(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003007
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20241226BHJP
A61K 9/44 20060101ALI20241226BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241226BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20241226BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241226BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C09D11/38
A61K9/44
A61K47/14
A61K47/10
B41J2/01 501
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103434
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】391040870
【氏名又は名称】紀州技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 勇弥
(72)【発明者】
【氏名】森 正広
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4C076
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB09
2C056FC01
2H186BA08
2H186DA07
2H186FB03
2H186FB15
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4C076AA46
4C076DD08F
4C076DD37
4C076FF43
4C076FF53
4J039BA04
4J039BC07
4J039BC09
4J039BC20
4J039BE01
4J039BE06
4J039BE12
4J039CA07
4J039EA10
4J039EA44
4J039EA46
4J039EA47
4J039FA07
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】非浸透性の錠剤にも印字するために溶剤としてエタノール等のアルコールを使用しつつも、インクの循環機構を必要としないインクジェットインクを提供すべく、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクを提供する。
【解決手段】非循環式プリンタで印字するために使用されるインクジェットインクであって、有機酸モノグリセリド及びアルコールを含有し、前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~10である、インクジェットインク。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非循環式プリンタで印字するために使用されるインクジェットインクであって、
有機酸モノグリセリド及びアルコールを含有し、
前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~10である、
インクジェットインク。
【請求項2】
前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~5である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記有機酸モノグリセリドにおけるグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数が10~30である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記有機酸モノグリセリドのHLB値が7.2~12.0である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記アルコールが、エタノールである、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
さらに、可食性の顔料及び/又は可食性の染料を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記可食性の顔料が、カーボンブラック、炭末色素及びイカスミよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
さらに、可食性の顔料分散剤を含有する、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項9】
前記有機酸モノグリセリドの含有量が、インク総量を100質量%として、0.01~1.00質量%である、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項10】
前記可食性の顔料及び/又は可食性の染料の含有量が、インク総量を100質量%として、0.01~1.00質量%である、請求項6に記載のインクジェットインク。
【請求項11】
可食性インクジェットインクである、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項12】
錠剤用インクジェットインクである、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項13】
前記錠剤が、素錠、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム製剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、ソフトカプセル及びハードカプセルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載のインクジェットインク。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のインクジェットインクが収容されたインクジェットインク収容体。
【請求項15】
印刷基材上に、非循環式プリンタにより、請求項1~13のいずれか1項に記載のインクジェットインクで印字された印刷物。
【請求項16】
前記印刷基材が錠剤である、請求項15に記載の印刷物。
【請求項17】
前記印刷基材が、素錠、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム製剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、ソフトカプセル及びハードカプセルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項15に記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高いインクジェットインクを微細なノズルから噴射し、記録媒体に付着させて印刷を行う印刷システムである。このインクジェット記録システムは、比較的安価な装置で、高解像度及び高品位の画像を、高速且つ低騒音で印刷可能という特徴を有し、最近急速に普及している。
【0003】
このインクジェット記録システムに使用するインクジェットインクには、溶媒としてエタノールを用いることで、非浸透性の錠剤にも印字できるという利点がある。例えば、特許文献1では、溶剤成分としてエタノールを用いるとインク塗膜の定着性を向上させる樹脂を溶解させ、さらに印字対象物上のインク塗膜の乾燥速度を向上させることができると記載されており、循環式プリンタにより錠剤上に印字できることが記載されている。
【0004】
しかしながら、溶媒としてエタノールを用いた場合、循環式プリンタでは非浸透性の錠剤にも印字することが可能である一方、非循環式プリンタでは、エタノールが揮発して印字が擦れるため、特に可食性黒インクにおいて、非循環式プリンタで印字可能な錠剤用インクジェットインクは存在しなかった。この点、特許文献2においても、乾燥性を向上させるために有機溶剤を用いる場合、ノズルでのインクの乾燥を防止するために、インクの循環機構などが必要となることから水性インクが採用されており、水溶性有機溶剤の含有量を抑えているので、ノズルでの乾燥はあまり問題とならないため、ノズルでの乾燥抑制のためのインク循環機構等を設けず、一般的な非循環式インクジェット装置で印字することもできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-224270号公報
【特許文献2】特開2019-085474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、非浸透性の錠剤にも印字するために溶剤としてエタノール等のアルコールを使用しつつも、インクの循環機構を必要としないインクジェットインクが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、非浸透性の錠剤にも印字するために溶剤としてエタノール等のアルコールを使用しつつも、インクの循環機構を必要としないインクジェットインクを提供すべく、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定のHLB値を有するグリセリン有機酸エステル及びアルコールを含有するインクジェットインクは、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクであり、非浸透性の錠剤にも印字するために溶剤としてエタノール等のアルコールを使用しつつも、インクの循環機構を必要としないインクジェットインクであることを見出した。本発明者らは、この知見に基づいて更に研究を重ね本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0009】
項1.非循環式プリンタで印字するために使用されるインクジェットインクであって、
有機酸モノグリセリド及びアルコールを含有し、
前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~10である、
インクジェットインク。
【0010】
項2.前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~5である、項1に記載のインクジェットインク。
【0011】
項3.前記有機酸モノグリセリドにおけるグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数が10~30である、項1又は2に記載のインクジェットインク。
【0012】
項4.前記有機酸モノグリセリドのHLB値が7.2~12.0である、項1~3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0013】
項5.前記アルコールが、エタノールである、項1~4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0014】
項6.さらに、可食性の顔料及び/又は可食性の染料を含有する、項1~5のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0015】
項7.前記可食性の顔料が、カーボンブラック、炭末色素及びイカスミよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のインクジェットインク。
【0016】
項8.さらに、可食性の顔料分散剤を含有する、項1~7のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0017】
項9.前記有機酸モノグリセリドの含有量が、インク総量を100質量%として、0.01~1.00質量%である、項1~8のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0018】
項10.前記可食性の顔料及び/又は可食性の染料の含有量が、インク総量を100質量%として、0.01~1.00質量%である、項6~9のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0019】
項11.可食性インクジェットインクである、項1~10のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0020】
項12.錠剤用インクジェットインクである、項1~11のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【0021】
項13.前記錠剤が、素錠、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム製剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、ソフトカプセル及びハードカプセルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項12に記載のインクジェットインク。
【0022】
項14.項1~13のいずれか1項に記載のインクジェットインクが収容されたインクジェットインク収容体。
【0023】
項15.印刷基材上に、非循環式プリンタにより、項1~13のいずれか1項に記載のインクジェットインクで印字された印刷物。
【0024】
項16.前記印刷基材が錠剤である、項15に記載の印刷物。
【0025】
項17.前記印刷基材が、素錠、口腔内崩壊錠、口腔内崩壊フィルム製剤、フィルムコーティング錠、糖衣錠、ソフトカプセル及びハードカプセルよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項15又は16に記載の印刷物。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0028】
本明細書において、数値範囲をA~Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
【0029】
1.インクジェットインク
本発明のインクジェットインクは、非循環式プリンタ、特に非循環式ドロップオンデマンド型プリンタで印字するために使用されるインクジェットインクであって、有機酸モノグリセリド及びアルコールを含有し、前記有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が2~10である。
【0030】
このようなインクジェットインクは、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクである。なお、本明細書において、「初ドットの吐出性」における「初ドット」とは、プリンタ中でインクジェットインクを5分間放置した後の最初の印字を意味する。
【0031】
(1-1)有機酸モノグリセリド
本発明のインクジェットインクは、有機酸の炭素数が2~10である有機酸モノグリセリドを含有する。
【0032】
本明細書において、有機酸モノグリセリドは、モノグリセリド化合物のヒドロキシ基に有機酸を結合(エステル結合)させてなる化合物を意味する。モノグリセリド化合物とは、グリセリンが有する3個の水酸基のうちの1個に脂肪酸がエステル結合した化合物を意味し、「モノグリセリン脂肪酸エステル」と表記することもできる。
【0033】
有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数は、2~10、好ましくは2~7、より好ましくは2~5である。有機酸モノグリセリドを構成する有機酸の炭素数が10をこえると、初ドットの吐出性に劣るうえに、連続印刷性も十分とは言えない。このような有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等が挙げられる。なかでも、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、乳酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等が好ましく、乳酸、コハク酸等がより好ましい。
【0034】
前記有機酸モノグリセリドにおけるグリセリドは、特に制限されず、種々様々なものを用いることができる。有機酸モノグリセリドにおけるグリセリド(モノグリセリド)を構成する脂肪酸として、各種の飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を採用することができる。このような脂肪酸の炭素数は、特に制限されないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、10~30が好ましく、12~25がより好ましく、14~20がさらに好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸等が挙げられる。なかでも、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、γ-リノレン酸等が好ましく、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等がさらに好ましい。
【0035】
有機酸モノグリセリドのHLB値は、特に制限されないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、7.2~12.0が好ましく、7.3~10.0がより好ましく、7.4~9.0がさらに好ましい。
【0036】
上記のような有機酸モノグリセリドとしては、具体的には、乳酸モノステアリン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン、ジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリン等が挙げられる。なかでも、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、乳酸モノステアリン酸グリセリン、コハク酸モノステアリン酸グリセリン等が好ましい。
【0037】
以上のような有機酸モノグリセリドは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、有機酸モノグリセリドは、公知又は市販品を使用することができる。
【0038】
有機酸モノグリセリドの含有量は、特に制限されるわけではないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、本発明のインクジェットインクの総量を100質量%として、0.01~1.00質量%が好ましく、0.05~0.80質量%がより好ましく、0.10~0.60質量%がさらに好ましい。なお、有機酸モノグリセリドを2種類以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0039】
(1-2)溶剤
溶剤成分として使用されるアルコールとしては、特に制限されるわけではないが、エタノール、メタノール、n-プロピルアルコール等が挙げられ、なかでも、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、エタノールが好ましい。アルコール(特にエタノール)を使用することで、印字後の乾燥性を向上させ、フィルムコーティング錠(FC錠)であっても定着しやすく、印字することが可能である。
【0040】
本発明のインクジェットインクは、フィルムコーティング錠であっても定着しやすく、印字することが可能であることから、可食性インクジェットインクとすることを想定している。このため、アルコールとしては、食品用の発酵アルコール又は食品用の変性アルコールを用いることが好ましい。
【0041】
以上のようなアルコールは、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、アルコールは、公知又は市販品を使用することができる。
【0042】
溶剤として使用するアルコールの含有量は、特に制限されるわけではないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、本発明のインクジェットインクの総量を100質量%として、80.0~99.0質量%が好ましく、85.0~98.7質量%がより好ましく、87.0~98.5質量%がさらに好ましい。なお、アルコールを2種類以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0043】
本発明のインクジェットインクにおいて、溶剤成分としては、水や湿潤剤(プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等)の使用を排除するものではない。
【0044】
ただし、一般に、水を多く含む液体に顔料となる粉体を分散させると、顔料を微細に粉砕する効率が高くなり、さらに顔料の分散安定性が得られる一方で、インクジェットインクの印字後の乾燥性は低下するうえに、水は、金属腐食の原因となり得る。本発明は、印字後の乾燥性の高い溶剤系のインクジェットインク、特に、水分量の少ない又は実質的に水分を含まないインクジェットインクであっても、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいものであり、フィルムコーティング錠に対し、連続的に印字を行うことができるので、水分量の少ない又は実質的に水分を含まないインクジェットインクにおいて、特に好適である。
【0045】
また、湿潤剤は、初ドットの吐出性、連続印刷性等の向上を目的として湿潤剤を使用することもできるが、湿潤剤を使用せずとも本発明の効果を奏することができる。
【0046】
以上から、水や湿潤剤の含有量は、本発明のインクジェットインクの総量を100質量%として、0~20質量%が好ましく、0~15質量%がより好ましく、0~10質量%がさらに好ましい。
【0047】
(1-3)顔料及び/又は染料
本発明のインクジェットインクは、フィルムコーティング錠であっても定着しやすく、印字することが可能であることから、可食性インクジェットインクとすることを想定している。このため、顔料及び/又は染料としても、可食性の顔料及び/又は可食性の染料を用いることを想定している。例えば、食品添加物として認められているもの、薬事法に準拠した顔料及び/又は染料を用いることができる。
【0048】
このような可食性の顔料としては、例えば、酸化チタン、食用色素のアルミニウムレーキ、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄、カーボンブラック、炭末色素、イカスミ等が挙げられる。炭末色素としては、例えば、備長炭、竹炭、活性炭等の粉砕物を使用することができる。本発明では、従来にはアルコール(特にエタノール)を使用するインクジェットインクでは非循環式プリンタで錠剤に定着させることが知られていなかったカーボンブラック、炭末色素、イカスミ等の黒インクを想定した顔料に使用した場合にも、フィルムコーティング錠であっても定着しやすく、印字することが可能である。
【0049】
一方、可食性の染料としては、例えば、アゾ染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、インジゴ染料等が挙げられる。
【0050】
アゾ染料としては、例えば、赤色2号、赤色102号、赤色40号、黄色4号、黄色5号等が挙げられ、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、赤色102号、黄色4号等が好ましい。
【0051】
トリフェニルメタン染料としては、例えば、青色1号、緑色3号等が挙げられ、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、青色1号が好ましい。
【0052】
キサンテン染料としては、例えば、赤色3号、赤色104号、赤色105号、赤色106号等が挙げられ、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、赤色3号が好ましい。
【0053】
インジゴ染料としては、例えば、青色2号、青色201号等が挙げられ、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、青色2号が好ましい。
【0054】
以上のような顔料及び/又は染料は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。また、顔料及び/又は染料は、公知又は市販品を使用することができる。
【0055】
顔料及び/又は染料の含有量は、特に制限されるわけではないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、本発明のインクジェットインクの総量を100質量%として、0.01~1.00質量%が好ましく、0.02~0.80質量%がより好ましく、0.03~0.60質量%がさらに好ましい。なお、顔料及び/又は染料を2種類以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0056】
(1-4)顔料分散剤
本発明のインクジェットインクは、特に、可食性の顔料を使用する場合には、当該顔料の分散を目的として、可食性の顔料分散剤を使用することもできる。
【0057】
顔料分散剤としては、可食性で、顔料の分散性を確保できれば、特に制限されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、メタクリル酸コポリマー、アンモニアアルキルメタアクリレートコポリマー、デカグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0058】
これらの顔料分散剤は、単独で用いることもでき、2種以上を用いることもできる。また、顔料分散剤は、公知又は市販品を使用することができる。
【0059】
本発明のインクジェットインクにおいて、顔料分散剤を使用する場合、顔料分散剤の含有量は、特に制限されるわけではないが、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性、連続印刷性、印字後のにじみにくさ等の観点から、本発明のインクジェットインクの総量を100質量%として、0.01~5.0質量%が好ましく、0.02~3.0質量%がより好ましく、0.03~2.5質量%がさらに好ましい。なお、顔料分散剤を2種類以上使用する場合は、その合計含有量が上記範囲内となるように調整することが好ましい。
【0060】
(1-5)その他の添加剤
本発明のインクジェットインクには、本発明の効果を害しない範囲において、上記成分以外にも、種々の目的で種々の成分を含有させることができる。例えば、表面調整剤(シリコーンオイル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、ひまし油等)、pH調整剤(酢酸、クエン酸、炭酸アンモニウム)等、インクジェットインクに通常用いられている可食性の成分を通常使用される含有量の範囲で含有させることもできる。
【0061】
(1-6)インクジェットインク
上記のような各成分を有するインクジェットインクの製造方法は、特に制限されない。例えば、各成分を同時に添加することもできるし、各成分を所定の順序で順次添加することも可能である。
【0062】
例えば、可食性の顔料を使用する場合には、可食性の顔料と、一部のアルコールと、必要に応じて顔料分散剤とを添加して顔料分散体を製造し、その後、残りの成分(グリセリン有機酸エステルと、残りのアルコールと、必要に応じて染料と、必要に応じてpH調整剤)を添加して本発明のインクジェットインクを製造することも可能である。
【0063】
顔料分散体を作製するための分散機としては、特に制限されず、メディアレス分散機を用いることもできるし、分散メディアを用いるビーズミルを用いることもできる。
【0064】
メディアレス分散機としては、例えば、マイクロフルイダイザー(商品名)、ナノマイザー(商品名)、スターバースト(登録商標)等が挙げられる。
【0065】
上記した本発明のインクジェットインクは、インクジェット記録装置でインクジェットインクを使用する前に、インクジェットインクの保管、輸送等に用いるために、本発明のインクジェットインクを収容体に収容してインクジェットインク収容体とし、インクジェットインクを使用する際にはインクジェットインクを記録装置に供給することができる。
【0066】
インクジェットインク収容体の形状としては、特に制限されず、例えば、パック、ボトル、タンク、ビン、缶等の任意の形状とすることができる。
【0067】
本発明のインクジェットインクは、種々の印刷基材への印刷に適用することができる。
【0068】
印刷基材としては、特に限定するわけではなく、例えば、紙、金属、ガラス、プラスチックスや、これらの材料の表面に塗装がなされた塗工物等へ適用することも包含され得るが、本発明のインクジェットインクは、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクとすることができることから、食用に供される可食性インクジェットインク、特に、錠剤への印字に使用される錠剤用インクジェットインクとすることが好ましい。このような錠剤としては、例えば、素錠(裸錠)、口腔内崩壊錠(OD錠)、口腔内崩壊フィルム製剤(ODフィルム製剤)、フィルムコーティングされた錠剤(フィルムコーティング錠;FC錠)、糖衣錠(SC錠)、ソフトカプセル、ハードカプセル等が挙げられる。特に、水性インクは、素錠(裸錠)、口腔内崩壊錠(OD錠)等には浸透するが、フィルムコーティング錠(FC錠)、口腔内崩壊フィルム製剤(ODフィルム製剤)、糖衣錠(SC錠)、ソフトカプセル、ハードカプセル等には浸透せず、溶剤の乾燥が遅いため、定着する前に転写等が発生してしまう。このため、本発明のインクジェットインクは、特にフィルムコーティング錠(FC錠)、口腔内崩壊フィルム製剤(ODフィルム製剤)、糖衣錠(SC錠)、ソフトカプセル、ハードカプセル等への使用に適しており、フィルムコーティング錠(FC錠)、口腔内崩壊フィルム製剤(ODフィルム製剤)、糖衣錠(SC錠)、ソフトカプセル、ハードカプセルに対しても、優れた定着性を発揮しつつ、安定的な連続印字を行うことができる。
【0069】
フィルムコーティング錠としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を用いてコーティングされた錠剤が挙げられ、特にインクジェットインクを定着させにくい錠剤であるため、このようなフィルムコーティング錠等に対して、本発明のインクジェットインクを使用することが特に有用である。
【0070】
上記したような印刷基材に対し、その表面に、インクジェットプリンタにより本発明のインクジェットインクのインク滴を噴きつけて、例えば、文字やバーコード、データマトリックスコード等の種々のコードの印字が施された印刷物、特に錠剤を得ることができる。
【0071】
このような本発明のインクジェットインクを印字するためのプリンタは、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを用いても、印字後の乾燥性、初ドットの吐出性、保存安定性及び連続印刷性に優れ、印字後ににじみにくいインクジェットインクとすることができるため、インクの循環機構を備えない非循環式プリンタを使用する場合に特に有用である。このようなプリンタとしては、具体的には、紀州技研工業(株)製ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタKGKJET HQ1000等が挙げられる。
【実施例0072】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されないことは言うまでもない。
【0073】
なお、実施例において、各種試薬は、以下のとおり市販品を使用した。
【0074】
色材顔料
カーボンブラック:キャボット社製のREGAL660R(C.I.ピグメントブラック7)
炭末色素:キリヤ化学(株)製の備長炭末。
【0075】
色材染料
青色1号:保土谷化学工業(株)製の食用青色1号
赤色3号:保土谷化学工業(株)製の食用赤色3号。
【0076】
顔料分散剤
ポリビニルピロリドン:BASF社製。
【0077】
溶剤
エタノール:日本アルコール販売(株)製。
【0078】
グリセリン有機酸エステル
乳酸モノステアリン酸グリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトNo.661AS(有機酸モノグリセリド;有機酸の炭素数3;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数18;HLB7.5)
コハク酸モノステアリン酸グリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトNo.681NU(有機酸モノグリセリド;有機酸の炭素数4;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数18;HLB8.5)
モノステアリン酸ジグリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトQ-18D(ジグリセリド;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数18;HLB7.0)
モノステアリン酸ペンタグリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトA-181E(ペンタグリセリド;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数18;HLB13.0)
ラウリン酸グリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトNo.750(モノグリセリド;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数12;HLB5.3)
モノ・ジステアリン酸ジグリセリン:太陽化学(株)製のサンソフトQ-18B(有機酸ジグリセリド;有機酸の炭素数18;グリセリドを構成する脂肪酸の炭素数18;HLB6.5)。
【0079】
製造例1
表1に示すように、エタノール(86質量部)に、ポリビニルピロリドン(10質量部)を溶解させ、そこに、カーボンブラック(4質量部)を加えて混合し、横型サンドミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製のダイノーミルマルチラボ)にて周速12m/secで2時間分散処理し、分散体1を調製した。
【0080】
製造例2
表1に示すように、カーボンブラックの代わりに炭末色素(備長炭)を使用する他は製造例1と同様に、分散体2を調製した。
【0081】
【0082】
実施例1
表1に示すように、製造例1で得られた分散体1(10質量部)、エタノール(89.7質量部)、及び乳酸モノステアリン酸グリセリン(0.3質量部)を加えて混合し、目開き1μmのフィルターで濾過し、実施例1のインクジェットインクを調製した。
【0083】
実施例2~7及び比較例1~5
表2に示すように、分散体、色材染料、溶剤、及びグリセリン有機酸エステルの種類及び含有量を種々調整したこと以外は実施例1と同様に、実施例2~7及び比較例1~5のインクジェットインクを調製した。
【0084】
評価1:乾燥性
実施例1~7及び比較例1~5のインクジェットインクの印字後の乾燥性を、フィルムコーティング錠(FC錠)への印字直後の印字面に、印字直後の秒数に設定したタイミングで毛質の刷毛を接触させ、印字の擦れの有無で評価した。印字面が搬送装置のコンベアと接触し擦れるのを防ぐために乾燥性は高いほうが好ましく、
◎:擦れない
○:極僅かに擦れる
△:一部が擦れる
×:全体的に擦れる
として評価した。
【0085】
評価2:初ドットの吐出性
実施例1~7及び比較例1~5のインクジェットインクを紀州技研工業(株)製ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタKGKJET HQ1000で5分間放置後の最初の印字における初ドットの擦れの有無と着弾乱れの有無を確認し、
◎:擦れなし、着弾乱れなし
○:擦れなし、極僅かな着弾乱れあり
△:擦れなし、着弾乱れあり
×:擦れあり
として評価した。
【0086】
評価3:保存安定性
実施例1~7及び比較例1~5で得られたインクジェットインクを収容体に入れ、密閉状態にして45℃において、初期の粘度と1ヶ月保存した後の粘度をそれぞれ E型粘度計(東機産業(株)製)により測定し、粘度増加率を以下の式:
粘度増加率(%)=(1ヶ月保存後の粘度)/(初期粘度)
により算出し、
さらに、粒度分布計(マイクロトラック・ベル(株)製のナノトラックUPA-EX)により平均粒径を測定し、
◎:粘度増加率5%以内かつ平均粒径増大なし
○:粘度増加率10%以内かつ平均粒径増大なし
△:粘度増加率10%以内かつ平均粒径増大あり
×:顔料沈降あり
として評価した。
【0087】
評価4:にじみ
実施例1~7及び比較例1~5のインクジェットインクの印字後のにじみを、フィルムコーティング錠(FC錠)へ印字のにじみの有無で評価した。にじみにくいほうが好ましく、
○:にじみなし
×:にじみあり
として評価した。
【0088】
評価5:連続印刷性
実施例1~7及び比較例1~5のインクジェットインクを、紀州技研工業(株)製ドロップオンデマンド式インクジェットプリンタKGKJET HQ1000にて高速印字(12kHz)を1時間続けた後の印字状態を確認し、
○:印字に変化なし
△:一部不吐出
×:吐出不能
として評価した。
【0089】
評価1~5の結果を表2に示す。
【0090】