(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025032034
(43)【公開日】2025-03-07
(54)【発明の名称】若返り剤および若返り方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20250228BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20250228BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250228BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20250228BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20250228BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250228BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K31/7105
A61K48/00
A61K45/00
A61P3/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2025000035
(22)【出願日】2025-01-06
(62)【分割の表示】P 2023134298の分割
【原出願日】2023-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】520233113
【氏名又は名称】DEXONファーマシューティカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230113697
【弁護士】
【氏名又は名称】菅原 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥嗣
(57)【要約】
【課題】細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備える若返り剤の提供。
【解決手段】細胞を含む対象に投与される用途の若返り剤であって、歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む、若返り剤;若返り方法;
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む対象に投与される用途の若返り剤であって、
歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む、若返り剤。
【請求項2】
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物であり、
前記培養上清が前記微小粒子を含む、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項3】
前記微小粒子が、(1)下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、請求項1に記載の若返り剤。
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p。
【請求項4】
前記微小粒子が前記若返り関連miRNAとしてhas-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pのうち少なくとも1種類を含む、請求項3に記載の若返り剤。
【請求項5】
前記微小粒子が、前記培養上清よりも高い濃度で前記若返り関連miRNAを含む、請求項3に記載の若返り剤。
【請求項6】
前記組成物が、前記培養上清から前記微小粒子を除いたものを含まない、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項7】
(2)下記SASP因子の発現抑制剤である、請求項1に記載の若返り剤。
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1。
【請求項8】
前記細胞が体性幹細胞または分化した細胞である、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項9】
前記対象が体性幹細胞または分化した細胞であり、
nを自然数として、前記若返り剤を投与せずにn回継代した対象よりも、n回継代した対象に前記若返り剤を投与した場合に前記対象を若返らせることができる、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項10】
(3)前記細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させる、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項11】
(4)前記若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に前記若返り剤を投与した場合にSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させる、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項12】
細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、細胞分裂能力の回復のすべてを備える、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項13】
下記(1)~(4)のすべてを満たす、請求項1に記載の若返り剤。
(1)下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p;
(2)下記SASP因子の発現抑制剤である、
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1;
(3)前記細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させる;
(4)前記若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に前記若返り剤を投与した場合に前記対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させる。
【請求項14】
前記微小粒子がエクソソームである、請求項1に記載の若返り剤。
【請求項15】
有効量の請求項1に記載の若返り剤を、細胞を含む対象に投与することを含む、若返り方法。
【請求項16】
前記若返り剤の投与量が、前記細胞あたり500個以上の微小粒子となる量である、請求項15に記載の若返り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、若返り剤および若返り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞および組織、ならびにそれらを有する生物の若返りについて、多くの研究がなされている。これまでの研究では、若返り方法とは、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復の少なくとも1つ以上を備える方法とされてきていた。
【0003】
細胞の機能回復に関し、特許文献1には、皮膚治療のための薬剤として使用するための、脱分化した植物細胞懸濁培地の増殖を先にサポートした無細胞上清または前記無細胞上清の画分であって、無細胞上清または画分は、4~300アミノ酸長の、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、エピジェネティック因子、およびこれらの混合物から選択されるペプチドを含み、無細胞上清または画分は、細胞溶解による細胞質性細胞内含有物ならびに膜および/または細胞壁を有していない、無細胞上清またはその画分が記載されている。そして、皮膚細胞(すなわち、線維芽細胞)における老化を回復させることにより、動物の皮膚細胞の修復剤および/または再生剤とすることが記載されている。
【0004】
SASPの抑制に関し、特許文献2には、必要とする被験体に治療上有効な量のベルベリン、ビタミンA化合物、およびα-ケトグルタル酸(AKG)を投与する工程を含む、被験体の寿命を延ばす方法が記載されている。そして、老化細胞により分泌されるSASPは、老化関連疾患の発症および進行の一因となることが記載されている。
非特許文献1には、若い動物の脂肪間葉系幹細胞に由来する小細胞外小胞(sEV)で老齢動物を治療したところ、運動調整、握力、疲労耐性、毛皮の再生、腎機能などの改善や、老化マーカーSASP(IL-1βおよびIL-6)を減少できたことが記載されている。
【0005】
次に、テロメアは、各染色体の末端にキャップをし、且つ、各細胞周期において絶え間ない分解から各染色体の末端を守ることによって染色体完全性を確保及び保障するタンパク質が付随している反復DNA配列である。テロメアの短縮は、細胞の老化などをもたらす可能性があり、テロメアは正常な老化の経過の中で徐々に短くなる。細胞内のテロメアの長さを増加させることは、細胞の若返りに繋がる。これに対し、特定の薬剤を細胞に接触させてテロメア延長をすることにより、若返りをさせる方法が知られている。
例えば、特許文献3には、1つ以上のヒト細胞においてテロメア長を増加させる方法であって、ヒト細胞においてZscan4の発現を上昇させる薬剤と1つ以上のヒト細胞を接触させることを含み、前記薬剤と接触していない1つ以上の対応するヒト細胞と比較するとZscan4の発現上昇によって1つ以上のヒト細胞においてテロメア延長が誘導される方法が記載されている。
【0006】
細胞分裂能力の回復に関し、一般に年齢とともに細胞の分裂能力は減少する。これに対し、細胞の分裂能力を回復することにより、新しい健康な細胞が生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-512440号公報
【特許文献2】特開2023-027149号公報
【特許文献3】特開2023-099826号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sci. Adv. (2022) 8、 42、 eabq2226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備える若返り剤または若返り方法はこれまでほとんど知られていなかった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備える若返り剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物が、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備えることを見出した。
【0012】
具体的に、本発明および本発明の好ましい構成は、以下のとおりである。
【0013】
[1] 細胞を含む対象に投与される用途の若返り剤であって、
歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む、若返り剤。
[2] 歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物であり、培養上清が微小粒子を含む、[1]に記載の若返り剤。
[3] 微小粒子が、(1)下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、[1]に記載の若返り剤。
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p。
[4] 微小粒子が若返り関連miRNAとしてhas-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pのうち少なくとも1種類を含む、[3]に記載の若返り剤。
[5] 微小粒子が、培養上清よりも高い濃度で若返り関連miRNAを含む、[3]に記載の若返り剤。
[6] 組成物が、培養上清から微小粒子を除いたものを含まない、[1]に記載の若返り剤。
[7] (2)下記SASP因子の発現抑制剤である、[1]に記載の若返り剤。
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1。
[8] 細胞が体性幹細胞または分化した細胞である、[1]に記載の若返り剤。
[9] 対象が体性幹細胞または分化した細胞であり、
nを自然数として、若返り剤を投与せずにn回継代した対象よりも、n回継代した対象に若返り剤を投与した場合に対象を若返らせることができる、[1]に記載の若返り剤。
[10] (3)細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させる、[1]に記載の若返り剤。
[11] (4)若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に若返り剤を投与した場合にSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させる、[1]に記載の若返り剤。
[12] 細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、細胞分裂能力の回復のすべてを備える、[1]に記載の若返り剤。
[13] 下記(1)~(4)のすべてを満たす、[1]に記載の若返り剤。
(1)下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p;
(2)下記SASP因子の発現抑制剤である、
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1;
(3)細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させる;
(4)若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に若返り剤を投与した場合に対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させる。
[14] 微小粒子がエクソソームである、[1]に記載の若返り剤。
[15] 有効量の[1]に記載の若返り剤を、細胞を含む対象に投与することを含む、若返り方法。
[16] 若返り剤の投与量が、細胞あたり500個以上の微小粒子となる量である、[15]に記載の若返り方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備える若返り剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、歯髄由来幹細胞のエクソソームに発現するmiRNAのうち、リードカウント数の多い50種類のmiRNAのリードカウント数を示したグラフである。
【
図2】
図2は、Untreatedを100とし、各SASP因子の発現を相対的数値(%)で示したグラフである。
【
図3】
図3は、継代数P5のNHDF細胞の各染色体末端の平均テロメア長と、実施例1の若返り剤(歯髄由来幹細胞の培養上清)またはControl(リン酸緩衝生理食塩水;PBS)で刺激した場合の継代数P12のNHDF細胞の各染色体末端の平均テロメア長を示したグラフである。
【
図4】
図4は、実施例1の若返り剤(歯髄由来幹細胞の培養上清)またはControl(リン酸緩衝生理食塩水;PBS)で72時間(Day 3)刺激した場合の継代数P12の老化ADMSC(脂肪由来幹細胞)のSA-β-gal陽性細胞数の割合を示したグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の若返り剤(SHED-CM-EVs)には老化した間葉系幹細胞を若返らせる効果があることを示す試験例4の概要図である。
【
図6】
図6は、培養時間0時間におけるADMSCの継代数とSA-β-gal陽性細胞数の関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0017】
[若返り剤]
本発明の若返り剤は、細胞を含む対象に投与される用途の若返り剤であって、歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む。
本発明の若返り剤は、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備える。
以下、本発明の若返り剤の好ましい態様を説明する。
【0018】
<若返りの定義>
本発明において、若返りとは、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備えることを言う。
したがって、本発明の若返り剤は、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制、テロメアの延長、細胞分裂能力の回復のすべてを備えることが好ましい。
【0019】
具体的には、本発明の若返り剤は、下記(1)~(4)のうち少なくとも1つを満たすことが好ましく、少なくとも2つを満たすことがより好ましく、少なくとも3つを満たすことが特に好ましく、すべてを満たすことがより特に好ましい。
(1)は細胞の機能回復に関連し、(2)は細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制に関連し、(3)はテロメアの延長に関連し、(4)は細胞分裂能力の回復に関連する。
(1)下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p;
(2)下記SASP因子の発現抑制剤である、
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1;
(3)細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させる;
(4)若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に若返り剤を投与した場合に対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させる。
【0020】
<歯髄由来幹細胞の培養上清>
本発明の若返り剤は、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物であることが好ましく、この場合は培養上清が微小粒子を含むことが好ましい。
【0021】
<微小粒子>
本発明の若返り剤は、歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子を含む。
微小粒子は、例えば、歯髄由来幹細胞の間葉系幹細胞からの分泌、出芽または分散などにより、歯髄由来幹細胞から導き出され、細胞培養培地に浸出、放出または脱落するものである。
微小粒子の由来は、公知の方法で判別することができる。例えば、微小粒子は、J Stem Cell Res Ther (2018) 8:2に記載の方法で、歯髄由来幹細胞、脂肪由来幹細胞、骨髄由来幹細胞、臍帯由来幹細胞などのいずれの幹細胞に由来するか判別することができる。具体的には、微小粒子のmiRNAパターンに基づいて、それぞれの微小粒子の由来を判別することができる。
【0022】
(1)若返り関連miRNA
本発明では、微小粒子が、下記の若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を含む、ことが好ましい。
若返り関連miRNA:
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p。
本発明において、miRNA(MicroRNAs)は、例えば21~25塩基(ヌクレオチド)のRNA分子である。miRNAは、標的遺伝子(target;ターゲット)mRNAの分解または解読段階における抑制により遺伝子発現を調節できる。
本発明において、miRNAとは、例えば、一本鎖(一量体)でもよいし、二本鎖(二量体)であってもよい。また、本発明において、miRNAは、Dicer等のリボヌクレアーゼにより切断された成熟型miRNAが好ましい。
【0023】
なお、hsa-miR-199a-3pなどの本明細書に記載のmiRNAの配列は公知のデータベース(例えば、miRBase database)にアクセッション番号と関連づけられて登録されており、当業者であれば配列を一義的に定めることができる。例えば、hsa-miR-199a-3pのアクセッション番号はMIMAT0000232であり、miRBase databaseに配列が登録されている。以下、各miRNAのアクセッション番号は省略する。
ただし、本明細書におけるmiRNAは、hsa-miR-199a-3pなどの成熟型miRNAに対して1~5個程度の塩基が異なるバリアントも含む。また、本明細書における各miRNAは、各miRNA(例えばhsa-miR-199a-3p)の塩基配列と同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチド、または、それらの相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。「同一性」とは、比較する配列同士を適切にアライメントしたときの同一の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。アライメントは、例えば、BLAST等の任意のアルゴリズムの利用により行うことができる。同一性は、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または約99%である。同一性を有する塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列において、点変異、欠失および/または付加を有してもよい。前記点変異等の塩基数は、例えば、1~5個、1~3個、1~2個、または1個である。また、相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドは、例えば、miRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、本発明におけるmiRNAの機能を有するポリヌクレオチドを含む。ストリンジェントな条件としては、特に限定されないが、例えば、特開2017-184642号公報の[0028]に記載の条件を挙げることができ、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0024】
本発明では、微小粒子が、歯髄由来幹細胞の培養上清よりも高い濃度で、若返り関連miRNA(および後述のTERT関連miRNA)を含むことが好ましい。以下、微小粒子が含む若返り関連miRNAの好ましい態様を説明する。
【0025】
ヒトのmiR-125a、miR-125bは線虫におけるlin-4に対応すること、線虫においてlin-4は寿命を直接制御してlin-4の機能喪失は寿命を短命化させることが知られている(Human Genetics (2020) 139, 291-308)。そのため、ヒトのmiR-125a-5pおよびhas-miR-125b-5pは寿命に関連するmiRNAであると推測される。
miR-125bは、若い線維芽細胞から古い線維芽細胞へエクソソームを介して移行し、線維芽細胞の移動と移行を促進して老化に対抗することが知られている(Journal of Nanobiotechnology (2020)、20、144)。そのため、has-miR-125b-5pは抗老化に関する若返り関連miRNAと言える。
【0026】
Int. J. Mol. Sci. (2020)、21(15):5281のFig.2には、ヒト皮膚におけるマイクロRNA調節の役割として、皮膚成分の発生、老化過程、がんへのmiRNAの関与を示す模式図が記載されている。この模式図には、miR-199aおよびmiR-199bが毛の発生に関与すること、miR-21およびmiR-155がランゲルハンス細胞の発生に関与すること、miR-155が線維芽細胞の光老化に関与することが記載されている。そのため、miR-155-5p、miR-199a-3p、miR-199b-5p、miR-21-5pは若返り関連miRNAと言える。
また、Int. J. Mol. Sci. (2020)、21(15):5281のFig.3には、皮膚の老化過程における重要な分子シグナル伝達経路の調節におけるマイクロRNAの役割に関する模式図が記載されている。この模式図には、細胞のシグナル伝達機構を調節し、潜在的に老化を促進するmiRNA(赤で示されている)および老化を抑制させるmiRNA(青で示されている)が示されており、miR-93がMMPsの抑制、P21の抑制、TGFβの抑制およびE2Fの抑制に関与すること、miR-24がP16の抑制に関与すること、miR-155がc-JUNの抑制に関与すること、miR-181a/bがSIRT1の抑制に関与することなどが記載されている。そのため、miR-155-5p、miR-181a-5p、miR-24-3p、miR-93-5pは若返り関連miRNAと言える。
【0027】
Communications Biology (2021)、 4、 427にはセルフリーmiRNAとして血中を循環するmiR-199-3pが老化マウスの血中では若齢マウスに比べて有意に減少していることが記載されている。さらに、miR-199-3pは筋分化や筋再生を促進する機能を有すること、miR-199-3pを供給するmiR-199模倣品を加齢マウスに投与すると、筋繊維の肥大と筋力の低下が遅延したこと、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の動物モデルとして知られるmdxマウスにmiR-199模倣品を全身投与すると、マウスの筋力が顕著に改善されたことが示されている。そのため、血中のセルフリーのmiR-199a-3p、miR-199b-3pは、老化した筋繊維の肥大化作用などの抗老化効果を奏する若返り関連miRNAと言える。
ACS Nano (2019) 13、 11273-11282には、3次元スフェロイド形成したヒト線維芽細胞(HDF)のエクソソームでは、hsa-miR-196a-5pとhsa-miR-744-5pは単層培養のヒト線維芽細胞(2D HDF)エクソソームと比較してダウンレギュレートされていたが、hsa-miR-133a-3p、hsa-miR-223-3p、hsa-5011-5p、hsa-miR-325、hsa-miR-199b-5pおよびhsa-miR-34a-5pは間葉系幹細胞(MSC)および2D HDFのエクソソームの両方と比較してアップレギュレーションされていたことが記載されている(Figure 2B)。また、紫外線は皮膚の酸化ストレスの増強を誘導し、TNF-α及びNF-kBシグナル伝達経路を活性化し、結果としてコラーゲンの分解と老化を引き起こすことが記載されている。3D HDFエクソソームではMMPの抑制とマトリックス合成の制御に重要なTIMP-1とTGF-βがアップレギュレートされTNF-αはダウンレギュレートされたことが記載されている。加齢の過程で、MMP産生のアップレギュレーションとコラーゲン産生のダウンレギュレーションは、真皮構造の弱体化と機能的完全性の低下などの加齢性皮膚障害につながること、3次元スフェロイド形成したHDFからのエクソソームが間葉系幹細胞(MSC)あるいは2D HDFのエクソソームよりも老化したHDFの機能を回復させることを示したことが記載されている。また、スフェロイド形成したHDFのエクソソームは真皮線維芽細胞を制御し、効率的なコラーゲン生合成を誘導し、UVB照射によって引き起こされる皮膚の炎症を改善する可能性があること、miR-133aおよびmiR-223のアップレギュレーションがこの改善に寄与している可能性が示唆されたことが記載されている。さらに、スフェロイド形成したHDFのエクソソームは、UVB誘発MMP1発現を抑制し、I型プロコラーゲンを回復させ、TGF-βシグナル経路を活性化させたこと、スフェロイド形成したHDFのエクソソームは、TNF-αのダウンレギュレーションを通じて、皮膚の炎症と老化を改善したことが記載されている。そのため、上記のmiRNA、特にmiR-223-3pは、加齢性皮膚障害を改善する若返り関連miRNAと言える。
【0028】
本発明では、微小粒子が若返り関連miRNAとしてhas-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pのうち少なくとも1種類を含むことが好ましく、has-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pのうち少なくとも2種類を含むことがより好ましく、has-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pのすべてを含むことがより特に好ましい。
【0029】
微小粒子は若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数として、10000以上含むことが好ましく、30000以上含むことがより好ましく、50000以上含むことが特に好ましく、100000以上含むことがより好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、has-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pをいずれも30000以上含むことがより好ましく、50000以上含むことが特に好ましく、100000以上含むことがより好ましい。hsa-miR-21-5pを10000以上含むことが好ましく、30000以上含むことがより好ましい。
微小粒子は若返り関連miRNAのうち少なくとも1種類を、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、8.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、12.0以上含むことが特に好ましい。微小粒子は、IMOTAを用いた解析で得られるリードカウント数のLog2Ratioとして、has-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pを8.0以上含むことが好ましく、10.0以上含むことがより好ましく、12.0以上含むことが特に好ましい。
【0030】
本発明の微小粒子は、脂肪由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームまたは臍帯由来幹細胞の培養上清から得られるエクソソームと比較して、has-miR-125a-5p、hsa-miR-199a-3pおよびhsa-miR-21-5pの発現量が1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2倍以上であることが特に好ましい。
【0031】
ここで、歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子には、約2600種類のsmall RNAが含まれる。このうちの約1800種類がmiRNAである。これらのmiRNAのうち、含有量が多いmiRNAは180~200種類である。歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子における含有量が多いmiRNAは、脳神経疾患の治療に関連するマイクロRNAおよび若返り関連miRNAが多い点が特徴であり、従来知られておらず、本発明者が新たに見出した知見である。この特徴は、その他の間葉系幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAの種類とは大きく異なる。例えば、脂肪由来幹細胞の微小粒子や臍帯由来幹細胞の微小粒子における含有量が多いmiRNAには、脳神経疾患の治療に関連するマイクロRNAはほとんど含まれない。本発明との関連では、歯髄由来幹細胞に由来する微小粒子における若返り関連miRNAは、脂肪由来幹細胞の微小粒子や臍帯由来幹細胞の微小粒子における若返り関連miRNAよりも含有量が非常に多い。
【0032】
微小粒子は、若返り関連miRNAを2種類以上含むことが好ましく、3種類以上含むことがより好ましく、5種類以上含むことがより好ましく、8種類以上含むことが特に好ましく、10種類以上含むことがより特に好ましい。
【0033】
(2)SASP因子の発現抑制剤
本発明の若返り剤は、下記SASP因子の発現抑制剤であることが好ましい。
SASP因子:
IL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1。
本発明の若返り剤は、細胞(幹細胞または分化した細胞など、特に体制幹細胞)の老化のスピードを緩め、老化細胞(特に老化幹細胞)が放出する老化因子であるSASP因子を減少させることができる。
本発明の若返り剤は、これらのSASP因子の中でも、CCL5、CXCL10、IL-6、TNF-αおよびMCP-1の発現抑制剤であることがより好ましい。
また、本発明の若返り剤におけるSASP因子の発現抑制剤としての有効成分は特に限定されないが、本発明の若返り剤に含まれる微小粒子がこれらのSASP因子の発現抑制剤であることが好ましい。
【0034】
IL-1βは痛みの閾値を下げ、発熱を生じ、組織傷害をきたす強力な炎症性サイトカインであり、T細胞の活性化と抗原認識を促進し,さらにTh17の分化と成熟を誘導しプロスタグランジンの誘導と分泌に関与する。IL-1βのmRNAへの転写は微生物の成分、TNFα、IL-18、IL-1αおよびIL-1βにより誘導される。
CCL5(Chemokine (C-C motif) ligand 5)及びCXCL10(C-X-C motif chemokine 10)はケモカインであり、がん細胞を殺傷する細胞傷害性T細胞を呼び寄せる。
PAI-1(プラスミノーゲン活性化因子阻害剤-1)は、血管内皮細胞や肝臓、血小板、脂肪細胞などに存在し、血管内皮障害や血小板の崩壊により、血中に多く放出される。PAI-1は、形成された血栓を溶解するプラスミンの生成反応を助ける、組織プラスミノゲンアクチベーター(t-PA)を特異的かつ即時的に阻害することで、線溶系反応を制御するはたらきがある。
IL-6は、B細胞分化因子;B細胞刺激因子-2;肝細胞刺激因子;ハイブリドーマ増殖因子;および形質細胞腫増殖因子である。IL-6は代表的な炎症性サイトカインであり、また、急性炎症応答の制御、BおよびT細胞分化を含む特定の免疫応答の調節、骨代謝、血小板産生、上皮増殖、月経、神経細胞分化、神経保護、加齢、癌、アルツハイマー病において起こる炎症反応などに関与する多機能サイトカインである。IL-6は、疲労、悪液質、自己免疫疾患、骨格系の疾患、癌、心臓疾患、肥満、糖尿病、喘息、アルツハイマー病および多発性硬化症を含む、多数の疾患および障害の発展に役割を果たすと考えられている(特開2019-047787号公報の[0002]~[0005]参照)。
TNF(Tumor Necrosis Factor;腫瘍壊死因子)は、代表的な炎症性サイトカインである。TNFとして、TNFα、TNFβおよびLTβが知られている。この中でもTNFαは二次リンパ器官の構造的および機能的組織化、アポトーシスおよび抗腫瘍活性、ウイルス複製の阻害、免疫調節ならびに炎症を含めたいくつもの重要な生活機能を媒介する。TNFはまた、自己免疫疾患の病理発生、急性期反応、敗血症性ショック、発熱および悪液質においても重要な役割を果たす(特開2020-079306号公報の[0004]参照)。
MMP-3は関節滑膜の表層細胞で産生される蛋白分解酵素であり、軟骨を融解することで関節リウマチ(RA)の病態と密接に関連することから、関節滑膜増殖を反映するマーカーと考えられている。産生されたMMP-3が関節液中に貯留し,それが血管やリンパ管を経由して血中に移行し血清中MMP-3値が上昇するため, 血清中MMP-3値はRAにおける滑膜増殖の程度を反映する。
MCP-1(Monocyte chemoattractant protein-1)はCCケモカインに属するケモカインであり、単球・マクロファージの強力な走化作用を有する。動脈硬化においてMCP-1は病変へのマクロファージ浸潤を促進し、泡沫化、各種サイトカイン分泌などの機序を介し、病態を進展させる。また、MCP-1は単球・マクロファージの遊走以外にも血管平滑筋細胞の増殖や線維芽細胞のコラーゲン産生を直接的に促し、さまざまな心血管病の病態にかかわっている。
【0035】
(3)テロメアの延長・TERT関連miRNA
本発明の若返り剤は、細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の延長、または、細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させることが好ましい。
本発明の若返り剤は、細胞が有する染色体末端のテロメア平均長の短縮を抑制させることがより好ましい。
ここで、本発明の若返り剤がテロメアの延長ができることは、後述の実施例で実験的に示されることに加えて、TERT関連miRNAを含有することからも裏付けられる。
テロメラーゼ(TERT)はがん細胞に複製不死性をもたらし、その過剰発現はがんのほぼ普遍的なマーカーとして機能している。miRNAをコードする遺伝子配列の50%以上は、がんや変異の多い領域に存在するため、miRNAはがんの進行を促進したり、がんの進行に関連する遺伝子をサイレンシングしたりすることに関与する。TERT関連miRNAは、主に発がん性miRNAとして研究されているが、発がん性miRNAはTERTを活性化してテロメアを伸長する効果がある。
Cancers (2020)、 12(9)、 2337には、miR-19bがhTERT(ヒトテロメラーゼ)抑制遺伝子であるPITX1を阻害することにより間接的にhTERT発現をアップレギュレートすることが記載されている。また、miR-346がhTERT mRNAの3’UTRのmiR-346と同じ領域に結合するが、hTERT発現に対して逆の効果を促進するmiR-138との競合プロセスを通じてhTERTのアップレギュレーションを媒介することが記載されている。特に、miR-21がPTENのダウンレギュレーションを通じてテロメラーゼ活性に影響を与え、hTERTの発現をアップレギュレートすることが記載されている。
Open J Proteom Genom (2016)、 1(1): 013-018には、miR-21がアポトーシスを阻害し、PTENの3'UTRに結合することによってホスホイノシチド3キナーゼ(PI3K)シグナル伝達経路を介したhTERT発現の負の制御を伴う増殖を誘導し、その翻訳を阻害したことが記載されている。miR-19bに関し、PITX1(Paired Like Homeodomain 1) mRNAはmiR-19bの直接的な標的であり、miR-19bによるPITX1のダウンレギュレーションは、最終的にhTERT mRNAの発現増強を誘導することが記載されている。miR-346の中間配列モチーフ(nt 8-13、CCGCAU)は、Gリッチ配列結合因子1(GRSF-1)と結合し、バルジループを形成する。この結合は、AGO2非依存的に、翻訳のためにhTERT mRNAをリボソームにリクルートすることが記載されている。miR-155が乳がん細胞の発現において重要な調節因子として働き、TRF1タンパク質レベルの低下とともに効率的に発現上昇すること;miR-155はシェルタリン複合体の一部であるTRF1(テロメアリピートファクター1)の発現を低下させることにより、テロメアの伸長、テロメアの脆弱性の増加、染色体の不安定化を媒介することが記載されている。
PLoS ONE (2016)、11(9): e0162077には、結腸がん患者の正常大腸粘膜に発現しているmiRNAの発現量とテロメア長を観察すると、miRNAの発現量が多いとテロメア長も増加することが確認されたことが記載されている。そして、テロメア長を増加させられたmiRNAとして多くのmiRNAが記載されており、例えばmiR-134-5p、miR-5088(miR-5088-3p、miR-5088-5p)、miR-887(miR-887-3p、miR-887-5p)が記載されている。
PLoS ONE (2014)、 9(4): e92088には、ターゲット遺伝子を増加させるmiRNAとTERT関連タンパク質の組み合わせとして、miR-181bとTERT、miR186とTERF2IP、RAD50とSIRT6、miR-96とTERF2IP、そしてmiR-15aとTATA box binding protein (TBP)が記載されている。例えば、TERF2IPとRAD50の検証では、TERF2IPのみ運動後60分での転写産物量が有意に減少し、それに伴って結合可能性のあるmiRNA(miR-186とmiR-96)が増加したことが記載されている。この論文からは、miR-15a-5p、miR-181b-2-3p、miR-181b-3p、miR-181b-5p、miR-186-3p、miR-186-5p、miR-96-5pがTERT関連miRNAと言える。
IMOTAで検索したこれらのTERT関連miRNAのほぼすべてが歯髄由来の微小粒子中に含まれている。特に、歯髄由来幹細胞の微小粒子に含まれる含有量が上位50位以内にあるmiRNAでは、TERTをターゲットとするTERT関連miRNAとしてmiR-16-5p、miR-143-3p、miR-181a-5p、miR-21-5p、miR-34a-5pおよびmiR-103a-3pの6つが存在する。
本発明の若返り剤におけるテロメアの延長に関する有効成分は特に限定されないが、本発明の若返り剤に含まれる微小粒子がテロメアの延長に関する有効成分であることが好ましい。
なお、TERT関連miRNAは発がんを促進するものの、歯髄由来幹細胞の微小粒子には様々なmiRNAが存在して相互に調整し得るので、結果的に発がん性の問題はない(発がん性の実験をする必要はない)。TERT関連miRNAは生体内にも存在しているものであり、何らかの恒常性を維持するために必要なものであると考えられる。
【0036】
(4)細胞分裂能力の回復
本発明の若返り剤は、細胞分裂能力の回復ができることが好ましい。具体的には、本発明の若返り剤は、若返り剤を投与せずにn回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n回継代した対象に若返り剤を投与した場合に対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させることが好ましい。
SA-β-galの染色での陽性細胞数(陽性細胞の割合)は、細胞の細胞分裂能力を表す指標であり、例えば100分率で表される。一般に、継代数に応じて、SA-β-galの染色での陽性細胞数(陽性細胞の割合)は低下していく。
nは1以上の整数である。nの値に制限はないが、nは例えば2~100であってもよく、4~20であってもよく、8~16であってもよく、10~14であってもよい。継代数が何継代でも、本発明の若返り剤を投与することによりその継代数よりも若返らせることができる。
本発明の若返り剤における細胞分裂能力の回復に関する有効成分は特に限定されないが、本発明の若返り剤に含まれる微小粒子が細胞分裂能力の回復に関する有効成分であることが好ましい。
【0037】
(微小粒子の種類)
微小粒子は、エクソソーム(exosome)、微小胞、膜粒子、膜小胞、エクトソーム(Ectosome)およびエキソベシクル(exovesicle)、またはマイクロベシクル(microvesicle)からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましく、エクソソームであることがより好ましい。
微小粒子の直径は、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
また、微小粒子の表面には、CD9、CD63、CD81などのテトラスパニンという分子が存在することが望ましく、それはCD9単独、CD63単独、CD81単独でもよく、あるいはそれらの2つないしは3つのどの組み合わせでも良い。
以下、微小粒子として、エクソソームを用いる場合の好ましい態様を説明することがあるが、本発明に用いられる微小粒子はエクソソームに限定されない。
【0038】
エクソソームは、原形質膜との多胞体の融合時に細胞から放出される細胞外小胞であることが好ましい。
エクソソームの表面は、歯髄由来幹細胞の細胞膜由来の脂質およびタンパク質を含むことが好ましい。
エクソソームの内部には、核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)およびタンパク質など歯髄由来幹細胞の細胞内の物質を含むことが好ましい。
エクソソームは、ある細胞から別の細胞への遺伝情報の輸送による、細胞と細胞とのコミュニケーションのために使用されることが知られている。エクソソームは、容易に追跡可能であり、特異的な領域に標的化され得る。
【0039】
(微小粒子の含有量)
歯髄由来幹細胞の培養上清における、微小粒子の含有量は特に制限はない。歯髄由来幹細胞の培養上清は、微小粒子を0.5×108個以上含むことが好ましく、1.0×108個以上含むことがより好ましく、2.0×108個以上含むことが特に好ましく、2.5×108個以上含むことがより特に好ましく、1.0×109個以上含むことがさらにより特に好ましい。
また、歯髄由来幹細胞の培養上清における、微小粒子の含有濃度は特に制限はない。歯髄由来幹細胞の培養上清は、微小粒子を1.0×108個/mL以上含むことが好ましく、2.0×108個/mL以上含むことがより好ましく、4.0×108個/mL以上含むことが特に好ましく、5.0×108個/mL以上含むことがより特に好ましく、2.0×109個/mL以上含むことがさらにより特に好ましい。
本発明の微小粒子の好ましい態様は、微小粒子をこのように多量または高濃度で含むことにより、若返り剤に用いられる若返り関連miRNAの量を高く維持できる。
【0040】
<その他の成分>
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、微小粒子の他に、投与する対象の動物の種類や目的に応じて、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、栄養成分、抗生物質、サイトカイン、保護剤、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤などを挙げられる。
栄養成分としては、例えば、脂肪酸等、ビタミン等を挙げることができる。
抗生物質としては、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン等が挙げられる。
担体としては、薬学的に許容可能な担体として公知の材料を挙げることができる。
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、歯髄由来幹細胞の培養上清それ自体であってもよく、薬学的に許容可能な担体や賦形剤などをさらに含む医薬組成物であってもよい。医薬組成物の目的は、投与対象への微小粒子の投与を促進することである。
【0041】
薬学的に許容可能な担体は、投与対象に対して顕著な刺激性を引き起こさず、投与される化合物の生物学的活性および特性を抑止しない担体(希釈剤を含む)であることが好ましい。担体の例は、プロピレングリコール;(生理)食塩水;エマルション;緩衝液;培地、例えばDMEMまたはRPMIなど;フリーラジカルを除去する成分を含有する低温保存培地である。
【0042】
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、従来公知の若返り剤の有効成分を含んでいてもよい。当業者であれば用途や投与対象などにあわせて適切に変更することができる。
【0043】
一方、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物や本発明の若返り剤は、所定の物質を含まないことが好ましい。以下、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物について説明するが、本発明の若返り剤についても同様である。
例えば、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、歯髄由来幹細胞を含まないことが好ましい。
また、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、MCP-1を含まないことが好ましい。ただし、MCP-1以外のサイトカインを含んでいてもよい。その他のサイトカインとしては、特開2018-023343号公報の[0014]~[0020]に記載のもの等が挙げられる。
また、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、シグレック9を含まないことが好ましい。ただし、シグレック9以外のその他のシアル酸結合免疫グロブリン様レクチンを含んでいてもよい。
なお、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)を実質的に含まないことが好ましい。また、歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、Knockout serum replacement(KSR)などの従来の血清代替物を実質的に含まないことが好ましい。
歯髄由来幹細胞の培養上清を含む組成物は、上記したその他の成分の含有量(固形分量)がいずれも1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法>
歯髄由来幹細胞の培養上清は、特に制限はない。
歯髄由来幹細胞の培養上清は、血清を実質的に含まないことが好ましい。例えば、歯髄由来幹細胞等の培養上清は、血清の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
歯髄由来幹細胞は、ヒト由来であっても、ヒト以外の動物由来であってもよい。ヒト以外の動物としては、後述する本発明の微小粒子を投与する対象の動物(生物種)と同様のものを挙げることができ、哺乳動物が好ましい。
【0046】
培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞としては、特に制限はない。脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth)や、その他の方法で入手される乳歯歯髄幹細胞や、永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells;DPSC)を用いることができる。ヒト乳歯歯髄幹細胞やヒト永久歯歯髄幹細胞の他、ブタ乳歯歯髄幹細胞などのヒト以外の動物由来の歯髄由来幹細胞を用いることができる。
歯髄由来幹細胞は、エクソソームに加え、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)-1および-3、TGF-α、KGF、HBEGF、SPARC、その他の成長因子、ケモカイン等の種々のサイトカインを産生し得る。また、その他の多くの生理活性物質を産生し得る。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清に用いられる歯髄由来幹細胞が、多くのタンパク質が含まれる歯髄由来幹細胞であることが特に好ましく、乳歯歯髄幹細胞を用いることが好ましい。すなわち、本発明では、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を用いることが好ましい。
【0047】
本発明に用いられる歯髄由来幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
特に本発明では、歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞を用いることができる。実質的に無限増殖が可能な不死化幹細胞を用いることで、幹細胞の培養上清中に含まれる生体因子の量と組成を、長期間にわたって安定させることができる。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞としては、特に制限はない。不死化幹細胞は、癌化していない不死化幹細胞であることが好ましい。歯髄由来幹細胞の不死化幹細胞は、歯髄由来幹細胞に、以下の低分子化合物(阻害剤)を単独または組み合わせて添加して培養することにより、調製することができる。
TGFβ受容体阻害薬としては、トランスフォーミング増殖因子(TGF)β受容体の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-4-イル-2-tert-ブチル-1H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン、3-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-(4-キノリル)-1-フェニルチオカルバモイル-1H-ピラゾール(A-83-01)、2-[(5-クロロ-2-フルオロフェニル)プテリジン-4-イル]ピリジン-4-イルアミン(SD-208)、3-[(ピリジン-2-イル)-4-(4-キノニル)]-1H-ピラゾール、2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(以上、メルク社)、SB431542(シグマアルドリッチ社)などが挙げられる。好ましくはA-83-01が挙げられる。
ROCK阻害薬としては、Rho結合キナーゼの機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されない。ROCK阻害薬としては、例えば、GSK269962A(Axonmedchem社)、Fasudil hydrochloride(Tocris Bioscience社)、Y-27632、H-1152(以上、富士フイルム和光純薬株式会社)などが挙げられる。好ましくはY-27632が挙げられる。
GSK3阻害薬としては、GSK-3(Glycogen synthase kinase 3,グリコーゲン合成酵素3)を阻害するものであれば特に限定されることはなく、A 1070722、BIO、BIO-acetoxime(以上、TOCRIS社)などが挙げられる。
MEK阻害薬としては、MEK(MAP kinase-ERK kinase)の機能を阻害する作用を有するものであれば特に限定されることはなく、例えば、AZD6244、CI-1040(PD184352)、PD0325901、RDEA119(BAY86-9766)、SL327、U0126-EtOH(以上、Selleck社)、PD98059、U0124、U0125(以上、コスモ・バイオ株式会社)などが挙げられる。
【0048】
本発明の若返り剤を再生医療に用いる場合、再生医療等安全性確保法の要請から、歯髄由来幹細胞またはこれらの不死化幹細胞の培養上清や、それに由来する微小粒子を含む組成物は、歯髄由来幹細胞以外のその他の体性幹細胞を含有しない態様とする。歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞以外の間葉系幹細胞やその他の体性幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。
間葉系幹細胞以外のその他の体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。(間葉系幹細胞以外の)骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。
歯髄由来幹細胞の培養上清は、体性幹細胞以外の幹細胞を含有していてもよいが、含有しないことが好ましい。体性幹細胞以外の幹細胞としては、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)が含まれる。
【0049】
歯髄由来幹細胞またはこの不死化幹細胞の培養上清の調製方法としては特に制限はなく、従来の方法を用いることができる。
歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞を培養して得られる培養液である。例えば歯髄由来幹細胞の培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0050】
歯髄由来幹細胞の培養上清を得るための歯髄由来幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、または接着性細胞として選別可能である。脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞またはその継代細胞として選別することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。
【0051】
なお、「歯髄由来幹細胞の培養上清」は、歯髄由来幹細胞を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液であることが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、その一態様では全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まないことが好ましい。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄由来幹細胞自体は当然のこと、歯髄由来幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、歯髄由来幹細胞を含まず、歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞および大人歯髄由来幹細胞の両方の培養上清を含んでいてもよい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清を有効成分として含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことが好ましい。本発明で用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、乳歯歯髄由来幹細胞の培養上清のみで構成された組成物であることがより特に好ましい。
【0052】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。なお、基本培地としてはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)の他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
但し、血清を含まない「歯髄由来幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後または最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄由来幹細胞を培養することによって、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を調製することができる。1回または複数回の継代培養を行うことにし、最後または最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞等の培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない歯髄由来幹細胞の培養上清を得ることができる。
【0053】
培養上清を得るための歯髄由来幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。歯髄由来幹細胞の培養上清の調製方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離および選抜工程を適宜調整する以外は、後述する細胞培養方法と同様とすればよい。歯髄由来幹細胞の種類に応じた歯髄由来幹細胞の単離および選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
また、歯髄由来幹細胞の培養には、エクソソームなどの微小粒子を多量に生産させるために、特別な条件を適用してもよい。特別な条件として、例えば、低温条件、低酸素条件、微重力条件など、何らかの刺激物と共培養する条件などを挙げることができる。
【0054】
本発明でエクソソームなどの微小粒子の調製に用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、歯髄由来幹細胞の培養上清の他にその他の成分を含んでいてもよいが、その他の成分を実質的に含まないことが好ましい。
ただし、エクソソームの調製に使用する各種類の添加剤を、歯髄由来幹細胞の培養上清に添加してから保存しておいてもよい。
【0055】
(微小粒子の調製)
歯髄由来幹細胞等の培養上清から、微小粒子を精製して、微小粒子を調製することができる。
【0056】
微小粒子の精製は、歯髄由来幹細胞の培養上清から微小粒子を含む画分の分離であることが好ましく、微小粒子の単離であることがより好ましい。
微小粒子は、微小粒子の特性に基づいて非会合成分から分離されることにより、単離され得る。例えば、微小粒子は、分子量、サイズ、形態、組成または生物学的活性に基づいて単離され得る。
歯髄由来幹細胞の培養上清を遠心処理して得られた、微小粒子を多く含む特定の画分(例えば沈殿物)を分取することにより、微小粒子を精製することができる。所定の画分以外の画分の不要成分(不溶成分)は除去してもよい。微小粒子組成物からの、溶媒および分散媒、ならびに不要成分の除去は完全な除去でなくてもよい。遠心処理の条件を例示すると、100~20000gで、1~30分間である。
歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物を、ろ過処理することにより、微小粒子を精製することができる。ろ過処理によって不要成分を除去することができる。また、適切な孔径のろ過膜を使用すれば、不要成分の除去と滅菌処理を同時に行うことができる。ろ過処理に使用するろ過膜の材質、孔径などは特に限定されない。公知の方法で、適切な分子量またはサイズカットオフのろ過膜でろ過をすることができる。ろ過膜の孔径はエクソソームを分取しやすい観点から、10~1000nmであることが好ましく、30~500nmであることがより好ましく、50~150nmであることが特に好ましい。
本発明では、歯髄由来幹細胞の培養上清またはその遠心処理物あるいはそれらのろ過処理物を、ラムクロマトグラフィーなど、さらなる分離手段を用いて分離することができる。例えば様々なカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用できる。カラムは、サイズ排除カラムまたは結合カラムを使用できる。
各処理段階におけるそれぞれの画分中で、微小粒子(またはその活性)を追跡するために、微小粒子の1つ以上の特性または生物学的活性を使用できる。例えば、微小粒子を追跡するために、光散乱、屈折率、動的光散乱またはUV-可視光検出器を使用できる。または、それぞれの画分中の活性を追跡するために、特定の酵素活性などを使用できる。
微小粒子の精製方法として、特表2019-524824号公報の[0034]~[0064]に記載の方法を用いてもよく、この公報の内容は参照して本明細書に組み込まれる。
【0057】
歯髄由来幹細胞の培養上清の最終的な形態は、特に制限はない。例えば、歯髄由来幹細胞の培養上清は、微小粒子を溶媒または分散媒とともに容器に充填してなる形態;微小粒子をゲルとともにゲル化して容器に充填してなる形態;微小粒子を凍結および/または乾燥して固形化して製剤化または容器に充填してなる形態などが挙げられる。容器としては、例えば凍結保存に適したチューブ、遠沈管、バッグなどが挙げられる。凍結温度は、例えば-20℃~-196℃とすることができる。
【0058】
本発明の若返り剤は、従来の若返り剤として用いることができる組成物と比較して、大量生産しやすい、従来は産業廃棄物等として廃棄されていた幹細胞の培養液を利活用できる、幹細胞の培養液の廃棄コストを減らせる等の利点がある。特に歯髄由来幹細胞の培養上清が、ヒト歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の若返り剤をヒトに対して適用する場合に、免疫学上などの観点での安全性が高く、倫理性の問題も少ないという利点もある。歯髄由来幹細胞の培養上清が、対象自体からの歯髄由来幹細胞の培養上清である場合は、本発明の若返り剤をその対象に対して適用する際により安全性が高まり、倫理性の問題も少なくなるであろう。
本発明の若返り剤は、修復医療の用途にも用いられる。歯髄由来幹細胞の培養上清に由来する微小粒子を含む組成物は、修復医療の用途に好ましく用いられる。ここで、幹細胞移植を前提とした再生医療において、幹細胞は再生の主役ではなく、幹細胞の産生する液性成分が自己の幹細胞とともに臓器を修復させる、ということが知られている。従来の幹細胞移植に伴うがん化、規格化、投与方法、保存性、培養方法などの困難な問題が解決され、歯髄由来幹細胞の培養上清またはそれに由来する微小粒子を用いた組成物により修復医療が可能となる。幹細胞移植と比較すると、本発明の若返り剤を用いた場合は細胞を移植しないために腫瘍化などが起こりにくく、より安全と言えるだろう。また、本発明の若返り剤に用いる歯髄由来幹細胞の培養上清は、一定に規格化した品質のものを使用できる利点がある。大量生産や効率的な投与方法を選択することができるので、低コストで利用ができる。
【0059】
[若返り方法]
本発明の若返り方法は、有効量の本発明の若返り剤を、細胞を含む対象に投与することを含む。
【0060】
本発明の微小粒子を、対象に投与する工程は特に制限はない。
投与方法は、口腔、鼻腔または気道への噴霧または吸引、点滴、局所投与、点鼻薬、点眼、舌下投与などを挙げることができ、侵襲が少ないことが好ましい。局所投与の方法としては、注射、経直腸投与(カテーテル等を含む)、経尿道投与が好ましい。また、皮膚表面に電圧(電気パルス)をかけることにより細胞膜に一時的に微細な穴をあけ、通常のケアでは届かない真皮層まで有効成分を浸透させられるエレクトロポレーションも好ましい。局所投与する場合、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、点眼、舌下投与、皮下投与、経尿道投与、経直腸投与、筋肉内投与、腹腔内投与などを挙げることができ、動脈内投与、静脈内投与、皮下投与または腹腔内投与であることがより好ましい。
また、種々の製剤化技法を用い、微小粒子のインビボ分布を変えることができる。インビボ分布を変える多数の方法が当業者に既知である。そのような方法の例には、たとえば、タンパク質、脂質(たとえば、リポソーム)、炭水化物または合成ポリマーのような物質で構成される小胞におけるエクソソームの保護が挙げられる。
対象に投与された本発明の若返り剤は対象の体内を循環し、所定の組織に到達してもよい。
投与回数および投与間隔は、特に制限はない。投与回数は1週間当たり1回以上とすることができ、5回以上であることが好ましく、6回以上であることがより好ましく、7回以上であることが特に好ましい。投与間隔は、1時間~1週間であることが好ましく、半日間~1週間であることがより好ましく、1日(毎日1回)であることが特に好ましい。ただし、投与対象の生物種や投与対象の症状に応じて、適宜調整することができる。
本発明の若返り剤は、若返り剤を治療有効期間にわたって1週間に1回以上、対象に投与する用途であることが好ましい。投与対象がヒトである場合は、1週間当たりの投与回数は多い方が好ましく、治療有効期間にわたって1週間に5回以上投与することが好ましく、毎日投与することが好ましい。
本発明では、本発明の若返り剤の投与量が、細胞あたり500個以上の微小粒子となる量であることが好ましく、細胞あたり800個以上の微小粒子となる量であることがより好ましく、細胞あたり1000個以上の微小粒子となる量であることが特に好ましい。
【0061】
本発明の若返り剤を投与する対象の細胞(細胞種)は、特に制限はない。本発明の若返り剤を投与する対象の細胞は、体細胞であることが好ましく、体性幹細胞または分化した細胞であることがより好ましい。体性幹細胞としては、間葉系幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、血管内皮幹細胞、肝幹細胞、上皮幹細胞などを挙げることができ、間葉系幹細胞が特に好ましい。間葉系幹細胞としては、脂肪由来幹細胞、臍帯由来幹細胞、歯髄由来幹細胞、骨髄由来幹細胞などを挙げることができる。
分化した細胞としては、幹細胞以外の細胞、機能を有する細胞などを挙げることができ、具体的には脂肪細胞などを挙げることができる。
本発明の若返り剤を投与する対象の動物(生物種)は、特に制限はない。本発明の若返り剤を投与する対象の動物は、哺乳動物、鳥類(ニワトリ、ウズラ、カモなど)、魚類(サケ、マス、マグロ、カツオなど)であることが好ましい。哺乳動物としては、ヒトであっても、非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることが特に好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターであることがより好ましい。
本発明の若返り剤を投与する対象は、細胞自体であってもよい。その場合、体細胞であることが好ましく、体性幹細胞または分化した細胞であることがより好ましい。体性幹細胞または分化した細胞のそれぞれの好ましい範囲は、本発明の若返り剤を投与する対象の細胞(細胞種)において説明した体性幹細胞または分化した細胞の好ましい範囲と同様である。
【0062】
本発明の微小粒子は、従来公知の若返り剤と併用してもよい。
【実施例0063】
以下に実施例と比較例または参考例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0064】
[実施例1]
<歯髄由来幹細胞の培養上清の調製>
DMEM/HamF12混合培地の代わりにDMEM培地を用い、その他は特許第6296622号の実施例6に記載の方法に準じて、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製して、培養上清を分取した。初代培養ではウシ胎仔血清(FBS)を添加して培養し、継代培養では初代培養液を用いて培養した継代培養液の上清をFBSが含まれないように分取し、乳歯歯髄幹細胞の培養上清を調製した。なお、DMEMはダルベッコ改変イーグル培地であり、F12はハムF12培地である。
【0065】
<エクソソームの調製>
得られた歯髄由来幹細胞の培養上清から、歯髄由来幹細胞のエクソソームを以下の方法で精製した。
乳歯歯髄幹細胞の培養上清(100mL)を0.22マイクロメーターのポアサイズのフィルターで濾過したのち、その溶液を、60分間、4℃で100000×gで遠心分離した。上清をデカントし、エクソソーム濃縮ペレットをリン酸緩衝食塩水(PBS)中に再懸濁した。再懸濁サンプルを、60分間100000×gで遠心分離した。再度ペレットを濃縮サンプルとして遠心チューブの底から回収した(およそ100μl)。タンパク濃度は、マイクロBSAタンパク質アッセイキット(Pierce、Rockford、IL)によって決定した。エクソソームを含む組成物(濃縮溶液)は、-80℃で保管した。
歯髄由来幹細胞の培養上清から精製したエクソソームを含む組成物を、実施例1の若返り剤(微小粒子組成物サンプル)とした。
【0066】
実施例1の若返り剤に含まれる微小粒子の平均粒径、濃度を評価した。
実施例1の若返り剤に含まれる微小粒子の平均粒径は50~150nmであった。
実施例1の若返り剤は1.0×109個/ml以上の高濃度エクソソーム溶液であり、具体的には2.0×109個/mlの高濃度エクソソーム溶液であった。
また、得られた実施例1の若返り剤の成分を公知の方法で分析した。その結果、実施例1の若返り剤は、歯髄由来幹細胞の幹細胞を含まず、MCP-1を含まず、シグレック9も含まないことがわかった。そのため、間葉系幹細胞の培養上清の有効成分であるMCP-1およびシグレック9ならびにこれらの類縁体とは異なる有効成分が、実施例1の若返り剤の有効成分であることがわかった。
【0067】
[試験例1]:(1)細胞の機能回復(若返りに関わるマイクロRNAの探索)
実施例1の若返り剤に含まれるsmall RNAを次世代シーケンシング(NGS)解析により解析した。NGS解析により、実施例1の若返り剤(歯髄由来幹細胞のエクソソーム)に含まれるmiRNAが1787個同定された。
実施例1の若返り剤に含まれるmiRNAについて、若返りに関わるマイクロRNAを探索した。若返りに関連するmiRNAの抽出はIMOTA(Interactive Multi-Omics-Tissue Atlas)を用いた。IMOTAは、各組織や細胞におけるmiRNAやmRNA、タンパク質の相互作用や発現量について調べることができる対話型のマルチオミクスアトラスである(Nucleic Acids Research, Volume 46, Issue D1, 4 January 2018, Pages D770-D775, IMOTA: an interactive multi-omics tissue atlas for the analysis of human miRNA-target interactions)。ここでは、若返り関連miRNAが含まれているかを探索した。
【0068】
本発明の若返り剤に含まれる微小粒子には、若返り関連miRNAとして、下記のmiRNAが含まれていた。
has-miR-125a-5p、has-miR-125b-5p、has-miR-155-5p、has-miR-181a-5p、hsa-miR-199a-3p、has-miR-199b-3p、has-miR-199b-5p、hsa-miR-21-5p、has-miR-223-3p、has-miR-24-3pおよびmiR-93-5p。
そのため、本発明の若返り剤は、細胞の機能回復をできることがわかった。
【0069】
歯髄由来幹細胞のエクソソームに発現するmiRNAのうち、リードカウント数の多い50種類のmiRNAのリードカウント数を比較した結果をそれぞれ
図1のグラフに示す。
図1中、縦軸は、リードカウント数である。また、
図1中、枠で囲ったmiRNAが若返り関連miRNAである。
【0070】
図1より、本発明の若返り剤に含まれる微小粒子は、若返り関連miRNAを高濃度で含むことがわかった。そのため、本発明の若返り剤は、細胞の機能回復をできる。
【0071】
[試験例2]:(2)細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制
セルシグナリングテクノロジー社のAssociated Secretory Phenotype (SASP) Antibody Sampler Kit #38461を用いて、SASP因子を定量比較した。
具体的には、このキットに含まれるSASP因子である
IL-1β (D3U3E) Rabbit mAb #12703
CCL5/RANTES (R40) Antibody #2987
CXCL10 (D5L5L) Rabbit mAb #14969
PAI-1 (D9C4) Rabbit mAb #11907
IL-6 (D3K2N) Rabbit mAb #12153
TNF-α (D5G9) Rabbit mAb #6945
MMP-3 (D7F5B) Rabbit mAb #14351
MCP-1 Antibody (Carboxy-terminal Antigen) #39091
を使って、それぞれのSASP因子を定量比較した。
なお、Anti-rabbit IgG、 HRP-linked Antibody #7074を2次抗体として使用し、比色定量した。
【0072】
臍帯由来幹細胞を用いた以外は実施例1と同様にして、臍帯由来幹細胞の培養上清を調製した。
臍帯由来幹細胞の培養上清を用いた以外は実施例1と同様にして、臍帯由来幹細胞のエクソソームを精製した(比較例)。
【0073】
実施例1の若返り剤(SHED-CM(乳歯歯髄幹細胞培養上清)-EVs)は、超遠心で2回精製後、PBS(-)に融解し、およそ8か月間、-80℃保存のディープフリーザーに保存したものを用いた。
臍帯由来幹細胞のエクソソーム(臍帯MSC-EVs)は、超遠心で2回精製後、PBS(-)に融解し、およそ2か月間、-80℃保存のディープフリーザーに保存したものを用いた。
これらのEVsを、継代数P8であり、SA-β-gal陽性細胞数が72%である老化脂肪間葉系幹細胞に対し、10000EV/細胞の割合で処理し、72時間後に、SASP因子を上記キットのプロトコールに準じて行った。
N=3の平均値として得られた結果を、
図2に示した。
図2は、Untreatedを100とし、各SASP因子の発現を相対的数値(%)で示したグラフである。
【0074】
図2より、本発明の若返り剤は、細胞老化随伴分泌現象(SASP)の抑制をできることがわかった。具体的には、SASP因子としてIL-1β、CCL5、CXCL10、PAI-1、IL-6、TNF-α、MMP-3およびMCP-1の抑制をできることがわかった。特に、本発明の若返り剤は臍帯由来幹細胞のエクソソームと比較して、有意にCCL5、CXCL10、IL-6、TNF-αおよびMCP-1の抑制を顕著にできることがわかった。
【0075】
[試験例3]:(3)テロメアの延長
市販の正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF細胞)を用いて、NHDF細胞の継代数による染色体末端の平均テロメア長の比較を行った。
コスモ・バイオ社のテロメア長qPCRキットを用いて、キットに付属のプロトコールにしたがって、テロメア長の測定を行った。
下記式1にしたがって、各染色体末端の平均テロメア長を計算した。
式1:
(各染色体末端の平均テロメア長)
=(2倍体細胞あたりの標的サンプルの総テロメア長)/92
まず、継代数P5のNHDF細胞では、2倍体細胞あたりの標的サンプルの総テロメア長が617kBであり、式1より各染色体末端の平均テロメア長は617/92=6.70kbであった。
次に、継代数P5のNHDF細胞を、1mLのMSC増殖培地を含む24ウェルプレートのウェルにプレーティングした。各ウェル内の細胞を、20μLのPBS(Control)または20μLのPBSに再懸濁した実施例1の若返り剤(エクソソームを含む歯髄由来幹細胞の培養上清。SHED-CM-EVsとして
図3には記載)で1000EV/細胞の比率で刺激した。その後、継代を繰り返すたびに同様の操作を行い、継代数P12としたNHDF細胞では、各染色体末端の平均テロメア長は439/92=6.02Kbであった(SHED-CM-EVs)。
一方、PBS(Control)を添加して継代を行い、継代数P12としたNHDF細胞(Control)では、2倍体細胞あたりの標的サンプルの総テロメア長が439kBであり、式1より各染色体末端の平均テロメア長は439/92=4.78kbであった。
得られた結果を
図3に示す。
以上より、本発明の若返り剤は、Controlと比較して、細胞分裂によるテロメア長短縮を抑制でき、同じ継代数のControlの細胞との比較において、テロメアの延長ができることがわかった。
【0076】
[試験例4]:(4)細胞分裂能力の回復(ADMSCのSA-β-gal陽性細胞数の減少)
市販の継代数P12の老化ADMSC(脂肪由来幹細胞)の約4500細胞を、1mLのMSC増殖培地を含む24ウェルプレートのウェルにプレーティングした。
各ウェル内の細胞を、20μLのPBS(コントロール)または20μLのPBSに再懸濁した実施例1の若返り剤(エクソソームを含む歯髄由来幹細胞の培養上清。(SHED-CM-EVsとして
図4には記載)で1000EV/細胞の比率で刺激した。24時間(Day1)、48時間(Day2)または72時間(Day3)のインキュベーション後、細胞を固定し、染色によりSA-β-gal活性を求めた。なお、各ウェル内の細胞を、実施例1の若返り剤で100EV/細胞の比率で刺激した参考例も実施した。
ここで、老化関連β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)は、老化細胞に特異的に存在する。この加水分解酵素は通常、β-ガラクトシドを単糖に変換する働きがあり、老化細胞ではリソソームに蓄積している。試験例4では、コスモ・バイオ社のCellular Senescence Detection Kit (SA-β-Gal Staining)(品番:CBA-230)を用いて、キットに付属のプロトコールにしたがってX-GALを基質として用い、SA-β-galを備える老化ADMSCを青色に染色し、SA-β-gal陽性細胞数を定量した。
SA-β-gal陽性細胞数は、それぞれN=3の独立した培養物の平均値として定量化された。得られた結果を
図4に示した。
【0077】
図4より、実施例1の若返り剤(エクソソームを含む歯髄由来幹細胞の培養上清。SHED-CM-EVs)の添加濃度1000EV/細胞(細胞あたり1000粒子のエクソソーム)の場合に、SA-β-gal陽性細胞数の増加を抑制できるどころか、SA-β-gal陽性細胞数を22.7%(DAY1)、29.9%(DAY2)、31.6%(DAY3)顕著に減少させることができた。すなわち、実施例1の若返り剤は、細胞分裂能力の回復をできることがわかった。
図5は、本発明の若返り剤(SHED-CM-EVs)には老化した間葉系幹細胞を若返らせる効果があることを示す試験例4の概要図である。
ここで、培養時間0時間におけるADMSCの継代数とSA-β-gal陽性細胞数の関係を、N=3で別に試験して測定して求めた。その結果を
図6に示した。
図6より、培養時間0時間におけるADMSCのSA-β-gal陽性細胞数は、継代数P2で約2%、P4で約9%、P6で約11%、P8で約15%、P10で約28%、P12で約39%であった。したがって、実施例1の若返り剤は、P12のADMSCを、P10相当に若返らせることができたと言える。換言すると、本発明の若返り剤は、若返り剤を投与せずにn=12回継代した対象に含まれるSA-β-galの染色での陽性細胞数よりも、n=12回継代した対象に若返り剤を投与した場合にSA-β-galの染色での陽性細胞数を抑制させることができた。
【0078】
以上の試験例1~4から、本発明の若返り剤は、細胞の機能回復、細胞老化随伴分泌現象の抑制、テロメアの延長、および細胞分裂能力の回復のすべてを備えることがわかった。