(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003035
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】楽音処理装置、及び楽音処理方法
(51)【国際特許分類】
G10H 1/06 20060101AFI20241226BHJP
G10H 1/00 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
G10H1/06
G10H1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103480
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000116068
【氏名又は名称】ローランド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 直
(72)【発明者】
【氏名】久保 翔平
【テーマコード(参考)】
5D478
【Fターム(参考)】
5D478DE00
(57)【要約】
【課題】楽音信号に対する好適な効果音の信号を生成可能とする。
【解決手段】楽音処理装置は、楽音信号から得られた複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号を生成する第1の生成部と、複数の処理単位の信号の1又は2以上と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、対応づけられた第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成する第2の生成部とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽音信号から得られた複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号を生成する第1の生成部と、
前記複数の第1の信号中の1又は2以上の第1の信号と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、前記1又は2以上の第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成する第2の生成部と、
を含む楽音処理装置。
【請求項2】
前記第2の生成部によって生成された複数の第2の信号を合成する合成部をさらに含む請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項3】
前記合成部によって合成された信号に前記楽音信号が加算された信号を出力する加算部をさらに含む
請求項2に記載の楽音処理装置。
【請求項4】
前記雑音信号は、白色雑音信号、有色雑音信号、白色雑音信号及び有色雑音信号の双方の特徴を有する信号、及び帯域雑音信号の中から選ばれる1以上である
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項5】
前記雑音信号は、定常的不規則なランダム信号、または擬似乱数列によるランダム信号の少なくとも一方を含む信号を含む
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項6】
前記雑音信号は、時間とともに時間軸上の波形が変化するが周波数成分の各成分の比は一定である信号を含む
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項7】
前記雑音信号は、非減衰信号であり半永久的に持続可能な信号を含む
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項8】
前記複数の処理単位の信号が、前記楽音信号が帯域分割された複数の分割信号であり、
前記雑音信号が、前記複数の分割信号のうちの1又は2以上と対応づけ可能な複数の雑音信号である
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項9】
前記複数の処理単位の信号が、前記楽音信号のウィンドウサイズに従った分割と、分割された信号の時間-周波数変換によって得られた複数の周波数領域の信号であり、
前記雑音信号が、前記複数の周波数領域の信号のうちの1又は2以上と対応づけ可能な複数の雑音信号である
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項10】
前記第1の生成部が、前記複数の処理単位の信号の夫々の包絡線の変形を行う
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項11】
前記第1の生成部が、処理単位の信号の包絡線のリリース時間を長くする
請求項10に記載の楽音処理装置。
【請求項12】
前記第1の生成部が、前記複数の処理単位の信号に対する畳み込み処理を行う
請求項1に記載の楽音処理装置。
【請求項13】
情報処理装置が、
楽音信号から得られた複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号を生成することと、
前記複数の第1の信号中の1又は2以上の第1の信号と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、前記1又は2以上の第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成することと
を実行する楽音処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽音処理装置、及び楽音処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シミュレートされたインパルス応答を使用して残響効果を作成する電子サウンドプロセッサがある。また、従来、リバーブ効果を与える技術として、シュレーダー型がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Natural Sounding Artificial Reverberation, M. R. SCHROEDR, Bell Telephone Laboratories, Incorporated, Murray Hill, New Jersey, JOURNAL OF THE AUDIO ENGINEERING SOCIETY, JULY 1962, VOLUME 10, NUMBER 3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、楽音信号に対する好適な効果音の信号を生成可能な楽音処理装置、及び楽音処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施例の一つは、楽音信号から得られた複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号を生成する第1の生成部と、
前記複数の処理単位の信号の1又は2以上と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、対応づけられた第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成する第2の生成部と、
を含む楽音処理装置である。
【0006】
本発明の実施例の一つは、情報処理装置が、楽音信号から得られた複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号を生成
することと、前記複数の第1の信号中の1又は2以上の第1の信号と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、前記1又は2以上の第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成することとを実行する楽音処理方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】
図3は、
図2に示した楽音処理装置の処理例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、第1の構成例に適用可能な第1の回路構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1の構成例に適用可能な第2の回路構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、第1の構成例における処理例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、処理単位の信号と雑音信号との対応関係を示す図である。
【
図12】
図12は、畳み込み部を有する楽音処理装置の構成例を示す図である。
【
図19】
図19は、第2の構成例に適用可能な回路構成例を示す図である。
【
図20】
図20は、第2の構成例における処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を用いて実施形態に関する楽音処理装置及び楽音処理方法が説明される。実施形態の構成は例示であり、実施形態の構成に限定されない。
図1は、実施形態に係る楽音処理装置(楽音処理装置として動作する情報処理装置)の回路構成例を示す図である。楽音処理装置は、例えばエフェクタと呼ばれる、楽音から効果音を生成する装置である。但し、実施形態に係る構成は、エフェクタ以外の装置に実装されてもよい。
【0009】
図1において、楽音処理装置10は、楽音処理装置10の全体の動作を制御するCPU(Central Processing Unit)11を有する。CPU11は、バス2を介して、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、DSP(Digital Signal Processor)15と接続されている。CPU11には、ユーザインタフェース(UI)
16が接続されている。
【0010】
RAM13は、CPU11の作業領域、プログラムやデータの記憶領域として使用される。ROM12は、プログラムやデータの記憶領域として使用される。RAM13及びROM12は、記憶装置(記憶媒体)の一例である。CPU11はプロセッサの一例である。
【0011】
楽音処理装置10は、楽音が入力されるインプット(INPUT)端子21を有している。
端子21には、楽音信号が入力される。楽音信号は、楽器の音を含む。楽音には、人の声が含まれてもよい。
【0012】
インプット端子21に入力された楽音信号は、ADC(アナログ・ディジタル・コンバータ)17でアナログ-ディジタル変換され、DSP15に入力される。DSP15は、
ADC17から入力されたディジタル形式の楽音信号から、効果音の信号を生成し、楽音信号と効果音の信号とが加算された信号を出力する。DSP15から出力される楽音信号は、DAC(ディジタル・アナログ・コンバータ)18に入力されてアナログ信号に変換され、パワーアンプ19に入力される。パワーアンプ19は入力された信号を増幅してスピーカ20に接続する。スピーカ20からは、楽音信号に効果音が付与され音が放音される。
【0013】
UI16は、ダイヤル、スイッチ、ボタン、キーなどの、楽音処理装置10に対する複数の設定値(パラメータ)を入力又は設定する入力装置と、楽音処理装置10の状態や設定内容を表示する表示器(ランプ、LED、ディスプレイなど)とを含む。
【0014】
CPU11は、記憶装置などに記憶されたプログラムを実行することによって、UI16を用いて設定された効果音の作成に関するパラメータを記憶装置に記憶したり、DSP15に設定したりする処理を行う。DSP15は、プログラムの実行により、CPU11によって設定されたパラメータに従った効果音の信号を生成する。
【0015】
図2は、楽音処理装置10の説明図である。DSP15は、プログラムの実行によって、変換部15A、第1の生成部15B、第2の生成部15C、合成及び加算部15D、及び雑音信号生成部15Eを備えた装置として動作する。また、CPU11は、プログラムの実行によって、DSP15(15A~15E)の動作を制御する制御部(コントローラ)11Aとして動作する。
【0016】
変換部15Aは、入力された楽音信号を所定の複数の処理単位の信号に分割した複数の分割信号を生成する。第1の生成部15Bは、変換部15Aから入力された複数の処理単位の信号の夫々の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を変形した複数の第1の信号
を生成する。
【0017】
第2の生成部15Cには、複数の(処理単位毎の)第1の信号と、雑音信号とが入力される。雑音信号は、雑音信号生成部15Eによって生成される。本明細書において、雑音信号は、波形が常に変化する信号を含む。雑音信号は、白色雑音信号(ホワイトノイズ)、有色雑音信号(ピンクノイズ、ブルーノイズなど)を含む。また、雑音信号は、白色雑音信号及び有色雑音信号の双方の特徴を有する信号を含んでもよい。また、雑音信号は、帯域雑音信号を含んでもよい。また、雑音信号は、定常的不規則なランダム信号、または擬似乱数列によるランダム信号(乱数)の少なくとも一方を含む信号を含んでもよい。また、雑音信号は、時間とともに時間軸上の波形が変化するが周波数成分の各成分の比は一定である信号を含んでもよい。また、雑音信号は、非減衰信号であり半永久的に持続可能な信号、或いは常に一定のパワーを持った信号を含んでもよい。
【0018】
第2の生成部15Cは、複数の第1の信号中の1又は2以上の第1の信号と対応づけられた雑音信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方が、上記1又は2以上の第1の信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方に置き換えられた第2の信号を生成する。
【0019】
合成及び加算部15Dは、第2の生成部15Cによって生成された複数の第2の信号を合成した信号に楽音信号が加算された信号を出力する。合成及び加算部15Dは、第2の信号を合成する合成部と、合成部によって生成された信号に楽音信号を加算する加算部とから構成されていてもよい。なお、合成部及び加算部はオプションであり、必ずしも必須の構成ではない。
【0020】
雑音信号生成部15Eは、複数の処理単位の信号(第1の信号)との対応づけが可能な複数の雑音信号を生成することができる。
【0021】
図3は、
図2に示した楽音処理装置の処理例を示すフローチャートである。ステップS1において、変換部15Aが、楽音信号を複数の処理単位の信号に変換する。ステップS2では、第1の生成部15Bが、処理単位の信号の周波数特性、時間応答を変形した第1の信号を生成する。
【0022】
ステップS3では、第2の生成部15Cが、処理単位の信号に対応する1又は2以上の雑音信号の周波数特性、時間応答を対応する第1の信号の周波数特性、時間応答に置き換えた第2の信号を生成する。
【0023】
ステップS4では、合成及び加算部15Dが、第2の信号を合成し、合成された信号(効果音の信号)に楽音信号を加算して出力する(ステップS5)。これにより、楽音信号及び効果音が、放音される。
【0024】
図4は、第1の構成例を示す説明図である。以降の説明において、楽音信号を「信号A」と呼び、雑音信号を「信号S」と呼ぶことがある。第1の構成例では、変換部15Aは、複数のバンドパスフィルタ(BPF)を有する。変換部15Aは、複数のBPFを用いて、入力された楽音信号に対する帯域分割を行い、楽音信号を複数の帯域信号(複数の分割信号)に変換(分離)する。複数の分割信号が、複数の処理単位の信号に相当する。
【0025】
また、第1の生成部15Bは、複数の帯域信号の夫々に関して、その振幅の包絡線を検出し、包絡線を変形する処理を行う。包絡線は、信号の周波数特性及び時間応答の少なくとも一方を有するものである。例えば、第1の生成部15Bは、エンベロープジェネレータ (Envelope Generator)を含み、包絡線のAttack(立ち上がり)、Decay(減衰)、Sustain(減衰後の保持)、Release(余韻)を制御することができる。例えば、効果音として残響音(リバーブ)を生成する場合、第1の生成部15Bは、包絡線のリリース(余韻)の時間を長くする。このような、包絡線検出及び変形処理を経た信号が第1の信号となる。包絡線の変形処理は、必ずしも全ての分割信号に対して行う必要はなく、制御を要する1又は2以上の帯域に対して行われる。
【0026】
雑音信号生成部15Eは、複数のBPFを有する。雑音信号生成部15Eに入力された1つの雑音信号を、複数の帯域の分割雑音信号に変換する。分割される帯域幅及び帯域数は、楽音信号に対する帯域数及び帯域幅と同じであっても異なっていてもよい。
【0027】
第2の生成部15Cは、複数の電圧制御増幅器(Voltage Controlled Amplifier:VCA
)を含んでいる。各VCAには、雑音分割信号が入力信号として入力される。また、各VCAには、雑音分割信号と対応関係を有する第1の信号が制御信号として入力される。これによって、雑音分割信号の増幅の利得(大きさ)が、第1の信号の大きさによって制御される。すなわち、雑音分割信号の周波数特性又は時間応答の少なくとも一方が、対応する第1の信号の周波数特性又は時間応答の少なくとも一方に置き換えられる。
【0028】
各VCAからの出力信号は、合成及び加算部15Dで合成される。合成及び加算部15Dは、合成された信号にオリジナルの楽音信号を加算して出力する。これによって、楽音信号に残響音(効果音)が付加された音響がスピーカ20から放音される。
【0029】
図5は、第1の構成例に適用可能な第1の回路構成例を示す図である。
図5には、
図4に示した動作を、左右の楽音信号に対して行う楽音処理装置の回路構成例が示されている。
図5において、回路は、左側の楽音信号に対する系列と、右側の楽音信号に対する系列とを有している。両者は同じ構成を有している。
【0030】
「フィルタバンクA 左」、及び「フィルタバンクA 右」の夫々は、左右の変換部15Aに相当し、入力される楽音信号に対し、複数のBPFを用いて上述した複数の分割信号への変換を行う。「包絡線検出処理、変形処理 左」及び「包絡線検出処理、変形処理
右」は、左右の第1の生成部15Bに相当し、入力された各分割信号に対する包絡線を検出し、必要な包絡線の変形を行うことで、複数の第1の信号を生成する。
【0031】
「相関設定」、「フィルタバンクS 左」、及び「フィルタバンクS 右」は、左右の雑音信号生成部15Eに相当する。「相関設定」は、二つの雑音信号(雑音信号1、雑音信号2)に対する相関(相違度)を設定する。「相関設定」により相関が設定された雑音信号1は、「フィルタバンクS 左」に入力され、雑音信号2は、「フィルタバンクS 右」に入力される。「フィルタバンクS 左」、及び「フィルタバンクS 右」の夫々は、入力された雑音信号を、所定数の雑音分割信号に変換する。
【0032】
「乗算 左」及び「乗算 右」は、左右の第2の生成部15Cに相当し、対応するフィ
ルタバンクから入力される各雑音分割信号に対するVCAとして動作する。「合成処理 左」及び「合成処理 右」は、左右の合成部に相当し、自身に入力される複数の第2の信号を合成した信号を生成する。左右の加算部は、対応する合成部から出力された合成信号とオリジナルの楽音信号(ダイレクト音)とを加算して出力する。これによって、左右のスピーカから、左右の楽音信号と効果音(例えば残響音)とが放音される。
【0033】
図6は、第1の構成例に適用可能な第2の回路構成例を示す図である。第1の回路構成例では、左右1つずつの雑音信号を分割して複数の雑音分割信号を得ていた。これに対し、第2の回路構成例では、左側の雑音分割信号に相当する複数の雑音信号(雑音信号11、雑音信号21、雑音信号31・・・)を用意し、右側の雑音分割信号に相当する複数の雑音信号(雑音信号12、雑音信号22、雑音信号32・・・)が用意される。複数の雑音信号は、相関が設定された後、VCAに対する入力信号として「乗算 左」或いは「乗算 右」に入力される。この点を除き、第2の回路構成例は、第1の回路構成例と同じである。なお、入力端子及び出力端子の夫々の数は2以上であってもよい。
【0034】
図5及び
図6に示す回路は、実際の回路(ハードウェア)であってもよいが、本実施形態では、DSP15が、プログラムに従って、
図5又は
図6に示す回路として動作する。また、上述したVCAは、制御信号に応じて利得を制御可能なものであれば、VCA以外が採用されてもよい。例えば、利得制御装置、或いはDSP制御などを適用できる。なお、
図5及び
図6に示した回路構成例において、楽音信号は、端子21から入力された楽音信号であっても、楽音処理装置10内で再生される楽音信号であってもよい。また、予め帯域毎に分割された楽音信号が再生されるようにしてもよい。このように、帯域分割は必ずしも必須の要件ではない。また、雑音信号は、ノイズジェネレータ等を用いて楽音処理装置10内部で生成されるものであっても、楽音処理装置10が有する入力端子を用いて楽音処理装置10の外部から入力されるものであってもよい。
【0035】
図7は、第1の構成例における処理例を示すフローチャートである。ステップS11では、「フィルタバンクA 左」、及び「フィルタバンクA 右」の夫々は、帯域分離によって、複数の処理単位の信号への変換(複数の分割信号への分離)を行う。
【0036】
ステップS12では、「包絡線出処理、変形処理 左」及び「包絡線出処理、変形処理
右」の夫々は、各帯域の分割信号の包絡線を検出し、包絡線を変形した(例えばリリース時間を長くした)第1の信号を得る。
【0037】
ステップS13では、「乗算 左」及び「乗算 右」の夫々は、雑音信号を、対応する第1の信号の包絡線で振幅制御することによって第2の信号を生成する。ステップS14
では、合成部によって、複数の第2の信号が合成される。ステップS15では、加算部が、合成された信号と楽音信号とを加算して出力する。
【0038】
図8は、処理単位の信号と雑音信号との対応関係を示す図である。例えば、楽音信号(信号A)と雑音信号(信号S)とは、同じ帯域同士が対応づけられ、同じ帯域について包絡線の置き換えが行われてもよい(
図8A)。信号Aの帯域が、信号Sの異なる帯域と対応づけられていてもよい(
図8B)。また、信号Aと信号Sとは1:1で対応づけられていてもよく、
図8Cに示すように楽音信号の帯域と雑音信号の帯域とは、1:n(nは2以上の自然数)で対応づけられていてもよい。また、
図8Dに示すように、楽音信号の帯域と雑音信号の帯域とは、n:n(nは2以上の自然数)で対応づけられていてもよい。還元すれば、1又は2以上の第1の信号の包絡線を用いて、1又は2以上の雑音信号の包絡線を制御することができる。
【0039】
雑音信号の複数の帯域を制御する場合、楽音信号の帯域と同じ帯域と、1オクターブ上
、または1オクターブ下の帯域を制御すると、Shimmer Reverbと呼ばれる効果にすることができる。また、楽音信号と同じ帯域と、その帯域の前後(両隣)の帯域とを同じタイミングで制御すると、サイドバンドを増やすことができる。また、雑音信号の帯域分割セットと全く異なる楽音信号の帯域分割セットを用いて雑音信号の包絡線を制御してもよい。
【0040】
図9は、包絡線の変形例を示す図である。左上の包絡線が楽音信号の元の包絡線である場合に、その右側に示すように、遅延させた包絡線を生成することができる。このとき、元の包絡線からその遅延包絡線に係数をかけたものを引き算することによって、ゲートリバーブ風の包絡線(音響効果)を得ることができる。すなわち、リリースの減衰特性がどの部分を切り取っても相似形なのを利用し、検出した楽音信号の包絡線を遅延させ係数をかけて引き算すると遅延時間後に包絡線の値を0にすることができる。帯域によって設定を変えると従来得られなかったような残響音を得ることができる。従来のゲートリバーブは入力の閾値を検出して動作させているため、単一の楽器音にしか掛けられない。これに対し、実施形態に係る方法では、複数の楽器音を入力しても処理単位毎に個別に動作するので自然な効果が得られる。また、残響音として知覚できないほどゲート時間を短くすると、これまでになかった音色を得ることができる。
【0041】
図10は、包絡線の変形例を示す図である。
図10Aに示すように、入力信号(楽音信号)の包絡線を検出するときの減衰係数を1に設定(フリーズオン)すると、その時点での残響音をフリーズする(フリーズがオフとなるまでその時点のレベルを維持)することができる。
【0042】
また、
図10Bに示すように、減衰時に時間のカウントを開始し、カウントされた値が設定時間を示すカウント値になるまで減衰係数を1に設定すると、自動的なフリーズ効果を得ることができる。
【0043】
また、フリーズ動作時の減衰係数を1より僅かに大きくすると逆回転風の残響音が得られる(
図10(C)参照)。また、フリーズ動作時の減衰係数を1より小さくすると、ゲートリバーブ風の効果を得ることができる(
図10(D)参照)。また、減衰係数の制御によって、2段階減衰、例えば、カウント開始から所定のカウント値に達するまでの間、所定の速度(傾き)で包絡線が減衰し、所定のカウント値に達すると、減衰が遅くなる(又は早くなる)ように制御することができる。
【0044】
包絡線の変形とフリーズ動作を組み合わせるとADSRのような時間変化を作ることができる。
図11Aは、ADSRの説明図であり、
図11Bは波形制御パラメータの例を示す。
図11Aに示すように、Attack(立ち上がり)は、入力振幅が大きくなった時、その振幅に到達するまでの時間を設定するパラメータである。0秒に設定すればいきなり入力振幅となる。Decay(減衰)は、Attackで到達した振幅から、Sustainに移行するまでの時間を設定するパラメータである。Sustain(減衰後の保持)は、レベルを保持する時間を
設定するパラメータである。Release(余韻)は、Sustain終了した時点から、音が鳴り終わるまでの時間を設定するパラメータである。
【0045】
図11Bの表に示すように、制御部11A(CPU11)が設定するDSP15に設定するパラメータとしては、効果(エフェクト)が残響音(リバーブ)である場合に、リバーブの音色の特徴を決めるキャラクタ選択、リバーブの長さ、アタックの速さ、リバーブの高域減衰がかかり始める周波数などがある。また、パラメータには、ゲートリバーブの有効・無効のスイッチなど、ゲートリバーブに係るパラメータを含むこともできる。このようなパラメータは、楽音信号の入力の前に、予め設定される。
【0046】
図12は、処理単位の信号と雑音信号との対応関係を設定するための、畳み込み部を有
する楽音処理装置の構成例を示す図である。
図12に示す例では、楽音処理装置の変換部15Aは、複数のBPFと、畳み込み部(Convolution)15Fとを含む。第1の生成部
15Bは、楽音信号の振幅の包絡線を検出し、必要な変形を行うエンベローパ(Enveloper)を含む。但し、畳み込み部15Fは、第1の生成部15Bの一部であってもよく、変
換部15A及び第1の生成部15Bから独立した構成であってもよい。
【0047】
図13に示すように、畳み込み部15Fは、複数の入力端と、複数の出力端とを含み、複数の入力端と複数の出力端とが全結合(全ての要素をたたみ込む)されている。
図13において、乗算器の図は省略されている。入力端から伸びる複数のタップのうち、使用しないタップに対する係数(重み)を0とすることで、
図14に示すように、各入力端と各出力端とが1:1で接続された状態、すなわち、畳み込みが行われない(事実上、畳み込み部15が存在しない)状態とすることができる。
【0048】
また、タップに対する係数0の設定により、
図15に示すように、帯域(バンド)を所望の出力端にシフトさせることができる。このようなシフトの構成は、オクターブシフト(オクターブの位置を上下に変更する)などにも適用可能である。
【0049】
また、両端の入力端が二つのタップを有し、両端の間の各入力端が三つのタップ(対応する出力端とその両隣のタップ)と結合されるようにして畳み込みを行うことで、ピークの強調を行うことができる。
【0050】
図17の左側のグラフは、各帯域(BPF)と各帯域のパワーとを示すグラフである。各帯域とその両隣の(隣接する)帯域の包絡線に相関を持たせ(
図17では、-0.5,
2.0,-0.5)、畳み込みを行った。右側のグラフは畳み込みの結果を示す。畳み込みによってピークが強調された状態、すなわち、出力結果にメリハリが出せる。なお、
図17に示す例では、帯域の両端部分(1番と20番)では、片側の結果を流用した。
【0051】
このように、畳み込み部15Fを設けることで、音色づくりなどが可能となる。また、係数の変更という簡易な操作で、畳み込み部15Fが存在しない状態にすることができる。
【0052】
図18は、楽音処理装置10の第2の構成例を示す説明図である。第2の構成例では、入力信号(楽音信号)は、短時間フーリエ変換によって周波数領域の信号の時間変化に変換される。すなわち、窓関数処理によって、所定のウィンドウサイズに応じたフレームに分割され、各フレームに対するフーリエ変換(FFT、時間-周波数変換)が行われ、各フレームが時間領域の信号から周波数領域の信号に変換される。このようにして、時間変化である複数の周波数領域の信号が得られる。
【0053】
分割したフレームの順に並べると、各スペクトラムの時間変化が観測される 。そして
、フレームごとに各スペクトラム(帯域)における振幅が検出され、検出された各スペクトラムの振幅の時間変化に対し、必要な変形が施される。各スペクトラム(帯域)の振幅をホワイトノイズ(雑音信号の一例)に与える。これにより、各スペクトラムの振幅が、変形された振幅を有するホワイトノイズが生成される。すなわち、発音元はホワイトノイズで、振幅が楽音信号について変形された振幅に応じたスペクトラムが生成される。全てのスペクトラムに対して振幅の変形がなされることは必ずしも必須ではない。複数のスペクトラムの中から所望の1又は2以上のスペクトラムに関して振幅の変形がなされればよい。
【0054】
このようなスペクトラムを有するホワイトノイズは、逆短時間フーリエによって全て時間領域の信号に変換される。すなわち、逆フーリエ変換(IFFT)が実行されることで
、フレーム単位の時間領域の信号が生成される。これらの時間領域の信号は、出力窓の関数に従って合成される。そして、合成された信号に、元の入力信号(楽音信号)が加算され、出力信号として出力される。
【0055】
図19は、第2の構成例に適用可能な回路構成例を示す図である。
図19において、「フレーム分離/窓処理」(フレーム分離部151)及び「FFT」(FFT部152)は
、変換部15Aに該当する。また、
図19に示す「各フレーム振幅の包絡線検出/包絡線
変形」(包絡線検出部153)は、第1の生成部15Bに該当する。また、「各周波数ビンの実数値、虚数値を雑音信号(例えばホワイトノイズ)で与える」(処理部154)及び「IFFT」(IFFT部155)は、第2の生成部15Cに該当する。「窓処理/フ
レーム合成」(合成部156)及び加算器157は、合成及び加算部15Dに相当する。
【0056】
図20は、第2の構成例における処理例を示すフローチャートである。ステップS21では、フレーム分離部151が、入力信号である楽音信号を、窓関数の使用によって、フレームの信号に変換する。
【0057】
ステップS22では、FFT部152が、各フレームに対するFFTを行い、複数の処理単位に変換する。ステップS23では、包絡線検出部153が、各フレームの振幅の包絡線を検出し、包絡線を変形した(例えば、リリースを長くした)第1の信号を生成する。
【0058】
ステップS24では、処理部154が、雑音信号(例えばホワイトノイズ)の周波数ビンの振幅を対応する第1の信号の振幅に置き換えることによって第2の信号を生成する。ステップS25では、IFFT部155が、各第2の信号にIFFTを行う。ステップS26では、フレームの合成部156が、IFFTによって得られた信号を出力窓(窓関数)を用いて合成する。ステップS27では、加算器157が、合成された信号と元の楽音信号とを加算して出力する。
【0059】
なお、上述した実施形態では、楽音としたが自然音を用いても良い。また、実施形態において、変換部としてバンドパスフィルタバンクやFFTを示したが、これら以外の方法を用いても良い。例えば「ウェーブレット解析」や「モード解析」を用いても良い。また、第1の生成部では、振幅のADSRの全てを生成していたが、A,D,S及びRのうちのいずれか1つを生成することでも良い。ADSRを複数組み合わせ、複雑な形の波形概
形を生成する目的のものであっても良い。
【0060】
実施形態に係る楽音処理装置10によれば、第1の構成例、第2の構成例のいずれであっても、雑音信号の包絡線を変形した楽音信号の包絡線に置き換えた第2の信号を生成する。そして、第2の信号を合成した信号を元の楽音信号に加算して出力する。これによって、所望の効果音を得る。
【0061】
また、効果音の一例として、楽音信号の好適な残響音を生成することができる。実際の残響音は、壁面等の反射音に3次元空間の微妙な空気の揺らぎ(音速の変調)が多重に重なり合った結果であり時間的に統計的な振舞の側帯波が発生している。既存の残響音の生成方法では、上記の揺らぎ要素を無視したり、一瞬を切り取った特性のみで残響音を再現したりしている。このため、再現された残響音に別途揺らぎを付加したとしても、単調な側帯波しか得られない。
【0062】
楽音処理装置10によれば、これまでに説明した構成で、楽音信号のリリース(余韻)を長くした包絡線を雑音信号の包絡線に置き換えた第2の信号を合成した信号を出力するため、従来より好適な残響音を出力させることができる。なお、第2の信号が合成された
信号が単独で(楽音信号から切り離された状態で)出力されてもよい。
【0063】
既存の残響音では、問題になりやすい、いわゆるパラパラ音が原理的に発生しない。各帯域のレベルや、入力信号の包絡線を検出する時のアタックタイム、リリースタイムを独立に設定することにより幅広い音作りが可能でその変形も容易である。このため、これまでに生成することが難しかった音色も実現しやすくなる。
【0064】
既存の方法では、同じ入力信号であれば必ず同じ出力信号となる。これに対し、実施形態に係る楽音処理装置10では、雑音信号の波形は常に変化するため、同じ入力信号が入力された場合でも、雑音信号の変化に伴い出力信号は異なったものになる。実施形態の構成は、発明の目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0065】
11・・・CPU
12・・・ROM
13・・・RAM
15・・・DSP