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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003188
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103721
(22)【出願日】2023-06-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、文部科学省、革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】磯部 高範
(72)【発明者】
【氏名】コウ セイ
(72)【発明者】
【氏名】萬年 智介
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AA14
5H730BB27
5H730DD03
5H730DD04
5H730DD16
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE12
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG00
5H730FG10
5H730FG22
(57)【要約】
【課題】間欠運転中のゼロ電圧スイッチングを実現する。
【解決手段】絶縁型のインダクタンス部と、1次側ブリッジ回路と、2次側ブリッジ回路と、を含む主回路の制御装置は、1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、第1組の半導体デバイスと第2組の半導体デバイスの両方を共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを含む間欠運転によって、共振を休止期間に生成させて、前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が共振による電圧変化の谷になるタイミングで、1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて電力の注入を開始する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁型のインダクタンス部と、
4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、
4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部から電力の供給を受ける2次側ブリッジ回路と、
を含む主回路の制御装置であって、
前記1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、前記1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、前記第1組の半導体デバイスと前記第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを含む間欠運転を実施することで前記共振を前記休止期間に生成させて、
前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、前記1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が前記共振による電圧変化の谷になるタイミングで、前記1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて前記電力の注入を開始する制御部
を備える制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1導通期間と、前記休止期間と、前記第2導通期間とを、記載の順に割り当てて、前記1次側ブリッジ回路を制御する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスのうち、前記休止期間の中に半導体デバイスに掛かる電圧が所望の電圧よりも低くなると見込む半導体デバイスを、前記低くなると見込むタイミングに導通状態に遷移させる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記2次側ブリッジ回路を制御して、
前記休止期間内に、前記インダクタンス部の出力電圧が所望の電圧よりも低くなる期間を設ける
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記主回路の制御方式を、電力変換要求の電力の大きさにより前記間欠運転を含む制御にするか否かを決定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記電力変換要求の電力の大きさにより前記間欠運転を実施する前記休止期間の長さを決定する、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記休止期間の長さを、前記共振周期の長さに基づいた離散的な値に決定する、
請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記休止期間において共振状態にする期間の長さを、前記共振周期の長さの半整数倍に決定する、
請求項6に記載の制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記電力変換要求の電力の大きさにより、前記共振周期の長さに基づく離散的な値と、前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間と前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間との位相差の値とに基づいて決定する、
請求項6に記載の制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記第1導通期間と、前記第2導通期間と、前記休止期間とを、記載の順に割り当てて、前記1次側ブリッジ回路を制御する
請求項1に記載の制御装置。
【請求項11】
絶縁型のインダクタンス部と、
4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、
4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部から電力の供給をうける2次側ブリッジ回路と、
を含む主回路の制御方法であって、
前記1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、前記1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、前記第1組の半導体デバイスと前記第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを設けた間欠運転を実施することによって前記共振を前記休止期間に生成させて、
前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、前記1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が前記共振による電圧変化の谷になるタイミングで、前記1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて前記電力の注入を開始する過程
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の半導体デバイスをブリッジに構成し、1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路とが絶縁型変圧器を介して結合された主回路を含む電力変換装置がある。このような電力変換装置における主回路の制御方法として、いくつかの方法が知られている。
例えば、各半導体デバイスのターンオン時間を一定にして、1次側ブリッジ回路の半導体デバイスの制御と2次側ブリッジ回路の半導体デバイスの制御の位相を調整して電力の大きさと送電方向を調整する制御(SPS制御)の手法が知られている。
また、半導体デバイスの電力損失を低減させることなどに有効な制御方法としては、半導体デバイスに掛る電圧がゼロ電圧になる期間のなかの何れかで半導体デバイスのON/OFFを切り替える制御(ゼロ電圧スイッチング制御、ZVS制御)の手法が知られている。
また、電力変換装置を稼働させている期間の中で、ブリッジ内の半導体デバイスのスイッチングを休止させて遮断状態にする休止期間を設けてスイッチングの頻度を低下させてスイッチング損失の発生を抑える方法(「バーストモード」または「間欠運転」という。)が知られている(例えば、特許文献1など。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-118234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術の休止期間と運転期間とを切り替える間欠運転による制御によれば、休止期間における休止を解除して運転に切り替える際のスイッチングが「ハードスイッチング」になり、ゼロ電圧スイッチング(ZVS)にならない。このハードスイッチングによって生じる損失が、間欠運転によって低減されたスイッチング損失を上回る損失が生じることがあった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、間欠運転中のゼロ電圧スイッチングを実現する電力変換装置の制御装置及び制御方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、絶縁型のインダクタンス部と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部から電力の供給を受ける2次側ブリッジ回路と、を含む主回路の制御装置であって、前記1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、前記1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、前記第1組の半導体デバイスと前記第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを含む間欠運転を実施することで前記共振を前記休止期間に生成させて、前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、前記1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が前記共振による電圧変化の谷になるタイミングで、前記1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて前記電力の注入を開始する制御部を備える制御装置である。
【0007】
本発明の一態様は、上記の制御装置において、前記制御部は、前記第1導通期間と、前記休止期間と、前記第2導通期間とを、記載の順に割り当てて、前記1次側ブリッジ回路を制御する。
【0008】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記1次側ブリッジ回路と前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスのうち、前記休止期間の中に半導体デバイスに掛かる電圧が所望の電圧よりも低くなると見込む半導体デバイスを、前記低くなると見込むタイミングに導通状態に遷移させる。
【0009】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記2次側ブリッジ回路を制御して、前記休止期間内に、前記インダクタンス部の出力電圧が所望の電圧よりも低くなる期間を設ける。
【0010】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記主回路の制御方式を、電力変換要求の電力の大きさにより前記間欠運転を含む制御にするか否かを決定する。
【0011】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記電力変換要求の電力の大きさにより前記間欠運転を実施する前記休止期間の長さを決定する。
【0012】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記休止期間の長さを、前記共振周期の長さに基づいた離散的な値に決定する。
【0013】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記休止期間において共振状態にする期間の長さを、前記共振周期の長さの半整数倍に決定する。
【0014】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記電力変換要求の電力の大きさにより、前記共振周期の長さに基づく離散的な値と、前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間と前記2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間との位相差の値とに基づいて決定する。
【0015】
本発明の一態様は、上記の制御装置であって、前記制御部は、前記第1導通期間と、前記第2導通期間と、前記休止期間とを、記載の順に割り当てて、前記1次側ブリッジ回路を制御する。
【0016】
本発明の一態様の制御方法は、絶縁型のインダクタンス部と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部から電力の供給をうける2次側ブリッジ回路と、を含む主回路を制御するための制御方法である。制御方法は、前記1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、前記1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、前記第1組の半導体デバイスと前記第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを設けた間欠運転によって前記共振を前記休止期間に生成させて、前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、前記1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が前記共振による電圧変化の谷になるタイミングで、前記1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて前記電力の注入を開始する過程を含む。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、間欠運転中のゼロ電圧スイッチングを実現する電力変換装置の制御装置及び制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る電力変換装置100の構成図である。
図2A】実施形態の電力変換装置に対するZVS制御の適用について説明するための図である。
図2B】SPS制御時の電流波形を示す図である。
図2C】実施形態の間欠制御時の電流波形を示す図である。
図3】実施形態の制御について説明するための図である。
図4A】実施形態の制御の適用結果について説明するための図である。
図4B】実施形態の制御の適用結果について説明するための図である。
図5A】実施形態の比較例について説明するための図である。
図5B】実施形態の比較例について説明するための図である。
図6A】電力変換装置100の損失について説明するための図である。
図6B】比較例のSPS制御について説明するための図である。
図7】サイクル数nと損失の関係について説明するための図である。
図8】実施形態の制御について説明するための図である。
図9】比較実験に用いた主回路の構成要素のパラメータの一例を示す図である。
図10】実施形態のSPS制御と間欠運転の切り替え制御について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
以下の説明において、ゼロ又はゼロ近傍の電圧のことを「ゼロ電圧」と呼ぶことがある。ゼロ電圧は、ゼロ近傍の所望の電圧範囲内の電圧であってよい。例えば、所定の周期で振動する電圧波形が正にバイアスされている状態で、その電圧波形の谷が「ゼロ電圧」になる場合、その電圧波形の谷の電圧が、ゼロ近傍の所望の電圧範囲内の電圧になっていることに等価である。
なお、各図において同一又は対応する構成には同一の符号を用いて説明を適宜省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、実施形態に係る電力変換装置100の構成図である。
【0021】
電力変換装置100は、電源101と電源104との間で双方向に電力を融通させる。電力変換装置100は、例えば主回路102と、制御装置103とを備える。
電力変換装置100は、さらに、主回路102の稼働状態を検出するための電圧検出器171,172を備える。
電力変換装置100は、外部のバスなどに接続される端子として、一次側直流端子102a,102bと、二次側直流端子102c,102dとを備える。
主回路102は、一次側直流端子102a,102b間の一次側直流電圧E1と、二次側直流端子102c,102d間の二次側直流電圧E2との間で電力変換(DC/DC変換)を実行する。
【0022】
主回路102は、DAB構成のDC/DC変換器である。例えば、主回路102は、一次側ブリッジ回路110と、二次側ブリッジ回路120と、インダクタンス要素130と、平滑コンデンサ150,160と、を含む。一次側ブリッジ回路110と、二次側ブリッジ回路120は、一対のブリッジ回路の一例である。
【0023】
一次側ブリッジ回路110は、単相フルブリッジを構成する。具体的には、一次側ブリッジ回路110は、高電位側の電源配線PL1及び低電位側の電源配線NL1の間に接続された、半導体デバイスSW1~SW4を有する。以下、半導体デバイス本体のことを単に「デバイス」と呼ぶ。電源配線PL1及び電源配線NL1は一次側直流端子102a,102bにそれぞれ接続される。電源配線PL1及び電源配線NL1の間には、一次側直流電圧E1を安定化するための平滑コンデンサ150が接続される。半導体デバイスSW1~SW4は、デバイスS1~S4を夫々有する。
【0024】
デバイスS1及びS2は、ノードN1aを介して直列に接続されて、電源配線PL1及び電源配線NL1の間に接続された第1のレグ111を構成する。ノードN1aは、交流端子123aと接続されている。同様に、デバイスS3及びS4は、ノードN1bを介して電源配線PL1及び電源配線NL1の間に接続されて、第2のレグ112を構成する。ノードN1bは、交流端子123bと接続されている。
【0025】
同様に、二次側ブリッジ回路120は、単相フルブリッジを構成する。具体的には、二次側ブリッジ回路120は、高電位側の電源配線PL2及び低電位側の電源配線NL2の間に接続された、半導体デバイスSW5~SW8を有する。半導体デバイスSW5~SW8は、デバイスS5~S8を夫々有する。電源配線PL2及び電源配線NL2は二次側直流端子102c,102dにそれぞれ接続される。電源配線PL2及び電源配線NL2の間には、二次側直流電圧E2を安定化するための平滑コンデンサ160が接続される。
【0026】
デバイスS5及びS6は、交流端子124aと接続されたノードN2aを介して電源配線PL2及び電源配線NL2の間に直列に接続されて、第3のレグ121を構成する。同様に、デバイスS7及びS8は、交流端子124bと接続されたノードN2bを介して電源配線PL2及び電源配線NL2の間に直列に接続されて、第4のレグ122を構成する。第1~第4のレグ111,112,121,122において、デバイスS1,S3,S5,S7は「上アーム」を構成し、デバイスS2,S4,S6,S8は「下アーム」を構成する。以下では、デバイスS1~S8を総称する場合には、デバイスSと表記する。
【0027】
デバイスSは、自己消弧型のスイッチング素子と、ダイオードとを有する。スイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、又は、GCT(Gate Commutated Turn-off)サイリスタなどの任意の自己消弧型素子によって構成することができる。ダイオードは、スイッチング素子に対して逆並列に接続されて、還流ダイオード(FWD:Free Wheeling Diode)を構成する。MOSFETの場合のダイオードは、ボディダイオードであってもよい。
【0028】
インダクタンス要素130は、一次側ブリッジ回路110の交流端子123a,123bとそれぞれ接続される一次側交流端子130a,130bと、二次側ブリッジ回路120の交流端子124a,124bとそれぞれ接続される二次側交流端子130c,130dとを有する。図1の例では、インダクタンス要素130は、一次側交流端子130a,130b間に接続された一次巻線と、二次側交流端子130c,130d間に接続された二次巻線とを有する変圧器131を含めて構成されている。
【0029】
なお、変圧器131の巻線に直列にインダクタンス要素132が設けられていてもよい。例えば、インダクタンス要素132は、図1に示すように変圧器131の一次巻線に直列に接続されている。インダクタンス要素132は、複数に分散して設けてもよい。この場合、例えば、変圧器131の一次側と二次側とに分けたり、変圧器131の一次側の正極側と負極側とに分けたりしてもよい。インダクタンス要素132は、インダクタンス要素130の一部として内蔵されていてもよい。なお、1次側の電圧E1と2次側の電圧E2の電圧比と変圧器131の巻数比の関係はE1=N・E2で表せる。
【0030】
電圧検出器171は、平滑コンデンサ150の端子間電圧、すなわち一次側直流電圧E1を検出し、その検出値を示す信号を制御装置103に出力する。電圧検出器172は、平滑コンデンサ160の端子間電圧、すなわち二次側直流電圧E2を検出し、その検出値を示す信号を制御装置103に出力する。
【0031】
制御装置103は、プログラムを実行可能なCPU、半導体メモリなどを含むコンピュータである。例えば、制御装置103は、制御部1031と、インタフェース部と、記憶部1032とを備える。制御装置103は、制御部1031(CPU)にプログラムを実行させることで、制御装置103の主要な処理を実行して、処理の結果を記憶部1032に格納させる。インタフェース部は、主回路102などに接続されている。制御部1031は、その処理により、主回路102を制御する。なお、以下の説明において、制御部1031による処理を、制御装置103の処理として説明することがある。
【0032】
上記の電力変換装置100は、DABコンバータの一例である。
【0033】
図2Aから図2Cを参照して、実施形態の電力変換装置に対するZVS制御の適用について説明する。
図2Aは、実施形態の電力変換装置に対するZVS制御の適用について説明するための図である。図2Bは、SPS制御時の電流波形を示す図である。図2Cは、実施形態の間欠制御時の電流波形を示す図である。なお、図2B図2Cに夫々示す電流波形は、モデル化した一例である。
【0034】
図2A中の右寄りの範囲は、ZVS制御を適用可能な範囲であり、これをZVS動作範囲と呼ぶ。図2A中の左寄りの範囲(ハッチング付きの範囲)は、ZVS制御の適用を制限する範囲であり、これを制限範囲と呼ぶ。
【0035】
ZVS動作範囲内でSPS制御するのであれば、半導体デバイスをZVS制御することができ、これにより、その半導体デバイスの損失を低減させることができる。
ただし、SPS制御を利用する比較例によると、半導体デバイスをZVS制御することができなくなる領域があった。このような比較例の場合、ZVS制御による損失低減の効果を得ることができなかった。
【0036】
例えば、ZVS動作範囲と制限範囲は、インダクタ電流のピーク値ipの大きさによって区分される。
半導体デバイスの種別ごとに半導体デバイスの寄生出力容量が異なる。予め定められた所定の値よりもピーク値ipが小さくなると、半導体デバイスをオンにしていても十分な電流を流すことができなくなる。このような状況になると、半導体デバイスの寄生出力容量を所望の時間内で充放電を完了させることができなくなる場合が生じうる。このような制限範囲内になると、半導体デバイスの寄生出力容量に溜まった電荷を放電しきれず、半導体デバイスに掛る電圧がゼロにならない。そのため、比較例の電力変換装置はZVS動作ができなくなり、スイッチング損失が増加することがあった。
【0037】
そこで、本実施形態では制限範囲になりうる状況を回避してZVS動作を可能にするための一例について説明する。
【0038】
図3を参照して、実施形態の制御について説明する。
図3は、実施形態の制御について説明するための図である。
この図3に示すタイミングチャートに、各デバイスのスイッチングパターンと各部の電圧・電流の関係を示す。
【0039】
図3の上段側の(a)から(f)までに割り付けた各信号を順に示す。(a)に、1次側のデバイスS1-S4(1次側デバイスという。)の状態、(b)から(e)に2次側のデバイスS5-S8(2次側デバイスという。)の状態、(f)に変圧器1次側電圧e1、(g)に変圧器2次側電圧e2、(h)にデバイスS1の電圧(ドレインーソース間電圧)vs1、(i)にインダクタ電流iLをそれぞれ示す。なお、(a)から(e)までに割り付けられたデバイスの状態を、オン(ON)とオフ(OFF)の2値で示す。ここに記載されたデバイスはオン(ON)になっていることを示し、記載されていないデバイスはオフ(OFF)になっていることを示す。
【0040】
以下、図3に表示された期間内の制御をその手順に従って説明する。
時刻t1を制御の1周期の起点とする。制御部1031は、時刻t1に1次側のデバイスS1-S4(1次側デバイスという。)のうちデバイスS1とS4をオンにする。上記の通り、表記されていないデバイスS2とS3はオフ(OFF)状態の継続になる。
【0041】
なお、時刻t1時点で前回の制御周期の制御結果によって、2次側のデバイスS5-S8(2次側デバイスという。)のうちデバイスS6とS8のオン状態が継続している。デバイスS6とS8をオンにしていることにより、変圧器2次側電圧e2がゼロになる。
【0042】
この結果、変圧器1次側電圧e1が電圧E1になり、変圧器2次側電圧e2と、デバイスS1の電圧vs1とがゼロになり、インダクタ電流iLが徐々に上昇する。
【0043】
なお、時刻t1からt2をTincとする。1次側デバイスがオンされる時間Tpriは、変圧器131のコアの磁束密度に関係する。この期間の電圧・時間の積が一定になるように設定するとよい。この期間の電圧・時間の積を一定値にする方法は、後述する第1比較例のSPS制御を用いた場合と同様であってもよい。
【0044】
制御部1031は、時刻t2にデバイスS6をオフにする。これにより変圧器2次側電圧e2が電圧E2になり、インダクタ電流iLの増加が止まる。1次側電圧e1と2次側電圧e2の電圧比が、トランスの巻数比に整合していれば、インダクタ電流iLが概ね一定になる。
【0045】
制御部1031は、時刻t2の後の時刻t3にデバイスS5をオンにする。この段階で、変圧器2次側の電圧e2(二次側交流端子130cの電位)が電源104の電位E2と等電位になる。
【0046】
制御部1031は、時刻t1から所定時間(期間Tpri)が経過した時点(時刻t4)に、例えばデバイスS1,S4,S8をオフにする。これにより、デバイスS1,S4に電流が流れなくなり、デバイスS2,S3の逆接続ダイオードに電流が流れる。その過程でデバイスS1,S4の寄生容量が充電され、デバイスS2,S3の寄生容量が放電される。これにより1次側電圧e1がE1から-E1に変化して、デバイスS1のデバイス電圧vs1が、E1まで上昇する。デバイスS8はオフであるが逆接続ダイオードが導通する。
【0047】
この時刻t4以降にデバイスS1,S4とデバイスS2,S3の両方がオフの期間が存在し、そのオフの期間は比較的長く設定されている。
このように、デバイスS1,S4がオンの期間Tpriと、後述するデバイスS2,S3 がオンの期間との間に、上記のようにデバイスS1,S4とデバイスS2,S3の両方がオフの期間を設ける点が、比較例とは異なる。上記のデバイスS1,S4とデバイスS2,S3の両方がオフの期間のことを休止期間と呼ぶ。時刻t4から時刻t11は休止期間の一例である。
【0048】
上記のデバイスS1,S4とデバイスS2,S3の両方をオフにした休止期間内の動作の説明を続ける。
上記のように時刻t5になるまでに、デバイスS8がオフになっている。
【0049】
例えば、時刻t5のときに電流が正から負に変わり、デバイスS8(これはすでにオフしてある)の逆導通ダイオードが逆バイアスになる。その結果、デバイスS8の寄生容量が充電され、デバイスS7の寄生容量が放電される。その後、デバイスS7の寄生容量が完全に放電しきると、デバイスS7の逆導通ダイオードが順バイアスとなり導通する。これ以後にデバイスS5とデバイスS7の逆導通ダイオードが導通することで、電圧e2がゼロ(又はゼロとみなせるゼロ近傍の電圧)になる。
上記のとおり、デバイスS7の逆導通ダイオードが順バイアスとなって導通をはじめた後,制御部1031は、デバイスS7をオンにするとよい。これによりデバイスS7もZVSになる。
また1次側デバイスにおいても時刻t5以降はデバイスS2,S3の逆接続ダイオードが逆バイアスになりS1,S4の逆接続ダイオードが導通する。その過程でデバイスS2,S3の寄生容量が充電され、デバイスS1,S4の寄生容量が放電される。
1次側デバイス,2次側デバイスのいずれの充放電も完了したあとはデバイスS1,S4の逆接続ダイオードとデバイスS5,S7を通して電流が流れるが、時刻t7において電流iLはふたたびゼロに到達する。
時刻t7以後、1次側デバイスの寄生容量と変圧器131の間の共振が生じてこれが継続する。
なお、このように共振が生じている期間を共振期間Toscと呼ぶ。
例えば制御部1031は、この共振期間Tosc内に電圧e2をゼロにして、かつそれ以降に電流iLが再度ゼロになるまでの期間内の何れかのタイミングに、デバイスS7をオンに切り替える。図3における時刻t7は、上記の期間内で最も遅いタイミングを示している。制御部1031は、例えば時刻t7にデバイスS7をオンに切り替えて、デバイスS5とデバイスS7をオンにするとよい。
【0050】
上記のデバイスS5とデバイスS7をオンにするスイッチングパターンにより、変圧器131の2次側のインピーダンスを下げた状態が形成される。このようにすることで共振期間Toscの間に1次側デバイスに生じる共振の電圧の谷をゼロ又はゼロ近傍の値にすることができる。
【0051】
共振期間Toscの状態を、その前半と後半の2つに分けて説明する。前半部分を予め定められた期間T1とし、後半部分を共振周期T2により定まる期間とする。例えば、時刻t7から時刻t8までが共振周期T2にあたる。
なお、後半部分の共振を、単純なLC共振と仮定する。その共振周期T2の倍率を示す数(サイクル数)を、nで示す。ZVS制御を実現するためには、サイクル数nの値を0.5の奇数倍にする。このサイクル数nの値に応じて共振期間Toscの後半部分の期間を制御するとよい。この場合、共振期間Toscの後半部分の期間が、nT2となり、サイクル数nの値に応じて離散的な値を設定できる。
【0052】
制御部1031は、これを満たすように共振期間Toscの後半部分の期間の長さを調整することで、デバイスS1のデバイス電圧vs1を、共振期間Toscの終了時にゼロにする。
制御部1031は、その時刻t11に、デバイスS2、S4をターンオンすることによりZVS動作を実現させる。
これにより、休止期間が終わる。
【0053】
上記の説明は、制御周期TSWのうちの前半部分にあたる。制御周期TSWの後半の時刻t11から時刻t21までは、前述した前半の時刻t1から時刻t11までに対応する。制御部1031は、制御の対象を、デバイスS1、S4の組からデバイスS2、S3の組に入れ替えて、デバイスS6、S8の組からデバイスS5、S7の組に入れ替える。このような対称性の特徴を利用することで、前半部分の制御パターンを再利用することができる。
【0054】
このように、各デバイスを制御することにより、一般的に用いられている間欠運転とは異なり、1次側と2次側を含めた全てのスイッチング動作においてZVS が実現可能である。
【0055】
図4Aから図6Bを参照して、実施形態の制御の適用結果について説明する。
図4A図4Bは、実施形態の制御の適用結果について説明するための図である。なお、図9は、比較実験に用いた主回路の構成要素のパラメータの一例を示す図である。
【0056】
この比較実験に用いた構成は、高圧側(1次側)にSiCタイプのMOSFET(3.3kV,23 A)を用いた電力変換の定格容量3.3kWの電力変換装置100の一例である。主回路102のパラメータを図4Cに示す。例示する電力変換装置100はデバイスの導通損失を低減することを志向して、使用電流に対し定格電流が相対的に大きく、出力容量も比較的大きなデバイスを使用している。
また、変圧器131の小型化を目的として、比較的高いスイッチング周波数を選択した。このような条件の組み合わせは、各デバイスの出力容量の影響を受けやすくなる傾向がある。
【0057】
図4A図4Bに、共振周期のサイクル数nを半整数、より具体的には、サイクル数nを2.5にして、変換電力を1200(W)にした場合の実験結果を示す。
図4Aに、変圧器131の1次側電圧e1と2次側電圧e2と電流iLの関係を示し、図4Bに、電流iLとデバイス電圧vs1の関係を示す。
図4Bに示すように、例えばデバイスS1に掛るデバイス電圧vs1の振幅が谷になる部分で、デバイスS1がターンオンされていることが確認できる。デバイス電圧vs1に含まれる共振電圧は回路の抵抗成分によってある程度減衰することがあるが、デバイス電圧vs1がゼロに近い電圧になっている。このため、発生するスイッチング損失は非常に少なくなると考えられる。
【0058】
その一方で、一般的な間欠運転においては共振しているデバイス電圧のどこでターンオンされるかはわからない。それを模擬し、提案手法による動作と比較するため、あえて共振電圧の山でスイッチング(ハードスイッチング)するようにサイクル数nを2に設定した条件で動作を行った。
図5A図5Bは、実施形態の比較例について説明するための図である。図5A図5Bに、サイクル数nの値を整数にして、より具体的には、サイクル数nの値を2に設定し(n = 2)、変換電力を1200(W)にした場合の実験結果を示す。
図5Aに、比較例の変圧器131の1次側電圧e1と2次側電圧e2と電流iLの関係を示し、図5Bに、比較例の電流iLとデバイス電圧vs1の関係を示す。
【0059】
図5B図5Aの一部の期間について、その期間の時間軸を拡大した波形を示す。ここに示すように、共振によりインダクタ電流iLが正と負に周期的に変動する。インダクタ電流iLがゼロになって、デバイスS1に掛る電圧vs1が、共振電圧のピーク値に到達したときに、デバイスS1をターンオンさせている。このようなタイミングでデバイスS1をスイッチングすると、ZVSにならずにデバイスS1に比較的大きなスイッチング損失が発生することになる。
【0060】
図6A図6Bを参照して、制御方法によって影響を受ける電力変換装置100の損失について説明する。図6Aは、電力変換装置100の損失について説明するための図である。図6Bは、比較例のSPS制御について説明するための図である。
先に、図6Bに示す比較例のSPS制御について説明する。
ここに示すSPS制御では、例えば、各半導体デバイスのターンオン時間を一定にして、1次側ブリッジ回路の半導体デバイスの制御と2次側ブリッジ回路の半導体デバイスの制御の位相を調整して電力の変換方向とその大きさを調整する手法の一例である。
【0061】
例えば、図6Bに表示された期間内のSPS制御をその手順に従って説明する。
時刻t30から時刻t50をSPS制御の1周期とする。
制御部1031は、時刻t31に1次側のデバイスS1-S4(1次側デバイスという。)のうちデバイスS1とS4をオンにする。上記の通り、表記されていないデバイスS2とS3はオフ(OFF)状態の継続になる。時刻t31の後に時刻t30を迎える。
【0062】
なお、時刻t31時点で前回の制御周期の制御結果によって、2次側のデバイスS5-S8(2次側デバイスという。)のうちデバイスS6とS7のオン状態が継続している。デバイスS6とS7をオンにしていることにより、変圧器2次側電圧e2が-E2になる。
【0063】
デバイスS1,S4がオンしていることにより、変圧器1次側電圧e1が電圧E1になる。変圧器にかかる電圧e1およびe2によりインダクタ電流iLが徐々に上昇する。
【0064】
時刻t32の時点で2次側のデバイスのうちデバイスS6とS7をオフにする。その後の時刻t33の時点で2次側のデバイスのうちデバイスS5とS8をオンにする。デバイスS5とS8をオンにしたことにより、変圧器2次側電圧e2がE2になり、インダクタ電流iLの増加が止まる。
なお、デバイスS1とS4のオン期間と、デバイスS2とS3のオン期間をTpriとする。例えば、デバイスS1とS4のオン期間(Tpri)は、時刻t31から時刻t34である。1次側デバイスの期間Tpriは、変圧器131のコアの磁束密度に関係する。この期間の電圧・時間の積が一定になるように設定するとよい。
【0065】
制御部1031は、時刻t34にデバイスS1とS4をオフにする。これにより変圧器1次側電圧e1が電圧-E1になり、インダクタ電流iLが減少に転じる。
制御部1031は、時刻t34の後の時刻t41に1次側デバイスのうちデバイスS2とS3をオンにする。
【0066】
制御部1031は、時刻t42の時点で2次側のデバイスのうちデバイスS5とS8をオフにする。制御部1031は、その後の時刻t43の時点で2次側のデバイスのうちデバイスS6とS7をオンにする。デバイスS5とS8をオフにしたことにより、変圧器2次側電圧e2が-E2になり、インダクタ電流iLの減少が止まる。
【0067】
上記の説明は、SPS制御の制御周期TSWのうちの前半部分にあたる。時刻t41から時刻t51までが、前述した前半の時刻t31から時刻t41までに対応する。制御部1031は、制御の対象を、デバイスS1、S4の組からデバイスS2、S3の組に入れ替えて、デバイスS5、S8の組からデバイスS6、S7の組に入れ替える。このような対称性の特徴を利用することで、前半部分の制御パターンを再利用することができる。
時刻t51以降は、時刻t31以降と同様の制御を繰り返すことになる。時刻t51の後に時刻t50を迎えて、時刻t50がSPS制御の次の1周期の始点になる。時刻t30と時刻t50は、ともに各デバイスの状態を切り変えるタイミングではない。ここではインダクタ電流iLがゼロを過ぎてその向きが変わるタイミングを、周期を区分するタイミングにしている。
【0068】
図6Aに、互いに異なる制御条件で制御した場合の電力変換装置100の損失測定値を示す。
ここに示す制御条件は、本実施形態の間欠制御と、第1比較例としてのSPS制御と、第2比較例としての間欠制御(図5A図5B)を含む。
【0069】
図6Bに示す比較例のSPS制御では、Duty比が略0.5の2つの方形波の位相を調整することで、電力の変換方向とその大きさを調整する。ただし、負荷が減少して負荷電流が少なくなっているのに、デバイスのスイッチング損失が増加する現象が起きることがある。ここに示した例の場合、負荷が2500Wよりも低下するとスイッチング損失が増加している。
この事象は、負荷電流が少なくなると寄生出力容量の影響を無視することができなくなり、その結果ZVSを実現できない状況になり、スイッチング損失が増加することによるものと推定できる。
【0070】
そこで、比較例のSPS制御の結果と同様に、本実施形態を適用した結果を図6Aのグラフ内にプロットした。
サイクル数nを半整数にすることで、例えば、0.5,1.5,2.5,3.5,4.5,5.5,6.5,7.5,8.5,9.5・・・のように昇順に設定可能である。図6Aのグラフに、0.5、1.5、2.5、5.5、9.5、15.5の5通りの値にサイクル数nを設定した評価結果を示す。なお、サイクル数nの値を1ずつ増加させることに制限はなく、適宜省略して、その差分値を不連続にしてもよい。
【0071】
図6Aに示すように、本実施形態の制御によれば、軽負荷時において比較的低い損失になる傾向が確認できた。また、比較例の場合の制限範囲になる状況であっても、適用可能である。その条件のもとで動作させた場合に、SPS制御の適用時に見込まれる損失に比べて大幅に低減できていることが確認できる。本実施形態の制御によれば、SPS制御の適用時に損失が増大する軽負荷時であっても、損失が減少することから、提案制御の有効性が確認できた。
【0072】
さらに、本実施形態の有効性を共振周期のサイクル数nの値を代えて検証した。変換要求電力として1200(W)を条件にして、共振周期のサイクル数nの値を2.5 から2 に変更した結果を示す。このサイクル数nの値を2.5 から2にした場合、損失が顕著に増加することが確認できた。これは、サイクル数nを整数にしたことにより、休止期間終了時のスイッチングがハードスイッチングになることが原因と想定できる。実際の運転において、サイクル数nを2にすると大きなスイッチング損失が発生するため、推奨しない運転方法である。サイクル数nを整数にした事例(比較例)は、本実施形態のZVS動作の有無による損失の低減の有効性について検証するために実施したものである。
【0073】
図7を参照して、サイクル数nを整数と半整数に夫々設定した時の損失の違いについて説明する。
図7は、サイクル数nと損失の関係について説明するための図である。
図7のグラフに、サイクル数nを整数(n = 2)と半整数(n = 2.5)に夫々設定した時の損失の測定結果と損失の解析結果とを並べて示す。
損失の測定結果は、電力計を入力と出力に入れ、その差を取ることで求めた電力損失(全損失)を示す。
損失の解析結果は、Eossと、Eqossと、MOSFETの導通損失の3つに分けてそれぞれ算出した結果を合計した推定値を示す。ここで、Eossはデバイスの出力容量に蓄えられたエネルギーの散逸に対応する電力損失である。また、Eqossはデバイスのターンオン時に、対向側デバイスを充電する電流がターンオンされるデバイスにおいて散逸するエネルギーに対応する電力損失である。これら出力容量による損失は、デバイスの寄生容量の測定値から計算可能である。
【0074】
図7に示すように、サイクル数nを整数(n = 2)から半整数(n = 2.5)に代える解析結果から得られたEossとEqossの低減は、測定結果から得られた全損失の低減と概ね一致する。上記の通り、サイクル数nが整数(n = 2)の間欠運転は、意図的に設定した不適当なケースの一例であるため、実際の一般的な間欠運転では、ハードスイッチングを行ってもスイッチング損失はより低くなる可能性はある。しかし、結果はZVSを達成するか否かが、電力変換効率に強い影響を与えることが確認できた。
【0075】
上記の実施形態によれば、制御装置103は、絶縁型の変圧器131(インダクタンス部)と、4個の半導体デバイスを含み、インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、4個の半導体デバイスを含み、インダクタンス部から電力の供給を受ける2次側ブリッジ回路と、を含む主回路の制御装置である。制御装置103の制御部1031は、1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、第1組の半導体デバイスと第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを含む間欠運転を実施することで前記インダクタンス部の共振を休止期間に生成させて、前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が共振による電圧変化の谷になるタイミングで、1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて電力の注入を開始する。これにより、制御装置103は、間欠運転中のゼロ電圧スイッチングを実現することができる。
【0076】
制御装置103の制御部1031は、第1導通期間と、休止期間と、第2導通期間とを、記載の順に割り当てて、1次側ブリッジ回路を制御するとよい。
【0077】
制御装置103の制御部1031は、1次側ブリッジ回路と2次側ブリッジ回路の半導体デバイスのうち、休止期間の中に半導体デバイスに掛かる電圧が所望の電圧よりも低くなると見込む半導体デバイスを、その低くなると見込むタイミングに導通状態に遷移させるとよい。
【0078】
制御装置103の制御部1031は、2次側ブリッジ回路を制御して、休止期間内に、変圧器131の出力電圧が所望の電圧よりも低くなる期間を設けることにより、ZVSを可能にする。
【0079】
さらに実施形態によれば、間欠制御でありながらゼロ電圧スイッチングが実現できることで、電力変換の効率が向上する。特に従来制御法ではハードスイッチングとなる軽負荷時において効率が向上する。
デバイスのスイッチング損失が低減されることで、小型のデバイスの選択が可能になる。これにより、デバイスのスイッチング周波数を高めることができることにより、変圧器131の小型化も可能になる。
さらに実施形態によれば、半導体デバイスの寄生容量が大きくても損失の増加が抑えられるので、大面積チップの半導体デバイスを採用できる。それにより半導体デバイスの導通損失の低減が可能になる。
【0080】
なお、上記の実施形態の制御において、下記の要件が満たされるように調整されているとよい。
(1)デバイスS1とS4の組と、デバイスS2とS3の組の夫々を、組ごとに揃ってスイッチングするとよい。
(2)期間Tdecの間にデバイスS2とS3、またはデバイスS1とS4をオンしても良い。なお、寄生容量を充放電するデッドタイムは必要である。
また、デバイスS1とS4の組がオンであった期間の後の期間Tdecであれば、デバイスS2とS3を、デバイスS2とS3の組がオンであった期間の後の期間Tdecであれば、デバイスS1とS4をオンしてもよい。
(3)デバイスS1とS4を、デバイス電圧vs1がゼロになるタイミングにオンにすることでZVSになる。また、デバイスS2とS3を、デバイス電圧vs3がゼロになるタイミングにオンにすることでZVSになる。
(4)期間Tdecに入ってからもデバイスS8のオンを維持してもよいが、T1に入る前にデバイスS8をオフしなければならない。T1に入るとデバイスS8は充電されて、デバイス電圧vs8が発生する。
(5)vs8の充電とvs7の放電を待って、デバイスS7をオンすることでZVSになる。なお、デバイスS7をT1の期間内にオンしなければならない。これを過ぎると、共振を生じさせる期間(nT2)に入るが、共振の谷が高くなるような共振となり、ZVSの実現が困難になる。
(6)デバイスS5・S6については、SPS制御と同様に制御することでよい。すなわち、デバイスS5・S6を、寄生容量の充放電を待ってスイッチングさせるとよい。
(7)デバイスS5・S6の役割と、デバイスS8・S7の役割を交換してもよい。例えば、デバイスS5とデバイスS8の制御を入れ替えて、デバイスS6とデバイスS7の制御を入れ替えるとよい。
(8)前述の図3に示すシーケンスは、半サイクル毎にオフ期間を入れる実施例である。
この場合、共振期間前の電流iLの半サイクルが正と負の何れであるかによって、共振期間に制御するスイッチを決定する。
(9)半周期ごとに休止期間を入れる運転法であれば1次側の全てのデバイスのオン時間を同じにするとよい。
(10)デバイスS1・S4とデバイスS6・S7のターンオフの時間差(位相差)を、変換要求電力に基づいて調整するとよい。
【0081】
[第2実施形態]
図8を参照して、第2実施形態について説明する。
前述の第1実施形態において、ZVS制御の対象外とされる状況に、間欠制御を適用してZVS制御を可能にした事例を説明した。本実施形態では、これに加えて、ZVS動作範囲におけるSPS制御から間欠制御に遷移する場合の適用事例について説明する。
【0082】
図8は、実施形態の制御について説明するための図である。
この図8のタイミングチャートに示す各信号の種類は、前述の図3のタイミングチャートに示す各信号の種類に相当する。図3との相違点を中心に説明する。
【0083】
この図8に示す時刻t1から時刻t15までの期間には、前述の図に示したSPS制御を適用した期間が含まれる。
【0084】
例えば、時刻t1以前の期間が、前述した休止期間であるとする。
この場合、時刻t1を制御の1周期の起点とする。この1周期には、第1導通期間と、第2導通期間と、休止期間とが記載の順に割り当てられている。
制御部1031は、時刻t1に1次側のデバイスS1-S4(1次側デバイスという。)のうちデバイスS1とS4をオンにする。上記の通り、表記されていないデバイスS2とS3はオフ(OFF)状態の継続になる。
【0085】
なお、時刻t1時点で前回の制御周期が休止期間であり、2次側のデバイスのうちデバイスS6とS8のオン状態が継続している。デバイスS6とS8をオンにしていることにより、変圧器2次側電圧e2がゼロになる。
【0086】
この結果、変圧器1次側電圧e1が電圧E1になり、変圧器2次側電圧e2と、デバイスS1の電圧vs1とがゼロになり、インダクタ電流iLが徐々に上昇する。
【0087】
なお、時刻t1からt2をデバイスS1とS4のターンオン時間Tincとする。
制御部1031は、時刻t2にデバイスS6をオフにする。これにより変圧器2次側電圧e2が電圧E2になり、インダクタ電流iLの増加が止まる。1次側電圧e1と2次側電圧e2の電圧比が、トランスの巻数比に整合していれば、インダクタ電流iLが概ね一定になる。
【0088】
ここで、制御部1031は、SPS制御と同様に、第1導通期間と、第2導通期間とを連ねた制御に切り替える。例えば、制御部1031は、時刻t2の後の時刻t33にデバイスS5をオンにする。この段階で、変圧器2次側の電圧e2が電源104の電位E2と等電位になる。
【0089】
これ以降、時刻t43まで、図6BのSPS制御の説明を参照する。
制御部1031は、時刻t43の時点で2次側のデバイスのうちデバイスS6とS8をオンにする。デバイスS6とS8をオンにしたことにより、変圧器2次側電圧e2が-E2になり、インダクタ電流iLの減少が止まる。
上記の説明は、制御周期TSWのうちのSPS制御を含む前半部分にあたる。
時刻t43から所定時間が経過した時刻t15になると、制御部1031は、間欠制御に切り替える。このように時刻t33から時刻t15に至るまでが、SPS制御に相当する。なお、時刻t15から時刻t21までの期間が、間欠制御の休止期間になる。
時刻t21以降は、時刻t1以降と同様の制御を繰り返すことになる。
【0090】
このように、制御部1031は、連続していたSPS制御を中断して、時刻t15以降に休止期間を挿入する。
例えば、制御部1031は、時刻t15においてデバイスS1からS4の全てをオフにして、休止期間を開始する。この休止期間中に共振が発生して、時刻t21にデバイス電圧vs1がゼロになる。制御部1031は、このタイミングに合わせて、デバイスS1とS4をオンにすることにより、デバイスS1とS4のスイッチングによる損失を低減させることができる。
【0091】
上記の説明は、デバイスS1のZVS制御を例示するものであるが、他のデバイスについても同様である。
なお、図8に示すシーケンスは、サイクル数nの値を1.5にした休止期間を1つ設けたものである。このように、SPS制御中に休止期間を設けることにより、平均電力の大きさをさげることができる。
【0092】
図10を参照して、実施形態のSPS制御と間欠運転を切り替える運転について説明する。
図10は、実施形態のSPS制御と間欠運転の切り替え制御について説明するための図である。この図10に示す特性は、前述の図2に示した特性に相当する。
【0093】
この図10において、SPS制御を適用する領域と、SPS制御を適用できず、間欠制御を適用する領域とを示す。より具体的には、間欠制御を適用する領域では、休止期間中の共振のサイクル数nの値まで特定する。
【0094】
例えば、要求電力の大きさが徐々に減少する事例について説明する。
最初の段階では、制御部1031は、SPS制御を適用している。
要求電力の大きさが低下して、ピーク電流ipが閾値ip.ZVSまで低下した段階で、制御部1031は、SPS制御から間欠制御に切り替える。その際、制御部1031は、記憶部1032に格納された変換テーブルを参照して、要求電力の大きさに対する休止期間中の共振のサイクル数nの値を取得する。この図の場合、サイクル数nの値は0.5である。
【0095】
同様に、さらに要求電力の大きさが低下して、ピーク電流ipが閾値ip.ZVSまで低下した段階で、制御部1031は、記憶部1032に格納された変換テーブルを参照して、サイクル数nの値を更新する。この図の場合、サイクル数nの値は1.5である。
制御部1031は、上記と同様に変換テーブルの参照とサイクル数nの値の更新を繰り返すことにより、より長い休止期間を獲得する。これにより、少ない要求電力の領域に対しても適用が可能になる。
【0096】
上記の実施形態によれば、SPS制御において電流iLがゼロになる任意の時刻に、休止期間(休止モード)を挿入できる。
図8に示す、デバイスS5がオンしてからデバイスS7がオフするまでの期間は、SPS制御と同じシーケンスになっている。
休止期間を設ける場合には、制御部1031は、例えば、電流iLがゼロになる前にデバイスS7をオフにする。
これにより電流iLがゼロになった後、共振期間Tosc中の期間T1内に、制御部1031は、デバイスS8をオンする。これにより、nT2の長さで共振を継続させることができる。
期間T1内の電流iLの半サイクルが正か負かによって、制御部1031は、制御するデバイスを決定して操作する。
【0097】
SPS制御を用いることで、ある程度負荷の大きい運転状態ではZVS動作により高効率運転が可能である。
【0098】
なお、上記の実施形態によれば、制御装置103の制御部1031は、主回路102の制御方式を、電力変換要求の電力の大きさにより間欠運転を含む制御にするか否かを決定できる。
【0099】
上記のような方法で、制御部1031は、電力変換要求の電力の大きさにより間欠運転を実施する休止期間の長さを決定するとよい。
【0100】
制御部1031は、休止期間の長さを、共振周期の長さに基づいた離散的な値に決定する。
【0101】
制御部1031は、休止期間において共振状態にする期間の長さを、共振周期の長さの半整数倍に決定するとよい。
【0102】
制御部1031は、電力変換要求の電力の大きさにより、共振周期の長さに基づく離散的な値と、2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間と2次側ブリッジ回路の半導体デバイスを導通状態にする期間との位相差の値とに基づいて決定するとよい。
【0103】
少なくとも上記の何れかの実施形態によれば、絶縁型のインダクタンス部と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部に電力を供給する1次側ブリッジ回路と、4個の半導体デバイスを含み、前記インダクタンス部から電力の供給を受ける2次側ブリッジ回路と、を含む主回路の制御装置である。制御装置は、前記1次側ブリッジ回路の第1組の半導体デバイスを導通させる第1導通期間と、前記1次側ブリッジ回路の第2組の半導体デバイスを導通させる第2導通期間と、前記第1組の半導体デバイスと前記第2組の半導体デバイスの両方を前記1次側ブリッジ回路の寄生容量と前記インダクタンス部との間の共振による共振周期の半分を超えて遮断状態にする休止期間とを含む間欠運転を実施することで前記インダクタンス部の共振を前記休止期間に生成させて、前記休止期間における前記2次側ブリッジ回路の状態を前記共振による電圧の谷がゼロ電圧になるような状態にして、前記1次側ブリッジ回路の半導体デバイスに掛かる電圧が前記共振による電圧変化の谷になるタイミングで、前記1次側ブリッジ回路の1組の半導体デバイスを導通状態に切り替えて前記電力の注入を開始する制御部を備えるようにした。
これにより、間欠運転中のゼロ電圧スイッチングが可能になる。
【0104】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0105】
本発明が活かされる用途としては、下記の用途が挙げられる。
例えば、上記の電力変換装置100を、絶縁を要する主回路を含む電力変換装置、さらにこれらの電力変換装置のうち双方向に電力をやりとりする電力変換装置(機器)、電力用変圧器の置き換えとして期待されている半導体化変圧器(SST)、電力系統に電力を供給する能力を有する電気自動車の車載充電器などに用いることができる。
【符号の説明】
【0106】
100…電力変換装置
101、104…電源(直流電源)
102…主回路
103…制御装置
110…一次側ブリッジ回路
120…二次側ブリッジ回路
130…インダクタンス要素
131…変圧器
1031…制御部
1032…記憶部
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10