリーン、フィルター、濾過布、ストレーナ、及び電気絶縁材料向けの材料として好適な、PPS長繊維フィラメントを少なくとも一部に使用してなる織物、並びにそれを用いた複合材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、原料となるPPS樹脂からなる長繊維フィラメントの特性値をある特定範囲にコントロールすることによって、高品質はもちろんのこと、製品安全性、生産コスト、生産安定性を満足させた織物を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明は、以下の(1)~(7)の構成を有するものである。
(1)単糸繊度が2デシテックス以上50デシテックス以下、構成単糸本数が1本以上4本以下、及び総繊度が2デシテックス以上200デシテックス以下のポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸に配してなり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントがリニア型のポリフェニレンサルファイド樹脂を原料とする織物であって、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの無定形領域の粘弾性構造パラメータである測定周波数0.5Hzにおける力学的損失正接Tanδの最大値Tanδmaxが0.02以上0.05以下であり、Tanδが最大値を示すときの雰囲気温度Tmaxが130℃以上160℃以下であり、かつJIS L1013.8.5.1(標準時試験)に規定するポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの引張強さ及び伸び率において、その応力歪曲線が降伏点を有するとともに、破断伸度が15%以上35%以下であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド織物。
(2)ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの繊維断面が丸断面であり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの単繊維径が15μmφ以上70μmφ以下であり、ポリフェニレンサルファイド長繊維フィラメントの複屈折率Δnが0.100以上0.300以下であることを特徴とする(1)に記載のポリフェニレンサルファイド織物。
(3)ポリフェニレンサルファイド織物の織組織が平織、綾織、又は朱子織のいずれかで構成され、ポリフェニレンサルファイド織物の目開き寸法が1μm以上200μm以下であり、ポリフェニレンサルファイド織物の開口率が10%以上60%以下であることを特徴とする(1)に記載のポリフェニレンサルファイド織物。
(4)ポリフェニレンサルファイド織物を水平に静置した状態において、処理温度160℃にて30分間の乾熱処理実施前後の開口率の変動率が±3%以内であり、温度20±2℃、相対湿度65±5%RHの環境において、シクロヘキサノン及びイソホロンのそれぞれの溶媒にポリフェニレンサルファイド織物を24時間浸漬したあとの重量変化率がいずれも3.0%未満であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のポリフェニレンサルファイド織物。
(5)(1)に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とするスクリーン。
(6)(1)に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とするフィルター。
(7)(1)に記載のポリフェニレンサルファイド織物を用いたことを特徴とする電気絶縁材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スクリーン、フィルター、濾過布、ストレーナ、電池セパレータなどの電気絶縁材に好適な、PPS繊維からなる繊維製品を高品質で尚且つ、安全、安定に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のPPS織物は、単糸繊度、構成単糸本数、及び総繊度が特定範囲のPPS長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸に配してなり、PPS長繊維フィラメントがリニア型のポリフェニレンサルファイド樹脂を原料とするものである。
【0014】
PPS長繊維フィラメントの単糸繊度は、2デシテックス以上50デシテックス以下、より好ましくは3デシテックス以上40デシテックス以下、更に好ましくは5デシテックス以上35デシテックス以下の範囲である。単糸繊度が上記範囲未満の極細糸では想定用途に必要な力学的強度を保持できず、逆に上記範囲を著しく超過する範囲では、非常に剛直な繊維となり、得られた繊維構造物も曲げ変形し難いものとなりやすい。
【0015】
PPS長繊維フィラメントの構成単糸本数は、1本以上4本以下、好ましくは1本以上3本以下の範囲である。構成単糸本数が上記範囲より多くなれば、比表面積が拡大し、液体の濾過フィルターやストレーナ用途に使用した場合は夾雑物の捕捉性が良くなるが、流体に含まれる夾雑物が多量である場合、逆洗では夾雑物の排除が難しく、経時と共に圧力損失が大きくなり、早期に濾過寿命に至る。結果としてフィルターの交換頻度増やランニングコスト増につながる。
【0016】
PPS長繊維フィラメントの総繊度は、2デシテックス以上200デシテックス以下、好ましくは3デシテックス以上100デシテックス以下、更に好ましくは3デシテックス以上50デシテックス以下の範囲である。総繊度が上記範囲未満では、フィルターやストレーナ、スクリーン用途に必要とする強度が確保できず、上記範囲を超過すると、フィルターやストレーナ、スクリーン等に製織成形した際の目開きも大きくなり、夾雑物捕捉効果が低くなりやすい。
【0017】
本発明のPPS織物は、PPS長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸の全て、若しくは少なくとも一部に使用する。より好ましくは経糸及び/又は緯糸の全て、更に好ましくは経糸及び緯糸の全てに使用する。勿論、例えばPPS以外の長繊維フィラメントとPPS長繊維フィラメントを経糸及び/又は緯糸に1本ずつ交互配置とすることも可能であるし、それぞれの繊度を違えて使用することも可能である。PPS長繊維フィラメントと好適に組合せることができるPPS以外の長繊維フィラメントとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、芳香族ポリアミド(PPA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)など公知のものを例示することができる。
【0018】
PPS樹脂は、結晶性の耐熱性ポリマーであり、耐薬品性と難燃性、高度な機械的性質、優れた寸法安定性を示すエンジニアリングプラスチックとして広く認識されている。市販されるポリマーPPS樹脂には、架橋型とリニア型(線型、直鎖型)がある。前者は、高温度領域であっても高い剛性を示し、クリープ変形に対して有利であり、射出成型品などに使用され、後者は、伸び、靭性に特徴があり、繊維用などに使用されている。本発明のPPS長繊維フィラメントは、原料としてリニア型のPPS樹脂が用いられる。
【0019】
本発明のPPS織物に使用されるPPS長繊維フィラメントの無定形領域の粘弾性構造パラメータである測定周波数0.5Hzにおける力学的損失正接Tanδの最大値Tanδmaxは、0.02以上0.05以下、好ましくは0.02以上0.04以下である。力学的損失正接Tanδは、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E’’の比であり(Tanδ=E’/E’’)、無定形領域を構成する非晶部タイ分子の熱運動性の尺度である。Tanδの数値は、低い方が結晶化、結晶配向化が進行、構造が安定し、力学的特性や耐熱性の向上に寄与する。Tanδmaxが上記範囲を超過すると、寸法安定性や力学的強度が低く留まりやすい。また、Tanδmaxが上記範囲未満の場合は、靭性が低く留まり、脆性破壊されやすくなるなどの不具合が生じる可能性が高くなる。
【0020】
また、力学的損失正接の最大値Tanδmaxを示すときの雰囲気温度Tmaxは130℃以上160℃以下、好ましくは135℃以上155℃以下の範囲である。結晶化促進によってTmaxも高温側にシフトする。Tmaxが上記範囲の下限温度以上であれば、結晶化、配向結晶化が進んだ状態で、力学的強度や熱安定性も想定用途に対して好ましい領域になり、織物の沸水収縮を低く抑えることができる。TanδmaxやTmaxは、PPS長繊維フィラメント製造時の延伸比、延伸温度、延伸速度、熱固定温度などの延伸条件や用いるPPS樹脂の分子量などの組合せによって制御されることができる。特に延伸比、熱固定温度、PPS樹脂の分子量が高い数値になるほど、Tanδmaxは小さい値を示し、Tmaxは大きい値を示す。また、目開き寸法を安定させて、織物品位も良くすることができる。上記範囲の上限温度を超過すると、靭性が低く留まる。靭性とは材料用語で強度と延性が共に大きいことを意味するが、上限温度を超過する領域では延性が低く、脆いものとなる。逆に上記範囲の下限温度未満の範囲では、延性が大きいものの強度が低く、いずれも好ましくない。
【0021】
PPS長繊維フィラメントの繊維断面は、強力利用率が最も大きくなる丸断面が好ましい。三角断面や偏平断面、多葉断面、その他中空断面糸なども口金装置の変更によって生産は可能であるが、汎用樹脂である同繊度の高重合度PET長繊維フィラメントと対比して、得られる糸の引張強伸度などの物理的特性が低く留まりやすい。
【0022】
また、PPS長繊維フィラメントの単繊維径は、15μmφ以上70μmφ以下、より好ましくは20μmφ以上60μmφ以下、更に好ましくは30μmφ以上60μmφの範囲である。単繊維径が上記範囲未満の場合、擦過損傷などで繊維切断に至りやすく、本発明の想定用途を考慮すると好ましくない。また、単繊維径が上記範囲を超過する場合、非常に剛直なものとなり、一部の産業資材用途には展開可能だが、本発明の想定用途には好適であるとは言い難い。
【0023】
PPS長繊維フィラメントの複屈折率Δnは、好ましくは0.100以上0.300以下、より好ましくは0.150以上0.300以下、更に好ましくは0.200以上0.250以下の範囲である。複屈折率Δnは、繊維軸方向への結晶配向度の代用特性であり、延伸比が大きくなるに従い、数値が大きくなる。複屈折率Δnが上記範囲未満では、結晶配向度が小さく、糸強度に乏しいものとなりやすい。また、上記範囲を超過すると、糸強度は大きくなるが、延性、靭性に乏しいものとなりやすい。複屈折率Δnを上記範囲にコントロールすることによって、繊維の物理的特性(タフネス)や熱的特性も向上し、本発明の意図する用途への使用が好適になる。
【0024】
本発明で使用するPPS樹脂の重量平均分子量は、20,000以上が好ましく、25,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。重量平均分子量を30,000以上とすることにより、糸強度や靭性などの機械的物性、耐熱性、耐薬品性が良好となる。重量平均分子量の上限は、良好な溶融紡糸性を得るために、150,000以下が好ましく、120,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。特に重量平均分子量が40,000~80,000であると、Tanδmax、及びTmaxを前述の適正範囲にコントロールしやすくなる。なお、前述の重量平均分子量は、例えば実施例記載の方法により、ポリスチレン換算で算出することができる。
【0025】
また、PPS長繊維フィラメントは、JIS L1013.8.5.1に規定される引張強さ及び伸び率(標準時試験)において、その応力歪曲線が降伏点を有し、且つ破断伸度が15%以上35%以下、好ましくは20%以上30%以下である。応力歪曲線が降伏点を有するとは、「上降伏点のみ」、若しくは「上降伏点と下降伏点、及び降伏棚を伴う」場合のいずれかを有することを意味する。なお、上降伏点、下降伏点とは、JIS G 0202の「機械試験」のうちの「引張試験」の1162及び1162に定義されている。降伏点を有しない場合、靭性に乏しいものとなる。靭性とは「粘り強さ」であり、靭性に乏しい材料は、伸び変形に追随せず、脆性破壊に至りやすい。本発明のPPS織物で使用するPPS長繊維フィラメントは、降伏点を有し、靭性に富むものであることが望ましい。PPS長繊維の上降伏点は、伸度2%~20%に現れることが好ましく、より好ましくは伸度3%~10%に現れる。上降伏点がこの範囲の伸度に現れることで、糸の靭性が向上して柔軟で引張強さ、伸び率が高く、力(リキ)に優れた糸になり、織物品位が向上しやすい。降伏点、破断伸度についても、PPS長繊維フィラメント製造時の延伸比、延伸温度、延伸速度、熱固定温度などの延伸条件や用いるPPS樹脂の分子量などの組合せによって制御されることができる。特に延伸比を過度に大きくすると、降伏点を有さず、破断伸度の小さいものとなるため、好ましくない。延伸後の繊度も考慮に入れつつ、適正な延伸条件の組合せを求めることが必須となる。
【0026】
PPS長繊維フィラメントは、コンベンショナルな溶融紡糸法やエアギャップ紡糸法によって製造することができる。特に単繊維繊度が大きい場合は、エアギャップ紡糸が冷却効率や繊維同士の膠着など操業不良、品質不良を防止するうえで有効である。また、紡糸延伸については、紡糸と延伸が直結する所謂スピンドロー法以外に紡糸と延伸が2つの工程に分かれる2ステップ式など公知の技術を用いて実施することができる。
【0027】
また、延伸工程については、通常の乾式延伸の他、長繊維フィラメントのガラス転移温度以上の温度に制御した温湯などの熱媒体中で延伸処理する浴中延伸(ドローバス延伸)、ゾーン延伸法も好適に用いることができる。延伸処理は1段のみならず、多段であってもかまわない。延伸処理後は熱収縮応力が高くなっているため、ホットローラー加熱やスチーム加熱下で弛緩熱処理を施し、熱収縮応力を低減してやることが更に好ましい。更に、紡糸工程の効率化を鑑み、マルチフィラメントの状態で紡糸延伸処理を行った後、分繊機を用いて単糸(1本)、若しくは数本づつに分割し、所定の長繊維フィラメントを得ることも可能である。フィラメントの巻形状についても限定はなく、紙管(ペーパーチューブ)へのチーズ巻取のほか、金属や樹脂ボビンにワープワインド、フィリングワインド、コンパウンドワインドなど公知の巻形状を採用することができる。特に太繊度になると繊維/繊維の接触面積が小さくなり、巻滑りし易くなるため、片フランジ型や両フランジ型のボビンを採用することが好ましい。
【0028】
前述のように延伸処理は1段でも多段でもかまわないが、多段の場合には各延伸倍率の合計である総延伸倍率は1.5~6.0であることが好ましい。より好ましくは2.5~5.5、更に好ましくは2.8~5.2である。総延伸倍率をこの範囲にすることにより、降伏点を作り、また破断伸度を適正な範囲にすることができる。延伸倍率が1.5未満であると破断伸度が高くなり過ぎるとともに複屈折率が低くなって、実用的な糸強度が得られにくくなるおそれがある。総延伸倍率が6.0を超えると、降伏点が消失してしまい、また破断伸度が低下して靭性が乏しいものとなるおそれがある。
【0029】
本発明のPPS織物(生機)の沸水収縮率は、-3%~3%であることが好ましい。より好ましくは-2.5%~2.5%であり、更に好ましくは-2.0~2.5%である。生機の沸水収縮率を上記範囲とすることで、フィルター製品として高温で使用中の開口率変動を抑えることができ、安定して精密なフィルター性能を発揮することができる。
【0030】
本発明のPPS織物の織組織は、平織、綾織、朱子織のいずれかで構成されることが好ましい。平織には石目織、斜子織など経糸及び/または緯糸を複数本引き揃えて織った平織も含まれる。綾織は2/1綾、3/1綾、2/2綾、3/2綾、3/3綾、3/1破れ斜文、及び一定周期で綾目方向を変えた杉綾織(ヘリンボーン)なども好ましく例示される。朱子織には4/1や3/2などの五枚経朱子、五枚緯朱子のなどの五枚朱子、七枚朱子、八枚朱子、及びそれらの両面朱子織も含まれる。朱子織の場合は飛び数により、同じ4/1の五枚経朱子であっても、2飛、3飛など複数あるが、全てを包含する。使用目的、用途に応じ、最適な織組織を選定すればよい。例えば液/固分離、特に固体含有量が多い濾過に使用する場合は、ケーク離れがよい朱子織が好ましく用いられ、気/固分離で固体含有量が少ない濾過に使用する場合は、圧力損失が少ない平織や綾織が好ましく用いられる。
【0031】
本発明のPPS織物の生機を精練・熱セットした後の仕上密度は、経緯ともに120本/2.54cm以上、320本/2.54cm以下とすることが好ましい。仕上密度が上記範囲未満であると、目開き寸法が大き過ぎて濾過性能が十分に発揮され難くなる。上記範囲を超えると、目開き寸法が低くて目詰まりがしやすくなる。経緯密度のバランス(経密度/緯密度)は、平織又は綾織の場合には1.3~0.9であることが好ましい。1.3を超えても0.9未満であっても精密な濾過性能が低下するおそれがある。朱子織の場合は、緯に対して経の密度(経密度/緯密度)、又は経に対して緯の密度(緯密度/経密度)が1.8~3.0であることが好ましい。この範囲外では、安定的なろ過性能が得られにくくなる。
【0032】
本発明の織組織は、上記に限定されるものではなく、用途に応じて適宜組合せてもよいし、用途に応じて同じ織組織のもの、或いは別の織組織のものを複数枚重ね合せて用いることも可能である。複数枚重ね合わせて使用する場合は、各々の交差角度を例えば45°にするなど角度を変えて積層してやれば更に濾過効率を上げることができる。綾織は、平織と対比して、使用する繊維の線径が大きい場合に有効であり、使用する繊維や求める性能に応じて適宜採用される。
【0033】
また、本発明のPPS織物は、経糸と緯糸からなる目開き寸法が1μm以上200μm以下の範囲であり、開口率が10%以上60%以下の範囲であることが好ましい。目開き寸法が上記範囲未満では、濾過効率は上がるが直ぐに閉塞してしまい、濾過に要する時間が長くなりやすい。また、上記範囲を超過すると、目開きが大きく粗すぎてしまい、十分な濾過分離ができないおそれがある。開口率が上記範囲未満では、濾過効率が低下し、直ぐに閉塞、目詰まりを起こしてしまうおそれがある。逆に上記範囲を超過する範囲では、粗すぎてしまい、十分な濾過分離ができないおそれがある。
【0034】
製織は、エアージェットルーム、ウォータージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルーム、ニードル織機、シャットル織機など公知の織機を用いて実施することができる。製織準備工程である整経工程についても部分整経機を用いた部分整経、ワーパー及びビーマーを用いた荒巻整経の他、整経工程を経ずに製織用ヤーンクリールに並べた糸条から経糸を織機にダイレクト供給して製織する方法も用いることができる。
【0035】
得られた生機は、常法により精練洗浄、乾燥、ヒートセットなどの工程を経て本発明の繊維製品とする。上記各工程についても公知の装置を用いることができるが、目開きが大きくメヨレやシワが入りやすいため、一貫してビーム・トゥー・ビームによる拡布状態での処理が適している。この際、過度な張力が掛からぬよう、また布目を矯正しながら処理することが製品の品位や収率を確保するうえで重要なポイントになる。
【0036】
得られた製品は、ロール状に捲かれ、規定された幅に応じてスリットカットし客先に供給されるが、当該カットには超音波ウェルダーや高周波ウェルダーなど公知の溶断手段を用いることによって切断した端面のホツレ防止が可能となる。
【0037】
本発明のPPS織物は、上記のように構成することによって、水平静置状態において乾熱160℃にて30分間の乾熱処理実施前後の開口率の変動率が±3%以内、好ましくは±2.5%以内、より好ましくは±2.2%以内であることができる。開口率は、印刷用スクリーンや濾過布などの用途における重要特性であり、その変動率、つまりは温度による開口率の変化が少ないことが好ましい。開口率の変動率が上記範囲を超えると、補足粒子サイズ、つまりは濾過径も大きく変わってしまうことによる濾過精度の低下が生じやすい。
【0038】
溶剤型スクリーンインクに用いる溶剤は、バインダー樹脂の良溶媒であることが必要である。例えばグリコールエーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、脂肪族系溶剤、芳香族系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤などが挙げられ、必要に応じてこれらの2種以上を混合して使用することも可能である。ただ溶剤型スクリーンインクに用いる溶剤は、沸点が低すぎるとスクリーン板上で乾燥してしまい、印刷などには適さない。約155℃に沸点を持つシクロヘキサノン、約215℃に沸点を持つイソホロンなどスクリーン印刷用インクに用いる溶剤は、融点が200℃付近のものを採用することが作業性や印刷品位の点で望ましい。
【0039】
本発明のPPS織物は、上記の溶剤のうち環状ケトン類に分類されるシクロヘキサノン、イソホロンの両溶媒に温度20±2℃、相対湿度65±5%RHの環境で24時間浸漬したあとの重量変化率がいずれも3.0%未満、つまりは膨潤や溶解による重量変化率が3.0%未満であり、目開きの変化が少ないことを特徴とする。また、一般にPPS樹脂は、結晶化度が40~60%の結晶性ポリマーであり、織物の組織点など応力が集中する領域において生じるクレーズに溶剤が侵入、ソルベントクラックを発生させ、当該クラックが成長し破断に至る可能性がある。そのため、製織時の張力付加を低くして、織物の密度及び組織を適宜組合わせ、クレーズが生じない範囲、脆性破壊を起こさないように条件設定することが必要である。
【0040】
溶剤型スクリーンインクに含有する溶剤以外の成分は、有機系、無機系の顔料や染料などの色材、グリッタープリントの場合はアルミニウムや真鍮などの金属粉の他、シリカなどの固体微粒子、及びウレタン系樹脂やアクリル酸エステル系樹脂などのバインダー樹脂、ブロックドイソシアネートなどの架橋剤など複数の成分から構成されるものである。各薬剤の配合割合や温度、溶剤の種類、処方量などによってインクの粘性や基材への浸透性、乾燥性などが変わる。ガムアップやロールかぶりのような不具合を起こさぬよう、用途や目的に応じ、適宜調整することが望まれる。基材への印捺は、フラットスクリーンプリント、ロータリースクリーンプリントなど公知の方法を用いることができる。スクリーンプリントの場合は、型枠に対し、スクリーン生地を斜めに装着、例えば45°や60°になるように貼り付けてモアレ防止を行うことも好ましい。
【0041】
上記の有機溶媒への浸漬処理試験については、局所換気が可能なドラフトチャンバー内での作業とする。有機溶媒中に24時間浸漬し、重量減の場合は溶解、重量増の場合は膨潤、重量変化なしの場合は膨潤、溶解ともに生じていないと考えられる。本発明のPPS織物は、上記のように構成することによって、温度20±2℃、相対湿度65±5%RHの環境において、シクロヘキサノン及びイソホロンのそれぞれの溶媒に24時間浸漬したあとの重量変化率がいずれも3.0%未満であることができ、それによって、溶剤インク使用中の膨潤などによる強度低下がなく、しかも膨潤や溶解による線径や目開きの変化がない、溶剤インク使用のスクリーンプリントや、有機溶剤の精密濾過にも適した織物とすることが可能となる。
【0042】
仕上がった本発明のPPS織物は、検査された後、フィルター、濾過布、ストレーナ、スクリーン、及び電気絶縁材料などの製品に供されるが、検査で外観不良や、穴あき等の欠点があるとその部分はろ過性能が低下してしまうため製品として使うことができない。よって、穴あき欠点はできるだけ少なく、目開きバラツキが少なく、織物表面の凹凸が均一であることが製品歩留まりを高めるために重要である。長さ50m内に穴あき欠点等の部分欠点が10か所以下であることが好ましく、目開きバラツキや、表面凹凸等の全体品位として外観が不良なものは好ましくない。
【0043】
本発明のPPS織物の用途としては、フィルター、濾過布、ストレーナ、スクリーン、及び電気絶縁材料などへの応用である。電気絶縁材料には燃料電池や水素発生装置など絶縁セパレータへの応用も含まれる。フィルターや濾過布、ストレーナの用途は気/固分離、液/固分離、固/固分離など分離用途が主体、スクリーンについては、エマルションやサスペンション、スラリーなど分散媒中に微粒子が均一分散した分散体を均一に後計量、塗布する印刷用途が主体になる。いずれも溶媒や分散媒によって繊維が溶解、もしくは膨潤してしまうと必要とする機能が発揮できない。また、電気絶縁材料は、耐熱、耐薬品、耐加水分解、難燃性などPPSの特徴を活かした用途への展開である。必要に応じ、当該織物を精練処理した後に撥水加工や難燃加工などの特殊加工を施すこともでき、エポキシ系樹脂やメチロールメラミン系樹脂、フェノール系樹脂などで樹脂加工を施すこともできる。また、用途目的に応じ、2枚重ね、3枚重ね、4枚重ねなどの多層積層体として使用することもできる。多層積層体にする場合、例えば3枚重ねの場合は0°、+45°バイアス、-45°バイアスとなるよう経緯の糸目をずらして積層すると、フィルターや濾過布として用いた場合の分離効率が向上する。
【実施例0044】
本発明の効果を以下の実施例により示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本発明の各特性値の評価方法は、下記の通りである。
【0045】
(繊度)
2010年版JIS L‐1013 8.3.1a)項記載のA法に基づき正量繊度を求めた。
【0046】
(単繊維径)
PPS長繊維フィラメントをエポキシ樹脂で包埋し、Reichert社製FC・4E型クライオセクショニングシステムで凍結し、ダイヤモンドナイフを具備したReichert-Nissei ultracut N(ウルトラミクロトーム)で切削した後、その切削面を(株)日立製作所製 H-7100FA型透過型電子顕微鏡(TEM)にて長繊維フィラメント全体が観察できる倍率で撮影した。この画像から画像処理ソフトを用いて全ての単繊維の繊維径(μmφ)を測定した。測定値は、PPS長繊維フィラメントの任意10ヶ所の各写真について測定を行い、10ヶ所の平均値とした。
【0047】
(引張強さ、伸び率及び降伏点の確認)
2010年版JIS L‐1013 8.5.1項記載の標準時試験記載の方法に従い、引張強さ及び伸び率を算出した。試験機の種類は低速伸長形、つかみ間隔は20cm、引張速度は20cm/分として測定し、応力-歪曲線のチャートを作成し、チャートから引張強さ、伸び率(破断伸度)、降伏点を読み取った。なお、10回試行の算術平均値を測定値とした。
【0048】
(粘弾性測定)
TAインスツルメンツ社製動的粘弾性測定装置DMA Q800型を用い、測定周波数0.5Hz、昇温速度2℃/分とし、20℃~250℃の測定温度領域で評価した。尚、試験用試料は長さ約10mm、幅約7mm、厚み0.15mmとなるように繊維を揃えて調製した。粘弾性構造パラメータである力学的損失正接Tanδの最大値であるTanδmaxは得られたTanδプロファイルに於けるピーク値であり、その時の雰囲気温度をTmax(℃)とした。
【0049】
(複屈折率)
ニコン社製偏光顕微鏡PОH型、ライツ社製べレックコンペンセータ、東芝社製スペクトル光源用起動装置SLS‐3‐B型(ナトリウム光源)を用い、長さ5~6mmの繊維を繊維軸に対して45°の角度に切断したものを試料とし、偏光顕微鏡の載物台上で切断面が上になるように調節し、アナライザーを挿入して暗視野とした後、コンペンセータを30にして縞数を数えた。(n個)コンペンセータを右螺子方向に回して試料が最初に一番暗くなるコンペンセータの目盛a、コンペンセータを左螺子方向に回して試料が最初に一番暗くなるコンペンセータの目盛bをそれぞれ測定した(いずれも1/10目盛まで読み取った)。更に、コンペンセータを30に戻してアナライザーを外し、試料の直径dを測定し、下記式に基づき複屈折率(Δn)を算出した(測定数20個の平均値)。
Δn=T/d(T=nλ+ε)
λ=589.3mμ
〔但し、εはライツ社のコンペンセータの説明書のC/1000とiから求め、iは(a-b)(コンペンセータの読みの差)である〕
【0050】
(重量平均分子量)
PPSポリマーおよびPPS繊維の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーの一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算で算出した。測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学製SSC-7110
カラム名:昭和電工製shodex UT-806M 2本直列
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL(スラリー状:約0.2重量%)
【0051】
(仕上密度)
JIS L1096:2010 8.6 密度の方法によって、仕上がった織物の経緯の密度を測定した。
【0052】
(目開き寸法)
目開き寸法A(μm)は下記式を用いて算出した。また、その際に使用する線径d(μm)の算出は下記式に基づいて算出した。但し、線径d(μm)を算出する式は、丸断面糸に限り適用されるものであり、比重SGについては、PPSは1.35g/cmの値を用い、ポリアミド6は1.12g/cmの値を用いた。
A(μm)={25.4/[経糸又は緯糸密度(本/インチ)]}×1000-d
d(μm)=11.91×√[(繊度(デシテックス)÷1.11)/SG]
なお、本発明では、糸構成本数が複数本の場合の線径dは、構成本数1本(モノフィラメントに近似)として計算することとする。
【0053】
(開口率)
開口率ε(%)は下記式を用いて算出した。
ε(%)=[A/(A+d)]×100
【0054】
(生地の沸水収縮率)
織物生地試料を概ね50cm四方に切り取り、経緯の糸目に沿って200mmの箇所に印をつけた後、98±2℃の熱水で30分間の沸水処理を行った。沸水処理後、熱水から取り出し、紙製の濾紙上に拡げて、平面での風乾処理を行った。風乾後に経、及び緯方向につけた印の長さLmmを測長し、下記式を用いて経、及び緯方向の沸水収縮率(SHW(%))を評価した。測定5回試行の算術平均値を採って、測定値とした。
SHW(%)=[(200-L)/200]×100
【0055】
(乾熱160℃処理時の開口率の変動)
試料に供する乾熱処理前のPPS繊維の開口率OP1(%)を確認した。その後、ヤマト科学社製送風定温恒温器DKN303型、および帝人社製パラアラミド繊維(商標名テクノーラ)を経緯に使用したメッシュ織物を用い、当該送風定温恒温器の内部にパラアラミドメッシュ織物を水平に装着し、試料(PPS織物)が当該恒温器の金属製の内壁や棚など金属部品に接触しないように当該パラアラミドメッシュ織物上に水平静置し、乾熱160℃条件で30分間の処理を実施した。そのあと、当該メッシュ織物にPPS織物試料を載せた状態で取り出し、室温下で冷却したあと、乾熱処理後のPPS繊維の開口率OP2(%)を確認し、下記式に従い、開口率の変動値を求めた。ただし、処理前後の開口率(%)はそれぞれ測定箇所数10箇所の平均値とした。
開口率の変動(%)=|OP1-OP2|/OP1×100
【0056】
(有機溶媒浸漬後の重量変化率)
温度20±2℃、相対湿度65±5%RHに調温湿管理された部屋に設置された、負圧吸引により局所排気可能な状態にしたドラフトチャンバー内に長さ30cm、幅15cm、深さ5cmのステンレスバットを2つ準備し、シクロヘキサノンおよびイソホロンのそれぞれに300mlづつ注ぎ込み、予め秤量したPPS織物を浸漬し、24時間経過後に取り出し、吸取紙上で5分間風乾したあとに秤量し、浸漬前後の重量変化を確認した。重量変化率(%)は、浸漬前の重量A(g)、浸漬後の重量B(g)から下記式に従って求めた。
重量変化率(%)=|A-B|/A×100
【0057】
(織物品位)
全幅100cm、長さ50mの実施例織物を仕上げて検反機にて目視で外観検査した結果を評価した。長さ50m内に穴あき欠点が10か所を超えていたり、目開きバラツキが大きかったり、全体的にシワ後のような表面凹凸があって外観が不良なものは不合格とした。
【0058】
(総合評価)
生地の沸水収縮処理前後の目開きや開口率の変化を評価の上、生地の目開きや開口率の不同有無、沸水収縮後の生地に生じる凹凸状のシワを目視確認し、総合的に下記の3区分で全体品位を評価した。
〇…品位良好 △…品位やや懸念あるも合格 ×…品位悪く不合格
また、穴あき欠点等の欠点が10か所超えるものは××、欠点が無いものは〇として、部分欠点の発生頻度を評価した。全体品位と部分欠点のうち、悪い方の評価結果を総合評価とした。
【0059】
(実施例1)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、浴中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本づつのモノフィラメントに分繊し、PPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度を95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を3.0倍と設定し、PPS長繊維33デシテックスモノフィラメントを得た。
【0060】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて平織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないものとなった。溶剤型スクリーンインクを調製し、防爆構造、局所排気装置を備えたフラットスクリーン捺染機用のスクリーンとして使用し生地に印捺処理した。溶剤による膨潤や溶解、目詰まり、スキージによるメヨレや穴あきなどが生じず、スクリーンプリント用の生地として好ましいものに仕上がった。
【0061】
(実施例2)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸温度300℃の条件でエアギャップ紡糸法によってPPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに冷却水槽温度は50±2℃、エアギャップは30mm、延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度は95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を5.0倍と設定し、PPS長繊維33デシテックス2フィラメントを得た。
【0062】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて2/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないものであった。得られた生地を分級篩(ターボスクリーナ)の円筒スクリーンのスクリーンユニットの材料に使用し、水酸化アルミニウム粉末の分級作業に使用した。操作上の不具合を発生させることなく、乾式分級を行うことが出来た。
【0063】
(実施例3)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸直延伸(スピンドロー法)により、PPS長繊維33デシテックス3フィラメントを得た。因みに紡糸温度は310℃、延伸予熱ローラー温度100℃、総延伸比を1.6倍とした。
【0064】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて2/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないものであった。得られた生地にエポキシ樹脂含侵し、電子機器用のプリント基板用基材とした。薄くて場所を取らず、電気絶縁性に優れた基板に好適な材料を得ることが出来た。
【0065】
(実施例4)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を用い、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)レペットを12時間乾燥後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、空気中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施し、PPS長繊維33デシテックス4フィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度を95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を3.0倍と設定した。
【0066】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて1/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないものであった。得られた生地を耐熱エアフィルターとして使用した。耐熱性、耐薬品性に優れ、薬剤ミストやダスト、塵埃などを含むエアーの一次捕集フィルターとして好適なものとなった。
【0067】
(実施例5)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を用い、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)レペットを12時間乾燥後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、空気中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施し、PPS長繊維33デシテックス3フィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度を95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を3.0倍と設定した。
【0068】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて平織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないものとなった。溶剤型スクリーンインクを調製し、防爆構造、局所排気装置を備えたフラットスクリーン捺染機用のスクリーンとして使用し生地に印捺処理した。溶剤による膨潤や溶解、目詰まり、スキージによるメヨレや穴あきなどが生じず、スクリーンプリント用の生地として好ましいものに仕上がった。
【0069】
(実施例6)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸温度300℃の条件でエアギャップ紡糸法によってPPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに冷却水槽温度は50±2℃、エアギャップは30mm、延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度は95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を5.0倍と設定し、PPS長繊維33デシテックスモノフィラメントを得た。
【0070】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用い、八枚緯朱子(1/7(5飛))に製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地をフィルタープレス用濾過布として使用した。スラリー液の固液分離もスムースであり、ケーク離れも良好なフィルタープレス用濾過布として好適なものとなった。
【0071】
(実施例7)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を用い、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)レペットを12時間乾燥後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、空気中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施し、PPS長繊維33デシテックス3フィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度を95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を3.0倍と設定した。
【0072】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用い、五枚経朱子(4/1(3飛))に製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地をフィルタープレス用濾過布として使用した。スラリー液の固液分離もスムースであり、ケーク離れも良好なフィルタープレス用濾過布として好適なものとなった。
【0073】
(比較例1)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、浴中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本づつのモノフィラメントに分繊し、PPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は85℃、延伸温度を90±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を1.8倍と設定し、PPS長繊維55デシテックスモノフィラメントを得た。
【0074】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用いて平織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。生地の沸水処理後の開口率変動、並びに乾熱160℃処理後の開口率変動が大きく、表面に凹凸が見られたほか、目開きが不均一になるなど、スクリーンやフィルター、電気絶縁材には不適なものとなった。
【0075】
(比較例2)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸温度300℃の条件でエアギャップ紡糸法によってPPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに冷却水槽温度は50±2℃、エアギャップは50mm、延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度は95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を150℃、総延伸比を4.0倍と設定し、PPS長繊維75デシテックスモノフィラメントを得た。
【0076】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用い2/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。生地の沸水処理後の開口率変動、乾熱160℃処理後の開口率変動何れもやや大きく、目開きのバラツキが見られた。織組織が2/2綾織であり、表面の凹凸は顕著ではなかったが、スクリーンやフィルター、電気絶縁材など本発明の意図する用途には適したものにはならなかった。
【0077】
(比較例3)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸直延伸(スピンドロー法)によりPPS長繊維33デシテックス18フィラメントを得た。因みに紡糸温度は310℃、延伸予熱ローラー温度100℃、総延伸比を1.6倍とした。
【0078】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用い2/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。得られた生地は沸水処理後の生地寸法、目開きや開口率の変化も少ないが、シクロヘキサノン及びイソホロン浸漬後の重量変化がやや大きく、スクリーン、フィルター、電気絶縁材など本発明の意図する用途には適するものにはならなかった。
【0079】
(比較例4)
雰囲気温度160℃に設定した真空乾燥機を使用し、PPS原料樹脂(リニア型、重量平均分子量51500)ペレットを12時間真空乾燥した後、公知の溶融紡糸法により紡糸温度300℃で溶融紡糸しPPS長繊維フィラメント未延伸糸を得た。該未延伸糸をオフラインにて延伸機に導入し、浴中で2段熱延伸、その後に定率弛緩熱処理を施した後、分繊機を用いて1本づつのモノフィラメントに分繊し、PPS長繊維モノフィラメントを得た。因みに延伸予熱ローラーの表面温度は90℃、延伸温度を95±3℃、延伸後の弛緩熱処理域のチャンバー内温度を180℃、総延伸比を10.0倍と設定し、PPS長繊維33デシテックス6フィラメントを得た。
【0080】
該PPS長繊維フィラメントを経緯双方に用い2/2綾織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度90℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度120℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度180℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。熱的にも安定で、ケトン系薬剤に対する安定性も良好であったが、繊維の延伸比が高すぎることによって靭性が低くなり、少々の変形で穴あきが生じるなど、スクリーンやフィルター、電気絶縁材など本発明の意図する用途には適するものにはならなかった。
【0081】
(比較例5)
雰囲気温度110℃に設定した真空乾燥機を使用し、ポリアミド6原料樹脂ペレットを12時間真空乾燥した後、紡糸直延伸(スピンドロー法)により、ポリアミド6長繊維33デシテックス1フィラメントを得た。因みに紡糸温度は250℃、総延伸比を1.6倍とした。
【0082】
該ポリアミド6長繊維フィラメントを経緯双方に用い平織組織の織物生機を製織した。得られた生機をビーティング、超音波洗浄機構付きの拡布ローラータイプ連続水洗機を用いて処理浴温度80℃で精練・リラックス処理を実施後、布目矯正装置に導入し、表面温度100℃の熱シリンダーで予備乾燥を実施の上、雰囲気温度150℃に調整したヒートセッターで仕上げセットを施した。各特性値を表1に示す。生地の沸水収縮はやや高め推移に留まるが、乾熱160℃処理後の開口率変動が大きく、結果として目開きのバラツキが大きいものとなった。またシクロヘキサノン及びイソホロン浸漬では繊維が膨潤してしまい、目開きや開口率のバラツキも大きく、強度的にも好ましいものにはならず、スクリーンやフィルター、電気絶縁材など本発明の意図する用途には適するものにならなかった。
【0083】
(比較例6)
PPS樹脂をリニア型から架橋型に変更した以外は実施例1同様の方法で紡糸を試みたが、経時による圧力損失漸増が要因で安定な紡糸操業条件が得られず、結果として繊維を得ることができなかった。
【0084】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のPPS織物は、耐熱性、耐薬品性、難燃性というPPS樹脂の特性を具備し、さらに糸の物性などをコントロールすることで、力学的強度や寸法安定性を向上させたものである。本発明のPPS織物は、この特徴を活かし、スクリーン、フィルター、電池セパレータや水素発生装置の隔壁を含めた電気絶縁材など幅広い用途で安全且つ安定に使用することが可能であり、当業界において極めて有用である。