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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003192
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】吊下型の流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20241226BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20241226BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F16F13/10 H
F16F13/10 L
F16F15/08 W
B60K5/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103726
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 亮仁
【テーマコード(参考)】
3D235
3J047
3J048
【Fターム(参考)】
3D235AA01
3D235BB23
3D235EE05
3D235EE14
3D235EE20
3J047AA03
3J047AA15
3J047AB01
3J047CA04
3J047CD05
3J047FA02
3J047GA03
3J048AA02
3J048AC04
3J048BA18
3J048BE03
3J048DA07
3J048EA01
(57)【要約】
【課題】軸方向視が異形状とされたアウタ筒金具をブラケット部材に対して安定して圧入することのできる、新規な流体封入式防振装置を提供する。
【解決手段】吊下型の流体封入式防振装置10において、アウタ筒金具20はストレート部34とテーパ部36とを有しており、アウタ筒金具20には、かしめ部50に対してかしめ固定されるかしめ片40が設けられており、かしめ片40の厚さ寸法がかしめ部50よりも大きくされており、ストレート部34は一対の2面幅部42と一対の湾曲部44とを有する長円筒形状とされており、ストレート部34が圧入されるブラケット部材76が設けられており、ブラケット部材76は、かしめ片40に対して下方に離隔していると共にテーパ部36に対して離隔しており、2面幅部42における圧入代が湾曲部44よりも大きくされており、2面幅部42の周方向長さ寸法Cがストレート部34の長径寸法Lの1/4倍以上とされている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材がアウタ筒金具の下開口部に差し入れられて、それらインナ軸部材とアウタ筒金具とが本体ゴム弾性体で連結されており、
壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室とが内部に形成されて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入された吊下型の流体封入式防振装置において、
前記アウタ筒金具は、上部が一定断面で延びるストレート部とされていると共に、下部が下方へ向けて小径となるテーパ部とされており、
該アウタ筒金具の上端部には、前記可撓性膜に固着された固定部材のかしめ部に対してプレスかしめ固定されるかしめ片が設けられており、
該かしめ片の厚さ寸法が該かしめ部の厚さ寸法よりも大きくされており、
該アウタ筒金具の該ストレート部は、軸方向視において直線的な一対の2面幅部とそれら一対の2面幅部を周方向で相互に連結する一対の湾曲部とを有する長円筒形状とされており、
該アウタ筒金具の該ストレート部が圧入固定されるブラケット部材が設けられており、
該ブラケット部材は、該アウタ筒金具のかしめ片に対して下方に離隔しており、
該ブラケット部材は、該アウタ筒金具の該テーパ部に対して離隔しており、
該2面幅部における該ストレート部の該ブラケット部材に対する圧入代が、該湾曲部における該ストレート部の該ブラケット部材に対する圧入代よりも大きくされており、
該2面幅部の周方向長さ寸法が、該ストレート部の長径寸法の1/4倍以上とされている吊下型の流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記ブラケット部材の上部は、前記アウタ筒金具の前記ストレート部が圧入される圧入筒部とされており、
該ブラケット部材の下部は、下方へ向けて小径となるテーパ状の縮径部とされており、該ブラケット部材の該縮径部が、該アウタ筒金具の前記テーパ部に外挿されて、該テーパ部に対して軸方向で下方に離隔している請求項1に記載の吊下型の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記2面幅部の上下方向幅寸法は、該2面幅部の周方向長さ寸法の1/2倍以上とされている請求項1又は2に記載の吊下型の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジンマウント等に用いられる流体封入式防振装置に係り、特にいわゆる吊下型の流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウント等に用いられる防振装置としては、インナ部材と筒状のアウタ部材とを本体ゴム弾性体によって弾性連結した構造を有するものがある。また、防振装置の一種として、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づいて発揮される防振効果を利用する流体封入式防振装置も知られている。このような流体封入式防振装置において、インナ部材がアウタ部材よりも下方に位置するものは吊下型(倒立型)と呼ばれており、例えば特開2019-207022号公報(特許文献1)において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-207022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では車両の小型化が求められる場合があり、流体封入式防振装置の配設スペースを十分に確保できない場合がある。この場合、アウタ部材を、配設スペースに合わせて、平面視(軸方向視)において一般的な真円形状とは異なる形状とすることが考えられるが、それにより、アウタ部材におけるブラケットへの圧入が困難となるおそれがあった。
【0005】
本発明は上述の如き事情を背景としてなされたものであって、その解決課題とするところは、軸方向視が異形状とされたアウタ筒金具をブラケット部材に対して安定して圧入することのできる、新規な吊下型の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
先ず、本発明者らは、要求される配設スペースに合わせて、アウタ筒金具を軸方向視において略矩形状とすることを考えた。ところが、従来構造の流体封入式防振装置において単にアウタ筒金具を軸方向視で略矩形状とするだけでは各壁部における剛性を十分に確保することができず、ブラケット部材への圧入が困難であった。そこで、本発明者らは研究を重ねて、異形状とされたアウタ筒金具においてもブラケット部材に安定して圧入することのできる構造を見出し、本発明に至ったのである。
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材がアウタ筒金具の下開口部に差し入れられて、それらインナ軸部材とアウタ筒金具とが本体ゴム弾性体で連結されており、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室とが内部に形成されて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体が封入された吊下型の流体封入式防振装置において、前記アウタ筒金具は、上部が一定断面で延びるストレート部とされていると共に、下部が下方へ向けて小径となるテーパ部とされており、該アウタ筒金具の上端部には、前記可撓性膜に固着された固定部材のかしめ部に対してプレスかしめ固定されるかしめ片が設けられており、該かしめ片の厚さ寸法が該かしめ部の厚さ寸法よりも大きくされており、該アウタ筒金具の該ストレート部は、軸方向視において直線的な一対の2面幅部とそれら一対の2面幅部を周方向で相互に連結する一対の湾曲部とを有する長円筒形状とされており、該アウタ筒金具の該ストレート部が圧入固定されるブラケット部材が設けられており、該ブラケット部材は、該アウタ筒金具のかしめ片に対して下方に離隔しており、該ブラケット部材は、該アウタ筒金具の該テーパ部に対して離隔しており、該2面幅部における該ストレート部の該ブラケット部材に対する圧入代が、該湾曲部における該ストレート部の該ブラケット部材に対する圧入代よりも大きくされており、該2面幅部の周方向長さ寸法が、該ストレート部の長径寸法の1/4倍以上とされているものである。
【0009】
本態様によれば、アウタ筒金具の上部におけるストレート部を、直線的な一対の2面幅部とそれら一対の2面幅部を周方向で相互に連結する一対の湾曲部とを有する長円筒形状とした。そして、ストレート部が圧入固定されるブラケット部材が設けられており、2面幅部におけるストレート部のブラケット部材に対する圧入代が、湾曲部におけるストレート部のブラケット部材に対する圧入代より大きくされており、湾曲部に比して2面幅部でより大きな圧入固定力を得られるようにした。ここにおいて、2面幅部を単に直線状に延びる壁部で連結する場合(アウタ筒金具を軸方向視で略矩形状とする場合)、十分な剛性が得られず圧入に際して変形してしまうおそれがあったが、2面幅部を湾曲した壁部(湾曲部)で連結する構造とすることで、2面幅部を連結する壁部(湾曲部)だけでなく、湾曲部から連続する2面幅部自体の剛性を向上することができる。また、アウタ筒金具の上端部におけるかしめ片の厚さ寸法を、固定部材におけるかしめ部の厚さ寸法よりも大きくした。これにより、かしめ片の強度を向上させて、アウタ筒金具に対して固定部材を安定してかしめ固定できるようにしただけでなく、かしめ片から連続するアウタ筒金具におけるストレート部の剛性の更なる向上も達成した。特に、2面幅部の周方向長さ寸法はストレート部の長径寸法の1/4倍以上である。これにより、2面幅部の面積を大きく確保して、剛性のより一層の向上を図ることができる。これらのことから、上記のようにアウタ筒金具を軸方向視において長円形状とした場合でも、2面幅部の剛性を効果的に向上させることができて、アウタ筒金具におけるブラケット部材への圧入を安定して実現することができて、ブラケット部材からのアウタ筒金具の抜けに対する抵抗力を安定して得ることができる。
【0010】
加えて、ブラケット部材は、アウタ筒金具のテーパ部に対して離隔しており、ブラケット部材がアウタ筒金具に対して軸方向で当接していないことにより、アウタ筒金具とブラケット部材を軸方向で精度良く位置決めすることができると共に、部材のばらつき等によってアウタ筒金具とブラケット部材とが打ち当たり異音が発生すること等が防止され得る。
【0011】
第二の態様は、前記第一の態様に係る吊下型の流体封入式防振装置において、前記ブラケット部材の上部は、前記アウタ筒金具の前記ストレート部が圧入される圧入筒部とされており、該ブラケット部材の下部は、下方へ向けて小径となるテーパ状の縮径部とされており、該ブラケット部材の該縮径部が、該アウタ筒金具の前記テーパ部に外挿されて、該テーパ部に対して軸方向で下方に離隔しているものである。
【0012】
本態様によれば、ブラケット部材においてテーパ状の縮径部が設けられることで、アウタ筒金具に加えてブラケット部材の剛性も向上され得る。また、アウタ筒金具のテーパ部がブラケット部材の縮径部で覆われることで、縮径部によりテーパ部を保護することができる。更に、ブラケット部材の縮径部がアウタ筒金具のテーパ部に対して下方に離れていることで、アウタ筒金具とブラケット部材との軸方向での相対位置を精度良く設定することができる。そして、ブラケット部材の下部に縮径部を設けることで、ブラケット部材の配置に必要なスペースをより小さくすることができて、より厳しいスペース要求にも対応することが可能となり、例えば縮径部の周囲の部分に他部材を配置することも可能となる。
【0013】
第三の態様は、前記第一又は第二の態様に係る吊下型の流体封入式防振装置において、前記2面幅部の上下方向幅寸法は、該2面幅部の周方向長さ寸法の1/2倍以上とされているものである。
【0014】
本態様によれば、各2面幅部の上下方向幅寸法が上記範囲内に設定されることで、各2面幅部の面積が確保されて、十分に大きな圧入固定力を得ることができる。また、2面幅部の上下方向幅寸法の上限は限定されるものではないが、例えば2面幅部の周方向長さ寸法の3倍以下とされることで、アウタ筒金具におけるストレート部の軸方向長さが過度に長くなるのを防いで、流体封入式防振装置における上下方向のコンパクト化を図ることができると共に、長尺化による全体剛性の低下の回避も容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、軸方向視が長円形状のような異形状とされたアウタ筒金具をブラケット部材に対して安定して圧入することのできる、吊下型の流体封入式防振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態における流体封入式防振装置における平面図
図2図1に示された流体封入式防振装置における右側面図
図3図1におけるIII-III断面図
図4図1におけるIV-IV断面図
図5図1に示された流体封入式防振装置における防振装置本体を示す平面図
図6図5におけるVI-VI断面図
図7図5におけるVII-VII断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0018】
先ず、図1~4には、本発明に従う構造とされた吊下型の流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、図5~7に示されるマウント本体12と、マウント本体12に固定されるインナブラケット14とアウタブラケット16とを備えており、例えばインナブラケット14が図示しないパワーユニットに固定されると共に、アウタブラケット16が図示しない車両ボデーに固定されることで、エンジンマウント10が車両に装着されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、図3中の上下方向をいう。また、軸方向とは、原則として、マウント本体12の中心軸方向となる図3中の上下方向をいう。
【0019】
より詳細には、マウント本体12は、インナ軸部材18とアウタ筒金具20とを備えており、インナ軸部材18がアウタ筒金具20の下開口部に差し入れられて、それらインナ軸部材18とアウタ筒金具20が本体ゴム弾性体22で連結されている。また、マウント本体12は、壁部の一部が本体ゴム弾性体22で構成された受圧室24と、壁部の一部が可撓性膜26で構成された平衡室28とが内部に形成されており、これら受圧室24と平衡室28に非圧縮性流体が封入されている。
【0020】
インナ軸部材18は、全体として軸方向上下に延びる略円形または略長円形のブロック形状であり、金属や硬質の合成樹脂等から形成される高剛性の部材である。インナ軸部材18の下面には、下方に開口して上下方向に延びるボルト穴30が形成されており、当該ボルト穴30に対して後述するボルト74が締結されるようになっている。本実施形態では、インナ軸部材18の下方部分と上方部分で外径寸法が異ならされており、インナ軸部材18の下方部分は外径寸法が略一定であると共に、インナ軸部材18の上方部分は上方に向かって外径寸法が次第に大きくなる形状である。即ち、インナ軸部材18の上方部分における外周面は、上方に向かって外径寸法が次第に大きくなるテーパ面32である。かかるインナ軸部材18の下方部分に上述のボルト穴30が形成されている。
【0021】
アウタ筒金具20は、全体として上下方向に延びる筒状の部材であり、金属により形成されている。このアウタ筒金具20は、上部が略一定断面で上下方向に延びるストレート部34とされていると共に、下部が下方へ向けて小径となるテーパ部36とされている。即ち、アウタ筒金具20の軸方向中間部分には屈曲部38が設けられており、屈曲部38を挟んで上方がストレート部34であると共に、屈曲部38を挟んで下方がテーパ部36である。かかるアウタ筒金具20の上端部分には外周側に環状に広がる段差部39が設けられている。この段差部39の外周端部には上方に突出する円筒部分が設けられており、当該円筒部分(アウタ筒金具20の上端部)により可撓性膜26に固着された後述する固定部材48のかしめ部50に対してプレスかしめ固定されるかしめ片40が構成されている。かしめ片40は、周方向の全周にわたって連続的に設けられている。
【0022】
図5においてマウント本体12の平面視が示されているように、アウタ筒金具20のストレート部34は、軸方向視(平面視)において直線的な一対の2面幅部42,42と、それら一対の2面幅部42,42を周方向で相互に連結する一対の湾曲部44,44とを有する長円筒形状とされている。即ち、アウタ筒金具20は軸方向視(平面視)において、図6中の左右方向寸法である長径寸法Lと、図7中の左右方向寸法である短径寸法Sとを備えており、各2面幅部42の周方向長さ寸法C(図5参照)が、ストレート部34の長径寸法Lの1/4倍以上((L/4)≦C)とされている。
【0023】
また、各2面幅部42の上下方向幅寸法H(図7参照)は限定されるものではないが、例えば各2面幅部42の周方向長さ寸法Cの1/2倍以上((C/2)≦H)であることが好ましい。これにより、各2面幅部42の面積が十分に大きく確保されて、後述するようにアウタ筒金具20をブラケット部材76に対して安定して圧入することができ、かつ抜け力(抜けに対する抵抗力)も確保することができる。さらに、各2面幅部42の上下方向寸法は、例えば各2面幅部42の周方向長さ寸法Cの3倍以下であることが好ましい。これにより、ブラケット部材76が上下方向で過度に大きくなることが回避される。
【0024】
そして、インナ軸部材18がアウタ筒金具20の内周側において各中心軸が揃えられた状態で配置されて、これらインナ軸部材18とアウタ筒金具20とが本体ゴム弾性体22によって弾性連結されている。本実施形態では、インナ軸部材18の下端が、アウタ筒金具20の下端よりも下方に位置している。本体ゴム弾性体22は、全体として略長円筒形状であり、本体ゴム弾性体22の内周面がインナ軸部材18の上方部分の外周面(テーパ面32)に固着されていると共に、本体ゴム弾性体22の外周面がアウタ筒金具20におけるテーパ部36の内周面に固着されている。インナ軸部材18の上方部分はアウタ筒金具20におけるテーパ部36よりも上方に位置しており、これにより、本体ゴム弾性体22は、内周部分が外周部分よりも上方に位置するテーパ筒形状とされている。なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体22が、インナ軸部材18とアウタ筒金具20とを備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0025】
また、アウタ筒金具20において、ストレート部34の内周面には、略一定の厚さ寸法で、ストレート部34における上下方向の略全長にわたって固着されたシールゴム層46が設けられている。本実施形態では、シールゴム層46が本体ゴム弾性体22に対して一体的に形成されている。
【0026】
このような本体ゴム弾性体22の一体加硫成形品には、可撓性膜26が取り付けられている。可撓性膜26は、薄肉のゴム膜であって、略円板形状又は円形ドーム形状を有していると共に、軸方向に十分な弛みを備えて容易に変形可能とされている。また、可撓性膜26の外周端部には、固定部材48が固着されている。固定部材48は、全体として軸方向に延びる略円筒形状であり、金属や合成樹脂等の硬質の部材により形成されている。これにより、固定部材48における一方の開口部(図3中の上方開口部)が可撓性膜26により閉塞されていると共に、固定部材48における他方の開口部には、外周側に突出する略円環状のかしめ部50が形成されている。
【0027】
かかる固定部材48におけるかしめ部50は、後述するように仕切部材54における底板部材58の外周部分に重ね合わされて、アウタ筒金具20の上端部に設けられたかしめ片40により全周にわたってプレスかしめ固定されるようになっている。これにより、可撓性膜26は、本体ゴム弾性体22に対して上方に離隔して対向配置されており、アウタ筒金具20の上方の開口部が可撓性膜26によって覆蓋されている。本実施形態では、固定部材48の一方の端部側(図3中の上方部分)が内面及び外面において可撓性膜26を構成するゴムによって覆われており、固定部材48の他方の端部においてかしめ部50が可撓性膜を構成するゴムから露出している。特に、本実施形態では、アウタ筒金具20の上端部におけるかしめ片40の厚さ寸法が、固定部材48におけるかしめ部50の厚さ寸法よりも大きくされている。
【0028】
かかる可撓性膜26の取付けによって、本体ゴム弾性体22と可撓性膜26との軸方向対向面間には、外部空間に対して密閉されて非圧縮性流体を封入された流体室52が形成されている。なお、流体室52に封入される非圧縮性流体は限定されるものではないが、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液等が好適に採用される。また、後述する流体の流動作用に基づいた防振効果を効率的に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0029】
また、流体室52には、仕切部材54が配設されている。仕切部材54は、全体として略円板形状であり、本実施形態では、仕切部材本体56と底板部材58とを含んで構成されている。
【0030】
仕切部材本体56は、全体として略円板形状であり、合成樹脂や金属等からなる硬質の部材とされている。仕切部材本体56の外周部分には外周側に開口する周溝60が形成されている。
【0031】
底板部材58は、仕切部材本体56よりも薄肉の略円板形状であり、仕切部材本体56と同様に合成樹脂や金属等からなる硬質の部材とされている。本実施形態では、底板部材58の外径寸法が仕切部材本体56の外径寸法よりも大きくされており、底板部材58の外周部分には底板部材58の板厚方向に貫通して仕切部材本体56の周溝60と連通する連通孔62が形成されている。
【0032】
かかる仕切部材54は、流体室52に収容されてアウタ筒金具20によって支持されている。即ち、仕切部材54は、底板部材58の外周端部がアウタ筒金具20における段差部39上に載置された状態で、アウタ筒金具20の上端部におけるかしめ片40を内周側にかしめることでアウタ筒金具20に対して固定されている。特に、本実施形態では、底板部材58の外周端部に、可撓性膜26に固定された固定部材48におけるかしめ部50が上方から重ね合わされた状態でかしめ片40がかしめられることで、底板部材58と可撓性膜26(かしめ部50)とがアウタ筒金具20に対して固定されている。これにより、仕切部材54は、流体室52内で軸直角方向に広がって配設されている。
【0033】
そして、仕切部材54を流体室52に配設することによって、流体室52が、仕切部材54を挟んで上下に二分されている。この結果、仕切部材54の下方には、壁部の一部が本体ゴム弾性体22で構成されて、振動入力時に内圧変動が惹起される受圧室24が形成されている。また、仕切部材54の上方には、壁部の一部が可撓性膜26で構成されて、可撓性膜26の変形による容積変化が許容された平衡室28が形成されている。
【0034】
また、上述のように仕切部材54と可撓性膜26とが上下方向で重ね合わされた状態でアウタ筒金具20に固定されることにより、仕切部材本体56における周溝60の外周側開口部が可撓性膜26に固着された固定部材48で覆蓋される。周溝60は、周方向一方の端部が底板部材58に形成された連通孔62を通じて受圧室24に連通されていると共に、周方向他方の端部が仕切部材本体56に形成された連通孔64を通じて平衡室28に連通されている。この結果、受圧室24と平衡室28とを相互に連通するオリフィス通路66が、周溝60を利用して形成されている。なお、オリフィス通路66のチューニング周波数は限定されるものではないが、例えばエンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数に設定され得る。
【0035】
かかる構造とされたマウント本体12に対して前述のインナブラケット14及びアウタブラケット16が取り付けられる。
【0036】
インナブラケット14は、全体として図1中の上下方向に延びる部材であり、金属等から形成される高剛性の部材である。インナブラケット14は、図1中の上方部分において略矩形断面を有していると共に、図1中の下方部分では図1中の左右両側に広がっている。そして、インナブラケット14において、図3中の下方部分には上下方向で貫通するボルト挿通孔68が形成されていると共に、図1中の下方端部には複数のボルト挿通孔70が形成されている。なお、インナブラケット14において、図3中の下方部分におけるボルト挿通孔68を外れた部分の外周面には外周側に突出する緩衝ゴム72が固着されている。
【0037】
かかるインナブラケット14はインナ軸部材18の下面に重ね合わされて、インナ軸部材18におけるボルト穴30とインナブラケット14におけるボルト挿通孔68とが相互に位置合わせされる。そして、ボルト挿通孔68にボルト74が挿通されてボルト穴30に締結されることで、インナブラケット14がインナ軸部材18に対して固定されるようになっている。
【0038】
アウタブラケット16は金属から形成される高剛性の部材であり、マウント本体12におけるアウタ筒金具20のストレート部34が圧入固定されるブラケット部材76を備えている。また、アウタブラケット16は、ブラケット部材76の下方に筒状部78を備えていると共に、ブラケット部材76及び筒状部78から、側方(図1中の左右両側)に突出する一対の延出部80,80を備えている。各延出部80の突出端部には、ボルト挿通孔82が形成されている。また、一方(図1中の左方)の延出部80には上方に突出する取付部84が設けられており、取付部84の上端に上方に突出するボルト86が固定されている。これらブラケット部材76、筒状部78、各延出部80及び取付部84は、例えば溶接により固着されており、アウタブラケット16が一体的に形成されている。なお、アウタブラケット16における各部分の溶接は、例えばブラケット部材76に対してマウント本体12が圧入された後であってもよい。
【0039】
ブラケット部材76は、軸方向視(平面視)においてアウタ筒金具20と同様の形状を有しており、全体として略長円筒形状である。本実施形態では、ブラケット部材76の上部がアウタ筒金具20のストレート部34が圧入される圧入筒部88とされていると共に、ブラケット部材76の下部は下方へ向けて小径となるテーパ状の縮径部90とされている。即ち、ブラケット部材76における圧入筒部88は、平面視においてアウタ筒金具20における一対の2面幅部42,42と対応する一対の直線状部92,92と、一対の湾曲部44と対応する一対の円弧状部94,94とを備えている。圧入筒部88は、かかる略長円形の断面形状をもってある程度の上下方向寸法を有している。縮径部90の下端部には内周側に屈曲して環状に広がる内フランジ状部96が設けられており、内フランジ状部96の内周側には上下方向で貫通する中央孔98が形成されている。後述するマウント本体12におけるブラケット部材76への圧入時には、インナ軸部材18の下端が中央孔98を通じて下方へ突出して、ブラケット部材76の下方に設けられる筒状部78内に位置している。
【0040】
ここにおいて、マウント本体12におけるブラケット部材76への圧入に際して、圧入によって生じる力が、アウタ筒金具20における各湾曲部44に比して各2面幅部42において大きく及ぼされるようになっている。具体的には、マウント本体12がブラケット部材76へ圧入される前におけるブラケット部材76(アウタブラケット16)の単品状態において、一対の直線状部92,92の対向面間距離S’(図4参照)が、アウタ筒金具20における各2面幅部42の外面間の離隔距離(即ち、アウタ筒金具20における短径寸法S)よりも僅かに小さくされている。また、一対の円弧状部94,94の対向面間距離L’(図3中の左右方向寸法)が、アウタ筒金具20における各湾曲部44の外面間の離隔距離(即ち、アウタ筒金具20における長径寸法L)と等しいか僅かに小さくされている。そして、各2面幅部42におけるストレート部34のブラケット部材76に対する圧入代(S-S’)が、各湾曲部44におけるストレート部34のブラケット部材76に対する圧入代(L-L’)よりも大きくされている。
【0041】
このように、ブラケット部材76に対してマウント本体12におけるアウタ筒金具20のストレート部34が圧入された状態では、図3,4に示されるように、ブラケット部材76は、アウタ筒金具20のかしめ片40及び段差部39に対して下方に離隔している。また、ブラケット部材76は、アウタ筒金具20のテーパ部36に対しても離隔している。本実施形態では、ブラケット部材76の下部に縮径部90が設けられていることから、ブラケット部材76に対してストレート部34が圧入された状態では、縮径部90がテーパ部36に対して外挿されており、テーパ部36に対して軸方向で下方に離隔している。
【0042】
そして、ブラケット部材76に対してマウント本体12が圧入された後、アウタブラケット16における筒状部78に対してインナブラケット14が挿入されてボルト74が締結されることにより、本実施形態のエンジンマウント10が構成されている。かかるエンジンマウント10は、例えばインナブラケット14が図示しないパワーユニットにボルト固定されると共に、アウタブラケット16が図示しない車両ボデーにボルト固定されることで、パワーユニットと車両ボデーとを弾性的に連結している。本実施形態では、アウタブラケット16における筒状部78内において、インナブラケット14の外周面に設けられた緩衝ゴム72が位置しており、これら緩衝ゴム72と筒状部78における壁部とが当接することでインナブラケット14とアウタブラケット16との相対的な変位量を制限するストッパ機構が構成されている。
【0043】
以上のような構造とされた本実施形態のエンジンマウント10によれば、アウタ筒金具20において上部にストレート部34が設けられていると共に、アウタ筒金具20の上端部には、ストレート部34から段差部39を経てかしめ片40が連続的に設けられている。かしめ片40は周方向の全周にわたって環状に設けられており、当該かしめ片40が補強効果を発揮して、ストレート部34の剛性が向上される。特に、かしめ片40の厚さ寸法はかしめ部50の厚さ寸法よりも大きく設定されており、かしめ片40(即ち、ストレート部34)がある程度の厚さ寸法を有していることから、ストレート部34の剛性が安定して向上される。そして、ストレート部34は、一対の2面幅部42,42と一対の湾曲部44,44を有している。それ故、ストレート部34の平面視が真円形状とされる場合に比べてスペースの減少が図られると共に、例えば平面視が矩形状とされる場合に比べてストレート部34の剛性が向上され、小型化と剛性の向上の両立が図られている。また、各2面幅部42の周方向寸法Cは、ストレート部34の長径寸法Lの1/4倍以上とされており、各2面幅部42の周方向寸法Cがある程度の大きさを有している。これにより、各2面幅部42の面積をより大きく確保することができて、各2面幅部42の剛性が向上され得る。さらに、各湾曲部44に比して各2面幅部42の方が圧入代が大きいことから、各2面幅部42においてより大きな圧入固定力を得つつも、上記のように各2面幅部42の剛性を向上させるような構造を複数採用することで、長円筒形状とされたストレート部34の圧入を、各2面幅部42の変形を伴うことなく実現することができる。そして、ストレート部34におけるブラケット部材76への圧入が安定して実現されることで、ブラケット部材76からのマウント本体12の抜けに対する抵抗力も向上され得る。
【0044】
それに加えて、エンジンマウント10では、ブラケット部材76がかしめ片40及び段差部39よりも下方に位置していると共に、アウタ筒金具20におけるテーパ部36に対して離隔している。要するに、アウタ筒金具20におけるストレート部34は軸方向(上下方向)でブラケット部材76に当接することがなく、製造誤差等の部材のばらつきによってアウタ筒金具20とブラケット部材76とが打ち当たり異音が発生することが防止され得る。
【0045】
特に、本実施形態では、ブラケット部材76の下部が下方に向けて小径となる縮径部90とされている。これにより、単にブラケット部材がストレートな筒形状とされる場合に比して、ブラケット部材76の剛性も向上され得る。そして、ブラケット部材76とアウタ筒金具20とが軸方向(上下方向)で離隔しており、軸方向での当接が回避されていることから、例えば仮に部材に製造誤差等のばらつきがあったとしても、ブラケット部材76に対するマウント本体12の位置を精度良く設定することができる。また、ブラケット部材76に縮径部90を設けることで、エンジンマウント10の更なる小型化が図られる。
【0046】
また、本実施形態では、各2面幅部42の上下方向幅寸法Hが、各2面幅部42の周方向長さ寸法Cの1/2倍以上とされている。これにより、各2面幅部42の上下方向幅寸法H及び剛性が十分大きく確保されて、マウント本体12におけるブラケット部材76への圧入を安定して実現することができる。なお、各2面幅部42の上下方向幅寸法Hは、例えば各2面幅部42の周方向長さ寸法Cの3倍以下とされることが好ましく、これにより、アウタ筒金具20、ひいてはエンジンマウント10の小型化が図られる。
【0047】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0048】
例えば、前記実施形態では、ブラケット部材76の下部にテーパ状の縮径部90が設けられていたが、ブラケット部材の形状は限定されるものではなく、上下方向の全長にわたって略ストレートに延びていてもよい。
【0049】
また、前記実施形態では、各2面幅部42の上下方向幅寸法Hが、各2面幅部42の周方向長さ寸法Cの1/2倍以上とされていたが、各2面幅部の上下方向幅寸法は限定されるものではない。
【0050】
さらに、前記実施形態では、仕切部材54が仕切部材本体56と底板部材58とから構成されていたが、仕切部材においては、前記実施形態のようなオリフィス通路による防振機構に代えて、又は加えて、公知の可動板や可動膜による防振機構を組み合わせて採用してもよい。
【0051】
前記実施形態では、吊下げ型の流体封入式防振装置としてエンジンマウントを例示したが、この態様に限定されるものではなく、本発明に係る流体封入式防振装置は、ボデーマウントやデフマウント等のエンジンマウント以外の車両用の流体封入式防振装置であってもよいし、車両用以外の流体封入式防振装置であってもよい。
【0052】
アウタブラケットは、アウタ筒金具のストレート部が圧入固定されるブラケット部材が設けられていれば、その形状が限定されるものではなく、筒状部や延出部、取付部は備えていなくてもよい。また、本発明に係る吊下型の流体封入式防振装置は、インナブラケットを含んでいなくてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 エンジンマウント(吊下型の流体封入式防振装置)
12 マウント本体
14 インナブラケット
16 アウタブラケット
18 インナ軸部材
20 アウタ筒金具
22 本体ゴム弾性体
24 受圧室
26 可撓性膜
28 平衡室
30 ボルト穴
32 テーパ面
34 ストレート部
36 テーパ部
38 屈曲部
39 段差部
40 かしめ片
42 2面幅部
44 湾曲部
46 シールゴム層
48 固定部材
50 かしめ部
52 流体室
54 仕切部材
56 仕切部材本体
58 底板部材
60 周溝
62,64 連通孔
66 オリフィス通路
68,70 ボルト挿通孔
72 緩衝ゴム
74 ボルト
76 ブラケット部材
78 筒状部
80 延出部
82 ボルト挿通孔
84 取付部
86 ボルト
88 圧入筒部
90 縮径部
92 直線状部
94 円弧状部
96 内フランジ状部
98 中央孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7