(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003225
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】微生物群の賦活化方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103773
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】511028467
【氏名又は名称】株式会社エムスタイル
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真
(72)【発明者】
【氏名】加藤 喜昭
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AC20
4B065BA30
4B065CA54
4B065CA55
4B065CA56
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 天然物由来の資材を活用し、微生物群の賦活化効率を改善させうる微生物群の賦活化方法を提供すること。
【解決手段】 家畜糞、木材、及び/若しくは、有機残渣、並びに/又は、土壌(以下、「有機物等」という。)を利用する。二種以上の微生物よりなる生物群を、粒状のA材1と液状のB材2とに担持させ、A材には担持させた微生物群の代謝産生により生じさせた腐植を予め含む。A材と有機物等とを重ねて有機物等3の層の中にA材を含むB材のトラップ層4を形成し、A材と有機物等とを重ねた上からB材を適宜添加して、トラップ層のA材にB材中の微生物群を供給し、有機物等中で微生物群を賦活化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜糞、木材、及び/若しくは、有機残渣、並びに/又は、土壌(以下、「有機物等」という。)を利用した微生物群の賦活化方法であって、二種以上の微生物よりなる生物群を、粒状のA材1と液状のB材2とに担持させ、前記A材には担持させた前記微生物群の代謝産生により生じさせた腐植を予め含み、前記A材と前記有機物等とを重ねて前記有機物等の層の中に前記A材を含む前記B材のトラップ層を形成し、前記A材と前記有機物等とを重ねた上から前記B材を適宜添加して、前記トラップ層の前記A材に前記B材中の微生物群を供給し、前記有機物等中で微生物群を賦活化させる微生物群の賦活化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物群の賦活化方法に関する。さらに詳しくは、家畜糞、木材、及び/若しくは、有機残渣、並びに/又は、土壌(以下、「有機物等」という。)を利用した微生物群の賦活化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌中の微生物とその働きについては、非特許文献1に示されており、特許文献1に示すSOFIX微生物群の賦活化方法では、本文献に記載の2億個/g(土)以上の微生物数が判定基準で、良い畑のケースが6~8億個/g、良い水田のケースが4.5億個/gとされている。
【0003】
土壌中で微生物を担持させ、活性化する方法としては、たとえば、特許文献2のように発泡させたガラス素材を用い、特許文献3のようにゼオライトを用いたものが知られている。しかし、発泡ガラスやゼオライトでは微生物の代謝サイクルを支えるエネルギー供給ができないために微生物の増殖や活性の維持が困難である。微生物の増殖や活性を維持するためには、上記有機物等のような天然物以外の別資材が必要で、微生物群の賦活化効率の点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5578525号
【特許文献2】特開2001-335391号公報
【特許文献3】特開2012-44904号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「土壌中の微生物とその働き(2)」農業土木学会誌 59巻第5号(1991年)、木村眞人著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、天然物由来の資材を活用し、微生物群の賦活化効率を改善させうる微生物群の賦活化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る微生物群の賦活化方法の特徴は、家畜糞、木材、及び/若しくは、有機残渣、並びに/又は、土壌(以下、「有機物等」という。)を利用した方法であって、二種以上の微生物よりなる生物群を、粒状のA材1と液状のB材2とに担持させ、前記A材には担持させた前記微生物群の代謝産生により生じさせた腐植を予め含み、前記A材と前記有機物等とを重ねて前記有機物等の層の中に前記A材を含む前記B材のトラップ層を形成し、前記A材と前記有機物等とを重ねた上から前記B材を適宜添加して、前記トラップ層の前記A材に前記B材中の微生物群を供給し、前記有機物等中で微生物群を賦活化させることにある。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明に係る微生物群の賦活化方法の特徴によれば、天然物由来の資材を活用し、微生物群の賦活化効率を改善させうるに至った。
【0009】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の基本構成を示すA,B材利用の概念図である。
【
図2】土壌腐植物質の生成過程を示す概念図である。
【
図3】腐植の機能を示す概念図である(hanagokoro.co.jp より引用)。
【
図4】団粒構造を示す概念図である(施設園芸.com より引用)。
【
図7a】B材をトラップ層A材に添加後、60日後にサンプリングし、デジタル顕微鏡を用いて写真撮影(倍率1,200倍)した写真であって、特徴的なメッシュ構造を示す。
【
図8a】トラップ層A材を用いずにB材のみを添加した圃場や、ゼオライトを用いた圃場における
図7a相当の写真であって、特徴的なメッシュ構造が形成されていないことを示す。
【
図9a】ミクロ団粒が結合を繰り返して肥大化し、保水性・通気性・排水性をもつマクロ団粒となっている状態の観察像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【発明の内容】
【0011】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1に示すように、本発明は、二種以上の微生物よりなる生物群を、粒状のA材1と液状のB材2とに担持させて、A材1と、家畜糞・木材・有機残渣等の「有機物」や「土壌」(以下、「有機物等」という。)3とを重ね、その上からB材2を添加する際に、A材1がB材2中の微生物群をトラップするトラップ層4を形成することを特徴とする微生物群の賦活化方法である。
【0012】
A材1は、有機物等3と交互に積層させてもよいが、有機物等3とA材1との混合物を作成してこれを他の有機物等3と交互に積層させる他、有機物等3とA材1との混合物のみを積層させてもよい。有機物等3の間にA材1を分散させて、このA材1をトラップ層として、B材をトラップ(吸着)させることができればよい。
【0013】
上記A材およびB材は以下(ア)~(オ)の特徴をもつ。
(ア)A材は粒状で微生物が有機物を分解して作る腐植を平均15%以上含むことが望ましく、かつ、微生物を2~8×108/g以上含有することが望ましい。
(イ)B材は液状で微生物を2~8×108/ml以上含有することが望ましい。
(ウ)A材とB材は、共に、自然界における「腐植」の生成に関与する有機栄養細菌、放線菌(文献1)からなる微生物群を含む。A材は、B材を「有機物」に添加することにより産生され、ミクロ団粒とマクロ団粒を豊富に含有し、酸素保持・排水性・断熱性、ならびに450ml/Kg以上の保水能力を有する積層構造を構築する。そのため、B材の添加時には、液状であるB材を効率よくトラップできるため、微生物群による作用を効果的に発生させることが可能となり、たとえば「腐植」の生成が促進される。
なお、A材とB材に含まれる微生物群は同一の場合と異なる場合がある。
(エ)A材およびB材の利用により、「有機物」や「土壌」には、以下の特性が付与される。
【0014】
a)「有機物」や「土壌」において微生物活動が活性化され、それによる分解や有用物質の産生が急速に進む
【0015】
b)大部分がミクロ団粒・マクロ団粒の集合体で形成される
【0016】
c)陽イオン交換容量(CEC : Cation Exchange Capacity)が大きい=保肥力が高い
(オ)A材とB材の併用により、(エ)に記載の特性を「有機物」や「土壌」に微生物群によって引き起こされる各種機能を効率的に付与することができる。
その効果は、以下S1~S5の順に発生する。
S1:有害物質(化学物質・臭気原因物質・生物生育阻害物質等)が除去される
S2:団粒化が促進される(ミクロ団粒の形成→マクロ団粒の形成)
S3:有機物の分解が進む
S4:「腐植(※)」が生成される
S5:自然界の微生物群を取り込んでバイオフィルムを形成し、微生物叢が安定して増加する
上記S1~S5を繰り返し、最終的には対象とする「有機物」や「土壌」全体まで効果が及ぶ。
【0017】
「腐植」の生成には、通常の発酵手法では少なくとも数年程度の長い熟成期間を要するため、一般の圃場で腐植を利用する場合は、主に鉱物由来の腐植物質や人為加工された腐植物質を外部から添加する方法が採られているが、その効果は一過性に過ぎないという問題がある。
【0018】
本発明では、微生物群を含むA材(トラップ層)とB材(添加剤)の併用によって、3ヶ月程度の短期間で有機物あるいは土壌中に有効な効果を発揮する腐植の量を生成することができ、かつ、B材の適時の添加によって、前記微生物の代謝サイクルを持続することにより、継続的に「腐植」の機能を維持することができる。
以下、腐植のA)生成、B)機能、C)構成要素である腐植酸、について説明する。
【0019】
A)腐植物質の生成
図2に示すように、自然界では動植物遺体などの有機物が、微生物により分解され、微生物の増殖サイクルの中で窒素成分がアンモニア/硝酸となり、植物に吸収されたり溶脱したり、二酸化炭素と水に分解されて消滅するのが窒素循環のメカニズムである。
その自然界のメカニズムの中で、動植物遺体の一部は分解され尽くされず、暗色(暗黒色)で無定形な高分子化合物として残ることが知られており、これが「腐植」である。
【0020】
B)腐植には、
図3に示すように、主に以下の機能がある。
F1:団粒化の促進により、土の保水性と排水性が共に向上する
F2:pHが安定化する
F3:保肥力が向上する
F4:土中の植物生育阻害物質を吸着し、連作障害を抑える
F5:土中の酸化物質を吸着し、栄養分を植物が使える形に変化させる手助けをする
以上により、微生物群の活性代謝が促進される。
【0021】
以下、上記F1~F5について詳述する。
F1:保水性と排水性の同時的向上については、土の構造が大きく影響し、この構造形成に腐植が大きく関係している。
【0022】
土の構造には「団粒構造」と「単粒構造」があり、それぞれに以下のような特徴が顕れる。
【表1】
【0023】
腐植は団粒化を促進する際に、アルミニウム等と結合してミクロ団粒を作り、ミクロ団粒体とカルシウム等が結合してマクロ団粒を生じる。団粒化が旺盛な土壌で植物を栽培すると植物生育の過程で団粒が崩され、その結果腐植が消費されて減少する。腐植が完全に喪失した土壌は団粒形成ができなくなり、砂漠土になる。
【0024】
図4に示すように、団粒構造ができるとマクロ団粒の外には粗孔隙ができ、内には毛管孔隙ができる。過水流入の際には、団粒同士の隙間である粗孔隙を通って水が流れ落ちる。その際、毛管孔隙が空隙となっていれば、毛細管現象で毛管孔隙内に水が取り込まれる。毛管孔隙内に取り込まれた水は、pF値が1.8~2.7の範囲にあり、100~1000cm水柱高に相当する水の吸引圧(毛管張力・毛細管現象)が働くため、水の動きはゆっくりになる。
また、乾燥・過乾燥の際には、粗孔隙内の水は早期に喪失するが、毛管孔隙内の水は同様の作用により容易には喪失せず、団粒構造内に長時間留まる。
【0025】
F2:腐植の一部は一般に
図5に示す化学構造をしており、空いている側鎖には各種イオンを吸着することができる。この側鎖に水素イオン(H+)を吸着することで、pHが中性領域を出ないように5.0~6.5にコントロールできる(http://www.lifescience.it-chiba.ac.jp/takiguchi/research.html 参照)。
【0026】
F3:側鎖に石灰(Ca)、苦土(Mg)、加里(K)、鉄(Fe)などのミネラル塩基イオンや窒素(N)、リン(P)などの主要栄養塩基イオンを吸着することができる。
腐植の含有量が多い土ほど、この保肥力が大きくなる。ミネラルイオン類は、窒素やリンなどの栄養分を植物が取り込む際の吸収効率を高めるため、肥料の使用量の低減にもつながる。
また、腐植が肥料などの過剰栄養分を一旦吸着することで、土中の肥料分が多すぎる時には、植物の根を肥料焼けから守る。
【0027】
F4:側鎖には植物が生育の過程で根から排出するアレロパシー物質(他の植物の生育に影響を与える物質)を吸着することができるため、前年に栽培した植物が土中に残した悪影響を最小限に抑えることが可能になる。
【0028】
F5:土中で金属イオンなどと結合し、植物が利用できない形に変化した酸化化合物質も側鎖に吸着させることができる。吸着した各種物質は、植物に悪影響を与えない形で腐植中に保持され、微生物によって再度植物が利用できるように可溶化させることができる。
【0029】
C)腐植を構成する腐植物質
ここで、腐植物質の構成を
図6に示し、以下、詳述する。
【0030】
1.フミン酸
分子量10,000~100,000。土壌の抗酸化物質として知られ、有害物質のキレート除去作用に優れる。微生物のバイオフィルム活性作用・免疫機構の構築に優れるとされる。亜炭や褐炭を硝酸などの酸化剤を用いて酸化分解して、ニトロフミン酸として取得されるものがほとんどである。
【0031】
2.フルボ酸
分子量1,000~10,000。鉄やマグネシウムイオンなどの光合成に必要なミネラルの可溶化時に大きく作用する。木材チップを120~250℃、12~35atm圧の蒸気にあてて亜臨界水反応させ、その後冷却し、フミン酸・フルボ酸の混合含有液を得た後、アルカリ、酸による処理を経て取得される。
【0032】
3.ヒューミン
フミン酸でもフルボ酸でもない腐植物質で、分子量は最大で100,000~10,000,000とされる。腐植物質層の中で最大の容積を持つ。非常に広大な表面積を持つため、微生物群を担持する本体として機能する。
注:pHによる特性による区分けはされるものの、それぞれに明確な分子構造が存在する訳ではないため、ほとんどの場合、フミン酸+フルボ酸+ヒューミンで「腐植」と呼んでいる。フミン酸だけ、あるいは、フルボ酸だけを抽出していると謳う商品もあるが、厳密にはフミン酸やフルボ酸という特定の物質が存在する訳ではない。
【0033】
本発明の解決すべき課題についてさらに詳述する。フミン酸・フルボ酸・ヒューミンはいずれも微生物が有機物を分解する過程で生じた代謝生成物であり、3つがまとまって初めて腐植物質として機能するので、CEC向上材や腐植物質の一部を外部から対象に添加して使う既存の方法では、一方的な消費によって腐植が失われるのみであり、持続的な腐植による効果を得ることが難しい。
【0034】
腐植物質は、植物の生育に伴って消費され失われるものであるので、消費喪失した分を土中の物質循環や微生物作用によって自然に生じさせることが望ましいといえる。
【0035】
植物などの生育に伴って腐植が消費喪失する時間と腐植を自然の中で生成させる時間を比較した場合、消費喪失する時間の方が圧倒的に短く、腐植の生成が追いついていないため、これが俗にいう「土壌疲弊」として顕在化する。それを改善するために、外部から腐植物質を添加する運用がれているが、そのほとんどが鉱物由来であり、埋蔵されている地域から採掘して原料を賄うため、圃場には一過性の改善しか生じない上に、資源の枯渇や環境破壊につながる点について留意する必要がある。
【0036】
本来、天然の腐植物質は、腐植として機能する物質になるまで何万年もかかると言われており、外部から調達した腐植を圃場の土壌に添加しても植物の生育に合わせて消費されるだけだからである。
【0037】
同様にCECを向上させるためのゼオライトなどの施用により、一時的にCECを改善したとしてもこれもまた一過性の成果しか得られない。CECは土壌がどれだけ栄養分を蓄えられるかを示す保肥力の指標であるが、その本質は土が栄養分を捕まえる力の大きさともいえる。ゼオライト等の鉱物由来資材を使うことで栄養分を吸着する力が肥大化することで、土壌が栄養分を放出できなくなり、植物が栄養分を吸収できなくなる等の逆転的な弊害が生ずることもよく知られている。
【0038】
以上の課題に対し、本発明は、腐植生成サイクルを自然的に作り出し、B材の継続的な添加とA材のトラップ効果により、効果を持続させるものである。
【0039】
図1に示す構成の本発明によれば、A材をトラップ層として用いることで、「有機物」や「土壌」に添加されるB材を効率よく利用できるため、以下E1~E4の効果が現れるまでの期間を大幅に短縮することができる。
【0040】
E1:団粒化を促進する
団粒化は対象物自体に保水性と透水性を両立して保持させるために必要である。団粒化にはミクロ団粒(250μm以下)とマクロ団粒(250μm以上)の2つがあり、ミクロ団粒は保水性に寄与し、マクロ団粒は透水性に寄与する。
【0041】
ミクロ団粒は微生物自体が核となり、微生物が産生する粘性物質(細胞外多糖EPS)によって結合される粒状物質であり、この団粒は強固で安定性が高く、核となる微生物が死滅しても外郭部分が残るため、耕起などの農作業や降雨などの自然影響によって破壊されにくい特性を持つ。すなわち、微生物量が多い対象物ほどミクロ団粒も多く存在する。
【0042】
マクロ団粒はミクロ団粒の発生に伴う粘性物質の余剰分や糸状菌の菌糸などが主となって、ミクロ団粒そのものや砂粒・植物残渣分解物の微細破片(腐植を含む)が弱い力で結びついているものである。そのため、微生物による有機質分解の影響を受けやすく、常に分解・結合を繰り返している不安定性を持つ。
【0043】
対象にA材を投入後30日経過頃から団粒化形成が目視で確認できるようになる。十分な作用期間として90日を経過させると対象が有機物の場合、概ね60%以上(体積比)が250μm以上の団粒構造を呈するようになる。
なお、団粒化の影響範囲を確認することで、微生物群の対象物への浸透具合を図ることができる。
【0044】
E2:有機物を分解する
対象物中に含まれる有機物とは、脂質・タンパク質・繊維質などであるが、易分解性のものは十数時間から数日で、難分解性のものについても180日以内には圃場土壌への施用が可能なレベルに分解する。
なお、易分解性有機質の難分解性の有機物で、木チップなどのように混合段階から数cm以上の大型破片の状態になっているものは、分解までの時間が想定より長くなるため、予め粉末処理をするなどの前処理が必要となる。
分解作用の結果、植物の生育に必要なサイトカイニン等のホルモン、ミネラル、窒素・リン・カリなどの栄養成分が産生され、対象物中に蓄積される。
【0045】
E3:腐植を生成する
分解過程において「フミン酸」「フルボ酸」「ヒューミン」の混合体からなる腐植物質が生じる。なお、腐植酸類については、純粋な「フミン酸」「フルボ酸」という物質は存在しないため、それぞれの前駆物質や中間体を含む黒色の液状のものを指す。特に「ヒューミン」は高分子体が絡まった構造の分解最終物であり、分解力の強い微生物の作用によって大量に生成される。
フミン酸のキレート効果は、有害物質の取り込み保持がメインで、フルボ酸のキレート効果は有用成分の保持がメインであり、前者は分解過程、後者は植物の栽培過程で効果を発揮する。
ヒューミンは主に微生物群の担持に関わり、ミクロ団粒の発現初期に大きな役割を持つ。細かい網目のような構造のヒューミンは、ミクロ団粒の核となる微生物を取り巻く外郭として機能する。
【0046】
同時に分解作用によって産生した各種栄養成分をマクロ団粒内のミクロ団粒周囲に保持することで保肥力の増大を実現する。
一般に保肥力はミクロ団粒の保水性に比例するため、豊かな土壌といわれる土の最大保水容量が400~600ml/Kgといわれるところ、A/B材を適用した対象物は概ね500ml/Kgを超過する性能をコンスタントに保持できるようになる。
【0047】
B材においては、これらの腐植物質群の含有量は微量である。一方でA材は熟成過程で一定(15%程度以上)の腐植物質を生成蓄積させており、対象物に添加することで、初期段階から腐植によるキレート効果を発現させることが可能である。
【0048】
このように、「腐植」に関しては、A材は、「有機物」や「土壌」からの「腐植」の生成の開始を早め、B材を効率よくトラップすることによって生成を促進する働きがある。
【0049】
E4:微生物群が安定して増加し、効果がおよぶ範囲が広がる
作物に適した豊かな土壌と呼ばれる土に存在する微生物量は、2.0×108/g以上とされている(文献2)。
A材を対象物に適用した場合、B材の適切な添加により、2.0×108/gの微生物量が確保できるため、微生物量4.0~8.0×1010/gの安定的な増加を促すことができる。
【0050】
SOFIX微生物群の賦活化方法:土壌肥沃度指標(Soil Fertile Index)の略(https://sofixagri.com/pattern-judge/ 参照のこと)
【実施例0051】
バチルス属を含む10種以上の微生物を循環式培養装置(YMS社製インキュベーター・MSM2100P1-11JP)を用いて52時間混合培養を行った。当該培養液(B材と呼ぶ)を、動力噴霧装置を用いて木質残渣に添加し、30日間静置し発酵させ、30日後に再度添加を行い、さらに30日間静置し「種菌」とした。次に当該種菌を、同じ方法で作成し保管していた種菌(「戻し資材」と呼ぶ)と体積比1対1で混合し、さらに鶏糞(等の動物質有機物)と体積比4対1で混合したもの、すなわち、種菌:戻し資材:鶏糞=1:1:8の混合物を30日間熟成させた。なお、木質残渣は、高速道路法面整備や山間地整備開発等で廃棄される天然由来の草木残渣であり、農薬散布は行われていないものであり、微細化処理は機械的な粉砕処理のみによって行い、化学的な処理は一切行っていないものを用いた。
【0052】
フォークリフトを用いて、上記混合物をかまぼこ状に成型し、成型後14日間静置したのち、自走式攪拌装置(YMS社製コンポストターナー・MSL40A-11JP)を用いて攪拌し、14日間静置した。これをさらに1回繰り返し、計28日間熟成させた後、篩装置(YMS社製トロンメル・MST300A-11JP)を用いて粒子の大きいもの(直径1.0cm以上のもの)は木質残渣に戻し、さらに30日間追加熟成を行った。その後、熟成物を圃場に重層した(トラップ層A材と呼ぶ)。
すなわち、以上により、
図1に示すトラップ層A材と培養液B材を準備した。
【0053】
B材をトラップ層A材に添加後、60日後にサンプリングし、デジタル顕微鏡(Koolertron社製・AS-SMXW70)を用いて写真撮影(倍率1,200倍)を行ったところ、特徴的なメッシュ構造を確認した(
図7a,7b)。なお、トラップ層A材を用いずにB材のみを添加した圃場や、ゼオライトを用いた圃場ではメッシュ構造は見られなかった(
図8a,8b)。
【0054】
B材を添加したトラップ層では、
図7a,7bに示すように極小の繊維状物質が絡み合ってメッシュ構造を構成しており、微細な 3D ネット状になっている。繊維状物質の直径は1ミクロン以下で、繊維状物質同士が微生物の作り出した粘物質である細胞外多糖類によって結合しているミクロ団粒状態が確認できた。ミクロ団粒は、1)植物遺体が腐朽化した腐植の前駆状態、2)死んだ根の断片・微細根、3)糸状菌の菌糸、4)ミネラル析出塊などがまとまったものである。微生物発酵時の熱作用により、水分は蒸散し、耐破断強度が高く、硬度がある状態になっており、手で折ろうとしても簡単には折れない。また、繊維の色が飴色から暗褐色になっていることから、微生物発酵に伴う生物炭化、すなわち、腐植化が進んでいることが確認された。
【0055】
図9aには、ミクロ団粒が結合を繰り返して肥大化し、保水性・通気性・排水性をもつマクロ団粒となっている状態の観察像を示す。
図9bは、
図9aの部分拡大した写真である。