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特開2025-31195アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材
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  • 特開-アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031195
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】アルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20250228BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20250228BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20250228BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250228BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20250228BHJP
   B22D 11/00 20060101ALN20250228BHJP
   B22D 11/16 20060101ALN20250228BHJP
   B21B 1/22 20060101ALN20250228BHJP
   B22D 11/049 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C22C21/06
C22C21/00 E
C22C21/02
C22F1/00 627
C22F1/00 641A
C22F1/00 623
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 640D
C22F1/00 640C
C22F1/00 683
C22F1/00 694A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/047
C22F1/00 685Z
B22D11/00 E
B22D11/16 104P
B21B1/22 B
B21B1/22 M
B21B1/22 K
B22D11/049
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137249
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】井出 啓介
(72)【発明者】
【氏名】中村 優希
(72)【発明者】
【氏名】吉野 路英
【テーマコード(参考)】
4E002
4E004
【Fターム(参考)】
4E002AD12
4E002BC05
4E002CB01
4E004KA12
4E004NA01
4E004NC08
4E004SD03
4E004SE03
4E004TB02
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れたアルミニウム合金、アルミニウム合金クラッド材を提供する。
【解決手段】Mg:0.5~2.0%、Fe:0.05~0.3%、Si:0.1~0.3%、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、Si/Fe比が0.5以上、Mg/Si比が2.0以上である組成を有し、表面に原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜が形成され、酸化皮膜の厚さが20nm以上であり、表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下、表面から10nm深さの皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mg:0.5~2.0%、Fe:0.3%以下、Si:0.1~0.3%、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、質量%でSiの含有量とFeの含有量の比であるSi/Fe比が0.5以上であり、質量%でMgの含有量とSiの含有量の比であるMg/Si比が2.0以上である組成を有し、
表面に、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜が形成されており、前記酸化皮膜の厚さが20nm以上であり、表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下であり、前記酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上であることを特徴とするアルミニウム合金材。
【請求項2】
前記組成にさらに、質量%でZn:0.1~2.0%を含有し、質量%でMgの含有量とZnの含有量の比であるMg/Zn比が0.3以上であることを特徴とする請求項1記載のアルミニウム合金材。
【請求項3】
前記組成にさらに質量%で、Mn:0.1~0.3%を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項4】
前記組成の不可避不純物中で、Cu:0.01%以下に規制することを特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金材。
【請求項5】
前記組成の不可避不純物中で、Cu:0.01%以下に規制することを特徴とする請求項3に記載のアルミニウム合金材。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金を犠牲陽極材として心材の片面あるいは両面に貼り合わせられているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項7】
請求項3に記載のアルミニウム合金を犠牲陽極材として心材の片面あるいは両面に貼り合わせられているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項8】
請求項4に記載のアルミニウム合金を犠牲陽極材として心材の片面あるいは両面に貼り合わせられているアルミニウム合金クラッド材。
【請求項9】
請求項5に記載のアルミニウム合金を犠牲陽極材として心材の片面あるいは両面に貼り合わせられているアルミニウム合金クラッド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐食性を示すアルミニウム合金材とアルミニウム合金クラッド材に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは比較的高耐食な金属として知られているが、塩素などハロゲンイオンを含む溶液との接触、及び、材料表面に水滴や液膜が形成するような腐食環境に曝されると局部的に激しい腐食が生じるため、防食技術の検討は重要課題といえる。
このような腐食環境中に対抗しうる従来アルミニウムの防食技術には、材料をコーティングすることで腐食環境に接触させない手段や、積層材として表面に比較的卑な電位を持つ犠牲防食層を設けることによる犠牲防食といった手段が挙げられる。しかし材料をコーティングするとコスト増加を招き、犠牲防食では犠牲陽極効果を上げるために多量のZnを添加すると、自己腐食速度が大きくなり犠牲陽極材の消耗を早めることがある。近年は材料の薄肉化の要求があり、別のアプローチから材料自体の耐食性を向上させる必要がある。
【0003】
自己耐食性に優れるアルミニウム合金の製造方法の先行例として、材料表面に存在するMgOにより腐食の発生を抑制できる、AlとMgの合計含有量が99.9%以上のアルミニウム合金が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-37137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した先行例では、99.9%以上の純度のアルミニウム合金を使用するためコスト増加を招き、そのアルミニウム合金にMgを添加して、単純にMgOを生成させるだけでは厳しい腐食環境に晒される熱交換器用のアルミニウム合金材としては耐食性が不十分である。
【0006】
本発明は上記事情を背景としてなされたものであり、格別なコスト増加を招くことなく厳しい腐食環境にも耐えられる、耐食性に優れたアルミニウム合金材およびアルミニウム合金クラッド材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、発明者らは耐食性向上について研究したところ、Mg添加とMgOの生成だけでは不十分であり、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜厚さや金属間化合物等の生成を制御することで耐食性がさらに向上することを見出した。そしてMgOを主体とする酸化皮膜厚さや金属間化合物等の状態は製造工程の適正化(各工程での熱負荷条件など)で達成されることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明のアルミニウム合金材のうち、第1の形態は、質量%で、Mg:0.5~2.0%、Fe:0.3%以下、Si:0.1~0.3%、を含有し、残部がAlおよび不可避不純物からなり、質量%でSiの含有量とFeの含有量の比であるSi/Fe比が0.5以上であり、質量%でMgの含有量とSiの含有量の比であるMg/Si比が2.0以上である組成を有し、
表面に原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜が形成されており、前記酸化皮膜の厚さが20nm以上であり、表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下であり、前記酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上であることを特徴とする。
【0009】
他の形態のアルミニウム合金材の発明は、前記形態の発明において、前記組成にさらに、質量%でZn:0.1~2.0%を含有し、質量%でMgの含有量とZnの含有量の比であるMg/Zn比が0.3以上であることを特徴とする。
【0010】
他の形態のアルミニウム合金材の発明は、前記形態の発明において、前記組成にさらに質量%で、Mn:0.1~0.3%を含有することを特徴とする。
【0011】
他の形態のアルミニウム合金材の発明は、前記形態の発明において、前記組成の不可避不純物中で、Cu:0.01%以下に規制することを特徴とする。
【0012】
本発明のアルミニウム合金クラッド材の発明は、前記形態のアルミニウム合金材を犠牲陽極材として心材の片面あるいは両面に張り合わせたものである。
【0013】
以下に、本発明で規定する内容について説明する。
組成;以下の組成はいずれも質量%で示される。
【0014】
Mg:0.5~2.0%
Mgは材料表面に、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜を形成し、耐食性向上に寄与する。含有量が下限未満では所望の効果が得られず、含有量が上限を超えると、熱延時に割れが生じるため製造が困難になる。同様の理由で下限を0.8%、上限を1.5%とするのが望ましい。
【0015】
Fe:0.3%以下
Feは耐食性劣化の原因となるため、積極的に添加しないが、0.3%を上限とする。含有量が上限を超えると、金属間化合物が多量に発生して耐食性が劣化する。さらに、 0.2%以下であるのが望ましい。ただし、0.05%未満ではコスト増加を招くので、0.05%以上であるのが望ましい。
【0016】
Si:0.1~0.3%
Siは、Al-Fe-Si系化合物を生成することで、腐食速度の増加に寄与するAl-Fe系化合物の生成を抑制できる。ただし、含有量が下限未満では所望の効果が得られず、含有量が上限を超えると、MgSiの生成が促されて固溶Mg量が減少し、MgO生成量が減少することで耐食性が劣化する。同様の理由で下限を0.15%、上限を0.2%とするのが望ましい。
【0017】
Si/Fe比:0.5以上
Siの質量%での含有量とFeの質量%での含有量の比であるSi/Fe比は、耐食性に寄与するAl-Fe系化合物やAl-Si-Fe系化合物の生成と関連する。Si/Fe比が0.5未満の場合、Al-Fe-Si系化合物よりAl-Fe系化合物が優位に生成して腐食速度を増加させ耐食性を劣化させる。よってSi/Fe比が0.5以上である必要がある。同様の理由で、Si/Fe比の比は1.0以上であることが望ましい。
【0018】
Mg/Si比:2.0以上
Mgの質量%での含有量とSiの質量%での含有量の比であるMg/Si比は、MgSiの生成と関連する。MgSiが生成過多になると固溶Mgが枯渇してMgOの生成を阻害し十分な耐食性を得ることができなくなってしまう。よってMg/Si比が2.0以上である必要がある。同様の理由で、Mg/Siの比は3.0以上であることが望ましい。
【0019】
原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の厚さが20nm以上
原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜は通常のアルミニウム合金の酸化皮膜であるAlより自己耐食性に優れており、材料表面に存在する原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜が厚いほど、良好な耐食性を示す。しかし皮膜厚さが20nm未満の場合は、所望の効果を得られない。上記酸化皮膜はMgOを主体としている。
【0020】
表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下
表面に存在する金属間化合物は、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の均一な形成を阻害して腐食の起点となり耐食性が劣化する恐れがあるため、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する表面に存在する金属間化合物の面積率以下であれば良好な耐食性を示す。しかし面積率が3.0%超の場合は、所望の効果を得られない。
【0021】
酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上
MgがAl酸化皮膜(Al)を還元分解し、MgAlを生成する。表面に存在するMgAlは酸化皮膜の欠陥部で腐食の起点となるため、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が低いほど良好な耐食性を示す。存在比率が4.0未満の場合は、所望の効果を得られない。
【0022】
Zn:0.1~2.0%
Znは、材料の孔食電位を他部材よりも卑にすることで犠牲防食効果が得られるので所望により含有させる。含有量が下限未満では効果が不十分であり、含有量が上限を超えると、腐食速度が増大し耐食性が劣化する。同様の理由で下限を0.8%、上限を1.5%とするのが望ましい。なお、Znを積極的に添加しない場合に、不可避不純物として含むものであってもよく、0.01%以下を含有するものとしてもよい。
【0023】
Mg/Zn比:0.3以上
Znを含有する場合、Mgの質量%での含有量とZnの質量%での含有量の比であるMg/Zn比は、MgZnの生成と関連する。Mg/Zn比が0.3未満の場合、MgZnが生成過多になり、固溶Mgが枯渇してMgOの生成を阻害し十分な耐食性を得ることができなくなってしまう。よってMg/Zn比が0.3以上であるのが望ましい。同様の理由で、Mg/Znの比は0.5以上であることが一層望ましい。
【0024】
Mn:0.1~0.3%
Mnは、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Fe-Si系化合物を生成することで、より腐食速度の増加に寄与するAl-Fe系化合物の生成を抑制するため、所望により含有させる。ただし、含有量が下限未満では効果が不十分であり、含有量が上限を超えると、金属間化合物が多量に発生して耐食性が劣化する。同様の理由で下限を0.15%、上限を0.25%とするのが望ましい。なお、Mnを積極的に添加しない場合に、不可避不純物として含むものであってもよく、0.01%以下を含有するものとしてもよい。
【0025】
Cu: 0.01%以下
Cuは、耐食性劣化の原因となるため、積極的に添加しない。含有量が上限を超えると、耐食性の劣化を招く。同様の理由によりさらに0.01%以下であるのが一層望ましい。
【発明の効果】
【0026】
すなわち、本発明によれば、優れた耐食性を発揮し、厳しい腐食環境にも耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態のアルミニウム合金クラッド材の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の一実施形態を説明する
【0029】
アルミニウム合金材をベア材として製造する場合、本発明の組成を満たすアルミニウム合金を調製し、鋳造、必要に応じて均質化処理を行い、さらに面削、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延を行う。
【0030】
鋳造
鋳造では、例えば、半連続鋳造により鋳造する。鋳造時の冷却速度が遅いと鋳造時に晶出した化合物が粗大となりやすい。それによって所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られない。そのため、冷却速度は0.1℃/秒以上、より好ましくは1℃/秒以上が望ましい。
【0031】
均質化処理
均質化処理では、得られた鋳塊に対し、400℃以上で均質化処理を施すことができる。好ましくは560℃以上の温度で均質化処理を行う。これによりMgSiの生成を抑えることで固溶Mg量の減少を抑制でき、後に所望する適切な原子濃度がAlよりMgのほうが高く、MgOを主体とする酸化皮膜厚さが得られる。所望温度未満の条件では、MgSiが生成しやすくなり固溶Mg量が減少することで、後に所望する適切な原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜厚さが得られない。
均質化処理時間は1時間以上12時間未満の範囲で処理を施す。処理時間が1時間未満の場合、得られた鋳塊の金属組織を均一にできず、12時間超の場合は鋳塊の組織に変化はないため、必要ない。
【0032】
面削
面削は必要に応じて行うことができ、本実施形態としてはその内容が特に限定されるものではない。
【0033】
均熱処理
均熱処理は熱間圧延に備えて行うことができ、本実施形態としては特定の条件に限定されるものではない。
【0034】
熱間圧延
1パスあたりの圧下量を制御することで、鋳造時に生成した粗大な金属間化合物を熱間圧延中に破砕して、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られる。具体的には1パスあたり20%以上、より好ましくは30%以上の板厚減少を伴うような圧延パスを行うことが望ましい。圧下量が20%未満の場合、鋳造時に生成した粗大な金属間化合物が残留し、円相当径で0.01μm以上の径を有する表面に存在する金属間化合物の面積率が得られない。
【0035】
冷間圧延
冷間圧延では、熱延時に破砕した金属間化合物をさらに細かく破砕することで、表面に存在する、円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られる。具体的には1パス当たりの圧下率を20%以上、より好ましくは30%以上で実施することが好ましい。この圧下率未満の条件では、粗大な金属間化合物が残留し、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られない。
【0036】
その後、必要に応じて、中間及び最終焼鈍、ろう付を行う。内容は後述する。
【0037】
クラッド材
本発明のアルミニウム合金材はベア材として用いてもよいが、他の材料とクラッドしたクラッド材の構成材料として用いるものであってもよい。
クラッド材の製造では、本発明のアルミニウム合金材を犠牲陽極材(皮材)として、鋳造、均質化処理、(必要に応じて)面削、均熱処理、熱間圧延を行う。
クラッド材の製造では、心材の鋳造、均質化処理、面削を行う。
【0038】
クラッド圧延では、犠牲陽極材と心材を組み付け、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延、必要に応じて、中間及び最終焼鈍、ろう付を行う。
【0039】
熱間圧延
クラッド材の熱間圧延は、皮材と心材を圧着させるための圧着パスと所定の厚さまで圧延を行うパスがある。ここでは所定の厚さまで圧延を行うパスにのみ言及した。
1パスあたりの圧下量を制御することで、鋳造時に生成した粗大な金属間化合物を熱間圧延中に破砕して、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られる。具体的には1パスあたり20%以上、より好ましくは30%以上の板厚減少を伴うような圧延パスを行うことが望ましい。圧下量が20%未満の場合、鋳造時に生成した粗大な金属間化合物が残留し、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する表面に存在する金属間化合物の面積率が得られない。
【0040】
冷間圧延
ベア材と同様に、熱延時に破砕した金属間化合物をさらに細かく破砕することで、所望する円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が得られる。
【0041】
中間焼鈍及び最終焼鈍
ベア材、クラッド材ともに所定の厚さまで圧延した後、焼鈍を行うことができる。適切な温度範囲で焼鈍することで、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の生成が促される。具体的には250℃~400℃で3時間~10時間、より好ましくは300℃~360℃で焼鈍を行うことが望ましい。所望する温度未満の条件では十分な効果は得られない。所望する温度以上を超える条件では、MgとAlの反応が生じてMgAlが生成し、前記酸化皮膜中において所望のMgO/MgAl比が得られない。
焼鈍の際に炉内は、圧延油による変色防止、および、圧延油ミストの急激な酸化反応による爆発を防止する為、炉内にDXガスを充満させている。この酸素濃度を制御することで、MgO以外の皮膜生成を抑制する。酸素濃度は0.01%~0.5%、好ましくは0.1%以下で焼鈍を行う。所望酸素濃度以上の条件ではMgOと共にAlの生成も促され、所望酸素濃度未満の条件ではMgO生成が抑制されることで、所望する耐食性を得るための適切なMgOを主体とする酸化皮膜の厚さが得られない。
また炉内に流入させるDXガスの温度を露点より5℃以上にすることで、焼鈍を行う。所望温度未満の条件では、空気中に存在する水蒸気が凝固して材料表面に付着することでAlが酸化アルミニウム水和物(Al・xHO)からなる多くの欠陥部をもつポーラス層を形成するため、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の形成を阻害して所望する厚さを得ることができない。
【0042】
ろう付
ベア材、クラッド材ともに、ろう付は必要に応じて行うことができ、590℃を3分以上保持して行うことができる。400℃以上の高温環境に曝すとMgAlの生成によって緻密なMgOの皮膜が得られないが、その後より高温環境で一定時間保持すると、MgAlをさらに覆うようにMgOを生成させることができ、材料表面に緻密なMgO皮膜を形成することができる。所定の時間に満たない場合は十分な効果が得られない。
【0043】
クラッド材では、図1に示すように、本実施形態のアルミニウム合金材からなる犠牲陽極材3が、心材2にクラッドされたアルミニウム合金クラッド材1または本実施形態のアルミニウム合金材からなる犠牲陽極材3A、3Bが、心材2にクラッドされたアルミニウム合金クラッド材1Aが得られる。犠牲陽極材3A、3Bは、同じ組成でもよく、また、本発明の範囲内の組成内で、異なる組成であってもよい。また、心材の両面に犠牲陽極材をクラッドする場合、一方は本実施形態のアルミニウム合金材を犠牲陽極材とし、他方は本発明の実施形態以外の材料を用いるものであってよい。
【0044】
上記実施形態において本発明の規定内容を満たすための説明を行う。
・原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の厚さが20nm以上
子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の厚さが20nm以上とするためには、Mg及びその他元素を適切なバランスで添加し、熱延や焼鈍の条件を適切に調整することで達成される。
【0045】
・表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下
円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率が3.0%以下とするためには、含有する元素のバランス、鋳造速度、均質化処理条件、圧延条件を適切に調整することで達成される。
【0046】
・前記酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上
前記酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率が4.0以上とするためには、最終圧延終了後の材料に対して適切な温度範囲で熱処理することで達成される。
【実施例0047】
表1に示す組成のアルミニウム合金(残部がAlと不可避不純物)を用意し、以下の製造工程を経て供試材を得た。
材料は、半連続鋳造法(DC鋳造)により鋳造し、表2に示す鋳造冷却速度、均質化処理条件、熱間圧延条件、冷間圧延条件、焼鈍を行った。熱間圧延前には面削を行った。
クラッド材の製造では、同様に製造し、JIS A3104を心材として組み合わせ、クラッド率が10%となるように供試材を作製した。
【0048】
(原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の厚さ)
製造したアルミニウム合金材の材料表面をXPSのデプスプロファイル測定により、元素分析を行った。得られたデータから縦軸は、原子濃度(%)、横軸はスパッタ時間(min)を示したグラフを作成し、材料表面からMg2pとAl2pが交差したスパッタ時間をSiO換算することで算出された深さを、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜の厚さとした。
【0049】
(表面(RD-TD)の観察により円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率)
製造したアルミニウム合金材の表層を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)により二次電子像を倍率×10000で10枚取得した。取得した画像より、画像解析ソフトを用いて金属間化合物の円相当径および面積率の平均値を算出し、円相当径で0.01μm以上の径を有する金属間化合物の面積率を示した。
【0050】
(酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率)
製造したアルミニウム合金材の材料表面をXPSのデプスプロファイル測定により、元素分析を行った。またMgOとMgAlの単結晶基盤のMg2pスペクトルを測定し、それぞれのMg2p標準エネルギー値を抽出した。その標準エネルギー値を用いて、製造したアルミニウム合金のMg2pスペクトルの波形分離を行うことで、原子濃度がAlよりMgのほうが高い酸化皮膜中におけるMgOとMgAlの存在比率を算出した。
【0051】
(耐食性)
・ベア材
ろう付熱処理を行っていない1mmの板厚のベア材から20×80mmのサンプルを切り出し、片面をマスキングしたサンプルを、4.2%NaCl溶液を酢酸10ml/LでpH2.8~3.0に調整した液を50℃×0.5時間噴霧→50℃×1.5時間湿潤のサイクル噴霧試験を4週間実施した。腐食試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に浸漬して腐食生成物を除去した後、光学顕微鏡により断面観察を実施して最大腐食深さを測定した。各ベア材の最大腐食深さについて、以下のA、B、Cの三段階で評価した。
[評価基準]
A:最大腐食深さが300μm未満で耐食性良好
B:最大腐食深さが300μm以上500μm未満で耐食性やや良好
C:最大腐食深さが500μm以上で耐食性不良
【0052】
・クラッド材
ろう付熱処理後の0.2mmの板厚の片面クラッド材(10%clad)から20×80mmのサンプルを切り出し、心材側をマスキングしたサンプルを、4.2%NaCl溶液を酢酸10ml/LでpH2.8~3.0に調整した液を50℃×0.5hr噴霧→50℃×1.5hr湿潤のサイクル噴霧試験を4週間実施した。腐食試験後のサンプルを沸騰させたリン酸クロム酸混合溶液に浸漬して腐食生成物を除去した後、光学顕微鏡により断面観察を実施して最大腐食深さを測定した。各クラッド材の最大腐食深さについて、以下のA、B、Cの三段階で評価した。
[評価基準]
A:最大腐食深さが50μm未満で耐食性良好
B:最大腐食深さが50μm以上100μm未満で耐食性やや良好
C:最大腐食深さが100μm以上で耐食性不良
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【符号の説明】
【0056】
1 アルミニウム合金クラッド材
1A アルミニウム合金クラッド材
2 心材
3 犠牲陽極材
3A 犠牲陽極材
3B 犠牲陽極材
図1