(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003317
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】医療用インプラント部材上の生体適合性保護コーティング及びそれを作製する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/30 20060101AFI20241226BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20241226BHJP
A61L 27/10 20060101ALI20241226BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20241226BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
A61L27/30
A61L27/04
A61L27/10
A61L27/16
A61L27/18
【審査請求】有
【請求項の数】29
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024074646
(22)【出願日】2024-05-02
(31)【優先権主張番号】63/522,270
(32)【優先日】2023-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】524168828
【氏名又は名称】新亞精密材料股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】INNOJET TECHNOLOGY CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 任賢
(72)【発明者】
【氏名】唐 偉程
(72)【発明者】
【氏名】蔡 宇硯
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB05
4C081AC03
4C081BB08
4C081BC01
4C081CA021
4C081CA041
4C081CA131
4C081CA151
4C081CA211
4C081CF111
4C081CF121
4C081CF131
4C081CF141
4C081CF151
4C081CF21
4C081CG02
4C081CG03
4C081CG05
4C081CG06
4C081CG08
4C081DA01
4C081DC03
4C081EA06
4C081EA11
4C081EA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規で費用効率が高い医療用インプラント及びそれを作製する方法を提供する。
【解決手段】(a)生体適合性基材と、(b)該基材の上方又は該基材上にある生体適合性保護コーティング層(BPCL)とを含む、医療用インプラント部材であって、前記生体適合性基材が、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金から成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製され、該生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、1.5%未満の多孔性を有する、医療用インプラント部材である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生体適合性基材と
(b)該基材の上方又は該基材上にある生体適合性保護コーティング層(BPCL)と
を含む、医療用インプラント部材であって、該生体適合性基材が、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金から成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製され、
該生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、1.5%未満の多孔性を有する、
医療用インプラント部材。
【請求項2】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、金属窒化物、及びそれらの任意の組み合わせから成る群から選択される材料(1種又は複数)により形成される、請求項1に記載の医療用インプラント部材。
【請求項3】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、0.5μm~70μmの厚さを有する、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項4】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、800HV~1400HVの硬度(ビッカース硬度)を有する、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項5】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、0.25μm未満の表面粗さを有する、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項6】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)の材料の原子における化学量論変化が20%未満である、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項7】
前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)が、0.1μm~10μmの範囲のD50を有する粒子から形成される、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項8】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリケトン、(ハロゲン化)ポリアルキレン、及びポリウレタンから成る群から選択される、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項9】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエテン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、及びポリウレタン(PU)から成る群から選択される、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項10】
前記PEが、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である、請求項9に記載の医療用インプラント部材。
【請求項11】
前記生体適合性ポリマー材料が、少なくとも400HVの硬度(ビッカース硬度)又は少なくとも50のショアD(ショア硬度)を有する、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項12】
前記生体適合性の金属又は合金が、チタン(Ti)又はその合金、ジルコニウム(Zr)又はその合金、タンタル(Ta)又はその合金、ニオブ(Nb)又はその合金、ステンレス鋼、コバルト-クロム-モリブデン(Co-Cr-Mo)合金、及びTi-6Al-4V合金から成る群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の医療用インプラント部材。
【請求項13】
前記生体適合性セラミックが、以下の元素:ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、及びアルミニウム(Al)のうちのいずれかの、酸化物、炭化物、窒化物、又はニトロ-炭化物から成る群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の医療用インプラント部材。
【請求項14】
緩衝層をさらに含み、該緩衝層が前記生体適合性基材と前記生体適合性保護コーティング層(BPCL)との間に位置し、該緩衝層が以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物から作製される、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項15】
前記緩衝層が0.5μm~10μmの厚さを有する、請求項14に記載の医療用インプラント部材。
【請求項16】
前記緩衝層と前記基材との間の接着性が少なくとも18Mpaである、請求項14又は15に記載の医療用インプラント部材。
【請求項17】
人工関節、人工関節に付随するインサート、又は一時的な固定デバイスの一部又は全体である、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材。
【請求項18】
以下のステップ:
(i)生体適合性基材を成膜チャンバー内に提供するステップと;
(ii)該成膜チャンバー内の圧力を0.75Torr未満まで減少させるステップと;
(iii)エアロゾルデポジション(AD)により生体適合性保護コーティング層(BPCL)の材料を成膜させて該基材の上方又は該基材上に該生体適合性保護コーティング層(BPCL)を形成させるステップと
を含む、先行する請求項いずれかに記載の医療用インプラント部材を作製する方法。
【請求項19】
前記ステップ(ii)の後にステップ(ii’):
(ii’)以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物から成る群から選択される緩衝層材料を成膜させて前記基材上に緩衝層を形成させるステップ
をさらに含み、
前記ステップ(ii)がステップ(ii’):
(iii’)生体適合性保護コーティング層の材料をエアロゾルデポジション(AD)により成膜させて該緩衝層の上方又は該緩衝層上に該生体適合性保護コーティング層を形成させるステップ
である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記緩衝層の成膜が、AD、物理蒸着(PVD)、又は化学気相蒸着(CVD)により実現される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ADが、N2、O2、Ar、He、クリーンドライエア(CDA)、及びそれらの任意の組み合わせから成る群から選択されるキャリアガスにより行われる、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ADが、180~2400l/hrのキャリアガスの流量で行われる、請求項18から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
成膜中の前記基材の温度が5℃~50℃の範囲である、請求項18から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
材料粉末が0.5μm~10μmの範囲のD50を有する、請求項18から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記生体適合性基材が、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金から成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製される、請求項18から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリケトン、(ハロゲン化)ポリアルキレン、及びポリウレタンから成る群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記生体適合性ポリマー材料が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエテン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、及びポリウレタン(PU)から成る群から選択される、請求項18から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記PEが、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
生体適合性保護コーティング層(BPCL)及び場合により緩衝層を含むことを特徴とする、医療用インプラント部材であって、該生体適合性保護コーティング層(BPCL)が1.5%未満の多孔性を有する、医療用インプラント部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生体適合性保護コーティング層(BPCL)、好ましくは窒化ケイ素(SiNx)層を含む医療用インプラント部材、並びにBPCL及び医療用インプラント部材を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用インプラント部材は、医学的処置の間又は医療的処置の後に医師、外科医、登録専門看護師、及び患者に利益をもたらすために、様々な臨床用途及びヘルスケア用途で使用することができる。材料科学及び医学の発展のおかげで、手術又は医療用インプラントを必要とする患者の予後はますます良くなっている。例えば、人工関節は加齢に関連した状態又は疾患に苦しむ対象者又は患者の運動機能を改善することができ、対象者又は患者の身体部位の持続期間を引き延ばすことができる。
【0003】
医療用インプラントの性能を高めるために、その表面上にコーティングを施してもよい。しかし、既存のコーティング済み医療用インプラントは依然として、不十分な生体適合性、耐久性、又は強度などの、ある程度の欠陥又は欠点を示すことがある。さらに、コーティング済み医療用インプラントを調製するための既存の方法のコストは依然として高いことがあり、その方法の適用性は医療用インプラントの材料を考慮すると限定的となり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、新規で費用効率が高い医療用インプラント及びそれを調製する方法を開発することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって本開示は、
(a)生体適合性基材と
(b)基材の上方又は基材上にある生体適合性保護コーティング層(BPCL)と
を含む、医療用インプラント部材であって、生体適合性基材は、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金、及び生体適合性セラミックから成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製され、
生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、1.5%未満、好ましくは1%以下の多孔性を有する、医療用インプラント部材に関する。
【0006】
本開示はまた、以下のステップ:
(i)生体適合性基材を成膜チャンバー内に提供するステップと;
(ii)成膜チャンバー内の圧力を0.75Torr未満まで減少させるステップと;
(iii)生体適合性保護コーティング層の材料を成膜させて基材の上方又は基材上に生体適合性保護層を形成させるステップと
を含む、本明細書に記載の医療用インプラント部材を作製する方法にも関する。
【0007】
一態様において、本開示は、生体適合性基材と、基材上の緩衝層と、緩衝層上の生体適合性保護コーティング層とを含む、医療用インプラント部材であって、すなわち、緩衝層は生体適合性基材と生体適合性保護コーティング層との間に位置し、緩衝層は以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物から作製される、医療用インプラント部材を提供する。
【0008】
一態様において、本開示は、以下のステップ:
(i)生体適合性基材を成膜チャンバー内に提供するステップと;
(ii)成膜チャンバー内の圧力を0.75Torr未満まで減少させるステップと;
(ii’)以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物から成る群から選択される緩衝層材料を成膜させて基材上に緩衝層を形成させるステップと
(iii’)生体適合性保護コーティング層の材料を成膜させて緩衝層上に生体適合性保護コーティング層を形成させるステップと
を含む、本明細書に記載の医療用インプラント部材を作製する方法を提供する。
【0009】
一態様において、本開示は、人工関節、人工関節に付随するインサート、又は一時的な固定デバイスの一部又は全体としての医療用インプラント部材を提供する。
【0010】
一態様において、本開示は、生体適合性保護コーティング層(BPCL)及び場合により本明細書に記載の緩衝層を含むことを特徴とする、医療用インプラント部材を提供する。
【0011】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層は、0.5μm~70μm、好ましくは5~30μmの厚さを有する。
【0012】
任意の前述の実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、少なくとも800HV、好ましくは最大で900HV、より好ましくは最大で1200HV、最も好ましくは最大で1400HVの硬度(ビッカース硬度)を有する。
【0013】
任意の前述の実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、0.25μm未満、好ましくは0.2μm以下の表面粗さを有する。
【0014】
任意の前述の実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)の材料の原子における化学量論変化は20%未満である。
【0015】
任意の前述の実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、0.1μm~10μmの範囲、好ましくは0.5μm~3μmの範囲のD50を有する粒子から形成される。
【0016】
任意の前述の実施形態において、医療用インプラント部材と他の対応する医療用部材(パッド又はインサートなど)との間の動摩擦係数は、0.07~0.7、好ましくは0.08~0.65、より好ましくは0.1~0.55の範囲である。
【0017】
任意の前述の実施形態において、生体適合性ポリマー材料は、ポリテトラフルオロエテン(PTFE)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、ポリウレタン(PU)、及びポリ塩化ビニル(PVC)から成る群から選択される。
【0018】
任意の前述の実施形態において、PEは、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。
【0019】
任意の前述の実施形態において、生体適合性ポリマー材料は、少なくとも400HVの硬度(ビッカース硬度)、好ましくは最大で600HV、より好ましくは最大で1000HV;又は少なくとも50のショアD(ショア硬度)、好ましくは少なくとも55のショアD、より好ましくは少なくとも60のショアD、最も好ましくは少なくとも65のショアDを有する。
【0020】
任意の前述の実施形態において、生体適合性の金属又は合金は、チタン(Ti)又はその合金、ジルコニウム(Zr)又はその合金、タンタル(Ta)又はその合金、ニオブ(Nb)又はその合金、ステンレス鋼、コバルト-クロム-モリブデン(Co-Cr-Mo)合金、及びTi-6Al-4V合金から成る群から選択される。
【0021】
任意の前述の実施形態において、生体適合性セラミックは、以下の元素:ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、及びアルミニウム(Al)のうちのいずれかの、酸化物、炭化物、窒化物、又はニトロ-炭化物から成る群から選択される。
【0022】
任意の前述の実施形態において、緩衝層は0.5μm~10μm、好ましくは少なくとも1μmの厚さを有する。
【0023】
任意の前述の実施形態において、緩衝層と基材との間の接着性は少なくとも18Mpa、好ましくは少なくとも20MPa、より好ましくは少なくとも25MPa、最も好ましくは少なくとも30MPaである。接着性は、引っかき法、Rockwell C試験、又はASTM-C1624により測定されてもよい。
【0024】
任意の前述の実施形態において、緩衝層の成膜は、AD、物理蒸着(PVD)又は化学気相蒸着(CVD)により実現される。
【0025】
任意の前述の実施形態において、ADは、N2、O2、Ar、He、クリーンドライエア(CDA)、及びそれらの任意の組み合わせから成る群から選択されるキャリアガスにより行われる。
【0026】
任意の前述の実施形態において、ADは、180~2400l/hr、好ましくは300~1500l/hrのキャリアガスの流量で行われる。
【0027】
任意の前述の実施形態において、緩衝層及び/又は生体適合性保護コーティング層(BPCL)の成膜中の基材の温度は、5℃~50℃の範囲、例えば少なくとも15℃、好ましくは35℃以下である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、本発明の医療用インプラントを作製する方法の例示的なスキームを示す図である。
【0029】
【
図2】
図2は、例示物品(膝関節及びスクリュー)を示す図である。
【0030】
【
図3】
図3A~
図3Cは、医療用インプラントの微視的挙動及び特性を示す図である。
【0031】
【
図4】
図4A~
図4Dは、摩耗試験時の本発明の医療用インプラントの光学像又はSEM像を示す図である。
【0032】
【
図5】
図5A~
図5Cは、摩耗試験時の本発明のスクリューのSEM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書の開示の理解を容易にするために、本明細書で使用する用語をここで下記に定義する。
【0034】
明細書及び特許請求の範囲の文脈において、別途明確に示されない限り、単数形「a」、「an」、及び「the」は複数の指示対象を含む。別段の記載がない限り、本明細書において示されるありとあらゆる例又は例示的な言語(例えば、「など」)は、本発明の範囲を限定するのではなく、単に本発明をより良く例証するために使用される。
【0035】
この明細書において列挙される任意の数値範囲は、その範囲に包含されるあらゆる部分範囲を含むことを意図していると理解するべきである。例えば、「50~70℃」の範囲は、記載される最小値である50℃と記載される最大値である70℃との間でそれらを含めたあらゆる部分範囲及び具体的な値、例えば、58℃~67℃、及び53℃~62℃、60℃、又は68℃を含む。開示される数値範囲が連続であるので、それらは最小値と最大値の間の各々の数値を含む。別段の指定がない限り、この明細書に示される様々な数値範囲はおおよそのものである。
【0036】
本発明において、「約」という用語は、当業者により測定される所与の値の許容可能なずれを指し、部分的には、どのように測定するか又はどのように値を決定するかに依存する。
【0037】
本開示において、生体適合性保護コーティング層の材料としては、耐摩耗(anti-wear)/耐摩耗(anti-abrading)性を有するものが挙げられ、限定はされないが、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、金属窒化物、及びそれらの任意の組み合わせなどのセラミック、例えば、窒化ケイ素(例えば、SiNx、Si3N4)、酸化アルミニウム(例えば、Al2O3)、金属窒化物(例えば、TiN)が挙げられる。
【0038】
本開示において、「窒化ケイ素」という用語は、「SiNx」の式を有する材料を指し、式中、xは化学結合理論を考慮して妥当な範囲内にある数である。
【0039】
本開示において、「生体適合性の」又は「生体適合性」という用語は、悪影響、例えば(重度の)アレルギー反応、生体の細胞、組織、又は器官へのダメージなどを生じさせることなく、生体システムと接触させることが可能であることを意味する。
【0040】
本開示において、「多孔性」という用語は、材料の細孔空間のレベルを指す。
【0041】
本開示において、「動摩擦係数」という用語は、乾燥した非平滑面上を動く物体が受ける摩擦力対垂直抗力の比であり、これは例えば引っかき試験により測定されてもよい。
【0042】
本開示において、「エアロゾルデポジション」という用語は、エアロゾル粒子が固体表面上に集まるか、又は堆積し、空気中の粒子の濃度を減少させる成膜方法を指す。
【0043】
医療用インプラント部材
医療用インプラントは、金属若しくは合金(CoCrMo、Ti-6Al-4Vなど)、又はポリマー材料(PEEK、UHMWPEなど)を基材材料として含んでもよい。長期の使用において、材料の生化学的腐食及び/又は機械的摩耗、並びに応力遮蔽効果が、毒作用、アレルギー反応、周辺組織の変性などの悪影響をもたらすことがある。さらに、特定の基材材料の疎水性が予後に負の影響を与えることになる。
【0044】
これらの欠点を軽減するために、アルミナ(Al2O3)、Si3N4、窒化チタン(TiN)などの特定の材料は優れた機械的特性、化学的不活性、及び生体適合性を示すと考えられ、基材材料上の耐摩耗性層又はコーティングとして使用されてもよい。しかし、保護層が高い多孔性、弱い接着性、及び/又は大きい表面粗さを有する場合、これは容易に脱落することがあり、このようにして生じた粒子がインプラントの相手側部分のずれ又はより大きい摩耗を生じさせ得る。
【0045】
したがって、本開示において、医療用インプラント部材は、生体適合性基材と基材の上方又は基材上の生体適合性保護コーティング層(BPCL)とを含む。一態様において、医療用インプラント部材は、生体適合性基材と、基材上の緩衝層と、緩衝層上の生体適合性保護コーティング層(BPCL)とを含む。生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、低多孔性、高接着性、及び小さい表面粗さを有する。医療用インプラント部材の成分の詳細を下記で説明する。
【0046】
生体適合性基材
本開示において、当技術分野で既知の生体適合性基材は、例えば十分な機械的強度(硬度、ロバスト性など)、化学的不活性、生体適合性などの所望の特性を有するならば、使用することができる。例えば、生体適合性基材を作製するための材料は、少なくとも400HVの硬度(ビッカース硬度)又は少なくとも50のショアD(ショア硬度)を有してもよい。様々な実施形態において、生体適合性基材は、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金、及び生体適合性セラミックから成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製することができる。
【0047】
生体適合性ポリマー材料の例としては、限定はされないが、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などのポリケトン;ポリエチレン(PE)、ポリ(エチレン-プロピレン)、ポリテトラフルオロエテン(PTFE)、及びポリ塩化ビニル(PVC)などの(ハロゲン化)ポリアルキレン;ポリウレタンなどが挙げられる。様々な実施形態において、PEは、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。
【0048】
生体適合性の金属又は合金の例としては、限定はされないが、チタン(Ti)又はその合金、ジルコニウム(Zr)又はその合金、タンタル(Ta)又はその合金、ニオブ(Nb)又はその合金、ステンレス鋼、コバルト-クロム-モリブデン(Co-Cr-Mo)合金、及びTi-6Al-4V合金が挙げられる。
【0049】
生体適合性セラミックの例としては、限定はされないが、以下の元素:ケイ素(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、及びアルミニウム(Al)のうちのいずれかの、酸化物、炭化物、窒化物、又はニトロ-炭化物が挙げられる。
【0050】
一実施形態において、生体適合性基材は、0.3um未満;又は0.01umを超える表面粗さ(Ra)を有する。一実施形態において、生体適合性基材は、6*10-6~18*10-5の範囲の熱膨張の線形係数を有する。
【0051】
生体適合性保護コーティング層(BPCL)
本開示において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は基材上又は基材の上方(例えば、下記で説明される緩衝層が存在する場合)に位置する。医療用インプラントが例えば良好な耐久性、耐摩耗効果、低摩擦などのより優れた効果を示し得るように、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は1.5%未満、好ましくは1.3%未満、より好ましくは1%未満の多孔性を有するものとする。この層の低多孔性は、例えば本明細書に記載の医療用インプラントを作製する方法により実現されてもよい。
【0052】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、0.5μm~70μm、例えば少なくとも0.5μm、少なくとも1μm、少なくとも2μm、少なくとも3μm、少なくとも4μm、少なくとも5μm、少なくとも6μm、少なくとも7μm、少なくとも8μm、少なくとも9μm、少なくとも10μm、少なくとも11μm、少なくとも12μm、少なくとも13μm、少なくとも14μm、少なくとも15μm、少なくとも20μm、少なくとも25μm、少なくとも30μm、少なくとも35μm;又は最大で70μm、最大で65μm、最大で60μm、最大で55μm、最大で50μm、最大で45μm、最大で40μm;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば0.5μm~30μm、40μm~55μm、5μm~8μmなどの厚さを有する。
【0053】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、800HV~1400HV、例えば、少なくとも850HV、少なくとも900HV、少なくとも950HV、少なくとも1000HV、少なくとも1050HV、少なくとも1100HV;又は最大で1350HV、最大で1300HV、最大で1250HV、最大で1200HV、最大で1150HV、最大で1100HV;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば、900HV~1200HV、1150HV~1350HV、800HV~1000HVなどの硬度(ビッカース硬度)を有する。
【0054】
一実施形態において、生体適合性基材の材料の硬度と生体適合性保護コーティング層(BPCL)の材料の硬度との差は、900HV未満、例えば、800HV未満、700HV未満、600HV未満、500HV未満、400HV未満、300HV未満、200HV未満、100HV未満、50HV未満などであってもよい。
【0055】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、0.25μm未満、例えば0.2μm未満、0.15μm未満などの表面粗さを有する。理論に拘束はされないが、生体適合性保護コーティング層(BPCL)の表面粗さが小さい場合、医療用インプラントと接触部分との間の摩擦は低くなり得る。
【0056】
一実施形態において、医療用インプラント部材、特にBPCLと、他の対応する医療用部材(パッド又はインサートなど)との間の動摩擦係数は、0.08~0.7の範囲、例えば、0.7未満、0.65未満、0.6未満、0.55未満、0.5未満、0.45未満、0.4未満、0.3未満、0.2未満、0.1未満;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば0.1~0.65、0.1~0.55などである。
【0057】
生体適合性保護コーティング層(BPCL)の金属原子と非金属原子の平均モル比(すなわちAl/O、Si/N、Ti/N)は、化学結合理論を考慮して妥当な範囲内であってもよく、モル比は材料の完全な化学量論(例えば、アルミナでは約0.67、窒化ケイ素では約0.75、窒化チタンでは約1など)から20%以下の範囲でずれる。
【0058】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、0.1μm~10μmの範囲、例えば約0.2μm、約0.3μm、約0.4μm、約0.5μm、約0.6μm、約0.7μm、約0.8μm、約0.9μm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmである;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば0.5μm~3μm、0.8μm~5μmなどであるD50を有する粒子から形成される。
【0059】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、3*10-6℃-1~15*10-6℃-1の範囲の熱膨張の線形係数を有する。一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)と生体適合性基材との差は1.1*10-6~18*10-5の範囲である。
【0060】
一実施形態において、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は、少なくとも18MPa、例えば少なくとも19MPa、少なくとも20MPa、少なくとも21MPa、少なくとも22MPa、少なくとも23MPa、少なくとも24MPa、少なくとも25MPa、少なくとも26MPa、少なくとも27MPa、少なくとも28MPa;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば20MPa~28MPaなどの、生体適合性基材への接着性を有する。接着性は、引っかき試験、Rockwell C試験又はASTM-C1624により測定されてもよい。
【0061】
緩衝層
一態様において、医療用インプラント部材は、基材上且つ生体適合性基材と生体適合性保護コーティング層(BPCL)との間に位置する緩衝層をさらに含む。緩衝層は、生体適合性基材と生体適合性保護コーティング層(BPCL)との間の接着性を補助し得る。さらに、緩衝層によって、単純な生体適合性基材と比較して表面がより少ない粗さを示すことが可能となり得る。
【0062】
緩衝層を形成するための材料の例としては、限定はされないが、以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物が挙げられる。
【0063】
一実施形態において、緩衝層は、0.5μm~10μm、例えば少なくとも0.5μm、少なくとも0.75μm、少なくとも1μm、少なくとも1.5μm、少なくとも2μm、少なくとも2.5μm、少なくとも3μm、少なくとも3.5μm、少なくとも4μm、少なくとも4.5μm、少なくとも5μm;又は最大で10μm、最大で9.5μm、最大で9μm、最大で8.5μm、最大で8μm、最大で7.5μm、最大で7μm、最大で6.5μm、最大で6μm、最大で5.5μm、最大で5μm;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば1μm~1.5μm、7μm~7.5μm、2μm~6μmなどの厚さを有する。
【0064】
一実施形態において、緩衝層は、少なくとも18MPa、例えば、少なくとも19MPa、少なくとも20MPa、少なくとも21MPa、少なくとも22MPa、少なくとも23MPa、少なくとも24MPa、少なくとも25MPa、少なくとも26MPa、少なくとも27MPa、少なくとも28MPa;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば20MPa~28MPaなどの、生体適合性基材への接着性を有する。一実施形態において、緩衝層は、少なくとも18MPa、例えば少なくとも19MPa、少なくとも20MPa、少なくとも21MPa、少なくとも22MPa、少なくとも23MPa、少なくとも24MPa、少なくとも25MPa、少なくとも26MPa、少なくとも27MPa、少なくとも28MPa;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば20MPa~28MPaなどの、生体適合性保護コーティング層(BPCL)への接着性を有する。接着性は、引っかき試験、Rockwell C試験、又はASTM-C1624により測定されてもよい。
【0065】
医療用インプラント部材の用途
優れた特性(限定はされないが、良好な耐久性、良好な耐摩耗性、高い緻密性、粗さの少なさ、低多孔性、良好な生体適合性などが挙げられる)に起因して、医療用インプラント部材は様々な用途で使用できる。用途の例としては、限定はされないが、人工関節(例えば、膝関節置換、股関節置換、肩関節置換、橈骨手根関節置換;カップ、ヘッド、ステムなど)、人工関節に付随するインサート、又は一時的な固定デバイス(例えば、歯列矯正、手術などで使用される、例えば医療用ロッキングプレート)の一部又は全体が挙げられる。
【0066】
医療用インプラント部材を作製するための方法
医療用インプラント部材の基材上のコーティング又は層を作製するための従来の方法としては、プラズマスプレー、物理蒸着(PVD)、化学気相蒸着(CVD)、スプレー法(溶射又はコールドスプレー)、焼結法などが挙げられる。発明者らは、特定のセラミック材料を成膜して生体適合性保護コーティング層(BPCL)を形成させるためのエアロゾルデポジション(AD)を使用するとインプラントの寿命を延ばすのに有利となることを見出した。
【0067】
簡潔に言えば、AD法は本明細書に記載の医療用インプラント部材の作製において以下の利点を示し得る:(1)PVD/CVD法の成膜速度よりも成膜速度が速いこと、これは製造の効率を高める有益性がある;(2)生体適合性保護コーティング層(BPCL)を成膜する方法を実施するための温度が、PVD/CVD(例えば、300℃を超え最高で800℃にもなる)、溶射、又はコールドスプレー(およそ300℃)法における温度よりも著しく低くすることができること(例えば室温近く);(3)真空度の要件がPVD/CVD法を実施するための要件よりも制約を受けにくいこと;(4)この方法はPVD/CVD法と比較してより容易にスケールアップすることができること;(5)層の厚さを容易に調整でき、より厚くしてもよいこと;(6)成膜された層の接着性がPVD/CVD、溶射、又はコールドスプレー法により得られる層よりも著しく高いこと;(7)成膜された層の緻密さ及び適合性が溶射又はコールドスプレー法により得られる層よりも高くなり得ること;(8)成膜された層又はコーティングがニアネットシェイプとなり得ること、これはPVD/CVD、溶射、又はコールドスプレー法を使用する場合には難しいことがある;並びに(9)PVD/CVD、溶射、又はコールドスプレー法におけるよりもコストが著しく低くなり得ること。
【0068】
特に、コーティングはプラズマスプレー法により得てもよく、これは一般には表面処理において使用される;しかし、多孔性があまりにも高く、接着性が弱く表面粗さも大きい可能性がある。焼結コーティングは緻密であり滑らかな表面を有する:しかし、さらなる加工、成形、及び研磨は難しい場合がある;加工のパラメーターの変動を考慮すると、プロセスをスケールアップする際に半製品の損傷又は結晶相の不均一性などのさらなる問題が現れる可能性がある。PVD/CVD法は当技術分野において高度化されており、良好な特性を有するコーティングを提供し得る;しかし、コストが高く、成膜される層の限られた厚さ(例えば、最大でおよそ15μm)、高い加工温度などに起因する基材材料の劣化などの、固有の制約が存在する。さらに、PVD/CVD法により得られるコーティングの中程度の接着性はその摩耗を防ぐのに十分ではない場合があり、それによりコーティング層において粒子を生じさせる。
【0069】
発明者らは驚くことに、AD法が、医療用インプラント部材、特に生体適合性保護コーティング層(BPCL)の作製において有利であることを見出した。
【0070】
したがって本開示は、以下のステップ:
(i)生体適合性基材を成膜チャンバー内に提供するステップと;
(ii)成膜チャンバー内の圧力を0.75Torr未満まで減少させるステップと;
(iii)エアロゾルデポジション(AD)により生体適合性保護コーティング層の材料を成膜させて基材の上方又は基材上に生体適合性保護コーティング層(BPCL)を形成させるステップと
を含む、本明細書に記載の医療用インプラント部材を作製する方法にも関する。
【0071】
一態様において、本開示は、以下のステップ:
(i)生体適合性基材を成膜チャンバー内に提供するステップと;
(ii)成膜チャンバー内の圧力を0.75Torr未満まで減少させるステップと;
(ii’)以下の元素:ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、及びホウ素(B)のうちのいずれかの酸化物、窒化物、又は炭化物から成る群から選択される緩衝層材料を成膜させて基材上に緩衝層を形成させるステップと
(iii’)生体適合性保護コーティング層の材料をエアロゾルデポジション(AD)により成膜させて緩衝層上に生体適合性保護コーティング層(BPCL)を形成させるステップと
を含む、本明細書に記載の医療用インプラント部材を作製する方法に関する。
【0072】
生体適合性基材は本明細書に記載のものであってもよい。一実施形態において、生体適合性基材は、生体適合性ポリマー材料、生体適合性の金属又は合金、及び生体適合性セラミックから成る群から選択される材料(1種又は複数)から作製される。一実施形態において、生体適合性ポリマー材料は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレン(PE)、及びポリ塩化ビニル(PVC)から成る群から選択される。一実施形態において、PEは、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、又は超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。
【0073】
AD法は、既知の手段及び装置により行うことができる。AD法を行うための装置としては、エアロゾル生成ユニット(例えば、キャリアガス(複数可)の供給源、質量流量コントローラー(MFC)、エアロゾル生成チャンバーを含む)、成膜チャンバー(例えば、ノズル/ネブライザー、支持プレート又はステージなどを備える)、及び真空システム(例えばポンプ)を挙げることができる。
【0074】
AD法の様々なパラメーターを調整してもよい。パラメーターの例としては、限定はされないが、キャリアガス(複数可)の種類;流量;ノズルと基材支持体との距離;エアロゾル流の基材への入射角;成膜チャンバー内の真空度;エアロゾル流中の生体適合性保護コーティング層の材料(複数可)の濃度、粒径、種類;チャンバー内の温度;基材の温度などが挙げられる。
【0075】
キャリアガス(複数可)の例としては、限定はされないが、窒素(N2)、酸素(O2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、クリーンドライエア(CDA)、並びにそれらの任意の組み合わせ及び割合が挙げられる。キャリアガスの流量は、180~2400l/hr、例えば、約200l/hr、約250l/hr、約300l/hr、約350l/hr、約400l/hr、約450l/hr、約500l/hr、約550l/hr、約600l/hr、約650l/hr、約700l/hr、約750l/hr、約800l/hr、約850l/hr、約900l/hr、約950l/hr、約1000l/hr、約1100l/hr、約1200l/hr、約1300l/hr、約1400l/hr、約1500l/hr、約1600l/hr、約1700l/hr、約1800l/hr、約1900l/hr、約2000l/hr、約2100l/hr、約2200l/hr、約2300l/hr;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば500l/hr~650l/hr、300~1500l/hrなどであってもよい。
【0076】
AD法における温度(生体適合性基材の)は、5℃~50℃の範囲内、例えば15℃~45℃、好ましくは35℃以下で制御されてもよい。
【0077】
材料粉末は、0.5μm~10μmの範囲、例えば約0.2μm、約0.3μm、約0.4μm、約0.5μm、約0.6μm、約0.7μm、約0.8μm、約0.9μm、約1μm、約1.5μm、約2μm、約2.5μm、約3μm、約3.5μm、約4μm、約4.5μm、約5μm、約5.5μm、約6μm、約6.5μm、約7μm、約8μm、約9μm、約10μmであってよい;又は終点として上記の値により構成される任意の妥当な数値範囲、例えば0.5μm~3μm、0.8μm~5μmなどのD50を有してもよい。原料に前処理(複数可)、例えばミリング、ふるい分けなどを施して、AD法による成膜のための材料(複数可)を提供してもよい。
【0078】
緩衝層は、本明細書に記載のAD法、又は物理蒸着(PVD)若しくは化学気相蒸着(CVD)法により成膜されてもよい。PVD/CVD法の例としては、限定はされないが、スパッタリングPVD(DC又はRFスパッタによる)、レーザーアシストPVD(LA-PVD)、低圧CVD(LPCVD)、金属-有機CVD(MOCVD)、プラズマ増強CVD(PECVD)などが挙げられる。好ましくは、緩衝層はAD法により製造される。
【0079】
生体適合性保護コーティング層(BPCL)の成膜が完了したら、半製品に洗浄、成形などの後処理を施してもよい。
【実施例0080】
以下の実施例は、本発明が関連する当業者にとって本発明をより分かりやすくするために示されるが、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0081】
材料、方法、及び試験モデル
生体適合性保護層の材料としては、Sigma-Aldrich社より購入できる、Si3N4、Al2O3、TiN(純度4N)が挙げられる。CoCrMo合金はDePuy Synthes社より購入できる。
【0082】
材料は必要に応じてUPE-Celanese GUR@1020-Eによりさらに処理することができる。
【0083】
層の多孔性はHitachi S-4300 FE-SEMにより測定できる。厚さ及び粗さはKLA-D500により測定できる。接着性はHelmut-fisher接着性試験機ST30又はMitutoyo HR600(Rockwell C圧子)により評価できる。
【0084】
実施例1
CoCrMo合金を基材材料として使用し、洗浄して不純物を除去し、次いで乾燥させ、その後AD装置のチャンバー内の支持体上に置く。温度、真空度、及び他の必要なパラメーターを設定する。材料粉末(すなわちアルミナ、窒化ケイ素、窒化チタン)をエアロゾル生成ユニットに充填する。次いで、材料のAD成膜を開始する。生体適合性保護コーティング層(BPCL)の成膜が完了した後、真空を破壊し、半製品に対して後処理を行って例示用の医療用インプラント部材を得る。例示用の物品(膝関節、スクリュー)の写真を
図2に示した。
【0085】
実施例2
CoCrMo合金を基材材料として使用し、洗浄して不純物を除去し、次いで乾燥させ、その後AD装置のチャンバー内の支持体上に置く。温度、真空度、及び他の必要なパラメーターを設定する。この場合、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は窒化ケイ素により形成され、緩衝層を形成するための材料として窒化チタンを使用する。窒化チタン粉末を別のエアロゾル生成ユニットへ充填する。次いで、緩衝層材料のAD成膜を開始する。緩衝層の成膜が完了した後、窒化ケイ素のAD成膜を開始する。生体適合性保護コーティング層(BPCL)の成膜が完了した後、真空を破壊し、半製品に対して後処理を行って例示用の医療用インプラント部材を得る。
【0086】
実施例3(比較)
マグネトロンスパッタリングを使用してCoCrMo基材上に窒化ケイ素層を形成することにより、医療用インプラント部材を得る。
【0087】
実施例4(比較)
CoCrMo基材上への緩衝層としての窒化クロムのマグネトロンスパッタリング、及び緩衝層上への窒化ケイ素層のマグネトロンスパッタリングを使用することにより、医療用インプラント部材を得る。
【0088】
実施例5
実施例1~4に示される医療用インプラント部材の特性を表1に記載する。
【表1】
【0089】
実施例6
SEM技術に基づき、微視的挙動及び特性を調べた。
図3A~
図3Cは、実施例1に記載される医療用インプラント部材、APSにより得られるコーティングを有する医療用インプラント部材、及びPVDにより得られるコーティングを有する医療用インプラント部材のSEM像を示す。明らかに、生体適合性保護コーティング層(BPCL)は基材(又は存在する場合は緩衝層)に埋め込まれ、特に化学結合を形成しており、それらの間の結合した領域は大幅に増加し、そのため結合は堅固であった。対照的に、従来のコーティングされた層(APS又はPVDにより得られるものなど)とその基材の間では空間又は隙間を示すことがある。コーティングされた層には多孔性が存在し(
図3Bを参照)、一方コーティングされた層の基材への埋め込みは存在しなかった(
図3Cを参照)。
【0090】
実施例7
実施例1に記載される方法に基づいて調製された医療用インプラント部材(膝関節)及び比較のための従来の膝関節に対して、摩耗試験を行った。実施例1及び3に基づき製造された。実施された摩耗試験の条件及び結果を下記の表2にまとめた。特に、指定された垂直抗力下で指定された距離において特定の直径で動作する摩耗試験機により物品を試験した。動作直径及び摩耗面積に基づいて、摩耗量を計算した。膝関節の光学顕微鏡像(実施例1)及び膝関節のSEM像(実施例1)、並びに従来の膝関節(コーティングなし又はPVDによりコーティング済み)を
図4A~
図4Dに示した。明らかに、本発明の物品は従来の物品よりも優れた特性(特に耐摩耗性)を示し、例えば、高い垂直抗力及び動作距離の試験において著しく小さい摩耗量(試料A対試料Bを参照)、より高い耐摩耗性(試料A対試料Cを参照、より過酷な試験条件下で同様の摩耗量)示す。
【表2】
【0091】
摩耗試験後のスクリューの底部(
図5A)及び両側面(
図5B及び
図5C)のSEM像も示され、これは明らかに摩耗試験後にコーティングされた層のわずかな摩耗しか示さなかった。
【0092】
本発明は明らかに既存の医療用インプラント部材よりも優れた効果を示す。特に、生体適合性保護コーティング層と基材との間の接着性は著しく向上する。さらに、他の成膜技術(マグネトロンスパッタリングなど)を使用する場合、成膜速度はその技術の性質によっても制限されることがあり、速い速度を使用したとしても、所望の特性、例えば低多孔性、小さい表面粗さ、高接着性などがもたらされない場合がある。理論に拘束はされないが、例えばマグネトロンスパッタリングによる材料の速い成膜速度は、成膜された層のより高い欠陥密度、より高い多孔性、より大きい粗さなどにつながることがある。さらに、成膜速度が増加すると、成膜に供する基材の温度が上昇することがあり、これは成膜された層に対する望ましくない効果又は影響をもたらし得る。
【0093】
主題の発明の当業者は、主題の出願の精神及び範囲から逸脱することなく主題の発明の教示及び開示に変更及び修正を行ってもよいことを理解するべきである。上記の内容に基づき、主題の出願はそのいかなる変更及び修正も網羅することを意図しているが、ただし、変更若しくは修正又はそれらの等価物は添付の特許請求の範囲において規定される範囲内に含まれるものとする。