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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033653
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】サイアロン蛍光体粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20250306BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20250306BHJP
   H10H 20/851 20250101ALI20250306BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
H01L33/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139529
(22)【出願日】2023-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉川 素
(72)【発明者】
【氏名】酒井 謙嘉
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶太
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA09
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA17
4H001XA35
4H001XA53
4H001XA85
4H001XB71
4H001YA63
5F142AA02
5F142DA44
5F142DA53
(57)【要約】
【課題】発光強度が向上したサイアロン蛍光体粉末を得ることが可能なサイアロン蛍光体粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する工程(A)と、ハロゲン化ユウロピウム化合物および前記ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を含む混合物をアニール処理することにより、サイアロン粉末(b)を得る工程(B)と、を備える、サイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する工程(A)と、
ハロゲン化ユウロピウム化合物および前記ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を含む混合物をアニール処理することにより、サイアロン粉末(b)を得る工程(B)と、を備える、サイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は、前記工程(B)におけるアニール処理温度よりも低い温度である、請求項1に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)において、前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の量は、前記ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)および前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の合計を100質量%としたとき、0.05質量%以上2.00質量%以下である、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物はフッ化ユウロピウムを含む、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は800℃以上1500℃以下である、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項6】
前記工程(B)において、アニール処理温度が1000℃以上1700℃以下である、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項7】
前記工程(B)において、希ガス、還元性ガス、および、不活性ガスからなる群から選択される少なくとも一種を含む雰囲気下でアニール処理する、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項8】
前記工程(B)において、アニール処理する時間は1時間以上30時間以下である、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)は、ケイ素を含む原料粉末と、アルミニウムを含む原料粉末と、ユウロピウムを含む原料粉末とを含む原料粉末混合物を焼成する工程(A-1)を備える、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項10】
前記工程(A-1)において、焼成温度が1800℃以上2500℃以下である、請求項9に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項11】
前記工程(B)よりも後に、前記サイアロン粉末(b)を酸処理する工程(C)をさらに備える、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【請求項12】
前記サイアロン蛍光体粉末がβ型サイアロン蛍光体粉末を含む、請求項1または2に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイアロン蛍光体粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サイアロン蛍光体粉末の製造方法に関する技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、アルミニウム化合物と第一のユウロピウム化合物と窒化ケイ素とを含む混合物を熱処理して第一の熱処理物を得る第一熱処理工程と、第一の熱処理物と第二のユウロピウム化合物とを希ガス雰囲気中で熱処理して第二の熱処理物を得る第二熱処理工程と、を含むβサイアロン蛍光体の製造方法が記載されている。
特許文献1に記載のβサイアロン蛍光体の製造方法によれば、発光輝度に優れるβサイアロン蛍光体の製造方法を提供することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-2278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発光強度が向上したサイアロン蛍光体粉末を得ることが可能なサイアロン蛍光体粉末の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下に示すサイアロン蛍光体粉末の製造方法が提供される。
【0007】
[1]
ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する工程(A)と、
ハロゲン化ユウロピウム化合物および前記ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を含む混合物をアニール処理することにより、サイアロン粉末(b)を得る工程(B)と、を備える、サイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[2]
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は、前記工程(B)におけるアニール処理温度よりも低い温度である、前記[1]に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[3]
前記工程(B)において、前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の量は、前記ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)および前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の合計を100質量%としたとき、0.05質量%以上2.00質量%以下である、前記[1]または[2]に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[4]
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物はフッ化ユウロピウムを含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[5]
前記ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は800℃以上1500℃以下である、前記[1]~[4]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[6]
前記工程(B)において、アニール処理温度が1000℃以上1700℃以下である、前記[1]~[5]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[7]
前記工程(B)において、希ガス、還元性ガス、および、不活性ガスからなる群から選択される少なくとも一種を含む雰囲気下でアニール処理する、前記[1]~[6]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[8]
前記工程(B)において、アニール処理する時間は1時間以上30時間以下である、前記[1]~[7]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[9]
前記工程(A)は、ケイ素を含む原料粉末と、アルミニウムを含む原料粉末と、ユウロピウムを含む原料粉末とを含む原料粉末混合物を焼成する工程(A-1)を備える、前記[1]~[8]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[10]
前記工程(A-1)において、焼成温度が1800℃以上2500℃以下である、前記[9]に記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[11]
前記工程(B)よりも後に、前記サイアロン粉末(b)を酸処理する工程(C)をさらに備える、前記[1]~[10]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
[12]
前記サイアロン蛍光体粉末がβ型サイアロン蛍光体粉末を含む、前記[1]~[11]のいずれかに記載のサイアロン蛍光体粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光強度が向上したサイアロン蛍光体粉末を得ることが可能なサイアロン蛍光体粉末の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0010】
[サイアロン蛍光体粉末の製造方法]
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は、ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する工程(A)と、ハロゲン化ユウロピウム化合物およびユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を含む混合物をアニール処理することにより、サイアロン粉末(b)を得る工程(B)と、を備える。
以下、本明細書において、「ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)」を「サイアロン粉末(a)」と省略する場合がある。
【0011】
以下、本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法の各工程について具体的に説明する。
【0012】
<工程(A)>
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は、ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する工程(A)を備える。
【0013】
工程(A)において、ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を準備する方法は特に限定されず、例えば、公知の方法によりサイアロン粉末(a)を準備すればよい。
【0014】
工程(A)は、好ましくはケイ素を含む原料粉末と、アルミニウムを含む原料粉末と、ユウロピウムを含む原料粉末とを含む原料粉末混合物を焼成する工程(A-1)を備える。
【0015】
ケイ素を含む原料粉末としては、例えば、窒化ケイ素および二酸化ケイ素等からなる群から選択される少なくとも一種を含み、その中でも、好ましくは窒化ケイ素を含む。
【0016】
アルミニウムを含む原料粉末としては、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、および、水酸化アルミニウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含み、その中でも、好ましくは窒化アルミニウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む。
【0017】
ユウロピウムを含む原料粉末としては、例えば、酸化ユウロピウム、窒化ユウロピウム、および、ハロゲン化ユウロピウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含み、その中でも、好ましくは酸化ユウロピウムを含む。
ハロゲン化ユウロピウムとしては、例えば、フッ化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、臭化ユウロピウム、および、ヨウ化ユウロピウムからなる群から選択される少なくとも一種を含む。
ユウロピウムを含む原料粉末において、ユウロピウムの価数は二価を含んでもよいし、三価を含んでもよい。
【0018】
ケイ素を含む原料粉末と、アルミニウムを含む原料粉末と、ユウロピウムを含む原料粉末とを含む原料粉末混合物は、各原料を混合することにより得られる。混合方式は特に限定されないが、例えば、V型混合機を用いて各原料を混合すればよい。
【0019】
原料粉末混合物において、各原料の混合比率は、ターゲットとするサイアロン蛍光体粉末の組成を踏まえて、適宜調整すればよい。
【0020】
工程(A-1)において焼成温度は、サイアロン蛍光体粉末の発光強度をより向上させる観点から、好ましくは1800℃以上、より好ましくは1850℃以上、さらに好ましくは1900℃以上、さらに好ましくは1920℃以上であり、そして、好ましくは2500℃以下、より好ましくは2400℃以下、さらに好ましくは2200℃以下、さらに好ましくは2100℃以下である。
【0021】
工程(A-1)において焼成時間は特に限定されないが、例えば、1時間以上30時間以下であってもよいし、3時間以上25時間以下であってもよい。
【0022】
工程(A-1)において原料粉末混合物の焼成は、例えば、窒素雰囲気下で行ってもよい。
【0023】
工程(A-1)よりも後に、工程(A-1)で得られた焼成体を焼成する第二焼成工程をさらに備えていてもよい。また、第二焼成工程よりも後に、焼成工程をさらに複数回実施してもよい。
第二焼成工程以降の焼成条件は特に限定されないが、好ましい範囲は工程(A-1)と同様である。
第二焼成工程以降の焼成を行う場合、前工程で得られた焼成体に原料粉末の一部を追加した混合物を焼成してもよい。
【0024】
工程(A-1)において得られる焼成体は、本実施形態のユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)とすることができる。工程(A-1)の後に焼成工程をさらに備える場合、最後の焼成工程において得られる焼成体を本実施形態のユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)とすればよい。
また、上記の焼成体は解砕処理、篩・分級処理等をおこなってもよい。
【0025】
<工程(B)>
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は、ハロゲン化ユウロピウム化合物およびユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)を含む混合物をアニール処理することにより、サイアロン粉末(b)を得る工程(B)を備える。
【0026】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は工程(B)を備えることにより、得られるサイアロン蛍光体粉末の発光強度が向上する。その理由は定かではないが、本発明者らは以下のように推定している。
本発明者らは、従来のサイアロン蛍光体粉末の製造方法では、アニール工程においてサイアロン粉末(a)中のユウロピウムが脱離してしまうことにより、サイアロン蛍光体粉末の発光強度が低下してしまう場合があると考えている。そこで、ハロゲン化ユウロピウム化合物の存在下において、サイアロン粉末(a)をアニール処理することで、サイアロン粉末(a)中のユウロピウムの脱離を抑制でき、結果として得られるサイアロン蛍光体粉末の発光強度が向上すると考えている。より具体的には、ハロゲン化ユウロピウム化合物の存在下において、サイアロン粉末(a)をアニール処理すると、サイアロン粉末(a)中のユウロピウムが脱離してしまった場合であっても、ハロゲン化ユウロピウム化合物由来のユウロピウムを供給することが可能であり、結果としてサイアロン粉末(a)中のユウロピウムの脱離を抑制できると本発明者らは考察している。
【0027】
ハロゲン化ユウロピウム化合物は、例えば、フッ化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、臭化ユウロピウム、および、ヨウ化ユウロピウムからなる群から選択される少なくとも一種を含み、好ましくはフッ化ユウロピウムを含む。
【0028】
ハロゲン化ユウロピウム化合物において、ユウロピウムの価数は二価であってもよいし、三価であってもよいが、好ましくは三価を含む。
【0029】
ハロゲン化ユウロピウム化合物は、具体的には、EuF、EuF、EuCl、EuCl、EuBr、EuBr、および、EuIからなる群から選択される少なくとも一種を含み、好ましくはEuFを含む。
【0030】
ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は特に限定されないが、好ましくは800℃以上、より好ましくは900℃以上、さらに好ましくは1000℃以上、さらに好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上であり、そして、好ましくは1500℃以下、より好ましくは1450℃以下、さらに好ましくは1400℃以下、さらに好ましくは1350℃以下である。
【0031】
ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点は、好ましくは工程(B)におけるアニール処理温度よりも低い温度である。
ハロゲン化ユウロピウム化合物の融点が、アニール処理温度よりも低い温度であると、アニール処理時にハロゲン化ユウロピウム化合物が液体であるため、サイアロン粉末(a)の周辺にハロゲン化ユウロピウム化合物が存在しやすくなる。その結果、サイアロン粉末(a)中のユウロピウムの脱離をより抑制することができるため、得られるサイアロン蛍光体粉末の発光強度がより向上すると本発明者らは考察している。
【0032】
工程(B)において、ハロゲン化ユウロピウム化合物の量は、ユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)およびハロゲン化ユウロピウム化合物の合計を100質量%としたとき、サイアロン蛍光体粉末の発光強度をより向上させる観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.06質量%以上、さらに好ましくは0.07質量%以上、さらに好ましくは0.08質量%以上、さらに好ましくは0.09質量%以上であり、そして、サイアロン蛍光体粉末の発光強度および拡散反射率の性能バランスをより向上させる観点から、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.80質量%以下、さらに好ましくは1.50質量%以下、さらに好ましくは1.30質量%以下、さらに好ましく1.10質量%以下である。
【0033】
ハロゲン化ユウロピウム化合物は、一種のハロゲン化ユウロピウム化合物を単独で用いてもよいし、二種以上のハロゲン化ユウロピウム化合物を併用してもよいが、反応系が複雑になることを防ぐ観点から、好ましくは一種のハロゲン化ユウロピウム化合物を単独で用いる。
【0034】
工程(B)において、アニール処理温度は、好ましくは1000℃以上、より好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上であり、そして、好ましくは1700℃以下、より好ましくは1600℃以下、さらに好ましくは1500℃以下である。
【0035】
アニール処理温度は、好ましくはハロゲン化ユウロピウム化合物の融点よりも高い温度である。また、アニール処理温度は、好ましくは工程(A-1)における焼成温度よりも低い温度である。
【0036】
工程(B)において、アニール処理を行う雰囲気は特に限定されないが、希ガス、還元性ガス、および、不活性ガスからなる群から選択される少なくとも一種を含む雰囲気下でアニール処理することが好ましい。
工程(B)は希ガス、還元性ガス、および、不活性ガスからなる群から選択される二種以上の混合ガス雰囲気下でアニール処理を行ってもよい。
【0037】
希ガスとしては、例えば、アルゴンおよびヘリウム等からなる群から選択される少なくとも一種を含み、好ましくはアルゴンを含む。
還元性ガスとしては、例えば、アンモニア、炭化水素、一酸化炭素、および、水素等からなる群から選択される少なくとも一種を含み、好ましくは水素を含む。
不活性ガスとしては、例えば、窒素等を含む。
【0038】
これらの中でも、工程(B)はアルゴンガス雰囲気下でアニール処理を行うことが好ましい。
【0039】
工程(B)において、アニール処理する時間は特に限定されないが、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上、さらに好ましくは8時間以上であり、そして、好ましくは30時間以下、より好ましくは27時間以下、さらに好ましくは25時間以下である。
【0040】
<工程(C)>
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は、好ましくは、工程(B)よりも後に、サイアロン粉末(b)を酸処理する工程(C)をさらに備える。
工程(C)を行うことにより、サイアロン粉末(b)表面の不純物や異相(発光に寄与しないか、または発光効率が低い相)を低減でき、サイアロン蛍光体粉末の発光強度をより向上できるため好ましい。
【0041】
工程(C)は、例えば、サイアロン粉末(b)を酸水溶液に入れ、攪拌することにより行うことができる。攪拌後に沈殿したサイアロン粉末(b)をろ過で分離し、サイアロン粉末(b)に付着した物質を水洗することが好ましい。
【0042】
工程(C)において、酸水溶液は、例えば、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、塩酸、および、硝酸等からなる群から選択される少なくとも一種を含む。これらの中でも、不純物や異相の除去効率をより向上させる観点から、酸水溶液としてフッ化水素酸および硝酸の混酸を用いることが好ましい。
【0043】
工程(C)において、酸処理する時間、酸処理する温度等は特に限定されないが、例えば、酸処理する時間:10分以上6時間以下、酸処理する温度:25℃以上90℃以下とすればよい。
【0044】
<その他の工程>
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法は、上記工程以外のその他の工程を適宜備えていてもよい。
その他の工程としては、例えば、破砕・解砕処理工程、精製処理工程、乾燥処理工程、篩・分級処理工程等が挙げられる。その他の工程を行う順序は特に限定されず、例えば、工程(A)と工程(B)との間に実施してもよい。
【0045】
[サイアロン蛍光体粉末]
以下、本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法により得られるサイアロン蛍光体粉末の好ましい態様について説明する。
【0046】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末は、β型サイアロン蛍光体粉末を含んでいてもよいし、α型サイアロン蛍光体粉末を含んでいてもよいが、好ましくはβ型サイアロン蛍光体粉末を含む。
【0047】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末は、一般式Si6-zAl8-z:Euの組成式で表される組成を有してもよい。一般式中、zは、0.0<z≦4.2であってよく、0.0<z≦1.0であってもよい。
【0048】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の結晶構造、組成等は、例えば、工程(A-1)における原料粉末混合物の混合比、焼成条件等を適宜調整することにより、所望の範囲に調整することができる。
【0049】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の発光強度は、β型サイアロン蛍光体の標準試料の発光強度を100.0%としたとき、好ましくは114.6%以上、より好ましくは114.8%以上、さらに好ましくは115.0%以上であり、そして、上限値は特に限定されないが、例えば、140.0%以下であってもよく、130.0%以下であってもよく、125.0%以下であってもよく、123.0%以下であってもよい。
ここで、β型サイアロン蛍光体の標準試料とは、NIMS Standard Green((株)サイアロン製)を意味する。
【0050】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の波長455nmの光の吸収率は、例えば、79.0%以上であってもよく、80.0%以上であってもよく、そして、90.0%以下であってもよく、86.0%以下であってもよく、84.0%以下であってもよく、83.0%以下であってもよい。
【0051】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の内部量子効率は、好ましくは80.8%以上、より好ましくは81.0%以上、さらに好ましくは81.3%以上であり、そして、上限値は特に限定されないが、例えば、90.0%以下であってもよく、87.0%以下であってもよく、85.0%以下であってもよく、84.0%以下であってもよい。
【0052】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の外部量子効率は、好ましくは65.2%以上、より好ましくは65.4%以上であり、そして、上限値は特に限定されないが、80.0%以下であってもよく、75.0%以下であってもよく、70.0%以下であってもよく、68.5%以下であってもよく、68.0%以下であってもよい。
【0053】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の波長800nmにおける拡散反射率は、例えば、96.0%以上であってもよく、96.5%以上であってもよく、そして、100.0%以下であってもよく、99.0%以下であってもよく、98.5%以下であってもよい。
【0054】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の波長700nmにおける拡散反射率は、例えば、96.0%以上であってもよく、96.5%以上であってもよく、そして、100.0%以下であってもよく、99.0%以下であってもよく、98.5%以下であってもよい。
【0055】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の波長600nmにおける拡散反射率は、例えば、95.5%以上であってもよく、96.0%以上であってもよく、そして、100.0%以下であってもよく、99.0%以下であってもよく、98.5%以下であってもよい。
【0056】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の波長500nmにおける拡散反射率は、例えば、79.5%以上であってもよく、80.0%以上であってもよく、そして、90.0%以下であってもよく、85.0%以下であってもよく、82.5%以下であってもよく、82.0%以下であってもよい。
【0057】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の発光強度、波長455nmの光の吸収率、内部量子効率、外部量子効率、および、拡散反射率の値は、実施例に記載の方法で測定される値をそれぞれ意味する。
【0058】
本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の用途は特に限定されないが、例えば、LED等の発光装置、照明装置等に使用することが可能である。
【0059】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、前記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0060】
以下、本実施形態を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0061】
[実施例1]
<工程(A)>
容器に、窒化ケイ素(Si)が96.0質量%、窒素アルミニウム(AlN)が2.8質量%、酸化アルミニウム(Al)が0.5質量%、および酸化ユウロピウム(Eu)が0.7質量%となるように各原材料を量り取り、V型混合機(筒井理化学器械(株)製)によって混合し、混合物を得た。得られた混合物を目開き250μmの篩を全通させ凝集物を取り除くことで、原料組成物を得た。篩を通らない凝集物は粉砕し、篩を通るように粒径を調整した。
【0062】
蓋付き円筒型窒化ホウ素容器(デンカ(株)製、窒化ホウ素(製品名:デンカ ボロンナイトライド N-1)を主成分とする成型品、内径:10cm、高さ:10cm)に、上述のとおり調製した原料組成物を200g量り取った。その後、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉中に配置し、窒素ガス雰囲気下(圧力:0.90MPaG)で2020℃まで昇温し、2020℃の加熱温度で、8時間加熱を行った(工程(A-1))。加熱後、上記容器内で、緩く凝集した塊状となった試料を乳鉢に採り解砕した。解砕後、目開きが250μmの篩に通して粉末状の焼成体を得た。なお、得られた焼成体が本実施形態のユウロピウムが固溶したサイアロン粉末(a)に相当する。
【0063】
<工程(B)>
次に、上記焼成体に対して、フッ化ユウロピウム(EuF、(株)高純度化学研究所製、融点:1276℃)を配合して混合物を調製した。フッ化ユウロピウムの量は、焼成体およびフッ化ユウロピウムの合計を100質量%としたとき、0.10質量%となるように調整した。得られた混合物を円筒型窒化ホウ素容器に充填して、この容器を、カーボンヒーターを備える電気炉内に配置した。アルゴンガス雰囲気下(圧力:0.025MPaG)で1450℃まで昇温し、1450℃の加熱温度で、8時間加熱を行った。加熱後、上記容器内で粒子が緩く凝集した塊状物を乳鉢で解砕し、250μmの篩に通すことによって粉体を得た。
【0064】
<工程(C)>
次に、工程(B)において得られた粉体を、フッ化水素酸(濃度:50質量%)および硝酸(濃度:70質量%)の混酸(フッ化水素酸と硝酸とを体積比で1:1となるように混合したもの)に添加し、75℃の温度下で撹拌させながら30分間酸処理を行った。酸処理後、撹拌を終了し粉体を沈殿させて、上澄みおよび酸処理で精製した微粉を除去した。その後、蒸留水をさらに加え再度撹拌した。撹拌を終了し粉体を沈殿させ上澄みおよび微粉を除去した。かかる操作を水溶液のpHが8以下で、上澄み液が透明になるまで繰り返し、得られた沈殿物をろ過、乾燥、目開きが250μmの篩を全通することで、実施例1のサイアロン蛍光体粉末を得た。
【0065】
[実施例2~9]
実施例1の工程(B)において、フッ化ユウロピウムの添加量、加熱温度、および、加熱時間をそれぞれ表1に記載の条件とした以外は、実施例1と同様にして実施例2~9のサイアロン蛍光体粉末をそれぞれ得た。
【0066】
[比較例1]
実施例1の工程(B)において、フッ化ユウロピウムを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1のサイアロン蛍光体粉末を得た。すなわち、比較例1は工程(B)において焼成体のみをアニール処理した水準である。
【0067】
[比較例2]
実施例1の工程(B)において、フッ化ユウロピウムに代えて酸化ユウロピウム(Eu、(株)高純度化学研究所製、融点:2050℃)を配合して混合物を調製した以外は、実施例1と同様にして比較例2のサイアロン蛍光体粉末を得た。なお、酸化ユウロピウムの量は、焼成体および酸化ユウロピウムの合計を100質量%としたとき、1.00質量%となるように調整した。
【0068】
[評価]
各実施例および各比較例のサイアロン蛍光体粉末について、以下の評価をおこなった。各評価結果を表1に示す。
【0069】
<発光強度>
装置として、ローダミンB法および標準光源により校正した分光蛍光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製、製品名:F-7000)を用い、以下のようにして、サイアロン蛍光体粉末のピーク強度を測定した。
【0070】
まず、蛍光体粉末を専用の固体試料ホルダーに充填した。
次いで、分光蛍光光度計を用いて、波長455nmに分光した励起光を蛍光体粉末に照射したときの蛍光スペクトルを測定した。そして、得られた蛍光スペクトルからピーク強度を求めた。
なお、ピーク強度は測定装置や条件によって変化するため単位は任意単位である。各実施例および比較例において測定条件は同一とし、また、各実施例および比較例測定は連続して行った。表1に記載の発光強度は、後述する参考例1のピーク強度を100.0%とした場合の強度を示している。
【0071】
<波長455nmの光の吸収率、内部量子効率、外部量子効率>
蛍光体粉末を、凹型セルに表面が平滑になるように充填し、積分球の開口部に取り付けた。この積分球内に、発光光源(Xeランプ)から455nmの波長に分光した単色光を、光ファイバーを用いて蛍光体の励起光として導入した。この単色光を蛍光体粉末に照射し、蛍光スペクトルを測定した。測定には、分光光度計(大塚電子(株)製、製品名:MCPD-7000)を用いた。
【0072】
得られた蛍光スペクトルのデータから、励起反射光フォトン数(Qref)および蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は465~800nmの波長範囲で算出した。また、同じ装置を用い、積分球の開口部に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン(登録商標))を取り付けて、波長455nmの励起光のスペクトルを測定した。この際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
【0073】
上述の算出結果から、以下に示す計算式に基づいて、蛍光体粉末の波長455nmの光の吸収率、内部量子効率、および、外部量子効率を求めた。
波長455nmの光の吸収率=((Qex-Qref)/Qex)×100
内部量子効率=(Qem/(Qex-Qref))×100
外部量子効率=(Qem/Qex)×100
【0074】
<拡散反射率>
蛍光体粉末の拡散反射率は、紫外可視分光光度計(日本分光(株)製、製品名:V-550)に積分球装置(日本分光(株)製、製品名:ISV-469)を取り付けて測定した。具体的には、標準反射板(スペクトラロン(登録商標))でベースライン補正を行い、蛍光体粉末を充填した固体試料ホルダーを装置の所定の位置に取り付けて、500nmから850nmの波長範囲で拡散反射率を測定した。そして、800nm、700nm、600nm、および、500nmにおける拡散反射率をそれぞれ算出した。
【0075】
各実施例および各比較例の評価結果を表1に示す。
【0076】
また、表1には参考例1として、β型サイアロン蛍光体の標準試料((株)サイアロン製、NIMS Standard Green lot No.NSG1301)の評価結果を示す。
上述の各測定値は、測定装置のメーカー、製造ロットナンバー等が変わると値が変動する場合がある。よって、測定装置のメーカー、製造ロットナンバー等を変更した場合は、標準試料による測定値を基準値として、各測定値を補正することができる。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に記載のとおり、実施例の蛍光体粉末は比較例の蛍光体粉末よりも発光強度が向上した。すなわち、本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法によれば、発光強度が向上したサイアロン蛍光体粉末を得ることが可能であることが理解できる。
【0079】
さらに、実施例の蛍光体粉末は比較例の蛍光体粉末よりも内部量子効率および外部量子効率も向上した。すなわち、本実施形態のサイアロン蛍光体粉末の製造方法によれば、内部量子効率および外部量子効率が向上したサイアロン蛍光体粉末を得ることが可能であることが理解できる。