(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030567
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/17 20060101AFI20250228BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
B41J2/17 103
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023135974
(22)【出願日】2023-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】飯島 愛璃
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB07
2C056EB13
2C056EB58
2C056EC12
2C056JB16
2C056JC17
2C056JC18
(57)【要約】
【課題】インクジェット印刷装置において、インクジェットヘッドと媒体との間を浮遊するミストを簡素な構成で搬送方向下流に流すとともに、高精度に印刷を行う。
【解決手段】第1回転体(R1)は、搬送部(50,31)による媒体(P)の搬送方向(T)におけるインクジェットヘッド(40)の少なくとも上流側に配置され、媒体(P)に接触可能である。第2回転体(R2)は、搬送方向(T)における第1回転体(R1)とインクジェットヘッド(40)との間に配置され、媒体(P)とのギャップ(DF)がインクジェットヘッド(40)と媒体(P)とのヘッドギャップ(DH)と同一以下で且つ第1回転体(R1)と媒体(P)とのギャップ(DR)よりも広い位置において媒体(P)に非接触で回転することによって、インクジェットヘッド(40)と媒体(P)との間を搬送方向(T)へ流れる気流(F)を発生させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記搬送部による前記媒体の搬送方向における前記インクジェットヘッドの少なくとも上流側に配置され、前記媒体に接触可能な第1回転体と、
前記搬送方向における前記第1回転体と前記インクジェットヘッドとの間に配置され、前記媒体とのギャップが前記インクジェットヘッドと前記媒体とのヘッドギャップと同一以下で且つ前記第1回転体と前記媒体とのギャップよりも広い位置において前記媒体に非接触で回転することによって、前記インクジェットヘッドと前記媒体との間を前記搬送方向へ流れる気流を発生させる第2回転体と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【請求項2】
前記第2回転体は、前記媒体に非接触で回転することによって前記気流を発生させる第1位置と、前記媒体に接触可能な第2位置とに移動可能に配置されている
ことを特徴とする請求項1記載のインクジェット印刷装置。
【請求項3】
前記第2回転体を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記ヘッドギャップと、前記媒体の種類と、前記インクジェットヘッドのインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、前記第2回転体を、回転するON状態と回転しないOFF状態とに切り替える
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷装置。
【請求項4】
前記第2回転体を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記ヘッドギャップと、前記媒体の種類と、前記インクジェットヘッドのインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、前記第2回転体の回転速度を調整する
ことを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドを備えるインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷装置では、インクジェットヘッドがインクを吐出する際、画像形成に使う主滴の他に体積の小さいミスト(サテライトを含む)が発生する。このミストは、インクジェット印刷装置の内部を浮遊して装置内部部品やヘッド面を汚してしまう。そこで、従来、媒体の上方にエアを吸引したり媒体に向かって下方にエアを噴出したりすることで気流を発生させる気流発生装置が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5644205号公報
【特許文献2】特許第5811667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特にインクジェットヘッドと媒体とのヘッドギャップが広い場合、ミストがインクジェットヘッドと媒体との間に滞留することで、ミストがインクジェットヘッドに付着しやすくなる。このようにミストがインクジェットヘッドに付着すると、インクジェットヘッドにインクの吐出不良が発生したり、インクジェットヘッドから落下して用紙に付着したりするため、高精度に印刷を行うことができない。
【0005】
また、ミストがインクジェットヘッドと媒体との間に滞留するのを抑制するために、上述の気流発生装置が上方へのエアの吸引や下方へのエアの噴出を強めると、インクの着弾精度が悪化したり媒体が浮いたりするため、高精度に印刷を行うことができない。また、気流発生装置として、エアを吸引する吸引機構とは別にエアを噴出する噴出機構が配置される場合、インクジェット印刷装置の構造が複雑化する。
【0006】
本発明の目的は、インクジェットヘッドと媒体との間を浮遊するミストを簡素な構成で搬送方向下流に流すことができるとともに、高精度に印刷を行うことができるインクジェット印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、インクジェット印刷装置は、媒体を搬送する搬送部と、前記搬送部によって搬送される前記媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、前記搬送部による前記媒体の搬送方向における前記インクジェットヘッドの少なくとも上流側に配置され、前記媒体に接触可能な第1回転体と、前記搬送方向における前記第1回転体と前記インクジェットヘッドとの間に配置され、前記媒体とのギャップが前記インクジェットヘッドと前記媒体とのヘッドギャップと同一以下で且つ前記第1回転体と前記媒体とのギャップよりも広い位置において前記媒体に非接触で回転することによって、前記インクジェットヘッドと前記媒体との間を前記搬送方向へ流れる気流を発生させる第2回転体とを備える。
【発明の効果】
【0008】
前記態様によれば、インクジェットヘッドと媒体との間を浮遊するミストを簡素な構成で搬送方向下流に流すことができるとともに、高精度に印刷を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施の形態に係るインクジェット印刷装置の内部構造を示す正面図である。
【
図2】一実施の形態に係るインクジェット印刷装置の制御構成を示す図である。
【
図3】一実施の形態における紙抑えローラ及び気流発生ローラを示す正面図である。
【
図4】一実施の形態における紙抑えローラ及び気流発生ローラを示す平面図である。
【
図5】一実施の形態における気流の速さ及び向きを矢印の長さ及び向きで示す正面図である。
【
図6】一実施の形態における気流の速さ及び向きを矢印の長さ及び向きで示す正面図である。
【
図7】一実施の形態における搬送方向の気流を濃淡で示す正面図である。
【
図8】一実施の形態における搬送方向の気流を濃淡で示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施の形態に係るインクジェット印刷装置について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1及び
図2は、一実施の形態に係るインクジェット印刷装置1の内部構造を示す正面図及び制御構成を示す図である。
【0012】
図3及び
図4は、一実施の形態における紙抑えローラR1及び気流発生ローラR2を示す正面図及び平面図である。
【0013】
なお、
図1、
図3、及び
図4、並びに後述する
図5~
図8に示す上下、前後、及び左右の各方向は、説明の便宜上の一例であるが、例えば、上下方向が鉛直方向であり、前後方向及び左右方向が水平方向である。
【0014】
図1に示すように、インクジェット印刷装置1は、装置筐体2と、外部給紙部10と、内部給紙部20と、インクジェットヘッド40と、印刷搬送部50と、排紙部60と、ミスト回収部70と、2つの紙抑えローラR1と、2つの気流発生ローラR2とを備える。また、
図2に示すように、インクジェット印刷装置1は、制御部81と、記憶部82と、インターフェース部83と、第1回転体駆動部91と、第2回転体駆動部92と、搬送駆動部93とを更に備える。
【0015】
なお、本実施の形態における用紙Pは、媒体の一例であり、この媒体としては、紙以外の素材からなるシート状のものや、封筒などの折り返し部分を有するものなどであってもよい。そのため、本明細書において、給紙は供給の一例であり、排紙は排出の一例である。したがって、給紙は供給に、排紙は排出に、用紙は媒体に、それぞれ置き換えることができる。また、
図1には、外部給紙部10又は内部給紙部20から排紙部60に続く用紙Pの搬送経路を実線で、両面印刷用のスイッチバック経路34を破線で示す。
【0016】
外部給紙部10は、給紙トレイ11と、給紙ローラ12と、捌き板13とを有する。外部給紙部10は、供給部の一例であり、例えば、装置筐体2の外部に露出するように配置され、装置筐体2の内部に用紙Pを給紙する。
【0017】
給紙トレイ11には、印刷前の用紙Pが積載される。給紙ローラ12は、例えば、用紙Pの搬送方向Tに並んで2つ配置されており、給紙トレイ11に積載された複数枚の用紙Pのうち最上位に位置する用紙Pを繰り出して搬送する。捌き板13は、給紙ローラ12との間で用紙Pを挟み込んで1枚ずつに分離させる。
【0018】
内部給紙部20は、第1給紙部21と、第2給紙部22と、第3給紙部23とを有する。
【0019】
第1給紙部21、第2給紙部22、及び第3給紙部23は、この順に上から並んで、装置筐体2の内部に配置されている。第1給紙部21、第2給紙部22、及び第3給紙部23のそれぞれは、印刷前の用紙Pが積載される給紙トレイ21a,22a,23aと、この給紙トレイ21a,22a,23aに積載された複数枚の用紙Pのうち最上位に位置する用紙Pを繰り出して搬送する給紙ローラ21b,22b,23bとを有する。
【0020】
インクジェット印刷装置1は、複数の搬送ローラ31と、経路切り替え部32と、スイッチバックローラ33と、スイッチバック経路34とを更に備える。これらの搬送ローラ31、経路切り替え部32、スイッチバックローラ33、及びスイッチバック経路34は、両面印刷用に用紙Pを循環させてインクジェットヘッド40に再給紙可能に搬送する。
【0021】
搬送ローラ31は、例えば、装置筐体2の内部における用紙Pの搬送経路において、用紙Pを挟持するように1対ずつ配置され、用紙Pを搬送する。
【0022】
経路切り替え部32は、インクジェットヘッド40によって印刷が行われた用紙Pの搬送経路を、排紙部60へ向かう経路とスイッチバック経路34とに切り替える。経路切り替え部32は、例えばフリッパである。スイッチバックローラ33は、スイッチバック経路34において用紙Pをスイッチバック搬送することによって、用紙Pの表裏を反転させる。
【0023】
インクジェットヘッド40は、例えば、インクを吐出する複数のノズルを有する1つ以上のヘッドモジュールを有するライン型インクジェットヘッドであり、搬送ローラ31や後述する印刷搬送部50などによって搬送される用紙Pにインクを吐出する。これにより、インクジェットヘッド40は、用紙Pに印刷を行う。
【0024】
印刷搬送部50は、インクジェットヘッド40に対向するように配置され、用紙Pを搬送する。印刷搬送部50は、複数のプーリ51と、これらのプーリ51に掛け渡されたベルト52と、このベルト52に設けられた複数の孔を通してエアを吸引することによって用紙Pをベルト52に吸着させる吸引ファン53とを有する。印刷搬送部50としては、ローラなどのベルト52以外の搬送部材を有するものであってもよいし、用紙Pを吸着させないものであってもよい。なお、印刷搬送部50は、搬送ローラ31等とともに用紙Pを搬送する搬送部の一例として機能する。この搬送部としては、ローラ、ベルトなどの搬送部材を有するものであればよい。
【0025】
排紙部60は、排紙トレイ61と、排紙ローラ62とを有する。排紙部60は、排出部の一例であり、例えば、装置筐体2の外部に露出するように配置され、装置筐体2の外部に用紙Pを排紙する。
【0026】
排紙トレイ61には、印刷後の用紙Pが積載される。排紙ローラ62は、例えば上下一対で配置され、排紙トレイ61に向けて用紙Pを搬送する。
【0027】
ミスト回収部70は、後述する気流発生ローラR2の回転によって生じる気流Fの流路に配置され、インクジェットヘッド40から放出されるインクのミストを回収する。ミスト回収部70としては、ファンなどの吸引機構によってエアを吸引することによってミストを回収するものであってもよいし、或いは、用紙P上の気流を利用してミストを回収するものであってもよい。なお、ミストは、特にインクジェットヘッド40と用紙Pとの間を浮遊するのが望ましくないため、気流発生ローラR2が発生させる気流Fによってインクジェットヘッド40と用紙Pとの間からミストを排出することができれば、ミスト回収部70が省略されてもよい。
【0028】
紙抑えローラR1は、用紙Pの搬送方向Tにおけるインクジェットヘッド40の上流側及び下流側のそれぞれにおいて例えば上下一対で配置されている。
図3に上側のみ示す紙抑えローラR1は、第1回転体の一例としての媒体抑えローラであり、後述する第1回転体駆動部91の駆動によって回転するか、又は、
図1に示す下側の紙抑えローラR1がベルト52に接触することよって回転し、この回転と連動して上側の紙抑えローラR1も回転する。紙抑えローラR1は、例えば、印刷搬送部50とともに用紙Pをニップする高さ(用紙Pに常時接触する高さ)よりも上方(例えば、浮いた用紙Pにのみ接触する高さ)で用紙Pに接触可能に配置され、用紙Pのインクジェットヘッド40への衝突を防止する。また、紙抑えローラR1は、印刷搬送部50に対向して(印刷搬送部50の上方に)配置されている。なお、上下一対の紙抑えローラR1は、昇降可能に配置され、下側の紙抑えローラR1の昇降に伴って印刷搬送部50のベルト52を部分的に上下動させることで、ひいては、
図3に示すインクジェットヘッド40と用紙PとのヘッドギャップDHを調整可能であるとよい。
【0029】
紙抑えローラR1は、搬送方向Tにおけるインクジェットヘッド40の上流側のみに配置されていてもよい。また、紙抑えローラR1は、上下一対ではなく、上側(インクジェットヘッド40側)のみに配置される単一のローラであってもよい。また、上側の紙抑えローラR1は、用紙Pに常時接触する高さに配置されていてもよい。
【0030】
気流発生ローラR2は、搬送方向Tにおける紙抑えローラR1とインクジェットヘッド40との間に配置されている。
図3及び
図4の例では、気流発生ローラR2は、搬送方向Tにおける上流側の紙抑えローラR1とインクジェットヘッド40との間、及び、インクジェットヘッド40と搬送方向Tにおける下流側の紙抑えローラR1との間のそれぞれに配置されている。また、気流発生ローラR2は、印刷搬送部50に対向して(印刷搬送部50の上方に)配置されている。
【0031】
図3に実線で示す第1位置(1)にある気流発生ローラR2と用紙PとのギャップDF(第2ギャップ)は、インクジェットヘッド40と用紙PとのヘッドギャップDHと同一以下で(DF≦DH)且つ紙抑えローラR1と用紙PとのギャップDR(第1ギャップ)よりも広い(DF>DR)。望ましくは、気流発生ローラR2と用紙PとのギャップDFは、ヘッドギャップDHの半分より広いとよい(DF>(DH/2))。気流発生ローラR2は、第1位置(1)において、用紙Pに非接触で回転することによって、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間を搬送方向Tへ流れる気流Fを発生させる。気流発生ローラR2の回転速度は、用紙Pの搬送速度(例えば印刷搬送部50の搬送速度)と同等以上であるとよい。気流発生ローラR2は、第2回転体の一例であり、後述する第2回転体駆動部92の駆動によって又は紙抑えローラR1と連動することによって回転するとよい。なお、気流発生ローラR2の回転方向は、気流発生ローラR2の下端(用紙P側)で搬送方向Tとなるように、紙抑えローラR1と同じ
図3の反時計回りである。
【0032】
気流発生ローラR2は、上述の第1位置(1)と、用紙Pに接触可能な
図3に2点鎖線で示す第2位置(2)とに移動(昇降)可能に配置されている。第2位置(2)は、例えば、媒体抑え位置として、紙抑えローラR1と同じ高さの位置である。気流発生ローラR2は、例えば、後述する第2回転体駆動部92の昇降駆動部の駆動で上下方向に移動する。この場合、気流発生ローラR2は、昇降不能なインクジェットヘッド40に昇降可能に固定されているとよい。
【0033】
搬送方向Tにおける気流発生ローラR2とインクジェットヘッド40との距離Drは、気流発生ローラR2の半径rよりも短い距離であるとよい。この距離Drが半径rよりも長いと、特に、インクジェットヘッド40と下流側の気流発生ローラR2との間で発生する上昇気流によってインクジェットヘッド40の下から気流Fが舞い上がり、ミストが散布するおそれがある。また、距離Drが半径rよりも長いと、上流側の気流発生ローラR2によって発生した気流Fが、インクジェットヘッド40と上流側の気流発生ローラR2との間から上方に逃げてしまうおそれがある。なお、気流発生ローラR2は、例えば、搬送方向Tにおいて、紙抑えローラR1よりもインクジェットヘッド40に近い位置に配置されているとよい。
【0034】
図4に示すように、紙抑えローラR1及び気流発生ローラR2は、搬送方向Tに直交する用紙Pの幅方向(前後方向)において、インクジェットヘッド40と同じ長さ以上の長さで延び、インクジェットヘッド40の全体に亘って搬送方向Tの上流側又は下流側に位置するとよい。仮に、用紙Pの幅方向において、気流発生ローラR2がインクジェットヘッド40よりも短いと、気流巻き込みなどの外乱が発生しやすい。
【0035】
なお、紙抑えローラR1がインクジェットヘッド40の搬送方向Tにおける上流側のみに配置される場合には、気流発生ローラR2も、インクジェットヘッド40の搬送方向Tにおける上流側のみに配置されていてもよい。また、気流発生ローラR2は、インクジェットヘッド40の搬送方向Tにおける上流側及び下流側のそれぞれに配置されることが望ましいが、片側のみに配置されていてもよい。また、気流発生ローラR2は、移動(昇降)不能に配置されていてもよい。また、紙抑えローラR1を一例とする第1回転体、及び、気流発生ローラR2を一例とする第2回転体は、円柱形状のローラであることが望ましいが、例えば、気流Fを生じさせやすいように羽根を有する気流発生ローラR2が用いられてもよい。
【0036】
図2に示す制御部81は、インクジェット印刷装置1全体の動作を制御する演算処理装置として機能するプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit)を有する。このプロセッサは、例えば、記憶部82から、或いは、インクジェット印刷装置1に対して着脱可能な記憶媒体(非一過性のコンピュータ読取り可能記録媒体)から、所定のプログラムを読み出して実行することにより、インクジェット印刷装置1の各部を制御する。このように、制御部81、又はインクジェット印刷装置1(制御部81及び記憶部82)は、プログラムを実行するコンピュータとして機能する。
【0037】
制御部81は、上述のヘッドギャップDHと、用紙Pの種類と、インクジェットヘッド40のインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、気流発生ローラR2を第1位置(1)又は第2位置(2)に移動させるとよい。
【0038】
ヘッドギャップDHに基づく制御の例としては、制御部81は、ヘッドギャップDHが、紙抑えローラR1と用紙PとのギャップDRよりも4倍以上大きい場合(DH≧4DR)、気流発生ローラR2を第1位置(1)に移動させ、ヘッドギャップDHがギャップDRよりも4倍以上大きくない場合(DH<4DR)、気流発生ローラR2を第2位置(2)に移動させるとよい。
【0039】
用紙Pの種類に基づく制御の例としては、制御部81は、用紙Pが相対的に厚かったり、剛性が高かったり(変形しにくかったり)する場合に、気流発生ローラR2を第2位置(2)に移動させ、紙抑えローラR1と同様に用紙Pを抑える用途として使ってもよい。この場合、例えば、ギャップDF,DRは互いに同一であるが、ギャップDFをギャップDRよりも狭くすることで、より浮きの強い用紙Pもインクジェットヘッド40に接触させずに搬送可能となる。その他、制御部81は、用紙Pの種類として、用紙Pがマット紙であるか否か、表面が平滑であるか否かなどの他の要素に基づいて気流発生ローラR2の位置制御を行ってもよい。なお、気流発生ローラR2は、第1位置(1)においても、用紙Pを抑える(インクジェットヘッド40への接触を抑制する)機能を有し得る。
【0040】
印刷情報に基づく制御の例としては、制御部81は、インクジェットヘッド40がインクを吐出し始めてからの時間が規定時間以上経過した場合、用紙Pに印刷される画像の印字率が規定率以上である場合、用紙Pの搬送速度(印刷速度)が規定速度以下である場合などに、気流発生ローラR2を第1位置(1)に移動させ、インクジェットヘッド40がインクを吐出し始めてからの時間が規定時間未満の場合、用紙Pに印刷される画像の印字率が規定率未満である場合、用紙Pの搬送速度(印刷速度)が規定速度以上である場合などに、気流発生ローラR2を第2位置(2)に移動させるとよい。なお、インクの吐出し始めや、印字率が低いときなどは、インクジェットヘッド40のインクの吐出によるインクジェットヘッド40から用紙Pに向かう気流が発達しておらず、搬送方向Tの気流Fが大きくなると、インクの着弾精度が悪化しやすい。
【0041】
気流発生ローラR2は、上述の第1位置(P1)及び第2位置(P2)に限らず、他の位置を含む3つ以上の位置に移動可能に配置されていてもよい。また、気流発生ローラR2は、鉛直方向に限らず、他の方向(例えば搬送方向T)にも移動可能に配置されていてもよい。また、気流発生ローラR2は、例えば、ユーザの設定に基づいて、制御部81により移動制御されてもよい。この場合、例えば、印刷後の用紙Pの印刷画像(印刷結果)を見たユーザが気流発生ローラR2の位置を任意に調整することができる。
【0042】
また、制御部81は、ヘッドギャップDHと、用紙Pの種類と、印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、気流発生ローラR2を、回転するON状態と回転しないOFF状態とに切り替えてもよい。なお、制御部81は、ユーザの設定に基づいて、気流発生ローラR2を、回転するON状態と回転しないOFF状態とに切り替えてもよい。
【0043】
例えば、制御部81は、インクジェットヘッド40がインクを吐出し始めてからの時間が規定時間以上経過した場合、用紙Pに印刷される画像の印字率が規定率以上である場合、用紙Pの搬送速度(印刷速度)が規定速度未満である場合などの条件、すなわち、上述のように気流発生ローラR2を第1位置(1)に移動させるのと同様の条件で、気流発生ローラR2をON状態に切り替え、上述のように気流発生ローラR2を第2位置(2)に移動させるのと同様の条件で、気流発生ローラR2をOFF状態に切り替えるとよい。
【0044】
また、制御部81は、ヘッドギャップDHと、用紙Pの種類と、印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、気流発生ローラR2の回転速度を調整してもよい。なお、制御部81は、ユーザの設定に基づいて、気流発生ローラR2の回転速度を調整してもよい。
【0045】
例えば、制御部81は、後述する第2回転体駆動部92の駆動制御によって、気流発生ローラR2の回転速度を調整することができるが、第2回転体駆動部92が省略され、気流発生ローラR2が紙抑えローラR1と一体に回転する場合、制御部81は、紙抑えローラR1と気流発生ローラR2との回転比を調整する回転比調整機構を制御することによって、気流発生ローラR2の回転速度を調整することができる。この回転比調整機構の一例としては、クラッチ、伝動ベルト、径が異なる複数のギアなどを有する公知の機構が挙げられる。
【0046】
例えば、制御部81は、ヘッドギャップDHが、紙抑えローラR1と用紙PとのギャップDRよりも4倍以上大きい場合(DH≧4DR)などの条件、すなわち、上述のように気流発生ローラR2を第1位置(1)に移動させるのと同様の条件で、気流発生ローラR2の回転速度を相対的に速め、上述のように気流発生ローラR2を第2位置(2)に移動させるのと同様の条件で、気流発生ローラR2の回転速度を相対的に遅くするとよい。
【0047】
記憶部82は、例えば、所定の制御プログラムが予め記録されている読み出し専用半導体メモリであるROM(Read Only Memory)、プロセッサが各種の制御プログラムを実行する際に必要に応じて作業用記憶領域として使用される随時書き込み読み出し可能な半導体メモリであるRAM(Random Access Memory)などのメモリを有する。
【0048】
インターフェース部83は、外部機器との各種情報の授受を行う。例えば、インターフェース部83は、印刷制御装置やユーザ端末から印刷データを含む印刷ジョブを受信する。
【0049】
第1回転体駆動部91は、紙抑えローラR1を回転させる回転駆動部を有する。第1回転体駆動部91は、紙抑えローラR1を昇降させる昇降駆動部を有していてもよい。これらの回転駆動部や昇降駆動部は、例えば、モータ等のアクチュエータである。
【0050】
第2回転体駆動部92は、気流発生ローラR2を回転させる回転駆動部と、気流発生ローラR2を第1位置(1)及び第2位置(2)に移動させる昇降駆動部(移動駆動部)とを有する。これらの回転駆動部及び昇降駆動部は、例えば、モータ等のアクチュエータである。
【0051】
搬送駆動部93は、
図1に示す搬送ローラ31、経路切り替え部32、スイッチバックローラ33、スイッチバック経路34等を駆動するモータ等のアクチュエータである。
【0052】
ここで、
図5及び
図7に示すように、気流発生ローラR2が上述の第1位置(1)において回転することによって、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間を搬送方向Tへ流れる気流Fが発生する。
【0053】
特に、
図3に示すヘッドギャップDHが広い場合、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間の気流速度が低下するためミストが滞留しやすいが、
図5及び
図7に示すように、気流発生ローラR2が第1位置(1)において回転することによって、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間の中間位置において搬送方向Tへ流れる気流Fが速くなる。もともと、用紙Pの付近では、用紙Pの搬送によって気流Fが速くなるが、インクジェットヘッド40の付近でも気流Fを速くしすぎるとインクの着弾精度(液滴形成)が悪化し得る。そのため、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間の中間位置において気流Fを速く発生させてミストを流すのが有効である。なお、ヘッドギャップDHは、例えば、用紙Pが、紙折れして変形しやすい場合、厚紙である場合、表面に凹凸がある場合(例えば、エンボス紙やレター紙)などに広くなるように調整されるとよい。
【0054】
図6及び
図8に示すように、気流発生ローラR2が上述の第2位置(2)において回転する場合、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間の中間位置を搬送方向Tへ流れる気流Fは小さく、
図6に太線矢印で示すように、搬送方向Tとは逆方向にも気流Fが発生する。このように搬送方向Tとは逆方向の気流Fが発生すると、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間にミストが滞留しやすくなることで、ミストがインクジェットヘッド40に付着しやすくなる。
【0055】
以上説明した本実施の形態では、インクジェット印刷装置1は、搬送部(例えば、印刷搬送部50、搬送ローラ31など)と、インクジェットヘッド40と、第1回転体の一例である紙抑えローラR1と、第2回転体の一例である気流発生ローラR2とを備える。搬送部は、媒体の一例である用紙Pを搬送する。インクジェットヘッド40は、搬送部によって搬送される用紙Pにインクを吐出する。紙抑えローラR1は、搬送部による用紙Pの搬送方向Tにおけるインクジェットヘッド40の上流側及び下流側(少なくとも上流側)に配置され、用紙Pに接触可能である。気流発生ローラR2は、搬送方向Tにおける紙抑えローラR1とインクジェットヘッド40との間に配置され、用紙PとのギャップDFがインクジェットヘッド40と用紙PとのヘッドギャップDHと同一以下で(DF≦DH)且つ紙抑えローラR1と用紙PとのギャップDRよりも広い(DF>DR)位置(第1位置(1))において用紙Pに非接触で回転することによって、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間を搬送方向Tへ流れる気流Fを発生させる。
【0056】
これにより、回転する気流発生ローラR2を用いた簡素な構成で、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間を浮遊するミストを搬送方向Tの下流に流すことができる。また、インクジェットヘッド40と用紙Pとの間に滞留したミストがインクジェットヘッド40に付着し、インクジェットヘッド40にインクの吐出不良が発生したり、インクジェットヘッド40から落下して用紙Pに付着したりするのを防止することができる。また、ミストを吸引するために、ミスト回収部70等により強い吸引力でエアを吸引するのを回避することができるため、インクジェットヘッド40のインクの着弾精度が悪化したり用紙Pが浮いたりするのも回避することができる。したがって、高精度に印刷を行うことができる。なお、気流発生ローラR2は、搬送方向Tにおけるインクジェットヘッド40の少なくとも上流側に配置されることが望ましいが、インクジェットヘッド40の下流側に配置されていることによっても、同様に気流Fを発生させることができるとともに、気流Fの逆流を抑制することもできる。
【0057】
また、本実施の形態では、気流発生ローラR2は、用紙Pに非接触で回転することによって気流Fを発生させる第1位置(1)と、用紙Pに接触可能な第2位置(2)とに移動可能に配置されている。
【0058】
これにより、第1位置(1)で気流Fを発生させる必要性が高くない場合などに、紙抑えローラR1と同様に用紙Pの浮きを抑制する第2位置(2)などに気流発生ローラR2を移動させることで、用紙Pの浮きの抑制などの他の用途に気流発生ローラR2を用いることができる。
【0059】
また、本実施の形態では、制御部81は、インクジェットヘッド40と用紙PとのヘッドギャップDHと、用紙Pの種類と、インクジェットヘッド40のインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、気流発生ローラR2を、回転するON状態と回転しないOFF状態とに切り替える。
【0060】
これにより、インクジェットヘッド40からミストが多く発生しない場合などの、気流Fを発生させる必要性が相対的に高くない場合などに、回転をOFF状態とすることで、気流Fに起因してインクジェットヘッド40のインクの着弾精度に影響を与えるのを回避したり、不要な動力を省略したりすることができる。
【0061】
また、本実施の形態では、制御部81は、インクジェットヘッド40と用紙PとのヘッドギャップDHと、用紙Pの種類と、インクジェットヘッド40のインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、気流発生ローラR2の回転速度を調整する。
【0062】
これにより、インクジェットヘッド40からミストが多く発生する場合などの、気流Fを発生させる必要性が相対的に高い場合などに、気流発生ローラR2の回転速度を速くすることで、ミストを確実に搬送方向Tの下流に流すことができる。また、気流Fを発生させる必要性が相対的に高くない場合などに、気流発生ローラR2の回転速度を遅くすることで、気流Fに起因してインクジェットヘッド40のインクの着弾精度に影響を与えるのを回避したり、不要な動力を省略したりすることができる。
【0063】
なお、本発明は、上述の実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階でその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。また、上述の実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素を適宜組み合わせても良い。このような、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能であることはもちろんである。以下に、本願の明細書に記載の一部の発明を付記する。
【0064】
[付記1]
媒体を搬送する搬送部と、
前記搬送部によって搬送される前記媒体にインクを吐出するインクジェットヘッドと、
前記搬送部による前記媒体の搬送方向における前記インクジェットヘッドの少なくとも上流側に配置され、前記媒体に接触可能な第1回転体と、
前記搬送方向における前記第1回転体と前記インクジェットヘッドとの間に配置され、前記媒体とのギャップが前記インクジェットヘッドと前記媒体とのヘッドギャップと同一以下で且つ前記第1回転体と前記媒体とのギャップよりも広い位置において前記媒体に非接触で回転することによって、前記インクジェットヘッドと前記媒体との間を前記搬送方向へ流れる気流を発生させる第2回転体と
を備えることを特徴とするインクジェット印刷装置。
【0065】
[付記2]
前記第2回転体は、前記媒体に非接触で回転することによって前記気流を発生させる第1位置と、前記媒体に接触可能な第2位置とに移動可能に配置されている
ことを特徴とする付記1記載のインクジェット印刷装置。
【0066】
[付記3]
前記第2回転体を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記ヘッドギャップと、前記媒体の種類と、前記インクジェットヘッドのインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、前記第2回転体を、回転するON状態と回転しないOFF状態とに切り替える
ことを特徴とする付記1又は2記載のインクジェット印刷装置。
【0067】
[付記4]
前記第2回転体を制御する制御部を更に備え、
前記制御部は、前記ヘッドギャップと、前記媒体の種類と、前記インクジェットヘッドのインク吐出によって行われる印刷の印刷情報とのうち少なくとも1つに基づいて、前記第2回転体の回転速度を調整する
ことを特徴とする付記1から3のいずれか記載のインクジェット印刷装置。
【符号の説明】
【0068】
1 インクジェット印刷装置
2 装置筐体
10 外部給紙部
11 給紙トレイ
12 給紙ローラ
13 捌き板
20 内部給紙部
21 第1給紙部
22 第2給紙部
23 第3給紙部
21a,22a,23a 給紙トレイ
21b,22b,23b 給紙ローラ
31 搬送ローラ
32 経路切り替え部
33 スイッチバックローラ
34 スイッチバック経路
40 インクジェットヘッド
50 印刷搬送部
51 プーリ
52 ベルト
53 吸引ファン
60 排紙部
61 排紙トレイ
62 排紙ローラ
70 ミスト回収部
81 制御部
82 記憶部
83 インターフェース部
91 第1回転体駆動部
92 第2回転体駆動部
93 搬送駆動部
DF 気流発生ローラと用紙とのギャップ(第2ギャップ)
DH ヘッドギャップ
DR 紙抑えローラと用紙とのギャップ(第1ギャップ)
Dr 気流発生ローラとインクジェットヘッドとの距離
F 気流
P 用紙
R1 紙抑えローラ
R2 気流発生ローラ
r 気流発生ローラの半径
T 搬送方向