(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003355
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】受信信号の異常の検出方法および検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/22 20100101AFI20241226BHJP
G01S 19/48 20100101ALI20241226BHJP
【FI】
G01S19/22
G01S19/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】36
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024092791
(22)【出願日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023101444
(32)【優先日】2023-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024005459
(32)【優先日】2024-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】長保 龍
(72)【発明者】
【氏名】戸井田 有司
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062CC07
5J062DD05
5J062DD13
5J062FF01
5J062FF04
(57)【要約】
【課題】行路差に微小なばらつきやオフセットが生じた場合でも誤判定を抑制し、異常なGNSS信号を精度よく検出する。
【解決手段】行路差判定部54は、複数のGNSS衛星から複数のGNSSアンテナ3A、3B、3Cに送信されたGNSS信号を行路の差を表す行路差指標と、第1の行路差閾値とを比較し、比較結果に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する行路差の判定処理を所定の周期で実行し、直前の周期に実行された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定されたGNSS衛星は、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信し、前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標と、所定の行路差閾値とを比較し、前記行路差指標と前記所定の行路差閾値との比較結果に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理を所定の周期で実行し、
直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも、前記到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする受信信号の異常の検出方法。
【請求項2】
前記直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項3】
前記直前の周期に実行された前記判定において前記衛星の少なくとも1つが前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項4】
前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かをさらに判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項5】
前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かをさらに判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項6】
前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定されている前記衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項7】
前記衛星が属する前記衛星システムの種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項8】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、
ことを特徴とする請求項4に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項9】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、
ことを特徴とする請求項4に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項10】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態を所定の時間だけ維持する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項11】
複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項12】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項4に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項13】
正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数を変化させる、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項14】
前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、
前記第二の判定処理において位置を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置を出力し、
前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、少なくとも加速度及び角速度を計測可能なセンサが計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するか、又は、位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項15】
前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置と、前記第二の判定処理において推測した位置との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した位置を出力するか、又は、前記メッセージを出力し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力する、
ことを特徴とする請求項14に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項16】
前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、
前記第二の判定処理において時刻を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻を出力し、
前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項17】
前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻と、前記第二の判定処理において推測した時刻との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した時刻を出力し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力する、
ことを特徴とする請求項16に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項18】
前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された衛星の数が、前記行路差指標に基づき前記GNSS信号が正常であると判定するための所定の閾値未満である場合、
前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が異常であると判定された衛星の数が所定の範囲である場合、
前記複数のアンテナの少なくとも1つの測位位置が計算されていない場合、及び、
前記複数のアンテナの測位位置を用いて計算される前記複数のアンテナどうしの間ごとの測位距離の標準偏差が所定の閾値よりも大きい場合、の少なくとも1つの場合に、前記GNSS信号が受信不安定な状況にあり、前記GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する、
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に受信信号の異常の検出方法。
【請求項19】
複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信する受信部と、
前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標と、所定の行路差閾値とを比較し、前記行路差指標と前記所定の行路差閾値との比較結果に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理を所定の周期で実行する行路差判定部と、を備え、
前記行路差判定部は、直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも、前記到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする受信信号の異常の検出装置。
【請求項20】
前記行路差判定部は、前記直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項21】
前記行路差判定部は、前記直前の周期に実行された前記判定において前記衛星の少なくとも1つが前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項22】
前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部と、をさらに有する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項23】
前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かを判定する擬似距離判定部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項24】
前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定されている前記衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項25】
前記衛星が属する前記衛星システムの種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項19に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項26】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、
ことを特徴とする請求項22に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項27】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、
ことを特徴とする請求項22に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項28】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が所定の時間だけ維持される、
ことを特徴とする請求項19ないし23のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項29】
複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求19ないし23のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項30】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項22に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項31】
正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化する、
ことを特徴とする請求項19ないし23のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項32】
前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行する異常検出部と、
出力する情報を調整する出力情報調整部と、を備え、
前記出力情報調整部は、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、
前記第二の判定処理において位置を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置を出力し、
前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、少なくとも加速度及び角速度を計測可能なセンサが計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するか、又は、位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する、
ことを特徴とする請求項19ないし23のいずれか1項に受信信号の異常の検出装置。
【請求項33】
前記出力情報調整部は、前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置と、前記第二の判定処理において推測した位置との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した位置を出力するか、又は、前記メッセージを出力し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力する、
ことを特徴とする請求項32に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項34】
前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行する異常検出部と、
出力する情報を調整する出力情報調整部と、を備え、
前記出力情報調整部は、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力し、
前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、
前記第二の判定処理において時刻を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻を出力し、
前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力する、
ことを特徴とする請求項19ないし23のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項35】
前記出力情報調整部は、前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻と、前記第二の判定処理において推測した時刻との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した時刻を出力し、
前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力する、
ことを特徴とする請求項34に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項36】
前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常と判定された衛星の数が、前記行路差指標に基づき前記GNSS信号が正常であると判定するための所定の閾値未満である場合、
前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が異常であると判定された衛星の数が所定の範囲である場合、
前記複数のアンテナの少なくとも1つの測位位置が計算されていない場合、及び、
前記複数のアンテナの測位位置を用いて計算される前記複数のアンテナどうしの間ごとの測位距離の標準偏差が所定の閾値よりも大きい場合、の少なくとも1つの場合に、前記GNSS信号が受信不安定な状況にあり、前記GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する手段を有する、
ことを特徴とする請求項19ないし23のいずれか1項に記載の受信信号の異常の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)における受信信号の異常を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星から送信されたGNSS信号を用いて移動体の位置を計測するGPS(Global Positioning System)などのGNSSでは、衛星や地上局などの送信源から偽のGNSS信号を送信し、偽のGNSS信号を受信したGNSS受信装置に誤った位置を測位させる、という被害が発生している。このような被害を防ぐために、GNSS信号を送信した衛星の真偽を判定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナによって受信し、GNSS信号を送信した衛星から複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差(GNSS信号の搬送波位相の差)が所定の行路差閾値以下である場合に、GNSS信号が異常であると判定する。すなわち、同じ送信元から複数の衛星になりすまして送信されたGNSS信号は行路差が一致するため、異常であると判定されたGNSS信号の送信元は、偽の衛星の疑いがあると判定することができる(以下、この技術を行路差一致検出ともいう)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
行路差一致検出では、アンテナを介してGNSS信号を受信する複数の受信器間の時刻同期が不十分であったり、GNSS信号にマルチパスや雑音が発生していたり、あるいは各衛星の周回方向などの違いによって衛星ごとにGNSS信号のドップラー周波数が異なる場合などに、その影響を受けて行路差に微小なばらつきやオフセットが生じてしまうことがある。行路差一致検出は、所定周期で実行されるが、行路差に微小なばらつきやオフセットが生じると、直前の周期の判定において行路差が所定の行路差閾値以下(すなわち、行路差一致)であるとして行路差異常に分類された衛星が、次の周期の判定では行路差が微小なばらつきやオフセットによって所定の行路差閾値よりも大きくなり(すなわち、行路差不一致)、正常なGNSS信号であると誤判定される可能性がある。このような誤判定を抑制するには、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを予め考慮して行路差閾値を緩めればよいが(すなわち、大きな値に設定)、行路差閾値を緩めてしまうと、行路差に微小なばらつきやオフセットが生じていないときに誤判定が発生してしまう。
【0006】
そこでこの発明は、行路差に微小なばらつきやオフセットが生じた場合でも誤判定を抑制し、異常なGNSS信号を精度よく検出することが可能な受信信号の異常の検出方法および検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信し、前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標と、所定の行路差閾値とを比較し、前記行路差指標と前記所定の行路差閾値との比較結果に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理を所定の周期で実行し、直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも、前記到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ことを特徴とする。
【0008】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星と同じ種類の前記衛星システムに属する衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記直前の周期に実行された前記判定において前記衛星の少なくとも1つが前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かをさらに判定する、ようにしてもよい。
【0011】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かをさらに判定する、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定されている前記衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0013】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記衛星が属する前記衛星システムの種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしてもよい。
【0014】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、ようにしてもよい。
【0015】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、ようにしてもよい。
【0016】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態を所定の時間だけ維持する、ようにしてもよい。
【0017】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、ようにしてもよい。
【0018】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、ようにしてもよい。
【0019】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数を変化させる、ようにしてもよい。
【0020】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、前記第二の判定処理において位置を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置を出力し、前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、少なくとも加速度及び角速度を計測可能なセンサが計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するか、又は、位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する、ようにしてもよい。
【0021】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置と、前記第二の判定処理において推測した位置との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した位置を出力するか、又は、前記メッセージを出力し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力する、ようにしてもよい。
【0022】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、前記第二の判定処理において時刻を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻を出力し、前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力する、ようにしてもよい。
【0023】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻と、前記第二の判定処理において推測した時刻との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した時刻を出力し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力する、ようにしてもよい。
【0024】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された衛星の数が、前記行路差指標に基づき前記GNSS信号が正常であると判定するための所定の閾値未満である場合、前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が異常であると判定された衛星の数が所定の範囲である場合、前記複数のアンテナの少なくとも1つの測位位置が計算されていない場合、及び、前記複数のアンテナの測位位置を用いて計算される前記複数のアンテナどうしの間ごとの測位距離の標準偏差が所定の閾値よりも大きい場合、の少なくとも1つの場合に、前記GNSS信号が受信不安定な状況にあり、前記GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する、ようにしてもよい。
【0025】
また、この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信する受信部と、前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標と、所定の行路差閾値とを比較し、前記行路差指標と前記所定の行路差閾値との比較結果に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理を所定の周期で実行する行路差判定部と、を備え、前記行路差判定部は、直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星は、前記所定の行路差閾値よりも、前記到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ことを特徴とする。
【0026】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記行路差判定部が、前記直前の周期に実行された前記判定において前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された前記衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0027】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記行路差判定部が、前記直前の周期に実行された前記判定において前記衛星の少なくとも1つが前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、前記第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0028】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部と、をさらに有し、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かの判定結果と、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であるか否かの判定結果とに基づいて前記測位部による前記測位情報の計算処理で使用する衛星を決定する、ようにしてもよい。
【0029】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かを判定する擬似距離判定部をさらに有し、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であるか否かの判定結果と、前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かの判定結果とに基づいて前記測位部による前記測位情報の計算処理で使用する衛星を決定する、ようにしてもよい。
【0030】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号の到来方向が正常ではないと判定されている前記衛星は、前記第2の行路差閾値を用いて前記GNSS信号の到来方向が正常であると判定された場合に、前記所定の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行する、ようにしてもよい。
【0031】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記衛星が属する前記衛星システムの種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしてもよい。
【0032】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、ようにしてもよい。
【0033】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、ようにしてもよい。
【0034】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が所定の時間だけ維持される、ようにしてもよい。
【0035】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、ようにしてもよい。
【0036】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合、あるいは、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された状態が所定の時間経過した場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、ようにしてもよい。
【0037】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化する、ようにしてもよい。
【0038】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行する異常検出部と、出力する情報を調整する出力情報調整部と、を備え、前記出力情報調整部は、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、前記第二の判定処理において位置を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置を出力し、前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、少なくとも加速度及び角速度を計測可能なセンサが計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するか、又は、位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する、ようにしてもよい。
【0039】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記出力情報調整部が、前記第二の判定処理において位置を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置と、前記第二の判定処理において推測した位置との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した位置を出力するか、又は、前記メッセージを出力し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された位置を出力する、ようにしてもよい。
【0040】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号が正常であるか否かを判定する第一の判定処理を所定の周期で実行する異常検出部と、出力する情報を調整する出力情報調整部と、を備え、前記出力情報調整部は、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の全てが正常であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力し、前記第一の判定処理において前記GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かを判定する第二の判定処理を実行し、前記第二の判定処理において時刻を算出できると判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻を出力し、前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力する、ようにしてもよい。
【0041】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記出力情報調整部が、前記第二の判定処理において時刻を算出できないと判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻と、前記第二の判定処理において推測した時刻との差が所定の閾値以上であるか否かを判定する第三の判定処理を実行し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値以上であると判定された場合には、前記推測した時刻を出力し、前記第三の判定処理において前記差が前記所定の閾値未満であると判定された場合には、前記GNSS信号に基づいて算出された時刻を出力する、ようにしてもよい。
【0042】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常と判定された衛星の数が、前記行路差指標に基づき前記GNSS信号が正常であると判定するための所定の閾値未満である場合、前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が異常であると判定された衛星の数が所定の範囲である場合、前記複数のアンテナの少なくとも1つの測位位置が計算されていない場合、及び、前記複数のアンテナの測位位置を用いて計算される前記複数のアンテナどうしの間ごとの測位距離の標準偏差が所定の閾値よりも大きい場合、の少なくとも1つの場合に、前記GNSS信号が受信不安定な状況にあり、前記GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する手段を有する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0043】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、直前の周期に実行された判定においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星は、所定の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行するようにしているので、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを原因として発生する誤判定を抑制するとともに、異常なGNSS信号を精度よく検出することが可能である。
【0044】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、直前の周期に実行された判定においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星は、所定の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行するようにしているので、特定の種類の衛星システムに対して偽のGNSS信号を送信するなどの妨害が行われている場合であっても、誤判定のリスクを高めることなく、その衛星システムにおける受信信号の異常を漏れなく検出することが可能となる。
【0045】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、直前の周期に実行された判定において少なくとも1つの衛星がGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、所定の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行するようにしているので、GNSSの複数の種類の衛星システムに対して偽のGNSS信号を送信するなどの妨害が行われている場合であっても、誤判定のリスクを高めることなく、異常なGNSS信号を漏れなく検出することが可能である。
【0046】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、GNSS信号の送信時刻の異常を検出するとともに衛星から複数のアンテナ各々までの行路差(GNSS信号の到来方向)の異常を検出するようにしているので、行路差の異常は一層確実にGNSS信号の異常を検出することができるものの複数の衛星から送信されるGNSS信号を対象として処理を行うので検知が遅れることも考えられる一方で送信時刻の異常は衛星ごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0047】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、衛星の擬似距離の異常をさらに検出するようにした場合には、擬似距離の判定処理をさらに組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を一層確実に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を一層向上させることが可能となる。
【0048】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かの判定処理を行い、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、慣性装置(加速度及び角速度を計測可能なセンサ)が計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するようにしているので、適切な位置情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。また、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、少なくとも位置が計測できないことを意味するメッセージを出力するようにしているので、異常な受信信号に基づく誤った位置情報が外部(他機器やサービスなど)で使用されることを確実に防止することが可能となる。
【0049】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置と、正常であると推測される位置、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、慣性装置が計測した変化量を加えることによって推測した位置とを比較し、その差が所定の閾値以上であるか否かを判定して出力情報を調整するようにしているので、より適切で有効な位置情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。
【0050】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かの判定処理を行い、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できない場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力するようにしているので、適切な時刻情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。
【0051】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できない場合には、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された時刻と、正常であると推測される時刻、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻とを比較し、その差が所定の閾値以上であるか否かを判定して出力情報を調整するようにしているので、より適切で有効な時刻情報を外部(他機器やサービスなど)に出力することが可能となる。
【0052】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、GNSS信号の受信が不安定な状況を検出できるので、GNSS信号の異常を可能性の段階で把握することができ、異常の検出が遅れた場合であっても、偽のGNSS信号に基づく誤った情報(位置や時刻など)の出力を防止し、受信信号の異常検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】実施の形態1に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1のGNSSコンパスにおける複数のGNSSアンテナの配置を示す図である。
【
図3】
図2のGNSSアンテナどうしの間における行路差を説明する図である。
【
図4】
図1の行路差判定部において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを切り替えて行なわれる行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態2に係るGNSSコンパスの行路差判定部において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを切り替えて行なわれる行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態3に係るGNSSコンパスの行路差判定部において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを切り替えて行なわれる行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態4及び5に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図8】実施の形態4に係るのGNSSコンパスの制御ユニットにおいて行われる出力情報調整処理の手順を示すフローチャートである。
【
図9】実施の形態5に係るGNSSコンパスの制御ユニットにおいて行われる出力情報調整処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態6に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図11】受信不安定期の例を説明するための図である。
【
図12】受信不安定期の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。この実施の形態では、この発明に係る受信信号の異常の検出装置がGNSSコンパスに組み込まれる場合を例に挙げて説明する。
【0055】
(実施の形態1)
(GNSSコンパスの全体構成)
図1は、この発明に係る受信信号の異常の検出装置を含む、実施の形態1に係るGNSSコンパス1の概略構成を示す機能ブロック図である。GNSSコンパス1は、例えば、船舶、車両、および飛行体などの移動体に搭載されて使用される。
【0056】
本実施の形態に係るGNSSコンパス1は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)で用いられる複数の衛星(「GNSS衛星」と呼ぶ)それぞれから送信される衛星信号/測位信号(「GNSS信号」と呼ぶ)を受信してGNSSにおける受信信号であるGNSS信号の異常を検出する機能と自機の位置などを計算する機能とを備え、主に、制御ユニット2と、GNSSアンテナ3と、GNSS受信部4と、異常検出部5と、測位部6と、を有する。GNSSコンパス1を構成する各部は、バスを介して信号の送受を行って相互に情報伝達可能であるように接続される。
【0057】
GNSSに含まれる衛星システムとしてはGPS(Global Positioning System,Global Positioning Satellite の略;全地球測位システム)、GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System の略)、Galileo、BDS(BeiDou navigation satellite System の略;北斗衛星導航系統)などが挙げられる。
【0058】
複数のGNSS衛星それぞれは、当該のGNSS衛星自身の現在位置を示すデータであるエフェメリスを含むGNSS信号を電波として送信する。複数のGNSS衛星それぞれから送信されるGNSS信号には、そのGNSS衛星が当該GNSS信号を電波として送信した時刻を示す情報も含まれる。
【0059】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1を構成する各部の動作を制御する機能を備え、例えば、GNSS信号の異常の検出やGNSSコンパス1の位置などの計算などに纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を有する装置として構成される。
【0060】
制御ユニット2は、また、中央処理装置(CPU)がGNSS信号の異常の検出やGNSSコンパス1の位置などの計算などに纏わる演算処理を行う際に利用するプログラム、各種の情報、およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったり中央処理装置(CPU)が前記演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったりする機能を備え、例えば、読み取り専用の記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access Memory の略)、ならびにハードディスクのうちの少なくとも1つを有する装置として構成される。
【0061】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1の動作を制御するためのプログラム(「制御プログラム」と呼ぶ)を中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御プログラムに従ってGNSSコンパス1を構成する各部の処理の開始、内容、および終了を統制して制御する。
【0062】
GNSS受信部4は、複数のGNSS衛星S_i(但し、i:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号)それぞれから送信されるGNSS信号を受信するための装置であり、各々がGNSSアンテナ3を備える少なくとも2個のGNSS受信器から構成される。この実施の形態では、GNSS受信部4が3個のGNSS受信器4A、4B、4Cから構成され、GNSS受信器4AがGNSSアンテナ3Aを備え、GNSS受信器4BがGNSSアンテナ3Bを備え、GNSS受信器4CがGNSSアンテナ3Cを備える。
【0063】
3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cは、GNSSコンパス1が搭載される移動体上に、所定の間隔で相互に離間して配置されて固定される。この実施の形態では、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cが正三角形の頂点の位置それぞれに配置される(
図2参照)。
【0064】
GNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしを結ぶ線分を「基線」と呼ぶ。GNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、GNSSアンテナ3A、3B、3Cの配置の設計値として既知である。この実施の形態では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法、GNSSアンテナ3BとGNSSアンテナ3Cとの間の基線BCの寸法、およびGNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの間の基線ACの寸法はいずれも既知である。GNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、GNSSアンテナ3A、3B、3C間の干渉を避けるため、1波長以上(通常は、数波長程度)に設定される。
【0065】
各GNSS受信器4A、4B、4Cは、GNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号をGNSSアンテナ3A、3B、3Cを介して受信して電気信号(特に、デジタル信号)に変換して出力する。
【0066】
GNSS信号は、搬送波に重畳されて電波(「GNSS電波」と呼ぶ)としてGNSS衛星S_iから逐次送信される。各GNSS受信器4A、4B、4Cは、GNSS電波を受信し、前記GNSS電波を復調してGNSS信号を取り出す。そして、前記GNSS信号がGNSS受信部4から出力される。
【0067】
制御プログラムを制御ユニット2の中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御ユニット2内に異常検出部5および測位部6が構成される。
【0068】
異常検出部5は、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号の異常を検出して検出結果を出力するための装置である。
【0069】
測位部6は、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号を用いて測位情報を計算して出力するための装置である。
【0070】
測位部6によって計算される測位情報は、特定の項目には限定されないものの、例えば、自機の位置、方位、および姿勢(例えば、ローリング、ピッチング、旋回率(ROT))などのうちの少なくとも1つが挙げられる。測位部6による測位情報の計算処理は、周知の技術が適用され得るとともにこの発明では特定の項目や手法などには限定されないので、詳細な説明を省略する。
【0071】
測位部6は、異常検出部5から出力されるGNSS信号の異常の検出結果に基づいて、測位情報の計算処理で使用する衛星群から排除するGNSS衛星S_iを決定する(言い換えると、測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iを決定する)。
【0072】
(異常検出部の処理内容)
実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法は、複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を複数のGNSSアンテナ3A、3B、3Cを介して受信して、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいてGNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定し、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの比較に基づいてGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かを判定するとともに、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iから複数のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々までの行路の差を表す指標に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしている。
【0073】
また、上記の受信信号の異常の検出方法を実施する機器としての受信信号の異常の検出装置を含む、実施の形態に係るGNSSコンパス1は、複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を複数のGNSSアンテナ3A、3B、3Cを介して受信するGNSS受信部4と、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいてGNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部51と、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの比較に基づいてGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かを判定する擬似距離判定部52と、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iから複数のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々までの行路の差を表す指標に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する行路差判定部54と、測位情報を計算する測位部6と、を有し、GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かの判定結果とGNSS信号の到来方向が正常であるか否かの判定結果とGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かの判定結果とに基づいて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iを決定する、ようにしている。
【0074】
異常検出部5は、GNSS信号の異常を検出するための装置であり、GNSS受信部4(尚、各々がGNSSアンテナ3(具体的には、3A、3B、3Cのうちのいずれか)を備える3個のGNSS受信器4A、4B、4Cから構成される)から所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号に基づいてGNSSにおける受信信号であるGNSS信号の異常を検出するための演算処理(「異常検出演算処理」と呼ぶ)を実行する。異常検出演算処理は、GNSS受信部4からGNSS信号が出力される所定の周期に合わせて前記所定の周期で実行されるようにしてもよく、或いは、前記所定の周期とは異なる周期で実行されるようにしてもよい。
【0075】
異常検出部5は、送信時刻判定部51、擬似距離判定部52、行路差計算部53、および行路差判定部54を備える。
【0076】
送信時刻判定部51は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する。送信時刻判定部51によって行われる処理のことを「送信時刻の判定処理」と呼ぶ。
【0077】
送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iごとに、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。
【0078】
基準送信時刻は、GNSS衛星S_iごとに設定されるようにしてもよく、或いは、すべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定されるようにしてもよい。
【0079】
基準送信時刻がGNSS衛星S_iごとに設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、過去に当該GNSS衛星S_iから送信されたGNSS信号に含まれていて取得されて記憶された送信時刻に前記GNSS信号を受信した時点からの経過時間が加えられた時刻が用いられるようにしてもよい。
【0080】
経過時間は、例えば、経過時間の計測機器としてGNSS受信部4に温度補償水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillators の略)が搭載され、前記温度補償水晶発振器が用いられて計測される。この場合、時間経過とともに変化する経過時間の計測機器(例えば、温度補償水晶発振器)の誤差やGNSS衛星S_iのドップラーシフトのずれが考慮されて経過時間が補正されるようにしてもよい。なお、ドップラーシフトは、ドップラー効果によって生じる、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS電波の搬送波周波数とGNSS受信部4(具体的には、GNSS受信器4A、4B、4C)における受信周波数との周波数差として求められる。
【0081】
GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する際には(即ち、送信時刻の判定処理では)、GNSS信号の送信時刻の小数部のみが使用されるようにしてもよい。
【0082】
時刻差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として当該GNSS衛星S_iについて過去に取得された送信時刻に経過時間が加えられた時刻が用いられる場合は、例えば1~3ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0083】
送信時刻判定部51は、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と基準送信時刻との差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、前記GNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0084】
一方、基準送信時刻がすべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、他のGNSS衛星S_j(但し、j:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号であり、i≠j;以下同じ)から送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられるようにしてもよい。他のGNSS衛星S_jとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きい衛星が選択される。
【0085】
この場合は、送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iごとに、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。GNSS信号の受信時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A、4B、4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。
【0086】
時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられる場合は、前記GNSS衛星S_iのGNSSに含まれる衛星システムの種類(例えば、GPS、GLONASS、BDS)と前記他のGNSS衛星S_jのGNSSの種類との組み合わせに応じて異なる値に設定されるようにしてもよい。例えば、GPSどうしの組み合わせの場合は時刻差閾値が20~30ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定され、GPSとBDSとの組み合わせの場合は時刻差閾値が90~110ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0087】
送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0088】
そして、送信時刻判定部51は、送信時刻異常に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を送信時刻異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0089】
次に、擬似距離判定部52は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離が正常であるか否かを判定する。擬似距離判定部52によって行われる処理のことを「擬似距離の判定処理」と呼ぶ。
【0090】
擬似距離は、GNSS衛星S_iから送信されてGNSSアンテナ3を介して受信されるGNSS信号の伝搬距離であり、受信したGNSS信号(別言すると、GNSS電波)がGNSS衛星S_iから送信された時刻とGNSSアンテナ3を介して受信された時刻との差(謂わば、GNSS信号の伝搬時間)から定まる距離である。
【0091】
GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iは、GNSS衛星S_iからGNSS信号(GNSS電波)が送信された時刻と、GNSSアンテナ3を介して前記GNSS信号(GNSS電波)が受信された時刻との差に、電波の伝搬速度(具体的には、光速)を乗じることで算出される。
【0092】
GNSS衛星S_iからGNSS信号が送信された時刻は当該GNSS信号に含まれている。また、GNSSアンテナ3を介してGNSS信号が受信された時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A、4B、4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。なお、GNSS信号が送信された時刻と受信された時刻との差に相当するGNSS信号の伝搬時間は、C/Aコードの位相のずれ量に基づいて特定されるようにしてもよい。なお、C/Aコードは、GNSS衛星S_iごとに固有のコードであり、送信元を示す情報として機能する。
【0093】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iごとに、当該GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が所定の擬似距離差閾値よりも大きいか否かを判断する。基準衛星Srとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きい衛星が選択される。
【0094】
擬似距離差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えばGNSS衛星の軌道を前提としたときにGNSS衛星どうしの擬似距離の差として想定される最大値が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。擬似距離差閾値は、例えば1~2km程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0095】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいとき、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類する。
【0096】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいことに加えて、前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の信号強度/受信強度が所定の閾値よりも高いときに、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類するようにしてもよい。
【0097】
そして、擬似距離判定部52は、擬似距離異常に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を擬似距離異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0098】
次に、行路差計算部53は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の情報を用いてGNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A、3B、3Cまでの行路の差を計算する。行路差計算部53および行路差判定部54によって行われる処理のことを「行路差の判定処理」と呼ぶ。
【0099】
行路差計算部53は、GNSS衛星S_iごとに、複数のGNSSアンテナ3A、3B、3Cが所定の間隔で相互に離間して配置されていることに起因して生じる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A、3B、3Cまでの行路の差(絶対値)を、GNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、計算する。
【0100】
図3は行路の差を説明する図である。行路の差は実際には3次元で求められるが、行路の差の原理の説明として
図3では2次元で説明する。
図3に示す例では、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とのそれぞれについてGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差(即ち、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間における行路差)を取り上げて説明する。
【0101】
GNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式1のように表され、GNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式2のように表される(
図3(A)参照)。
(数1) C_1AB = L_AB×cos(θ_1)
(数2) C_2AB = L_AB×cos(θ_2)
ここに、
L_AB:GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法
θ_1:GNSS衛星S_1の仰角
θ_2:GNSS衛星S_2の仰角
【0102】
上記の数式1のように表されるGNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式3に従って計算される。また、上記の数式2のように表されるGNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式4に従って計算される。
(数3) C_1AB = λ_1×(N_1+P_1AB)
(数4) C_2AB = λ_2×(N_2+P_2AB)
ここに、
λ_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の搬送波の波長
λ_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の搬送波の波長
N_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
N_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
P_1AB:GNSS衛星S_1のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
P_2AB:GNSS衛星S_2のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
【0103】
GNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは(但し、X、Y:複数のGNSSアンテナ3を相互に区別して各々を識別するためのアンテナ記号であり、X≠Y;以下同じ)、2つのGNSSアンテナ3(
図3に示す例では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3B)に対する1つのGNSS衛星S_iの搬送波位相積算値の差である。
【0104】
行路差計算部53は、GNSS衛星S_iごとに、2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、GNSS衛星S_iからGNSSアンテナXまでの行路とGNSSアンテナYまでの行路との差C_iXYを計算する。
【0105】
次に、行路差判定部54は、行路差計算部53によって計算されるGNSS衛星S_iごと且つ2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとの行路の差C_iXYが正常であるか否かを判定する。
【0106】
ここで、
図3に示す例において、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とは通常は相互に異なる空間位置に存在するのでGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが相互に異なる。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが相互に異なるので、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは相互に異なる(
図3(A)ならびに上記の数式1、数式2参照)。
【0107】
これに対し、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とがどちらも同じ空間位置に存在する場合にはGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが同じになる(
図3(B)参照)。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じ場合は、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは同じになる(上記の数式1、数式2参照)。
【0108】
GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じになる場合として、例えば、複数のGNSS衛星の測位情報および軌道情報を含んだ信号が単一の送信アンテナから発信されている場合が考えられ、言い換えると、複数のGNSS衛星からGNSS信号(別言すると、GNSS電波)が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ(言い換えると、同一の地点;尚、地上に設置されているアンテナ局を含む)から複数のGNSS信号が発信されている場合が考えられ、つまり単一の送信アンテナ/同一の地点から複数の偽のGNSS信号が送信されている場合が挙げられる。この点において、この発明における「複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号」は、複数のGNSS衛星S_iからGNSS信号が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ/同一の地点から発信される信号を含む。
【0109】
そこで、行路差判定部54は、複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYどうしの差(行路差指標)と、所定の行路差閾値(以下、第1の行路差閾値という)とを比較し、その比較結果に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理(行路差の判定処理)を所定の周期で実行する。
【0110】
より具体的には、行路差判定部54は、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYのうちの最大値と最小値との差(行路差指標)を求め、求めた行路差指標が第1の行路差閾値以下であるとき、複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。
【0111】
また、行路差判定部54は、直前の周期に実行された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星(すなわち、行路差異常に分類された衛星)については、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。
【0112】
ここで、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値とは、第1の行路差閾値よりも大きな値を有する閾値であり、第1の行路差閾値と第2の行路差閾値との関係は、「第1の行路差閾値<第2の行路差閾値」となる。これによれば、受信器間の時刻同期が不十分であったり、GNSS信号にマルチパスや雑音が発生していたり、あるいは各衛星の周回方向などの違いによって衛星ごとにGNSS信号のドップラー周波数が異なる、などの影響を受けて行路差に微小なばらつきやオフセットが生じた場合でも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて行路差の判定処理を実行することで、本来は異常であると判定されるべきGNSS信号が、誤って正常であると判定されるのを抑制することができる。
【0113】
行路差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。また、第2の行路差閾値は、GNSS受信器4A、4B、4Cの時刻同期精度や、マルチパスまたは雑音の発生頻度や発生量、GNSS信号のドップラー周波数の変化、GNSSコンパス1ごとの個体差などに基づいて、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを特定し、これらの影響を受けないように第1の行路差閾値よりも大きな値に適宜設定される。
【0114】
ここで、上記の行路差の判定処理の作用について、
図4に示すフローチャートに基づいて説明する。行路差判定部54は、当該の処理時点において行路差計算部53から出力される、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cのうちの2個のGNSSアンテナの組み合わせごと(言い換えると、基線AB、BC、ACごと)の、GNSS衛星S_i別の、当該のGNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYの入力を受ける。行路差判定部54は、入力されたGNSS衛星S_iのGNSSアンテナX-Y間における行路差C_iXYのうち、最大値と最小値との差(行路差指標)を求め、下記の処理を行う。
【0115】
行路差判定部54は、行路差指標の算出に用いられた2個のGNSS衛星が、直前の周期の行路差の判定処理で行路差異常に分類されたGNSS衛星であるか否かを確認する(ステップS1)。
【0116】
行路差判定部54は、ステップS1にて行路差異常に分類されていないGNSS衛星であると確認できた場合には(ステップS1でNO)、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。行路差指標が第1の行路差閾値以下であるときには(ステップS2でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0117】
行路差判定部54は、次の周期のステップS1において、行路差指標の算出に用いられたGNSS衛星が、直前の周期の判定で行路差異常に分類されたGNSS衛星か否かを確認し、行路差異常に分類されているGNSS衛星であると確認できた場合には(ステップS1でYES)、行路差指標が第2の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS4)。行路差指標が第2の行路差閾値以下であるときには(ステップS4でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0118】
また、ステップS4の判定において、行路差指標が第2の行路差閾値よりも大きいときには(ステップS4でNO)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が正常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差正常に分類する(ステップS5)。
【0119】
ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、次の周期の行路差の判定処理において、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS1、S2)。
【0120】
このように、第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを適宜切り替えて行路差の判定処理を行なうことにより、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを原因として発生する誤判定を抑制するとともに、異常なGNSS信号を精度よく検出することが可能である。
【0121】
複数のGNSS衛星S_iについてGNSS信号の到来方向が異常であると判定する際の、衛星数の下限が設定されるようにしてもよい。例えば、2個のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記2個のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類されない一方で、3個以上のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記3個以上のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類されるようにしてもよい。この場合の衛星数の下限は、特定の値には限定されないものの、例えば3~5程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0122】
行路差異常を判定する際の複数のGNSS衛星S_iを全て同じ種類の衛星システムに属する衛星とし、衛星が属する衛星システムの種類ごと、つまり、GPS、GLONASS、BDSなどごとに行路差異常を判定してもよい。例えば、2個のGPS衛星についての行路の差のうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記2個のGPS衛星は行路差異常に分類されない一方で、3個以上のGPS衛星についての行路の差のうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記3個以上のGPS衛星は行路差異常に分類されるようにしてもよい。この場合の衛星数の下限は、特定の値には限定されないものの、例えば3~5程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0123】
ここで、複数のGNSS衛星S_iが相互に異なる空間位置に存在する場合には前記複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは通常は相互に異なるのに対して、単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されている場合には複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは同じになる。そこで、GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理において、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYが検証されるようにしてもよい(上記の数式3、数式4参照)。
【0124】
なお、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とが相互に異なる空間位置に存在してGNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとが実際には異なるにもかかわらず前記2つのGNSS衛星S_1、S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB、P_2ABがたまたま同じになることも考えられる。しかしながら、GNSS衛星S_1、S_2は移動しているので、前記の状態が長く(例えば、数秒以上)続くことはない。また、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに基線の方向が異なるので、例えば、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの組み合わせにおいて2つのGNSS衛星S_1、S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB、P_2ABがたまたま同じになったとしても、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの組み合わせにおいて前記2つのGNSS衛星S_1、S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB、P_2ACは同じにはならない。
【0125】
複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYを検証する場合は、行路差判定部54は、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差(絶対値)P_iXYどうしの差(行路差指標)と、所定の行路差閾値(以下、第1の行路差閾値という)とを比較し、その比較結果に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する処理(行路差の判定処理)を所定の周期で実行する。
【0126】
より具体的には、行路差判定部54は、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差(絶対値)P_iXYのうちの最大値と最小値との差(行路差指標)を求め、求めた行路差指標が第1の行路差閾値以下であるとき、複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。
【0127】
また、行路差判定部54は、直前の周期に実行された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星(すなわち、行路差異常に分類された衛星)については、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。
【0128】
ここで、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値とは、第1の行路差閾値よりも大きな値を有する閾値であり、第1の行路差閾値と第2の行路差閾値との関係は、「第1の行路差閾値<第2の行路差閾値」となる。
【0129】
この場合の第1の行路差閾値も、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。また、第2の行路差閾値は、GNSS受信器4A、4B、4Cの時刻同期精度や、マルチパスまたは雑音の発生頻度や発生量、GNSS信号のドップラー周波数の変化、GNSSコンパス1ごとの個体差などに基づいて、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを特定し、これらの影響を受けないように第1の行路差閾値よりも大きな値に適宜設定される。
【0130】
なお、行路差閾値として複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差(絶対値)P_iXYどうしの差を用い、行路差の判定処理を行なう場合の処理手順は、
図4に示すフローチャートと同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0131】
このように、第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを適宜切り替えて行路差の判定処理を行なうことにより、行路差に生じる微小なばらつきやオフセットを原因として発生する誤判定を抑制することが可能である。
【0132】
上述したとおり、GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理に用いられる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A、3B、3Cまでの行路の差を表す、GNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYやアンテナ間一重差P_iXYのことを「行路差指標」と呼ぶ。
【0133】
そして、行路差判定部54は、行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向異常)に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を行路差異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0134】
上記の各判定処理において送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_i、擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_i、および行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iは測位部6による測位情報の計算処理で使用する衛星群から排除され、排除された前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は測位部6による測位情報の計算処理には使用されない。
【0135】
測位部6が計算する測位情報の項目(具体的には、自機の位置、方位、および姿勢など)ごとに、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常のうちのいずれの異常に分類されるGNSS衛星S_iを排除するかが設定されるようにしてもよい。例えば、あくまで説明のための一例として挙げると、自機の位置を計算する際には送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_iは排除される一方で擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_iおよび行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iは排除されないようにするとともに、自機の方位や姿勢を計算する際には送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_i、擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_i、および行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iのすべてが排除されるようにしてもよい。
【0136】
送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されたGNSS衛星S_i(言い換えると、正常でないと判定されたGNSS衛星S_i)は前記の異常に分類される状態(言い換えると、前記正常でない状態)が所定の異常保持時間だけ維持される(そして、前記の異常に分類される状態が維持される間は前記の判定処理は行われない)ようにしてもよい。
【0137】
異常保持時間は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば正常な(言い換えると、測位部6による測位情報の計算処理に使用される)GNSS衛星S_iの数が極端に減る事態を回避することやGNSSコンパス1が搭載される移動体の移動に伴う正常なGNSS衛星S_iの捕捉の可能性を確保することが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さに適宜設定される。異常保持時間は、ゼロに設定されるようにしてもよい。この場合はすなわち、GNSS衛星S_iごとの、送信時刻の判定処理、擬似距離の判定処理、および行路差の判定処理は、異常検出演算処理を実行するたびに毎回行われる。
【0138】
異常保持時間は、異常の種類ごとに設定されるようにしてもよい。すなわち、送信時刻異常に分類される場合と、擬似距離異常に分類される場合と、行路差異常に分類される場合とで、異常保持時間が、すべて同じ時間長さに設定されるようにしてもよく、或いは、相互に異なる時間長さに設定されるようにしてもよい。
【0139】
異常に分類される状態が異常保持時間だけ維持される場合は、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されたGNSS衛星S_iが、前記異常保持時間の経過後に直ちに異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。または、前記異常保持時間中に異常に分類されない状態(GNSS信号の到来方向が正常な状態)であると判定された場合に、直ちに異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。あるいは、前記異常保持時間中にGNSS信号の到来方向が正常であると判定された状態が所定時間経過した場合(すなわち、所定の正常継続時間だけ維持されたとき)に、異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。
【0140】
正常継続時間は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば正常な(言い換えると、測位部6による測位情報の計算処理に使用される)GNSS衛星S_iの数が極端に減る事態を回避することが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さに適宜設定される。
【0141】
正常継続時間は、異常の種類ごとに設定されるようにしてもよい。すなわち、送信時刻異常に分類される場合と、擬似距離異常に分類される場合と、行路差異常に分類される場合とで、正常継続時間が、すべて同じ時間長さに設定されるようにしてもよく、或いは、相互に異なる時間長さに設定されるようにしてもよい。
【0142】
GNSS衛星S_iが送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されている状態で、前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と基準送信時刻との差の絶対値が時刻差閾値未満になった場合に、前記GNSS衛星S_iについての異常は解消されたと判断して、前記GNSS衛星S_iが異常の分類から外される(言い換えると、前記GNSS衛星S_iの異常の状態が解除される)ようにしてもよい。また、複数のGNSS衛星S_iが行路差異常に分類されている状態で、前記複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYどうしの差が行路差閾値より大きくなった場合に、前記複数のGNSS衛星S_iについての行路差異常は解消されたと判断して、前記複数のGNSS衛星S_iが行路差異常の分類から外される(言い換えると、前記複数のGNSS衛星S_iの異常の状態が解除される)ようにしてもよい。
【0143】
GNSSコンパス1に付随する、例えばモニタやスピーカを備える出力装置(図示していない)が設けられて、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)が発生したことが、出力装置のモニタに警報画面が表示されたり出力装置のスピーカから警報が発出されたりして、ユーザへと通知されるようにしてもよい。また、GNSS信号を利用する他の機器(例えば、レーダ、慣性航法装置)に対して送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)が発生したことが通知されるようにしてもよい。
【0144】
送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iの数が多くて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iの数が少なくなった場合に、前記の異常に分類されるGNSS衛星S_iとGNSSの種類が異なる(即ち、周波数帯が異なる)衛星の受信チャネル割り当て数が増やされるようにしてもよい。つまり、異常に分類されるGNSS衛星S_iの数に応じて、前記異常に分類される前記GNSS衛星S_iと周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化するようにしてもよい。
【0145】
例えば、GNSS受信部4の仕様としてGNSSの複数の衛星システムの種類(例えば、GPS、GLONASS、BDS)が同一の受信チャネルに共有して割り当てられ且つ割り当てられる衛星数に制限がある場合に、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iがないときは測位部6による測位情報の計算の精度を優先したGNSS衛星S_iが多く割り当てられ、一方、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iが多いときは測位部6による測位情報の計算の継続を優先できるGNSS衛星S_iが多く割り当てられるようにしてもよい。
【0146】
送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iの数が多くて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iの数が少ないために測位部6による測位情報の計算処理ができない状態が所定の時間以上継続した場合に、フェールセーフのため、前記の異常に分類されたGNSS衛星S_iが、前記の異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。この場合、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号に、送信時刻異常、擬似距離異常、および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されているGNSS衛星S_iであることを示す情報(例えば、フラグ)が付加されるようにしてもよい。
【0147】
以上説明した通り、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、送信時刻異常および擬似距離異常を検出するとともに行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向の異常)を検出するようにしているので、行路差異常は一層確実にGNSS信号の異常を検出することができるものの複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を対象として処理を行うので検知が遅れることも考えられる一方で送信時刻異常や擬似距離異常はGNSS衛星S_iごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻や擬似距離の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0148】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を用いて詳しい説明は省略する。
【0149】
実施の形態1では、直前の周期に実効された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常でないと判定された衛星について、個別に、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行するようにしている。しかしながら、偽のGNSS信号を送信するなどの妨害は、個々の衛星単位ではなく、衛星システム(例えば、GPS、GLONASS、BDS)単位で行われることが多い。そのため、行路差の判定処理において、偽の衛星の疑いがあると判定された衛星に対する個別の対応だけでは、異常検出漏れが発生するおそれがある。
【0150】
上記問題を解決するために、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1では、行路差異常を判定する際、直前の周期に実行された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星(すなわち、行路差異常に分類された衛星)だけでなく、その衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星についても、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。具体的には、例えば、直前の周期の判定においてあるGPS衛星が行路差異常に分類されていた場合は、全てのGPS衛星について、第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。この点において、本実施の形態は、実施の形態1と異なる。
【0151】
図5は、本実施の形態に係るGNSSコンパス1の行路差判定部54において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを切り替えて行なわれる行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0152】
行路差判定部54は、行路差指標の算出に用いられた2個のGNSS衛星が、直前の周期の行路差の判定処理で行路差異常に分類されたGNSS衛星と同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星であるか否かを確認する(ステップS1a)。
【0153】
行路差判定部54は、ステップS1aにて行路差異常に分類されているGNSS衛星と同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星でないと確認できた場合には(ステップS1aでNO)、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。行路差指標が第1の行路差閾値以下であるときには(ステップS2でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0154】
行路差判定部54は、次の周期のステップS1aにおいて、行路差指標の算出に用いられたGNSS衛星が、直前の周期の判定で行路差異常に分類されたGNSS衛星と同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星か否かを確認し、行路差異常に分類されているGNSS衛星と同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星であると確認できた場合には(ステップS1aでYES)、行路差指標が第2の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS4)。行路差指標が第2の行路差閾値以下であるときには(ステップS4でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0155】
また、ステップS4の判定において、行路差指標が第2の行路差閾値よりも大きいときには(ステップS4でNO)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が正常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差正常に分類する(ステップS5)。
【0156】
ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、直前の周期において当該GNSS衛星S_iと同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星が行路差異常に分類されていない場合には、次の周期の行路差の判定処理において、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS1a、S2)。一方、ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、直前の周期において当該GNSS衛星S_iと同じ種類の衛星システムに属するGNSS衛星が行路差異常に分類されている場合には、次の周期の行路差の判定処理において、行路差指標が第2の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS4)。
【0157】
以上説明した通り、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、直前の周期に実行された判定においてGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星は、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行するようにしているので、特定の種類の衛星システムに対して偽のGNSS信号を送信するなどの妨害が行われている場合であっても、誤判定のリスクを高めることなく、その衛星システムにおける受信信号の異常を漏れなく検出することが可能となる。
【0158】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を用いて詳しい説明は省略する。
【0159】
実施の形態2では、直前の周期に実効された行路差の判定処理においてGNSS信号の到来方向が正常でないと判定された衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星について、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行するようにしている。しかしながら、偽のGNSS信号を送信するなどの妨害は、GNSSのある種類の衛星システム(例えば、GPS)に対して行われている場合、他の種類の衛星システム(例えば、GLONASS、Galileoなど)に対しても行われている可能性が高い。そのため、行路差の判定処理において、偽の衛星の疑いがあると判定された衛星と同じ種類の衛星システムに属する衛星に対する対応だけでは、異常検出漏れが発生するおそれがある。
【0160】
上記問題を解決するために、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1では、行路差異常を判定する際、直前の周期に実行された判定において少なくとも1つの衛星がGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、第1の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。具体的には、例えば、直前の周期の判定においてあるGPS衛星が行路差異常に分類されていた場合は、全GPS衛星だけでなく、全GLONASS衛星、全Galileo衛星、全BDS衛星などの全ての衛星について、第2の行路差閾値を用いて次の周期の行路差の判定処理を実行する。この点において、本実施の形態は、実施の形態1及び2と異なる。
【0161】
図6は、本実施の形態に係るGNSSコンパス1の行路差判定部54において第1の行路差閾値と第2の行路差閾値とを切り替えて行なわれる行路差の判定処理の手順を示すフローチャートである。
【0162】
行路差判定部54は、直前の周期の行路差の判定処理で行路差異常に分類されたGNSS衛星が存在するか否かを確認する(ステップS1b)。
【0163】
行路差判定部54は、ステップS1bにて行路差異常に分類されたGNSS衛星が存在しないと確認できた場合には(ステップS1bでNO)、行路差指標の算出に用いられた2個のGNSS衛星について、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。行路差指標が第1の行路差閾値以下であるときには(ステップS2でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0164】
行路差判定部54は、次の周期のステップS1bにおいて、直前の周期の判定で行路差異常に分類されたGNSS衛星が存在するか否かを確認し、行路差異常に分類されているGNSS衛星が存在すると確認できた場合には(ステップS1bでYES)、行路差指標の算出に用いられた2個のGNSS衛星について、行路差指標が第2の行路差閾値以下であるか否かを判定する(ステップS4)。行路差指標が第2の行路差閾値以下であるときには(ステップS4でYES)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する(ステップS3)。
【0165】
また、ステップS4の判定において、行路差指標が第2の行路差閾値よりも大きいときには(ステップS4でNO)、当該の2個のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が正常であるとして、当該の2個のGNSS衛星S_iを行路差正常に分類する(ステップS5)。
【0166】
ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、直前の周期において行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iが存在しなくなった場合には、次の周期の行路差の判定処理において、行路差指標が第1の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS1b、S2)。一方、ステップS5にて行路差正常に分類された当該の2個のGNSS衛星S_iは、直前の周期において行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iが存在する場合には、次の周期の行路差の判定処理において、行路差指標が第2の行路差閾値以下であるか否かが判定される(ステップS4)。
【0167】
以上説明した通り、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、直前の周期に実行された判定において少なくとも1つの衛星がGNSS信号の到来方向が正常ではないと判定された場合は、全ての衛星について、所定の行路差閾値よりも、到来方向が正常ではないと判定されやすくなるように設定された第2の行路差閾値を用いて次の周期の前記判定を実行するようにしているので、GNSSの複数の種類の衛星システムに対して偽のGNSS信号を送信するなどの妨害が行われている場合であっても、誤判定のリスクを高めることなく、異常なGNSS信号を漏れなく検出することが可能である。
【0168】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を用いて詳しい説明は省略する。
【0169】
実施の形態1では、GNSS衛星からのGNSS信号が正常でないと判定された場合、そのGNSS信号を位置等の計算に使用しないという対処方法がとられている。しかしながら、GNSS衛星からのGNSS信号が正常でないと判定された場合の位置等の具体的な計算方法については十分検討されていなかった。
【0170】
そこで本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1は、GNSS衛星からのGNSS信号の一部又は全部が正常でないと判定された場合に、適切な位置情報および時刻情報を算出し、外部(他機器やサービス等)に提供することを可能にすることを目的とする。特に、出力情報調整部7を設けて、異常検出部5における各判定処理の結果に応じて、外部(他機器やサービスなど)に出力する位置情報や時刻情報を調整する。この点において、本実施の形態は、実施の形態1と異なる。
【0171】
図7は、本実施の形態に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。ここで、出力情報調整部7は、異常検出部5から出力されるGNSS信号の異常の検出結果に応じて、外部(他機器やサービスなど)に出力する位置情報や時刻情報を調整するための装置である。また、慣性装置8(センサ)は、主にジャイロセンサ(角速度センサ)と加速度センサとから構成され、それらセンサから得られる角速度、加速度等の慣性情報を積算することで、姿勢角、速度、および位置等の位置情報を算出する装置である。
【0172】
図8は、本実施の形態に係るGNSSコンパス1における処理手順であるとともに、主として出力情報調整部7において行われる出力情報調整処理の手順を示すフローチャートである。
【0173】
図8(A)は、出力情報としての位置情報の調整処理の手順を示すフローチャートである。まず、測位部6は、GNSS受信部4から所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号に基づいて自機の位置を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS11a)。
【0174】
慣性装置8は、ジャイロセンサや加速度センサを用いて位置情報(姿勢角、速度、および位置等)を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS12a)。
【0175】
そして、異常検出部5において行われる第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の一部又は全てが正常ではないという判定結果が出力された場合(ステップS13a:Yes)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて位置の算出が可能であるか否かを判定する第二の判定処理を行う(ステップS14a)。GNSS信号に基づく位置の算出(GNSS測位)が可能であるか否かは、正常なGNSS信号を送信するGNSS衛星S_iの数で決まり、一般的には、正常なGNSS信号を送信するGNSS衛星S_iが約3~4個以上あればGNSS測位が可能とされている。
【0176】
第二の判定処理において、GNSS測位が可能でないと判定された場合(ステップS14a:No)には、出力情報調整部7は、原則として、第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近(最新)の位置に、慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置を自機の位置として出力する(ステップS15a)。ここで、慣性装置8が計測した変化量とは、具体的には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できた直近のGNSS測位時から第一の判定処理の処理時までの速度の変化量を意味する。また、前記推測した位置は、制御ユニット2(RAM)に直近の位置情報として記憶する。
【0177】
ステップS15aにおける処理について、具体例を挙げて説明する。複数のGNSS衛星S_iからα秒毎にGNSS信号が送信され、時刻tにn回目に送信されたGNSS信号は全て正常であると第一の判定処理において判定されたが、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信されたGNSS信号は一部又は全部が正常ではないと第一の判定処理において判定され、第二の判定処理において、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信された複数のGNSS信号のうちの正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出することはできないと判定されたとする。この場合、「第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近(最新)の位置」は、GNSS衛星S_iからn回目に送信されたGNSS信号に基づいて算出された位置Gl(n)となり、「慣性装置8が計測した変化量」は、時刻(t+α)における慣性装置8の計測位置I(t+α)から時刻(t)における慣性装置8の計測位置I(t)を減じた量I(t+α)-I(t)、すなわち、α秒間の速度vの変化量v(α)となる。よって、出力情報調整部7は、位置Gl(n)に変化量v(α)(α秒間の速度vの変化量)を加えることによって推測した位置Gl(n)+v(α)を自機の位置として出力する(ステップS15a)。そして、この推測した位置Gl(n)+v(α)は、直近の位置情報として制御ユニット2(RAM)に記憶される。
【0178】
但し、慣性装置8における変化量の計算処理は積算処理であるため、時間の経過とともに誤差が蓄積されて、正確な値を示さなくなる。そのため、慣性装置8から出力される変化量の誤差が大きくなっている場合には、出力情報調整部7は、例外として、自機の位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する(ステップS15a)。
【0179】
一方、第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の全てが正常であるという判定結果が異常検出部5から出力された場合(ステップS13a:No)、及び、第二の判定処理において正常と判定されたGNSS信号のみに基づいてGNSS測位が可能であると判断された場合(ステップS14a:Yes)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置を自機の位置として出力する(ステップS16a)。そして、このタイミングで、制御ユニット2(RAM)に記憶されている直近の位置情報、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置(上記の例では、Gl(n)+v(α))を当該GNSS信号に基づく位置情報によって校正する(ステップS17a)。
【0180】
図8(B)は、出力情報としての時刻情報の調整処理の手順を示すフローチャートである。まず、GNSS受信部4は、所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号に基づいて時刻を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS11b)。
【0181】
また、GNSS受信部4は、例えば(GNSS受信部4に搭載される)温度補償水晶発振器(TCXO)によって内部時計を更新し、内部時計の時刻を出力情報調整部7に出力する(ステップS12b)。
【0182】
そして、異常検出部5において行われる第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号一部又は全てが正常ではないという判定結果が出力された場合(ステップS13b:Yes)には、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻の算出が可能であるか否かを判定する第二の判定処理を行う(ステップS14b)。GNSS信号に基づく時刻の算出が可能であるか否かは、正常なGNSS信号を送信するGNSS衛星の数で決まり、一般的には、正常なGNSS信号を送信するGNSS衛星S_iが約2~4個以上あればGNSS信号に基づく時刻の算出が可能とされている。
【0183】
第二の判定処理において、GNSS信号に基づく時刻の算出が可能でないと判定された場合(ステップS14b:No)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を自機の時刻として出力する(ステップS15b)。ここで、内部時計が計測した経過時間とは、具体的には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できた直近の時刻から第一の判定処理の処理時の時刻までの経過時間を意味する。また、前記推測した時刻は、直近の時刻情報として制御ユニット2(RAM)に記憶する。
【0184】
ステップS15bにおける処理について、具体例を挙げて説明する。複数のGNSS衛星S_iからα秒毎にGNSS信号が送信され、時刻tにn回目に送信されたGNSS信号は全て正常であると第一の判定処理において判定されたが、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信されたGNSS信号は一部又は全部が正常ではないと第一の判定処理において判定され、第二の判定処理において、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信された複数のGNSS信号のうちの正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出することはできないと判定されたとする。この場合、「第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻」は、GNSS衛星S_iからn回目に送信されたGNSS信号に基づいて算出された時刻Gt(n)となるので、出力情報調整部7は、時刻Gt(n)に内部時計が計測した経過時間(α)を加えることによって推測した時刻Gt(n)+αを自機の時刻として出力する(ステップS15b)。そして、この推測した時刻Gt(n)+αは、直近の時刻情報として制御ユニット2(RAM)に記憶される。
【0185】
一方、第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の全てが正常であるという判定結果が異常検出部5から出力された場合(ステップS13b:No)、及び、第二の判定処理において正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻の算出が可能であると判断された場合(ステップS14b:Yes)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻を自機の時刻として出力する(ステップS16b)。そして、このタイミングで、GNSS受信部4の内部時計の時刻を当該GNSS信号に基づく時刻によって校正する(ステップS17b)。
【0186】
この実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できるか否かの判定処理を行い、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置を出力するようにしているので、適切な位置情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。また、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、少なくとも位置が計測できないことを意味するメッセージを出力するようにしているので、異常な受信信号に基づく誤った位置情報が外部(他機器やサービスなど)で使用されることを確実に防止することが可能となる。
【0187】
また、この実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、GNSS信号の一部又は全てが正常ではないと判定された場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できるか否かの判定処理を行い、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できない場合には、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻を出力するようにしているので、適切な時刻情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。
【0188】
(実施の形態5)
次に、本発明の実施の形態5に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を用いて詳しい説明は省略する。
【0189】
実施の形態5では、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置や時刻を算出できない場合に、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置や時刻と、正常と推測した位置や時刻との間にどれくらい差があるか否かを比較した上で出力情報を調整する点において、実施の形態4と異なる。
【0190】
図7は、本実施の形態に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図であり、
図9は、本実施の形態に係るGNSSコンパス1における処理手順であるとともに、主として出力情報調整部7において行われる出力情報調整処理の手順を示すフローチャートである。
【0191】
図9(A)は、出力情報としての位置情報の調整処理の手順を示すフローチャートである。まず、測位部6は、GNSS受信部4から所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号に基づいて自機の位置を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS11a)。
【0192】
慣性装置8は、ジャイロセンサや加速度センサを用いて位置情報(姿勢角、速度、および位置等)を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS12a)。
【0193】
そして、異常検出部5において行われる第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の一部又は全てが正常ではないという判定結果が出力された場合(ステップS13a:Yes)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて位置の算出が可能であるか否かを判定する第二の判定処理を行う(ステップS14a)。第二の判定処理においてGNSS測位が可能でないと判定された場合(ステップS14a:No)には、出力情報調整部7は、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置と、第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近(最新)の位置に、慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置とを比較し、両者の差を算出する(ステップS18a)。そして、当該差が所定の閾値以上の場合(ステップS18a:Yes)には、原則として、前記推測した位置を自機の位置として出力し、例外として、自機の位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する(ステップS15a)。なお、前記推測した位置は、直近の位置情報として制御ユニット2(RAM)に記憶する。
【0194】
ステップS18a及びS5aにおける処理について、具体例を挙げて説明する。実施の形態1の例と同様に、複数のGNSS衛星S_iからα秒毎にGNSS信号が送信され、時刻tにn回目に送信されたGNSS信号は全て正常であると第一の判定処理において判定されたが、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信されたGNSS信号は一部又は全部が正常ではないと第一の判定処理において判定され、第二の判定処理において、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信された複数のGNSS信号のうちの正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出することはできないと判定されたとする。この場合、「第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近(最新)の位置」は、GNSS衛星S_iからn回目に送信されたGNSS信号に基づいて算出された位置Gl(n)となり、「慣性装置8が計測した変化量」は、時刻(t+α)における慣性装置8の計測位置I(t+α)から時刻(t)における慣性装置8の計測位置I(t)を減じた量I(t+α)-I(t)、即ち、α秒間の速度vの変化量v(α)となるので、推測した位置はGl(n)+v(α)となる。一方、正常でないと判定されたGNSS信号を含む(n+1)回目のGNSS信号に基づいて算出された位置は、Gl(n+1)となる。よって、出力情報調整部7は、推測した位置Gl(n)+v(α)と、(n+1)回目のGNSS信号に基づいて算出された位置Gl(n+1)とを比較し、両者の差を算出する(ステップS18a)。そして、当該差が所定の閾値以上の場合(ステップS18a:Yes)には、出力情報調整部7は、原則として、推測した位置Gl(n)+v(α)を自機の位置として出力し、例外として、自機の位置が計測できないことを意味するメッセージを出力する(ステップS15a)。なお、この推測した位置Gl(n)+v(α)は、直近の位置情報として制御ユニット2(RAM)に記憶される。
【0195】
ここで所定の閾値とは、特に限定されず適宜設定すれば良いが、例えば、10~100mに設定されることが考えられる。
【0196】
一方、第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号が正常であるという判定結果が異常検出部5から出力された場合(ステップS13a:No)、第二の判定処理において正常と判定されたGNSS信号のみに基づいてGNSS測位が可能であると判断された場合(ステップS14a:Yes)、及び、前記差が所定の閾値未満の場合(ステップS18a:No)には、出力情報調整部7は、GNSS信号に基づいて算出された位置を自機の位置として出力する(ステップS16a)。ここで、前記差が所定の閾値未満の場合(ステップS18a:No)には、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置(上記例では、位置Gl(n+1))を自機の位置として出力することになるが、前記差が閾値未満の場合には正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置を外部(他機やサービスなど)で使用しても誤作動などの不具合を発生させるおそれが小さいため、問題はないと考えられる。そして、このタイミングで、制御ユニット2(RAM)に記憶されている直近の位置情報、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置(上記の例では、Gl(n)+v(α))を当該GNSS信号に基づく位置情報によって校正する(ステップS17a)。
【0197】
図9(B)は、出力情報としての時刻情報の調整処理の手順を示すフローチャートである。まず、GNSS受信部4は、所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号に基づいて時刻を算出し、出力情報調整部7に出力する(ステップS11b)。
【0198】
また、GNSS受信部4は、例えば(GNSS受信部4に搭載される)温度補償水晶発振器(TCXO)によって内部時計を更新し、内部時計の時刻を出力情報調整部7に出力する(ステップS12b)。
【0199】
そして、異常検出部5において行われる第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の一部又は全てが正常ではないという判定結果が出力された場合(ステップS13b:Yes)には、出力情報調整部7は、第一の判定処理の処理時に正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻の算出が可能であるか否かを判定する第二の判定処理を行う(ステップS14b)。第二の判定処理においてGNSS信号に基づく時刻の算出が可能でないと判定された場合(ステップS14b:No)には、出力情報調整部7は、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された時刻と、第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近(最新)の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻とを比較し、両者の差を算出する(ステップS18b)。そして、当該差が所定の閾値以上の場合(ステップS18b:Yes)には、前記推測した時刻を自機の時刻として出力する(ステップS15b)。なお、前記推測した時刻は、直近の時刻情報として制御ユニット2(RAM)に記憶する。
【0200】
ステップS18b及びS5bにおける処理について、具体例を挙げて説明する。実施の形態1の例と同様に、複数のGNSS衛星S_iからα秒毎にGNSS信号が送信され、時刻tにn回目に送信されたGNSS信号は全て正常であると第一の判定処理において判定されたが、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信されたGNSS信号は一部又は全部が正常ではないと第一の判定処理において判定され、第二の判定処理において、時刻(t+α)に(n+1)回目に送信された複数のGNSS信号のうちの正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出することはできないと判定されたとする。この場合、「第一の判定処理の処理時以前に正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近(最新)の時刻」は、GNSS衛星S_iからn回目に送信されたGNSS信号に基づいて算出された時刻Gt(n)となるので、内部時計が計測した経過時間(α)を加えることによって推測した時刻は、Gt(n)+αとなる。一方、正常でないと判定されたGNSS信号を含む(n+1)回目のGNSS信号に基づいて算出された時刻は、Gt(n+1)となる。よって、出力情報調整部7は、推測した時刻Gt(n)+αと、(n+1)回目のGNSS信号に基づいて算出された時刻Gt(n+1)とを比較し、両者の差を算出する(ステップS18b)。そして、当該差が所定の閾値以上の場合(ステップS18b:Yes)には、推測した時刻Gt(n)+αを自機の時刻として出力する(ステップS15b)。この推測した時刻Gt(n)+αは、直近の時刻情報として制御ユニット2(RAM)に記憶される。
【0201】
ここで所定の閾値とは、特に限定されず適宜設定すれば良いが、例えば、GNSSコンパス1の電源が入っている時(すなわち、ステップS17bの時刻の校正が実行されている時)は、2~10秒程度に設定されることが考えられ、GNSSコンパス1の電源が入っていない時(すなわち、ステップS17bの時刻の校正が実行されていない時)は、30~200秒程度に設定されることが考えられる。
【0202】
一方、第一の判定処理においてGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号が正常であるという判定結果が異常検出部5から出力された場合(ステップS13b:No)、第二の判定処理において正常と判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻の算出が可能であると判断された場合(ステップS14b:Yes)、及び、前記差が所定の閾値未満の場合(ステップS18b:No)には、出力情報調整部7は、GNSS信号に基づいて算出された時刻を自機の時刻として出力する(ステップS16b)。ここで、前記差が所定の閾値未満の場合(ステップS18b:No)に、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された時刻(上記の例では、時刻Gt(n+1))を自機の時刻として出力することになるが、前記差が閾値未満の場合には正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された時刻を外部(他機やサービスなど)で使用しても誤作動などの不具合を発生させるおそれが小さいため、問題はないと考えられる。そして、このタイミングで、GNSS受信部4の内部時計の時刻をGNSS信号に基づく時刻によって校正する(ステップS17b)。
【0203】
この実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて位置を算出できない場合には、正常ではないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された位置と、正常であると推測される位置、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された位置のうち直近の位置に、慣性装置8が計測した変化量を加えることによって推測した位置とを比較し、その差が所定の閾値以上であるか否かを判定して出力情報を調整するようにしているので、より適切で有効な位置情報を外部(他機器やサービスなど)に提供することが可能となる。
【0204】
また、この実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて時刻を算出できない場合には、正常でないと判定されたGNSS信号を含むGNSS信号に基づいて算出された時刻と、正常であると推測される時刻、すなわち、正常であると判定されたGNSS信号のみに基づいて算出された時刻のうち直近の時刻に、内部時計が計測した経過時間を加えることによって推測した時刻とを比較し、その差が所定の閾値以上であるか否かを判定して出力情報を調整するようにしているので、より適切で有効な時刻情報を外部(他機器やサービスなど)に出力することが可能となる。
【0205】
(実施の形態6)
次に、本発明の実施の形態6に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1について説明する。なお、実施の形態1と同様の構成については、同じ符号を用いて詳しい説明は省略する。
【0206】
実施の形態1では、受信信号の異常の検出条件として、全て又は多くのGNSS受信器4A、4B、4Cで受信信号の異常を検出していることを必要としている。しかしながら、GNSS受信器4A、4B、4CによるGNSS信号の受信が不安定な場合、異常の検出が遅れたり、異常の検出が為されなかったりすることがある。例えば、GNSS受信器4A、4B、4Cが偽のGNSS信号の放射源から離れていて弱信号の受信であるときや(
図11A)、偽のGNSS信号と真のGNSS信号が混在していてその両方の信号が送信されているとき(
図11B)などでは、GNSS受信器4A、4B、4C毎に受信できる衛星情報が異なるため、異常の検出が遅れ、結果的に偽GNSS信号の誤った情報(位置や時刻など)を使用してしまうおそれがある(
図12の「受信不安定期1」)。また、GNSS受信器4A、4B、4Cが遮蔽環境にいるときや、GNSS受信器4A、4B、4C間の処理タイミングが非同期で追尾衛星情報などに差異が生じているときなどでは、その期間GNSS受信器4A、4B、4CがGNSS信号を受信できないため、異常の検出が遅れ、結果的に偽GNSS信号の誤った情報(位置や時刻など)を使用してしまうおそれがある。さらに、GNSS受信器4A、4B、4Cが偽のGNSS信号の影響外に移動した後や偽のGNSS信号が停波した後であって、GNSS受信器4A、4B、4Cが真のGNSS信号に追尾安定する前では、もはや異常は検出されないが、この時期にはGNSS受信器4A、4B、4C内に偽GNSS信号の誤った情報(位置や時刻など)が残っており、その誤った情報を早まって使用してしまうおそれがある(
図12の「受信不安定期2」)。
【0207】
そこで本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1は、受信信号の異常の検出が遅れたり異常の検出が為されなかったりするような、GNSS信号の受信が不安定な状況(受信不安定期)を検出することを可能とする。具体的には、受信不安定期検出部9を設けて、異常検出部5から出力される判定結果、及び、測位部6から出力される判定結果に基づいて、GNSS信号の受信が不安定な状況(受信不安定期)を検出する。この点において、本実施の形態は、実施の形態1と異なる。
【0208】
図10は、本実施の形態に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。ここで、異常検出部5は、異常判定部55をさらに備え、測位部6は、測位数判定部61と、標準偏差判定部62と、を備える。また、受信不安定期検出部9は、異常検出部5から出力される判定結果、及び、測位部6から出力される判定結果に基づいて、GNSS信号の受信が不安定な状況(受信不安定期)を検出するための装置である。
【0209】
本実施の形態において行路差判定部54は、行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向異常)に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を行路差異常の衛星情報として異常判定部55へと出力する。
【0210】
一方、行路差判定部54は、行路差指標が所定の行路差閾値より大きいとき、前記複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が正常であると判定し、行路差正常(言い換えると、GNSS信号の到来方向正常)に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を行路差正常の衛星情報として受信不安定期検出部9へと出力する。
【0211】
異常判定部55は、行路差判定部54から出力される行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iに関する情報の入力を受け、GNSS信号に異常が発生しているか否かを判定する。
【0212】
異常判定部55は、具体的には、行路差判定部54から出力される行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iに関する情報に基づいて行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iの個数を計数し、前記個数が所定の範囲であるか否かを判断する。
【0213】
所定の範囲は、特定の値に限定されるものではなく、例えば単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されている場合に想定されるGNSS衛星の個数が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。所定の範囲は、例えば2~3程度の値に設定されることが考えられる。
【0214】
異常判定部55は、行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iの個数が前記所定の範囲の個数より多いとき(例えば、4個以上のとき)は、GNSS信号に異常が発生していると判定する。一方、行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iの個数が前記所定の範囲のとき(例えば、2~3個のとき)は、行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向異常)に分類したGNSS衛星S_iの数が所定の範囲であるという情報を受信不安定期検出部9へと出力する。なお、行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iの個数が前記所定の範囲の個数より少ないとき(例えば、0又は1個のとき)は、GNSS信号が正常であると判定しても良い。
【0215】
GNSS信号に異常が発生していると判定された場合は、異常発生状態となり、例えば、行路差異常に分類されたGNSS衛星S_iは測位部6による測位情報(具体的には、自機の位置,方位,および姿勢など)の計算処理で使用する衛星群から排除され、排除された前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は測位部6による測位情報の計算処理には使用されないようにしても良い。
【0216】
また本実施の形態における測位部6では、測位数判定部61が、位置計算アンテナについてのGNSSアンテナ(3A、3B、3C)別の測位位置の入力を受け、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々の測位位置が計算されているか否かを判断する。
【0217】
3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cの少なくとも1つの測位位置が計算されていない場合、言い換えると、位置計算アンテナの個数が0~2個の場合は、測位数判定部61は、位置計算アンテナの個数が0~2個であるという情報、すなわち、測位位置が計算されていない(非測位の)アンテナが存在するという情報を受信不安定期検出部9へ出力する。
【0218】
一方、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々の測位位置が計算されている場合は、測位数判定部61は、前記3個のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々の測位位置を標準偏差判定部62へと出力する。
【0219】
標準偏差判定部62は、測位数判定部61から出力される3個のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々の測位位置の入力を受けると、前記測位位置を用いて、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間ごとの、つまり2個のGNSSアンテナ(3A、3B、3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとの、測位距離を計算する。
【0220】
具体的には、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の測位距離、GNSSアンテナ3BとGNSSアンテナ3Cとの間の測位距離、およびGNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの間の測位距離の3つの測位距離が計算される。測位位置は具体的には緯度、経度、および高度であり、前記測位距離はすなわち3次元座標どうしを結ぶ線分の長さである。
【0221】
標準偏差判定部62は、続いて、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間ごとの測位距離の、つまり2個のGNSSアンテナ(3A、3B、3Cのうちのいずれか2個)の組み合わせごとの測位距離の、標準偏差(「アンテナ間測位距離の標準偏差」と呼ぶ)を計算し、前記アンテナ間測位距離の標準偏差が所定の閾値(偏差閾値)よりも大きいか否かを判断する。
【0222】
偏差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えばGNSSアンテナ3A、3B、3Cどうしの間の距離である基線の寸法(尚、各GNSSアンテナ3A、3B、3Cの配置の設計値として既知である)や正常な状態であるとしても機械誤差などに起因して生じると想定される測位誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。偏差閾値は、例えば100~600m程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0223】
アンテナ間測位距離の標準偏差が偏差閾値以下である場合は、GNSS信号に異常は発生していないと考えられるため、例えば、測位部6は、3個のGNSSアンテナ3A、3B、3C各々の測位位置の平均値を算出し、前記平均値をGNSSコンパス1の現在位置として出力しても良い。
【0224】
一方、アンテナ間測位距離の標準偏差が偏差閾値よりも大きい場合は、標準偏差判定部62は、アンテナ間測位距離の標準偏差が偏差閾値よりも大きいという情報を受信不安定期検出部9へ出力する。
【0225】
(受信不安定期検出部の処理内容)
受信不安定期検出部9は、異常検出部5から出力される判定結果(すなわち、GNSS信号の到来方向が正常であるか否かの判定結果と、GNSS信号に異常が発生しているか否かの判定結果)、及び、測位部6から出力される判定結果(すなわち、測位位置が計算されているか否かの判定結果と、標準偏差が所定の閾値よりも大きいか否かの判定結果)に基づいて、受信不安定期の検出を行う。
【0226】
受信不安定期検出部9は、具体的には、下記の4つの判断基準のいずれかに該当する場合に、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する。
【0227】
第一に、受信不安定期検出部9は、行路差判定部54から、行路差正常に分類されたGNSS衛星S_iに関する情報の入力を受け、当該GNSS衛星S_iの個数を計算し、前記個数が、行路差指標に基づきGNSS信号が正常であると判定するための所定の閾値(正常判定閾値)以上であるか否かを判断する。
【0228】
正常判定閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS衛星のGNSS信号が送信されている場合に想定されるGNSS衛星の個数が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。正常判定閾値は、例えば3~5程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0229】
受信不安定期検出部9は、行路差正常に分類されたGNSS衛星S_iの個数が正常判定閾値以上であるときはGNSS信号が正常であると判定し、前記個数が正常判定閾値未満であるときは、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する。
【0230】
第二に、受信不安定期検出部9は、異常判定部55から、行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向異常)に分類したGNSS衛星S_iの数が所定の範囲であるという情報という情報の入力を受け、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する。
【0231】
第三に、受信不安定期検出部9は、測位数判定部61から、位置計算アンテナの個数が0~2個であるという情報、すなわち、測位位置が計算されていない(非測位の)アンテナが存在するという情報の入力を受け、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する。
【0232】
第四に、受信不安定期検出部9は、標準偏差判定部62から、アンテナ間測位距離の標準偏差が偏差閾値よりも大きいという情報の入力を受け、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断する。
【0233】
上記の4つの判断基準のいずれか1つにおいて、GNSS信号が受信不安定な状況にあり、GNSS信号に異常が発生している可能性があると判断された場合、受信不安定期検出部9は、測位部6による測位情報の計算処理において当該GNSS信号から算出した測位位置やGNSS時刻を使用させないようにする。
【0234】
以上説明した通り、本実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、GNSS信号の受信が不安定な状況を検出できるので、GNSS信号の異常を可能性の段階で把握することができ、異常の検出が遅れた場合であっても、偽のGNSS信号に基づく誤った情報(位置や時刻など)の出力を防止し、受信信号の異常検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0235】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0236】
例えば、上記の実施の形態では
図1に概略構成を示すGNSSコンパス1においてこの発明に係る受信信号の異常の検出方法が実施される(言い換えると、この発明に係る受信信号の異常の検出装置がGNSSコンパス1に組み込まれる)ようにしているが、この発明に係る受信信号の異常の検出方法が適用されたりこの発明に係る受信信号の異常の検出装置が組み込まれたりする機器/装置は
図1に概略構成を示すGNSSコンパス1に限定されるものではなく、他の構成を備えるGNSSコンパスにこの発明に係る受信信号の異常の検出方法が適用されたりこの発明に係る受信信号の異常の検出装置が組み込まれたりするようにしてもよく、また、この発明に係る受信信号の異常の検出方法が、GNSSを利用する他の種類の機器や装置に適用されたり、この発明に係る受信信号の異常の検出装置が、GNSSを利用する他の種類の機器や装置に組み込まれたりするようにしてもよい。
【0237】
また、上記の実施の形態では擬似距離判定部52を備えて擬似距離の判定処理を行うようにしているが、この発明において擬似距離の判定処理は必須の処理ではない。この場合も、送信時刻判定部51による送信時刻の判定処理が行われることにより、GNSS衛星S_iごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0238】
1 GNSSコンパス
2 制御ユニット
3 GNSSアンテナ
3A、3B、3C GNSSアンテナ
4 GNSS受信部
4A、4B、4C GNSS受信器
5 異常検出部
51 送信時刻判定部
52 擬似距離判定部
53 行路差計算部
54 行路差判定部
55 異常判定部
6 測位部
61 測位数判定部
62 標準偏差判定部
7 出力情報調整部
8 慣性装置(センサ)
9 受信不安定期検出部(手段)