(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003058
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】粒子分離チップおよび粒子分離装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20241226BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20241226BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241226BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20241226BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20241226BHJP
B03B 5/00 20060101ALI20241226BHJP
G01N 15/01 20240101ALI20241226BHJP
【FI】
B01J19/00 321
G01N37/00 101
G01N1/28 J
G01N1/10 A
G01N33/49 Z
B03B5/00 Z
G01N15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103519
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 大雅
(72)【発明者】
【氏名】白井 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤山 真吾
(72)【発明者】
【氏名】小日向 寛之
(72)【発明者】
【氏名】前田 夏希
【テーマコード(参考)】
2G045
2G052
4D071
4G075
【Fターム(参考)】
2G045AA02
2G045CA02
2G045CA11
2G045CA24
2G045CA25
2G045CB02
2G052AA30
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2G052AB27
2G052AD06
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2G052GA09
2G052GA11
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2G052GA29
2G052JA11
2G052JA16
4D071AA02
4D071AB61
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4G075DA02
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4G075EB50
4G075FA01
4G075FA02
4G075FA12
4G075FB06
4G075FB12
(57)【要約】
【課題】粒子を分離する際のスループットを高めることが可能な粒子分離チップおよび粒子分離装置を提供する。
【解決手段】試料に含まれる複数の粒子を粒子の大きさに基づいて分離するための粒子分離チップ1は、内部にマイクロ流路1aを有する上基板10および下基板20と複数の孔の形成された多孔シート30とを含む。マイクロ流路1aは、上流側に設けられた第1の粒子および第1の粒子より小さい第2の粒子を含む第1の試料が送り込まれる入口101と、下流側に設けられた主に第1の粒子を含む第2の試料が取り出される出口104と、を有する主流路100と、主流路100の流れ方向に沿った複数の分岐箇所において主流路100と連通し、下流側に第2の粒子を含む第3の試料が取り出される出口213を有する分岐流路200と、を備える。複数の分岐箇所において、主流路100と分岐流路200は多孔シート30の孔を介して連通する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる複数の粒子を粒子の大きさに基づいて分離するための粒子分離チップであって、
内部にマイクロ流路を有する基板と複数の孔の形成された多孔シートとを含み、
前記マイクロ流路は、
上流側に設けられた第1の粒子および前記第1の粒子より小さい第2の粒子を含む試料が送り込まれる入口と、下流側に設けられた主に前記第1の粒子を含む試料が取り出される第1の出口と、を有する主流路と、
前記主流路の流れ方向に沿った複数の分岐箇所において前記主流路と連通し、下流側に前記第2の粒子を含む試料が取り出される第2の出口を有する分岐流路と、を備え、
前記複数の分岐箇所において、前記主流路と前記分岐流路は前記多孔シートの前記孔を介して連通する、粒子分離チップ。
【請求項2】
前記主流路および前記分岐流路が、前記入口から導入された前記試料のうち一部の試料が前記分岐流路に流れ、残りの試料が前記主流路に流れることにより、前記第1の粒子が前記第1の出口から導出され、前記第2の粒子が前記第2の出口から導出されるように構成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項3】
前記主流路の流路幅は、100μm以上50mm以下である、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項4】
前記主流路の流路幅は、500μm以上50mm以下である、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項5】
前記分岐流路は、前記分岐箇所において前記主流路と連通する、平面視で前記主流路と非平行に配置された流路を含む、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項6】
前記分岐箇所において前記主流路と連通する前記流路は、平面視で前記主流路と交差して配置され、前記第2の粒子を含む前記試料を前記主流路の両側に流す、請求項5に記載の粒子分離チップ。
【請求項7】
前記分岐流路は、前記分岐箇所において前記主流路と連通する流路を、2本以上15000本以下含む、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項8】
前記分岐流路は、前記粒子分離チップの使用状態において前記主流路の下方に配置されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項9】
前記主流路は、前記分岐箇所より上流側に設けられたシース液の入口をさらに有する、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項10】
前記シース液の入口は、前記主流路を流れる前記試料の上側から前記シース液を導入するための入口である、請求項9に記載の粒子分離チップ。
【請求項11】
前記シース液の入口は、前記主流路を流れる前記試料の両側から前記シース液を導入するための入口である、請求項9に記載の粒子分離チップ。
【請求項12】
前記主流路の上流側における前記分岐箇所から前記第2の出口までの前記分岐流路の流体抵抗は、前記主流路の下流側における前記分岐箇所から前記第2の出口までの前記分岐流路の流体抵抗より大きい、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項13】
前記分岐流路は、
前記複数の分岐箇所において前記主流路とそれぞれ連通する、平面視で前記主流路と非平行に配置された複数の流路と、
前記複数の流路と前記第2の出口とを接続する中継流路と、を含み、
前記主流路の上流側の前記分岐箇所において前記主流路と連通する前記流路の長さは、前記主流路の下流側の前記分岐箇所において前記主流路と連通する前記流路の長さより長い、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項14】
前記分岐流路は、
前記複数の分岐箇所において前記主流路とそれぞれ連通する、平面視で前記主流路と非平行に配置された複数の流路と、
前記複数の流路と前記第2の出口とを接続する中継流路と、を含み、
前記主流路の上流側の前記分岐箇所において前記主流路と連通する前記流路の断面積は、前記主流路の下流側の前記分岐流路において前記主流路と連通する前記流路の断面積より小さい、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項15】
前記マイクロ流路は、前記分岐箇所における前記主流路の流量に対する前記分岐流路への流量の割合である液除去率が、前記第2の粒子が前記分岐流路に流れ、前記第1の粒子が前記主流路に流れる値になるように形成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項16】
前記マイクロ流路は、前記分岐箇所における前記主流路の流量に対する前記分岐流路への流量の割合である液除去率が、前記複数の分岐箇所において、互いに実質的に同じ値になるように形成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項17】
前記マイクロ流路は、前記分岐箇所における前記主流路の流量に対する前記分岐流路への流量の割合である液除去率が、前記複数の分岐箇所において、0%より大きく50%以下になるように形成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項18】
前記多孔シートは、前記主流路と前記分岐流路との交差面の開口の面積に対する前記多孔シートの孔の面積の割合である開孔率が、所定サイズの前記第1の粒子が所定の回収率で前記第1の出口から回収される値になるように形成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項19】
前記多孔シートの孔の孔径は、30nm以上100μm以下である、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項20】
前記多孔シートは、前記主流路と前記分岐流路との交差面の開口の面積に対する前記多孔シートの孔の面積の割合である開孔率が、前記複数の分岐箇所において、0%より大きく50%以下になるように形成されている、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項21】
前記第1の粒子の粒径は、30nm以上100μm以下である、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項22】
前記入口から導入される前記試料は、血液試料であり、
前記第1の粒子は、循環腫瘍細胞であり、
前記第2の粒子は、白血球、赤血球および血小板である、請求項1に記載の粒子分離チップ。
【請求項23】
請求項1ないし22の何れか一項に記載の粒子分離チップと、
前記粒子分離チップが載置される設置部と、
前記粒子分離チップにおける前記試料の入口およびシース液の入口のそれぞれに前記試料および前記シース液を導入し、前記マイクロ流路内の液体を送液する送液部と、
前記第1の出口に連通する前記第1の粒子の第1回収部と、
前記第2の出口に連通する前記第2の粒子の第2回収部と、を備える、粒子分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子分離チップおよび粒子分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロ流路を用いた粒子分離方法が種々開発されている。例えば、以下の非特許文献1には、水力学的濾過法を用いた粒子の分離方法が開示されている。この分離方法では、主流路と、主流路から分岐した複数の分岐流路とからなるマイクロ流路が用いられる。試料が主流路に導入されることにより、粒子の大きさに基づいて、粒子が主流路と分岐流路との間で分離される。この分離方法によれば、分離による粒子に対するダメージが少なく、また、流路の構造もシンプルにできる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】松田美由紀、外2名、「水力学的濾過法を用いた血液細胞の分級」、電気学会論文誌E、一般社団法人電気学会、2008年、128巻、10号、p. 396―401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような水力学的濾過法を利用したマイクロ流路は、実験室レベルでの使用は可能かもしれないが、実用レベル、例えば、製品開発現場や臨床現場において求められる高い試料処理能力(スループット)を満足するものではなかった。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、製品開発現場や臨床現場において十分な試料処理能力(スループット)を発揮できる粒子分離チップおよび粒子分離装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の粒子分離チップ(1、CP1~CP5、CP11~CP16)は、内部にマイクロ流路(1a)を有する基板(10、20)と複数の孔(31)の形成された多孔シート(30)とを含む。マイクロ流路(1a)は、上流側に設けられた第1の粒子および第1の粒子より小さい第2の粒子を含む試料が送り込まれる入口(101)と、下流側に設けられた主に第1の粒子を含む試料が取り出される第1の出口(104)と、を有する主流路(100)と、主流路(100)の流れ方向に沿った複数の分岐箇所(B)において主流路(100)と連通し、下流側に第2の粒子を含む試料が取り出される第2の出口(213)を有する分岐流路(200)と、を備える。複数の分岐箇所(B)において、主流路(100)と分岐流路(200)は多孔シート(30、PS1~PS7)の孔(31)を介して連通する。
【0007】
本発明の粒子分離チップによれば、主流路と分岐流路は、複数の分岐箇所(B)において、多孔シートの孔を介して連通する。これにより、製品開発現場や臨床現場において十分な試料処理能力(スループット)を発揮できる。
【0008】
本発明の粒子分離装置(2)は、上記発明の粒子分離チップ(1、CP1~CP5、CP11~CP16)と、粒子分離チップ(1、CP1~CP5、CP11~CP16)が載置される設置部(41)と、粒子分離チップ(1、CP1~CP5、CP11~CP16)における試料の入口(101)およびシース液の入口(102、103)のそれぞれに試料およびシース液を導入し、前記マイクロ流路(1a)内の液体を送液する送液部(61~63)と、第1の出口(104)に連通する第1の粒子の第1回収部(64)と、第2の出口(213)に連通する第2の粒子の第2回収部(65)と、を備える。
【0009】
本発明の粒子分離装置によれば、粒子分離チップを設置部に載置し、送液部を駆動して第1の試料およびシース液を導入することにより、第1回収部および第2回収部から、それぞれ第1の粒子および第2の粒子を円滑に回収できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製品開発現場や臨床現場において十分な試料処理能力(スループット)を発揮できる粒子分離チップおよび粒子分離装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施形態に係る、上基板の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る、下基板の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る、多孔シートの構成を模式的に示す斜視図および拡大図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る、上基板、下基板および多孔シートの組み立てを模式的に示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る、粒子分離チップの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る、粒子分離チップの入口に対する試料およびシース液の注入と、出口からの試料の注出とを模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る、シース液によって第1の試料の流れる範囲が制限されることを模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る、シース液によって第1の試料の流れる範囲が制限されることを模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る、主流路の流路と、分岐流路の流路とが交差する部分の近傍を模式的に示す斜視図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る、分岐箇所において第1の粒子と第2の粒子とが分離されることを模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る、分岐流路の1つの流路の近傍を模式的に示す拡大図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る、粒子分離装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る、細胞検出システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、実施例に係る、主流路および分岐流路のサイズを模式的に示す図である。
【
図15】
図15は、実施例に係る、多孔シートの孔の配置およびサイズを模式的に示す図である。
【
図16】
図16は、実施例に係る、4種類のチップの構成を示す表である。
【
図17】
図17は、実施例に係る、7種類の多孔シートの構成を示す表である。
【
図18】
図18は、実施例に係る、4種類のチップの構成を模式的に示す平面図である。
【
図19】
図19は、実施例1に係る、4種類の粒子分離チップの構成を示す表および3種類の第1の試料の構成を示す表である。
【
図20】
図20は、実施例1に係る、4種類の粒子分離チップの赤血球除去率および白血球除去率を示すグラフである。
【
図21】
図21は、実施例2に係る、粒子分離チップの構成を示す表および第1の試料の構成を示す表である。
【
図22】
図22は、実施例2に係る、粒子分離チップの赤血球除去率、白血球除去率およびA549細胞回収率を示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例3に係る、6種類の粒子分離チップの構成を示す表および第1の試料の構成を示す表である。
【
図24】
図24は、実施例3に係る、第1の試料に含まれるJurkat細胞およびA549細胞の粒径分布を示すグラフである。
【
図25】
図25は、実施例3に係る、6種類の粒子分離チップのJurkat細胞の除去率およびA549細胞の回収率を示すグラフである。
【
図26】
図26は、実施例3に係る、6種類の粒子分離チップの各出口への流量を示すグラフである。
【
図27】
図27は、実施例3に係る、6種類の粒子分離チップの粒径ごとの回収率を示すグラフである。
【
図28】
図28は、分岐流路への排出量のシミュレーションに係る、主流路および分岐流路の構成を模式的に示す図と、分岐流路への試料の排出割合の結果を示すグラフである。
【
図29】
図29は、分岐流路の変更例に係る、分岐流路の構成を模式的に示す図である。
【
図30】
図30は、分岐流路の変更例に係る、分岐流路の近傍の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下の実施形態は、液体試料に含まれる複数の粒子を、粒子の大きさに基づいて分離するための粒子分離チップおよび粒子分離装置に本発明を適用したものである。以下の実施形態において、粒子分離チップは、第1の粒子および第1の粒子より小さい第2の粒子を含む液体の試料(第1の試料)を、主として第1の粒子を含む液体の試料(第2の試料)と、主として第2の粒子を含む液体の試料(第3の試料)とに分離する。第1の試料は、血液試料である。血液試料は、例えば、全血や、全血から調製された試料などである。第1の粒子は、例えば、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)であり、第2の粒子は、例えば、白血球、赤血球、血小板およびナノ粒子である。ナノ粒子は、例えば、エクソソーム等の細胞外小胞、微小なタンパク質、微小なデブリスなどである。粒子の大きさとは、例えば、粒子の直径や半径、平面視した場合の面積や周囲の長さなどである。以下の説明において、粒径は、粒子の直径を示す。
【0013】
以下、便宜上、各図には互いに直交するX、Y、Z軸が付記されている。Z軸方向は、後述する粒子分離チップ1および粒子分離装置2の高さ方向である。X-Y平面は、水平面に平行である。なお、実施形態において、試料はX軸方向に流れ、図中、流路の左側を上流側、流路の右側を下流側と呼ぶ。
【0014】
図1~5を参照して、粒子分離チップ1の構成を説明する。粒子分離チップ1は、上基板10(
図1に示す)と、下基板20(
図2に示す)と、上基板10と下基板20に挟まれた多孔シート30(
図3に示す)と、から構成されている。
【0015】
図1は、上基板10の構成を模式的に示す斜視図である。
【0016】
上基板10は、X-Y平面に平行な対向面10aおよび上面10bを有し、両面の間隔がD1である板状部材で構成されている。また、上基板10は、X軸方向に平行な中心軸CAにおいて、上基板10と垂直に交わる仮想の垂直面VPに関して、Y軸方向に面対称に構成されている。対向面10aは、後述する下基板20に対向する面であり、上面10bは、粒子分離チップ1が完成した場合に粒子分離チップ1の上面となる面である。
【0017】
上基板10は、表面を血液試料が円滑に流れ、且つ、高精度な加工が可能な材料、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)により構成される。なお、上基板10は、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)などにより構成されてもよい。
【0018】
対向面10aには、所定の深さd1の主流路100が形成されている。また、上基板の右側端に沿って貫通孔からなる4つの出口213が形成されている。主流路100および4つの出口213は、例えば、半導体の加工プロセスによって形成される。主流路100は、対向面10aに対してZ軸方向に窪んだ凹部を有し、この凹部の底面は、X-Y平面に平行である。主流路100は、上基板10と下基板20とが重ね合わせられることにより流路を形成し、その中を試料が移送可能となる。4つの出口213は、後述する分岐流路200の一部を構成する。
【0019】
主流路100は、その左側に設けられた入口101、102、103と、流路111、112と、一対の流路113と、その中央部に設けられた流路120と、その右側に設けられた出口104と、を備える。
【0020】
入口101~103および出口104は、上基板10をZ軸方向に貫通する貫通孔で形成され、垂直面VPおよび中心軸CAに沿って一列に配置されている。出口104のY軸に沿った両側には、それぞれ2つの出口213が一列に配置されている。4つの出口213は、上基板10をZ軸方向に貫通する貫通孔で形成されている。
【0021】
流路111、112は、X軸方向に延びており、中心軸CA上に沿って配置されている。流路111、112の幅は一定である。流路111の上流側の端部は、入口101に繋がっており、流路111の下流側の端部は、流路120に繋がっており、流路111の中央部は、入口102に繋がっている。
【0022】
入口103は、入口101の左側に位置し、流路112の左側の端部は、入口103に繋がっている。一対の流路113は、流路112から垂直面VPのY軸方向両側に沿って分岐している。一対の流路113は、入口101、102を迂回して、流路112と流路111とを接続している。一対の流路113の右側の端部は、入口102と流路120との間で、流路111に対して斜め方向に繋がっている。一対の流路113の幅は一定である。
【0023】
流路120は、X軸方向に延びており、中心軸CA上に配置されている。流路120のY軸方向の幅は、流路120の左側の部分において、流路111、120の接続部分から中央部に進むにつれて徐々に大きくなっている。流路120の左側部分を除くY軸方向の幅は、一定であり、流路111~113の幅よりも広い。流路120の右側の端部は、出口104に繋がっている。
【0024】
主流路100のサイズは、例えば以下のように設定可能である。
【0025】
粒子分離チップ1の外形が平面視において150mm四方に形成される場合、流路120のX軸方向の長さは、例えば、150mm以下に設定される。流路120のY軸方向の幅は、外形の一辺の長さの3分の1程度を目安として、例えば、50mm以下に設定される。
【0026】
流路120のY軸方向の幅は、1回の粒子分離処理において血液試料として全血5mLが粒子分離チップ1に流される場合、例えば、500μm以上に設定される。本実施形態によれば、流路120のY軸方向の幅が500μmである場合、例えば、全血5mLを流すために必要な時間は200分であり、粒子分離処理のスループットは25μL/分となる。また、流路120のY軸方向の幅が50mmである場合、例えば、全血5mLを流すために必要な時間は2分であり、粒子分離処理のスループットは2.5mL/分となる。1回の粒子分離処理においてさらに少ない量の全血が粒子分離チップ1に流される場合、流路120のY軸方向の幅は、例えば100μm以上に設定されてもよい。スループットとは、単位時間当たりに粒子分離処理に供される試料の量であり、試料が血液試料の場合、単位時間当たりに粒子分離処理に供される無希釈の全血の量である。
【0027】
流路120の深さd1(上基板10に形成された流路120に対応する凹部のZ軸方向の高さ)は、第1の粒子が流路120内で移送可能となるよう、第1の粒子の粒径よりも大きく設定される。第1の粒子がCTCである場合、流路120の深さd1は、例えば100μm以上に設定され、第1の粒子がナノ粒子である場合、流路120の深さd1は、例えば50nm以上に設定される。また、流路120は半導体の加工プロセスによって形成されるため、流路120の深さd1は、例えば1mm以下に設定される。
【0028】
なお、流路111~113の深さも、流路120の深さと同様の理由から、例えば50nm以上1mm以下に設定される。
【0029】
図2は、下基板20の構成を模式的に示す斜視図である。
【0030】
下基板20は、X-Y平面に平行な対向面20aおよび下面20bを有し、両面の間隔がD2である板状部材で構成されている。また、下基板20は、X軸方向に平行な中心軸CAにおいて、下基板20と垂直に交わる仮想の垂直面VPに関して、Y軸方向に面対称に構成されている。対向面20aは、上基板10に対向する面であり、下面20bは、粒子分離チップ1が完成した場合に粒子分離チップ1の下面となる面である。
【0031】
下基板20は、表面を血液試料が円滑に流れ、且つ、高精度な加工が可能な材料により構成される。本実施形態の下基板20は、上基板10と同様、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)により構成される。なお、下基板20は、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)などにより構成されてもよい。
【0032】
対向面20aには、所定の深さd2の分岐流路200が形成されている。分岐流路200は、例えば、半導体の加工プロセスによって形成される。分岐流路200は、対向面20aに対してZ軸方向に窪んだ凹部を有し、この凹部の底面は、X-Y平面に平行である。分岐流路200は、上基板10と下基板20とが重ね合わせられることにより流路を形成し、その中を試料が移送可能に構成となる。
【0033】
分岐流路200は、複数の流路201と、2つの中継流路211と、4つの中継流路212と、を備える。また、分岐流路200は、
図1に示した4つの出口213を含む。
図2では、複数の流路201の一部および2つの中継流路211の一部の図示が、便宜上、点線によって省略されている。
【0034】
複数の流路201は、Y軸方向に平行に延びており、所定の間隔をあけてX軸方向に並んでいる。各流路201のY軸方向の長さは、X軸方向右側に進むにつれて、短くなっている。すなわち、複数の流路201の全体の外形は、平面視において台形になっている。
【0035】
2つの中継流路211は、それぞれ、複数の流路201の一端と他端に配置されており、複数の流路201と繋がっている。中継流路211は、主流路100(
図1参照)の右側に進むにつれて、その両端が中心軸CAに近づくように延びている。4つの中継流路212は、X軸方向に平行に延びている。複数の流路201の一端側の中継流路211および複数の流路201の他端側の中継流路211に、それぞれ、2つの中継流路212が繋がっている。
【0036】
分岐流路200のサイズは、例えば以下のように設定可能である。
【0037】
粒子分離チップ1の外形が平面視において150mm四方に形成される場合、複数の流路201のY軸方向の長さは、例えば、150mm以下に設定される。また、複数の流路201のY軸方向の長さは、いずれも流路120のY軸方向の幅より長く設定される。
【0038】
流路201の幅(X軸方向の長さ)は、第2の粒子が流路201内で移送可能となるよう、第2の粒子の粒径よりも大きく設定される。第2の粒子が白血球、赤血球および血小板である場合、流路201の幅は、例えば100μm以上に設定され、第2の粒子がナノ粒子である場合、流路201の幅は、例えば50nm以上に設定される。流路201の幅は、十分な数の流路201を配置可能とするために、例えば1mm以下に設定される。
【0039】
また、複数の流路201の本数は、2本以上15000本以下に設定される。発明者らの検討によれば、流路201の幅を100μmとし、隣り合う流路201の間隔を50μmとした場合、150本程度の流路201を形成可能である。また、半導体の加工プロセスによれば、上記流路201の幅および間隔をさらに1/100程度に小さくできることから、15000本の流路201の形成が可能となる。また、流路201は、後述する水力学的濾過法(Hydrodynamic Filtration:HDF)を実現するために、2本以上配置される。
【0040】
流路201の深さd2(下基板20に形成された流路201に対応する凹部のZ軸方向の高さ)も、第2の粒子が流路201内で移送可能となるよう、第2の粒子の粒径よりも大きく設定される。第2の粒子が白血球、赤血球および血小板である場合、流路201の深さd2は、例えば100μm以上に設定され、第2の粒子がナノ粒子である場合、流路201の深さd2は、例えば50nm以上に設定される。また、流路201は半導体の加工プロセスによって形成されるため、流路201の深さd2は、例えば1mm以下に設定される。
【0041】
なお、中継流路211、212の深さも、流路201の深さと同様の理由から、例えば50nm以上1mm以下に設定される。
【0042】
図3は、多孔シート30の構成を模式的に示す斜視図および拡大図である。
【0043】
多孔シート30は、平面視において矩形形状であり、薄膜状のシートである。多孔シート30は、Z軸方向に多孔シート30を貫通する複数の孔31を備える。後述するように、主流路100を流れる第2の粒子は、多孔シート30の孔31を通って分岐流路200へと移動する。多孔シート30は、表面を血液試料が円滑に流れ、高精度に孔31を形成可能であり、且つ、破損しにくい材料により構成される。本実施形態の多孔シート30は、例えばニッケルにより構成される。なお、多孔シート30は、必ずしも金属でなくてもよく、ガラスやPDMSなどにより構成されてもよい。
【0044】
多孔シート30のサイズは、例えば以下のように設定可能である。
【0045】
多孔シート30の厚さは、水力学的濾過法による第2の粒子の分離が実現されるよう、例えば、1μm以上1mm以下に設定される。発明者らの検討によれば、多孔シート30の厚みを1mmに設定したとしても、多孔シート30により孔31を通過する第2の粒子にかかる流体抵抗をほぼ無視できる。孔31の孔径は、第1の粒子が主流路100の流路120内を下流側に円滑に進むように、例えば、30nm以上100μm以下、より好ましくは、50nm以上100μm以下に設定される。
【0046】
多孔シート30の孔31の面積の割合である開孔率は、多孔シート30の強度を維持するために、例えば0%より大きく50%以下に設定される。本実施形態では、多孔シート30に形成された全ての孔31の大きさおよび形状は、互いに同じであり、全ての孔31は、多孔シート30において均等に配置されている。したがって、多孔シート30の開孔率は、後述する主流路100および分岐流路200が連通する複数の分岐箇所B(
図9参照)において、互いに実質的に同じ値となる。
【0047】
なお、多孔シート30の開孔率は、複数の分岐箇所Bにおいて、互いに異なる値であってもよい。この場合、多孔シート30は、複数の分岐箇所Bにおいて、孔31の数が互いに異なってもよいし、孔31の径が互いに異なってもよい。また、多孔シート30は、1つの分岐箇所B内において、領域によって孔31の数が互いに異なってもよいし、孔31の径が互いに異なってもよい。
【0048】
多孔シート30のY軸方向の長さは、上基板10の流路120の一定幅の部分のY軸方向の幅より、長く設定される。多孔シート30のX軸方向の長さは、下基板20の複数の流路201全体のX軸方向の長さより、長く設定される。
【0049】
図4は、上基板10、下基板20および多孔シート30の組み立てを模式的に示す斜視図である。
図4では、便宜上、主流路100の対向面10a側の輪郭が破線で示されている。
【0050】
図1に示した上基板10が、表裏反転された状態で、
図2に示した下基板20に接合される。すなわち、上基板10の対向面10aと、下基板20の対向面20aとが対向するように、上基板10および下基板20が接合される。このとき、上基板10と下基板20との間に、
図3に示した多孔シート30が配置される。上基板10および下基板20がPDMSにより構成される場合、対向面10a、20aの表面の二酸化ケイ素に対して酸素プラズマにより表面改質を行うことにより、対向面10a、20aが接合される。表面改質は、紫外線を用いたUVオゾン処理により行われてもよい。こうして、
図5に示すように粒子分離チップ1が完成する。
【0051】
図5は、粒子分離チップ1の構成を模式的に示す斜視図である。
【0052】
主流路100は、上基板10の対向面10aに形成された凹部と、この凹部に対向する下基板20の対向面20aとによって構成される。分岐流路200は、下基板20の対向面20aに形成された凹部と、この凹部に対向する上基板10の対向面10aとによって構成される。主流路100および分岐流路200により、マイクロ流路1aが構成される。マイクロ流路とは、一般的に、深さおよび幅が10μm~1mm程度の流路のことである。上基板10の出口213は、下基板20の中継流路212のX軸方向右側の端部に重なっており、出口213は、中継流路212に繋がっている。
【0053】
X軸方向において、多孔シート30は、分岐流路200の複数の流路201の全体を覆うように配置されている。また、Y軸方向において、多孔シート30は、最も短い流路201の内側に配置されている。
【0054】
次に、
図6~11を参照して、粒子分離チップ1によって試料に含まれる第1の粒子と第2の粒子とが分離される作用について説明する。
【0055】
図6は、粒子分離チップ1の入口101~103に対する試料およびシース液の注入と、出口104、213からの試料の注出とを模式的に示す図である。
【0056】
入口101には、第1の粒子および第1の粒子より小さい第2の粒子を含む液体試料が第1の試料として流し込まれる。入口102、103には、シース液が注入される。シース液として、例えば、シスメックス株式会社製のセルパック(登録商標)を用いることができる。出口104から、主として第1の粒子を含む液体試料が第2の試料として取り出される。複数の出口213から、主として第2の粒子を含む液体試料が第3の試料として取り出される。
【0057】
図7、8は、シース液によって第1の試料の流れる範囲が制限されることを模式的に示す図である。
図7は、便宜上、入口101、102と、流路111、113の接続部分の近傍とを模式的に示している。
図8の上段、中段および下段は、それぞれ、
図7のC21-C22断面、C31-C32断面およびC41-C42断面を示している。
【0058】
図7に示すように、第1の試料は、入口101を介して流路111に流される。入口102から注入されたシース液は、流路111を流れる第1の試料を、下方向に押し付ける。これにより、
図8の上段に示すように、流路111を流れる第1の試料の範囲が、シース液により流路111の底面付近に制限される。
【0059】
図7に示すように、一対の流路113は、入口102と流路120との間において、X軸方向に対して傾いた方向で、流路111の両側面に接続されている。一対の流路112から流路111に流れ込むシース液は、入口102の下方から下流側に流れる第1の試料を、垂直面VP(
図1、2参照)に近づく方向に押し付ける。これにより、
図8の中段に示すように、流路111を流れる第1の試料の範囲が、シース液により流路111の中央付近に制限される。
【0060】
図7に示すように、流路120の幅は、流路111の幅よりも広いため、流路111から流路120に流れる第1の試料は、Y軸方向に広がって下流側へと流れる。このとき、
図8の下段に示すように、第1の試料の範囲は、Y軸方向に広がるものの、一対の流路113からのシース液によって中央に向かって押さえられているため、流路120の中央付近に制限される。
【0061】
図9は、主流路100の流路120と、分岐流路200の流路201とが交差する部分の近傍を模式的に示す斜視図である。
【0062】
平面視において流路120と流路201とが重なる部分において、流路120側の凹部と、流路201側の凹部とは、Z軸方向に繋がっている。流路120と流路201との交差面は開口となるが、この開口には多孔シート30が配置され、開口は塞がれる。多孔シート30が配置された流路120と流路201との交差面の開口に対応する箇所が、分岐箇所Bである。従って、分岐箇所Bの面積は、流路120と流路201との交差面の開口の面積と等しい。分岐流路200は、主流路100の流れ方向(X軸方向)に沿った複数の分岐箇所Bにおいて主流路100と連通している。多孔シート30は、複数の分岐箇所Bに跨がるように配置されている。
【0063】
なお、本実施形態において、複数の分岐箇所Bは、互いに同じ形状であり、互いに同じY軸方向の位置およびZ軸方向の位置に配置されている。また、複数の分岐箇所Bは、X軸方向の間隔が互いに同じになるように配置されている。しかし、複数の分岐箇所Bは、主流路100の入口101から出口104の間で互いにX軸方向の間隔を空けて配置されていればよい。例えば、複数の分岐箇所Bは、互いに異なる形状であってもよいし、互いに異なる面積であってもよい。複数の分岐箇所Bは、互いに異なるY軸方向の位置に配置されていてもよいし、互いに異なるZ軸方向の位置に配置されていてもよい。分岐箇所Bの複数の間隔は、互いに異なっていてもよい。
【0064】
流路120を通って下流側に流れる第1の試料が分岐箇所Bを通ると、第1の試料に含まれる第2の粒子が、多孔シート30の孔31を介して流路201へと流れる。そして、第2の粒子を含む第3の試料が、出口213(
図6参照)から取り出される。一方、第1の試料に含まれる第1の粒子は、流路201に流れることなく流路120を下流側へと流れる。そして、第1の粒子を含む第2の試料が、出口104(
図6参照)から取り出される。
【0065】
このとき、
図8の下段に示したように、第1の試料は、厚さ方向の上部および幅方向の両端が制限された状態で分岐箇所Bに流れるため、第1の試料に含まれる第2の粒子を流路201へ円滑に分離できる。
【0066】
図10は、
図9に示した分岐箇所Bにおいて、第1の粒子と第2の粒子とが分離されることを模式的に示す図である。
図10は、
図6のC11-C12断面を示している。
【0067】
図10では、便宜上、第1の粒子が白色の円で示されており、第2の粒子が黒色の円で示されている。第1の試料に含まれる第1の粒子および第2の粒子以外の成分が、濃い網点で示されており、入口102、103から注入されたシース液が薄い網点で示されている。また、多孔シート30全体のうち、分岐箇所B(
図9参照)の位置における多孔シート30のみが図示されている。
【0068】
図7および
図8の上段を参照して説明したように、入口101から注入された第1の試料は、入口102から注入されたシース液によって下方向に押し付けられているため、第1の試料は、主流路100の底面に沿って下流側へと流れる。本実施形態の複数の流路201は、水力学的濾過法(HDF)によって第1の粒子と第2の粒子とが分離可能となるように構成されている。
【0069】
図11は、
図10において1つの流路201の近傍を模式的に示す拡大図である。
【0070】
1つの流路201に対して上流側から流れる流路120内の流量をQmとし、当該流路201へと流れる流量をQsとすると、流量Qmと流量Qsとの関係は、当該分岐箇所Bにおける液除去率aを用いて、以下の式(1)により表すことができる。
【0071】
Qs=Qm×a …(1)
【0072】
分岐箇所Bにおける液除去率aは、第2の粒子が分岐流路200に流れ、第1の粒子が主流路100に流れる値に設定される。水力学的濾過法によれば、第1の試料の液体部分のうち各流路201に流れ込む第1の試料の液体部分の高さhは、液除去率aによって決まる。そこで、本実施形態では、第1の試料の液体部分の高さhが、第1の粒子の半径より小さく、且つ、第2の粒子の半径より大きくなるように、液除去率aが設定されている。これにより、第1の粒子は、第1の試料の流れに沿って下流側に移送され、第2の粒子は、第1の試料の高さhの範囲の液体部分によって各流路201へと分離される。
【0073】
本実施形態では、全ての分岐箇所Bにおける液除去率aが、互いに実質的に同じ値に設定される。各流路201の液除去率aが互いに等しい場合、各流路201に流れ込む第1の試料の液体部分の高さhも互いに等しくなる。これにより、複数の分岐箇所Bにおいて、満遍なく一定のサイズの第2の粒子を分離できる。
【0074】
ここで、分岐箇所Bにおける液除去率aは、分岐箇所Bから出口213(
図6参照)までの分岐流路200の流体抵抗により決まる。そこで、本実施形態では、上流側における分岐箇所Bから出口213までの分岐流路200の流体抵抗が、下流側における分岐箇所Bから出口213までの分岐流路200の流体抵抗より大きく設定される。これにより、上流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗が、下流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗より大きくなり、各分岐箇所Bにおける液除去率aを、互いに実質的に等しい値に設定できる。
【0075】
本実施形態では、中継流路211、212(
図6参照)のサイズが流路201に比べて大きいため、分岐箇所Bにおける液除去率aは、実質的に流路201の流体抵抗によって決まる。したがって、本実施形態では、上流側における流路201のY軸方向の長さが、下流側における流路201のY軸方向の長さより長く設定されている。これにより、上流側の分岐箇所Bに繋がる流路201の流体抵抗を、下流側の分岐箇所Bに繋がる流路201の流体抵抗より大きく設定できる。
【0076】
また、複数の分岐箇所Bにおける液除去率aは、いずれも0%より大きく50%以下となるように設定される。これにより、流路120の深さd1よりも小さな粒径を有する第2の粒子を流路201に分離できる。
【0077】
また、本実施形態では、分岐箇所Bに配置された多孔シート30の各々の孔31によって、
図11の孔31の位置の太線矢印に示すように、主流路100の流路120から分岐流路200の流路201へと、第2の粒子を移動させる試料の流れを形成できる。このため、スループットを高めるために、
図11に示すように流路201のX軸方向の幅を広げて流路201の流量を高めても、流路201へと向かう第2の粒子の試料の流れを、多孔シート30の複数の孔31に分散させることができる。これにより、第2の粒子の試料の流れを、流路201の一部にだけ形成するのではなく流路201全体に形成できる。また、
図11に示すように、多孔シート30に複数の孔31が形成され、流路201のX軸方向の幅が広いため、多孔シート30および流路201において目詰まりが生じることを抑制できる。
【0078】
よって、目詰まりなく効率的に、第2の粒子を流路201へと分離させることができ、主流路100および分岐流路200の流量を高めて、粒子分離のスループットを効率的に高めることができる。
【0079】
なお、本実施形態では、流路201へと分離される第2の粒子の粒径は、多孔シート30の孔31の孔径と第2の粒子の粒径との大小関係により決まるのではなく、液除去率aに基づく高さhにより決まる。すなわち、多孔シート30は、孔31によって第1の試料から第2の粒子を分離させるフィルタとして用いられているのではなく、上述したように、流路201へと向かう第2の粒子の流れを分散させるために用いられている。したがって、孔31の孔径は、例えば、分離対象とする第2の粒子の粒径より大きくてもよい。
【0080】
図10に戻り、複数の分岐箇所Bにおいて第2の粒子が分離されることにより、分岐流路200の流路201には、第2の粒子および第1の試料の液体部分が流れる。これにより、出口213(
図6参照)から取り出される第3の試料は、主として第2の粒子を含むことになる。一方、主流路100の流路120には、第1の粒子およびシース液が残される。これにより、出口104から取り出される第2の試料は、主として第1の粒子を含むことになる。
【0081】
次に、第1の粒子と第2の粒子とを分離する粒子分離装置2について説明する。
【0082】
図12は、粒子分離装置2の構成を模式的に示す斜視図である。
【0083】
粒子分離装置2は、粒子分離チップ1と、固定部40と、3つの入口ノズル51~53と、5つの出口ノズル54、55と、送液部61~63と、第1回収部64と、4つの第2回収部65と、を備える。
【0084】
粒子分離チップ1は、粒子分離処理が行われる度に洗浄され、再利用される。なお、粒子分離チップ1は、粒子分離処理が行われるたびに新しいものに交換される交換可能な粒子分離チップとして構成されてもよい。
【0085】
固定部40は、設置部41と、昇降部42と、を備える。設置部41は、X-Y平面に平行な平板40aと、平板40aの上面に設置された枠部40bと、を備える。平面視において、枠部40bの中央には粒子分離チップ1の外形とほぼ同じサイズの開口が形成されており、この開口に粒子分離チップ1が設置される。昇降部42は、Z軸方向に移動可能となるよう昇降機構2b(
図13参照)に支持されている。昇降部42は、枠部40bに配置された粒子分離チップ1の上方に延びたアーム部42aを備える。
【0086】
入口ノズル51~53の上端は、それぞれ、送液部61~63にチューブを介して接続されている。送液部61~63は、例えばシリンジポンプである。送液部61は、所定量の第1の試料を所定の速度で入口ノズル51に送液可能に構成されている。送液部62、63は、所定量のシース液を所定の速度で、それぞれ入口ノズル52、53に送液可能に構成されている。
【0087】
出口ノズル54の上端は、第1回収部64にチューブを介して接続されている。4つの出口ノズル55の上端は、それぞれ、第2回収部65にチューブを介して接続されている。第1回収部64および4つの第2回収部65は、試料を回収するための容器である。なお、出口ノズル54と第1回収部64とを接続するチューブに、第2の試料を第1回収部64に送るためのシリンジポンプにより構成された送液部が配置されてもよい。出口ノズル55と第2回収部65とを接続するチューブに、第3の試料を第2回収部65に送るためのシリンジポンプにより構成された送液部が配置されてもよい。
【0088】
粒子分離処理が行われる場合、枠部40bの開口に粒子分離チップ1が設置され、昇降部42が下方に移動することにより、粒子分離チップ1の上面(上基板10の上面10b)が、アーム部42aによって下方に押さえられる。これにより、粒子分離チップ1が固定される。その後、入口ノズル51~53が、それぞれ、粒子分離チップ1の入口101~103に接続され、出口ノズル54、55が、それぞれ、粒子分離チップ1の出口104、213に接続される。
【0089】
この状態で、送液部62が、入口102を介して流路111(
図6参照)にシース液を送り、送液部63が、入口103を介して流路112、113(
図6参照)にシース液を送る。そして、送液部61が、入口101を介して流路111に第1の試料を送る。これにより、
図10、11を参照して説明したように、第1の粒子および第2の粒子を含む試料(第1の試料)が、第1の粒子を含む試料(第2の試料)と、第2の粒子を含む試料(第3の試料)とに分離される。そして、第2の試料が、出口104を介して第1回収部64に回収され、第3の試料が、4つの出口213を介して4つの第2回収部65に回収される。こうして、粒子分離処理が終了する。
【0090】
図13は、細胞検出システム5の機能構成を示すブロック図である。
【0091】
細胞検出システム5は、粒子分離装置2と、染色濃縮装置3と、イメージングフローサイトメーター4と、を備える。細胞検出システム5は、被検者から採取された血液試料に含まれる第1の粒子(例えば、CTC)を検出するためのシステムである。
【0092】
図12に示した粒子分離装置2は、制御部2aと、昇降機構2bと、送液部61~63と、を備える。制御部2aは、例えば、CPUおよびメモリを備え、粒子分離装置2の各部を制御する。昇降機構2bは、
図12の昇降部42を上下に移送させるためのモータを備える。
【0093】
粒子分離装置2は、粒子分離チップ1を用いて血液試料を分離し、第1の粒子を含む第2の試料を取得する。染色濃縮装置3は、粒子分離装置2で取得された第2の試料に基づいて、第2の試料に含まれる第1の粒子を染色する染色工程を行う。イメージングフローサイトメーター4は、染色工程を経た第2の試料に含まれる粒子を撮像し、撮像画像を取得する。医師や検査技師などのオペレータは、イメージングフローサイトメーター4で取得された撮像画像を参照し、被検者から採取した血液試料における第1の粒子(例えば、CTC)の有無を判定する。
【0094】
<実施例の構成>
次に、上記実施形態の具体的な実施例について説明する。以下の実施例では、第1の試料は、被検者から採取された全血である。第1の粒子は、取得対象の細胞(標的細胞)であり、血中循環腫瘍細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)である。第2の粒子は、除去対象の細胞(非標的細胞)であり、白血球、赤血球および血小板である。発明者らは、
図14~18を参照して説明するチップおよび多孔シートを組み合わせて粒子分離チップ1を作成し、作成した粒子分離チップ1を用いて実際に粒子分離処理を行った。
【0095】
図14は、実施例に係る、主流路100および分岐流路200のサイズを模式的に示す図である。
図15は、実施例に係る、多孔シート30の孔31の配置およびサイズを模式的に示す図である。
【0096】
図14に示すように、主流路100の深さは、0.1mmである。入口101~103の径は、1.5mmである。流路111~113の幅(流路内の試料の進行方向に垂直な方向の長さ)は、0.5mmである。流路120の幅(Y軸方向の長さ)は、4mmである。流路120のY軸方向の幅が一定の領域のX軸方向右側の端部は、複数の流路201の最もX軸方向右側の端部に対して、X軸方向右側に2mm離れている。
【0097】
分岐流路200の深さは、0.1mmである。複数の流路201の最も左側の端部から、流路120のY軸方向の幅が一定の領域の右側の端部までの距離は、Lmainである。複数の流路201の本数はnである。最も左側の流路201の通し番号は1であり、最も右側の流路201の通し番号はnである。1番目およびn番目の流路201が、流路120に対してY軸方向に突出している長さは、それぞれL1、Lnである。流路201の幅(X軸方向の長さ)はwであり、隣り合う2つの流路201の間隔はvである。
【0098】
多孔シート30のX軸方向の長さは、30mmであり、多孔シート30のY軸方向の幅は、6mmである。
図15に示すように、多孔シート30の孔31の孔径はφであり、隣り合う2つの孔31のピッチはpである。隣り合う3つの孔31の中心を結ぶ3つの直線は、互いに60°の角度をなしている。多孔シート30の孔31の面積の割合である開孔率はRである。多孔シート30の厚さは、5μmである。
【0099】
以下、距離Lmain、本数n、長さL1、Ln、幅wおよび間隔vを異ならせて、
図16に示すように、上基板10および下基板20からなる4種類のチップC1~C4を作成した。また、ピッチp、孔径φおよび開孔率Rを異ならせて、
図17に示すように、多孔シートPS1~PS7を作成した。
【0100】
なお、
図18に示すように、チップC1、C2では、4つの中継流路212が設けられ、4つの中継流路212に第3の試料をそれぞれ導く4つの中継流路211が設けられている。チップC3、C4では、6つの中継流路212が設けられ、6つの中継流路212に第3の試料をそれぞれ導く6つの中継流路211が設けられている。
図18に示すチップC1~C4によれば、1つの流路201に流れ出た第3の試料は、当該流路201に対応する1つの中継流路211および1つの中継流路212を経由して、出口213から取り出される。
【0101】
[実施例1]
実施例1では、4種類の粒子分離チップ1を上記の粒子分離装置2に設置し、各粒子分離チップ1に第1の試料を流して、赤血球および白血球の除去率を調査した。
【0102】
図19の上段は、実施例1に係る、4種類の粒子分離チップCP1~CP4の構成を示す表である。
図19の下段は、実施例1に係る、3種類の第1の試料の構成を示す表である。
【0103】
図19の上段に示すように、4種類の粒子分離チップCP1~CP4は、
図16に示したチップC1~C4と、
図17に示した多孔シートPS7とを組み合わせたものである。
図19の下段に示すように、3種類の第1の試料は、全血量および希釈液量が異なっている。「全血希釈なし」の第1の試料は、全血のみからなる5mLの試料である。「全血1.5倍希釈」の第1の試料は、3.33mLの全血を1.67mLの希釈液で希釈した5mLの試料である。「全血2倍希釈」の第1の試料は、2.5mLの全血を2.5mLの希釈液で希釈した5mLの試料である。3種類の第1の試料に用いられる全血は、健常人から採取したものである。
【0104】
実施例1では、粒子分離チップCP1~CP4において、入口101から100μL/minで上記3種類の第1の試料1mLを別々に流した。このとき、3種類の第1の試料(全血希釈なし、全血1.5倍希釈、全血2倍希釈)の全血のスループットは、それぞれ、100μL/min、67μL/min、50μL/minである。また、入口102から900μL/minでシース液を流し、入口103から2000μL/minでシース液を流した。入口101~103への第1の試料の送液時間を、いずれの第1の試料においても10分とした。そして、各粒子分離チップCP1~CP4において、第1回収部64(
図12参照)から第2の試料を回収し、複数の第2回収部65(
図12参照)から第3の試料を回収した。
【0105】
次に、3種類の第1の試料と、各粒子分離チップCP1~CP4で回収した第2の試料とに含まれる細胞(赤血球および白血球)の数を、以下の式(2)により取得した。
【0106】
細胞数=細胞濃度(個/mL)×液量(mL) …(2)
【0107】
ここで、細胞濃度を、シスメックス株式会社製の血球計数装置(XNシリーズ)または血球計算盤を用いて測定した。また、液量を、電子天秤を用いて重量から測定した。
【0108】
続いて、第1の試料および粒子分離チップCP1~CP4の組合せごとに、上記式(2)により取得した細胞(赤血球および白血球)の数に基づいて、以下の式(3)、(4)により赤血球除去率および白血球除去率を算出した。
【0109】
赤血球除去率={1-(第2の試料に含まれる赤血球数/第1の試料に含まれる赤血球の数)}×100(%) …(3)
白血球除去率={1-(第2の試料に含まれる白血球数/第1の試料に含まれる白血球の数)}×100(%) …(4)
【0110】
図20は、粒子分離チップCP1~CP4の赤血球除去率および白血球除去率を示すグラフである。
【0111】
図20のグラフでは、便宜上、第1の試料の種類ごとに除去率が直線で結ばれている。粒子分離チップCP1~CP4の液除去率は、それぞれ、
図16に示したチップC1~C4の液除去率(0.73%、1.12%、1.31%、1.50%)に対応する。
【0112】
図20に示すように、いずれの例においても、高い赤血球除去率および高い白血球除去率を実現できた。また、液除去率が高いほど、
図11に示した高さhが高くなるため、より確実に赤血球および白血球を除去できることが分かった。さらに、希釈率が高いほど、赤血球除去率および白血球除去率が高くなった。この理由としては、希釈率が高いほど、第1の試料中の細胞の密度および粘性が低下し、分岐流路200への赤血球および白血球の分離が容易になるためと予想される。
【0113】
[実施例2]
実施例2では、1種類の粒子分離チップ1を上記の粒子分離装置2に設置し、当該粒子分離チップ1に第1の試料を流して、赤血球および白血球の除去率と、CTCの回収率とを調査した。
【0114】
図21の上段は、実施例2に係る、粒子分離チップCP5の構成を示す表である。
図21の下段は、実施例2に係る、第1の試料の構成を示す表である。
【0115】
図21の上段に示すように、粒子分離チップCP5は、
図16に示したチップC4と、
図17に示した多孔シートPS6とを組み合わせたものである。
図21の下段に示すように、実施例2に係る「全血2倍希釈」の第1の試料は、健常人から採取した1.25mLの全血を1.25mLの希釈液で希釈した2.5mLの試料である。また、実施例2では、CTCとして、A549細胞株から得られたA549細胞を第1の試料に添加した。具体的には、A549細胞を予め所定の試薬により染色し、染色したA549細胞を第1の試料に40万個程度添加した。なお、上記のA549細胞の大きさは、発明者らによる測定によれば、11μm以上20μm以下であり、平均約17μmである。
【0116】
実施例2では、粒子分離チップCP5において、入口101から100μL/minで上記の第1の試料の全量(2.5mL)を別々に3回流した。このとき、第1の試料の全血のスループットは、いずれの回においても50μL/minである。また、入口102から900μL/minでシース液を流し、入口103から2000μL/minでシース液を流した。入口101~103への第1の試料の送液時間を、いずれの回においても25分とした。そして、粒子分離チップCP5において、第1回収部64から第2の試料を回収し、複数の第2回収部65から第3の試料を回収した。
【0117】
次に、実施例1と同様の手順で、第1の試料および第2の試料に含まれる細胞(赤血球および白血球)を上記式(2)により取得し、取得した赤血球および白血球の数に基づいて、上記式(3)、(4)により赤血球除去率および白血球除去率を算出した。
【0118】
また、回収した第2の試料および第3の試料に含まれるA549細胞を上記式(2)により取得し、取得したA549細胞の数に基づいて、以下の式(5)によりA549細胞の回収率を算出した。
【0119】
A549細胞回収率=第2の試料に含まれるA549細胞の数/(第2の試料に含まれるA549細胞の数+第3の試料に含まれるA549細胞の数)×100(%) …(5)
【0120】
図22は、粒子分離チップCP5の赤血球除去率、白血球除去率およびA549細胞回収率を示すグラフである。
【0121】
図22の上段に示すように、第1の試料を流した1~3回目のいずれの場合も、赤血球除去率は約99%以上、白血球除去率は約90%以上となり、高い赤血球除去率および高い白血球除去率を実現できた。また、
図22の下段に示すように、第1の試料を流した1~3回目のいずれの場合も、A549細胞の回収率は約90%以上となり、高いA549細胞回収率を実現できた。以上の結果から、粒子のサイズの違いに基づいて、第1の試料から血球成分(赤血球および白血球)とA549細胞とを、適正に分離できることが分かった。
【0122】
[実施例3]
実施例3では、6種類の粒子分離チップ1を上記の粒子分離装置2に設置し、各粒子分離チップ1に第1の試料を流して、細胞除去率と、細胞回収率と、流路201への重量比率と、粒径ごとの回収率および除去率と、を調査した。
【0123】
図23の上段は、実施例3に係る、6種類の粒子分離チップCP11~CP16の構成を示す表である。
図23の下段は、実施例3に係る、第1の試料の構成を示す表である。
【0124】
図23の上段に示すように、6種類の粒子分離チップCP11~CP16は、
図16に示したチップC4と、
図17に示した多孔シートPS1~PS6とを組み合わせたものである。
図23の下段に示すように、実施例3に係る第1の試料は、細胞懸濁液である。この細胞懸濁液は、1%ポリビニルピロリドン溶液2mLと、Jurkat細胞を1×10
6個程度と、予め所定の試薬により染色したA549細胞を3×10
5個程度とを含む。Jurkat細胞は通常の血液に存在する血球成分(赤血球や白血球)に対応し、A549細胞はCTCに対応する。そして、発明者らは、あらかじめ第1の試料(細胞懸濁液)に含まれるJurkat細胞およびA549細胞の粒径を、イメージングフローサイトメーターを用いて調査した。
【0125】
図24は、第1の試料に含まれるJurkat細胞およびA549細胞の粒径分布を示すグラフである。
図24において、横軸は細胞の粒径を示しており、縦軸は粒径に対応する頻度(%)を示している。所定の粒径に対応する頻度は、当該所定の粒径の存在確率に対応する。
【0126】
実施例3では、粒子分離チップCP11~CP16において、入口101から110μL/minで上記の第1の試料を流した。また、入口102から1400μL/minでシース液を流し、入口103から1510μL/minでシース液を流した。入口101~103への送液時間を15分とした。そして、粒子分離チップCP11~CP16において、第1回収部64から第2の試料を回収し、複数の第2回収部65から第3の試料を回収した。
【0127】
次に、第2の試料および第3の試料にそれぞれ含まれる細胞(Jurkat細胞およびA549細胞)の数を、以下の式(6)により算出した。
【0128】
試料中の所定の粒径の細胞数=試料中の所定の粒径の細胞の存在確率×試料中の総細胞数 …(6)
【0129】
上記式(6)において、細胞の存在確率は、
図24の頻度により取得される。総細胞数は、血球計算盤により測定された細胞濃度を用いて、上記式(2)により取得される。
【0130】
続いて、上記式(6)により取得した細胞(Jurkat細胞およびA549細胞)の粒径ごとの数に基づいて、以下の式(7)により所定の粒径における回収率を算出した。
【0131】
所定の粒径の細胞の回収率={第2の試料中の所定の粒径の細胞数/(第2の試料中の所定の粒径の細胞数+第3の試料中の所定の粒径の細胞数)}×100(%) …(7)
【0132】
また、回収した第2の試料および第3の試料に含まれるJurkat細胞およびA549細胞の数を上記式(2)により取得し、取得したJurkat細胞の数に基づいて、以下の式(8)によりJurkat細胞の除去率を算出した。
【0133】
Jurkat細胞除去率=第3の試料に含まれるJurkat細胞の数/(第2の試料に含まれるJurkat細胞の数+第3の試料に含まれるJurkat細胞の数)×100(%) …(8)
【0134】
さらに、回収した第2の試料および第3の試料に含まれるA549細胞を上記式(2)により取得し、取得したA549細胞の数に基づいて、上記式(5)によりA549細胞の回収率を算出した。
【0135】
図25は、粒子分離チップCP11~CP16のJurkat細胞の除去率およびA549細胞の回収率を示すグラフである。
【0136】
図25の上段に示すように、いずれの粒子分離チップにおいても、通常の血球成分(赤血球、白血球および血小板など)に対応するJurkat細胞を分離し、第3の試料として除去できることが分かった。また、
図23の上段に示したように、粒子分離チップCP11~CP16では、多孔シートの構成のみが異なっている。
図17に示したように、多孔シートPS1~PS6は、概ねこの順に孔31の孔径が大きくなっている。したがって、
図25の上段の結果から、孔31の孔径が大きくなるほど、通常の血球成分に対応するJurkat細胞を除去できることが分かった。
【0137】
図25の下段に示すように、いずれの粒子分離チップにおいても、CTCに対応するA549細胞を分離し、第2の試料として回収できることが分かった。また、多孔シートPS1~PS6は概ねこの順に孔径が大きくなっているため、
図25の下段の結果から、孔31の孔径が小さくなるほど、CTCに対応するA549細胞を回収できることが分かった。
【0138】
<スループットに関する調査>
次に、発明者らは、実施例1~3に示した構成の粒子分離チップを用いることにより、上記非特許文献1に記載の従来の粒子分離手法(比較例)に対して、どの程度スループットが高められるかを調査した。
【0139】
比較例では、PBSで10倍に希釈した全血1mLが、25μL/minの流速で流路に導入されており、全血のスループットは、2.5μL/minである。したがって、比較例によれば、全血5mLの粒子分離処理にかかる時間は、2000分(約33時間)である。これに対し、実施例1~3に示した構成の粒子分離チップ1では、全血(実施例1~2)および細胞懸濁液(実施例3)のスループットを50μL/min以上に設定できる。したがって、実施形態によれば、全血5mLの粒子分離処理にかかる時間は、100分以下となる。このように、実施例1~3によれば、比較例と比較して、大幅にスループットを向上できる。
【0140】
図26は、粒子分離チップCP11~CP16の各出口への流量を示すグラフである。
【0141】
図26において、廃液1~3、5~7は、それぞれ、Y軸方向に並ぶ6つの出口213(
図18の右下を参照)から取得される第3の試料を示している。すなわち、廃液1は、主流路100よりもY軸方向下側に位置する3つの出口213のうち、最もY軸方向下側の出口213から取得される第3の試料であり、廃液3は、主流路100よりもY軸方向下側に位置する3つの出口213のうち、最もY軸方向上側の出口213から取得される第3の試料であり、廃液5は、主流路100よりもY軸方向上側に位置する3つの出口213のうち、最もY軸方向下側の出口213から取得される第3の試料であり、廃液7は、主流路100よりもY軸方向上側に位置する3つの出口213のうち、最もY軸方向上側の出口213から取得される第3の試料である。回収液4は、出口104から取得される第2の試料を示している。
図26の縦軸は、粒子分離チップCP11~CP16ごとの、廃液1~3、回収液4および廃液4~7から取得される試料の重量比率を示している。
【0142】
廃液1~3、5~7の重量比率を参照すると、主流路100に近い出口213(すなわち、主流路100の下流側に位置する流路201に接続された出口213)から取得された第3の試料ほど、重量比率が小さくなっている。また、粒子分離チップCP11~CP16には、互いに異なる多孔シートPS1~PS6が設置されているものの、同一の出口から取得される廃液および回収液の重量比率はほぼ同じである。このことから、実施例3のように多孔シートPS1~PS6が構成された場合、多孔シートによる流体抵抗の違いをほぼ無視できることが分かる。言い換えれば、この場合、分岐流路200の流路201への流量は、流路201による流体抵抗が支配的であることが分かる。
【0143】
図27は、粒子分離チップCP11~CP16の粒径ごとの回収率を示すグラフである。
【0144】
図27において、横軸は細胞の粒径を示しており、縦軸は上記式(7)により算出された回収率である。
図27には、便宜上、回収率70%を示すカットオフが破線で示されている。
【0145】
上述したように、多孔シートPS1~PS6は概ねこの順に孔31の孔径が大きくなっている。また、
図27のグラフを参照すると、粒子分離チップCP11~CP16において、この順に、孔径が大きくなるほどカットオフを上回る細胞の粒径が大きくなっている。例えば、粒子分離チップCP11では、カットオフを上回る細胞の粒径は約11.5μmであり、粒子分離チップCP16では、カットオフを上回る細胞の粒径は約16.3μmである。このことから、多孔シートの孔径が大きくなると、主流路100および分岐流路200の構成が同じであっても、回収率が変化し、比較的大きな粒径の細胞を主として回収しやすくなることが分かる。
【0146】
すなわち、基本的には粒子分離チップの液除去率によって、分岐流路200へと分離されず主流路100を通って回収される粒子の粒径が決まるものの、主流路100を通って回収される所定の粒径の粒子の割合は、多孔シートの孔径によっても変化することが分かる。
【0147】
なお、粒子分離チップCP11に設置されている多孔シートPS1と、粒子分離チップCP12に設置されている多孔シートPS2とを比較すると、
図17に示したように、孔径は互いに同じ12μmであるが、多孔シートPS2の開孔率20.9%は、多孔シートPS1の開孔率36.9%より小さい。すなわち、多孔シートPS2の孔31の数は、多孔シートPS1の孔31の数より少ない。また、
図26に示したように、粒子分離チップCP11、CP12の各出口から取得される試料の重量比率はほぼ同じである。このことから、1つの孔31から分岐流路200へと流れる第3の試料の流量は、粒子分離チップCP11より粒子分離チップCP12の方が大きい。このように、1つの孔31に流れる流量が大きいと、孔31へと細胞を引き込む力が大きくなる。このような理由で、
図27の回収率に示すように、比較的大きな粒径の細胞(例えば、粒径12.5μm~18μmの細胞)の回収率については、粒子分離チップCP11より粒子分離チップCP12の方が小さくなっていると考えられる。
【0148】
<分岐流路への排出量のシミュレーション>
次に、発明者らは、主流路100から分岐流路200へ流れる試料の流量(排出量)をシミュレーションにより調査した。
【0149】
図28の上段は、本シミュレーションに係る、主流路100の流路120と、分岐流路200の流路201との構成を模式的に示す図である。
【0150】
本シミュレーションでは、流路120に対して流路201が1本だけ配置されており、流路120と流路201との間の分岐箇所Bには、多孔シート30が配置されている。本シミュレーションでは、流路120に対してX軸方向に試料を流し、多孔シート30を介して流路201に排出された試料の流量をシミュレーションにより算出した。
【0151】
図28の下段は、本シミュレーションに係る、分岐流路200への試料の排出割合の結果を示すグラフである。
【0152】
図28の下段のグラフにおいて、横軸は、流路201のY軸方向の位置を示しており、中央は、流路120のY軸方向の中央位置に対応し、左端および右端は、それぞれ、流路120のY軸方向の一端および他端に対応する。縦軸は、分岐流路200の流路201への試料の排出割合(%)を示している。
【0153】
図28の下段のグラフにおいて実線で示すように、流路120から流路201へと流れる試料の流量は、分岐箇所Bにおいて、中央よりも左端および右端の方が多い。このように、左端および右端において試料の高さ(
図11の高さh)が大きくなると、試料に第1の粒子(例えば、CTC)が含まれる場合、両端において第1の粒子が意図せず分岐流路200へと排出されてしまう。また、中央において試料の高さが極端に小さくなるため、試料に第2の粒子(例えば、赤血球、白血球および血小板)が含まれる場合、中央において第2の粒子が分岐流路200へと排出されにくくなる。発明者らの検討によれば、粒径が14.5μm以下の第2の粒子を分岐流路200へと流すためには、例えば、中央付近の排出割合Fminを、カットオフ(1.8%)程度まで高める必要がある。
【0154】
このような理由から、上記実施形態では、第1の試料に含まれる第1の粒子が、分岐流路200へと流れず、第1の試料に含まれる第2の粒子が分岐流路200へと流れるように、入口103から流されるシース液によって、第1の試料が、流路120において中央付近に寄せられる。これにより、第1の粒子と第2の粒子とを適正に分離できる。また、第1の試料が流路120の両端に多く流れることが抑制されるため、分岐箇所Bにおいて満遍なく粒子の分離を行って、第2の粒子を効率的に分離できる。
【0155】
<粒子分離チップおよび粒子分離装置の効果>
図6に示したように、粒子分離チップ1は、内部にマイクロ流路1aを有する上基板10および下基板20(基板)と複数の孔31の形成された多孔シート30とを含む。マイクロ流路1aは、主流路100および分岐流路200を備える。主流路100は、上流側に設けられた第1の粒子および第1の粒子より小さい第2の粒子を含む第1の試料の入口101と、下流側に設けられた主に第1の粒子を含む第2の試料が取り出される出口104(第1の出口)と、を有する。分岐流路200は、X軸方向(主流路100の流れ方向)に沿った複数の分岐箇所B(
図9参照)において主流路100と連通し、下流側に第2の粒子を含む第3の試料が取り出される出口213(第2の出口)を有する。複数の分岐箇所Bにおいて、主流路100と分岐流路200は多孔シート30の孔31を介して連通する。
【0156】
この構成によれば、主流路100と分岐流路200は、複数の分岐箇所Bにおいて、多孔シート30の孔31を介して連通する。これにより、製品開発現場や臨床現場において十分な試料処理能力(スループット)を発揮できる。
【0157】
また、
図11に示したように、多孔シート30の各々の孔31によって、主流路100から分岐流路200へと第2の粒子を移動させる試料の流れを形成できる。このため、分岐流路200へと向かう第2の粒子の試料の流れを、多孔シート30の複数の孔31に分散させることができる。これにより、効率的に第2の粒子を分岐流路200へと分離させることができる。よって、主流路100および分岐流路200の流量を高めて、粒子分離のスループットを効率的に高めることができる。
【0158】
また、分岐流路200の幅を広げることができるため、血液試料に細胞の凝集塊が含まれる場合でも、目詰まりなく粒子分離を行うことができる。例えば、第1の粒子としてCTCが想定される場合、CTCはクラスタを形成している場合がある。このような場合でも、CTCのクラスタを目詰まりなく回収できるため、血液試料に含まれるCTCに基いて診断を適正に行うことができる。
【0159】
また、全血内の不要な血球(例えば、赤血球)を溶血することなく、全血を第1の試料として用いることができる。これにより、溶血剤を用いて第1の試料を調製する手間を省略でき、溶血剤による取得対象の粒子の破損を回避できる。また、粒子分離処理を確実に行うために、全血を過度に希釈する必要がないため、粒子分離のスループットを高めることができる。
【0160】
図6に示したように、主流路100および分岐流路200が、入口101から導入された第1の試料のうち一部の試料が分岐流路200に流れ、残りの試料が主流路100に流れることにより、第1の粒子が出口104(第1の出口)から導出され、第2の粒子が出口213(第2の出口)から導出されるように構成されている。
【0161】
この構成によれば、分離された第1の粒子および第2の粒子を、出口104および出口213にそれぞれ集約できる。よって、第1の粒子および第2の粒子を円滑に回収できる。
【0162】
主流路100の流路120のY軸方向の幅(流路幅)は、500μm以上50mm以下である。また、例えば、第1の試料に含まれる全血の量が少ない場合には、主流路100の流路120のY軸方向の幅(流路幅)は、100μm以上50mm以下でもよい。
【0163】
このように主流路100の流路幅を設定することにより、高い粒子分離のスループットを実現できる。また、流路120のY軸方向の幅が100μm以上であると、100μm以下の第1の粒子を流路120に流すことができる。
【0164】
図9に示したように、分岐流路200は、分岐箇所Bにおいて主流路100と連通する、平面視で主流路100と非平行に配置された流路201を含む。
【0165】
この構成によれば、分岐流路200の複数の流路201の長さを、下基板20の面内方向に円滑に調整できる。よって、各々の流路201の長さを、水力学的濾過法に適する長さに円滑に設定できる。
【0166】
図9に示したように、分岐箇所Bにおいて主流路100と連通する流路201は、平面視で主流路100と交差して配置され、第3の試料を主流路100の両側に流す。
【0167】
この構成によれば、分岐流路200の流路201の入口(分岐箇所B)付近の主流路100の試料を、主流路100の幅方向に偏りなく流路201へと流すことができる。このため、流路201の入口の範囲内における多孔シート30の全ての孔31に、粒子分離のための機能を適正に発揮させることができる。よって、粒子の分離を効率的に行うことができる。
【0168】
分岐流路200は、分岐箇所Bにおいて主流路100と連通する流路201を、2本以上15000本以下含む。
【0169】
この構成によれば、流路201が2本以上設けられることにより、少なくとも水力学的濾過を実現しつつ、四辺が150mm程度の粒子分離チップ1において流路201を数多く設けることができる。
【0170】
図4、5に示したように、分岐流路200は、粒子分離チップ1の使用状態において主流路100の下方に配置されている。
【0171】
この構成によれば、重力を利用して第2の粒子を含む第3の試料を分岐流路200に導入することができる。よって、粒子の分離効率を円滑に高めることができる。
【0172】
また、主流路100を形成するための凹部を下面に有する上基板10と、分岐流路200を形成するための凹部を上面に有する下基板20とを、多孔シート30を介して重ねて接合することにより、粒子分離チップ1を形成できる。よって、粒子分離チップ1を簡易に形成できる。
【0173】
図6に示したように、主流路100は、分岐箇所B(
図9参照)より上流側に設けられたシース液の入口102、103をさらに有する。
【0174】
この構成によれば、
図7、8に示したように、シース液によって、第1の試料が流れる範囲を粒子の分離に適する範囲に制限できる。よって、効率的に粒子を分離できる。
【0175】
図6に示したように、シース液の入口102は、主流路100を流れる第1の試料の上側からシース液を導入するための入口である。
【0176】
この構成によれば、
図8に示したように、第1の試料は、厚さ方向の上部が制限された状態で分岐流路200の入口(分岐箇所B)に流れるため、第2の粒子の取りこぼしを抑制できる。
【0177】
図6に示したように、シース液の入口103は、主流路100を流れる第1の試料の両側からシース液を導入するための入口である。
【0178】
この構成によれば、
図8の中段および下段に示すように、第1の試料は、幅方向の両端が制限された状態で分岐流路200の入口(分岐箇所B)に流れる。これにより、
図28のシミュレーションにおいて説明したように、第1の粒子と第2の粒子とを適正に分離でき、分岐箇所Bにおいて満遍なく粒子の分離を行って、第2の粒子を効率的に分離できる。
【0179】
主流路100の上流側における分岐箇所Bから出口213(第2の出口)までの分岐流路200の流体抵抗は、主流路100の下流側における分岐箇所Bから出口213(第2の出口)までの分岐流路200の流体抵抗より大きい。
【0180】
この構成によれば、各分岐箇所Bにおける主流路100の流量に対する分岐流路200への流量の割合である液除去率を、分岐箇所Bごとに互いに近づけることができる。よって、一定サイズの第2の粒子を分離できる。
【0181】
分岐流路200は、複数の分岐箇所Bにおいて主流路100とそれぞれ連通する、平面視で主流路100と非平行に配置された複数の流路201と、複数の流路201と出口213(第2の出口)とを接続する中継流路211、212と、を含む。主流路100の上流側の分岐箇所Bにおいて主流路100と連通する流路201の長さは、主流路100の下流側の分岐箇所Bにおいて主流路100と連通する流路201の長さより長い。
【0182】
この構成によれば、簡易な構成で、主流路100の上流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗を、主流路100の下流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗より大きく設定できる。
【0183】
マイクロ流路1aは、分岐箇所Bにおける主流路100の流量に対する分岐流路200への流量の割合である液除去率が、第2の粒子が分岐流路200に流れ、第1の粒子が主流路100に流れる値になるように形成されている。
【0184】
この構成によれば、水力学的濾過法により、第1の粒子と第2の粒子とを分離できる。
【0185】
マイクロ流路1aは、分岐箇所Bにおける主流路100の流量に対する分岐流路200への流量の割合である液除去率が、複数の分岐箇所Bにおいて、互いに実質的に同じ値になるように形成されている。
【0186】
この構成によれば、複数の分岐箇所Bにおいて、満遍なく一定のサイズの第2の粒子を分離できる。
【0187】
マイクロ流路1aは、分岐箇所Bにおける主流路100の流量に対する分岐流路200への流量の割合である液除去率が、複数の分岐箇所Bにおいて、0%より大きく50%以下になるように形成されている。
【0188】
この構成によれば、主流路100の深さ以下の第2の粒子を分岐流路に分離できる。
【0189】
多孔シートPS1~PS6は、主流路100と分岐流路200との交差面の開口の面積(分岐箇所Bの面積)に対する孔31の面積の割合である開孔率が、所定サイズの第1の粒子が所定の回収率で出口104(第1の出口)から回収される値になるように形成されている。
【0190】
この構成によれば、実施例2、3に示したように、所望のサイズの第1の粒子を所定の回収率で回収できる。
【0191】
多孔シート30、PS1~PS7の孔31の孔径は、30nm以上100μm以下である。
【0192】
この構成によれば、第1粒子の粒径が50nm~100μm程度である場合、第1の粒子が分岐流路200に流れることを抑制できるよう多孔シートを構成できる。
【0193】
多孔シート30、PS1~PS7は、開孔率が、前記複数の分岐箇所において、0%より大きく50%以下になるように形成されている。
【0194】
この構成によれば、多孔シートの強度を維持できる。
【0195】
第1の粒子の粒径は、30nm以上100μm以下である。
【0196】
この構成によれば、エクソソーム等のナノ粒子から比較的大きい循環腫瘍細胞まで、様々なサイズの第1の粒子を分離できる。
【0197】
入口101から導入される第1の試料は、血液試料であり、第1の粒子は、循環腫瘍細胞であり、第2の粒子は、白血球、赤血球および血小板である。
【0198】
腫瘍から血液中に漏出した血中循環腫瘍細胞(CTC)は、がん診断の因子として有用性が報告されており、非侵襲的な癌の検査として期待されている。しかしながら、CTCの血中の存在率は10mLあたり数個~数十個であるため、血液試料からCTCを分離して取り出すことは極めて困難である。しかしながら、上記構成によれば、希少細胞であるCTCを効率的に分離できる。また、粒子分離処理において試薬等が用いられないため、CTCにダメージが与えられることなくCTCを分離できる。
【0199】
図12に示したように、粒子分離装置2は、粒子分離チップ1と、粒子分離チップ1が載置される設置部41と、粒子分離チップ1における第1の試料の入口101およびシース液の入口102、103のそれぞれに第1の試料およびシース液を導入し、マイクロ流路1a(
図6参照)内の液体を送液する送液部61~63と、出口104(第1の出口)に連通する第1の粒子の第1回収部64と、出口213(第2の出口)に連通する第2の粒子の第2回収部65と、を備える。
【0200】
この構成によれば、粒子分離チップ1を設置部41に載置し、送液部61~63を駆動して第1の試料およびシース液を導入することにより、第1回収部64および第2回収部65から、それぞれ第1の粒子および第2の粒子を円滑に回収できる。
【0201】
<その他の変更例>
上流側における分岐箇所Bから出口213までの分岐流路200の流体抵抗を、下流側における分岐箇所Bから出口213までの分岐流路200の流体抵抗より大きくするために、上流側における流路201のY軸方向の長さが、下流側における流路201のY軸方向の長さより長く設定された。しかしながら、これに限らず、上流側における流路201の断面積が、下流側における流路201の断面積より小さく設定されてもよい。
【0202】
図29は、この場合の変更例に係る、分岐流路200の構成を模式的に示す図である。
図29の上段は、分岐流路200の近傍の構成を示す平面図であり、
図29の下段は、下基板20に形成された流路201に対応する凹部の構成を示す断面図である。
【0203】
図29の上段に示すように、複数の流路201のY軸方向の長さは、互いに同じである。
図29の下段に示すように、複数の流路201のX軸方向の幅は、互いに同じであり、上流側における流路201のZ軸方向の高さが、下流側における流路201のZ軸方向の高さより小さく設定されている。これにより、上流側における流路201の断面積が、下流側における流路201の断面積より小さく設定されている。この構成においても、簡易な構成で、主流路100の上流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗を、主流路100の下流側の分岐箇所Bにおける流体抵抗より大きく設定できる。
【0204】
なお、断面積の設定において、流路201のX軸方向の幅とZ軸方向の高さの両方が調整されてもよい。また、流体抵抗の設定において、複数の流路201のY軸方向の長さおよび断面積の両方が調整されてもよい。
【0205】
複数の流路201は、主流路100の流路120の両側に延びて形成されたが、これに限らず、流路120の一方側にだけ延びて形成されてもよい。
【0206】
図30は、この場合の変更例に係る、分岐流路200の近傍の構成を示す平面図である。この変更例では、平面視において、複数の流路201の一方の端部が、流路120のY軸方向の一方の端部に一致している。
【0207】
この場合、分岐箇所Bにおいて分離された第2の粒子は、流路201に沿って一方向に移動する。このとき、流路201のY軸反対方向の端部において、流路201内で当該一方向の試料の流れが生じにくくなる。このため、分岐箇所Bにおいて第2の粒子の分離機能が発揮されにくくなり、結果、第2の粒子の分離効率が低下する。これに対し、上記実施形態のように、流路201が流路120の両側に延びる場合、分岐箇所Bにおける分離機能が適正に発揮され、第2の粒子の分離効率が高められる。
【0208】
図1に示したように、流路111の側面から流路111内にシース液を注入させるために、1つの入口103が中心軸CA上に配置されたが、これに限らず、2つの入口103が中心軸CAに対してY軸方向の両側に離れて配置されてもよい。この場合、2つの入口103にそれぞれ繋がる2つの流路が、流路111のY軸方向の両側面に繋げられる。これにより、上記実施形態および実施例と同様に、流路111の側面から流路111内にシース液を注入できる。ただし、この場合、2つの入口103にそれぞれシース液を注入するための2つの送液部63が必要となり、2つの送液部63の送液量を互いに等しくする必要があるため、粒子分離装置2の構成および制御が煩雑になる。したがって、上記のように、入口103は、中心軸CAに沿って1つだけ設けられことが好ましい。
【0209】
1枚の多孔シート30が、全ての分岐箇所Bに重なるように配置されたが、これに限らず、複数の多孔シート30が、それぞれ1以上の分岐箇所Bに重なるように配置されてもよい。
【0210】
複数の流路201は、平面視において、主流路100の流路120に対して垂直に延びて形成されたが、これに限らず、流路120に対して斜め方向に配置されてもよい。この場合も、複数の流路201の長さを、下基板20の面内方向に円滑に調整できる。
【0211】
上記実施形態では、
図2に示したように、中継流路211は、複数の流路201のY軸方向の両端部にそれぞれ1つずつ設けられ、上記実施例では、
図18に示したように、中継流路211は、複数の流路201のY軸方向の両端部にそれぞれ2つまたは3つずつ設けられた。これに限定されることなく、中継流路211のY軸方向の両端部に、それぞれ4つ以上の中継流路211が設けられてもよい。
【0212】
上記実施形態では、
図2に示したように、一方の中継流路211が全ての流路201のY軸方向の一方の端部に繋がり、一方の中継流路211に2つの出口213が接続された。これに限らず、一方の中継流路211に、1つまたは3以上の出口213が接続されてもよい。上記実施例では、
図18に示したように、1つの中継流路211に1つの出口213が接続された。これに限らず、1つの中継流路211に複数の出口213が接続されてもよく、複数の中継流路211に1つの出口213が接続されてもよい。
【0213】
上記実施形態では、
図1に示したように、主流路100の下流側に、1つの出口104が配置されたが、複数の出口104が配置されてもよい。
【0214】
上記実施例では、第1の粒子がCTCであり、第2の粒子が赤血球、白血球および血小板であったが、第1の粒子および第2の粒子の組合せはこれに限らない。例えば、第1の粒子が、エクソソーム等の細胞外小胞であり、第2の粒子が、細胞外小胞より小さいタンパク質やデブリスでもよい。
【0215】
第1の粒子が取得対象の粒子であり、第2の粒子が除去対象の粒子であったが、これに限らず、第1の粒子が除去対象の粒子であり、第2の粒子が取得対象の粒子でもよい。この場合も、粒子の大きさに基づいて、高いスループットで第1の粒子と第2の粒子とを分離し、第2の粒子を取得できる。
【0216】
入口101から導入される第1の試料は、血液試料であったが、これに限らない。第1の試料に含まれる大きさの異なる2種類の粒子が存在し、これら2種類の粒子が粒子分離チップ1により分離可能であれば、第1の試料は、血液以外の体液(脳脊髄液、腹水、胸水、滑液、腹膜透析排液等)や、体液から調製された試料でもよく、尿や、尿から調製された試料でもよい。
【0217】
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0218】
1 粒子分離チップ
1a マイクロ流路
2 粒子分離装置
10 上基板(基板)
20 下基板(基板)
30 多孔シート
31 孔
41 設置部
61~63 送液部
64 第1回収部
65 第2回収部
100 主流路
101 入口
102、103 入口(シース液の入口)
104 出口(第1の出口)
200 分岐流路
201 流路
211、212 中継流路
213 出口(第2の出口)
B 分岐箇所
CP1~CP5、CP11~CP16 粒子分離チップ
SP1~SP7 多孔シート