(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003362
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】プリントヘッドを駆動するための回路および方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20241226BHJP
B41J 2/015 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B41J2/01 301
B41J2/01 401
B41J2/015 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024094161
(22)【出願日】2024-06-11
(31)【優先権主張番号】23180658
(32)【優先日】2023-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】516255493
【氏名又は名称】キャノン プロダクション プリンティング ホールディング ビー. ヴィ.
【氏名又は名称原語表記】Canon Production Printing Holding B.V.
【住所又は居所原語表記】Van der Grintenstraat 10, 5914 HH Venlo, The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アールト・ネイカンプ
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA24
2C056EC07
2C056EC38
2C057AG44
2C057AM16
2C057AR04
2C057AR08
2C057BA04
2C057BA14
(57)【要約】
【課題】プリントヘッドを駆動するための回路および方法を提供すること。
【解決手段】プリントヘッドにおける個々のプリント要素を駆動するための電子回路が開示される。プリントヘッドは、プリント要素のアレイを備え、各プリント要素は、プリント要素のインクチャンバにおいて、インクチャンバと流体接続しているノズルからのインク滴の放出を結果的に生じさせる音響波を発生させることができる圧電アクチュエータを有する。電子回路は、2つの電源電圧レベルの中間の電圧レベルにおいて出力電流を増幅するためのいくつかのアナログドライバを備え、ドライバは、電源電圧レベルのうちの1つに等しくない電圧レベルにおいて、トライステート状態へとスイッチされ得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリント要素のアレイを備えるプリントヘッドにおける個々のプリント要素を駆動するための電子回路であって、各プリント要素は、プリント要素のインクチャンバにおいて、インクチャンバと流体接続しているノズルからのインク滴の放出を結果的に生じさせる音響波を発生させることができる圧電アクチュエータを有し、電子回路は、固定された電源電圧レベルを伴う少なくとも2つの電源と、少なくとも2つの電源電圧レベルのうちの2つの中間の電圧レベルにおいて出力電流を増幅するためのいくつかのアナログドライバとを備え、ドライバは、電源電圧レベルのうちの1つに等しくない電圧レベルにおいて、トライステート状態へとスイッチされ得、それによって、圧電アクチュエータを前記電圧レベルにおいて保つ、電子回路。
【請求項2】
正確なサブマイクロ秒タイミングによって、電流がスイッチオンされる時間を制御するように構成される、請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
3つのアナログドライバと、4つの固定された電源電圧レベルとを含む、請求項1に記載の電子回路。
【請求項4】
ASICにおいて具現化される、請求項1に記載の電子回路。
【請求項5】
請求項1に記載の電子回路を使用して、電圧レベルのあらかじめプログラムされた波形によって、圧電アクチュエータを駆動するための方法であって、波形は、電源電圧レベルとして利用可能でない定常電圧レベルを含み、方法は、適切なタイミングにおいてトライステート状態にスイッチし、それによって、トライステートへのスイッチングの時点における電圧レベルを維持するステップを含む、方法。
【請求項6】
プリント要素のアレイを伴うプリントヘッドを備えるプリンタであって、各プリント要素は、プリント要素のインクチャンバにおいて、インクチャンバと流体接続しているノズルからのインク滴の放出を結果的に生じさせる音響波を発生させることができる圧電アクチュエータを有し、請求項1に記載の、個々のプリント要素を駆動するための電子回路をさらにまた備える、プリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント要素のアレイを備えるプリントヘッドにおける個々のプリント要素を駆動するための電子回路であって、各プリント要素は、プリント要素のインクチャンバにおいて、インクチャンバと流体接続しているノズルからのインク滴の吐出を結果的に生じさせる音響波を発生させることができる圧電アクチュエータを有する、電子回路に関連する。さらにまた、本発明は、インクジェットプリンタにおいてこの回路を使用するための方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタは、小さいインクチャンバにおける液体の流れに関する経験が広がるにつれて、ますます精巧化されている。このことは、ずっと小さいプリント要素によって噴射される、異なる種類のインクの使用において示される。この開発を可能にする技術のうちの1つは、プリントヘッドにおけるアクチュエータを駆動するための特殊化された電子回路の採用である。本発明は、電気エネルギーを、アクチュエータに接続されるインクチャンバにおいて音響波の形態における機械エネルギーへと変換する圧電アクチュエータを駆動するための回路に向けられている。用語「プリントヘッド」、「プリント」、およびそれらの用語の派生語は、制御された様式において、表面上に材料を堆積させる、または作る、任意のデバイスまたは技法を含むと理解されるべきである。
【0003】
多くの駆動回路は、プリントヘッドにおけるアクチュエータのうちの1つ以上に対する、プリントヘッドの外側で発生させられた共通駆動波形(common drive waveform)をスイッチするように設計される。ASICとして通常は具現化されるこの回路の機能性は、それゆえ、マルチプレクサ機能性に限られ、駆動電流の発生と相伴う散逸(dissipation)は、プリントヘッドの外側で保たれている。このことは、プリントヘッドを、好適な動作温度に、またはその近辺に保つ、プリントヘッドの熱的制御を容易にする。キャパシタンスとして電気的にふるまう個々のアクチュエータに共通駆動波形を適合させるために、追加的な駆動電流が波形の中の適切なタイミングにおいて追加されることがある。これは、一時的に、数マイクロ秒ほどでプリント要素のアクチュエータにスイッチされる追加的な電圧源から、供給される。そうして、限られた数の電源が、いろいろな有効性を伴う様々な駆動波形を形作るために使用される。「コールドスイッチ回路」またはスイッチ回路と時には表される、この種類の回路の例は、米国特許出願公開第2018/056648号において与えられる。
【0004】
ドライバ回路としても知られている、「ホットスイッチ回路」と時には表される、別の種類の回路は、個別化された駆動波形にしたがって、アクチュエータへの、およびアクチュエータからの必要な電流を駆動するために使用される固定された電圧レベルを伴ういくつかの電源を備え、それは、波形のタイミングおよび充電電流を示すいくつかのパラメータによって特徴付けられる。これらの電流は、いくつかのスイッチによって制御され、スイッチは、電源のうちの厳密に1つが、アクチュエータへ電気的にアクセスできることを可能とし、アクチュエータは、次いで、所定の電流によって、電源の電圧レベルへとチャージアップまたはダウンされる(charged up or down)。
【0005】
圧電アクチュエータによってプリント要素におけるインク挙動を制御するための波形は、いくつかの電気パルス、すなわち、1つの電圧レベルから別の電圧レベルへの電圧遷移を含むことがある。これらの電圧遷移へのアクチュエータの機械的応答は、インクチャンバが膨張する、または圧縮されることを生じさせ、そのことは、インクチャンバと流体接続しているノズルにおけるインクメニスカスの動きにつながる、チャンバにおけるインクの動きを結果的に生じさせる。動きの量に応じて、滴放出ポート(drop ejection port)としても知られているノズルからのインクの放出が、結果的に生じ得る。しかしながら、ノズルにおけるインクの動きは、また、インク滴の放出を結果的に生じさせることなく、ノズルにおけるインクの詰まりを防止するために誘導されることがある。他の効果が、さらには追及されることがある。
【0006】
そうして、要される波形は、より複雑になり、より拡張された回路についての必要性が存在する。特に、複雑な波形は、より多くの電源およびより多くのスイッチを必要とすることがあり、それは、要求される電流を提供するためのこれらの源のうちの1つを選択するためである。回路はASIC(特定用途向け集積回路)として実現され、これらは、仕様を基に設計され、これらの増大する要件によってより高価になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/056648号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電源の数を増大させることなく、随意の波形によってプリントヘッドを駆動し、それによってASICのコストを抑えるための回路および方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、本発明による電子回路は、2つの電源電圧レベルの中間の電圧レベルにおいて出力電流を増幅するためのいくつかのアナログドライバを備え、ドライバは、電源電圧レベルのうちの1つに等しくない電圧レベルにおいて、トライステート状態へとスイッチされ得る。トライステート状態は、ドライバから圧電アクチュエータへの電流が遮断され、容量性負荷、圧電アクチュエータが無電流(currentless)ステートにおけるままにされるときに得られる。漏れ電流の量に応じて、電圧は、限られた量の時間の間安定であるのみであることになるが、これは、通常は、新しい充電パルスが適用される前の時間よりもはるかに長い。この方法において、複雑な波形は、多くの電圧源を適用することなく設計されることができる。
【0010】
本発明のさらなる詳細は、従属請求項において与えられる。実施形態において、回路は、正確なサブマイクロ秒タイミングによって、電流がスイッチオンされる時間を制御するように構成される。このことは、得られる電圧レベルの正確な制御をもたらす。全波形は、10から30マイクロ秒ほどの時間がかかり、一方、1つの電圧から別の電圧への単一の遷移であるパルスは、1マイクロ秒ほどの時間がかかる。回路のタイミングは、それゆえに好ましくは、これよりも正確である。
【0011】
さらなる実施形態において、回路は、3つのアナログドライバと、4つの電源電圧レベルとを含む。これらの電源電圧レベルのうちの1つは、グランドレベルであることがある。電圧レベルのこの量は、一方の側面では、複雑さとコストとの、および、他方の側面では、多用性と機能性との間の最適なバランスをもたらす。
【0012】
実施形態において、回路は、複数個の回路が集められ、各回路がプリントヘッドのプリント要素のうちの1つに割り当てられる、特定用途向け集積回路(ASIC)において具現化される。この方法において、すべてのプリント要素は、個々に制御され得る。
【0013】
本発明は、さらには、電子回路を使用して、電圧レベルのあらかじめプログラムされた波形によって、圧電アクチュエータを駆動するための方法であって、波形は、電源電圧レベルとして利用可能でない定常電圧レベルを含み、方法は、適切なタイミングにおいてトライステート状態にスイッチし、それによって、トライステートへのスイッチングの時点における電圧レベルを維持するステップを含む、方法を含む。別個の電源電圧レベルを使用する代わりに、回路の容量性負荷が、電流漏れの量に応じて、約10マイクロ秒ほどである時間の間、固定されたレベルにおいて現在の電圧を保持するために使用される。この電圧は、適用される波形の時間フレームの中では一定の電圧とみなされる。
【0014】
回路は、プリント要素のアレイを伴うプリントヘッドを備えるプリンタにおいてとりわけ有用に適用され、各プリント要素は、プリント要素のインクチャンバにおいて、個々のプリント要素を駆動するために、インクチャンバと流体接続しているノズルからのインク滴の放出を結果的に生じさせる音響波を発生させることができる圧電アクチュエータを有する。
【0015】
本発明の適用可能性のさらなる範囲が、本明細書において以降で与えられる詳細な説明から明白になることになる。しかしながら、本発明の範囲の中での様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者に明白になることになるので、詳細な説明および具体的な例は、本発明の好ましい実施形態を述べるが、単に例示として与えられるということが理解されるべきである。
【0016】
本発明は、単に例示として与えられる、およびしたがって、本発明について限定的ではない、本明細書において下記で与えられる詳細な説明、および、付随する図面から、より十二分に理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】電子回路によって駆動される単一のインクジェットプリント要素の概略断面視図である。
【
図2】プリント要素からインク滴を噴射するための波形を示す図である。
【
図3】出力電流を制御するためのアナログドライバ回路の図である。
【
図5】電源電圧ではない電圧レベルを含む測定された波形の例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、今から、同じまたは同様の要素が、同じ参照番号によって識別される、付随する図面を参照して説明されることになる。
【0019】
図1は、個々のインクジェットプリント要素1の概略視図である。そのインクジェットプリント要素1は、ノズル4へとだんだん狭くなる圧力チャンバ3において終わるインク供給通路2を有する。インクは、インクリザーバから、インクジェットプリント要素に提供される。圧力チャンバ3の1つの壁は、圧電アクチュエータ6が取り付けられている可撓性膜5によって構成される。電圧がアクチュエータ6の両側の電極7、8に適用されるとき、アクチュエータは、膜5が、圧力チャンバ3内へと曲がることを生じさせ、それによって、圧力チャンバにおいてインクにおける音響圧力波を創出する。圧力波はノズル4に伝搬し、その結果、インク液滴がノズルから発射される。電極7、8は、インクジェットプリント要素を駆動することができる電気信号が発生させられる、電源9に接続される。ノズルの内側のインクのメニスカスの位置および動きは、プリント要素によって発生させられるインク滴の、それらののサイズおよび速度など、特性にとって重要な要素であるということが知られている。それゆえに、様々な波形が、圧力チャンバ3におけるインクの挙動を制御するために適用される。
【0020】
図2は、インクジェットプリント要素の圧電アクチュエータの電極7および8にわたって適用される、この事例において5つの、一連の電圧レベルおよび電圧遷移によって形成される波形10を示す。この波形における、より高い電圧が、圧力チャンバ3の、より小さい体積を生じさせる。初期電圧V
0から開始して、第1のパルスは、時間t
0
sにおいて開始し、時間t
0
eにおいて終了する。これらのタイミングは、インクにおける音響波の伝搬、および、圧力チャンバ3の幾何形状に関連する。容量性負荷を充電する出力電流は、圧電アクチュエータをわたる電圧がV
0からV
1に変化するような方法で較正される。波形についてのさらなるパラメータは、たやすく理解される。従来の電子回路において、すべての電圧レベルは、1つが各電圧レベルのためのものである、外部電源によって提供される。本発明による回路において、電圧レベルのうちの一部は、外部電源によって発生させられるのではなく、好適なタイミングにおいてアクチュエータへの電流を停止し、アクチュエータを無電流のままにすることによって得られる。
【0021】
適切な出力電流を発生させるための電子回路が、
図3において与えられる。回路20は、出力FET23、24のゲート電圧を制御する2つのアナログ増幅器21、22を備える。この構成は、特に集積回路における集積のための、高電圧1と高電圧2との間の電圧レベルにおいて高出力電流を発生させるための標準的な方法を形成する。
【0022】
回路20の3つが、
図4における回路30へと組み合わされ、電圧レベルのうちの1つはグランドレベルであり、それに、さらには、圧電キャパシタンス31の電極のうちの1つが接続される。このドライバ回路は、
図2において示されるような波形の発生を可能にする。高電圧1、2、3、およびグランドとは異なる電圧レベルを得ることを可能にするために、ドライバは、トライステートへとスイッチされ得、そのことが、キャパシタンス31をフローティングのままにする。このスイッチングについてのタイミングは、得られ得る電圧レベルの適切な分解能を有するために、数サブマイクロ秒の範囲におけるものである。トライステートの仕様を含むことによって、回路は、とりわけプリント要素のステートがプローブされる状況について、より一般的に応用可能である。
【0023】
図5は、
図4におけるような回路からの測定された波形40を示す。様々な電圧源は、値GND(グランド)、HV
1、HV
2、およびHV
3を有する。第1の遷移は、HV
2から、波形の第1のレベル41であるGNDへのものである。しかしながら、回路をトライステートへとスイッチすることによって、電源電圧値のうちの1つに等しくない、安定なレベル42が得られる。そうして、種々の波形が、プリント要素を駆動するASICをより複雑にすることなく設計されることができる。
【0024】
当業者は、他の実施形態が、添付される特許請求の範囲の、範囲の中で可能であるということを認識することになる。
【符号の説明】
【0025】
1 インクジェットプリント要素
2 インク供給通路
3 圧力チャンバ
4 ノズル
7、8 電極
9 電源
10 波形
20、30 回路
21、22 アナログ増幅器
23、24 出力FET
40 測定された波形
41 第1のレベル
42 安定なレベル
【外国語明細書】