(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030717
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】ウェットシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/05 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
D06M15/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136254
(22)【出願日】2023-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】592163789
【氏名又は名称】大一紙工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004152
【氏名又は名称】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 仁
(72)【発明者】
【氏名】金野 晴男
(72)【発明者】
【氏名】船津 啓
(72)【発明者】
【氏名】杉村 裕介
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA01
4L033AA04
4L033AB07
4L033AC15
4L033CA03
(57)【要約】
【課題】断紙が起こりにくいウェットシートの製造方法を提供すること。
【解決手段】長尺状の基材シートに、平均繊維長450nm以下のセルロースナノファイバーを0.1質量%以上3.0質量%以下含む塗工液を、ウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下で噴霧する噴霧工程、
前記噴霧工程後の基材シートを乾燥する乾燥工程、
前記乾燥工程後の基材シートを折り畳む折り加工工程、
を有するウェットシートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状の基材シートに、平均繊維長450nm以下のセルロースナノファイバーを0.1質量%以上3.0質量%以下含む塗工液を、ウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下で噴霧する噴霧工程、
前記噴霧工程後の基材シートを乾燥する乾燥工程、
前記乾燥工程後の基材シートを折り畳む折り加工工程、
を有することを特徴とするウェットシートの製造方法。
【請求項2】
前記基材シートが、不織布であることを特徴とする請求項1記載のウェットシートの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥が、自然乾燥であることを特徴とする請求項1記載のウェットシートの製造方法。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが、酸化セルロースナノファイバーであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のウェットシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェットシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェットシートとして、床やトイレ等の清掃のための清掃用ウェットシート、汗や乳幼児・被介護者等の汚れを拭き取るための身体拭き取り用ウェットシート、化粧水や乳液を染み込ませた化粧用ウェットシート等が知られている。
【0003】
このような各種ウェットシートは、一般的に、長尺状の基材シートが搬送されながら折り板やホールディングマシーンにより折り畳まれ、製品サイズに裁断された後に積層され、その目的に応じた薬液が含浸されて製造される。例えば、特許文献1には、原反ロールから原紙を繰り出す工程と、折り板を用いた折り加工により、原紙を流れ方向に二つ折りにする工程と、フォールディングロールを用いた折り加工により、二つ折りにされた原紙を幅方向に折り畳む工程と、折り畳まれた原紙の中央部を、バンドソーにより切断する工程と、バンドソーを冷却する工程と、集塵機で紙粉を捕集する工程と、を含む、紙粉の発生を抑え、繊維の融着を防止できる不織布シートの製造方法が提案されている。
【0004】
ここで、ウェットシートに用いられる基材シートは、多くの薬液を保持できるように空隙が多いことが求められるため低坪量である。低坪量の基材シートは強度が低いため、折り板と接触する箇所を起点として断紙が発生しやすく、また、ホールディングマシーンで折り畳まれる際に基材シートが強く引っ張られるため断紙が発生しやすい。
ウェットシートは、折り加工の際の負荷を抑えて断紙の発生を防ぐため、ラインスピードを抑えて製造されており、生産性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、断紙が起こりにくいウェットシートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.長尺状の基材シートに、平均繊維長450nm以下のセルロースナノファイバーを0.1質量%以上3.0質量%以下含む塗工液を、ウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下で噴霧する噴霧工程、
前記噴霧工程後の基材シートを乾燥する乾燥工程、
前記乾燥工程後の基材シートを折り畳む折り加工工程、
を有することを特徴とするウェットシートの製造方法。
2.前記基材シートが、不織布であることを特徴とする1.に記載のウェットシートの製造方法。
3.前記乾燥が、自然乾燥であることを特徴とする1.または2.に記載のウェットシートの製造方法。
4.前記セルロースナノファイバーが、酸化セルロースナノファイバーであることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のウェットシートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法により、ウェットシートの製造工程における断紙を防止することができる。本発明の製造方法は、生産速度を速くしても断紙が起こりにくいため、生産性を高めることができる。
本発明の製造方法は、搬送中の基材シートにセルロースナノファイバーを含む塗工液を噴霧するが、ウェット塗工量が少ないため乾燥が容易であり、搬送中に自然乾燥も可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
・基材シート
基材シートは、ウェットシートの基材として利用可能なものを特に制限することなく使用することができる。基材シートは、例えば、不織布、紙が挙げられ、強度の点から不織布が好ましい。
基材シートの原料繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、レーヨン、コットン等のセルロース系繊維;ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ乳酸繊維、ポリブチレンサクシネートアジペート繊維、ポリブチレンサクシネート繊維、ポリカプロラクトン繊維、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)繊維等の合成繊維;ガラスウール等の無機繊維の1種または2種以上が挙げられ、これらの中で、セルロース系繊維または生分解性である合成繊維が、ゴミとして流出した場合の環境への悪影響が小さい点で好ましい。
【0010】
基材シートは、水解性でもよく、非水解性でもよい、水解性の場合は、使用後にトイレ等に流して廃棄することができる。なお、水解性とは、フロック状水分散時間(脱イオン水300mlを300mlビーカーに入れ、スターラーで650rpmに攪拌しながら、3cm角の試験片を1枚投入し、試験片が2つ以上に千切れる時間)が、30秒以内であることを意味する。
【0011】
基材シートは、公知の不織布または紙の製造方法により得ることができる。不織布は、スパンレース不織布であることが、接着剤を含まないことから人体へ使用する際の安全性が高く、また、繊維間の空隙が多く薬液を多く含むことができる点から好ましい。
基材シートは、坪量が20g/m2以上60g/m2以下であることが、強度・軽量さ・薬液含浸量のバランスの点から好ましい。基材シートの坪量は、23g/m2以上がより好ましく、26g/m2以上がさらに好ましく、また、56g/m2以下がより好ましく、52g/m2以下がさらに好ましい。
【0012】
・セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバー(以下、CNFともいう)は、パルプ等のセルロース原料を、必要に応じて化学変性等の処理を行った後で、解繊処理することにより得られる微細繊維である。CNFの繊維幅(平均繊維径)は、通常、約3nm~数百nm程度であり、例えば、3~500nm程度である。
本発明で使用するCNFは、平均繊維長が450nm以下である。本発明は、平均繊維長が450nm以下と短いCNFを用いることにより、噴霧装置の目詰まりが起こりにくいため、ノズルの口径を小さくして噴霧する液滴の径を小さくすることができる。そして、液滴が小さいことにより、乾燥が容易となるとともに、基材シートの面内に均一にCNFを付着させることができる。
【0013】
CNFの平均繊維長は、好ましくは400nm以下であり、より好ましくは350nm以下である。平均繊維長の下限は特に限定されないが、CNFによる基材シートの強度向上効果を得るためには、100nm以上が好ましく、150nm以上がより好ましい。また、本発明で使用するCNFは、長さ600nm以上のCNFの本数割合が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることがよりさらに好ましい。
本発明のCNFは、平均繊維径が3nm以上100nm以下であることが好ましく、20nm以下のものがさらに好ましい。
【0014】
CNFの平均繊維長と平均繊維径は、原子間力顕微鏡(AFM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、200本程度の繊維を観察した結果から得られる繊維長、繊維径の平均値を算出することによって得ることができ、具体的には以下の測定方法により求めることができる。
<数平均繊維径>
CNFの濃度が0.001質量%となるように希釈したCNF水分散液を調製する。この水分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成し、原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の任意の30本以上について断面高さを計測し、数平均繊維径を算出する。
<数平均繊維長>
マイカ切片上に固定したCNFの原子間力顕微鏡像(3000nm×3000nm)から、任意の30本以上について繊維長を測定し、数平均繊維長を算出する。繊維長測定は、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事)を用い、長さ10nm~2000nmの範囲で行う。
【0015】
CNFは、後述するパルプなどのセルロース原料に機械的な力を加えて微細化(解繊)することにより得ることができる。セルロース原料としては、後述するような未変性のセルロースや製紙用のパルプ等を用いてもよいし、製紙用のパルプ等をさらに化学変性させた化学変性セルロースを用いてもよい。化学変性させたセルロースの例としては、これらに限定されないが、セルロース鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロースや、カチオン性基を導入したカチオン変性セルロースが挙げられる。これらの中で、繊維長の短いCNFを得ることが容易であるため、アニオン変性セルロースを用いることが好ましい。特に、アニオン変性セルロースの中でも、アニオン性基としてカルボキシ基を導入したカルボキシ化セルロース(酸化セルロース)は、本発明に用いるCNFの原料として好適である。
【0016】
(セルロース原料)
CNFの原料となるセルロースとしては、植物、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られており、本発明ではそのいずれも使用できる。植物由来のものとしては、例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)が挙げられる。本発明においては、植物または微生物由来のセルロース繊維が好ましく、植物由来のセルロース繊維がより好ましい。セルロース原料は、以下に説明するように化学変性を行ってもよい。上述のセルロース原料または化学変性したセルロース原料(化学変性セルロース)の繊維幅をナノメートルレベルにまで微細化することにより、CNFまたは化学変性CNFを得ることができる。
【0017】
(化学変性セルロース)
化学変性セルロースの例としては、これらに限定されないが、セルロース鎖にアニオン性基を導入したアニオン変性セルロースや、カチオン性基を導入したカチオン変性セルロースが挙げられる。アニオン変性セルロースの例としては、カルボキシ基を導入したカルボキシ化セルロース、カルボキシメチル基を導入したカルボキシメチル化セルロース、リン酸エステル基等を導入したリン酸エステル化セルロースなどが挙げられる。これらの中では、アニオン変性セルロースを用いることが好ましく、また、カルボキシ化セルロースを用いることが好ましい。
【0018】
(カルボキシ化セルロース)
アニオン変性セルロースの一例として、カルボキシ化(酸化)したセルロース(カルボキシ化セルロース)が挙げられる。カルボキシ化セルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシ化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されるものではないが、カルボキシ化の際には、カルボキシ化セルロースの絶乾質量に対して、カルボキシ基の量が0.6~3.0mmol/gとなるように調整することが好ましく、0.6~2.0mmol/gとなるように調整することがさらに好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gになるように調整することがさらに好ましい。
【0019】
カルボキシ化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物もしくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシ基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO-)とを有するセルロースを得ることができる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
【0020】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.05~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1~4mmol/L程度が好ましい。
【0021】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0022】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。酸化剤の使用量としては、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0023】
セルロースの酸化は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4~40℃が好ましく、また15~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシ基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱容易性や、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0024】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5~6時間、例えば、0.5~4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られたカルボキシ化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0025】
カルボキシ化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化(カルボキシ化)されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1~30質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、カルボキシ化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
【0026】
カルボキシ化セルロースのカルボキシ基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。なお、カルボキシ化セルロースにおけるカルボキシ基の量と、同カルボキシ化セルロースを解繊することにより得たカルボキシ化CNFのカルボキシ基の量とは、通常同じである。
カルボキシ化セルロースを後述の方法で解繊することにより、カルボキシ化CNFを製造することができる。
【0027】
(カルボキシメチル化セルロース)
アニオン変性セルロースの一例として、カルボキシメチル化セルロースが挙げられる(以下、カルボキシメチル化を「CM化」という)。CM化セルロースは、上記のセルロース原料を公知の方法でCM化することにより得てもよいし、市販品を用いてもよい。いずれの場合も、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01~0.50となるものが好ましい。そのようなCM化セルロースを製造する方法の一例として次のような方法を挙げることができる。セルロース原料に、溶媒として3~20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を添加する。なお、低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60~95質量%が好ましい。マーセル化剤としては、セルロース原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。セルロース原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0~70℃、好ましくは10~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理を行う。その後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30~90℃、好ましくは40~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う。
【0028】
なお、本明細書において、CM化CNFの調製に用いるアニオン変性セルロースの一種である「カルボキシメチル化セルロース」または「CM化セルロース」は、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、「カルボキシメチル化セルロース」または「CM化セルロース」は、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化セルロース」または「CM化セルロース」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性高分子の一種であるカルボキシメチルセルロースの水分散液を観察しても、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化セルロース」または「CM化セルロース」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性高分子のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。
【0029】
CM化セルロースを後述の方法で解繊することにより、CM化CNFを製造することができる。なお、カルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度と、同CM化セルロースを解繊することにより得たCM化CNFのカルボキシメチル置換度とは、通常同じである。
【0030】
(リン酸エステル化セルロース)
アニオン変性セルロースの一例として、リン酸エステル化セルロースが挙げられる。リン酸エステル化セルロースは、前述のセルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法により得ることができる。
【0031】
リン酸系化合物としては、リン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸、メタリン酸、ピロリン酸あるいはこれらの塩またはエステルが挙げられる。これらの中でも、低コストであり、扱いやすく、解繊効率が向上するなどの理由から、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が好ましく、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩がより好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。これらは1種、あるいは2種以上を併用できる。また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが好ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、セルロース繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0032】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例として以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10質量%のセルロース原料の分散液に、リン酸系化合物を撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物の添加量はリン元素量として、0.2~500質量部であることが好ましく、1~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物の割合が前記下限値以上であれば、リン酸エステル化CNFの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるのでコスト面から好ましくない。
【0033】
セルロース原料、リン酸系化合物の他に、塩基性を示す窒素含有化合物を添加してもよい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。塩基性を示す窒素含有化合物の例としては、これに限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。塩基性を示す窒素含有化合物の添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2~1000質量部が好ましく、100~700質量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。リン酸エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0034】
リン酸エステル化セルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノスケールの繊維幅へと解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、CNFとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化セルロースは、煮沸した後、冷水で洗浄することが好ましい。
【0035】
リン酸エステル化セルロースを後述の方法で解繊することにより、リン酸エステル化CNFを製造することができる。なお、リン酸エステル化CNFにおけるリン酸基置換度と、同リン酸エステル化セルロースを解繊することにより得たリン酸エステル化CNFのリン酸基置換度とは、通常同じである。
【0036】
(カチオン変性セルロース)
化学変性CNFの調製に用いる化学変性セルロースとして、前記カルボキシ化セルロースをさらにカチオン化したカチオン変性セルロースを使用してもよい。カチオン変性セルロースは、前記カルボキシ化セルロースに、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライトまたはそのハロヒドリン型などのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を、水または炭素数1~4のアルコールの存在下で反応させることによって得ることができる。
【0037】
グルコース単位当たりのカチオン置換度は0.02~0.50であることが好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノスケールの繊維幅へと解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分に解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、CNFとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たカチオン変性セルロースを解繊前に洗浄することが好ましい。当該カチオン置換度は、反応させるカチオン化剤の添加量、水または炭素数1~4のアルコールの組成比率によって調整できる。
【0038】
カチオン変性セルロースを後述の方法で解繊することにより、カチオン変性CNFを製造することができる。なお、カチオン変性セルロースにおけるカチオン置換度と、同カチオン変性セルロースを解繊することにより得たカチオン変性CNFのカチオン置換度とは、通常同じである。
【0039】
(解繊)
上記化学変性セルロース等を含むセルロース原料を解繊することにより、CNFを得ることができる。解繊に使用する装置は特に限定されないが、強力なせん断力を印加することができる高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式、キャビテーション式などの装置を用いることが好ましい。特に、効率よく解繊するには、解繊に供するセルロース原料の分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて、予備処理を施してもよい。
解繊により得られるCNFの平均繊維長は、装置の種類や圧力などの解繊条件、また予備処理の組合せなどにより調整することができる。
【0040】
(CNFを含む塗工液)
上記の解繊により、CNFを含む分散液が得られ、この分散液をそのまま、あるいは希釈、溶媒置換等して塗工液とすることができる。
塗工液の分散媒は特に限定されず、水、親水性有機溶媒、疎水性有機溶媒、またはこれらの混合溶媒が挙げられ、水、または水と親水性有機溶媒との混合溶媒が好ましい。なお、親水性有機溶媒とは、水と相溶する有機溶媒を意味し、その例として、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、およびこれらの組合せが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、2-プロパノール等の炭素数が1~4の低級アルコールが好ましく、安全性および入手容易性の観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。
【0041】
化学変性セルロースの多くは水を分散媒として製造されるので、アニオン変性セルロースやカルボキシ化セルロースなどの化学変性セルロース由来の化学変性CNFを用いる場合は、化学変性セルロースを解繊して得た化学変性CNFの水分散液をそのまま、あるいは親水性有機溶媒を加えて、塗工液とすることができる。
水と親水性有機溶媒との混合溶媒とする場合は、化学変性セルロースなどのセルロース原料の水分散液またはCNFの水分散液に親水性有機溶媒を添加するか、あるいは水分散液の一部を親水性有機溶媒に置換すればよい。混合溶媒中の親水性有機溶媒の量は、混合溶媒の質量に対し10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましい。混合溶媒中の親水性有機溶媒量の上限は限定されないが95質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましい。また、発明の効果を損なわない程度で、混合溶媒は疎水性有機溶媒を含んでいてもよい。
【0042】
「ウェットシートの製造方法」
本発明のウェットシートの製造方法は、
長尺状の基材シートに、平均繊維長450nm以下のセルロースナノファイバーを0.1質量%以上3.0質量%以下含む塗工液を、ウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下で噴霧する噴霧工程、
噴霧工程後の基材シートを、搬送しながら乾燥する乾燥工程、
乾燥工程後の乾燥した基材シートを折り畳む折り加工工程、
を有する。
【0043】
・噴霧工程
公知の方法により得られた長尺状の基材シートに対して、平均繊維長450nm以下のセルロースナノファイバーを0.1質量%以上3.0質量%以下含む塗工液を、ウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下で噴霧する。
塗工液のウェット塗工量が少ないほど、乾燥が容易となるため、ウェット塗工量は4.0g/m2以下が好ましく、3.0g/m2以下がより好ましく、2.0g/m2以下がさらに好ましく、1.0g/m2以下がよりさらに好ましく、0.5g/m2以下がよりさらに好ましい。
【0044】
塗工液は、平均繊維長450nm以下のCNFを0.1質量%以上3.0質量%以下含む。塗工液中のCNF量が3.0質量%を超えると、塗工液が高粘度となり、均一に噴霧すること、小さな液滴で噴霧することが難しくなる。塗工液中のCNF量は、2.5質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。
塗工は、均一かつ広範囲に行われることが望ましい。ノズル吐出口から50cm離れた地点での噴霧範囲が半径5cm以上であることが好ましく、7.5cm以上であることがより好ましく、10cm以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明で使用する噴霧装置における微粒化装置の種類は特に限定されない。ロータリーアトマイザー式でもよく、ノズル式でもよい。ノズル式の場合、一流体ノズルでもよく、二流体ノズルでもよい。また、並流二流体ノズルでもよく、噴水式二流体ノズルでもよい。これらの中では、取り扱いが容易であることから、二流体ノズルをセットした噴霧装置を用いることが好ましい。
噴霧装置から噴霧された直後の液滴の位相ドップラー法によるザウター平均粒子径は、100μm以下が好ましい。液滴が小さいほど、基材シートに均一にCNFを付着させることができるため、液滴のこのザウター平均粒子径は、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましい。液滴のこのザウター平均粒子径の下限値は特に制限されないが、例えば、5μm以上である。用いる噴霧装置は、上記したザウター平均粒子径の液滴を噴霧できるように、ノズル径、空気圧、空気流量、液体流量、気体と液体の体積比等を調整することが好ましく、例えば、二流体ノズルを用いた噴霧装置の場合、液体最小通路径が0.5mm以上2mm以下、気体と液体の体積比(気体:液体)が600:1~1200:1であることが好ましい。
【0046】
・乾燥工程
噴霧工程後の基材シートを乾燥する。
本発明の製造方法は、噴霧工程におけるウェット塗工量が0.1g/m2以上5.0g/m2以下と僅かである。そのため、噴霧工程後の基材シートが折り加工工程に搬送される途上での自然乾燥が可能な場合がある。自然乾燥が可能である場合は、乾燥装置の導入が不要であるため低コストである。搬送中に自然乾燥されない場合は、乾燥装置を設ける必要があるが、本発明の製造方法はウェット塗工量が少ないためエネルギー消費の少ない乾燥装置で十分である。
【0047】
・折り加工工程
乾燥工程後の基材シートを折り畳む。
基材シートは、搬送されながら長手方向、幅方向のいずれか、または両方に折り畳まれる。折り畳む回数、長手方向と幅方向に折り畳まれる順番は、特に制限されない。本発明の製造方法において、基材シートは、平均繊維長450nm以下のCNFを含む塗工液が噴霧・乾燥された後に折り畳まれる。基材シートは、短繊維のCNFが均一に付着していることにより強度が向上しているため、折り加工時の断紙の発生を防止することができる。
【0048】
・その他の工程
本発明のウェットシートの製造方法は、上記した噴霧工程、乾燥工程、折り加工工程を有していればよく、その他の工程を有することもできる。例えば、折り加工工程において折り畳まれた基材シートを裁断する裁断工程を有することができる。さらに、折り加工工程あるいは裁断工程の前または後のいずれかまたは両方で薬液を含浸する含浸工程、含浸工程後の包装工程を有することができる。なお、含浸する薬液は、ウェットシートの用途に応じて、公知のものを特に制限することなく用いることができる。
【実施例0049】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0050】
・基材シート
非水解性不織布
原料繊維:レーヨン/PET=50/50(質量%)
坪量 :30g/m2
水解性不織布
原料繊維:NBKP/レーヨン=80/20(質量%)
坪量 :43g/m2
【0051】
<カルボキシ基量の測定>
カルボキシ化CNFの0.5質量%水分散液60mLを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出した:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕
=a〔mL〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
【0052】
<CNFの平均繊維径及び平均繊維長の測定>
CNFの濃度が0.001質量%となるように希釈したCNF水分散液を調製し、この水分散液をマイカ製試料台に薄く延ばし、50℃で加熱乾燥させて観察用試料を作成した。
原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の任意の200本について断面高さを計測して平均を取り、平均繊維径とした。
原子間力顕微鏡(AFM)にて観察した形状像の任意の200本について、画像解析ソフトWinROOF(三谷商事)を用い、長さ10nm~2000nmの範囲で繊維長を計測して平均を取り、平均繊維長とした。
【0053】
製造例1
・塗工液1(酸化セルロースナノファイバー分散液1)
漂白済み針葉樹由来溶解クラフトパルプ(バッカイ社製DKP)5kg(絶乾)を、TEMPO(Sigma Aldrich社)78g(0.5mol)と臭化ナトリウム755g(7.4mol)とを溶解した水溶液500Lに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に2M次亜塩素酸ナトリウム水溶液16Lを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した(酸化処理)。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応させた後、遠心分離機で濾過し、十分に水洗することでカルボキシ化セルロースを得た。これを水で5.0%(w/v)としたカルボキシ化セルロースのスラリーを調製し、ここに過酸化水素をカルボキシ化セルロースに対して2%(w/w)添加し、3M水酸化ナトリウムでpHを11.3に調整した。このスラリーを80℃の温度下に2時間おき、加水分解を行った。これを水で5.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザ(20℃、140MPa)で10回処理し、カルボキシ化CNF1を得た。得られたカルボキシ化CNFスラリーをホモディスパー(プライミクス社)を用いて2.5%(w/v)に希釈し、これを塗工液1とした。得られたカルボキシ化CNF1のカルボキシ基量は、1.7mmol/g、平均繊維径は3nm、平均繊維長は350nmであった。
【0054】
製造例2
・塗工液2 (酸化セルロースナノファイバー分散液2)
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)5kg(絶乾)をTEMPO(SigmaAldrich社)39gと臭化ナトリウム514gとを溶解した水溶液500Lに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を5.5mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物を、塩酸を用いて酸性化処理した後、遠心分離機で濾過してパルプを分離し、パルプを十分に水洗することでカルボキシ化セルロースを得た。これを水で1.0%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザ(20℃、150MPa)で3回処理し、カルボキシ化CNF2を得て、塗工液2とした。得られたカルボキシ化CNF2のカルボキシ基量は、1.6mmol/g、平均繊維径は3nm、平均繊維長は550nmであった。
【0055】
「実施例1」
折り板を備える長手方向での折り加工装置長尺状の基材ロールが繰り出される直後に、下記に示す二流体ノズルを備える噴霧装置を設置した。噴霧装置は、インバーター制御付き高粘度液輸送ポンプ(兵神モーノポンプ型式NY20、吐出量1~40L/min)の配管先端に、長さ150mmの可動式スーパーチューブと外部混合式ミニミストノズル(液体最小通路径1.0mm、空気圧0.1Mpa~0.5Mpa、空気流量28~84L/min、噴射水量14~292mL/min)を接続した。この噴霧装置の条件を調整し、位相ドップラー法によるザウター平均粒子径が45μmの液滴を噴霧した。
非水解性不織布である基材シートに対し、この噴霧装置を用いて製造例1で得た塗工液1をウェット塗工量0.1g/m2(100mg/m2)で噴霧し、1100枚/分の生産速度でウェットシートを3時間製造した。なお、塗工液が噴霧された原紙シートは、折り加工工程(折り板)に到達する前に搬送中に自然乾燥した。
基材シートが断紙することなく、安定して製造することができた。
【0056】
「比較例1」
塗工液を噴霧せず、生産速度を1000枚/分とした以外は実施例1と同様にしてウェットシートを製造した。なお、この生産速度は、従来の製造条件における値である。
基材シートが断紙することなく、安定して製造することができた。
「比較例2」
塗工液を噴霧しなかった以外は実施例1と同様にしてウェットシートを製造した。
製造開始1時間以内に、折り加工時の折り板との接触箇所を起点として、基材シートの断紙が発生した。
「比較例3」
塗工液1の代わりに塗工液2を用いた以外は、実施例1と同様にしてウェットシートを製造した。
製造開始直後は安定して噴霧することができたが、経時で噴霧装置が目詰まりを起こし、安定して噴霧(塗工)することができなくなった。その後、製造開始2時間以内に、折り加工時の折り板との接触箇所を起点として、基材シートの断紙が発生した。
【0057】
「実施例2」
水解性不織布を用い、生産速度を1150枚/分とした以外は、実施例1と同様にしてウェットシートを製造した。
基材シートが断紙することなく、安定して製造することができた。
「比較例4」
塗工液を噴霧せず、生産速度を1000枚/分とした以外は実施例2と同様にしてウェットシートを製造した。
基材シートが断紙することなく、安定して製造することができた。
「比較例5」
塗工液を噴霧しなかった以外は実施例2と同様にしてウェットシートを製造した。
製造開始1時間以内に、折り加工時の折り板との接触箇所を起点として、基材シートの断紙が発生した。
【0058】
【0059】
本発明である実施例1、2の製造方法により、断紙を起こすことなく、安定してウェットシートを製造することができた。本発明である実施例1、2の製造方法は、生産速度を従来の製造条件(比較例1、4)より10%以上速くすることができた。CNFを噴霧しないで製造速度を速くすると、断紙が発生した(比較例2、5)。本発明である実施例1、2の製造方法は、用いるセルロースナノファイバーが長繊維である条件(比較例3)よりも噴霧装置の目詰まりが起こりにくく、安定して噴霧(塗工)することができた。