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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030049
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ガスアトマイズ装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/08 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
B22F9/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135012
(22)【出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隠善 厚生
(72)【発明者】
【氏名】伊東 靖能
(72)【発明者】
【氏名】岩城 裕樹
【テーマコード(参考)】
4K017
【Fターム(参考)】
4K017AA02
4K017CA07
4K017EB15
4K017EB18
4K017FA03
4K017FA15
(57)【要約】
【課題】ガス流による溶融材料の粉砕能力を向上する。
【解決手段】ガスアトマイズ装置100は、材料を溶融させた液体を流下させる材料供給部130と、流下した液体の流れを取り囲むように配置される本体212と、本体212の下端に形成された複数のスリット216とを有するフローガイド210と、フローガイド210の本体212の外周に沿って環状に設けられた1または複数の開口222を有し、開口222から斜め下方に向けてガスを噴射する噴射ノズル220と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を溶融させた液体を流下させる材料供給部と、
流下した前記液体の流れを取り囲むように配置される本体と、前記本体の下端に形成された複数のスリットとを有するフローガイドと、
前記フローガイドの前記本体の外周に沿って環状に設けられた1または複数の開口を有し、前記開口から斜め下方に向けてガスを噴射する噴射ノズルと、
を備える、ガスアトマイズ装置。
【請求項2】
前記噴射ノズルの前記開口から噴射された前記ガスは、
前記フローガイドの前記スリットを通過して、第1の高さ位置で前記液体の流れに衝突する第1のガス流と、
前記フローガイドの前記本体に衝突して偏向され、前記第1の高さより低い第2の高さ位置で前記液体の流れに衝突する第2のガス流と、
を含む、請求項1に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項3】
前記フローガイドは、2つ以上、5つ以下の前記スリットを有する、請求項1または2に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項4】
前記フローガイドの前記スリットの開口幅は、上方から下方に向かって漸増する、請求項1または2に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項5】
前記フローガイドの前記本体は、前記噴射ノズルの前記開口よりも下方に突出しており、
前記複数のスリットの面積の合計は、前記フローガイドの前記本体の突出部分の面積の2.0%以上、6.8%以下である、請求項1または2に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項6】
前記フローガイドの前記本体は、前記噴射ノズルの前記開口よりも下方に突出しており、
前記フローガイドの前記本体の突出量は、2.0mm超、3.0mm以下である、請求項1または2に記載のガスアトマイズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスアトマイズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉末は、電子材料、触媒、3Dプリンタ等の様々な分野で利用されている。金属粉末の性能を高めるために、金属粉末の微粒子化が要求されている。そこで、1μm以上、500μm以下の金属粉末を低コストで製造する技術として、ガスアトマイズ装置が開発されている。
【0003】
ガスアトマイズ装置は、例えば、溶湯を流下させる材料供給部と、溶湯の流れに向けてガスを噴射する噴射ノズルとを備える。ガスアトマイズ装置では、溶湯の流れの周囲に設けられた噴射ノズルからガスを噴射して溶湯に衝突させ、溶湯を粉砕する。粉砕された溶湯は、落下する過程で空冷され、これにより、金属粉末が製造される。
【0004】
上記ガスアトマイズ装置では、噴射ノズルから噴射されるガスの流速を高くするほど、製造される金属粉末の粒径を小さくすることができる。しかし、ガスの流速が高くなると、溶湯とガス流との衝突箇所において発生する上向きの吹上流が大きくなってしまう。そうすると、吹上流によって噴射ノズルに溶湯が付着し、付着した溶湯の凝固により、噴射ノズルが閉塞してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、溶湯の流れと噴射ノズルとの間に、円筒形のフローガイドを備え、噴射されたガス流をフローガイドの外壁に衝突させて偏向させることにより、噴射ノズルへの吹上流の到達を抑制する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61-266504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載されたフローガイドを備える技術では、フローガイドへのガス流の衝突により、ガスの流速が低下してしまい、ガス流による溶湯の粉砕能力が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本開示は、このような課題に鑑み、ガス流による溶融材料の粉砕能力を向上することが可能なガスアトマイズ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るガスアトマイズ装置は、材料を溶融させた液体を流下させる材料供給部と、流下した液体の流れを取り囲むように配置される本体と、本体の下端に形成された複数のスリットとを有するフローガイドと、フローガイドの本体の外周に沿って環状に設けられた1または複数の開口を有し、開口から斜め下方に向けてガスを噴射する噴射ノズルと、を備える。
【0010】
また、噴射ノズルの開口から噴射されたガスは、フローガイドのスリットを通過して、第1の高さ位置で液体の流れに衝突する第1のガス流と、フローガイドの本体に衝突して偏向され、第1の高さより低い第2の高さ位置で液体の流れに衝突する第2のガス流と、を含んでもよい。
【0011】
また、フローガイドは、2つ以上、5つ以下のスリットを有してもよい。
【0012】
また、フローガイドのスリットの開口幅は、上方から下方に向かって漸増してもよい。
【0013】
また、フローガイドの本体は、噴射ノズルの開口よりも下方に突出しており、複数のスリットの面積の合計は、フローガイドの本体の突出部分の面積の2.0%以上、6.8%以下であってもよい。
【0014】
フローガイドの本体は、噴射ノズルの開口よりも下方に突出しており、フローガイドの本体の突出量は、2.0mm超、3.0mm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、ガス流による溶融材料の粉砕能力を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態に係るガスアトマイズ装置を説明する図である。
図2図2は、実施形態に係る噴射機構の鉛直断面図である。
図3図3は、実施形態に係る噴射ノズルによって噴射されたガス流を説明する図である。
図4図4は、実施形態に係るフローガイドの本体およびスリットと、噴射ノズルの開口との位置関係を説明する図である。
図5図5は、実施例および比較例の試験条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
[ガスアトマイズ装置100]
図1は、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100を説明する図である。本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、例えば、フリーフォール式のガスアトマイズ装置である。フリーフォール式のガスアトマイズ装置100では、インゴット10(金属材料)を直接加熱して溶融(融解)させることで得られた溶湯を流下(落下)させ、溶湯の流れにガスを噴射することで溶湯を粉末化する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、例えば、融解チャンバ110と、冷却チャンバ120と、材料供給部130と、噴射機構140と、噴射ガス供給部150と、排気機構160と、回収機構180とを備える。
【0020】
融解チャンバ110は、インゴット10を融解(溶解)するチャンバである。冷却チャンバ120は、融解チャンバ110の下方に設けられる。冷却チャンバ120は、不図示の水冷ジャケットによって水冷される。融解チャンバ110と冷却チャンバ120とは、開口部112によって連通されている。水冷機構114は、融解チャンバ110における開口部112の周辺を水冷する。
【0021】
融解チャンバ110内には、材料供給部130が設けられる。材料供給部130は、インゴット10を融解し、これにより生成された溶湯を流下させる。インゴット10は、金属を精製して塊としたものである。インゴット10は、地金、鋳塊とも呼ばれる。インゴット10を構成する金属の種類は、限定されない。溶湯は、固体の金属を加熱することにより融解させて液体となったものである。
【0022】
本実施形態において、材料供給部130は、例えば、回転ロッド132と、モータ134と、加熱部136と、漏斗138とを備える。
【0023】
回転ロッド132は、鉛直方向に延在した円棒である。回転ロッド132は、融解チャンバ110の上面を貫通する。回転ロッド132の下端にはインゴット10が保持される。回転ロッド132の上端には、モータ134が接続される。モータ134は、回転ロッド132を介してインゴット10を回転させる。また、回転ロッド132は、不図示のアクチュエータによって上下に移動する。
【0024】
加熱部136は、インゴット10を加熱して融解する。加熱部136は、例えば、誘導加熱によって、インゴット10を加熱する。加熱部136は、例えば、誘導コイルと、誘導コイルに高周波電流を印加する電源とを有する。
【0025】
漏斗138は、石英で形成される。漏斗138は、インゴット10と加熱部136との間に設けられる。漏斗138は、後述する冷却チャンバ120において発生する吹上流(上昇流)の溶湯への接触を遮断する。
【0026】
冷却チャンバ120には、噴射機構140が設けられる。噴射機構140は、開口部112を通じて融解チャンバ110から流下(落下)した溶湯の流れにガスを噴射して、溶湯を粉砕する。噴射機構140によって粉砕された溶湯は、冷却チャンバ120を落下する過程で空冷されて凝固する。こうして、製造された金属粉末は、後述の回収機構180によって回収される。噴射機構140の具体的な構成については、後に詳述する。
【0027】
噴射ガス供給部150は、噴射機構140にガスを供給する。ガスは、例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N)等の不活性ガスである。噴射ガス供給部150は、例えば、供給管152と、開閉弁152aとを含む。供給管152は、ガスの供給源と、噴射機構140の噴射ノズル220(図2参照。)とを接続する。開閉弁152aは、供給管152に設けられる。開閉弁152aは、供給管152を開閉する。
【0028】
排気機構160は、融解チャンバ110および冷却チャンバ120からガスを排気する。排気機構160は、例えば、ロータリポンプ162と、メカニカルブースタポンプ164と、排気管166、168、170と、開閉弁166a、166b、168a、170aとを備える。
【0029】
ロータリポンプ162の吐出側は、大気開放される。ロータリポンプ162の吸引側は、メカニカルブースタポンプ164の吐出側に接続される。メカニカルブースタポンプ164の吸引側は、排気管166に接続される。
【0030】
排気管166は、メカニカルブースタポンプ164と融解チャンバ110とを接続する。開閉弁166a、166bは、排気管166に設けられる。開閉弁166a、166bは、排気管166を開閉する。排気管168は、排気管166における開閉弁166aと開閉弁166bとの間と、冷却チャンバ120とを接続する。開閉弁168aは、排気管168に設けられる。開閉弁168aは、排気管168を開閉する。排気管170は、排気管168における開閉弁168aの下流側と、融解チャンバ110とを接続する。開閉弁170aは、排気管170に設けられる。開閉弁170aは、排気管170を開閉する。
【0031】
回収機構180は、例えば、第1回収ポット182と、接続管184と、サイクロン186と、第2回収ポット188と、接続管190と、逆止弁190aと、集塵機192とを備える。
【0032】
第1回収ポット182は、冷却チャンバ120の下端に接続される。冷却チャンバ120を落下した金属粉末は、第1回収ポット182に貯留される。
【0033】
接続管184は、第1回収ポット182と、サイクロン186とを接続する。
【0034】
サイクロン186は、冷却チャンバ120から供給された、ガスと金属粉末との固気混合物を、ガスと、金属粉末とに分離する。
【0035】
第2回収ポット188は、サイクロン186の下端に接続される。第2回収ポット188は、サイクロン186によって分離された金属粉末を貯留する。第2回収ポット188に貯留される金属粉末の平均粒径は、第1回収ポット182に貯留される金属粉末の平均粒径よりも小さい。
【0036】
接続管190は、サイクロン186の上端と集塵機192とを接続する。逆止弁190aは、接続管190に設けられる。逆止弁190aは、集塵機192からサイクロン186へのガスの逆流を防止する。
【0037】
集塵機192は、サイクロン186から供給された、ガスと金属粉末との固気混合物から金属粉末を回収する。集塵機192には、不図示の吸引ポンプが接続される。
【0038】
[ガスアトマイズ装置100の動作]
続いて、ガスアトマイズ装置100の動作について説明する。まず、インゴット10が回転ロッド132に装着され、加熱部136の誘導コイル近傍まで移動される。融解雰囲気を不活性ガス雰囲気とする場合、噴射ガス供給部150によって不活性ガスが供給され、排気機構160によって融解チャンバ110内が排気されることにより、融解チャンバ110内が不活性ガス雰囲気に置換される。融解チャンバ110内の置換が終了したら、噴射ガス供給部150および排気機構160の動作を停止する。
【0039】
そして、加熱部136の動作を開始して、インゴット10の表面を加熱し、インゴット10を融解する。これにより、溶湯が生成され、溶湯の流れは、開口部112を通じて、冷却チャンバ120に流下する。なお、本実施形態において溶湯の流れの中心軸は、開口部112の中心軸と一致する。
【0040】
また、噴射ガス供給部150を動作させ、噴射機構140からガスを噴射させる。そうすると、融解チャンバ110から流下した溶湯の流れにガスが衝突して、溶湯が粉砕される。そして、噴射機構140によって粉砕された溶湯は、冷却チャンバ120を落下する過程で空冷されて凝固する。こうして、製造された金属粉末は、回収機構180によって回収される。
【0041】
なお、融解によって、インゴット10と加熱部136との間の間隙が大きくならないように、融解した分、回転ロッド132を下げ、インゴット10と加熱部136との間の間隙を一定に維持するとよい。これにより、溶湯の流れを連続的に生成することができ、連続的に金属粉末を製造することができる。
【0042】
金属粉末が所定量製造されたら、加熱部136の動作および噴射ガス供給部150の動作を停止する。そして、回収機構180によって回収された金属粉末をガスアトマイズ装置100の外部に取り出す。
【0043】
[噴射機構140]
続いて、本実施形態に係る噴射機構140の具体的な構成について説明する。図2は、本実施形態に係る噴射機構140の鉛直断面図である。
【0044】
図2に示すように、噴射機構140は、フローガイド210と、噴射ノズル220とを備える。
【0045】
フローガイド210は、例えば、本体212と、鍔部214と、複数のスリット216とを有する。本体212は、例えば、筒形である。本体212は、例えば、円筒形、楕円筒形、または、角筒形である。本体212の内径は、例えば、21mmである。鍔部214は、本体212の上端から水平方向に延在する、環状の円板部材である。鍔部214は、本体212の中心軸Pが、開口部112の中心軸と一致するように、噴射ノズル220のノズル上部部材224の上面に載置される。
【0046】
上記のように、溶湯の流れの中心軸は、開口部112の中心軸と一致する。このため、本体212は、流下した溶湯の流れを取り囲むように配置されることになる。換言すれば、溶湯の流れは、本体212内を流下することになる。
【0047】
また、本体212は、後述する噴射ノズル220の開口222よりも下方に突出する。
【0048】
複数のスリット216は、本体212の下端に形成される。複数のスリット216は、例えば、本体212の周方向に等間隔に設けられる。
【0049】
噴射ノズル220は、フローガイド210の本体212の外周に沿って環状に形成された1つの開口222を有する。すなわち、本実施形態において、噴射ノズル220の開口222は、環状である。また、噴射ノズル220は、開口222から斜め下方に向けてガスを噴射する。噴射ノズル220の開口222は、例えば、噴射されたガスが中心軸P上の点P1に集約されるように設計される。噴射ノズル220は、開口222から溶湯の流れに向けて斜め下方にガスを噴射する。
【0050】
噴射ノズル220は、例えば、超音速ノズル(ラバルノズル)である。例えば、図2に示すように、噴射ノズル220は、ノズル上部部材224と、ノズル下部部材226とを備える。ノズル上部部材224およびノズル下部部材226は、環状である。ノズル下部部材226は、ノズル上部部材224の下方に設けられる。ノズル上部部材224の底面と、ノズル下部部材226の内周面とによって、開口222が形成される。
【0051】
ノズル上部部材224の内周面の径は、フローガイド210の本体212の外径よりもわずかに大きい。ノズル上部部材224の内周面は、フローガイド210の本体212の外周面と接触する。
【0052】
図3は、本実施形態に係る噴射ノズル220によって噴射されたガス流を説明する図である。図3に示すように、噴射ノズル220の開口222から斜め下方に噴射されたガスは、第1のガス流Fと、第2のガス流Sに分岐される。図3において実線で示す、第1のガス流Fは、フローガイド210のスリット216を通過して溶湯の流れDに衝突するガス流である。換言すれば、噴射ノズル220の開口222から噴射されたガスの一部は、スリット216によって本体212の内方に抽気され、第1のガス流Fとなる。図3において細かいクロスハッチで示す、第2のガス流Sは、フローガイド210の本体212の外周面に衝突して偏向され、溶湯の流れDに衝突する。
【0053】
複数のスリット216を通過した第1のガス流Fは、中心軸P上の点P1に集約される。すなわち、第1のガス流Fは、点P1の高さ位置H1において、溶湯の流れDに衝突する。このため、溶湯の流れDは、まず、第1の高さ位置H1において、第1のガス流Fによって粗粉砕(1次粉砕)される。高さ位置H1は、点P1を含む鉛直方向の位置である。
【0054】
また、フローガイド210の本体212によって偏向された第2のガス流Sは、下方に向かうに従って水平方向に徐々に広がり、中心軸P側の端部が、中心軸P上の点P2に集約される。点P2は、点P1よりも下方に位置する。このため、第2のガス流Sは、高さ位置H1より低い高さ位置H2(第2の高さ位置)で、溶湯の流れDに衝突し始める。そして、点P2の高さ位置H3(第2の高さ位置)において、第2のガス流Sが、水平方向全体に亘って、溶湯の流れDに衝突する。このため、高さ位置H1において、第1のガス流Fによって粗粉砕された溶湯の流れDは、第2のガス流Sによってさらに粉砕(2次粉砕)される。
【0055】
このように、溶湯の流れDは、第1のガス流Fと衝突した後、第2のガス流Sと衝突する。すなわち、溶湯の流れDは、2段階で、ガス流と衝突する。
【0056】
上記のように、第1のガス流Fは、フローガイド210の本体212に衝突することなく、スリット216を通過して、溶湯の流れDに衝突する。このため、第1のガス流Fは、開口222から噴射されたガスの流速を維持したまま、溶湯の流れDに衝突する。これにより、高さ位置H1において、ガス流によって溶湯を効率よく粉砕することができる。
【0057】
そして、高さ位置H1で粉砕された溶湯の流れDは、高さ位置H1の下方において、第2のガス流Sを衝突する。第2のガス流Sは、フローガイド210の本体212の外周面に衝突することにより、偏向されているため、第1のガス流Fよりも流速が低い。しかし、第2のガス流Sは、第1のガス流Fによって粉砕された溶湯の流れDに衝突する。このため、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、第2のガス流Sのみによって溶湯の流れDを粉砕する従来技術と比較して、ガス流による溶湯の粉砕能力を向上することができる。したがって、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、スリット216を有さないフローガイドを備える従来技術と比較して、平均粒径が小さい金属粉末を製造することが可能となる。
【0058】
また、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、本体212を有するフローガイド210を備える。これにより、溶湯の流れDとガス流との衝突箇所(高さ位置H1、および、高さ位置H1の下方)において発生する上向きの吹上流が、噴射ノズル220の開口222へ到達する事態を回避することができる。したがって、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、噴射ノズル220の開口222における溶湯の凝着を防止することが可能となる。
【0059】
なお、フローガイド210は、2つ以上、5つ以下のスリット216を有することが好ましく、4つのスリット216を有することがより好ましい。フローガイド210が、1つ以下のスリット216しか有しない場合、第1のガス流Fによる1次粉砕の割合が低すぎて、溶湯の粉砕能力の向上程度が低くなってしまう。一方、フローガイド210が、6つ以上のスリット216を有する場合、第1のガス流Fが多くなり、高さ位置H1で生じる上向きの吹上流が増加してしまう。このため、フローガイド210が、2つ以上、5つ以下のスリット216を有することにより、溶湯の粉砕能力の向上と、吹上流の減少による噴射ノズル220の開口222への溶湯の凝着防止を両立することが可能となる。また、フローガイド210が、4つのスリット216を有することにより、溶湯の粉砕能力をさらに向上させるとともに、吹上流のさらなる減少による噴射ノズル220の開口222への溶湯の凝着防止を実現することが可能となる。
【0060】
図4は、本実施形態に係るフローガイド210の本体212およびスリット216と、噴射ノズル220の開口222との位置関係を説明する図である。
【0061】
図4に示すように、フローガイド210のスリット216の開口幅は、上方から下方に向かって漸増することが好ましい。これにより、上方から下方に向けて第1のガス流Fを漸増することができる。したがって、ガスアトマイズ装置100は、溶湯の粉砕能力をさらに向上することができる。なお、スリット216の形状は、図2図3に示す、三角形であってもよいし、半楕円形であってもよいし、半円形であってもよい。
【0062】
なお、スリット216の上端は、噴射ノズル220の開口222と同じ高さであってもよい。
【0063】
また、上記のように、フローガイド210の本体212は、噴射ノズル220の開口222よりも下方に突出している。フローガイド210の本体212の突出量Tは、2.0mm超、3.0mm以下であることが好ましく、2.5mmであることがより好ましい。フローガイド210の本体212の突出量Tが、2.0mm以下である場合、噴射ノズル220の開口222へ到達してしまう上向きの吹上流が生じてしまう。一方、フローガイド210の本体212の突出量Tが、3.0mm超である場合、溶湯の粉砕能力の向上程度が低くなってしまう。このため、フローガイド210の本体212の突出量Tが、2.0mm超、3.0mm以下であることにより、吹上流の減少による噴射ノズル220の開口222への溶湯の凝着防止と、溶湯の粉砕能力の向上とを両立することが可能となる。また、フローガイド210の本体212の突出量Tが、2.5mmであることにより、吹上流のさらなる減少による噴射ノズル220の開口222への溶湯の凝着防止と、溶湯の粉砕能力のさらなる向上とを実現することが可能となる。
【0064】
また、複数のスリット216の面積の合計は、フローガイド210の本体212の突出部分の面積の2.0%以上、6.8%以下であることが好ましい。複数のスリット216の面積の合計が、フローガイド210の本体212の突出部分の面積の2.0%未満である場合、第1のガス流Fによる1次粉砕の割合が低すぎて、溶湯の粉砕能力の向上程度が低くなってしまう。一方、複数のスリット216の面積の合計が、フローガイド210の本体212の突出部分の面積の6.8%超である場合、第1のガス流Fが多くなり、高さ位置H1で生じる上向きの吹上流が増加してしまう。このため、複数のスリット216の面積の合計は、フローガイド210の本体212の突出部分の面積の2.0%以上、6.8%以下であることにより、溶湯の粉砕能力の向上と、吹上流の減少による噴射ノズル220の開口222への溶湯の凝着防止を両立することが可能となる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態に係るガスアトマイズ装置100は、溶湯の粉砕能力を向上することが可能となる。
【0066】
[実施例]
実施例1~4の噴射機構140、および、比較例1~7の噴射機構140を用いて試験を行った。
【0067】
図5は、実施例および比較例の試験条件を示す表である。図5に示すように、実施例1~4は、スリット216を4つとした。実施例1は、突出量Tを2.5[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を4.0[MPa]とした。実施例2は、突出量Tを2.5[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を5.0[MPa]とした。実施例3は、突出量Tを3.0[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を4.0[MPa]とした。実施例4は、突出量Tを3.0[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を5.0[MPa]とした。
【0068】
比較例1~4は、スリット216なしのフローガイド210とした。比較例1は、突出量Tを2.5[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を4.0[MPa]とした。比較例2は、突出量Tを2.5[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を5.0[MPa]とした。比較例3は、突出量Tを3.0[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を4.0[MPa]とした。比較例4は、突出量Tを3.0[mm]とし、噴射ノズル220から噴射されるガスの圧力を5.0[MPa]とした。
【0069】
実施例1~4および比較例1~4では、溶湯の凝着による、噴射ノズル220の開口222の閉塞は認められなかった。一方、実施例1~4は、比較例1~4よりも、106μm以下の粒径を有する金属粉末の製造量(重量比率)が多いことが確認された。実施例1は、比較例1よりも、106μm以下の粒径を有する金属粉末の製造量が22%多いことが確認された。実施例2は、比較例2よりも、106μm以下の粒径を有する金属粉末の製造量が22%多いことが確認された。実施例3は、比較例3よりも、106μm以下の粒径を有する金属粉末の製造量が23%多いことが確認された。実施例4は、比較例4よりも、106μm以下の粒径を有する金属粉末の製造量が23%多いことが確認された。
【0070】
また、比較例5~6では、溶湯の凝着による、噴射ノズル220の開口222の閉塞が認められた。
【0071】
以上の結果から、フローガイド210は、2つ以上、5つ以下のスリット216を有することが好ましいことが確認された。
【0072】
また、比較例7では、溶湯の凝着による、噴射ノズル220の開口222の閉塞が認められた。
【0073】
以上の結果から、フローガイド210の本体212の突出量Tは、2.0mm超、3.0mm以下であることが好ましいことが確認された。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上記の実施形態において、ガスアトマイズ装置100が、金属粉末を製造する場合を例に挙げた。しかし、ガスアトマイズ装置100は、樹脂、または、ガラスの粉末を製造してもよい。この場合、材料供給部130は、樹脂またはガラスを材料として溶融し、溶融させた液体を流下させてもよい。
【0076】
また、上記実施形態において、噴射ノズル220が、環状の1つの開口222を有する場合を例に挙げた。しかし、噴射ノズル220は、複数の開口222を有してもよい。この場合、複数の開口222は、フローガイド210の本体212の外周に沿って環状に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0077】
100 ガスアトマイズ装置
130 材料供給部
210 フローガイド
212 本体
216 スリット
220 噴射ノズル
222 開口
図1
図2
図3
図4
図5