(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025029929
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物、接着剤、および積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20250228BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20250228BHJP
C08G 63/127 20060101ALI20250228BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20250228BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20250228BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20250228BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20250228BHJP
H01B 7/08 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/29
C08G63/127
C08G18/42 044
C08G18/73
C09J167/00
C09J175/04
H01B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134825
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北口 貴之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 崇嗣
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
4J034
4J040
5G311
【Fターム(参考)】
4J002CF051
4J002CF091
4J002CF101
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4J002GJ01
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4J040EF281
4J040JB02
4J040LA01
4J040NA19
5G311CD03
(57)【要約】
【課題】ポリエステルフィルムや金属に対する接着性に優れ、また耐冷熱性及び耐湿熱性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステル樹脂とポリイソシアネートとを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂は、酸成分100モル%中、芳香族カルボン酸を80モル%以上の割合で含む多価カルボン酸成分と、グリコール成分100モル%中、ポリアルキレングリコールを1モル%以上の割合で含むグリコール成分とからなり、ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート誘導体であるポリエステル樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂とポリイソシアネートとを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂は、酸成分100モル%中、芳香族カルボン酸を80モル%以上の割合で含む多価カルボン酸成分と、グリコール成分100モル%中、ポリアルキレングリコールを1モル%以上の割合で含むグリコール成分とからなり、ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート誘導体である、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエステル樹脂の水酸基に対する、イソシアネート基の当量比(NCO/OH)が0.5~5.0である、請求項1記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル樹脂の数平均分子量が10,000~35,000以下である、請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレンエーテルグリコールである、請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2記載のポリエステル樹脂組成物を含む、接着剤。
【請求項6】
請求項5記載の接着剤からなる接着層を含む、積層体。
【請求項7】
請求項6記載の積層体を有する、フレキシブルフラットケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物、接着剤、および積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、電子機器の内部配線等に、断面矩形の導電体を一定間隔に並べ、上下を絶縁性フィルムで挟み込んだフレキシブルフラットケーブル(以降、FFCと称する場合がある)が広く用いられており、電化製品などの薄膜・軽量化が進められている。
【0003】
このようなFFCを構成する絶縁性フィルムとして、従来から機械的特性、電気的特性、価格等のバランスからポリエステルフィルムが使用されており、また、この絶縁性フィルムと、金属等の導電体とを接着するための接着剤としては、電気的特性や接着性に優れる、ポリエステル樹脂が用いられている。
【0004】
また薄い・軽い・誤配線しにくいなどの特徴を有するFFCは、自動車分野においても、部品のモジュール化や車内空間の拡大を図れることから、種々の配線や部品などに用いられることが増えている。これに伴い、厳しい車載環境でも適用できる高性能で信頼性の高いFFCが求められており、接着剤においても、低温と高温との環境変化に耐えうる耐冷熱性や、耐湿熱性が必要とされている。このような課題に対し、例えば特許文献1では、結晶性ポリエステル樹脂及び非晶性ポリウレタン樹脂を用いることで、接着性や耐熱性を向上させている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の接着層は、耐冷熱性に対しては全く考慮されておらず、また耐湿熱性に対して、不十分なものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記のような問題点を解決し、ポリエステルフィルムや金属に対する接着性に優れ、電子機器の内部配線等に用いられるFFC用の接着剤として好適に使用することができ、また耐冷熱性及び耐湿熱性に優れたポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定構造を有するポリエステル樹脂およびポリイソシアネートが前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリエステル樹脂とポリイソシアネートとを含有する樹脂組成物であって、ポリエステル樹脂は、酸成分100モル%中、芳香族カルボン酸を80モル%以上の割合で含む多価カルボン酸成分と、グリコール成分100モル%中、ポリアルキレングリコールを1モル%以上の割合で含むグリコール成分とからなり、ポリイソシアネートがペンタメチレンジイソシアネート誘導体である、ポリエステル樹脂組成物。
(2)ポリエステル樹脂の水酸基に対する、イソシアネート基の当量比(NCO/OH)が0.5~5.0である、(1)記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)ポリエステル樹脂の数平均分子量が10,000~35,000以下である、(1)または(2)記載のポリエステル樹脂組成物。
(4)ポリアルキレングリコールがポリテトラメチレンエーテルグリコールである、(1)または(2)記載のポリエステル樹脂組成物。
(5)(1)または(2)記載のポリエステル樹脂組成物を含む、接着剤。
(6)(5)記載の接着剤からなる接着層を含む、積層体。
(7)(6)記載の積層体を有する、フレキシブルフラットケーブル。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂組成物によれば、ポリエステルフィルムや金属に対する接着性に優れており、また接着後は、冷熱衝撃試験、湿熱試験を施しても接着力の低下が小さく、耐久性に優れる接着層を形成しうる、接着剤を提供することができる。本発明のポリエステル樹脂組成物を含む接着剤は、耐冷熱性、耐湿熱性の高さから、フレキシブルフラットケーブルに好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、特定構造を有するポリエステル樹脂と、ポリイソシアネートとを含むものである。
【0011】
<ポリエステル樹脂>
本発明の樹脂組成物を構成するポリエステル樹脂は、構成成分として、多価カルボン酸成分とグリコール成分を含む共重合体である。
【0012】
ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分は、酸成分100モル%中、芳香族ジカルボン酸を80モル%以上含有することが必要であり、90モル%以上であることがより好ましい。含有量が80モル%未満であると、ポリエステル樹脂の凝集力およびガラス転移温度が低下し、耐冷熱性や耐湿熱性が劣るものとなる。芳香族ジカルボン酸としては、基材への密着性や耐久性の観点からテレフタル酸が好ましく、また溶剤溶解性の観点からイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸とイソフタル酸とを併用してもよい。
【0013】
本発明において、テレフタル酸やイソフタル酸以外に用いることのできる多価カルボン酸成分としては、特に制限はされないが、フタル酸、無水フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4′-ジカルボキシビフェニル、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ヒドロキシ-イソフタル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸およびその無水物、テトラヒドロフタル酸およびその無水物、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、グリセロールトリス(アンヒドロトリメリテート)、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸などが挙げられる。
【0014】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、グリコール成分100モル%中、ポリアルキレングリコールを1モル%以上含有することが必要であり、1~20モル%であることがより好ましい。含有量が1モル%未満では、接着性や耐冷熱性、耐湿熱性に劣るものとなる。20モル%を超えると耐ブロッキング性が不足する場合がある。
【0015】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレングリコール、ポリヘキシレングリコール、ポリノナンジオール、ポリ(3-メチル-1,5-ペンタン)ジオールなどが挙げられ、これらの中でも接着性の観点から、ポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。
【0016】
ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、500~3000であることが好ましく、500~2000であることがより好ましい。数平均分子量が500未満であると、得られる共重合ポリエステル樹脂は、耐冷熱・耐湿熱性に劣ることがあり、数平均分子量が3000を超えると、接着性に劣ることがある。
【0017】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分として、ポリアルキレングリコール以外に用いることのできるグリコール成分は、特に制限はされないが、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2,2-ブチルエチルプロパンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3プロパンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、2,2-ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンのようなビスフェノール類(ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体)や、ビス[4-(ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホンのようなビスフェノール類(ビスフェノールSのエチレンオキシド付加体)なども挙げられる。
【0018】
ポリエステル樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、多価カルボン酸成分およびグリコール成分以外の他の成分が共重合されてもよい。なお、他の成分の共重合割合は、ポリエステル樹脂の50モル%未満であることが好ましい。
【0019】
他の成分として、例えば、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、2-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシ吉草酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸、10-ヒドロキシステアリン酸、4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどが挙げられる。
【0020】
また、ポリエステル樹脂は、モノカルボン酸、モノアルコールなどを構成成分として含有してもよい。
モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p-tert-ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4-ヒドロキシフェニルステアリン酸などが挙げられる。
モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2-フェノキシエタノールなどが挙げられる。
【0021】
<ポリエステル樹脂の特性>
本発明におけるポリエステル樹脂は、ガラス転移温度が45℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂のガラス転移温度が45℃を超えると、接着性に劣る場合がある。ガラス転移温度の下限値は、特に限定されるものではないが、耐ブロッキング性の点から、-40℃が好ましい。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度を制御する方法としては、芳香族成分の含有量や分子量を調整する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は、10,000~35,000であることが好ましく、10,000~30,000であることがより好ましい。
ポリエステル樹脂の数平均分子量が10,000未満では、接着性に劣ることがあり、35,000を超えると、架橋密度が低下し耐冷熱・耐湿熱性に劣ることがある。また、得られるポリエステル樹脂の溶融粘度、溶液粘度が高くなり取扱性が劣ることがある。
【0023】
ポリエステル樹脂の分子量を制御する方法としては、重縮合時において、所定の溶融粘度で重合を終了する方法、一旦分子量の高いポリエステルを製造した後、解重合剤を添加する方法、さらに単官能カルボン酸や単官能アルコールを予め添加する方法などが挙げられる。本発明では、上記のいかなる方法によって分子量を制御してもよいが、3官能以上の成分がポリエステルの末端だけではなく、分子鎖の中に配列していることが好ましい。
【0024】
なお、解重合剤としてアルコール成分を用いる場合は、ポリエステル末端に水酸基を付与することができ、酸成分を用いる場合は、ポリエステル末端に酸価を付与することができる。このような解重合剤成分としては、エチレングリコール、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、イソフタル酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0025】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
次に、ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
まず、多価カルボン酸およびグリコールなどのモノマーの組み合わせを適宜選択し、これらを公知の重合法で重合して、ポリエステル樹脂を得ることができる。つまり、原料モノマーを反応缶に投入した後、エステル化反応をおこなった後、公知の方法で所望の分子量に達するまで重縮合させることにより、ポリエステル樹脂を製造することができる。
エステル化反応は、例えば、180℃以上の温度において4時間以上行なわれる。
【0026】
重縮合反応は、一般的には、130Pa以下の減圧下、220~280℃の温度下で、重合触媒を用いて行なわれる。
重合触媒としては、特に限定されるものではなく、テトラブチルチタネ-トなどのチタン化合物や、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などの金属の酢酸塩や、三酸化アンチモンや、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物や、2-スルホ安息香酸無水物、o-スルホ安息香酸、m-スルホ安息香酸、p-スルホ安息香酸、5-スルホサリチル酸、ベンゼンスルホン酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸メチル、5-スルホイソフタル酸、これらの塩等の有機スルホン酸系化合物などが挙げられる。
【0027】
なお、重合触媒の使用量は、少量では反応が遅く、過多では得られるポリエステル樹脂の色調が低下するため、酸成分1モルに対し、0.1~20×10-4モルであることが好ましい。
【0028】
解重合をおこなう場合、反応温度は160~280℃であることが好ましく、160~220℃であることがより好ましく、反応時間は0.5~5時間であることが好ましい。
【0029】
<ポリイソシアネート>
本発明の樹脂組成物は、ポリイソシアネートとしてペンタメチレンジイソシアネート誘導体を含有する必要があり、それ以外のポリイソシアネート誘導体(トリレンジイソシアネート誘導体等の芳香族系イソシアネート誘導体、脂環族系イソシアネート誘導体、ヘキサメチレンジイソシアネート誘導体など)では、接着性と耐冷熱・耐湿熱性とのバランスに劣るものとなる。また、変性や付加などがなされていないペンタメチレンジイソシアネートを用いた場合は、架橋効果に乏しく耐久性に劣るものとなり、接着性、耐冷熱・耐湿熱性の何れにおいても顕著に劣るものとなる。
【0030】
ペンタメチレンジイソシアネート誘導体としては、ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット体、ウレトジオン体、アロファネート体、イソシアネート残基を有するプレポリマー、またはこれらの複合体などが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、例えば三井化学社より「スタビオD-370N」、「スタビオD-376N」の商品名で市販されているものが挙げられる。
【0031】
ポリエステル樹脂の水酸基に対する、イソシアネート基の当量比(NCO/OH)は、0.5~5.0であることが好ましく、0.5~4.0であることがより好ましい。当量比が0.5未満では、耐冷熱・耐湿熱性に劣ることがあり、5.0を超えると接着性に劣ることがある。
【0032】
<接着剤>
本発明の接着剤は、本発明の樹脂組成物を含むものである。接着剤とする際には、有機溶剤中に本発明の樹脂組成物を溶解させることが好ましい。有機溶剤は、本発明の樹脂組成物を溶解させるものであれば特に限定はされず、例えば、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、ソルベッソなどの芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコールなどのアルコール系溶剤、ジエチルエーテル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなどのエーテル系の溶剤、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、セロソルブアセテート、カルビトールアセテートなどのエステル系溶剤などが挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
本発明の接着剤は、難燃剤や難燃助剤などを含有してもよく、これにより、難燃性を付与することができる。難燃剤としては、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールA、ビス((ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールS、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、エチレンビスペンタブロモフェニル、ポルブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、TBBAポリカーボネート、臭素化ポリフェニレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、[2,2-ビス(クロロメチル)-1,3-プロパンジイル]ビスオキシビスホスホン酸テトラキス(2-クロロエチル)、リン酸トリス(1-メチル-2-クロロエチル)、リン酸2,2-ビス(ブロモメチル)-3-クロロプロピル=ビス[2-クロロ-1-(クロロエチル)エチル]などのハロゲン系難燃剤、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、トリアジン、メラミン、ベンゾグアナミン、メチルグアナミン、シアヌル酸、シアン化合物、脂肪族アミド、芳香族アミド、尿素、チオ尿素などの窒素系難燃剤、ポリリン酸塩系、ホスフィン酸塩系、リン酸エステル系、縮合リン酸エステル系、ホスファゼン系などのリン系難燃剤が挙げられる。また難燃助剤としては、三酸化アンチモンや、錫酸亜鉛、ホウ酸亜鉛が挙げられる。これら添加剤は、単独または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
難燃剤の含有量は、接着剤の固形分中、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。10質量%未満であると、難燃効果が不十分となる場合があり、50質量%を超えると、接着性に劣る場合がある。
また、難燃助剤の含有量は、ポリエステル樹脂組成物中、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。10質量%未満であると、難燃効果が不十分となる場合があり、50質量%を超えると接着性に劣る場合がある。
【0035】
また、本発明の接着剤は、目的に応じて性能をさらに向上させるために、硬化剤、酸化防止剤、熱安定剤、顔料、その他添加剤などを含有してもよい。硬化剤としては、ポリエステル樹脂が有する官能基との反応性を有する化合物であれば、特に限定はされずエポキシ、メラミン、カルボジイミドなどが挙げられる。また酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール化合物やリン系酸化防止剤などが挙げられる。熱安定剤としては、リン酸などが挙げられる。顔料としては、酸化チタン、酸化クロム、酸化鉄、酸化アルミ、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0036】
その他添加剤としては、タルクやシリカ等の結晶核剤、滑剤、充填剤、発泡剤、架橋剤、可塑剤、耐加水分解抑制剤、分散安定剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤などが挙げられる。
【0037】
<積層体>
上記のようにして得られた本発明の接着剤は、適宜の基材(例えば、フィルムや無機ガラスなど)に塗工し、積層体とすることができる。
【0038】
本発明の積層体は、本発明の接着剤からなる層(以下、接着層と称する場合がある)を含むものである。中でも、基材としてフィルムを用いることが好ましく、フィルム層/接着層/金属層の順で積層された積層体であることがより好ましく、さらには、フィルム層/接着層/金属層/接着層/フィルム層の順で積層された積層体であることが好ましい。
【0039】
フィルム層としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルムが好ましいが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリスチレン、メタアクリルなどの樹脂からなるフィルムであってもよい。
【0040】
金属層としては、導電体となる銅線が複数配置された層が好ましいが、導電体を構成する金属としては、鉄、アルミニウム、ブリキなどであってもよく、これらのスズ、亜鉛などのメッキ品、あるいはリン酸亜鉛、クロメートなどの化成処理品などであってもよい。
【0041】
本発明の積層体を作製する方法としては、本発明の樹脂組成物と、必要に応じて各種の添加剤を含む接着剤をフィルム層に塗布し、乾燥させた後、ヒートシール、ロール接着、加熱圧着等の従来公知の方法によって、金属層と接着させる方法が好適である。
【0042】
接着層をフィルム層にコーティングする方法としては、特に限定されるものではなく、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法またはスプレーコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0043】
<用途>
本発明の樹脂組成物を含む接着剤は、電気・電子部品や自動車部品の接着を目的として用いることができ、特に、光学材料の接着に適しており、電球、LEDを用いた各種照明、表示灯、ディスプレイ等の部品の接着、封止に好適に用いることができる。
さらに、本発明の接着剤からなる接着層を含む積層体は、フレキシブルフラットケーブルに好適に利用される。
【実施例0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
1.評価方法
(1)ポリエステル樹脂の構成
NMR測定装置(日本電子社製JNM-LA400型)にて、1H-NMR測定を行い、得られたチャートの共重合成分のピークの積分強度から樹脂組成を求めた。なお、測定溶媒として、重水素化クロロホルムを用いた。
【0046】
(2)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DiamondDSC、検出範囲:-50℃~200℃)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、得られた昇温曲線中の、低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大となるような点で引いた接線との交点の温度を求め、ガラス転移温度とした。
【0047】
(3)ポリエステル樹脂の数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
[送液ユニット]:島津製作所社製LC-10ADvp
[紫外-可視分光光度計]:島津製作所社製SPD-6AV、検出波長:254nm
[カラム]:Shodex社製KF-803 1本、Shodex社製KF-804 2本を直列に接続して使用
[溶媒]:テトラヒドロフラン
[測定温度]:40℃
【0048】
(4)接着性(初期接着性)
実施例、比較例で得られた接着剤を、PETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)
の上に、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケーターNo.542-AB型、バーコータ装着)を用いて、乾燥後の膜厚が30μmとなるように接着剤をコーティングし、熱風乾燥機で100℃、30秒間乾燥し、50℃で96時間エージング処理を行い、PETフィルムに接着層が形成された積層体1を作製した。続いて積層体1の接着層面に銅箔(日立金属ネオマテリアル社製、厚さ30μm)を重ね合わせ、小型熱プレス機(林機械製作所社製SG-1300)を用い、温度180℃、圧力0.2MPaの条件下で30秒間熱圧着し、積層体2を作製した。得られた積層体2を、長さ250×幅25mmの短冊状に切り出し試験片とした。この試験片を、小型卓上引張試験機(島津製作所社製EZ-SX)を用い、温度23℃、引張速度50mm/分の条件下でT型剥離試験
を行い、下記の基準で接着力を評価した。
◎:30N/25mm以上
○:20N/25mm以上、30N/25mm未満
△:15N/25mm以上、20N/25mm未満
×:15N/25mm未満
【0049】
(5)耐冷熱性
(4)で得られた接着力を初期接着力とした。また(4)と同じ条件で作製した試験片について、冷熱衝撃試験を行った。冷熱衝撃試験は、-40℃で30分保持し、次に120℃に昇温して30分保持する操作を1サイクルとし、これを合計1000サイクル行った。その後に、(4)と同じ条件で接着力を測定し、得られた接着力を冷熱衝撃試験後接着力とした。下記式により保持率を求め、下記基準で評価した。
保持率(%)=冷熱衝撃試験後接着力/初期接着力×100
◎:保持率が90%以上
○:保持率が80%以上、90%未満
△:保持率が70%以上、80%未満
×:保持率が70%未満
【0050】
(5)耐湿熱性
(4)で得られた接着力を初期接着力とした。また(4)と同じ条件で作製した試験片について、85℃×85%RH条件下、1000時間の湿熱試験を行った後に、(4)と同じ条件で接着力を測定し、得られた接着力を湿熱試験後接着力とした。下記式により保持率を求め、下記基準で評価した。
保持率(%)=湿熱試験後接着力/初期接着力×100
◎:保持率が90%以上
○:保持率が80%以上、90%未満
△:保持率が70%以上、80%未満
×:保持率が70%未満
【0051】
(6)耐ブロッキング性
(4)で得られた積層体1の接着層形成面とPETフィルム(ユニチカ社製、厚さ50μm)とを重ね合わせ、2kg/cm2の荷重をかけ40℃で24時間保持した後、PETフィルムを剥がしたときの状態を、下記の基準で評価した。
〇:PETフィルムを抵抗なく剥がすことができる
△:PETフィルムを剥がす際に僅かに抵抗がある
×:PETフィルムを剥がす際に大きな抵抗がある
【0052】
2.原料
(1)ポリエステル樹脂の原料として下記のものを使用した。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
SDA:セバシン酸
EG:エチレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
PTMG1000:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量:1000)
PEG1000:ポリエチレングリコール(数平均分子量:1000)
【0053】
(2)ポリエステル樹脂の調製
ポリエステル樹脂(A)
テレフタル酸32g(50モル%)、イソフタル酸32g(50モル%)、エチレングリコール17g(70モル%)、ネオペンチルグリコール24g(60モル%)、数平均分子量が1000であるポリテトラメチレングリコール19g(5モル%)を反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を240℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が240℃に到達してから、4時間エステル化反応を進行させた。4時間経過後、重合触媒としてテトラブチルチタネート0.2gを加え、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:20Pa)に到達してから、さらに4時間重合反応を行って、共重合ポリエステル樹脂(A)を得た。そのポリエステル樹脂の共重合組成の結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
ポリエステル樹脂(B~K)
使用するモノマーの種類と仕込み量を表1のように変更した以外は、ポリエステル樹脂(A)と同様に、表1に示す共重合組成のポリエステル樹脂(B~K)を調製した。
【0056】
(3)ポリイソシアネート
X1:ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(三井化学社製、スタビオD-370N)
X2:トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(三井化学社製、タケネートD-204EA-1)
X3:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(旭化成社製、TPA-100)
X4:ペンタメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート-アロファネート体(三井化学社製、スタビオD-376N)
X5:ペンタメチレンジイソシアネート(三井化学社製、スタビオPDI)
【0057】
実施例1
ポリエステル樹脂(A)をメチルエチルケトンで固形分濃度25%に溶解し、難燃剤としてビス(ペンタブロモフェニル)エタン(アルベマール社製、SAYTEX8010)、難燃助剤として三酸化アンチモン、酸化チタン、シリカ(日本アエロジル社製、アエロジルR972)を、質量比(ポリエステル樹脂/ビス(ペンタブロモフェニル)エタン/三酸化アンチモン/酸化チタン/シリカ)が、50/25/17/5/3となるようにポリエステル樹脂溶液に加え、ガラスビーズおよびペイントシェーカー(セイワ技研社製)を用いて2時間分散させた。
さらにポリイソシアネート(三井化学社製スタビオD-370N)を、ポリエステル樹脂の水酸基に対し、イソシアネート基の当量比(NCO/OH)が2当量となるように加えて接着剤を得た。得られた接着剤を用いて、各種評価を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
実施例2~14、比較例1~6
ポリエステル樹脂の種類、ポリイソシアネートの種類、当量比を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、各種評価を行った。なお実施例14は、難燃剤、難燃助剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして接着剤を作製した。その結果を表2に示す。
【0059】
【0060】
実施例1~14の本発明の樹脂組成物は、初期接着性に優れ、かつ乾熱処理、湿熱処理を行った後の接着力保持率が高く、耐久性に優れるものであった。
【0061】
比較例1は、多価カルボン酸成分における芳香族カルボン酸量が80モル%未満であったため、耐冷熱性および耐湿熱性に劣るものであった。
比較例2は、ポリオール成分にポリアルキレングリコールを含有しないため、初期接着性、耐冷熱性、耐湿熱性すべてに劣るものであった。
比較例3は、ポリオール成分におけるポリアルキレングリコールの含有量が1モル%未満であったため、初期接着性、耐湿熱性に劣るものであった。
比較例4は、ポリイソシアネートとして芳香族系イソシアネート誘導体を用いたため、初期接着性に劣るものであった。
比較例5は、ポリイソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネート誘導体を用いたため、耐冷熱性および耐湿熱性に劣るものであった。
比較例6は、ポリイソシアネートとしてペンタメチレンジイソシアネートを用いたため、接着性および耐冷熱性、耐湿熱性に劣るものであった。