(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033709
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】濃度計測装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20250306BHJP
G01K 11/12 20210101ALN20250306BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01K11/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139627
(22)【出願日】2023-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑弥
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
【テーマコード(参考)】
2F056
2G059
【Fターム(参考)】
2F056VF07
2G059AA01
2G059BB04
2G059BB05
2G059CC09
2G059CC20
2G059EE01
2G059EE11
2G059JJ01
2G059MM12
2G059MM14
2G059NN02
2G059NN05
(57)【要約】
【課題】液温が不明であっても測定されている純水の吸光度を用いて濃度計測ができるようにする。
【解決手段】推定回路103は、所定の測定波長における純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて、吸光度計102が測定した純水の吸光度から液温の推定値を推定する。濃度算出回路104は、推定回路103が推定した推定値で補正した濃度回帰式を用いて、吸光度計102が測定した溶液の吸光度から溶液における成分の濃度を求める。濃度算出回路104は、推定回路103が推定した推定値で濃度回帰式の定数項を補正し、定数項を補正した濃度回帰式を用いて成分濃度を求める。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度の測定対象となる溶液の吸光度より前記溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式、および純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を記憶するように構成された記憶回路と、
前記溶液および純水の各々について吸光度を測定する吸光度計と、
前記液温推定回帰式を用いて前記吸光度計が測定した純水の吸光度から液温の推定値を推定するように構成された推定回路と、
前記推定値で補正した前記濃度回帰式を用いて、前記吸光度計が測定した前記溶液の吸光度から前記溶液における前記成分の濃度を求めるように構成された濃度算出回路と
を備える濃度計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の濃度計測装置において、
前記濃度算出回路は、前記推定値で前記濃度回帰式の定数項を補正する濃度計測装置。
【請求項3】
純水の吸光度を測定する第1ステップと、
測定した純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて、前記第1ステップで測定した吸光度から液温の推定値を推定する第2ステップと、
濃度の測定対象となる溶液の吸光度を測定する第3ステップと、
測定した前記溶液の吸光度より前記溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式を前記推定値で補正し、補正した前記濃度回帰式を用いて、前記第3ステップで測定した吸光度から前記溶液における前記成分の濃度を求める第4ステップと
を備える濃度計測方法。
【請求項4】
請求項3記載の濃度計測方法において、
前記第4ステップでは、前記推定値で前記濃度回帰式の定数項を補正する濃度計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃度計測装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光吸収を利用して半導体洗浄液などの薬液濃度を計測する技術が知られている(特許文献1)。この測定技術は、室温付近の純水の透過光強度(スペクトル)を基準として、計測対象薬液のスペクトルの基準からの光強度変化量(吸光度)により薬液濃度を計測する。生産現場では、常に純水の透過光強度を測定することが容易ではない。生産現場における濃度の測定は、薬液を収容している容器に取り付けられている濃度計測装置で実施している。このため、基準となる純水の透過光強度(基準スペクトル)の測定は、容器に収容している薬液を排出し、容器内を洗浄した後、容器に純水を収容して実施することになる。このように、基準スペクトルの取得のためには、生産を停止するなどの煩雑な作業が必要となる。
【0003】
一方で、濃度計測装置における光源の経時変化や濃度計測装置の取付け位置のずれなどにより、吸光度の測定で常に同じ基準スペクトルを用いると、正確な測定が実施できない。従って、一般には、定期的(例えば2,3年に1回)に基準スペクトルの再取得をし、生産時の薬液濃度計測では、定期的に測定・更新されている基準スペクトルを用いた吸光度の測定で薬液濃度の計測が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した光吸収(吸光度)を利用した濃度計測では、基準スペクトル取得時の液温が必要となるが、濃度計測装置が設けられている薬液容器では、液温計測や制御がなされていない場合が多い。このため、液温が不明であっても、測定されている純水の透過光強度を用いた吸光度測定で濃度計測が実施できる方法が要求されている。
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、液温が不明であっても測定されている純水の吸光度から液温を推定し、濃度回帰式を補正することで濃度計測ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る濃度計測装置は、濃度の測定対象となる溶液の吸光度より溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式、および純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を記憶するように構成された記憶回路と、溶液および純水の各々について吸光度を測定する吸光度計と、液温推定回帰式を用いて吸光度計が測定した純水の吸光度から液温の推定値を推定するように構成された推定回路と、推定値で補正した濃度回帰式を用いて、吸光度計が測定した溶液の吸光度から溶液における成分の濃度を求めるように構成された濃度算出回路とを備える。
【0008】
上記濃度計測装置の一構成例において、濃度算出回路は、推定値で濃度回帰式の定数項を補正する。
【0009】
本発明に係る濃度計測方法は、純水の吸光度を測定する第1ステップと、測定した純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて、第1ステップで測定した吸光度から液温の推定値を推定する第2ステップと、濃度の測定対象となる溶液の吸光度を測定する第3ステップと、測定した溶液の吸光度より溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式を推定値で補正し、補正した濃度回帰式を用いて、第3ステップで測定した吸光度から溶液における成分の濃度を求める第4ステップとを備える。
【0010】
上記濃度計測方法の一構成例において、第4ステップでは、推定値で濃度回帰式の定数項を補正する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、液温が不明であっても、測定されている純水の吸光度から液温を推定し、推定した液温を用いて濃度計測ができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る濃度計測装置の構成を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る濃度計測装置の一部構成を示す構成図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る濃度計測方法を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、純水の吸光度と液温との相関を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る濃度計測装置について
図1を参照して説明する。この濃度計測装置は、記憶回路101、吸光度計102、推定回路103、および濃度算出回路104を備える。
【0014】
記憶回路101は、濃度の測定対象となる溶液の吸光度より溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式、および純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を記憶する。吸光度の測定における測定波長は、適宜に設定することができる。
【0015】
吸光度計102は、溶液および純水の各々について吸光度を測定する。吸光度計102は、
図2に示すように、光源121、分光器122、光源制御回路123、分光制御回路124、受光制御回路125、およびコントローラ126を備える。
【0016】
光源121は、濃度の測定対象となる溶液の成分(溶質)に対応する測定波長を含む光を出射する。分光器122は、受光した光を分光する。分光器122は、例えば、グレーティング型やファブリペロー型とすることができる。光源121を出射した光は、成分濃度の測定対象となる溶液を透過して分光器122で受光される。
【0017】
光源制御回路123は、コントローラ126からの制御に従って光源121の点灯を制御する。例えば、光源制御回路123は、光源121を制御し、所定の波長帯の光を所定の強度で出射させる。
【0018】
分光制御回路124は、コントローラ126からの制御に従って分光器122を制御する。例えば、分光制御回路124は、ファブリペロー型の分光器122が有する2つのミラーの間に印加する電圧を制御することで、受光素子が受光する光の波長を適宜制御する。
【0019】
受光制御回路125は、コントローラ126からの制御に従って分光された光の強度(透過光強度)を測定する。例えば、受光制御回路125は、分光器122が測定した光の強度を示す電気信号を受け付けると、受け付けた電気信号を光の強度を示す数値に変換し、変換後の数値を出力する。
【0020】
コントローラ126は、光源121および分光器122を制御し、分光器122が測定対象の溶液を介して分光した測定波長の透過光強度を取得して吸光度を算出する。
【0021】
例えばコントローラ126は、測定対象の溶液を介した光から、測定対象成分と対応する測定波長の透過光強度を取得する。例えば、コントローラ126は、測定対象成分がアンモニアおよび過酸化水素の場合、アンモニアと対応する測定波長と、過酸化水素と対応する測定波長を選択し、光源制御回路123を制御して光源121を点灯させることで、測定波長を含む波長帯の光を出射させる。
【0022】
また、コントローラ126は、分光制御回路124を制御し、測定対象の溶液を介して分光器122が受光した光から測定波長の光を分光させる。また、コントローラ126は、受光制御回路125を介して、分光器122が測定した測定波長の光の強度(透過光強度)を取得する。例えば、コントローラ126は、アンモニアに対応する測定波長の光強度を測定させた後、過酸化水素に対応する測定波長の透過光強度を測定させる。また、コントローラ126は、測定された各測定波長の透過光強度を取得して吸光度を求める。
【0023】
コントローラ126は、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)、主記憶装置、外部記憶装置などを備えたコンピュータ機器である。主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作する(プログラムを実行する)ことで、上述した各機能が実現される。上記プログラムは、上述した各制御機能をコンピュータが実行するためのプログラムである。また、コントローラ126は、FPGA(field-programmable gate array)などのプログラマブルロジックデバイス(PLD:Programmable Logic Device)により構成することも可能である。
【0024】
推定回路103は、所定の測定波長における純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて、吸光度計102が測定した純水の吸光度から液温の推定値を推定する。濃度算出回路104は、推定回路103が推定した推定値で補正した濃度回帰式を用いて、吸光度計102が測定した溶液の吸光度から溶液における成分の濃度を求める。濃度算出回路104は、推定回路103が推定した推定値で濃度回帰式の定数項を補正し、定数項を補正した濃度回帰式を用いて成分濃度を求める。
【0025】
推定回路103、濃度算出回路104は、CPU、主記憶装置、外部記憶装置などを備えたコンピュータ機器とすることができる。主記憶装置に展開されたプログラムによりCPUが動作する(プログラムを実行する)ことで、上述した各機能が実現される。上記プログラムは、上述した各制御機能をコンピュータが実行するためのプログラムである。また、推定回路103、濃度算出回路104は、FPGA(field-programmable gate array)などのプログラマブルロジックデバイス(PLD:Programmable Logic Device)により構成することも可能である。
【0026】
次に、本発明の実施の形態に係る濃度計測方法について、
図3を参照して説明する。
【0027】
まず第1ステップS101で、吸光度計102が、純水の吸光度を測定する。純水の吸光度の測定における測定波長は、適宜に設定することができる。
【0028】
次に、第2ステップS102で、推定回路103が、測定された純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて、第1ステップS101で測定した吸光度から液温の推定値(液温推定値)を推定する。
【0029】
次に、第3ステップS103で、吸光度計102が、濃度の測定対象となる溶液の吸光度を測定する。溶液の吸光度の測定における測定波長は、適宜に設定することができる。次に、第4ステップS104で、濃度算出回路104が、測定した溶液の吸光度より溶液における成分の濃度を求める濃度回帰式を第2ステップS102で求めた液温推定値で補正し、補正した濃度回帰式を用いて、第3ステップで測定した吸光度から溶液における成分の濃度を求める。第4ステップS104では、推定回路103が推定した液温推定値で濃度回帰式の定数項を補正し、定数項を補正した濃度回帰式を用いて成分濃度を求める。
【0030】
上述したように、実施の形態によれば、測定した純水の吸光度から液温を推定するので、液温が不明であっても測定されている純水の吸光度から液温を推定し、濃度回帰式を補正することで濃度計測ができるようになる。
【0031】
以下、より詳細に説明する。以下では、半導体装置の製造過程で用いられる洗浄液として、アンモニア(NH3)と過酸化水素(H2O2)とが溶解した溶液におけるアンモニアと過酸化水素の濃度(成分濃度)を測定する場合を例に説明する。測定においては、例えば、各々波長が異なる波長1、波長2、波長3を用いて透過光強度が測定される。以降では、説明の簡易化のため波長1、波長2、波長3として説明するが、本発明において測定波長を3波長に限定するものではない。
【0032】
波長1を用いた測定による吸光度A1、波長2を用いた測定による吸光度A2、および波長3を用いた測定による吸光度A3と、回帰係数b0,b1,b2,b3とを用いることで、各濃度Cを求める濃度回帰式は、C=b1A1+b2A2+b3A3+b0とすることができる。ここで、各吸光度は、測定対象の溶液の透過光強度Iを純水の透過光強度I0で除した値の常用対数に-1を乗じたものであり、濃度Cを求める濃度回帰式は、溶液の透過光強度Iと純水の透過光強度I0とを用いて、以下の式(1)で示すことができる。
【0033】
【0034】
ところで、透過光強度の測定に用いる光源の経時変化や、光源や分光器の取付け位置のずれなどにより、同じ濃度計測装置を用いても、測定される純水の透過光強度I0は変化する。このため、測定対象の溶液における成分濃度が一定であっても、計測している時期によって計測結果が異なるなどの問題が発生する。このような問題を解消するためには、定期的に純水の透過光強度I0を測定することが必要となる。純水の透過光強度I0は、測定時の温度T0(℃)により変化し、式(2)に示すように、濃度Cは温度T0℃の関数として表すことができる。
【0035】
【0036】
上述したように、濃度を求める濃度回帰式において、純水の透過光強度I0は、測定時の温度T0(℃)により変化する。このため、純水の透過強度測定における液温が、初期に測定した時と、再測定時とで異なる場合、純水の透過光強度I0を再測定して透過光強度I’0に更新するだけでは不十分である。再測定した純水の透過光強度I’0を用いて濃度C’を求めるためには、式(3)に示すように、温度により変化する定数項β(T)を加えた濃度回帰式とすることになる。
【0037】
【0038】
しかしながら、濃度計測装置が設けられている薬液容器では、液温計測や制御がなされていない場合が多い。このため、温度により変化する定数項β(T)を定義することができない場合がある。
【0039】
一方、純水の吸光度と液温とには、
図4に示すように相関がある。なお、
図4のグラフ中に示す数値は測定波長であり、λ1,λ2,λ3で示される。測定波長における純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温Tとの相関より、以下の式(4)に示すように、回帰係数B
0,B
1,B
2,B
3を用いることで、液温推定回帰式を作成することができる。
【0040】
【0041】
式(4)は、吸光度A1、吸光度A2、および吸光度A3を用いて、「T=B1A1+B2A2+B3A3+B0・・・(5)」とすることができる。実際の濃度測定時に測定した純水の吸光度A1、吸光度A2、および吸光度A3を、式(5)に代入することで、実際に測定するときの純水の液温T=T0’℃を求めることができる。このようにして求めた液温を用いて定数項β(T)を定数項β(T0’)と補正した濃度回帰式を用いることで、正確な濃度C’を求めることができる。
【0042】
以上に説明したように、本発明によれば、純水の吸光度と純水の吸光度の測定時の純水の液温との相関を表す液温推定回帰式を用いて測定した純水の吸光度から液温の推定値を推定する液温が不明であっても測定されている純水の吸光度を用いて濃度計測ができるようになる。
【0043】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0044】
101…記憶回路、102…吸光度計、103…推定回路、104…濃度算出回路。