(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025030965
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】閉胸器及びテンショナー
(51)【国際特許分類】
A61B 17/82 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
A61B17/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136866
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】323009450
【氏名又は名称】ジェイシード株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115598
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 脩
(72)【発明者】
【氏名】大薗 穂積
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL25
4C160LL37
(57)【要約】
【課題】左右に切り離された胸骨が位置ずれを起こさないよう強固に接合し、皮膚の縫合も可能な閉胸器を提供する。
【解決手段】複数本の線状を所定の太さに撚り合わせ、先端に半円形の鋭利な鉤が設けられた所定長のロープと、そのロープを自在に挿通する管路が形成された第一圧潰部材を、薄い矩形プレート上に固定した第一クリンプと、を備え、上記鉤を用いて胸骨体の一方の側端から体内に挿入し、他方の側端から体外に引き出した上記ロープの端それぞれを挿通した上記第一クリンプを該胸骨体に直交配置し該第一圧潰部材を圧潰する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸骨正中切開して分離された胸骨を接合する閉胸器であって、
チタン合金のELI材からなる複数本の線状を所定の太さに撚り合わせ、先端に半円形の鋭利な鉤が設置された所定長のロープと、
前記ロープを自在に挿通する管路が形成された第一圧潰部材を、薄い矩形のプレート上に固定した第一クリンプと、を備え、
前記鉤を用いて胸骨体の一方の側端から体内に挿入し、該胸骨体の裏側を経由して他方の側端から体外に引き出した前記ロープの端それぞれを前記第一圧潰部材に挿通させた前記第一クリンプが該胸骨体に直交配置され、該ロープの一端を固定して他端をけん引し、前記胸骨を接合させた後に該第一圧潰部材を圧潰することを特徴とする閉胸器。
【請求項2】
分離された胸骨柄の左右の対称位置に前記鉤で穴を開け、一方の穴から体内に挿入し、他方の穴から体外に引き出した前記ロープの端それぞれを前記第一圧潰部材に挿通した前記第一クリンプを該胸骨柄に直交配置すると共に、前記胸骨体の肋間それぞれにも該第一クリンプを直交配置して該第一圧潰部材それぞれを圧潰することを特徴とする請求項1記載の閉胸器。
【請求項3】
前記第一圧潰部材は、高さが5mm未満で、前記管路が2条形成され、前記ロープの一端を該管路の一方に挿通し、他端を該管路の他方に挿通することを特徴とする請求項1記載の閉胸器。
【請求項4】
胸骨正中切開し、分離された胸骨を接合する閉胸器であって、
チタン合金のELI材からなる複数本の線状を所定の太さに撚り合わせ、先端に鋭利な鉤が設置された所定長のロープと、
矩形の薄い第一板状部材の長辺の端寄りそれぞれに、該第一板状部材に直交する矩形の薄い第二板状部材それぞれが結合され、前記ロープを自在に挿通する管路が形成された第二圧潰部材を、該第一板状部材の中央部に固定した第二クリンプと、を備え、
前記鉤を用いて胸骨体の一方の側端から体内に挿入し、該胸骨体の裏側を経由して他方の側端から体外に引き出した前記ロープの端それぞれを前記第二圧潰部材に挿通させた前記第二クリンプが該胸骨体に直交配置され、該ロープの一端を固定して他端をけん引し、前記胸骨を接合させた後に該第二圧潰部材を圧潰することを特徴とする。
【請求項5】
分離された胸骨柄の対称位置に前記鉤で穴を開け、一方の穴から体内に挿入し、他方の穴から体外に引き出した前記ロープの端それぞれを前記第二圧潰部材に挿通した前記第二クリンプを、該胸骨柄に直交配置すると共に、前記胸骨体の第3肋骨と第4肋骨との間、及び第5肋骨と第6肋骨との間にも該第二クリンプを直交配置して該第二圧潰部材それぞれを圧潰することを特徴とする請求項4記載の閉胸具。
【請求項6】
前記第二圧潰部材は、高さが3mm未満で、前記管路が2条形成され、前記ロープの一端を該管路の一方に挿通し、他端を該管路の他方に挿通することを特徴とする請求項4記載の閉胸器。
【請求項7】
所定の太さのロープが貫通する第一パイプと、内嵌した該第一パイプ及び該第一パイプに挿入された該ロープを固定する固定手段が内面に接合され、外面に雄ネジが形成された第二パイプと、該第二パイプの一部を蔽う筒状の筐体と、該筐体の開放端に当接する開口を有し、内周面に該第二パイプに螺合する雌ネジが形成された円筒部と、を備え、前記円筒部は、閉鎖外面にハンドルが設置され、該ハンドルを手で回すと前記固定手段に固定された前記第一パイプが前記筐体から出入して前記ロープをけん引することを特徴とするテンショナー。
【請求項8】
前記第二パイプに螺合して移動する前記円筒部の内部空間に弾性部材を備え、
前記ロープのけん引力が600ニュートン以下に制限することを特徴とする請求7記載のテンショナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸骨を切り開いて心臓外科手術や呼吸器外科手術を行い、皮膚を縫合する前に、その胸骨を接合する閉胸器及びその閉胸器で胸骨を接合する際にテンションを加えるために用いるテンショナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓外科手術や呼吸器外科手術を行う際に、胸骨の真ん中を縦に切断して左右に分離し、開胸器で固定する胸骨正中切開という術式が用いられることがある。その術式を用いる場合は、手術が終了すると開胸器を取り外し、分離した胸骨を接合するために閉胸器が必要になる。閉胸器としては、両端に湾曲したフック、中央に弾力性のあるループがあり形状記憶合金で造られたクリップが提案されている(特許文献1)。このクリップは、左右に切り離された胸骨をフックで把持するもので、ループの温度が形状回復温度以上に達するとループの形状が記憶形状に戻り、フック相互の離間距離が縮むので、左右に切り離された胸骨が接合することを企図している。また、フックの途中を折り返して胸骨とクリップとの接触面積を増大させたものも提案されている(特許文献2参照)。
なお、特許文献2には、村中医療機器株式会社の商品で、左右に開かれた切開胸骨を左右方向の外側から挟み込む左右一対のクラ ンプ部材Aと、それらのクランプ部材Aの間隔を調整するラック・アンド・ピニオン機構 Bと、ラック・アンド・ピニオン機構Bのピニオンギヤを手動操作で回転するハンドルCと、を備えた閉胸器が
図20に示めされている。
【0003】
しかしながら、特許文献1から3に示されたクリップや閉胸器で胸骨を接合した場合には、左右の胸骨が上下方向及び前後方向、又はいずれかの方向にずれることがあり、接合に時間がかかるうえ、肋骨の位置が左右でアンバランスになることがある。そこで、湾曲状の係合体の先端を胸骨又は肋骨に係合させて、操作部を回転させると係合体相互の対向距離が伸縮する伸縮機構を収容した箱体からなる閉胸器が提案されている(特許文献3参照)。
この閉胸器は、箱体の底面を切開胸骨に当接させた状態で係合体間の距離を短縮させることにより切開胸骨を接近させるので、上下方向及び前後方向の位置ずれをなくすことができる。また、係合体相互の対向距離を小さくすることができるように、箱体の底面に係合体が移動できる貫通経路を設けてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6969391号公報
【特許文献2】特許第7178618号公報
【特許文献3】特許第7188719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引用文献3記載の閉胸器によれば、左右に切り離された胸骨を位置ずれが生じないように接合することができるが、伸縮機構を収容する箱体は一定の高さが必要なうえに、箱体の上面に、係合体相互の対向距離を伸縮するためのハンドルを設置する必要があるので高さがかなり高くなってしまう。そこで、胸骨の位置ずれは防げても、皮膚の縫合が困難になり、術後の処置が不可欠になる。
上記事情に鑑み、本発明は、胸骨正中切開術によって左右に切り離された胸骨が上下、左右に動揺して位置ずれを起こさないよう強固に接合し、皮膚の縫合も可能であり、胸骨が癒合した後においても体内にそのまま放置することができるうえ、閉胸後に病状が急変し、再度開胸する必要が生じたときも迅速に対処することができる閉胸器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、胸骨正中切開して分離された胸骨を接合する閉胸器であって、チタン合金のELI材からなる複数本の線状を所定の太さに撚り合わせ、先端に半円形の鋭利な鉤が設置された所定長のロープと、上記ロープを自在に挿通する管路が形成された第一圧潰部材を、薄い矩形のプレート上に固定した第一クリンプと、を備え、上記鉤を用いて胸骨体の一方の側端から体内に挿入し、該胸骨体の裏側を経由して他方の側端から体外に引き出した上記ロープの端それぞれを上記第一圧潰部材に挿通させた上記第一クリンプが該胸骨体に直交配置され、該ロープの一端を固定して他端をけん引し、上記胸骨を接合させた後に該第一圧潰部材を圧潰することを特徴とする。
その場合、分離された胸骨柄の左右の対称位置に上記鉤で穴を開け、一方の穴から体内に挿入し、他方の穴から体外に引き出した上記ロープの端それぞれを上記第一圧潰部材に挿通した上記第一クリンプを該胸骨柄に直交配置すると共に、上記胸骨体の肋間それぞれにも該第一クリンプを直交配置して該第一圧潰部材それぞれを圧潰することができる。
そして、上記第一圧潰部材は、高さが5mm未満で、上記管路が2条形成され、上記ロープの一端を該管路の一方に挿通し、他端を該管路の他方に挿通することが好ましい。
このように先端の鉤を設けた所定の太さのロープと、ロープが挿通する管輅が一つ又は二つあり、管路を圧し潰せば管路内にロープが固定される第一圧潰部材を薄い矩形プレートに固定した第一クリンプとを備えた閉胸器を用いれば、胸骨正中切開術によって左右に切り離された胸骨が上下、左右に動揺して位置ずれを起こさないよう強固に接合し、皮膚の縫合を行うことができる。また、術後の症状が悪化して、緊急手術が必要な場合には、ロープをカッターで切断して迅速に再開胸することもできる。
【0007】
第二の発明は、胸骨正中切開し、分離された胸骨を接合する閉胸器であって、チタン合金のELI材からなる複数本の線状を所定の太さに撚り合わせ、先端に鋭利な鉤が設置された所定長のロープと、矩形の薄い第一板状部材の長辺の端寄りそれぞれに、該第一板状部材に直交する矩形の薄い第二板状部材それぞれが結合され、上記ロープを自在に挿通する管路が形成された第二圧潰部材を、該第一板状部材の中央部に固定した第二クリンプと、を備え、上記鉤を用いて胸骨体の一方の側端から体内に挿入し、該胸骨体の裏側を経由して他方の側端から体外に引き出した上記ロープの端それぞれを上記第二圧潰部材に挿通させた上記第二クリンプが該胸骨体に直交配置され、該ロープの一端を固定して他端をけん引し、上記胸骨を接合させた後に該第二圧潰部材を圧潰することを特徴とする。
その場合、分離された胸骨柄の対称位置に上記鉤で穴を開け、一方の穴から体内に挿入し、他方の穴から体外に引き出した上記ロープの端それぞれを上記第二圧潰部材に挿通した上記第二クリンプを、該胸骨柄に直交配置すると共に、上記胸骨体の第3肋骨と第4肋骨との間、及び第5肋骨と第6肋骨との間にも該第二クリンプを直交配置して該第二圧潰部材それぞれを圧潰することができる。
そして、上記第二圧潰部材は、高さが3mm未満で、上記管路が2条形成され、上記ロープの一端を該管路の一方に挿通し、他端を該管路の他方に挿通することが好ましい。
このように、第一板状部材の長辺の端寄りそれぞれに直交する第二板状部材が結合され第一板状部材の中央部にロープを挿通する第二圧潰部材が固定された第二クリンプを備えていれば、胸骨に接触する面積が第一発明の第一クリンプよりも実質的に大きくなり、胸骨が上下、左右に動揺して位置ずれするのを防ぎ強固に接合し、皮膚の縫合を行うことができる。また、術後の症状が悪化して、緊急手術が必要な場合には、第一の発明同様に、迅速に再開胸できる。
【0008】
第三の発明のテンショナーは、所定の太さのロープが貫通する第一パイプと、内嵌した該第一パイプ及び該第一パイプに挿入された該ロープを固定する固定手段が内面に接合され、外面に雄ネジが形成された第二パイプと、該第二パイプの一部を蔽う筒状の筐体と、該筐体の開放端に当接する開口を有し、内周面に該第二パイプに螺合する雌ネジが形成された円筒部と、を備え、上記円筒部は、閉鎖外面にハンドルが設置され、該ハンドルを手で回すと上記固定手段に固定された上記第一パイプが上記筐体から出入して上記ロープをけん引することを特徴とする。
そして、上記第二パイプに螺合して移動する上記円筒部の内部空間に弾性部材を備え、上記ロープのけん引力が600ニュートン以下に制限することができる。
このようにロープをけん引する専用器具があれば、閉胸器による胸骨の接合を迅速に行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の閉胸器によれば、胸骨正中切開術によって左右に切り離された胸骨が位置ずれを起こさないように接合することができるうえ、高さが5mm未満と低いので、皮膚の縫合も可能であり、胸骨が癒合した後においても体内にそのまま放置することができる。さらに、閉胸後に、再度開胸する必要が生じたときは、ロープを切断して迅速に開胸することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態の閉胸器を構成するロープの一例を示す図である。
【
図2(a)】
図2(a)は、本実施形態の閉胸器を構成する第一クリンプの一例を示す平面図である。
【
図2(b)】
図2(b)は、本実施形態の閉胸器を構成する第一クリンプの一例を示す正面図である。
【
図2(c)】
図2(c)は、本実施形態の閉胸器を構成する第一クリンプの一例を示す側面図である。
【
図3(a)】
図3(a)は、本実施形態の閉胸器を構成する第一クリンプの他の例を示す平面図である。
【
図3(b)】
図3(b)は、第一の発明の閉胸器を構成する第一クリンプの他の例を示す正面図である。
【
図3(c)】
図3(c)は、第一の発明の閉胸器を構成する第一クリンプの他の例を示す側面図である。
【
図4】
図4は、胸骨の側端に本実施形態のロープを挿通する位置を示す図である。
【
図5】
図5は、胸骨柄及び胸骨体に本実施形態の閉胸器を設置し、分離した胸骨を接合する一例を示す図である。
【
図6】
図6は、胸骨を接合するために本実施形態の閉胸器のロープをけん引する方法を示す図である。
【
図7(a)】
図7(a)は、本実施形態の第二クリンプの一例を示す平面図である。
【
図7(b)】
図7(b)は、本実施形態の第二クリンプの一例を示す正面図である。
【
図8】
図8は、胸骨の側端に本実施形態のロープを挿通する位置を示す図である。
【
図9】
図9は、胸骨柄及び胸骨体に本実施形態の閉胸器を設置して分離した胸骨を接合する一例を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態のテンショナーを示す外観図である。
【
図11】
図11は、本実施形態のテンショナーを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、第一の発明及び第二の発明の閉胸器の実施形態、並びに第三の発明のテンショナーの実施形態について、図に基づいて説明する。
[第一の発明の実施形態]
図1から
図3は、第一の発明の閉胸器の実施形態を示す図であり、
図1は、閉胸器を構成するロープを示す図、
図2及び
図3は、閉胸器を構成する第一クリンプを示す図である。
図1は、本実施形態の閉胸器を構成するロープの一例を示す図である。
図1に示すロープ10は、チタン合金の線状を3本或いは7本撚り合わせたもので、外径1.0mm、全長が500mmで、一方の端には、先端が鋭利な半円形の鉤11が取り付けてあるので、この鉤11を用いてロープ10を胸骨の周りに引き通すことができる。
なお、この線状は、いわゆるエリー材(Extra Low Interstitial Element)と称して酸素、窒素、水素、鉄の含有率が低く抑えられ、医療用チタンの代表的な品種であり、低温靭性に優れており、本実施形態のロープ10は、1600ニュートンの張力に耐えることができる。
【0012】
図2は、本実施形態の閉胸器を構成する第一クリンプの一例を示す図であり、
図3は、他の例を示す図である。また、
図2及び
図3の(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示す。
図2及び
図3に示す第一クリンプ20は、チタン合金からなる薄いプレート21上に、円形断面の管路22が2条形成されたチタン合金からなる第一圧潰部材23が固定されている。
図2に一例を示す第一クリンプ20は、長辺が26mm、短辺が6mm、厚さが0.1mmのプレート21の上に、外径2mmの管路22が2条形成された3.8mm×2mmの矩形断面を有する長さ25mmの第一圧潰部材23が固定され、高さが2.1mmとなっている。
図3に他の例を示す第一クリンプ20は、長辺が29mm、短辺が8.2mm、厚さが0.5mmのプレート21の上に、外径2mmの管路22が2条形成された4.2mm×2.9mmの矩形断面を有し、長さ25mmの第一圧潰部材23が固定され、高さが3.39mmとなっている。
ここで示した数値は、一例であり、必ずしもそれらに限定する必要はない。
但し、第一圧潰部材23の高さを4mm未満にすれば、第一圧潰部材23を固定するプレート21も極めて薄いので、胸骨に配置された閉胸器1の高さが5mm未満となるので、閉胸器1を設置した直後に皮膚を縫合することが可能である。また、前者の第一クリンプ20に比べて後者の第一のクリンプ20の方がプレート21の大きさが大きい上に厚いので、上下、左右の動揺を防ぎ易く、位置ずれをなくし易い。
【0013】
図4は、胸骨の側端に本実施形態のロープを挿通する位置を示す図である。
図4に示すように、胸骨30は、胸骨柄31、胸骨体32、及び剣状突起33からなり、左右対称にそれぞれ7本の肋骨34が繋がっている。そして、本実施形態の閉胸器1で胸骨30を接合するために、6本のロープ10を挿通する。胸骨柄31については、ロープ10先端の鉤(図示しない)11を用いて、上部と下部それぞれに、左右対称に4個の穴36を開ける。そして、胸骨柄31に開けた、左右対称の穴36の一方にロープ10を挿入し、他方の穴26から引き出して、2本のロープ10を挿通する。なお、ロープ10先端の鉤(図示していない)11は、挿通した後に、図示しないカッターで切断する。
胸骨体32においては、第二肋骨342から第六肋骨346までの肋間35それぞれの側端37に、ロープ10の先端の鉤(図示しない)11で4本のロープを挿入し、胸骨体32の裏側を経由して反対側の側端37からロープ10を引き出して、4本のロープ10を挿通する。なお、ロープの鉤は挿通した後に、図示しないカッターで切断する。
【0014】
図5は、胸骨柄及び胸骨体に本実施形態の閉胸器を設置し、分離した胸骨を接合する一例を示す図である。
図5に示すように、本実施形態の閉胸器1は、胸骨柄31に2個の第一クリンプ20を、胸骨体32の肋間35に4個の第一クリンプ20を直交配置し、胸骨柄31に配置された第一圧潰部材23の管路(図に現れない)22それぞれにロープ10それぞれを挿通してその端それぞれを両手で引っ張り、第一クリンプ20の位置を固定する。次に、ロープ10の一方を図示しない器具で把持し、他方のロープ10を図示しない他の器具でけん引して左右の胸骨30が接合するまでロープ10を締め付ける。そして、第一圧潰部材23の管路22それぞれを器具で圧潰して管路22それぞれに挿通したロープ10それぞれが動かないようにしっかりと固定する。また、第一圧潰部材23からはみ出したロープ10は、図示しないカッターで切断する。
ここで、本実施形態の第一圧潰部材23には2条の管路(図に現れない)22が形成されているが、管路は必ずしも2条形成する必要はなく、1条形成してロープ10をその両側から挿通して締め付けることにしてもよい。但し、2条の管路それぞれに挿通して圧潰すれば、それぞれの管路に挿通したロープ10それぞれは、確実に押圧されるので、確実に固定される。
【0015】
図6は、胸骨を接合するために本実施形態の閉胸器のロープをけん引する方法を示す図である。
図6に示すように、第一圧潰部材23に形成された2条の管路(図に現れない)22の一方にロープ10を挿通し、そのロープ10をクリンパ―50で把持し、ロープ10が移動しないように固定する。次に、他方の管路(図に現れない)22に挿通した他方のロープ10の先端をテンショナー40の第一パイプ42に挿入し、そのロープ10をテンショナー42の蝶ネジ45で内部の第二パイプ43に固定する。そして、ハンドル41を手で回して第一パイプ42及び第二パイプ43を移動させてロープ10をけん引し、分離された胸骨を接合する。なお、ロープ10をけん引する力は、図に現れない内部の弦巻バネによって最大600Nに制限されている。
ここで、クリンパ―50は、第一圧潰部材23の管路(図に現れない)22それぞれを圧し潰し、挿通しているロープ10が動かないように固定する器具として使用することも出来るし、把持したロープ10が動かないように固定する器具としても使用することができる。なお、第一圧潰部材23が2条の管路22を有する場合は、2条の管路22が対向する長手方向両側からそれぞれの管路をクリンパ―50で圧し潰すとよい。
テンショナー40は、閉胸器1を構成するロープ10を所定の力でけん引する専用の器具であり、その構造等は第三の発明として後述する。
【0016】
[第二の発明の実施形態]
第二の発明の閉胸器は、ロープと第二クリンプとで構成されているが、ロープの構造は、第一の発明の実施形態で説明したものと同じなので、図及び説明を省略し、本実施形態の閉胸器は、第二クリンプについて説明する。
図7は、本実施形態の第二クリンプの一例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図7に一例を示す第二クリンプ25は、チタン合金からなる薄い矩形の第一板状部材26の長辺の端寄りそれぞれに第一板状部材26と直交する第二板状部材27それぞれが結合され、その第一板状部材26の中央部には、ロープ10を挿通する円形の管路22が二条形成された第二圧潰部材28が固定されている。
ここで、第一板状部材26は、長辺が30mm、幅が4.5mm、厚さが0.1mmの矩形板、第二板状部材27は、長辺が15mm、幅が5mm、厚さが0.1mmの矩形板で、いずれも四隅が丸味を帯びている。また、第二圧潰部材28は、長さが6mm、幅が4.5mm、高さが2.2mmで、二条ある管路22の直径は2mmに設定されているが、必ずしもそれらに限定されない。但し、第二圧潰部材28の高さが3mm未満に設定されていれば、第二圧潰部材28を固定する第一板状部材26が極めて薄いので、胸骨30に配置された閉胸器2の高さは3mm以下になり、閉胸器2で閉胸した直後に皮膚を縫合することが可能である。また、第二クリンプ25が胸骨に接する面積は、第一発明の第一クリンプ20よりも大きいので、上下、左右の動揺がさらに抑制され、胸骨に閉胸器2を設置する個数を減らすことができる。
【0017】
図8は、胸骨の側端に本実施形態のロープを挿通する位置を示す図である。
図8に示すように、胸骨30は、胸骨柄31、胸骨体32、及び剣状突起33からなり、左右対称にそれぞれ7本の肋骨34が繋がっている。そして、本実施形態の閉胸器2で胸骨30を接合するため、4本のロープ10を挿通する。胸骨柄31については、ロープ10の鉤を用いて左右対称に2個の穴36を開ける。
そして、胸骨柄31に開けた、穴36の一方にロープ10を挿入し、他方の穴36から引き出して、1本のロープ10を設置する。なお、ロープ1の先端にある鉤はカッターで切断する。
胸骨体32は、第三肋骨343と第四肋骨344との間、及び第5肋骨345と第六肋骨346との間の2か所について、ロープ10の鉤で胸骨体32の側端37にロープ11を挿入し、胸骨体32の裏側を経由して反対側の側端37からロープ10を引き出し、2本のロープ10を挿通する。そして、ロープ10の先端の鉤はカッターで切除する。
ここでは、第二肋骨342と第三肋骨343との間にもロープを挿通しているが、このロープ10は、必ずしも必要としない。本実施形態の閉胸器2を3個所に配置するだけでは胸骨の接合が十分できないおそれがある場合に、接合を確実にするために挿通する。
【0018】
図9は、胸骨柄及び胸骨体に本実施形態の閉胸器を配置して分離した胸骨を接合する一例を示す図である。
図9に示すように、本実施形態の閉胸器2は、胸骨柄31、第三肋骨343と第四肋骨344との間及び第五肋骨345と第六肋骨346との間に配置する。
そして、状況に応じて、第一の発明の実施形態として説明した閉胸器1を第二肋骨342と第三肋骨343との間に配置している。
閉胸器2の第二クリンプ25は、第二圧潰部材28の2条の管路(図に現れない)22のうちの一方に、ロープ10の一端を挿通し、他方の管路(図に現れない)22には反対側からロープ10の他端を挿通する。そして、二条の管路(図に現れない)22それぞれに挿通したロープ10それぞれを両手で引っ張り、第二クリンプ25を胸骨柄31又は胸骨体32の所定位置に固定する。
閉胸器1の第一クリンプ20は、第二圧潰部材28と同様に、第一圧潰部材23の2条の管路22それぞれにロープ10を挿通し、それらのロープ10の端それぞれを両手で引っ張り、第一クリンプ20を第二肋骨342と第三肋骨343との間の所定位置に固定する。
そして、
図6で示したように、ロープ10の一方を図示しないクリンパ―50で把持して動かないように固定し、他方のロープ10の先端を図示しないテンショナー40の第一パイプ42に挿入し、そのロープ10をテンショナー40の蝶ネジ45で内部の第二パイプ43に固定する。そして、ハンドル41を手で回して第一パイプ42及び第二パイプ43を移動させてロープ10をけん引し、分離された胸骨30を接合する。
なお、ロープ10をけん引する力は、最大600Nに制限されている。
そして、第二圧潰部材28、及び第一圧潰部材23それぞれの管路(図に現れない)22それぞれを図示しないクリッパー50で圧潰し、管路それぞれに挿通したロープ10それぞれが動かないようにしっかりと固定する。なお、第一圧潰部材23及び第二圧潰部材28からはみ出したロープ10は、図示しないカッターで切除する。
ここで、第一圧潰部材23及び第二圧潰部材28には2条の管路(図示しない)22が形成されているが、管路は必ずしも2条形成する必要はなく、1条形成してロープ10を両側から挿通し、締め付けてもよい。但し、2条の管路それぞれにロープ10を挿通してそれぞれの管路を圧潰すれば、ロープ10は管路それぞれで確実に固定される。
また、ここでは、第二の発明の実施形態の閉胸器2のほかに、より確実かつ安全に胸骨を接合するために第一の発明の実施形態の閉胸器1を併用しているが、閉胸器2による接合の状況いかんにより併用すればよく、必ずしも必要としない。
【0019】
[第三の発明の実施形態]
図10及び
図11は、第三の発明のテンショナーの実施形態を示す図であり、
図10は、本実施形態のテンショナーの外観図、
図11は、本実施形態のテンショナーの断面図である。
図10及び
図11に示すテンショナー40は、
図6及び
図9で説明したように第一圧潰部材23及び第二圧潰部材28それぞれにロープ10を挿通し、一端をクリッパー50で固定した他端をけん引するための器具である。
本実施形態のテンショナー40は、ロープ10の先端を挿入する第一パイプ42と、内嵌した第一パイプ及び第一パイプに挿入されたロープを固定するボルト(本発明の固定手段に相当する。)44が内面に接合された第二パイプ43と、第二パイプ43の一部を蔽う筒状の筐体46と、筐体46の開放端46aに当接する開口を有し、内周面には第二パイプ43に螺合する雌ネジ47aが形成された円筒部47と、を備えている。
また、第二パイプ43の外周面には円筒部47の雌ネジ47aと螺合する雄ネジ43aが形成され、また、円筒部47の閉鎖面の外側には手回式のハンドル41が設置されている。そして、ボルト44には、蝶ネジ45が螺合し、その蝶ネジ45を回せば、第一パイプ42に挿入されたロープ10を第二パイプ43に固定することができる。
さらに、ハンドル41を手で回せば、第二パイプ43が筐体46内を移動し、ボルト44で固定された第一パイプ42も移動して筐体46を出入するので、第一パイプ42に挿入して固定されたロープ10をけん引することができる。
また、第二パイプ43に螺合する円筒部47の内部空間には、押圧力を規制する弦巻バネ48が装着されており、第二パイプ43が移動してロープ10をけん引する力は600ニュートン以下に制限される。
なお、ハンドル41を左側に回すと第一パイプ42及び第二パイプ43はハンドル41から離れる方向に移動して弦巻バネ48の押圧力は弱まり、ハンドルを右側に回すと、第一パイプ42は、筐体内46に入り込む方向に移動し、弦巻バネ48の押圧力が強まるが、600Nに達するとハンドル41は回らなくなる。
【符号の説明】
【0020】
1、2 閉胸器
10 ロープ
11 鉤
20 第一クリンプ
21 プレート
22 管路
23 第一圧潰部材
25 第二クリンプ
26 第一板状部材
27 第二板状部材
28 第二圧潰部材
30 胸骨
31 胸骨柄
32 胸骨体
33 剣状突起
34 肋骨
342 第二肋骨
343 第三肋骨
344 第四肋骨
345 第五肋骨
346 第六肋骨
35 肋間
36 穴
37 側端
40 テンショナー
41 ハンドル
42 第一パイプ
43 第二パイプ
43a 雄ネジ
44 ボルト
45 蝶ネジ
46 筐体
46a 端面
47 筒状部
47a 雌ネジ
48 弦巻バネ
50 クリッパー