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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031635
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20250228BHJP
【FI】
B29C45/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024138896
(22)【出願日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2023136984
(32)【優先日】2023-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322012860
【氏名又は名称】東レ・セラニーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 剛士
(72)【発明者】
【氏名】中尾 優一
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA24
4F206AA25
4F206AA28
4F206AA29
4F206AA34
4F206AA45
4F206AB06
4F206AD03
4F206AD05
4F206JA07
4F206JB12
4F206JB23
4F206JB28
4F206JL02
4F206JN12
4F206JQ81
4F206JW05
4F206JW06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】異種材料間の接合性が高く、長期間の環境処理後も気密性に優れた複合成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、結晶性芳香族ポリエステル単位および脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位を含有し、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体66~98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂1~30質量%、シランカップリング剤と酸化防止剤を含有し、工程A:成形する金型に金属部材(Z)をインサートし、金型に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出成形して被う工程、工程B:工程Aで得た成形品を金型にインサートし、金型に熱可塑性樹脂(X)を射出成形して熱可塑性樹脂(X)で被う工程、工程C:工程Bで得た成形品を、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点+21℃~融点+50℃で加熱処理を行う工程、を有する熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、金属部材(Z)の少なくとも一部において全周を被った形状で介在した熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法であって、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を含有し、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66~98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1~30質量%、シランカップリング剤(C)0.01~5.0質量%と酸化防止剤(D)0.01~5.0質量%を含有し、
(工程A)熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が金属部材(Z)を被った成形品を成形する金型に、金属部材(Z)をインサートし、該金型に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出成形し、金属部材(Z)を熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)で被う工程、
(工程B)さらに(工程A)で得た成形品を成形する金型にインサートし、該金型に熱可塑性樹脂(X)を射出成形し、熱可塑性エラストマー組成物(Y)が金属部材(Z)を被った成形品を熱可塑性樹脂(X)で被う工程、
(工程C)さらに熱可塑性樹脂(X)が金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー組成物(Y)を被った成形品を、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点+21℃~融点+50℃で加熱処理を行う工程、を有する熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項2】
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(X)が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂からなる群の中から少なくとも1種の樹脂を主成分とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材がインサートされた熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法に関し、特に、金属と熱可塑性樹脂との気密性に優れた熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン、タブレット等に代表される携帯用電子機器においては、電子機器内部への湿気や水の浸入を防止する気密性及び防水性が必要とされている。また、自動車等の車両にも電子機器、センサー、コネクタ等が多く搭載されており、防水、防油、防塵等の気密性が必要とされている。
【0003】
携帯用電子機器においては小型・軽量化、低コスト化、形状の自由度等の点から熱可塑性樹脂が多く使用されていたが、更なる強度や剛性の向上の手法としてアルミニウム合金などの軽金属が筐体の一部の材料として使用されている。また、センサーやコネクタ類においても金属端子部と熱可塑性樹脂との界面から水、オイルが浸入することが懸念されている。
【0004】
そこで、特許文献1にはインサートされる金属表面をアルカリ性または酸性溶液で処理した後、更にシランカップリング剤で処理した金属を射出成形用金型にインサートする方法が、特許文献2には金属部材の表面に接合界面の気密性を必要とする方向と公差する方向に溝加工を施し、射出成形等で溶融した熱可塑性樹脂と接合する方法が、特許文献3にはコネクタが形成されて接合する面を粗面化、又は窒素含有化合物を吸着させて無数の凹凸又は多孔性層を形成させた面に射出成形することにより熱可塑性樹脂と一体化させる方法が提案されている。特許文献4は金属と熱可塑性樹脂組成物の間に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を介在させることで気密性を得ることが可能な熱可塑性樹脂複合成形体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-103562号公報
【特許文献2】特開2011-240685号公報
【特許文献3】特開2012-179709号公報
【特許文献4】特許第6420094号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3の方法ではインサート金属の表面に特別な処理を施す事になり作業が煩雑で生産性が低いばかりか、接触面積を大きくするのみで気密性を十分に得る事は不可能といった課題があった。また、特許文献4では金属表面に特別な処理を施す必要がなく、短期間の環境処理後も安定した気密性を得ることが可能であることが示されている。
【0007】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として鋭意検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明は、インサート金属の表面に特別な処理を必要とせずに異種材料間の接合性が高く、より長期間の環境処理後も気密性に優れた、熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明によれば[1]~[3]を構成するものである。
[1] 金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、金属部材(Z)の少なくとも一部において全周を被った形状で介在した熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法であって、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)、および、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)を含有し、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66~98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1~30質量%、シランカップリング剤(C)0.01~5.0質量%と酸化防止剤(D)0.01~5.0質量%を含有し、
(工程A)熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が金属部材(Z)を被った成形品を成形する金型に、金属部材(Z)をインサートし、該金型に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出成形し、金属部材(Z)を熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)で被う工程、
(工程B)さらに(工程A)で得た成形品を熱可塑性樹脂(X)が金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー組成物(Y)を被った成形品を成形する金型にインサートし、該金型に熱可塑性樹脂(X)を射出成形し、熱可塑性エラストマー組成物(Y)が金属部材(Z)を被った成形品を熱可塑性樹脂(X)で被う工程、
(工程C)さらに熱可塑性樹脂(X)が金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー組成物(Y)を被った成形品を、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点+21℃~融点+50℃で加熱処理を行う工程、を有する熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
[2] 熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)が、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位とからなる請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
[3] 熱可塑性樹脂(X)が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂からなる群の中から少なくとも1種の樹脂を主成分とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法は、異種材料間がしっかりと接合しており、長期間の環境処理後も気密性に優れている。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、金属部材と熱可塑性樹脂組成物からなる成形体との間の気密性が十分に得られることから、自動車部品、電機機器、電気電子部品、工業用品等での防水、防油や粉塵などのシール性が必要とされる部品として好適に使用することができる。
【0011】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、接合強度が高くおよび気密性に優れているので、水蒸気、液体などの透過を少なくしたい電気・電子部品集積モジュール部材やモーター、電池などの金属をインサートする部材に適している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1~12、比較例1~4で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の模式図である。
図2】実施例1~12、比較例1~4で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の断面概略図である。
図3図3は、実施例1~12、比較例1~4で使用した金属端子および熱可塑性樹脂複合成形体の寸法を示す。
図4】リーク性試験の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を介在させた成形体を熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点+21℃~融点+50℃で加熱処理を行うことで金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)を、複合一体化させた気密性を有する熱可塑性樹脂複合成形体の製造方法である。
【0015】
本発明における金属部材(Z)について説明する。
【0016】
金属部材は、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金、銅、銅合金、鉄、鋼、ステンレス、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、錫、亜鉛、コバルト、クロム、クロム合金、ジルコニウム、ベリリウム、ベリリウム合金等があり、これらをメッキ等の表面処理で組み合わせた公知の材料が用いることもできる。中でもアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、錫が好適に用いられる。
【0017】
熱可塑性樹脂(X)は、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタックチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂などが挙げられ、中でもABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、シンジオタックチックポリスチレン樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂が熱可塑性エラストマー樹脂組成物との接合強度が優れる面で好ましく使用でき、これらは単独のポリマーだけでなく2種類以上をコンパウンド等でアロイ化した樹脂として使用することも可能である。また、フィラーの等を配合することも可能であり、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、粘土等の樹脂用充填材料を添加することも可能である。
【0018】
熱可塑性樹脂(X)は、より好ましくは、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂からなる群の中から少なくとも1種の樹脂を主成分とする。
【0019】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)66~98.98質量%、ポリビニルアルコール樹脂(B)1~30質量%、シランカップリング剤(C)0.01~5.0質量%と、酸化防止剤(D)0.01~5.0質量%を含有する。本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、融点が210℃未満のポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルアルコール樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、酸化防止剤(D)の合計は、100質量%である。
【0020】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなるハードセグメント(a1)と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなるソフトセグメント(a2)と含有する。
【0021】
ハードセグメント(a1)は、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルである。
【0022】
ポリエステルブロック共重合体(A)のハードセグメント(a1)を構成する芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6一ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。さらに、芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。本発明においては、前記芳香族ジカルボン酸を主として用いるが、この芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。さらに、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0023】
本発明においては、前記ジカルボン酸を2種以上使用することが好ましく、例えばテレフタル酸とイソフタル酸、テレフタル酸とドデカンジオン酸、テレフタル酸とダイマー酸などの組み合わせが挙げられる。ジカルボン酸成分を2種以上使用することでハードセグメント(a1)の結晶化度を下げることができ、柔軟性を付与することも可能で、かつ他の熱可塑性樹脂との熱接着性も向上する。
【0024】
次に、前記芳香族ジカルボン酸等とエステルを形成するジオールについて説明する。本発明に使用するジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、および4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましい。かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。これらのジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。
【0025】
かかるハードセグメント(a1)の好ましい例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるもの、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるもの、およびその両者の共重合体が好ましく用いられ、特に好ましくは、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと、1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位とポリブチレンイソフタレート単位を有する共重合体が使用される。
【0026】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)のポリエステルブロック共重合体(A)のソフトセグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステル単位からなる。脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールなどが挙げられる。
【0027】
また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペートなどが挙げられる。これらのソフトセグメント(a2)として、得られるポリエステルブロック共重合体(A)の弾性特性から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペートなどの使用が好ましく、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールの使用が好ましい。また、これらのソフトセグメント(a2)の数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0028】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)において、ハードセグメント(a1)とソフトセグメント(a2)の共重合量は、通常、ハードセグメント(a1)を5~80質量%、ソフトセグメント(a2)を20~95質量%であり、好ましくはハードセグメント(a1)を10~75質量%、ソフトセグメント(a2)を25~90質量%である。
【0029】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、融点が210℃未満である。本発明において、ポリエステルブロック共重合体(A)の融点は、示差走査熱量計(DSC)により測定され、測定された融点が210℃未満に存在することを意味する。融点が210℃以上のポリエステルブロック共重合体(A)を使用する場合、ポリエステルブロック共重合体(A)中に、後述するポリビニルアルコール樹脂(B)が粗大分散し熱可塑性樹脂以外の材質からなる部材との接合強度が低くなる。
【0030】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルコールジエステルなどのエステル形成性誘導体、過剰量のジオール(低分子量グリコール)およびソフトセグメント(a2)成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、および芳香族ジカルボン酸と過剰量のジオールおよびソフトセグメント(a2)成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0031】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、ポリエステルブロック共重合体(A)の含有量は、66質量%~98.98質量%であり、特に好ましくは76質量%~97質量%である。ポリエステルブロック共重合体(A)の含有量が、66質量%未満では、得られる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の機械特性が低く成形加工性が劣り、98.98質量%を越えると接合強度が低下する。
【0032】
本発明に用いられるポリビニルアルコール樹脂(B)としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。使用するポリビニルアルコール樹脂(B)としては、市販品を使用することでき、例えば、積水化学工業(株)製エスフレックスBL-1、BL-2、BX-L、BM-S、KS-3等、電気化学工業(株)製デンカブチラール3000-1、3000-2、3000-4、4000-2等がある。
【0033】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、ポリビニルアルコール樹脂(B)の含有量は、1質量%~30質量%であり、特に好ましくは、3質量%~20質量%である。ポリビニルアルコール樹脂(B)の含有量が、1質量%未満では接合強度が低く、30質量%を超えると得られる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の機械強度が低く、成型加工性にも劣る。
【0034】
本発明に用いられるシランカップリング剤(C)としては、特に制限するものはないが、好ましくは1分子中にアミノ基、エポキシ基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、スルフィド基等を有するもので、中でもエポキシ基を有するシランカップリング剤(C)が好適に使用される。シランカップリング剤(C)の具体例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロキルエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトシシラン、3-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリイルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等があり、好ましくはエポキシ基含有化合物であり、これらは1種単独または2種以上併用して使用することができる。
【0035】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、シランカップリング剤(C)の含有量は、0.01質量%~5質量%であり、好ましくは0.05質量%~3質量%、さらに好ましくは0.1質量%~1.5質量%である。シランカップリング剤(C)の含有量が0.01質量%未満では接合強度が低く、また5質量%を超えると、ブルーミングを生じ、熱安定性が低下する。
【0036】
本発明に用いられる酸化防止剤(D)としては、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤からなる群より選ばれた1種、または2種以上が挙げられ、中でも芳香族アミン系酸化防止剤が好適に使用される。
【0037】
芳香族アミン系酸化防止剤の具体例としては、フェニルナフチルアミン、4,4’-ジメトキシジフェニルアミン、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、および4-イソプロポキシジフェニルアミンなどが挙げられるが、これらの中でもジフェニルアミン系化合物の使用が好ましい。
【0038】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ヒドロキシメチル-2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-α-ジメチルアミノ-p-クレゾール、2,5-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、4,4’-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-4-メチル-6-t-ブチルフェノール、2,2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-一ブチルフェノール)、4,4’-メチレン-ビス(6-t-ブチル-o-クレゾール)、4,4’-メチレン-ビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、ビス(3-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルベンジル)スルフィド、4,4’-チオビス(6-t-プチル-o-クレゾール)、2,2’-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ビス(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸のジエチルエステル、2,2’-ジヒドロキシ-3,3’-ジ(α-メチルシクロヘキシル)-5,5’-ジメチル-ジフェニルメタン、α-オクタデシル-3(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、6-(ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-2,4-ビス-オクチル-チオ-1,3,5-トリアジン、ヘキサメチレングリコール-ビス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレン-ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシヒドロ桂皮酸アミド)、2,2-チオ[ジエチル-ビス-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゼンホスホン酸のジオクタデシルエステル、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-ジ-t-ブチルフェニル)ブタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス[β-(3,5-ジ-t-ブチル-4ヒドロキシフェニル)プロピオニル-オキシエチル]イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも特にテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンのような分子量が500以上のものの使用が好ましい。
【0039】
イオウ系酸化防止剤とは、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系、およびチオジプロピオンエステル系などのイオウを含む化合物である。これらの中でも、特にチオジプロピオンエステル系化合物の使用が好ましい。
【0040】
リン系酸化防止剤とは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸誘導体、フェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルペンタエリスリトールジホスファイト、およびジァルキルビスフェノールAジホスファイトなどのリンを含む化合物である。これらの中でも、分子中にリン原子とともにイオウ原子も有する化合物、あるいは分子中に2つ以上のリン原子を有する化合物の使用が好ましい。
【0041】
本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)において、これらの酸化防止剤(D)の含有量は、0.01質量%~5質量%であり、好ましくは、0.05質量%~3質量%、さらに好ましくは、0.1質量%~1.5質量%である。酸化防止剤(D)の含有量が0.01質量%未満では、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の耐熱性、特に長期耐熱老化性が劣るとともに、金属と接合する際に銅害が生じるおそれがある。また、5質量%を超えると、ブルーミングを生じ、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の機械的強度が低下する。
【0042】
さらに、本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤を添加することができる。例えば公知の結晶核剤や滑剤などの成形助剤、紫外線吸収剤やヒンダードアミン系化合物である耐光剤、耐加水分解改良剤、顔料や染料などの着色剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、補強剤、充填剤、可塑剤、離型剤などを任意に含有することができる。本発明に用いられる熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の製造方法は、例えば、ポリエステルブロック共重合体(A)、ポリビニルアルコール樹脂(B)、シランカップリング剤(C)、酸化防止剤(D)を配合した原料を、スクリュー型押出機に供給し溶融混練する方法など適宜採用することができる。上記方法により、得られた熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)は、ペレット化し、その後の成形に用いることもできる。
【0043】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体では、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間に介在させる方法は、例えば、熱可塑性樹脂組成物(X)が金属部材(Z)の表面に接する部分に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を被覆し、その後熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の表面に熱可塑性樹脂(X)を積層する方法が挙げられる。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体では、好ましくは、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、金属部材(Z)の少なくとも一部において全周を被い、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が、金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)との間で、金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)を接合する。特に、金属部材(Z)の一部において全周を熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)で被う部分を設けることで、金属(Z)と熱可塑性樹脂組成物(X)の間には、必ず熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が存在する構造となり、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が間に存在し、両者に接合することで気密性を有する。
【0045】
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を金属部材(Z)に被覆する方法としては、シート化した熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を巻き付ける方法、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の粉体を吹き付ける方法、金属(Z)を射出成形機の金型内にインサートし熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出成形して特定の場所に被覆する方法等が挙げられ、作業性や被覆寸法を正確に制御するためには、射出成形で被覆する方法が最も好ましい。
【0046】
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が金属部材(Z)を被覆する厚みは、0.01~2.0mmが好ましく、さらに好ましくは0.02~1.0mmである。厚みが、0.01mmより薄いと、熱可塑性樹脂(X)の成形による残留応力を緩和することが不十分となり熱可塑性樹脂(X)が割れることもあり、さらに射出成形で熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を射出成形して被覆させる際には十分に成形することができず未充填となる可能性があり好ましくない。また、厚みが、2.0mmを超えると熱可塑性樹脂(X)を成形する際に溶融樹脂の熱と射出圧力で熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が溶融し、熱可塑性樹脂(X)の成形性に悪影響を及ぼし、材料物性を低下させる原因となるため好ましくない。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、熱処理を行うことで金属部材(Z)と熱可塑性樹脂組成物(X)を熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が接合することで一体複合化し、気密性を有する成形体である。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、金属部材(Z)の表面に、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が被覆され一体化した成形品を、射出成形用金型にインサートし熱可塑性樹脂を射出成形して、製造される。射出成形では熱可塑性樹脂組成物(X)成形時の溶融樹脂の熱と射出圧力により熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を溶融し、溶融層を形成することで接合することが出来る。
また、熱可塑性樹脂(X)成形時の溶融樹脂の熱で、熱可塑性エラストマー(Y)が溶融し金属部材(Z)と接合することも可能であるが、接合が不十分で長期の冷熱処理を行うとリークすることがある。そのため、熱可塑性樹脂複合成形体を製造した後、加熱処理を行うことで金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)をより強く接合させることが可能であり、長期の環境処理を行った後でも安定して気密性を得ることが可能である。環境処理としては冷熱処理、乾熱処理、湿熱処理、オートマチック・トランスミッション・フルード(以後ATF)への浸漬、ロング・ライフ・クーラントへの浸漬などが挙げられる。例えば熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点+21℃~融点+50℃のオーブン内に成形体を入れ、熱処理する方法等が挙げられる。熱処理の温度が低いと金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の接合が十分ではなく、長期の環境処理を行うとリークする可能性がある。また、熱処理温度が高すぎると熱可塑性エラストマー樹脂組成物が劣化することで、リークすることが考えられる。
【0049】
成形品形状、使用する金属種、熱可塑性樹脂種によって金属部材(Z)と熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)界面の温度上昇時間も変化するため処理温度、処理時間については適宜検討することが望ましい。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体の適用可能な用途としては、例えば、センサー、LEDランプ、コネクタ、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクタ、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、リチウムイオン電池などの電池部品、駆動モーター部品、発電モーター部品、電動パワステ部品、ブレーキ部品、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナー、パワーモジュール、ヒューズやリレースイッチが組
み込まれた電気接続箱、モーターインバーターの端子台などの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体は、接合強度および気密性に優れているので、水蒸気、水やオイルなどの液体の透過を少なくしたい、電気・電子部品集積モジュール部材やモーター、電池、モーターインバーターの端子台などの金属をインサートする部材に適している。
【実施例0052】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例でいう部および%は、特に断らない限りは質量単位を示す。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂複合成形体を用いた試験例について説明する。
【0054】
図1は、実施例1で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の模式図であり、図1(a)は試験に使用した形状が6×70×1mmで中央部にφ1.5mmの穴を開けた金属端子であり、図1(b)は、金属端子の中央部に熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を被覆した成形体であり、図1(c)は熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)を被覆した金属端子をさらに熱可塑性樹脂(X)でインサート成形して得た熱可塑性樹脂複合成形体を示す。
【0055】
図2は、実施例1で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の断面図を示し、熱可塑性樹脂(X)と金属端子の間には熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が介在している。
【0056】
図3は、実施例1で使用した金属端子および熱可塑性樹脂複合成形体の寸法であり、図3(d)は、実施例1で使用した金属端子の寸法であり、図3(e)は、実施例1で使用した熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した金属端子の寸法、図3(f)は、実施例1で使用した熱可塑性樹脂複合成形体の寸法を示す。
【0057】
[冷熱処理]
作製した熱可塑性樹脂複合成形体をエスペック社製冷熱衝撃装置TSA-41型を使用し、温度130℃で30分処理後、温度-40℃で30分処理することを1サイクルとして、50サイクル、300サイクル、500サイクル、1000サイクル時点のリーク性評価を行った。
【0058】
[湿熱処理]
作製した熱可塑性樹脂複合成形体をエスペック社製恒温恒湿機LHL-114を使用し、温度80℃、湿度95%rhで100時間処理し、リーク性評価を行った。
【0059】
[乾熱処理]
作製した熱可塑性樹脂複合成形体をエスペック社製恒温機GPH-202を使用し、温度130℃で500時間処理し、リーク性評価を行った。
【0060】
[ATF浸漬処理]
作製した熱可塑性樹脂複合成形体をENEOS社製ATFのe-トランスアクスルフルードTEに浸漬し、温度150℃で1000時間処理し、リーク性評価を行った。
【0061】
[リーク性試験]
図4に示すように、熱可塑性樹脂複合成形体を、リーク性試験測定用治具に固定し、治具のソケット部に圧縮空気を流入させる管を接続した状態で水槽内に入れる。管から圧力0.5MPaの空気を治具内に流入させて、金属部材(Z)と熱可塑性樹脂(X)の隙間から空気の漏れを確認した。
【0062】
実施例で使用する金属端子としては、アルミニウム合金製と、銅製の2種類を用いた。
【0063】
[熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の融点測定]
ティー・エイ・インスツルメント社製示差走査熱量計(DSC)Q100を使用し、10℃/分の昇温速度で常温から240℃まで加熱し融点を測定した。
【0064】
[実施例に用いた化合物]
[金属部材(Z)]
(Z-1)アルミ
(Z-2)ニッケルめっき銅
(Z-3)スズめっき銅
(Z-4)クロムめっき銅
(Z-5)銅
[熱可塑性樹脂(X)]
(X-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ(株)製“トレコン”1101G30)
(X-2)ポリフェニレンスルフィド樹脂(東レ(株)製“トレリナ”495MA2B)
(X-3)ポリアミド樹脂(セラニーズ(株)製“ザイテル”HTNFR52G35NHF)
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(Y-1)の製造]
ポリエステルブロック共重合体(A-1)として、東レ・セラニーズ(株)製ハイトレル2401、ポリビニルアルコール樹脂(B)として、積水化学工業(株)製エスレックBL-1、シランカップリング剤(C)として、東レ・ダウコーニング(株)製Z-6040、酸化防止剤(D)として、白石カルシウム(株)製ナウガード445(芳香族アミン系酸化防止剤)を、表1に示す配合比率でドライブレンドし、45mmφのスクリューを有する2軸押出機を用いて、220℃の温度設定で溶融混練したのちペレット化し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-1)を得た。
【0065】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(Y-2)の製造]
ポリエステルブロック共重合体(A-2)として、東レ・セラニーズ(株)製ハイトレル2300X06、ポリエステルブロック共重合体(A-3)として4057N、ポリビニルアルコール樹脂(B)として、積水化学工業(株)製エスレックBL-1、シランカップリング剤(C)として、東レ・ダウコーニング(株)製Z-6040、酸化防止剤(D)として、白石カルシウム(株)製ナウガード445(芳香族アミン系酸化防止剤)を、表1に示す配合比率でドライブレンドし、45mmφのスクリューを有する2軸押出機を用いて、220℃の温度設定で溶融混練したのちペレット化し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-2)を得た。
【0066】
[熱可塑性ポリエステルエラストマー(Y-3)の製造]
ポリエステルブロック共重合体(A-4)として、東レ・セラニーズ(株)製ハイトレル2551、ポリビニルアルコール樹脂(B)として、積水化学工業(株)製エスレックBL-1、シランカップリング剤(C)として、東レ・ダウコーニング(株)製Z-6040、酸化防止剤(D)として、白石カルシウム(株)製ナウガード445(芳香族アミン系酸化防止剤)を、表1に示す配合比率でドライブレンドし、45mmφのスクリューを有する2軸押出機を用いて、240℃の温度設定で溶融混練したのちペレット化し、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y-3)を得た。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1~12、比較例1~4
図1に示す熱可塑性樹脂複合成形体を作製して気密性評価を実施した。
熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)が金属部材(Z)を被った成形品を成形する金型に、図1(a)に示す6×70×1mmで中央部にφ1.5mmの穴を開けた金属部材(Z)をインサートし、インラインスクリュー型射出成形機(日精樹脂工業製NEX-1000)を用いて、厚み0.4mm、長さ6mmで図1(b)の形状になるように金属端子に熱可塑性エラストマー樹脂組成物を被覆した。次に、熱可塑性樹脂(X)を射出成形し、図1(c)の熱可塑性樹脂複合成形体を得た。表2に示す金属部材(Z)、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)、熱可塑性樹脂(X)の組合せで作製した熱可塑性樹脂複合成形体をオーブンで加熱処理を行った。環境処理として冷熱処理、湿熱処理、乾熱処理、またATFへの浸漬処理を行い、各環境処理後にリーク性試験を行った。
使用した材料、加熱処理条件、気密性評価の結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
以上の結果より、実施例1~12に示した熱可塑性樹脂複合成形体は、冷熱処理500サイクル後も空気の漏れは確認されなかった。。さらに1000サイクル後も空気の漏れは確認されなかった。
【0071】
一方で、加熱処理を行っていない比較例1では冷熱処理50サイクル後ではリークしないが、100サイクル処理後では空気の漏れが確認された。また、比較例2~3の熱可塑性樹脂複合成形体についても冷熱処理100サイクル後に空気の漏れが確認された。
【0072】
実施例2に示した熱可塑性樹脂複合成形体は温度80℃、湿度95%rhで100時間の湿熱処理後も空気の漏れは確認されなかった。また、130℃で500時間の乾熱処理後も空気の漏れは確認されなかった。さらに、ATFに1000時間浸漬後も空気の漏れは確認されなかった。
【0073】
一方で、実施例2と同じ金属(Z)、熱可塑性樹脂(X)、熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)の組み合わせだが加熱処理を行っていない比較例4に示す熱可塑性樹脂複合成形体は、比較例1~3と同じく、冷熱処理50サイクル時に空気の漏れは確認されなかったが、100サイクル処理以降では空気の漏れが確認された。また、乾熱処理、湿熱処理、ATF浸漬処理のいずれの処理後についても空気の漏れが確認された。
このことから一定の温度で加熱処理を行った熱可塑性樹脂複合成形体は長期的な環境処理後も安定した気密性が確認された。
【符号の説明】
【0074】
1.金属部材(Z)である端子
2.貫通穴
3.熱可塑性エラストマー樹脂組成物(Y)
4.熱可塑性樹脂(X)
5.リーク性試験測定用治具
6.ソケット部
7.圧縮空気流入管
図1
図2
図3
図4