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特開2025-3118室内状況予測装置及び室内状況予測方法
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  • 特開-室内状況予測装置及び室内状況予測方法 図1
  • 特開-室内状況予測装置及び室内状況予測方法 図2
  • 特開-室内状況予測装置及び室内状況予測方法 図3
  • 特開-室内状況予測装置及び室内状況予測方法 図4
  • 特開-室内状況予測装置及び室内状況予測方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003118
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】室内状況予測装置及び室内状況予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/48 20220101AFI20241226BHJP
【FI】
G01J5/48 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103608
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 清
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩司
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 満博
(72)【発明者】
【氏名】都築 弘政
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC13
2G066BC07
2G066BC15
2G066CA02
2G066CA04
2G066CA08
(57)【要約】
【課題】多くのコストを要することなく環境温度分布を含む複数の室内状況の項目を予測可能な室内状況予測装置及び室内状況予測方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る室内状況予測装置は、複数の赤外線センサによって構成された、室内空間の所定領域の表面温度を所定の粒度で計測する赤外線アレイセンサと、赤外線アレイセンサによって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出し、算出された外れ値を用いて所定領域内における発熱体の有無を判定し、算出された四分位範囲を用いて所定領域内における人体の有無を判定し、算出された中央値を用いて所定領域内における環境温度分布を予測する演算処理部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の赤外線センサによって構成された、室内空間の所定領域の表面温度を所定の粒度で計測する赤外線アレイセンサと、
前記赤外線アレイセンサによって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出し、算出された外れ値を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定し、算出された四分位範囲を用いて前記所定領域内における人体の有無を判定し、算出された中央値を用いて前記所定領域内における環境温度分布を予測する演算処理部と、
を備える、室内状況予測装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、算出された表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を用いて箱ひげ図を作成し、作成された箱ひげ図を出力する、請求項1に記載の室内状況予測装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記外れ値と前記所定領域内の空気温度を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定する、請求項1又は2に記載の室内状況予測装置。
【請求項4】
複数の赤外線センサによって構成された赤外線アレイセンサを用いて、室内空間の所定領域の表面温度を所定の粒度で計測するステップと、
前記赤外線アレイセンサによって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出するステップと、
前記外れ値を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定するステップと、
前記四分位範囲を用いて前記所定領域内における人体の有無を判定するステップと、
前記中央値を用いて前記所定領域内における環境温度分布を予測するステップと、
を含む、室内状況予測方法。
【請求項5】
前記表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を用いて箱ひげ図を作成し、作成された箱ひげ図を出力するステップを含む、請求項4に記載の室内状況予測方法。
【請求項6】
前記外れ値と前記所定領域内の空気温度を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定するステップを含む、請求項4又は5に記載の室内状況予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサを用いて環境温度分布等の室内状況を予測する室内状況予測装置及び室内状況予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、放射温度センサを利用して空調を制御する技術が記載されている。また、非特許文献1には、赤外線センサを利用して環境温度を推定する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-061661号公報
【特許文献2】特開平10-281538号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】村田圭介ら、“赤外線センサを用いた空間温度の推定・制御方法に関する研究”、日本建築学会大会学術講演梗概集(東海)、2021年9月、1865-1872頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2に記載の技術では、センサによって計測可能な室内状況の項目は一つだけであるので、計測する項目が複数ある場合、計測する項目数に合わせて複数種類のセンサを設置しなければならず、多くのコストを要する。一方、非特許文献1に記載の技術は、室内の一点のみの環境温度を推定するので、環境温度の代表性を担保することができない。なお、このような問題を解決するために、室内の複数位置にセンサを設置することにより環境温度の分布状態を推定することも考えられるが、この場合、同じ種類のセンサを複数設置しなければならないために多くのコストを要する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、多くのコストを要することなく環境温度分布を含む複数の室内状況の項目を予測可能な室内状況予測装置及び室内状況予測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る室内状況予測装置は、複数の赤外線センサによって構成された、室内空間の所定領域の表面温度を所定の粒度で計測する赤外線アレイセンサと、前記赤外線アレイセンサによって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出し、算出された外れ値を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定し、算出された四分位範囲を用いて前記所定領域内における人体の有無を判定し、算出された中央値を用いて前記所定領域内における環境温度分布を予測する演算処理部と、を備える。
【0008】
前記演算処理部は、算出された表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を用いて箱ひげ図を作成し、作成された箱ひげ図を出力するとよい。
【0009】
前記演算処理部は、前記外れ値と前記所定領域内の空気温度を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定するとよい。
【0010】
本発明に係る室内状況予測方法は、複数の赤外線センサによって構成された赤外線アレイセンサを用いて、室内空間の所定領域の表面温度を所定の粒度で計測するステップと、前記赤外線アレイセンサによって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出するステップと、前記外れ値を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定するステップと、前記四分位範囲を用いて前記所定領域内における人体の有無を判定するステップと、前記中央値を用いて前記所定領域内における環境温度分布を予測するステップと、を含む。
【0011】
前記表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を用いて箱ひげ図を作成し、作成された箱ひげ図を出力するとよい。
【0012】
前記外れ値と前記所定領域内の空気温度を用いて前記所定領域内における発熱体の有無を判定するステップを含むとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る室内状況予測装置及び室内状況予測方法によれば、多くのコストを要することなく環境温度分布を含む複数の室内状況の項目を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態である室内状況予測装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の一実施形態である室内状況予測処理の流れを示すフローチャートである。
図3図3は、図2に示すステップS3の処理を説明するための図である。
図4図4は、室内空間における表面温度の分布状態の表示例を示す図である。
図5図5は、箱ひげ図の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である室内状況予測装置及び室内状況予測方法について説明する。
【0016】
〔構成〕
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態である室内状況予測装置の構成について説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である室内状況予測装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本発明の一実施形態である室内状況予測装置1は、ワークステーション、パーソナルコンピュータ、タブレット端末等の情報処理装置によって構成され、赤外線アレイセンサ2、出力装置3、及び空調制御装置4に接続されている。
【0018】
赤外線アレイセンサ2は、複数の赤外線センサによって構成され、処理対象の室内空間を分割したグリッド(図4に示す矩形領域1~15)毎に天井等の所定位置に設置されている。赤外線アレイセンサ2は、所定の粒度(図4に示す矩形領域内の複数点)でグリッド内の表面温度を計測すると共に、内蔵されている空気温度センサ21を用いてグリッド内の空気温度を計測する。赤外線アレイセンサ2は、計測された表面温度及び空気温度を示す電気信号を設置されているグリッドに割り当てられている固有の識別情報(グリッドID)の情報と合わせて室内状況予測装置1に出力する。
【0019】
出力装置3は、液晶ディスプレイ等の表示装置、プリンタ等の印刷装置、スピーカ等の音声出力装置により構成され、室内状況予測装置1からの制御信号に従って各種情報を出力する。空調制御装置4は、処理対象の室内空間に配置されたファン等の空調装置のオン/オフ等を制御する。また、本実施形態では、空調制御装置4は、室内空間内における空調装置の配置条件(例えば、床吹出口の配置や床吹出口の有無等)に関する情報を格納している。
【0020】
室内状況予測装置1は、演算処理部11と記憶部12を備えている。演算処理部11は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置によって構成され、記憶部12内に記憶されている室内状況予測プログラム12aを読み込み実行することにより後述する室内状況予測処理の各ステップを実行する。記憶部12は、コンピュータ等に固定された記憶媒体やコンピュータ等から取り外し可能な記憶媒体であってもよい。コンピュータ等に固定された記憶媒体としては、EPROM(Erasable Programmable ROM)やハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)を例示できる。
【0021】
コンピュータ等から取り外し可能な記録媒体としては、USB(Universal Serial Bus)メモリ、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、CD-RW(Compact Disc-Rewritable)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、DAT(Digital Audio Tape)、8mmテープ、メモリカード等を例示できる。SSD(Solid State Drive)は、コンピュータ等から取り外し可能な記憶媒体としてもコンピュータ等に固定された記憶媒体としても利用できる。室内状況予測プログラム12aは、インターネット等の電気通信回線に接続されたコンピュータ上に格納し、電気通信回線経由でダウンロードさせることによって提供するように構成してもよい。また、電気通信回線を介して室内状況予測プログラム12aを提供又は配布するように構成してもよい。
【0022】
このような構成を有する室内状況予測装置1では、演算処理部11が以下に示す室内状況予測処理を実行することにより、処理対象の室内空間内における発熱体及び人体の有無を判定すると共に処理対象の室内空間内の環境温度分布を予測する。以下、図2に示すフローチャートを参照して、室内状況予測処理を実行する際の演算処理部11の動作について説明する。
【0023】
〔室内状況予測処理〕
図2は、本発明の一実施形態である室内状況予測処理の流れを示すフローチャートである。図2に示すフローチャートは、室内状況予測装置1に対して室内状況予測処理の実行指令が入力されたタイミングで開始となり、室内状況予測処理はステップS1の処理に進む。以下に示す演算処理部11の動作は、演算処理部11が記憶部12内に記憶されている室内状況予測プログラム12aを読み込み実行することにより実現される。
【0024】
ステップS1の処理では、演算処理部11が、各グリッドに設置された赤外線アレイセンサ2から各グリッドの表面温度及び空気温度を示す電気信号とグリッドIDの情報を取得する。これにより、ステップS1の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS2の処理に進む。
【0025】
ステップS2の処理では、演算処理部11が、ステップS1の処理において取得した電気信号及びグリッドIDの情報を用いて、グリッド毎の表面温度の時間移動平均値を算出する。例えば表面温度のサンプリング間隔が10秒である場合、演算処理部11は、1~10分の時間範囲毎に表面温度の時間移動平均値を算出する。但し、表面温度のサンプリング間隔や時間移動平均値を算出する時間範囲はシステムの処理能力に応じて適宜調整するとよい。これにより、ステップS2の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS3の処理に進む。
【0026】
ステップS3の処理では、演算処理部11が、図3に示すように、赤外線アレイセンサ2によって計測されたグリッド内の表面温度及び空気温度と室内空間における各グリッドの座標とを紐づけてグリッド毎の表面温度及び空気温度のデータとしてまとめる。室内空間における各グリッドの座標は、グリッドIDとグリッドの位置座標との関係を示すテーブルからステップS1の処理において取得したグリッドIDの情報に対応するグリッドの位置座標を読み出すことにより決定することができる。このような処理によれば、演算処理部11は、例えば図4に示すように室内空間Sを分割するグリッド1~15内における表面温度及び空気温度の分布を出力装置3に出力して可視化することができる。これにより、ステップS3の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS4の処理に進む。
【0027】
ステップS4の処理では、演算処理部11が、統計処理により各グリッドにおける表面温度の中央値、四分位範囲(IQR:Interquartile Range)、及び外れ値を算出する。具体的には、演算処理部11は、各グリッドにおける表面温度の中央値及び四分位範囲を算出し、算出された表面温度の中央値及び四分位範囲を用いて外れ値を算出する。このような処理によれば、演算処理部11は、例えば図5に示すようなグリッド毎に表面温度に関する箱ひげ図を作成して可視化することができる。図5中の破線領域は表面温度の外れ値を示し、グリッド内にある負荷の表面に対応している。これにより、ステップS4の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS5の処理に進む。
【0028】
ステップS5の処理では、演算処理部11が、ステップS4の処理において表面温度の外れ値が所定数(例えば1~2個)以上算出されたか否かをグリッド毎に判定する。判定の結果、表面温度の外れ値が所定数以上算出された場合、演算処理部11は、当該グリッド内には発熱体が存在すると判定する。一方、表面温度の外れ値が所定数以上算出されなかった場合には、演算処理部11は、当該グリッド内に発熱体は存在しないと判定する。なお、演算処理部11は、空気温度センサ21によって計測された空気温度も考慮して発熱体の有無を判定するようにしてもよい。これにより、ステップS5の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS6の処理に進む。
【0029】
ステップS6の処理では、演算処理部11が、ステップS4の処理において算出された表面温度の四分位範囲が所定の閾値(例えば1~2℃)以上であるか否かを判定する。判定の結果、表面温度の四分位範囲が所定の閾値以上である場合、演算処理部11は、当該グリッド内に人が存在すると判定する。一方、表面温度の四分位範囲が所定の閾値未満である場合には、演算処理部11は、当該グリッド内に人は存在しないと判定する。これにより、ステップS6の処理は完了し、室内状況予測処理はステップS7の処理に進む。
【0030】
ステップS7の処理では、演算処理部11が、ステップS4の処理において算出された表面温度の中央値、ステップS6の処理におけるグリッド内における人体の有無の判定結果、空調装置の配置条件、及び空調装置の稼働状況に関する情報を用いてグリッド内の環境温度を予測する。具体的には、演算処理部11は、実験等により予め求められた表面温度の中央値、グリッド内における人体の有無、空調装置の配置条件、及び空調装置の稼働状況を入力値、グリッド内の環境温度を出力値とする回帰式に入力値を代入することにより、グリッド内の環境温度を算出する。空調装置の配置条件及び稼働状況に関する情報は、空調制御装置4から取得することができる。環境温度には、空気温度、平均放射温度(MRT)、床表面温度、作用温度等が含まれる。これにより、ステップS7の処理は完了し、一連の室内状況予測処理は終了する。以後、演算処理部11は、ステップS5~S7の処理結果を出力装置3に出力する。
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である室内状況予測処理では、演算処理部11が、赤外線アレイセンサ2によって計測された表面温度のデータを用いた統計処理により表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を算出し、算出された外れ値を用いてグリッド内における発熱体の有無を判定し、算出された四分位範囲を用いてグリッド域内における人体の有無を判定し、算出された中央値を用いてグリッド内における環境温度分布を予測する。これにより、多くのコストを要することなく環境温度分布を含む複数の室内状況の項目を予測することができる。
【0032】
また、本発明の一実施形態である室内状況予測処理では、演算処理部11は、算出された表面温度の中央値、四分位範囲、及び外れ値を用いて箱ひげ図を作成し、作成された箱ひげ図を表示するので、例えばグリッド内の外れ値の個数から負荷の位置を判断する等、ユーザは視覚的に室内状況を把握することができる。
【0033】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0034】
1 室内状況予測装置
2 赤外線アレイセンサ
3 出力装置
4 空調制御装置
11 演算処理部
12 記憶部
12a 室内状況予測プログラム
21 空気温度センサ
S 室内空間
図1
図2
図3
図4
図5