(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031494
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/818 20200101AFI20250228BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20250228BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20250228BHJP
【FI】
A61K6/818
A61K6/831
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024039218
(22)【出願日】2024-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2023135194
(32)【優先日】2023-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】松尾 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見澤(町田) 有希
(72)【発明者】
【氏名】吉良 龍太
(72)【発明者】
【氏名】大矢 直之
(72)【発明者】
【氏名】木下 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】橋本 明香里
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA02
4C089BA05
4C089BA06
4C089BA11
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC05
4C089BC08
4C089BD02
4C089BD03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】 フロアブルタイプのバルクフィルCRとして使用でき、且つ一括充填による審美修復が可能な歯科用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】 粘度が特定範囲内にあるラジカル重合性モノマー成分(A);該(A)及びその硬化体の屈折率よりも大きな屈折率を有する球状無機粒子からなる特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状無機粉粒体(b):及び光重合開始剤;を含むことにより構造色を発現する硬化体を与えることができる硬化性組成物において、前記(b)の一部を、その屈折率より小さく且つ前記(A)の硬化体の屈折率より大きな屈折率を有する樹脂マトリックス中に分散させた複合体の粒子からなる平均粒子及びD90が特定範囲内にある粉粒体(B2)として、前記(B)の残部(B1)と共に配合し、更に(B1)と(B2)の合計配合量及び両者の配合比を一定の範囲内とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種のラジカル重合性単量体又は複数のラジカル重合性単量体の混合物からなり、25℃における粘度が100~500mPa・sであるモノマー成分(A)、
電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が230~500nmである無機球状粉粒体(b)からなり、当該粉粒体(b)の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均1次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)、及び
光重合開始剤(C)
を含み、
前記(B)における“同一粒径球状粒子群”の数をaとし、aが1のときは1となり、aが2以上のときは1~aまでの自然数となる変数をmとし、各“同一粒径球状粒子群”を、その平均1次粒子径の小さい順にそれぞれBmで表し、25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率をnで表したときに、
前記aが2以上の場合における各Bmの平均1次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なるという第1の条件、及び
前記(A)の硬化体(AP)の屈折率:nをn(AP)とし、前記各Bmを構成する無機球状粉粒体(b)の屈折率:nをn(Bm)としたときに、何れのn(Bm)に対しても、
n(AP)<n(Bm) の関係が成り立つという第2の条件
を同時に満足する、
ことにより光の入射角度によらない所定の色調の構造色を発現する硬化体を与えることができる流動性組成物からなる歯科用硬化性組成物において、
前記(B)を構成する少なくとも1種の“同一粒径球状粒子群”となる前記無機球状粉粒体(b)の一部(B2F)は、該一部の無機球状粉粒体(B2F)が樹脂マトリックス(B2P)中に分散した複合体からなる粒子によって構成される有機無機粉粒体(B2)として前記歯科用硬化性組成物に含まれており、
前記(B2)を構成する個々の有機無機複合粒子に含まれる前記(B2F)は、単一の“同一粒径球状粒子群”を構成する無機球状粉粒体(b)の一部であり、前記(B2)の総質量に対する前記(B2F)の総質量で定義される平均無機含有率は、30~95質量%であり、前記(B2)のレーザー回折-散乱法により求められる体積基準の粒度分布におけるメディアン径は1~30μmであると共にD90は35μm未満であり、
前記歯科用硬化性組成物に含まれる(B)のうち、前記(B2F)以外の有機無機複合化されない状態で含まれる無機球状粒粉体を(B1)とし、前記モノマー成分(A)の屈折率:nをn(A)とし、前記(B2)を構成する個々の有機無機複合粒子について、これに含まれる前記(B2F)の屈折率:nをn(B2F)とし、前記(B2P)の屈折率:nをn(B2P)としたときに、
前記(B1)について、何れのn(Bm)に対しても、
n(A)<n(Bm) の関係が成り立ち、
前記(B2)を構成する全ての有機無機複合粒子について、
n(AP)<n(B2F) の関係および
n(B2P)<n(B2F) の関係が成り立ち、
前記(A)100質量に対する前記(B1)及び前記(B2)の総含有量が150~300質量部で、且つ、前記(B1)及び前記(B2)の合計量に対する前記(B2)の占める割合が50~70質量%の範囲内である、
ことを特徴とする歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
前記(B)の構成粒子以外の無機粒子からなる無機粉粒体(D)として、平均1次粒子径が1~100nmである微細粉粒体(D1)を、前記(A)100質量部に対して0.1~5質量部、更に含んでなる請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
前記(B)の構成粒子以外の無機粒子からなる無機粉粒体(D)として、結晶性希土類金属フッ化物粒子によって構成され、電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が1~300nmであり、X線回折測定を行った時に得られるX線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上である希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を更に含み、前記(A)100質量に対する当該(D2)の配合量が5~25質量部であり、且つ前記(A)100質量に対する前記(B1)、前記(B2)及び前記(D2)の総含有量が150~300質量部である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
JIS T6514:2015に準じて測定される光硬化深さが3.5~5.0mmであり、水平ガラス平面上の直径5.5mm内の領域に載置した0.1gの試料を37℃で2分間自然延展させたときの広がり直径(mm)で評価される流動性が4.0~12.0mmである、請求項1乃至3の何れか1項に記載の歯科用硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用硬化性組成物、具体的にはフロアブルタイプのバルクフィルコンポジットレジンとして好適に使用できる歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療においては、重合性単量体、充填材および重合開始剤を含む硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジン(以下、単に「CR」ともいう。)と呼ばれる歯科用充填材料を、齲蝕を除去した後の窩洞に充填した後、硬化させることにより窩洞を硬化体で塞ぐ修復(CR修復)が行われている。このようなCR修復は、歯質の切削量を少なくでき、天然歯牙色と同等の色調を付与できることや操作が容易なことから、急速に普及している。また、近年においては、硬化体の機械的強度の向上や、歯牙との接着力の向上から、前歯部の修復のみならず、高い咬合圧が加わる臼歯部に対しても使用されている。
【0003】
ところで、実際のCR修復においては、修復の具体的態様によって、操作性が良好となるCRの流動性や賦形性は異なることから、各社から様々な性状を有するCRが市場に供給されている。そして、CR修復を行う術者が実際の修復に適していると判断したものを選んで使用するのが一般的である。
【0004】
たとえば、CRは、充填時の操作性に影響を与えるような大まかな流動性の違いから、「ユニバーサルコンポジットレジン」(賦形性を重視した、流動性が低く比較的堅いペースト状のもの)と「フロアブルコンポジットレジン」(シリンジから直接充填可能な流動性を有するもの)とに大別されている。そして、フロアブルコンポジットレジン(以下、「フロアブルCR」ともいう。)については、「バルクフィルタイプ」と呼ばれるもの(以下、「バルクフィルCR」ともいう。)も開発されている。バルクフィルCRとは、たとえば深さ4mm程度の臼歯I級窩洞のような深い窩洞に一括充填してCR修復を行えるようにした光硬化型のCRであり、フロアブルタイプのバルクフィルCRは、フィラーの配合量を少なめにして一括充填可能な高い流動性を有するようにした点、光硬化に用いる光(光重合開始剤の活性化光)に対する透過性を高く(光硬化深さを深く)した点、及び樹脂と無機粉粒体との複合材粒子によって構成される粒粉体からなる充填材(以下、「有機無機複合フィラー」ともいう。)を用いて重合収縮を低減した点に特徴を有している。
【0005】
フロアブルタイプのバルクフィルCRは、このような優れた特長を有するものであるが、臼歯I級窩洞のような深い窩洞について高度な審美性を有する(天然歯の色調を再現する)CR修復を一括充填で行うことは困難であった。これは、歯牙の色調は、単に歯面部(エナメル質部分)の色調だけでなく、透けて見える深層部(象牙質部分)までの色調も融合してグラデーションに富む状態で観取されることによる。このため、深い窩洞の審美CR修復においは、従来の(バルクフィルCR以外の)フロアブルCRを用いた場合(非特許文献1及び2参照。)と同様に、一定の深さごとに、充填する硬化性ペーストの色調を変え、積層充填して、この微妙な色調を再現する必要があった。
【0006】
このような状況を受けて、硬化体の光散乱を制御して(所定の式で定義される拡散度:Dが一定の値以上となるように)して、一括充填により比較的高度な審美修復が可能なバルクフィルCRも提案されている(特許文献1参照。)。しかし、この場合にも、色調が各々異なる複数種のバルクフィルCRを用意し、その中から、修復する歯牙および隣接する天然歯牙の色調と最も近似した色調の材料を選定して、修復することが必要である。
【0007】
一方、特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状無機粉粒体からなるフィラーを用い、当該球状無機粉粒体の屈折率を硬化した時のマトリックスとなる樹脂部の屈折率よりも大きくすることにより、光の干渉や散乱等を利用して、光の入射角度に依存しない所定の色調に発色する構造色を発現するようにした歯科用硬化性組成物(以下、このような構造色を発現する歯科用硬化性組成物を「構造色系歯科用硬化性組成物」ともいう。)が、近年、提案され(特許文献2及び3参照。)、このような歯科用硬化性組成物からなるCR(以下、「構造色系CR」ともいう。)も開発されている。そして、上記構造色系歯科用硬化性組成物(構造色系CR)は、(1)染料物質や顔料物質を用いていないので経時変色の問題が起こり難く、(2)使用する球状無機粉粒体の平均粒子径に応じて、光の入射角度に依存しない特定の色調の構造色を発現し、特に平均1次粒子径が230~350nmの球状無機粉粒体を用いた場合には、象牙質色と同様の色である黄色~赤色に着色することができ、しかも(3)硬化体が適度な透明性を有するため、被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた特長を有することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許6966785号公報
【特許文献2】国際公開第2020/050123号パンフレット
【特許文献3】特許第6762623号公報
【特許文献4】国際公開第2023/042598号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】松村英雄、田上順次監修,「接着YEARBOOK 2006」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2006年8月,p.129-137
【非特許文献2】宮崎真至著,「コンポジットレジン修復のサイエンス&テクニック」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2010年1月,p.48-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フロアブルタイプのバルクフィルCRとして使用できる歯科用硬化性組成物であって、臼歯の深い窩洞の修復についても、(単独で用いた)一括充填による審美修復が可能な歯科用硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するものであり、本発明の第1の形態は、
1種のラジカル重合性単量体又は複数のラジカル重合性単量体の混合物からなり、25℃における粘度が100~500mPa・sであるモノマー成分(A)、
電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が230~500nmである無機球状粉粒体(b)からなり、当該粉粒体(b)の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均1次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)、及び
光重合開始剤(C)
を含み、
前記(B)における“同一粒径球状粒子群”の数をaとし、aが1のときは1となり、aが2以上のときは1~aまでの自然数となる変数をmとし、各“同一粒径球状粒子群”を、その平均1次粒子径の小さい順にそれぞれBmで表し、25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率をnで表したときに、
前記aが2以上の場合における各Bmの平均1次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なるという第1の条件、及び
前記(A)の硬化体(AP)の屈折率:nをn(AP)とし、前記各Bmを構成する無機球状粉粒体(b)の屈折率:nをn(Bm)としたときに、何れのn(Bm)に対しても、
n(AP)<n(Bm) の関係が成り立つという第2の条件
を同時に満足する、
ことにより光の入射角度によらない所定の色調の構造色を発現する硬化体を与えることができる流動性組成物からなる歯科用硬化性組成物において、
前記(B)を構成する少なくとも1種の“同一粒径球状粒子群”となる前記無機球状粉粒体(b)の一部(B2F)は、該一部の無機球状粉粒体(B2F)が樹脂マトリックス(B2P)中に分散した複合体からなる粒子によって構成される有機無機粉粒体(B2)として前記歯科用硬化性組成物に含まれており、
前記(B2)を構成する個々の有機無機複合粒子に含まれる前記(B2F)は、単一の“同一粒径球状粒子群”を構成する無機球状粉粒体(b)の一部であり、前記(B2)の総質量に対する前記(B2F)の総質量で定義される平均無機含有率は、30~95質量%であり、前記(B2)のレーザー回折-散乱法により求められる体積基準の粒度分布におけるメディアン径は1~30μmであると共にD90は35μm未満であり、
前記歯科用硬化性組成物に含まれる(B)のうち、前記(B2F)以外の有機無機複合化されない状態で含まれる無機球状粒粉体を(B1)とし、前記モノマー成分(A)の屈折率:nをn(A)とし、前記(B2)を構成する個々の有機無機複合粒子について、これに含まれる前記(B2F)の屈折率:nをn(B2F)とし、前記(B2P)の屈折率:nをn(B2P)としたときに、
前記(B1)について、何れのn(Bm)に対しても、
n(A)<n(Bm) の関係が成り立ち、
前記(B2)を構成する全ての有機無機複合粒子について、
n(AP)<n(B2F) の関係および
n(B2P)<n(B2F) の関係が成り立ち、
前記(A)100質量に対する前記(B1)及び前記(B2)の総含有量が150~300質量部で、且つ、前記(B1)及び前記(B2)の合計量に対する前記(B2)の占める割合が50~70質量%の範囲内である、
ことを特徴とする歯科用硬化性組成物である。
【0012】
上記形態の歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の歯科用硬化性組成物」ともいう。)においては、前記(B)の構成粒子以外の無機粒子からなる無機粉粒体(D)として、平均1次粒子径が1~100nmである微細粉粒体(D1)を、前記(A)100質量部に対して0.1~5質量部、更に含んでなるか、又は結晶性希土類金属フッ化物粒子によって構成され、電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が1~300nmであり、X線回折測定を行った時に得られるX線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上である希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を更に含み、前記(A)100質量に対する当該(D2)の配合量が5~25質量部であり、且つ前記(A)100質量に対する前記(B1)、前記(B2)及び前記(D2)の総含有量が150~300質量部である、ことが好ましい。
【0013】
本発明の第2の形態は、JIS T6514:2015に準じて測定される光硬化深さが3.5~5.0mmであり、水平ガラス平面上の直径5.5mm内の領域に載置した0.1gの試料を37℃で2分間自然延展させたときの広がり直径(mm)で評価される流動性が4.0~12.0mmである、本発明の歯科用硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジンである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯科用硬化性組成物は、流動性に優れ、光硬化深さが深く、硬化時の重合収縮応力が小さく、しかも高強度の硬化体を与えるというフロアブルタイプのバルクフィルCRに要求される特長を有する。また、構造色系CRとしても機能することに起因して、深い窩洞を修復したときにも色調適合性を示す。このため、本発明の歯科用硬化性組成物からなるCRを用いて臼歯部の深い窩洞を修復する際には、特に色の選択を要さずに1種のCRのみを用いた一括充填により、高度な審美修復が可能となる。
【0015】
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、低粘度のモノマー成分中での粗大粒子の沈降が抑制され、長期間の保管後においてもペーストの流動性が変化し難いと言う特長も有する。
【0016】
さらに、特定の希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を更に含んでなる本発明の歯科用硬化性組成物は、上記した優れた特長に加えて、硬化体に高いX線不透過性を付与することができるという特長を併せもつものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
フロアブルタイプのバルクフィルCRに前記した構造色系CRの特長を持たせることができれば、前記課題を解決することができると考えられるが、そのようなバルクフィルCRは知られていない。たとえば、前記した様に、バルクフィルCRは、フィラーの配合量を少なめにして有機無機複合フィラーを用いることにより流動性を上げて重合収縮を低減する点及び光硬化深さが深い点が特徴となっているが、特許文献2及び3において具体的に示される有機無機複合フィラーを用いた構造色系歯科用硬化性組成物について、流動性、重合収縮及び光硬化深さについては特に検討されていない。
【0018】
そこで、本発明者等は、前記課題を解決するため特許文献2や3に開示されている、有機無機複合粉粒体を用いた構造色系歯科用硬化性組成物について各成分や組成について検討を行った。その結果、使用するモノマー及びその硬化体(重合体)の屈折率、有機無機複合粉粒体における樹脂マトリックスの屈折率、並びに球状無機粉粒体の屈折率が特定の関係を満足する場合には光硬化深さが深くなること、配合される有機無機複合粉粒体と(有機無機複合粉粒体とされていない)球状無機粉粒体との総配合量及び両者の配合比率を特定の範囲とした場合には、重合収縮を抑え、硬化体の強度を実用に耐え得るものとすることができることを見出すに至った。しかし、このような歯科用硬化性組成物には、高流動性化させたことによると思われるが、長期間保存すると流動性が変化することがあることが明らかとなった。そこで、上記の新たな問題を解決すべく、さらに検討を行った結果、有機無機複合粉粒体の粒度分布を制御することにより上記問題を解決することができることを見出すと共に、特定のX線造影性付与材を一定量配合した場合には上記各物性を損なわずに硬化体にX線造影性を付与できることを見出し、本発明を完成させたものである。
【0019】
このように、本発明の歯科用硬化性組成物は、特許文献2や3に開示されている、有機無機複合粉粒体を用いた構造色系歯科用硬化性組成物において、特定の条件を満足する系を選択し、更に有機無機複合粉粒体の粒度分布を制御することにより、フロアブルタイプのバルクフィルCRとして好適に使用できるようにした点に特徴を有する。そこで、本発明の歯科用硬化性組成物の前提となる構造色系歯科用硬化性組成物について説明した上で、本発明の歯科用硬化性組成物について詳しく説明する。
【0020】
なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。また、屈折率とは、25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率を意味する。
【0021】
1.構造色系歯科用硬化性組成物について
前記した様に構造色系歯科用硬化性組成物とは、重合性単量体、フィラー及び重合開始剤を含む歯科用硬化性組成物において、フィラーとして特定の平均粒子径及び粒度分布を有する球状無機粉粒体からなる1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)を用いると共に、当該球状無機粉粒体の屈折率を硬化した時のマトリックスとなる樹脂部の屈折率よりも大きくすることにより、光の干渉や散乱等を利用して、光の入射角度に依存しない所定の色調に発色する構造色を発現するようにしたものである。
【0022】
ここで、“同一粒径球状粒子群”(以下、「G-PID」と略記することもある。)とは、100~1000nmの範囲内にある所定の平均1次粒子径を有する無機球状粉粒体からなり、当該粉粒体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均1次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、球状無機粒子の集合体を意味する。
【0023】
なお、上記粉粒体を構成する個々の無機球粒子は、同一又は実質的に同一の物質で構成されることが好ましい。また、平均1次粒子径とは、電子顕微鏡法、すなわち、走査型電子顕微鏡観察によって次のように決定されるものである。すなわち、走査型電子顕微鏡(たとえば、フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(たとえば、「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、単位視野内に観察される100個以上の粒子の中から任意に選択したn個(但し、nは30以上の自然数を意味する。)の粒子について各粒子の最大径:xi(単位はnm。iは1~nの自然数を意味する。)を測定し、その総和:Σxiから下記式
xAV=(Σxi)/n
により求められるxAVを意味する。
【0024】
また、球状とは必ずしも真球状である必要は無く、略球状であればよく、具体的には、以下のようにして決定される平均均斉度が0.6以上、好ましくは0.8以上であることを意味する。すなわち、走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される上記n(≧30の自然数)個の球状粒子の各粒子ついて、測定される最大径である長径をLiとし、該長径に直交する方向の径である短径をBiとしたときに、各粒子における両者の比(Bi/Li)の総和:Σ(Bi/Li)から、
平均均斉度={Σ(Bi/Li)/n}
によって、決定される平均均斉度が0.6以上、好ましくは0.8以上であることを意味する。
【0025】
本発明における“同一粒径球状粒子群”(G-PID)は、平均1次粒子径の範囲が230~500nmに限定される他は、特許文献2や特許文献3に開示されている“同一粒径球状粒子群”(G-PID)と基本的に同じである。
【0026】
また、歯科用硬化性組成物に含まれるG-PIDは1種であっても複数種類であってもよい点、1又は複数のG-PIDを構成する少なくとも1種のG-PIDは、該G-PIDを構成する前記無機球状粉粒体の一部が、該無機球状粉粒体が樹脂マトリックス中に分散した複合体からなる粒子によって構成される有機無機粉粒体として前記歯科用硬化性組成物に含まれてもよい点、上記構造色を発現するために下記条件(1)及び(2)を満たさなければならない点も特許文献2や特許文献3に開示されている構造色系歯科用硬化性組成物と同様である。
【0027】
(1)構造色系歯科用硬化性組成物に含まれるG-PIDの数をaとし、各同一粒径球状粒子群を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれBm(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aまでの自然数である。)で表したときに、前記aが2以上の場合における各Bmの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっているという条件。
【0028】
(2)前記重合性単量体の硬化体の(25℃におけるナトリウムd線に対する)屈折率:nをn(AP)とし、前記各Bmを構成する無機球状粉粒体の屈折率:nをn(Bm)としたときに、何れのn(Bm)に対しても、
n(AP)<n(Bm) の関係が成り立つという条件。
【0029】
なお、前記aが2以上の場合における各Bmの個々の粒子を構成する物質は互いに異なっていてもよい。
【0030】
また、上記条件(1)における平均1次粒子径の(25nm以上という)差は30~100nm、特に40~60nmであることが好ましく、歯科用硬化性組成物に含まれるG-PIDの数:aは1~3、特に1又は2であることが好ましく、製造の容易さの観点からは、1であることが好ましい。
【0031】
また、上記条件(2)におけるΔn=n(Bm)-n(AP)の値は0.002~0.1、特に0.005~0.05であることが好ましい。
【0032】
さらに、確実に前記構造色を発現するという観点から、構造色系歯科用硬化性組成物の硬化体における無機球状粒子の配列構造が下記条件1及び条件2を満足する短距離秩序構造を有していることが好ましい点も特許文献2や特許文献3に開示されている構造色系歯科用硬化性組成物と同様である。
【0033】
[条件1] 上記複合材料中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、上記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径r0で除して規格化した無次元数(r/r0)をx軸とし、上記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す動径分布関数g(r)をy軸として、r/r0とそのときのrに対応するg(r)との関係を表した動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離r1が、上記複合材料中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径r0の1倍~2倍の値である。
【0034】
[条件2] 上記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離r2としたときに、上記最近接粒子間距離r1と上記次近接粒子間距離r2との間における上記動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である。
【0035】
ここで、動径分布関数g(r)とは、任意のある粒子から距離rだけ離れた地点における他の粒子の存在確率を求めるための関数としてよく知られたものであり、下記式(1)で定義されるものである。
【0036】
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
なお、上記式(1)において、<ρ>は、平面内の粒子の平均粒子密度を表し、dnは、平面内の任意の粒子を中心とし、半径がそれぞれr及びr+drである2つの円の間の領域の中に存在する粒子の数を表し、daは、上記領域の面積である2πr・drを表す。また、上記動径分布関数g(r)は、一般的には、x軸(距離軸)に距離rをとり、y軸(縦軸)にそのrにおけるg(r)の値{上記式(1)による計算結果}をとった動径分布関数グラフ、或いは距離軸にrを粒子の平均粒子径で除して規格化した無次元数をとり、y軸(縦軸)にx軸の値に対応するrにおけるg(r)の値(上記式の計算結果)をとった動径分布関数グラフによって表される。
【0037】
これら条件を満足し易いという理由から、“同一粒径球状粒子群”(G-PID)は、レーザー回折-散乱法により求められる体積基準の粒度分布におけるメディアン径が5μm~200μm、好ましくは10μm~100μmの凝集粒子として混合することが好ましい。
【0038】
2.本発明の歯科用硬化性組成物について
本発明の歯科用硬化性組成物は、前記構造色系歯科用硬化性組成物であることを前提として、下記(ア)~(カ)に示す条件を満たすようにしたことにより、フロアブルタイプのバルクフィルCRとして好適な流動性と光硬化深さを確保し、更に長期間保存による流動性変化を抑制したものである。
【0039】
(ア) 構造色系歯科用硬化性組成物の重合性単量体に相当するモノマー成分(A)として1種のラジカル重合性単量体又は複数のラジカル重合性単量体の混合物からなり、25℃における粘度が100~500mPa・sであるモノマー成分を使用すること。
【0040】
(イ)1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)を構成する少なくとも1種の“同一粒径球状粒子群”となる前記無機球状粉粒体(b)の一部(B2F)は、該一部の無機球状粉粒体(B2F)が樹脂マトリックス(B2P)中に分散した複合体からなる粒子によって構成される有機無機粉粒体(B2)として前記歯科用硬化性組成物に含まれること。別言すれば、(B)となる全ての無機球状粉粒体(b)は、そのまま配合される無機球状粉粒体(b)である(B1)と有機無機粉粒体(B2)として配合される(B2F)に分けられること。
【0041】
(ウ)上記(B1)について、各Bmの屈折率と前記モノマー成分(A)の屈折率が特定の関係を有すること。
【0042】
(エ)上記(B2)について、
(エ1)前記(B2)を構成する個々の有機無機複合粒子に含まれる前記(B2F)は、単一の“同一粒径球状粒子群”を構成する無機球状粉粒体(b)の一部であり、
(エ2)前記(B2)の総質量に対する前記(B2F)の総質量で定義される平均無機含率は、30~95質量%であり、
(エ3)該有機無機粉粒体(B2)における無機球状粉粒体(B2F)の屈折率と、前記モノマー成分(A)の屈折率及び前記樹脂マトリックス(B2P)の屈折率とが特定の関係を有し、
(エ4)粒度分布におけるメディアン径及びD90が特定の範囲にあること。
【0043】
(オ)前記(B1)及び前記(B2)の含有量が特定の範囲にあること。
【0044】
(カ)前記(B1)と前記(B2)の配合割合が特定の範囲にあること。
【0045】
以下、これら(ア)~(カ)の点について説明する。
【0046】
2-1.前記(ア)について
本発明の歯科用硬化性組成物では、モノマー成分(A)として、1種のラジカル重合性単量体又は複数のラジカル重合性単量体の混合物からなり、25℃における粘度が100~500mPa・sであるモノマー成分を使用する。上記粘度が100Pa・s未満である場合には、組成物中で有機無機複合粉粒体粒子の沈降が生じ易くなり、長期保管した際にペーストの流動性が変化し易くなってしまい、500mPa・sを越える場合には、組成物(ペースト)の流動性が低くなり、臼歯部の深い窩洞(深さ4mm程度)への充填操作がし難くなる。また、混練機等を使用して、ペーストを混練する際のモノマー混合物の取り扱いがし易いという理由から、上記粘度は、150~380mPa・sであることが好しく、200~380mPa・sであることが特に好ましい。
【0047】
なお、モノマー成分(A)の上記粘度は、一般にレオメーターと呼ばれる動的粘弾性測定装置を用いて測定することで確認することができる。本発明では、コーン/プレートジオメトリ4cm/2°及び温度制御システムを具備した粘弾性測定装置CSレオメーター「CVO120HR」(ボーリン社製)を用いて、測定温度(プレート温度)25℃、ずり速度1rpsで粘度を評価し、3回測定した平均値を粘度とした。
【0048】
ラジカル重合性単量体としては、上記条件を満足するものであれば、歯科用硬化性組成物において使用されるラジカル重合性単量体が特に制限なく使用できる。歯科用充填修復材料として使用する際の取り扱い易さや物性(機械的特性や歯科用途では歯質に対する接着性)から、ラジカル重合性単量体としては(メタ)アクリル化合物を使用することが好ましい。好適に使用できる(メタ)アクリル化合物を例示すれば、以下に示すものを挙げることができる。
【0049】
(i)酸性基や水酸基を有さない単官能(メタ)アクリル化合物
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレートなど。
【0050】
(ii)酸性基を有する単官能(メタ)アクリル化合物
(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン
など。
【0051】
(iii)水酸基を有する単官能(メタ)アクリル化合物
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなど。
【0052】
(iv)芳香族化合物系二官能(メタ)アクリル化合物
2,2-ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[(4-メタクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4-メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2(4-メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン等。
【0053】
(v)二官能(メタ)アクリル化合物
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ノナメチレンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン等の、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような-OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エチル等。
【0054】
(vi)三官能(メタ)アクリル化合物重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
【0055】
(vii)四官能二官能(メタ)アクリル化合物
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート;ジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等。
【0056】
なお、必要に応じて、上記(メタ)アクリレート系単量体以外のラジカル重合性単量体を用いても良い。
【0057】
モノマー成分(A)としては、25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが好ましい。即ち、無機球状粉粒体材料として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、後述するように、その屈折率はシリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるが、モノマー成分(A)の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、得られる硬化体の屈折率を、おおよそ1.40~1.57の範囲に調整でき、n(AP)<n(Bm) の関係が成り立つという条件を満足するようにすることが容易となる。また、CRとして使用する場合には、モノマー成分(A)は、前記(ii)以外の、酸性基を有しない(メタ)アクリレート系単量体からなることが好ましい。
【0058】
2-2.前記(イ)について
本発明の歯科用硬化性組成物では、硬化体の強度を確保し、さらに重合収縮を低減するために、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)を構成する少なくとも1種の“同一粒径球状粒子群”となる前記無機球状粉粒体(b)の一部(B2F)は、該一部の無機球状粉粒体(B2F)が樹脂マトリックス(B2P)中に分散した複合体からなる粒子によって構成される有機無機粉粒体(B2)として前記歯科用硬化性組成物に含まれる。別言すれば、(B)となる全ての無機球状粉粒体(b)は、そのまま配合される無機球状粉粒体(b)である無機球状粉粒体(B1)と、有機無機粉粒体(B2)として配合される(B2F)に分けられることになる。
【0059】
なお、前記した様に、1又は複数の“同一粒径球状粒子群”(B)の各G-PID:Bmとなる前記無機球状粉粒体(b)の平均1次粒子径は、天然歯牙の修復に本組成物を用いた場合の周囲歯質への色調適合性が高い黄色~赤色系の構造色を発現させるという観点及び硬化時に照射する400nm~500nm(紫~青色)、特に470nmにおける光透過率が高くなるという観点から、230~500nmの範囲内としている。発現する構造色の色調及び光硬化深さの観点から、上記平均1次粒子径は、240~450nmであることが好ましく、250~380nmが最も好ましい。
【0060】
また、前記無機球状粉粒体(b)を構成する(球状)無機粒子の材質は、屈折率の調整が容易であり、更に、粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等を用いて表面改質が行い易いため、シリカ系複合酸化物からなることが好ましく、X線造影性の観点からシリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニア等がより好まく、耐摩耗性に優れた硬化体が得られるという理由からシリカ-ジルコニアであることが最も好ましい。なお、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物においては、シリカ分の含有量に応じて屈折率を1.45~1.58程度の範囲で調製することができる。
【0061】
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物からなる球状粒子は、例えば特開昭58‐110414号公報、特開昭58-151321号公報、特開昭58-156524号公報、特開昭58-156526号公報等に記載されている所謂ゾルゲル法により好適に製造することができる。1次粒子径は反応時間等の反応条件により制御可能である。この様な方法で得られる球状無機粒子は、表面安定性を付与する為に、乾燥後500~1000℃の温度で焼成することが好ましい。焼成に際しては、無機粒子の一部が凝集する場合があるので、ジェットミル、振動ボールミル等を用いて大きな凝集粒子を一次粒子や小さな凝集粒子に解きほぐし、更に残存する凝集粒子の粒度を所定の範囲に調整してから、使用することが好ましい。さらに、球状無機粒子は、シランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などで表面処理することが好ましい。上記表面処理は、無機粒子に行っても良いし、無機凝集粒子に行っても良い。噴霧乾燥により無機凝集粒子を製造する場合は、この処理時に、同時に表面処理を行うことが効率的である。
【0062】
一方、有機無機粉粒体(B2)は、特許文献2及び3に記載されている方法に準じ、無機球状粉粒体(B2F)が凝集してなる無機凝集粒子を、樹脂マトリックス(B2P)の原料となる重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む溶液に浸漬した後、有機溶媒を除去し、前記重合性単量体を加熱又は光照射等の方法で重合硬化させる方法により、好適に製造することができる。このような方法によれば、無機一次粒子が凝集した無機凝集粒子の各無機一次粒子の表面を覆うとともに、各無機一次粒子を相互に結合する有機樹脂相を有し、各無機一次粒子の表面を覆う有機樹脂相の間に凝集間隙が形成されている有機無機複合フィラーを得ることができる。また、無機球状粉粒体(B2F)、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱、光照射等の方法で重合させた後、粉砕する方法によって有機無機粉粒体(B2)を得ることも可能である。但し、何れの方法を採用する場合も、前記条件(エ1)を満足させるために、複数種の“同一粒径球状粒子群”(B)の一部を有機無機複合化する場合には、単一種の“同一粒径球状粒子群”(B)ごとに無機球状粉粒体(B2F)を製造し、これらを個別又は混合して配合する必要がある。このような場合には、各無機球状粉粒体(B2F)の集合体が全体としての無機球状粉粒体(B2F)を構成することになる。また、前記条件(エ2)を満足するように、無機球状粉粒体(B2F)と樹脂マトリックス(B2P)の原料となる重合性単量体との量比が決定される。
【0063】
なお、上記重合性単量体としてはモノマー成分と同様の化合物を使用することが好ましく、重合開始剤としては熱重合開始剤を使用することが好ましい。
【0064】
本発明においては、所期の効果を得るために、(B1)及び(B2)は、前記(ウ)~(カ)の条件を満足するようにする必要がある。
【0065】
2-3. 前記(ウ)について
前記モノマー成分(A)の屈折率:nをn(A)としたときに、本発明の歯科用硬化性組成物では、前記(B1)について、何れのBmの屈折率:n(Bm)に対しても、
n(A)<n(Bm) の関係が成り立つようにする必要がある。
【0066】
上記関係を満足しない場合には、前記(A)の硬化体(AP)の屈折率:nをn(AP)としたときに、何れのn(Bm)に対しても、n(AP)<n(Bm)の関係が成り立つという本発明における構造色系歯科用硬化性組成物が満たすべき前記条件(2)を満足し得なくなる。前記条件(2)を満足させやすくするという理由から、両屈折率の差:{n(Bm)-n(A)}の値は0.03~0.20、特に0.05~0.10であることが好ましい。
【0067】
2-4. 前記(エ)について
本発明の歯科用硬化性組成物では、(B)を構成する少なくとも1種の“同一粒径球状粒子群”は、該同一粒径球状粒子群”を構成する前記無機球状粉粒体の一部(B2F)は、有機無機複合粉粒体(B2)として配合されるが、該(B2)においては、前記(イ)で説明した様に、「単一のG-PID(Bm)しか含まない有機無機複合粒子」、すなわち、個々の有機無機複合粒子において樹脂マトリックス中に分散する無機球状粉粒体は全て単一のG-PID(Bm)に属するもの(単一のBmを構成する無機球状粉粒体の一部)であるという条件(エ1)を満たす{但し、前記(B2)は、前記(B2F)及び/又は前記(B2P)の種類が異なる有機無機複合粒子によって構成されていてもよい。}。なお、条件(エ1)を満足しない場合には、構造色が発現し難くなることがある。
【0068】
また、硬化体の強度及び重合収縮抑制効果の観点から、前記(B2)の総質量に対する前記(B2F)の総質量で定義される平均無機含有率は、30~95質量%であるという条件(エ2)も満足する必要がある。上記観点から平均無機含有率は50~90質量%、特に60~85質量%とすることが好ましい。
【0069】
さらに、下記条件(エ3)及び(エ4)を満足する必要がある。
【0070】
条件(エ3): 前記(B2)を構成する全ての有機無機複合粒子について、
n(AP)<n(B2F) の関係および
n(B2P)<n(B2F) の関係が成り立つこと。
なお、n(B2F)、n(AP)及びn(B2P)は、夫々、個々の有機無機複合粒子における無機球状粉粒体の屈折率、樹脂マトリックスの屈折率及びモノマー成分(A)の硬化体の屈折率を意味する。
【0071】
条件(エ4):
前記(B2)のレーザー回折-散乱法により求められる体積基準の粒度分布におけるメディアン径{以下、(B2)の「平均粒子径」ともいう。}は1~30μmであると共にD90は35μm未満であること。なお、ここで、メディアン径とは、上記粒度分布において積算%の分布曲線が50%の横軸と交差するポイントの粒子径(D50)を意味し、D90とは、90%の横軸と交差するポイントの粒子径を意味し、必然的にメディアン径よりも大きな値となる。
【0072】
前記条件(エ3)を満足しない場合には、ブラッグ回折条件に従った粒子径による干渉光では無く、短波長の光が干渉されやすくなる。また、本発明における歯科用硬化性組成物の硬化体の透明性をできるだけ損なわないようにするという理由から、屈折率の差:{n(B2F)-n(Ap)}の値は0.002~0.1、特に0.005~0.05であることが好ましい。また、有機無機複合粒子中での光の透過性をできるだけ損なわないようにするという理由から、屈折率の差:{n(B2F)-n(B2p)}の値は0.002~0.1、特に0.005~0.05であることが好ましい。
【0073】
構造色系歯科用硬化性組成物が満たすべき前記条件(2):n(AP)<n(Bm)を満足することを前提とすると、n(AP)<n(B2F) の関係は当然に満足するので、上記条件(エ3)を満足させるためには、(B2)製造時に使用する、樹脂マトリックス(B2P)の原料となる重合性単量体について、該条件を満足するものを選択して使用すれば良い。
【0074】
また、前記条件(エ4)を満足せず、上記メディアン径が1μm未満のときは、歯科用硬化性組成物中の無機粒子の配合割合を多くすることが困難となり、重合収縮が大きくなり、バルクフィルCRとして使用した際に、窩壁や窩底部にギャップを生じやすくなる。30μmを越えるときは、歯科用硬化性組成物中で有機無機複合粒子が沈降し易く、流動性の経時変化が大きくなり、吐出感の悪化を生じやすくなる。さらに、D90が35μmを越えるときは、歯科用硬化性組成物中で有機無機複合粒子が沈降し易く、流動性の経時変化が大きくなり、吐出感の悪化を生じやすくなる。
【0075】
なお、レーザー回折-散乱法により求められる体積基準の粒度分布を求める場合、サンプルとしては、例えば0.1gの有機無機複合粉粒体(B2)をエタノール10mLに均一に分散させて調製したものを使用すればよい。
【0076】
2-5. 前記(オ)及び(カ)について
本発明の歯科用硬化性組成物では、前記(A)100質量に対する前記(B1)及び前記(B2)の総含有量を150~300質量部とし、更に前記(B1)及び前記(B2)の合計量に対する前記(B2)の占める割合を50~70質量%の範囲内とする必要がある。
【0077】
前記(B1)及び前記(B2)の総含有量が150質量未満のときは、歯科用硬化性組成物としての機械的強度の低下や重合収縮が大きくなり、300質量部を超える場合には流動性の高い歯科用硬化性組成物を調製し難くなる。バルクフィルタイプのフロアブルCRを調製し易くなるという理由から、上記総含有量は、150~270質量部、特に200~250質量部とすることが好ましい。
【0078】
また、前記(B1)及び前記(B2)の合計量に対する前記(B2)の占める割合が50質量%未満のときはる歯科用硬化性組成物としての吐出感の悪化や機械的強度の低下、重合収縮が大きくなり、70質量%を超える場合には歯科用硬化性組成物中の無機粒子の比表面積が小さくなり、組成物の粘度が低下し、有機無機複合粒子の沈降が生じ易くなる。バルクフィルタイプのフロアブルCRを調製し易くなるという理由から、上記割合は、55~70質量%であることが好ましい。
【0079】
次に、光重合開始剤及びその他任意成分等について説明する。
【0080】
2-6. 光重合開始剤(C)
本発明の歯科用硬化性組成物では、混合操作の必要が無く、また、口腔内で使用可能であるという理由から重合開始剤としては光重合開始剤を使用する。
【0081】
光重合開始剤(C)としては、光増感用化合物、第3級アミン化合物、光酸発生剤の3成分を含んで成る組成物を使用することが好ましい。以下、これらの成分を説明する。
【0082】
<光増感用化合物>
本発明における光増感用化合物は、一般的な歯科用光照射器の400nm~500nmの波長の光を吸収し、重合に有効な活性種を生成させる機能を有する化合物である。活性種は、通常、光吸収し励起した光増感用化合物と重合性単量体もしくは他の化合物との間でエネルギー移動または電子移動する結果として生じる。
【0083】
光増感用化合物としては、公知の光増感用化合物を何ら制限なく用いることが可能である。本発明で特に好適に使用される光増感化合物としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'-ジメチルベンゾフェノン、4-メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノンなどのα-ジケトン類等が使用できる。
【0084】
上記化合物の中でも、ジアセチル、2,3-ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10-フェナントラキノン、9,10-アントラキノンなどのα-ジケトン類がより好ましい。
【0085】
光増感用化合物の使用量は特に制限されないが、通常は、重合性単量体(A)100質量部に対して0.01質量部から10質量部であり、0.03質量部から5質量部であることが好ましく、0.05質量部から2質量部であることがより好ましい。
【0086】
<第3級アミン化合物>
第3級アミン化合物としては公知の第3級アミン化合物が何ら制限なく使用できる。臭気等の観点から芳香族第3級アミン化合物が好ましい。本発明で好適に使用される芳香族第3級アミン化合物としては、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、p-(N,N-ジメチル)アミノ安息香酸メチル、p-(N,N-ジメチル)アミノ安息香酸エチル、p-(N,N-ジメチル)アミノ安息香酸アミル等が挙げられる。
【0087】
また、第3級アミン化合物としては、脂肪族第3級アミン化合物を用いてもよい。具体的には、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0088】
第3級アミン化合物の使用量は特に制限されないが、通常は、光増感化合物100質量部に対して、10質量部から1000質量部であり、50質量部から500質量部であることが好ましく、75質量部から300質量部であることが好ましい。
【0089】
<光酸発生剤>
光酸発生剤としては公知の光酸発生剤が何ら制限なく用いられる。本発明で好適に使用される光酸発生剤としては、アリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、置換基としてハロメチル基を有するs-トリアジン化合物、ピリジニウム塩系化合物等が挙げられ、特にアリールヨードニウム塩系化合物又は置換基としてハロメチル基を有するs-トリアジン化合物であることが好ましい。
【0090】
例えば、アリールヨードニウム塩系化合物では、ジフェニルヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-メトキシフェニル)ヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、p-イソプロピルフェニル-p-メチルフェニルヨードニウム、ビス(m-ニトロフェニル)ヨードニウム、p-tert-ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p-メトキシフェニルフェニルヨードニウム、p-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、p-フェノキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、ニトレート、アセテート、クロロアセテート、カルボキシレート、フェノラート等のアニオンとからなる塩が挙げられる。
【0091】
光酸発生剤の使用量は特に制限されないが、通常は、光増感化合物100質量部に対して10質量部~2000質量部であり、20質量部~1000質量部であることが好ましく、50質量部~800質量部であることがより好ましい。
【0092】
2-7.その他任意成分等
<その他無機粉粒体(D)>
本発明の歯科用硬化性組成物は、前記(B)の構成粒子以外の無機粒子からなる無機粉粒体(D)、好ましくは後述する微細粉粒体(D1)及び/又は希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を含んでいてもよい。
【0093】
<微細粉粒体(D1)>
本発明の歯科用硬化性組成物においては、流動性などの組成物(ペースト)の性状を調整する目的や、硬化性組成物の半透明性(コントラスト比)などを調整する目的で、前記(B)の構成粒子以外の無機粒子からなる、平均1次粒子径が1~100nmである粉粒体(微細粉粒体):D1を極少量であれば配合しても良い。微細粉粒体平均1次粒子径は、3~75nm、特に5~50nm以下であることが好ましい。
【0094】
微細粉粒体を構成する無機粒子の材質としては、前記(B)と同様のものを特に制限なく使用できる。また、前記(B)と同様にシランカップリング剤による表面処理を行うことができ、好適な態様も、平均一次粒子径を除いて、基本的には、前記(B)と同様である。
【0095】
ここで、微細粉粒体の添加量としては、モノマー成分(A)100質量部に対して0.1~5質量部であり、より好ましくは0.5~3質量部である。微細粉粒体の添加量が上記範囲より多くなると、粘度が高くなり、フロアブルコンポジットレジンとして使用し難いペースト性状になる恐れがある。
【0096】
<希土類金属フッ化物粉粒体(D2)>
本発明の歯科用硬化性組成物は、その硬化体にX線造影性を付与できるという理由から、結晶性希土類金属フッ化物粒子によって構成され、電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が1~300nmであり、X線回折測定を行った時に得られるX線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上である希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を更に含んでなることが好ましい。なお、上記希土類金属フッ化物粉粒体(D2)は、歯科用硬化性組成物の硬化体の透明性を低下させずにX線造影性を付与できる歯科用X線不透過性充填材として近年開発されたものであり(特許文献4参照。)、本発明の歯科用硬化性組成物にD2を配合する場合、本発明の歯科用硬化性組成物の特徴を損なわずにX線造影性を付与するという観点から、その配合量は、前記(A)100質量に対して5~25質量部であり、且つ前記(A)100質量に対する前記(B1)、前記(B2)及び前記(D2)の総含有量が150~300質量部となるようにすることが好ましい。(D2)の上記配合量が5質量部未満の時にはペースト状態での賦形性が得られ難くなり、25質量部を超えると構造色の発現に悪影響を与える虞がある。賦形性、硬化性および歯科用硬化性組成物に好適な色調適合性や透明性が得られやすいという観点から上記配合量は5~23質量部、特に6~20質量部であることが好ましい。また、前記(B1)、前記(B2)及び前記(D)の総含有量が150質量未満のときは、歯科用硬化性組成物としての機械的強度の低下や重合収縮が大きくなり、300質量部を超える場合にはシリンジから直接充填可能な流動性を有する歯科用硬化性組成物を調製し難くなる。バルクフィルタイプのフロアブルCRを調製し易くなるという理由から、上記総含有量は、150~270質量部、特に200~250質量部とすることが好ましい。
【0097】
D2としては、特許文献4に記載されている歯科用X線不透過性充填材と同様に、例えばメカノケミカル処理を行うことにより、X線回折パターンにおける結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上となるように、非晶質性が高められた、結晶性希土類金属フッ化物粒子からなる粉粒体が特に制限なく使用できる。
【0098】
D2を構成する結晶性希土類金属フッ化物粒子の、電子顕微鏡観察画像解析で測定される平均一次粒子径は、通常、1~300nmであり、審美性(例えば研磨性や透明性)の観点から10~300nmが好ましく、15~250nmであることがより好ましい。さらに、その(25℃におけるナトリウムd線に対する)屈折率:nは、歯科用硬化性組成物の硬化体の透明性の観点から1.4~1.7であることが好ましい。また、D2について窒素吸着法にて測定した比表面積は25~100m2/gの範囲内であることが好ましい。
【0099】
メカノケミカル処理についても、特許文献4に記載されている方法と特に変わるところはなく、被処理物である粉体と媒質とを混合したスラリーを、攪拌や振動等により動きを与えたメディア(ビーズ)と接触させることにより、粉砕及び/又は解砕を行う処理方法である湿式ビーズミルを用いた処理、特に環式ビーズミルやパス式ビーズミルを用いた処理が好適に採用できる。このとき、媒質としては水やアルコールが好適に使用できる。また、メディア(ビーズ)として用いる材質としては、φ0.01~0.5mmのアルミナ或いはジルコニア製のビーズを用いることが好ましい。メカノケミカル処理に具するスラリーの濃度は媒質100質量部に対して、無機粒子が100質量部以下であることが好ましい。処理に際しては、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、脂肪族モノカルボン酸塩、アルキルアミン塩、並びに、アルキルベタイン等のスラリーに分散剤を添加してもよい。
【0100】
結晶性希土類金属フッ化物粉粒体の結晶性は、X線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅によって評価でき、該半値全幅が小さいほど結晶性は高い。ちなみに一般的にX線不透過材料として使用されている希土類金属フッ化物や、原料粉体として入手可能な市販の希土類金属フッ化物粉体の最大強度ピークの半値全幅は、通常、0.3°未満(具体的には0.12°~0.27°程度)であり、このような希土類金属フッ化物粉粒体を配合した場合には、前記透明性が低下してしまう。前記透明性の低下が抑制される効果を得るために、前記メカノケミカル処理によって得られる希土類金属フッ化物粒子からなる無機粉粒体(d)は、X線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上とすることが必要であり、透明性の低下抑制効果の観点から、最大強度ピークの半値全幅が0.4°以上、特に0.5°以上であることが好ましい。なお、最大ピーク半値全幅の上限値は特に限定されないが通常は、40°を超えることはない。
【0101】
ここで、前記X線回折パターンにおける最大ピーク半値全幅は、メカノケミカル処理後の結晶性希土類金属フッ化物粒子からなる無機粉粒体(d)についてX線回折測定を行うことで決定することができる。具体的には、X線回折装置にて2θ;20~120°の範囲でX線回折測定を行い、得られた、横軸を2θ(°)とし、縦軸を回折強度とする、X線回折パターン(チャート)における結晶性希土類フッ化物に由来するピークを同定し、その中で最大強度を有するピーク(例えば、YbF3については、2θ=28.0°付近に現れる、結晶面(1,1,1)に該当するピーク)について半値全幅、すなわち強度がピーク強度(最大強度)の50%となる強度におけるピーク幅(当該強度とピークラインとの2つの交点の2θの差の絶対値:単位“deg[°]”)を求めることにより決定することができる。なお、測定に際しては、例えば目開き100μmの篩を用いる等して粗粒を除いた粉体を測定試料とすることが好ましい。
【0102】
さらに、メカノケミカル処理条件は用いる湿式ビーズミルの運転方式やビーズ径、前記結晶性希土類金属フッ化物の最大ピーク半値全幅、及びスラリーの濃度等の条件によって変動する。これら条件の調整は、実際にメカノケミカル処理を実施する装置、条件において予備実験を行い、メカノケミカル処理時間に対する処理を施した結晶性希土類金属フッ化物の最大ピーク半値全幅を確認すればよい。製造時には、必要に応じて処理スラリーをサンプリングし、最大ピーク半値全幅を適宜確認することで確実に所望の最大ピーク半値全幅を有するX線不透過性充填材を製造することが可能である。
【0103】
<化学重合開始剤>
本発明の歯科用硬化性組成物においては化学重合開始剤を光重合開始剤(C)と併用してもよい。化学重合開始剤としては、2成分以上からなり、これらの成分が接触せしめられた場合に、重合開始種(ラジカル)を生じる公知のものが制限なく使用できる。例えば、有機過酸化物/アミン類、有機過酸化物/アミン類/有機スルフィン酸類、有機過酸化物/アミン類/アリールボレート類、アリールボレート類/酸性化合物、及びバルビツール酸誘導体/銅化合物/ハロゲン化合物等の各種組み合わせからなるものが挙げられる。この内、取扱いが容易な理由から、有機過酸化物/アミン類からなるものが特に好適である。
【0104】
前記有機過酸化物としては、公知のハイドロパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、アルキルシリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類等が使用できる。
【0105】
この有機過酸化物と該アミン化合物とからなる化学重合開始剤には、さらに、ベンゼンスルフィン酸や、p-トルエンスルフィン酸及びその塩などのスルフィン酸や、5-ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸類を配合するのも好適な態様である。
【0106】
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、モノマー成分(A)100質量部に対して通常0.01~10質量部であり、0.05~2質量部であることが好ましい。
【0107】
<その他の添加剤>
本発明の歯科用硬化性組成物には、その効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影剤等の他の添加剤を配合することができる。
【0108】
<本発明の歯科用硬化性組成物の用途について>
本発明の歯科用硬化性組成物は、後述の実施例で示すように、フロアブルCRとして使用可能な流動性、例えば、水平ガラス平面上の直径5.5mm内の領域に載置した0.1gの試料を37℃で2分間自然延展させたときの広がり直径(mm)で評価される流動性が4.0~12.0mmであり、且つバルクフィルCRとして使用可能な光硬化深さ、例えばJIS T6514:2015に準じて測定される光硬化深さが3.5~5.0mmであるものを含む。したがって、光重合型のフロアブルタイプのバルクフィルコンポジットレジンとして好適に使用される。なお、希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を所定量含む本発明の歯科用硬化性組成物における上記流動性は4.0~8.0mm程度であるが、所定量の希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を含まない本発明の歯科用硬化性組成物においては、流動性が9.0~12.0mmのものを得ることができる。
【0109】
また、本発明の歯科用硬化性組成物の用途は、これに限定されるものではなく、その他の歯科用途、例えば歯科用セメント、支台築造用の修復材料等としても好適に使用できる。
【実施例0110】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0111】
実施例及び比較例の歯科用硬化性組成物は何れも、前記モノマー成分(A)、前記同一粒径球状粒子群(B)、前記有機無機複合粉粒体(B2)および前記光重合開始剤(C)を用いて調製した。
【0112】
1.モノマー成分(A)
表1に実施例及び比較例に使用したラジカル重合性単量体及びラジカル重合性単量体混合物(モノマー成分)をM1~M5まで示す。なお、表の重合性単量体欄の略号は、夫々以下の化合物を表し、略号後の括弧内の数字は使用した質量部を表す。
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・D-2.6E:2,2-ビス[(4-メタクリロイルオキシポリエトキシ)フェニル]プロパン
・ND:ノナメチレンジオールジメタクリレート
・Bis-GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
また、上記重合性単量体及びM1~M5粘度および屈折率は、以下の方法で評価した。
【0113】
<粘度の評価>
粘度はCSレオメーターを用い、以下の条件で測定した。コーン/プレートジオメトリ4cm/2°及び温度制御システムを具備した粘弾性測定装置CSレオメーター「CVO120HR」(ボーリン社製)を用いて、測定温度(プレート温度)25℃、ずり速度1rpsで粘度を評価し、3回測定した平均値を算出し、重合性単量体の粘度を求めた。
【0114】
<屈折率の評価>
1-1.[モノマー成分の屈折率n(A)]
用いたモノマー成分M1~M5の25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率nは、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0115】
<モノマー成分の重合体(硬化体)の屈折率n(AP)>
用いたモノマー成分M1~M5の重合体の屈折率nは、窩洞内での重合条件とほぼ同じ条件で重合した重合体を、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0116】
即ち、カンファーキノン(CQ):0.2質量%、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE):0.3質量%、ジフェニルヨードニウム-2-カルボキシレートモノハイドレート(DPIC):0.4質量%、ヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME):0.15質量%を混合した均一な重合性単量体(或いは重合性単量体の混合物)を、φ7mm×深さ0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリプロピレンフィルムを圧接した。その後、光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射し硬化させた後、型から取り出して、重合性単量体の重合体を作製した。アッベ屈折率計(アタゴ社製)に重合体をセットする際に、重合体と測定面を密着させる目的で、試料を溶解せず、かつ試料よりも屈折率の高い溶媒(1-ブロモナフタレン)を試料に滴下し測定した。
【0117】
【0118】
2.同一粒径球状粒子群(B)
2-1.[無機粉粒体及びその製造]
同一粒径球状粒子群(B)を構成する無機球状粉粒体(b):F1~F4は、特開昭58-110414号公報、特開昭58-156524号公報等に記載のいわゆるゾルゲル法により、加水分解可能な有機ケイ素化合物(テトラエチルシリケート)と加水分解可能な有機チタン族金属化合物(テトラブチルジルコネート又はテトラブチルチタネート)等とを含んだ混合溶液を、アンモニア水を導入したアンモニア性アルコール溶液中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させた後に、乾燥粉砕及び焼成して調製した。
【0119】
破砕無機粒子(破砕又は粉砕することによって得られる形状が一定でない無機粒子)によって構成される無機不定形粉粒体;F5の調製は、特開平2-132102号公報、特開平3-197311号公報等に記載の方法に従い、アルコキシシラン化合物を有機溶剤に溶解し、これに水を添加して部分加水分解した後、更に複合化する他の金属のアルコキサイド及びアルカリ金属化合物を添加して加水分解してゲル状物を生成させ、次いで該ゲル状物を乾燥後、必要に応じて粉砕し、焼成する方法を用いて調製した。
【0120】
実施例で用いた無機粉粒体(無機球状粉粒体及び無機不定形粉粒体)F1~F5の分析結果を表2に示す。なお、F1~F5の平均粒子径は、2-2.で説明した平均1次粒子径を意味する。また、25℃におけるナトリウムd線に対する屈折率nは、アッベ屈折率計(アタゴ社製)を用いた液浸法によって測定した。すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、無機粉粒体を無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を無機粉粒体の屈折率とした
【0121】
【0122】
2-2.[有機無機複合粉粒体:CF1の製造]
表2に示す無機球状粉粒体(F1)100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミル(日本コークス工業社製)を用いてこれらの水分散液を得た。
一方、4g(0.016mol)のγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記無機球状粉粒体の分散液に添加し、均一になるまで混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により造粒した。
噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機TSR-2W(坂本技研社製)を用いて行った。ディスクの回転速度は10000rpm、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥により造粒されて得られた粉体を60℃、18時間真空乾燥し、略球形状の凝集粒子によって構成される粉粒体(凝集粉粒体)73g得た。
【0123】
次いで、重合性単量体としてUDMAを10g、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.025g、さらに有機溶媒としてメタノールを5.0g混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体36質量部を含有)に、上記凝集粉粒体50g浸漬させた。十分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認した後、1時間静置した。
【0124】
上記の混合物を、ロータリーエバポレーターに移した。撹拌状態で、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件下で、前記混合物を1時間乾燥し、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、流動性の高い粉粒体が得られた。
得られた粉粒体を、ロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10ヘクトパスカル、加熱条件100℃(オイルバス使用)の条件下で、1時間加熱することにより、上記粉粒体中の重合性単量体を重合硬化させた。この操作により、球形状の凝集体の表面が有機重合体で被覆された、略球形状の有機無機複合粒子によって構成される有機無機複合粉粒体:CF145g得た。この有機無機複合粉粒体について、以下に示す方法により平均粒子径およびD90の評価を行ったところ、平均粒子径(体積基準の粒度分布におけるメディアン径)は40μmであり、D90は45μmであり、前記条件(エ4)を満足しないものであった。
【0125】
<有機無機複合粉粒体の平均粒子径およびD90の評価>
0.1gの有機無機複合粉粒体をエタノール10mLに分散させ、超音波を20分間照射した。レーザー回折-散乱法による粒度分布計「LS230」(ベックマンコールター社製)を用い、光学モデル「フラウンホーファー」(Fraunhofer)を適用し、体積統計のメディアン径から平均粒子径とD90を求めた。
【0126】
2-3.[有機無機複合粉粒体:CF2の製造]
上述した有機無機複合粉粒体(CF1)と、有機無機複合粉粒体中の重合性単量体を重合硬化させるまで同様の工程で調製し、その後、目開き45μmのステンレス製の篩い器を用いて、30分間篩い処理を行い、篩い下を回収した。この操作により、前記条件(エ4)を満足する、平均粒子径が20μm、D90が25μmの略球形状の有機無機複合粉粒体(CF2)32g得た。
【0127】
3.重合開始剤
重合開始剤としては、カンファーキノン(CQ)、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)、ジフェニルヨードニウム-2-カルボキシレートモノハイドレート(DPIC)及びヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)の組み合わせからなる光重合開始剤を使用した。
【0128】
4.微細粉粒体
微細粉粒体としては、S1:レオロシールQS-102(平均1次粒子径12nm、株式会社トクヤマ製)を用いた。
【0129】
5.希土類金属フッ化物粉粒体(D2)
各結晶性希土類金属フッ化物粉粒体(YbF3、CeF3、GdF3及びLaF3)について、メカノケミカル処理を行うことにより、電子顕微鏡法によって測定される平均1次粒子径が1~300nmであり、X線回折測定を行った時に得られるX線回折パターンにおける前記結晶性希土類金属フッ化物に由来する最大強度ピークの半値全幅が0.3°以上である4種類の希土類金属フッ化物粉粒体:FX1~FX4を調製した。なお、メカノケミカル処理は、湿式ビーズミルSC50{三井鉱山株式会社製}を用いて、イオン交換水100質量部に対して5.0質量部の各結晶性希土類金属フッ化物粉粒体を混合したスラリーを、メディアとしてφ0.3mmジルコニアビーズ100gを用い、回転数3000rpmにて、表3に示す処理時間分散処理することにより行った。得られたスラリーをエバポレーターを用いて減圧下で乾燥し、白色の固体を得た。得られた固体を乳鉢にて粉砕後、目開き100μmの櫛により粗粒を除去することで得られた粉体を各種無機フィラーとした。
【0130】
このようにして得られたFX1~FX4について、次のようにしてX線回折パターンにおける結晶面(1,1,1)のピークの2θおよび半値全幅(deg:°)を測定した。結果を表3に示す。
【0131】
<結晶面(1,1,1)の2θおよび半値全幅(deg:°)の測定方法>
各種粉粒体を試料台に充填し、X線回折装置{株式会社リガク性「Smartlab」}により測定し得られた、横軸を2θ(°)とし、縦軸を回折強度とする、X線回折パターン(チャート)から結晶面(1,1,1)のピークの2θおよび半値全幅(deg:°)を読み取った。
【0132】
<平均1次粒子径の測定方法>
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製「XL―30S」)で粉体の写真を5000~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング社製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)の測定値に基づき、平均1次粒子径を求めた。
【0133】
【0134】
実施例1
重合性単量体M1:100質量部に対して、CQ:0.2質量部、DMBE:0.3質量部、DPIC:0.4質量部及びHQME:0.15質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、有機無機複合粉粒体CF2:200質量部、無機粉粒体F1:100質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し重合硬化性組成物を製造した。得られた重合硬化性組成物について、シリンジ容器に充填し、(1)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の流動性、(2)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の稠度及び、(3)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の吐出感の評価、(4)硬化性組成物(ペースト)の光硬化深さの評価、(5)硬化性組成物(硬化体)の波長470nmでの光透過率の評価、(6)重合収縮応力の評価、(7)曲げ強度の評価、(8)目視による着色光の評価、(9)着色光の波長の評価、(10)目視による色調適合性の評価を行った。硬化性組成物(ペースト)の組成を表4に示すと共に、評価結果を表5~7に示した。
なお、上記各評価及び測定は、以下に示す方法で行った。
【0135】
(1)流動性の評価
前記シリンジ容器の先端部に内径φ0.75mmのニードルチップを装着し、プランジャーを押すことにより、ニードルチップ先端からペースト0.1gをガラス板(5cm×10cm)上の直径5.5mmの円内の領域に、(ニードルチップ先端が、円の中心を通る垂直線上から可及的にずれないようにして)吐出させ、37℃インキュベーター内で120秒保持した後に、光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒光照射し硬化させた後、得られた硬化体の縦方向の直径(縦径)及び横方向の直径(横径)を測定し、測定値に基づき下記式:
流動性[mm]=(縦径+横径)/2
によりペーストの流動性を算出した。尚、流動性の評価は2回行い、平均値をペーストの流動性とした。
【0136】
(2)稠度の評価
25℃の恒温室内にて、前記シリンジ容器の先端部からペースト0.2gをポリプロピレンフィルム(5cm×5cm)上の半径5.5mmの円内の領域に、吐出させ、その上にポリプロピレンフィルム(5cm×5cm)と50gの重りを載せ、10秒間圧接した後、圧接後のペーストを光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒光照射し硬化させ、得られた硬化体の縦方向の直径(縦径:縦半径の2倍)及び横方向の直径(横径:横半径の2倍)を測定し、測定値に基づき下記式:
稠度[mm]=(縦径+横径)/4
によりペーストの稠度を算出した。尚、稠度の評価は2回行い、平均値をペーストの稠度とした。
【0137】
(3)吐出感の評価
前記シリンジ容器の先端部に内径φ0.75mmのニードルチップを装着し、プランジャーを押すことにより、ニードルチップ先端からペースト0.2gをガラス板(5cm×10cm)上に吐出させ、このときのプランジャーの押し易さを確認し、以下の評価基準に従って、ペーストの吐出感を評価した。尚、吐出感が1から3を合格品とする。
1:弱い力で押してもペーストの吐出が可能で、吐出性は非常に良い。
2:難なくペーストの吐出が可能で、吐出性は良好である。
3:少し力強く押せばペーストの吐出が可能であり、吐出性は許容できる。
4:力強く押せばペーストの吐出は可能であるが、吐出性は悪い。
5:ペーストを全く吐出できない。
【0138】
(4)光硬化深さの評価
JIS T6514:2015に準じて、φ4mm×深さ10mmの孔のあるSUS製割型に前記シリンジ容器からペーストを吐出して充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、上部から光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒光照射し硬化させた後、型から硬化体を取り外し、未硬化部分のペーストをスパチュラで除去し、硬化部分の厚みをマイクロメーターで計測し、計測値の1/2の値を光硬化深さとした。尚、試験は3回行い、その平均値を光硬化深さとして評価した。
【0139】
(5)光透過率の評価
φ20mm×深さ0.5mmの孔のあるポリアセタール製の型に前記シリンジ容器からペーストを吐出して充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、上部から光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒光照射し硬化させた後、型から硬化体を取り外し、得られた硬化体の波長470nm光における透過率を色差計「SE7700」(日本電色社製)により評価した。尚、試験は3回行い、その平均値を光透過率として評価した。
【0140】
(6)重合収縮応力の評価
万能引張試験機オートグラフ(島津製作所製)に接続した治具において、直径6mmのロッド上面にワンナップボンドFプラス(トクヤマデンタル社製)を塗布し、光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)で10秒光照射後、リングを被せ、深さ4mmの模擬窩洞とした。この模擬窩洞に前記シリンジ容器からペーストを吐出して充填し、前記ハロゲン型歯科用光照射器を用いて、可視光を30秒光照射した。この時、硬化性組成物の重合収縮によりロードセルを固定しているクロスヘッドが下方に移動を開始し、その微小移動をロードセルの変位検出器にて検出し、検出された力を硬化性組成物の重合収縮応力とした。尚、試験は3回行い、その平均値として評価した。
【0141】
(7)曲げ強度の評価
幅2mm、厚さ2mm、長さ25mmの孔のあるSUS製の型に前記シリンジ容器からペーストを吐出して充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、上部から光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて、全体に光が照射されるように場所を変えて、片面3点各30秒光照射し、裏返して同様に光照射を行い、硬化させた後、型から試験片を取り外し、得られた試験片を37℃の水中に24時間浸漬した。水中から取出し、耐水研磨紙1500番で長軸方向に研磨を行い、幅2±0.1mm、厚さ2±0.1mmの試験片とした。
万能引張試験機オートグラフ(島津製作所製)を用いて、室温大気中、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件にて3点曲げ試験を行った。尚、試験は5個の試験片について行い、その平均値を曲げ強度として評価した。
【0142】
(8)目視による着色光の評価
φ7mm×深さ1mmの孔のあるポリアセタール製の型に前記シリンジ容器からペーストを吐出して充填し、ポリプロピレンフィルムで圧接し、上部から光量800mW/cm2のハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒光照射し硬化させた後、型から硬化体を取り外し、10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
【0143】
(9)着色光の波長の評価
上記(8)の試験で調製した硬化体を10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、色差計「SE7700」(日本電色社製)を用いて分光反射率を測定し、背景色黒における光の反射率の極大値を着色光の波長とした。尚、試験は3回行い、その平均値を着色光の波長として評価した。
【0144】
(10)目視による色調適合性の評価
右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ3.5mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、欠損部に硬化性組成物を充填し硬化、研磨し、色調適合性を目視にて確認し、以下に示す1~5の5段階で評価した。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
5:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
【0145】
なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITA Classical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇の中にあって、高彩度の硬質レジン歯(A4相当)と低彩度の硬質レジン歯(A1相当)及び、シェードガイド(「VITA Classical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇の中にあって、高彩度の硬質レジン歯(B4相当)と低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
実施例2~7
実施例1において、硬化性組成物の組成を表4に示す他は同様にして硬化性組成物を製造、シリンジ容器に充填し、(1)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の流動性、(2)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の稠度及び、(3)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の吐出感の評価、(4)硬化性組成物(ペースト)の光硬化深さの評価、(5)硬化性組成物(硬化体)の波長470nmでの光透過率の評価、(6)重合収縮率の評価、(7)曲げ強度の評価、(8)目視による着色光の評価、(9)着色光の波長の評価、(10)目視による色調適合性評価を行った。評価結果を表5~7に示した。
【0151】
比較例1~6
実施例1において、硬化性組成物の組成を表4に示す他は同様にして硬化性組成物を製造、シリンジ容器に充填し、(1)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の流動性、(2)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の稠度及び、(3)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の吐出感の評価、(4)硬化性組成物(ペースト)の光硬化深さの評価、(5)硬化性組成物(硬化体)の波長470nmでの光透過率の評価、(6)重合収縮応力の評価、(7)曲げ強度の評価、(8)目視による着色光の評価、(9)着色光の波長の評価、(10)目視による色調適合性の評価を行った。評価結果を表5~7に示した。
【0152】
実施例1~7の結果から理解されるように、本発明の歯科用硬化性組成物は、37℃6ヶ月保管後も流動性の変化が小さく、製造初期のペースト性状を維持しており、また無機球状粉粒体(b)の平均1次粒子径に応じた色を有する構造色の発現を反映した着色光が観測され、波長470nmの光の透過率が高いため、光硬化深さが高く、色調適合性が良好であることが分かる。
【0153】
比較例1の結果から理解されるように、モノマー成分硬化体:M3の屈折率が無機球状粉粒体:F1の屈折率よりも大きい硬化性組成物の硬化体は黒背景下で青色光を示すようになり、波長470nm光の透過率が低く、そのため光硬化深さが低く、色調適合性が劣っていることが分かる。
【0154】
比較例2の結果から理解されるように、前記条件(エ4)を満たしていない有機無機複合粉粒体:CF1を用いた硬化性組成物は、5回中1回の割合で、硬化性組成物(ペースト)中でフィラーが沈降し、37℃6ヶ月保管後にシリンジ容器からペーストを吐出出来なかった。表に示す評価結果は、この系についてのものである。
【0155】
比較例3の結果から理解されるように、本発明で規定された粘度の範囲を超えたモノマー成分:M4を用いた硬化性組成物は、硬化性組成物(ペースト)の流動性が低くなり、本発明におけるバルクフィルタイプのフロアブルコンポジットレジンに適さない流動性であることが分かる。
【0156】
比較例4の結果から理解されるように、本発明で規定された粘度の範囲を下回るモノマー成分:M5を用いた硬化性組成物は、5回中1回の割合で、硬化性組成物(ペースト)中でフィラーが沈降し、37℃6ヶ月保管後にシリンジ容器からペーストを吐出出来なかった。表に示す評価結果は、この系についてのものである。
【0157】
比較例5の結果から理解されるように、平均一次粒子径が230nm未満(本発明で規定する範囲外)である無機球状粉粒体:F4を配合した硬化性組成物の硬化体は、黒背景下で青色光を示すようになり、波長470nm光の透過率が低く、そのため光硬化深さが低く、色調適合性が劣っていることが分かる。
【0158】
比較例6の結果から理解されるように、不定形状の無機粉粒体:F5を配合した硬化性組成物の硬化体は、構造色が発現しないため、黒背景下において着色光が観測されず、色調適合性が劣っていることが分かる。
【0159】
実施例8
重合性単量体M1:100質量部に対して、CQ:0.2質量部、DMBE:0.3質量部、DPIC:0.4質量部及びHQME:0.15質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、有機無機複合粉粒体CF2:102質量部、無機粉粒体F1:78質量部、希土類金属フッ化物粉粒体FX1:6質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、混練機プラネタリーミキサー(井上製作所製)を用いて混練し均一な硬化性ペーストとした。さらにこのペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し重合硬化性組成物を製造した。得られた重合硬化性組成物について、シリンジ容器に充填し、(1)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の流動性、(2)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の稠度及び、(3)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の吐出感の評価、(4)硬化性組成物(ペースト)の光硬化深さの評価、(5)硬化性組成物(硬化体)の波長470nmでの光透過率の評価、(6)重合収縮応力の評価、(7)曲げ強度の評価、(8)目視による着色光の評価、(9)着色光の波長の評価、(10)目視による色調適合性の評価、(11)X線造影性の評価を行った。硬化性組成物(ペースト)の組成を表8に示すと共に、評価結果を表9~11に示した。
なお、上記X線造影性の評価及び測定は、以下に示す方法で行った。
【0160】
(11)X線造影性の測定方法
硬化性組成物の硬化体のX線造影性は以下の手順で測定した。まず、ポリテトラフルオロエチレン製モールドに設けられた貫通孔(直径15mm、貫通孔長さ1.0mm)に、硬化性組成物を充填した後、貫通孔の両端開口部をポリプロピレンフィルムで圧接しながら封止した。次に、貫通孔の開口部を封止するポリプロピレンフィルムの表面に密着するように歯科用光照射器(TOKUSO POWER LIGHT,株式会社トクヤマ社製)を配置した状態で、光照射した。光照射の位置は、貫通孔の一方の開口部側について5箇所(貫通孔の中央部1箇所および貫通孔の外縁よりも内側部分4箇所)と、他方の開口部側について5箇所(貫通孔の中央部1箇所および貫通孔の外縁よりも内側部分4箇所)とした。そして、各々の光照射位置において20秒間の光照射を実施することで硬化体を得た。得られた硬化体については、マイクロメーターを用いて、厚みを確認した。そして、厚みが1.0mm±0.1mm以内である硬化体を、X線造影性の測定に用いる試験片とした。
【0161】
次に、厚さが2.0mmの鉛シートの上にX線フィルム(超高感度歯科用X線フィルム、コダック社製)を配置した後、さらにX線フィルムの上に、試験片と5段階の厚みを有するアルミニウム製のステップウェッジ(厚み:1.0±0.01mm、2.0±0.01mm、3.0±0.01mm、4.0±0.01mm、5.0±0.01mm)とを配置した。続いて、X線フィルムの表面から40cmの高さ位置から、試験片およびステップウェッジに対してX線照射装置(PANPAS-E、YOSHIDA社製)によりX線を照射した。この際の照射条件は、管電圧:60kVp、照射時間:0.3秒とした。その後、X線フィルムを現像して、印画紙に焼き付けた。次に、印画紙に写った試験片像およびステップウェッジ像の光学濃度を測定した。続いて、ステップウェッジの5段階の厚みと、これら5段階の厚みに対応する光学濃度とに基づいて検量線を作成し、この検量線に基づき、試験片の光学濃度が、ステップウェッジの光学濃度と一致するステップウェッジ(すなわちアルミニウム材)の厚さを求めた。そして、厚さ1mmのアルミニウム材が示す光学濃度を基準(100Al%)とした場合において、求めたアルミニウム材厚さをAl%に換算した値を、X線造影性の評価指標とした。
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
実施例9~14
実施例8において、硬化性組成物の組成を表8に示す他は同様にして硬化性組成物を製造、シリンジ容器に充填し、(1)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の流動性、(2)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の稠度及び、(3)製造直後及び37℃6ヶ月保管後の吐出感の評価、(4)硬化性組成物(ペースト)の光硬化深さの評価、(5)硬化性組成物(硬化体)の波長470nmでの光透過率の評価、(6)重合収縮率の評価、(7)曲げ強度の評価、(8)目視による着色光の評価、(9)着色光の波長の評価、(10)目視による色調適合性評価、(11)X線造影性の評価を行った。評価結果を表9~11に示した。
【0167】
実施例8~14の結果から理解されるように、希土類金属フッ化物粉粒体(D2)を一定量配合した本発明の歯科用硬化性組成物は、37℃6ヶ月保管後も流動性の変化が小さく、製造初期のペースト性状を維持しており、また無機球状粉粒体(b)の平均1次粒子径に応じた色を有する構造色の発現を反映した着色光が観測され、波長470nmの光の透過率が高いため、光硬化深さが高く、色調適合性が良好であるだけでなく、高いX線造影性を有し、且つ、フロアブルCRの特徴であるシリンジから直接充填可能な流動性を有しつつも流動性が低下することで賦形性も向上していることがわかる。