IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NEC東芝スペースシステム株式会社の特許一覧 ▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特開2025-31152衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法
<>
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図1
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図2
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図3
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図4
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図5
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図6
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図7
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図8
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図9
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図10
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図11
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図12
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図13
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図14
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図15
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図16
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図17
  • 特開-衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031152
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】衛星通信システムにおける通信制御装置および通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/185 20060101AFI20250228BHJP
   B64G 1/10 20060101ALI20250228BHJP
   B64G 3/00 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
H04B7/185
B64G1/10 100
B64G3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137174
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】301072650
【氏名又は名称】NECスペーステクノロジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124811
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 資博
(74)【代理人】
【識別番号】100088959
【弁理士】
【氏名又は名称】境 廣巳
(74)【代理人】
【識別番号】100097157
【弁理士】
【氏名又は名称】桂木 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100187724
【弁理士】
【氏名又は名称】唐鎌 睦
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】村上 利幸
(72)【発明者】
【氏名】笹村 謙
(72)【発明者】
【氏名】梶山 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 滋英
(72)【発明者】
【氏名】矢口 悠介
【テーマコード(参考)】
5K072
【Fターム(参考)】
5K072AA04
5K072AA28
5K072AA29
5K072BB02
5K072BB13
5K072BB22
5K072DD03
5K072DD04
5K072DD16
5K072DD19
5K072GG02
5K072GG12
5K072GG13
5K072HH01
5K072HH02
(57)【要約】
【課題】無線通信への障害物の影響を効果的に低減する対策を迅速に実行できる通信制御方法および装置を提供する。
【解決手段】通信制御装置100は、衛星と複数の地上局の各々との間の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積するデータ蓄積部103と、通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、通信劣化領域の劣化状態および時間変化から通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、障害物の種別に応じて通信品質の劣化を回避する対策を選択するプロセッサ102と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置であって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積する通信品質格納部と、
前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサと、
を有し、前記プロセッサが、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対策を選択する、
通信制御装置。
【請求項2】
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態から前記障害物の物性を推定し、前記通信劣化領域の時間変化から前記障害物の移動速度を推定し、
前記障害物の物性および前記移動速度から前記障害物の種別を推定する、 請求項1に記載の通信制御装置。
【請求項3】
前記プロセッサが、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より速ければ、前記障害物を宇宙空間に存在する第一種物体であると推定し、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より遅ければ前記宇宙空間より低い高度の地上上空に存在する上空物体であると推定する、
請求項2に記載の通信制御装置。
【請求項4】
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより大きければ前記上空物体を電波反射性あるいは電波散乱性を有する第二種物体であると推定し、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより小さければ前記上空物体を電波減衰性を有する第三種物体であると推定する、
請求項3に記載の通信制御装置。
【請求項5】
前記プロセッサが、前記第三種物体であると推定した場合、前記無線通信の送信ビームの出力レベルを前記通信劣化領域の通信品質が良好となるレベルに上昇させる請求項4に記載の通信制御装置。
【請求項6】
前記プロセッサが、前記障害物を前記第一種物体あるいは第二種物体であると推定した場合、他の衛星と前記通信劣化領域との間で補完ビームにより無線通信を行う請求項3-5のいずれか1項に記載の通信制御装置。
【請求項7】
前記プロセッサが、前記障害物の種別に従って、前記通信品質の劣化を回避する複数の対策から少なくとも1つの対策を選択する請求項1-4のいずれか1項に記載の通信制御装置。
【請求項8】
前記複数の対策は、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを上昇させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを低下させる方法、
・前記無線通信の使用周波数帯を低下させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの方向を他の衛星あるいは前記通信劣化領域以外の他の地上局へ変化させ、前記他の衛星あるいは前記他の地上局を経由させる方法、および
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームのビーム径を狭くあるいは広くする方法、
を含む請求項7に記載の通信制御装置。
【請求項9】
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御方法であって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積し、
前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサが、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する、
通信制御方法。
【請求項10】
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積する機能と、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定する機能と、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する機能と、
を前記コンピュータで実現するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は衛星通信システムに係り、特に軌道上の衛星と地上局との間の無線通信を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無線通信では高い周波数帯を用いることで伝送帯域を広げることができるが、電波の直進性が強くなる。このために無線通信路に障害物が存在すると、何らかの対策が必要となる。たとえば非静止衛星と地上局との間の見通し線上に建物や樹木等の障害物が存在すると通信の切断や通信品質の劣化等の障害が生じる。そこで特許文献1には、そのような通信障害が発生することが予測されると、それを回避するために事前に通信リンクを他の非静止衛星にハンドオフする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2000-513912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載された方法では、事前に障害物データを収集して障害物マップを作成する必要がある。このために、宇宙デブリや雲のような物体が偶発的に出現した場合、当該物体を障害物として認識できず、障害物の通信への影響を低減する適切な対策を迅速にとることができない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、無線通信への障害物の影響を効果的に低減する対策を迅速に実行できる通信制御方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における通信制御装置は、軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置であって、前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積する通信品質格納部と、前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサと、を有し、前記プロセッサが、 前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対策を選択する。
本開示における通信制御方法は、軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御方法であって、前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積し、前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサが、前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する。
本開示におけるプログラムは、軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積する機能と、前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定する機能と、前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する機能と、を前記コンピュータで実現する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、無線通信への障害物の影響を効果的に低減する対策を迅速に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本開示にかかる衛星通信システムの概略的構成を例示するネットワーク構成図である。
図2図2は本開示に係る通信制御装置の概略的構成を例示するブロック図である。
図3図3は本開示に係る通信制御装置の概略的な動作を例示するフローチャートである。
図4図4は本開示の第1実施形態による衛星通信システムの模式的構成を例示するネットワーク構成図である。
図5図5は第1実施形態による衛星通信システムにおける衛星および地上局の模式的構成を例示するブロック図である。
図6図6は第1実施形態による衛星通信システムにおける時刻T1での障害物の時間変化の一例を示す模式図である。
図7図7は第1実施形態による衛星通信システムにおける時刻T2での障害物の時間変化の一例を示す模式図である。
図8図8は第1実施形態による衛星通信システムにおける時刻T3での障害物の時間変化の一例を示す模式図である。
図9図9は第1実施形態による衛星通信システムにおける障害物が雲である場合の通信品質パターンの一例を示す模式図である。
図10図10は第1実施形態による衛星通信システムにおける障害物が飛行機である場合の通信品質パターンの一例を示す模式図である。
図11図11は第1実施形態による衛星通信システムにおける障害物が宇宙デブリである場合の通信品質パターンの一例を示す模式図である。
図12図12は第1実施形態による通信制御装置における障害物の推定方法の一例を示すフローチャートである。
図13図13は第1実施形態による通信制御装置における対処方法の決定方法の一例を示すフローチャートである。
図14図14は第1実施形態による通信制御装置における対処方法の第1例を示す模式図である。
図15図15は第1実施形態による通信制御装置における対処方法の第2例を示す模式図である。
図16図16は第1実施形態による通信制御装置における対処方法の第3例を示す模式図である。
図17図17は本開示の第2実施形態による衛星通信システムの概略的構成を例示するネットワーク構成図である。
図18図18は第2実施形態による衛星通信システムにおける衛星および地上局の模式的構成を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態の概要>
本開示によれば、衛星と地上局との間の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積し、この通信品質情報を用いて通信劣化領域の劣化状態および時間変化を検出する。通信劣化領域の劣化状態および時間変化から障害物の種別を推定し、障害物の種別に応じて通信品質の劣化対策を選択する。
【0010】
図1に例示するように、宇宙空間にある衛星Cと地上に配置された複数(n個)の地上局C~Cとがビームを送受信することで無線通信を行うものとする。一例として、衛星Cからの送信ビームによってカバレッジエリアA内の地上局C~Cが収容され、逆に地上局C~Cの各々が個別の送信ビームを衛星Cへ向けて照射することで、双方向の通信が可能となる。
【0011】
なお、以下の図では、紙面の都合上、送受信機Cからの送信ビームがカバレッジエリアAを底面する円錐形状で図示される。ただし、衛星Cは、たとえば低軌道(LEO)衛星に搭載されていれば、高度数百~数千kmの周回軌道上にある。
【0012】
衛星Cは特定の1つの衛星に設けられてもよい。たとえば低軌道(LEO)を所定の周期で巡回する衛星であれば、衛星Cは同じ位置のカバレッジエリアA内の地上局C~Cと所定周期ごとに通信可能となる。ただし特定の1つの衛星であるとは限らない。たとえば低軌道を巡回する複数の衛星が同じ位置に到達する毎に、同じ地上局C~Cと通信可能となる。なお、地上局C~Cはそれぞれの位置座標が分かればよく、望ましくは地表に固定された固定局である。
【0013】
このような衛星Cと地上局C~Cとの間に障害物Oが入ってくると、障害物Oによって送信ビームの一部が減衰あるいはブロックされ、その結果、カバレッジエリアA内に通信が不良あるいは不能の領域(以下、通信劣化領域Rshdという。)が発生する。ここではダウンリンクを例示しているが、アップリンクも同様である。通信劣化領域Rshd内にある地上局Cは衛星Cとの通信品質が低下するか通信ができなくなる。したがって、地上局C~Cと送受信機Cとのアップリンクあるいはダウンリンクの通信品質をモニタすることで、通信劣化領域Rshdの発生の有無、その発生位置および時間的な位置変化等を検出することができる。
【0014】
本開示による通信制御装置100は、以下に詳述するように、各送受信機の通信品質情報の収集、通信劣化領域の検出、通信劣化領域の劣化状態および時間変化に基づく障害物Oの種別推定、および障害物種別に応じた通信劣化対策の選択を行う。通信制御装置100は、衛星Cを有する衛星に設けられてもよいし、地上局C~Cをそれぞれ含む複数の地上局のいずれかに設けられてもよい。あるいは通信制御装置100は、地上局C~Cにネットワークで接続された制御端末として設置することもできる。いずれにしても通信制御装置100は衛星Cあるいは地上局C~Cから通信品質情報を取得することができる。
【0015】
以下、図2および図3を参照しながら、通信制御装置100の構成および機能について詳細に説明する。ここでは、任意の衛星Cが当該衛星のカバレッジエリアA内にある地上局C~Cと通信する場合を例示する。
【0016】
図2に例示するように、通信制御装置100は通信部101、プロセッサ102、データ蓄積部103およびプログラムメモリ104を含む。プロセッサ102は、プログラムメモリ104に格納されたプログラムを実行することにより、制御部105、通信劣化領域検出部106、障害物種別推定部107および障害対策選択部108からなる機能を実現することができる。通信制御装置100は、各衛星の位置および時刻データごとにカバレッジエリア内の地上局との通信品質データをデータ蓄積部103に蓄積する。通信制御装置100は、その蓄積データに基づいて、通信劣化領域を検出し、障害物の種別を推定し、障害回避対策を選択・実行し、衛星あるいは地上局を制御する。
【0017】
図3において、制御部105は、各衛星の位置・時刻情報とその衛星とカバレッジエリアA内の各地上局との間の通信品質情報とを通信部101を通して入力し、データ蓄積部103に蓄積する(動作201)。通信品質としては、たとえば受信局での受信ビーム強度、搬送波電力対雑音電力密度比C/No等を使用できる。
【0018】
通信劣化領域検出部106は、データ蓄積部103の蓄積データを参照して、ある衛星位置においてカバレッジエリアA内に通信劣化領域Rshdが存在するか否かを判定し、通信劣化領域Rshdが存在すれば、その劣化状態および時間変化を検出する(動作202)。通信劣化領域Rshdがある衛星位置を定点Pとすれば、一つの衛星が周期的に定点Pに到達する毎に、あるいは複数の衛星が所定の時間間隔で定点Pに順次到達する毎に、そのカバレッジエリアAにおける通信劣化領域Rshdの位置、劣化状態および時間変化が検出される。劣化状態は通信劣化領域Rshdの受信ビーム強度あるいはC/Noの値を含む。時間変化は、以前検出された通信劣化領域Rshdの位置および劣化状態と比較することにより検出することができ、カバレッジエリアA内の位置変化(移動速度)、大きさの変化、および劣化状態の変化の少なくとも1つを含む。
【0019】
続いて、障害物種別推定部107は、通信劣化領域Rshdの劣化状態および時間変化から障害物の種別を推定する(動作203)。たとえばカバレッジエリアAにおける通信劣化領域Rshdの受信ビーム強度とその他の領域での受信ビーム強度とを比較することで、障害物の物性(電気的特性、ここでは電波透過性の高低)を判定できる。また、通信劣化領域Rshdの移動速度から宇宙空間にある障害物か、成層圏あるいは対流圏にある障害物かをある程度の精度で判定できる。詳細は後述する。
【0020】
障害物の種別が推定されると、障害対策選択部108は、予め設定された障害物と対策との対応データに従って、推定された障害物による障害を効果的に回避できる対策を選択し、選択された対策に従って衛星あるいは地上局へ制御信号を送信する(動作204)。たとえば、障害物が電波透過性の大きい物体(水滴からなる雲等)であれば、送信ビーム強度を大きくすることで障害を回避できる。また障害物が電波透過性のない物体(金属からなる飛行体、宇宙デブリ等)であれば、送信ビームの径を制御したり、送信経路を別の衛星あるいは別の地上局を経由したりすることで障害を回避できる。詳細は後述する。
【0021】
以下、より具体的な通信制御について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素は単なる例示であって、本発明の技術範囲をそれらのみに限定する趣旨ではない。
【0022】
1.第1実施形態
1.1)システム構成
図4図1に示す衛星通信システムを模式的に図示したものである。ここでは、宇宙空間に複数の衛星SおよびSが所定軌道上を周回し、衛星が定点Pにある時、地上局B~Bとの双方向通信が可能になるものとする。また、説明を簡略化するために、障害物Oxは地上局B~Bの上空あるいは宇宙空間を順に通過するものとする。通信制御装置100は図2に例示したとおりであり、衛星が所定の時間間隔で定点Pに順次到達する毎に、そのカバレッジエリアAにおける通信劣化領域Rshdの位置、劣化状態および時間変化を検出する。
【0023】
図4に例示するように、本実施形態による通信制御装置100は障害物Oxが以下の3種類のいずれに属するかを推定するものとする。
・第一種物体(O1):宇宙空間(ここでは高度100km以上)を時速数万km(たとえば~28800km以下)のオーダで移動する様々な大きさの宇宙ゴミ(デブリ)等であり、電波を完全反射あるいは吸収/散乱する物性を有する。
・第二種物体(O2):地上上空(対流圏、成層圏下層)を時速数百km(たとえば100~800km)のオーダで移動する電波反射性あるいは電波散乱性の飛行機、高高度プラットフォーム(HAPS)等であり、大きさは60~100m程度で、電波を反射あるいは散乱する物性を有する。
・第三種物体(O3):地上上空(対流圏)を時速数十km(たとえば~50km)のオーダで移動する雨雲等であり、大きさは様々で電波強度を減衰させて透過する物性(電波減衰性)を有する。
【0024】
図5に例示するように、通信制御装置100は、各衛星Sに設けられてもよいし、いずれかの地上局Bに設けられてもよい。あるいはすべての地上局Bが接続されたネットワークNETに通信制御装置100を接続してもよい。以下、衛星Sに通信制御装置100が設けられているものとして、衛星および地上局における本実施形態に関連する構成および機能について概略的に説明する。
【0025】
図5において、衛星Sはアンテナ部ANT(S)、無線通信部301、制御部302および通信制御装置100を有する。衛星Sはアンテナ部ANT(S)からカバレッジエリアA内の各地上局Bへビームを照射し、各地上局Bからのビームを受信することができる。アンテナ部ANT(S)はフェーズドアレイアンテナを用いてビームフォーミング角度を変更可能であり、さらにビーム内の所望方向にヌル点を形成することができる。また使用するアンテナ素子数を増減することでビーム径を制御してもよい。各地上局Bとの通信品質は各地上局から受信したビーム強度に基づいて計算されうる。通信制御装置100は、衛星位置情報(定点P)における各地上局Bの現在および過去の通信品質から、通信劣化領域Rshdの劣化状態および時間変化を計算する。なお、衛星Sは他の衛星と通信するための無線通信部およびアンテナを有することもできる。
【0026】
各地上局Bはアンテナ部ANT(B)、無線通信部401、制御部402およびネットワークNETに接続するための通信部403を有する。アンテナ部ANT(B)から衛星Sへビームを照射し、衛星Sからのビームを受信することができる。アンテナ部ANT(B)はフェーズドアレイアンテナを用いてビームフォーミング角度を変更可能であり、さらにビーム内の所望方向にヌル点を形成することができる。また使用するアンテナ素子数を増減することでビーム径を制御してもよい。
【0027】
1.2)移動速度の検出
衛星Sが周回軌道のある位置において、衛星Sからの送信ビームがカバレッジエリアAを照射し、そのカバレッジエリアA内に地上局B~Bが含まれるものとする。この時、電波反射性の障害物Oxが移動しながら送信ビームの一部を遮断するものとする。すなわち、障害物OxによりカバレッジエリアAに通信劣化領域Rshdが発生する。当該衛星Sが周回して当該位置に到達しても、あるいは他の衛星が当該位置に到達しても、当該カバレッジエリアAに通信劣化領域Rshdが検出されるならば、当該衛星位置が定点Pとして特定される。
【0028】
図6に例示するように、障害物Oxが送信ビーム内に侵入したとする(時刻T1)。障害物Oxにより衛星Sと地上局BおよびBとの通信品質が劣化し、その他の地上局B~Bの通信品質は良好を維持される。したがって、地上局B~Bの通信品質を監視することで、時刻T1における通信劣化領域Rshdの位置が特定される。
【0029】
続いて、図7に例示するように、衛星Sが周回して、あるいは他の衛星が衛星Sに続いて定点Pに到達したとする(時刻T2)。この時、障害物Oxは地上局BおよびBのみの通信品質を劣化させているので、時刻T2における通信劣化領域Rshdの位置が特定される。同様に、図8に例示する状況では、障害物Oxは地上局BおよびBのみの通信品質を劣化させているので、時刻T3における通信劣化領域Rshdの位置が特定される。
【0030】
地上局B~Bのそれぞれの間隔については事前に決定できるので、通信劣化領域Rshdの時刻T1から時刻T2までの移動距離および時刻T2から時刻T3までの移動距離から、障害物Oxの種別を特定できる程度の概算的な移動速度を計算可能である。
【0031】
1.3)障害物の物性
図9図11に例示するように、障害物Oxが電波減衰性か電波反射性/電波散乱性かによって通信劣化領域Rshdにおける受信ビーム強度が他の領域のそれとは異なる。したがって通信品質を示す値によって障害物Oxの物性(電波減衰性あるいは電波反射性/電波散乱性)を判定することができる。
【0032】
図9に例示するように、障害物が電波を減衰させつつ透過する第三種物体(O3)であれば、通信劣化領域Rshdの地上局B~Bでの受信ビーム強度が低減する。すなわち通信劣化領域Rshdは通信可能であるが通信品質が良好ではない不良状態として検出される。このような障害物O3は、電波が減衰しながら通過する電波減衰性の物性を有する雨雲等であると判定できる。
【0033】
図10に例示するように、障害物が電波を反射あるいは散乱する第二種物体(O2)であれば、通信劣化領域Rshdの地上局B~Bでの受信ビーム強度が大きく低減する。すなわち通信劣化領域Rshdは通信不能の劣化状態として検出される。このような障害物O2は、電波を反射するか散乱させる物性を有すると判定できる。
【0034】
図11に例示するように、障害物が電波を反射あるいは散乱する第一種物体(O1)であれば、第二種物体O2と同様に、通信劣化領域Rshdの地上局B~Bにおいて通信不能の劣化状態となる。このような障害物O1は電波を反射するか散乱させる物性を有すると判定できるが、物性だけでは障害物O1とO2とを区別できない。上述したように、同じ電波反射性/散乱性の障害物であっても、一方の速度は時速数万kmのオーダであり、他方は時速数百kmのオーダである。したがって、通信劣化領域Rshdの移動速度を比較することで、宇宙空間を移動するデブリのような物体であるか地上上空を移動する飛行機のような物体であるかを判別可能である。
【0035】
1.4)障害物種別の推定
上述したように、データ蓄積部103には、衛星が定点Pに到達する毎に取得されたカバレッジエリアA内の各地上局の通信品質が時刻情報と共に蓄積されている。障害物種別推定部107は、データ蓄積部103のデータを参照しながら通信劣化領域Rshdを生じさせる障害物の種別推定を行う。
【0036】
図12に例示するように、障害物種別推定部107は、通信劣化領域検出部106から通信劣化領域Rshd、その通信品質レベルおよび移動速度を入力し(動作501)、障害物の移動速度および物性を指標として障害物種別を判定する(動作502)。
【0037】
通信劣化領域Rshdの移動速度から判定される障害物の移動速度が衛星Sよりも速く、かつ通信品質レベルが所定値より低い(電波透過性が低い)ならば、当該障害物を第一種物体O1と推定する(動作503)。たとえば、宇宙空間を時速数万km以下のオーダで移動する宇宙ゴミ(デブリ)等である。
【0038】
通信劣化領域Rshdの移動速度から判定される障害物の移動速度が衛星Sよりも遅く、かつ通信品質レベルが所定値より低い(電波透過性が低い)ならば、当該障害物を第二種物体O2と推定する(動作504)。たとえば、地上上空(対流圏、成層圏下層)を時速数百kmのオーダで移動する電波反射性あるいは電波散乱性の飛行機や高高度プラットフォーム(HAPS)等である。
【0039】
通信劣化領域Rshdの移動速度から判定される障害物の移動速度が衛星Sよりも遅く、かつ通信品質レベルが所定値より高い(電波透過性が高い)ならば、当該障害物を第三種物体O3と推定する(動作505)。たとえば、地上上空(対流圏)を時速数十kmのオーダで移動する電波減衰性の雨雲等である。
【0040】
たとえばLEO衛星1基であれば、約90分間隔で定点Pに到達するので、障害物推定には90分×推定サンプリング回数だけの時間を要する。これに対して、LEO衛星8基であれば、これらの衛星が約90/8=11.25分間隔で定点Pに順次到達するので、障害物推定に要する時間は11.25分×推定サンプリング回数に短縮できる。
【0041】
1.5)障害回避対策の選択
障害対策選択部108は、障害物種別推定部107により推定された障害物種別に応じた障害回避対策を選択する。以下、障害回避対策のフローと対策例を図13および図14図16を参照しながら説明する。
【0042】
図13に例示するように、障害対策選択部108は、障害物種別推定部107により推定された障害物種別を入力し(動作601)、障害物種別に応じて最適な対策を選択し実行する。障害物が第一種物体O1と推定された場合、カバレッジエリアA内の通信劣化領域Rshdを補完可能かどうかを判定する(動作602)。たとえば図14に示すように、大きなデブリO1が衛星Sからの送信ビームを全部ブロックし、カバレッジエリアAの全域で通信劣化した場合、他の衛星からの補完ビームにより通信を回復することはできない。このように補完ができない場合には(動作602のNO)、障害対策選択部108は他の衛星Sからの代替送信ビームの照射を障害対策として選択し(動作603)、これによりカバレッジエリアA全域の通信を回復させることができる。
【0043】
通信劣化領域RshdがカバレッジエリアAの一部であれば補完可能と判定され(動作602のYES)、障害物が第二種物体O2と推定された場合と同様の対策が選択されうる(動作604)。障害物が第二種物体O2と推定された場合の障害回復対策(動作604)は以下の通りである。
【0044】
障害回避対策としては、以下のa)~d)のいずれかを、あるいはこれらの組み合わせを選択することができる。
【0045】
<対策a:送信ビームの方向変更>
他の衛星あるいは他の地上局に対してビームフォーミング角度を変更して補完ビームの照射を指示する。これにより障害物を迂回する経路を構成し通信劣化領域Rshdの通信品質を回復できる。その際、同じ軌道の衛星だけでなく別軌道の衛星から補完ビームを照射してもよい。また、1つのアンテナで複数のビームを担う場合、ビーム間でレベル分担を変更してもよい。2つの補完例を図15および図16に示す。
【0046】
図15において、衛星Sからの送信ベームが障害物Oxにより一部遮断され通信劣化領域Rshdが生じた場合、衛星Sから別軌道の衛星Sへ対処情報を通知し、衛星Sから通信劣化領域Rshdへ補完ビームを照射することができる。
【0047】
図16において、通信劣化領域Rshd内の地上局BおよびBが良好な地上局(たとえばB)へ通信劣化を通知してもよい。この場合、地上局Bから衛星Sを経由して対処情報を通知し、衛星Sから通信劣化領域Rshdへ補完ビームを照射することもできる。
【0048】
<対策b:ビーム径の変更>
衛星Sあるいは地上局Bのアンテナ部ANTにおけるフェーズドアレイアンテナの使用する素子数を増減することで送信ビーム径を制御することができる。これにより通信劣化領域Rshdの通信品質を改善できる場合がある。
【0049】
<対策c:周波数あるいは周波数帯域の変更>
衛星Sの無線通信部301あるいは地上局Bの無線通信部401がキャリア周波数を障害物の回り込みが可能な低い周波数帯に変更する。これにより通信劣化領域Rshdの通信品質を改善できる場合がある。また周波数帯域を絞ることで信号対雑音比SNRを改善することも可能である。
【0050】
<対策d:送信ビーム強度の選択的抑制>
通信劣化領域Rshdに対応する方向の送信ビームの出力レベルを低下させる。このような送信出力の選択的低下はヌル点を生成することで実現できる。電波反射性/散乱性の障害物に照射されたビームは障害物で反射あるいは散乱し、それにより他の衛星あるいは地上局との電波干渉を引き起こす可能性がある。ヌル点を生成して障害物位置に対応する方向のビーム強度を抑制すれば、このような電波干渉を抑制できる。
【0051】
図13に戻って、障害対策選択部108は、障害物が第三種物体O3と推定された場合、障害回避対策としては、上記対策a)~c)および以下に述べる対策e)のいずれかを、あるいはこれらの組み合わせを選択する(動作605)。これによりカバレッジエリアA全域の通信を回復させることができる。
【0052】
<対策e:送信ビーム強度の増大>
障害物が雲などの電波を減衰させつつ通過させる第三種物体である場合、少なくとも通信劣化領域Rshdに対応する方向の送信ビームの出力を当該障害が解消する程度に増大させる。送信出力レベルを増大させるだけであるから、これが最も簡単で効果的な対処方法である。この対策eが功を奏さない場合に上述した対策a)~c)を実行すれることが望ましい。
【0053】
1.6)効果
上述したように、本実施形態によれば、衛星と地上局との間の通信品質情報に基づいて検出された通信劣化領域の劣化状態および時間変化から障害物の種別を推定し、障害物の種別に応じて通信品質の劣化対策を選択する。このように通信品質情報のみに基づいて障害物の種別を大まかに推定することで、その種別に応じた効果的な対策を迅速に選択することが可能となる。これにより障害物の介在による通信品質の劣化を効果的に改善することができ、最適の障害対策を迅速に実行できる。
【0054】
また通信品質情報から障害対策を選択できるので、特別なセンサや画像解析等の高度な演算が不要となり、消費電力、対応時間、衛星の重量およびコストを削減することができる。
【0055】
なお、複数の衛星が同じ低軌道を周回している場合、ある衛星Sが通信劣化領域Rshdが生じている位置(定点P)に到達し、その時の通信品質情報を取得したとする。衛星Sは、その取得した通信品質情報を次に当該定点Pにやってくる衛星Sに渡すことができる。これによって衛星Sは、自らが取得した通信品質情報と先の衛星Sから渡された通信品質情報とを比較することで、通信劣化領域の検出、障害物の種別推定、および通信劣化対策の選択をより効率的に実行することができる。この場合、衛星間での通信品質情報の受け渡しは、各衛星に設けられた衛星間通信部により実行されてもよいし、地上局を介してもよい。
【0056】
2.第2実施形態
上述した第1実施形態では、衛星あるいは地上局に設けられた通信制御装置100が上述した機能(通信品質情報の収集、通信劣化領域の検出、障害物の種別推定、および通信劣化対策の選択)を実行する集中制御が採用されている。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、分散制御を採用することもできる。以下、図17および図18を参照しながら、複数の衛星にそれぞれ設けられた通信制御装置が互いに通信品質情報を共有しながら上述した機能を実現する第2実施形態について説明する。
【0057】
図17および図18に例示するように、地球Eの非静止軌道を複数の衛星S、S、・・・が周回し、任意の衛星Sは、地上局と通信するためのアンテナ部ANT(1)と、隣接する少なくとも1つの衛星と通信するための衛星間通信部303およびアンテナ部ANT(2)と、図2に例示した通信制御装置100と同様の機能を有する通信制御装置100(i)と、を有するものとする。衛星Sのその他の構成は図5に示す衛星Sと基本的に同じであるから同じ参照番号を付して説明は省略する。図18における別の衛星Sは衛星Sと同じ軌道を周回し、衛星Sと同じ構成を有するものとする。ただし、説明の都合上、通信制御装置100のみ添え字(i)、(j)で区別する。
【0058】
衛星Sに設けられた通信制御装置100(i)は、すでに説明したように、カバレッジエリアAにおける地上局との間の通信品質情報Q(Ai)を蓄積し、その蓄積データに基づいて通信劣化領域Rshdの検出、障害物種別の推定および通信劣化対策の選択を実行する。さらに通信制御装置100(i)は、アンテナ部ANT(2)から通信品質情報Q(Ai)を当該定点Pにやってくる衛星Sへ送信する。
【0059】
衛星Sの通信制御装置100(j)は、衛星Sから受信した通信品質情報Q(Ai)を蓄積し、さらに自ら取得したカバレッジエリアAにおける通信品質情報Q(Aj)を蓄積する。こうして衛星Sの通信制御装置100(j)は、自らが取得した通信品質情報Q(Aj)と先の衛星Sから受信した通信品質情報Q(Ai)とを比較することで、通信劣化領域の検出、障害物の種別推定、および通信劣化対策の選択をより効率的に実行することができる。
【0060】
さらに通信制御装置100(j)は、アンテナ部ANT(2)から通信品質情報Q(Ai)およびQ(Aj)を当該定点Pにやってくる次の衛星Sへ送信する。以下同様にして、後続する衛星へ蓄積データを順次転送することで、定点PにおけるカバレッジエリアAの通信品質情報を他の衛星と共有することができる。こうして、各衛星が通信品質情報のみに基づいて障害物の種別を大まかに推定し、その種別に応じた効果的な対策を迅速に選択することが可能となる。
【0061】
以上、実施の形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。そして、各実施の形態は、適宜他の実施の形態と組み合わせることができる。
【0062】
3.付記
上述した実施形態および実施例の一部あるいは全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、これらに限定されるものではない。
(付記1)
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置であって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積する通信品質格納部と、
前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサと、
を有し、前記プロセッサが、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対策を選択する、
通信制御装置。
(付記2)
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態から前記障害物の物性を推定し、前記通信劣化領域の時間変化から前記障害物の移動速度を推定し、
前記障害物の物性および前記移動速度から前記障害物の種別を推定する、 付記1に記載の通信制御装置。
(付記3)
前記プロセッサが、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より速ければ、前記障害物を宇宙空間に存在する第一種物体であると推定し、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より遅ければ前記宇宙空間より低い高度の地上上空に存在する上空物体であると推定する、
付記2に記載の通信制御装置。
(付記4)
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより大きければ前記上空物体を電波反射性あるいは電波散乱性を有する第二種物体であると推定し、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより小さければ前記上空物体を電波減衰性を有する第三種物体であると推定する、
付記3に記載の通信制御装置。
(付記5)
前記プロセッサが、前記第三種物体であると推定した場合、前記無線通信の送信ビームの出力レベルを前記通信劣化領域の通信品質が良好となるレベルに上昇させる付記4に記載の通信制御装置。
(付記6)
前記プロセッサが、前記障害物を前記第一種物体あるいは第二種物体であると推定した場合、他の衛星と前記通信劣化領域との間で補完ビームにより無線通信を行う付記3-5のいずれか1項に記載の通信制御装置。
(付記7)
前記プロセッサが、前記障害物の種別に従って、前記通信品質の劣化を回避する複数の対策から少なくとも1つの対策を選択する付記1-6のいずれか1項に記載の通信制御装置。
(付記8)
前記複数の対策は、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを上昇させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを低下させる方法、
・前記無線通信の使用周波数帯を低下させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの方向を他の衛星あるいは前記通信劣化領域以外の他の地上局へ変化させ、前記他の衛星あるいは前記他の地上局を経由させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームのビーム径を狭くあるいは広くする方法、
を含む付記7に記載の通信制御装置。
(付記9)
前記少なくとも1つの衛星に設けられた付記1-4のいずれか1項に記載の通信制御装置。
(付記10)
前記複数の地上局の少なくとも1つに設けられ、前記複数の地上局が通信可能に接続された付記1-6のいずれか1項に記載の通信制御装置。
(付記11)
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御方法であって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積し、
前記通信品質情報に基づいて前記無線通信を制御するプロセッサが、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する、
通信制御方法。
(付記12)
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態から前記障害物の物性を推定し、前記通信劣化領域の時間変化から前記障害物の移動速度を推定し、
前記障害物の物性および前記移動速度から前記障害物の種別を推定する、 付記11に記載の通信制御方法。
(付記13)
前記プロセッサが、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より速ければ、前記障害物を宇宙空間に存在する第一種物体であると推定し、
前記障害物の移動速度が前記所定速度より遅ければ前記宇宙空間より低い高度の地上上空に存在する上空物体であると推定する、
付記12に記載の通信制御方法。
(付記14)
前記プロセッサが、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより大きければ前記上空物体を電波反射性あるいは電波散乱性を有する第二種物体であると推定し、
前記通信劣化領域の劣化状態が所定レベルより小さければ前記上空物体を電波減衰性を有する第三種物体であると推定する、
付記13に記載の通信制御方法。
(付記15)
前記プロセッサが、前記第三種物体であると推定した場合、前記無線通信の送信ビームの出力レベルを前記通信劣化領域の通信品質が良好となるレベルに上昇させる付記14に記載の通信制御方法。
(付記16)
前記プロセッサが、前記障害物を前記第一種物体あるいは前記第二種物体であると推定した場合、他の衛星と前記通信劣化領域との間で補完ビームにより無線通信を行う付記13-15のいずれか1項に記載の通信制御方法。
(付記17)
前記プロセッサが、前記障害物の種別に従って、前記通信品質の劣化を回避する複数の対策から少なくとも1つの対策を選択する付記11-16のいずれか1項に記載の通信制御方法。
(付記18)
前記複数の対策は、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを上昇させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの出力レベルを低下させる方法、
・前記無線通信の使用周波数帯を低下させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームの方向を他の衛星あるいは前記通信劣化領域以外の他の地上局へ変化させ、前記他の衛星あるいは前記他の地上局を経由させる方法、
・前記通信劣化領域に対応する送信ビームのビーム径を狭くあるいは広くする方法、
を含む付記17に記載の通信制御方法。
(付記19)
1つの衛星あるいは一つの地上局に設けられた通信制御装置が集中制御により実行する付記11-16のいずれか1項に記載の通信制御方法。
(付記20)
複数の衛星の各々に設けられた通信制御装置が分散制御により実行する付記11-16のいずれか1項に記載の通信制御方法。
(付記21)
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と複数の地上局とからなる衛星通信システムにおける前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置としてコンピュータを機能させるプログラムであって、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を通信品質格納部に蓄積する機能と、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定する機能と、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対処方法を選択する機能と、
を前記コンピュータで実現するプログラム。
(付記22)
軌道上を所定速度で周回する少なくとも1個の衛星と、
複数の地上局と、
前記衛星と前記複数の地上局との間の無線通信を制御する通信制御装置と、からなり、
前記通信制御装置が、
前記衛星と前記複数の地上局の各々との間の無線通信の通信品質と衛星位置とを対応付けた通信品質情報を蓄積し、
前記通信品質情報から、ある衛星位置において通信品質が劣化した通信劣化領域を検出すると、前記通信劣化領域の劣化状態および時間変化から前記通信品質を劣化させた障害物の種別を推定し、
前記障害物の種別に応じて前記通信品質の劣化を回避する対策を選択する、
衛星通信システム。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、軌道上の衛星と地上局との間の無線通信を制御する衛星通信システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
100、100(i)、100(j) 通信制御装置
101 通信部
102 プロセッサ
103 データ蓄積部
104 プログラムメモリ
105 制御部
106 通信劣化領域検出部
107 障害物種別推定部
108 障害対策選択部
A カバレッジエリア
~B、C~C 地上局
、S、S 衛星
O1 第1種物体
O2 第2種物体
O3 第3種物体
Ox 障害物
shd 通信劣化領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18