(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030896
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】金及び/又は銀の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20250228BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20250228BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20250228BHJP
C22B 3/12 20060101ALI20250228BHJP
C22B 3/08 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B7/00 G
C22B1/00 101
C22B3/12
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136583
(22)【出願日】2023-08-24
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100176142
【弁理士】
【氏名又は名称】清井 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100191204
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 春彦
(72)【発明者】
【氏名】沖部 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】ゴディガムワ カスン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA01
4K001AA04
4K001AA09
4K001BA22
4K001CA01
4K001DB03
4K001DB08
(57)【要約】
【課題】 金及び/又は銀を含む材料から、高い回収率で金及び/又は銀を回収する方法を提供すること。
【解決手段】 チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出剤Aに、金及び/又は銀を含む材料を接触させる金及び/又は銀の回収方法である。また、チオ硫酸塩を含む浸出剤Bに、金及び/又は銀を含む材料を接触させた後、該金及び/又は銀を含む材料が接触した状態の浸出剤Bに、アミノ酸を添加する金及び/又は銀の回収方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出剤Aに、金及び/又は銀を含む材料を接触させることを特徴とする金及び/又は銀の回収方法。
【請求項2】
チオ硫酸塩を含む浸出剤Bに、金及び/又は銀を含む材料を接触させた後、該金及び/又は銀を含む材料が接触した状態の浸出剤Bに、アミノ酸を添加することを特徴とする金及び/又は銀の回収方法。
【請求項3】
前記アミノ酸が、グリシン、ヒスチジン、アスパラギン、アラニン、システイン、バリン、及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載の金及び/又は銀の回収方法。
【請求項4】
前記チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出液A又は前記チオ硫酸塩を含む浸出液BのpHが、8.0以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の金及び/又は銀の回収方法。
【請求項5】
前記チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出液A又は前記チオ硫酸塩を含む浸出液Bが、銅化合物、ニッケル化合物、及びコバルト化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物と、アンモニアとを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の金及び/又は銀の回収方法。
【請求項6】
前記金及び/又は銀を含む材料が、プリント基板であることを特徴とする請求項1又は2記載の金及び/又は銀の回収方法。
【請求項7】
前記金及び/又は銀を含む材料が、破砕物又は粉砕物である請求項1又は2記載の金及び/又は銀の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金及び/又は銀を含む材料から金及び/又は銀を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋蔵量の枯渇と貴金属需要の増加のため、二次資源からの貴金属の抽出は時宜を得た解決策である。有望な二次資源の一つはプリント基板(以下、PCBとも記載)である。PCBには、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)などの貴重な金属が相当量含まれているが、これらが自然界に存在する量は限られている。
したがって、使用済みの電子機器から発生する電子廃棄物のリサイクルは、天然資源の持続可能な利用を最大化し、環境への影響を最小限に抑えるために非常に重要である。
【0003】
従来の金浸出法であるシアン化法は、酸性坑廃液や有害化学物質による大気・水質汚染を引き起こす。そのため、金浸出のための代替液化剤が近年注目され、その中でも塩化物、チオ尿素、チオシアン酸塩、チオ硫酸塩が最も注目されている。
塩化物による浸出方法の発展は、主にその危険な作業環境、貧弱な反応選択性、機器の腐食保護に対する高い要件により妨げられている。また、チオ尿素は発がん性が報告されており、チオシアン酸塩は温度とpHに非常に敏感である。
【0004】
一方、チオ硫酸塩による浸出は、環境リスクの低減、反応選択性の高さ、腐食性の低さ、比較的低コスト、浸出速度の速さなどから、最も有望な代替方法として広く検討されている。しかし、反応条件に高温を必要とするなど、チオ硫酸塩のみを使用する手法には、いくつかの制限があった。
【0005】
上記手法の限界を克服するため、チオ硫酸塩を用いた様々な浸出方法が開発され、その中でも、銅-アンモニア-チオ硫酸塩が広く研究されてきた。Cu2+を含むアンモニア-チオ硫酸塩の開発により、室温でも金の浸出が可能になった(非特許文献1参照)。Cu2+の存在は、金(I)チオ硫酸錯体の形成によってアンモニア-チオ硫酸塩中での金の浸出を加速することができる。なお、Cu2+の代用としてNi2+、Co3+、Fe3+が使用できることも報告されている。
【0006】
しかしながら、チオ硫酸塩濃度が高くなると、チオ硫酸塩はAuと安定な錯体Au(S2O3)2
3-を形成するものの、浸出したAuの回収を困難にする。一方、チオ硫酸塩濃度が低くなると、Auの浸出が非常に遅くなり、Au-チオ硫酸錯体の安定性を低下させる。
【0007】
また、シアン化物に代わる金浸出剤としては、グリシン、アラニン、ヒスチジンなどのアミノ酸も研究されてきた。アミノ酸は、毒性がなく、揮発性がなく、リサイクル可能な特性を持っている。
特にグリシンは、低コストで構造が最も単純であり、金属に対する親和性が高いことから、広く注目されている(非特許文献2、3参照)。このグリシンは工業的規模で容易に生産可能であり、また様々な微生物から副産物として得られ、pH、Eh、温度の広い範囲で、AuやAgと安定な錯体を形成することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Xu, B.; Kong, W.; Li, Q.; Yang, Y.; Jiang, T.; Liu, X. A Review of Thiosulfate Leaching of Gold: Focus on Thiosulfate Consumption and Gold Recovery from Pregnant Solution. Metals (Basel) 2017, 7, 222, doi:10.3390/met7060222.
【非特許文献2】Oraby,E.A.; Eksteen,J.J.The Selective Leaching of Copper from a Gold-Copper Concentrate in Glycine Solutions. Hydrometallurgy 2014, 150,14-19, doi:10.1016/j.hydromet.2014.09.005.
【非特許文献3】Oraby,E.A.; Eksteen,J.J.The Leaching of Gold, Silver and Their Alloys in Alkaline Glycine-Peroxide Solutions and Their Adsorption on Carbon. Hydrometallurgy 2015,152,199-203, doi:10.1016/j.hydromet.2014.12.015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、金及び/又は銀を含む材料から金及び/又は銀の回収について研究されているが、その回収率は必ずしも十分であるといえるものではなかった。
本発明の課題は、金及び/又は銀を含む材料から、高い回収率で金及び/又は銀を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するために、チオ硫酸塩とアミノ酸とを組み合わせる本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1] チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出剤Aに、金及び/又は銀を含む材料を接触させることを特徴とする金及び/又は銀の回収方法。
【0012】
[2] チオ硫酸塩を含む浸出剤Bに、金及び/又は銀を含む材料を接触させた後、該金及び/又は銀を含む材料が接触した状態の浸出剤Bに、アミノ酸を添加することを特徴とする金及び/又は銀の回収方法。
【0013】
[3] 前記アミノ酸が、グリシン、ヒスチジン、アスパラギン、アラニン、システイン、バリン、及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載の金及び/又は銀の回収方法。
[4] 前記チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出液A又は前記チオ硫酸塩を含む浸出液BのpHが、8.0以上であることを特徴とする上記[1]~[3]のいずれか記載の金及び/又は銀の回収方法。
[5] 前記チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出液A又は前記チオ硫酸塩を含む浸出液Bが、銅化合物、ニッケル化合物、及びコバルト化合物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物と、アンモニアとを含むことを特徴とする上記[1]~[4]のいずれか記載の金及び/又は銀の回収方法。
【0014】
[6] 前記金及び/又は銀を含む材料が、プリント基板であることを特徴とする上記[1]~[5]のいずれか記載の金及び/又は銀の回収方法。
[7] 前記金及び/又は銀を含む材料が、破砕物又は粉砕物である上記[1]~[6]のいずれか記載の金及び/又は銀の回収方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の金及び/又は銀の回収方法によれば、金及び/又は銀を含む材料から、高い回収率で金及び/又は銀を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の金の回収における推定メカニズムを示す図である。
【
図2】(a)、(b)は、それぞれチオ硫酸-グリシン系(pH9)の金の浸出率とpHの変化を示す図である。
【
図3】チオ硫酸-グリシン系(pH11)の金の浸出率を示す図である。
【
図4】(a)、(b)は、それぞれチオ硫酸-ヒスチジン系(pH9)の金の浸出率とpHの変化を示す図である。
【
図5】(a)、(b)は、それぞれチオ硫酸-グリシン系のチオ硫酸濃度を変更した場合の金と銀の浸出率の変化を示す図である。
【
図6】(a)、(b)は、それぞれチオ硫酸-グリシン系のグリシン濃度を変更した場合の金と銀の浸出率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1の本発明に係る金及び/又は銀の回収方法は、チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む浸出剤Aに、金及び/又は銀(以下、金等とも記載)を含む材料(以下、材料とも記載)を接触させることを特徴とする。
【0018】
また、第2の本発明に係る金及び/又は銀の回収方法は、チオ硫酸塩を含む浸出剤Bに、金及び/又は銀を含む材料を接触させた後、該金及び/又は銀を含む材料が接触した状態の浸出剤Bに、アミノ酸を添加することを特徴とする。
【0019】
なお、本発明では、金等を浸出させるために必要な試薬を含む液を浸出剤(又は抽出剤)と称し、金等が浸出した後の液を浸出液(又は抽出液)と称す。
【0020】
また、本発明の金等の回収に悪影響を及ぼす可能性のある金属(例えば銅)が材料に相当量含まれる場合は、材料を浸出剤A又は浸出剤B(以下、あわせて浸出剤とも記載)に接触させる前に除去しておくことが好ましい。
【0021】
本発明の回収方法は、チオ硫酸塩とアミノ酸を組み合わせた新規な手法であり、チオ硫酸塩とアミノ酸とを組み合わせることにより、相乗的に金及び/又は銀の回収率を向上させることができる。また、シアン化物を用いることなく、環境問題に配慮しながら、金及び/又は銀の回収率を、従来よりも安定的に高めることができる。
【0022】
本発明の回収方法においては、溶液中の金及び/又は銀と浸出剤との錯体の安定性が重要なファクターと考えられるところ、本発明者らは、以下のような機序により錯体の安定化が図られていると考えている。すなわち、チオ硫酸塩は、シアン化物やグリシンよりも高い浸出速度論を持っているため、第1段階で、チオ硫酸塩がAu(Ag)-チオ硫酸錯体を形成してAu(Ag)浸出のトリガーとなり、次の第2段階で、アミノ酸がAu(Ag)-アミノ酸錯体を形成して、浸出したAu(Ag)を安定化させていると考えている。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の回収方法において処理することができる材料は、金及び/又は銀(金のみ、銀のみ、又は、金と銀の双方)を含む材料であれば特に限定されるものではなく、例えば、プリント基板、アクセサリー、医療材料、鉱石、触媒等を挙げることができるが、金及び/又は銀を相当量含み(金と銀の含有率が高く)、大量に廃棄されるプリント基板(廃プリント基板)が好ましい。
【0024】
プリント基板とは、基板の一種であり、プリント配線板(PWB:printed wiring board)とプリント回路板(PCB:printed circuit board)のいずれか一方のみでもよく、または、双方が混在したものでもよいが、本発明においては、金及び/又は銀をより多く含む点からプリント回路板が好ましい。
【0025】
プリント配線板とは、絶縁体で構成された板の上や内部に、導体の配線が施された(だけの)ものであり、電子部品が取り付けられる前の状態のものである。このプリント配線板には、例えば、その製造工程において発生した不良品などがある。
また、プリント回路板とは、上記プリント配線板に電子部品がはんだ付けされ、電子回路として動作するようになったものである。このプリント回路板には、例えば、廃棄処分される電気製品や電子機器から分離し回収されたものなどがある。
【0026】
これらのプリント基板は、そのままの状態で処理してもよいが、破砕物(例えば、cmオーダの破片状、更にはmmオーダの粒状)、更には粉砕物(例えば、μmオーダの粉状)の状態で処理することが、均質な処理材料を作製し、表面積を増加させて、浸出効率を高めることができるため好ましい。
【0027】
粉砕物の平均粒径としては、例えば、20μm~300μmが好ましく、20μm~250μmがより好ましく、30μm~200μmがさらに好ましい。平均粒径は、例えば、レーザー散乱粒度分布測定装置(LA-950、堀場製作所)を用いて測定することができる。
【0028】
本発明の浸出剤Aは、チオ硫酸塩及びアミノ酸を含む。また、浸出剤Bは、チオ硫酸塩を含むものであるが、後に、アミノ酸が添加され、浸出剤Aと同様の構成となる。浸出剤Bに対するアミノ酸の添加は、チオ硫酸塩による反応時間を考慮して添加することができるが、浸出剤Bと金等を含む材料とを接触させた後、例えば、10時間以内に添加することが好ましく、6時間以内に添加することがより好ましく、3時間以内に添加することがさらに好ましい。
【0029】
浸出剤に含まれるチオ硫酸塩は、上記のように、金等との錯体(金-チオ硫酸錯体,銀-チオ硫酸錯体)を形成することによって、材料から金等を浸出(溶出)させるトリガーとなるものであり、例えば、チオ硫酸ナトリウム(Na2S2O3)、チオ硫酸カリウム(K2S2O3)、チオ硫酸カルシウム(CaS2O3)等を挙げることができ、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウムが好ましく、チオ硫酸ナトリウムが特に好ましい。
【0030】
チオ硫酸塩の添加量(金属1mgあたりの浸出に必要なチオ硫酸量)は、金の浸出の場合、350~1000mg程度が好ましく、380~800mg程度がより好ましい。また、銀の浸出の場合や金及び銀の浸出の場合、30~100mgが好ましく、40~80mgがより好ましい。従来、金の場合で2288mg、銀の場合で692mg、金及び銀の場合で531mgという報告がなされていることからすると、チオ硫酸塩とアミノ酸を組み合わせる本発明においては、チオ硫酸の使用量を従来と比較して著しく低減することができる。
【0031】
ここで、チオ硫酸塩による金及び/又は銀の浸出においては、浸出過程が非常に複雑で、反応安定性を維持するのが難しい。
したがって、本発明においては、反応安定性を維持すべく、浸出剤(浸出剤A、アミノ酸添加前の浸出剤B)は、系中で銅イオン(Cu2+)を生じさせる銅化合物、系中でニッケルイオン(Ni2+)を生じさせるニッケル化合物、又は系中でコバルトイオン(Co3+)を生じさせるコバルト化合物を含むことが好ましく、銅化合物が特に好ましい。具体的には、これらの金属の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、塩化物等が挙げられ、硫酸銅が特に好ましい。また、これらの金属化合物と共にアンモニアを含むことが好ましい。これにより、銅-アンモニア錯体等を形成することで、溶液中のCu2+等を安定化させ、金等の酸化を促進して、チオ硫酸による金等の浸出を促進することができる。なお、緩衝作用を付与するために、アンモニアと共に、塩化アンモニウム等のアンモニウム塩を添加することが好ましい。
【0032】
また、上記と同様、鉄イオン(Fe3+)を生じさせる鉄化合物及びシュウ酸の組み合わせも適用可能である。
【0033】
浸出剤Aに含まれるアミノ酸、又は浸出液Bに添加するアミノ酸は、上記のように、金等との錯体(金-アミノ酸錯体,銀-アミノ酸錯体)を形成することによって、浸出した金等を安定化させるためのものである。
【0034】
このアミノ酸としては、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、アスパラギン(Asn)、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、バリン(Val)、アスパラギン酸(Asp)等を挙げることができ、工業的規模で容易に生産可能であり、また様々な微生物から副産物として得られ、pHや温度の広い範囲でAuやAgと安定な錯体を形成することができることから、グリシンが好ましい。
【0035】
なお、グリシン及びヒスチジン以外について、実施例においてその結果が示されていないが、アスパラギン(Asn)、アラニン(Ala)、システイン(Cys)、バリン(Val)、アスパラギン酸(Asp)については、従来、単独の金等の浸出効果が認められていることから、本発明の方法においても有効であると考えられる。
【0036】
浸出剤AのpHは、8.0以上が好ましく、浸出率をより高めるために、8.0~11.0がより好ましく、8.0~10.5がさらに好ましく、8.0~10.0が特に好ましい。なお、pHの調整は、アンモニアやNaOH等のアルカリ剤を添加することで行うことができる。
【0037】
また、チオ硫酸塩を含む浸出剤BのpHは、8.0以上が好ましく、チオ硫酸塩が機能しやすい8.0~10.0がより好ましく、8.0~9.5がさらに好ましい。また、アミノ酸を添加した浸出剤BのpHは、8.0以上が好ましく、アミノ酸が機能しやすい8.0~11.5がより好ましく、8.5~11.0がさらに好ましい。なお、pHの調整は、アンモニアやNaOH等のアルカリ剤を添加することで調整できる。
【0038】
アミノ酸の添加量(金属1mgあたりの浸出に必要なアミノ酸量)は、金の浸出の場合、2000~5000mg程度が好ましく、3000~4000mg程度がより好ましい。また、銀の浸出の場合や金及び銀の浸出の場合、200~500mgが好ましく、250~400mgがより好ましい。
【0039】
上記のような浸出剤を用いたチオ硫酸-グリシン系での材料中の金表面での金浸出に関連する推定浸出メカニズムを
図1に示す。
【0040】
本発明の浸出処理の処理温度としては、金等の浸出が可能な温度であれば特に制限されるものではなく、例えば、10~100℃であり、15~80℃が好ましく、20~50℃がより好ましい。
【0041】
本発明の浸出処理は、バッチ式又は連続式で行うことができる。
バッチ式の浸出処理としては、容器に貯留された浸出剤Aに材料を供給、又は容器に貯留された材料に浸出剤Aを供給し、浸出剤A中に材料を浸漬(接触)させて、浸出剤Aに金及び/又は銀を浸出させる態様を挙げることができる。
また、容器に貯留された浸出剤Bに材料を供給、又は容器に貯留された材料に浸出剤Bを供給し、浸出剤B中に材料を浸漬(接触)させて、金及び/又は銀-チオ硫酸錯体を形成させた後、この材料が浸漬した状態の浸出剤Bにアミノ酸を供給して、金及び/又は銀-アミノ酸錯体を形成させる態様を挙げることができる。
【0042】
連続式の浸出処理としては、例えば、材料を充填した容器に、浸出剤Aを連続供給及び連続排出する態様を挙げることができる。
また、材料を充填した容器に、浸出剤Bを連続供給及び連続排出して、該排出した浸出剤Bに対してアミノ酸を供給して、金及び/又は銀-アミノ酸錯体を形成させる態様を挙げることができる。
なお、材料を詰めた容器を複数準備し、浸出剤A又は浸出剤Bの供給経路を容器ごとに切り替えることができ、このとき、浸出処理が終了した材料を収容した容器については、処理が完了した材料を未処理の材料に取り換えることができる。
【0043】
他の連続式の方法として、材料及び浸出剤を連続的に所定量ずつ供給し、金等が浸出した浸出液を、容器からオーバーフローさせる態様を挙げることができる。この容器への材料及び浸出剤の供給量は、容器での材料の処理時間(滞留時間)を考慮して設定する。なお、容器内の浸出剤は、例えば、定期的(断続的)又は連続的に、チオ硫酸塩とアミノ酸の濃度、pH等を測定し、それぞれ調整する。また、浸出処理が完了した材料は、例えば、容器の底部に沈殿させて定期的又は連続的に取り出す。
【0044】
金等が浸出した浸出液は、さらに所定の処理を行って、金等を分離し回収することができる。なお、金等が分離された液は、例えば、チオ硫酸塩の濃度等調整し、浸漬剤として再利用することもできる。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
<プリント基板(PCB)の特性評価>
PCBには、主にCu、Fe、Alなどの様々な金属が含まれており、これらが様々な種類のプラスチックやセラミックスに付着、被覆、混合されている。そのため、遊星ボールミル法などの従来の粉砕方法では、より小さな粒子にすることは困難である。したがって、以下のような操作で粉砕を行った。
【0046】
日本のリサイクル業者から入手した、磁気分離の対象となるmmサイズのPCBの破砕物に、液体窒素を添加し、極低温粉砕機(JFC-2000;日本分析工業)を用いて粉砕して、Au/Ag浸出試験のために表面積を増加させた。粉砕した試料をふるい分け、粒子径75μm~500μmとした。
【0047】
粉砕したPCBの化学組成は、マイクロ波アシスト酸分解(Ethos Plus, Milestone)とICP-OES分析(ICP-OES; PerkinElmer, Optima 8300)、及び蛍光X線分析(XRF, ZSX Primus II, Rigaku, Japan)によって測定した。両分析で得られた元素組成を表1に示す。
【0048】
【0049】
表1に示すように、Cu(8.10%)が最も多く、Al(3.69%)とFe(1.49%)が多量に含まれていることが明らかになった。AuとAgはそれぞれ0.026%と0.28%検出された。
【0050】
<Cu除去のためのPCBの前処理>
PCB中にCuが多く含まれるとチオ硫酸の消費量が多くなるため、PCBからCuを除去することは有益である。さらに、PCB中のCuの含有量が高いと、Auの浸出に悪影響を及ぼすことも考えられる。このため、前処理として、AuとAgの浸出を行う前に、酸浸出を行った。
【0051】
具体的には、浸出試験の前に、PCBを1M H2SO4で70℃、7日間処理して、Cuを浸出させた。その後、固形残渣をろ過(0.45μm)で回収し、蒸留水で十分に洗浄した後、55℃のオーブンで一晩乾燥させた。この処理により、試料から99.3%のCuが除去された。
【0052】
<チオ硫酸-アミノ酸系浸出によるAu浸出>
本発明の実施例は、チオ硫酸系(銅-アンモニア-チオ硫酸塩)のAu浸出と、アミノ酸のAu浸出とを組み合わせたものである。比較対照として、チオ硫酸系単独とグリシン単独のAu浸出を調べた。具体的には、以下の通りである。
【0053】
銅-アンモニア-チオ硫酸塩(60mM チオ硫酸ナトリウム、0.2M NH4Cl、0.26M NH3、10mM CuSO4)とアミノ酸(0.5M)との組み合わせによるPCBからの金浸出を、材料濃度2%、pH9、40℃、160rpmで行った。なお、アミノ酸には、グリシンとヒスチジンを用いた。
【0054】
比較対照として、チオ硫酸系単独とアミノ酸単独の浸出試験を実施した。チオ硫酸系単独(60mM チオ硫酸塩、0.2M NH4Cl、0.26M NH3、10mM CuSO4)では、材料濃度2%、pH9、40℃、160rpmで浸出を行った。同様に、アミノ酸単独では、0.5M グリシン又は0.5M ヒスチジンで、材料濃度2%、pH9、40℃、160rpmで浸出を行った。
浸出中、pHを調査し、ICP-OES分析用の試料を採取した。浸出試験は3連で行い、平均金属含有量を算出した。
【0055】
アミノ酸としてグリシンを用いた場合の金の浸出率を
図2(a)に示し、pHの変化を
図2(b)に示す。
【0056】
図2(a)に示すように、チオ硫酸系のみでは、初期段階でかなりの浸出(46.0%)が見られたが、浸出率は時間と共に著しく低下した。これは、Au-チオ硫酸錯体が不安定で沈殿物が生じたためと考えられる。一方、グリシンのみでは、Auの浸出は観察されなかった。
【0057】
これに対して、本発明のチオ硫酸-グリシン系では、チオ硫酸塩とグリシンによるAu浸出の相乗効果が観察された。48時間以内にAuの浸出率が93.6%であり、非常に高いものであった。チオ硫酸系とグリシンを組み合わせると、浸出液中のAuの安定性が増したのは、Auが最初はAu-チオ硫酸錯体を形成し、その後、Au-グリシン錯体([Au(Gly)2]-)を形成したためと考えられる。なお、グリシンとの金錯体であるAu(NH2CH2COO)2
-の安定定数は、Au(SCN)2
-、AuBr2
-、AuCl2
-などの他の金錯体よりもはるかに高い。
【0058】
図2(b)の結果によると、すべての試験対象において、pHの有意な変化は観察されなかった。チオ硫酸系では、NH
3とNH
4
+による緩衝作用が見られた。同様に、グリシンでは、双性イオンによるグリシン自体に由来する緩衝効果が得られた。
したがって、チオ硫酸系とグリシンを組み合わせることで、NH
3/NH
4
+とグリシンによる緩衝効果が得られる。
【0059】
なお、上記本発明の実施例であるチオ硫酸-グリシン系において、pHを9から11へ変更した場合の結果を
図3に示す。
図3に示すように、pH9の場合と比べると劣るものの、pH11の場合も、Au浸出が実現された。
【0060】
また、アミノ酸として、グリシンの代わりにヒスチジンを使用した場合の金の浸出率を
図4(a)に示し、pHの変化を
図4(b)に示す。
図4(a)に示すように、ヒスチジンのみではAuの浸出は観察されなかった。一方、チオ硫酸-ヒスチジン系では、グリシンほどではないが、チオ硫酸塩とヒスチジンによるAu浸出の相乗効果が観察された。
また、
図4(b)に示すように、すべての試験対象において、pHの有意な変化は観察されなかった。
【0061】
<チオ硫酸-グリシン系におけるチオ硫酸濃度の検討>
最適化された条件(0.5M グリシン、0.2M NH4Cl、0.26M NH3、10mM CuSO4)のもと、チオ硫酸-グリシン系のチオ硫酸塩濃度のみを60、40、20、10mMに変更して、AuとAgの浸出状況を調べた。なお、すべての試験条件においてpHは安定していた。
【0062】
図5(a)にAuの浸出率を示し、
図5(b)にAgの浸出率を示す。
図5(a)に示すように、チオ硫酸濃度が高いほどAuの浸出量が多いことが示唆された。チオ硫酸濃度が高くなると、初期段階でのAuの浸出速度が増加する。
図5(b)に示すように、Agの浸出についても同様の傾向が観察され、チオ硫酸濃度が高い系では95.3%であった。
【0063】
なお、金属1mgあたりの浸出に必要なチオ硫酸量は、金の場合で393mg~789mg、銀の場合で40mg~80mg、金及び銀の場合で36mg~72mgであった。
【0064】
<チオ硫酸-グリシン系におけるグリシン濃度の検討>
最適化されたチオ硫酸濃度(60mM チオ硫酸、0.2M NH4Cl、0.26M NH3、10mM CuSO4)のもと、チオ硫酸-グリシン系のグリシン濃度のみを0.50、0.40、0.20、0.05Mに変更して、AuとAgの浸出状況を調べた。なお、すべての試験条件においてpHは安定していた。
【0065】
図6(a)にAuの浸出率を示し、
図6(b)にAgの浸出率を示す。
図6に示すように、上記チオ硫酸濃度と同様に、グリシン濃度が高いほど、AuとAgの浸出率が高いことが示唆された。