(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031659
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】信号処理方法
(51)【国際特許分類】
H04R 3/04 20060101AFI20250228BHJP
H03G 5/16 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
H04R3/04
H03G5/16 165
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024140684
(22)【出願日】2024-08-22
(31)【優先権主張番号】20237145
(32)【優先日】2023-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(71)【出願人】
【識別番号】524315086
【氏名又は名称】オイクサウンド オーワイ
【氏名又は名称原語表記】oeksound oy
【住所又は居所原語表記】Hermannin rantatie 2 B 6, 00580 Helsinki Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】トミ・グローン
(72)【発明者】
【氏名】オリ・ケスキネン
【テーマコード(参考)】
5D220
5J030
【Fターム(参考)】
5D220AA50
5D220AB01
5J030AA01
5J030AA12
5J030AA15
5J030AB01
5J030AB03
5J030AC20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】適応トーナリティ制御を提供する信号処理方法、プログラム及びデジタル信号処理装置を提供する。
【解決手段】信号処理方法は、形状依存フィルタ振幅応答を計算し30、レベル依存フィルタ振幅応答を計算し20、形状及びレベル依存フィルタ振幅応答に基づいて結果応答を計算し40、入力信号を結果応答と畳み込むことで出力信号を計算する50。形状依存フィルタ振幅応答の計算は、信号の振幅スペクトルを計算し110、第1の平滑化フィルタを使用して得られる振幅スペクトルをフィルタリングし120、所定の重み付け曲線をスペクトルに適用し130、曲線を重み付けスペクトルにフィッティングし、重み付けスペクトルからフィッティングされた曲線を減算することによって重み付けスペクトルをデトレンドし140、結果として得られるスペクトルを反転させて形状依存フィルタ振幅応答を形成する150。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル信号処理装置における音響信号の処理方法であって、
形状依存フィルタ振幅応答が計算され(30)、
レベル依存フィルタ振幅応答が計算され(20)、
前記形状及びレベル依存フィルタ振幅応答に基づいて結果応答が計算され(40)、
入力信号を前記結果応答と畳み込むことによって出力信号が計算され(50)る、該方法において、
前記形状依存フィルタ振幅応答の前記計算は、少なくとも、
信号の振幅スペクトルを計算するステップ(110)と、
前記結果として得られた振幅スペクトルを第1の平滑化フィルタを使用してフィルタリングするステップ(120)と、
第1の所定の重み付け曲線を前記スペクトルに適用するステップ(130)と、
前記重み付けされたスペクトルに曲線をフィッティングし、前記フィッティングされた曲線を前記重み付けされたスペクトルから減算することによって、前記重み付けされたスペクトルをデトレンドするステップ(140)と、
前記結果として得られたスペクトルを反転させて、前記形状依存フィルタ振幅応答を形成するステップ(150)と、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記方法は、前記フィルタリングするステップの後に、
計算の複雑さを低減するために、前記振幅スペクトルの第1のリサンプリングを実行するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記反転するステップの後に、
前記第1のリサンプリングを戻すために、前記フィルタ振幅応答をリサンプリングするステップをさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記反転するステップの後に、
前記フィルタ振幅応答に位相変換関数を適用するステップをさらに含むこと特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レベル依存フィルタ振幅応答の計算(20)が、少なくとも、
信号の前記計算された振幅スペクトルを、第2の平滑化フィルタを用いてフィルタリングするステップ(210)と、
第2の所定の重み付け曲線を前記スペクトルに適用するステップ(220)と、
前記平滑化されたスペクトルにレベル制限関数を適用することによって、レベル依存フィルタ振幅スペクトルを形成するステップ(230)と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記結果応答は、次式で計算されることを特徴とする、請求項1に記載の方法:
|H|=p*exp(log(A)*exp(q*log(B))+log(B))
=p*exp(log(A))^exp(q*log(B))*exp(log(B))
=p*A^(B^q)*B
ここで、
|H|は結果応答であり、
pは所定の一定利得補償係数であり、
qは所定の動的遷移急峻度係数であり、
Aは前記形状依存フィルタ振幅応答であり、
Bは前記レベル依存フィルタ振幅応答である。
【請求項7】
前記第1の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、
前記第2の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、
前記第2の平滑化フィルタのカットオフ点は、前記第1の平滑化フィルタのカットオフ点よりも低いことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータプログラム製品であって、前記プログラムがコンピューティングデバイスによって実行されると、前記コンピューティングデバイスに請求項1に記載の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラム製品。
【請求項9】
1つ又は複数のプロセッサ(310)と、1つ又は複数のコンピュータ可読記憶媒体(320)とを有するデジタル信号処理装置(300)であって、
前記記憶媒体は、前記1つ又は複数のプロセッサによって実行されると、前記1つ又は複数のプロセッサに、請求項1に記載の方法のステップを実行させる命令(322、324)を記憶していることを特徴とするデジタル信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<発明の分野>
本発明はオーディオ信号を処理するための信号処理方法に関する。特に、本発明は、音楽信号のトーンを調整するための信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
<先行技術の説明>
高品質のプロダクションにおいて音楽信号のトーンを調整することは、専門のサウンドエンジニアを必要とする要求の厳しい作業である。トーン調整は、通常、信号音を快適にするために必要とされる。倍音列部分音(overtone series partials)のバランスは、サウンドの音色とトーンを定義する重要な側面の1つである。いくつかの心理音響的測定基準は、部分音のレベル間の特定の関係と相関することが示されている。多くの楽器と歌うボーカルは、倍音列を作り出す。倍音列の形状、すなわちそれらの相対的なレベルを調整して、よりバランスのとれた心地よいサウンドを得ることができる。
【0003】
トーン調整に加えて、ダイナミックレンジも通常制御される。これらの調整の両方は、手動の努力及び制御を必要とする。
【0004】
従来技術の構成では、処理が手動の努力及び専門知識を必要とし、典型的にはサウンドエンジニアが所与の入力信号と、その信号がリスナーにとってどのように聞こえるべきかの理解とを有し、サウンドエンジニアは所望の結果に達するようにこの特定の信号を調整する方法を知る必要がある。プロフェッショナルなサウンドデザイナーに必要とされる労力がより少ないサウンドを処理するためのより簡単な方法が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、独立請求項の特徴部分に記載の方法を対象とする。本発明はまた、独立装置請求項の特徴部分に記載されたデジタル信号処理装置に関する。本発明はまた、独立コンピュータプログラム製品請求項に記載のコンピュータプログラム製品を対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ユーザが所望の重み付け曲線(又は加重曲線/weighting curve)を指定することができ、処理装置が入力信号をどのようにフィルタリングするかを計算する、適応トーナリティ制御(adaptive tonality control)を提供するデジタル信号処理装置のための信号処理方法を提供することによって、従来技術の問題を解決する。本発明の一実施形態では、この計算は以下のように実行される。
【0007】
本方法においては、形状依存フィルタ振幅応答(shape dependent filter magnitude response)が計算され、レベル依存フィルタ振幅応答(level dependent filter magnitude response)が計算され、形状及びレベル依存フィルタ振幅応答に基づいて結果応答(result response)が計算され、入力信号を結果応答と畳み込むことによって出力信号が計算される。特に、形状依存フィルタ振幅応答の計算は、少なくとも、
-信号の振幅スペクトルを計算するステップと、
-第1の平滑化フィルタを使用して、結果として得られた振幅スペクトルをフィルタリングするステップと、
-所定の重み付け曲線(又は、加重曲線/weighting curve)をスペクトルに適用するステップと、
-前記重み付けされたスペクトル(又は、加重スペクトル/weighted spectrum)に曲線をフィッティングし、前記フィッティングされた曲線を前記重み付けされたスペクトルから減算することによって、前記重み付けされたスペクトルをデトレンドする(又は、トレンドを除去する/傾向を除去する/曲がりを除去する/detrend)ステップと、
-結果として得られたスペクトルを反転させて、形状依存フィルタ振幅応答を形成するステップと、を含む。
【0008】
本発明のさらなる実施形態では、本方法が、ローパスフィルタリングのステップの後に、スペクトルをリサンプリングして計算の複雑さを低減するステップをさらに含む。
【0009】
本発明のさらなる実施形態では、本方法が、前記反転するステップの後に、前記フィルタ振幅応答をリサンプリングするステップをさらに含む。
【0010】
本発明のさらなる実施形態では、本方法が、前記反転するステップの後に、前記フィルタ振幅応答に位相変換関数を適用するステップをさらに含む。
【0011】
本発明のさらなる実施形態では、レベル依存フィルタ振幅応答の計算は、少なくとも
-第2の平滑化フィルタを使用して信号の前記計算された振幅スペクトルをフィルタリングするステップと、
-第2の所定の重み付け曲線をスペクトルに適用するステップと、
-平滑化されたスペクトルにレベル制限関数を適用することによって、レベル依存フィルタ振幅スペクトルを形成するステップと、を含む。
【0012】
本発明の一実施形態では、結果応答が、レベル依存フィルタ振幅応答及び形状依存フィルタ振幅応答に基づいて、応答のうちの1つがある点での結果応答により少なく影響を与えるほど、他の1つがその点での結果応答により多く影響を与え、逆もまた同様であるように動的に変化する方法で計算される。
【0013】
本発明のさらなる実施形態において、結果応答は、
-レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答により少なく影響を与えるほど、形状依存フィルタ振幅応答はその点での結果応答により多く影響を与え、
-レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果により多く影響を与えるほど、形状依存フィルタ振幅応答はその点での結果応答により少なく影響を与えるように計算される。
【0014】
本発明のさらに別の実施形態では、結果応答は、
-形状依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答により少なく影響を与えるほど、レベル依存フィルタ振幅応答はその点での結果応答により多く影響を与え、
-形状依存フィルタ振幅応答がある点での応答により多く影響を与えるほど、レベル依存フィルタ振幅応答はその点での結果応答により少なく影響を与えるように計算される。
【0015】
上記の概要は本明細書に開示される本発明の多くの実施形態のほんのわずかに関するものであり、本明細書の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。本発明のこれら及び他の特徴は、以下の本発明の詳細な説明において、及び以下の図面と併せて、より詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の様々な実施形態が、添付の図面を参照して、単なる例として、以下に詳細に説明される。
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による方法を示す
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<特定の実施形態の詳細な説明>
以下の実施形態は例示である。本明細書は「ある」、「1つの」、又は「いくつかの」実施形態を指し得るが、これは必ずしも、そのような参照がそれぞれ同じ実施形態を指すこと、又は特徴が単一の実施形態にのみ適用されることを意味しない。異なる実施形態の特徴を組み合わせて、さらなる実施形態を提供することができる。
【0018】
以下では、本発明の特徴を、本発明の様々な実施形態を実施することができる音響処理方法(又は、音声処理方法/sound processing method)の簡単な例を用いて説明する。実施形態を説明するために関連する要素のみが詳細に説明される。当業者に一般に知られている詳細は、本明細書では具体的に説明しない場合がある。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態による信号処理方法を示す。この方法は基本構造に従い、形状依存フィルタ振幅応答が計算され(30)、レベル依存フィルタ振幅応答が計算され(20)、形状及びレベル依存フィルタ振幅応答に基づいて結果応答が計算され(40)、入力信号を結果応答と畳み込むことによって出力信号が計算される(50)。入力信号は、所定数の信号サンプルを含むブロックで処理される。
図1に示されるこの基本構造は、連続的な信号分析及び処理プロセスを形成するために繰り返される。
【0020】
一般に、この基本構造を用いた信号処理方法において、形状依存処理の目的は、信号のレベルにかかわらず、相対的な目標スペクトルからの信号のスペクトルの形状のずれ(deviation)を低減することである。それに対応して、レベル依存処理は一般に、信号スペクトルの全体的な形状を参照することなく、様々な周波数における信号のレベルを調整することを目的とする。次いで、これらの2つのタイプの処理が組み合わされて、実際の信号を処理するための結果フィルタ応答を形成する。
【0021】
図1に示される本発明のこの実施形態によれば、形状依存フィルタ振幅応答の計算30は、少なくとも
-信号の振幅スペクトルを計算するステップ(110)と、
-結果として得られた振幅スペクトルを、第1の平滑化フィルタを使用してフィルタリングするステップ(120)と、
-第1の所定の重み付け曲線をスペクトルに適用するステップ(130)と、
-前記重み付けされたスペクトルに曲線をフィッティングし、前記フィッティングされた曲線を前記重み付けされたスペクトルから減算することによって、前記重み付けされたスペクトルをデトレンドするステップ(140)と、
-結果として得られたスペクトルを反転させて、形状依存フィルタ振幅応答を形成するステップ(150)と、を含む。
【0022】
ステップ130において、スペクトルに重み付け曲線を適用することは、例えば、スペクトルに所定の重み付け曲線を乗算することによって、乗算を使用して実施することができる。ステップ120において、前記第1の平滑化フィルタは例えば、ローパスフィルタとすることができる。
【0023】
本発明の特定のさらなる実施形態では、フィルタリングされたスペクトルが、計算の複雑さを低減するために、フィルタリングステップ120の後にリサンプリング(又は、再サンプリング/resample)される。このリサンプリングは、本発明の異なる実施形態において様々な方法で実行することができる。リサンプリングレートは、本発明の異なる実装形態では異なり得、特定の実装形態の特定の必要性に依存し得る。
【0024】
さらに、リサンプリングレートは、スペクトルにわたって一定である必要はない。一実施形態では、リサンプリングレートがスペクトルの異なる部分で異なることができる。例えば、さらなる実施形態では、サンプルが補間(interpolation)によって低周波数でスペクトルに追加され、一方、サンプルがデシメーション(decimation)によって高周波数で除去される。
【0025】
前記重み付けされたスペクトルをデトレンドする前記ステップ140は、本発明の異なる実施形態において多くの異なる方法で実施することができる。例えば、本発明の一実施形態では、前記重み付けされたスペクトルが詳細(details)を保持しながらスペクトルから低周波数バックグラウンドを除去するオーバーパスフィルタリング(overpass filtering)によってデトレンドされる。
【0026】
さらなる実施形態では、デトレンドが、曲線を前記重み付けされたスペクトルにフィッティングし、前記フィッティングされた曲線を前記重み付けされたスペクトルから減算することによって実行される。前記重み付けされたスペクトルへの曲線のフィッティングは、本発明の異なる実施形態において異なる方法で実行することができる。例えば、フィッティングは、重み付き又は非重み付き線形回帰(weighted or non-weighted linear regression)によって実行することができる。フィッティングはまた、非線形回帰を使用して、例えば、重み付き又は非重み付き多項式回帰を使用して、又はニューラルネットワークもしくはディープラーニングを使用することによって実装され得る。曲線のフィッティングは、本発明の異なる実施形態では当業者に知られている任意のフィッティング方法で実施することができる。
【0027】
フィルタリングステップ120の後にフィルタリングされたスペクトルがリサンプリングされた本発明のさらなる実施形態では、フィルタリングステップ120の後の第1のリサンプリングの前にフィルタリングされたスペクトルが有していた同じサンプルレートに結果を戻すために、反転するステップの後に反転された結果がリサンプリングされる。言い換えれば、スペクトルのサンプリング方式に対する第1のリサンプリングの効果を元に戻すためである。
【0028】
本発明のさらなる実施形態では、本方法が、前記反転するステップの後に、前記フィルタ振幅応答に位相変換関数を適用するステップをさらに含む。そのような実施形態は近似振幅応答を保持しながら、フィルタプリリンギング(又は、フィルタプリリング/フィルター処理された信号に現れるアーティファクト/filter prering)を低減する位相変換関数を使用することができる。このステップは例えば、前記フィルタ振幅応答にヒルベルト変換を適用することによって実施することができる。
【0029】
ヒルベルト変換は最小位相フィルタ応答を生成するための良好な選択であるが、当業者は最小位相フィルタ応答に近い、すなわち、絶対的に最小ではないとしてもほぼ最小である変換を生成する、そのような変換のいくつかの変形を知っており、こうした変形は計算するのがより安価である。したがって、本発明はヒルベルト変換のみの使用に限定されず、本発明の様々な実施形態は当業者に知られている他の位相変換関数を使用することができる。
【0030】
本発明のさらなる実施形態では、レベル依存フィルタ振幅応答の計算20は、少なくとも
-第2の平滑化フィルタを使用して信号の前記計算された振幅スペクトルをフィルタリングするステップ210と、
-第2の所定の重み付け曲線を前記スペクトルに適用するステップ220と、
-平滑化されたスペクトルにレベル制限関数(又は、レベル制限機能/level limiting function)を適用することによって、レベル依存フィルタ振幅スペクトルを形成するステップ230と、を含む。
【0031】
本発明の一実施形態では、前記第2の所定の重み付け曲線が、前記第1の所定の重み付け曲線と少なくとも部分的に異なる。しかし、本発明のさらなる実施形態では、前記第1及び第2の所定の重み付け曲線は同じである。
【0032】
本発明の様々な実施形態において、レベル制限関数は、様々な方法で実施することができる。前記レベル制限関数は例えば、周波数依存閾値、膝関数(knee functions)、ならびに時定数、及びプログラム依存関数を使用して実装することができる。前記レベル制限関数は例えば、任意の周波数依存マッピング関数gとして実施することができ、各周波数の振幅(又は、大きさ/magnitude)に対するスケーリング係数を以下のように出力する、
y[f]=g(x[f],f)*x[f]
【0033】
瞬時スケーリング係数(instantaneous scaling coefficient)は周波数依存スケーリング係数のいずれかの急激な変化を回避するために、任意の再帰的平滑化関数を用いて経時的にさらに平滑化され得る。当業者はレベル制限関数を構築する多くの異なる方法を知っており、それによって、そのような関数は、本明細書においてさらに詳細には説明されない。
【0034】
本発明のさらなる実施形態では、結果応答が、レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答に影響をより少なく及ぼすほど、形状依存フィルタ振幅応答がその点での結果応答により多く影響を及ぼし、レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答により多く影響を及ぼすほど、形状依存フィルタ振幅応答がその点での結果応答により少なく影響を及ぼすように計算される。そのような計算は、多くの異なる方法で実施することができる。そのような計算の例は、以下の段落で与えられる。
【0035】
本発明のさらなる実施形態では、本方法が、方法を実行するデバイスのユーザがこれらの応答のいずれかが結果の応答をどのぐらい及びどれだけのレベルで支配するか否かを調整することを可能にするパラメータを使用する。そのような実施形態では、本方法が事実上、レベル依存フィルタ振幅応答と形状依存フィルタ振幅応答との間の動的選択を提供する。
【0036】
本発明の一実施形態では、結果応答が以下の式を使用して計算される:
|H|=p*A^(B^q)*B (1)
ここで、
|H|は結果応答であり、
pはゼロより大きい所定の一定利得補償係数(constant gain compensation coefficient)であり、
qは0と1との間の所定の動的遷移急峻度係数(dynamic transition steepness coefficient)であり、
Aは前記形状依存フィルタ振幅応答であり、
Bは、前記レベル依存フィルタ振幅応答である。
【0037】
この実施形態では、パラメータqがユーザ調整可能なパラメータであり、最終フィルタリングに関するA及びBの相対強度に影響を及ぼす、ことを意味する。
【0038】
式(1)は、以下のような様々な方法で表すことができる:
|H|=p*exp(log(A)*exp(q*log(B))+log(B)) (2)
=p*exp(log(A))^exp(q*log(B))*exp(log(B)) (3)
=p*A^(B^q)*B
【0039】
これらの表現、又はこれらから導出される他の表現のどれが、本発明の実施形態の特定の実装において使用されるかは、そのような実装の実際的な必要性、及びどの計算方法がその実装に最も適していると考えられるかに依存する。
【0040】
本発明のさらなる実施形態では、形状依存フィルタ振幅応答A及びレベル依存フィルタ振幅応答Bのブレンディングが、線形ブレンドを使用して、例えば以下の式のうちの1つを使用して実行される:
|H|=p(B*A+(1-B))B (4)
=p(B^2*A+B-B^2) (5)
=p(B^2(A-1)+B) (6)
【0041】
AとBを組み合わせて結果応答を計算するこれらの異なる方法は単なる例であり、本発明は、これらの例のみを使用することに限定されない。当業者はこれらの実施例の変形を生成することができ、それによって、さらなる変形及び実施例は、本明細書においてさらに論じられない。
【0042】
本発明のさらなる実施形態では、前記第1の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、前記第2の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、前記第2の平滑化フィルタのカットオフ点は前記第1の平滑化フィルタのカットオフ点よりも低い。
【0043】
そのような実施形態では、レベル依存フィルタ振幅応答Bが部分的に、形状依存フィルタ振幅応答Aよりも低いカットオフ点を有するローパスフィルタリングの結果である。これは、高レベル信号セグメントに対して、本方法が時間領域選択性(time domain selectivity)について最適化し、低レベル信号セグメントに対して、本方法が周波数領域選択性(frequency domain selectivity)について最適化する効果を有する。しかしながら、フィルタのこの特定の選択は一例に過ぎず、フィルタは、本発明の異なる実施形態において異なる方法で配置することができる。
【0044】
本発明は、多くの異なる方法で実施することができる。本発明の方法は、専用の信号処理装置において、デジタルミキサユニット又は別の装置のような音響処理装置の一部として、又は例えば、デジタル音響信号(又は、音声信号/sound signal)を処理するように構成された汎用コンピューティング装置を用いて、実施することができる。さらに、本発明の方法はコンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータソフトウェアとして、又は、例えば、コンピュータネットワークを介して顧客に利用可能にされるダウンロード可能なソフトウェアとして実施することができる。
【0045】
本発明はまた、プログラムがコンピューティングデバイスによって実行されるときに、コンピューティングデバイスに本発明の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラム製品として実装することができる。
【0046】
図2は、デジタル信号処理装置300を示す。この装置は例えば、デジタルミキサユニット又は専用の音響処理装置の一部、又は例えば、音を処理するように構成された汎用コンピュータとすることができる。
【0047】
装置300は、入力302及び出力304に機能的に接続されたプロセッサ310を備える。装置はまた、プロセッサによって実行されるべき命令322、324を記憶するメモリ要素320を備える。命令は、プロセッサ310によって実行されると、本明細書で説明され、特許請求の範囲で定義されるような本発明の方法をプロセッサに実行させる。
【0048】
本発明のさらなる実施形態では、装置300が、装置がアナログ信号を入力し、アナログ信号を出力することを可能にするためのアナログデジタル(AD)変換器及びデジタルアナログ(DA)変換器など、当業者に知られている他の機能要素も備えることができる。装置はまた、複数のプロセッサを備えることができる。プロセッサは専用の信号処理プロセッサ、汎用プログラマブルマイクロプロセッサ、又は、例えば、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)を使用して実装されるプロセッサとすることができる。
【0049】
本発明はまた、プロセッサによって実行されたときに、命令がプロセッサに、請求項に記載される本発明の方法を実行させるように、記憶媒体上に記憶された命令として、ソフトウェア製品として実装され得る。記憶媒体は、揮発性メモリデバイス、又は例えば、不揮発性フラッシュメモリデバイスなどの半導体ベースのデバイスとすることができる。そのような機械可読記憶媒体のいくつかのさらなる例はRAM、ROM、読取り専用コンパクトディスク(CD-ROM)、記録可能コンパクトディスク(CD-R)、書き換え可能コンパクトディスク(CD-RW)、読取り専用デジタル多用途ディスク(たとえば、DVD-ROM、二重層DVD-ROM)、様々な記録可能/書き換え可能DVD(たとえば、DVD-RAM、DVD-RW、DVD+RWなど)、フラッシュメモリ(たとえば、SDカード、ミニSDカード、マイクロSDカードなど)、磁気及び/又はソリッドステートハードドライブ、読取り専用及び記録可能ブルーレイディスク、超密度光ディスク、ならびに任意の他の光学又は磁気媒体を含む。また、本発明は、音響処理装置にインストールできるダウンロード可能なソフトウェア製品として実施することもできる。
【0050】
図1に示される方法のほとんどは、入力信号の分析に関し、ステップ50において、分析ステップの後に、入力信号ブロックの実際の処理を行う。ステップ50における信号ブロックの処理が前のステップにおいて分析が実行された同じ信号ブロックに関するか否かは、本発明の異なる実施形態において変化する。さらに、本発明のいくつかの実施形態では、分析のために使用される入力信号ブロックのサイズと、処理のために使用される入力信号ブロックのサイズとは互いに異なり得る。
【0051】
本発明の一実施形態では、ステップ50で処理されるN個のサンプルの入力信号ブロックが前の分析ステップが基づいていたのと同じ信号ブロックである。そのような実施形態は計算上効率的であり、適応遅延(adaptation delay)がほとんどないという利点を有する。しかしながら、そのような実施形態は、入力ブロックが処理される前に分析される必要があるので、ある程度の待ち時間を有する。
【0052】
しかしながら、さらなる実施形態では、処理ステップが前回の分析ラウンドの分析結果を使用することができる。例えば、入力信号ブロックは、先行する入力信号ブロックから計算された結果応答を用いて処理することができる。
【0053】
本発明のさらなる実施形態では、分析ステップ20、30、40はN個のサンプルの入力信号ブロックを使用して実行され、そのようなブロックを使用して計算された結果応答はM個のサンプルの入力信号ブロックを畳み込むために使用される。例えば、MがNより小さい実施形態では例えば、Nが1024であり、Mが256である実施形態では、処理待ち時間は比較的小さいが、分析ステップからの処理負荷及び適応遅延は分析がM個のサンプルの信号ブロックに基づく実施形態よりも高い。
【0054】
本発明のさらなる実施形態では、処理及び分析が、出力信号ブロックを形成するための入力信号ブロックの実際の処理ステップ50が前の入力信号ブロックの分析に基づくように、入力信号サンプルストリームからN/M個のサンプルごとに形成されたN個のサンプルの入力信号ブロックに基づく。そのような実施形態では、連続する信号サンプルブロックが入力サンプルストリーム中のいくつかのサンプルと部分的に重複するので、そのような構成の主なペナルティはN/M個のサンプルのわずかな適応性遅延(adaptivity delay)である。
【0055】
<本発明の特定の利点>
本発明は多くの利点を有し、その多くは、本明細書において既に説明されている。さらに、本発明は、オーディオエンジニアのための時間を節約する、音響信号調整プロセスの一部を自動化するのに役立つ。さらに、本発明は、アマチュアのオーディオエンジニアが本発明の方法なしでは実行できないオーディオ処理を実行することを可能にする。本発明は単一のプロセスにおいてトーン制御とダイナミックレンジ制御の両方を処理するための自動化された方法を提供し、これは、オーディオエンジニアの作業及び時間を節約し、両方の制御がより最適な方法で行われることを可能にする。
【0056】
<本発明の特定のさらなる実施形態>
以下では、本発明のいくつかの実施形態について説明する。
【0057】
本発明の第1の態様によれば、デジタル信号処理装置において音響信号を処理する方法が提供される。本方法において、形状依存フィルタ振幅応答が計算され、レベル依存フィルタ振幅応答が計算され、形状及びレベル依存フィルタ振幅応答に基づいて結果応答が計算され、入力信号を結果応答と畳み込むことによって出力信号が計算される。本発明のこの第1の態様の第1の実施形態によれば、形状依存フィルタ振幅応答の計算は、少なくとも、信号の振幅スペクトルを計算するステップ(110)と、結果として生じる振幅スペクトルを第1の平滑化フィルタを使用してフィルタリングするステップ(120)と、スペクトルに第1の所定の重み付け曲線を適用するステップ(130)と、前記重み付けスペクトルをデトレンドするステップ(140)と、形状依存フィルタ振幅応答を形成するために結果として生じるスペクトルを反転するステップ(150)とを含む。
【0058】
本発明のこの第1の態様の第2の実施形態によれば、本方法は、前記フィルタリングするステップの後に、振幅スペクトルの第1のリサンプリングを実行して計算の複雑さを低減するステップをさらに含む。
【0059】
本発明のこの第1の態様の第3の実施形態によれば、本方法は、前記反転するステップの後に、前記第1のリサンプリングを戻すために、前記フィルタ振幅応答をリサンプリングするステップをさらに含む。
【0060】
本発明のこの第1の態様の第4の実施形態によれば、本方法は、前記反転するステップの後に、前記フィルタ振幅応答に位相変換関数を適用するステップをさらに含む。
【0061】
本発明のこの第1の態様の第5の実施形態によれば、レベル依存フィルタ振幅応答を計算するステップ(20)は、少なくとも、第2の平滑化フィルタを使用して信号の前記計算された振幅スペクトルをフィルタリングするステップ(210)と、スペクトルに第2の所定の重み付け曲線を適用するステップ(220)と、平滑化されたスペクトルにレベル制限関数を適用することによってレベル依存フィルタ振幅スペクトルを形成するステップ(230)とを含む。
【0062】
本発明のこの第1の態様の第6の実施形態によれば、結果応答は、レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答により少なく影響を及ぼすほど、形状依存フィルタ振幅応答がその点での結果応答により多く影響を及ぼし、レベル依存フィルタ振幅応答がある点での結果応答により多く影響を及ぼすほど、形状依存フィルタ振幅応答がその点での結果応答により少なく影響を及ぼすように計算される。
【0063】
本発明のこの第1の態様の第7の実施形態によれば、結果応答は、
|H|=p*exp(log(A)*exp(q*log(B))+log(B))
=p*exp(log(A))^exp(q*log(B))*exp(log(B))
=p*A^(B^q)*B
によって計算され、
ここで、
|H|は結果応答であり、
pは所定の一定利得補償係数であり、
qは所定の動的遷移急峻度係数であり、
Aは前記形状依存フィルタ振幅応答であり、
Bは前記レベル依存フィルタ振幅応答である。
【0064】
本発明のこの第1の態様の第8の実施形態によれば、前記第1の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、前記第2の平滑化フィルタはローパスフィルタであり、前記第2の平滑化フィルタのカットオフ点は前記第1の平滑化フィルタのカットオフ点よりも低い。
【0065】
本発明の第2の態様によれば、プログラムがコンピューティングデバイスによって実行されると、コンピューティングデバイスに、本発明の第1の態様の方法のステップを実行させる命令を含むコンピュータプログラム製品が提供される。
【0066】
本発明の第3の態様によれば、デジタル信号処理装置が提供される。装置は、1つ又は複数のプロセッサ(310)と、1つ又は複数のコンピュータ可読記憶媒体(320)とを有する。本発明のこの第3の態様の第1の実施形態によれば、記憶媒体は、1つ又は複数のプロセッサによって実行されると、1つ又は複数のプロセッサに、本発明の第1の態様の方法のステップを実行させる命令(322、324)を記憶している。
【0067】
<特定のさらなる観察>
上記の説明を考慮すると、本発明の範囲内でいろいろな変形例があり得ることは当業者には明らかであろう。本発明の好ましい実施形態を詳細に説明してきたが、それらの多くの修正及び変形が可能であり、それらの全てが本発明の真の精神及び範囲に含まれることは明らかである。
【0068】
開示される本発明の実施形態は、本明細書に開示される特定の構造、プロセスステップ、又は材料に限定されず、当業者によって認識されるのであろうその等価物に拡張されることを理解されたい。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、限定することを意図しないことも理解されたい。
【0069】
本明細書を通して、「一実施形態」又は「実施形態」という言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構成、又は特徴が本実施形態の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な場所における「一実施形態では」又は「実施形態では」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指すわけではない。
【0070】
本明細書で使用される場合、複数のアイテム、構造要素、組成要素、及び/又は材料は、便宜上、共通のリストで提示され得る。しかしながら、これらのリストは、リストの各メンバーが別個の一意のメンバーとして個々に識別されるかのように解釈されるべきである。したがって、そのようなリストの個々のメンバーは、同じリストの他のメンバーの事実上の同等物として解釈されるべきではなく、逆のことを示すことなく、共通のグループにおけるそれらの提示のみに基づいて解釈されるべきである。加えて、本発明の様々な実施形態及び例は、その様々な構成要素の代替物とともに本明細書で言及され得る。そのような実施形態、実施例、及び代替例は、相互の事実上の同等物として解釈されるべきではなく、本発明の別個の自律的表現として考えられるべきであることが理解される。
【0071】
更に、記載される機能、構造、又は特徴は、いずれの適切な態様でも、一つ以上の実施形態において組み合わせることができる。前述の説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するために、長さ、幅、形状などの例など、多数の特定の詳細が提供されている。しかし、当業者であれば、1以上の具体的な詳細を用いずに、又は、他の方法、部品、材料等を用いて本発明が実施され得ることを認識するのであろう。本発明の観点を曖昧にすることを避けるため、他の例における、周知の構造、材料又は操作について示すこと又は詳述することはしないこととする。
【0072】
前述の実施例は1つ又は複数の特定の用途における本発明の原理の例示であるが、発明の能力を行使することなく、かつ本発明の原理及び概念から逸脱することなく、実施の形態、使用、及び詳細における多数の修正を行うことができることが、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は以下に記載される特許請求の範囲による場合を除き、限定されることは意図されない。
【外国語明細書】