(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003233
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】導電フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/16 20060101AFI20241226BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20241226BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20241226BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241226BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20241226BHJP
C25D 5/12 20060101ALI20241226BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20241226BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20241226BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241226BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C25D5/16
H01B5/14 Z
H01B13/00 503Z
H05K9/00 V
C25D5/56 Z
C25D5/12
C25D7/00 G
C25D7/06 B
C23C28/00 D
C23C28/00 A
B32B15/08 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023103795
(22)【出願日】2023-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106817
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹野 みふね
(72)【発明者】
【氏名】野坂 敬之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌利
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】薩摩 英希
【テーマコード(参考)】
4F100
4K024
4K044
5E321
5G307
5G323
【Fターム(参考)】
4F100AB01E
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4F100AB17E
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4K024AA09
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5E321BB32
5E321BB35
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5E321GG05
5E321GH01
5G307GA06
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5G307GC01
5G323AA01
(57)【要約】
【課題】黒色性が高く、耐指紋性に優れ(指紋がつきにくい、目立たない)、かつ接触抵抗値が低くノイズ低減効果に優れた、ノイズ対策・EMC対策のためのグラウンディング材として有用な導電フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】樹脂フィルム基材の上に銅皮膜を設け、銅皮膜の上に黒色メッキ皮膜を設けて該黒色メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを100nm以上とし、かつ黒色メッキ皮膜の上に表面樹脂被膜を、該表面樹脂被膜の表面に黒色メッキ皮膜が0.3%以上の面積比率で露出するように形成して導電フィルムとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材、銅皮膜、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜、及び表面樹脂被膜をこの順で備える導電フィルムであって、前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100nm以上であり、かつ前記表面樹脂被膜の表面に前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が0.3%以上の面積比率で露出している、導電フィルム。
【請求項2】
前記樹脂フィルム基材が、少なくとも片面に金属薄膜層を有する、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項3】
前記金属薄膜層が、銅蒸着層である、請求項2記載の導電フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが10~1000nmである、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項5】
前記銅皮膜が、電解銅メッキにより形成されている、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項6】
樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが10~100nmであり、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100~300nmである、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項7】
樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100~600nmであり、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが200~800nmである、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項8】
前記表面樹脂被膜が、紫外線硬化型樹脂材料又は光硬化型樹脂材料の硬化物である、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項9】
接触抵抗値が100mΩ/inch2以下である、請求項1記載の導電フィルム。
【請求項10】
樹脂フィルム基材、銅皮膜、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜、及び表面樹脂被膜をこの順で備え、前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100nm以上であり、かつ前記表面樹脂被膜の表面に黒色メッキ皮膜が0.3%以上の面積比率で露出している導電フィルムを製造する方法であって、
樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する工程、前記銅皮膜の表面にメッキ法を用いて黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成する工程、及び前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に樹脂材料を塗布して表面樹脂被膜を形成する工程を含む、導電フィルムの製造方法。
【請求項11】
樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する工程において、前記樹脂フィルム基材として少なくとも片面に銅蒸着層を有するものを用い、かつ前記銅皮膜を電解銅メッキにより該銅蒸着層の上に形成する、請求項10記載の導電フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色メッキ皮膜を有する黒色性の高い導電フィルムに関する。詳しくは、本発明は電磁波ノイズ対策・EMC対策のためのグラウンディング材等として有用な導電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器は、電磁ノイズが原因で誤動作や故障をする場合があり、時には生命をおびやかすような重大な事故にもなりかねない。従って、電気・電子機器を正常に動作させるためのノイズ対策が重要になる。
【0003】
ノイズ対策としては、使用する機器からノイズが出ないような対策を機器に施すEMI対策と、使用する機器が外部からノイズを受けても正常に動作するよう耐ノイズ性を高めるEMS対策があり、このEMI対策とEMS対策の両者を実施するEMCにより、機器がノイズに強い環境を保つようにすることが求められる。
【0004】
また近年、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイ(LCD)、有機ELディスプレイなどを搭載した画面表示装置に使用される電磁波シールドフィルムやグラウンディング材には、視認性などの観点から、高い遮光性が求められる。さらに、指で直接操作するタッチパネル方式の表示装置の普及に伴って、表示画面に指紋が付着して視認性が低下するという問題への対応も求められている。
【0005】
本出願人は特許文献1において、被めっき物の金属の表面に錫およびニッケルを一定比率で含有する黒色メッキ皮膜が形成された、黒色被膜製品(黒色導電フィルム)を提案した。このものは、銅の金属光沢をさえぎって目立たなくする黒色のメッキ皮膜を備えている。
【0006】
一方、特許文献2には、表面に黒色の保護層を備える電磁波シールドフィルムが開示されている。このものは高い黒色性を追求しているが、電磁波シールド用途のみであり、ノイズ低減効果との両立や耐指紋性などの他の視認性の追求は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013-209708号公報
【特許文献2】国際公開WO2022/265101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い遮光性及び耐指紋性と、ノイズ低減効果に優れた高い導電性とを両立させた導電フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行なった結果、黒色メッキ皮膜の表面に樹脂被膜を設ける構造において、最外層の樹脂被膜の表面から内側の黒色メッキ皮膜の一部が一定割合で突出(露出)した構造をとることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、以下の導電フィルム及びその製造方法に関する。
(1)樹脂フィルム基材、銅皮膜、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜、及び表面樹脂被膜をこの順で備える導電フィルムであって、前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaが100nm以上であり、かつ前記表面樹脂被膜の表面に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が0.3%以上の面積比率で露出している、導電フィルム。
【0011】
(2)前記樹脂フィルム基材が、少なくとも片面に金属薄膜層を有する、(1)記載の導電フィルム。
(3)前記金属薄膜層が、銅蒸着層である、(2)記載の導電フィルム。
【0012】
(4)前記樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが10~1000nmである、(1)記載の導電フィルム。
(5)前記銅皮膜が、電解銅メッキにより形成されている、(1)記載の導電フィルム。
【0013】
(6)樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが10~100nmであり、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100~300nmである、(1)記載の導電フィルム。
【0014】
(7)樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100~600nmであり、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが200~800nmである、(1)記載の導電フィルム。
【0015】
(8)前記表面樹脂被膜が、紫外線硬化型樹脂材料又は光硬化型樹脂材料の硬化物である、(1)記載の導電フィルム。
(9)前記導電フィルムは、接触抵抗値が100mΩ/inch2以下である、(1)記載の導電フィルム。
【0016】
(10)樹脂フィルム基材、銅皮膜、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜、及び表面樹脂被膜をこの順で備え、前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaが100nm以上であり、かつ前記表面樹脂被膜の表面に黒色メッキ皮膜が0.3%以上の面積比率で露出している導電フィルムを製造する方法であって、
樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する工程、前記銅皮膜の表面にメッキ法を用いて黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成する工程、及び前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に樹脂材料を塗布して表面樹脂被膜を形成する工程を含む、導電フィルムの製造方法。
【0017】
(11)樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する工程において、前記樹脂フィルム基材として少なくとも片面に銅蒸着層を有するものを用い、かつ前記銅皮膜を電解銅メッキにより該銅蒸着層の上に形成する、(10)記載の導電フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の導電フィルムは、黒色メッキのみでは十分な黒味が出ないなか、黒色メッキ皮膜の表面にさらに表面樹脂被膜を設けることによって、黒色性を高めることを可能にした。黒色メッキ皮膜の表面の微凹凸は通常、光を散乱して下地の黒味を阻害する要因となるため、表面樹脂被膜を設けて微凹凸を抑えることで光の散乱を抑制し黒味を高めることが考えられる。しかしながら、表面樹脂被膜を設けると接触抵抗値が上昇し導通性が失われるため、黒色性と導通性を同時に高めるのは従来容易でなかった。本発明では、黒色メッキ皮膜をわずかに表面に露出させることで、黒色性を高めつつ導通性も維持でき、かつ耐指紋性にも優れることを見出したものであり、またそのための条件として適切な算術平均粗さRaを備えるのが重要であることを見出したものである。
【0019】
本発明によれば、視認性の観点等から求められる高い遮光性(黒色性)及び耐指紋性を備え、かつ接触抵抗値が低い(例えば100mΩ/inch2以下)導電フィルムが得られる。このものはノイズ低減効果に優れており、ノイズ対策・EMC対策のためのグラウンディング材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の導電フィルムの構成の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の導電フィルムの一態様を
図1に示す。本発明の導電フィルムは、樹脂フィルム基材1の表面に銅皮膜2が設けられ、該銅皮膜2の表面に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜3が設けられ、該黒色ニッケル-錫メッキ皮膜3上に表面樹脂被膜4が形成されている。
【0022】
(1)樹脂フィルム基材
本発明の樹脂フィルム基材は、本発明の導電フィルムにおける基材であり、主として樹脂フィルムから構成される。この基材用樹脂フィルムの樹脂材料としては特に限定されないが、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系等の環状ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン、ポリアリレート等が挙げられる。
【0023】
これらのうち耐熱性、寸法安定性、電気的特性、機械的特性、耐薬品特性等の観点から、ポリイミド樹脂またはポリエステル樹脂が好ましく、ポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0024】
樹脂フィルム基材の厚みは特に限定されないが、好ましくは4~100μm、より好ましくは4~50μm、特に好ましくは4~25μmである。樹脂フィルム基材の算術平均粗さ(Ra)は特に制限されないが、好ましくは下限が10nmであり、上限が好ましくは1000nm、より好ましくは600nmである。
【0025】
本発明で用いる樹脂フィルム基材には、薄い金属薄膜層が形成されていてもよい。金属薄膜層は樹脂フィルム基材の片面のみに形成されていても、両面に形成されていてもよいが、少なくとも銅皮膜が設けられる面(片面)に形成されているのが好ましい。
【0026】
本発明では樹脂フィルム基材上に銅皮膜が形成される。樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有する場合は、当該樹脂フィルム基材上に形成された金属薄膜層の上に銅皮膜が形成される。樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有しない場合は、樹脂フィルム基材を構成する基材用樹脂フィルム上に銅皮膜が形成される。好ましくは、金属薄膜層を有する樹脂フィルム基材における当該金属薄膜層の上に銅皮膜が形成される。
【0027】
本発明において樹脂フィルム基材として金属薄膜層を有するものを用いる場合、金属薄膜層を構成する金属としては特に限定されないが、銅、銀、ニッケル、錫等が好ましく、当該樹脂フィルム基材上に形成される銅皮膜と同じ銅が特に好ましい。
【0028】
金属薄膜層を有する樹脂フィルム基材は、基材用樹脂フィルムに金属薄膜層を形成することにより得られる。基材用樹脂フィルムに金属薄膜層を形成する方法は特に限定されず、蒸着法又はスパッタ法等が挙げられる。あるいは、基材用樹脂フィルムの片面をマスキングしてもう片面に無電解メッキ等の方法で金属薄膜層を形成することもできる。これらのうち好ましくは、蒸着法が用いられる。
【0029】
基材用樹脂フィルムに形成される金属薄膜層の厚みは特に制限されないが、好ましくは0.1~0.5μm、より好ましくは0.2~0.3μmである。
【0030】
樹脂フィルム基材を構成する基材用樹脂フィルムは、予め粗面化されていてもいなくてもよい。例えば、金属薄膜層を形成しない場合、予め粗面化された基材用樹脂フィルム上に銅皮膜を形成してもよく、粗面化されていない基材用樹脂フィルム上に銅皮膜を形成してもよい。金属薄膜層を形成する場合、予め粗面化された基材用樹脂フィルム上に金属薄膜層を形成しその上に銅皮膜を形成してもよく、粗面化されていない基材用樹脂フィルム上に金属薄膜層を形成しその上に銅皮膜を形成してもよい。
【0031】
(i)基材用樹脂フィルム自体の算術平均粗さ(Ra):
・基材用樹脂フィルムが粗面化されていない場合
基材用樹脂フィルムを粗面化せずに用いる場合には、当該基材用樹脂フィルムの算術平均粗さ(Ra)は、下限が好ましくは10nmであり、上限が好ましくは200nm、より好ましくは100nmである。
【0032】
・基材用樹脂フィルムが粗面化されている場合
基材用樹脂フィルムを粗面化して用いる場合、当該粗面化された基材用樹脂フィルムの算術平均粗さ(Ra)は、下限が好ましくは100nmであり、上限は好ましくは1000nm、より好ましくは600nmである。予め粗面化された基材用樹脂フィルムを用いることにより、樹脂フィルム基材の算術平均粗さ(Ra)を大きくすることができ、さらに黒色ニッケル-錫メッキ皮膜形成後の表面の算術平均粗さ(Ra)を大きくすることができ、表面樹脂被膜形成後も十分な面積比率で黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が露出されるため、安定した導電性を有する導電フィルムが得られる。
【0033】
(ii)樹脂フィルム基材(金属薄膜層を有する場合と有しない場合とを含む)の表面の算術平均粗さ(Ra):
樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有しない場合は、上述した基材用樹脂フィルムに同じであり、銅皮膜と接する側の表面は基材用樹脂フィルムの表面となる。樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有する場合は、銅皮膜と接する側の表面は基材用樹脂フィルム上に形成された金属薄膜層の表面となる。いずれの場合においても、樹脂フィルム基材の銅皮膜と接する側における算術平均粗さ(Ra)は特に制限されないが、好ましくは下限が10nmであり、上限が好ましくは1000nm、より好ましくは600nmである。
【0034】
・基材用樹脂フィルムが粗面化されていない場合
粗面化しない基材用樹脂フィルムを用いた場合の樹脂フィルム基材表面の算術平均粗さ(Ra)は、下限が好ましくは10nmであり、上限が好ましくは200nm、より好ましくは100nmである。
【0035】
・基材用樹脂フィルムが粗面化されている場合
粗面化された基材用樹脂フィルムを用いた場合の樹脂フィルム基材表面の算術平均粗さ(Ra)は、下限が好ましくは100nmであり、上限が好ましくは1000nm、より好ましくは600nmである。予め粗面化された基材用樹脂フィルムを用いることにより、樹脂フィルム基材の算術平均粗さ(Ra)を大きくすることができ、さらに黒色ニッケル-錫メッキ皮膜形成後の表面の算術平均粗さ(Ra)を大きくすることができ、表面樹脂被膜形成後も十分な面積比率で黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が露出されるため、安定した導電性を有する導電フィルムが得られる。
【0036】
樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有する場合、金属薄膜層の厚みが極めて薄いため、金属薄膜層の形成前と後とで算術平均粗さ(Ra)の値は通常、大きく変わらないと考えられる。特に、蒸着法により純度の高い金属薄膜層を形成する場合、金属薄膜層形成後の樹脂フィルム基材の算術平均粗さ(Ra)は、基材用樹脂フィルムの算術平均粗さ(Ra)に追従する傾向にあると考えられる。
【0037】
基材用樹脂フィルムを予め粗面化する方法は特に制限されず、従来公知の粗面化処理方法を用いることができる。例えば、サンドブラスト処理、サンドペーパー又はやすり、砥石等による処理、サンダーによる処理、金属ブラシなどによる処理、ケミカルエッチング、金型でプレスすることによる賦型、樹脂にフィラーを含有させて成膜する練り込み式等が挙げられる。これらのうち、練り込み式を用いるのが好ましい。
【0038】
(2)銅皮膜
本発明において銅皮膜は、樹脂フィルム基材の表面に設けられる。樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有しない場合は、樹脂フィルム基材は基材用樹脂フィルムに同じであり、銅皮膜は基材用樹脂フィルムの表面に設けられる。樹脂フィルム基材が金属薄膜層を有する場合は、銅皮膜は基材用樹脂フィルム上に形成された金属薄膜層の表面に設けられる。より好ましくは、銅皮膜は樹脂フィルム基材に形成された金属薄膜層の表面に設けられる。
【0039】
銅皮膜の厚みとしては、好ましくは1~10μm、より好ましくは1~5μm、特に好ましくは1~3μmである。厚みをこの範囲内とすることにより、適度な導電性とフィルムならではの柔軟性を維持できるという利点がある。
【0040】
銅皮膜の形成方法としては、従来公知の方法が採用でき、電解銅メッキ法、無電解銅メッキ法、銅箔を貼り合わせる方法などが挙げられるが、好ましくは電解銅メッキ法が挙げられる。電解銅メッキ法で銅皮膜を形成する場合、形成後の表面の算術平均粗さRaを大きくする効果が高い。
【0041】
電解銅メッキ法としては、従来公知の方法を採用することができる。例えば、硫酸銅5水和物と、硫酸と、塩化ナトリウムを含む銅メッキ浴に浸漬して通電することにより、樹脂フィルム基材上に銅層を析出させることができる。条件は特に制限されないが、浸漬する際の銅メッキ浴の温度は30~50℃程度が好ましい。また、通電時の電流密度は1~5A/dm2程度、通電時間は60~600秒程度が好ましい。
【0042】
本発明においては、導電フィルムの基材となる樹脂フィルム基材に銅皮膜を形成したあと、後述する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成することにより、当該黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを大きくすることができる。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaが大きいほど、表面樹脂被膜形成後も十分な面積比率で黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が露出されるため、表面樹脂被膜を形成したあとでも安定した導通性を有する導電フィルムが得られる。
【0043】
また、予め金属薄膜層が形成されている樹脂フィルム基材表面へ銅皮膜を形成する場合、金属薄膜層が銅薄膜層であると、その上に電気メッキ法等を用いてさらに銅層を厚付けして適切な厚みの銅皮膜を形成することができる。すなわち、厚さが0.5μm以下の極めて薄い緻密な銅薄膜層(好ましくは銅蒸着層)を得る工程と、電気メッキ法等により銅皮膜を必要な厚さまで厚くする工程とを組み合わせて、接着剤を必要とすることなく樹脂フィルム基材上に所望の銅皮膜を形成することができる。
【0044】
(3)黒色ニッケル-錫メッキ皮膜
本発明における黒色ニッケル-錫メッキ皮膜は、上記銅皮膜の表面に形成される。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.05~0.5μm、より好ましくは0.1~0.2μmである。
【0045】
黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の黒色度(L*(SCE))としては、好ましくは35~45である。
【0046】
黒色ニッケル-錫メッキ皮膜は、錫およびニッケルを含有した合金を用いてメッキ工程により形成される。
【0047】
錫(Sn)およびニッケル(Ni)を含有した合金からなる黒色ニッケル-錫メッキ皮膜における錫とニッケルの含有比率は特に制限されないが、モル比においてSn/Ni=1.5~13を満たす比率とするのが好ましい。錫およびニッケルの含有比率がこの範囲内であると、明度が低く(黒色度が高く)、高い電気伝導性を有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を得ることができる。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜中の錫およびニッケルのモル比の測定方法については特に限定されないが、例えば原子吸光分析法によって得られる結果をもとに算出することができる。Sn/Niの値は、より好ましくは2~7である。錫とニッケルの割合がこの範囲であると、所望の黒色度を得やすくなる。
【0048】
黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成するメッキ処理としては電解メッキまたは無電解メッキが挙げられるが、電解メッキ処理が好ましい。
【0049】
電解メッキ処理の方法としては従来公知の方法を採用することができる。例えば硫酸ニッケル・6水和物と、硫酸第一錫と、グルコン酸ナトリウム、グリシン等の錯化剤を含むニッケル-錫メッキ浴に浸漬して通電することにより、銅皮膜上に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を析出させることができる。
【0050】
メッキ浴の組成は特に制限されず従来公知の範囲で適宜選択できるが、好ましくは硫酸ニッケル・6水和物の濃度は3.0~4.0質量%であり、硫酸第一錫の濃度は0.5~1.0質量%である。
【0051】
本発明では、
図1に模式的に例示するように、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜形成後の表面は高い凹凸形状を有する。すなわち、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面樹脂被膜と接する側における表面の算術平均粗さRaは100nm以上であり、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上である。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の算術平均粗さRaが大きいと、表面樹脂被膜を形成したあとも安定した導通が得られる。
【0052】
Raが100nmより低い場合、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の上に形成される表面樹脂被膜から、当該黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が十分な面積で露出せず、十分な導電性を確保できない場合がある。
【0053】
算術平均粗さRaの上限は特に制限されないが、1000nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましい。
【0054】
黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜形成後に該皮膜の表面を粗面化することによって上記範囲とすることもできるが、好ましくは樹脂フィルム基材上に銅皮膜を形成することによって粗面化した後その上に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成することが望ましい。樹脂フィルム基材上に銅皮膜を形成することで表面が粗面化され、その上に形成する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを所望の値に調整することができる。
【0055】
さらに、前記銅皮膜を電解銅メッキ法によって樹脂フィルム基材上に形成することが望ましい。電解銅メッキによれば銅皮膜を厚付けしやすく、銅皮膜形成後の表面の算術平均粗さRaをより大きくすることができる。そのため、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜形成後の表面の算術平均粗さRaを所望の値に高めることが容易となる。
【0056】
また、樹脂フィルム基材として金属薄膜層(好ましくは銅蒸着層)を有する樹脂フィルム基材を用いることで、その上に銅皮膜をさらに容易に厚付けして形成できるため、銅皮膜形成後の表面の算術平均粗さRaをより大きくすることができる。
【0057】
さらに、銅皮膜を形成して粗面化することに加え、銅皮膜を形成する樹脂フィルム基材として予め粗面化された基材フィルムを用いて樹脂フィルム基材の表面の算術平均粗さRaをある程度大きくしたものを使用することにより、さらに銅皮膜形成後の黒色ニッケル-錫メッキ皮膜表面の算術平均粗さRaを大きくすることができる。
【0058】
本発明においては、上述した方法を適宜組み合わせることによって、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを所望する範囲になるよう大きくすることができる。特に好ましい態様としては、予め粗面化された基材フィルムの表面に銅蒸着層を形成した樹脂フィルム基材を用い、該銅蒸着層の上に電解銅メッキにより銅皮膜を形成し、その上に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を電解メッキにより形成することによって、メッキ後の黒色ニッケル-錫メッキ皮膜表面の算術平均粗さRaを十分に高めることができる。
【0059】
樹脂フィルム基材として表面の算術平均粗さRaが10~100nmのものを用いる場合、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは100~300nmが好ましい。
樹脂フィルム基材として表面の算術平均粗さRaが100~600nmのものを用いる場合、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは200~800nmが好ましい。
【0060】
(4)表面樹脂被膜
本発明における表面樹脂被膜は、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に形成される。表面樹脂被膜自体の厚さは特に限定されない。凹凸を有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の上に形成されるため、一定の厚さになるとは限らない。また、後述する被覆率を満たすように形成されるため、その厚さは所望の被覆率に従って適宜調整することができるが、好ましくは0.05~5μm程度である。
【0061】
表面樹脂被膜を形成しうる樹脂材料としては、熱硬化樹脂、2液型硬化樹脂、紫外線硬化型樹脂などの光硬化樹脂、等が挙げられる。これらのうち、紫外線硬化型樹脂などの光硬化樹脂が好ましい。すなわち表面樹脂被膜は、好ましくはこれら硬化樹脂により形成される硬化物からなる。
【0062】
表面樹脂被膜は後述するとおり、インクジェット方式、スプレー方式、バーコーター方式等による塗布方法で黒色ニッケル-錫メッキ皮膜上に塗布することにより形成されるのが好ましく、インクジェット方式で塗布することがより好ましい。よって、表面樹脂被膜を形成しうる樹脂材料としてはインクジェット印刷用やスプレー塗布用、バーコーター塗布用等などとして好適に使用可能な紫外線硬化型樹脂等の光硬化性樹脂などが望ましい。特に、インクジェット印刷用などの紫外線硬化型樹脂インクが望ましい。
【0063】
以下に、表面樹脂被膜を形成しうる樹脂材料の一例として紫外線硬化型樹脂インクについて説明する。
紫外線硬化型樹脂インクは、主に反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤から構成される。必要に応じて、紫外線硬化型樹脂インクには、着色するための色材、光重合開始剤の開始反応を促進させるための増感剤や、その他分散剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、浸透剤などの添加剤が添加される。
【0064】
反応性モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれら変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコールアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ-ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ-トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物アクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボニルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸などの単官能アクリレートなどが挙げられる。
【0065】
さらに、これらにリンやフッ素の官能基を付与した反応性希釈剤が挙げられる。これらの反応性希釈剤は単独または組み合わせて使用することができる。
【0066】
反応性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートなどが挙げられ、単独または複合して使用することができる。なかでも、ウレタンアクリレートが接着性に優れるという理由から好ましい。
【0067】
光重合開始剤としては、ベンゾイン系、チオキサントン系、ベンゾフェノン系、ケタール系、アセトフェノン系などが挙げられ、単独または複合して使用することができる。
【0068】
色材としては、顔料、染料などを使用することができる。耐候性や耐光性に優れる顔料を使用することが好ましい。有機顔料としては、例えばニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類、ピロロピロール類などが挙げられる。無機顔料としては、例えば酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)、金属粉類などが挙げられる。
【0069】
本発明においては、紫外線硬化型樹脂インクに着色剤を配合することができる。着色剤としては、黒系着色剤が好ましい。ただし、本発明の導電フィルムは、黒に着色された表面樹脂被膜を塗布することのみで黒色化を実現しているわけではなく、必ずしも黒系着色剤を配合する必要はないため、着色剤としては黒系着色剤に限定されない。
【0070】
黒系着色剤としては、公知乃至慣用の黒色を呈するための着色剤(顔料、染料等)を用いることができる。例えば、カーボンブラック(ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック、松煙等)、グラファイト、酸化銅、二酸化マンガン、アニリンブラック、ペリレンブラック、チタンブラック、シアニンブラック、活性炭、フェライト(非磁性フェライト、磁性フェライト等)、マグネタイト、酸化クロム、酸化鉄、二硫化モリブデン、クロム錯体、アントラキノン系着色剤、窒化ジルコニウムなどが挙げられる。黒系着色剤は一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。また、黒色以外の色を呈する着色剤を組み合わせて配合して黒系着色剤として機能する着色剤を用いてもよい。
【0071】
より好ましくは、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の高い表面凹凸形状を阻害しない顔料微粒子(例えばカーボンナノブラック等)が配合される。微粒子としては特に限定されないが、一次粒子径分布が40nm~70nm程度のものが好ましい。配合割合は特に制限されないが、インク全量に対し0.1~20.0重量%程度が好ましい。
【0072】
紫外線硬化型樹脂インクは、ロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミル、ビーズミルなどの分散機を使って分散される。その後、ろ過を行い、インクから粗大粒子を除去することが好ましい。
【0073】
表面樹脂被膜は、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜上に塗工することによって、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の粗さが低減されて平滑になり黒色性を高めることができるが、塗工の厚みが厚いほど接触抵抗値が高くなり導通性が低下する。本発明では、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを大きくすることで、表面樹脂被膜の塗工厚みを厚くしても接触抵抗値を低く抑えることができる。すなわち、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaが大きいほど、その上に塗布する表面樹脂被膜の厚みが厚くなっても黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の露出度が高く維持され接触抵抗値が上昇しない(導通性が低下しない)ようにすることができる。
【0074】
表面樹脂被膜を形成する樹脂材料は、高い表面凹凸形状を有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に塗布され、凹凸の溝に浸入して塗膜を形成する。この樹脂材料の粘度は特に制限されないが、凹凸の溝に浸入する上では、好ましくは1.0~35.0mPa・s(25℃)程度の粘度が好ましい。
【0075】
(5)露出面積比率(被覆率)
本発明においては、
図1に模式的に例示するように、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜は粗面化され表面に凹凸が形成されている。表面樹脂被膜はその上に形成されるが、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を完全に覆うのではなく、一定割合で表面樹脂被膜の表面に露出した状態となるように形成される。すなわち、表面樹脂被膜の表面から黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の一部(凸部の頂部など)が突出していて、平面視した場合の黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の露出面積比率が0.3%以上となるように形成する。
【0076】
黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の露出面積比率の下限は上記のとおり0.3%であるが、好ましくは1%、より好ましくは3%である。面積比率の上限は特に制限されないが、好ましくは50%、より好ましくは20%、特に好ましくは10%である。すなわち本発明では、前記表面樹脂被膜の表面に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が0.3%~50%の面積比率で露出しているようにするのが望ましい。面積比率がこの範囲内であれば、外観の黒味や耐指紋性を良好に保ちつつ、高い導通性が得られる。
【0077】
本発明では、表面樹脂被膜の表面に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜が一定割合で露出しており、黒色ニッケル-錫メッキ皮膜は表面樹脂被膜により完全に被覆されていない状態にある。具体的には、表面樹脂被膜による黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の被覆率が、好ましくは50~99.7%、より好ましくは80~99%である。
【0078】
本発明では、一定以上の算術平均粗さRaを有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の上に表面樹脂被膜を塗布して黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を表面樹脂被膜の上にわずかに露出させることで、表面樹脂被膜の塗布量を多く膜厚を厚くしても接触抵抗値を低く抑えられ、しかも表面樹脂被膜が厚いためより黒色性を高めることができる。よって、高い遮光性(優れた黒色性)及び耐指紋性とノイズ低減効果に優れた高い導電性とをバランス良く両立させることができる。
【0079】
本発明の導電フィルムは、望ましい導通性の目安として、接触抵抗値として好ましくは100mΩ/inch2以下、より好ましくは70mΩ/inch2以下という低い値を示すことができる。
【0080】
本発明の導電フィルムの黒色度(L*(SCE))としては、好ましくは10~35である。
【0081】
(6)製造方法
本発明の導電フィルムは、樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する工程、前記銅皮膜の表面にメッキ法を用いて黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成する工程、及び前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に樹脂材料を塗布して表面樹脂被膜を形成する工程を含む方法により製造される。
【0082】
樹脂フィルム基材の表面に銅皮膜を形成する方法としては、上述したとおり、電解銅メッキ法、無電解銅メッキ法、銅箔を貼り合わせる方法などが挙げられるが、好ましくは電解銅メッキ法が採用される。樹脂フィルム基材としては、予め銅皮膜を形成する面に金属薄膜層(好ましくは銅薄膜層、より好ましくは銅蒸着層)を有するものを用いるのが望ましい。
【0083】
前記銅皮膜の表面にメッキ法を用いて黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成する方法としては電解メッキ法または無電解メッキ法が挙げられるが、好ましくは電解メッキ法が採用される。
【0084】
電解メッキ処理の方法としては従来公知の方法を採用することができる。例えば硫酸ニッケル・6水和物と、硫酸第一錫と、必要に応じて錯化剤等とを含むニッケル-錫メッキ浴に浸漬して通電することにより、銅皮膜上に黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を析出させることができる。
【0085】
メッキ浴の組成は特に制限されず従来公知の範囲で適宜選択できるが、好ましくは硫酸ニッケル・6水和物の濃度は3.0~4.0質量%であり、硫酸第一錫の濃度は0.5~1.0質量%である。
【0086】
硫酸ニッケル・6水和物の濃度が低い場合(相対的に含有比率として、硫酸第一錫の濃度が高くなる場合)、L*値は低くなり黒色度は高くなると考えられる。但し、硫酸ニッケル・6水和物濃度が低いと気泡が発生しやすいなどの問題が生じる可能性があり、加工性と黒色度をともに兼ね合わせる組成が好ましい。硫酸ニッケル・6水和物の濃度として具体的には、30~40g/Lが好ましい。
【0087】
ニッケル-錫メッキ浴における錫とニッケルの割合は特に制限されないが、モル比においてSn/Ni=1.5~13を満たす比率とするのが好ましく、より好ましくはSn/Ni=2~7である。
【0088】
錯化剤としては、好ましくはグルコン酸ナトリウム、グリシン等が用いられる。これらの錯化剤を用いることにより、良好な皮膜性を保ちつつ望ましい黒味を有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜を形成することができる。
【0089】
電解メッキ処理の諸条件は特に制限されないが、メッキ浴のpHは7~9程度が好ましい。浸漬する際のメッキ浴の温度は25~40℃程度、通電時の電流密度は0.5~2A/dm2程度、通電時間は60~180秒程度が好ましい。
【0090】
前記黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面に樹脂材料を塗布して表面樹脂被膜を形成する方法としては特に制限されないが、凹凸部を有する黒色ニッケル-錫メッキ皮膜上に上記露出度を実現させつつ表面樹脂被膜を形成する方法として好適には、インクジェット用樹脂インクを用いてインクジェット方式により黒色ニッケル-錫メッキ皮膜上に塗布する方法、スプレー方式による塗布方法、ダイコーター方式による方法、ナイフコーター方式による方法、ディップ方式による方法、スクリーン印刷方式による方法、バーコーター方式による方法、グラビア印刷方式による方法などが挙げられる。好ましくはインクジェット方式である。
【0091】
インクジェット方式による表面樹脂被膜の形成方法は特に限定されず公知の方法を採用できる。表面樹脂被膜を形成しうるインクジェット用樹脂インクとしては光硬化性樹脂が挙げられ、そのなかでも上述した紫外線硬化型樹脂インクを用いるのが好ましい。
【0092】
例えばインクジェット用樹脂インクとして紫外線硬化型樹脂インクを用いる場合、インクジェット方式にて紫外線硬化型樹脂インクを、最適な露出面積率になるよう調節された吐出量で塗布し、乾燥処理後、公知の方法で紫外線照射を行うことができる。
【0093】
インクジェット用樹脂インクの塗布量は、好ましくは200~8000pL/mm2、より好ましくは800~4500pL/mm2である。塗布量がこの範囲内であれば、塗布量が多すぎて表面樹脂被膜が黒色メッキ皮膜を被覆しすぎて黒色性及び導電性がともに低下するということがなく、また塗布量が少なすぎて黒色メッキ皮膜が表面樹脂被膜から露出しすぎて耐指紋性が低下するということがない。
【0094】
紫外線硬化型樹脂塗布後の乾燥処理としては、25~80℃で0.5~15分程度行うのが好ましい。その後の紫外線照射は高圧水銀等を用い、照度100mW以上、積算光量230mJ/cm2以上となるような条件で行うのが好ましい。
【0095】
スプレー方式、ダイコーター方式、ナイフコーター方式、ディップ方式、スクリーン印刷方式、バーコーター方式、グラビア印刷方式等を用いて表面樹脂被膜の形成する場合、その具体的な方法は特に限定されず公知の方法を採用できる。
【実施例0096】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。なお、本実施例における各種物性の評価方法は以下の通りである。
【0097】
<表面樹脂被膜による被覆率%>
SEM(電子顕微鏡)による撮影では、金属部は白く、樹脂部は黒く撮影されることを利用して樹脂部の占める面積率を求め、これを樹脂被覆率(%)とした。
具体的には、株式会社キーエンス製の卓上電子顕微鏡VHX-D510にて導電フィルム表面を撮影してSEM画像を取得した(撮影倍率:3,000倍、明るさ:オフセット554、コントラスト3,420)。
次いで、取得したSEM画像をMicrosoft Wordにて2値化処理した(処理条件は、白黒補正:50%、明るさ+40%、コントラスト+40%)。2値化処理したSEM画像を画像解析アプリ(ImageJ)にて面積計算し、樹脂被覆率を算出した(算出条件は、閾値の下限:0、閾値の上限:254、範囲(枠の大きさ):x=100、y=0、w=650、h=664)。
【0098】
<黒色度(L*)>
各試料について、測色機(商品名「CM-2600d」、コニカミノルタ株式会社製)を用いて、L*値(SCE方式)を測定し、黒色度の指標とした。なお、L*値(SCE方式)は低いほど黒味のある外観であることを意味する。
【0099】
<接触抵抗値>
50g重の金メッキ治具(25.4mm×25.4mm)2つを試料表面に1mmの隙間をあけて載置し、2つの金メッキ治具に設けた端子間の抵抗値を「ミリオームハイテスター3540」(日置電機株式会社製)にて測定した。
【0100】
<耐指紋性>
JIS K 2246 6.31の指紋除去性試験の方法を参考にして設定した以下の評価方法を用い、評価した。
水平な台上で、試料の表面に紙ワイパー(商品名「キムワイプ」、日本製紙クレシア株式会社製;厚み0.1mm)を8枚重ねて置き、その上から人工指脂液(品番:44010395、林純薬工業株式会社製)をマイクロピペットで0.1mL滴下した。その上から、略円筒状のゴム栓(上径:36.5mm、下径:31mm、高さ35mm)の径が小さい方を下にして載せ、更にその上に5kgの重りを載せた。
【0101】
上記の状態で5秒間静置後、ゴム栓およびキムワイプを取り除き、試料表面の人工指脂液の残り具合を以下の基準で目視にて評価した。
◎:人工指脂液の残留なし
〇:人工指脂液が極僅かに残留
×:人工指脂液が全面に残留
【0102】
<算術平均粗さ(Ra)>
レーザー顕微鏡(「VK-X3000」シリーズ、キーエンス株式会社製)を使用し、150倍に拡大して観察できるレンズで、レーザーコンフォーカル方式にて共焦点画像を取得し、画像解析により、算術表面粗さ(Ra)を測定した。
【0103】
[実施例1~5、比較例1]
樹脂フィルム基材として、ポリイミドフィルム(商品名「カプトン100V」、東レ・デュポン製株式会社製;25μm厚)に、銅を厚膜蒸着して銅蒸着ポリイミドフィルムとしたもの(銅蒸着層;0.3μm厚)を使用した。この樹脂フィルム基材の表面(銅蒸着層の表面)の算術平均粗さRaは20nmであった。
【0104】
得られた樹脂フィルム基材の表面(片面)に、電解銅メッキ処理にて1.7μm厚の銅皮膜を形成した。具体的には、この銅蒸着層を有する樹脂フィルム基材をそのまま電解銅メッキ浴に浸漬して、樹脂フィルム基材の片面(銅蒸着層を有する面のみ)に1.7μm厚の銅層を析出させ、銅皮膜を形成した。電解銅メッキ処理の条件は以下の通りである。
【0105】
銅メッキ浴の組成:硫酸銅・5水和物200g/L、硫酸(95%以上)55ml/L、塩化ナトリウム85mg/L、及び添加剤(商品名「CuSOFT」、株式会社JCU製)25ml/L
温度:40℃
電流密度:3A/dm2
時間:154sec
【0106】
次いで、この銅皮膜の上に電解ニッケル-錫メッキを施して、厚み0.13μmの黒色メッキ皮膜を形成した。電解処理の条件は以下の通りである。
【0107】
ニッケル-錫メッキ浴の組成:硫酸ニッケル・6水和物37.5g/L、硫酸第一錫6g/L、グルコン酸ナトリウム75g/L、及びグリシン37.5g/L
pH:8
温度:40℃
電流密度:0.5A/dm2
時間:120sec
【0108】
上記ニッケル-錫合金の黒色メッキ皮膜において、錫とニッケルの比率(Sn/Niの値)はモル比において3.7であった。得られた黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaを測定したところ、138nmであった。
【0109】
次いで、得られた黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の上に、表1に記載の塗布量で、インクジェット方式によりインクジェット印刷を行い、65℃で5分間乾燥処理後、高圧水銀で照度220mW、積算光量750mJ/cm2で紫外線照射を行い、表面樹脂被膜を形成した。
【0110】
使用したインクジェットインクはアクリル樹脂(46質量部;紫外線硬化樹脂)、3メトキシ1ブタノール(49質量部;希釈溶剤)、及び一次粒子径分布40~70nmのカーボンナノブラック(5質量部;黒色顔料)を含む紫外線硬化型樹脂インクであった。表面樹脂被膜の被覆率は表1に示す値となった。
【0111】
このようにして、樹脂フィルム基材、銅皮膜、黒色メッキ皮膜及び表面樹脂被膜をこの順で備える導電フィルムが得られた。このものについて、黒色度(L*)、接触抵抗値、及び耐指紋性の測定・評価を行い、結果を表1に示した。
【0112】
[比較例2]
表面樹脂被膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして導電フィルムを得た。測定及び評価の結果を表1に示す。
【0113】
[比較例3]
実施例1において電解銅メッキの処理時間をかえて銅皮膜の厚みを0.85μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして導電フィルムを得た。銅皮膜の厚みをかえたことで銅皮膜上に形成した黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは80nmとなった。実施例1と同様に測定及び評価を行った結果を表1に示す。
【0114】
[実施例6~8]
樹脂フィルム基材として、銅蒸着ポリイミドフィルム(厚み;12.5μm、銅蒸着;0.3μm厚、表面の算術平均粗さRa=150nm)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして導電フィルムを得た。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは328nmであった。実施例1と同様に測定及び評価を行った結果を表1に示す。
【0115】
[実施例9~11]
樹脂フィルム基材として、銅蒸着ポリエステルフィルム(商品名「ルミラーXE30」、東レ株式会社製、厚み;25μm、銅蒸着;0.3μm厚、表面の算術平均粗さRa=500nm(練り込み方式))を使用したこと以外は、実施例1と同様にして導電フィルムを得た。黒色ニッケル-錫メッキ皮膜の表面の算術平均粗さRaは558nmであった。実施例1と同様にして測定及び評価を行った結果を表1に示す。
【0116】
【0117】
【0118】
上記実施例及び比較例から分かるように、メッキ後の黒色ニッケル-錫メッキ皮膜表面の算術平均粗さRaの値が大きいと、表面樹脂被膜の塗布量が多くなっても接触抵抗値が低く抑えられ導通性が低下しない一方で、表面樹脂被膜が厚いため黒色性が高い。