(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003300
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン二次電池から有価金属を回収するための金属還元粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20241226BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20241226BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20241226BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241226BHJP
B22F 8/00 20060101ALI20241226BHJP
B22F 9/20 20060101ALI20241226BHJP
B22F 9/30 20060101ALI20241226BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241226BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241226BHJP
H01F 1/20 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B22F1/00 W
C22B7/00 C
C22B1/02
C22C38/00 303S
B22F8/00
B22F9/20 A
B22F9/30 A
H01M10/54
H01F1/147
H01F1/20
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024040882
(22)【出願日】2024-03-15
(31)【優先権主張番号】10-2023-0081446
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】524101696
【氏名又は名称】エーケー ツリー カンパニー,リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】524101700
【氏名又は名称】リバス987 インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】アン,ヒョ ス
(72)【発明者】
【氏名】キム,ウン ジョン
【テーマコード(参考)】
4K001
4K017
4K018
5E041
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA22
4K001CA11
4K017AA02
4K017BA03
4K017BB06
4K017CA07
4K017DA02
4K017EH18
4K017EK05
4K018BA04
4K018BB04
4K018BD01
4K018KA43
5E041AA17
5E041AA19
5E041BD12
5E041CA01
5E041HB11
5E041HB17
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN15
5H031EE01
5H031HH06
5H031HH09
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、廃リチウムイオン二次電池から経済的かつ環境に配慮して有価金属を回収するために廃リチウムイオン二次電池を加工して製造される金属還元粉末を提供することである。
【解決手段】前記目的を達成するために本発明による金属還元粉末は、廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造され、金属のNiとCoを含み、磁性を有することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造される粉末として、
金属のNiとCoを含み、磁性を有する、廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項2】
前記金属還元粉末の飽和磁化値が15emu/g以上である、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項3】
前記金属還元粉末の飽和磁化値が30emu/g以上である、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項4】
前記金属NiとCoの含量が50重量%以上である、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項5】
前記金属還元粉末の平均粒度が20μm以下であり、粒度分布における標準偏差は、10μm以下である、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項6】
前記金属還元粉末において前記金属Coに対する前記金属Niのモル比(MNi/MCo、MNiとMCoは、それぞれ前記金属還元粉末内で前記金属Niのモル分率と前記金属Coのモル分率)を第1のモル比(M1)とし、熱分解前である前記廃リチウムイオン二次電池の正極材において、Coに対するNiのモル比(mNi/mCo、mniとmCoは、それぞれ前記正極材内で前記Niのモル分率と前記Coのモル分率)を第2のモル比(M2)とするとき、第1のモル比と第2のモル比の差は、第2のモル比の値の10%以下である、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項7】
前記熱分解が前記廃リチウムイオン二次電池を400℃以下で加熱して自己発熱を誘導して行われる、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項8】
前記金属還元粉末は、Li、Ni、Co、Mn及びAl以外の金属イオンを含まず、F-、Cl-のアニオンを含まない、請求項1に記載の廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の金属還元粉末を湿式抽出して製造されるニッケルまたはコバルトを含む硫化物、窒化物または塩化物である金属化合物。
【請求項10】
(a)廃リチウムイオン二次電池を熱分解炉内に装入する段階、
(b)前記廃リチウムイオン二次電池を攪拌しながら前記熱分解炉の内部温度を上昇させて前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱を誘導する段階、
(c)前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応を持続させる段階、
(d)前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応が完了した後に製造される第1の粉末を排出する段階、及び
(e)前記第1の粉末を磁力選別して磁力に引き寄せられて選別される第2の粉末と引き寄せられない第3の粉末に分離する段階を含み、
前記第2の粉末は、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属還元粉末である、廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項11】
前記(a)段階で廃リチウムイオン二次電池は、放電処理していない状態である、請求項10に記載の廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項12】
前記(b)段階で前記内部温度は、400℃以下である、請求項10に記載の廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項13】
前記(c)段階で熱分解炉は加熱しない、請求項10に記載の廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項14】
前記(c)段階は、10~24時間持続される、請求項10に記載の廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【請求項15】
前記(c)段階は、不活性ガス雰囲気中で行われる、請求項10に記載の廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン二次電池をリサイクルするための金属還元粉末とその製造方法に関し、特に、廃リチウムイオン二次電池の低温熱分解を通じて得られる高含量の金属ニッケルと金属コバルトを含む金属還元粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関自動車から電気自動車に自動車産業が転換するにつれて、グローバル電気自動車及び二次電池の成長軸である欧州と中国は、二酸化炭素規制案及び環境に配慮した自動車ロードマップを通じて電気自動車の普及拡大と競争力確保を推進している。これにより、グローバル電気自動車市場の高速成長が予想されている。
【0003】
電気自動車のバッテリーは、通常5~10年使用後に廃棄されることにより、廃バッテリー市場も本格化すると見込まれている。グローバル電気自動車の廃バッテリーの発生量は、2030年までに約160万トンに達すると予想され、ヨーロッパを中心に様々な国々は、廃バッテリーから有価金属を回収する工程開発に対する大規模投資が行われている。
【0004】
廃バッテリーリサイクル産業は、再使用とは異なり、廃バッテリーから有価金属を回収して原料としてリサイクルすることで、環境問題の解決及び安定的な有価資源の確保が同時に可能になる。
【0005】
廃バッテリーリサイクルは、一般に放電、解体及び粉砕後の湿式製錬または乾式製錬工程を通じて有価金属を抽出することになるが、大容量処理に適しており回収率の高い乾式製錬工程が注目されている。
【0006】
乾式製錬は、粉砕して得られた粉末を高温で加熱して粉砕された粉末に含まれる有機化合物とポリマー成分を焼却して除去した後、湿式で有価金属を抽出することになる。
【0007】
このような乾式製錬工程は放電のために多くの時間と装置が必要であり、その後も複雑な工程を経て経済性が低下し、高温で加熱して排出された結果物には多量の不純物を含み、抽出が必要な有価金属が酸化物の形態で存在することによりこれを湿式抽出するためには強酸の使用が避けられず、環境的な問題が台頭している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造され、経済的かつ環境に配慮して有価金属を回収するのに適した金属還元粉末及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような目的を達成するために、本発明では、廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造される粉末として、金属のNiとCoを含み、磁性を有する廃リチウムイオン二次電池から回収される金属還元粉末を提供しうる。
【0010】
また、本発明による金属還元粉末は、飽和磁化値が15emu/g以上であってもよい。
【0011】
また、本発明による金属還元粉末は、飽和磁化値が30emu/g以上であってもよい。
【0012】
また、本発明による金属還元粉末は、前記金属NiとCoの含量が50重量%以上であってもよい。
【0013】
また、本発明による金属還元粉末は、平均粒度が20μm以下であり、粒度分布における標準偏差は、10μm以下であってもよい。
【0014】
また、本発明による金属還元粉末において金属Coに対する金属Niのモル比(MNi/MCo、MNiとMCoは、それぞれ金属還元粉末内で金属Niのモル分率と金属Coのモル分率)を第1のモル比(M1)とし、熱分解前である前記廃リチウムイオン二次電池の正極材において、Coに対するNiのモル比(mNi/mCo、mniとmCoは、それぞれ前記正極材内でNiのモル分率とCoのモル分率)を第2のモル比(M2)とするとき、第1のモル比と第2のモル比の差は、第2のモル比の値の10%以下であってもよい。
【0015】
また、本発明による金属還元粉末は、前記熱分解が前記廃リチウムイオン二次電池を400℃以下で加熱して自己発熱を誘導して行われてもよい。
【0016】
また、本発明による金属還元粉末は、Li、Ni、Co、Mn及びAl以外の金属イオンを含まず、F-及びCl-のアニオンを含まない、金属還元粉末。
【0017】
一方、本発明により金属還元粉末を湿式抽出して製造されるニッケルまたはコバルトを含む硫化物、窒化物または塩化物である金属化合物を提供しうる。
【0018】
本発明によって提供される廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法は、(a)廃リチウムイオン二次電池を熱分解炉内に装入する段階、(b)前記廃リチウムイオン二次電池を攪拌しながら前記熱分解炉の内部温度を上昇させて前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱を誘導する段階、(c)前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応を持続させる段階、(d)前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応が完了した後に製造される第1の粉末を排出する段階、及び(e)前記第1の粉末を磁力選別して磁力に引き寄せられて選別される第2の粉末と引き寄せられない第3の粉末に分離する段階を含み、前記第2の粉末は、上述した本発明による金属還元粉末であってもよい。
【0019】
また、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記(a)段階で廃リチウムイオン二次電池は、放電処理していない状態であってもよい。
【0020】
また、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記(b)段階で前記内部温度は、400℃未満であってもよい。
【0021】
また、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記(c)段階で熱分解炉は加熱しなくてもよい。
【0022】
さらに、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記(c)段階は、10~24時間持続されてもよい。
【0023】
また、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法において、前記(c)段階は、不活性ガス雰囲気中で行われてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造される金属還元粉末を介して経済的かつ環境に配慮して有価金属を回収しうる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による金属還元粉末の走査電子顕微鏡のイメージである。
【
図2】本発明による金属還元粉末の粒度分布測定結果グラフである。
【
図3】本発明による金属還元粉末の飽和磁化値測定結果グラフである。
【
図4】本発明による金属還元粉末のX線回折分析結果である。
【
図5】本発明による金属還元粉末の透過電子顕微鏡のイメージ及び回折パターン分析結果である。
【
図6】本発明による金属還元粉末の透過電子顕微鏡のイメージ及び回折パターン分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照し、本願が属する技術分野で通常の知識を持つ者が容易に実施できるように本願の実施例を詳細に説明する。しかし、本願は、様々な異なる形態で具現されてもよく、ここで説明する実施例に限定されない。
【0027】
本願明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とするとき、これは特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素を更に含むことができることを意味する。
【0028】
本明細書で使用される程度の用語の「約」、「実質的に」などは、言及された意味に固有の製造及び物質許容誤差が提示されるとき、その数値で、またはその数値に近い意味で使用され、本願の理解を助けるために正確かつ絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に用いることを防止するために使用される。また、本願明細書の全体において、「~する段階」または「~の段階」は、「~のための段階」を意味しない。
【0029】
本願明細書の全体において、マーカッシュ形式の表現に含まれる「それらの組み合わせ」という用語は、マーカッシュ形式の表現に記載された構成要素からなる群から選ばれる1つ以上の混合または組み合わせを意味するものであり、前記構成要素からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを意味する。
【0030】
本願明細書の全体において、「A及び/又はB」の記載は、「A又はB」または「A及びB」を意味する。
【0031】
廃リチウムイオン二次電池から有価金属を抽出するための従来のリサイクル工程では、高温熱分解と粉砕工程を通じて熱分解粉末を得て、このような熱分解粉末に含まれる有価金属酸化物から有価金属の抽出が行われた。
【0032】
このような従来技術による熱分解粉末には高温熱分解工程の特性上、有価金属酸化物の他にも多くの炭素、集電体物質などの不純物が含まれて全粉末から得られる有価金属の抽出比率が低くなり、酸化物から抽出が行われるため、強酸を用いることは避けられなかった。
【0033】
これに比べて、本発明による金属還元粉末は、廃リチウムイオン二次電池を熱分解して製造されるが、金属のNiとCoを含み、磁性を有することを特徴とする。本明細書において廃リチウムイオン二次電池は、使用後に廃棄される二次電池だけでなく、製造工程中に不良により廃棄処理される二次電池スクラップも含む。
【0034】
従来の高温熱分解による金属還元粉末は、上述したように金属イオンが酸素と結合して酸化物の形態で製造されることが避けられず、多くの不純物を含む。しかし、本発明による金属還元粉末は、金属のNiとCoを含み、これにより磁性を持つことで磁力選別が可能になり、湿式抽出でも環境に有害な強酸の使用を避けられるようになる。
【0035】
本発明による金属還元粉末を製造するために行われる廃リチウムイオン電池の熱分解は、廃リチウムイオン電池を400℃以下の低温で加熱して、廃リチウムイオン電池そのものの自己発熱を誘導して行われてもよい。
【0036】
比較的低温でも廃リチウムイオン二次電池内に含まれる正極材、電解液などの発熱反応が始まるため、低温加熱でも廃リチウムイオン二次電池の自己発熱を誘導できるようになる。加熱温度は自己発熱が可能であり、できるだけ低い方が工程でのエネルギー消費面で好ましく、金属生成にも有利であるため、加熱温度は、400℃以下、好ましくは、300℃以下、さらに好ましくは、200℃以下である。
【0037】
このような低温熱分解工程は、本発明による金属還元粉末においてNiとCoが金属として存在できるようにする。低温熱分解過程で廃リチウムイオン電池内に含まれる負極材の炭素とセパレータ、電解液などに含まれる炭素成分が熱分解過程で金属酸化物に対して還元剤の役割を果たし、廃リチウムイオン二次電池正極材に酸化物の形態で含まれるNiとCoを金属に還元させることになる。また、熱分解のための加熱が低温で行われるため、全反応の温度は低く、したがって、還元されたNiとCoが再酸化されず、金属状態で存在することになる。
【0038】
また、高温で熱分解される従来の熱分解粉末では、負極集電体であるCu、ケースからのFe、耐火物からのSi、Caなどの不純物が熱分解粉末に混入される。しかし、本発明による金属還元粉末は、低温熱分解によってこのような不純物成分が混入しないことがある。したがって、本発明による金属還元粉末は、正極材と正極集電体から得られるLi、Ni、Co、Mn及びAl以外の金属イオンを含まなくなる。また、湿式処理を行わないため、F-、Cl-などのアニオンを含まなくてもよい。
【0039】
このように製造される金属還元粉末には、低温熱分解によって高い割合で金属状態のNiとCoが含まれてもよいが、本発明による金属還元粉末内での金属NiとCoの和は重量基準で50重量%以上であってもよく、好ましくは、70重量%以上であってもよい。
【0040】
一方、本発明による金属還元粉末は磁性を有し、その飽和磁化値は15emu/g以上であってもよく、より好ましくは、30emu/g以上であってもよい。
【0041】
本発明による金属還元粉末に含まれる高含量の金属NiとCoは強磁性物質であるので、高いレベルの飽和磁化値を有するが、磁性を持たず、一部残留する炭素、マンガン酸化物などは飽和磁化値を下げる役割を果たす。本発明による金属還元粉末は、Ni及びCo以外の残留物含量が低く、比較的高い飽和磁化値を有するが、好ましくは、15emu/g以上であってもよく、より好ましくは、30emu/g以上であってもよい。
【0042】
また、本発明による金属還元粉末は、平均粒度が20μm以下であり、粒度分布における標準偏差は10μm以下であってもよい。
【0043】
従来の高温熱分解工程では、高温工程のために工程後の結果物の塊状化がおこり、粉末化するために粉砕工程が避けられなくなる。しかし、本発明による金属還元粉末は、低温での熱分解工程を通じて得られるため、小さな粒度を有することを特徴とし追加の粉砕工程が不要になる。
【0044】
また、このような廃リチウムイオン二次電池のリサイクルのための粉末は、粒度が小さいほど、後処理による有価金属の抽出が有利な側面がある。したがって、本発明の金属粉末は、好ましくは、平均粒度が20μm以下である。また、粒度分布における標準偏差も10μm以下で均一であり、粉末の取り扱いが容易である。
【0045】
一方、本発明による金属粉末に含まれる金属のNiとCoは、廃リチウムイオン二次電池正極材に含まれるNiとCoに起因するものである。したがって、これらの割合は、熱分解前の廃リチウムイオン二次電池正極材の割合に従うことになる。本発明による金属還元粉末は、廃リチウムイオン二次電池からのNiとCoの回収率が非常に高いため、熱分解前に廃リチウムイオン二次電池におけるNiとCoの割合は、熱分解後の金属粉末におけるNiとCoの割合と大きな差を示さない。
【0046】
したがって、本発明による金属還元粉末において金属Coに対する金属Niのモル比(MNi/MCo、MNiとMCoは、それぞれ金属還元粉末内において金属Niのモル分率と金属Coのモル分率)を第1のモル比(M1)とし、熱分解前である廃リチウムイオン二次電池の正極材においてCoに対するNiのモル比(mNi/mCo、mniとmCoは、それぞれ正極材内においてNiのモル分率とCoのモル分率)を第2のモル比(M2)とするとき、第1のモル比と第2のモル比の差は、第2のモル比の値の10%以下であってもよく、より好ましくは、5%以下であってもよい。
【0047】
また、本発明による金属粉末において有価金属であるニッケルとコバルトは、金属状態であるため、酸化物に比べて弱い酸処理によっても容易に抽出しうる。したがって、本発明による金属還元粉末を湿式抽出してニッケルまたはコバルトを含む硫化物、窒化物または塩化物が効果的に得られる。このような金属化合物は、再びリチウムイオン二次電池のための正極材の原料として活用されてもよい。
【0048】
本発明による金属還元粉末を製造する方法は、(a)廃リチウムイオン二次電池を熱分解炉内に装入する段階、(b)前記廃リチウムイオン二次電池を攪拌しながら前記熱分解炉の内部温度を上昇させて前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱を誘導する段階、(c)前記熱分解炉の加熱を停止し、前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応を持続させる段階、(d)前記廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応が完了した後に製造される第1の粉末を排出する段階、及び(e)前記第1の粉末を磁力選別して磁力に引き寄せられて選別される第2の粉末と引き寄せられない第3の粉末に分離する段階を含み、前記第2の粉末は、上述した本発明による金属還元粉末であってもよい。
【0049】
上述したように、本発明による金属還元粉末は、低温で加熱して自己発熱を誘導し、それからなる熱分解を通じて行われることを特徴とする。熱分解が完了した粉末を熱分解炉から排出し、これを磁力選別することにより、金属成分のNiとCoを含む本発明による金属還元粉末が得られる。
【0050】
このとき、廃リチウムイオン二次電池は、放電処理していない状態で熱分解炉内に投入されるが、このような放電処理されていない廃リチウムイオン二次電池は、低温の加熱によっても自己発熱が起こりやすく熱分解が可能となる。
【0051】
特に放電処理が不要であるため、従来の熱分解方法と異なり、放電のための装置と放電のための工程が不要となり、プロセスコストを大幅に節減しうる。
【0052】
また、本発明による廃リチウムイオン二次電池のリサイクル方法では、熱分解のための加熱は、400℃以下でも可能であるため、熱分解のためのエネルギーコストも節減しうる。熱分解のための加熱は、300℃以下であってもよく、200℃以下であってもよい。
【0053】
加熱後に自己発熱が始まった後は、熱分解炉の人為的な加熱を止め、廃リチウムイオン二次電池の自己発熱反応を持続させることができる。このような反応は、10~24時間持続されてもよい。反応時間が短すぎると急激な反応により不純物の生成可能性が高く、長すぎると工程生産性が低下して好ましくない。このような反応時間の調節は、(b)及び(c)段階での内部温度、熱分解炉内の雰囲気調節を通じて行われてもよい。
【0054】
自己発熱が行われた後の熱分解反応は、不活性ガス雰囲気中で行われてもよく、不活性ガスは、窒素、アルゴンなどが使用されてもよい。
【0055】
以下、本発明による金属還元粉末の分析結果を図面を参照して説明する。
【0056】
図1は、本発明による金属還元粉末の走査電子顕微鏡のイメージであり、
図2は、金属還元粉末の粒度を測定した結果である。金属還元粉末は、概して球形の粉末であり、金属還元粉末の平均粒度は、14.8μmであり、分布が広くなかった。
【0057】
図3は、熱分解炉で反応が完了した後に排出された反応物において磁力選別を行う前と後の金属還元粉末の飽和磁化値測定結果を示すグラフである。
【0058】
磁力選別前の粉末に比べて磁力選別後の粉末、すなわち、本発明による金属還元粉末の飽和磁化値が大きく上昇したことが分かった。磁力選別後の粉末が本発明による金属還元粉末となり、高含量の金属Niと金属Coを含むため、高い飽和磁化値(34.02emu/g)を有する。
【0059】
図4は、本発明による金属還元粉末に対するX線回折分析結果を示すグラフである。金属Ni(fcc構造)と金属Co(hcp構造)のピークが最も強く現れ、高い含量が含まれることが分かった。その他には炭酸リチウム(Li
2CO
3)、MnO、Alなどが検出された。
【0060】
図5及び
図6は、本発明による金属還元粉末に対する透過電子顕微鏡のイメージ及び回折パターン分析の結果を示す。回折パターンでは、
図4のXRD結果と同様に、fcc構造の金属Niを確認することができた。