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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033125
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】水性樹脂分散液及びそれを用いた用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20250306BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20250306BHJP
   C09J 167/00 20060101ALI20250306BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20250306BHJP
   C09D 11/00 20140101ALI20250306BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L29/04 D
C09J167/00
C09D167/00
C09D11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138627
(22)【出願日】2023-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000211020
【氏名又は名称】ジャパンコーティングレジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】関 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】桑田 真廉
(72)【発明者】
【氏名】山田 純平
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
4J039
4J040
【Fターム(参考)】
4J002BE032
4J002CF031
4J002CF041
4J002CF051
4J002CF071
4J002CF181
4J002CF191
4J002GA00
4J002GB00
4J002GG02
4J002GH00
4J002GH01
4J002HA07
4J038CE022
4J038DD081
4J038KA09
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA12
4J038PC08
4J038PC10
4J039AD06
4J039AE06
4J039BE22
4J039EA38
4J039EA43
4J039FA02
4J040DD022
4J040ED051
4J040JA03
4J040KA38
4J040LA01
4J040MA10
(57)【要約】
【課題】脂肪族ポリエステル系樹脂を含有する水性樹脂分散液から得られる皮膜が、ヒートシール性と水に対する耐久性を両立することができる水性樹脂分散液を提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を含む分散質(A)と、非イオン性分散剤(B)と、分散媒(C)とを含む水性樹脂分散液(I)であり、前記分散質(A)の190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が15g/10min未満であり、前記非イオン性分散剤(B)の含有量が、前記分散質(A)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部未満である水性樹脂分散液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を含む分散質(A)と、非イオン性分散剤(B)と、分散媒(C)とを含む水性樹脂分散液(I)であり、
前記分散質(A)の190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が15g/10min未満であり、
前記非イオン性分散剤(B)の含有量が、前記分散質(A)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部未満である水性樹脂分散液。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(a)の190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が100g/10min以下である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項3】
前記脂肪族ポリエステル系樹脂(a)がポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項4】
前記非イオン性分散剤(B)がポリビニルアルコール系樹脂である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項5】
前記非イオン性分散剤(B)が未変性ポリビニルアルコール樹脂である請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液。
【請求項6】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が70~90モル%である請求項4に記載の水性樹脂分散液。
【請求項7】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が1000~3000である請求項4に記載の水性樹脂分散液。
【請求項8】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度が2~70mPa・sである請求項4に記載の水性樹脂分散液。
【請求項9】
前記分散媒(C)が水である請求項1に記載の水性樹脂分散液。
【請求項10】
請求項1に記載の水性樹脂分散液を含有するコーティング剤。
【請求項11】
被コーティング物が紙基材である、請求項10に記載のコーティング剤。
【請求項12】
被コーティング物がプラスチック基材である、請求項10に記載のコーティング剤。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を用いてなる成形体。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を用いてなるフィルム。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を含有する化粧料。
【請求項16】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を含有する農業用組成物。
【請求項17】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を含有する塗料。
【請求項18】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を含有するインク。
【請求項19】
請求項1又は2に記載の水性樹脂分散液を含有する粘着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂分散液に関し、詳細にはそれを用いたコーティング剤、成形体、フィルム、化粧料、農業用組成物、塗料、インク及び粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コーティング剤や化粧料、塗料等の様々な分野、用途において樹脂を水性媒体に分散させた水性樹脂分散液が使用されている。中でもポリエステル系樹脂は、生分解性樹脂とすることやバイオ原料で製造することができ、近年の環境対応の材料に対応することができるため、様々な分野、用途で活用されている。
【0003】
例えば、生分解性に優れる水性樹脂分散液として、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル系樹脂を、ポリビニルアルコール等の分散剤を用いて乳化した水性樹脂分散液組成物が提案されており、接着剤、塗料、コーティング剤等の様々な用途への展開が期待されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、特許文献2には、ポリカプロラクトン樹脂を用い、生分解性樹脂に対する非イオン性分散剤の質量比を特定範囲とすることで、特別な加熱処理を施さずに透明な皮膜が得られることが開示されている。
【0005】
しかし、脂肪族ポリエステル系樹脂を含有する水性樹脂分散液は安定性が不十分なものがあった。そこで、特定の可塑剤を配合することにより、安定性に優れる水性樹脂分散液が得られ、造膜性やヒートシール性に優れる水性樹脂分散液組成物が得られることを見出した(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-204038号公報
【特許文献2】特開2022-60830号公報
【特許文献3】特開2022-167851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1~3の開示技術においては、水性樹脂分散液から得られる皮膜のヒートシール性と水に対する耐久性の両立については十分に検討されておらず、未だ改善の余地がある。
本発明は、前記課題に鑑みなされたものであり、脂肪族ポリエステル系樹脂を含有する水性樹脂分散液から得られる皮膜が、ヒートシール性と水に対する耐久性を両立することができる水性樹脂分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、かかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、脂肪族ポリエステル系樹脂を含む特定のメルトフローレート(MFR)の分散質と特定量の非イオン性分散剤を含有する水性樹脂分散液から得られる皮膜がヒートシール性と水に対する耐久性とを両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
この発明の要旨は、下記の[1]~[19]に存する。
[1]脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を含む分散質(A)と、非イオン性分散剤(B)と、分散媒(C)とを含む水性樹脂分散液(I)であり、前記分散質(A)の190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が15g/10min未満であり、前記非イオン性分散剤(B)の含有量が、前記分散質(A)100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部未満である水性樹脂分散液。
【0010】
[2]前記脂肪族ポリエステル系樹脂(a)の190℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)が100g/10min以下である[1]に記載の水性樹脂分散液。
[3]前記脂肪族ポリエステル系樹脂(a)がポリブチレンサクシネート及び/又はポリブチレンサクシネートアジペートである[1]に記載の水性樹脂分散液。
[4]前記非イオン性分散剤(B)がポリビニルアルコール系樹脂である[1]に記載の水性樹脂分散液。
[5]前記非イオン性分散剤(B)が未変性ポリビニルアルコール樹脂である[1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液。
【0011】
[6]前記ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が70~90モル%である[4]に記載の水性樹脂分散液。
[7]前記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度が1000~3000である[4]に記載の水性樹脂分散液。
[8]前記ポリビニルアルコール系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度が2~70mPa・sである[4]に記載の水性樹脂分散液。
[9]前記分散媒(C)が水である[1]に記載の水性樹脂分散液。
【0012】
[10][1]に記載の水性樹脂分散液を含有するコーティング剤。
[11]被コーティング物が紙基材である、[10]に記載のコーティング剤。
[12]被コーティング物がプラスチック基材である、[10]に記載のコーティング剤。
[13][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を用いてなる成形体。
[14][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を用いてなるフィルム。
[15][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を含有する化粧料。
[16][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を含有する農業用組成物。
[17][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を含有する塗料。
[18][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を含有するインク。
[19][1]又は[2]に記載の水性樹脂分散液を含有する粘着剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、脂肪族ポリエステル系樹脂を含有する水性樹脂分散液から得られる皮膜が、ヒートシール性と水に対する耐久性を両立ことができる水性樹脂分散液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
なお、本明細書において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意を有する。
更に、「X及び/又はY(X,Yは任意の構成)」とは、X及びYの少なくとも一方を意味し、Xのみ、Yのみ、X及びY、の3通りを意味する。
【0015】
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液は、分散質(A)及び非イオン性分散剤(B)を含有し、更に分散媒(C)を含有する水系の樹脂分散液である。
かかる水性樹脂分散液は、本発明の実施形態の一例に係る分散質(A)を用いて、転相乳化法等の公知の製造方法によって得られるものである。
【0016】
〔分散質(A)〕
分散質(A)は、後述する脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を含有していれば特に限定されず、その他の樹脂や添加剤を含んでも良い。その他の樹脂とは、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、天然ゴム、オレフィン系樹脂等が挙げられる。
前記オレフィン系樹脂の例としては、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・酢酸ビニル・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル・無水マレイン酸共重合体等のエチレンとα,β-不飽和カルボン酸との2元又は3元ランダム共重合体や、ポリエチレン、エチレンとプロピレン等のαオレフィンとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等に(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等をグラフト共重合させたもの等が挙げられる。
前記添加剤とは、例えば、可塑剤やワックス等が挙げられる。
【0017】
前記分散質(A)中の脂肪族ポリエステル系樹脂(a)の割合は特に限定されないが、10質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。
【0018】
分散質(A)のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、15g/10min未満であり、好ましくは10g/10min以下、より好ましくは6g/10min以下であり、また、下限は通常0.1g/10min以上であり、好ましくは1g/10min以上、より好ましくは2g/10min以上、更に好ましくは3g/10min以上である。MFRを上記の範囲内とすることで本発明の効果が得られる。
【0019】
分散質(A)の融点は、特に制限されないが、例えば、110℃以下が好ましく、より好ましくは108℃以下、更により好ましくは105℃以下である。かかる融点が前記範囲内であると、分散媒と混合する転相乳化工程において、水性樹脂分散液の製造が容易になる傾向があり、また、得られる水性樹脂分散液の安定性が高くなる傾向がある。なお、前記融点の下限値は特に制限されないが、例えば、70℃程度である。
【0020】
〔脂肪族ポリエステル系樹脂(a)〕
脂肪族ポリエステル系樹脂(a)(以下、「(a)成分」と称することがある。)は、脂肪族構造(脂環構造を含む)のモル比率が、分散質(A)を構成する全ポリエステル樹脂に対して、最大の比率であれば特に限定されず、例えば、脂肪族構造以外に、部分的に芳香族構造を有する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂であってもよい。
この(a)成分の具体例としては、例えば、脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a1)(以下、「(a1)成分」と称することがある。);脂肪族オキシカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a2)(以下、「(a2)成分」と称することがある。);脂肪族ジオール単位、脂肪族ジカルボン酸単位、及び芳香族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(a3)(以下、「(a3)成分」と称することがある。);及びそれらの混合物が挙げられる。これらのなかでも、脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a1)が好ましい。
【0021】
ここで、「単位」とは、脂肪族ポリエステル系樹脂の製造に用いた単量体成分に由来して脂肪族ポリエステル系樹脂中に含まれる構成単位を意味し、「主たる構成単位」とは、対象とする単量体成分に由来する構成単位を、脂肪族ポリエステル系樹脂の全構成単位中に50モル%以上含むことを意味する。この対象とする単量体に由来する構成単位の含有量は、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80~100モル%である。例えば、脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸成分とを、脂肪族ポリエステル系樹脂の重合反応に用いる全単量体成分中に50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80~100モル%含む原料を重合反応して製造されたものであることが好ましい。
【0022】
(a)成分のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、0.1g/10min以上がよく、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上であり、また、1,000g/10min以下がよく、好ましくは500g/10min以下、より好ましくは100g/10min以下、更に好ましくは50g/10min以下、殊に好ましくは10g/10min以下である。(a)成分のMFRを上記の範囲内とすることにより、十分なヒートシール強度が得られるという特徴を発揮することができる。
【0023】
[脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a1)]
前記の(a1)成分は、例えば、下記式(1)で表される脂肪族ジオール単位及び下記式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂である。
【0024】
-O-R11-O-(1)
[式(1)中、R11は、鎖中に酸素原子を有していてもよい2価の鎖状脂肪族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0025】
-OC-R21-CO-(2)
[式(2)中、R21は、直接結合を示すか、2価の鎖状脂肪族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0026】
前記の式(1)のジオール単位を与える脂肪族ジオールとしては、特に限定されないが、例えば、炭素数2~10の脂肪族ジオールが好ましく、より好ましくは炭素数4~6の脂肪族ジオールである。具体的には、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。なかでも、1,4-ブタンジオールが好ましい。前記脂肪族ジオールは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記の式(2)の脂肪族ジカルボン酸単位を与える脂肪族ジカルボン酸成分は、脂肪族ジカルボン酸或いはそのアルキルエステル等の脂肪族ジカルボン酸誘導体であり、その脂肪族ジカルボン酸としては、特に限定されないが、例えば、炭素数2~40の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、より好ましくは炭素数4~10の脂肪族ジカルボン酸である。具体的には、例えば、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。なかでも、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸が好ましく、コハク酸とアジピン酸がより好ましく、コハク酸が特に好ましい。前記の脂肪族ジカルボン酸成分は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
前記の(a1)成分の具体例としては、例えば、1,4-ブタンジオールとコハク酸を含む脂肪族ポリエステル系樹脂、1,4-ブタンジオール、アジピン酸、及びコハク酸を含む脂肪族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。より具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等が好ましい。
【0029】
脂肪族ジカルボン酸がコハク酸である場合、脂肪族ポリエステル系樹脂の全ジカルボン酸単位中のコハク酸由来の構成単位の割合は、通常50~100モル%、好ましくは80~100モル%、より好ましくは90~100モル%である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール性を得ることができるという特徴を発揮することができる。
【0030】
また、脂肪族ジカルボン酸がコハク酸とアジピン酸である場合、脂肪族ポリエステル系樹脂の全ジカルボン酸単位中のコハク酸由来の構成単位の割合は、通常50~95モル%、好ましくは60~93モル%、より好ましくは70~90モル%であり、全ジカルボン酸単位中のアジピン酸由来の構成単位の割合は、通常5~50モル%、好ましくは7~40モル%、より好ましくは10~30モル%である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール性を得ることができるという特徴を発揮することができる。
【0031】
前記の(a1)成分は、以下の物性を有するものが好ましい。
(a1)成分の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは20,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、更に好ましくは400,000以下である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール性を得ることができるという特徴を発揮することができる。
なお、前記重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0032】
(a1)成分のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、0.1g/10min以上がよく、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上であり、また、1,000g/10min以下がよく、好ましくは500g/10min以下、より好ましくは100g/10min以下、更に好ましくは50g/10min以下、殊に好ましくは10g/10min以下である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール性を得ることができるという特徴を発揮することができる。
【0033】
(a1)成分の融点は、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下である。融点が複数存在する場合には、少なくとも1つの融点が前記範囲内にあることが好ましい。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール性(塗膜塗膜の透明性、低温でのヒートシール強度)を得られるという特徴を発揮することができる。
【0034】
ところで、本発明で用いる脂肪族ポリエステル系樹脂(a)の物性は、特段の記載がない場合、[脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a1)]の項に記載された前記物性と同様である。
【0035】
[脂肪族オキシカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a2)]
前記の(a2)成分の脂肪族オキシカルボン酸単位を与える脂肪族オキシカルボン酸成分の具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシカプロン酸、6-ヒドロキシカプロン酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-ヒドロキシイソカプロン酸、3-ヒドロキシ吉草酸、リンゴ酸、クエン酸等、又はこれらの低級アルキルエステル若しくは分子内エステル等が挙げられる。また、ε-カプロラクトン等のラクトン化合物も本発明において脂肪族オキシカルボン酸に包含される。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体又はラセミ体のいずれでもよく、形態としては固体、液体又は水溶液であってもよい。これらのなかでも、乳酸、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、6-ヒドロキシカプロン酸、3-ヒドロキシ吉草酸が好ましい。これら脂肪族オキシカルボン酸は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
(a2)成分の具体例としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3-ヒドロキシブチレート、ポリ4-ヒドロキシブチレート、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレエート)、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0037】
ポリ乳酸に含まれる乳酸の構成としては、モル比で、D-乳酸:L-乳酸=100:0~85:15、又は、0:100~15:85であることが好ましい。また、D-乳酸とL-乳酸との構成割合が異なった他のポリ乳酸をブレンドすることも可能である。D-乳酸のみ、又は、L-乳酸のみを構成単位とするポリ乳酸は結晶性樹脂となり、融点が高く、耐熱性、機械的物性に優れる傾向にある。
【0038】
更には、ポリ乳酸は、前述のポリ乳酸と、他のオキシカルボン酸との共重合体であってもよく、また少量の鎖延長剤に由来する単位を含んでいてもよい。他のオキシカルボン酸としては、乳酸の光学異性体(L-乳酸に対してはD-乳酸、D-乳酸に対してはL-乳酸)、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-n-酪酸、2-ヒドロキシ-3,3-ジメチル酪酸、2-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、2-メチル乳酸、2-ヒドロキシカプロン酸等の2官能脂肪族オキシカルボン酸類、及びカプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類が挙げられる。このような他のオキシカルボン酸に由来する単位は、ポリ乳酸の全構成単位中15モル%未満で使用するのが、ヒートシール強度の観点から好ましい。
【0039】
(a2)成分の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは60,000以上、より好ましくは80,000以上、特に好ましくは100,000以上であり、また、好ましくは700,000以下、より好ましくは400,000以下、特に好ましくは300,000以下である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール強度が得られるという特徴を発揮することができる。
なお、前記重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0040】
(a2)成分のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、0.1g/10min以上がよく、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上であり、また、1,000g/10min以下がよく、好ましくは500g/10min以下、より好ましくは100g/10min以下、更に好ましくは50g/10min以下、殊に好ましくは10g/10min以下である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール強度が得られるという特徴を発揮することができる。
【0041】
[脂肪族ジオール単位、脂肪族ジカルボン酸単位、及び芳香族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂(a3)]
前記の(a3)成分は、例えば、前記式(1)で表される脂肪族ジオ-ル単位、前記式(2)で表される脂肪族ジカルボン酸単位、及び、下記式(3)で表される芳香族ジカルボン酸単位を必須成分とするものである。更に前述のオキシカルボン酸単位を有していてもよい。
【0042】
-OC-R31-CO-(3)
[式(3)中、R31は2価の芳香族炭化水素基を示し、共重合されている場合には1種に限定されない。]
【0043】
式(1)のジオール単位を与える脂肪族ジオール及び式(2)の脂肪族ジカルボン酸単位を与える脂肪族ジカルボン酸成分については、前記[脂肪族ジオール単位と脂肪族ジカルボン酸単位を主たる構成単位として有する脂肪族ポリエステル系樹脂(a1)]の説明で例示したものと同様であり、好ましいものも同様である。
【0044】
式(3)の芳香族ジカルボン酸単位を与える芳香族ジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等が挙げられる。これらは酸無水物であってもよい。また、芳香族ジカルボン酸の誘導体として、これらの芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステル等が挙げられる。これらのなかでも、テレフタル酸、イソフタル酸、又はそれらの低級アルキル(例えば、炭素数1~4のアルキル)エステル誘導体が好ましい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。特にテレフタル酸及び/又はテレフタル酸のメチルエステルか、テレフタル酸及び/又はテレフタル酸のメチルエステルとイソフタル酸及び/又はイソフタル酸のメチルエステルとを含有する混合物が好ましい。
【0045】
脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリブチレンアルキレートテレフタレートが好ましく、ポリブチレンアジペートテレフタレート又はポリブチレンサクシネートテレフタレートがより好ましく、ポリブチレンアジペートテレフタレートが特に好ましい。
【0046】
(a3)成分のメルトフローレート(MFR)は、190℃、2.16kgで測定した場合、0.1g/10min以上がよく、好ましくは0.5g/10min以上、より好ましくは1g/10min以上であり、また、1,000g/10min以下がよく、好ましくは500g/10min以下、より好ましくは100g/10min以下、更に好ましくは50g/10min以下、殊に好ましくは10g/10min以下である。この範囲内とすることにより、十分なヒートシール強度が得られるという特徴を発揮することができる。
【0047】
本発明において、脂肪族ポリエステル系樹脂(a)は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ジオール単位やジカルボン酸単位の異なる脂肪族ポリエステル系樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
(A)成分の含有量は、特に制限されないが、水性樹脂分散液全量に対して、15質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、更により好ましくは30質量%以上である。また、75質量%以下が好ましく、より好ましくは65質量%以下、更により好ましくは60質量%以下である。かかる含有量が下限以上であると、ヒートシール強度に優れ、上限以下であると水性樹脂分散液の保存安定性に優れるという効果がある。
【0049】
〔非イオン性分散剤(B)〕
非イオン性分散剤(B)としては、通常用いられる公知一般の非イオン性の分散剤を用いることができる。例えば、非イオン性の水溶性高分子、非イオン性の界面活性剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
前記の非イオン性の水溶性高分子としては、以下に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」と称することがある。)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アミノメチルヒドロキシプロピルセルロース、アミノエチルヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体類、デンプン、トラガント、ペクチン、グルー、アルギン酸又はその塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸又はその塩、ポリメタアクリル酸又はその塩、ポリアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、酢酸ビニルとマレイン酸、無水マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等の不飽和酸との共重合体、スチレンと前記不飽和酸との共重合体、ビニルエーテルと前記不飽和酸との共重合体及び前記共重合体の塩類等が挙げられる。
【0051】
前記の非イオン性の界面活性剤としては、例えば、ノニオン界面活性剤が挙げられる。具体的には、以下に制限されないが、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルノニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアミノエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル等が挙げられる。
これらのなかでも、水性樹脂分散液の安定性を高める観点から、PVA系樹脂が好適に用いられる。
【0052】
[ポリビニルアルコール系樹脂]
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂)としては、未変性ポリビニルアルコール樹脂(以下、「未変性PVA樹脂」と称することがある。)、変性ポリビニルアルコール樹脂(以下、「変性PVA系樹脂」と称することがある。)が挙げられる。
【0053】
前記未変性PVA樹脂は、ビニルエステル系化合物を重合して得られるビニルエステル系重合体を下記の平均ケン化度の範囲内にケン化することにより製造することができる。
かかるビニルエステル系化合物としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、バーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられるが、酢酸ビニルが好ましい。前記ビニルエステル系化合物は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記変性PVA系樹脂は、前記ビニルエステル系化合物と、ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体とを共重合させた後、ケン化することにより製造することができる。
前記ビニルエステル系化合物と共重合可能な不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物等の誘導体;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル;ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。
【0055】
また、変性PVA系樹脂として、側鎖に一級水酸基を有するPVA系樹脂が挙げられる。側鎖の一級水酸基の数は、通常1~5個、好ましくは1~2個、特に好ましくは1個であるものが挙げられる。更には、変性PVA系樹脂として、一級水酸基とさらに二級水酸基を有するPVA系樹脂が好ましい。かかる変性PVA系樹脂としては、例えば、側鎖にヒドロキシアルキル基を有するPVA系樹脂、側鎖に1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂等が挙げられる。
【0056】
PVA系樹脂の平均ケン化度は、70モル%~100モル%であることが好ましく、より好ましくは75~99モル%、更により好ましくは75~95モル%、特に好ましくは75~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水性樹脂分散液を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0057】
特に、PVA系樹脂として、未変性PVA樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、70モル%~100モル%であることが好ましく、より好ましくは75~95モル%、更により好ましくは75~90モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水性樹脂分散液を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0058】
また、PVA系樹脂として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、その平均ケン化度は、70モル%~100モル%であることが好ましく、より好ましくは75~99モル%、更により好ましくは75~95モル%である。かかる平均ケン化度が小さすぎると、水性樹脂分散液を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
前記の平均ケン化度は、JIS K 6726 3.5に準拠して測定される。
【0059】
また、PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度(以下、単に「粘度」と称することがある。)は2~70mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5~60mPa・s、更により好ましくは20~55mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水性樹脂分散液の安定性が低下する傾向がある。
【0060】
PVA系樹脂として、未変性PVA樹脂を用いる場合には、未変性PVA樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、2~70mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5~60mPa・s、更により好ましくは20~55mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水性樹脂分散液の安定性が低下する傾向がある。
【0061】
また、PVA系樹脂として、変性PVA系樹脂を用いる場合には、変性PVA系樹脂の20℃における4質量%水溶液粘度は、5~50mPa・sであることが好ましく、より好ましくは10~40mPa・s、更により好ましくは15~30mPa・sである。かかる粘度が小さすぎると、水性樹脂分散液の安定性が低下する傾向がある。
なお、前記4質量%水溶液粘度(粘度)は、JIS K 6726 3.11.2に準じて測定される。
【0062】
PVA系樹脂の平均重合度としては、50~5,000であることが好ましく、より好ましくは150~4,000であり、更により好ましくは300~3,000であり、殊に好ましくは1,000~3,000である。この範囲内とすることにより、水に対する十分な耐久性が得られるという特徴を発揮することができる。
なお、平均重合度は、JIS K 6726に記載の平均重合度の算出方法にしたがって求めることができる。
【0063】
本発明において、前記PVA系樹脂はそれぞれ単独で用いることができ、また未変性PVA樹脂同士を併用すること、変性PVA系樹脂同士を併用すること、未変性PVA樹脂と変性PVA系樹脂を併用すること、更に、平均ケン化度、粘度、変性種、変性量等が異なる2種以上を併用すること等もできる。
【0064】
非イオン性分散剤(B)の含有量は、前記分散質(A)100質量部に対して、3質量部以上、10質量部未満である。好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上である。また上限は好ましくは9質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下である。かかる含有量が上記の範囲内であると本発明の効果が得られる。
【0065】
また、非イオン性分散剤(B)成分の含有量は、水性樹脂分散液全量に対する含有量は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、更により好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上である。また、20質量%以下が好ましく、より好ましくは15質量%以下、更により好ましくは12質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。かかる範囲より低すぎると、水性樹脂分散液の安定性が低下する傾向がある。またかかる範囲より高すぎると、水性樹脂分散液を用いて得られるフィルムの耐水性が低下する傾向がある。
【0066】
〔分散媒(C)〕
分散媒(C)は、通常、水性樹脂分散液の安定性に影響を与えない物質・濃度範囲においては、水溶性成分ならば特に限定されず、それらを含む水溶液なら何でもよく、水のみ、多糖類水溶液、セルロース水溶液等が挙げられ、少量ならば水溶性の有機溶媒を併用してもよい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらのなかでも分散媒としては水が最も好ましい。
【0067】
(C)成分の含有量は、特に制限されないが、水性樹脂分散液全量に対して、25質量%以上が好ましく、より好ましくは35質量%以上、更により好ましくは40質量%以上である。また、84質量%以下が好ましく、より好ましくは80質量%以下、更により好ましくは70質量%以下である。かかる含有量が下限以上であると、水性樹脂分散液の保存安定性に優れ、上限以下であるとヒートシール強度に優れるという効果がある。
【0068】
また、水と有機溶媒を併用した分散媒とする場合、当該分散媒全量に対する水の含有割合は60質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上、更により好ましくは90質量%以上である。これらのなかでも、水のみを分散媒するのが最も好ましい。
【0069】
〔その他の成分〕
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液には、前記各成分以外に、その他の成分として、水性樹脂分散液に常用されている成分を、本発明の効果を損なわない範囲(例えば、10質量%以下)で含有させることができる。かかる成分としては、特に制限されないが、例えば、可塑剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤、熱可塑性樹脂、各種安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、防錆剤、硬化剤、充填剤、増粘剤等が挙げられる。また、前記分散媒として、多糖類水溶液、セルロース水溶液等の溶質を含む分散媒があげられているが、分散媒として、溶質を含む分散媒を用いる場合は、当該溶質は、その他の成分として扱われる。
【0070】
〔水性樹脂分散液の製造方法〕
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液の製造方法は、転相乳化法、高圧乳化法、溶媒置換法等の当該分野において公知の製造方法を採用することができる。例えば、転送乳化法は、分散質(A)を溶融混練する工程と、溶融混練された前記組成物に対して、非イオン性分散剤(B)、及び分散媒(C)とを添加して混合する転相乳化工程により製造される方法である。また、高圧乳化法は、分散質(A)、非イオン性分散剤(B)、分散媒(C)を仕込み、加熱撹拌しながら加圧して分散させる方法である。さらに、溶媒置換法は、有機溶剤に溶解させた分散質(A)、非イオン性分散剤(B)、および分散媒(C)を添加撹拌して分散させた後に、有機溶剤を除去する方法である。
【0071】
具体的には、混練機に、分散質(A)を投入し、任意に溶剤等を投入し、加熱条件下において溶融混練し、これにPVA系樹脂等の非イオン性分散剤(B)、水等の分散媒(C)を投入し、これらの成分を混合・転相乳化する。
【0072】
前記溶融混練の加熱温度は、通常、40~250℃、好ましくは60~200℃、より好ましくは60~160℃、更により好ましくは80~150℃で行う。加熱時間は、通常、10~1,800秒間、好ましくは10~600秒間、より好ましくは20~180秒間である。
【0073】
押出機を用いて製造する場合は、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を含む分散質(A)を押出機のホッパー又は、別系統の供給口より連続的に供給して加熱条件下において溶融混練し、PVA系樹脂等の非イオン性分散剤(B)及び水等の分散媒(C)を押出機に設けられた他の供給口より添加し、混錬分散して転相乳化した後、ダイから連続的に押出すことにより、本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液を得ることができる。
【0074】
〔水性樹脂分散液〕
前記のようにして得られた本実施形態の水性樹脂分散液は、水系の樹脂分散液である。かかる水性樹脂分散液とは、粒子状物質が水系溶媒中で分散したものであり、具体的には、分散質が実質的に溶解しない若しくは分散質の溶解度が著しく低い水及び/又は有機溶媒等の水性液体を分散媒(即ち、連続相)とする分散系である。本実施形態の水性樹脂分散液においては、脂肪族ポリエステル系樹脂(a)を分散質であり、これらが水系溶媒中に分散したものである。
【0075】
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液における分散質の分散粒子径は、10μm以下がよく、5μm以下が好ましく、より好ましくは3μm以下、更により好ましく2.5μm以下である。また、下限値は通常0.01μm程度がよい。この範囲内とすることにより、水性樹脂分散液の保存安定性に優れるという特徴を発揮することができる。
なお、当該分散粒子径は、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当するメジアン径(d50)であり、例えば、レーザー回折粒子径測定装置(例えば、品番SALD-2200、島津製作所社製)で測定することができる。
【0076】
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液は、更に生分解性を向上させる観点から、脂肪族ポリエステル系樹脂(a)、非イオン性分散剤(B)として生分解性を有する成分を用いるのが好ましく、なかでも、非イオン性分散剤(B)としてPVA系樹脂を用いることがより好ましい。
【0077】
〔用途〕
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液は、以下に制限されないが、公知の成形方法により得られる、前記水性樹脂分散液を用いて成形された成形体(フィルム等)の形態として用いることができる。
また、本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液は、例えば、接着剤、粘着剤、これらの改質剤、コーティング剤、ヒートシール剤、塗料、塗料用プライマー、インク、バインダー等として、紙、フィルム、シート、構造材料、建築材料、自動車部品、電気・電子製品、包装材料、衣料、医薬品、化粧料(シャンプー、リンス、乳液、ローション、香水等)、農業用組成物(農薬乳剤等)、健康食品、食品等に使用することができる。なかでも、本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液を含有する化粧料、農業用組成物、塗料、インク、又は接着剤が好適である。
また、本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液は、ヒートシール性や造膜性等に優れる観点から、被コーティング物(コーティングの対象物)のコーティング剤として好適に用いられる。前記水性樹脂分散液を含有するコーティング剤の当該ヒートシール性及び造膜性は、例えば、後記の実施例に記載の方法により評価することができる。
【0078】
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液によりコーティングされる被コーティング物は、特に制限されないが、例えば、紙基材やプラスチック基材が好ましい。
前記紙基材としては、感熱記録紙、離型紙、剥離紙、インクジェット紙、カーボン紙、ノンカーボン紙、紙コップ用原紙、耐油紙、マニラボール、白ボール、ライナー等の板紙、一般上質紙、中質紙、グラビア用紙等の印刷用紙、上・中・下級紙、新聞用紙等が挙げられる。例えば、紙基材からなる層と、前記紙基材にコーティングされてなる水性樹脂分散液からなる層とを含む積層体も好適である。
【0079】
また、前記プラスチック基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂〔二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無軸延伸ポリプロピレン(CPP)〕、ナイロン樹脂、各種生分解性樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂〔低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)〕等が挙げられる。例えば、プラスチック基材からなる層と、前記プラスチック基材にコーティングされてなる水性樹脂分散液からなる層とを含む積層体も好適である。
【0080】
本発明の実施形態の一例に係る水性樹脂分散液を用いたコーティング方法としては、特に制限されないが、例えば、ロールコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ノズルコーティング法、ダイコーティング法、スプレーコーティング法、スピンコーティング法、カーテンコーティング法、フローコーティング法等が挙げられる。
【実施例0081】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、「部」、「%」とあるのは、質量基準を意味する。
【0082】
分散質(A)、非イオン性分散剤(B)として、以下のものを用意した。
<(A)成分>
・分散質(A-1):ポリブチレンサクシネートアジペート(a1)〔PTT MCC Biochem社製の「BiOPBS(FD92)」、メルトフローレート(MFR)4g/10min(190℃、2.16kg)、融点86℃〕
・分散質(A’-1):ポリブチレンサクシネートアジペート(分散質A-1)、混基二塩基酸エステル(大八化学工業社製「DAIFATTY―101」)を80:20の質量割合で二軸押出機により、140℃条件下で溶融混錬した分散質(当該樹脂のメルトフローレート(MFR)30g/10min(190℃、2.16kg)、融点86℃)〕
・分散質(A’-2):ポリブチレンサクシネートアジペート(分散質A-1)、混基二塩基酸エステル(大八化学工業社製「DAIFATTY―101」)を88:12の質量割合で二軸押出機により、140℃条件下で溶融混錬した分散質(当該樹脂のメルトフローレート(MFR)15g/10min(190℃、2.16kg)、融点86℃〕
【0083】
<(B)成分>
・(b1)PVA系樹脂〔未変性PVA樹脂、平均重合度2000、ケン化度78.5~81.5%、20℃における4質量%粘度44.0~52.0mPa・s〕
・(b2)PVA系樹脂〔未変性PVA樹脂、平均重合度1400、ケン化度86.5~89.0%、20℃における4質量%粘度20.5~24.5mPa・s〕
・(b3)PVA系樹脂〔未変性PVA樹脂、平均重合度500、ケン化度86.5~89.0%、20℃における4質量%粘度4.8~5.8mPa・s〕
・(b4)PVA系樹脂〔未変性PVA樹脂、平均重合度1700、ケン化度86.5~89.0%、20℃における4質量%粘度20.5~24.5mPa・s〕
【0084】
[実施例1、2]
分散質Aを二軸押出機〔日本製鋼所社製、TEX30HSS〕のホッパーより連続的に供給し、加熱温度(シリンダー温度)120℃~220℃の条件で溶融した。次に同押出機に設けられた供給口より、分散剤としてPVA系樹脂(b1)及び分散媒として水を連続的に供給しながら、加熱温度(シリンダー温度)90~105℃の条件下にて連続的に押出し(スクリュー回転数:300rpm)、後記表1に記載の質量比からなる水性樹脂分散液を得た。
当該水性樹脂分散液における分散粒子径(メジアン径)を、レーザー回折粒子径測定装置(SALD-2200、島津製作所製)にて測定したところ、2.3μmであった。
【0085】
[比較例1~5]
実施例1に変えて、表1に示す通りの組成で水性樹脂分散液を作製した。
【0086】
前記実施例1、比較例1~4の水分散体について、下記に示す評価を実施した。コーティング層のヒートシール性、コブ吸水度の評価を行った。その結果を後記表1に示す。
【0087】
[ヒートシール性試験]
得られた水性樹脂分散液を坪量50g/mの片艶晒クラフト紙上にバーコーダーで7g/m塗布し、100℃で20秒間乾燥した。得られた塗工紙を長さ15cm、幅15mmの短冊状に切り出し、塗工面同士を重ね合わせ、150℃、1.3kg/cmの圧力、1秒間の条件にてヒートシールを行って試験片(コーティング紙)を得た。この試験片を使用し、引張試験機(ミネベアミツミ社製、PT-200N)を用いて、引張速度200mm/minの条件にて180°剥離試験を行い、以下の基準にて評価した。
(評価基準)
〇・・・3.8N/15mm以上
△・・・2.8N/15mm以上、3.8N/15mm未満
×・・・2.8N/15mm未満
【0088】
[水への耐久性(コブ吸水度)]
得られた水性樹脂分散液を坪量50g/mの片艶晒クラフト紙上にバーコーダーで塗布し、100℃で20秒間乾燥した。得られた塗工紙を13cm×13cmの正方形に切り出し、試験片(コーティング紙)を得た。この試験片を塗工面を上にして、ガーレー式コブサイズ度試験機(テスター産業社製、PU-1004)にセットし、シリンダ内に100mlの水を注いだ。120秒後にシリンダ内の水を捨て、素早く試験片を取り出した。乾燥した吸取紙を試験片の上に載せ、10kgの金属ローラを圧力を加えずに2回(1往復)転がし、余分な水分を除去した。ただちに試験片の濡れた面を内側に折り、質量を測定した。吸水度は下記の計算式より算出した。
A=(m2-m1)/F
A:吸水度(g/m
m1:試験片の乾燥質量(試験前)、m2:試験片の湿潤質量(試験後)
F:10000/S、S:試験面積(cm
(評価基準)
〇・・・20g/m未満
△・・・25g/m未満、20g/m以上
×・・・25g/m以上
【0089】
【表1】
【0090】
表1に示すとおり、本発明の水性樹脂分散液を用いた実施例1及び2は、ヒートシール性、耐久性に優れるものであった。一方、分散質(A)のMFRが高すぎる比較例1、3は、ヒートシール性及び耐久性に劣るものであった。また、分散質(A)のMFRが範囲より高く、かつ、非イオン性分散剤(B)の使用量が過ぎる比較例2は、ヒートシール性及び耐久性に劣るものであった。さらに、分散質(A)のMFRが範囲より高い比較例4は、ヒートシール性は良好だったものの、耐久性に劣るものであった。さらにまた、非イオン性分散剤(B)の使用量が範囲より多い比較例5は、耐久性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の水性樹脂分散液及びエマルジョン組成物は、特に、各種のコーティング剤として有用であり、例えば、紙基材のコーティング剤、プラスチック基材のコーティング剤等として有用である。