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特開2025-30462免疫担当細胞、治療剤、DNA、及びベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030462
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】免疫担当細胞、治療剤、DNA、及びベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20250228BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20250228BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250228BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250228BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N15/12
C12N5/10
A61K35/17
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135776
(22)【出願日】2023-08-23
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】399015780
【氏名又は名称】社会医療法人創和会
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅英
(72)【発明者】
【氏名】三原 圭一朗
(72)【発明者】
【氏名】シャニヤ アブドレイム
(72)【発明者】
【氏名】榎本 篤
(72)【発明者】
【氏名】江崎 寛季
(72)【発明者】
【氏名】松山 誠
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB43
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、メフリンを標的とした、新規な腫瘍治療技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、細胞の表面に抗メフリン一本鎖抗体を発現させた免疫担当細胞であって、前記抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなり、前記抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる、免疫担当細胞を提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の表面に抗メフリン一本鎖抗体を発現させた免疫担当細胞であって、
前記抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなり、
前記抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる、
免疫担当細胞。
【請求項2】
前記抗メフリン一本鎖抗体が、前記軽鎖可変領域、リンカー、及び前記重鎖可変領域をこの順で含み、
前記リンカーが、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる、
請求項1に記載の免疫担当細胞。
【請求項3】
前記細胞がT細胞である、請求項1に記載の免疫担当細胞。
【請求項4】
腫瘍を処置するための治療剤であって、
前記治療剤が請求項1から3のいずれかに記載の免疫担当細胞を含み、
前記腫瘍が、メフリン陽性である肉腫である、
治療剤。
【請求項5】
DNAであって、
前記DNAが、CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列と、
抗メフリン一本鎖抗体をコードする塩基配列と、
CD8αのヒンジをコードする塩基配列と、
CD8αの膜貫通ドメインをコードする塩基配列と、
4-1BBの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
CD3ζの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
をこの順で含み、
前記抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号2に記載の塩基酸配列からなり、
前記抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号4に記載の塩基酸配列からなる、
DNA。
【請求項6】
請求項5に記載のDNAが組み込まれたベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫担当細胞、治療剤、DNA、及びベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
メフリン(Immunoglobulin superfamily containing leucine-rich repeat、ISLR)は、間葉系幹細胞に特異的に発現するタンパク質である。メフリンは、例えば、細胞の未分化性の維持や、様々な臓器の組織修復において重要な役割を果たすことが知られる。
【0003】
また、肉腫に対して、抗メフリン抗体と細胞傷害剤との抗体-薬物コンジュゲートが抗腫瘍効果を奏することが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/157601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方で、メフリンを標的とした、より有効な腫瘍治療に対するニーズがある。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、メフリンを標的とした、新規な腫瘍治療技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、CAR-T細胞療法において、キメラ抗原受容体として所定の抗メフリン一本鎖抗体を導入することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
(1) 細胞の表面に抗メフリン一本鎖抗体を発現させた免疫担当細胞であって、
前記抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなり、
前記抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる、
免疫担当細胞。
【0009】
(2) 前記抗メフリン一本鎖抗体が、前記軽鎖可変領域、リンカー、及び前記重鎖可変領域をこの順で含み、
前記リンカーが、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる、
(1)に記載の免疫担当細胞。
【0010】
(3) 前記細胞がT細胞である、(1)に記載の免疫担当細胞。
【0011】
(4) 腫瘍を処置するための治療剤であって、
前記治療剤が(1)から(3)のいずれかに記載の免疫担当細胞を含み、
前記腫瘍が、メフリン陽性である肉腫である、
治療剤。
【0012】
(5) DNAであって、
前記DNAが、CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列と、
抗メフリン一本鎖抗体をコードする塩基配列と、
CD8αのヒンジをコードする塩基配列と、
CD8αの膜貫通ドメインをコードする塩基配列と、
4-1BBの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
CD3ζの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
をこの順で含み、
前記抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号2に記載の塩基酸配列からなり、
前記抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号4に記載の塩基酸配列からなる、
DNA。
【0013】
(6) (5)に記載のDNAが組み込まれたベクター。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、メフリンを標的とした、新規な腫瘍治療技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例で設計したコンストラクトの概要を示す図である。
図2】実施例におけるフローサイトメトリーの結果を示す図である。
図3】実施例における細胞傷害性アッセイの結果を示す図である。
図4】実施例におけるリアルタイム細胞傷害性アッセイの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0017】
<免疫担当細胞>
本発明は、CAR(chimeric Antigen Receptor、キメラ抗原受容体)-T細胞療法に関連する技術である。
【0018】
「CAR-T細胞」とは、腫瘍細胞が発現する特定の抗原を認識する所定の抗体(キメラ抗原受容体)を細胞上面に発現させたT細胞である。
CAR-T細胞を患者に投与することで、CAR-T細胞と腫瘍細胞とが、特定の抗体及び抗原を介して結合し、腫瘍の殺傷が可能となることが知られる。
【0019】
本発明は、免疫担当細胞の表面に、所定の抗メフリン一本鎖抗体を発現させた点に主要な技術的特徴がある。
このような構成を有する本発明の免疫担当細胞によれば、メフリン陽性腫瘍細胞に結合し、細胞傷害性機能によって、腫瘍治療効果を奏する。
【0020】
「メフリン」とは、ロイシンリッチリピート含有イムノグロブリンスーパーファミリー(Immunoglobulin superfamily containing leucine-rich repeat、ISLR)とも呼ばれるタンパク質である。
ヒトメフリンは、GenBankアクセッション番号BAA85970.1で登録されたアミノ酸配列を有し得る。メフリンは、GenBankアクセッション番号BAA85970.1で登録されたアミノ酸配列と対応するアミノ酸配列を有するメフリン(例えば、ヒトメフリン)であり得る。
【0021】
本発明における抗メフリン一本鎖抗体は、国際公開第2021/157601号に記載された抗体と共通する構成を有する(同公報の「クローン27-7」を参照。)。
国際公開第2021/157601号では、この抗体がメフリンに対して特異的であることや、この抗体と細胞障害剤とを併用することで、抗体による抗腫瘍効果が高められることが示されている。
他方で、CAR-T細胞において発現する抗体は、抗原との特異性が高いと、治療効果はかえって低下する可能性があることが知られる(Park, S. et al. Micromolar affinity CAR T cells to ICAM-1 achieves rapid tumor elimination while avoiding systemic toxicity. Sci. Rep. 7, 14366 (2017))。
他方で、本発明者らは、上記抗体を、CAR-T細胞へ適用しても、意外にも、細胞障害剤との併用と比較して同等以上の抗腫瘍効果を奏することを見出し、本発明の完成に至った。
【0022】
以下、本発明の免疫担当細胞について詳述する。
【0023】
(1)免疫担当細胞
本発明における「免疫担当細胞」としては、T細胞(Tリンパ球)、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、多形核白血球(PMN)等の細胞傷害機能を有する細胞を包含する。T細胞(Tリンパ球)としては、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞が挙げられる。
これらのうち、安定した抗腫瘍効果が得られやすいという観点から、T細胞が好ましい。
なお、Bリンパ球(体液性抗体産生細胞)は、本発明における免疫担当細胞に包含されない。
【0024】
本発明の免疫担当細胞は、治療対象(ヒト、ヒト以外の哺乳動物等)の体内に投与することで治療効果を奏する。
かかる観点から、免疫担当細胞は、治療対象と同種の生物に由来することが好ましく、治療対象自身に由来することがより好ましい。
【0025】
生物からの免疫担当細胞の単離方法は特に限定されず、比重分離法等の公知の方法を採用できる。
【0026】
(2)キメラ抗原受容体
本発明において、免疫担当細胞に発現されるキメラ抗原受容体は、所定の可変領域を有する抗メフリン一本鎖抗体を含む点以外は、通常のCAR-T細胞の設計で採用されるキメラ抗原受容体と同様の構造を有し得る。
すなわち、代表的な例において、キメラ抗原受容体は、細胞外ドメイン(キメラ抗原受容体)、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインをこの順で含む。
【0027】
本発明における抗メフリン一本鎖抗体は、以下の要件を満たす。なお、以下の可変領域は、いずれも、ヒトメフリンタンパクを認識する抗メフリン抗体に由来する。
・抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号6に記載のアミノ酸配列からなる。
・抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなる。
【0028】
配列番号6に記載のアミノ酸配列に対応する塩基配列は、配列番号2である。
配列番号8に記載のアミノ酸配列に対応する塩基配列は、配列番号4である。
【0029】
本発明における「一本鎖抗体」とは、抗体の抗原結合部位を構成する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域を含む抗体である。
通常、軽鎖可変領域と、重鎖可変領域との間には、柔軟なリンカーが介在する。
【0030】
抗メフリン一本鎖抗体にリンカーが含まれる場合、その配列は、所望の柔軟性を奏することができれば、特に限定されない。
本発明の好ましい態様において、抗メフリン一本鎖抗体のリンカーは、配列番号7に記載のアミノ酸配列からなる。
配列番号7に記載のアミノ酸配列に対応する塩基配列は、配列番号3である。
【0031】
本発明の好ましい態様において、抗メフリン一本鎖抗体は、配列番号6、7、及び8に記載のアミノ酸配列をこの順で連続して含む。
【0032】
本発明の好ましい態様において、抗メフリン一本鎖抗体は、配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる。
【0033】
キメラ抗原受容体における細胞外ドメイン(抗メフリン一本鎖抗体)以外の部位は、汎用的に使用される下記のものが挙げられる。これらのドメインの配列の設定等は、Leukemia,2004,18:676-684に記載の方法に準じ得る。
・膜貫通ドメイン:CD8αのヒンジ
・細胞内ドメイン:4-1BBの細胞内ドメイン、及びCD3ζの細胞内ドメイン
【0034】
(3)治療対象疾患
本発明の免疫担当細胞は、メフリン陽性細胞を含む腫瘍に対する抗腫瘍効果を有する。
【0035】
本発明の免疫担当細胞の治療対象となる腫瘍としては、肉腫(骨肉腫、軟骨肉腫、脂肪肉腫、横紋筋肉腫、未分化多形肉腫、デスモイド腫瘍、髄膜腫等)が挙げられる。
【0036】
本発明の免疫担当細胞が所望の治療効果を有するかどうかは、例えば、免疫担当細胞と標的細胞(メフリン陽性腫瘍細胞)とを共培養し、標的細胞の経時的細胞数減少を、フローサイトメトリーや、細胞傷害性アッセイ等で確認することで評価できる。
【0037】
(4)免疫担当細胞の用途
本発明の免疫担当細胞は、上記のとおり、メフリン陽性細胞を含む腫瘍に対する抗腫瘍効果を有する。
本発明は、本発明の免疫担当細胞を含む、腫瘍(メフリン陽性である肉腫等)を処置するための治療剤を包含する。
【0038】
本発明の免疫担当細胞の使用方法等は、従来のCAR-T細胞を用いた療法と同様の条件を採用し得る。例えば、治療対象(好ましくは、免疫担当細胞が由来する治療対象)に、注射等で投与することで、抗腫瘍効果を奏し得る。
【0039】
<免疫担当細胞の製造方法>
本発明の免疫担当細胞は、所定の抗メフリン一本鎖抗体を発現させる点以外は、従来知られるCAR-T細胞の製造方法と同様の方法を採用できる。
【0040】
本発明の免疫担当細胞の製造方法は、例えば、以下の工程を含む。
【0041】
(工程1)抗メフリン一本鎖抗体の準備
この工程では、まず、メフリン抗原に対する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を作製する。
次いで、得られたハイブリドーマ細胞から、mRNAを抽出し、WO2021/157601号公報に記載の方法に準じて、抗メフリン抗体の軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域をそれぞれコードするcDNA(配列番号6及び8)を取得する。
【0042】
(工程2)抗メフリン-CARのコンストラクトの作製
この工程では、工程1で取得したcDNAを増幅し、抗体cDNAを有するコンストラクトを作製する。
【0043】
本発明の好ましい態様におけるコンストラクトの一例を図1に示す。
【0044】
本発明の好ましい態様におけるコンストラクトは、
CD8αのシグナルペプチドをコードする塩基配列(軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域の順で連結される。)と、
抗メフリン一本鎖抗体をコードする塩基配列と、
CD8αのヒンジをコードする塩基配列と、
CD8αの膜貫通ドメインをコードする塩基配列と、
4-1BBの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
CD3ζの細胞内ドメインをコードする塩基配列と、
をこの順で含み、
抗メフリン一本鎖抗体の軽鎖可変領域が、配列番号2に記載の塩基酸配列からなり、
抗メフリン一本鎖抗体の重鎖可変領域が、配列番号4に記載の塩基酸配列からなる。
より好ましい態様において、軽鎖可変領域と、重鎖可変領域との間に、リンカーが含まれていてもよい。リンカーの好ましい配列は、配列番号3である。
本発明は、上記構成を有するDNAも包含する。
【0045】
次いで、得られたコンストラクトを含む発現カセットをベクターに組み込み、抗メフリン一本鎖抗体を発現するベクターを作製する。ベクターとしては、ウイルス(レンチウイルス等)ベクターが挙げられる。
ベクターには、発現解析等のためにマーカー遺伝子(EGFP(Enhancedgreenfluorescentprotein)等)を導入してもよい。
本発明は、上記構成を有するベクターも包含する。
【0046】
(工程3)パッケージング細胞の作製
この工程では、工程2で取得したウイルスベクターを、パッケージング用の細胞にトランスフェクションし、パッケージング細胞を作製する工程である。
この工程により、抗メフリン一本鎖抗体を発現するウイルス粒子(ウィルスビリオン)産生細胞を作製できる。
【0047】
(工程4)T細胞への形質導入
この工程では、工程3で取得したパッケージング細胞から放出されたウイルス粒子を用いて、免疫担当細胞に感染させる工程である。
この工程により、本発明の免疫担当細胞を取得できる。
【0048】
免疫担当細胞を感染させる方法としては特に限定されないが、ウイルス粒子産生細胞と免疫担当細胞との混合培養等が挙げられる。
【0049】
(工程5)免疫担当細胞の選別
必要に応じて、工程4で得られた免疫担当細胞について、任意の手法に基づき、治療に供するかどうかの選別を行ってもよい。
【0050】
選別の手法としては、以下が挙げられる。
・フローサイトメトリーによる、抗メフリン一本鎖抗体の発現の有無や発現量等の確認。
・細胞傷害性アッセイによる、標的細胞に対する殺傷能力の確認。
【実施例0051】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
以下の方法で、免疫担当細胞を作製し、その細胞障害性の評価を行った。なお、以下の免疫担当細胞の作製方法は、日本国特許5328018号明細書に記載の方法に準じた。
【0053】
(1)抗メフリン一本鎖抗体の準備
ヒトメフリンタンパクを認識する抗メフリン抗体産生ハイブリドーマ細胞から、mRNAを抽出した。抗メフリン抗体産生ハイブリドーマ細胞は、榎本篤教授(名古屋大学)から提供されたものである。
得られたmRNAから、WO2021/157601号公報に記載の方法に準じて、抗メフリン抗体の軽鎖可変領域、及び重鎖可変領域をそれぞれコードするcDNAを取得した。
【0054】
得られたcDNAから、抗メフリン一本鎖抗体遺伝子を設計した。
本試験で用いた抗メフリン一本鎖抗体(scFv)は、軽鎖可変領域(VL)、リンカー、及び重鎖可変領域(VH)からなり、かつ、VL、リンカー、及びVHの順で連結される。
scFvの塩基配列は配列番号1に示され、アミノ酸配列は配列番号5に示される。
VLの塩基配列は配列番号2に示され、アミノ酸配列は配列番号6に示される。
リンカーの塩基配列は配列番号3に示され、アミノ酸配列は配列番号7に示される。
VHの塩基配列は配列番号4に示され、アミノ酸配列は配列番号8に示される。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(2)抗メフリン-CARのコンストラクトの作製
Leukemia,2004,18:676-684に記載の方法に準じて、CD8αのシグナルペプチド、抗メフリン一本鎖抗体(VL、リンカー、VH)、CD8αのヒンジ、CD8αの膜貫通ドメイン、4-1BBの細胞内ドメイン、及びCD3ζの細胞内ドメインをこの順で含むコンストラクトを作製した。得られたコンストラクトを、以下、「メフリン-キメラ抗原受容体(CAR)」という。
発現カセットを、pLVSIN-EF1a-IRES-ZsGreenレンチウイルスプラスミド(タカラバイオ株式会社)にサブクローニングした。
【0058】
また、抗メフリン一本鎖抗体を導入しない点以外は、上記同様に作製したコンストラクトも得た。得られたコンストラクトを、以下、「Mock-キメラ抗原受容体(CAR)」という。
【0059】
設計した抗メフリン-CARコンストラクトの概要を図1に示す。
【0060】
(3)細胞株の準備
ヒトTリンパ球細胞である「Jurkat」を、ATCC(American Type Culture Collection)から購入した。
骨芽細胞性骨肉種由来の「HS-Os-1」、及び、頚部腫瘍由来のヒト横紋筋肉腫細胞株である「KYM-1」を、榎本篤教授(名古屋大学)から提供された。
ヒト胎児由来腎臓上皮細胞である「293T細胞株」をATCCから購入した。
「Jurkat」、「HS-Os-1」、及び「KYM-1」は、10%ウシ胎児血清(FBS)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)を補充したRPMI1640培地中で維持した。
レンチウイルスパッケージング用細胞株である「293T細胞株」は、10%FBS、及びP/Sを含むDMEM中で維持した。
全ての細胞を37℃、5%COで維持した。
【0061】
(4)レンチウイルスパッケージング
「TransIT(登録商標)-Lenti Transfection Reagent」(Mirus Bio,Inc.)を用いて、293T細胞に、pLVSIN-EF 1α-IR ES-ZsGreenレンチウイルスプラスミド中の「Mock-CAR」又は「メフリン-CAR」をトランスフェクトし、パッケージング細胞を得た。
トランスフェクションの48時間後、レンチウイルス粒子を回収し、0.45μmの親水性PVDF膜(Millipore)に通して濾過した。
回収したレンチウイルス粒子は、次工程に供するまで-80℃で保存した。
【0062】
(5)T細胞への形質導入、及び本発明の免疫担当細胞の取得
Jurkat細胞の形質導入前に、培養皿を、4℃で一晩、レトロネクチンでコーティングし、2%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した。
次いで、レトロネクチンの操作説明書に従って、Jurkat細胞に、上記(4)で得られたレンチウイルス粒子を用いて、「Mock-CAR」、又は「メフリン-CAR」を形質導入した。
形質導入後、Jurkat細胞を、リフレッシュ培養培地を使用して増殖させ、ZsGreen陽性Jurkat細胞を、蛍光の程度に応じた細胞選別によって濃縮した。
上記工程により、「Mock-CAR」を導入されたT細胞である「Mock-CAR-T細胞」、及び「メフリン-CAR」を導入されたT細胞である「メフリン-CAR-T細胞」を得た。これらのT細胞は、本発明に係る「免疫担当細胞」に相当する。
【0063】
(6)フローサイトメトリー
T細胞(Jurkat細胞)表面上の「Mock-CAR」、及び「メフリン-CAR」の発現を、「ビオチン-SA-ヤギ抗ラットIgG」(Jackson 112-065-167)で染色した。
対照として、非形質導入細胞(Jurkat細胞)を設定した。
HS-Os-1細胞、及び、KYM-1細胞のそれぞれにおけるメフリンの検出のために、「抗メフリン-アロフィコシアニン(APC)」を使用した。抗メフリン-APCは、榎本篤教授(名古屋大学)から提供されたものである。
【0064】
フローサイトメトリーにおける全てのデータは、「BD Accuri(商標)C6 Plus Flow Cytometer」(BD Biosciences)、及び「BD Accuri(商標)C6 Plus Software」によって解析した。
【0065】
結果を図2に示す。図2のとおり、「メフリン-CAR」を導入したT細胞(Meflin-targeted CAR-T)では、「メフリン-CAR」に特異的な発現が認められた。
【0066】
(7)細胞傷害性アッセイ
骨肉腫細胞、及び横紋筋肉腫細胞を標的細胞として、乳酸脱水素酵素(LDH)細胞傷害性アッセイを行った。
対照として、非形質導入細胞(Jurkat細胞)を設定した。
まず、骨肉腫細胞(HS-Os-1)、及び横紋筋肉腫細胞(KYM-1)を、それぞれ1×10/ウェルずつ96ウェル平底プレートに播種し、10%FBSを補充したRPMI1640培地中、37℃、5%COで24時間接着させた。
次いで、エフェクター細胞としての「メフリン-CAR-T細胞」を、所定のE:T比(20:1、10:1、5:1、2.5:1、又は1:1)でプレートに添加した後、プレートを遠心分離し(250g、4分)、37℃、5%COで培養した。
【0067】
培養48時間後、乳酸脱水素酵素細胞傷害性アッセイキット(株式会社同仁化学研究所)を用いて、細胞培養上清中の乳酸脱水素酵素(LDH)レベルを測定した。
測定結果に基づき、以下の式を用いて細胞傷害性を算出した。なお、試験は3回ずつ繰り返して行い、得られた結果の平均±標準偏差として特定した。
細胞傷害性(%)=(試験に供した細胞総数-エフェクター細胞数-標的細胞数)/(標的細胞の最大LDHレベル-標的細胞の最大LDHレベル)×100
【0068】
HS-Os-1に対する結果を図3に示す。図3のとおり、「メフリン-CAR-T細胞」によって、HS-Os-1への細胞障害性が認められた。
なお、KYM-1においても、図3と同様の結果が得られた。
【0069】
(8)リアルタイム細胞傷害性アッセイ
「xCELLigence」リアルタイム細胞分析装置(Agilent Technologies)を使用して、各CAR-T細胞による細胞傷害性をリアルタイムに評価した。
まず、正常培養培地中の骨肉腫細胞、及び横紋筋肉腫細胞(1×10/ウェル)を、16ウェルプレートに播種し、クリーンベンチ上で30分間静置した。
その後、プレートを、分析装置に一晩入れた。
各細胞の接着を確認した後、各CAR-T細胞を、所定のE:T比(1:1、又は2:1)でプレートに添加し、クリーンベンチ上で30分間静置した。
次いで、プレートを、分析装置(37℃、5%CO)に入れ、iCELLigence RTCA(Agilent Technologies)を使用して、細胞増殖の測定を開始した。
細胞増殖は、5日間にわたって、15分毎に連続的に測定した。
【0070】
HS-Os-1に対する結果を図4に示す。図4のとおり、「メフリン-CAR-T細胞」によって、HS-Os-1の細胞減少が認められた。
なお、KYM-1においても、図4と同様の結果が得られた。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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