(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025032425
(43)【公開日】2025-03-12
(54)【発明の名称】内接歯車ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/10 20060101AFI20250305BHJP
F04C 15/00 20060101ALI20250305BHJP
【FI】
F04C2/10 341A
F04C2/10 341Z
F04C15/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023137679
(22)【出願日】2023-08-28
(71)【出願人】
【識別番号】000241267
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトフルードパワーシステム
(72)【発明者】
【氏名】柴田 春彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
(72)【発明者】
【氏名】本田 尚也
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA00
3H041BB04
3H041CC08
3H041DD03
3H041DD04
3H041DD05
3H041DD33
3H041DD38
3H044AA00
3H044BB03
3H044CC08
3H044DD03
3H044DD04
3H044DD05
3H044DD23
3H044DD28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高温での使用に適し、広範囲の温度に適用し得る内接歯車ポンプを提供する。
【解決手段】ポンプハウジング4の収容孔2に内歯5Aを有するリング状の内歯歯車5を回転自在に収容し、内歯歯車5の内歯5Aと内接噛み合いする外歯6Aを有する外歯歯車6を内歯歯車5の内部に偏心して収容する。両歯車5、6間には両歯5A、6A間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入ポート9に連通して吸入域空間Sを形成し、両歯5A、6A間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出ポート11に連通して吐出域空間Pを形成する。ポンプハウジング4はアルミニウム合金で形成し、両歯車5、6はガラス転移点が100℃以上で、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一の熱硬化性樹脂で形成する。両歯車5、6はポンプハウジング4との線膨張係数の差を0からマイナス9×10
-6/℃の範囲とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に液体を吸入する吸入ポートに連通して吸入域空間を形成し、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に液体を吐出する吐出ポートに連通して吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加して吸入ポートより液体を吸入すると共に、吐出域空間で容積を減少して吐出ポートに液体を吐出して設け、ポンプハウジングはアルミニウム合金で形成し、両歯車はガラス転移点が100℃以上で、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一の熱硬化性樹脂で形成し、両歯車はポンプハウジングとの線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲とすることを特徴とする内接歯車ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状の内歯歯車の内部に偏心して外歯歯車を収容し、両歯車を回転駆動して液体を吸入吐出する内接歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内接歯車ポンプは、ポンプハウジングにリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内部に偏心して外歯歯車を収容し、両歯車の回転駆動で液体を吸入ポートより吸入して吐出ポートより吐出している。そして、ポンプハウジングは線膨張係数を21×10-6/℃としたアルミニウム合金(ADC12)で形成し、両歯車は線膨張係数を25×10-6/℃としたポリアミド樹脂(PA66)で形成し、両歯車はハウジングを形成するアルミニウム合金の線膨張係数よりも高い線膨張係数を有するポリアミド樹脂で形成している。このようにして、両歯車を鉄系焼結材料で形成した従来の一般的な内接歯車ポンプの課題である、車両の通常走行域と高温時での油量の差を小さく抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、かかる従来の内接歯車ポンプは、両歯車を熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂で形成しているため、ポリアミド樹脂は高温での使用に適さず、ポンプの使用できる温度範囲が制限されてしまう問題点があった。
【0005】
本発明の課題は、高温での使用に適し、広範囲の温度に適用し得る内接歯車ポンプを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を達成すべく、本発明は次の手段をとった。即ち、
ポンプハウジングの収容孔に内歯を有するリング状の内歯歯車を回転自在に収容し、内歯歯車の内歯と内接噛み合いする外歯を有する外歯歯車を内歯歯車の内部に偏心して収容し、両歯車間には両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に液体を吸入する吸入ポートに連通して吸入域空間を形成し、両歯車の回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に液体を吐出する吐出ポートに連通して吐出域空間を形成し、内歯歯車の内歯と外歯歯車の外歯とによりポンプ室を区画形成し、ポンプ室は両歯車の回転により吸入域空間で容積を増加して吸入ポートより液体を吸入すると共に、吐出域空間で容積を減少して吐出ポートに液体を吐出して設け、ポンプハウジングはアルミニウム合金で形成し、両歯車はガラス転移点が100℃以上で、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一の熱硬化性樹脂で形成し、両歯車はポンプハウジングとの線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲とすることを特徴とする内接歯車ポンプがそれである。
なお、流れ方向とは、両歯車を形成する際に、液状の熱硬化性樹脂が流動する方向を言い、直角方向とは流れ方向と直交する方向を言う。そして、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一とは、流れ方向と直角方向とで線膨張係数の差が0から2×10-6/℃の範囲を言う。
【発明の効果】
【0007】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明は、ポンプハウジングはアルミニウム合金で形成し、両歯車はガラス転移点が100℃以上で、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一の熱硬化性樹脂で形成し、両歯車はポンプハウジングとの線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲とする。このため、両歯車は100℃以上の高温で強度を維持できるから、高温での使用に適して広範囲の温度に適用することができる。
【0008】
また、両歯車は線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一にした。このため、両歯車は線膨張係数の流れ方向と直角方向との方向性にとらわれることなくできるから、ポンプハウジングとの間のクリアランスを容易に設定することができる。
【0009】
さらにまた、両歯車はポンプハウジングとの線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲にする。このため、両歯車はポンプハウジングとの間のクリアランスを適正に維持して良好に回転駆動することができる。なお、線膨張係数の差がマイナス9×10-6/℃より下だと、従来の一般的な内接歯車ポンプに用いた鉄系焼結材料と同等で、低温時にポンプハウジングとのクリアランスが小さく、両歯車を回転駆動する駆動トルクが大きくなる欠点がある。また、線膨張係数の差が0より上だと、一層の高温時に両歯車とポンプハウジングとのクリアランスが過小になって両歯車が焼き付く恐れがある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を示した内接歯車ポンプの横断面図である。
【
図4】一実施形態と従来例との比較を示したサイドクリアランスと温度との関係を表す特性図である。
【
図5】一実施形態と従来例との比較を示したボディクリアランスと温度との関係を表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づき説明する。
図1ないし
図3において、1はポンプ本体で、有底の収容孔2を形成している。3は蓋部材で、収容孔2の開口を一端面3Aで閉じるようポンプ本体1に取付けている。ポンプ本体1と蓋部材3は線膨張係数を21×10
-6/℃としたアルミニウム合金で形成している。そして、ポンプ本体1と蓋部材3とでポンプハウジング4を構成している。
【0012】
5はリング状の内歯歯車で、7個の内歯5Aを有し、収容孔2へ回転自在に収容している。6は外歯歯車で、内歯5Aと内接噛み合いする6個の外歯6Aを有し、内歯歯車5の内部に偏心して収容している。両歯車5、6はそれぞれ熱硬化性樹脂で形成し、ガラス転移点を220~300℃としている。また、両歯車5、6は線膨張係数が流れ方向で13×10-6/℃、直角方向で14×10-6/℃とし、流れ方向と直角方向で略同一としている。そして、両歯車5、6は膨張係数が流れ方向で13×10-6/℃、直角方向で14×10-6/℃としているから、ポンプハウジング4との線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲としている。
【0013】
7は貫通孔で、外歯歯車6の径方向中心に軸方向へ貫通し、断面で略二面幅形状に設けている。8は外歯歯車6を回転駆動する駆動軸で、略二面幅形状に設けた先端部を外歯歯車6の貫通孔7に嵌合している。Sは吸入域空間、Pは吐出域空間でそれぞれ両歯車5、6間に備え、吸入域空間Sは両歯車5、6の回転により両歯5A、6A間の噛み合い隙間が増加する領域に形成している。また、吐出域空間Pは両歯車5、6の回転により両歯5A、6A間の噛み合い隙間が減少する領域に形成している。Tはポンプ室で、内歯歯車5の内歯5Aと外歯歯車6の外歯6Aとにより複数個を区画形成し、両歯車5、6の回転により吸入域空間Sで容積を増加すると共に、吐出域空間Pで容積を減少して設ける。
【0014】
9は吸入域空間Sに連通する第1の吸入ポートで、ポンプハウジング4を構成する蓋部材3の一端面3Aに半円弧状に窪み形成して開口している。9Aは吸入域空間Sに連通する第2の吸入ポートで、ポンプハウジング4を構成するポンプ本体1の収容孔2の底面に半円弧状に窪み形成して開口し、第1の吸入ポート9と吸入域空間Sを介して軸方向に対向して配置している。10は第1の吸入ポート9に接続する吸入流路で、蓋部材3に形成し、低圧側から吸入する液体を流通する。11は吐出域空間Pに連通する第1の吐出ポートで、ポンプハウジング4を構成する蓋部材3の一端面3Aに半円弧状に窪み形成し、第1の吸入ポート9と径方向の対称位置に開口している。第1の吐出ポート11には吐出域空間Pを介して軸方向に対向して図示しない第2の吐出ポートを配置し、第2の吐出ポートはポンプハウジング4を構成するポンプ本体1の収容孔2の底面に半円弧状に窪み形成して開口している。12は第1の吐出ポート11に接続する吐出流路で、蓋部材3に形成し、負荷側に吐出する液体を流通する。
【0015】
次に、かかる構成の作動を説明する。
駆動軸8により外歯歯車6を回転駆動すると、外歯歯車6と内接噛み合いする内歯歯車5が回転駆動され、低圧側から液体が吸入流路10を流れ、第1の吸入ポート9から吸入域空間Sに吸入されて吐出域空間Pに搬送され、第1の吐出ポート11より吐出流路12を流れて吐出される。このとき、両歯車5、6は両吸入ポート9、9Aおよび両吐出ポート11で液体の圧力に基づく作用力が軸方向に平衡作用し、軸方向へ押圧されない。
【0016】
かかる作動において、ポンプハウジング4はアルミニウム合金で形成し、両歯車5、6はガラス転移点が100℃以上で、線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一の熱硬化性樹脂で形成し、両歯車5、6はポンプハウジング4との線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲とする。このため、両歯車5、6は100℃以上の高温で強度を維持できるから、高温での使用に適して広範囲の温度に適用することができる。
【0017】
また、両歯車5、6は線膨張係数が流れ方向と直角方向とで略同一にした。このため、両歯車5,6は線膨張係数の流れ方向と直角方向との方向性にとらわれることなくできるから、ポンプハウジング4との間のクリアランスを容易に設定することができる。なお、ポンプハウジング4との間のクリアランスは、両歯車5、6の側面と収容孔2の底面との間および蓋部材3の一端面3Aとの間のサイドクリアランス、および内歯歯車5の外周面と収容孔2の内周面との間のボディクリアランスを言う。
【0018】
さらにまた、両歯車5、6はポンプハウジング4との線膨張係数の差を0からマイナス9×10-6/℃の範囲にする。このため、両歯車5、6はポンプハウジング4との間のクリアランスを適正に維持して良好に回転駆動することができる。なお、線膨張係数の差がマイナス9×10-6/℃より下だと、従来の一般的な内接歯車ポンプに用いた鉄系焼結材料と同等で、低温時にポンプハウジング4とのクリアランスが小さく、両歯車5、6を回転駆動する駆動トルクが大きくなる欠点がある。また、線膨張係数の差が0より上だと、一層の高温時に両歯車5、6とポンプハウジング4とのクリアランスが過小になって両歯車5、6が焼き付く恐れがある。
【0019】
なお、前述の一実施形態では、ポンプハウジング4をポンプ本体1と蓋部材3とで構成したが、ポンプハウジングを両歯車を収容する収容孔を貫通形成する第1部材と第1部材の一方側に取付けて両歯車の一端面が摺接する第2部材と第1部材の他方側に取付けて両歯車の他端面が摺接する第3部材との3つの部材で構成してもよい。また、外歯歯車6を回転駆動する駆動軸8を嵌合する貫通孔7は縦断面で略二面幅形状に形成したが、貫通孔を縦断面で略D字形状やスプライン形状に形成してもよいことは勿論である。
【0020】
図4はサイドクリアランスと温度との関係を表し、
図5はボディクリアランスと温度との関係を表したもので、それぞれ一実施形態と従来例とを比較している。
そして、線膨張係数を21×10
-6/℃としたアルミニウム合金(ADC12)で形成したポンプハウジング4に歯幅を7.5mmとした両歯車5、6を収容し、内歯歯車5は外径を31mmとしている。
図4は、温度120℃におけるサイドクリアランスが42μmを基準とし、温度80℃、25℃、―40℃におけるサイドクリアランスをそれぞれ計算で求めた。
線膨張係数が13×10
-6/℃の熱硬化性樹脂で形成した両歯車5、6を用いた一実施形態に相当するポンプでは、ポンプハウジング4との線膨張係数の差が―8×10
-6/℃と成り、実線L1で示すとおり、サイドクリアランスが温度80℃で40μm、温度25℃で37μm、温度―40℃で33μmとなった。
これに対し、線膨張係数を25×10
-6/℃とした熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂(PA66)で形成した両歯車5、6を用いた従来例に相当するポンプでは、ポンプハウジング4との線膨張係数の差が4×10
-6/℃で、破線L2で示すとおり、サイドクリアランスが温度80℃で43μm、温度25℃で45μm、温度―40℃で47μmとなった。
【0021】
図5は、温度120℃におけるボディクリアランスが128μmを基準とし、温度80℃、25℃、―40℃におけるボディクリアランスをそれぞれ計算で求めた。
図4と同一の熱硬化性樹脂で形成した両歯車5、6を用いた一実施形態に相当するポンプでは、実線L11で示すとおり、ボディクリアランスが温度80℃で120μm、温度25℃で107μm、温度―40℃で91μmとなった。
これに対し、
図4と同一の熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂(PA66)で形成した両歯車5、6を用いた従来例に相当するポンプでは、破線L21で示すとおり、ボディクリアランスが温度80℃で133μm、温度25℃で140μm、温度―40℃で148μmとなった。
【0022】
このように、実線L1、L11で示す一実施形態に相当するポンプでは、温度―40℃から温度25℃、温度80℃、温度120℃と推移するに伴い、サイドクリアランス、ボディクリアランスともに増加するから、温度120℃より一層の高温で両歯車5、6とポンプハウジング4とのクリアランスが過小にならず、両歯車5、6が焼き付くことを防止できる。
これに対し、破線L2、L21で示す従来例に相当するポンプでは、温度―40℃から温度25℃、温度80℃、温度120℃と推移するに伴い、サイドクリアランス、ボディクリアランスともに減少するから、温度120℃より一層の高温で両歯車5、6とポンプハウジング4とのクリアランスが過小になって両歯車5、6が焼き付く恐れがある。
【符号の説明】
【0023】
2:収容孔
4:ポンプハウジング
5:内歯歯車
5A:内歯
6:外歯歯車
6A:外歯
9、9A:吸入ポート
11:吐出ポート
S:吸入域空間
P:吐出域空間
T:ポンプ室