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特開2025-31636熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031636
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20250228BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20250228BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20250228BHJP
   C08L 23/26 20250101ALI20250228BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20250228BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L53/02
C08K5/098
C08L23/26
C08G63/672
C08J5/18 CER
C08J5/18 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024138897
(22)【出願日】2024-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2023136985
(32)【優先日】2023-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322012860
【氏名又は名称】東レ・セラニーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】西山 彰秀
(72)【発明者】
【氏名】中尾 優一
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F071AA15X
4F071AA21X
4F071AA22X
4F071AA47
4F071AA75
4F071AA88
4F071AC11
4F071AE05
4F071AF25Y
4F071AF30Y
4F071AH11
4F071AH12
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC01
4F071BC12
4J002AE05Z
4J002BB23Y
4J002BP01X
4J002CF10W
4J002EG026
4J002FD02Z
4J002GM00
4J002GQ00
4J029AA03
4J029AC03
4J029AD06
4J029AD10
4J029AE01
4J029BA05
4J029BF25
4J029CB06A
4J029HA01
4J029HB01
4J029JB131
4J029JE182
4J029JF321
4J029KE03
4J029KE06
(57)【要約】
【課題】
柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる熱可塑性エラストマ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%と、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)0.01~3質量部および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)0.2~20質量部を配合してなり、厚さ2mmのシートで測定したヘイズ値(曇度)が60%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【選択図】
なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%と、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)0.01~3質量部および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)0.2~20質量部を配合してなり、厚さ2mmのシートで測定したヘイズ値(曇度)が60%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25質量%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)との合計100質量部に対し、軟化剤(E)1~100質量部を配合してなることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項3】
JIS K7215に記載された方法に従って測定した表面硬さが90A以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物からなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート単位のような結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合は、押出成形性、射出成形性に優れるばかりか、機械的強度が高く、耐衝撃性、弾性回復性、耐屈曲疲労性、柔軟性などのゴム的性質、低温および高温特性、耐水性、耐薬品性などに優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であるため、自動車部品および電気・電子部品、繊維、フィルムなどの分野に用途を拡大している。
【0003】
ポリエステルブロック共重合体は、理論的にはソフトセグメントの質量比の増加により柔軟化が可能であるが、特徴である良成形加工性(固化速度、離型性)や耐熱性が急激に低下する。実質、表面ショアD硬度30が限界であり、柔軟性はエンプラ系エラストマおよび汎用エラストマ中、最も硬質のエラストマとして位置づけられており、その用途展開に制限を受けている。
【0004】
また、溶融時は透明であっても、冷却固化時は白濁して不透明になるため、透光性や透明性を要求される用途には用いることが困難であり、透明性や透光性を有しながら柔軟なものを得ることは、特に困難であった。
【0005】
ポリエステルブロック共重合体を透明化する技術については、これまでにも検討されており、例えば、ポリエーテルエステルブロック共重合体にカルボン酸のナトリウム塩を配合して透明化した樹脂組成物(例えば、特許文献1参照)、およびポリエステルブロック共重合体に対し、ポリエーテルエステルブロック共重合体にエチレン単位およびカルボン酸含有単位を含有させ、このカルボン酸単位が金属イオンで中和された共重合体を単独でまたはカルボン酸のアルカリ金属塩とともに配合して透明化した樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)がすでに提案されている。
【0006】
これらの従来例によれば、確かに従来のポリエステルブロック共重合体に比べて透光性や透明性のある樹脂組成物を得ることはできるが、反面柔軟性は不足していた。
【0007】
ポリエステルブロック共重合の柔軟性を改良する従来の試みとしては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加誘導体とゴム用軟化剤とポリエステル系エラストマとからなる組成物(例えば、特許文献3参照)、および熱可塑性ポリエステルエラストマに水添ジエン系共重合体と可塑剤を配合した組成物(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0008】
これらの従来例によれば、ポリエステルブロック共重合体にスチレンーブタジエンブロック共重合とゴム用軟化剤や水添ジエン系共重合体と可塑剤を配合することで、従来のポリエステルブロック共重合よりも柔軟な樹脂組成物を得ることができるが、透明性や透光性のあるものを得ることはできなかった。
【0009】
一方で、透明で柔軟なポリエステルブロック共重合を得るために、ポリエステルブロック共重合に水素添加されたスチレン系エラストマと、側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体および/またはカルボン酸のアルカリ金属塩および/または有機リン酸エステル化合物のアルカリ金属塩を配合した組成物(例えば、特許文献5参照)や、スチレン系エラストマ、軟化剤、熱可塑ポリエステルブロック共重合、アイオノマーを配合した組成物(例えば、特許文献6参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭52-4549号公報
【特許文献2】特開平10-182954号公報
【特許文献3】特開平1-193352号公報
【特許文献4】特開平4-323250号公報
【特許文献5】特開2004-143352号公報
【特許文献6】特開2016-79226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献5、6では、確かに柔軟で透明性に優れる樹脂組成物であるが、透明性(ヘイズ値)が不十分であり、優れた外観の求められる部材への展開が困難である。また、特許文献6では特定の軟化剤を配合しなければ、柔軟で透明性に優れる熱可塑性エラストマ樹脂組成物が得られないなど、制限もある。
【0012】
本発明の目的は、柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる熱可塑性エラストマ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、スチレン-ブタジエンブロック共重合体に注目した。具体的には、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体およびそのスチレン含有量に着目し、スチレン含有量が25wt%未満のSEBSと、特定のポリエステルブロック共重合体、およびカルボン酸のアルカリ金属塩および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体を用いると、柔軟で透明性に優れる熱可塑性が得られることを見出した。
【0014】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の発明を提案するに至った。即ち本発明の様態は、以下の通りである。
(1)結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%と、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)0.01~3質量部および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)0.2~20質量部を配合してなり、厚さ2mmのシートで測定したヘイズ値(曇度)が60%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(2)さらに、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25質量%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)との合計100質量部に対し、軟化剤(E)1~100質量部を配合してなることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(3)JIS K7215に記載された方法に従って測定した表面硬さが90A以下であることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
(4)(1)~(3)のいずれかに記載の熱可塑性エラストマ樹脂組成物からなる成形体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる熱可塑性エラストマ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳述する。
【0017】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)を含有する。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4'-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、および3-スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4'-ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、およびアジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0018】
ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、
ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,
2'-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒ
ドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ
)フェニル]シクロヘキサン、4,4'-ジヒドロキシ-p-ターフェニル,4,4'-
ジヒドロキシ-p-クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオー
ルもエステル形成性誘導体、例えばアセチル体、およびアルカリ金属塩などの形でも用い
得る。
【0019】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上を併用してもよい。
【0020】
そして、好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a)の例としては、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0021】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)は、脂肪族ポリエーテルおよび/または脂肪族ポリエステルであり、脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。
【0022】
また、脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプリロラクトン、およびポリブチレンアジペートなどが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましい。また、これらの低融点重合体セグメントの数平均分子量としては共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(b)の共重合量は、通常、10~90質量%、好ましくは20~85質量%、さらに好ましくは40~80質量%である。
【0024】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。この製造方法の具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール、および低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、ジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、あらかじめ高融点結晶性セグメントを作っておき、これに低融点セグメント成分を添加してエステル交換反応によりランダム化せしめる方法、および高融点結晶性セグメントと低融点重合体セグメントを鎖連結剤でつなぐ方法などが挙げられる。さらに、ポリ(ε-カプロラクトン)を低融点重合体セグメントに用いる場合には、高融点結晶性セグメントにε-カプロラクトンモノマを付加反応させるなどのいずれの方法をとってもよい。
【0025】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)を含有する。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体からなるブロックと、共役ジエンからなるブロックから形成されるスチレン系ブロック共重合体を水素添加して得られるものである。
【0026】
上記芳香族ビニル系単量体の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-エチルスチレン、およびo,p-ジクロルスチレンなどが挙げられる。
【0027】
また、共役ジエンの具体例としては、ブタジエン、ブタジエン/イソプレン共重合体、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、などが挙げられる。中でもブタジエンが好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)は、ブロック共重合体におけるスチレン系単量体の含有量が25wt%以下である。好ましくは20wt%以下であり、19wt%以下がさらに好ましい。また、5wt%以上が好ましく、10wt%以上がさらに好ましく、最も好ましくは14wt%以上である。スチレン含有量が25wt%より多いSEBSはポリエステルブロック共重合と相溶性や屈折率が異なるため、透明性が低下してしまう。
【0029】
ブロック共重合体に含まれるスチレン含有量は、JIS K6239(2007年発行)に記載のIR法に準拠した方法や、公知の方法で測定できる。
【0030】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられるスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)は変性されていても良い。変性はカルボキシル基含有不飽和化合物または酸無水物含有不飽和化合物、あるいはエポキシ基含有モノマーによって行われる。カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、およびマレイン酸などが挙げられる。酸無水物含有不飽和化合物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸、ブテニル無水コハク酸、およびテトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。エポキシ基含有モノマーの具体例としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、およびヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物においては、ポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%に対し、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)を90~5質量%、好ましくは85~7質量%、さらに好ましくは80~10質量%、最も好ましくは60~10質量%配合する。スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の配合量が上記の範囲に満たない場合は、柔軟性などが不十分であり、上記の範囲を越える場合は、耐熱性、耐薬品性、成形性などが不十分となるため好ましくない。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)を含有する。
【0033】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いられる成分の一つであるカルボン酸のアルカリ金属塩(C)を含有すると透明性を向上させることができる。好ましくは、脂肪族カルボン酸金属塩であり、より好ましくは炭素数が10以上の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩であり、さらに好ましくは、炭素数10~20の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩である。炭素数9以下の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩は、少量の配合で透明性を向上させることができる点で好ましいが、炭素鎖が短いため熱処理でブリードアウトを引き起こしてしまう場合がある。脂肪族カルボン酸とは、直鎖または分岐した脂肪族基にカルボキシル基が付いた化合物であり、結合の一部に、不飽和基、脂環族基、芳香族基あるいは水酸基、リン酸エステル基などのその他の置換基を有していても良い。
【0034】
脂肪族カルボン酸の中で、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸などが好ましく、アルカリ金属塩の中では、ナトリウム塩やカリウム塩がポリエステルエラストマに対する溶解性、良結晶核形成性の点で好ましい。
【0035】
カルボン酸のアルカリ金属塩(C)の配合量は、ポリエステルブロック共重合体(A)およびスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して、0.01~3質量部であることが好ましい。カルボン酸のアルカリ金属塩(C)の添加量は、より好ましくは0.05~2質量部、さらに好ましくは0.1~1質量部である。
【0036】
カルボン酸のアルカリ金属塩(C)の配合量が0.01未満であると、透光性や透明性が不十分であり、3質量部を超えると加工時に発生するガスが多くなり、成形性に影響がでる場合があると考えられる。なお、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)は、1種または2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の成分の一つである側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)は、透明性を向上させるだけではなく、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の相溶性を向上させる。側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体(D)は、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸などのエチレン系不飽和カルボン酸との共重合体を、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、亜鉛イオンなどで中和したもので、これらは、例えばデュポン社から”サーリン”または三井・ダウポリケミカル社から”ハイミラン”として市販されているものである。中でもナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属イオンで中和したものが好ましい。
【0038】
これらの側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体(D)は、ポリエステルブロック共重合体(A)およびスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して0.2質量部以上20質量部以下である。好ましくは、0.5~15質量部、特に好ましくは1~10質量部配合する。
【0039】
側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体(D)の配合量が0.2質量部未満では、透光性や透明性が不十分であり、20質量部を超えると相分離が起こり、機械的な物性と透光性や透明性が低下すると考えられる。
【0040】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、厚さ2mmのシートで測定したヘイズ値が60%以下である。ヘイズ値が60%を越えると、光拡散が大きく、透明性が十分ではない。好ましくは55%以下であり、さらに好ましくは50%以下であり、最も好ましくは40%以下である。ヘイズ値が40%以下であれば、自動車部品や電気電子部品などの高い透明性の要求される用途に適応しうる。
【0041】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、JIS K7215に記載された方法に従って測定した表面硬さが90A以下であることが好ましい。さらに好ましくは85A以下であり、より好ましくは80A以下であり、最も好ましくは78A以下である。表面硬度が90A以下であれば、自動車内装用途、電子電気用用途、筆記具、工具、カメラ、自転車等のグリップ、クッション、表皮などの高い柔軟性が求められる用途へ適応することができる。
【0042】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、さらに軟化剤(E)を添加することができる。軟化剤(E)として、公知の可塑剤や公知のゴム用配合油を配合することによって、透光性や透明性を保ちつつ柔軟性や溶融流動性を向上させることができる。可塑剤はポリエステルブロック共重合体(A)と相溶性がよく、ゴム用配合油はスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)と相溶性が良い。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いても良い可塑剤の具体例としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリス-ジクロロプロピルホスフェートなどのリン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル、トリメリット酸イソデシルエステルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、ジペンタエリスリトールエステル系可塑剤、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアゼレート、ジオクチルセバケート、メチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸オクチルエステルなどのピロメリット酸エステル系可塑剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化可塑剤、アジピン酸エーテルエステル、ポリエーテルエステル、ポリエーテルなどのポリエーテル系可塑剤、およびジエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、グリセリルトリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールエタントリベンゾエートなどのベンゾエート系可塑剤などを挙げることができ、これらの中でもエーテル系可塑剤、ベンゾエート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、およびピロメリット酸エステル系可塑剤から選ばれた1種以上の化合物であることが好ましい。より好ましくは、エーテル系可塑剤である。これらの可塑剤は単独でまたは2種以上組み合せて用いることができる。これらの可塑剤の沸点は200℃以上のものが好ましく、更に好ましくは300℃以上で
ある。
【0044】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物で用いても良いゴム用配合油の具体例としては、ナフテン系オイルやパラフィン系オイルなどの鉱物油系配合油、およびポリブテンや低分子量ポリブタジエンなどの合成樹脂系配合油が挙げられるが、これらの中でもパラフィン系オイルおよび/またはナフテン系オイルが好ましく用いられる。これらのゴム用配合油は単独でまたは2種以上組み合せて用いることができる。これらのゴム用配合油の沸点は200℃以上のものが好ましく、更に好ましくは300℃以上で
ある。
【0045】
本発明において軟化剤(E)を用いる場合は、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して、1~100質量部を含有する。好ましくは1~50質量部であり、より好ましくは1~10質量部である。1質量部より少ないと柔軟性や溶融流動性の付与が小さく、100質量部より多いとブリードアウト等などにより外観に課題が生じる可能性がある。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、透光性や透明性を保ちつつ、ブロッキングや表層剥離の発生を抑制するために、脂肪酸アミド化合物を配合しても良い。
【0047】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物に用いても良い脂肪酸アミド化合物は、脂肪酸とアミン化合物の反応によって得られる化合物であり、アルキレンビス高級脂肪酸アミド化合物、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの反応によって得られるカルボン酸アマイド系ワックスから選ばれた1種以上の化合物などを挙げることができる。アルキレンビス高級脂肪酸アミド化合物の具体例としては、オレイルオレイン酸アミド、ステアリルオレイン酸アミド、オレイルステアリン酸アミドなどのモノアミド化合物、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスラウリン酸アミド、メチレンビスカプリン酸アミド、メチレンビスミリスチン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスミリスチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミドなどのアルキレン対称ビス高級脂肪酸アミド、メチレンステアリルオレイルビスアミド、メチレンステアリルラウリルビスアミド、メチレンパルミトレイルオレイルビスアミド、エチレンステアリルオレイルビスアミド、エチレンステアリルラウリルビスアミド、およびエチレンパルミトレイルオレイルビスアミドなどを具体的に挙げることができる。また、アルキレン対称ビス高級脂肪酸アミドとアルキレン非対称ビス高級脂肪酸アミド化合物の混合物であってもかまわない。
【0048】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物において、これらの脂肪酸アミド化合物を用いる場合は、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して、0.01~5質量部、好ましくは0.05~3質量部を含有する。
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物においては、さらに、ヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤、過酸化物分解剤および光安定剤から選ばれた1種以上を配合することによって、透明性を保ちつつ熱や光による変色に対する耐性を向上させることができる。ここで用いるヒンダードフェノール系ラジカル捕捉剤としては、分子量が500以上のヒンダードフェノール系化合物が好ましい。過酸化物分解剤としてはホスファイト系化合物および/またはチオエーテル系化合物が好ましい。ホスファイト系化合物としては、分子中に2個以上のリン原子を有するものがさらに好ましい。光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、およびヒンダードアミン系化合物などが好ましい。これらを単独で用いてもよいが、ベンゾトリアゾール系化合物あるいはベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤と、ヒンダードアミン系光安定剤を組み合わせて用いることがさらに好ましい。
【0050】
これらの酸化防止剤や光安定剤を用いる場合は、ポリエステルブロック共重合体(A)とスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)の合計100質量部に対して、各々0.01~5質量部、好ましくは0.1~3質量部を含有する。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、その他各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、本発明以外の樹脂、難燃剤、無機フィラー、安定剤、及び老化防止剤を熱可塑性エラストマへの添加剤として広く用いられているものを本発明の特徴(厚さ2mmのシートで測定したヘイズ値が60%以下)を損なわない範囲で添加することができる。
【0052】
また、その他の添加剤として、着色顔料、無機、有機系の充填剤、カップリング剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤等の安定剤、多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマ等を添加することもできる。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物の製造方法については、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルブロック共重合体、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体、カルボン酸のアルカリ金属塩および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体をはじめとする他の添加物を一緒に配合した原料をスクリュー型押出機に供給し溶融混練する方法、またスクリュー型押出機に、まずポリエステルブロック共重合体を供給して溶融し、さらに他の供給口より、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体、カルボン酸のアルカリ金属塩および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン系共重合体をはじめとする他の添加物を供給混練する方法などを適宜採用することができる。
【0054】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、射出成形や押出成形などにより成形され、柔軟かつ透明性または透光性を有し、反発弾性のようなゴム弾性に優れ、破断強さや破断伸度などの機械的特性が高く、しかも表面外観の美しい成形品を与える。このため自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費財用途の各種成形品などに有用である。さらに、グリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、表皮、およびシートなどにも適している。本発明の成型体は本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物からなる。
【0055】
また、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物からなる層と硬質樹脂層とを積層させてなる複合成形体を得ることも有用である。硬質樹脂層を構成する硬質樹脂としては、複合成形品の剛性を保持し、目的の機械的強度を有する樹脂であれば、特に限定されるものではない。具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、およびポリオレフィン樹脂などが挙げられるが、これらの中でもポリカーボネート樹脂、ABS樹脂、PBT樹脂、PCTA樹脂、およびポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0056】
複合成形体は、共押出成形法や、二色成形をはじめとする多色射出成形法などによって製造される。本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、これらの硬質樹脂との接着性に優れている。これらの複合成形体は、各種筐体、アンテナカバー、コネクター、グリップ、ローラー、キャスター、ホース、多層チューブなどに好ましく使用することができる。
【実施例0057】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、断りのない場合すべて質量基準である。また、実施例中に示される物性は次のように測定した。
【0058】
・融点
差動走査熱量計(TAインスツルメント社製DSC Q1000)を使用して、窒素ガス雰囲気下、10℃/分の昇温速度で加熱した時の融解ピークの頂上温度を測定した。
【0059】
・表面硬度(ショアAスケ-ル)
JIS K-7215に従って測定した。
【0060】
・全光線透過率およびヘイズ値
日精樹脂工業社製の電気式射出成型機(NEX-1000)を用いて、220℃(金型温度:40℃)の条件で、125mm×75mm、厚さ2mmの試験片を作製した。試験片の表面粗さは、KEYENCE社製VK-9700を用いて測定したところ、0.46μmであった。その試験片を用いて、ASTM D1003に従い、東洋精機製作所社製DIRECT READING HAZEMETERを用いて測定した。
【0061】
・溶融粘度(MFR)
ASTM D-1238に従って、210℃、荷重2160gで測定した。
【0062】
参考例
ポリエステルブロック共重合体(A-1)の製造
結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメントとなるテレフタル酸234部、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントとなる数平均分子量約2000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール754部、さらに、1,4-ブタンジオール228部、チタンテトラブトキシド0.2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。ポリエステルブロック共重合体成分100質量部に対して”IRGANOX”1330(BASF社製ヒンダードフェノール系ラジカル補足剤)0.5質量部を添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で3時間30分重合を行わせた。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なってペレットとした。
【0063】
ポリエステルブロック共重合体(A-2)の製造
結晶性芳香族ポリエステルからなる高融点結晶性重合体セグメントとなるテレフタル酸278部、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメントとなる数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール686部、さらに1,4-ブタンジオール316部、チタンテトラブトキシド0.1部を共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190~225℃で3時間加熱して反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行なった。ポリエステルブロック共重合体成分100質量部に対して“IRGANOX”1330(BASF社製ヒンダードフェノール系ラジカル補足剤)を0.1質量部添加した後、245℃に昇温し、次いで50分かけて系内の圧力を0.2mmHgの減圧とし、その条件下で2時間45分重合を行わせた。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なってペレットとした。
【0064】
表1にA-1、A-2の組成と物性を示す。なお、表中、低融点重合体セグメントの種類で、PTMGはポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールを表し、数字は数平均分子量を示す。BDは1,4-ブタンジオールを表す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1~10
参考例で得られたポリエステルブロック共重合体(A-1)あるいは(A-2)に、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(旭化成株式会社製“タフテック”H1521、スチレン含有量18wt%)(B-1)、あるいは(旭化成株式会社製“タフテック”H1521、スチレン含有量12wt%)(B-3)、カルボン酸のアルカリ金属塩(日東化成工業株式会社製ナトリウムステアレート(ステアリン酸ナトリウム))(C-1)あるいは(日東化成工業株式会社製NS-3A(ラウリン酸ナトリウム))(C-2)、KS-3(ラウリン酸カリウム)(C-3)、側鎖にカルボン酸ナトリウム塩基を有するエチレン系共重合体(DuPont社製“サーリン”AD8610)(D-1)、あるいは軟化剤(エーテル系可塑剤、三洋化成工業株式会社製“サンフレックス”EB―400)(E-1)あるいは、(パラフィン系オイル、出光興産株式会社社製“ダイアナプロセスオイル”PW-100G)(E-2)を表2に示すような配合比率でドライブレンドし、45mmφのシリンダー径を有する二軸押出機を用いて、溶融混練したのちペレット化した。このペレットを80℃で3時間乾燥後、日精樹脂工業社製の電気式射出成型機(NEX-1000)を用いて、220℃(金型温度:40℃)の条件で、125mm×75mm、厚さ2mmの試験片を作製した。得られた厚さ2mmのシートを用いて、全光線透過率、ヘイズ値を測定した。また、表面硬度をJIS K-7215に従って測定した。
【0067】
比較例1~2
参考例で得られたポリエステルブロック共重合体(A-1)あるいは(A-2)に、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(旭化成株式会社製“タフテック”H1521、スチレン含有量18wt%)(B-1)またはスチレン含有量が25wt%よりも多いスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(旭化成株式会社製“タフテック”H1041、スチレン含有量30wt%)(B-2)、カルボン酸のアルカリ金属塩(日東化成工業株式会社製NS-3A(ラウリン酸ナトリウム))(C-2)を表2に示すような配合比率でドライブレンドし、45mmφのシリンダー径を有する二軸押出機を用いて、溶融混練したのちペレット化した。このペレットを80℃で3時間乾燥後、日精樹脂工業社製の電気式射出成型機(NEX-1000)を用いて、220℃(金型温度:40℃)の条件で、125mm×75mm、厚さ2mmの試験片を作製した。得られた厚さ2mmのシートを用いて全光線透過率、ヘイズ値を測定した。また、表面硬度をJIS K-7215に従って測定した。
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
表2、3の実施例1~10から明らかなように、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%と、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)0.01~3質量部および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)0.2~20質量部を配合したポリエステルエラストマ樹脂組成物は、柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる。
【0071】
比較例1より、ポリエステルブロック共重合体(A)およびスチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)は含有するが、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)や側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)を含有しない熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、透明性が劣る。また、比較例2から、ポリエステルブロック共重合体10~95質量%と、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩0.01~3質量部を配合しても、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体のスチレン含有量が25%より多いと、ポリエステルブロック共重合と相溶性や屈折率が異なるため透明性が低下する。
【0072】
【表4】
【0073】
表4の実施例6、8、9から明らかなように、結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a)10~50質量%と、脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(b)90~50質量%とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)10~95質量%と、スチレン含有量が25wt%以下のスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン(SEBS)ブロック共重合体(B)90~5質量%との合計100質量部に対し、カルボン酸のアルカリ金属塩(C)0.01~3質量部および/または側鎖にカルボン酸金属塩基を有するエチレン共重合体(D)0.2~20質量部、さらに軟化剤(E)1~100質量部を配合したポリエステルエラストマ樹脂組成物は、より柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れるだけではなく、MFRが高く高流動である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、従来のポリエステルエラストマ樹脂組成物に比べて、柔軟で透明性に優れ、良触感で外観に優れる熱可塑性エラストマ材料として有用である。例えば、自動車内装用途、電子電気用用途、筆記具、工具、カメラ、自転車等のグリップ、クッション、表皮などに使用が期待される。