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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031326
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20250228BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20250228BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20250228BHJP
   C21C 7/06 20060101ALN20250228BHJP
   C21C 7/04 20060101ALN20250228BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/60
C21D9/00 101W
C21C7/06
C21C7/04 B
C21C7/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137482
(22)【出願日】2023-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼冨 一敬
(72)【発明者】
【氏名】小林 能直
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013EA18
(57)【要約】
【課題】高炭素鋼でありながら、熱間脆性の抑制を期待できる鋼材を提供することを課題とする。また、かかる鋼材を製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】C元素量が0.6質量%以上1.2質量%以下で、Cu元素量が0.1質量%以上で、S元素量が0.01質量%以上である鋼材、及び前記鋼材を製造する方法であって、C元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼が溶融された溶鋼を、少なくともオーステナイト領域において冷却速度0.05℃/sec以上で冷却する鋼材の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C元素量が0.6質量%以上1.2質量%以下で、Cu元素量が0.1質量%以上で、S元素量が0.01質量%以上である、鋼材。
【請求項2】
前記鋼材が、リサイクル鉄由来の鋼材である、請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
N元素量が60質量ppm以上である、請求項1に記載の鋼材。
【請求項4】
Cr元素量が0.3質量%以下である、請求項1に記載の鋼材。
【請求項5】
Cu(銅)の少なくとも一部が銅硫化物の状態で存在している、請求項1に記載の鋼材。
【請求項6】
請求項1に記載の鋼材を製造する方法であって、
C元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼が溶融された溶鋼を、少なくともオーステナイト領域において冷却速度0.05℃/sec以上で冷却する、鋼材の製造方法。
【請求項7】
前記冷却において、融点が1600℃超である酸素吸着剤により、酸素を吸着する、請求項6に記載の鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Cu(銅)を比較的多く含む炭素鋼では、高温での加工時に熱間脆性を生じることが知られている。例えば、Cu(銅)を比較的多く含む鋼は、加工時にCu(銅)が破壊核となり、圧延加工において割れ等の問題が生じることがある。
【0003】
上記のような問題を解決するために、低炭素鋼においては、Cu(銅)とS(硫黄)をCuS(銅硫化物)として析出させ、熱間脆性を抑制することが考案されている。
例えば、特許文献1では、重量%で、Cu:0.04~3%、S:0.02~0.16%を含有し、かつ粒子径が1nm~30nmの硫化銅粒子を体積%で0.1%~0.8%含有し、前記硫化銅粒子が鋼中に分散してなることを特徴とする粒子分散強化鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-345300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の鋼材は、低炭素鋼材であり、熱間脆性等の抑制を期待できる高炭素鋼材は、従来なかった。そのため、熱間脆性等の抑制が期待できる高炭素鋼材が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、高炭素鋼でありながら、熱間脆性の抑制を期待できる鋼材を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる鋼材を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の鋼材及びその製造方法の要旨構成は、以下のとおりである。
【0008】
[1] C元素量が0.6質量%以上1.2質量%以下で、Cu元素量が0.1質量%以上で、S元素量が0.01質量%以上である、鋼材。
上記[1]に記載の鋼材は、熱間脆性の抑制を期待できる鋼材である。
【0009】
[2] 前記鋼材が、リサイクル鉄由来の鋼材である、[1]に記載の鋼材。
上記[2]に記載の鋼材は、リサイクル鉄を使用しているため、資源の循環利用に貢献できる。
【0010】
[3] N元素量が60質量ppm以上である、[1]又は[2]に記載の鋼材。
上記[3]に記載の鋼材は、一般的なリサイクル鉄から製造できる。
【0011】
[4] Cr元素量が0.3質量%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の鋼材。
上記[4]に記載の鋼材は、一般的なリサイクル鉄から製造できる。
【0012】
[5] Cu(銅)の少なくとも一部が銅硫化物の状態で存在している、[1]~[4]のいずれかに記載の鋼材。
上記[5]に記載の鋼材は、高炭素鋼でありながら、銅が銅硫化物の状態で存在している。
【0013】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の鋼材を製造する方法であって、
C元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼が溶融された溶鋼を、少なくともオーステナイト領域において冷却速度0.05℃/sec以上で冷却する、鋼材の製造方法。
上記[6]に記載の鋼材の製造方法であると、高炭素鋼においても、熱間脆性の抑制を期待できる鋼材を製造できる。
【0014】
[7] 前記冷却において、融点が1600℃超である酸素吸着剤により、酸素を吸着する、[6]に記載の鋼材の製造方法。
上記[7]に記載の鋼材の製造方法であると、冷却時における気泡の発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高炭素鋼でありながら、熱間脆性の抑制を期待できる鋼材を提供することができる。
また、本発明は、かかる鋼材を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の鋼材及びその製造方法をその実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0017】
<定義>
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0018】
本明細書において、「酸素吸着剤」とは、酸素を吸着する性質を有する物質をいう。
【0019】
本明細書において、「低炭素鋼」とは、C(炭素)元素量が0.25質量%未満の鋼を指し、「中炭素鋼」とは、C(炭素)元素量が0.25質量%以上0.60質量%以下の鋼を指し、「高炭素鋼」とは、C(炭素)元素量が0.60質量%より多い鋼を指す。
【0020】
本明細書において、鋼材のC(炭素)元素量及びS(硫黄)元素量は非分散型赤外線吸収法、Cu(銅)元素量はICP発光分光分析法で測定された値である。
【0021】
<鋼材>
本実施形態の鋼材は、C(炭素)元素量が0.6質量%以上1.2質量%以下で、Cu(銅)元素量が0.1質量%以上で、S(硫黄)元素量が0.01質量%以上であることを特徴とする。
本実施形態の鋼材は、C(炭素)元素量が0.6質量%以上1.2質量%以下で、Cu(銅)元素量が0.1質量%以上で、S(硫黄)元素量が0.01質量%以上であり、含まれる炭素の量が比較的多いリサイクル鉄等を原材料として使用できる。そのため、資源の循環利用に寄与できる。
【0022】
本実施形態の鋼材において、C(炭素)元素量は、0.6質量%以上1.2質量%以下である。C(炭素)元素量が前記範囲であるため、本実施形態の鋼材は高炭素鋼である。また、C(炭素)元素量は、0.7質量%以上が好ましく、1.0質量%以下が好ましい。
【0023】
本実施形態の鋼材において、Cu(銅)元素量は、0.1質量%以上である。Cu(銅)元素量が前記範囲であると、銅硫化物を形成できる。また、鋼材のCu(銅)元素量は、目的の銅硫化物を得るために、3.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましい。
【0024】
本実施形態の鋼材において、S(硫黄)元素量は、0.01質量%以上である。S(硫黄)元素量が前記範囲であると、銅硫化物を形成できる。また、鋼材のS(硫黄)元素量は、鋼材の特性に影響するために、0.050質量%以下が好ましく、0.030質量%以下がより好ましい。
【0025】
本実施形態の鋼材は、リサイクル鉄由来の鋼材であることが好ましい。リサイクル鉄由来の鋼材であると、資源の循環利用に貢献できる。本実施形態の鋼材の原材料となり得るリサイクル鉄は、リサイクルされている限り、特に限定されず、廃鉄スクラップ、タイヤから取り出したスチールコード等に由来するものであってもよい。また、リサイクル鉄は、COの排出量削減の観点から、電気炉(電気炉製鋼法)由来であることが好ましい。電気炉製鋼法においては、例えば、電気炉中で、アーク放電を発生させ、その放電熱により原料を融解し、不純物を取り除いて、鉄を得ることができる。一方、通常の製鉄で行われている高炉法では、例えば、高炉中で、石炭由来のコークスを用いて鉄鉱石を還元して、鉄を得るため、COが大量に発生せざるを得ない。一般に、電気炉でのCOの排出量は、高炉でのCOの排出量に比べて、約1/4程度であるため、電気炉由来のリサイクル鉄を鋼材の原材料として使用することで、COの排出量を大幅に削減できる。
【0026】
本実施形態の鋼材は、N(窒素)元素量が、60質量ppm以上であることが好ましい。一般に、高炉から得た鉄等の新品の鉄は、純度が高く、N元素量が60質量ppm未満であるのに対し、一般的なリサイクル鉄(即ち、高度に精錬されていないリサイクル鉄)は、N元素量が60質量ppm以上である。前記鋼材は、かかる一般的なリサイクル鉄を原材料として作製できる。また、高度な精錬を要しないため、製造工程が煩雑でなく、エネルギー消費量を低減でき、また、COの排出量も低減できるため、環境視点からも好ましい。
また、前記鋼材のN(窒素)元素量は、耐久性の観点から、200質量ppm以下であることが好ましい。
【0027】
本実施形態の鋼材は、Cr(クロム)元素量が0.3質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。一般に、高炉から得た鉄等の新品の鉄は、純度が高く、Cr(クロム)元素量が0.05質量%未満であるのに対し、一般的なリサイクル鉄(即ち、高度に精錬されていないリサイクル鉄)は、Cr(クロム)元素量が0.05質量%以上である。Cr(クロム)元素量が前記範囲内にあるリサイクル鉄は、高度な精錬を要しないため、入手し易い。また、Cr元素量が前記範囲内にある鋼材は、一般的なリサイクル鉄から製造できる。
【0028】
本実施形態の鋼材においては、Cu(銅)の少なくとも一部が銅硫化物の状態で存在していることが好ましい。
銅(Cu)を多く含む鋼は、加工時に銅(Cu)が破壊核となり、例えば圧延加工において割れ等の問題が生じることがある。しかしながら、本実施形態の鋼材においては、Cu(銅)の少なくとも一部が銅硫化物の状態で存在しているため、このような問題を抑制できることが期待される。
なお、鋼材中において、Cu(銅)の少なくとも一部が銅硫化物の状態で存在しているかは、SEMおよびTEM(日本電子株式会社製)による作製した鋼材の観察、エネルギー分散型分光法(EDS)による簡易分析、及び電子線マイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製)による銅および硫黄の偏析観察により確認することができる。
【0029】
本実施形態の鋼材中における銅硫化物の存在状態は、銅硫化物が存在していれば特に限定されない。
また、銅硫化物は、より小さい粒径で存在していることが好ましいと推定される。溶鋼の冷却での冷却速度をより大きくすることで、存在する銅硫化物の粒径をより小さくすることができると考えられる。
【0030】
前記銅硫化物の大きさは、直径が1.0nm以上10μm以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
本実施形態の鋼材は、通常、鋼材が使用される用途で使用することができる。用途としては、例えば、本実施形態の鋼材に伸線加工等を施して、スチールコードとすること等が挙げられる。
また、本実施形態の鋼材は、本発明の効果を損なわない範囲で、不純物等の上記成分以外の成分を含んでいてもよい。該成分としては、例えば、Si(シリコン)、Mn(マンガン)、P(リン)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、Sn(錫)、Ni(ニッケル)、Mo(モリブデン)、O(酸素)等が挙げられる。
【0032】
<鋼材の製造方法>
本実施形態の鋼材の製造方法においては、C(炭素)元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼が溶融された溶鋼を、少なくともオーステナイト領域において冷却速度0.05℃/sec以上で冷却することが好ましい。
本実施形態の鋼材の製造方法では、C(炭素)元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼が溶融された溶鋼を、少なくともオーステナイト領域において上記冷却速度で冷却することにより、本実施形態の鋼材を製造できる。
なお、本実施形態の鋼材の製造方法において、温度は熱電対を使用して測定することができる。また、オーステナイト領域は、鋼材の炭素含有量等によって異なるが、当該分野の知識を有するものであれば、炭素含有量等から鋼材のオーステナイト領域を推定することができる。
【0033】
前記溶鋼におけるCu(銅)元素量は、0.1質量%以上であることが好ましい。溶鋼中のCu(銅)元素量を前記範囲にするために、Cu(銅)元素を含む物質を原料の1つとしてもよい。該Cu(銅)元素を含む物質としては、例えば、電解銅が挙げられる。また、溶鋼中のCu(銅)元素は、使用する原料に由来するものであってもよい。このような使用する原料にCu(銅)元素が含まれる鋼材の原料としては、例えばリサイクル鉄を使用することができる。
また、前記溶鋼におけるS(硫黄)元素量は、0.01質量%以上であることが好ましい。溶鋼中のS(硫黄)元素量を前記範囲にするために、S(硫黄)元素を含む物質を原料の1つとしてもよい。また、S(硫黄)元素は、原料となる鉄鋼に含まれていることもあり、そのような場合には、FeS等のS(硫黄)元素を含む物質を添加することにより、S(硫黄)元素量を前記範囲にしてもよい。
【0034】
前記鋼材の製造方法における冷却速度は、鋼材中の結晶をより微細にする観点から、少なくともオーステナイト領域において3℃/sec以上であることがより好ましく、40℃/sec以上であることがより一層好ましい。
【0035】
本実施形態の鋼材の製造方法では、少なくともオーステナイト領域において冷却速度0.05℃/sec以上であれば、冷却方法は特に限定されない。冷却方法としては、例えば、炉冷、空冷、及び水冷等を挙げることができる。
【0036】
前記溶鋼は、C(炭素)元素を0.6質量%以上1.2質量%以下含む鉄鋼を、電気炉で加熱して溶融することにより作製することができる。電気炉の加熱においては、例えば、電気炉のプログラム制御で昇温速度500℃/hに設定して加熱することができる。達する加熱温度は、鉄鋼が融解する温度であればよく、例えば約1600℃が挙げられる。
【0037】
また、溶鋼にするために鉄鋼を加熱する時間は、特に限定されるものではなく、溶鋼となるまで加熱すればよい。
【0038】
前記冷却方法を、いくつかの例に基づいて説明する。なお、本実施形態において、冷却方法は、以下に限られるものではなく、冷却速度が本実施形態の範囲内となる冷却方法であればよい。
【0039】
(炉冷)
前記冷却方法の一つとして、炉冷を用いてもよい。炉冷を使用した溶鋼の冷却としては、例えば、電気炉のプログラム制御で冷却速度を500℃/hに設定し、溶鋼を炉内で冷却することができる。このとき、溶鋼のオーステナイト領域における冷却速度は、約0.1℃/secである。
【0040】
(空冷)
前記冷却方法の一つとして、空冷を用いてもよい。空冷を使用した溶鋼の冷却としては、例えば、溶融後に溶鋼を入れた容器を大気中にさらし、大気中で放冷することにより、溶鋼を冷却することができる。このとき、溶鋼のオーステナイト領域における冷却速度は、約5℃/secである。
【0041】
(水冷)
前記冷却方法の一つとして、水冷を用いてもよい。水冷を使用した溶鋼の冷却としては、例えば、溶融後に溶鋼を入れた容器を炉外に出し、容器を水に漬けて、溶鋼を冷却することができる。このとき、溶鋼のオーステナイト領域における冷却速度は、約50℃/secである。
【0042】
本実施形態の鋼材の製造方法では、溶鋼の冷却において、融点が1600℃超である酸素吸着剤により、酸素を吸着することが好ましい。このような状態であると、高炭素鋼において、冷却速度を大きくした際にも、気泡の発生を抑制することができる。低炭素鋼と異なり、高炭素鋼のような炭素元素量が比較的多いものでは、炭素と酸素の反応により、気泡が発生すると考えられる。そのため、酸素吸着剤で酸素を吸着することにより、気泡の発生を抑制できると推定される。
前記酸素吸着剤は、融点が1600℃超であり、酸素を吸着できるものであれば、特に限定されない。該酸素吸着材としては、例えば、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ta(タンタル)等が挙げられる。
【0043】
本実施形態の鋼材の製造方法においては、S(硫黄)を添加することを含んでいてもよい。S(硫黄)は、鋼中に不純物として存在する元素であるが、この工程があることにより、S(硫黄)元素量を所望の範囲に調整し易い。
S(硫黄)を添加する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、FeSを鋼に溶解させることで、S(硫黄)を添加できる。
【0044】
また、本実施形態の鋼材の製造方法は、上記溶融、冷却、添加の他に、他の成分の添加等の任意の工程を含んでいてもよい。
【実施例0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
所定の配合となるよう,予めアーク溶解して作成したFe-C合金、ならびにFe-S粉末、電解鉄および電解銅を各々秤量して溶鋼の原料とした。前記原料を溶融して溶鋼とした後、溶鋼を冷却(炉冷、空冷、又は水冷)して試料を得た。なお、溶融及び冷却(炉冷、空冷、又は水冷)の方法は、以下に示す方法で実施した。下記表1に、実施例1~3の炭素鋼の組成及び冷却方法等を示す。
なお、溶融及び冷却を行う容器には、酸素吸着材として純チタン(Ti)管を装填した。
【0047】
(溶融)
電気炉のプログラム制御で昇温速度500℃/hに設定して、原料の入った容器を1600℃まで加熱した。なお、実施例1及び2においては、1200℃まで加熱した後、1200℃に保って1時間加熱し、その後、昇温速度500℃/hで1600℃まで加熱して、1600℃で1時間保持した。また、実施例3においては、1600℃まで加熱した後、1600℃で30分間保持し、一度1200℃まで温度を下げて30分間保持し、再度1600℃まで温度を上げて30分間保持した。なお、温度は、熱電対(フルウチ化学株式会社製)を用いて測定した。
【0048】
(溶鋼の冷却)
温度は、溶融の際と同様に、熱電対(フルウチ化学株式会社製)を用いて測定した。
-炉冷-
溶融後、電気炉の電気プログラム制御で冷却速度500℃/hに設定して、炉内で溶鋼を冷却した。このときの溶鋼の冷却速度は、表1に示す。
-空冷-
溶融後、溶鋼を入れた容器を炉外に出し、溶鋼を大気中(温度およそ20-25℃)で放冷した。このときの溶鋼の冷却速度は、表1に示す。
-水冷-
溶融後、溶鋼を入れた容器を炉外に出し、該容器を水に漬けて冷却した。このときの溶鋼の冷却速度は、表1に示す。
【0049】
(銅硫化物の観察方法)
SEMおよびTEM(日本電子株式会社製)を使用して、作製した試料の析出物を観察した。
また、エネルギー分散型分光法(EDS)による簡易分析により、銅及び硫黄の存在を確認した。下記表1に、銅硫化物の存在の有無を示す。
電子線マイクロアナライザー(EPMA、日本電子株式会社製)では、銅および硫黄の偏析を観察した。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1~3のいずれの冷却速度においても高炭素鋼を作製できた。また、いずれの実施例においても、銅硫化物の確認ができ、冷却速度が大きいほど、銅硫化物がより微細に分布していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の鋼材は、スチールフィラメント等に利用できる。