(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003163
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】歩行訓練システム
(51)【国際特許分類】
A61H 1/02 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61H1/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103679
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】黒川 歩惟
(72)【発明者】
【氏名】大高 洋平
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲
(72)【発明者】
【氏名】井元 大介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大典
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA08
4C046AA25
4C046AA26
4C046AA42
4C046BB08
4C046CC01
4C046DD02
4C046DD13
4C046DD14
4C046DD33
4C046DD39
4C046EE25
4C046EE32
4C046FF02
4C046FF09
4C046FF12
4C046FF31
(57)【要約】
【課題】適切に訓練を行うことができる歩行訓練システムを提供する。
【解決手段】本実施の形態にかかる歩行訓練システム1は、ユーザの脚部に装着された脚装具120Aと、脚装具120Aに連結され、脚部を前方斜め上に引っ張る引張力を与える第1引張手段と、脚装具に連結され、脚部を後方斜め上に引っ張る引張力を与える第2引張手段と、第1及び第2引張手段による鉛直上方への引張力をキャンセルするために設けられた錘1201と、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの脚部に装着された脚装具と、
前記脚装具に連結され、前記脚部を前方斜め上に引っ張る引張力を与える第1引張手段と、
前記脚装具に連結され、前記脚部を後方斜め上に引っ張る引張力を与える第2引張手段と、
前記第1及び第2引張手段による鉛直上方への引張力をキャンセルするために設けられた錘と、を備えた歩行訓練システム。
【請求項2】
前記錘が前記脚装具に脱着可能に取り付けられている請求項1に記載の歩行訓練システム。
【請求項3】
前記第1引張手段が前記脚装具に取り付けられた第1引張ワイヤを備え、
前記第2引張手段が前記脚装具に取り付けられた第2引張ワイヤを備えており、
前記第1引張ワイヤ及び第2引張ワイヤの少なくとも一方に前記錘が取り付けられている請求項1、又は2に記載の歩行訓練システム。
【請求項4】
前記第1引張ワイヤ及び前記第2引張ワイヤのそれぞれに錘が取り付けられており、
前記第1引張ワイヤに取り付けられた錘が、前記第1引張ワイヤに取り付けられた錘よりも重くなっている請求項3に記載の歩行訓練システム。
【請求項5】
前記ユーザの歩行動作に応じて前記脚部に前方への振り出しアシスト力を与えるように、前記第1引張手段と前記第2引張手段が動作する請求項3に記載の歩行訓練システム。
【請求項6】
前記歩行訓練システムは、
前記脚部の関節を駆動するアクチュエータ付き脚装具を装着した状態で歩行訓練を行う第1モードと、
前記脚装具を装着した状態で歩行訓練を行う第2モードと、を切り替え可能で有り、
前記錘は前記アクチュエータ付き脚装具の重量と前記脚装具の重量の差分に応じた重量となっている請求項1、又は2に記載の歩行訓練システム。
【請求項7】
前記歩行訓練システムは、
前記第1モードの訓練実績と、前記第2モードでの訓練実績とをそれぞれ記録する請求項6に記載の歩行訓練システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行訓練システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、脳卒中患者などが歩行訓練を行うリハビリテーションシステムが開示されている。このシステムでは、訓練者がトレッドミル上を歩行している。訓練者の脚にケーブルが接続されている。ケーブルが脚を引っ張っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許公開第2017/0027803号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような歩行訓練を行うシステムでは、訓練者が脚装具を装着することがある。そして、脚部を引っ張るためのケーブルやワイヤが脚装具に取り付けられる。脚装具には、関節などの動作をアシストするためのアクチュエータが設けられているものがある。つまり、歩行が困難なユーザには、アクチュエータ付きの脚装具を利用する。一方、症状が軽度な訓練者は、アクチュエータ無しの脚装具を利用する。アクチュエータ無しの脚装具とアクチュエータ有りの脚装具とを切り替えて用いる場合、適切に訓練を行うことができないおそれがある。
【0005】
本開示は、このような問題を解決するためになされたものであり、適切に訓練を行うことができる歩行訓練システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施の形態における歩行訓練システムは、ユーザの脚部に装着された脚装具と、前記脚装具に連結され、前記脚部を前方斜め上に引っ張る引張力を与える第1引張手段と、前記脚装具に連結され、前記脚部を後方斜め上に引っ張る引張力を与える第2引張手段と、前記第1及び第2引張手段による鉛直上方へ引張力をキャンセルするために設けられた錘と、を備えている。
【0007】
上記の歩行訓練システムにおいて、前記錘が前記脚装具に脱着可能に取り付けられていてもよい。
【0008】
上記の歩行訓練システムにおいて、前記第1引張手段が前記脚装具に取り付けられた第1引張ワイヤを備え、前記第2引張手段が前記脚装具に取り付けられた第2引張ワイヤを備えており、前記第1引張ワイヤ及び第2引張ワイヤの少なくとも一方に前記錘が取り付けられていてもよい。
【0009】
上記の歩行訓練システムにおいて、前記第1引張ワイヤ及び前記第2引張ワイヤのそれぞれに錘が取り付けられており、前記第1引張ワイヤに取り付けられた錘が、前記第1引張ワイヤに取り付けられた錘よりも重くなっていてもよい。
【0010】
上記の歩行訓練システムにおいて、前記ユーザの歩行動作に応じて前記脚部に前方への振り出しアシスト力を与えるように、前記第1引張手段と前記第2引張手段が動作してもよい。
【0011】
上記の歩行訓練システムは、前記脚部の関節を駆動するアクチュエータ付き脚装具を装着した状態で歩行訓練を行う第1モードと、前記脚装具を装着した状態で歩行訓練を行う第2モードと、を切り替え可能で有り、前記錘は前記アクチュエータ付き脚装具の重量と前記脚装具の重量の差分に応じた重量となっていてもよい。
【0012】
上記の歩行訓練システムは、前記第1モードの訓練実績と、前記第2モードでの訓練実績とをそれぞれ記録するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本開示により、適切に装着することができる脚装具、及び歩行訓練システムを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態にかかる歩行訓練システム1の概略斜視図である。
【
図2】ロボット脚有りの脚装具の構成を示す斜視図である。
【
図3】ロボット脚無しの脚装具を用いたシステム構成を示す側面図である。
【
図4】ロボット脚無しの脚装具の構成を模式的に示す側面図である。
【
図5】ロボット脚無しの脚装具の構成を模式的に示す正面図である。
【
図6】実施の形態2にかかるロボット脚無しの脚装具を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0016】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0017】
実施の形態1
(システム構成)
図1は、実施形態にかかるリハビリ支援システムの一構成例を示す全体概念図である。本実施形態にかかるリハビリ支援システム(歩行訓練システム1)は、主に、歩行訓練装置100と、脚装具120によって構成される。
【0018】
歩行訓練装置100は、訓練者(ユーザ)900のリハビリ(リハビリテーション)を支援するリハビリ支援装置の一具体例である。歩行訓練装置100は、一方の脚に麻痺を患う片麻痺患者である訓練者900が、訓練スタッフ901の指導に従って歩行訓練を行うための装置である。ここで、訓練スタッフ901は、療法士(理学療法士)又は医師とすることができ、訓練者の訓練を指導又は介助などにより補助することから、訓練指導者、訓練介助者、訓練補助者などと称することもできる。
【0019】
歩行訓練装置100は、主に、全体の骨格を成すフレーム130に取り付けられた制御盤133と、訓練者900が歩行するトレッドミル131と、を備える。さらに、脚装具120は、訓練者900の麻痺側の脚部である患脚に装着される。
図1では、脚装具120は、訓練者900の右脚に装着されている。
【0020】
フレーム130は、床面に設置されるトレッドミル131上に立設されている。トレッドミル131は、不図示のモータによりリング状のベルト132を回転させる。トレッドミル131は、訓練者900の歩行を促す装置であり、歩行訓練を行う訓練者900は、ベルト132に乗り、ベルト132の移動に合わせて歩行動作を試みる。なお、訓練スタッフ901は、例えば
図1に示すように訓練者900の背後のベルト132上に立って一緒に歩行動作を行うこともできるが、通常、ベルト132を跨いだ状態で立つなど、訓練者900の介助を行い易い状態に居ることが好ましい。
【0021】
フレーム130は、制御盤133や、訓練用モニタ138を支持している。制御盤133は、モータやセンサの制御を行う全体制御部210を収容する。訓練用モニタ138は、例えば、液晶パネルであり、訓練の進捗状況等を訓練者900へ提示する。また、フレーム130は、訓練者900の頭上部前方付近で前側引張部135を、頭上部付近でハーネス引張部112を、頭上部後方付近で後側引張部137を、それぞれ支持している。また、フレーム130は、訓練者900が掴むための手摺り130aを含む。
【0022】
手摺り130aは、訓練者900の左右両側に配置されている。手摺り130aは水平面内において、前後方向に沿って設けられている。それぞれの手摺り130aは、訓練者900の歩行方向と平行な方向に配置されている。手摺り130aは、上下位置、及び左右位置が調整可能となっている。つまり、手摺り130aは、その高さ及び幅を変更する機構を含むことができる。さらに、手摺り130aは、例えば歩行方向の前方側と後方側とで高さを異ならせるように調整することで、その傾斜角度を変更できるように構成することもできる。例えば、手摺り130aは、歩行方向に沿って徐々に高くなるような傾斜角度を付すことができる。
【0023】
また、手摺り130aには、訓練者900から受ける荷重を検出する手摺りセンサ218が設けられている。例えば、手摺りセンサ218は、電極がマトリックス状に配置された抵抗変化検出型の荷重検出シートとすることができる。また、手摺りセンサ218は、3軸の加速度センサ(x,y,z)と3軸のジャイロセンサ(roll,pitch,yaw)とを複合させた6軸センサとすることもできる。但し、手摺りセンサ218の種類や設置位置は問わない。
【0024】
カメラ140は、訓練者900の全身を観察するための撮像部としての機能を担う。カメラ140は、訓練用モニタ138の近傍に、訓練者と相対するように設置されている。カメラ140は、訓練中の訓練者900の静止画や動画を撮影する。カメラ140は、訓練者900の全身を捉えられる程度の画角となるような、レンズと撮像素子のセットを含む。撮像素子は、例えばCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサであり、結像面に結像した光学像を画像信号に変換する。
【0025】
前側引張部135と後側引張部137の連携した動作により、脚装具120の荷重が患脚の負担とならないように当該荷重を相殺し、更には、設定の程度に応じて患脚の振出し動作をアシストする。
【0026】
前側ワイヤ134は、一端が前側引張部135の巻取機構に連結されており、他端が脚装具120に連結されている。前側引張部135の巻取機構は、不図示のモータをオン/オフさせることにより、患脚の動きに応じて前側ワイヤ134を巻き取ったり繰り出したりする。同様に、後側ワイヤ136は、一端が後側引張部137の巻取機構に連結されており、他端が脚装具120に連結されている。後側引張部137の巻取機構は、不図示のモータをオン/オフさせることにより、患脚の動きに応じて後側ワイヤ136を巻き取ったり繰り出したりする。このような前側引張部135と後側引張部137の連携した動作により、脚装具120の荷重が患脚の負担とならないように当該荷重を相殺し、更には、設定の程度に応じて患脚の振出し動作をアシストする。
【0027】
前側ワイヤ134、及び前側引張部135は訓練者900の脚を上方かつ前方に引張する第1引張手段となる。後側ワイヤ136、及び後側引張部137は訓練者900の脚を上方かつ後方に引張する第2引張手段となる。前側引張部135、及び後側引張部137は後述するように歩行フェーズに応じた引張力で、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136を引っ張る。また、歩行フェーズに応じて、引張力の動作パターンが設定されていてもよい。
【0028】
例えば、訓練スタッフ901は、オペレータとして、重度の麻痺を抱える訓練者に対しては、アシストするレベルを大きく設定する。アシストするレベルが大きく設定されると、前側引張部135は、患脚の振出しタイミングに合わせて、比較的大きな力で前側ワイヤ134を巻き取る。訓練が進み、アシストが必要でなくなったら、訓練スタッフ901は、アシストするレベルを最小に設定する。アシストするレベルが最小に設定されると、前側引張部135は、患脚の振出しタイミングに合わせて、脚装具120の自重をキャンセルするだけの力で前側ワイヤ134を巻き取る。
【0029】
歩行訓練装置100は、装具110、ハーネスワイヤ111、及びハーネス引張部112を主な構成要素とする、安全装置としての転倒防止ハーネス装置を備える。装具110は、訓練者900の腹部に巻き付けられるベルトであり、例えば面ファスナによって腰部に固定される。装具110は、吊具であるハーネスワイヤ111の一端を連結する連結フック110aを備え、ハンガーベルトと称することもできる。訓練者900は、連結フック110aが後背部に位置するように、装具110を装着する。
【0030】
ハーネスワイヤ111は、一端が装具110の連結フック110aに連結されており、他端がハーネス引張部112の巻取機構に連結されている。ハーネス引張部112の巻取機構は、不図示のモータをオン/オフさせることにより、ハーネスワイヤ111を巻き取ったり繰り出したりする。このような構成により、転倒防止ハーネス装置は、訓練者900が転倒しそうになった場合に、その動きを検知した全体制御部210の指示に従ってハーネスワイヤ111を巻き取り、装具110により訓練者900の上体を支えて、訓練者900の転倒を防ぐ。
【0031】
装具110は、訓練者900の姿勢を検出するための姿勢センサ217を備える。姿勢センサ217は、例えばジャイロセンサと加速度センサを組み合わせたものであり、装具110が装着された腹部の重力方向に対する傾斜角を出力する。
【0032】
管理用モニタ139は、フレーム130に取り付けられており、主に訓練スタッフ901が監視及び操作するための表示入力装置である。管理用モニタ139は、例えば液晶パネルであり、その表面にはタッチパネルが設けられている。管理用モニタ139は、訓練設定に関する各種メニュー項目や、訓練時における各種パラメータ値、訓練結果などを表示する。また、管理用モニタ139の近傍には、非常停止ボタン232が設けられている。訓練スタッフ901が非常停止ボタン232を押すことで、歩行訓練装置100が非常停止する。
【0033】
全体制御部210は、訓練設定に関する設定パラメータ、訓練結果として脚装具120から出力された運脚に関する各種データなどを含みうるリハビリデータを生成する。このリハビリデータには、訓練スタッフ901又はその経験年数や熟練度等を示すデータ、訓練者900の症状、歩行能力、回復度等を示すデータ、脚装具120の外部に設けられたセンサ等から出力された各種データなどを含むことができる。
【0034】
脚装具120は、訓練者900の患脚に装着されている。上記のように、脚装具120には、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136が連結されている。そして、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136が脚装具120を引っ張ることで、患脚にアシスト力が与えられる。脚装具120は、訓練者900の関節動作を補助するアクチュエータなどを備えていても良い。例えば、脚装具120は、膝関節を屈曲又は伸展するためのモータを備えている。
【0035】
さらに、脚装具120は、脚動作を検出するためのセンサを有していてもよい。例えば、脚装具120には、足平から受ける荷重を検出するセンサなどが設けられていても良い。もちろん、脚装具120は、アクチュエータやセンサを有していないものであってもよい。ワイヤによる引張力を与えない場合、脚装具120を省略しても良い。この場合、訓練者900は、単独でトレッドミル131上で歩行訓練を行うことができる。
【0036】
全体制御部210は、脚装具120、前側引張部135、後側引張部137のアクチュエータを各種センサの出力に応じて制御する。例えば、全体制御部210は、姿勢センサ217、脚装具120のセンサ、カメラ140等の検出結果に応じて,歩行サイクルとそのタイミングを検知する。全体制御部210は歩行サイクルのタイミングに応じた駆動力を各アクチュエータに与えるための指令値を出力する。これにより、各アクチュエータが、歩行サイクルや歩行パターンに応じて動作する。例えば、立脚期、遊脚器の切り替わるタイミングに応じて、駆動力が与えられる。
【0037】
ここで、歩行訓練システム1では、ロボット脚付きの脚装具と、ロボット脚無しの脚装具が利用される。ロボット脚付きの脚装具120は、膝関節等を駆動するための駆動機構を備えている。つまり、ロボット脚付きの脚装具120では、膝関節部分がアクチュエータで動作する能動関節になっている。ロボット脚無しの脚装具120は、膝関節などを駆動するための駆動機構を有していない。つまり、ロボット脚無しの脚装具120は、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136の取り付けるためのものであり、駆動機構を有していない。
【0038】
例えば、麻痺の症状が重く、歩行能力が低い訓練者に対しては、ロボット脚付きの脚装具120が用いられる。つまり、脚装具120で訓練者900の膝関節動作をアシストする必要があるため、脚装具120にモータなどのアクチュエータが搭載される。ロボット脚付きの脚装具120をアクチュエータ付きの脚装具とも言う。
【0039】
一方、麻痺の症状が軽く、歩行能力が高い訓練者については、ロボット脚無しの脚装具120が用いられる。つまり、脚装具120で訓練者900の膝関節動作をアシストする必要が無いため、脚装具120にモータなどのアクチュエータが搭載されていない。ロボット脚無しの脚装具120をアクチュエータ無し(アクチュエータレス)の脚装具とも言う。ロボット脚無しの脚装具120は、膝関節などの関節機構を省略することができる。つまり、ロボット脚無しの脚装具120は、アクチュエータだけでなく、受動関節機構を設ける必要が無い。例えば、ロボット脚無しの脚装具120は、伸縮可能なサポータバンドとすることができる。
【0040】
ロボット脚無しの脚装具120を用いることで、訓練の難度を高くすることができる。訓練者900が、歩行能力に応じた適切な訓練を行うことができる。また、アクチュエータ等が搭載されていないため、ロボット脚無しの脚装具120は、ロボット脚付きの脚装具120に比べて軽量となる。よって、訓練者900は容易に脱着することができる。
【0041】
このように、歩行訓練システム1ではロボット脚付きの脚装具120と、ロボット脚無しの脚装具120の2種類が用意されている。そして、訓練者の歩行能力に応じた脚装具120が利用される。つまり、訓練者900に応じた脚装具120が用いられる。歩行能力の低い訓練者900はロボット脚付きの脚装具120を装着して、歩行訓練を行う。歩行能力の高い訓練者900はロボット脚無しの脚装具120を装着して、歩行訓練を行う。このように、訓練者900に応じて、脚装具120を切替えることで、適切な歩行訓練を行うことができる。さらに、歩行能力の低い訓練者900が繰り返し訓練を行い、歩行能力が高くなった場合も、脚装具120を切替える。つまり、同一の訓練者900であっても、訓練の進展に応じて脚装具120が切替えられる。
【0042】
このように、歩行訓練システム1では、訓練者900はロボット脚の有無を選択して、訓練を行うことができる。ここで、ロボット脚有りで歩行訓練を行うモードを第1モードと、ロボット脚無しで歩行訓練を行うモードを第2モードとする。第1モードでは、ワイヤによる振り出しアシストと、ロボット脚による膝関節アシストが行われる。第2モードでは、ワイヤによる振り出しアシストのみが行われ、ロボット脚による膝関節アシストが行われない。
【0043】
さらに、歩行訓練システム1では、訓練者900は、ロボット脚による膝関節アシストとワイヤによる振り出しアシストを受けずに歩行訓練を行うことができる。膝関節アシストと、振り出しアシストを受けずに歩行訓練を行うモードを第3のモードとする。第3モードでは、訓練者900が全くアシスト力を受けずにトレッドミル131上で歩行訓練を行う。第3モードでは、脚装具120が不要となる。
【0044】
訓練者900がモードを選択して、歩行訓練を行う。なお、モード選択は訓練スタッフ901が行ってもよい。訓練者900が訓練を行うと、その訓練結果がメモリなどに記録される。例えば、訓練日時、訓練時間、歩行距離、歩数、訓練動画、モード情報などが訓練実績として記憶される。全体制御部210のメモリなどには、第1モードの訓練実績と、第2モードの訓練実績がそれぞれ記録される。訓練実績は履歴としてメモリ等の記録装置に格納される。訓練者900や訓練スタッフ901が訓練後に、モード毎の訓練実績(訓練履歴)を確認できる。なお、訓練実績は全体制御部210の外部にあるサーバやクラウドシステムに記録されていても良い。
【0045】
ワイヤによる振り出しアシストでは、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136が脚装具120に引張力を与える。前側ワイヤ134は脚装具120に対して前方斜め上の引張力を与える。後側ワイヤ136は脚装具120に対して後方斜め上の引張力を与える。したがって、脚装具120には、前方斜め上の引張力と後方斜め上の引張力の合力が与えられる。れにより、患脚を振り出すためのアシスト力を与えることができる。
【0046】
全体制御部210は、患脚の振り出し時に前方にアシスト力を与えるように前側引張部135と後側引張部137を制御する。振出しタイミングでは、前側引張部135の引張力が後側引張部137の引張力よりも大きくなる。患脚の振り出しタイミングで、前方からの引張力が患脚に与えられる。さらに、前方斜め上の引張力と後方斜め上の引張力の合力は、鉛直上方の成分を有している。前方へ引張力を与えると、重力を打ち消す方向にも引張力が与えられる。つまり、引張力の鉛直上方向の分力によって、脚部や脚装具120の重量が軽減される。
【0047】
ここで、ロボット脚の有無に応じて、脚装具120の重量が異なる。ロボット脚なしの脚装具120は、ロボット脚有りの脚装具120よりも軽くなる。したがって、第1モードと第2モードで、前方への振り出しアシスト力を同様に与える場合、第2モードでは重力により患脚側に加わる負荷が軽減されてしまう。つまり、第2モードで訓練の負荷を適切に与えることが困難になってしまう。
【0048】
そこで、本実施の形態では、第2モードで用いるロボット脚無しの脚装具120に対して錘(重量物)を付加している。つまり、ロボット脚無しの脚装具120を意図的に重くしている。ロボット脚無しの脚装具120をロボット脚付きの脚装具120以上の重量にすることができる。これにより、歩行能力が高い訓練者900が、適切な負荷での訓練を行うことができる。訓練者900が効率良く訓練を行うことができるため、回復速度を向上することができる。
【0049】
ロボット脚無しの脚装具120は、ロボット脚付きの脚装具120に比べて軽量となる。よって、訓練者900は容易に脱着することができる。例えば、ロボット脚付きの脚装具120は、上腿部のみに取り付けられるものであってもよい。膝関節部分や下腿フレームなどを省略することができる。よって、より軽量化を図ることができ、容易に装着することができる。
【0050】
次に、第1モードで用いられるロボット脚付きの脚装具120について、
図2を用いて説明する。
図2は、脚装具120の一構成例を示す概略斜視図である。脚装具120は、主に、制御ユニット121と、患脚の各部を支える複数のフレームと、足裏に掛かる荷重を検出するための荷重センサ222と、を備える。
【0051】
制御ユニット121は、脚装具120の制御を行う補助制御部220を含み、また、膝関節の伸展運動及び屈曲運動を補助するための駆動力を発生させる不図示のモータを含む。患脚の各部を支えるフレームは、上腿フレーム122と、上腿フレーム122に回動自在に連結された下腿フレーム123と、を含む。また、このフレームは、下腿フレーム123に回動自在に連結された足平フレーム124と、前側ワイヤ134を連結するための前側連結フレーム127と、後側ワイヤ136を連結するための後側連結フレーム128と、を含む。
【0052】
上腿フレーム122と下腿フレーム123は、図示するヒンジ軸Ha周りに相対的に回動する。制御ユニット121のモータは、補助制御部220の指示に従って回転して、上腿フレーム122と下腿フレーム123がヒンジ軸Ha周りに相対的に開くように加勢したり、閉じるように加勢したりする。制御ユニット121に収められた角度センサ223は、例えばロータリエンコーダであり、ヒンジ軸Ha周りの上腿フレーム122と下腿フレーム123の成す角を検出する。下腿フレーム123と足平フレーム124は、図示するヒンジ軸Hb周りに相対的に回動する。相対的に回動する角度範囲は、調整機構126によって事前に調整される。
【0053】
前側連結フレーム127は、上腿の前側を左右方向に伸延し、両端で上腿フレーム122に接続するように設けられている。また、前側連結フレーム127には、前側ワイヤ134を連結するための連結フック127aが、左右方向の中央付近に設けられている。後側連結フレーム128は、下腿の後側を左右方向に伸延し、両端でそれぞれ上下に伸延する下腿フレーム123に接続するように設けられている。また、後側連結フレーム128には、後側ワイヤ136を連結するための連結フック128aが、左右方向の中央付近に設けられている。
【0054】
上腿フレーム122は、上腿ベルト129を備える。上腿ベルト129は、上腿フレームに一体的に設けられたベルトであり、患脚の上腿部に巻き付けて上腿フレーム122を上腿部に固定する。これにより、脚装具120の全体が訓練者900の脚部に対してずれることを防止している。
【0055】
荷重センサ222は、足平フレーム124に埋め込まれた荷重センサである。荷重センサ222は、訓練者900の足裏が受ける垂直荷重の大きさと分布を検出し、例えばCOP(Center Of Pressure:荷重中心)を検出するように構成することもできる。荷重センサ222は、例えば、電極がマトリックス状に配置された抵抗変化検出型の荷重検出シートである。
【0056】
次に、第2モードで用いられるロボット脚無しの脚装具120について説明する。以下の説明では、ロボット脚無しの脚装具120を脚装具120Aとして説明する。
図3は、ロボット脚無しの脚装具120Aを用いた場合の構成を示す図である。具体的には、脚装具120Aを装着した訓練者900が歩行訓練システム1で訓練する様子を示す側面図である。
【0057】
脚装具120Aは、訓練者900の上腿(大腿)に装着されるハーネスとなっている。脚装具120は、訓練者900は、膝関節よりも上方に取り付けることが好ましい。このようにすることで、歩行動作の妨げとなることを防ぐことができる。
【0058】
脚装具120Aは弾性材料により形成されている。訓練者900は、脚装具120Aは、伸縮性を有しており、上腿に密着する。これにより訓練時における装着位置のずれを防ぐことができる。
【0059】
例えば、脚装具120Aは、脚サポータのように、脚部の外周全体に渡って配置される。例えば、脚装具120Aは、リング状に形成された弾性材料である。脚装具120Aは、水平面に沿った断面視において、脚装具120Aは中空の円形になっており、その内部に上腿が配置される。訓練者900は、足先から脚装具120Aに患脚を挿入することで、脚装具120Aを装着することができる。
【0060】
あるいは、脚装具120Aは、上腿に巻き付けられるように、装着されてもよい。脚装具120Aは、ベルトのように帯状の形状を有しており、上腿の周りに巻き回される。この場合、脚装具120Aは、面ファスナなどにより大腿に固定されてもよい。
【0061】
脚装具120Aには、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136が取り付けられている。前側ワイヤ134と後側ワイヤ136によって鉛直上方及び前方への引張力が発生する。
【0062】
脚装具120Aには、鉛直上方の引張力をキャンセルするための錘1201を有している。脚装具120Aに錘1201を取り付けることで、脚装具120Aの実質的な重量を重くすることができる。引張力の鉛直上方の分力を打ち消すことができる。患脚に対する負荷を高くすることができるため、訓練者900が適切に訓練を行うことができる。錘1201は、脚装具120Aから取り外すことできるようになっていてもよく、固定されていてもよい。
【0063】
ロボット脚無しでも適切なアシスト力を与えることができる。前方への振出しアシスト力を高くする場合であっても、鉛直上方への分力が錘1201により打ち消される。鉛直上方の引張力をキャンセルすることができるため、適切な負荷を与えることができ、効果的な訓練が可能となる。
【0064】
例えば、ロボット脚無しの脚装具120Aがロボット脚付きの脚装具120と同等の重量になるように錘1201の重さを調整する。第1モードと第2モードとで同等の引張力を与えるように、全体制御部210が前側引張部135と後側引張部137を制御すればよい。第1モードと第2モードとで制御パターンを変えることなく、同様の引張力で振出しアシストを行うことができる。振出しアシストのアシスト力の制御が容易になる。
【0065】
図4、及び
図5を用いて、脚装具120Aと錘1201の具体例について説明する。
図4は脚装具120Aの側面図であり、
図5は正面図である。脚装具120Aは、訓練者900の大腿900Aに装着されている。大腿900Aは訓練者900の股関節より下側であり、膝関節よりも上側の部分である。
【0066】
錘1201は、脚装具120Aに取り付けられている。錘1201は、脚装具120Aに対して脱着可能に設けられている。脚装具120Aには、錘1201を取り付けるための袋等を形成してもよい。つまり、脚装具120Aの外周面に設けられた袋などに収容される。あるいは、錘1201は、脚装具120Aに埋め込まれてもよい。錘1201は訓練者900の上側に配置される。
【0067】
図4に示すように、脚装具120Aは前側ワイヤ134と後側ワイヤ136を取り付けるための取付部1202,1203を備えている。脚装具120Aの前側には、前側ワイヤ134を取り付けるための取付部1202が設けられている。例えば、取付部1202はリング状に形成されており、前側ワイヤ134の先端が取り付けられる。カラビナやフックを用いて、前側ワイヤ134を取付部1202に取り付けても良い。
【0068】
脚装具120Aの後ろ側には、後側ワイヤ136を取り付けるための取付部1203が設けられている。例えば、取付部1203はリング状に形成されており、後側ワイヤ136の先端が取り付けられる。カラビナやフックを用いて、後側ワイヤ136を取付部1203に取り付けても良い。
【0069】
図5に示すように、ワイヤの取付位置は、左右方向における脚中心にあることが好ましい。つまり、取付部1202、及び取付部1203が左右方向における大腿900Aの中心に位置する。このようにすることで、患脚が前後方向に真っ直ぐに引っ張ることができる。脚の外旋方向、又は内旋方向に引張力が加わることを防ぐことができる。よって、適切な振出しアシストを行うことができ、効果的な訓練を行うことができる。
【0070】
錘1201はロボット脚付き脚装具120の重量とロボット脚無しの脚装具120Aの重量の差分に応じた重量となっていることが好ましい。例えば、ロボット脚付きの脚装具120がロボット脚無しの脚装具120Aよりも5kg重くなっている場合、錘1201の全体重量を5kgとすることができる。これより、ロボット脚付きの脚装具120とロボット脚無しの脚装具120Aの重量を一致させることができる。
【0071】
大腿900Aの外周において、周方向に均等になるように錘1201を配置することが好ましい。つまり、脚装具120Aの全周に均等に配置されるように、錘1201を配置する。例えば、同じ重量の錘を用意して、周方向において等間隔に配列する。このようにすることでバランス良く錘1201を配置することができる。
【0072】
錘1201の全体の重量を5kgとする場合、数百gの錘を複数用意する。そして、周方向に錘を均等に分散して配置すれば良い。例えば、ベルトなどで複数の錘を脚装具120Aに固定すれば良い。
【0073】
実施の形態2
実施の形態2では錘を取り付けるための構成が異なっている。錘の取付構成以外については、実施の形態1と同様であるため、適宜説明を省略する。実施の形態2における構成について
図6を用いて説明する。
図6は、脚装具120Aを用いた場合のシステム構成を示す側面図である。
【0074】
本実施の形態では、ワイヤを用いて錘1205、1206が脚装具120Aに取り付けられている。具体的には、錘1205に前側ワイヤ134を通すための貫通穴が設けられている。よって、前側ワイヤ134の先端に錘1205が取り付けられる。錘1206に後側ワイヤ136を通すための貫通穴が設けられている。ここでは、錘1205、1206がそれぞれ中空の円柱状になっている。つまり、貫通穴は円柱の軸方向に沿って設けられている。よって、前側ワイヤ134の先端に錘1205が取り付けられ、後側ワイヤ136の先端に錘1206が取り付けられる。前側ワイヤ134と後側ワイヤ136により脚装具120Aに生じる鉛直上方の引張力を打ち消すことができる。
【0075】
錘1205が脚装具120Aの前側に配置される。錘1206が脚装具120Aの後ろ側に配置される。錘1205は、前側ワイヤ134を介して、脚装具120Aに取り付けられる。錘1206は、後側ワイヤ136を介して、脚装具120Aに取り付けられる。前後両方に錘1205,1206を設けることで、訓練者900がバランスよく、訓練を行うことができる。錘1205と錘1206は、同じ重量としても異なる重量としても良い。また、前側の錘1205を後ろ側の錘1206よりも重くしてもよく、軽くしても良い。
【0076】
ここでは、前側の錘1205を後ろ側の錘1206よりも重くしている。例えば、錘1205,1206の合計重量を5kgとする場合、錘1205を3kgとし、錘1206を2kgとすることができる。つまり、前方に振出しアシストを与えるため前側ワイヤ134の引張力が後側ワイヤ136の引張力よりも大きくなる。よって、前側の錘1205を後ろ側の錘1206よりも重くすることが好ましい。
【0077】
もちろん、脚装具120Aに前側の錘1205又は錘1206の一方のみを取り付けても良い。つまり、後ろ側の錘1206を省略して、前側の錘1205のみの構成としても良い。つまり、前側の錘1205を省略して、後ろ側の錘1206のみの構成としても良い。
【0078】
実施の形態1と同様に、前側ワイヤ134と後側ワイヤ136が左右方向の中心に取り付けられていることで、外旋方向又は内旋方向に引張力が発生するのを増え具ことができる。よって、訓練者900がバランスよく訓練を行うことができる。これにより、適切な訓練が可能となる。
【0079】
また、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせてもよい。つまり、錘1201に加えて錘1205及び錘1206の少なくとも一方が追加されていてもよい。例えば、脚装具120Aには、錘1201と錘1205とが取り付けられていてもよく、脚装具120Aには、錘1201と錘1206が取り付けられていてもよい。脚装具120Aには、錘1201と錘1205と錘1206とが取り付けられていてもよい。
【0080】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0081】
1 歩行訓練システム
100 歩行訓練装置
110 装具
110a 連結フック
111 ハーネスワイヤ
112 ハーネス引張部
120 脚装具
120A 脚装具
1201 錘
1202 取付部
1203 取付部
1205 錘
1206 錘
130 フレーム
130a 手摺り
131 トレッドミル
132 ベルト
210 全体制御部
900 訓練者
901 訓練スタッフ