(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003082
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20241226BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20241226BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241226BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20241226BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241226BHJP
B29C 64/209 20170101ALI20241226BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y50/02
B33Y30/00
B29C64/209
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103557
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 鷹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 真
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AC02
4F213AD16
4F213AG03
4F213AR07
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL26
4F213WL67
4F213WL85
(57)【要約】
【課題】造形パスの線間及び層間で力学的強度の低下を生じさせずに造形物を造形できる積層造形方法、積層造形装置及びプログラムを提供する。
【解決手段】連続繊維強化樹脂フィラメント11は、熱可塑性樹脂を含む基材と、基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束23を備える。繊維束23の連続繊維には、連続繊維強化樹脂フィラメント11の軸芯を中心に20回/m~100回/mの撚りが付与されている。造形面における造形パスを、繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら造形材を吐出させるパスにし、繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら造形材を吐出させるパスにして湾曲形状又は屈曲形状を造形する。
【選択図】
図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形方法であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する、
積層造形方法。
【請求項2】
前記湾曲形状又は前記屈曲形状の曲率半径は、前記造形面上に吐出された前記造形材の造形方向に直交する幅よりも大きい、
請求項1に記載の積層造形方法。
【請求項3】
前記繊維束は、1500本以上、6000本以下の連続繊維を含む、
請求項1又は2に記載の積層造形方法。
【請求項4】
前記連続繊維強化フィラメントの直径は、0.5mm以上、1mm以下である、
請求項1又は2に記載の積層造形方法。
【請求項5】
線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、前記ヘッド部の前記ノズルを造形面に対して相対移動させる駆動機構と、設定された造形パスに沿って前記造形材を吐出させるように前記駆動機構を駆動する制御部と、を備える積層造形装置であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記制御部は、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する際、前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして、前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形させる、
積層造形装置。
【請求項6】
線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形手順を実行するプログラムであって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
コンピュータに、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する手順を実行させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形方法及び積層造形装置並びにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
立体的な形状を有する物体を成形する積層造形装置として、熱で可塑化状態にある樹脂を造形パスに沿って1層ずつ積み重ねていく熱融解積層方式を採用した3D(三次元)プリンタが知られている。この3Dプリンタは、金型、治具等を必要とすることなく三次元形状を成形できる。加えて、従来の射出成形技術では形成が困難な三次元形状の物体であっても造形できる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載のストランドは、3Dプリンタの造形原料として用いられるフィラメントであり、繊維又は繊維束が熱可塑性樹脂を主成分とする基材中に含浸され、撚られている。これにより、フィラメント自体の可撓性が高められ、取扱性が向上している。加えて、フィラメント内の繊維又は繊維束が撚られていることにより、そのフィラメントを用いて3Dプリンタにより造形した造形物は、衝撃強度に優れたものとなる。このように、上記したフィラメントは、衝撃強度に優れた造形物を簡便に3Dプリンタで形成することを可能とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような撚り数が10回/m~200回/mの連続繊維で強化されたフィラメントは、3Dプリンタのヘッド部に設けられたノズル(吐出部)から、フィラメントを加熱溶融した造形材を造形パスに沿って吐出する際、強化用繊維の開繊幅が低下あるいは不安定化するおそれがあることがわかった。このことは、特に強化用繊維に付与された撚り数が大きい場合に、造形パスの特定の形状において発現が顕著となっていた。
【0006】
強化繊維の開繊が不十分であると、互いに隣接する造形パス同士の間で、ノズルから吐出された造形材同士の融着性が低下し、空隙が生成されやすくなる。これにより、造形パスの線間及び層間での力学強度が低下するため、このような力学強度の低下を生じさせない造形計画に改める等の手間を要していた。
【0007】
そこで本発明は、造形パスの線間及び層間で力学的強度の低下を生じさせずに造形物を造形できる積層造形方法、積層造形装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形方法であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する、
積層造形方法。
(2) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、前記ヘッド部の前記ノズルを造形面に対して相対移動させる駆動機構と、設定された造形パスに沿って前記造形材を吐出させるように前記駆動機構を駆動する制御部と、を備える積層造形装置であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記制御部は、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する際、前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして、前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形させる、
積層造形装置。
(3) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形手順を実行するプログラムであって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
コンピュータに、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する手順を実行させる、
プログラム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、造形パスの線間及び層間で力学的強度の低下を生じさせずに造形物を積層造形できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、FDM方式の積層造形装置の概略構成図である。
【
図2A】
図2Aは、フィラメントの軸方向に直交する径方向の概略断面図である。
【
図2B】
図2Bは、フィラメントの軸方向に沿った側面図である。
【
図3】
図3は、フィラメント製造装置の模式的な構成図である。
【
図4A】
図4Aは、不図示のノズルからフィラメントを溶解した造形材が造形面上に吐出される様子を模式的に示す図であって、フィラメントの鉛直方向の断面を示す説明図である。
【
図4B】
図4Bは、不図示のノズルからフィラメントを溶解した造形材が造形面上に吐出される様子を模式的に示す図であって、
図4Aを平面視した場合の一部断面で示す概略平面図である。
【
図5】
図5は、フィラメント内の繊維束の強化用繊維をZ撚りにした場合の撚り方向を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、フィラメント内の繊維束の強化用繊維をS撚りにした場合の撚り方向を模式的に示す説明図である。
【
図7】
図7は、同じノズル位置における造形材内の繊維束のZ撚りされた強化用繊維が、フィラメントの送給に伴って、その配置位置が回転する方向を示す説明図である。
【
図8】
図8は、同じノズル位置における造形材内の繊維束のS撚りされた強化用繊維が、フィラメントの送給に伴って、その配置位置が回転する方向を示す説明図である。
【
図9】
図9は、強化用繊維がZ撚りの場合に、ヘッド部の移動方向が、時計回りの造形パスの場合と、反時計回りの造形パスの場合を示す説明図である。
【
図10】
図10は、強化用繊維がS撚りの場合に、ヘッド部の移動方向が、時計回りの造形パスの場合と、反時計回りの造形パスの場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まず、積層造形装置である3Dプリンタの構成を簡単に説明する。ここではFDM(Fused Deposition Modeling)方式の構成を例示するが、これに限らず他の方式の構成であってもよい。
【0012】
<積層造形装置の構成>
図1は、FDM方式の積層造形装置100の概略構成図である。積層造形装置100は、連続繊維強化樹脂フィラメント11(以下、フィラメントともいう。)を送給するフィラメント送給部13と、ヘッド部15と、テーブル17と、成形駆動部19と、制御部21とを備える。
【0013】
フィラメント送給部13は、フィラメント11を挟み込む一対の駆動ローラ13aと、少なくとも一方の駆動ローラ13aを回転駆動させるモータ等の駆動部(不図示)とを備える。ヘッド部15は、送給されたフィラメント11を熱溶解する不図示の加熱部と、加熱部により溶解した造形材を吐出するノズル15aとを有する。また、図示はしないが、ヘッド部15にはフィラメント11に含まれる強化用繊維を切断するカッター、レーザー切断装置等の切断部が設けられていてもよい。
【0014】
テーブル17は、ヘッド部15のノズル15aに対向して配置され、造形物を積層する造形面17aを有する。成形駆動部19は、ヘッド部15とテーブル17とを相対移動させて、ヘッド部15のノズル15aから吐出される造形材を所望のパスに沿って形成する。成形駆動部19により駆動されるテーブル17は、例えば、ヘッド部15をテーブル17の造形面17aの面内で移動させる2軸駆動機構と、テーブル17を昇降駆動して積層高さを調整する昇降機構とを備えた構成であってもよい。本構成においては、テーブル17と成形駆動部19とが、ヘッド部15のノズル15aを造形面17aに対して相対移動させる駆動機構として機能する。なお、駆動機構は、テーブル17を固定側として、ヘッド部15を移動させる機構であってもよく、テーブル17とヘッド部15とを共に動作させる機構であってもよい。
【0015】
制御部21は、フィラメント送給部13によるフィラメント11の送給と、駆動機構によるヘッド部15の相対移動とを制御する機能と、その他の各部を統括して制御する機能とを有する。制御部21には、フィラメント送給部13と成形駆動部19を含む各部を制御する造形プログラムが入力され、入力された造形プログラムを制御部21が実行することで、所望の形状の造形物が積層造形される。
【0016】
制御部21は、例えば、PC(Personal Computer)等の情報処理装置を用いたハードウェアにより構成される。制御部21の各機能は、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)等のプロセッサ、又は専用回路等の制御デイバイスが、不図示の記憶装置に記憶された特定の機能を有するプログラムを読み出し、これを実行することで実現される。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)等のメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等のストレージを例示できる。この制御部21は、上記した形態のほか、ネットワーク等を介して積層造形装置100に遠隔から接続される他のコンピュータであってもよい。
【0017】
<造形物の製造方法>
本構成の積層造形装置100においては、制御部21がフィラメント送給部13に駆動信号を出力することにより、フィラメント送給部13が駆動ローラ13aを回転駆動して、フィラメント11を指定された送給速度でヘッド部15に送給する。ヘッド部15は、送給されたフィラメント11を加熱して熱溶解させる。そして、制御部21は、成形駆動部19に駆動信号を出力し、ヘッド部15で溶解した造形材を、ヘッド部15とテーブル17とを相対移動させながらノズル15aから吐出させる。
【0018】
本構成のように、ヘッド部15が固定側でテーブル17が可動側となる場合、テーブル17を、造形物の形状に応じて作成された造形パスに沿ってヘッド部15のノズル15aが相対移動するように駆動する。これにより、テーブル17の造形面17a上、又は前層(既設の層)の造形材上で、造形パスに沿って新たな造形材がノズル15aから吐出されて積層される。これにより、所望の形状の造形物が造形される。造形プログラムには、上記した造形パスの情報、フィラメント11の送給速度等の造形に必要な各種の造形条件の情報が含まれている。制御部21は、上記した造形プログラムからこれら造形条件の情報を読み込み、指定された手順で造形材を積層して造形物を造形する。
【0019】
<フィラメントの構成>
次に、上記した積層造形装置100で用いるフィラメント11の構成を説明する。
図2Aは、フィラメント11の軸方向に直交する径方向の概略断面図である。
図2Bは、フィラメント11の軸方向に沿った側面図である。以下の説明では、同一の部材又は部位に対しては同一の符号を付与することで、その説明を簡単化又は省略する。
【0020】
図2A及び
図2Bに示すように、フィラメント11は、上記した積層造形装置100のような3Dプリンタの造形原料として用いられる線状の樹脂材料である。このフィラメント11は、連続繊維(以下、「強化用繊維」ともいう。)を含む繊維束23に、熱可塑性のマトリクス樹脂25が含浸され、さらに、繊維束23の径方向外側に、繊維束23を覆うようにマトリクス樹脂27が所定の厚さで形成されている。これらマトリクス樹脂25,27(以下、「樹脂」ともいう。)は、フィラメント11の基材となる。マトリクス樹脂25,27は、熱可塑性樹脂のほか、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の他の樹脂材料、又は複数種の材料を混練した材料であってもよい。フィラメント11内の繊維束23は、フィラメント中心軸Oに沿って配置され、フィラメント中心軸Oを中心とする撚りが付与されている。
【0021】
フィラメント11の直径は、例えば0.5mm以上、1mm以下であるのが好ましく、直径が細いほど造形物の細かな形状を正確に再現できる。また、繊維束23は、1500本以上、6000本以下の連続繊維を含むことが好ましい。その場合、連続繊維が造形物中に高い密度で配置され、造形物の強度を十分に向上できる。ただし、上記の数値範囲は一例であって、これに制約されることはない。
【0022】
繊維束23の連続繊維の撚り回数は、フィラメント11軸方向に沿って20回/m以上、100回/m以下にすると、詳細を後述する造形方向で造形する場合に、安定した開繊の増大効果と、造形精度の向上効果が発揮される。撚り回数は25回/m以上がより好ましく、30回/m以上がさらに好ましい。また、撚り回数は80回/m以下がより好ましく、70回/m以下がさらに好ましい。
【0023】
繊維束23を構成する強化用繊維には、ポリエチレン繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維等の有機繊維、ボロン繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、岩石繊維等の無機繊維が使用できる。強化用繊維には、樹脂と繊維との密着強度を向上させる為に、表面処理を施した繊維を使用できる。
【0024】
繊維束23は、
図2Aに示すように1束で形成されていてもよいが、複数束の繊維束の集合体であってもよく、その場合、各繊維束の強化用繊維は、纏めて撚られていてもよく、それぞれの繊維束が個別に撚られていてもよい。
【0025】
主成分を熱可塑性樹脂とした場合のマトリクス樹脂25,27の材料としては、ポリプロピレン又はポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート又はポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリアリルイミド、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール、又はポリフェニレンサルファイド等が挙げられる。
【0026】
これら熱可塑性樹脂は、樹脂単独で用いてもよく、熱可塑性樹脂の耐熱性、熱変形温度、熱老化、引張特性、曲げ特性、クリープ特性、圧縮特性、疲労特性、衝撃特性、摺動特性を向上させる為に、複数の樹脂をブレンドした熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂の一例として、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)/ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PEEK/ポリベンゾイミダゾール(PBI)等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂は、炭素繊維、ガラス繊維等の短繊維、タルク等を樹脂に添加したものであってもよい。
【0027】
また、熱可塑性樹脂に、フェノール系、チオエーテル系、ホスファイト系等の酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系又はトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒドラジド系又はアミド系等の金属不活性化剤等を添加して、造形物の耐久性を向上させてもよい。
【0028】
フタル酸系、ポリエスル系等の可塑剤を熱可塑性樹脂に添加すると、柔軟性が向上し、造形時の造形精度と、造形物の柔軟性とを向上できる。
【0029】
ハロゲン系、リン酸エステル系、無機系、イントメッセント系の難燃剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の難燃性を向上できる。
【0030】
リン酸エステル金属塩系、ソルビトール等の核材を熱可塑性樹脂に添加すると、造形時の熱膨張を制御して造形精度を向上できる。
【0031】
非イオン径、アニオン系、カチオン系等の永久帯電防止剤を熱可塑性樹脂に添加すると、造形物の静電気防止性を向上できる。
【0032】
炭化水素系、金属石鹸系等の滑剤を熱可塑性樹脂に添加し、連続繊維強化フィラメントの滑性を向上させることで、造形時のフィラメントの送り出しを円滑にできる。
【0033】
<フィラメントの製法>
上記した3Dプリンタに用いられるフィラメント11は、繊維束23の強化用繊維に撚りが付与されて、強化用繊維の配向角が軸方向に対して傾斜している。このようなフィラメント11の製法例について説明する。なお、ここで示すフィラメント製造装置の構成は一例であって、これに限らない。
【0034】
図3は、フィラメント製造装置200の模式的な構成図である。
フィラメント製造装置200は、繊維材料供給部31と、混練押出機33と、樹脂浴部35と、冷却部37と、撚り部39とを備える。
繊維材料供給部31は、コイル状に巻かれた1つ又は複数の繊維束23を所定の速度で送り出す。混練押出機33は、内部が空洞とされたチャンバ33a内に混練翼を有するスクリュシャフト(不図示)を回転自在に備えており、ホッパ33bから投入された樹脂を融解して可塑化する。樹脂浴部35は、繊維材料供給部31から送り出された繊維束23に、混練押出機33で可塑化された樹脂を含浸させる。冷却部37は、樹脂浴部35の下流側に配設され、樹脂浴部35から送り出される複合体41を冷却する。撚り部39は、主として冷却前の繊維束23に軸中心周りの撚りを付与させる。
【0035】
樹脂浴部35は、筒軸方向を上下に向けた円筒状に形成されている。その筒内部には、混練押出機33で可塑化された樹脂43が供給され貯留される。樹脂浴部35の上端部は開口しており、この上端部の開口から、樹脂浴部35内に貯留された樹脂43に対して、ガイドローラ45によって案内された繊維束23を引き入れる。
【0036】
樹脂浴部35の内部には、軸芯を水平方向へ向けて回転自在に保持された複数本の含浸ロール(図示略)が設けられる。樹脂浴部35の上端部の開口から導入された繊維束23は、各含浸ロールを順番に架け渡されて樹脂浴部35の下端部に配置された出口部47に送られる。出口部47には、樹脂43と繊維束23との複合体41を樹脂浴部35の外部に引き出す際のフィラメント11の外周を整形するダイス49が設けられる。ダイス49は、その開口形状によってフィラメント11の外周面に溝や凸条等の凹凸を形成できる。
【0037】
冷却部37は、樹脂浴部35から複合体41が引き出される方向に沿って配置された長尺状の水槽であり、その槽内に冷却水51が貯留される。この冷却部37では、複合体41の繊維束23に含浸された樹脂を冷却水51中で冷却し、硬化させる。
【0038】
撚り部39は、冷却部37の下流側に配設され、互いの外周面を接触させた上下一対の引き取りロール53,55を有する。撚り部39は、引き取りロール53,55を備える構成のほか、様々な機構が採用可能である。例えば、図示を省略するが、フィラメント11を巻き取るボビンをフィラメント11の軸心周りに回転させる機構であってもよい。
【0039】
引き取りロール53,55は、繊維材料供給部31から樹脂浴部35へと繊維束23を引き込み、さらに樹脂浴部35から冷却部37及び撚り部39へと複合体41を引き出す機能を兼ね備える。そして、撚り部39の下流側には、別途、ボビン等の巻取部(不図示)を設けて、製造されたフィラメント11を巻き取る。
【0040】
上記したフィラメント製造装置200を用いたフィラメント11の製造手順は、次のとおりである。
(含浸工程)
含浸工程は、フィラメント製造装置200の樹脂浴部35により実施する。具体的には、ホッパ33bから供給された樹脂を混練押出機33で混練し、融解状態の樹脂を樹脂浴部35に貯留する。この樹脂浴部35に繊維材料供給部31から繊維束23を供給する。そして、樹脂浴部35内で融解状態の樹脂を含浸させた繊維束23に、出口部47に配置されたダイス49を通過させることで、樹脂の含浸量を調整する。この樹脂の含浸により、繊維束23内の隙間、繊維束23の径方向外側の周囲にマトリクス樹脂が存在した状態となる。このようにして得られたマトリクス樹脂と繊維束23との複合体41を冷却部37で冷却する。
【0041】
(撚り工程)
撚り工程では、撚り部39によって、樹脂浴部35内で樹脂が含浸された状態の繊維束23に撚りを付与する。具体的には、撚り部39の引き取りロール53,55を回転させながら、冷却部37を通過した複合体41を引き取りロール53,55同士の間に通過させる。これにより、繊維束23の連続繊維に撚りが付与される。上記の引き取りロール53,55の引き取り方向に対する傾斜角度を調整することで、撚り回数及び撚り角度を調整できる。
【0042】
このようにして、熱可塑性樹脂を含むマトリクス樹脂25が、フィラメント中心軸Oに沿って設けられた繊維束23に含浸され、繊維束23の径方向外側の外周部に、繊維束23を覆うようにマトリクス樹脂27が形成されたフィラメント11を製造できる。なお、フィラメント11を製造する際、複数の繊維材料供給部31から供給される繊維束それぞれに、個別に撚りを付与してもよく、各繊維束を纏めて撚りを付与してもよい。
【0043】
<造形時における繊維束の開繊状態>
上記したフィラメント11を用いて熱溶解積層方式により造形物を造形する際、繊維束23の強化用繊維に付与された撚り数が大きい場合には、ノズル15aから吐出される繊維束23の開繊幅が、造形パスの形状によっては低下又は不安定化しやすくなる。
【0044】
図4A,
図4Bは、不図示のノズルからフィラメント11を溶解した造形材が造形面上に吐出される様子を模式的に示す図であって、
図4Aはフィラメント11の鉛直方向の断面を示す説明図、
図4Bは、
図4Aを平面視した場合の一部断面で示す概略平面図である。
図4Aに示すように、フィラメント11は鉛直方向に繰り出されて供給され、溶解した造形材が造形方向WDに沿って造形面17a上に吐出される。造形材内の繊維束23は、
図4Bに示すようにフィラメント11の溶解前の幅W
0よりも広い幅Wに開繊される。
【0045】
繊維束23の強化用繊維の撚り数が大きい場合には、造形材の吐出後にも開繊が不十分になることが生じうる。その場合、
図1に示すテーブル17の造形面17a又は下地と、造形材との融着が不完全となったり、造形中に強化用繊維が不均一に分散したりするので、造形物の強度に影響が及ぶ。そこで、造形時には、繊維束23の撚りを解しながら造形材を吐出させることが好ましい。
【0046】
繊維束23の開繊状態は、元々の繊維束23の強化用繊維の撚り数と、造形パスの向き(造形方向)に応じて変化する。撚りの方向には、一般にZ撚りとS撚りが知られている。
【0047】
図5は、フィラメント11内の繊維束23の強化用繊維をZ撚りにした場合の撚り方向を模式的に示す説明図である。
図6は、フィラメント11内の繊維束23の強化用繊維をS撚りにした場合の撚り方向を模式的に示す説明図である。
図5、
図6は、3本の長繊維がフィラメント中心軸Oに沿って螺旋状に撚られた様子を、フィラメント11(繊維束23)の長手方向に沿った各断面の層L
1~L
6と共に示している。
【0048】
図5に示すZ撚りの場合、鉛直方向下方を、フィラメント送給方向FDの先方となるノズル15a(
図1)からの吐出側であると考える。この場合、フィラメント11がノズル15aに送給されると、ノズル15aの位置を通過する強化用繊維は左回りに回転する。つまり、フィラメント11がノズル15aへ送給されるにしたがって、ノズル15aからの吐出位置にフィラメント11の層L
1~L
6が順次に配置される。その場合、特定の繊維Fに着目すると、繊維Fは、層L
1内での繊維Fの位置から、フィラメント11の送給に伴い、層L
2がノズル15aの位置に到達したときには、繊維Fの位置が反時計方向に移動する。そして、層L
3~L
6までフィラメント11の送給が進むと、各層内での繊維Fの配置はフィラメント中心軸Oを中心に反時計方向に回転する。
【0049】
同様に、
図6に示すS撚りの場合でも、フィラメント11の送給に伴って、各層内での繊維Fの配置はフィラメント中心軸Oを中心に時計方向に回転する。
【0050】
図7は、同じノズル位置における造形材内の繊維束23のZ撚りされた強化用繊維が、フィラメント11の送給に伴って、その配置位置が回転する方向を示す説明図である。
図8は、同じノズル位置における造形材内の繊維束23のS撚りされた強化用繊維が、フィラメント11の送給に伴って、その配置位置が回転する方向を示す説明図である。
【0051】
図7に示すように繊維束23の強化用繊維がZ撚りの場合には、ノズル15aの位置において、撚られた強化用繊維はフィラメント11の送給に伴って反時計方向に回転しながら連続供給される。また、
図8に示すようにS撚りの場合には、ノズル15aの位置において、繊維束23の撚られた強化用繊維はフィラメント11の送給に伴って時計方向に回転しながら連続供給される。
【0052】
上記のように撚られた強化用繊維は、造形時にノズル15aから回転しながら供給されることになる。次に、強化用繊維の回転方向(撚り方向)と造形方向WDとの関係を説明する。
図9は、強化用繊維がZ撚りの場合に、ヘッド部15の移動方向が、時計回り(右側へ湾曲)の造形パスPS_Rの場合と、反時計回り(左側へ湾曲)の造形パスPS_Lの場合を示す説明図である。Z撚りの場合では、造形パスPS_Lの造形方向では、強化用繊維の撚りの方向(反時計回り)と同じ方向に湾曲するため、強化用繊維の撚りが解消されにくく、従って開繊しにくくなる。一方、造形パスPS_Rの造形方向では、強化用繊維の撚りの方向(反時計回り)と逆の方向に湾曲するため、強化用繊維の撚りが解消されやすくなる。そのため、Z撚りの場合には、造形方向を造形パスPS_Rの方向にすると、
図4Bに示す良好な開繊状態が得やすくなる。
【0053】
図10は、強化用繊維がS撚りの場合に、ヘッド部15の移動方向が、時計回り(右側へ湾曲)の造形パスPS_Rの場合と、反時計回り(左側へ湾曲)の造形パスPS_Lの場合を示す説明図である。S撚りの場合では、造形パスPS_Rの造形方向では、強化用繊維の撚りの方向(時計回り)と同じ方向に湾曲するため、強化用繊維の撚りが解消されにくく、従って開繊しにくくなる。一方、造形パスPS_Lの造形方向では、強化用繊維の撚りの方向(時計回り)と逆の方向に湾曲するため、強化用繊維の撚りが解消されやすくなる。そのため、S撚りの場合には、造形方向を造形パスPS_Lの方向にすると、
図4Bに示す良好な開繊状態が得やすくなる。
【0054】
ここでいう造形パスの湾曲の曲率半径は、ノズル15aから吐出される造形材同士が重ならないように、造形材の幅W
0(
図4B)よりも大きく設定するのが好ましく、例えば、造形パスの湾曲の曲率半径は、1.5mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、2.5mm以上がさらに好ましい。また、曲率半径の上限値は、造形材の重なりが生じない値であればよい。なお、本明細書においては、造形パスの湾曲部分の長さが極端に短い場合に「湾曲」を「屈曲」と表しているが、いずれの場合でも好ましい造形方向は同じ方向となる。
【0055】
つまり、制御部21は、造形面17a上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する際、造形面17a上において、繊維束23がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら造形材を吐出させる造形パスにし、繊維束23がS撚りの場合には、造形方向前方向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら造形材を吐出させる造形パスにして、湾曲形状又は屈曲形状を造形させる。上記した造形パスは、使用するフィラメント11に応じて制御部21が設定してもよく、使用するフィラメント11に応じて切り替えるように造形プログラムを設定しておくことでもよい。
【0056】
例えば、積層造形装置100に使用するフィラメント11がZ撚りであるか、S撚りであるかを作業者が判別、又はセンサ等により自動判別する。その判別結果を制御部21に入力する。制御部21は、その判別結果に応じて好ましい造形方向の造形パスを設定する。具体的には、造形ブログラムにZ撚りの場合の造形パスと、S撚りの場合の造形パスとをそれぞれ用意しておき、制御部21が、いずれかの造形パスを選択的に使用して造形を行うことでもよい。
【実施例0057】
ここでは、構成の異なる複数種のフィラメントを用い、繊維束の強化用繊維の撚り方向と同じ方向、及びその逆方向に湾曲した造形パスに沿ってそれぞれ造形した。そして、線状に形成された造形材における強化用繊維の開繊幅と、円形の造形パスで作成した円形の造形物の真円度とを評価した。各フィラメントの構成とその評価結果について表1に纏めて示した。
【0058】
【0059】
試験例A1、A2、及び試験例B1では、熱可塑性樹脂としてUBEナイロン(登録商標)1010X1(UBE株式会社製)を用い、強化用繊維として1500本のTAIRYFIL TC-33(FORMOSA PLASTICS CORPORATION製)からなる1つの繊維束を用い、繊維含有率が40質量%の繊維強化樹脂フィラメント(断面径0.5mm)を製造した。
【0060】
繊維強化樹脂フィラメントの製造には、
図1に示すようなフィラメント製造装置200を用いた。融解状態の熱可塑性樹脂に繊維材料を含浸させ、複合体41を撚り部39の一対の引き取りロール53,55の引き取り方向に対する傾斜角度を調整することで、上記の複合体41における撚り角θ(
図1参照)、及び1m当たりの撚り数Nをそれぞれ設定した。
【0061】
試験例A1では、撚り角θが3°、撚り数Nが33回/m、試験例A2では、撚り角θが7°、撚り数Nが78回/m、試験例B1では、撚り角θが10°、撚り数Nが112回/mとなるようにそれぞれ撚りを付与した。こうして、試験例A1,A2及び試験例B1のフィラメントを形成した。
【0062】
試験例A3、A4及び試験例B2では、試験例A1,A2及び試験例B1の場合と同様の熱可塑性樹脂と、フィラメント製造装置200を使用し、強化用繊維として3000本のパイロフィル(登録商標) TR30S 3L(三菱ケミカル株式会社製)からなる1つの繊維束を用いることで、繊維含有率が40質量%の繊維強化樹脂フィラメント(断面径0.7mm)を製造した。
【0063】
また、一対の引き取りロール53,55の引き取り方向に対する傾斜角度を調整することで、複合体41における上記した撚り角θ及び撚り数Nをそれぞれ設定した。
試験例A3では、撚り角θが3°、撚り数Nが24回/m、試験例A4では、撚り角θが7°、撚り数Nが56回/m、試験例B2では、撚り角θが13°、撚り数Nが105回/mの撚りを付与した。こうして、試験例A3、A4及び試験例B2のフィラメントを形成した。
【0064】
試験例A5,A6及び試験例B3では、試験例A1、A2及び試験例B1の場合と同様の熱可塑性樹脂と、フィラメント製造装置200を使用し、強化用繊維として6000本のパイロフィル(登録商標) TR50S 6L(三菱ケミカル株式会社製)からなる1つの繊維束を用いることで、繊維含有率40質量%の繊維強化樹脂フィラメント(断面径1mm)を製造した。
【0065】
また、上記と同様に複合体41における上記した撚り角θ及び撚り数Nをそれぞれ設定した。試験例A5では、撚り角θが6°、1m当たりの撚り数Nが33回/m、試験例A6では、撚り角θが10°、1m当たりの撚り数Nが56回/m、試験例B3では、撚り角θが20°、撚り数Nが116回/mの撚りを付与した。こうして、試験例A5、A6及び試験例B3のフィラメントを形成した。
【0066】
(開繊性の評価)
得られた各種のフィラメントを
図1に示すような3Dプリンタ用のフィラメントとして使用し、ノズル温度260℃、テーブル温度60℃、印刷速度5mm/secの条件で1層からなる造形物を得た。この造形には、半径が5mmの円形状の曲線造形モデル(造形パス)に基づき実施した。強化用繊維の開繊幅については、造形面上に造形した円形状の造形物をレーザー顕微鏡により撮像し、その撮像画像から計測した。具体的には、画像処理ソフトウェアを用いて造形物の円周方向に沿った複数箇所で、造形物内の強化用繊維の径方向幅を計測し、その平均値を開繊幅とした。そして、時計回り又は反時計回りに湾曲した造形パスに沿った造形方向(印刷方向)ごとに開繊幅を比較し、造形方向を強化用繊維の撚りの解消方向に設定したことによる開繊幅の増大効果が認められた場合には、方向優位性を「有」と示し、増大効果が認められない場合には、方向優位性を「無」とした。
【0067】
なお、造形パスの湾曲の曲率半径が、例えば、フィラメント径の1/2である半径2.5mmより小径である場合は、造形パスの曲率半径が開繊幅に接近し過ぎるため、造形物の内周側で折り重なって、設定した曲線造形モデルの形状の再現性が低下する。そのため、本評価は、造形パスの湾曲(屈曲)の曲率半径がフィラメントの半径より大きい場合に限定される。なお、開繊幅の採り得る最大幅は、フィラメント11に含まれるマトリクス樹脂25,27が熱溶解した造形材が、ノズル15aから吐出されて造形面上で造形方向に直交する方向に広がったときの、造形面上での造形材の全幅に相当する。
【0068】
(造形精度の評価)
上記の開繊性を評価した造形物について、前述したレーザー顕微鏡及び画像処理ソフトウェアを用い、円形状の外周及び内周の真円度をそれぞれ算出し、内周と外周との平均値を求めた。求めた真円度の平均値を、造形方向(印刷方向)が時計回りに湾曲した場合と反時計回りに湾曲した場合とで比較して、設定した円軌道(円形の造形パス)からのずれの大小より造形精度を評価した。造形方向を強化用繊維の撚りの解消方向に設定したことによる造形精度の向上効果が認められた場合には、方向優位性を「有」と示し、造形精度の向上効果が認められない場合には、方向優位性を「無」と示した。
【0069】
(評価結果)
その結果、試験例A1~A5及び試験例B1~B3においては、開繊幅に関して、撚りの解消方向に湾曲する造形方向での測定結果が、撚り方向に湾曲する造形方向での測定結果より大きくなった。真円度に関しては、試験例A1~A5において、撚りの解消方向に湾曲する造形方向での測定結果が、撚り方向に湾曲する造形方向での測定結果より大きくなった。一方、試験例B1~B3においては、撚りの解消方向に湾曲する造形方向での測定結果が、撚り方向に湾曲する造形方向での測定結果より小さくなった。
【0070】
上記の結果によれば、試験例A1~A6のように、繊維束の強化用繊維に1m当たり20回以上、100回以下の撚りを付与したフィラメントで湾曲形状又は屈曲形状を造形する場合には、フィラメントの繊維束の強化用繊維の撚り方向と反対方向に湾曲又は屈曲する方向に沿って造形することで、造形精度を低下させずに開繊性を向上できた。つまり、互いに隣接する造形パスにより造形された造形材同士の密着性が向上し、造形体が多層構造である場合には層間の密着性も向上して、高い形状精度を維持しつつ造形物の強度低下を抑制できることが示された。
【0071】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0072】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形方法であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する、
積層造形方法。
この積層造形方法によれば、繊維束を有する連続繊維強化フィラメントを溶解した造形材により造形する際に、繊維束の連続繊維の撚り方向と反対方向に造形することで、造形精度を低下させずに開繊性を向上できる。特に、連続繊維の撚り数が20回/m以上、100回/m以下であると、その効果が顕著となる。その結果、隣接する造形材同士の密着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる。
【0073】
(2) 前記湾曲形状又は前記屈曲形状の曲率半径は、前記造形面上に吐出された前記造形材の造形方向に直交する幅よりも大きい、(1)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、ノズルから吐出された造形材が重なり合うことがなく、高い造形精度を維持できる。
【0074】
(3) 前記繊維束は、1500本以上、6000本以下の連続繊維を含む、(1)又は(2)に記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、連続繊維が造形物中に高い密度で配置されるため、造形物の強度を十分に向上できる。
【0075】
(4)前記連続繊維強化フィラメントの直径は、0.5mm以上、1mm以下である、(1)から(3)のいずれか1つに記載の積層造形方法。
この積層造形方法によれば、造形物の細かな形状を正確に再現できる。
【0076】
(5) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材をノズルから吐出するヘッド部と、前記ヘッド部の前記ノズルを造形面に対して相対移動させる駆動機構と、設定された造形パスに沿って前記造形材を吐出させるように前記駆動機構を駆動する制御部と、を備える積層造形装置であって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
前記制御部は、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する際、前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして、前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形させる、積層造形装置。
この積層造形装置によれば、繊維束を有する連続繊維強化フィラメントを溶解した造形材により造形する際に、繊維束の連続繊維の撚り方向と反対方向に造形することで、造形精度を低下させずに開繊性を向上できる。特に、連続繊維の撚り数が20回/m以上、100回/m以下であると、その効果が顕著となる。その結果、隣接する造形材同士の密着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる。
【0077】
(6) 線状の連続繊維強化フィラメントを加熱溶融した造形材を、造形面上で造形パスに沿ってノズルから吐出させて、前記造形面上に湾曲形状又は屈曲形状を造形する積層造形手順を実行するプログラムであって、
前記連続繊維強化フィラメントは、熱可塑性樹脂を含む基材と、前記基材中に含浸されて軸方向に延在する連続繊維を含む少なくとも1つの繊維束とを備え、
前記繊維束の前記連続繊維には、前記連続繊維強化フィラメントの軸芯を中心に20回/m以上、100回/m以下の撚りが付与されており、
コンピュータに、
前記造形面における前記造形パスを、前記繊維束がZ撚りの場合には、造形方向前方に向けて右側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにし、前記繊維束がS撚りの場合には、造形方向前方向けて左側へ湾曲又は屈曲させながら前記造形材を吐出させるパスにして前記湾曲形状又は前記屈曲形状を造形する手順を実行させる、プログラム。
このプログラムによれば、繊維束を有する連続繊維強化フィラメントを溶解した造形材により造形する際に、繊維束の連続繊維の撚り方向と反対方向に造形することで、造形精度を低下させずに開繊性を向上できる。特に、連続繊維の撚り数が20回/m以上、100回/m以下であると、その効果が顕著となる。その結果、隣接する造形材同士の密着性を向上でき、造形物の強度低下を抑制できる。