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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003375
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】曲がり管
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/10 20060101AFI20241226BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B29C70/10
B29C70/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098216
(22)【出願日】2024-06-18
(31)【優先権主張番号】P 2023102684
(32)【優先日】2023-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】岸本 拓也
【テーマコード(参考)】
4F205
【Fターム(参考)】
4F205AA36
4F205AC05
4F205AD16
4F205AG12
4F205AH31
4F205AM28
4F205HA12
4F205HA22
4F205HB01
4F205HF30
4F205HG01
4F205HK04
4F205HK05
4F205HK33
4F205HL14
(57)【要約】
【課題】筒状の編組構造をした曲がり管に関して、軸方向への曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持された曲がり管を提供する。
【解決手段】内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、及び、外層用組物スリーブ12を備えた、筒状の編組構造をした曲がり管1に関して、中間層用組物スリーブ13は、中心軸方向Xに配向され、高強度繊維で形成された軸糸132と、配向角度が±5~85°の範囲で配向され、弾性糸で構成された中間層用組糸131とを組み合わせて形成された筒状の組物とし、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)は、中心軸方向Xに対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、高強度繊維で構成された内層用組糸111(外層用組糸121)を組み合わせて形成された、軸糸を有さない筒状の組物としている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層、外層、及び、前記内層と前記外層との間に配置される中間層を備えた、筒状の編組構造をした曲がり管であって、
前記中間層は、
当該曲がり管の中心軸方向に配向され、高強度繊維で形成された軸糸と、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、弾性糸で構成された中間層用組糸と、を組み合わせて形成された、筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしており、
前記内層は、
前記中間層の内周側に配置されており、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、高強度繊維で構成された内層用組糸を組み合わせて形成された、軸糸を有さない筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしており、
前記外層は、
前記中間層の外周側に配置されており、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、高強度繊維で構成された外層用組糸を組み合わせて形成された、軸糸を有さない筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしていることを特徴とする、曲がり管。
【請求項2】
前記内層及び前記外層において、
前記内層用組糸の幅又は前記外層用組糸の幅をbf[mm]
前記内層用組糸の数又は前記外層用組糸の数をn[本]
前記内層の内径又は前記外層の内径をD[mm]
前記内層用組糸の前記配向角度又は前記外層用組糸の前記配向角度をθ[°]
とした場合の下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周側の、前記内層の表面積に対する前記内層用組糸が占めている割合又は前記外層の表面積に対する前記外層用組糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下60%以上で、且つ、下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周側に相当する、前記内層の表面積に対する前記内層用組糸が占めている割合又は前記外層の表面積に対する前記外層用組糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下50%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の曲がり管。
【数1】
・・・(式1)
【請求項3】
前記中間層において、
前記中間層用組糸の幅をbf[mm]
前記中間層用組糸の数をn[本]
前記中間層の内径をD[mm]
前記中間層用組糸の、前記配向角度をθ[°]
当該中間層の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
とした場合の下記(式2)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周側の、前記中間層の表面積に対する前記中間層用組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下60%以上で、且つ、下記(式2)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周側の、前記中間層の表面積に対する前記中間層用組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下50%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の曲がり管。
【数2】
・・・(式2)
【請求項4】
内周側から順に配置された前記内層、前記中間層、及び、前記外層を1セットとする組物スリーブ群を複数セット重ねたことを特徴とする、請求項1~3の何れかに記載の曲がり管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編組構造をした曲がり管に関する。
【背景技術】
【0002】
大型ドローン(大型無人航空機)、空飛ぶクルマなどの次世代モビリティは、本体フレーム、プロペラ、プロペラガード、アーム、スキッド(脚部)などの部材で構成されている。これらの部材には、軽量化のため筒状の部材が使用され、更に、高剛性が求められることから、繊維材料(組糸)による編組技術及び樹脂成形によって構成される繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック: fiber reinforced plastic:FRP)製の筒状組物を使用することが想定される。
【0003】
このような筒状組物の軸方向の機械的特性を高めるためには、高強度(高弾性率)の繊維材料を軸方向に配向させることが考えられる。
例えば、特許文献1には、筒状の組物を積層して製造される管状プリフォームが開示されている。また、特許文献2~4には、強化繊維シート(プリプレグUDシート)を積層して製造される管状プリフォームや曲がり管が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開1992-327910号公報
【特許文献2】特開2021-094739号公報
【特許文献3】特開2018-038463号公報
【特許文献4】特開1995-223271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、直線状の管の場合は、高強度(高弾性率)の繊維材料を軸方向に配向させるだけで良いが、曲がり形状部分を有する曲がり管の場合、軸方向の機械的特性が高すぎると、曲げるための加工が困難になってしまう。仮に、曲げられたとしても、繊維材料の軸方向への配向が乱れてしまう。
【0006】
具体的には、特許文献1の管状プリフォームは、内側から順に組角度が、0°の層(一方向繊維と弾性糸(ナイロン捲縮糸)を組み合わせた組物スリーブ)、±α°の層、0°の層が積層され、0°の層が2層あるため、管状プリフォームを軸方向に曲げるのが困難となる。仮に、曲げられたとしても、管状プリフォームの外側の0°の層の糸がバラけてしまう場合がある。その結果、0°の層の糸は軸方向に沿わずに、繊維うねりが発生し、曲げた管状プリフォームの軸方向の引張物性、曲げ物性を低下させてしまう場合がある。
【0007】
また、特許文献2~4の管状プリフォームや曲がり管に関しては、積層されるプリプレグUDシート(0°糸)は、曲げることができないほどの剛性を有しており、無理やり曲げると、積層されたプリプレグUDシート(0°糸)は軸方向に沿わずに、繊維うねりが発生し、曲がり管の軸方向の引張物性、曲げ物性を低下させてしまう場合がある。
【0008】
このように、曲がり管においては、軸方向の機械的特性が高水準な曲がり管は、物性面と製造面で背反的な要因を含むため、両立させるための工夫が必要となる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、筒状の編組構造をした曲がり管に関して、軸方向への曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持された曲がり管を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、内層、外層、及び、前記内層と前記外層との間に配置される中間層を備えた、筒状の編組構造をした曲がり管であって、
前記中間層は、
当該曲がり管の中心軸方向に配向され、高強度繊維で形成された軸糸と、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、弾性糸で構成された中間層用組糸と、を組み合わせて形成された、筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしており、
前記内層は、
前記中間層の内周側に配置されており、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、高強度繊維で構成された内層用組糸を組み合わせて形成された、軸糸を有さない筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしており、
前記外層は、
前記中間層の外周側に配置されており、
当該曲がり管の中心軸方向に対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、高強度繊維で構成された外層用組糸を組み合わせて形成された、軸糸を有さない筒状の組物を1枚又は複数枚重ねた構成をしていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、中間層において、高強度の軸糸が柔軟な弾性糸に固定された形態となって、柔軟性(フレキシブル性)のある組物となることで、軸糸の配向を維持したまま(軸糸が曲がり管の中心軸方向に沿って整列したまま)の状態で曲がり管を曲げやすくすることができる。
また、曲がり管は、曲げ加工を行う際に、中間層の軸糸が内層と外層でカバーされていることから、軸糸がバラけることなく中心軸方向への配向を維持したまま曲げることができる。
また、内層と外層には中心軸方向に配向した軸糸を含まないので、内層及び外層は、曲がり管の曲げ加工の妨げにはならないようにすることができる(曲がり管を曲げる際の形状変化に追随しやすくすることができる)。
即ち、曲がり管の中心軸方向への曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、中心軸方向の機械的特性が高水準に維持された曲がり管を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、上記曲がり管の前記内層及び前記外層において、
前記内層用組糸の幅又は前記外層用組糸の幅をbf[mm]
前記内層用組糸の数又は前記外層用組糸の数をn[本]
前記内層の内径又は前記外層の内径をD[mm]
前記内層用組糸の前記配向角度又は前記外層用組糸の前記配向角度をθ[°]
とした場合の下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周側の、前記内層の表面積に対する前記内層用組糸が占めている割合又は前記外層の表面積に対する前記外層用組糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下60%以上で、且つ、下記(式1)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周側に相当する、前記内層の表面積に対する前記内層用組糸が占めている割合又は前記外層の表面積に対する前記外層用組糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下50%以上であることを特徴としてもよい。
【数1】
・・・(式1)
【0013】
上記構成のように、軸糸を含まず組糸(内層用組糸、外層用組糸)のみで形成された、内層及び外層において、曲がり管の屈曲部分の内周側の内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周側の外側カバーファクタcf1(out)の値が上記条件を満たす場合であれば、曲がり管の強度低下や強度の偏りを防止して、曲がり管自体のねじり強度を高めることができる。
【0014】
また、本発明は、上記曲がり管の前記中間層において、
前記中間層用組糸の幅をbf[mm]
前記中間層用組糸の数をn[本]
前記中間層の内径をD[mm]
前記中間層用組糸の、前記配向角度をθ[°]
当該中間層の1セルあたりの幅をf[mm]
前記軸糸の幅をbm[mm]
前記軸糸の数をnm[本]
とした場合の下記(式2)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の内周側の、前記中間層の表面積に対する前記中間層用組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下60%以上で、且つ、下記(式2)によって求められる、前記曲がり管の屈曲部分の外周側の、前記中間層の表面積に対する前記中間層用組糸及び前記軸糸が占めている割合を示す外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下50%以上であることを特徴としてもよい。
【数2】
・・・(式2)
【0015】
上記構成のように、中間層用組糸及び軸糸を組み合わせて形成された中間層において、曲がり管の屈曲部分の内周側の内側カバーファクタcf3(in)の値、及び、曲がり管の屈曲部分の外周側の外側カバーファクタcf3(out)の値が上記条件を満たす場合であれば、曲がり管の強度低下や強度の偏りを防止して、曲がり管自体のねじり強度を高めることができる。
【0016】
また、本発明は、上記曲がり管において、内周側から順に配置された前記内層、前記中間層、及び、前記外層を1セットとする組物スリーブ群を複数セット重ねたことを特徴としてもよい。
【0017】
上記構成によれば、曲がり管を構成する組物スリーブ群のセット数を変えることにより、曲がり管の柔軟性や強度を、求められる仕様に応じて変更することができる。
【発明の効果】
【0018】
筒状の編組構造をした曲がり管に関して、軸方向への曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持された曲がり管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る曲がり管の説明図である。
図2】(A)本実施形態に係る曲がり管の断面図である。(B)本実施形態に係る曲がり管の3層構造の説明図である。
図3】内層用組物スリーブ及び外層用組物スリーブの編組構造(1セル)の説明図である。
図4】(A)中間層用組物スリーブにおける中間層用組糸のみで形成された編組構造(1セル)の説明図である。(B)中間層用組物スリーブにおける中間層用組糸及び軸糸で形成された編組構造(1セル)の説明図である。
図5】本実施形態に係る曲がり管の屈曲部分の編組構造の説明図である。
図6】(a)スリーブ編組工程の説明図である。(b)スリーブ編組工程のスピンドル軌道の説明図である。
図7】予備成形体(プリフォーム)の製造工程の説明図である。
図8】プリフォームの金型への設置に関する説明図である。
図9】プリフォームへの樹脂成形処理に関する説明図である。
図10】樹脂成形後のプリフォームのマンドレル抜き取りに関する説明図である。
図11】製造された曲がり管の外観写真である。
図12】その他の実施形態に係る曲がり管の断面図である。
図13】曲がり管の破壊強度の測定方法の説明図である。
図14】曲がり管の引張弾性率の測定対象となる屈曲部分(中央湾曲部)の内側・外側の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
(曲がり管1)
曲がり管1は、図1及び図2に示すように、組糸(炭素繊維材料など)による編組構造及び樹脂成形によって構成される繊維強化樹脂(繊維強化プラスチック: fiber reinforced plastic:FRP)製の、断面が円形状をした筒状の管であり、一定の曲げ角度で曲がった形状をしている。
【0022】
例えば、曲がり管1は、荷物を無人で運搬する大型ドローン(大型無人航空機)の構成部材(大型ドローンを構成する、本体フレーム(運搬する荷物を格納する空間を形成する)、プロペラ、プロペラガード、プロペラと本体フレームとを接続するアーム、スキッド(脚部))に使用される。これらの大型ドローンを構成する、本体フレーム、プロペラ、プロペラガード、アーム、スキッドは、その形状に屈曲部分を有しており、軽量性、高剛性、振動減衰性に優れていることに加え、曲がり管1の中心軸方向Xへの曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、中心軸方向Xの機械的特性が高水準に維持されることが求められる。
【0023】
曲がり管1は、筒状の組物スリーブを少なくとも3層重ねた構造をしている。
具体的には、図2(A)に示すように、曲がり管1は、曲がり管1の内周を構成する内層用組物スリーブ11(内層に相当)、曲がり管1の外周を構成する外層用組物スリーブ12(外層に相当)、及び、内層用組物スリーブ11と外層用組物スリーブ12との間に積層(配置)される中間層用組物スリーブ13(中間層)を3層重ねた構造をしている。
【0024】
(内層用組物スリーブ11)
内層用組物スリーブ11は、中間層用組物スリーブ13の内周側に積層される。
内層用組物スリーブ11は、図2(B)及び図3に示すように、高強度(高弾性率)繊維で構成された内層用組糸111が、曲がり管1の中心軸方向Xに対する配向角度(θ)±5~85°の範囲で配向し、交差するように組み合わせて形成されている。ここで、内層用組物スリーブ11は、曲がり管1の中心軸方向Xに配向されるような軸糸を有していない。
【0025】
内層用組物スリーブ11の内層用組糸111を構成する高強度(高弾性率)繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、スチール繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、バサルト繊維、アモルファス繊維等を用いることができる。
【0026】
(外層用組物スリーブ12)
外層用組物スリーブ12は、中間層用組物スリーブ13の外周側に積層される。
外層用組物スリーブ12は、内層用組物スリーブ11同様に、図2(B)及び図3に示すように、高強度(高弾性率)繊維で構成された外層用組糸121が、曲がり管1の中心軸方向Xに対する配向角度(θ)±5~85°の範囲で配向し、交差するように組み合わせて形成されている。ここで、外層用組物スリーブ12も、内層用組物スリーブ11同様に、曲がり管1の中心軸方向Xに配向されるような軸糸を有していない。
また、外層用組物スリーブ12の外層用組糸121を構成する高強度(高弾性率)繊維は、内層用組物スリーブ11と同様である。
【0027】
(中間層用組物スリーブ13)
中間層用組物スリーブ13は、内層用組物スリーブ11と外層用組物スリーブ12との間に積層される。
中間層用組物スリーブ13は、図2(B)及び図4に示すように、曲がり管1の中心軸方向Xに配向され(中心軸方向Xに対する配向角度が0°)、高強度(高弾性率)繊維で形成された軸糸132と、中心軸方向Xに対する配向角度が±5~85°の範囲で配向され、弾性糸で構成された中間層用組糸131と、を交差するように組み合わせて形成されている。
【0028】
中間層用組物スリーブ13の軸糸132を構成する高強度(高弾性率)繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、炭化ケイ素繊維、スチール繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、バサルト繊維、アモルファス繊維等を用いることができる。
【0029】
中間層用組物スリーブ13の中間層用組糸131を構成する弾性糸としては、例えば、ナイロン樹脂やポチブチレンテレフタレート樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂からなるマルチフィラメント糸やモノフィラメント糸を加工して得られる仮撚加工糸(捲縮糸、ウーリー糸ともいわれる)、ウレタン繊維等を用いることができる。
【0030】
(曲がり管1の樹脂成形)
また、曲がり管1(内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、中間層用組物スリーブ13)の編組構造に対する樹脂成形に使用する樹脂の材料としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂(マトリックス樹脂)のほか、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリルーブタジエンースチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリルースチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
また、樹脂成形方法としては、レジントランスファー成形(RTM:真空吸引と加圧含浸)、VaRTM(真空含浸工法)、内圧成形等が用いられる。
【0031】
(曲がり管1の屈曲部分2の編組構造)
曲がり管1を形成する場合、図5に示すように、屈曲部分2を曲がり形状で編組する必要があるが、直線状に編組する場合に比べ、屈曲部分2の内周側21では編組構造に縮む作用が働き、一方で、屈曲部分2の外周側22では編組構造が伸びる作用が働き、曲がり管1の編組構造に偏り(強度の差)が生じる場合がある。このような曲がり管1の編組構造に偏りが生じた場合、曲がり管1の高剛性や耐衝撃性能が低下してしまう。
【0032】
そこで、断面が円形状の編組構造をした曲がり管1の強度面の指標となる、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の各編組構造の表面積に対する組糸(内層用組糸111、外層用組糸121、中間層用組糸131)及び軸糸(軸糸132)が占めている割合を示すカバーファクタcf(式1~式3)という指標(値)を用いて、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の各屈曲部分の編組構造を形成する。
【0033】
ここで、図3図5に示すように、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の各屈曲部分の内周側と外周側とでは、その編組構造の1セル(組糸に囲まれた1つの区画)あたりの幅f[mm]は同じであるが、曲がり管1の中心軸方向Xに対する配向角度θ[°]は異なることから、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の各屈曲部分の内周側の内側カバーファクタcf(in)、及び、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の各屈曲部分の外周側の外側カバーファクタcf(out)を算出する必要がある。
また、カバーファクタcfの算出には、図3に示す、内層用組物スリーブ11及び外層用組物スリーブ12のように、編組構造のセルが、組糸(内層用組糸111、外層用組糸121)のみから構成されている場合(cf1)、また、図4に示す、中間層用組物スリーブ13のように、セル(図4(A)参照)が、組糸(中間層用組糸131)のみから構成されている編組構造(cf1)と、セル(図4(B)参照)が、組糸(中間層用組糸131)及び軸糸(軸糸132)を有する編組構造(cf2)とを含む場合(cf3)を考慮に入れて算出する必要がある。
【0034】
(内層用組物スリーブ11及び外層用組物スリーブ12のカバーファクタ)
図3に示す、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)のように、編組構造のセルが、内層用組糸111(外層用組糸121)のみから構成されている場合、内層用組糸111(外層用組糸121)の幅bf[mm]、内層用組糸111(外層用組糸121)の数n[本]、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)の内径D[mm]、及び、内層用組糸111(外層用組糸121)の、曲がり管1の中心軸方向Xに対する配向角度θ[°]などの2次元データに基づく値から、下記(式1)によって、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)の屈曲部分の内周側の内側カバーファクタcf1(in)の値、及び、下記(式1)によって、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)の屈曲部分の外周側の外側カバーファクタcf1(out)の値が算出される。
【0035】
【数3】
・・・(式1)
【0036】
そして、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)のように、編組構造が内層用組糸111(外層用組糸121)のみから構成される場合(編組構造が軸糸を含まない場合)、上記(式1)によって算出される、内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下60%以上の範囲内、且つ、上記(式1)によって算出される、外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下50%以上の範囲内の条件を満たすことにより、曲がり管1の屈曲部分2の強度低下や強度の偏りを防止して、曲がり管1自体のねじり強度を高めることができる。
【0037】
上記内層用組物スリーブ11であれば、曲げ荷重による、中間層用組物スリーブ13の軸糸132の座屈破壊を防止して、曲がり管1自体のねじり強度を高めることができる。
また、上記外層用組物スリーブ12であれば、中間層用組物スリーブ13の軸糸132を拘束することで、屈曲部分2での軸糸132の折れ曲がり及び配置ズレを防止することができる。また、曲がり管1の強度低下や強度の偏りを防止して、曲がり管1自体のねじり強度を高めることができる。
【0038】
(中間層用組物スリーブ13のカバーファクタ)
図4に示す、中間層用組物スリーブ13のように、セル(図4(A)参照)が、中間層用組糸131のみから構成されている編組構造と、セル(図4(B)参照)が、中間層用組糸131及び軸糸132を有する編組構造とを含む場合のカバーファクタcf3の値の算出には、図4(A)に示す、編組構造が131のみから構成されているセルにおけるカバーファクタcf1(内層用組物スリーブ11と同様にして算出する:式1参照)と、図4(B)に示す、編組構造が中間層用組糸131及び軸糸132から構成されているセルにおけるカバーファクタcf2とを考慮して算出される。
【0039】
ここで、図4(B)に示すように、編組構造のセルが、中間層用組糸131及び軸糸132を含む場合は、中間層用組糸131の幅bf[mm]、中間層用組糸131の数n[本]、中間層用組物スリーブ13の内径D[mm]、及び、中間層用組糸131の、中心軸方向Xに対する配向角度θ[°]に加えて、更に、編組構造の1セル(中間層用組糸131に囲まれた1つの区画:図4(B)参照)あたりの幅f[mm]、軸糸132の幅bm[mm]、及び、軸糸132の数nm[本]などの2次元データに基づく値から、下記(式2)によって、中間層用組物スリーブ13の屈曲部分の内周側の内側カバーファクタcf2(in)の値、及び、下記(式2)によって、中間層用組物スリーブ13の屈曲部分の外周側の外側カバーファクタcf2(out)の値が算出される。
【0040】
【数4】
・・・(式2)
【0041】
なお、図4(A)(B)に示すように、(式2)において、Aは中間層用組物スリーブ13の編組構造の1セルの面積であり、ASは中間層用組物スリーブ13の編組構造の1セルにおける中間層用組糸131部分を除いた空隙部の面積であり、Aaは中間層用組物スリーブ13の編組構造の1セルにおける軸糸132(中間層用組糸131と重複する部分を除く)部分の面積である。
【0042】
そして、中間層用組物スリーブ13のように、セル(図4(A)参照)が、中間層用組糸131のみから構成されている編組構造と、セル(図4(B)参照)が、中間層用組糸131及び軸糸132を有する編組構造とを含む場合のカバーファクタcf3の値の算出には、図4(A)に示す、編組構造が中間層用組糸131のみから構成されるセルにおけるカバーファクタcf1と、図4(B)に示す、編組構造が中間層用組糸131及び軸糸132から構成されているセルにおけるカバーファクタcf2とを考慮した、下記(式3)によって算出される、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下60%以上の範囲内、且つ、下記(式3)によって算出される、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下50%以上の範囲内の条件を満たすことにより、曲がり管1の屈曲部分2の強度低下や強度の偏りを防止して、曲がり管1自体のねじり強度を高めることができる。
【0043】
上記中間層用組物スリーブ13であれば、中間層用組糸131に弾性糸を使用しているので、中間層用組物スリーブ13自体に柔軟性を持たせることができることから、曲がり管1の屈曲部分2において軸糸132を、中心軸方向Xに沿って継ぎ目なく均一に配置することができる。
【0044】
【数5】
・・・(式3)
【0045】
ここで、上記のように、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13において、内側カバーファクタcf(in)の値は100%以下60%以上の範囲内、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値は100%以下50%以上の範囲内の条件を満たすようにしている。
これは、内側カバーファクタcf(in)の値又は外側カバーファクタcf(out)の値が100%を超えると、内層用組糸111(外層用組糸121)による編組構造や中間層用組糸131及び軸糸132による編組構造により形成された、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13の表面積以上となることから内層用組糸111(外層用組糸121)や中間層用組糸131及び軸糸132の一部が曲がり管1の表面に浮いてしまい、その浮いた部分或いは周辺に負荷等がかかり曲がり管1の高剛性や耐衝撃性能が低下するおそれがあるからである。また、内側カバーファクタcf(in)の値が60%未満又は外側カバーファクタcf(out)の値が50%未満であると、曲がり管1の屈曲部分2の内周側21と外周側22とで編組構造の強度面での偏り(強度の差)が生じてしまい、曲がり管1の高剛性や耐衝撃性能が低下するおそれがあるからである。
【0046】
なお、曲がり管1を構成する、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13において、曲がり管1の高剛性や耐衝撃性能をより高める観点からは、内側カバーファクタcf(in)の値は100%以下70%以上の範囲内、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値は100%以下60%以上の範囲内の条件を満たすことがより好ましい。更には、内側カバーファクタcf(in)の値は100%以下80%以上の範囲内、且つ、外側カバーファクタcf(out)の値は100%以下70%以上の範囲内の条件を満たすことが最も好ましい。
【0047】
(曲がり管1の製造方法)
次に、曲がり管1の製造方法について説明する。
【0048】
(1)スリーブ編組工程
まず、図6(a)に示すように、製紐機を用いて、内層用組物スリーブ11、外層用組物スリーブ12、及び、中間層用組物スリーブ13をそれぞれ製造する。
【0049】
例えば、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)であれば、スピンドルに巻き付けられた組糸(内層用組糸111や外層用組糸121)を、円筒形のマンドレルの外周上で組み合わせて内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)を形成する。図6(b)に示すように、スピンドルが軌道に沿って動くことにより、組糸(内層用組糸111や外層用組糸121)が組み合わされていき、マンドレルの上部にシームレスの内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)が形成され、巻き取り装置で巻き上げられる。
【0050】
また、中間層用組物スリーブ13であれば、スピンドルに巻き付けられた組糸(中間層用組糸131)と、製紐機の下部から供給(固定された筒から供給)される軸糸132とを、円筒形のマンドレルの外周上で組み合わせて中間層用組物スリーブ13を形成する。図6(b)に示すように、スピンドルが軌道に沿って動くことにより、組糸(中間層用組糸131)と軸糸132とが組み合わされていき、マンドレルの上部にシームレスの中間層用組物スリーブ13が形成され、巻き取り装置で巻き上げられる。
【0051】
ここで、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)のように、編組構造が内層用組糸111(外層用組糸121)のみから構成される場合(編組構造が軸糸を含まない場合)、内層用組糸111(外層用組糸121)の幅bf[mm]、内層用組糸111(外層用組糸121)の数n[本]、内層用組物スリーブ11(外層用組物スリーブ12)の内径D[mm]、及び、内層用組糸111(外層用組糸121)の、曲がり管1の中心軸方向Xに対する配向角度θ[°]などの各種パラメータの値は、上記(式1)によって算出される、内側カバーファクタcf1(in)の値が100%以下60%以上の範囲内、且つ、上記(式1)によって算出される、外側カバーファクタcf1(out)の値が100%以下50%以上の範囲内の条件を満たす必要がある。
【0052】
また、中間層用組物スリーブ13のように、セル(図4(A)参照)が、中間層用組糸131のみから構成されている編組構造と、セル(図4(B)参照)が、中間層用組糸131及び軸糸132を有する編組構造とを含む場合は、中間層用組糸131の幅bf[mm]、中間層用組糸131の数n[本]、中間層用組物スリーブ13の内径D[mm]、及び、中間層用組糸131の、中心軸方向Xに対する配向角度θ[°]に加えて、更に、編組構造の1セル(中間層用組糸131に囲まれた1つの区画:図4(B)参照)あたりの幅f[mm]、軸糸132の幅bm[mm]、及び、軸糸132の数nm[本]などの各種パラメータの値は、上記(式3)によって算出される、内側カバーファクタcf3(in)の値が100%以下60%以上の範囲内、且つ、上記(式3)によって算出される、外側カバーファクタcf3(out)の値が100%以下50%以上の範囲内の条件を満たす必要がある。
【0053】
(2)予備成形体(プリフォーム)の製造
次に、図7に示すように、円柱状のシリコン樹脂製のマンドレルに、内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、外層用組物スリーブ12の順番に被せて、筒状の組物スリーブを3層重ねた予備成形体(以下、プリフォーム)を製造する。
なお、本実施形態では、プリフォームの軸部分(棒)にシリコン樹脂製のマンドレルを使用しているが、マンドレルに使用する材料としては、弾力のある熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂でもよいし、また、例えば、ろう(ワックス)、発泡スチロール、石膏、低融点合金等を用いることで、成形後でも成形品から軸部分を除去することが可能である。
【0054】
(3)金型への設置
次に、図8に示すように、プリフォームを重ねたマンドレルを曲げて、金型のキャビティに嵌め込み、蓋をする。
【0055】
なお、本実施形態では、プリフォームの製造に関して、円柱状のマンドレルに、筒状の組物スリーブを3層(内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、外層用組物スリーブ12)重ねた後、マンドレルを曲げているが、先に曲げた状態のマンドレルを用意した後、この曲げた状態のマンドレルに筒状の組物スリーブを3層(内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、外層用組物スリーブ12)重ねてもよい。
【0056】
(4)樹脂成形処理
次に、図9に示すように、レジントランスファー成形(RTM)によって、金型のキャビティに熱硬化性樹脂(マトリックス樹脂)を加圧注入し、プリフォームに熱硬化性樹脂を含浸させ、余った熱硬化性樹脂を真空吸引する。
なお、樹脂成形方法としては、VaRTM(真空含浸工法)や、内圧成形等を用いてもよい。
【0057】
(5)マンドレルの抜き取り
次に、図10に示すように、プリフォームに含浸された熱硬化性樹脂が硬化した後、マンドレルを抜き取る。
【0058】
(6)仕上げ加工
最後に、バリ取り、カット、塗装を行い、曲がり管1を得る(図11参照)。
【0059】
上記曲がり管1の構成によれば、中間層用組物スリーブ13において、高強度の軸糸132が柔軟な中間層用組糸131に固定された形態となって、柔軟性(フレキシブル性)のある組物となることで、軸糸132の配向を維持したまま(軸糸132が曲がり管1の中心軸方向Xに沿って整列したまま)の状態で曲がり管1を曲げやすくすることができる。
また、曲がり管1は、曲げ加工を行う際に、中間層用組物スリーブ13の軸糸132が内層用組物スリーブ11と外層用組物スリーブ12とでカバーされていることから、軸糸132がバラけることなく中心軸方向Xへの配向を維持したまま曲げることができる。
また、内層用組物スリーブ11と外層用組物スリーブ12には中心軸方向Xに配向した軸糸を含まないので、内層用組物スリーブ11及び外層用組物スリーブ12は、曲がり管1の曲げ加工の妨げにはならないようにすることができる(曲がり管1を曲げる際の形状変化に追随しやすくすることができる)。
即ち、曲がり管1の中心軸方向Xへの曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、中心軸方向Xの機械的特性が高水準に維持された曲がり管1を得ることができる。
【0060】
また、上記曲がり管1を、大型無人航空機である大型ドローンを構成する、本体フレーム、プロペラ、プロペラガード、アーム、スキッドに使用した場合、軽量性、高剛性、振動減衰性に優れていることに加え、曲がり管1の中心軸方向Xへの曲げ加工を行っても繊維うねりなどの配向乱れがなく、中心軸方向Xの機械的特性が高水準に維持される。
【0061】
(その他の実施形態)
上記実施形態、曲がり管1は、内層として内層用組物スリーブ11を1枚、外層として外層用組物スリーブ12を1枚、中間層として中間層用組物スリーブ13を1枚とした3層構造を例示して説明したが、曲がり管1の柔軟性や強度との兼ね合いから、各層は、複数枚の組物スリーブを重ねた構成としてもよい。
例えば、内層として内層用組物スリーブ11を複数枚重ねた構成にしてもよいし、外層として外層用組物スリーブ12を複数枚重ねた構成にしてもよいし、中間層として中間層用組物スリーブ13を複数枚重ねた構成にしてもよい。
このように、内層、外層、中間層に重ねる各組物スリーブの枚数を変えることにより、曲がり管1の柔軟性や強度を、求められる仕様に応じて変更することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、内周側から順に積層された、内層用組物スリーブ11(1枚)、中間層用組物スリーブ13(1枚)、及び、外層用組物スリーブ12(1枚)を1セットとする組物スリーブ群とした場合、曲がり管1は、1セットの組物スリーブ群から構成されていることになるが、このような構成に限らず、組物スリーブ群を複数セット重ねた曲がり管を構成してもよい。
例えば、図12に示すように、曲がり管101は、組物スリーブ群10(10A、10B)を2セット重ねた構成をしている。即ち、曲がり管101は、内周側から順に、内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、外層用組物スリーブ12、内層用組物スリーブ11、中間層用組物スリーブ13、及び、外層用組物スリーブ12が積層された構成をしている。
このように、曲がり管101を構成する組物スリーブ群10のセット数を変えることにより、曲がり管101の柔軟性や強度を、求められる仕様に応じて変更することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、大型無人航空機である大型ドローンを構成する、本体フレーム、プロペラ、プロペラガード、アーム、スキッドに曲がり管1を使用する場合について説明したが、有人航空機に曲がり管1を使用してもよい(例えば、大型ドローンタイプの空飛ぶタクシーなど)。
【0064】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、各手段等の具体的構成は、適宜設計変更可能である。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【実施例0065】
[実施例1~15及び比較例1~4に基づく検証]
本発明に係る、高強度繊維で構成された軸糸と、配向角度が±5~85°の範囲で配向された弾性糸で構成された組糸とで形成された「中間層」、軸糸を有さず、配向角度が±5~85°の範囲で配向された高強度繊維で構成された組糸で形成された「内層」および「外層」の3層で構成された編組構造をした曲がり管は、曲げ加工を行っても繊維の配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持される。
【0066】
そこで、本実施例では、実施例1~15および比較例1~4に係る曲がり管を作製し、〈曲がり管および直管の引張弾性率の測定〉、〈曲がり管の破壊強度の測定〉を行い、比較検証を行った。
なお、以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0067】
(繊維強化樹脂(FRP)製の曲がり管の構成)
〈曲がり管の編組構造に用いる高強度繊維〉
表1に、曲がり管の編組構造に用いる高強度繊維を記載した。
【表1】
【0068】
〈曲がり管の編組構造に用いる弾性糸〉
表2に、曲がり管の編組構造に用いる弾性糸を記載した。
【表2】
【0069】
〈曲がり管に用いる樹脂組成物〉
・熱硬化性樹脂:ビニルエステル樹脂(銘柄CBZ500LM-AS、粘度200~350mPa・s、日本ユピカ製)
・促進剤:銘柄PR-CBZ01(日本ユピカ製)
・硬化剤:328E(化薬ヌーリオン製)
【0070】
(曲がり管の製造方法)
上記実施形態に記載した「曲がり管の製造方法」によって、表3~表6に示す実施例1~15、比較例1~4に記載の編組構造をしたFRP製曲がり管を作製した。その一例として、実施例1の曲がり管の寸法、形状を図13に示す。なお、直管の製造方法は、「曲がり管の製造方法」のうち、レジントランスファー成形(RTM)に用いる金型のキャビティの形状が直線であることを除いては、曲がり管と同様である。
【0071】
(積層構造の評価)
【表3】
【0072】
(配向角度の変量評価)
【表4】
【0073】
(カバーファクタの変量評価)
【表5】
【0074】
(スリーブ群セット数の変量評価)
【表6】
【0075】
(試験方法)
〈曲がり管および直管の引張弾性率の測定方法〉
上記の製造方法で作製した曲がり管の屈曲部分(中央湾曲部)から、L50mm×W5mm×1.5tmmの寸法の試験片を、内側と外側から1か所ずつウォータージェット法にて採取した(図14参照)。
また、直管の長さ方向の中央部から、曲がり管と同一寸法の試験片を、周方向で対面となるように2か所ウォータージェット法にて採取した。
そして、曲がり管の屈曲部分(中央湾曲部)、および、直管の中央部から採取した試験片について、JIS K7164(2005)に準拠した方法で、温度23±2℃、湿度50±10%の環境下で、速度1mm/minにて引張試験を行い、得られた応力-ひずみ曲線から、引張弾性率Eを(式4)によって算出した。
【0076】
【数6】
・・・(式4)
【0077】
この試験では、傾きが直線となる領域をひずみの読み取り範囲として、
σ1:ひずみε1=0.0025において測定された引張応力(MPa)
σ2:ひずみε2=0.0050において測定された引張応力(MPa)
とした引張弾性率Eを上記(式4)によって算出している。
そして、曲がり管の屈曲部分(中央湾曲部)の内側から採取した試験片での引張弾性率をE(in)、外側から採取した試験片での引張弾性率をE(out)とし、E(in)とE(out)の平均値を曲がり管の引張弾性率とした。直管の引張弾性率は、2か所の値の平均値とした。
【0078】
〈曲がり管の破壊強度の測定方法〉
上記の製造方法で作製した曲がり管について、上記の「曲がり管および直管の引張弾性率の測定方法」で行った引張試験方法に準じた方法で、図13に示すチャック部分をチャックで掴み、試験速度を6mm/minとして、試験片が破壊するまでの引張応力(試験力:F)を測定し、下記(式5)によって破壊強度を算出した(試験回数は各3回)。
【0079】
〈曲がり管の破壊強度の測定に係るセッティング〉
・機器類
オートグラフ:アムスラー
ひずみゲージ:KFGS-2-120-C1-11LIM3R 共和電業
ひずみゲージ用接着剤:CC-33A 共和電業
・状態調節
温度23±2℃、湿度50±10%、16時間以上
・試験条件
試験環境:温度23±2℃、湿度50±10%
ロードセル容量:100kN
試験速度:6mm/min
試験回数:3回
チャック部:チャックによる潰れ防止のため芯金挿入
【0080】
【数7】
・・・(式5)
σ:破壊強度(MPa)
F:試験力(N)
A:断面積(mm2
【0081】
(試験結果について)
〈曲がり管の合否判定基準の決定〉
FRP製曲がり管は、曲げ加工を行っても繊維の配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持する観点で、曲げ加工を行っても引張弾性率の低下が小さいこと、すなわち、直管の引張弾性率に近い値を保持すれば合格とした。
指標値として、上記の引張弾性率の測定方法で算出される曲がり管の屈曲部分(中央湾曲部)と直管の中央部との引張弾性率の比を保持率として算出し、以下の判定基準によりランク付けした。
a判定:引張弾性率の保持率(曲がり管と直管の引張弾性率の比)が0.8以上
b判定:引張弾性率の保持率(曲がり管と直管の引張弾性率の比)が0.8未満
【0082】
また、FRP製曲がり管は、用途として大型ドローンなどの構造部材に使用されることが想定されるため、破壊強度が重要となる。
曲がり管の破壊強度は、上記の破壊強度の測定方法で算出され、以下の判定基準によりランク付けした。
a判定:破壊強度が500MPa以上
b判定:破壊強度が400MPa以上500MPa未満
c判定:破壊強度が400MPa未満
【0083】
総合判定として、以下の表7の判定基準により、A判定(合格)、B判定(合格)、C判定(合格)、D判定(不合格)にランク付けした。
【0084】
【表7】
【0085】
〈曲がり管および直管の試験結果〉
(積層構造の評価(表3))
[比較例1:中間層が軸糸のみ(組糸なし)で形成された3層構造の例]
スリーブ編組工程において、中間層の軸糸を固定する組糸がないため、中間層の軸糸の配向が乱れ、スリーブが形状を保持することができず、曲がり管および直管を製造することができなかった。
【0086】
[比較例2:中間層の組糸が高強度繊維で構成された3層構造の例]
軸糸と組糸の両方が高強度繊維で構成されている中間層のスリーブは柔軟性がないため、直管は製造することができたが、金型への予備成形体(プリフォーム)の配置において、予備成形体(プリフォーム)を曲げることができず、曲がり管を製造することができなかった。
【0087】
[比較例3:内層が軸糸と組糸で形成され、中間層が組糸のみで形成された3層構造の例]
予備成形体(プリフォーム)の製造において、内層のスリーブとシリコン樹脂製のマンドレルとの間に働く摩擦力が大きく、内層のスリーブをマンドレルに被せることができず、曲がり管および直管を製造することができなかった。
【0088】
[比較例4:外層が軸糸と組糸で形成され、中間層が組糸のみで形成された3層構造の例]
予備成形体(プリフォーム)の製造において、外層の外周側に外層の軸糸を固定する層がないため、外層の外周側の軸糸の配向が乱れ、外層の外周側のカバーファクタcf3(out)が43%と小さく、内周側のカバーファクタcf3(in)の93%と大きな差が生じた。この結果、引張弾性率の保持率が0.56(b判定)と小さく、総合判定はDランク(不合格)であった。
【0089】
[実施例1:軸糸と組糸で形成される中間層と、組糸のみで形成される内層、外層とで構成される3層構造の例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が650MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0090】
[実施例2:実施例1における中間層の積層数を1層から2層に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.84(a判定)、曲がり管の破壊強度が740MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0091】
(中間層の配向角度の変量評価(表4))
[実施例3:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を47°から6°に、外側の配向角度を45°から5°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が640MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0092】
[実施例4:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を47°から15°に、外側の配向角度を45°から13°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が620MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0093】
[実施例5:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を47°から80°に、外側の配向角度を45°から77°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が630MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0094】
[実施例6:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を47°から85°に、外側の配向角度を45°から84°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が630MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0095】
(外層の配向角度の変量評価(表4))
[実施例7:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を48°から34°に、外側の配向角度を46°から27°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.89(a判定)、曲がり管の破壊強度が630MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0096】
[実施例8:実施例1における中間層の組糸の内側の配向角度を48°から60°に、外側の配向角度を46°から53°に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.86(a判定)、曲がり管の破壊強度が500MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0097】
(中間層のカバーファクタの変量評価(表5))
[実施例9:実施例1における中間層の内側カバーファクタcf3(in)の値を93%から52%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を80%から40%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.84(a判定)、曲がり管の破壊強度が380MPa(c判定)となり、総合判定はCランク(合格)であった。
【0098】
[実施例10:実施例1における中間層の内側カバーファクタcf3(in)の値を93%から64%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を80%から52%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.86(a判定)、曲がり管の破壊強度が460MPa(b判定)となり、総合判定はBランク(合格)であった。
【0099】
[実施例11:実施例1における中間層の内側カバーファクタcf3(in)の値を93%から75%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を80%から63%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.88(a判定)、曲がり管の破壊強度が540MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0100】
(外層のカバーファクタの変量評価(表5))
[実施例12:実施例1における外層の内側カバーファクタcf3(in)の値を94%から47%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を93%から41%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.94(a判定)、曲がり管の破壊強度が360MPa(c判定)となり、総合判定はCランク(合格)であった。
【0101】
[実施例13:実施例1における外層の内側カバーファクタcf3(in)の値を94%から65%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を93%から58%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.95(a判定)、曲がり管の破壊強度が440MPa(b判定)となり、総合判定はBランク(合格)であった。
【0102】
[実施例14:実施例1における外層の内側カバーファクタcf3(in)の値を94%から79%に、外側カバーファクタcf3(out)の値を93%から72%に変更した例]
引張弾性率の保持率が0.95(a判定)、曲がり管の破壊強度が520MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0103】
(スリーブ群セット数の変量評価(表6))
[実施例15:実施例1における組物スリーブ群のセット数を1セットから2セットに変更した例]
引張弾性率の保持率が0.93(a判定)、曲がり管の破壊強度が640MPa(a判定)となり、総合判定はAランク(合格)であった。
【0104】
なお、内層の組糸の配向角度の範囲に関する変量評価については、外層の組糸の配向角度の範囲に関する変量評価と結果は同様であることが明らかであるため、検証を行っていない。
また、内層のカバーファクタの範囲に関する変量評価についても、外層のカバーファクタの範囲に関する変量評価と結果は同様であることが明らかであるため、検証を行っていない。
【0105】
以上の結果から、高強度繊維の軸糸と弾性糸の組糸から形成される中間層と、高強度繊維の組糸から形成される内層および外層とから構成され、中間層、内層、外層の組糸が±5°~85°の範囲の配向角度で配向された、3層構造の曲がり管は、曲げ加工を行っても繊維の配向乱れがなく、軸方向の機械的特性が高水準に維持されることが確認できた。
【符号の説明】
【0106】
1 曲がり管
11 内層用組物スリーブ
111 内層用組糸
12 外層用組物スリーブ
121 外層用組糸
13 中間層用組物スリーブ
131 中間層用組糸
132 軸糸
2 屈曲部分
21 内周側
22 外周側
X 中心軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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図14
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
【表7】