(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033190
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】パーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 381/00 20060101AFI20250306BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250306BHJP
【FI】
C07C381/00 CSP
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138739
(22)【出願日】2023-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡添 隆
(72)【発明者】
【氏名】安尾 英修
(72)【発明者】
【氏名】相川 光介
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC21
4H006AC30
4H006BA93
4H006BC10
4H006BE61
4H006TN10
4H039CA10
4H039CA54
4H039CF10
(57)【要約】
【課題】パーフルオロアルキル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を合成する新規な製造方法の提供。
【解決手段】テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、下記一般式(2)で表されるチオアリール化合物を、テトラフルオロエチレンに付加する反応を行い、下記一般式(1)で表される化合物を合成し、前記一般式(1)で表される化合物を、フッ素化剤によりフッ素化することにより、下記一般式(3)で表されるパーフルオロアルキル基含有アリール化合物を合成する、パーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法[式中、A
1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である]。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、下記一般式(2)
【化1】
[式中、A
1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である]
で表されるチオアリール化合物を、テトラフルオロエチレンに付加する反応を行い、下記一般式(1)
【化2】
[式中、A
1は、前記と同じである]
で表される化合物を合成し、
前記一般式(1)で表される化合物を、フッ素化剤によりフッ素化することにより、下記一般式(3)
【化3】
[式中、A
1は、前記と同じである]
で表されるパーフルオロアルキル基含有アリール化合物を合成する、パーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
【請求項2】
前記A1が、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アシル基、シアノ基、アミノ基、及びニトロ基からなる群より選択される1種以上の置換基を有していてもよいアリール基である、請求項1に記載のパーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記反応を、-40~130℃で行う、請求項1又は2に記載のパーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(3)
【化4】
[式中、A
1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である。]
で表される、パーフルオロアルキル基含有アリール化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロアルキル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、特異な材料特性や生物活性を示す。例として、フッ素原子やトリフルオロメチル基を有機化合物に導入することによって、代謝安定性に加えて疎水性の向上がみられる。このため、特に医農薬開発において、フッ素原子を有する化合物の利用が顕著である。近年、含フッ素化合物の高機能化という観点から、疎水性向上の効果がより大きい官能基へと研究対象が移っている。例えば、六価の硫黄に複数フッ素原子が結合した構造を有する硫黄-フッ素官能基が、対応する炭素-フッ素官能基と比較して高い疎水性を付与するとして注目されている(非特許文献1)。
【0003】
一方で、既存の化合物への硫黄-フッ素官能基の導入は困難であり、このため、その高い魅力にもかかわらず、医薬品や農薬の薬効成分や、有機材料等への硫黄-フッ素官能基の使用はなかなか進んでいない。これまでに進んでいる研究としては、硫黄-フッ素官能基としてペンタフルオロ-λ6-スルファニル(SF5)基の導入方法がある。実用的な芳香族SF5化合物の合成法としては、クロロテトラフルオロ-λ6-スルファニル(SF4Cl)化合物を中間体とする2段階合成が開発されている(特許文献1)。また、芳香族SF4CF3化合物が合成され、芳香族SF5化合物よりも大きな疎水性を有することが明らかになった(非特許文献2)。さらに、ラジカル開始剤の存在下、SF4Cl化合物とフッ素置換オレフィンとを反応させることにより、単一ステップで、テトラフルオロスルファニル基含有アリール化合物を合成できる方法が報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/014665号
【特許文献2】国際公開第2023/048244号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Savoie and Welch, Chemical Reviews, 2015, vol.115, p.1130-1190.
【非特許文献2】Kirsch and Hahn, Eur. J. Org. Chem. 2006, vol.2006(5), p.1125-1131.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の方法により、クロロテトラフルオロエチル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を、比較的簡便に合成することができる。しかし、当該方法では、パーフルオロエチル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を合成することはできない。
【0007】
本発明は、パーフルオロアルキル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を効率よく合成できる新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、SF4Cl化合物とテトラフルオロエチレンとを反応させ、得られたヨード化合物をフッ素化することにより、パーフルオロアルキル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を、比較的温和な条件で容易に合成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、下記一般式(2)
【0010】
【0011】
[式中、A1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である]
で表されるチオアリール化合物を、テトラフルオロエチレンに付加する反応を行い、下記一般式(1)
【0012】
【0013】
[式中、A1は、前記と同じである]
で表される化合物を合成し、
前記一般式(1)で表される化合物を、フッ素化剤によりフッ素化することにより、下記一般式(3)
【0014】
【0015】
[式中、A1は、前記と同じである]
で表されるパーフルオロアルキル基含有アリール化合物を合成する、パーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
[2] 前記A1が、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アシル基、シアノ基、アミノ基、及びニトロ基からなる群より選択される1種以上の置換基を有していてもよいアリール基である、前記[1]のパーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
[3] 前記反応を、-40~130℃で行う、前記[1]又は[2]のパーフルオロアルキル基含有アリール化合物の製造方法。
[4] 下記一般式(3)
【0016】
【0017】
[式中、A1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である。]
で表される、パーフルオロアルキル基含有アリール化合物。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る方法によれば、パーフルオロアルキル基と結合したテトラフルオロスルファニル基が導入されたアリール化合物を、比較的温和な条件で容易に合成できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明及び本願明細書において、「Cp1-p2」(p1及びp2は、p1<p2を満たす正の整数である)は、炭素数がp1~p2の基であることを意味する。
【0020】
本発明及び本願明細書において、「C1-6アルキル基」は、炭素数1~6のアルキル基であり、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。C1-6アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
【0021】
本発明及び本願明細書において、「C1-6アルコキシ基」とは、C1-6アルキル基の結合末端に酸素原子が結合した基をいう。C1-6アルコキシ基は直鎖であっても分岐鎖であってもよい。C1-6アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
本発明及び本願明細書において、「C2-6アルケニル基」とは、炭素数2~6のアルキル基の少なくとも1個の炭素-炭素結合が不飽和結合となった基をいう。C2-6アルケニル基としては、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。C2-6アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0023】
本発明及び本願明細書において、「C2-7アシル基」は、アシル基からカルボニル基を除いた炭化水素基部分が、C1-6アルキル基、C2-6アルケニル基、5員環若しくは6員環のアリール基、又は5員環若しくは6員環のヘテロアリール基である基をいう。当該アシル基の炭化水素基部分は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。C2-7アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロパノイル基、プロペノイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0024】
本発明及び本願明細書において、「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子をいう。「フッ素原子以外のハロゲン原子」とは、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子をいう。「フッ素原子以外のハロゲン原子」の例としては、塩素原子又は臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0025】
また、以降において、「化合物(n)」は式(n)で表される化合物を意味する。
【0026】
<SF4Cl化合物とテトラフルオロエチレンとの付加反応>
本発明に係るパーフルオロアルキル基含有アリール化合物(以下、「RFP含有アリール化合物」)の製造方法は、SF4Cl基含有アリール化合物中のSF4Cl基中の硫黄原子を、テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、テトラフルオロエチレンへ付加した後、得られたヨード化合物をフッ素化させることにより合成する。SF4Cl基含有アリール化合物中のSF4Cl基中の硫黄原子をテトラフルオロエチレンへ付加して得られる塩化物は、フッ素化剤で処理するだけではフッ素化させることができない。テトラフルオロエチレンとのラジカル付加反応をテトラヨードメタンの存在下で行うことにより、ヨード化物とした後、フッ素化剤で処理することで初めて、目的のRFP含有アリール化合物が得られる。
【0027】
本発明に係るRFP含有アリール化合物の製造方法は、具体的には、テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下、下記一般式(2)で表されるチオアリール化合物を、テトラフルオロエチレンに付加する反応を行い、下記一般式(1)で表される化合物を合成する。次いで、一般式(1)で表される化合物を、フッ素化剤によりフッ素化することにより、下記一般式(3)で表されるパーフルオロアルキル基含有アリール化合物を合成する。
【0028】
【0029】
一般式(1)~(3)中、A1は、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基である。該アリール基としては、特に限定されるものではなく、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、9-フルオレニル基等が挙げられ、フェニル基が特に好ましい。当該ヘテロアリール基としては、特に限定されるものではなく、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、ピラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、インドリル基、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基等が挙げられる。
【0030】
「置換されていてもよいアリール基」は、アリール基の炭素原子に結合している水素原子の1又は複数個、好ましくは1~3個が、他の官能基に置換されている基である。同様に、「置換されていてもよいヘテロアリール基」は、ヘテロアリール基の炭素原子に結合している水素原子の1又は複数個、好ましくは1~3個が、他の官能基に置換されている基である。2個以上の置換基を有する場合、置換基同士は互いに同種であってもよく、異種であってよい。
【0031】
A1のアリール基及びヘテロアリール基は、フッ素化する目的の硫黄原子のほかに、1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。当該置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アリール基、アシル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、シアノ基、アミノ基、及びニトロ基等が挙げられる。アルキル基としてはC1-6アルキル基が好ましく、アルケニル基としてはC2-6アルキル基が好ましく、アルコキシ基としてはC1-6アルコキシ基が好ましく、アシル基としてはC2-7アシル基が好ましい。アルキルオキシカルボニル基としては、アルキル基部分がC1-6アルキル基である基が好ましく、アルキル基部分がC1-3アルキル基である基がより好ましい。アリールオキシカルボニル基としては、アリール基部分がフェニル基である基が好ましい。
【0032】
反応系に添加するチオアリール化合物(2)の量は、化学量論量以上であればよい。反応効率とコストの点から、チオアリール化合物(2)の使用量は、テトラフルオロエチレンの1~10当量が好ましく、1~6当量がより好ましい。
【0033】
チオアリール化合物(2)とテトラフルオロエチレンの付加反応は、テトラヨードメタンとラジカル開始剤の存在下で行う。ラジカル開始剤としては、従来公知の開始剤を使用できる。具体的には、例えば、アゾ化合物や過酸化物のラジカル開示剤を使用できる。一般式(2)で表されるチオアリール化合物とテトラフルオロエチレンの付加反応に使用するラジカル開始剤としては、アゾ化合物を含むことが好ましい。
【0034】
アゾ化合物のラジカル開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(以下、「AIBN」ともいう。)、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル(ADVN)、2,2’-アゾビス-N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド、ジメチル-2,2’-アゾビス-2-メチルプロピオンアミド、1,1’-アゾビス-シクロヘキサン-1-カルボニトリル等が挙げられる。反応系における溶解性の観点から、AIBN、2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルが好ましい。
【0035】
過酸化物のラジカル開始剤としては、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシド、アセチルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルペロキシ-2-エチルヘキサネート、2-ヘキシル-パーオキシ-2-エチルヘキサネート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。反応を制御しやすい点から、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーオキシド、t-ブチルペロキシ-2-エチルヘキサネート、2-ヘキシル-パーオキシ-2-エチルヘキサネートが好ましい。
【0036】
チオアリール化合物(2)とテトラフルオロエチレンの付加反応は、当該反応に不活性な溶媒中で行うことができる。当該不活性な溶媒としては、特に限定されるものではないが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(MeCN)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン(DCM)、1,2-ジクロロエタン(DCE)、ジエチルエーテル等が挙げられる。反応に用いる溶媒は、2種類以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【0037】
前記付加反応は、反応溶媒に、チオアリール化合物(2)とテトラフルオロエチレンとテトラヨードメタンとラジカル開始剤とを混合した反応溶液を、適当な温度及び時間で反応させる。当該付加反応は、穏やかな条件で反応が進む。例えば、反応温度は、反応溶媒が液状である温度であれば特に限定されるものではなく、-40~130℃で行うことができ、0~80℃で行うことが好ましく、20~50℃で行うことがより好ましく、室温(0~30℃)で行うこともできる。例えば、当該付加反応は、20~50℃で、3時間未満反応させることにより、一般式(1)で表される化合物(化合物(1))を、本質的に定量的な収率で得ることができる。
【0038】
次いで、合成された化合物(1)を、フッ素化剤で処理することにより、ヨウ素原子をフッ素原子に置換させて、目的のRFP含有アリール化合物(一般式(3)で表される化合物)を合成する。該フッ素化反応に用いられるフッ素化剤としては、2価以上の金属フッ化物を用いることができる。該2価以上の金属フッ化物としては、第1遷移元素、第2遷移元素、又は第3遷移元素のフッ化物が挙げられる。本発明で用いられるフッ素化剤としては、具体的には、銀、ニオブ、マンガン、コバルト、銅、ハフニウム、タンタル、又はセリウムの2価以上のフッ化物が好ましく、AgF2、フッ化マンガン(III)(MnF3)、フッ化コバルト(III)(CoF3)、フッ化銅(II)(CuF2)、フッ化ニオブ(V)(NbF5)、フッ化ハフニウム(V)(HfF5)、フッ化タンタル(TaF5)、フッ化セリウム(IV)(CeF4))等が挙げられる。本発明においてフッ素化剤として用いられる2価以上の金属フッ化物としては、反応性が良好な点から、AgF2が特に好ましい。
【0039】
前記酸化フッ素化反応は、反応溶媒に、化合物(1)とフッ素化剤とを混合した反応溶液を、適当な温度及び時間で反応させて行う。該フッ素化反応は、穏やかな条件で反応が進む。例えば、反応温度は、反応溶媒が液状である温度であれば特に限定されるものではなく、-40~130℃で行うことができ、0~80℃で行うことが好ましく、室温(0~30℃)で行うこともできる。例えば、該フッ素化反応は、室温で、1時間未満反応させることにより、目的のRFP含有アリール化合物(3)を、本質的に定量的な収率で得ることができる。
【0040】
前記フッ素化反応は、当該反応に不活性な溶媒中で行うことができる。当該不活性な溶媒としては、特に限定されるものではないが、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、前記で挙げられたものを用いることができる。反応に用いる溶媒は、2種類以上の溶媒の混合溶媒であってもよい。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0042】
実施例、比較例の分析に使用したNMR装置は日本電子製JNM-ECZ400S(400MHz)であり、1H NMRではテトラメチルシランを0PPM、19F NMRではC6F6を-162PPMの基準値とした。
【0043】
[実施例1]
クロロテトラフルオロスルファニル基含有アリール化合物の塩素原子を、パーフルオロエチル基で置換されたアリール化合物を合成した。
【0044】
(1)テトラフルオロ(1,1,2,2ーテトラフルオロ-2ーヨードエチル)(フェニル)-λ6ースルファンの合成
【0045】
【0046】
オーブンで乾燥させたマイクロ波バイアルに、化合物(1)(110.3mg、0.50mmol)及びEtOAc(5.0mL)を入れた。この混合物に、ADVN(37.3mg、0.15mmol、30mol%)及びテトラヨードメタン(520mg、1.0mmol、2.0当量)を周囲温度で加えた。該反応バイアルを密閉して0℃に冷却し、バブリングによりテトラフルオロエチレン(1.0気圧)を充填した。得られた反応混合物を、油浴上で、40℃、24時間撹拌した。反応が完了したら、粗混合物を冷却し、水に注ぎ、EtOAc中に抽出した。合わせた有機層を飽和Na2S2O3水溶液、及びブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)により精製して、化合物(2)(130mg、収率63%)を無色油状物として得た。
【0047】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.78 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 7.51-7.43 (m, 3H)
19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ 50.0-49.8 (m, 4F), -57.2--57.3 (m, 2F), -83.5--83.7 (m, 2F)
MS (CI) m/z (%): 285 (51) [M-I]+, 393 (100) [M-F]+.
【0048】
(2)テトラフルオロ(パーフルオロエチル)(フェニル)-λ6-スルファンの合成
【0049】
【0050】
前記で合成した化合物(2)(61.8mg、0.15mmol)のMeCN(1.5mL)溶液に、AgF2(438mg、3.0mmol、20当量)を添加した後、該反応混合物を周囲温度で2日間撹拌した。反応が完了したら、粗混合物を水に注ぎ、Et2O中に抽出した。合わせた有機層をブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ペンタン)による精製により、化合物(3)(10.2mg、収率22%)を無色の油として得た。
【0051】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.80-7.77 (m, 2H), 7.53-7.45 (m, 3H)
19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ 46.2-46.1 (m, 4F), -79.9--80.0 (m, 3F), -95.6--95.7 (m, 2F)
MS (CI) m/z (%): 304 (100) [M]・+.
【0052】
[比較例1]
実施例1の合成反応のうち、テトラヨードメタンに代えてテトラブロモメタンを用いて、テトラフルオロ(パーフルオロエチル)(フェニル)-λ6-スルファンの合成を試みた。
【0053】
(1)(2-ブロモ-1,1,2,2ーテトラフルオロエチル)テトラフルオロ(フェニル)-λ6ースルファン の合成
オーブンで乾燥させたマイクロ波バイアルに、化合物(1)(88.2mg、0.40mmol)及びEtOAc(4.0mL)を入れた。この混合物に、ADVN(29.8mg、0.12mmol、30mol%)及びテトラブロモメタン(1.33g、4.0mmol、10.0当量)を周囲温度で加えた。該反応バイアルを密閉して0℃に冷却し、バブリングによりテトラフルオロエチレン(1.0気圧)を充填した。得られた反応混合物を、油浴上で、40℃、24時間撹拌した。反応が完了したら、粗混合物を冷却し、水に注ぎ、EtOAc中に抽出した。 合わせた有機層を飽和Na2S2O3水溶液及びブラインで洗浄し、Na2SO4で乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(n-ヘキサン)により精製して、化合物(4)(51.1mg、収率35%)を無色油状物として得た。
【0054】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.80-7.77 (m, 2H), 7.52-7.44 (m, 3H)
19F NMR (376 MHz, CDCl3) δ 49.1-48.9 (m, 4F), -62.3--62.4 (m, 2F), -87.4--87.6 (m, 2F).
【0055】
次いで、実施例1と同様にして、AgF2により得られた化合物(4)のフッ素化を試みたが、臭素原子を塩素原子に置換する反応は進行せず、テトラフルオロ(パーフルオロエチル)(フェニル)-λ6-スルファンは得られなかった。