(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003336
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】変速機構 並びにこの変速機構を具える被動機材
(51)【国際特許分類】
F16H 3/083 20060101AFI20241226BHJP
F16H 3/091 20060101ALI20241226BHJP
F16D 11/10 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
F16H3/083
F16H3/091
F16D11/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084482
(22)【出願日】2024-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2023103772
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】723008817
【氏名又は名称】青山 明宏
(74)【代理人】
【識別番号】100086438
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 喬彦
(74)【代理人】
【識別番号】100217168
【弁理士】
【氏名又は名称】東山 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】青山 明宏
【テーマコード(参考)】
3J056
3J528
【Fターム(参考)】
3J056AA03
3J056CB06
3J056GA05
3J056GA14
3J528EA21
3J528EB62
3J528EB63
3J528FB04
3J528FC33
3J528FC42
3J528FC63
3J528GA01
3J528GA08
3J528GA10
3J528GA20
3J528HA23
(57)【要約】
【課題】 ドグクラッチによるシフト操作時における衝撃を軽減することのできる変速機構並びにこれを具えた被動機材を開発することを技術課題とした。
【解決手段】 本発明の変速機構14は、入力側シャフト22と出力側シャフト23とに対し、ギア比を異ならせた対となったギアの組が常時噛み合い状態に設けられ、一方のギアがシャフト23に対し固定回転するとともに、他のギアがシャフト22に対しフリー回転状態に支持され、シャフト22には、ヘリカルスプライン係合により回転固定状態で且つ軸方向にスライド移動できるドグクラッチ29が設けられ、このドグクラッチ29はフリー回転のギアに係合することにより、当該ギアをシャフト22に回転固定状態とし、ドグクラッチ29が、対となったギアの組を選択することによって、要求されるギア比により出力側のシャフト23の回転比を切り替えることを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列配置された入力側のシャフトと出力側のシャフトとに対し、ギア比を異ならせた対となったギアの組が、少なくとも二組以上、常時噛み合い状態に設けられ、噛み合い状態にある一方のギアは、シャフトに対し固定回転するとともに、他のギアはシャフトに対しフリー回転状態に支持され、更にフリー回転するギアに対しては、これを支持するシャフトに、スプライン係合により回転固定状態で且つシャフトの軸方向にスライド移動できるドグクラッチが設けられ、このドグクラッチはフリー回転するギアに対し係合することにより、当該フリー回転するギアをシャフトに回転固定状態とするものであり、ドグクラッチが、対となったギアの組のいずれかを選択することによって、要求されるギア比により出力側のシャフトの回転比を切り替える変速機構であって、
前記ドグクラッチと、このスライド範囲におけるシャフトとのスプライン係合は、ヘリカルスプライン係合であることを特徴とする変速機構。
【請求項2】
前記ヘリカルスプラインの螺旋方向は、ドグクラッチの回転が、高速ギア比のギアに対しては遅れ傾向となり、低速ギア比のギアに対しては進み傾向となる方向に設定されていることを特徴とする請求項1記載の変速機構。
【請求項3】
前記シャフトに設けられるギアの組は二組であり、このギアの組は、ギアをフリー状態に支持するシャフトに対し、二組のギアの間に一基のドグクラッチを設け、このドグクラッチをシャフトの軸方向にスライドさせることにより、いずれかの組のギアを回転固定状態とすることを特徴とする請求項2記載の変速機構。
【請求項4】
前記ドグクラッチとギアとのいずれか一方または双方には、両者の係合に先立ち、緩接触して、両者の回転を同調させるシンクロナイズ機構を具えることを特徴とする請求項1または2記載の変速機構。
【請求項5】
前記入力側のシャフトまたは、この前段の入力系回転部材に回転センサを設け、この回転センサの検出値が、ドグクラッチの係合適化状態になったときに、この係合適化状態であることの告知を行うか、あるいはドグクラッチとギアとの係合を行うかの、いずれか一方または双方を行う構成であることを特徴とする請求項1または2記載の変速機構。
【請求項6】
前記入力側のシャフトに入力するパワーユニットは、電動機であることを特徴とする請求項1または2記載の変速機構。
【請求項7】
鉄道車輌、自動車、モーターサイクル、モーターアシスト自転車、風力発電機、船外機、ウインチ装置のいずれかの被動機材であって、
この被動機材は、前記請求項1または2記載の変速機構を具えることを特徴とする被動機材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時噛み合い式の変速機構に関するものであって、特に変速切替において作用するドグクラッチとギアとの噛み合い接続(係合)を円滑に行うことができるようにした変速機構並びにこれを具えた被動機材に係るものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機エンジン駆動の自動車、モーターサイクル等の車輌にあっては、エンジンの出力特性上、多段または無段階の変速機を介して車輪への駆動が成されている。
一方で近時環境対応の要請から、電動機(モータ)駆動のいわゆる電気自動車(以下、電動車とする)の普及が目覚ましい。このような電動車にあっては、モータの出力特性上、起動時に大トルクを発揮することから、多くの場合、モータと車輪との間には機械的な変速装置を介在させていない。
【0003】
しかしながら、モータの出力特性を有効に利用するためには、速度上昇に伴った適切なギアレシオを得るべく、変速機を介在させることが望まれている。このために用いる歯車変速装置としては、対となっている常時噛み合い状態のギアをシャフトに対し、一方をフリー回転とし、他方のギアをシャフトに対し回転固定状態とし、フリー回転するギアに対し、シャフトに回転固定状態としたドグクラッチを噛み合わせることにより、一対となったギアの駆動噛み合い状態を現出させる構成を採る。このような構成の場合、シャフト上を移動して、ドグクラッチのドグ突起がギア側のドグ受入凹部に噛み合う際には、一定の衝撃の発生は免れず、結果的に関係するドライブトレインにも悪影響をもたらしかねない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景を考慮してなされたものであって、ドグクラッチによるシフト操作時における衝撃を軽減することのできる変速機構並びにこれを具えた被動機材を開発することを技術課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち請求項1記載の変速機構は、
並列配置された入力側のシャフトと出力側のシャフトとに対し、ギア比を異ならせた対となったギアの組が、少なくとも二組以上、常時噛み合い状態に設けられ、噛み合い状態にある一方のギアは、シャフトに対し固定回転するとともに、他のギアはシャフトに対しフリー回転状態に支持され、更にフリー回転するギアに対しては、これを支持するシャフトに、スプライン係合により回転固定状態で且つシャフトの軸方向にスライド移動できるドグクラッチが設けられ、このドグクラッチはフリー回転するギアに対し係合することにより、当該フリー回転するギアをシャフトに回転固定状態とするものであり、ドグクラッチが、対となったギアの組のいずれかを選択することによって、要求されるギア比により出力側のシャフトの回転比を切り替える変速機構であって、
前記ドグクラッチと、このスライド範囲におけるシャフトとのスプライン係合は、ヘリカルスプライン係合であることを特徴として成るものである。
【0007】
また請求項2記載の変速機構は、前記請求項1記載の要件に加え、
前記ヘリカルスプラインの螺旋方向は、ドグクラッチの回転が、高速ギア比のギアに対しては遅れ傾向となり、低速ギア比のギアに対しては進み傾向となる方向に設定されていることを特徴として成るものである。
【0008】
また請求項3記載の変速機構は、前記請求項2記載の要件に加え、
前記シャフトに設けられるギアの組は二組であり、このギアの組は、ギアをフリー状態に支持するシャフトに対し、二組のギアの間に一基のドグクラッチを設け、このドグクラッチをシャフトの軸方向にスライドさせることにより、いずれかの組のギアを回転固定状態とすることを特徴として成るものである。
【0009】
また請求項4記載の変速機構は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記ドグクラッチとギアとのいずれか一方または双方には、両者の係合に先立ち、緩接触して、両者の回転を同調させるシンクロナイズ機構を具えることを特徴として成るものである。
【0010】
また請求項5記載の変速機構は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記入力側のシャフトまたは、この前段の入力系回転部材に回転センサを設け、この回転センサの検出値が、ドグクラッチの係合適化状態になったときに、この係合適化状態であることの告知を行うか、あるいはドグクラッチとギアとの係合を行うかの、いずれか一方または双方を行う構成であることを特徴として成るものである。
【0011】
また請求項6記載の変速機構は、前記請求項1または2記載の要件に加え、
前記入力側のシャフトに入力するパワーユニットは、電動機であることを特徴として成るものである。
【0012】
また請求項7記載の被動機材は、
鉄道車輌、自動車、モーターサイクル、モーターアシスト自転車、風力発電機、船外機、ウインチ装置のいずれかの被動機材であって、
この被動機材は、前記請求項1または2記載の変速機構を具えることを特徴として成るものである。
そしてこれら各請求項記載の手段をもって前記課題の解決が図られる。
【発明の効果】
【0013】
まず請求項1記載の発明によれば、ドグクラッチがシャフトに対しヘリカルスプライン結合するから、ドグクラッチが、シャフトに設けられたギアと係合(締結)する際、単に軸方向に摺動するだけではなく、シャフトに対する回転移動をも伴い、ギアとの係合時に回転方向の速度合わせが生じ、切り替えに伴う衝撃の緩和や解消を図ることができる。
【0014】
また請求項2または3記載の発明によれば、ダウンシフト切替時には、増速傾向の下に円滑な係合が図られ、アップシフト切替時には、減速傾向の下に円滑な係合が図られる。
【0015】
また請求項4記載の発明によれば、ドグクラッチがギアと完全に係合するのに先立ち、ドグクラッチの回転と、ギアとの回転差を縮小ないしは解消を図ることができる。すなわちドグクラッチの係合開始時点から、ドグクラッチがギアに対し徐々に接触して行くため、ドグクラッチの回転がギアに徐々に伝達されて行き、ギアの回転をドグクラッチに徐々に同調させることができ、係合に伴う急激な衝撃を抑えることができる。
【0016】
また請求項5記載の発明によれば、ドグクラッチのギアへの係合(締結)は、ドグクラッチが設けられた入力側シャフトの回転数が適化状態(係合適化状態)となってから行われるから、ドグクラッチの係合に伴う急激な衝撃を一層抑えることができる。
【0017】
また請求項6記載の発明によれば、ドグクラッチをギア側に係合させる際、衝撃の発生を極力抑えることができ、電動機の出力特性を有効に利用することができる。
【0018】
また請求項7記載の発明によれば、本発明に係る変速機構を適用した種々の被動機材、具体的には、鉄道車輌、自動車、モーターサイクル、モーターアシスト自転車、風力発電機、船外機、ウインチ装置などを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の変速機構を適用した被動機材として、車輌を示す概略図である。
【
図2】同上、被動機材として船外機を示す概略図である。
【
図3】同上、被動機材として自動二輪車(オートバイ)を示す概略図である。
【
図4】同上、被動機材として風力発電機を示す概略図である。
【
図5】本発明の変速機構の一例を示す斜視図である。
【
図6】同上、平面図(a)、並びにドグスライド用フォークと、これを挟むように設けられる二つのフォーク固定用部材との間にウェーブプレートを設けるようにした構成例を拡大して示す平面断面図(b)である。
【
図8】ドグクラッチをシャフトの軸方向から視た正面図である。
【
図10】
図9に示すドグクラッチにおいて、ギア連結用突起部の内周側を傾斜状に切り欠き状に形成した構成例を示す説明図である。
【
図11】ヘリカルスプラインシャフトを、シャフトの軸方向から視た正面断面図である。
【
図13】入力側小ギアを、シャフトの軸方向から視た投影図である。
【
図14】ドグ受入凹部(嵌合溝)を全体的に傾斜状(テーパ状または円錐状の切欠き)に形成した入力側小ギア(または大ギア)を示す断面図である。
【
図15】入力側小ギアのドグ受入凹部を示す断面図である。
【
図16】入力側大ギアのドグ受入凹部を示す断面図である。
【
図17】
図13・
図15に示す入力側小ギア、入力側大ギア、
図9に示すドグクラッチ、
図12に示すヘリカルスプラインシャフトを組み合わせた断面図(a)、並びに当該ドグクラッチを入力側大ギアに係合(締結)する際、ドグクラッチの回転が遅れ傾向となる様子(すべり損失)を示す説明図(b)である。
【
図18】軸孔を延長するようにシンクロボスを形成し、その外周側にシンクロリング部を設けた入力側小ギアを示す断面図である。
【
図19】軸孔を延長するようにシンクロボスを形成し、その外周側にシンクロリング部を設けた入力側大ギアを示す断面図である。
【
図20】
図18に示す入力側小ギア、
図19に示す入力側大ギア、
図10に示すドグクラッチ、
図12に示すヘリカルスプラインシャフトを組み合わせた断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、以下の実施例に示すとおりであるが、この実施例に対して本発明の技術的思想の範囲内において適宜変更を加えることも可能である。
【実施例0021】
本発明たる変速機構14は、実機として構成される場合には、所定の強度等が付与されたギアボックス内に、例えばオイルバス状に収納されることとなる。しかしながら、以下の実施例では、いわゆるデモ機としての基本構成が理解できるように、一部シンボリックな図示とする。
本実施例に示す変速機構14は、一例として
図5~
図7に示すように、フレームF上に構成部材を配置したものであり、フレームFは、一例として平面視ほぼ矩形枠状に構成される。
変速機構14は、このフレームFに対し、入力側のシャフト22と、出力側のシャフト23とがシャフト固定具32を介して回転自在に且つ並列状態に取り付けられている。そして、入力側のシャフト22に対しては、その一端に入力側の駆動部材11が接続される。入力側の駆動部材11としては、一例として電動機が挙げられるものであり、例えば
図1に示すように第1減速ギア21a、第2減速ギア21bを介して、電動機の回転が減速された状態で入力側のシャフト22に伝達される。
【0022】
更に入力側のシャフト22に対しては、上記
図5・
図6に示すように、入力側の小ギア24と大ギア26とが、シャフト22に対して回転方向には固定されていないフリー状態となるようベアリングB(
図17参照)を介在させて、取り付けられている。なお、以下述べる出力側の大ギア25及び出力側の小ギア27を含め、ギア部材を総称、ないしは共通的に表現する場合は、単に「ギア」と称するものであり、特許請求の範囲においても「ギア」という用語を用いている。
そして、入力側のシャフト22において小ギア24と大ギア26との間には、更にドグクラッチ29が、シャフト22の軸方向にスライド自在に設けられている。以下、これら小ギア24、大ギア26、ドグクラッチ29及びこれらを支持するシャフト22の構成について説明する。
【0023】
まず小ギア24及び大ギア26は、上述したようにシャフト22に対しベアリングBを介して回転自在に支持されており、回転方向におけるシャフト22との固定は、ドグクラッチ29の締結により成される。このため小ギア24は、例えば
図13・
図15に示すように、一例として周方向に長孔状となるドグ受入凹部24Rが四カ所設けられ、同様に大ギア26にも周方向に長孔状となるドグ受入凹部26Rが一例として四カ所設けられる(
図16参照)。
【0024】
次にドグクラッチ29と、これを支持しているシャフト22に設けられるスプライン構造とについて説明する。両者は本発明の特徴的構成であって、スプライン構造は螺旋状のスプライン(これをヘリカルスプラインシャフト28とする)として構成される。すなわち入力側のシャフト22は、前記小ギア24と大ギア26との間の外周側が、ヘリカルスプラインシャフト28として構成されており、螺旋状のスプライン突条28aが一例として四本形成されるとともに、このスプライン突条28aの間に、相対的に溝状となるスプライン溝28bが形成される(
図11・
図12参照)。このようなヘリカルスプラインシャフト28の構成に伴い、ドグクラッチ29は、一例として
図8に示すように、中心孔において突条の回転摺動用突起部37が四条形成され、これにより相対的に凹部となる回転摺動用凹溝部371が形成されるものであり、これらはヘリカルスプラインシャフト28に挿嵌可能なように同じリード角をもった螺旋状に形成される。このようなスプライン結合により、ドグクラッチ29は、入力側のシャフト22の回転に伴い回転する。
【0025】
更にドグクラッチ29は、例えば
図9・
図8に示すように、両側面にギア連結用突起部36を一例として片面四カ所、両面計八カ所具える。
これらギア連結用突起部36は、円柱状の概形を有するように形成され、ドグクラッチ29が小ギア24または大ギア26のいずれかの方向に摺動したとき、各ギア24・26におけるドグ受け入れ凹部24R・26R内に収まるように噛み合い(
図17参照)、各ギア24・26のいずれかを入力側のシャフト22とともに回転させるものである。
なお、ギア24・26に連結するときのドグクラッチ29の動きは、ヘリカルスプラインシャフト28による螺旋案内を受け、回転方向に速度合わせが生じるが、これについては後述する。
【0026】
更にドグクラッチ29は、このものに対するシフト動作を受け入れるためのフォーク受け溝29aをその外周縁に具える。
以下、ドグクラッチ29のシフト構造について説明する。シフト構造の主要部材は、ドグスライド用フォーク30であり、このものは一例として上記
図8に示すように、ドグクラッチ29に作用する先端側(自由端)側が円弧フォーク状を成す二股C字状に形成されたドグシフト用端部30aとして構成されるとともに、基端部30b側はフォーク摺動用シャフト35に支持されている。
フォーク摺動用シャフト35は、前記フレームFに対して支持されるスクリューシャフトであって、変速制御装置13であるシフトモータの回転により駆動され、ドグスライド用フォーク30の基端部30bに設けられたメネジとの螺合によりドグスライド用フォーク30の軸方向移動(摺動)が成される。なお、
図6(b)中の符号34a・34bは、ドグスライド用フォーク30を両側からピンPを介して保持するようにして、ドグスライド用フォーク30の固定を図るフォーク固定用部材である。
【0027】
以上が入力側のシャフト22に関係する部材であり、次に出力側のシャフト23について説明する。出力側のシャフト23は、入力側のシャフト22に対し、いわゆるカウンターシャフトとなるシャフトであり、シャフトの一端に出力側作用部材12を具える。出力側作用部材12は、具体的には、変速機構14が設けられる対象機構に応じた接続部であり、例えば歯車、スプロケット、プーリ、対象機構への直結シャフト等である。
更に出力側のシャフト23には、大ギア25と小ギア27とが、シャフト23に対し回転固定状態に設けられる。ここで出力側の大ギア25が、入力側シャフト22の小ギア24に噛み合うギアであり、出力側の小ギア27が、入力側シャフト22の大ギア26に噛み合うギアである。このため入力側のシャフト22において、ドグクラッチ29が小ギア24に締結されると、入力側のシャフト22の回転が、入力側の小ギア24、出力側の大ギア25を介して、出力側のシャフト23に伝達されるものである。なお、この状態は、入力側の小ギア24と出力側の大ギア25との組み合わせ(ギアの組み合わせ)が、回転固定状態となった状態である。
また入力側のシャフト22において、ドグクラッチ29が大ギア26に締結されると、入力側のシャフト22の回転が、入力側の大ギア26、出力側の小ギア27を介して、出力側のシャフト23に伝達されるものである。なお、この状態は、入力側の大ギア26と出力側の小ギア27との組み合わせ(ギアの組み合わせ)が、回転固定状態となった状態である。
【0028】
本発明の変速機構14の構成の一例は、以上述べたとおりであって、以下次のように作動して円滑なシフト操作が行われる。
〈始発状態〉
電動機の場合には、給電により円滑に駆動が開始できるが、便宜上ドグクラッチ29は、中立位置、すなわち小ギア24と大ギア26とのいずれとも噛み合っていない状態とする。この非噛み合い状態で入力側のシャフト22が駆動を受けて回転したとしても、小ギア24・大ギア26ともにシャフト22との回転固定状態は得られていないから、出力側のシャフト23に回転は伝達されない。
【0029】
〈入力側シャフトとドグクラッチの回転〉
一方、入力側のシャフト22が入力側の電動機(駆動部材11)から回転駆動を受けると、シャフト22が回転するとともに、ヘリカルスプラインシャフト28とスプライン嵌合しているドグクラッチ29も回転する(共回りする)。
【0030】
〈ドグクラッチの締結〉
この状態で変速制御装置13たるシフトモータ等を駆動し、ドグスライド用フォーク30を一例としてドグを受け入れる小ギア24側に移動させる。ドグクラッチ29は、ヘリカルスプラインシャフト28との係合が成されているから、一例として
図6(a)に示すように、入力側のシャフト22の回転方向に向かうような速度合わせが生じ、円滑なドグ締結が図られる(
図17(a)参照)。
もちろん電動機を入力側原動機としている場合には、予め小ギア24とドグクラッチ29とを係合させておくことができる。前述した速度合わせによる円滑なドグクラッチ29の係合(接続)が効果的なのは、むしろ高速ギア比での駆動がされているとき、いわゆるダウンシフトすべく低速側、すなわち小ギア24側にドグクラッチ29を係合させる場合である。より具体的には、高速ギア比での駆動がされているとき、つまり入力側の大ギア26と出力側の小ギア27との接続がされている状態であっても、常時噛み合い式のギア列であるから、入力側のシャフト22における小ギア24が、たとえフリー回転するものであったとしても、出力側のシャフト23に固定されている出力側の大ギア25の回転を受けて、むしろ増速状態で回転しているからであり、このときドグクラッチ29が、増速傾向の下に、小ギア24と噛み合うことにより、円滑な係合が図られるのである。
【0031】
〈低速ギアから高速ギアへ〉
この操作は前述のダウンシフト状態からアップシフト状態とするものであり、この場合には入力側の大ギア26でみると、小ギア24の回転数よりも低い回転数で回転している。すなわち、本発明の変速機構14は、常時噛み合い式のギアの組み合わせ構造であるから、ダウンシフト状態では出力側の回転は減速(低回転)であり、この減速状態の回転が入力側の大ギア26から出力側の小ギア27に低回転で伝えられる。この結果、ドグクラッチ29の大ギア26への噛み合い時においては、ヘリカルスプラインシャフト28の螺旋形状により、減速方向の速度合わせにより入力軸回転より遅い速度で、回転中の小ギア24の動きにあった回転の下にドグクラッチ29の噛み合いがなされる。
換言すれば入力側の小ギア24に係合されていたドグクラッチ29が、入力側の大ギア26に係合される際には、一例として
図17(b)に示すように、ドグクラッチ29が、ヘリカルスプラインシャフト28の螺旋に沿って移動するから、ドグクラッチ29は、シャフト22の軸方向への移動(大ギア26への直線移動)とともに、シャフト22の軸方向に対して垂直な方向にも移動し、この垂直移動分が、シャフト22の回転方向とは逆方向への回転移動となる。つまり、この場合、ドグクラッチ29の回転が遅れ傾向となるように大ギア26との係合が成される。なお、この遅れ傾向は、ヘリカルスプラインシャフト28の螺旋に沿って移動する(すべる)際における垂直方向成分の回転移動に起因するものであり、言わば「すべり損失」となる。
【0032】
〔他の実施例〕
本発明は以上述べた実施例を一つの基本的な技術思想とするものであるが、更に次のような改変が考えられる。
《噛み合い円滑化の実施例》
〈シンクロナイザ〉
まず、ドグクラッチ29を入力側小ギア24または入力側大ギア26に連結させる際に、回転速度の同期を図るシンクロナイズ機構を設けることが可能である。
シンクロナイズ機構は、一例として
図10・
図18・
図19・
図20に示すように、ドグクラッチ29と、これと噛み合う入力側小ギア24または同大ギア26との係合部位に設けられる。すなわち小ギア24または大ギア26の各軸孔24h・26hを延長させるようなシンクロボス39bを形成し、その外周側にシンクロリング部39を形成する(
図18・
図19参照)。また小ギア24・大ギア26については、ドグクラッチ29のギア連結用突起部36が上記シンクロリング部39に緩接触するように、傾斜状(テーパ状または円錐状の切欠き)、つまりドグクラッチ29に向かって拡径状態となるようなドグ受入凹部24R・26Rを形成し(
図14参照)、ドグクラッチ29と各ギア24・26との噛み合いに先立ち、ドグクラッチ29の回転と、各ギア24・26との回転差を縮小ないしは解消を図るものである。
すなわちドグクラッチ29の連結開始時点から、ドグクラッチ29が各ギア24・26に対し徐々に接触するようになり、両者の連結摩擦力が徐々に増大して行くものである。このためドグクラッチ29の回転が各ギア24・26に徐々に伝達されることになり、急激な衝撃を抑えながら、各ギア24・26はドグクラッチ29の回転と同期が図られる。
【0033】
〈チャンファー機構〉
また、図示を省略するが、ドグクラッチ29のギア連結用突起部36と、各ギア24・26との噛み合いを円滑にするため、両者の間に、互いに歯面を噛み合い易くする機構である、いわゆるチャンファーを形成することが好ましい。なお、このチャンファーについても特許請求の範囲におけるシンクロナイズ機構に包含されるものである。
【0034】
〈ドグクラッチの係合タイミングの適化(係合適化状態)〉
更に、ドグスライド用フォーク30の作動タイミングを適化して、ドグクラッチ29のギア24・26への係合が円滑に行えるように、シフト動作に適する回転数を設定することもできる。すなわち、一例として
図6(a)に示すように、入力側のシャフト22に対し、回転センサRCを設け、このセンサ出力を変速制御装置13に入力して、適切なタイミング(回転数)で係合動作が行えるようにすることができ、これを本明細書では係合適化状態と称している。因みに回転センサRCとしては、例えば入力側のシャフト22に歯車状の突起を設け、近接センサ等によりパルス信号を出力し、単位時間あたりのパルスカウントにより、回転数データを得るもの等が適用できる。
また、係合タイミングが適化した時点で、パイロットランプ、ブザー等によるインジケータ表示を併せて行うようにすることができる。もちろん、このような適化状態を告知するインジケータ表示や、適化状態での係合動作とは、いずれか一方を単独で行うようにしても構わない。
なお、回転センサRCは、必ずしも入力側のシャフト22に設ける必要はなく、当該シャフト22の前段における入力系回転部材に設けることも可能である。
【0035】
《ドグスライド用フォークの作動円滑化》
更にドグクラッチ29と、これと噛み合うギア24・26との間における噛み合い円滑化のほかにドグクラッチ29を移動させるためのドグスライド用フォーク30の作動を円滑化する実施例が挙げられる。すなわち、例えば
図6(b)に示すように、ドグスライド用フォーク30の基端部30bを支持するフォーク摺動用シャフト35に緩衝構造を設けることが可能である。具体的には、フォーク摺動用シャフト35の基端部30bと、フォーク固定用部材34a・34bとの間に緩衝用のウェーブプレートWPを介在させるものである。
なおドグスライド用フォーク30のシフト機構については、既に挙げた機構の外、例えば自動二輪車の変速機構に多用されているシフトドラムによるもの等、適宜公知の構成が適用できる。
またドグスライド用フォーク30(つまりドグクラッチ29)をシャフト22に沿って摺動させる際、上述した基本の実施例では、スクリューシャフトによって構成されたフォーク摺動用シャフト35を適用した。しかしながら、ドグクラッチ29をスライド摺動させるにあたっては、例えばドグクラッチ29の外周にヘリカルの溝を形成し、これに噛み合う多条ネジシャフトを新たに設け、この多条ネジシャフトを回転させることにより、ドグクラッチ29を各ギア24・26に向けてスライドさせることも可能である。
【0036】
《ギア配列に関する実施例》
また先に述べた基本の実施例は、入力側のシャフト22に支持される小ギア24・大ギア26をフリー状態に設ける一方、出力側のシャフト23に設けられる大ギア25・小ギア27をシャフト23に対し固定状態とし、フリー状態のシャフト22側の各ギア24・26に対し、ドグクラッチ29を噛み合わせて回転固定し、シャフト22の回転を各ギア25・27のいずれかに伝達する構成を示した。
しかしながら、入力側、出力側いずれのシャフト22・23におけるギアをフリー保持するか、固定保持するかは適宜決定できるものであり、例えば出力側のシャフト23に支持するギア25・27をフリー支持するようにしても構わない。
更には、例えば入力側のシャフト22における小ギア24についてはフリーとする一方、出力側のシャフト23における小ギア27をフリーとし、各々に別々のドグクラッチ29を作用させるようにしても構わない。
また、以上述べたギア列は高低二段変速であったが、例えばギア比を異ならせた四組のギアを設けて四段変速等、二段以上の多段変速とすることも可能である。
【0037】
《応用機材の実施例》
このような変速機構の応用分野について説明すると、応用分野としての被動機材は、例えば車輌、航空機、風力発電機(
図4参照)、船外機(
図2参照)、更にはエレベーター、リフト等の荷役設備や漁労設備等に用いられるウインチ装置などが挙げられる。ここで
図4に示す符号18は、発電機である。なお車輌については、電車等の鉄道車輌のほか、自動車(
図1参照)、モーターサイクル(
図3参照)、アシスト自転車等が挙げられる。 なお、図中符号15は車輌のタイヤを示し、図中符号16は船外機のスクリューを示し、図中符号17は風力発電機のブレードを示し、図中符号18は発電機を示している。