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  • 特開-上下動抑制埋設支柱及び埋設工法 図1
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  • 特開-上下動抑制埋設支柱及び埋設工法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031420
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】上下動抑制埋設支柱及び埋設工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023146530
(22)【出願日】2023-08-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年8月26日日本湿地学会の第14回釧路大会のホームページにて日本湿地学会第14回大会要旨集を掲載 [刊行物等]令和4年9月3日および令和4年9月4日に日本湿地学会第14回大会にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】518230784
【氏名又は名称】株式会社みどり工学研究所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英紀
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA00
2D043AC05
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】地表面沈下量や地下水位などを測定するとき、地温変動幅及び気温変動幅に伴う材質の線膨張によって発生する上下動が、求められる値まで抑制された上下動抑制管1を有する上下動抑制埋設支柱と、該支柱を支える金属管2が、保護管3によって軟弱地盤9の圧縮・膨潤に伴う土圧から隙間なく遮断される埋設工法を提供する。
【解決手段】上下動抑制埋設支柱において、鉛直強度・剛性のある金属管2に、線膨張係数が金属管2に比べて極めて小さい上下動抑制管1を被せ、内部に通じさせ、地温変動幅が必要な値まで低減する埋設深11で、上下動抑制管1の底部を、支持管4によって金属管2に固定する。また、金属管2は、先端の掘削装置5を硬質地盤10に貫入して固定するとき、予め埋設された耐久性のある保護管3の中を通すが、保護管3は、軟弱地盤9の土圧から隙間なく金属管2を遮断するため、底面を硬質地盤10から浮かせず圧着させて埋設する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直強度・剛性のある金属管に、線膨張係数が該管に比べて極めて小さいカーボンパイプを被せ、内部に通じさせ、地温変動幅が必要とする値まで低減する地中深度において、カーボンパイプの底部が支持管で金属管に取付けられ支持されることを特徴とする上下動抑制埋設支柱。
【請求項2】
請求項1の上下動抑制埋設支柱を支える金属管は、予め掘削により軟弱地盤の層の中に形成された空洞に埋設された耐久性のある樹脂パイプの中を通じて、先端を硬質地盤に貫入して埋設される。その際、樹脂パイプの底面を、硬質地盤から浮かせず隙間なく圧着させることを特徴とする埋設工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気温・地温の変動に伴う材質の線膨張と、軟弱地盤の圧縮・膨潤に伴う土圧による上下動とが、ともに抑制された上下動抑制埋設支柱に関する。
【背景技術】
【0002】
地表面沈下量を計測する場合、一般に鉛直強度・剛性のある金属管の先端に掘削装置を装着し、予め軟弱地盤に埋設された樹脂パイプ内部を通じて支持層たる硬質地盤まで到達させ、回転力及び押込力で地中に貫入する。従来はこのように固定された金属管を不動軸とみなし、該金属管と地表面との相対移動量をセンサーによって検出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実全昭61-50122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において、内管21(金属管に相当)は底部を硬質地盤に固定された不動軸とされ、中管22(樹脂パイプに相当)は、軟弱地盤の土圧から内管21を遮断しつつ、軟弱地盤とともに沈下する管である。本先行技術は、沈下する中管22と不動軸である内管21との鉛直方向の相対移動量を検出して地表面沈下量を測定している。しかし、この先行技術には次の問題がある。第一に、内管21は金属管であり、気温変動及び地温変動に伴う金属の線膨張によって発生する上下動が考慮されていないことである。第二には、中管22は軟弱地盤と連動して沈下するため、一旦底面を沈下量相当高さhだけ支持層から引き上げておく必要があり、内管21が軟弱地盤の圧縮・膨潤に晒されることである。第一、第二いずれの問題も、不動軸である内管21に上下動を発生させる要因となっており、求められる精度の地表面沈下量測定値が得られないことがある。
【0005】
本発明の目的は、地表面沈下量や地下水位などを測定するに際して、地温変動幅及び気温変動幅に伴う材質の線膨張によって発生する上下動が、求められる値まで抑制されるカーボンパイプを有する上下動抑制埋設支柱と、該支柱全体を支える金属管が、樹脂パイプによって軟弱地盤の圧縮・膨潤に伴う土圧から隙間なく遮断され、保護される埋設工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上下動抑制埋設支柱において、鉛直強度・剛性のある金属管に、線膨張係数が、該管に比べて極めて小さいカーボンパイプを被せ、内部に通じさせ、地温変動幅が必要とする値まで低減する地中深度において、カーボンパイプの底部を支持管によって金属管に取付け、支持管以外ではカーボンパイプが金属管に接触しない構造とする。また、カーボンパイプを支える金属管が、予め掘削により軟弱地盤の層の中に形成された空洞に埋設された耐久性のある樹脂パイプの中を通じて、先端を硬質地盤に貫入して埋設されるとき、該樹脂パイプの底面を硬質地盤から浮かせず隙間なく圧着させる。
【発明の効果】
【0007】
周知のように、線膨張量は温度変動幅と材質の線膨張係数および材質の長さの積で求められ、また、地温変動幅は地中で深くなるほど低減する。本発明の上下動抑制埋設支柱では、カーボンパイプを上下動させる金属管の線膨張は、支持管と硬質地盤との間の地温変動幅に伴うものに限られる。したがって、支持管の埋設深を、地温変動幅が必要とする値まで低減する地中深度とすることによって、金属管の線膨張によって生じるカーボンパイプの上下動量を求める値まで抑制することができる。また、カーボン素材の特徴は、線膨張係数が金属素材に比べて極めて小さく、カーボンパイプ自体の線膨張による上下動も抑制されている。
【0009】
本発明に係る工法によって埋設される、外部からの物理的、化学的な影響に対する耐久性のある樹脂パイプは、金属管を軟弱地盤から隙間なく遮断し、軟弱地盤の圧縮・膨潤を要因とする金属管の上下動を抑制する。
【0010】
本発明の上下動抑制埋設支柱の利用によって、地面沈下量に限らず地下水位など環境、建設、土木などの測定データを、従来技術より精度を上げて計測することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の上下動抑制埋設支柱の本体及び地層の側面図である。
図2】東京大学大学院農学生命科学研究科 溝口研究室の「日本の地温データ」のホームページと、そこに公開されているxls.(1.7M)ファイルから抜粋した東京における地中深度が-1mの地温データである。なお、本ファイルは「地中温度等に関する資料」(気象情報第3号,1982)に掲載されている数値データを電子化したものとされる。URL:http://www.iai.ga.a.utokyo.ac.jp/mizo/research/soildb/ground_T_db.html
図3】東京における深度別の地温変動幅の表と近似曲線である。図2の数値データをもとに、深度別の最大地温と最低地温の差を計算し、深度別の地温変動幅とした。
図4】気象庁データに掲載された2013年から2022年までの東京の日最高気温の月平均値と日最低気温の月平均値である。URLは、それぞれ https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=44&block_no=47662&year=&month=&day=&view=a2 及び https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=44&block_no=47662&year=&month=&day=&view=a3
図5】材質別の線膨張係数の一覧表(抜粋)である。株式会社ミスミグループ本社のMISUMI-VONA技術情報「材料の線膨張係数」URL:https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/plastic_mold_design/pl06/c0798.html
図6】繊維強化プラスチック(FRP)の一般特性表である。株式会社ホーペック技術情報 URL:https://www.hopec.jp/technology/
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態は、図1に示すように、金属管2を、埋設された保護管3の中を通して、先端を掘削装置5によって硬質地盤10に貫入する際に、予め上下動抑制管1を金属管2に被せて中に通じさせ、上下動抑制管1の底部を埋設深11において、支持管4により金属管2に取付けておくようにしたものである。
【0013】
図1Aは、本発明の実施形態における上下動抑制埋設支柱の断面図で、金属管2は鉄素材の鉄管、上下動抑制管1はCFプリプレグ材のカーボンパイプ、保護管3にはPVC樹脂パイプ(塩ビパイプ)を用いる。鉄管の線膨張係数は図5に示すとおり11.8、カーボンパイプは図6において0.9~1.0であり、鉄管の十分の一未満と極めて小さい。また、図1Bに示すように、塩ビパイプとカーボンパイプは、頂部に雨水や土砂の侵入を防ぐキャップを有し、カーボンパイプは保護管用キャップ6に開けられた孔を、鉄管は上下動抑制管用キャップ7に開けられた孔を、各々貫通させ地上に突出させる。
【0014】
図1Cは、本実施形態における上下動抑制埋設支柱及び設置地点の地層の深さの寸法で、設置場所は東京で、地表面8、硬質地盤10とも水平な地形とする。なお、測定用センサーは、地上高1.5mでカーボンパイプに取付けるものとする。
【0015】
本実施形態により、上下動抑制埋設支柱を用いて地表面沈下量を測定したとき、埋設深11によってセンサーの上下動がどのように抑制されるかを、東京の地温と気温のデータに基づいて計算し、本発明の効果を以下で検証する。
【0016】
図2の「日本の地温データ」のxls.ファイルには、東京における地中深度が0mから-5mまでの深度別の地温が、年度別月別の数値データ(単位=℃×10)として掲載されている。図3の表は、この数値データから直近10年間における深度別の最高地温と最低地温の差を地温変動幅として計算し、東京での地中深度と地温変動幅の関係を示したものである。図3のグラフは、本表の値をエクセルによって指数近似曲線で表したもので、東京の地温変動幅y(℃)は、地中深度をx(m)としたとき、数式1の近似式によって求められる。
【0017】
【数1】
【0018】
図4は、東京における日最高気温と日最低気温の月平均値であるが、2013年から2022年までの10年間の気温変動幅は、最大値である2020年8月の34.1℃から最低値2018年1月の06℃を差し引いた、33.5℃と求められる。
【0019】
数式1の東京の地温変動幅の近似式と、東京の気温変動幅(33.5℃)に基づき、埋設深11をd(m)、地中深度をx(m)としたとき、予測されるセンサーの上下動量L(mm)は、数式2で求められる。なお、鉄管は塩ビパイプで完全に隔離されており、軟弱地盤9の圧縮・膨潤によるセンサーの上下動量は0とする。
【0020】
【数2】
【0021】
数式2において、第1項は深度[-5m~dm]の区間における鉄管の線膨張量、第2項は深度[dm~0m]の区間におけるカーボンパイプの線膨張量、第3項は地表面8から地上高1.5mの区間でのカーボンパイプの線膨張量である。なお、カーボンパイプは埋設深11を下げた分だけ長くする必要があることに留意する。
【0022】
数式3は、先行技術のように、カーボンパイプを使用せず、鉄管にセンサーを地上高1.5mで取付けた場合の、センサーの上下動量L(mm)を求める計算式である。
【0023】
【数3】
【0024】
表1は、数式2及び数式3によって、センサーの上下動量L(mm)を計算した結果で、数式2による計算は、埋設深11が、0mから-3.0mまでの区間において、50cm毎に下がった深度に対する、センサーの上下動量を求めることに限定した。
【0025】
【表1】
【0026】
表1から、埋設深11の深度が下がるに従い、埋設深11と硬質地盤10との区間[-5m~dm]における地温変動幅の積算値が減少し、該区間における鉄管の線膨張が抑制され、これに伴って、カーボンパイプに取付けたセンサーの上下動量が抑制されることがわかる。このとき、カーボンパイプ自体の線膨張量が僅かに増加するが、鉄管より一桁少ない値であり、これを加味しても傾向は変わらない。本実施形態において、仮にセンサーの上下動量を0.65mm未満とすることが求められる場合は、表1から埋設深11を-1mより深くすればよく、この深度-1mが、「地温変動幅が必要とする値まで低減する地中深度」となる。以上から、本発明の上下動抑制埋設支柱が、カーボンパイプに取付けられたセンサーの上下動を、求められる値まで抑制することを可能とすることが示された。
【符号の説明】
【0027】
図1は上下動抑制埋設支柱の側面図である。
1 上下動抑制管
2 金属管
3 保護管
4 支持管
5 掘削装置
6 保護管用キャップ
7 上下動抑制管用キャップ
8 地表面
9 軟弱地盤
10 硬質地盤
11 埋設深
12 保護管地上高
図1
図2
図3
図4
図5
図6