(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030794
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】中和装置および中和方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/66 20230101AFI20250228BHJP
【FI】
C02F1/66 510S
C02F1/66 522A
C02F1/66 522B
C02F1/66 522F
C02F1/66 530A
C02F1/66 530B
C02F1/66 530C
C02F1/66 530D
C02F1/66 530G
C02F1/66 530K
C02F1/66 530L
C02F1/66 530Q
C02F1/66 540Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136389
(22)【出願日】2023-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 有香
(72)【発明者】
【氏名】山下 達也
(57)【要約】
【課題】懸濁物質を含む廃水のpHを高精度に調整する。
【解決手段】中和装置100は、収容部130と、収容部に廃水を供給する廃水供給部120と、廃水供給部によって収容部に供給される廃水のpHを検出するpH検出部180と、廃水供給部によって収容部に供給される廃水に含まれるSSの濃度を検出するSS検出部182と、SS検出部によって検出されたSSの濃度に基づいて、SSから溶出される水酸化物イオンの量を推定する推定部212と、推定部によって推定された水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算し、検出されたpHに基づいて中和剤の第2の供給量を演算し、第1の供給量および第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算する演算部214と、中和剤供給部を制御することにより、合計供給量の中和剤を供給する供給制御部216と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁物質を含む廃水を収容する収容部と、
前記収容部に前記廃水を供給する廃水供給部と、
前記収容部に中和剤を供給する中和剤供給部と、
前記廃水供給部によって前記収容部に供給される前記廃水のpHを検出するpH検出部と、
前記廃水供給部によって前記収容部に供給される前記廃水に含まれる前記懸濁物質の濃度を検出するSS検出部と、
前記SS検出部によって検出された前記懸濁物質の濃度に基づいて、前記懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定する推定部と、
前記推定部によって推定された前記水酸化物イオンの量に基づいて前記中和剤の第1の供給量を演算し、検出された前記pHに基づいて前記中和剤の第2の供給量を演算し、前記第1の供給量および前記第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算する演算部と、
前記中和剤供給部を制御することにより、前記合計供給量の前記中和剤を供給する供給制御部と、
を備える、中和装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記懸濁物質の濃度に溶出係数を乗算することにより、前記懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定する、請求項1に記載の中和装置。
【請求項3】
前記収容部には、排出口が設けられ、
前記廃水供給部によって前記収容部に供給された前記廃水が、前記排出口に向かって流れることで、前記収容部内において前記廃水の流れが形成され、
前記中和剤供給部は、流れている前記廃水に前記中和剤を供給する、請求項1または2に記載の中和装置。
【請求項4】
前記中和剤は、二酸化炭素である、請求項1または2に記載の中和装置。
【請求項5】
懸濁物質を含む廃水のpHを検出し、
前記廃水に含まれる前記懸濁物質の濃度を検出し、
検出された前記懸濁物質の濃度に基づいて、前記懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定し、
推定された前記水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算し、
検出された前記pHに基づいて前記中和剤の第2の供給量を演算し、
前記第1の供給量および前記第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算し、
前記廃水を収容する収容部に、前記合計供給量の前記中和剤を供給する、中和方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、中和装置および中和方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、土木建設工事で発生する濁水は、浄化処理が施された後、河川、湖沼、海等に放流される。濁水は、懸濁物質(Suspended Solids、SS)を含む廃水である。以下、懸濁物質を「SS」という場合がある。
【0003】
濁水の浄化処理として、濁水槽と、濁水槽に貯留された濁水のpHを計測するpH計と、濁水槽から排出された濁水に炭酸ガスを供給して中和する炭酸ガス供給装置とを備える技術が開示されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の技術において、炭酸ガス供給装置は、pH計の計測値に基づいて設定された量の炭酸ガスを供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1のような濁水のpHのみに基づいて、濁水を中和する技術では、濁水に含まれるSSによって、濁水のpHを目標値に調整できないという問題がある。具体的に説明すると、濁水のpHのみに基づいて、目標値となる中和剤の量を決定し、当該決定した量の中和剤を濁水に添加した場合、濁水は一旦目標値となるが、時間の経過に伴って濁水のpHが変化する場合がある。これは、中和剤の添加によって、濁水のpHが、例えば低下することにより、濁水に含まれるSS内のpHが相対的に高くなり、濁水中の水とSSとの間でpHの平衡が崩れ、SS内からアルカリ成分が濁水中に溶出してくることによると推察される。
【0006】
本開示は、このような課題に鑑み、懸濁物質を含む廃水のpHを高精度に調整することが可能な中和装置および中和方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る中和装置は、懸濁物質を含む廃水を収容する収容部と、収容部に廃水を供給する廃水供給部と、収容部に中和剤を供給する中和剤供給部と、廃水供給部によって収容部に供給される廃水のpHを検出するpH検出部と、廃水供給部によって収容部に供給される廃水に含まれる懸濁物質の濃度を検出するSS検出部と、SS検出部によって検出された懸濁物質の濃度に基づいて、懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定する推定部と、推定部によって推定された水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算し、検出されたpHに基づいて中和剤の第2の供給量を演算し、第1の供給量および第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算する演算部と、中和剤供給部を制御することにより、合計供給量の中和剤を供給する供給制御部と、を備える。
【0008】
また、推定部は、懸濁物質の濃度に溶出係数を乗算することにより、懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定するとしてもよい。
【0009】
また、収容部には、排出口が設けられ、廃水供給部によって収容部に供給された廃水が、排出口に向かって流れることで、収容部内において廃水の流れが形成され、中和剤供給部は、流れている廃水に中和剤を供給するとしてもよい。
【0010】
また、中和剤は、二酸化炭素であるとしてもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る中和方法は、懸濁物質を含む廃水のpHを検出し、廃水に含まれる懸濁物質の濃度を検出し、検出された懸濁物質の濃度に基づいて、懸濁物質から溶出される水酸化物イオンの量を推定し、推定された水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算し、検出されたpHに基づいて中和剤の第2の供給量を演算し、第1の供給量および第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算し、廃水を収容する収容部に、合計供給量の中和剤を供給する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、懸濁物質を含む廃水のpHを高精度に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る中和装置を説明する図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る中和方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第2の実施形態に係る中和装置を説明する図である。
【
図4】
図4は、実施例および比較例に係る実験条件、測定値、および、演算値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0015】
[第1の実施形態:中和装置100]
図1は、第1の実施形態に係る中和装置100を説明する図である。
図1において、実線の矢印は、廃水、中和剤、および、凝集剤等の液体および気体の流れを示す。また、
図1において、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0016】
中和装置100は、懸濁物質(SS)を含む廃水(濁水)を浄化する。中和装置100は、例えば、土木建設工事で発生する廃水を浄化する。土木建設工事は、例えば、トンネル工事、地下鉄工事、ダム建設、護岸工事、または、浚渫工事である。中和装置100は、例えば、土木建設工事の現場に設置される。
【0017】
本実施形態では、廃水として、セメント成分を含む廃水を例に挙げる。セメント成分は、例えば、ポルトランドセメントの成分である。セメント成分は、水などと反応して結果的に、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)を含む。セメント成分を含む廃水のpHは、7超であり、例えば、12以上、14以下である。
【0018】
図1に示すように、中和装置100は、例えば、原水槽110と、廃水供給部120と、収容部130と、中和剤供給部140と、凝集部150と、凝集剤供給部160と、沈殿槽170と、pH検出部180と、第1SS検出部182と、第2SS検出部184と、制御装置200とを含む。
【0019】
原水槽110は、土木建設工事の現場で生じた廃水(原水)を一時的に貯留するタンクである。
【0020】
廃水供給部120は、原水槽110に貯留された廃水を収容部130に供給する。廃水供給部120は、例えば、配管112、ポンプ122、配管124を含む。ポンプ122の吸入側は、配管112を通じて原水槽110に接続される。ポンプ122の吐出側は、配管124を通じて収容部130に接続される。ポンプ122が動作すると、原水槽110に貯留された廃水が収容部130に供給される。
【0021】
収容部130は、廃水供給部120により供給された廃水を収容する。収容部130は、例えば、廃水を一時的に収容する。本実施形態において、収容部130には、例えば、供給口130aおよび排出口130bが設けられる。収容部130は、例えば、タンク、または、管である。
【0022】
収容部130の供給口130aには、配管124を通じて廃水供給部120のポンプ122の吐出側が接続される。また、収容部130の排出口130bには、配管132を通じて凝集部150の凝集槽152が接続される。
【0023】
廃水供給部120のポンプ122が動作すると、原水槽110に貯留された廃水が供給口130aを通じて収容部130内に供給され、供給された廃水は、排出口130bに向かって流れる。これにより、収容部130内において、供給口130aから排出口130bに向かう廃水の流れが形成される。
【0024】
中和剤供給部140は、収容部130に中和剤を供給する。これにより、収容部130内に収容された廃水が中和される。本実施形態において、中和剤供給部140は、供給口130aから排出口130bに向かって流れている廃水に中和剤を供給する。
【0025】
上記のように、セメント成分が含まれる廃水のpHは、7超である。このため、中和剤は、pHを低下させるものが好ましい。中和剤は、例えば、二酸化炭素(気体)である。中和剤が二酸化炭素である場合、中和剤供給部140は、例えば、平均粒径(平均の気泡径)が2.5mm以下、好ましくは、1mm未満の二酸化炭素の泡を供給する。中和剤供給部140は、例えば、二酸化炭素貯留部142と、散気部144と、配管146と、流量調整弁148とを含む。
【0026】
二酸化炭素貯留部142は、二酸化炭素を貯留する。二酸化炭素貯留部142は、例えば、二酸化炭素ボンベである。二酸化炭素ボンベは、高圧圧縮された二酸化炭素を貯留する。
【0027】
散気部144は、収容部130の底面に設けられる。散気部144には、複数の孔が形成される。散気部144は、例えば、板状、管状、または、棒状である。散気部144は、例えば、多孔質体で構成されてもよい。多孔質体は、例えば、樹脂、ガラス、セラミック、金属、軽石で構成される。
【0028】
配管146は、二酸化炭素貯留部142と散気部144とを接続する。流量調整弁148は、配管146に設けられる。流量調整弁148が開かれると、二酸化炭素貯留部142に貯留された二酸化炭素は、配管146を通じて、散気部144に供給される。そして、二酸化炭素は、散気部144の複数の孔を通じて、収容部130内の廃水に供給される。流量調整弁148は、後述する制御装置200によって開度が調整される。制御装置200による流量調整弁148の開度調整については後に詳述する。
【0029】
凝集部150は、収容部130から供給された廃水に含まれるSSを凝集させる。凝集部150は、例えば、凝集槽152と、撹拌機154とを含む。
【0030】
凝集槽152は、収容部130から供給された廃水を一時的に収容する。撹拌機154は、凝集槽152に収容された廃水を撹拌する。
【0031】
凝集剤供給部160は、凝集槽152に凝集剤を供給する。したがって、撹拌機154により凝集槽152に収容された廃水および凝集剤が撹拌されることになる。これにより、凝集槽152において、廃水と凝集剤が混合される。そうすると、廃水に含まれるSSが凝集剤によって凝集する。
【0032】
凝集剤は、例えば、無機系凝集剤および有機系凝集剤のうち一方もしくは双方である。無機系凝集剤は、例えば、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、および、硫酸第一鉄からなる群から選択された1つまたは複数である。有機系凝集剤は、例えば、アニオン性凝集剤、ノニオン性凝集剤、および、カチオン性凝集剤からなる群から選択された1つまたは複数である。
【0033】
凝集剤供給部160は、例えば、凝集剤貯留部162と、ポンプ164とを含む。凝集剤貯留部162は、凝集剤を貯留する。ポンプ164の吸入側は、配管166を通じて凝集剤貯留部162に接続される。ポンプ164の吐出側は、配管168を通じて凝集槽152に接続される。ポンプ164が動作すると、凝集剤貯留部162に貯留された凝集剤が凝集槽152に供給される。ポンプ164は、制御装置200によって出力が調整される。制御装置200によるポンプ164の出力調整については後に詳述する。
【0034】
沈殿槽170には、凝集槽152から廃水が供給される。沈殿槽170は、廃水を所定時間滞留させる。上記のように、凝集槽152において、廃水に含まれるSSは、凝集剤によって凝集される。したがって、沈殿槽170において、廃水が所定時間滞留している間に、廃水に含まれる凝集したSSは、沈殿槽170の下方に沈殿する。こうして、SSが取り除かれた廃水(上澄み、処理水)は、河川等に放流される。
【0035】
pH検出部180は、廃水供給部120によって収容部130に供給される廃水のpH(水素イオン濃度指数)を検出する。pH検出部180は、収容部130に供給される前の廃水のpHを検出する。本実施形態において、pH検出部180は、配管124を流れる廃水のpHを検出する。pH検出部180は、例えば、pH計である。
【0036】
第1SS検出部182(SS検出部)は、廃水供給部120によって収容部130に供給される廃水に含まれるSSの濃度[g/L]を検出する。第1SS検出部182は、収容部130に供給される前の廃水に含まれるSSの濃度を検出する。本実施形態において、第1SS検出部182は、配管124を流れる廃水に含まれるSSの濃度を検出する。第1SS検出部182は、例えば、濁度計である。
【0037】
第2SS検出部184は、収容部130から排出され凝集槽152に供給される前の廃水に含まれるSSの濃度[g/L]を検出する。本実施形態において、第2SS検出部184は、配管132を流れる廃水に含まれるSSの濃度を検出する。第2SS検出部184は、例えば、濁度計である。
【0038】
制御装置200は、中央制御部210と、記憶部220とを含む。
【0039】
中央制御部210は、CPU(中央処理装置)を含む半導体集積回路で構成される。中央制御部210は、ROMからCPUを動作させるためのプログラムやパラメータ等を読み出す。中央制御部210は、ワークエリアとしてのRAMや他の電子回路と協働して制御装置200全体を管理および制御する。
【0040】
記憶部220は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成される。記憶部220は、中央制御部210に用いられるプログラムや各種データを記憶する。本実施形態において、記憶部220は、例えば、成分情報、溶出情報、中和情報、および、凝集情報を予め記憶する。
【0041】
成分情報は、例えば、土木建設工事の現場と、廃水に含まれるSSの成分とが関連付けられた情報である。
【0042】
溶出情報は、SSの成分と、溶出係数とが関連付けられた情報である。溶出係数は、SSの成分によって予め決定される。溶出係数は、SSに含まれる水酸化物イオン(OH-)のうち、SSから溶出される水酸化物イオンの割合を示す。SSの成分がセメント成分である場合、溶出係数は、例えば、0.0超、1.0未満であり、好ましくは、0.0超、0.6以下であり、より好ましくは、0.0超、0.5以下であり、さらに好ましくは、0.0超、0.4以下であり、さらに好ましくは、0.0超、0.2以下である。
【0043】
中和情報は、水酸化物イオンの量[g/L]と、中和剤の供給量[g/L]とが関連付けられた情報である。中和剤の供給量は、pHを中和目標範囲内とするのに必要な中和剤の量である。中和目標範囲は、例えば、放流基準値、および、凝集部150で用いられる凝集剤の適用範囲のうち一方または双方である。放流基準値は、例えば、pH5.0以上、pH9.0以下である。凝集剤の適用範囲は、例えば、pH6.0以上、pH11.0以下である。中和目標範囲は、例えば、pH5.0以上、pH11.0以下であってもよい。
【0044】
凝集情報は、SSの濃度[g/L]と、凝集剤の供給量[g/L]とが関連付けられた情報である。凝集剤の供給量は、SSの濃度を凝集目標値未満とするのに必要な凝集剤の量である。凝集目標値は、例えば、放流基準値である。
【0045】
また、本実施形態において、中央制御部210は、推定部212、演算部214、供給制御部216としても機能する。
【0046】
推定部212は、第1SS検出部182によって検出されたSSの濃度[g/L]に基づいて、SSから溶出される水酸化物イオンの量を推定する。本実施形態において、推定部212は、例えば、位置情報、または、作業者による操作入力に基づいて、土木建設工事の現場を示す情報を取得する。そして、推定部212は、例えば、成分情報を参照して、SSの成分を取得する。続いて、推定部212は、記憶部220に記憶された溶出情報を参照し、取得したSSの成分に関連付けられた溶出係数を読み出す。続いて、推定部212は、第1SS検出部182によって検出されたSSの濃度に、読み出した溶出係数を乗算することにより、SSから溶出される水酸化物イオンの量[g/L]を推定する。
【0047】
演算部214は、推定部212によって推定された水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算する。例えば、演算部214は、記憶部220に記憶された中和情報を参照し、推定された水酸化物イオンの量に関連付けられた供給量を読み出す。こうして、演算部214は、読み出した供給量を第1の供給量とする。
【0048】
また、演算部214は、pH検出部180によって検出されたpHに基づいて中和剤の第2の供給量を演算する。例えば、演算部214は、検出されたpHを水酸化物イオンの量に換算する。そして、演算部214は、記憶部220に記憶された中和情報を参照し、換算された水酸化物イオンの量に関連付けられた供給量を読み出す。こうして、演算部214は、読み出した供給量を第2の供給量とする。
【0049】
そして、演算部214は、第1の供給量および第2の供給量を加算することにより合計供給量を演算する。
【0050】
また、演算部214は、第2SS検出部184によって検出されたSSの濃度[g/L]に基づいて、凝集剤の供給量を演算してもよい。例えば、演算部214は、記憶部220に記憶された凝集情報を参照し、検出されたSSの濃度に関連付けられた凝集剤の供給量を読み出す。
【0051】
供給制御部216は、中和剤供給部140を制御して、合計供給量の中和剤を供給する。本実施形態において、供給制御部216は、中和剤供給部140の流量調整弁148の開度を調整することにより、合計供給量の中和剤を供給する。
【0052】
また、供給制御部216は、凝集剤供給部160を制御して、演算部214によって演算された供給量の凝集剤を供給する。本実施形態において、供給制御部216は、凝集剤供給部160のポンプ164の出力を調整することにより、演算部214によって演算された供給量の凝集剤を供給する。
【0053】
[中和方法]
続いて、上記中和装置100を用いた廃水の中和方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る中和方法の処理の流れを示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係る中和方法は、例えば、pH検出工程S110と、SS濃度検出工程S120と、推定工程S130と、第1演算工程S140と、第2演算工程S150と、合計演算工程S160と、第3演算工程S170と、中和剤供給量調整工程S180と、凝集剤供給量調整工程S190とを含む。なお、本実施形態に係る中和方法において、ポンプ122、164は、動作している。また、流量調整弁148は開かれている。以下、各工程について説明する。
【0054】
[pH検出工程S110]
pH検出工程S110では、pH検出部180が、SSを含む廃水のpHを検出する。
【0055】
[SS濃度検出工程S120]
SS濃度検出工程S120では、第1SS検出部182が、廃水に含まれるSSの濃度を検出する。また、第2SS検出部184が、廃水に含まれるSSの濃度を検出する。
【0056】
[推定工程S130]
推定工程S130では、推定部212が、SS濃度検出工程S120において第1SS検出部182により検出されたSSの濃度に基づいて、SSから溶出される水酸化物イオンの量を推定する。
【0057】
[第1演算工程S140]
第1演算工程S140では、演算部214が、推定工程S130において推定された水酸化物イオンの量に基づいて中和剤の第1の供給量を演算する。
【0058】
[第2演算工程S150]
第2演算工程S150では、演算部214が、pH検出工程S110において検出されたpHに基づいて中和剤の第2の供給量を演算する。
【0059】
[合計演算工程S160]
合計演算工程S160では、演算部214が、第1演算工程S140において演算された第1の供給量、および、第2演算工程S150において演算された第2の供給量を加算することにより合計供給量を演算する。
【0060】
[第3演算工程S170]
第3演算工程S170では、演算部214が、SS濃度検出工程S120において第2SS検出部184により検出されたSSの濃度に基づいて、凝集剤の供給量を演算する。
【0061】
[中和剤供給量調整工程S180]
中和剤供給量調整工程S180では、供給制御部216が、中和剤供給部140を制御することにより、合計演算工程S160において演算された合計供給量の中和剤を収容部130に供給する。例えば、供給制御部216は、合計供給量の中和剤が収容部130に供給されるように、中和剤供給部140の流量調整弁148の開度を調整する。
【0062】
[凝集剤供給量調整工程S190]
凝集剤供給量調整工程S190では、供給制御部216が、凝集剤供給部160を制御することにより、第3演算工程S170において演算された供給量の凝集剤を凝集部150の凝集槽152に供給する。例えば、供給制御部216は、第3演算工程S170において演算された供給量の凝集剤が凝集槽152に供給されるように、凝集剤供給部160のポンプ164の出力を調整する。
【0063】
以上説明したように、第1の実施形態に係る中和装置100および中和方法は、廃水のpHに加えて、廃水に含まれるSSから溶出される水酸化物イオンの濃度を勘案して、中和剤の供給量を調整することができる。したがって、本実施形態に係る中和装置100および中和方法は、廃水のpHを高精度に中和目標範囲とすることが可能となる。
【0064】
また、上記のように、推定部212は、SSの濃度に溶出係数を乗算することにより、SSから溶出される水酸化物イオンの量を推定してもよい。これにより、推定部212は、簡易な処理でSSから溶出される水酸化物イオンの量を推定することができる。
【0065】
また、上記のように、収容部130には、排出口130bが設けられ、廃水供給部120によって収容部130に供給された廃水が、排出口130bに向かって流れることで、収容部130内において廃水の流れが形成され、中和剤供給部140は、流れている廃水に中和剤を供給するとしてもよい。これにより、撹拌機を備えずとも、廃水に中和剤を効率よく拡散させることができる。したがって、廃水を効率よく中和することが可能となる。
【0066】
また、上記のように、中和剤は、二酸化炭素であってもよい。これにより、特定化学物質等作業主任者の資格を取得させる人材育成や、労働基準監督署への届出といった煩雑な作業を回避しつつ、廃水を中和することができる。
【0067】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態において、記憶部220が予め溶出情報を記憶しており、推定部212は、溶出情報を参照して溶出係数を取得する場合を例に挙げた。しかし、中和装置300が設置される現場において溶出係数を演算してもよい。
【0068】
図3は、第2の実施形態に係る中和装置300を説明する図である。
図3において、実線の矢印は、廃水、中和剤、および、凝集剤等の液体および気体の流れを示す。また、
図3において、破線の矢印は、信号の流れを示す。
【0069】
図3に示すように、中和装置300は、例えば、原水槽110と、廃水供給部120と、収容部130と、中和剤供給部140と、凝集部150と、凝集剤供給部160と、沈殿槽170と、pH検出部180と、第1SS検出部182と、第2SS検出部184と、制御装置200と、分析装置310とを含む。なお、上記中和装置100と実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
分析装置310は、原水槽110に貯留された廃水からSSを抽出する。そして、分析装置310は、純水または超純水に、抽出したSSを混合して所定時間放置する。続いて、分析装置310は、SSが混合された水のpHを検出することにより、溶出係数を演算する。
【0071】
また、第2の実施形態において、推定部212は、第1SS検出部182によって検出されたSSの濃度に、分析装置310によって演算された溶出係数を乗算することにより、SSから溶出される水酸化物イオンの量[g/L]を推定する。
【0072】
以上説明したように、第2の実施形態に係る中和装置300は、分析装置310を備える。これにより、溶出係数を精度よく演算することができる。したがって、中和装置300は、SSから溶出される水酸化物イオンの量の推定精度を向上することが可能となる。
【0073】
また、土木建設工事の現場における堀削場所によっては、廃水に混入する土壌が変化する場合がある。そうすると、廃水に含まれるSSの成分が変化する。そこで、第2の実施形態に係る中和装置300は、分析装置310を備えることにより、廃水に含まれるSSの成分が変化する場合であっても、溶出係数を精度よく演算することができる。したがって、中和装置300は、廃水に含まれるSSの成分が変化する場合であっても、廃水のpHを高精度に中和目標範囲とすることが可能となる。
【0074】
なお、第2の実施形態に係る中和装置300の記憶部220は、成分情報および溶出情報を予め記憶していなくてもよい。
【0075】
[実施例]
実施例1、実施例2の廃水として、セメント粒子を懸濁した廃水を作成した。実施例1は、pH12.54、SS濃度1500ppmであった。実施例2は、pH12.57、SS濃度1500ppmであった。
【0076】
比較例1、比較例2の廃水として、SSを含まない廃水を作成した。比較例1は、pH12.68とした。比較例2は、pH12.26とした。
【0077】
そして、実施例1、実施例2、比較例1、および、比較例2に対し、中和目標値pH7となるまで中和剤(二酸化炭素)を供給した場合の中和剤の量[g/L]を測定した。
【0078】
また、溶出係数を0.14として、実施例1および実施例2の、第1の供給量[g/L]、第2の供給量[g/L]、および、合計供給量[g/L]を演算した。また、比較例1および比較例2の第2の供給量[g/L]を演算した。
【0079】
図4は、実施例および比較例に係る実験条件、測定値、および、演算値を示す表である。
図4に示すように、実施例1の中和剤の量[g/L]の実測値は、1.10g/Lであった。また、実施例1の第1の供給量は、0.27g/Lとなり、第2の供給量は、0.84g/Lとなり、合計供給量は1.11g/Lとなった。実施例1では、中和剤の量の実測値と、合計供給量との差分は、-0.01g/Lとなった。
【0080】
実施例2の中和剤の量[g/L]の実測値は、1.15g/Lであった。また、実施例2の第1の供給量は、0.27g/Lとなり、第2の供給量は、0.90g/Lとなり、合計供給量は1.17g/Lとなった。実施例2では、中和剤の量の実測値と、合計供給量との差分は、-0.02g/Lとなった。
【0081】
比較例1の中和剤の量[g/L]の実測値は、1.15g/Lであった。また、比較例1の第1の供給量は、0g/Lとなり、第2の供給量は、1.16g/Lとなり、合計供給量は1.16g/Lとなった。比較例1では、中和剤の量の実測値と、合計供給量との差分は、-0.01g/Lとなった。
【0082】
比較例2の中和剤の量[g/L]の実測値は、0.44g/Lであった。また、比較例2の第1の供給量は、0g/Lとなり、第2の供給量は、0.44g/Lとなり、合計供給量は0.44g/Lとなった。比較例2では、中和剤の量の実測値と、合計供給量との差分は、0.00g/Lとなった。
【0083】
以上の結果から、実施例1、実施例2では、pHに基づいて決定される第2の供給量の中和剤を供給しただけでは、中和目標値までpHを下げられないことが確認された。
【0084】
また、実施例1、実施例2では、中和剤の量の実測値と、演算した合計供給量との差分が、-0.02g/L以下であることが分かった。したがって、実施例1、実施例2では、pHに基づいて決定される第2の供給量に加えて、SSの濃度に基づいて決定される第1の供給量の中和剤を供給することにより、pHを中和目標値とすることができることが確認された。
【0085】
さらに、実施例1、実施例2では、中和剤の量の実測値と、演算した合計供給量との差分が、-0.02g/L以下であり、比較例1、比較例2の差分と実質的に等しいことが確認された。この結果から、SSが含まれる廃水であっても、廃水のpHを中和目標値とすることができることが確認された。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0087】
例えば、上記実施形態において、pH検出部180が配管124を通過する廃水のpHを検出する場合を例に挙げた。しかし、pH検出部180は、収容部130に収容される前の廃水のpHを検出できればよい。pH検出部180は、例えば、原水槽110に貯留された廃水のpHを検出してもよい。
【0088】
同様に、第1SS検出部182が配管124を通過する廃水に含まれるSSの濃度を検出する場合を例に挙げた。しかし、第1SS検出部182は、収容部130に収容される前の廃水に含まれるSSの濃度を検出できればよい。第1SS検出部182は、例えば、原水槽110に貯留された廃水に含まれるSSの濃度を検出してもよい。
【0089】
また、上記実施形態において、収容部130に供給される廃水のpHが7超であり、中和剤が酸性の物質である場合を例に挙げた。しかし、収容部130に供給される廃水のpHが7未満である場合、中和剤は、アルカリ性(塩基性)の物質であってもよい。この場合、演算部214は、第2の供給量から第1の供給量を減算するとよい。これにより、SSを含む廃水のpHを高精度に調整することができる。
【0090】
また、上記実施形態において、収容部130が供給口130aおよび排出口130bを有する場合を例に挙げた。しかし、収容部130は、少なくとも排出口130bを有していればよい。この場合、収容部130は、例えば、上面が開放されているとよい。
【0091】
また、上記実施形態において、廃水供給部120が、配管112、ポンプ122、配管124を含む場合を例に挙げた。しかし、廃水供給部120は、原水槽110に貯留された廃水を収容部130に供給することができれば、その構成は限定されない。例えば、原水槽110が収容部130の上方に位置する場合等の原水槽110の水位が収容部130の水位よりも高い場合、廃水供給部120は、原水槽110と収容部130とを接続する配管で構成されてもよい。この場合、原水槽110に貯留された廃水は、圧力差によって収容部130に供給される。
【0092】
また、上記実施形態において、複数の孔が形成された散気部144を例に挙げた。しかし、散気部144は、少なくとも1の孔が形成されていればよい。なお、散気部144が1の孔を有する場合、中和剤供給部140は、エジェクタ等の撹拌機構をさらに備えてもよい。
【0093】
また、上記実施形態において、中和剤が二酸化炭素である場合を例に挙げた。しかし、中和剤は、酸性の物質であればよい。中和剤は、例えば、硫酸、塩酸、および、クエン酸からなる群から選択された1つまたは複数であってもよい。この場合、収容部130は、ラインミキサ等の撹拌機構を備えるとよい。
【0094】
また、中和装置100、300は、収容部130に供給される廃水に含まれるSSの濃度を5000ppm以下に調整する調整装置を収容部130の前段に備えてもよい。これにより、SSによって散気部144の孔が塞がれてしまう事態を回避することができる。
【0095】
また、上記実施形態において、中和装置100、300が、原水槽110、凝集部150、凝集剤供給部160、沈殿槽170、第2SS検出部184を備える場合を例に挙げた。しかし、これらの構成は必須の構成ではない。
【0096】
また、上記第1の実施形態において、中和装置100の記憶部220が、成分情報を予め記憶する場合を例に挙げた。しかし、中和装置100の記憶部220は、成分情報を予め記憶していなくてもよい。この場合、推定部212は、作業者による操作入力に応じて、SSの成分を取得してもよい。
【0097】
また、上記実施形態において、中和装置100、300の記憶部220が、中和情報を予め記憶する場合を例に挙げた。しかし、中和装置100、300の記憶部220は、中和情報を予め記憶していなくてもよい。この場合、演算部214は、水酸化物イオンの量と、中和剤の種類とに基づいて、第1の供給量を演算してもよい。また、演算部214は、pHと、中和剤の種類とに基づいて、第2の供給量を演算してもよい。
【0098】
また、上記実施形態において、中和装置100、300の記憶部220が、凝集情報を予め記憶する場合を例に挙げた。しかし、中和装置100、300の記憶部220は、凝集情報を予め記憶していなくてもよい。この場合、演算部214は、SSの濃度と、凝集剤の種類とに基づいて、凝集剤の供給量を演算してもよい。
【0099】
また、廃水が水素イオン(H+)を溶出するSSを含む場合、中和装置は、懸濁物質を含む廃水を収容する収容部と、前記収容部に前記廃水を供給する廃水供給部と、前記収容部に中和剤を供給する中和剤供給部と、前記廃水供給部によって前記収容部に供給される前記廃水のpHを検出するpH検出部と、前記廃水供給部によって前記収容部に供給される前記廃水に含まれる前記懸濁物質の濃度を検出するSS検出部と、前記SS検出部によって検出された前記懸濁物質の濃度に基づいて、前記懸濁物質から溶出される水素イオンの量を推定する推定部と、前記推定部によって推定された前記水素イオンの量に基づいて前記中和剤の第1の供給量を演算し、検出された前記pHに基づいて前記中和剤の第2の供給量を演算し、前記第1の供給量および前記第2の供給量を加算もしくは減算することにより合計供給量を演算する演算部と、前記中和剤供給部を制御することにより、前記演算部によって演算された前記合計供給量の前記中和剤を供給する供給制御部と、を備えるとしてもよい。
【0100】
なお、本明細書の中和方法の各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいはサブルーチンによる処理を含んでもよい。
【符号の説明】
【0101】
100 中和装置
120 廃水供給部
130 収容部
130b 排出口
140 中和剤供給部
180 pH検出部
182 第1SS検出部(SS検出部)
212 推定部
214 演算部
216 供給制御部
220 記憶部
300 中和装置