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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003324
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】細菌の分類と分析
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20241226BHJP
   C12Q 1/18 20060101ALI20241226BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12Q1/18
C12M1/34 D
C12M1/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024080940
(22)【出願日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】2350781-7
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】523064608
【氏名又は名称】シスメックス アステルゴ エービー
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】バルテキン,オズデン
(72)【発明者】
【氏名】ウィストランド-ユエン,エリク
(72)【発明者】
【氏名】クナッゲ,ペッター
(72)【発明者】
【氏名】ラネフォール,ペッター
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB02
4B029FA03
4B029FA04
4B029FA07
4B063QA01
4B063QA06
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR68
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細菌を分類する方法を提供する。
【解決手段】生物学的試料からの細菌細胞を、試験抗菌剤にさらすことに加え、複数の他の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらす。試験抗菌剤のMIC値を、試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて決定する。細菌細胞を、他の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞のそれぞれの表現型特性応答に基づいて分類し、その分類を使用して試験抗菌剤のCBP値を決定する。次に、MIC値とCBP値を決定し、それらを使用して生物学的試料の細菌細胞が試験抗菌剤に対して感受性であるかないかを判断することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)と、
前記生物学的試料からの細菌細胞を(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらすこと(S2)と、
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記生物学的試料からの前記細菌細胞を分類すること(S5)と、を含む、細菌を分類する方法。
【請求項2】
前記細菌細胞を分類すること(S5)は、
前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S5)と、
前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S5)と、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細菌細胞を分類すること(S5)は、前記細菌細胞が事前に規定したグラム分類、好ましくはグラム陽性である場合、(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S12)を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌細胞を分類すること(S12)は、前記細菌細胞をStaphylococcusまたはEnterococcusとして分類すること(S51、S52)を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的試料からの細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S3)をさらに含み、
前記細菌細胞を分類すること(S12)は、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、及び前記第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答のうちの少なくとも2つに基づいて前記細菌細胞を分類すること(S12)を含む、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記細菌細胞を分類すること(S12)は、
前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に基づいて前記細菌細胞を分類すること(S12)と、
前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの1つのみに対して前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの1つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S12)と、を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌細胞を分類すること(S5)は、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の少なくとも1つの形態特性、または前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞のグラム分類を決定すること(S10)を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗菌剤または抗菌剤混合物が、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータ及び前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能である場合、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S22)を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能である一方、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能でない場合、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S23)を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能である一方、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能でない場合、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S25)を含む、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能でなく、さらに前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S10)を含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記細菌細胞を分類すること(S5)は、決定されたグラム分類がグラム陰性である場合、前記細菌細胞をEnterobacteralesとして分類すること(S50)を含む、請求項7~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらすこと(S60)と、
前記細菌細胞を請求項1~13のいずれか1項に従って分類すること(S61)と、
前記細菌細胞を分類する結果に基づいて、前記試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定すること(S62)と、
前記試験抗菌剤に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に基づいて前記試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定すること(S63)と、
前記最小阻止濃度を前記臨床的ブレイクポイントと比較すること(S64)と、を含む、細菌を分析する方法。
【請求項15】
前記最小阻止濃度と前記臨床的ブレイクポイントとの比較に基づいて、前記細菌細胞が前記試験抗菌剤に対して感受性であるかどうかを判断すること(S65)をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細菌細胞を前記試験抗菌剤にさらすこと(S60)は、単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記試験抗菌剤にさらすこと(S60)を含み、ここで前記単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、
前記細菌細胞を前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)は、単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)を含み、ここで前記単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、
前記細菌細胞を前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S2)は、単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S2)を含み、ここで前記単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、かつ前記細菌細胞を前記塩または塩混合物にさらすこと(S2)は、単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記塩または塩混合物にさらすこと(S2)を含み、ここで前記単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有している、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
前記単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)、前記単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)、前記単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)、及び前記単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)は、マイクロ流体チップ(10)内の別個の区画として形成されている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記表現型特性応答(複数可)は、増殖速度、核様体のコンパクションの度合い、代謝活性度、及び膜の完全性の度合いからなる群から選択される、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
分析装置(200)であって、
マイクロ流体デバイス(5)に圧力を加えるように構成された圧力源(260)と、
プロセッサ(220)と、
前記プロセッサ(220)によって実行可能な命令を含むメモリ(230)と、を備え、前記命令により、前記プロセッサ(220)は、
前記圧力源(260)を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらし、かつ
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記生物学的試料からの前記細菌細胞を分類する、前記分析装置(200)。
【請求項20】
分析装置(200)であって、
マイクロ流体デバイス(5)に圧力を加えるように構成された圧力源(260)と、
プロセッサ(220)と、
前記プロセッサ(220)によって実行可能な命令を含むメモリ(230)と、を備え、前記命令により、前記プロセッサ(220)は、
前記圧力源(260)を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において試験抗菌剤にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらし、
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類し、
前記細菌細胞を分類する結果に基づいて、前記試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定し、
前記試験抗菌剤に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に基づいて前記試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定し、かつ
前記最小阻止濃度を前記臨床的ブレイクポイントと比較する、前記分析装置(200)。
【請求項21】
前記マイクロ流体デバイス(5)をさらに備える、請求項19または20に記載の分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して細菌の分類と分析に関する。
【背景技術】
【0002】
抗生物質感受性試験(AST)は、抗生物質感度試験とも呼ばれ、細菌の抗生物質に対する感受性を測定することである。感受性試験の結果により、臨床医は、疾患の原因となる細菌とその感受性及び耐性に関する知識に基づいて、適切な抗生物質または抗生物質の混合物を選択することができる。
【0003】
初期のAST法は、寒天プレートまたは寒天もしくは培養液の希釈物において細菌を抗生物質にさらすことを含む表現型法であった。このような表現型法にはディスク拡散法(キルビー・バウアー法とも呼ばれる)があり、この方法では、細菌を寒天プレート上で培養し、抗生物質を含浸させたディスク付近での細菌の増殖を観察する。抗生物質が微生物の増殖を阻害すると、ディスクの周囲に明確なリング、つまり阻害ゾーンが見られる。次に、阻害ゾーンの直径を所定のしきい値(これは最小阻止濃度(MIC)と相関する)と比較することにより、細菌を、抗生物質に対して感受性、中等度、または耐性として分類する。その他の表現型法には、Etestなどの勾配法がある。勾配法では、異なる濃度の抗生物質を染み込ませたプラスチックストリップを寒天上に置き、ある期間インキュベートした後に細菌の増殖を観察する。MICは、涙滴状の阻害ゾーンとストリップ上のマークとの交差に基づいて特定できる。
【0004】
上で例示した表現型法の主な欠点は、視覚的な反応を得るために、通常は少なくとも一晩、細菌を培養しなければならないことである。したがって、ASTの結果が得られるまでには比較的長い時間がかかる。もう1つの欠点は、通常、1回のAST検査で検査できる抗生物質は1種類だけかまたは少数しかないことである。
【0005】
AST法の別のグループは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、デオキシリボ核酸(DNA)マイクロアレイ、またはDNAチップに基づく遺伝学的手法である。これらの遺伝学的手法は、抗生物質に対する細菌の表現型応答を調べるのではなく、抗生物質耐性を付与する遺伝子を細菌が持っているかどうかを分析する。遺伝学的手法は、培養に基づく表現型的手法よりも迅速であるという点で優れている。欠点としては、検査する耐性遺伝子に関する知識が必要であり、費用がかかり、通常、特別に訓練された人員が必要になることが挙げられる。さらに、検出された耐性遺伝子の遺伝子型プロファイルが、表現型法で観察される耐性プロファイルと必ずしも一致しないこともある。
【0006】
一連の抗生物質に対する細菌の表現型応答を迅速かつ並行してモニターするために、マイクロ流体デバイス及びチップが提案されている。マイクロ流体工学に基づくASTは迅速であり、多くの遺伝学的手法に伴う欠点がない。
【0007】
「マザーマシン」と呼ばれる従来のマイクロ流体デバイスは、Wanget al.,Current Biology 2010,20:1099-1103に開示されている。マザーマシンによって、多くのさまざまな細胞流路にある細胞を並行してモニターすることができる。
【0008】
生物学的試料の分析に有用なさらなるマイクロ流体デバイスは、米国特許第10,041,104号、第10,570,437号及び第10,913,969号に示されている。
【0009】
Baltekin et al.,PNAS 2017,114(34):9170-9175は、マイクロ流体デバイスを使用した高速抗生物質感受性試験(AST)検査(FASTest)を開示している。
【0010】
米国特許第8,828,680号は、濁度測定と蛍光測定を組み合わせたハイブリッドシステムを使用して抗菌剤感受性の判定と微生物の識別を行う自動アッセイの方法及びシステムを開示している。この試験システムは、生化学検査を実行するための複数の反応チャンバーを備えている。各反応チャンバーは、1つ以上のアッセイ試薬を受容または収容するように配置されており、1つ以上のアッセイ試薬は、微生物の科、属、及び/または種に固有の少なくとも1つの酵素の基質を含む。基質が酵素の作用を受けると、試料中の微生物の正体に関連する検出可能な生成物が形成される。
【0011】
たとえば抗菌剤感受性試験について有用な、細菌細胞の効率的な分類及び分析が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
全般的な目的は、細菌の分類を可能にすることである。
【0013】
もう一つの目的は、細菌細胞を分析して最小阻止濃度と臨床的ブレイクポイント値とを決定できるようにすることである。
【0014】
これらの目的及び他の目的は、本明細書で開示する実施形態によって達成される。
【0015】
本発明を独立請求項に規定する。さらなる実施形態を従属請求項に規定する。
【0016】
本発明の一態様は、細菌を分類する方法に関する。該方法は、生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことと、該生物学的試料からの細菌細胞を(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらすことと、を含む。該方法はさらに、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0017】
本発明の別の態様は、細菌を分析する方法に関する。該方法は、生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらすことを含む。該方法はさらに、上記の細菌を分類する方法に基づいて細菌細胞を分類することを含む。該方法はさらに、細菌細胞の分類結果に基づいて、試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイント(CBP)を決定することを含む。該方法はさらに、試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、試験抗菌剤の最小阻止濃度(MIC)を決定することを含む。該方法はさらに、MICとCBPを比較することを含む。
【0018】
本発明のさらなる態様は、マイクロ流体デバイスに圧力を加えるように構成された圧力源と、プロセッサと、該プロセッサによって実行可能な命令を含むメモリと、を備える分析装置に関し、該命令により、該プロセッサは、該圧力源を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を該マイクロ流体デバイスにおいて第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、かつ該圧力源を制御して、該生物学的試料からの細菌細胞を該マイクロ流体デバイスにおいて(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらす。該プロセッサはさらに、(i)該第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)該第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)該塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、該生物学的試料からの細菌細胞を分類する。
【0019】
本発明のさらなる態様は、マイクロ流体デバイスに圧力を加えるように構成された圧力源と、プロセッサと、該プロセッサによって実行可能な命令を含むメモリと、を備える分析装置に関し、該命令により、該プロセッサは、該圧力源を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を該マイクロ流体デバイスにおいて試験抗菌剤にさらし、該圧力源を制御して、該生物学的試料からの細菌細胞を該マイクロ流体デバイスにおいて第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、かつ該圧力源を制御して、該生物学的試料からの細菌細胞を該マイクロ流体デバイスにおいて(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらす。該プロセッサはさらに、(i)該第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)該第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)該塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、該細菌細胞を分類する。該プロセッサはさらに、該細菌細胞の分類結果に基づいて該試験抗菌剤のCBPを決定し、かつ該試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて該試験抗菌剤のMICを決定する。さらに、該プロセッサは、該MICと該CBPを比較する。
【0020】
本発明は、生物学的試料からの細菌細胞を分類することを可能にし、そのような分類を使用して細菌細胞及び抗菌剤についてCBPを決定することができる。本発明により、CBPの決定と同時に抗菌剤のMICの決定も可能となる。したがって本発明により、患者の細菌細胞による細菌感染症の治療に抗菌剤が臨床的に有効であるかどうかを検証することが可能になる。
【0021】
以下の説明を添付図面と共に参照することにより、実施形態は、さらなる目的及びその利点とともに、最も良く理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】疫学調査による臨床的ブレイクポイントに従う、感受性(S)、耐性(R)、及び中等度(I)の表現型についてMICに基づく分類を概略的に示す図である。
図2】一実施形態に従う細菌の分類方法を示すフローチャートである。
図3】一実施形態に従う図2の分類ステップS5のサブルーチンを示すフローチャートである。
図4】一実施形態に従う図3のグラム分類決定ステップS10のサブルーチンを示すフローチャートである。
図5】一実施形態に従う図3のグラム分類決定ステップS10のサブルーチンを概略的に示す図である。
図6】一実施形態に従う図3の属分類決定ステップS11及び分類ステップS12のサブルーチンを概略的に示す図である。
図7】一実施形態に従う図3のグラム分類決定ステップS10のサブルーチンを示すフローチャートである。
図8】一実施形態に従う図3の属分類決定ステップS11のサブルーチンを示すフローチャートである。
図9】一実施形態に従う図3の分類ステップS12のサブルーチンを示すフローチャートである。
図10】さまざまな実施形態による図1の分類ステップS6のサブルーチンを概略的に示す図である。
図11】さまざまな実施形態による図1の分類ステップS6のサブルーチンを概略的に示す図である。
図12】さまざまな実施形態による図1の分類ステップS6のサブルーチンを概略的に示す図である。
図13】さまざまな実施形態による図1の分類ステップS6のサブルーチンを概略的に示す図である。
図14】一実施形態に従う細菌の分析方法を示すフローチャートである。
図15】一実施形態に従う図14に示す方法の追加の任意であるステップのフローチャートである。
図16】さまざまな濃度の抗生物質にさらされた細菌細胞の用量反応曲線を概略的に示す図である。
図17図16の用量反応曲線から決定される影響濃度と基準MIC値との相関関係を概略的に示す図である。
図18A】マイクロ流体チップをチップキャリアに取り付ける様子を概略的に示す図である。
図18B】マイクロ流体チップをチップキャリアに取り付ける様子を概略的に示す図である。
図18C】チップキャリアに取り付けられたマイクロ流体チップの底面図である。
図19】基板におけるマイクロ流体チップ及びチップキャリアの配置を概略的に示す図である。
図20】マイクロ流体デバイスを概略的に示す図である。
図21】マイクロ流体デバイスの流体回路の流体の流れを制御するように構成されたプロセッサに接続されたマイクロ流体デバイス内の一連の細胞流路のクローズアップ図である。
図22】捕捉中に細菌細胞が細胞流路に流入するマイクロ流体デバイスの動作の詳細を示す図である。
図23】細胞流路に捕捉された細菌細胞の100倍位相差顕微鏡画像である(暗い部分は細胞を表し、明るい部分は細胞流路の空の部分を表す)。
図24】実施形態に従う方法を実行するように構成された分析装置を概略的に示す図である。
図25】分析装置の一実施形態を示すブロック図である。
図26A】生物学的試料(N=676)のグラム陽性またはグラム陰性へのグラム分類を示す図である。
図26B】生物学的試料(N=130)の属分類を示す図である。
図26C】生物学的試料(N=130)の属分類を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図面全体を通じて、類似または対応する要素には同じ参照番号が使用されている。
【0024】
本発明は概して細菌の分類と分析に関する。
【0025】
抗生物質などの抗菌剤が特定の細菌株による感染症の治療に有効かどうかを判断する従来の方法は、特定の細菌株に対して決定された抗菌剤の最小阻止濃度(MIC)と、特定の細菌株を含む細菌群に対して決定された抗菌剤の臨床的ブレイクポイント(CBP)とを比較することである。簡単に言えば、MICがCBPを下回る場合、細菌株は抗菌剤に対して感受性であると分類され、MICがCBPを上回る場合、細菌株は抗菌剤に対して耐性であると分類される。
【0026】
MICは、細菌株または分離株の目に見える増殖を防ぐ抗菌剤の最低濃度である。MIC値は、従来、液体希釈法やEtestなどの抗生物質感受性試験(AST)によって決定される。ただし、ASTによって決定されるMIC値自体は、細菌株または分離株によって引き起こされる感染症が当該抗菌剤により患者において治療できる可能性があるかどうかを規定するものではない。臨床的には、治療にとってより意味のある値は、いわゆるCBPである。CBPは、特定の細菌株または分離株による感染症が患者において治療可能かどうかを判断するために使用される抗菌剤の濃度である。通常、これらは抗菌剤に対して感受性または耐性であると規定される。CBP濃度は、抗菌剤感受性試験とは異なる。というのも、CBP濃度は、抗菌剤が体内でどうなるか、すなわち抗菌剤の臨床的有効性に影響を与える薬理学的及び薬物動態学的事項を考慮するからである。
【0027】
CBPは、細菌の目、属、または種ごとに規定され、リストされる。したがって、特定の細菌株または分離株によって引き起こされる感染症が抗菌剤で治療可能かどうかを判断するには、その細菌株または分離株に対する抗菌剤のMICを決定するだけでなく、その細菌株または分離株の目、属、または種も決定する必要がある。特定の細菌株または分離株が感受性または耐性として分類されるかどうかを確認するために、決定されたMICと比較すべき正しいCBPを選択するには、目、属、または種の情報が必要である。したがって、従来技術では、2つの異なる分析が必要である。すなわち、MICを決定するためのASTと、形態学的検査、生化学的検査、血清型判定、及び/または遺伝子検査などを使用して目、属または株を識別するためのもう1つの分析とが必要である。
【0028】
本発明は、典型的にはマイクロ流体デバイス内での単一の分析で、試験抗菌剤のMIC値の決定と、CBPの決定に必要な細菌株または分離株の識別または分類の両方を可能にする。したがって、単一のデバイスと分析を使用して、特定の細菌株または分離株により引き起こされる患者の感染症が、試験抗菌剤を使用して治療できそうであるか(感受性)または治療できそうにないか(耐性)を判断するために必要な情報を提供できる。
【0029】
一般的に、CBPは、目/属/種に関連した抗菌剤濃度値として規定され、これは、MIC値に基づく表現型の感受性/耐性(S/R)プロファイルの解釈に役立つ。したがって、MIC値が感受性CBP値以下の細菌株または分離株は、感受性(S)、それ以外の場合は、耐性(R)とみなされる。場合によって、中間(I)表現型を区別するために耐性CBPも規定される(図1を参照)。CBPは、欧州の European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)や米国のClinical Laboratory Standards Institute(CLSI)などの専門機関によって毎年公開され、更新されている。
【0030】
もう一つの重要なパラメータ値は、疫学的カットオフ値(ECOFF)によって表される。これは、耐性メカニズムを持たないスクリーニングされた細菌、つまり野生型(WT)細菌の最も高いMIC値である。ECOFFは、一部の種に見られる特定の抗生物質に対する固有の耐性を評価し、CBPを確立するのに非常に有用である。
【0031】
図1は、抗菌剤にさらされた特定の細菌種の数千の分離株または株を含むEUCAST疫学調査からのMIC分布とECOFF値の決定の例を示している。
【0032】
本明細書において「生物学的試料」には、細菌細胞を含むあらゆる試料、好ましくは流体試料、さらに好ましくは液体試料が含まれる。生物学的試料は、好ましくは、体液試料であり、たとえば、患者から採取された処理済み体液試料などの、患者から採取された体液試料である。そのような体液試料の非限定的であるが具体的な例としては、尿、血液、血漿、血清、羊水、脳脊髄液、リンパ液、唾液、及び滑液が挙げられる。あるいは、生物学的試料は、固形体試料(例えば生検)から得られた生物学的試料であってもよく、そのような試料において、固形体試料の細菌細胞は、流体(好ましくは培養培地などの液体)に懸濁または分散されている。
【0033】
本明細書において使用される「抗菌剤」とは、細菌細胞を殺すか、細菌細胞の増殖を止めるか、または少なくとも低下させる任意の分子、化合物、組成物またはその他の物質を指す。このような抗菌剤の典型的であるが非限定的な例には、抗生物質や他の抗菌剤などの、薬剤候補を含む、薬剤または医薬品が含まれる。そのような抗生物質の具体例として、ペニシリン、セファロスポリン、ポリミキシン、リファマイシン、リピアルマイシン、スルホンアミド、リンコサミド、ベータラクタム、マクロライド、キノロン、テトラサイクリン、及びアミノグリコシドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
図2は、細菌の分類方法を示すフローチャートである。細菌の分類は、細菌細胞の目または属を決定するなど、生物学的試料からの細菌細胞を分類するための個別の方法またはプロセスとして実行できる。細菌細胞の分類は、細菌細胞のCBPを決定または選択するための基礎として有利に使用される。このような場合、細菌の分類は分析のプロセスまたは方法の一部となり得、これは図14を参照して本明細書でさらに開示される。
【0035】
図2の細菌を分類する方法は、ステップS1において、生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。ステップS2は、それに応じて、生物学的試料からの細菌細胞を(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物、及び/または(ii)塩または塩混合物にさらすことを含む。その後、生物学的試料からの細菌細胞を、ステップS5において、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、分類する。
【0036】
ステップS1及びS2は、任意の順序で連続して実行できるが、少なくとも部分的に並行して実行するのが好ましい。後者の好ましい場合、生物学的試料からの細菌細胞を、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、これと並行して、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を塩または塩混合物にさらす。
【0037】
複数の、すなわち少なくとも2つの抗菌剤または抗菌剤混合物へのこのような並行した曝露の一例として、細菌細胞を含む生物学的試料をマイクロ流体チップ10の細胞流路140に投入することが挙げられる(図18A~18C、図21を参照)。マイクロ流体チップ10は、複数の組130の細胞流路140、複数の入力流路110、及び複数の出力流路120を含む。図21にさらに明確に示すように、各入力流路110は、細胞流路140の各組130の細胞流路140を介して、それぞれの出力流路120と流体連通している。細胞流路140は、それぞれの流路制限部145を備え、流路制限部145は、細胞流路140に入る細菌細胞が出力流路120に到達するのを制限するように構成されている。
【0038】
このような場合、ステップS1は、単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含み得、ステップS2は、単数または複数の第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと、及び/または単数または複数の第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を、塩または塩混合物にさらすことを含む。単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉されてそこに存在する細菌細胞を、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、好ましくは、それと同時に、単数または複数の第2の組130の細胞流路140に捕捉されてそこに存在する細菌細胞を、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または、単数または複数の第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を、塩または塩混合物にさらす。
【0039】
ステップS1及びS2では、それぞれ単一の抗菌剤を使用することができる。あるいは、これら2つのステップS1及びS2のいずれかで、2つ以上の異なる抗菌剤の混合物を使用することもできる。
【0040】
図3は、図2の分類ステップS5のサブルーチンを示すフローチャートである。この方法は、図2のステップS2~S4のいずれかから続く。次のステップS10は、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性、または塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。したがって、この実施形態では、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、生物学的試料からの細菌細胞の形態特性、及び塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答のうちの少なくとも1つに基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定する。これについては、図4を参照してさらに詳しく説明する。
【0041】
ステップS10で使用される抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答は、ステップS1で細菌細胞がさらされる第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答であってもよく、あるいは、別の抗菌剤または抗菌剤混合物(例えば、図2のステップS2及びS3で細菌細胞がさらされる可能性のある第2の抗菌剤または第3の抗菌剤)に対する細菌細胞の表現型特性応答であってもよい。好ましい実施形態では、ステップS10は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性、または塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0042】
一実施形態では、この方法は任意であるステップS11も含む。このステップS11は、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、好ましくはさらに第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の属分類を決定することを含む。
【0043】
これらのステップS10及びS11を、任意の順序で連続的に実行してもよく、あるいは、少なくとも部分的に並行して実行してもよい。
【0044】
本実施形態はさらに、ステップS10で決定されたグラム分類及びステップS11で決定された任意である属分類に基づき、ステップS12において、細菌細胞を分類することを含む。
【0045】
したがって、この実施形態では、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物、少なくとも1つの形態、及び/または塩または塩混合物を使用して、細菌細胞のグラム分類を決定する(すなわち、細菌細胞がグラム陽性でありそうかグラム陰性でありそうかを決定する)。
【0046】
細菌学では、グラム陽性細菌とは、グラム染色試験で陽性の結果を示す細菌のことで、この試験は伝統的に、細菌を細胞壁の種類に応じて2つの大まかなカテゴリーに素早く分類するために使用されている。グラム陽性細菌は、グラム染色試験で使用されるクリスタルバイオレット染色を吸収し、光学顕微鏡で見ると紫に着色して見える。これは、グラム染色試験の脱色段階で、細菌細胞壁の厚いペプチドグリカン層が、試料の残りの部分から洗い流された後もクリスタルバイオレット染色を保持するためである。逆に、グラム陰性細菌は、脱色工程後にクリスタルバイオレット染色を保持できない。この段階で使用されるアルコールは、グラム陰性細胞の外膜を分解し、細胞壁の多孔質化を促進してクリスタルバイオレット染色を保持できなくする。グラム陰性細胞のペプチドグリカン層は、非常に薄く、内細胞膜と細菌外膜の間に挟まれているため、対比染色(サフラニンまたはフクシン)を吸収し、赤またはピンク色に見える。
【0047】
ステップS10で使用される抗菌剤または抗菌剤混合物、好ましくは第1の抗菌剤は、グラム陽性細菌に作用するがグラム陰性細菌には有意に作用しない抗菌剤または抗菌剤混合物であるか、またはグラム陰性細菌に作用するがグラム陽性細菌には有意に作用しない抗菌剤または抗菌剤混合物であるように選択されることが好ましい。前者の場合、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物は、グラム陽性細菌に対しては有効であるが、グラム陰性細菌に対しては有効ではないかまたは少なくとも同等には有効ではない、グラム陽性抗菌剤である。グラム陽性抗菌剤の具体例としては、糖ペプチド、バンコマイシン、及びテイコプラニンが挙げられるが、これらに限定されない。後者の場合、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物は、グラム陰性細菌に対しては有効であるが、グラム陽性細菌に対しては有効ではないかまたは少なくとも同等には有効ではない、グラム陰性抗菌剤である。グラム陰性抗菌剤の具体例としては、セフェピムなどのセファロスポリン、ピペラシリン、タゾバクタム、チカルシリン、クラブラン酸塩などのβ-ラクタマーゼ阻害ペニシリン、及びイミペネム、シラスタチン、メロペネム、エルタペネムなどのカルバペネムが挙げられるが、これらに限定されない。(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物の具体例としては、リネゾリド(LIN)とバンコマイシン(VAN)の組み合わせまたは混合物が挙げられる。
【0048】
第2の抗菌剤または抗菌剤混合物は、好ましくは第1の抗菌剤または抗菌剤混合物と一緒に使用され、ステップS11において細菌細胞の任意である属分類を決定する、すなわち、生物学的試料からの細菌細胞が属する属を決定する。
【0049】
属は、生物やウイルスの生物学的分類に使用される分類上の階層である。生物学的分類の階層では、属は、種より上、科より下に位置する。
【0050】
したがって、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物は、第1の属の細菌に対しては有効であるが、第2の属の細菌に対しては有効ではないかまたは同等には有効ではないように選択される。このような抗菌剤の具体的であるが非限定的な例としては、アモキシシリン、クラブラン酸(AMC)及びホスホマイシン(FOS)が挙げられるが、これらは一般にStaphylococcusに対しては有効であるが、Enterococcusに対してはそれほど有効ではない。
【0051】
次に、ステップS12において、グラム分類に基づき、また必要に応じてステップS10及びS11で決定された属分類に基づき、細菌細胞の分類を行う。
【0052】
一実施形態では、図3のステップS10は、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性(本明細書では形態分類とも呼ばれる)とに基づき、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0053】
したがって、この実施形態では、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答だけでなく、少なくとも1つの形態特性によって表されるような細菌細胞の形態も、ステップS10においてグラム分類を決定するために使用される。
【0054】
ここで使用される形態特性とは、細菌細胞の形態、形状、大きさ、及び/または構造を指す。したがって、少なくとも1つの形態特性は、細菌細胞の形態もしくは形状、細菌細胞の大きさ、または細菌細胞の構造を表すことができる。一例として、少なくとも1つの形態特性は、桿菌または桿菌状(円筒形)と、それに対する球菌または球菌状(球形)であり得る。少なくとも1つの形態特性は、好ましくは、細菌細胞の少なくとも1つの画像に基づいて決定される。このような実施形態では、少なくとも1つの形態特性は、マイクロ流体チップ10内の単数または複数の参照または対照組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞の少なくとも1つの画像に基づいて決定することができる。単数または複数の参照組130に捕捉された細菌細胞は、抗菌剤または抗菌剤混合物にさらされないことが好ましい。例えば、単数または複数の参照組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を、培養培地にさらしてもよく、それと並行して、単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、単数または複数の第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または、単数または複数の第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を塩または塩混合物にさらしてもよい。
【0055】
図4は、一実施形態に従う図3のステップS10のサブルーチンを示すフローチャートである。この実施形態では、データの必要に応じた検証が、最初にステップS20、S21、及びS24で行われる。したがって、ステップS20は、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能かどうかを判断することを含む。そのような有効なデータが利用可能である場合、方法はステップS21に進む。ステップS21は、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答(PCR)の有効なデータが利用可能かどうかを判断することを含む。ステップS20で有効なデータが利用可能でない場合は、方法はステップS24に進む。このステップS24は、ステップS21と同様に実行される。サブルーチンの別の実施形態では、最初に初期チェックを行って、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能かどうかを判断し、その後、次のチェックを行って、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能かどうかを判断する。このような実施形態では、したがって、ステップS20とステップS21及びS24の順序が変更される。
【0056】
図4に示すサブルーチンでは、どの有効なデータが利用可能かどうかに応じて、ステップS22、S23、S25、及びS26のいずれかに従ってグラム分類の決定を実行する。より詳細には、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータと、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータとが利用可能である場合、ステップS22に示すようにグラム分類の決定を実行する。ステップS22は、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性とに少なくとも基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0057】
しかし、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能である一方、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、ステップS23に示すようにグラム分類の決定を実行する。このステップS23は、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの形態特性に少なくとも基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0058】
(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である一方、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能でない場合、ステップS25に従ってグラム分類の決定を実行する。ステップS25は、(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0059】
ステップS20及びS24で有効なデータが利用可能でないことが判断された場合、ステップS26で結論付けられるようにグラム分類は不可能である。
【0060】
さまざまな理由により、表現型特性応答または少なくとも1つの形態特性に関する有効なデータがない可能性がある。例えば、マイクロ流体チップ10の細胞流路140内に気泡または非細胞物質が存在する可能性がある。このような気泡または非細胞物質は、細菌細胞の形態特性(複数可)の決定及び/または(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の決定を妨げる可能性がある。有効なデータがないもう一つの理由として、マイクロ流体チップ10内の単数または複数の対照組130または単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞が少なすぎることが考えられる。さらに別の理由として、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答または少なくとも1つの形態特性が、別の理由でノイズが多いことが考えられる。
【0061】
特定の実施形態では、図2のステップS2は、生物学的試料からの細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことを含み、好ましくはさらに、生物学的試料からの細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。
【0062】
この実施形態では、ステップS1及びS2は、任意の順序で連続して実行してもよいが、少なくとも部分的に並行して実行するのが好ましい。後者の好ましい場合、生物学的試料からの細菌細胞を、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、これと並行して、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、さらに、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を塩または塩混合物にさらす。
【0063】
この実施形態において、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能ではなく、さらに(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、図3のステップS10は、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0064】
上記の実施形態では、どのような有効なデータが分析から利用可能であるかに応じて、グラム分類を決定するさまざまな方法を用いることができる。したがって、すべての必要で有効なデータが利用可能である好ましい場合、グラム分類の決定はステップS22に従って行うが、形態特性(複数可)及び(第1の)抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答のうちの1つだけが利用可能である場合、グラム分類の決定はステップS23またはS25に従って行う。グラム分類を決定する際に他の有効なデータが利用可能でない場合、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の利用が代替手段として考えられる。したがって、このような実施形態では、図4に示すステップS26の代わりに、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づきグラム分類を決定することを行う。
【0065】
細菌細胞の少なくとも1つの形態特性を用いる上記実施形態では、図2に示す方法は、少なくとも1つの形態特性を決定することを含む追加のステップS4を含むことが好ましい。
【0066】
この実施形態では、ステップS1、S2及びS4を、任意の順序で連続して実行してもよいが、少なくとも部分的に並行して実行するのが好ましい。この後者の好ましい場合、生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、これと並行して、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を塩または塩混合物さらし、これと並行して、好ましくはいかなる抗菌剤または抗菌剤混合物にも、塩または塩混合物にもさらされていない細菌細胞の少なくとも1つの画像を撮影する。
【0067】
少なくとも1つの形態特性は、生物学的試料からの細菌細胞の少なくとも1つの画像に基づいてステップS4で決定することが好ましい。ステップS4は、捕捉された細菌細胞を含む細胞流路140の画像に対してニューラルネットワークを使用して実行することが好ましい。
【0068】
特定の実施形態では、ステップS4は、細菌細胞がいかなる抗菌剤または抗菌剤混合物にもさらされていない間に、生物学的試料からの細菌細胞を1つまたは好ましくは複数の時点においてモニターすることを含む。一方明らかなとおり、細菌細胞を、代わりに溶媒、好ましくは培養培地にさらすことが好ましい。次に、ステップS4において、複数時点での細菌細胞のモニタリングに基づき、少なくとも1つの形態特性を決定する。
【0069】
好ましい実施形態では、細菌細胞のモニタリングは、マイクロ流体デバイス5またはマイクロ流体チップ10内の単数または複数の参照組130の細胞流路140に捕捉された生物学的試料からの細菌細胞をモニタリングすることによって実行する。このような場合、少なくとも1つの形態特性を決定するにあたり、複数の細胞流路140の各細胞流路140について、複数の時点の各時点で、少なくとも1つの暫定的な流路固有の形態特性を決定し、該暫定的な流路固有の形態特性に基づいて、細胞流路140に捕捉された細菌細胞の少なくとも1つの流路固有の形態特性を決定し、そして該流路固有の形態特性に基づいて、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性を決定する。
【0070】
特定の実施形態では、少なくとも1つの暫定的な流路固有の形態特性を決定するにあたり、細胞流路140内の細菌細胞の画像と、細菌細胞の画像に基づいて細菌細胞を分類するように訓練されたコンピュータにより実施される形態分類モデルとに基づいて、複数の時点の各時点において、少なくとも1つの暫定的な流路固有の形態特性を決定する。
【0071】
特定の実施形態では、暫定的な流路固有の形態特性の少なくとも最小パーセンテージが第1の分類を示す場合、少なくとも1つの流路固有の形態特性を第1の流路固有の形態分類(たとえば桿菌または桿菌状)として決定し、暫定的な流路固有の形態特性の少なくとも最小パーセンテージが第2の分類を示す場合、少なくとも1つの流路固有の形態特性を第2の流路固有の形態分類(たとえば球菌または球菌状)として決定し、必要に応じてそうでない場合は不確定として決定する。最小パーセンテージは、好ましくは、約75%など、50%より大きい事前選択された値である。次に、細菌細胞の少なくとも1つの形態特性を、第1の分類として分類された細胞流路140の数と第2の分類として分類された細胞流路の数との商に基づき、決定することが好ましい。
【0072】
したがって、一実施形態では、形態分類は、ニューラルネットワーク(コンピュータにより実施される形態分類モデル)に基づくものであり、該ニューラルネットワークは、既知の細菌形態を有する細菌細胞を含む個々の細胞流路140の画像に基づいて細菌細胞の形態特性を推定するように訓練されたものである。より詳細には、ニューラルネットワークは、捕捉された球菌の96のデータセットと桿菌の325のデータセットを含む421のデータセットに基づき訓練されている。これらのデータセットから、捕捉された細菌の全長が24ピクセル以上に相当し、増殖速度が0.005分-1以上のすべての細胞流路140のすべての画像が取得された。この結果、合計9727960の細胞流路画像が得られ、そのうち676106の画像には球菌が含まれ、9051854の画像には桿菌が含まれていた。データをトリミングしてデータセットのバランスをとり、訓練用に約60%、検証とテスト用にそれぞれ約20%を選択した。訓練/検証/テストに分割する際、同じ初期データセットからのすべての細胞流路画像を、これらのセットを完全に独立させるため、同じセットの訓練/検証/テストにいれた。訓練データを使用して、ディープラーニングモデルを設計し、訓練した。訓練の各エポック(反復)中に、ディープラーニングモデルを検証データセットに対して検証し、ディープラーニングモデルの重みを、検証データセットで最高の精度を示したエポックに固定した。ディープラーニングモデルを独立したテストデータセットでテストし、結果として得られた正解率は94.2%であった。このニューラルネットワークは、アッセイ中の各時点で個々の細胞流路140の形態分類を生成した。各細胞流路140について、すべての時点における分類を集約し、分類が経時的に一貫している場合は、細胞流路140を当該形態に設定する。形態が、一貫しておらず、桿菌と球菌の分類の間でゆれる場合は、形態を「アンビバレント」に設定し、最終的な形態スコアリングから除外する。次に、単数または複数の参照組130内のすべての細胞流路140にわたって細胞流路の分類を集約し、桿菌と球菌を含む細胞流路140間の比率に基づいて最終的な形態スコアを計算する。たとえば、単数または複数の参照組130内のX細胞流路140が桿菌として分類され、単数または複数の参照組130内のY細胞流路140が球菌として分類される場合、比率はX/(X+Y)またはY/(X+Y)になる。比率X/(X+Y)が所定のしきい値(たとえば0.75)を超える場合、最終的な形態分類は、この例では、桿菌となる。一方、比率Y/(X+Y)が所定のしきい値を超える場合、最終的な形態分類は、この例では、球菌となる。
【0073】
図5は、図3のステップS10のサブルーチンを概略的に示しており、これは、試料中に存在する任意の細菌細胞のグラム分類を決定するための一実施形態に従っている。この実施形態は、特に、UTIに罹患している対象から採取された尿試料などの生物学的試料中に存在する細菌細胞を分類するのに適している。
【0074】
この実施形態では、生物学的試料からの細菌細胞を、図2のステップS1~S3に対応する4つの異なる処理にさらす。第1の処理は、リネゾリド(LIN)とバンコマイシン(VAN)の組み合わせを含み、第2の処理は、アモキシシリン及びクラブラン酸(AMC)を含み、第3の処理は、ホスホマイシン(FOS)を含み、第4の処理は、塩化ナトリウム(NaCl)による塩処理を含む。第1の処理におけるLIN/VANの組み合わせは、一般的にグラム陽性細菌に対して有効であるが、グラム陰性細菌に対しては抗菌活性が全くまたはほとんどない。一方、NaClを使用した塩処理は、一般的にグラム陰性細菌に対しては効果的であるが、グラム陽性細菌に対する抗菌活性は低く、特にStaphylococcusに対してはほとんどまたは全く影響がない。第2の処理で使用されるAMCは、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の両方に対して幅広い抗菌活性を有している。しかし、一般的にStaphylococcusに対する抗菌作用はEnterococcusに対する抗菌作用より緩やかになる。第3の処理で使用されるFOSは、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の両方に対して幅広い抗菌活性を有している。しかし、一般的にStaphylococcusに対する抗菌作用はEnterococcusに対する抗菌作用より緩やかになる。生物学的試料からの細菌細胞は、それぞれの処理に並行してさらすことが好ましい。この例では、それぞれの処理期間後に各処理についてそれぞれの影響パラメータを決定し、次に、それぞれのカットオフ値またはしきい値と比較する。それぞれの処理期間は、同じであってもよいが、通常は異なり、特定の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物、または塩もしくは塩混合物に合わせて調整される。
【0075】
一実施形態では、影響パラメータは、各抗菌剤または抗菌剤混合物(LIN/VAN、AMC、FOS)のロジスティック関数に当てはめられた正規化増殖速度のそれぞれの減少、または塩処理における増殖速度の低下(当てはめられたデータではなく、設定された時間での平均正規化増殖速度)である。ある実施形態では、LIN/VANは単一の処理であるが、AMC及びFOSの場合、影響パラメータは「用量反応曲線」、つまり各抗生物質のすべての有効な処理の設定された時点における抗生物質の影響に当てはめられたロジスティック曲線に基づいている。次に影響パラメータを、近似曲線に基づき、所定の濃度での正規化された増殖速度の低下として規定する。
【0076】
グラム分類では、まず、有効な形態データと有効なLIN/VANデータが利用可能かどうかを確認する(図4のステップS20とS21を参照)。有効な形態特性とLIN/VANのデータが利用可能な場合、グラム分類を、形態特性とLIN/VANに対する細菌細胞の表現型特性応答の線形判別分析(LDA)に基づいて決定する。
【0077】
有効な形態データは、マイクロ流体チップ10内の単数または複数の参照組または対照組130の少なくとも最小数の細胞流路140が、例えば、球菌または桿菌のいずれかを含むものとして分類されているということを意味する。この最小数は、ある数(たとえば25)の細胞流路140であり得、これは、例えば球菌または桿菌を含むと分類されている単数または複数の参照組または対照組130の細胞流路140の最小割合である。
【0078】
LIN/VANデータあるいは実際他の抗菌剤や抗菌剤混合物の処理に関するデータが無効となる理由には、細胞流路140内の細菌細胞の画像分析で気泡が検出されること、細菌細胞を含む流路が少なすぎること、捕捉された細胞の数がマイクロ流体チップ10内の他の処理から大きく外れていること(その処理に問題があることを示す)、あるいは、その処理における増殖速度データのノイズが多すぎて、ロジスティック曲線を大きな誤差なしでデータポイントに当てはめることができないことが考えられる。
【0079】
LDAは、正規判別分析(NDA)または判別関数分析とも呼ばれ、オブジェクトまたはイベントの2つ以上のクラスを特徴付けたり区別したりする特徴の線形結合を見つけるために使用される方法である。得られる組み合わせは、細菌細胞をグラム陽性またはグラム陰性として分類するための線形分類子として使用される。
【0080】
有効なLIN/VANデータが利用可能ではない一方、有効な形態データが利用可能な場合、細菌細胞の形態特性に基づいてグラム分類を行い、細菌細胞をグラム陽性またはグラム陰性として分類する。たとえば、細菌細胞について決定した形態特性が桿菌または桿菌状である場合、グラム分類はグラム陰性となる。一方、細菌細胞について決定した形態特性が球菌または球菌状である場合、グラム分類はグラム陽性となる。
【0081】
一方、有効な形態データが利用可能ではないが、有効なLIN/VANデータが利用可能である場合、LIN/VANの組み合わせに対して決定した影響パラメータに基づいて、細菌細胞をグラム陽性またはグラム陰性として分類する。したがって、細菌細胞をLIN/VANに対して感受性であると決定した場合、細菌細胞をグラム陽性として分類し、一方、細菌細胞をLIN/VANに対して耐性であると決定した場合、細菌細胞をグラム陰性として分類する。
【0082】
有効な形態データもLIN/VANデータも利用可能でない場合、図2のステップS2で実行される塩処理を、代替的または補助的な分類として使用する。このような場合、塩処理に対して感受性である場合、細菌細胞をグラム陰性として分類し、塩処理に対して耐性である場合、細菌細胞をグラム陽性として分類する。有効な塩処理データも利用可能でない場合は、グラム分類を行うことはできない(該当なし(N/A))。
【0083】
別の実施形態では、図3のステップS10は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含むことが好ましい。
【0084】
したがって、この特定の実施形態では、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物及び塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答を、ステップS10でグラム分類を決定するために(たとえば、細菌細胞がグラム陽性であるかグラム陰性であるかを決定するために)使用する。
【0085】
図7は、一実施形態に従う図3のステップS10のサブルーチンを示すフローチャートである。次のステップS30は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の第1のグラム分類候補を決定することを含む。これに対応して、ステップS31は、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の第2のグラム分類候補を決定することを含む。
【0086】
これらのステップS30及びS31は、任意の順序で連続的に実行してもよいし、少なくとも部分的に並行して実行してもよい。
【0087】
次のステップS32は、一実施形態において、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補の両方が同じグラム分類を示している場合、細菌細胞のグラム分類を、第1のグラム分類候補及び第2のグラム分類候補によって示されるグラム分類であると決定することを含む。
【0088】
したがって、この実施形態は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物及び塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞のそれぞれのグラム分類候補を決定する。グラム分類候補を、それぞれの表現型特性応答に基づき決定される予備的または暫定的なグラム分類とみなすことができる。次に、2つのグラム分類候補を互いに比較し、両方が同じグラム分類を示している場合(例えば、両方ともグラム陽性を示しているか、両方ともグラム陰性を示している場合)、細菌細胞のグラム分類を、両方のグラム分類候補によって示されるグラム分類であると決定する。
【0089】
別の実施形態では、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補が異なるグラム分類を示す場合、図7のステップS32は、細菌細胞のグラム分類を事前に規定されたグラム分類として決定することを含むことが好ましい。
【0090】
この実施形態では、2つのグラム分類候補は異なるグラム分類を示し、すなわち、一方はグラム陽性を示し、他方はグラム陰性を示すか、または一方または両方のグラム分類候補が定義できないグラム分類を示す。このような場合、ステップS32において、細菌細胞に事前規定されたグラム分類を割り当てる。
【0091】
一実施形態では、この事前規定されたグラム分類はグラム陽性である。別の好ましい実施形態では、この事前規定されたグラム分類はグラム陰性である。
【0092】
したがって、好ましい実施形態では、細菌細胞のグラム分類は、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補の両方が同じグラム分類(グラム陽性またはグラム陰性)を示している場合、第1及び第2のグラム分類候補によって示されるグラム分類に等しいと決定し、そうでない場合は、事前規定されたグラム分類、好ましくはグラム陰性であると決定する。
【0093】
一実施形態では、図2に示す方法は追加のステップS3を含む。このステップS3は、生物学的試料からの細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。次に、方法はステップS5に進むか、任意であるステップS4のいずれかに進む。
【0094】
この実施形態では、ステップS1、S2及びS3を任意の順序で連続して実行してもよいが、少なくとも部分的に並行して実行するのが好ましい。この後者の好ましい場合、生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、これと並行して、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を塩または塩混合物にさらし、さらに該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらす。
【0095】
一実施形態では、図3の任意であるステップS11は、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、好ましくはさらに第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の属分類を決定することを含むことが好ましい。
【0096】
したがって、この特定の実施形態では、第2及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物、好ましくはさらに第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答を使用して、ステップS11で属分類を決定する(たとえば、細菌細胞が第1の属であるか第2の属であるかを決定する)。
【0097】
別の実施形態では、ステップS11は、第1、第2及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の属分類を決定することを含む。この実施形態はさらに、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物の1つのみに対して細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物の1つに対する細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて、ステップS11で細菌細胞の属分類を決定することを含む。
【0098】
図8は、一実施形態に従う図3のステップS11のサブルーチンを示すフローチャートである。この方法は、図3のステップS10から進む。次のステップS40は、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の第1の属分類候補を決定することを含む。これに対応して、ステップS41は、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞の第2の属分類候補を決定することを含む。
【0099】
これらのステップS40及びS41は、任意の順序で連続的に実行してもよいし、少なくとも部分的に並行して実行してもよい。
【0100】
次のステップS42は、一実施形態において、第1の属分類候補と第2の属分類候補の両方が同じ属分類を示している場合、細菌細胞の属分類を、第1の属分類候補と第2の属分類候補によって示される属分類であると決定することを含む。
【0101】
したがって、この実施形態は、第2及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、細菌細胞のそれぞれの属分類候補を決定する。属分類候補は、それぞれの表現型特性応答に基づいて決定される予備的または暫定的な属分類とみなすことができる。次に、2つの属分類候補を互いに比較し、両方が同じ属分類を示している場合、すなわち、両方が同じ属を示している場合、細菌細胞の属分類を、両方の属分類候補によって示される属分類であると決定する。
【0102】
別の実施形態において、第1の属分類候補と第2の属分類候補が異なる属分類を示す場合、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答を使用して、属分類を決定する。
【0103】
したがって、この実施形態では、方法は、ステップS3と、図2のステップS2において細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことの両方を含む。次に、図8のステップS42は、第1の属分類候補と第2の属分類候補が異なる属分類を示す場合、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の属分類を決定することを含む。
【0104】
この実施形態では、2つの属分類候補は異なる属分類を示し、すなわち、一方が1つの属を示し、他方が別の属を示すか、または一方または両方の属分類候補が、定義できない属分類を示す。このような場合、ステップS42において、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づき、細菌細胞の属分類を決定する。
【0105】
図9は、一実施形態に従う図3の分類ステップS12のサブルーチンを示すフローチャートである。この実施形態では、グラム分類が第1のグラム分類である場合、細菌細胞をステップS50で第1の目として分類する。一方、グラム分類が第2のグラム分類であり、属分類が第1の属分類である場合、細菌細胞をステップS51で第1の属として分類する。さらに、グラム分類が第2のグラム分類であり、属分類が第2の属分類である場合、ステップS52で細菌細胞を第2の属として分類する。
【0106】
すなわち、図3のステップS10及びS11、または図7のステップS32及び図8のステップS42で決定されたグラム分類及び属分類を、図9に示す実施形態において、細菌細胞が第1の目、第1の属、または第2の属に属するかどうかを決定するために使用する。
【0107】
図8に示す実施形態の具体的で非限定的な例として、グラム分類がグラム陰性である場合、細菌細胞をステップS50でEnterobacteralesに分類する。この例において、グラム分類がグラム陽性であり、属分類がStaphylococcusである場合、細菌細胞をステップS51でStaphylococcusとして分類する。この例において、グラム分類がグラム陽性であり、属分類がEnterococcusである場合、ステップS52は、細菌細胞をEnterococcusとして分類することを含む。
【0108】
この特定の例では、図7のステップS30及びS31で決定されたグラム分類候補はしたがって、グラム陽性またはグラム陰性を示し、図8のステップS40及びS41で決定された属分類候補は、StaphylococcusまたはEnterococcusを示す。
【0109】
上記の例は、特に、尿路感染症(UTI)に罹患している対象から採取された生物学的試料、特に尿試料から細菌細胞を検査し分類するのに適している。
【0110】
図2のステップS1~S3で使用される第1~第3の抗菌剤または抗菌剤混合物及び塩または塩混合物は、溶媒、特に培養培地に溶解されていることが好ましい。そのような場合、全ての抗菌剤または抗菌剤混合物、及び塩混合物の塩に対して、同じ溶媒、例えば同じ培地を使用することが好ましい。
【0111】
一実施形態では、方法は、生物学的試料からの細菌細胞を培養培地などの溶媒にさらすことも含む。このような場合、図2のステップS5は、好ましくは、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iii)培養培地などの溶媒に対する細菌細胞の参照表現型特性応答に少なくとも基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0112】
一例として、正規化された表現型特性応答を、第1または第2の抗菌剤または抗菌剤混合物あるいは塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と参照特性応答との商として決定することができる。すなわち、図2のステップS5は、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の正規化された表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の正規化された表現型特性応答、及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の正規化された表現型特性応答に基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0113】
たとえば、正規化された表現型特性応答に基づいて、0~1の範囲の影響パラメータを算出することができる。このような影響パラメータを、1-正規化された表現型応答、すなわち
【数1】
として算出し、式中、
【数2】
は、第1または第2の抗菌剤または抗菌剤混合物によって処理され、したがって、第1または第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらされた細菌細胞の表現型特性応答を表し、
【数3】
は、抗菌剤または抗菌剤混合物を含まない培地などの溶媒にさらされた細菌細胞の参照表現型特性応答を表す。
【0114】
一例として、第1の影響パラメータを、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び参照特性応答に基づいて算出し、第2の影響パラメータを、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び参照特性応答に基づいて算出する。このような例では、ステップS5における細菌細胞の分類は、第1の影響パラメータと第2の影響パラメータに基づいて行うことができる。
【0115】
参照特性応答を使用して影響パラメータを計算する上記の実施形態は、ステップS10でのグラム分類の決定、ステップS11での属分類の決定、ステップS30での第1のグラム分類候補の決定、ステップS31での第2のグラム分類候補の決定、ステップS40での第1の属分類候補の決定、及び/またはステップS41での第2の属分類候補の決定にも適用できる。例えば、上で述べた
【数4】
は、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物によって処理され、したがって第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらされたか、または塩または塩混合物によって処理され、したがって塩または塩混合物にさらされた細菌細胞の表現型特性応答を表すことができる。
【0116】
細菌細胞を単に培養培地などの溶媒にさらすことは、図2のステップS4において細菌細胞の少なくとも1つの形態特性を決定するのにも有利である。したがって、培養培地などの溶媒にさらした捕捉細菌細胞を含む細胞流路140の少なくとも1つの画像、典型的には複数の画像を撮影する。次に、細菌細胞の暫定的分類を、好ましくは、桿菌状(桿菌)または球菌状(球菌)として、出力するため、1つまたは複数の画像を、本明細書で上述したようにニューラルネットワーク(ディープラーニングモデル)に入力する。
【0117】
一実施形態において、細菌細胞の第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、図2のステップS5は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答とに少なくとも基づいて、細菌細胞を分類することを含む。一実施形態において、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、図2のステップS5は、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答とに少なくとも基づいて、細菌細胞を分類することを含む。
【0118】
図6は、分類の一実施形態を概略的に示す。この実施形態は、特に、UTIに罹患している対象から採取された尿試料などの生物学的試料中に存在する細菌細胞を分類するのに適している。
【0119】
この実施形態では、図5に従って実行されるようなグラム分類により細菌細胞をグラム陰性であると分類した場合、細菌細胞をEnterobacteralesとして分類する。しかし、図5で代わりに細菌細胞をグラム陽性であると分類する場合、分類は、さまざまな処理に対する応答に基づく。
【0120】
この実施形態では、生物学的試料からの細菌細胞を、4つの異なる処理にさらす。第1の処理は、図2のステップS1のLINとVANの組み合わせを含み、第2の処理は、図2のステップS2のAMCを含み、第3の処理は、図2のステップS3のFOSを含み、第4の処理は、図2のステップS2の塩化ナトリウム(NaCl)による塩処理である。
【0121】
任意である検証ステップを最初に実行し、属分類を実行するための有効なLIN/VAN、FOS、AMC、及び/または塩のデータが利用可能かどうかを確認する。特に、この検証ステップは、LIN/VAN、FOS、AMC、及び塩のデータのうち少なくとも2つの有効なデータが利用可能かどうかを確認するために実行する。そのようなデータが利用可能でない場合、属の分類はできず、細菌細胞を未確認として分類する。一方、これらの処理の少なくとも2つから有効なデータが利用可能である場合、LDAに基づく分類を実行する。LDAに基づくグラム陽性分類は、まず各処理(AMC、FOS、LIN/VAN)の抗生物質の影響(ロジスティック関数に当てはめた正規化増殖速度の低下)と塩処理における増殖速度の低下(当てはめたデータではなく、設定された時間での平均正規化増殖速度)とを計算することによって実行する。LIN/VANは単一の処理であるが、AMC及びFOSの場合、影響は、「用量反応曲線」、すなわち各抗生物質のすべての有効な処理の設定された時点における抗生物質の影響に当てはめたロジスティック曲線に基づく。次に、影響を、近似曲線に基づき、AMC及びFOSの特定の濃度における正規化増殖速度の低下として規定する。次に、これらの影響値を、[AMCの影響,FOSの影響,塩による増殖速度低下,LIN/VANの影響]などの形式で、ベクトルとして使用する。ある変数が欠落している場合、それをベクトルから除外する一方、残りの変数の順序は保持することが好ましい。データセットが完全であるか、変数AMC、FOS、またはLIN/VANのうち1つの変数のみが欠落している場合、塩による増殖速度低下は、通常最もノイズの多いデータであるため、ベクトルから除外する。
【0122】
たとえば、AMC、FOS、及びLIN/VANの処理からの有効なデータが利用可能であると仮定する。このような場合、ベクトルを[AMCの影響,FOSの影響,LIN/VANの影響]として規定する。一方、AMC、FOS、LIN/VANの処理のうち2つ、たとえばAMCとLIN/VANの処理からの有効なデータが利用可能であると仮定すると、ベクトルは[AMCの影響,LIN/VANの影響]として規定される。しかし、AMC、FOS、及びLIN/VANの処理のいずれか1つからしか有効なデータが利用可能でない場合で、有効なLIN/VANデータは利用可能であるがAMCもFOSもデータが利用可能でない場合、[塩による増殖速度低下,LIN/VANの影響]のように、塩処理からのデータを、ベクトルに含める。
【0123】
大きなキャリブレーションデータセットに基づき、投影されるデータの分散を最大にするデータの共分散行列(主成分)の固有ベクトルを計算した。次に、2つのベクトルのドット積を計算することによって、ベクトルを固有ベクトルに投影する。結果として得られるスカラーを、しきい値と比較して分類(pID)を決定するために使用する。次に、細菌細胞をStaphylococcusまたはEnterococcusのいずれかに分類する。
【0124】
たとえば、ベクトル[AMCの影響,FOSの影響,LIN/VANの影響]が[0.1,0.1,0.9]であり、固有ベクトルが[0.7,0.7,-0.2]である場合、得られるスカラーは、2つのベクトルのドット積[0.1,0.1,0.9]・[0.7,0.7,-0.2]=-0.04となる。この値が所定のしきい値(たとえば0.5)を下回る場合、この例では、分類はEnterococcusとなる。
【0125】
したがって、一実施形態において、細菌細胞が事前に規定したグラム分類、好ましくはグラム陽性である場合、細菌細胞を分類することは、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞を分類することを含む。
【0126】
特定の実施形態では、細菌細胞を分類することは、細菌細胞をStaphylococcusまたはEnterococcusとして分類することを含む。
【0127】
一実施形態では、この方法は、図2に示すようにステップS3を含む。このステップS3は、生物学的試料からの細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。このような実施形態では、細菌細胞を分類することは、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答のうちの少なくとも2つに基づいて細菌細胞を分類することを含む。
【0128】
一実施形態において、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、細菌細胞を分類することは、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞を分類することを含む。別の実施形態において、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの1つのみに対して細菌細胞の表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、細菌細胞を分類することは、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物の1つに対する細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて、細菌細胞を分類することを含む。
【0129】
図10図13は、一実施形態に従う図2の分類ステップS5のサブルーチンを概略的に示す。この実施形態は、特に、UTIに罹患している対象から採取された尿試料などの生物学的試料中に存在する細菌細胞を分類するのに適している。
【0130】
この実施形態では、生物学的試料からの細菌細胞を、4つの異なる処理(Tr1~Tr4)にさらす。第1の処理Tr1は、リネゾリド(LIN)とバンコマイシン(VAN)の組み合わせを含み、第2の処理Tr2は、塩化ナトリウム(NaCl)による塩処理を含み、第3の処理Tr3は、アモキシシリン及びクラブラン酸(AMC)を含み、第4の処理Tr4は、ホスホマイシン(FOS)を含む。第1の処理Tr1におけるLIN/VANの組み合わせは、一般的にグラム陽性細菌に対して有効であるが、グラム陰性細菌に対しては抗菌活性が全くまたはほとんどない。一方、NaClを使用する塩処理Tr2は、一般的にグラム陰性細菌に対して効果的であるが、グラム陽性細菌に対する抗菌活性は低く、特にStaphylococcusに対してはほとんどまたは全く影響がない。第3の処理Tr3で使用されるAMCは、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の両方に対して幅広い抗菌活性を有する。しかし、一般的にStaphylococcusに対する抗菌作用はEnterococcusに対する抗菌作用よりも緩やかになる。第4の処理Tr4で使用されるFOSは、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌の両方に対して幅広い抗菌活性を有する。しかし、一般的にStaphylococcusに対する抗菌作用はEnterococcusに対する抗菌作用よりも緩やかになる。生物学的試料からの細菌細胞は、それぞれの処理に並行してさらすことが好ましい。この例では、それぞれの処理期間(T1~T5)後に各処理についてそれぞれの影響パラメータを決定し、次にそれぞれのカットオフ値またはしきい値と比較する。それぞれの処理期間T1~T5は、同じであってもよいが、通常は異なり、特定の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物、または塩もしくは塩混合物に合わせて調整される。
【0131】
より詳細には、Tr1影響パラメータを、第1のグラムカットオフ値またはしきい値と比較し、それが第1のグラムカットオフ値またはしきい値を超える場合、細菌細胞の第1のグラム分類候補をグラム陽性として設定し、それ以外の場合はグラム陰性として設定する。一方、Tr2影響パラメータを、第2のグラムカットオフ値またはしきい値と比較し、それが第2のグラムカットオフ値またはしきい値を超える場合、細菌細胞の第2のグラム分類候補をグラム陰性として設定し、それ以外の場合はグラム陽性として設定する。
【0132】
Tr3影響パラメータを、第1の属カットオフ値またはしきい値と比較し、それが第1の属カットオフ値またはしきい値を超える場合、細菌細胞の第1の属分類候補をEnterococcusとして設定し、それ以外の場合はStaphylococcusとして設定する。一方、Tr4影響パラメータを、第2の属カットオフ値またはしきい値と比較し、それが第2の属カットオフ値またはしきい値を超える場合、細菌細胞の第2の属分類候補をEnterococcusとして設定し、それ以外の場合はStaphylococcusとして設定する。
【0133】
図11は、一実施形態に従う分類プロセスのグラム型分類を概略的に示す。この実施形態では、これら2つの処理からのグラム試験の結果が同じである場合、すなわち、両方ともグラム陽性またはグラム陰性を示している場合、細菌細胞のグラム分類を、第1の処理Tr1及び第2の処理Tr2からのグラム試験結果として選択する。2つのグラム試験結果が同じでない場合、グラム分類を、事前規定されたグラム分類(この場合はグラム陰性)として選択する。事前規定されたグラム分類としてグラム陰性を使用することは、特に、UTIに罹患している対象から採取された尿試料などの生物学的試料を分析するのに適している。その理由は、このようなUTIはグラム陽性細菌よりもグラム陰性細菌によって引き起こされることが多く、まれに2つの処理Tr1及びTr2による分類で不一致が生じた場合、グラム陰性を選択するのが好ましいからである。
【0134】
図12は、一実施形態に従う分類プロセスの属分類を概略的に示す。この実施形態では、これら2つの処理からの属試験結果が同じである場合、すなわち、両方ともStaphylococcusまたはEnterococcusを示している場合、細菌細胞の属分類は、第3の処理Tr3及び第4の処理Tr4からの属試験結果として選択する。第3と第4の処理Tr3、Tr4の試験結果が同じでない場合、代わりに塩(NaCl)に基づく属分類、つまり第2の処理Tr2を使用する。一般的にEnterococcus細菌は、Staphylococcus細菌に比べて塩に対する耐性が低い。したがって、第3と第4の処理Tr3、Tr4が異なる属試験結果をもたらす場合、塩処理Tr2を確認検証処理として使用できる。Tr2影響パラメータを、第3の属カットオフ値またはしきい値と比較し、それが第3の属カットオフ値またはしきい値を超える場合、細菌細胞の属分類をEnterococcusに設定し、それ以外の場合は、Staphylococcusに設定する。
【0135】
図13は、一実施形態に従う分類プロセスの最終細菌分類を概略的に示す。この実施形態では、まず図11のグラム分類を分析する。それがグラム陰性を示す場合、細菌細胞をEnterobacteralesであると分類する。しかし、代わりにグラム分類がグラム陽性を示している場合、図12で決定された属分類を使用して、細菌細胞をStaphylococcusまたはEnterococcusのいずれかに分類する。
【0136】
一実施形態では、生物学的試料からの細菌細胞を分類する方法は、細菌細胞をいかなる抗菌剤または抗菌剤混合物にもさらしていない間、生物学的試料から細菌細胞を複数の時点でモニターすることを含む。この方法はまた、生物学的試料からの細菌細胞を抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことも含む。この方法はさらに、複数の時点における細菌細胞のモニタリングに基づいて細菌細胞の形態分類を決定することを含む。この方法はさらに、形態分類及び抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0137】
一実施形態では、細菌細胞をモニターすることは、細菌細胞がいかなる抗菌剤または抗菌剤混合物にもさらされていない状態で、複数の細胞流路に捕捉された生物学的試料からの細菌細胞をモニターすることを含む。この実施形態では、形態分類を決定することは、複数の流路の各細胞流路について、複数の時点の各時点において、細胞流路に捕捉された細菌細胞の暫定的な流路固有の形態分類を決定することと、該暫定的な流路固有の形態分類に基づいて、細胞流路に捕捉された細菌細胞の流路固有の形態分類を決定することと、該流路固有の形態分類に基づいて、細菌細胞の形態分類を決定することと、を含む。
【0138】
一実施形態では、暫定的な流路固有の形態分類を決定することは、細胞流路内の細菌細胞の画像と、細菌細胞の画像に基づいて細菌細胞を分類するように訓練されたコンピュータにより実施される形態分類モデルとに基づいて、複数の時点の各時点において、細菌細胞の暫定的な流路固有の形態分類を決定することを含む。
【0139】
一実施形態では、流路固有の形態分類を決定することは、暫定的な流路固有の形態分類の少なくとも最小部分が第1の分類を示す場合、流路固有の形態分類を第1の流路固有の形態分類として決定すること、暫定的な流路固有の形態分類の少なくとも最小部分が第2の分類を示す場合、流路固有の形態分類を第2の流路固有の形態分類として決定すること、それ以外の場合、不確定として決定することを含む。この実施形態では、形態分類を決定することは、第1の分類として分類された細胞流路の数と第2の分類として分類された細胞流路の数との商に基づいて、細菌細胞の形態分類を決定することを含む。
【0140】
一実施形態では、細菌細胞を分類することは、形態分類及び抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて生物学的試料からの細菌細胞のグラム分類を決定することと、少なくとも部分的にグラム分類に基づいて生物学的試料からの細菌細胞の属分類を決定することと、を含む。
【0141】
一実施形態では、属分類を決定することは、グラム分類が第1のグラム分類を示す場合、細菌細胞の属分類を第1の属として決定することを含む。
【0142】
一実施形態では、細菌細胞をさらすことは、複数の細胞流路の複数の組のうちの複数の細胞流路の各組について、複数の細胞流路の組に捕捉された生物学的試料からの細菌細胞をそれぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。この実施形態では、属分類を決定することは、グラム分類が第2のグラム分類を示す場合、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて属分類を決定することを含む。
【0143】
一実施形態では、属分類を決定することは、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物における各抗菌剤または抗菌剤混合物について、抗菌剤または抗菌剤混合物への曝露に応答した細菌細胞の増殖速度の低下を決定することと、グラム分類が第2のグラム分類を示す場合、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物への曝露に応答した細菌細胞の増殖速度の低下に基づいて属分類を決定することと、を含む。
【0144】
一実施形態では、属分類を決定することは、細菌細胞の増殖速度の低下のベクトルと増殖速度較正データの共分散行列の固有ベクトルとのドット積を計算してスカラー値を取得することと、スカラー値としきい値との比較に基づいて属分類を決定することと、を含む。
【0145】
一実施形態では、この方法は、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答の有効性を決定することをさらに含む。この実施形態において、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答が有効でないと判断した場合、細菌細胞を分類することは、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答ではなく、形態分類に基づいて生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0146】
一実施形態では、この方法はさらに、細菌細胞の形態分類の有効性を決定することを含む。一実施形態では、細菌細胞をさらすことは、複数の細胞流路の複数の組のうちの複数の細胞流路の各組について、複数の細胞流路の組に捕捉された生物学的試料からの細菌細胞をそれぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。この実施形態において、細菌細胞の形態分類が有効でないと判断した場合、細菌細胞を分類することは、細菌細胞の形態分類ではなく、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて生物学的試料からの細菌細胞を分類することを含む。
【0147】
一実施形態では、細菌細胞を分類することは、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞のグラム分類を決定することと、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の属分類を決定することと、グラム分類及び属分類に基づいて細菌細胞を分類することと、を含む。
【0148】
一実施形態では、この方法はさらに、生物学的試料からの細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことを含む。この実施形態では、グラム分類を決定することは、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて、細菌細胞のグラム分類を決定することを含む。
【0149】
一実施形態では、グラム分類を決定することは、第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第1のグラム分類候補を決定することと、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第2のグラム分類候補を決定することと、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補の両方が同じグラム分類を示す場合、細菌細胞のグラム分類を、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補によって示されるグラム分類であると決定することと、第1のグラム分類候補と第2のグラム分類候補が異なるグラム分類を示す場合、細菌細胞のグラム分類を、事前規定されたグラム分類であると決定することと、を含む。
【0150】
一実施形態では、この方法はさらに、生物学的試料からの細菌細胞を、それぞれの抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。この実施形態では、属分類を決定することは、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答と、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて、細菌細胞の属分類を決定することを含む。
【0151】
一実施形態では、属分類を決定することは、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第1の属分類候補を決定することと、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第2の属分類候補を決定することと、第1の属分類候補と第2の属分類候補の両方が同じ属分類を示す場合、細菌細胞の属分類を、第1の属分類候補及び第2の属分類候補によって示される属分類であると決定することと、を含む。
【0152】
一実施形態では、この方法はさらに、生物学的試料からの細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことを含む。この実施形態では、属分類を決定することは、第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第1の属分類候補を決定することと、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の第2の属分類候補を決定することと、第1の属分類候補と第2の属分類候補が異なる属分類を示す場合、塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて細菌細胞の属分類を決定することと、を含む。
【0153】
一実施形態では、細菌細胞を分類することは、グラム分類が第1のグラム分類である場合に細菌細胞を第1の目として分類することと、グラム分類が第2のグラム分類であり、属分類が第1の属分類である場合に、細菌細胞を第1の属として分類することと、グラム分類が第2のグラム分類であり、属分類が第2の属分類である場合に、細菌細胞を第2の属として分類することと、を含む。
【0154】
一実施形態では、細菌細胞を分類することは、グラム分類がグラム陰性である場合に細菌細胞をEnterobacteralesとして分類することと、グラム分類がグラム陽性分類であり、属分類がStaphylococcusである場合に細菌細胞をStaphylococcusとして分類することと、グラム分類がグラム陽性であり、属分類がEnterococcusである場合に細菌細胞をEnterococcusとして分類することと、を含む。
【0155】
図2に示す方法(図3~13に示す実施形態を含む)によって決定された生物学的試料からの細菌細胞の分類は、前述のように、試験抗菌剤のCBPを決定または選択するために使用できる。かくして、細菌細胞の分類、たとえば上記の例のEnterobacterales、StaphylococcusまたはEnterococcusによる細菌細胞の分類を、公開されたCBP値のリスト(例えばEUCASTまたはCLSIから入手できる)から1つ以上の抗菌剤のCBPを決定または選択するための入力として使用できる。
【0156】
また細菌細胞の分類を、図5に示すように、細菌細胞の分析の一部として実行することもできる。
【0157】
図14は、細菌を分析する方法を示すフローチャートである。該方法は、ステップS60において生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらすことを含む。次のステップS61は、図2~13を参照して本明細書で前述したような細菌細胞の分類に相当する。したがって、このステップS61は、少なくとも図2のステップS1、S2、及びS5を含み、好ましくは図2のステップS3及びS4をさらに含む。生物学的試料からの細菌細胞を、図2のステップS1で第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、図2のステップS2で第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または塩または塩混合物にさらす。
【0158】
ステップS60、S1及びS2は、任意の順序で連続して実行してもよいが、少なくとも部分的に並行して実行するのが好ましい。この後者の好ましい場合、生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらし、これに並行して、該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、さらに該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または該生物学的試料からのさらなる細菌細胞を塩または塩混合物にさらす。
【0159】
図2の次のステップS5は、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞を分類することを含む。
【0160】
したがって、ステップS61は、図2のステップS1、S2、及びS5に対応することが好ましく、したがって、図2を参照して前述したように、または図3図13のいずれかまたはすべてを参照して前述した実施形態のいずれかのように実行することができる。したがって、一実施形態では、図14に示す方法はさらに、図2のステップS3に対応して第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に細菌細胞をさらすこと、図2のステップS2に対応して塩または塩混合物に細菌細胞をさらすこと、及び/または図2のステップS4に対応して細菌細胞の少なくとも1つの形態特性を決定することを含んでもよい。
【0161】
次のステップS62は、図2のステップS5で細菌細胞を分類した結果に基づいて、ステップS60で使用した試験抗菌剤のCBPを決定することを含む。この方法はまた、試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、試験抗菌剤のMICを決定することを含む。次に、ステップS64でMICをCBPと比較する。
【0162】
一実施形態では、この方法は、図15に示すように追加のステップS65を含む。このステップS65は、MICとCBPの比較に基づいて、細菌細胞が試験抗菌剤に対して感受性であるかどうかを判断することを含む。
【0163】
より詳細には、ステップS63で決定されたMICがステップS62で決定または選択されたCBPを下回る場合、細菌株を、試験抗菌剤に対して感受性(S)であると分類し、一方、MICがCBPを上回る場合、細菌株を、試験抗菌剤に対して耐性(R)であると分類する。
【0164】
前述のように、ある場合、抗菌剤及び目/科/属/種に対して、感受性CBP値及び耐性CBP値の2つのCBP値が利用可能であり、したがって、2つのCBP値をステップS62で細菌細胞に対して決定することができる。このような場合、ステップS63で決定されたMIC値を、ステップS62で決定された感受性CBP値及び耐性CBP値と比較して、細菌細胞が試験抗菌剤に関して感受性(S)、耐性(R)、または中間(I)の表現型であるかどうかを決定できる。
【0165】
生物学的試料からの細菌細胞を培地などの溶媒にさらすこと、参照表現型特性応答を決定して使用すること、それぞれの影響パラメータを計算することに関する上記説明は、図14及び15の分析方法にも当てはまる。
【0166】
図14の分析方法は、単一の試験抗菌剤の試験に限定されるものではない。一方明らかなとおり、複数の異なる試験抗菌剤を、好ましくは並行して試験することができる。例えば、一実施形態では、ステップS60は、生物学的試料からの細菌細胞を第1の試験抗菌剤にさらすことと、生物学的試料からの細菌細胞を第2の試験抗菌剤にさらすことと、を含む。この実施形態では、ステップS62は、第1の抗菌剤の第1のCBPと、第2の抗菌剤の第2のCBPを決定することを含む。ステップS63は、この実施形態において、第1の試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて第1の試験抗菌剤の第1のMICを決定することと、第2の試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて第2の試験抗菌剤の第2のMIC濃度を決定することと、を含む。次に、ステップS64で、第1のMICを第1のCBPと比較し、第2のMICを第2のCBPと比較する。
【0167】
上記のアプローチは、2種類より多い異なる試験抗菌剤の試験にも拡張できる。
【0168】
上記の実施形態では、ステップS1、S2、S3、S60、S61において、細菌細胞を、それぞれ単一の濃度の第1~第3の抗菌剤または抗菌剤混合物、試験抗菌剤、あるいは塩または塩混合物にさらすことができる。あるいは、生物学的試料からの細菌細胞を、ステップS1、S2、S3、S60、S61において、複数の異なる濃度の第1~第3の抗菌剤または抗菌剤混合物、試験抗菌剤、あるいは塩または塩混合物のいずれかまたはすべてにさらしてもよい。
【0169】
前者の場合、それぞれ単一の濃度の第1、第2、もしくは第3の抗菌剤、または試験抗菌剤、あるいは塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答が利用可能であり、それをステップS5、S10、S11、S22、S25、S30、S31、S40、S41、S63で使用する。後者の場合、それぞれ複数の濃度の第1、第2、もしくは第3の抗菌剤、または試験抗菌剤、あるいは塩または塩混合物に対する細菌細胞の複数の表現型特性応答が利用可能であり、それらをステップS5、S10、S11、S22、S25、S30、S31、S40、S41、S63で使用することができる。
【0170】
一例として、図16に示すような用量反応曲線を、関連する抗菌剤または抗菌剤混合物あるいは塩または塩混合物の濃度に対して増殖速度への影響をマッピングまたはプロットすることにより生成できる。一実施形態では、増殖速度への影響の形式である影響パラメータは、細菌細胞の正規化された増殖速度パラメータであり、これは1-処理された細菌細胞の平均増殖速度を未処理の細菌細胞の平均増殖速度で正規化した値、すなわち
【数5】
を表す。式中、GRIは増殖速度への影響を表し、
【数6】
は処理された細菌細胞の平均増殖速度を表し、
【数7】
は未処理の細菌細胞(すなわち、特定の抗菌剤または抗菌剤混合物あるいは塩または塩混合物にさらされておらず、単に培養培地などの溶媒にさらされた参照または対照の細菌細胞)の平均増殖速度を表す。
【0171】
さらに詳しくは、図16は、個別のマイクロ流体デバイスで試験されている固有の細菌分離株を示している。これらの分離株は、参照法で測定されたMIC(抗生物質に対する感受性の度合い)が異なり得、それは図の右側の線のコードによって示されている。図16のデータは、同じマイクロ流体デバイス内で適用された抗生物質の濃度(x軸)の関数として、各分離株の増殖速度への影響(y軸)がどのように変化するかを示している。点線(y=0.5)と各曲線の切片は、MICを予測するために調整された影響濃度の測定値に対応する。したがって、図16の破線で示されるように、事前に決定されたしきい値を有する用量反応曲線の切片から、影響濃度を計算することができる。さらに図17に示すように、従来の培養に基づくMIC法を使用して決定された参照MIC値と影響濃度との間には相関関係がある。
【0172】
特定の実施形態では、ステップS1、S61で、生物学的試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、好ましくは1つの濃度の第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、ステップS2、S61で、生物学的試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、好ましくは複数の濃度(たとえば4つ~6つの濃度)の第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、ステップS4で、生物学的試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、好ましくは1つの濃度の塩または塩混合物にさらし、そして、ステップS3で、生物学的試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、好ましくは複数の濃度(たとえば4つ~6つの濃度)の第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらす。これに対応して、ステップS60で、生物学的試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、好ましくは複数の濃度(たとえば4つ~6つの濃度)の試験抗菌剤にさらす。
【0173】
一実施形態では、図21に示すように、ステップS60は、単数または複数の試験組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を試験抗菌剤にさらすことを含む。ここで試験組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有する。一実施形態では、ステップS61は、単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。ここで第1の組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有する。さらに、ステップS62は、単数または複数の第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと、及び/または、単数または複数の第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことを含む。ここで第2の組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有し、第4の組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有する。
【0174】
この実施形態は、第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にも拡張することができる。このような場合、図2のステップS3は、単数または複数の第3の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含む。ここで第3の組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有する。一実施形態では、図2のステップS4は、単数または複数の第5の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を溶媒、好ましくは培養培地にさらすことを含み、ここで第5の組130の細胞流路140は、細胞流路140に入る細菌細胞が細胞流路140から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部145を有し、さらに、単数または複数の第5の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞の少なくとも1つの画像を撮影することを含む。上述の溶媒、好ましくは、培養培地は、第1~第3の抗菌剤または抗菌剤混合物及び塩または塩混合物が溶解または分散されている溶媒、好ましくは培養培地と同じものであることが好ましい。
【0175】
これらの異なる組の細胞流路140は、マイクロ流体チップ10内の個別の区画として形成されている。
【0176】
したがって、異なる組130の細胞流路140は、図18A~18Cに示すようにマイクロ流体チップ10に存在することが好ましい。特に、図18Cは、マイクロ流体チップ10が、複数のこのような組130の細胞流路140を含んでもよいことを示している。次に、好ましくはチップキャリア20に取り付けられたマイクロ流体チップ10を、図19及び図20に示すように、マイクロ流体デバイス5の基板1のチップチャンバー2に挿入する。
【0177】
一実施形態では、図2または図14の方法は、細菌細胞を含む生物学的試料をマイクロ流体チップ10の細胞流路140に投入することを含み、ここで該マイクロ流体チップ10は、複数の組130の細胞流路140、複数の入力流路110、及び複数の出力流路120を有する。図21にさらに明確に示すように、各入力流路110は、細胞流路140の各組130の細胞流路140を介して、それぞれの出力流路120と流体連通している。細胞流路140は、それぞれの流路制限部145を備えており、流路制限部145は、細胞流路140に入る細菌細胞が出力流路120に到達するのを制限するように構成されている。各流路制限部145は、出力流路120と流体接続された細胞流路140の端部144に接続して配置されるかまたはその近くに配置されることが好ましい。したがって、細胞流路140内の流路制限部145は、入力流路110よりも出力流路120に近いことが好ましい。
【0178】
次に、曝露ステップS60は、単数または複数の試験組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を試験抗菌剤にさらすことを含み、ステップS1及びS61は、単数または複数の第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含み、ステップS2及びS62は、単数または複数の第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことと、単数または複数の第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を塩または塩混合物にさらすことと、を含み、ステップS3は、単数または複数の第3の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすことを含み、ステップS4は、単数または複数の第5の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞を溶媒、好ましくは培養培地にさらすことを含む。
【0179】
マイクロ流体チップ10(図18A~18C、21参照)は、複数の組130の細胞流路140を備える。細胞流路140は、生物学的試料に含まれる細菌細胞が入力流路110から細胞流路140に入るのに十分な幅及び高さまたは直径などの寸法を有する。したがって、細胞流路140の各組130は、図21に示すように、入力流路110と出力流路120の間に配置され、入力流路110と出力流路120に流体連通する複数のほぼ平行な細胞流路140を備える。したがって、細胞流路140の第1端または入力端142は入力流路110に接続され、細胞流路140の第2端または出力端144は出力流路120に接続されている。
【0180】
細菌細胞を含む生物学的試料を投入することは、生物学的試料を入力流路110に流すことによって細菌細胞を細胞流路140に進入させることを含む。入力流路110は、好ましくは、生物学的試料中の細菌細胞の直径よりも顕著に大きい幅及び高さまたは直径などの寸法を有する。細菌細胞を含む生物学的試料は、通常、入力流路110を、その一方の端から反対側の端に向かって流れる。生物学的試料は、細胞流路140を通って出力流路120に向かって流れ、さらに出力流路120の少なくとも1つの開口部または出力ポート121を通って外に流れる。これにより、生物学的試料中に存在する細菌細胞は、入力流路110を介して細胞流路140に輸送される。しかし、生物学的試料が第2の端部または出力端部144を通って出力流路120に流れ出る間に、細菌細胞は流路制限部145によって捕捉され、したがって細胞流路140内に留まる。したがって、流路制限部145(ここでは流路妨害部とも呼ばれる)は、細胞流路140に入る細菌細胞が流路制限部145を通過して出力流路120に流れるのを防ぐか少なくとも制限する。したがって、各流路制限部145は、流路制限部145を含む細胞流路140の部分に狭い通路を形成し、該狭い通路は、生物学的試料の流体部分または液体部分及び生物学的試料内に存在する小さな細胞破片を通過させるのに十分な幅及び高さまたは直径などの寸法を有する。しかし、細胞流路140に入る細菌細胞は大きすぎるため、この制限された狭い通路を通過できず、したがって細胞流路140内に捕捉されたままになる。
【0181】
これにより、生物学的試料の投入により、生物学的試料中に存在する細菌細胞が複数の組130の細胞流路140内に捕捉される。組130内の細胞流路140のいくつかは、それぞれ単一の細菌細胞を含み得、組内の細胞流路140のいくつかは、それぞれ複数(すなわち少なくとも2つ)の細菌細胞を含む一方、組130内の他の細胞流路140は細菌細胞を含まない。
【0182】
投入中、余分な細菌細胞や、細胞流路140に収まらないほど大きい細胞は、入力流路110の第1端にあるポート111から洗い流される。生物学的試料の液体部分は、入力流路110の第1端のポート111と、出力流路120の開口部または出力ポート121との両方から、細胞流路140の組130を出て行く。サイズ選択能力を利用して、細菌細胞を、例えばかなり大きい血液細胞から分離して、細胞流路140に導入することができる。
【0183】
細菌細胞が細胞流路140に捕捉されると、ステップS1、S2、S3、S4、S60、及びS61において、細菌細胞を抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に直接さらすことができ、あるいは、細菌細胞を、細胞流路140内で一定時間まず成長増殖させた後、細胞流路140内の細菌細胞を抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物、または培養培地などの溶媒にさらすことができる。
【0184】
後者の場合、細胞流路140内に捕捉された細菌細胞を、細胞流路140の長さに沿って増殖させることができる。細胞流路140は、細菌細胞が細胞流路140の長さに沿って単層で増殖できるように寸法設定されていることが好ましい。単層培養により、本明細書でさらに説明するように、個々の細菌細胞の視覚的な評価が簡単になる。しかし、実施形態はそれに限定されるものではない。したがって、細胞流路140の寸法が細菌細胞の対応する寸法(細胞直径)よりも大きい場合、代わりに細菌細胞は多層培養で増殖し得る。細胞流路140内の細菌細胞は、細胞流路140が実質的に1細胞直径の幅である場合、好ましくは、連なった真珠のように見える可能性がある(図22及び23を参照)。細胞流路140が広い場合、細菌細胞は、細胞流路140内に二次元または三次元の層を形成するようになる。
【0185】
細胞流路140の第1端または入力端142を越えて増殖し広がった細菌細胞は、入力流路110に入り、したがって洗い流されることになる。
【0186】
マイクロ流体デバイス5のマイクロ流体チップ10は、複数の組130の細胞流路140を備える。これにより、捕捉され、必要に応じて培養された細菌細胞を、1つまたは複数の異なる濃度のさまざまな抗菌剤または抗菌剤混合物、及び塩または塩混合物にさらすことができる。例えば、32組130の細胞流路140を有するマイクロ流体チップ10は、一例として、5つの濃度の5つの異なる抗菌剤または抗菌剤混合物に使用でき、その後、残りの7組130の細胞流路140を使用して、細菌細胞を1つまたは複数の異なる濃度の1つ以上の塩または塩混合物にさらし、さらに対照(例えば細菌細胞を単に培養培地にさらすこと)を行うことができる。
【0187】
一実施形態では、図14のステップS60は、生物学的試料からの細菌細胞を複数の異なる濃度の試験抗菌剤にさらすことを含む。次にステップS65は、複数の異なる濃度の試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、試験抗菌剤のMICを決定することを含む。
【0188】
この実施形態では、捕捉された細菌細胞を異なる濃度の試験抗菌剤にさらすために、少なくとも2つの試験組130の細胞流路140、好ましくは少なくとも3つの試験組130、より好ましくは少なくとも4つの試験組130または少なくとも5つの試験組130の細胞流路を使用する。細胞流路140の試験組130の数が多いほど、より多くの異なる濃度の試験抗菌剤を試験することができ、それによって、ステップS65で細菌細胞に対する試験抗菌剤のMICをより正確に決定することができる。典型的な用途では、MICの決定には、2~8、好ましくは3~7、さらに好ましくは4~6つの濃度で十分であり、したがって、マイクロ流体チップ10は、2~8、好ましくは3~7、さらに好ましくは4~6つの試験組130の細胞流路140を備える。
【0189】
例えば、マイクロ流体チップ10が5つの試験組130の細胞流路140を備え、これらの5つの試験組130の細胞流路140のそれぞれに捕捉された細菌細胞を、試験抗菌剤のそれぞれの濃度X~Xにさらすと仮定する(ここでX<X<X<X<X)。一例において、細菌細胞は、濃度X~Xの細胞流路140の試験組130の細胞流路140内で生存し増殖する一方、濃度X及びXの細胞流路140の試験組130の細胞流路140内では細胞増殖が検出されない。この例では、ステップS65で、特定の細菌細胞に対する抗菌剤のMICを、Xであると決定することができる。
【0190】
しかしながら、ステップS65で実行されるMICの決定は、必ずしも、試験抗菌剤の複数の異なる濃度に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づく必要はない。実際、このようなMICの決定は、試験抗菌剤の単一濃度に対する細菌細胞の表現型特性応答を、好ましくは時間の経過と共に、または複数のスケジュールされた時点でモニターすることによって、行うことができる。
【0191】
このような実施形態では、ステップS60は、細菌試料からの細菌細胞を、少なくとも1つの濃度、例えば1つの濃度の試験抗菌剤を含む培養培地にさらすことを含む。この実施形態では、方法はさらに、生物学的試料からの細菌細胞を、試験抗菌剤を含まない培養培地にさらすことを含む。この実施形態では、ステップS65は、少なくとも1つの濃度の試験抗菌剤にさらされた細菌細胞の表現型特性応答と、好ましくは複数の時点において培養培地にさらされた細菌細胞の参照表現型特性応答とに基づいて得られる正規化された表現型特性応答に基づいて、試験抗菌剤のMICを決定することを含む。
【0192】
特定の実施形態では、ステップS65で、正規化された処理増殖速度平均(NTGRM)の値、またはNTGRMから導出されたかNTGRMに基づいたパラメータの値を計算することによって、MICを決定する。NTGRMは、試験抗菌剤にさらされた細菌細胞の平均増殖速度を、培養培地にさらされた細菌細胞の平均増殖速度で正規化した値を表す。NTGRMに基づいて導出されるパラメータの例は、選択された時点について、NTGRMの平均標準偏差をNTGRMで割ることにより計算されるNTGRMの平均の標準誤差(SEM)及び選択された時間間隔について計算されるNTRGRMの傾きからなる群から選択される。
【0193】
別の特定の実施形態では、ステップS65で、試験抗菌剤にさらされた細菌細胞の平均増殖速度と培養培地にさらされた細菌細胞の平均増殖速度との商の値に基づいて、MICを決定する。別の特定の実施形態では、ステップS65で、1から上記商の値を引いた値に基づくパラメータまたは1から上記商の値を引いた値に等しいパラメータに基づいて、MICを決定する。
【0194】
ステップS65でのMIC決定は、上記正規化された表現型特性応答またはパラメータと、正規化された表現型応答またはパラメータとMIC値との関係を表す抗菌MIC決定支援情報と、に基づいて行ってもよい(図17を参照)。
【0195】
このMIC決定支援情報は、抗菌剤に関してそれぞれのMIC値を有する複数の細菌株の各細菌株に対して実行される以下のステップを含む方法によって決定することができる。
【0196】
少なくとも1つの濃度の抗菌剤を含む培養培地に細菌細胞をさらすこと、及び抗菌剤を含まない培養培地に細菌細胞をさらすこと。複数の時点において細菌細胞をモニターし、該複数の時点における細菌細胞のモニタリングに基づいて正規化された表現型特性応答を決定すること。正規化された表現型特性応答は、少なくとも1つの濃度の抗菌剤を含む培養培地にさらされた細菌細胞の表現型特性応答と、培養培地にさらされた細菌細胞の表現型特性応答とに基づいて得られる。次に、この方法は、複数の細菌株に対する正規化された表現型特性応答と、複数の微生物株のMIC値とに基づいて、抗菌MIC決定支援情報を生成することを含む。
【0197】
特定の実施形態において、抗菌MIC決定支援情報は、複数の細菌株の正規化された表現型特性応答と複数の細菌株のMIC値との間の関係を表す。例えば、抗菌MIC決定支援情報は、関係式
【数8】
を表すことができ、式中
【数9】
は正規化された表現型特性応答を表し、
【数10】
は、細菌微生物株の正規化された表現型特性応答と複数の細菌株のMIC値とに基づいて決定されるパラメータを有する関数である(図17を参照)。
【0198】
ステップS1、S2、S3、S60、S61で細胞流路内の細菌細胞を抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、ステップS2で塩または塩混合物にさらすことは、好ましくは、培養培地に溶解または分散されたそれぞれの抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む培養培地を細胞流路140に流すことを含む。したがって、所定の濃度で溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む培養培地を、細胞流路140の組130の入力流路110に導くことが好ましい。これにより、溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む培養培地は、細胞流路140に流入して細胞流路140を通過し、出力流路120に流入し、さらに出力流路120の少なくとも1つの開口部121から流出する。溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む培養培地を、ある時間流して、細菌細胞を所定の濃度の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物にさらし、その間、抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答をモニターすることが好ましい。細胞流路140の各組130は、溶解または分散された抗菌剤を含むそれぞれの培養培地源を流路140の組130間でクロストークがなく保持していることが好ましい。しかし、2つ以上の組130の細胞流路140内の細菌細胞が、同じ濃度の同じ抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物にさらされ、したがって溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む単一の共通培養培地源を共有する可能性はある。
【0199】
図2~15の方法ステップの少なくとも一部は、プロセッサによって実行されるコンピュータ実装ステップであってもよい。具体的であるが非限定的な例として、図2のステップS5、図3のステップS10~S12、図4のステップS20~S24、図7のステップS30~S32、図8のステップS40~S42、図9のステップS50~S52、図14のステップS62~S64、及び/または図15のステップS65は、プロセッサによって実行されるそのようなコンピュータ実装ステップとなり得る。
【0200】
図2及び図14の方法はさらに、細菌細胞をモニターして抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答を測定すること含むことが好ましい。
【0201】
さまざまな種類の表現型特性応答(本明細書では表現型(特性)応答とも呼ばれる)をモニター及び分析することができる。そのような表現型特性応答には、増殖速度、形状、サイズ、経時的に増殖速度を規定する増殖速度曲線の形、経時的に細胞の長さを規定する長さ曲線の形、経時的に細胞面積を規定する面積曲線の形、色、光学密度、電気伝導率、熱発生量、親和性試薬によって観測される表面抗原組成、吸収スペクトル、及び少なくとも2つのこのような表現型特性の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0202】
増殖速度は、抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に対する細菌細胞の応答を決定するために有利に使用できる表現型特性または特徴である。増殖速度は、例えば、各細胞流路140内の細菌細胞の数をモニターすることによって決定できる。増殖する細胞では、その数が経時的に増加するためである。代替的または追加的に、増殖速度は、細菌細胞により占有されている細胞流路140の部分の長さをモニターすることによって決定することができる(図22及び23を参照)。この長さは、増殖する細胞の場合、経時的に増加するが、非生存細胞及び非増殖細胞の場合、同じなままである。代替的または追加的に、細胞流路140の画像において分割された細胞の面積または長さをモニターすることによって、増殖速度を決定してもよい。
【0203】
経時的な増殖速度は、通常、培養培地中の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物の存在、及び/または、抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物の濃度に応じて変化し得る。場合によって、細菌細胞は指数関数的に増殖する一方、細菌細胞はより周期的に増殖する場合もある。したがって、抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答を決定するために、増殖速度曲線の形状または形態を使用することができる。
【0204】
抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物の有無によって細胞で変化する可能性のあるその他の表現型特性には、形状、サイズ、色、及び光学密度がある。光学密度、色、またはその他のスペクトル特性は、細菌細胞の中身、細菌細胞の形状などに応じて異なり得る。したがって、光学特性を使用して、抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に対する細菌細胞の応答を測定できる。
【0205】
上で例示したこれらの表現型特性応答を、図25に示すように、複数の組130の細胞流路140を含むマイクロ流体チップ10の部分の画像または動画を撮影することができるカメラ256またはその他の機器によって光学的に測定することが好ましい。したがってマイクロ流体チップ10は、細胞流路140内の細菌細胞の画像または動画を撮影できるように、光学的に透明な材料で作られることが好ましい。
【0206】
マイクロ流体チップ10の材料の典型的な例は、液体シリコーンゴム(LSR)であるが、これに限定されるものではない。
【0207】
溶解または分散された抗菌剤を含む培養培地が細胞流路140を流れている間、細胞流路140内の細菌細胞を、多かれ少なかれ連続的にまたは複数の時点でモニターすることができる。例えば、1台以上のビデオカメラを使用して抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答をモニターすることができ、あるいは、1台以上のカメラを使用して選択された時点に細胞流路140の複数の組130の写真を撮影することができる。
【0208】
特定の実施形態では、顕微鏡法を用いて細胞流路140内の細菌細胞について写真を撮影する。そのような顕微鏡法には、電荷結合素子(CCD)や相補型金属酸化膜半導体(CMOS)カメラなどのカメラに接続された位相差顕微鏡、または蛍光用、ラマン画像用、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)用、誘導ラマン散乱(SRS)用、及び死細胞と生細胞のスペクトル変化を示す同様の化学的に敏感な技術用の共焦点走査システムがある。これには、増殖培地にコントラスト増強添加物(たとえば化学的に特異的なプローブや染料)を加えるか加えることなく1つまたは複数の波長で測定を行うことが含まれる。
【0209】
伝導率と熱発生量は、細菌細胞の化学組成と代謝状態に依存するため、抗菌剤に対する細胞応答を測定するための基礎となり得る。伝導率及び/または熱発生量は、細胞流路140内に配置されたまたは細胞流路140に接続された機器の電極またはセンサーによって測定できる。
【0210】
本発明は、対象の細菌感染症を治療するための抗菌剤を選択する目的で、対象から採取された細菌を含む生物学的試料を分析する場合に有用である。たとえば、対象がUTIに罹患しており、生物学的試料として尿試料を対象から採取したとする。次に、ステップS60で、尿試料からの細菌細胞を、試験抗菌剤としての抗生物質シプロフロキサシン(CIP)にさらす。ステップS63でCIPのMICが1μg/mLであると決定されたとする。この決定されたMIC値自体から、対象のUTIをCIPによって効果的に治療できるかどうかを結論付けることはできない。UTIは、Escherichia coli(グラム陰性細菌)やEnterococcus faecalis(グラム陽性細菌)などのさまざまな細菌細胞によって引き起こされる可能性がある。CIPの臨床的ブレイクポイントを、E.coliなどのUTIを引き起こすグラム陰性細菌に対して0.25μg/mLと仮定し、E.faecalisなどのUTIを引き起こすグラム陽性細菌に対して4μg/mLと仮定する。この具体例において、ステップS63で決定されたMICは、UTIを引き起こすグラム陰性細菌に対するCIPの臨床的ブレイクポイントよりも高いが、UTIを引き起こすグラム陽性細菌に対するCIPの臨床的ブレイクポイントよりも低い。これは、UTI感染症が、例えばE.faecalisによって引き起こされた場合、CIPによって効果的に治療できる一方、例えばE.coliによって引き起こされた場合、効果的に治療できないことを意味する。
【0211】
図14に開示された方法により、図2のステップS1及びS2における少なくとも第1及び第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対するUTI誘発細菌細胞の表現型特性応答に基づき、この例ではCIPの正しいCBPを決定することが可能になる。次に、図2のステップS5で細菌細胞の分類を行い、それを用いて図14のステップS62でCBPを決定する。したがって図14の方法を用いて、ステップS63で決定されたMICとステップS62で決定されたCBPとの比較に基づき、UTIを引き起こす細菌細胞がCIPに対して感受性であるか(E.faecalis)、感受性でないか(E.coli)を決定することができる。
【0212】
本発明に従って使用できる抗菌剤の具体例には、糖ペプチド、バンコマイシン、テイコプラニン、セフェピムなどのセファロスポリン、ピペラシリン、タゾバクタム、チカルシリン、クラブラン酸塩などのβ-ラクタマーゼ阻害ペニシリン、及びイミペネム、シラスタチン、メロペネム、エルタペネムなどのカルバペネムが含まれるが、これらに限定されない。
【0213】
実施形態に従って使用できる塩の非限定的だが具体的な例としては、塩化ナトリウム(NaCl)及び塩化カリウム(KCl)が挙げられる。
【0214】
図18A及び図18Bを参照すると、マイクロ流体チップ10は、マイクロ流体チップ10及びチップキャリア20を基板1内に配置する前に、チップキャリア20に取り付けられて結合されることが好ましい(図19参照)。一実施形態では、マイクロ流体チップ10は、例えば図18Bに示すように、マイクロ流体チップ10をチップキャリア20上に結合することによって、チップキャリア20に取り付けられる。次に、マイクロ流体チップ10が取り付けられたチップキャリア20を、図19に示すように、基板1内の対応するチップチャンバーまたはウェル2に挿入する。チップキャリア20は、それを基板1に溶接、好ましくはレーザー溶接することによって、基板1に取り付けることが好ましい。図20は、図2または図14に示す方法を実行する準備が整ったマイクロ流体デバイス5の一実施形態を示す。蓋3が基板1に取り付けられており、蓋3は、複数の組130の細胞流路140を含むマイクロ流体チップ10の少なくとも一部と位置が合った開口部4を備えることが好ましい。したがって、これらの細胞流路140は、マイクロ流体デバイス5の動作中に開口部4を通じてモニター及び画像撮影することができる。
【0215】
一例として、チップキャリア20は、光学的に透明なポリスチレンなどのポリスチレン製であってもよい。
【0216】
一実施形態では、チップキャリア20は、チップキャリア20内の流路を介してマイクロ流体チップ10へのアクセスをもたらす入口穴31~38の2つのマトリックスまたはアレイを含む(図18Cを参照)。各マトリックスは、穴31~38の4つの列21~28と、穴31~38のN個の行とを含む。チップキャリア20は、好ましくは、細胞流路140の複数の組130と位置合わせされた中央窓29も備える。
【0217】
チップキャリア20の中央窓29に最も近い第1の列21、22の穴31、32は、少なくとも1つの界面活性剤を含む培養培地を含むリザーバー244(図21)に接続されていることが好ましい。少なくとも1つの界面活性剤を含む培養培地は、マイクロ流体チップ10内の流路110、120、140を湿らせるために好ましく使用され、それによって、生物学的試料を添加し、捕捉された細菌細胞を抗菌剤または抗菌剤混合物及び塩または塩混合物にさらすその後の充填ステップが容易になる。第1列21、23の各穴31、32は、細胞流路140の組130のそれぞれの出力流路120の開口部または出力ポート121に接続されている。第2の列23、24の穴33、34は、好ましくは、生物学的試料を含む試料リザーバー241(図21)に接続されている。第2列23、24の各穴33、34は、細胞流路140の組130のそれぞれの入力流路110に接続されている。第3列25、26の穴35、36は、細胞流路140の複数の組130からの余分な流体または液体を収容するように設計された廃棄物リザーバー243(図21)に接続されていることが好ましい。第3列25、26の穴35、36は、細胞流路140の組130の入力流路110の第1端のそれぞれのポート111に接続されている。最も外側の第4列27、28の穴37、38は、それぞれ、培養培地に溶解または分散された所定濃度の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含むか培養培地のみを含むそれぞれの薬剤リザーバー242(図21)に接続されている。第4列27、28の各穴37、38は、細胞流路140の組130のそれぞれの入力流路110に接続されている。
【0218】
生物学的試料をマイクロ流体チップ10に投入する前に、マイクロ流体チップ10の流路110、120、140を濡らして、これらの流路110、120、140に捕捉された空気を除去することが好ましい。マイクロ流体チップ10を濡らすことは、リザーバー244に含まれる少なくとも1つの界面活性剤を含む培養培地を用いて行う。したがって、リザーバー244に流体接続された圧力ポートに圧力が加えられる。これにより、界面活性剤を含む培養培地がリザーバー244からチップキャリア20の第1の穴31、32に押し込まれる。これにより、界面活性剤を含む培養培地は、出力流路120の開口部または出力ポート121を介してマイクロ流体チップ10内の細胞流路140の組130に入り、細胞流路140を通って入力流路110に流れ込み、入力流路130の第1端のポート111を介して出る。界面活性剤を含む余分な培養培地は、第3列25、26の穴35、37に流れ込み、さらに廃棄物リザーバー243に流れ込む。マイクロ流体チップ10のこの最初の湿潤により、マイクロ流体チップ10内、すなわち細胞流路140の組130と入力流路110及び出力流路120内に閉じ込められた空気が除去される。さらに、培養培地中に溶解または分散された界面活性剤が、細胞流路140及び入力流路110及び出力流路120の表面をコーティングし、それによって、溶解または分散された抗菌剤を含む培養培地及び生物学的試料の流動抵抗を低減する。
【0219】
マイクロ流体チップ10の湿潤が完了すると、生物学的試料がマイクロ流体チップ10に押し込まれ、生物学的試料中に存在する細菌細胞が細胞流路140内に捕捉される。試料リザーバー241と流体接続された圧力ポートに圧力が加えられる。これにより、試料リザーバー241内の生物学的試料がチップキャリア20の第2の列23、24の穴33、34に押し込まれる。生物学的試料は、入力流路110の第2端にあるポート112にさらに押し込まれ、次に細胞流路140に押し込まれる。生物学的試料は、さらに、細胞流路140の第2の端部または出力端部144から流出し、出力流路120に入り、開口部または出力ポート121から流出し、その後、チップキャリア20の第1列21、22の穴31、32を介してマイクロ流体チップ10及びチップキャリア20から出る。生物学的試料中に存在する細菌細胞は、細胞流路140に設けられた細胞制限部145によって細胞流路140内に捕捉される。余分な生物学的試料は、入力流路110の第1端にあるポート111から流出し、チップキャリア20の第3列25、26の穴35、36に接続された廃棄物リザーバー243に流れ出る。
【0220】
この時点で、生物学的試料中に存在する細菌細胞は基板10の細胞流路140に捕捉されており、充填された薬剤リザーバー242内の培養培地に溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物にすぐにさらすことができる。したがって、薬剤リザーバー242と流体接続している圧力ポートに圧力が加えられる。加えられた圧力により、溶解または分散された抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物を含む培養培地、あるいは溶解された抗菌剤または塩を含まない培養培地が、薬剤リザーバー242を通って、チップキャリア20の第4列27、28のそれぞれの穴37、38に押し込まれる。抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物が溶解または分散された培養培地は、入力流路110の第1端にあるポート111にさらに押し込まれ、細胞流路140に流れ込み、出力流路120及び開口部121に流れ出る。この培養培地の流れによって、1つの組130の細胞流路140内の細胞流路140に捕捉された細菌細胞が、所定濃度の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物にさらされる一方、別の組130の細胞流路140内の細胞流路140に捕捉された細菌細胞は、別の所定濃度の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物、所定濃度の別の抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または別の塩もしくは塩混合物、あるいは単に培養培地にさらされ得る。図に示すように、複数(たとえば2×Nまたは32)の組130の細胞流路140を備えることにより、複数の異なる抗菌剤または抗菌剤混合物、及びこれらの複数の異なる抗菌剤または抗菌剤混合物のさまざまな濃度を、1つの特定の生物学的試料に対して試験することができ、さらに1つ以上の組130の細胞流路140において内部標準が可能になる。溶解または分散された抗菌剤を含む余分な培養培地は、開口部または出力ポート121から第1列21、21の穴31、32に流れ込み、その後、廃棄物リザーバー243に排出される。
【0221】
マイクロ流体チップ10は、好ましくは、それぞれが前述のN列の穴31~38を有する2つのマトリックスまたはアレイを含む。その結果、マイクロ流体チップ10は、好ましくは、2×N組130の細胞流路140を含む。例えば、Nが16であるとすると、マイクロ流体チップ10は32の組130の細胞流路140を備える。一例では、マイクロ流体チップ10及びマイクロ流体デバイス5を使用して、5つの異なる抗菌剤または抗菌剤混合物を5つの異なる濃度で試験することができ、その後、残りの7つの組130の細胞流路140を使用して、細菌細胞を1つまたは複数の異なる濃度の1つ以上の塩または塩混合物にさらし、さらに対照(たとえば細菌細胞を単に培養培地にさらすこと)を行うことができる。この具体例では、ステップS65で5つの異なる抗菌剤に対して最大5つの異なるMIC値を決定でき、ステップS64でこれらの5つの異なる抗菌剤に対して最大5つのCBPを決定できる。
【0222】
本発明の方法は、図24及び図25に示すような分析装置200によって実行することが好ましい。このような実施形態では、分析装置200は、培養培地、界面活性剤、及び抗菌剤もしくは抗菌剤混合物または塩もしくは塩混合物が事前に充填されたマイクロ流体デバイス5を受け入れるように構成されている(図21を参照)。図24に概略的に示すように、マイクロ流体デバイス5を分析装置200の容器に挿入する前に、生物学的試料をマイクロ流体デバイス5の試料リザーバー241に添加することも好ましい。
【0223】
そして、分析装置200は、本発明の方法を実行するように構成され、好ましくは、生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において試験抗菌剤にさらし、生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、生物学的試料からの細菌細胞を(i)マイクロ流体デバイス5において第2の抗菌剤または抗菌剤混合物、及び/または(ii)マイクロ流体デバイス5において塩または塩混合物にさらし、投入された生物学的試料中に存在する細菌を分類し、好ましくはさらに細菌のMICも決定する。分析装置200の運転結果は、分析装置200のディスプレイ210上、または分析装置200に接続されたディスプレイ210(有線または無線で接続)上でユーザに提示される。
【0224】
図25は、一実施形態に従う分析装置200の概略ブロック図である。分析装置200は、通常のソフトウェアの実行を可能にするために相互に接続されたプロセッサ220及びメモリ230を備える。このような場合、メモリ230は、プロセッサ220によって実行可能な命令を含む。命令は、プロセッサ220に本発明の方法を実行させるものである。分析装置200は、ディスプレイ210、顕微鏡250、及び圧力源260をさらに備える。
【0225】
用語プロセッサ220は、特定の処理、決定、または計算タスクを行うためにプログラムコードまたはコンピュータプログラム命令を実行することができる任意の回路、システムまたは装置として一般的な意味で解釈すべきである。したがって、プロセッサ220は、コンピュータプログラムを実行する際に、明確な処理タスク(たとえば、本明細書に記載したもの)を実行するように構成されている。一例として、プロセッサ220は、メモリ230に格納されたソフトウェア命令を実行できる適切な中央処理装置(CPU)、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ(DSP)などの1つ以上の任意の組み合わせを使用して実装できる。プロセッサ220はさらに、少なくとも1つの特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)として提供されてもよい。
【0226】
メモリ230は、永続的なストレージも含んでもよく、これは、たとえば、磁気メモリ、光メモリ、ソリッドステートメモリ、またはリモートにマウントされたメモリのいずれか1つまたはそれらの組み合わせであり得る。
【0227】
プロセッサ220は、前述のように、圧力源260を制御してマイクロ流体デバイス5内の流体の流れを制御するように構成されている(図21を参照)。圧力源260は、好ましくは、ポンプと、ポンプを駆動するように構成されたモータとを備える。プロセッサ220は、好ましくは、分析装置250の顕微鏡250または分析装置250に接続された顕微鏡250を制御するように構成されている。顕微鏡250は、好ましくは、マイクロ流体デバイス5内の細胞流路140の組130を照らすように構成された光源252と、図25ではカメラ256で表されている光検出器256と、を備える。このカメラ256は、図23に示すように、細胞流路140の組130を通過した光または細胞流路140の組130から反射した光を検出して、細胞流路140の組130の1つ以上の画像または動画フレームを取得するように構成されている。分析装置200は、マイクロ流体デバイス5内のすべての組130の細胞流路140をモニターするのに適したサイズの単一のカメラ256を備えてもよいし、細胞流路140の組130をモニターするために連続的にまたは少なくとも部分的に並行して操作できる複数のカメラ256を備えてもよい。あるいは、カメラ256は、マイクロ流体デバイス5内の細胞流路140の組130に対して移動可能であり、異なる組130の細胞流路140を順次モニターする。
【0228】
顕微鏡250は、必要に応じて、光源252とカメラ256との間の光路、例えばマイクロ流体デバイス5の上流及び/または下流に、配置された1つ以上の対物レンズ254を備えていてもよい。
【0229】
顕微鏡250の動作は、分析装置200のプロセッサ220によって制御されることが好ましい。
【0230】
プロセッサ220はさらに、さまざまな抗菌剤または抗菌剤混合物、及び塩(複数可)または塩混合物(複数可)に対する細菌細胞の表現型応答を決定するため、カメラ256からの画像または動画データを処理するように構成されている。
【0231】
したがって、本発明の一態様は、マイクロ流体デバイス5に圧力を加えるように構成された圧力源260と、プロセッサ220と、プロセッサ220によって実行可能な命令を含むメモリ230と、を備える分析装置200に関し、該命令により、プロセッサ220は、圧力源260を制御して、生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、圧力源260を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を(i)マイクロ流体デバイス5において第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または(ii)マイクロ流体デバイス5において塩または塩混合物にさらす。プロセッサ220はさらに、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類する。
【0232】
一実施形態では、プロセッサ220は、圧力源260を制御して、細菌細胞を捕捉するように構成された複数の組130の細胞流路140を含むマイクロ流体デバイス5に圧力を加え、複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に第1の抗菌剤または抗菌剤混合物を流し、複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に第2の抗菌剤または抗菌剤混合物を流し、及び/または複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に塩または塩混合物を流す。
【0233】
本発明の別の態様は、マイクロ流体デバイス5に圧力を加えるように構成された圧力源260と、プロセッサ220と、プロセッサ220によって実行可能な命令を含むメモリ230と、を備える分析装置200に関し、該命令により、プロセッサ220は圧力源260を制御して、生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において試験抗菌剤にさらし、圧力源260を制御して生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、圧力源260を制御して生物学的試料からの細菌細胞を(i)マイクロ流体デバイス5において第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、及び/または(ii)マイクロ流体デバイス5において塩または塩混合物にさらす。プロセッサ220はさらに、(i)第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答、及び/または(iib)塩または塩混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、細菌細胞を分類する。プロセッサ220はさらに、細菌細胞の分類結果に基づいて試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定し、かつ該試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定する。プロセッサ220はさらに、最小阻止濃度を臨床的ブレイクポイントと比較する。
【0234】
一実施形態では、プロセッサ220は、圧力源260を制御して、細菌細胞を捕捉するように構成された複数の組130の細胞流路140を含むマイクロ流体デバイス5に圧力を加え、複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの試験組130の細胞流路140に試験抗菌剤を流し、複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第1の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に第1の抗菌剤または抗菌剤混合物を流し、かつ複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第2の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に第2の抗菌剤または抗菌剤混合物を流し、及び/または、複数の組130の細胞流路140のうちの少なくとも1つの第4の組130の細胞流路140に捕捉された細菌細胞に塩または塩混合物を流す。
【0235】
プロセッサ220はまた、メモリ230に格納された命令を実行することによって、図2~15に関連して本明細書で開示されるさまざまな方法ステップを実行することが好ましい。
【0236】
一実施形態では、分析装置200はマイクロ流体デバイス5を含む。
【0237】
一実施形態では、分析装置200は、マイクロ流体デバイス5と、マイクロ流体デバイス5に圧力を加えるように構成された圧力源260と、カメラ256と、プロセッサ220と、メモリ230と、を含む。メモリ230は、プロセッサ220によって実行可能な命令を含み、該命令により、プロセッサ220は、
圧力源260を制御して、生物学的試料からの細菌細胞をマイクロ流体デバイス5において抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、
カメラ256を制御して、細菌細胞が抗菌剤または抗菌剤混合物にさらされていない間に、マイクロ流体デバイス5に捕捉された生物学的試料から細菌細胞の画像を複数の時点で撮影し、
画像に基づいて細菌細胞の形態分類を決定し、かつ
形態分類及び抗菌剤または抗菌剤混合物に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて、生物学的試料からの細菌細胞を分類する。
【0238】
一実施形態では、メモリ230は、プロセッサ220によって実行可能である命令を含み、該命令により、プロセッサ220は、
圧力源260を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらし、
細菌細胞の分類結果に基づいて試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定し、
試験抗菌剤に対する細菌細胞の表現型特性応答に基づいて試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定し、かつ
最小阻止濃度を臨床的ブレイクポイントと比較する。
【0239】
本発明の様々な実施形態を以下の項目によって規定する。
【0240】
項目1:細菌を分類する方法であって、
生物学的試料からの細菌細胞を第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)と、
前記生物学的試料からの細菌細胞を(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらすこと(S2)と、
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記生物学的試料からの前記細菌細胞を分類すること(S5)と、を含む前記方法。
【0241】
項目2:前記細菌細胞を分類すること(S5)は、
前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S5)と、
前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S5)と、を含む、項目1に記載の方法。
【0242】
項目3:前記細菌細胞を分類すること(S5)は、前記細菌細胞が事前に規定したグラム分類、好ましくはグラム陽性である場合、(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S12)を含む、項目1または2に記載の方法。
【0243】
項目4:前記細菌細胞を分類すること(S12)は、前記細菌細胞をStaphylococcusまたはEnterococcusとして分類すること(S51、S52)を含む、項目3に記載の方法。
【0244】
項目5:前記生物学的試料からの細菌細胞を第3の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S3)をさらに含み、
前記細菌細胞を分類すること(S12)は、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、及び前記第3の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答のうちの少なくとも2つに基づいて前記細菌細胞を分類すること(S12)を含む、項目3または4に記載の方法。
【0245】
項目6:前記細菌細胞を分類すること(S12)は、
前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの少なくとも2つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に基づいて前記細菌細胞を分類すること(S12)と、
前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの1つのみに対して前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能である場合、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記第1、第2、及び第3の抗菌剤または抗菌剤混合物のうちの1つに対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答とに基づいて、前記細菌細胞を分類すること(S12)と、を含む、項目5に記載の方法。
【0246】
項目7:前記細菌細胞を分類すること(S5)は、抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の少なくとも1つの形態特性、または前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞のグラム分類を決定すること(S10)を含む、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
【0247】
項目8:前記抗菌剤または抗菌剤混合物が、前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物である、項目7に記載の方法。
【0248】
項目9:前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータ及び前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能である場合、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答と、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性とに少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S22)を含む、項目7または8に記載の方法。
【0249】
項目10:前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能である一方、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能でない場合、前記生物学的試料からの前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S23)を含む、項目7~9のいずれか1項に記載の方法。
【0250】
項目11:前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性の有効なデータが利用可能である一方、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能でない場合、前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S25)を含む、項目7~10のいずれか1項に記載の方法。
【0251】
項目12:前記グラム分類を決定すること(S10)は、前記細菌細胞の前記少なくとも1つの形態特性の有効なデータが利用可能でなく、さらに前記抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答の有効なデータが利用可能でない場合、前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の前記表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞の前記グラム分類を決定すること(S10)を含む、項目7~11のいずれか1項に記載の方法。
【0252】
項目13:前記細菌細胞を分類すること(S5)は、決定されたグラム分類がグラム陰性である場合、前記細菌細胞をEnterobacteralesとして分類すること(S50)を含む、項目7~12のいずれか1項に記載の方法。
【0253】
項目14:細菌を分析する方法であって、
生物学的試料からの細菌細胞を試験抗菌剤にさらすこと(S60)と、
前記細菌細胞を項目1~13のいずれか1つに従って分類すること(S61)と、
前記細菌細胞を分類する結果に基づいて、前記試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定すること(S62)と、
前記試験抗菌剤に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に基づいて前記試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定すること(S63)と、
前記最小阻止濃度を前記臨床的ブレイクポイントと比較すること(S64)と、を含む前記方法。
【0254】
項目15:前記最小阻止濃度と前記臨床的ブレイクポイントとの比較に基づいて、前記細菌細胞が前記試験抗菌剤に対して感受性であるかどうかを判断すること(S65)をさらに含む、項目14に記載の方法。
【0255】
項目16:前記細菌細胞を前記試験抗菌剤にさらすこと(S60)は、単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記試験抗菌剤にさらすこと(S60)を含み、ここで前記単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、
前記細菌細胞を前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)は、単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S1)を含み、ここで前記単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、
前記細菌細胞を前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S2)は、単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらすこと(S2)を含み、ここで前記単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有しており、かつ前記細菌細胞を前記塩または塩混合物にさらすこと(S2)は、単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)に捕捉された細菌細胞を前記塩または塩混合物にさらすこと(S2)を含み、ここで前記単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)は、前記細胞流路(140)に入る細菌細胞が前記細胞流路(140)から出るのを制限するように構成されたそれぞれの流路制限部(145)を有している、項目14または15に記載の方法。
【0256】
項目17:前記単数または複数の試験組(130)の細胞流路(140)、前記単数または複数の第1の組(130)の細胞流路(140)、前記単数または複数の第2の組(130)の細胞流路(140)、及び前記単数または複数の第3の組(130)の細胞流路(140)は、マイクロ流体チップ(10)内の別個の区画として形成されている、項目16に記載の方法。
【0257】
項目18:前記表現型特性応答(複数可)は、増殖速度、核様体のコンパクションの度合い、代謝活性度、及び膜の完全性の度合いからなる群から選択される、項目1~17のいずれか1項に記載の方法。
【0258】
項目19:分析装置(200)であって、
マイクロ流体デバイス(5)に圧力を加えるように構成された圧力源(260)と、
プロセッサ(220)と、
前記プロセッサ(220)によって実行可能な命令を含むメモリ(230)と、を備え、前記命令により、前記プロセッサ(220)は、
前記圧力源(260)を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらし、かつ
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記生物学的試料からの前記細菌細胞を分類する、前記分析装置(200)。
【0259】
項目20:分析装置(200)であって、
マイクロ流体デバイス(5)に圧力を加えるように構成された圧力源(260)と、
プロセッサ(220)と、
前記プロセッサ(220)によって実行可能な命令を含むメモリ(230)と、を備え、前記命令により、前記プロセッサ(220)は、
前記圧力源(260)を制御して、生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において試験抗菌剤にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において第1の抗菌剤または抗菌剤混合物にさらし、
前記圧力源(260)を制御して、前記生物学的試料からの細菌細胞を前記マイクロ流体デバイス(5)において(i)第2の抗菌剤または抗菌剤混合物及び/または(ii)塩または塩混合物にさらし、
(i)前記第1の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答、ならびに(iia)前記第2の抗菌剤または抗菌剤混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答及び/または(iib)前記塩または塩混合物に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に少なくとも基づいて、前記細菌細胞を分類し、
前記細菌細胞を分類する結果に基づいて、前記試験抗菌剤の臨床的ブレイクポイントを決定し、
前記試験抗菌剤に対する前記細菌細胞の表現型特性応答に基づいて前記試験抗菌剤の最小阻止濃度を決定し、かつ
前記最小阻止濃度を前記臨床的ブレイクポイントと比較する、前記分析装置(200)。
【0260】
項目21:前記マイクロ流体デバイス(5)をさらに備える、項目19または20に記載の分析装置。
【実施例0261】
実施例1
本実施例は、図14の分析方法の実現可能性を調査し、UTIに罹患する患者の尿試料からの細菌細胞がシプロフロキサシン(CIP)に対して感受性であるかないかを判断する。
【0262】
本実施例の実験は、図18A~20に示すマイクロ流体デバイス5及びマイクロ流体チップ10において行った。基板1の薬剤リザーバーに、以下のものをあらかじめ充填した。それぞれ最終濃度が4μg/mlと32μg/mlであるリネゾリド(LIN)とバノマイシン(VAN)の組み合わせ、最終濃度340mMのNaCl、32~256μg/mlにおける5つの最終濃度のアモキシシリン及びクラブラン酸(AMC)、32~256μg/mlにおける5つの最終濃度のホスホマイシン(FOS)、1~128μg/mlにおける5つの最終濃度のシプロフロキサシン(CIP)、8~128μg/mlにおける5つの最終濃度のニトロフラントイン、及び1~64μg/mlにおける5つの最終濃度のトリメトプリム(TMP)。
【0263】
尿試料をマイクロ流体デバイス5に投入し、異なる組130の細胞流路において細菌の増殖をモニターした。図10~13に示す分類プロセスを、以下の処理期間を使用して実行した。T1=25分、T2~T3=[10、22]分(これら2つの時点間にあるすべてのデータポイントの平均正規化増殖速度を使用)、T4=20分、T5=33分。
【0264】
尿試料中の細菌を、図10~13に示す分類プロセスの結果に従って、Enterobacteralesであると分類した(Tr1:LIN/VALはグラム陰性を示し、Tr2:NaClはグラム陰性を示した)。Enterobacteriales及び抗生物質CIPについてEuropean Committee on ASTが公表するASTの臨床的ブレイクポイントを適用し、MIC≦0.25μg/mlの場合は感受性、MIC>0.5μg/mlの場合は耐性とした。
【0265】
試験抗菌剤としてのCIPのMIC値を、さまざまなCIP濃度(1~128μg/ml)の増殖速度への影響をマッピングして用量反応曲線を生成することにより決定した。ここで、増殖速度への影響=1-(CIP処理した細菌細胞の平均増殖速度を未処理の細菌細胞の平均増殖速度で正規化した値)であった。影響濃度を、事前に決められたしきい値(この例では0.2)と用量反応曲線との切片から算出した。この影響濃度を、事前に規定した較正曲線(図17を参照)を使用してMIC値に対しマッピングし、MIC値0.0625μg/mlを得た。
【0266】
決定したCBP値とMIC値を比較し、決定したMIC値0.0625μg/mlが0.25μg/ml未満であったため、尿試料中の細菌はCIPに感受性であると決定した。
【0267】
並行して、尿試料を参照方法で検査した。尿(40μl)を1:25に希釈し、次に50μlを寒天プレートに線状に塗布し、インキュベート(37℃で16~24時間)してコロニーを分離・計数した(計数>100の場合、システムによって適当される臨床カットオフ値>5×10CFU/mLを意味する)。これにより、尿試料中に細菌が存在することを確認した。寒天上で増殖した分離株は、Karolinska Microbiology Laboratoryで標準治療に使用されるマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析(MS)(J Microbiol Methods.2017,136:17-20)によってEscherichia coliであることを確認した。
【0268】
Enterobacteralesの臨床的ブレイクポイントが適用すべきASTの臨床的ブレイクポイント(European Committee on ASTが発行)であることを決定した。抗生物質CIPについて、MIC≦0.25μg/mlの場合は感受性、MIC>0.5μg/mlの場合は耐性である。
【0269】
市販のThermo Fisher Sensititreブロス微量希釈プレートを使用して、製造元の指示に従い、抗生物質CIPに対する分離株のMICを決定するために、ブロス微量希釈を実施した。MIC値を0.0625μg/mlであると決定した。
【0270】
MIC値はCIPのCBPを下回っており(0.0625μg/ml<0.25μg/ml)、分離株はCIPに感受性であると決定した。
【0271】
本発明のプロセスでは、参照方法と同じ結果を得られたが、参照方法では2日かかるところ、約30分後に結果を得ることができた。さらに、本発明のプロセスは、CIPだけでなく、AMC、FOS、TMP、及びニトロフラントインのMIC値も並行して決定することができる。したがって、わずか約30分で、細菌細胞の分類に加えて、5つの異なる抗生物質のMIC値を並行して得られる。
【0272】
実施例2
この実施例では、実施形態の方法(図10~13)による分類結果を参照方法(尿培養及びMALDI-TOF MS同定)と比較した。
【0273】
参照試料1
10CFU/mlの濃度のEscherichia coli ATCC8739(グラム陰性)細菌を含む参照試料を、実施形態の方法(図10及び13)によって検査した。参照試料中の細菌を30分以内にグラム陰性細菌に分類した。
【0274】
参照試料2
10CFU/mlの濃度のStaphylococcus saprophyticus CCUG-3706(グラム陽性)細菌を含む参照試料を、実施形態の方法(図10~13)によって検査した。参照試料中の細菌を30分以内にグラム陽性と分類し、45分以内にStaphylococcusと分類した。
【0275】
参照試料3
10CFU/mlの濃度のEnterococcus faecalis CCUG-9997(グラム陽性)細菌を含む参照試料を、実施形態の方法(図10~13)により検査した。参照試料中の細菌を30分以内にグラム陽性と分類し、45分以内にEnterococcusと分類した。
【0276】
患者試料1
患者の試料を参照方法(尿培養及びMALDI-TOF MS同定)で検査したところ、参照方法により、患者の試料にStaphylococcus saprophyticus(グラム陽性)が含まれていることが分かった。患者の試料を実施形態の方法(図10~13)でも検査し、その結果はグラム陽性及びStaphylococcusであった。
【0277】
患者試料2
患者の試料を参照方法(尿培養及びMALDI-TOF MS同定)で検査したところ、参照方法により、患者の試料にEscherichia coli(グラム陰性)が含まれていることが分かった。患者の試料を実施形態の方法(図10~13)でも検査し、その結果はグラム陰性及びEnterobacteralesであった。
【0278】
患者試料3
患者の試料を参照方法(尿培養及びMALDI-TOF MS同定)で検査したところ、参照方法により、患者の試料にEnterococcus faecalis(グラム陽性)が含まれていることが分かった。患者の試料を実施形態の方法(図10~13)でも検査し、その結果はグラム陽性及びEnterococcusであった。
【0279】
実施例3
図5に示すグラム分類の実施形態を、グラム分類の精度を調査するために、臨床尿試料と添加尿試料(N=676)の両方で試験した。図26Aは、676個の試料のうち、図中の矢印で示される単一の生物学的試料が本発明により誤分類されたことを示している。
【0280】
より詳細には、図26AのPC1とPC2は、2つのグラム型(グラム陽性とグラム陰性)間の分離を最大化するキャリブレーションにおいて使用された2つのベクトルである。この場合、この2つのベクトルを主成分と呼ぶのは実際には意味がない。なぜなら、ここでは2次元(グラム陽性とグラム陰性)のみで作業しているのに対し、主成分は通常、3次元以上のこのタイプのベクトルを指すからである。PC1は、グラム試験のLDA部分の実際のベクトルであり(図5を参照)、PC2は、視覚化の目的でのみ使用している。すべてのデータポイントは、PC1ベクトル上に投影され、破線は2つのグラム型を区別するために使用されたしきい値を示す。
【0281】
グラム陽性と分類された生物学的試料について、図6に示すように属分類を実行し、StaphylococcusまたはEnterococcusのいずれかに分類した。この属の分類には、LIN/VANの影響、AMCの影響、FOSの影響、塩の影響を使用した。塩の影響は最もノイズが多いと判断したため、他の影響データが少なくとも2つ利用可能であった場合、塩の影響を属の分類に含めなかった。図26Bは、LIN/VALの影響、AMCの影響、及びFOSの影響を使用して、以前に分類された130個のグラム陽性生物試料を分類した結果を示している。
【0282】
より詳細には、図26BのPC1とPC2は、データの共分散行列の最初の2つの主成分、固有ベクトルであり、投影されたデータの分散を最大化し、同時に2つの細菌タイプ間の分離を最大化するキャリブレーションに使用されたものである。この場合、PC1(分散が最も大きい)は、グラム陽性分類部のLDA部分に使用された実際のベクトルであり(図6の下部を参照)、PC2は、PC1に垂直な別のベクトルであり、視覚化の目的でのみ使用された。すべてのデータポイントはPC1ベクトル上に投影され、破線は2つの細菌カテゴリーを区別するために使用されたしきい値を示す。
【0283】
図26Cは、有効なLIN/VAL及びFOSのデータが利用可能でない場合をシミュレートし、AMCの影響と塩による増殖速度低下を使用して、以前に分類された130個のグラム陽性生物試料を分類した結果を示している。
【0284】
上述した実施形態は、本発明のいくつかの例示的な例として理解すべきである。当業者には明らかなとおり、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に種々の修正、組み合わせ、及び変更を行うことができる。特に、技術的に可能であるならば、異なる実施形態における異なる部分の解決策を他の構成で組み合わせることができる。しかしながら本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって規定される。

図1
図2
図3
図4
図5
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図18A
図18B
図18C
図19
図20
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図25
図26A
図26B
図26C
【外国語明細書】