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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029843
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ラチェット型ワンウェイクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/12 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
F16D41/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134706
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002435
【氏名又は名称】弁理士法人井上国際特許商標事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077919
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100172638
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 隆治
(74)【代理人】
【識別番号】100153899
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100159363
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 淳子
(72)【発明者】
【氏名】石神 翔馬
(72)【発明者】
【氏名】小澤 聖丘
(57)【要約】
【課題】全ての爪部材が歯部に安定して係合可能なラチェット型ワンウェイクラッチを提供する。
【解決手段】ラチェット型ワンウェイクラッチ1は、外輪2と内輪3と第1~第n爪部材4a~4cとを有し、内輪3の外周面には第1~第n爪部材4a~4cが係合可能な複数の歯部5が形成されており、外輪2の内周面には第1~第n爪部材4a~4cを保持する第1~第n爪部材保持部12a~12cが形成されており、第1~第n爪部材保持部12a~12cには第1~第n爪部材4a~4cを内輪3側へ付勢する付勢部材15a~15cが備えられており、第2~第n爪部材保持部12b、12cは、外輪2の中心軸線Oから見て、外輪2の内周面を、第1爪部材保持部12aの位置を基準として周方向にn等分する位置に設けられており、第1爪部材4aの周方向における長さが第2~第n爪部材4b、4cよりも任意長だけ大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の外輪と、
前記外輪の径方向内方に相対回転可能に配置された円筒状の内輪と、
前記外輪の内周側に径方向へ回動可能に配置された第1~第n爪部材と、を有し、
前記内輪の外周面には、前記第1~第n爪部材が係合可能な複数の歯部が形成されており、
前記外輪の内周面には、前記第1~第n爪部材を保持する第1~第n爪部材保持部が形成されており、
前記第1~第n爪部材保持部には、前記第1~第n爪部材を前記内輪側へ付勢する付勢部材が備えられており、
前記第2~第n爪部材保持部は、前記外輪の中心軸線から見て、前記外輪の内周面を、前記第1爪部材保持部の位置を基準として周方向にn等分する位置に設けられており、
前記第1爪部材の周方向における長さが、前記第2~第n爪部材の周方向における長さよりも任意長だけ大きいことを特徴とするラチェット型ワンウェイクラッチ。
【請求項2】
前記第1~第n爪部材は、軸方向一方側から見て、円形状の円形部と、前記円形部に一体に設けられた爪部とを有し、
前記第1~第n爪部材保持部は、軸方向一方側から見て、前記外輪の内周面から径方向外方に向かって凹んだ円形状の第1凹部と、前記第1凹部に対して周方向に隣接して一体に形成されており、前記外輪の内周面から径方向外方に向かって凹んだ第2凹部とを有し、
前記第1~第n爪部材の前記円形部は、前記第1~第n爪部材保持部の前記第1凹部に回動可能に保持されており、
前記第1~第n爪部材の前記爪部及び前記付勢部材は、前記第1~第n爪部材保持部の前記第2凹部に配置されており、
前記第1爪部材の前記爪部の周方向における長さが、前記第2~第n爪部材の前記爪部の周方向における長さよりも前記任意長だけ大きいことを特徴とする請求項1に記載のラチェット型ワンウェイクラッチ。
【請求項3】
前記第1爪部材保持部の前記付勢部材は、前記第2~第n爪部材保持部の前記付勢部材よりも付勢力が大きいことを特徴とする請求項2に記載のラチェット型ワンウェイクラッチ。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記第1~第n爪部材と前記第1~第n爪部材保持部との間に配置されており、
前記第1爪部材保持部における前記付勢部材の設置面と前記第1爪部材との間隔は、前記第2~第n爪部材保持部における前記付勢部材の設置面と前記第2~第n爪部材との間隔よりも小さいことを特徴とする請求項2又は3に記載のラチェット型ワンウェイクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や産業機械等においてトルク伝達手段或いはバックストップとして用いられるラチェット型ワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、外輪の内周側に設けられた複数の爪部材と、複数の爪部材に噛み合うように内輪の外周側に設けられた複数の歯部とからなるラチェット機構を備えたラチェット型ワンウェイクラッチが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2000-17658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラチェット型ワンウェイクラッチの設計においては、内輪と外輪の間で伝達可能なトルクを最大限に確保するために、複数の爪部材が複数の歯部に同時に噛み合い、各爪部材がトルク負荷を分担して受けるようにすることが一般的である。
【0005】
しかしながら、実際にはラチェット型ワンウェイクラッチの各構成部品、即ち外輪、内輪及び爪部材の製造誤差により、内輪と外輪の間でのトルク伝達に際して複数の爪部材がトルク負荷を均等に受ける可能性は低い。詳細には、最初に爪部材の1つが歯部に係合し、トルクの増大に伴って各構成部品が弾性変形することにより、他の爪部材が歯部に係合し始める。また、最初にどの爪部材がトルク負荷を受けるかはランダムであるため、各構成部品の製造誤差や最初にトルク負荷を受けた爪部材の位置により、歯部に係合できない爪部材が発生する可能性がある。そしてこれにより、ラチェット型ワンウェイクラッチはトルク容量が想定よりも小さくなる、ひいては破損してしまうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、全ての爪部材が歯部に安定して係合可能なラチェット型ワンウェイクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、
円筒状の外輪と、
前記外輪の径方向内方に相対回転可能に配置された円筒状の内輪と、
前記外輪の内周側に径方向へ回動可能に配置された第1~第n爪部材と、を有し、
前記内輪の外周面には、前記第1~第n爪部材が係合可能な複数の歯部が形成されており、
前記外輪の内周面には、前記第1~第n爪部材を保持する第1~第n爪部材保持部が形成されており、
前記第1~第n爪部材保持部には、前記第1~第n爪部材を前記内輪側へ付勢する付勢部材が備えられており、
前記第2~第n爪部材保持部は、前記外輪の中心軸線から見て、前記外輪の内周面を、前記第1爪部材保持部の位置を基準として周方向にn等分する位置に設けられており、
前記第1爪部材の周方向における長さが、前記第2~第n爪部材の周方向における長さよりも任意長だけ大きいことを特徴とするラチェット型ワンウェイクラッチを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、全ての爪部材が歯部に安定して係合可能なラチェット型ワンウェイクラッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の第1実施形態に係るラチェット型ワンウェイクラッチの軸方向に直交する断面を軸方向一方側から見た様子を示す断面図である。
図2図2(a)~図2(c)は、図1に示した本発明の第1実施形態に係るラチェット型ワンウェイクラッチにおける第1~第3爪部材及び第1~第3爪部材保持部の構成を示す部分拡大図である。
図3図3は本発明の第2実施形態に係るラチェット型ワンウェイクラッチの軸方向に直交する断面を軸方向一方側から見た様子を示す断面図である。
図4図4(a)~図4(c)は、図1に示した本発明の第1実施形態に係るラチェット型ワンウェイクラッチにおける第1~第3爪部材及び第1~第3爪部材保持部の構成を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の各実施形態に係るラチェット型ワンウェイクラッチ(以下、単に「ワンウェイクラッチ」という)について添付図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
はじめに、図1に示す第1実施形態に係るワンウェイクラッチ1の方向について定義する。ワンウェイクラッチ1の軸方向、径方向及び周方向とは、ワンウェイクラッチ1の中心軸線(即ち外輪2及び内輪3の中心軸線)Oに対する軸方向、径方向及び周方向をいう。軸方向において、図1の紙面手前側を軸方向一方側とし、紙面奥側を軸方向他方側とする。周方向において、図1紙面に向かって時計回りの回転方向を周方向一方側(時計方向ともいう)とし、図1紙面に向かって反時計回りの回転方向を周方向他方側(反時計方向ともいう)とする。なお、ワンウェイクラッチ1の回転は、外輪2に対する内輪3の回転について説明するが、外輪2の回転と内輪3の回転は相対的なものである。斯かるワンウェイクラッチ1の方向についての定義は、後述する第2実施形態においても同様である。
【0012】
図1に示すように、ワンウェイクラッチ1は、円筒状の外輪2と、外輪2と相対回転可能な円筒状の内輪3と、内輪3から外輪2へのトルク伝達を行うトルク伝達機構とを有してなる。ワンウェイクラッチ1のトルク伝達機構には、外輪2の内周部に備えられた第1~第3爪部材4a~4cを含むラチェット機構が採用されている。
【0013】
内輪3は、外輪2に対して径方向内方に離間しており、外輪2よりも小径かつ外輪2と同軸である。内輪3の外周面には、径方向外方に突出して軸方向に延在する複数の歯部5が、当該外周面の全周にわたって、周方向へ等間隔に設けられている。複数の歯部5は、軸方向一方側から見た断面が台形状をしており、第1~第3爪部材4a~4cが噛み合うラチェット歯を構成している。詳細には、歯部5の周方向一方側(時計方向側)の壁面6に第1~第3爪部材4a~4cが係合することにより噛み合う。ここで、内輪3の外周面における歯部5同士の間の部分は底面7といい、第1~第3爪部材4a~4cが歯部5同士の間に進入することを底面7へ落下するともいう。
【0014】
内輪3の内周面はシャフトホール8を構成している。シャフトホール8には内輪3と同芯のシャフト9が嵌合され、内輪3とシャフト9は一体的に回転可能である。シャフト9は、例えば不図示の歯車機構を介して不図示の駆動装置に連結される。なお、シャフト9とシャフトホール8はスプライン嵌合する構成としてもよい。
【0015】
外輪2の外周面には、径方向外方に突出して軸方向に延在する複数の凸部11が周方向に沿って設けられている。凸部11は、軸方向一方側から見た断面が台形状をしており、例えば不図示の被駆動装置に連結された不図示のシャフトが嵌合される。
外輪2の内周部には、軸方向に延在する第1~第3爪部材保持部12a~12cが周方向に等間隔に形成されている(図2(a)~図2(c)を参照)。第1~第3爪部材保持部12a~12cには、先に述べた第1~第3爪部材4a~4cが保持されている。
【0016】
第1爪部材保持部12aは、外輪2の内周面において径方向内方に開口する凹部である。第1爪部材保持部12aは、第1凹部13aと、第1凹部13aに対して周方向他方側に隣接して一体的に形成された第2凹部14aとからなる。
第1爪部材保持部12aの第1凹部13aは、軸方向一方側から見て、外輪2の内周面から周方向一方側かつ径方向外方に向かって凹んだ円形状をしており、第1爪部材4aを揺動可能に保持する部分である。
【0017】
第1爪部材保持部12aの第2凹部14aは、軸方向一方側から見て、外輪2の内周面から周方向他方側かつ径方向外方に向かって凹んだ矩形状をしている。第2凹部14aの底面には、径方向外方に向かって凹んだ不図示の凹部がさらに形成されており、当該凹部には、第1爪部材4aを内輪3側へ付勢するための付勢部材として弾性部材15aが設置されている。なお、弾性部材15aが設置された当該凹部の底面を、弾性部材15aの設置面という。
なお、第2、第3爪部材保持部12b、12cは、第1爪部材保持部12aと同様の構成であり、第1凹部13b、13c、第2凹部14b、14c及び弾性部材15b、15cからなる。
【0018】
第1爪部材4aは、所定の周方向長さを有し、軸方向に延在する細長い金属製部材からなる。第1爪部材4aは、軸方向一方側から見て、円形状の円形部16aと、円形部16aに一体的に周方向他方側へ突出して設けられた矩形状の爪部17aとからなる。
第1爪部材4aの円形部16aは、円形部16aの中心18aを回動(揺動)中心として回動可能に、第1爪部材保持部12aの第1凹部13aに保持されている(図2(a)を参照)。
【0019】
第1爪部材4aの爪部17aは、第1爪部材保持部12aの第2凹部14aに配置されており、第2凹部14aに備えられた弾性部材15aによって内輪3側(径方向内方)へ常に付勢されており、第2凹部14aの内輪3側の開口から周方向他方側かつ内輪3側へ突出している。
なお、第2、第3爪部材4b、4cは、第1爪部材4aと同様の構成であり、円形部16b、16c及び爪部17b、17cからなる。
【0020】
内輪3の歯部5、外輪2の第1~第3爪部材保持部12a~12c、第1~第3爪部材保持部12a~12cに保持された第1~第3爪部材4a~4c及び弾性部材15a~15cにより、ワンウェイクラッチ1のラチェット機構が構成されている。
【0021】
以上に述べた構成のワンウェイクラッチ1は、不図示の駆動装置によって駆動されたシャフト9とともに内輪3が時計方向に回転するとき、外輪2に対する内輪3の相対回転が固定され、内輪3とともに外輪2及び外輪2に嵌合した不図示のシャフトが一体的に回転する。一方、内輪3が反時計方向に回転するときには、内輪3は外輪2に対して空転する。
【0022】
詳細には、内輪3が時計方向に回転すると、外輪2の第1~第3爪部材4a~4cがそれぞれ内輪3の歯部5に噛み合う。具体的には、第1~第3爪部材4a~4cの爪部17a~17cの先端が、歯部5の周方向一方側の壁面6に係合する。このように、歯部5の周方向一方側の壁面6は、第1~第3爪部材4a~4cと噛み合う歯部5の噛み合い面を構成している。第1~第3爪部材4a~4cと歯部5とが噛み合うことにより、外輪2と内輪3とが一体回転し、内輪3から外輪2へトルクが伝達される。なお、外輪2が固定されている場合には、ワンウェイクラッチ1は内輪3の時計方向への回転を阻止するバックストップとして機能する。
【0023】
一方、内輪3が反時計方向に回転すると、第1~第3爪部材4a~4cは内輪3の歯部5に噛み合わない。具体的には、内輪3の歯部5が第1~第3爪部材4a~4cに接触した際に、歯部5が弾性部材15a~15cの付勢力に抗して第1~第3爪部材4a~4cの爪部17a~17cを径方向外方へ押しやりながら内輪3が回転する。即ち、内輪3は外輪2に対して空転し、内輪3から外輪2へトルクは伝達されない。
【0024】
本実施形態に係るワンウェイクラッチ1は、第1~第3爪部材4a~4cと歯部5とが噛み合う際に、歯部5の噛み合い面6によって第1~第3爪部材4a~4cの爪部17a~17cが非噛み合い方向、即ち径方向外方へ弾かれて歯部5に乗り上げてしまうことがなく、第1~第3爪部材4a~4cと歯部5を確実に係合させることができる。このような効果を奏する本実施形態におけるラチェット機構の構成について以下に詳しく説明する。
【0025】
本実施形態において、第1爪部材4aは、第2、第3爪部材4b、4cに比して、爪部17aの周方向における長さが大きく設計されており、第1爪部材4aの周方向における全長T1が、第2、第3爪部材4b、4cの周方向における全長T2、T3よりも任意長さγ1、γ2だけ大きくなっている(T1-T2=γ1、T1-T3=γ2)。ここで、任意長さγ1、γ2は、ワンウェイクラッチ1の各構成部品、即ち内輪3、外輪2及び第1~第3爪部材4a~4cがトルク負荷を受けて弾性変形する際の変形量や組み立て時の取り付けガタを考慮して設定されるものである。斯かる第1~第3爪部材4a~4cの構成を「第1構成」と称する。
【0026】
上記第1構成の下、内輪3が時計方向に回転すると、第1爪部材4aの全長T1が第2、第3爪部材4b、4cの全長T2、T3よりも大きいことにより、最初に、外輪2の第1爪部材4aの爪部17aが、内輪3の底面7に落下して歯部5の噛み合い面6に係合する。
【0027】
この時、第2爪部材4bの爪部17bは、内輪3の底面7に落下する。第2爪部材4bの全長T2が第1爪部材4aの全長T1がよりも小さいことにより、第2爪部材4bの爪部17bの先端、詳しくは周方向他方側(反時計方向側)の端面と歯部5の噛み合い面6との間に、周方向における隙間ができる。このため、第2爪部材4bの爪部17bは歯部5に乗り上がってしまうことなく内輪3の底面7に落下することができる。そして、内輪3が時計方向に回転することにより、或いはトルク負荷による各構成部品の弾性変形や取り付けガタにより、第2爪部材4bの爪部17bと歯部5の当該隙間がなくなり、第2爪部材4bの爪部17bは歯部5の噛み合い面6に係合することができる。なお、第3爪部材4cの爪部17cは、内輪3が時計方向へ回転した際に第2爪部材4bの爪部17bと同様に動作する。
【0028】
以上のように、内輪3が時計方向に回転した際には、第1~第3爪部材4a~4cの各爪部17a~17cは歯部5に確実に係合することができる。このため、内輪3から外輪2へのトルク伝達において第1~第3爪部材4a~4cがトルク負荷を分担して受けることができる。したがって、ワンウェイクラッチ1は内輪3と外輪2の間で伝達可能なトルクを最大限に確保することができる。また、歯部5に係合できない爪部材が生じることを解消できるため、ワンウェイクラッチ1のトルク容量が小さくなること、ひいてはワンウェイクラッチ1が破損することを防止できる。また、ワンウェイクラッチ1の安全性を確保するために爪部材の数を増やす必要がないため、ワンウェイクラッチ1の拡径を抑制することもできる。
【0029】
本実施形態において、第1爪部材保持部12aの弾性部材15aには、第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cよりも付勢力の大きな弾性部材が用いられている。即ち、第1爪部材4aを付勢する第1爪部材保持部12aの弾性部材15aの荷重P1は、第2、第3爪部材4b、4cを付勢する第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cの荷重P2、P3よりも大きくなっている(P1>P2、P3)。斯かる第1~第3爪部材保持部12a~12cの弾性部材15a~15cの構成を「第2構成」と称する。
【0030】
上記第2構成により、内輪3が時計方向に回転して第1~第3爪部材4a~4cの各爪部17a~17cが内輪3の底面7に落下して歯部5に係合する際の、各爪部17a~17cの底面7への落下速度を、第2、第3爪部材4b、4cに比して第1爪部材4aで大きくすることができる。
即ち、内輪3が時計方向に回転した際に、第2、第3爪部材4b、4cに比して、第1爪部材4aの爪部17aを内輪3の底面7により速く落下させることができ、より確実に、最初に第1爪部材4aの爪部17aを歯部5に係合させることができる。そして、第1爪部材4aに続いて、第2、第3爪部材4b、4cの爪部17b、17cを内輪3の底面7に落下させて歯部5に係合させることができる。
したがって、ワンウェイクラッチ1は、上述した第1~第3爪部材保持部12a~12cの第1構成による効果を、より確実に奏することができる。
【0031】
本実施形態によれば、第1~第3爪部材4a~4cを全て歯部5に安定して係合可能で、伝達可能なトルクを最大限に確保しながら破損のおそれのないワンウェイクラッチ1を実現することができる。
【0032】
(第2実施形態)
図3に示す第2実施形態に係るワンウェイクラッチ30に関して、上記第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付して説明を省略し、異なる構成について詳しく説明する。
本実施形態において、第1~第3爪部材保持部12a~12cの弾性部材15a~15cには、付勢力の同じ弾性部材が用いられている(P1=P2=P3)。
【0033】
また、本実施形態では、図4(a)~図4(c)に示すように、第1爪部材保持部12aにおける弾性部材15aの設置面の深さG1が、第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cの設置面の深さG2、G3よりも小さく設計されている(G1<G2、G3)。ここで、弾性部材15a~15cの設置面の深さG1~G3は、詳細には第1~第3爪部材保持部12a~12cの第2凹部14a~14cの底面から、弾性部材15a~15cを設置するために該底面に形成された径方向外方へ延びる不図示の凹部の底面(弾性部材15a~15cの設置面)までの径方向における距離である。
【0034】
斯かる第1~第3爪部材保持部12a~12cの弾性部材15a~15c及びその設置面の構成を「第3構成」と称する。
【0035】
上記第3構成により、第1爪部材保持部12aにおける弾性部材15aの設置面と第1爪部材4aの爪部17aとの径方向における間隔は、第2爪部材保持部12bにおける弾性部材15bの設置面と第2爪部材4bの爪部17bとの径方向における間隔、第3爪部材保持部12cにおける弾性部材15cの設置面と第3爪部材4cの爪部17cとの径方向における間隔よりも小さい。このため、内輪3が回転して内輪3の歯部5が第1~第3爪部材4a~4cに接触した際に、第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cよりも第1爪部材保持部12aの弾性部材15aにより大きな力が加わることになるため、第1爪部材保持部12aの弾性部材15aの付勢力が第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cの付勢力よりも大きくなる。したがって、本実施形態の第3構成は、上記第1実施形態の第2構成と同様の効果を奏することができる。
よって、本実施形態に係るワンウェイクラッチ30は、上記第1実施形態に係るワンウェイクラッチ1と同様の効果を奏することができる。
【0036】
なお、上記第1実施形態は第1構成と第2構成を組み合わせた例を示し、上記第2実施形態は第1構成と第3構成を組み合わせた例を示しているが、本発明はこれに限られず、第1構成に第2構成及び第3構成を組み合わせてもよい。即ち、第1爪部材保持部12aの弾性部材15aに第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cよりも付勢力の大きな弾性部材を用いながら(P1>P2、P3)、第1爪部材保持部12aの弾性部材15aの設置面の深さG1を第2、第3爪部材保持部12b、12cの弾性部材15b、15cの設置面の深さG2、G3よりも小さくしてもよい(G1<G2、G3)。これにより、内輪3が時計方向に回転する際の、第1~第3爪部材4a~4cの内輪3の底面7への落下速度をより適切に設定することができる。
【0037】
上記各実施形態では、3つの爪部材(第1~第3爪部材4a~4c)と3つの爪部材保持部(第1~第3爪部材保持部12a~12c)を備えたワンウェイクラッチ1、30を示しているが、爪部材及び爪部材保持部の数はこれに限られない。
【0038】
上記各実施形態では、内輪3を入力側、外輪2を出力側として内輪3から外輪2へトルク伝達が可能なワンウェイクラッチ1、30を示しているが、本発明はこれに限られず外輪を入力側、内輪を出力側として外輪から内輪へトルク伝達を行うワンウェイクラッチに適用することもできる。
【0039】
また、上記各実施形態では、第1~第3爪部材4a~4cが内輪3の歯部5の周方向一方側の壁面6に係合することにより、内輪3の時計方向への回転を外輪2に伝達するワンウェイクラッチ1、30を示している。しかしこれに限られず、本発明は歯部5の周方向他方側の壁面に係合可能な複数の爪部材をさらに有し、当該複数の爪部材と第1~第3爪部材4a~4cとを切り替えることにより、内輪3の時計方向への回転を外輪2に伝達する状態と内輪3の反時計方向への回転を外輪2に伝達する状態とを選択的に切り替えることが可能な所謂トルク伝達方向切替式ラチェット型ワンウェイクラッチに適用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
1、30 ワンウェイクラッチ
2 外輪
3 内輪
4a~4c 第1~第3爪部材
5 内輪の歯部
6 歯部の壁面(噛み合い面)
12a~12c 第1~第3爪部材保持部
13a~13c 第1~第3爪部材保持部の第1凹部
14a~14c 第1~第3爪部材保持部の第2凹部
15a~15c 第1~第3爪部材保持部の弾性部材
16a~16c 第1~第3爪部材の円形部
17a~17c 第1~第3爪部材の爪部
18a~18c 第1~第3爪部材の円形部の中心
21a~21c 第1~第3爪部材保持部の第1凹部の中心
O 内輪及び外輪の中心軸線
図1
図2
図3
図4