(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025031989
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】シミ属性判定方法、血管密集度推定方法、及び血管密集度推定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20250228BHJP
A61B 5/107 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
A61B5/00 M
A61B5/107 800
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024230797
(22)【出願日】2024-12-26
(62)【分割の表示】P 2021555125の分割
【原出願日】2020-11-06
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/044031
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】二宮 真人
(72)【発明者】
【氏名】原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】星野 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】菊地 久美子
(72)【発明者】
【氏名】山下 豊信
(72)【発明者】
【氏名】根岸 圭
(57)【要約】
【課題】シミの評価を簡単に行うことができるシミ属性判定方法を提供すること。
【解決手段】シミが含まれる皮膚の領域を画定し、画定した前記領域の表皮厚を測定し、所定の基準表皮厚に対する測定した前記表皮厚の比を表皮厚比として算出し、算出した前記表皮厚比から前記シミの属性を判定し、前記シミの属性が、前記シミに対するレーザー治療の有効性であり、前記シミの属性として、前記表皮厚比が厚い前記領域はレーザー治療による効果が低く、前記表皮厚比が薄い前記領域はレーザー治療による効果が高いことを予測する、シミ属性判定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミが含まれる皮膚の領域を画定し、
画定した前記領域の表皮厚を測定し、
所定の基準表皮厚に対する測定した前記表皮厚の比を表皮厚比として算出し、
算出した前記表皮厚比から前記シミの属性を判定し、
前記シミの属性が、前記シミに対するレーザー治療の有効性であり、
前記シミの属性として、前記表皮厚比が厚い前記領域はレーザー治療による効果が低く、前記表皮厚比が薄い前記領域はレーザー治療による効果が高いことを予測する、シミ属性判定方法。
【請求項2】
皮膚の領域を画定し、
画定した前記領域の表皮厚を測定し、
所定の基準表皮厚に対する測定した前記表皮厚の比を表皮厚比として算出し、
算出した前記表皮厚比から前記領域の血管密集度を推定し、
推定した前記血管密集度から前記領域に発生するシミの属性を判定し、
前記シミの属性が、前記シミに対するレーザー治療の有効性であり、
前記シミの属性として、前記表皮厚比が厚い前記領域はレーザー治療による効果が低く、前記表皮厚比が薄い前記領域はレーザー治療による効果が高いことを予測する、血管密集度推定方法。
【請求項3】
前記血管密集度は、所定の基準血管密度に対する前記領域の血管密度の比である、請求項2に記載の血管密集度推定方法。
【請求項4】
前記表皮厚は、前記領域の画像の画像解析により測定する、請求項2または3に記載の血管密集度推定方法。
【請求項5】
前記画像は、前記領域の表皮の画像である、請求項4に記載の血管密集度推定方法。
【請求項6】
前記画像が、3次元画像である、請求項4または5に記載の血管密集度推定方法。
【請求項7】
前記画像は、前記領域の表面からの深さが50μm以上600μm以下の範囲から得られる画像である、請求項4乃至6のいずれか一項に記載の血管密集度推定方法。
【請求項8】
前記領域の明るさまたは色に基づいて前記シミを特定する、請求項2乃至7のいずれか一項に記載の血管密集度推定方法。
【請求項9】
皮膚の領域の画像を形成する画像形成部と、
前記画像から前記領域の表皮厚を測定する表皮厚測定部と、
所定の基準表皮厚に対する測定した前記表皮厚の比を表皮厚比として算出する表皮厚比算出部と、
算出した前記表皮厚比から前記領域の血管密集度を推定する血管密集度推定部と、
推定した前記血管密集度から前記領域に発生するシミの属性を判定するシミ属性判定部とを有し、
前記シミの属性が、前記シミに対するレーザー治療の有効性であり、
前記シミの属性として、前記表皮厚比が厚い前記領域はレーザー治療による効果が低く、前記表皮厚比が薄い前記領域はレーザー治療による効果が高いことを予測する、血管密集度推定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミ属性判定方法、血管密集度推定方法、及び血管密集度推定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
シミを評価する技術として、従来から種々の技術が知られている。例えば、シミ部位に対する光線治療後の該シミ部位におけるメラノソームの有無または血流量によって、シミ部位の光線治療後のシミの再発を評価する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、シミ部位に光線治療等の施術を行った後でなければ、シミを評価することができず、シミ部位に対する治療効果の有無等を事前に予測することは困難である。
【0005】
本発明の課題は、シミの評価を簡単に行うことができるシミ属性判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、シミが含まれる皮膚の領域を画定し、画定した前記領域の表皮厚を測定し、所定の基準表皮厚に対する測定した前記表皮厚の比を表皮厚比として算出し、算出した前記表皮厚比から前記シミの属性を判定し、前記シミの属性が、前記シミに対するレーザー治療の有効性であり、前記シミの属性として、前記表皮厚比が厚い前記領域はレーザー治療による効果が低く、前記表皮厚比が薄い前記領域はレーザー治療による効果が高いことを予測する、シミ属性判定方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、シミの評価を簡単に行うことができるシミ属性判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るシミ属性判定方法のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【
図2】皮膚領域(シミ部位)の構成を示す図である。
【
図4】皮膚領域の血流画像を2次元で示す図である。
【
図5】皮膚領域の血流画像を3次元で示す図である。
【
図6】皮膚領域の血流画像を算出するモデル式を示す。
【
図7】皮膚領域における血管密度とシミの属性との相関係数を算出するアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【
図8】治療効果が高いシミ部位の治療前の表面と内部構造を示す図である。
【
図9】
図8のシミ部位の治療後3か月の表面を示す図である。
【
図10】治療効果が低いシミ部位の治療前の表面と内部構造を示す図である。
【
図11】
図10のシミ部位の治療後3か月の表面を示す図である。
【
図12】シミ部位における血管密度とメラニン値比との相関関係を示す図である。
【
図13】シミ部位における血管密度と明るさ比との相関関係を示す図である。
【
図14】シミ部位における血管密度とレーザー治療による効果との関係を示す図である。
【
図15】本発明に係るシミ属性判定システムの実施形態を示すブロック図である。
【
図16】本発明に係る血管密集度推定方法のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【
図17】基準表皮厚の皮膚領域(正常部位)の断面を示す図である。
【
図18】シミ部位と正常部位を含む皮膚領域の断面を示す図である。
【
図19】皮膚領域における表皮厚比と血管密集度との相関関係を示す図である。
【
図20】皮膚領域における表皮厚比とメラニン値比との相関関係を示す図である。
【
図21】本発明に係る血管密集度推定システムの実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において共通する部分については、同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0010】
<シミ属性判定方法>
図1は、本発明に係るシミ属性判定方法のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
図2は、皮膚領域(シミ部位)の構成を示す図である。
【0011】
本例のシミ属性判定方法では、まず、シミSSが含まれる皮膚の領域(以下、皮膚領域またはシミ部位という場合がある)SAを画定する(
図1、ステップS1、
図2参照)。ここで、シミSSは、肌にメラニン色素が沈着した状態を示す(
図2参照)。シミSSの具体例としては、例えば、老人性色素斑(日光性黒子)、脂漏性角化症、雀卵斑(そばかす)、肝斑等に加え炎症後色素沈着が挙げられる。
【0012】
また、皮膚の領域(皮膚領域)SAとは、皮膚の表面および内部の領域を示す。具体的には、皮膚の表面が表皮EMに対応し、皮膚の内部が真皮DMに対応する(
図2参照)。画定するとは、シミSSが含まれる皮膚領域SAを一定の範囲(シミ部位)として扱うことを示す。なお、皮膚領域(シミ部位)SAを画定する態様は、限定されない。例えば、皮膚領域(シミ部位)SAを、専門家または熟練者が目視で画定してもよく、また装置を用いた画像解析等によって機械的に画定してもよい。
【0013】
なお、本例のシミ属性判定方法において、シミ部位SAに含まれるシミSSを特定する態様は、限定されない。本例のシミ属性判定方法では、例えば、シミSSが含まれる皮膚領域SAの明るさまたは色に基づいてシミSSを特定することができる。ここで、皮膚領域SAの明るさとは、シミ部位SAの表面の明度を示す。また皮膚領域SAの色とは、シミ部位SAの表面の色を示す。
【0014】
次に、皮膚領域(シミ部位)SAの血管BVを可視化する(
図1、ステップS2、
図2参照)。具体的には、画定した皮膚領域(シミ部位)SAの画像を取得する。ここで、皮膚領域(シミ部位)SAの画像とは、画定した皮膚領域(シミ部位)SAを撮影または撮像して得られる画像(または画像データ)を示す。
【0015】
本例のシミ属性判定方法では、さらに、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度を測定する(
図1、ステップS3、
図2参照)。ここで、血管密度とは、血管BVが密集する度合いを示す(
図2参照)。なお、血管密度を測定する態様は、限定されない。本例では、上述のように皮膚領域SAの画像の画像解析により血管密度を測定する。
【0016】
また、画像解析とは、画像から基本要素を取り出し、統計的なデータを得ることを示す。画像解析の態様は、任意であり、例えば、皮膚領域SAの画像を二値化することにより、皮膚領域を可視化する画像解析等が挙げられる。
【0017】
本例のシミ属性判定方法において、血管密度を測定する画像解析に用いる画像の対象は、限定されない。本例のシミ属性判定方法では、画像解析に用いる画像は、皮膚領域SAの血流画像であることが好ましい。ここで、血流画像とは、皮膚領域SAにおいて血液が流れる領域の画像を示す。
【0018】
図3は、皮膚領域を可視化する原理を示す図である。本例では、血流画像等の画像を、
図3に示す光干渉断層撮影装置(Optical Coherence Tomography、以下、OCTという場合がある)VDにより形成する。ここで、光干渉断層撮影装置VDは、光源LSから低コヒーレンスの近赤外線を皮膚領域SAに照射して、反射した近赤外線との干渉により、非接触で皮膚領域SAを可視化する装置である(
図3参照)。なお、近赤外線の波長は、任意である。本実施形態では、照射する近赤外線の波長を約1300nmとした。
【0019】
なお、血流画像等の画像は、OCTで形成されたものに限定されない。OCT以外の手法で得られる画像としては、例えば、レーザースペックル血流計、ドップラー血流計、ビデオマイクロスコープ等の手法で得られる画像が挙げられる。
【0020】
皮膚領域SAの画像には、2次元の平面画像IM2を用いることができる(
図4参照)。平面画像IM2において、画像の白黒は組織からの反射光強度を反映しており、動きのある領域の画像が血流画像BFを示す。
【0021】
また、皮膚領域SAの画像には、平面画像(2次元画像)IM2の代わりに3次元画像IM3を用いることができる(
図5参照)。ここで、3次元画像IM3は、3次元直交座標系(X軸、Y軸、Z軸)で表される立体画像を示す。なお、
図5に示す例では、3次元画像IM3として、皮膚領域SAの表面からの深さが200μmの3次元画像IM3eと、皮膚領域SAの表面からの深さが400μmの3次元画像IM3dとが示されている。
【0022】
なお、血流画像BFは、
図6に示される所定のモデル式(1)により演算することができる。血管密度は、血流画像BFが2次元画像の場合は、画定された皮膚領域(シミ部位)SAの面積に対する血管BV(血流画像BF)の面積の割合(%)を示し、血流画像BFが3次元画像の場合は、画定された皮膚領域(シミ部位)SAの体積に対する血管BV(血流画像BF)の体積の割合(%)を示す。
【0023】
本例のシミ属性判定方法において、画像解析に用いられる画像を取得する皮膚領域SAの箇所は、限定されない。本例のシミ属性判定方法では、皮膚領域SAの画像は、皮膚領域SAの表面からの深さが、例えば50μm以上600μm以下の範囲から得られた画像(3次元画像IM3e)であり、好ましくは200μm以上500μm以下、より好ましくは300μm以上400μm以下の範囲から得られた画像(3次元画像IM3d)である。
【0024】
ここで、皮膚領域SAの表面からの深さが50μm以上600μm以下の範囲は、表皮および真皮を含む範囲に略対応し、200μm以上500μm以下の範囲は、真皮を含む範囲に略対応し、300μm以上400μm以下の範囲は、真皮の一部に略対応する。
【0025】
本例のシミ属性判定方法では、さらに、血管密度からシミSSの属性を判定する(
図1、ステップS4、
図2参照)。ここで、シミSSの属性(以下、シミ属性という場合がある)とは、シミSSに備わる固有の性質、特徴を示す。血管密度からシミ属性を判定するとは、血管密度に基づいてシミ属性を見分けることを示す。
【0026】
なお、対象となる皮膚領域(シミ部位)SAについてシミ属性の判定が行われた後に、別の皮膚領域(シミ部位)SAについてシミ属性を判定する場合は、シミ部位SAの画定からシミ属性の判定までの処理(
図1、ステップS1~ステップS4参照)を繰り返す。
【0027】
本例のシミ属性判定方法において、血管密度から判定されるシミSSの属性は、限定されない。本例のシミ属性判定方法では、シミSSの属性として、シミSSに対するレーザー治療の有効性を判定する。ここで、レーザー治療とは、光線治療の一種であり、レーザーを照射することによって、シミSSの原因となるメラニン等を選択的に破壊することでシミSSを消失させる治療を示す。治療の有効性とは、治療による効果の大小を示す。
【0028】
図7は、皮膚領域(シミ部位)における血管密度とシミの属性との相関係数を算出するアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。ここでは、まず、レーザー治療前の皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度とメラニン値Mbを測定する(
図2、
図7、ステップS11、
図8、
図10参照)。
【0029】
なお、メラニン値とは、皮膚領域(シミ部位)SAの黒色度を示す。メラニン値は、皮膚の色を示す指標の一例であり、明るさに対して反比例の関係となる。メラニン値の測定方法は、任意である。本例では、皮膚分析機(ガデリウス・メディカル株式会社製、ANTERA 3D)を用いてメラニン値Mbを測定した。
【0030】
次に、メラニン値Mbを測定した皮膚領域(シミ部位)SAにレーザー治療を施す(
図2、
図7、ステップS12参照)。具体的には、シミ部位SAにレーザーを照射して、皮膚領域SAに含まれるシミSSを消失させる(または薄くする)。
【0031】
レーザー治療後の皮膚領域SAについて、レーザー治療から3か月後のメラニン値Maを測定する(
図2、
図7、ステップS13、
図9、
図11参照)。メラニン値Maの測定は、レーザー治療前の皮膚領域(シミ部位)SAのメラニン値Mbの測定(
図7、ステップS11)と同様に行う。
【0032】
次に、皮膚領域(シミ部位)SAにおけるレーザー治療後のメラニン値Maとレーザー治療前のメラニン値Mbとの比Ma/Mb(以下、メラニン値比M
*という)を算出する(
図2、
図7、ステップS14参照)。なお、メラニン値比M
*の値が高い程レーザー治療効果が低く、メラニン値比M
*の値が低い程レーザー治療効果が高いことを示す。
【0033】
そして、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度とメラニン値比M
*との相関係数を算出する(
図7、ステップS15)。本例では、被験者11人を対象とする13例について、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度とメラニン値比M
*を測定したデータをプロットし、相関係数は0.63となった(
図12参照)。
【0034】
これにより、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度とメラニン値比M
*との間に相関関係があることが判る。この相関関係は、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度が高いとメラニン値比M
*が高く、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度が低いとメラニン値比M
*が低くなることを示している。すなわち、血管密度が高い皮膚領域(シミ部位)SAは、レーザー治療による効果が低く、血管密度が低い皮膚領域(シミ部位)SAは、レーザー治療による効果が高いことが予測できる(
図14参照)。
【0035】
また、皮膚領域(シミ部位)SAにおけるレーザー治療後12週の明るさL*aとレーザー治療前の明るさL*bとの比L*a/L*b(以下、明るさ比L*rという)を算出した。なお、明るさの測定方法は、任意である。本例では、皮膚分析機(ガデリウス・メディカル株式会社製、ANTERA 3D)を用いて、明るさL*a、L*bを測定した。なお、明るさ比L*rの値が高い程レーザー治療効果が高く、明るさ比L*rの値が低い程レーザー治療効果が低いことを示す。
【0036】
皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度と得られた明るさ比L
*rとの相関係数を算出した。皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度と明るさ比L
*rは、上述の被験者11人(13例)について測定したデータをプロットし、相関係数は-0.629となった(
図13参照)。
【0037】
これにより、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度と明るさ比L
*rとの間にも相関関係があることが判った。この相関関係は、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度が高いと明るさ比L
*rが低く、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度が低いと明るさ比L
*rが高くなることを示している。すなわち、血管密度が高い皮膚領域(シミ部位)SAは、レーザー治療による効果が低く、血管密度が低い皮膚領域(シミ部位)SAは、レーザー治療による効果が高いことが予測できる(
図14参照)。
【0038】
本発明の発明者等は、上述のように、シミSSが含まれる皮膚の領域(以下、シミ部位という)SAにおいて、血管密度が高い場合と低い場合とがあり、血管密度の高低によってシミ部位SAに含まれるシミSSの属性が異なることを見出した。具体的には、シミ部位SAのレーザー治療後にシミSSが消失したまま維持される場合と、シミSSが再発する場合があり、この治療効果の違いが血管密度の高低によって生じる傾向があることが分かった。すなわち、シミSSの属性とシミ部位SAの血管密度との間に相関があることを見出した。
【0039】
本例のシミ属性判定方法は、このような考察から得られたものであり、画定された皮膚領域SAの血管密度からシミ属性を判定することにより、皮膚領域SAの血管密度を測定するだけで、シミ部位SAの性質や特徴を見きわめることができる。これにより、本例では、シミ部位SAに対する治療効果の有無等のシミ属性を事前に予測することができる。そのため、本例のシミ属性判定方法によれば、光線治療等の施術を行う前にシミSSの評価を簡単に行うことができる。
【0040】
本例のシミ属性判定方法では、皮膚領域SAの画像解析により血管密度を測定することで、皮膚領域SAの血管密度について客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域SAの画像解析により測定した血管密度からシミ属性を判定することにより、高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0041】
本例のシミ属性判定方法では、皮膚領域SAの血流画像BFの画像解析により血管密度を測定することで、皮膚領域SAの血管密度についてより客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域SAの血流画像BFの画像解析により測定した血管密度からシミ属性を判定することにより、より高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0042】
本例のシミ属性判定方法では、皮膚領域SAの3次元画像IM3の画像解析により血管密度を測定することにより、皮膚領域SAの血管密度についてさらに客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域SAの3次元画像IM3を画像解析から測定した血管密度に基づいてシミ属性を判定することにより、さらに高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0043】
本例のシミ属性判定方法では、皮膚領域SAの表面からの深さが50μm以上600μm以下の範囲から得られた画像の画像解析により血管密度を測定することで、皮膚領域SAの血管密度について漏れのない情報を得ることができる。そのため、皮膚領域SAの表面からの深さがこのような範囲となる皮膚領域SAの箇所から得られた画像の画像解析により測定した血管密度に基づいてシミ属性を判定することで、さらに高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0044】
本例のシミ属性判定方法では、シミSSが含まれる皮膚領域SAの明るさまたは色に基づいてシミSSを特定することにより、シミSSが含まれる皮膚領域SAの画定を客観的に行うことができる。そのため、このようにシミSSが特定された皮膚領域SAの血管密度からシミ属性を判定することにより、高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0045】
本実施形態のシミ属性判定方法では、シミSSの属性として、シミSSに対するレーザー治療の有効性を判定することにより、皮膚領域SAの血管密度を測定するだけで、シミ部位SAに対するレーザー治療の効果の有無を事前に予測することができる。そのため、本実施形態によれば、シミ部位SAに対するレーザー治療の施術を行う前にシミSSの評価をより簡単に行うことができる。
【0046】
<シミ属性判定システム>
【0047】
図15は、本発明に係るシミ属性判定システムの実施形態を示すブロック図である。本実施形態に係るシミ属性判定システム1は、情報入力部10、画像形成部20、血管密度測定部30、シミ属性判定部40、情報出力部50、中央演算処理数値(CPU)60、メモリー70を有する(
図15)。シミ属性判定システム1は、本発明に係るシミ属性判定システムの一例であり、本発明に係るシミ属性判定方法を実行し得る。
【0048】
情報入力部10は、被験者の諸情報(例えば、識別番号、性別、年齢、シミ部位の位置等)を入力し得るインターフェースである(
図15参照)。情報入力部10は、中央演算処理数値(CPU)60、及びメモリー70に通信可能に接続されている(
図15参照)。情報入力部10は、中央演算処理数値(CPU)60により制御される。入力された情報は、メモリー70に格納することができる。
【0049】
画像形成部20は、シミSSが含まれる皮膚の領域(シミ部位)SAの画像(画像IM2、IM3等)を形成する(
図2、
図4、
図5、
図15参照)。具体的には、画像形成部20で、上述したシミ属性判定方法の一部(
図1、ステップS2)が実行される。
【0050】
画像形成部20は、情報入力部10、中央演算処理数値(CPU)60、及びメモリー70に通信可能に接続されている(
図15参照)。画像形成部20は、中央演算処理数値(CPU)60により制御され、画像形成部20で得られた画像データは、メモリー70に格納することができる。なお、画像形成部20は、本発明に係るシミ属性判定システムの一部を構成する画像形成部の一例である。
【0051】
血管密度測定部30は、皮膚領域(シミ部位)SAの画像IMから皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度を測定する(
図2、
図4、
図5、
図15参照)。具体的には、血管密度測定部30で、上述したシミ属性判定方法の一部(
図1、ステップS3)が実行される。
【0052】
血管密度測定部30は、画像形成部20、中央演算処理数値(CPU)60、及びメモリー70に通信可能に接続されている(
図15参照)。血管密度測定部30は、中央演算処理数値(CPU)60により制御され、血管密度測定部30により得られた血管密度の情報は、メモリー70に格納することができる。なお、血管密度測定部30は、本発明に係るシミ属性判定システムの一部を構成する血管密度測定部の一例である。
【0053】
シミ属性判定部40は、皮膚領域(シミ部位)SAの血管密度からシミSSの属性を判定する(
図2、
図15参照)。具体的には、シミ属性判定部40で、上述したシミ属性判定方法の一部(
図1、ステップS4)が実行される。
【0054】
シミ属性判定部40は、血管密度測定部30、中央演算処理数値(CPU)60、及びメモリー70に通信可能に接続されている(
図15参照)。シミ属性判定部40は、中央演算処理数値(CPU)60により制御され、シミ属性判定部40により得られた判定結果の情報は、メモリー70に格納することができる。なお、シミ属性判定部40は、本発明に係るシミ属性判定システムの一部を構成するシミ属性判定部の一例である。
【0055】
情報出力部50は、シミ属性判定部40における判定結果の情報をシミ属性判定システム1の外部に出力し得るインターフェースである(
図15参照)。情報出力部50は、シミ属性判定部40、中央演算処理数値(CPU)60、及びメモリー70に通信可能に接続されている(
図15参照)。情報出力部50は、中央演算処理数値(CPU)60により制御される。
【0056】
なお、情報出力部50では、シミ属性判定部40における判定結果の情報を直接出力してもよいし、メモリー70に格納された判定結果の情報をメモリー70から読み出して出力しても良い。また、情報出力部50では、シミ属性判定部40における判定結果の他に、被験者の諸情報、皮膚領域(シミ部位)SAの画像データ、血管密度の情報を出力するようにしてもよい。
【0057】
また、情報出力部50には、有線または無線での通信が可能な表示装置(図示せず)を接続してもよい。表示装置の具体例としては、情報出力部50と表示装置とが有線で接続される場合は、パーソナルコンピュータ等のディスプレイが挙げられる。また、シミ属性判定システム1と表示装置とが無線で接続される場合は、スマートフォン等の汎用の携帯端末のディスプレイが挙げられる。
【0058】
中央演算処理数値(CPU)60は、情報入力部10、画像形成部20、血管密度測定部30、シミ属性判定部40、情報出力部50、メモリー70を制御するプロセッサである(
図15参照)。中央演算処理数値(CPU)60は、上述のように、情報入力部10、画像形成部20、血管密度測定部30、シミ属性判定部40、情報出力部50、メモリー70に接続されている(
図15参照)。
【0059】
メモリー70は、各種の情報(被験者の諸情報、皮膚領域(シミ部位)SAの画像データ、血管密度、血管密度とメラニン値比との相関係数、血管密度と明るさ比との相関係数、その他の判定結果等の情報)を記憶する(
図15参照)。メモリー70は、上述のように、情報入力部10、画像形成部20、血管密度測定部30、シミ属性判定部40、情報出力部50、中央演算処理数値(CPU)60に接続されている(
図15参照)。なお、
図15に示す例では、メモリー70が中央演算処理数値(CPU)60と独立して配置されているが、本実施形態は、この構成に限定されるものではなく、メモリー70を中央演算処理数値(CPU)60の内部に配置してもよい。
【0060】
なお、シミ属性判定システム1では、シミ属性の判定を高い精度で行う観点から、画像解析に用いる画像IMは、皮膚領域SAの血流画像BFであることが好ましい。本実施形態のシミ属性判定システム1では、画定された皮膚領域SAの血流画像BFの画像解析により測定した血管密度からシミ属性を判定する(
図1、ステップS1~S4)。
【0061】
実施形態のシミ属性判定システム1は、実質的に、上述した本実施形態のシミ属性判定方法を実行するシステムである。すなわち、本実施形態では、シミSSが含まれる皮膚領域SAを画定し、皮膚領域SAの血管密度を測定し、血管密度からシミSSの属性を判定することができる(
図1、
図2参照)。
【0062】
これにより、本実施形態では、皮膚領域SAの血管密度を測定するだけで、シミ部位SAの性質や特徴を見きわめることができるので、シミ部位SAに対する治療効果の有無等のシミ属性を事前に予測することができる。そのため、本実施形態によれば、光線治療等の施術を行う前にシミSSの評価を簡単に行うことができる。
【0063】
また、本実施形態では、皮膚領域SAの血流画像BFの画像解析により血管密度を測定することで、皮膚領域SAの血管密度についてより客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域SAの血流画像BFの画像解析により測定した血管密度からシミ属性を判定することにより、より高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0064】
<血管密集度推定方法>
図16は、本発明に係る血管密集度推定方法のアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
図17は、基準表皮厚の皮膚領域(正常部位)の断面を示す図であり、
図18は、シミ部位と正常部位を含む皮膚領域の断面を示す図である。なお、
図16~
図18において、
図1、
図2と共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0065】
本例の血管密集度推定方法では、まず、皮膚領域を画定する(
図16、ステップS21)。測定する皮膚領域は、シミ部位の皮膚領域(シミが含まれる皮膚の領域)でもよく、事前にシミ部位か否か不明である皮膚領域であってもよい。測定対象となる皮膚領域は、例えば、皮膚領域SA1、SA2である(
図17、
図18)。
【0066】
皮膚領域SA1は、正常部位の(シミ部位でない)皮膚領域であり、表皮EM1と真皮DM1で構成されている。皮膚領域SA1の表皮EM1は、厚み(表皮厚)ET1を有する。皮膚領域SA1(正常部位)の表皮EM1の表皮厚ET1は、後述する基準表皮厚に対応する。また、皮膚領域SA1の真皮DM1には、血管BV1が密集している。
【0067】
皮膚領域SA2は、シミ部位の皮膚領域であり、表皮EM2と真皮DM2で構成されている。皮膚領域SA1の表皮EM1は、厚み(表皮厚)ET2を有する。皮膚領域SA2(シミ部位)の表皮厚ET2は、皮膚領域SA1(正常部位)の表皮厚ET1(基準表皮厚)より厚くなっている。また、皮膚領域SA2の真皮DM2には、血管BV2が密集している。皮膚領域SA2の血管BV2は、皮膚領域SA1の真皮DM1より、血管の密集度が高くなっている。
【0068】
次に、画定した皮膚領域SA1、SA2の表皮厚ET1、ET2を測定する(
図16、ステップS22、
図17参照)。本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域SA1、SA2の表皮厚ET1、ET2を皮膚領域SA1、SA2の各画像の画像解析により測定する。なお、皮膚領域SA1、SA2の各画像の画像解析には、上述のように皮膚領域を可視化する手法(OCT等を用いた手法)を用いることができる(
図3参照)。
【0069】
また、画像解析の対象となる画像は、皮膚領域SA1、SA2の各表皮EM1、EM2の画像である。すなわち、画像解析に用いられる画像を取得する皮膚領域SA1、SA2の箇所は、皮膚領域SA1、SA2の表皮EM1、EM2である。
【0070】
本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域SA1、SA2の各画像は、皮膚領域SA1、SA2の表面からの深さ(表皮厚EM1、EM2)が、例えば50μm以上600μm以下の範囲から得られる画像(3次元画像IM3e)であり、好ましくは50μm以上300μm以下、より好ましくは50μm以上200μm以下の範囲から得られる画像(3次元画像IM3d)である(
図5参照)。
【0071】
すなわち、皮膚領域SA1、SA2の表面からの深さが50μm以上600μm以下の範囲は、表皮EM1、EM2および真皮DM1、DM2を含む範囲に略対応し、50μm以上400μm以下の範囲は、表皮EM1、EM2と真皮DM1、DM2の一部を含む範囲に略対応し、300μm以上200μm以下の範囲は、真皮DM1、DM2の一部に略対応する。
【0072】
本例の血管密集度推定方法では、所定の基準表皮厚に対する測定した表皮厚の比を表皮厚比として算出する(
図16、ステップS23、
図17参照)。ここで、所定の基準表皮厚は、予め定められた正常部位の皮膚領域の表皮厚を示す。また、表皮厚比は、所定の基準表皮厚をST、測定した表皮厚をMTとしたとき、MT/STで示される。
【0073】
表皮厚比MT/STが1より大きい場合は、測定した皮膚領域の表皮厚が正常部位の皮膚領域の表皮厚よりも厚いことを示す。表皮厚比MT/STが1の場合は、測定した皮膚領域が正常部位の表皮厚と同等であることを示す。
【0074】
本例では、例えば、皮膚領域SA1(正常部位)の表皮EM1の表皮厚を予め測定し、得られた表皮厚ET1を所定の基準表皮厚とすることができる。また、皮膚領域SA2(シミ部位)の表皮EM2の表皮厚ET2を測定し、得られた表皮厚ET2を測定した表皮厚とすることができる。
【0075】
本例の血管密集度推定方法では、さらに、算出した表皮厚比MT/STから皮膚領域の血管密集度を推定する(
図16、ステップS24、
図17参照)。ここで、血管密集度は、皮膚領域内に血管が密集する度合いを示す。表皮厚比から血管密集度を推定するとは、表皮厚比に基づいて血管密集度を計り知ることを示す。
【0076】
なお、対象となる皮膚領域SA1、SA2について血管密集度を推定が行われた後に、別の皮膚領域について血管密集度を推定する場合は、皮膚領域の画定から血管密集度を推定までの処理を繰り返す(
図16、ステップS21~ステップS24)。
【0077】
血管密集度は、例えば、以下のように算出することができる。まず、上述のシミ属性判定方法で採用した血管密度を測定により、所定の基準表皮厚を有する皮膚領域SA1(正常部位)の血管密度(基準血管密度)MD1および表皮厚を測定した皮膚領域SA2の血管密度MD2を測定する。そして、所定の基準血管密度MD1に対する皮膚領域SA2の血管密度MD2の比(血管密度比MD2/MD1)を血管密集度として算出する。
【0078】
図19は、皮膚領域における表皮厚比と血管密集度との相関関係を示す図である。発明者は、表皮厚比MT/ST(E
*)と血管密度比MD2/MD1との間に相関関係があることを見出した(
図19)。ここで、表皮厚比MT/ST(E
*)と血管密度比MD2/MD1との関係を調べたN数は25である(
図19)。
【0079】
本例の血管密集度推定方法では、推定した血管密集度から皮膚領域に発生するシミの属性(シミ属性)を判定することができる。ここで、血管密集度からシミ属性を判定するとは、血管密集度に基づいてシミ属性を見分けることを示す。
【0080】
本例の血管密集度推定方法は、見方を変えると、算出した表皮厚比MT/ST(E*)からシミの属性を判定することができると言える。ここで、表皮厚比からシミ属性を判定するとは、表皮厚比に基づいてシミ属性を見分けることを示す。また、表皮厚比を算出する際に確定する皮膚領域は、シミ部位(シミが含まれる皮膚の領域)であることが事前に判っていてもよい。
【0081】
なお、本例の血管密集度推定方法において、シミ部位に含まれるシミを特定する態様は、限定されない。本例の血管密集度推定方法では、例えば、シミが含まれる皮膚領域SA2の明るさまたは色に基づいてシミを特定することができる。
【0082】
本例の血管密集度推定方法において、血管密集度から判定されるシミの属性は、限定されない。本例の血管密集度推定方法で判定されるシミ属性としては、例えば、上述のシミ属性判定方法と同様に、シミに対するレーザー治療の有効性を判定することができる。
【0083】
ここで、皮膚領域SA2について、上述のシミ属性判定方法と同様に、レーザー治療前の血管密度とメラニン値Mbと、レーザー治療から3か月後のメラニン値Maとを測定し、メラニン値比Ma/Mb(M
*)を算出する(
図7、ステップS11~S14、
図8、
図10、
図18参照)。なお、皮膚領域SA2は、上述のシミ属性判定方法でメラニン値Mbを測定した皮膚領域(シミ部位)SAに相当する(
図2参照)。
【0084】
そして、皮膚領域(シミ部位)SA2の表皮厚比E
*とメラニン値比M
*との相関係数を算出する(
図7、ステップS15)。本例では、被験者11人を対象とする12例について、皮膚領域(シミ部位)SA2の表皮厚比E
*とメラニン値比M
*を測定したデータをプロットし、相関係数は0.75となった(
図20参照)。
【0085】
これにより、皮膚領域(シミ部位)SA2の表皮厚比E*とメラニン値比M*との間に相関関係があることが判る。この相関関係は、皮膚領域(シミ部位)SA2の表皮厚比E*が厚いとメラニン値比M*が高く、皮膚領域の表皮厚比E*が薄いとメラニン値比M*が低くなることを示している。
【0086】
すなわち、表皮厚比が厚い皮膚領域は、血管密度が高く、表皮厚比が薄い皮膚領域は、血管密度が低い傾向がある。その結果、表皮厚比が厚い皮膚領域は、レーザー治療による効果が低く、の表皮厚比が薄い皮膚領域は、レーザー治療による効果が高いことが予測できる(
図20)。
【0087】
本例の血管密集度推定方法は、このような考察から得られたものであり、画定された皮膚領域における表皮厚比(所定の基準表皮厚に対する測定した表皮厚の比)から皮膚領域の血管密集度を推定することにより、皮膚領域の表皮厚を測定するだけで、皮膚領域の性質や特徴(皮膚領域が正常部位であるか、またはシミ部位であるか等)を見きわめることができる。
【0088】
本例の血管密集度推定方法では、血管密集度として血管密度比(所定の基準血管密度に対する領域の血管密度の比)を採用することにより、皮膚領域における表皮厚比と血管密集度との相関関係を導き出すことができる。これにより、皮膚領域の血管密集度について客観的な情報を得ることができる。
【0089】
本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域の画像の画像解析により表皮厚を測定することで、皮膚領域の血管密集度についてより客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域の画像の画像解析により測定した表皮厚から表皮厚比を算出することにより、高い精度で血管密集度を推定することができる。
【0090】
本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域の表皮の画像を画像解析することにより、皮膚領域の表皮厚についてより客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域の表皮厚の画像の画像解析により測定した表皮厚から表皮厚比を算出することによりさらに高い精度で血管密集度を推定することができる。
【0091】
本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域の画像として3次元画像を採用することにより、皮膚領域の表皮厚についてさらに客観的な情報を得ることができる。そのため、皮膚領域の3次元画像を画像解析から測定した表皮厚に基づいて表皮厚比を算出することにより、さらに高い精度で血管密集度を推定することができる。
【0092】
本例の血管密集度推定方法では、皮膚領域の表面からの深さが50μm以上600μm以下の範囲から得られた画像の画像解析により表皮厚を測定することで、皮膚領域の表皮厚について漏れのない情報を得ることができる。そのため、皮膚領域の表面からの深さがこのような範囲となる皮膚領域の箇所から得られた画像の画像解析により測定した表皮厚に基づいて表皮厚比を算出することで、さらに高い精度で血管密集度を推定することができる。
【0093】
本例の血管密集度推定方法では、推定した血管密集度から皮膚領域に発生するシミの属性を判定することにより、皮膚領域の表皮厚を測定するだけで、皮膚領域が正常部位であるか、シミ部位であるかを見きわめることができる。これにより、シミ部位であるか不明な皮膚領域が、正常部位であるかシミ部位であるか予測することができる。そのため、本例の血管密集度推定方法によれば、光線治療等の施術を行うのに適切な皮膚領域であるか否かを事前に判定することができる。
【0094】
本例の血管密集度推定方法では、シミが含まれる皮膚領域を画定し、画定した皮膚領域の表皮厚を測定し、算出した表皮厚比からシミの属性を判定することで、シミ部位の性質や特徴を見きわめることができる。これにより、シミ部位に対する治療効果の有無等のシミ属性を事前に予測することができる。そのため、本例の血管密集度推定方法によれば、光線治療等の施術を行う前にシミの評価を簡単に行うことができる。
【0095】
本例の血管密集度推定方法では、シミが含まれる皮膚領域の明るさまたは色に基づいてシミを特定することにより、シミが含まれる皮膚領域の画定を客観的に行うことができる。そのため、このようにシミが特定された皮膚領域の血管密度からシミ属性を判定することにより、高い精度でシミ属性を判定することができる。
【0096】
本実施形態の血管密集度推定方法では、シミの属性として、シミに対するレーザー治療の有効性を判定することにより、皮膚領域の血管密度を測定するだけで、シミ部位に対するレーザー治療の効果の有無を事前に予測することができる。そのため、本実施形態によれば、シミ部位に対するレーザー治療の施術を行う前にシミの評価をより簡単に行うことができる。
【0097】
<血管密集度推定システム>
図21は、本発明に係る血管密集度推定システムの実施形態を示すブロック図である。なお、
図21において、
図15と共通する部分については、同一のまたは対応する符号を付して説明を省略する場合がある。
【0098】
本実施形態に係る血管密集度推定システム100は、情報入力部110、画像形成部120、表皮厚測定部131、表皮厚比算出部132、血管密集度推定部133、シミ属性判定部140、情報出力部150、中央演算処理数値(CPU)160、メモリー170、を有する(
図21)。血管密集度推定システム100は、本発明に係る血管密集度推定システムの一例であり、本発明に係る血管密集度推定方法を実行し得る。
【0099】
情報入力部110は、被験者の諸情報(例えば、識別番号、性別、年齢、正常部位の位置、シミ部位の位置等)を入力し得る(
図21)。
【0100】
画像形成部120は、皮膚領域SA1(正常部位)、皮膚領域SA2(シミ部位)の画像(画像IM2、IM3等)を形成する(
図2、
図4、
図5参照)。具体的には、画像形成部120で、上述した血管密集度推定方法の一部(
図16、ステップS21)が実行され、各皮膚領域(皮膚領域SA1、SA2)が確定される。
【0101】
画像形成部120は、情報入力部110、表皮厚測定部131、中央演算処理数値(CPU)160、及びメモリー170に通信可能に接続されている(
図21)。画像形成部120は、中央演算処理数値(CPU)160により制御され、画像形成部120で得られた画像データは、メモリー70に格納することができる。なお、画像形成部120は、本発明に係るシミ属性判定システムの一部を構成する画像形成部の一例である。
【0102】
表皮厚測定部131は、各皮膚領域(皮膚領域SA1、SA2)の画像IM3から皮膚領域の表皮厚ET1、ET2を測定する(
図16~
図18)。具体的には、表皮厚測定部131で、上述したシミ属性判定方法の一部(
図16、ステップS22)が実行される。
【0103】
表皮厚測定部131は、画像形成部120、表皮厚比算出部132、中央演算処理数値(CPU)160、及びメモリー170に通信可能に接続されている(
図21)。表皮厚測定部131は、中央演算処理数値(CPU)160により制御され、表皮厚測定部131により得られた表皮厚の情報は、メモリー70に格納することができる。なお、表皮厚測定部131は、本発明に係る血管密集度推定システムの一部を構成する表皮厚測定部の一例である。
【0104】
表皮厚比算出部132は、皮膚領域SA1の表皮厚ET1(所定の基準表皮厚)に対する測定した皮膚領域SA2表皮厚ET2の比(表皮厚比ET2/ET1(E
*))を算出する(
図16~
図18)。具体的には、表皮厚比算出部132で、上述した血管密集度推定方法の一部(
図16、ステップS23)が実行される。
【0105】
表皮厚比算出部132は、表皮厚測定部131、血管密集度推定部133、中央演算処理数値(CPU)160、及びメモリー170に通信可能に接続されている(
図21)。表皮厚比算出部132は、中央演算処理数値(CPU)160により制御され、表皮厚比算出部132により得られた表皮厚比の情報は、メモリー170に格納することができる。なお、表皮厚比算出部132は、本発明に係る血管密集度推定システムの一部を構成する表皮厚比算出部の一例である。
【0106】
血管密集度推定部133は、算出した表皮厚比ET2/ET1(E
*)から皮膚領域SA2の血管密集度を推定する(
図16~
図18)。具体的には、血管密集度推定部133で、上述した血管密集度推定方法の一部(
図16、ステップS24)が実行される。
【0107】
血管密集度推定部133は、表皮厚比算出部132、シミ属性判定部140、中央演算処理数値(CPU)160、及びメモリー170に通信可能に接続されている(
図21)。血管密集度推定部133は、中央演算処理数値(CPU)160により制御され、血管密集度推定部133により得られた血管密集度の情報は、メモリー170に格納することができる。なお、血管密集度推定部133は、本発明に係る血管密集度推定システムの一部を構成する血管密集度推定部の一例である。
【0108】
シミ属性判定部140は、推定した血管密集度から皮膚領域SA2に発生するシミの属性を判定する(
図17~
図19参照)。具体的には、シミ属性判定部140で、上述したシミ属性判定方法の一部(皮膚領域に発生するシミ属性の判定)が実行される。
【0109】
シミ属性判定部140は、血管密集度推定部133、中央演算処理数値(CPU)160、及びメモリー170に通信可能に接続されている(
図21)。シミ属性判定部140は、中央演算処理数値(CPU)160により制御され、シミ属性判定部140により得られた判定結果の情報は、メモリー170に格納することができる。なお、シミ属性判定部140は、本発明に係る血管密集度推定システムの一部を構成するシミ属性判定部の一例である。
【0110】
情報出力部150では、シミ属性判定部40における判定結果の他に、被験者の諸情報、皮膚領域(正常部位、シミ部位)の画像データ、基準表皮厚、基準血管密度等の情報を出力することができる。
【0111】
中央演算処理数値(CPU)160は、情報入力部110、画像形成部120、表皮厚比算出部132、血管密集度推定部133、シミ属性判定部140、情報出力部150、メモリー170を制御する(
図21)。中央演算処理数値(CPU)160は、上述のように、情報入力部110、画像形成部120、表皮厚比算出部132、血管密集度推定部133、シミ属性判定部140、情報出力部150、メモリー70に接続されている(
図21)。
【0112】
メモリー170は、各種の情報(被験者の諸情報、正常部位の位置、シミ部位の位置、皮膚領域(正常部位、シミ部位)の画像データ、表皮厚、表皮厚比、血管密集度(血管密集度比)、血管密度、表皮厚比と血管密集度との相関係数、表皮厚比とメラニン値比との相関係数、その他の判定結果等の情報)を記憶する(
図21)。
【0113】
メモリー170は、上述のように、情報入力部110、画像形成部120、表皮厚比算出部132、血管密集度推定部133、シミ属性判定部140、情報出力部150、中央演算処理数値(CPU)160に接続されている(
図21)。なお、
図15に示す例では、メモリー170が中央演算処理数値(CPU)160と独立して配置されているが、本実施形態は、この構成に限定されるものではなく、メモリー170を中央演算処理数値(CPU)160の内部に配置してもよい。
【0114】
実施形態の血管密集度推定システム100は、実質的に、上述した本実施形態の血管密集度推定方法を実行するシステムである。すなわち、本実施形態に係る血管密集度推定システム100では、皮膚領域を画定し、画定した皮膚領域の表皮厚を測定し、表皮厚比(所定の基準表皮厚に対する測定した表皮厚の比)を算出し、算出した表皮厚比から皮膚領域の血管密集度を推定することができる(
図16~
図18参照)。
【0115】
これにより、本実施形態では、皮膚領域の表皮厚を測定するだけで、皮膚領域の性質や特徴(皮膚領域が正常部位であるか、またはシミ部位であるか等)を見きわめることができる。
【0116】
また、本実施形態に係る血管密集度推定システム100では、推定した血管密集度から皮膚領域に発生するシミの属性を判定することができる(
図16~
図20参照)。
【0117】
これにより、シミ部位であるか不明な皮膚領域が、正常部位であるかシミ部位であるか予測することができる。そのため、本例の血管密集度推定方法によれば、光線治療等の施術を行うのに適切な皮膚領域であるか否かを事前に判定することができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0119】
本出願は、2019年11月8日に出願された国際出願PCT/JP2019/044031号に基づく優先権を主張するものであり、その全内容をここに援用する。
【符号の説明】
【0120】
1 シミ属性判定システム
10 情報入力部
20 画像形成部
30 血管密度測定部
40 シミ属性判定部
50 情報出力部
60 中央演算処理数値(CPU)
70 メモリー
100 血管密集度推定システム
110 情報入力部
120 画像形成部
131 表皮厚測定部
132 表皮厚比算出部
133 血管密集度推定部
140 シミ属性判定部
150 情報出力部
160 中央演算処理数値(CPU)
170 メモリー
SS シミ
SA 皮膚領域
SA1 皮膚領域(正常部位)
SA2 皮膚領域(シミ部位)
EM 表皮
EM1 表皮(正常部位)
EM2 表皮(シミ部位)
DM 真皮
DM1 真皮(正常部位)
DM2 真皮(シミ部位)
BV 血管
BV1 血管(正常部位)
BV2 血管(シミ部位)
IM2 2次元画像
IM3 3次元画像
IM3e 表皮の3次元画像
IM3d 真皮の3次元画像
BF 血流画像
ET1 表皮厚(正常部位)
ET2 表皮厚(シミ部位)