(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025033817
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】エスカレータ微速運転装置
(51)【国際特許分類】
B66B 31/00 20060101AFI20250306BHJP
B66B 23/02 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
B66B31/00 D
B66B23/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139812
(22)【出願日】2023-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立松 功次
(72)【発明者】
【氏名】中村 知至
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA02
3F321CA11
3F321CA16
(57)【要約】
【課題】主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供する。
【解決手段】エスカレータ微速運転装置100は、エスカレータの主電源とは異なる電源により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸111を有する電動装置110と、第1回転軸111に取り付けられて、エスカレータのステップチェーンを主電源により回転駆動するための第2回転軸12に取り付けられたフライホイール14に押し当てられる摩擦部材120とを備える。摩擦部材120は、電動装置110の駆動時及び駆動停止時のそれぞれにおいてフライホイール14に押し当てられて、駆動時において電動装置110から出力されたトルクをフライホイール14に伝達し、かつ駆動停止時においてフライホイール14に制動力を付与するように設けられている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エスカレータの主電源とは異なる電源により第1中心軸周りに回転駆動される第1回転軸を有する電動装置と、
前記第1回転軸に取り付けられて、前記エスカレータのステップチェーンを前記主電源により回転駆動するための第2回転軸に取り付けられたフライホイールに押し当てられる摩擦部材とを備え、
前記摩擦部材は、前記電動装置の駆動時及び駆動停止時のそれぞれにおいて前記フライホイールに押し当てられて、前記駆動時において前記電動装置から出力されたトルクを前記フライホイールに伝達し、かつ前記駆動停止時において前記フライホイールに制動力を付与するように設けられている、エスカレータ微速運転装置。
【請求項2】
前記摩擦部材は、前記第1中心軸に対する外径が相対的に短い第1摩擦面と、前記第1中心軸に対する外径が前記第1摩擦面よりも長い第2摩擦面とを有している、請求項1に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項3】
前記第1摩擦面及び前記第2摩擦面の少なくともいずれかは、前記外径が前記第1中心軸の一端から他端に向かうにつれて徐々に変化するように、傾斜している、請求項2に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項4】
前記フライホイールは、前記第2回転軸に沿った方向の一方を向いている第1側面と、前記第1側面とは反対方向を向いている第2側面と、前記第1側面及び前記第2側面の外周縁間を接続する外周面とを有し、
前記摩擦部材の前記第1摩擦面と前記第2摩擦面との間には、前記第1中心軸に対する周方向において環状に連なる環状溝が形成されており、
前記環状溝の内面は、前記第1回転軸が前記第2回転軸と平行に配置されたときに、前記フライホイールの前記第1側面、前記第2側面、及び前記外周面の各々の一部と接触するように設けられている、請求項2に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項5】
前記フライホイールは、前記第2回転軸に沿った方向の一方を向いている第1側面と、前記第1側面とは反対方向を向いている第2側面と、前記第1側面及び前記第2側面の外周縁間を接続する外周面とを有し、
前記摩擦部材には、前記第1中心軸に対する周方向において環状に連なる環状溝が形成されており、
前記環状溝の内面は、前記第1回転軸が前記第2回転軸と平行に配置されたときに、前記フライホイールの前記第1側面、前記第2側面、及び前記外周面の各々の一部と接触するように設けられている、請求項1に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項6】
第1作業時において前記フライホイールを回転するために必要な第1トルクは、前記第1作業とは異なる第2作業時において前記フライホイールを回転するために必要な第2トルクよりも小さく、
前記電動装置は、前記第1トルクよりも大きく前記第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、前記第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能である、請求項1~5のいずれか1項に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項7】
前記電動装置は、充電式の電動工具である、請求項6に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項8】
前記フライホイールは、前記第2回転軸に沿った方向の一方を向いている第1側面と、前記第1側面とは反対方向を向いている第2側面とを有し、
前記摩擦部材は、前記第1側面と接触する第3摩擦面を有し、
前記第3摩擦面と対向しかつ前記第2側面と接触可能な第4摩擦面を有する第2摩擦部材と、
前記第2摩擦部材を前記電動装置及び前記摩擦部材に対して位置決めする位置決め部材とをさらに備え、
前記位置決め部材は、前記第3摩擦面が前記第1側面に接触しかつ前記第4摩擦面が前記第2側面に接触している第3状態を実現可能であり、
前記第2摩擦部材は、前記第3状態において、前記第1回転軸及び前記摩擦部材の回転に伴い従動回転可能である、請求項1に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項9】
前記位置決め部材は、前記第3状態と、前記第3摩擦面と前記第4摩擦面との間の距離が前記第3状態とは異なる第4状態とを切り替え可能である、請求項8に記載のエスカレータ微速運転装置。
【請求項10】
前記電動装置は、前記主電源が遮断されたときに前記ステップチェーンの走行を停止するための電磁ブレーキに給電して、前記電磁ブレーキを開放するように設けられている、請求項8に記載のエスカレータ微速運転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エスカレータ微速運転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータの保守作業では、関連機器に近接作業者が居る状況、あるいは関連機器の一部を分解した状況において、エスカレータを試運転する状況が発生する。このような試運転は、安全上、主電源を遮断した状態において手動で行われている。
【0003】
特開2017-95269号公報(特許文献1)は、欄干の踏段側下部に、取り外し可能に設置した内レッジと、内レッジ下方に位置する第1回転板及び第2回転板と、第1回転板の回転を第2回転板に伝動する回転伝動帯とを備えた乗客コンベアを開示している。この乗客コンベアでは、内レッジを取り外して第2回転板に手巻き用円板部材を取り付けて手巻き用円板部材を手動で回して踏段を走行させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
手動による上記試運転には、多大な労力が必要である。特に、ステップチェーンのユニットを交換する作業時には、ステップチェーンを1周走行させる必要があるため、労力及び作業時間が過大となる。
【0006】
また、試運転時には、必要に応じて、エスカレータのステップチェーンを即時停止させる必要がある。ステップチェーン及びステップチェーンに固定されている複数のステップからなる重量体を慣性に逆らって即時停止させることにも、多大な労力が必要となる。
【0007】
本開示の主たる目的は、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るエスカレータ微速運転装置は、エスカレータの主電源とは異なる電源により第1中心軸周りに回転駆動される第1回転軸を有する電動装置と、第1回転軸に取り付けられて、エスカレータのステップチェーンを主電源により回転駆動するための第2回転軸に取り付けられたフライホイールに押し当てられる摩擦部材とを備える。摩擦部材は、電動装置の駆動時及び駆動停止時のそれぞれにおいてフライホイールに押し当てられて、駆動時において電動装置から出力されたトルクをフライホイールに伝達し、かつ駆動停止時においてフライホイールに制動力を付与するように設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業の労力を大幅に低減できるエスカレータ微速運転装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態に係るエスカレータの概略側面図である。
【
図2】本実施の形態に係るエスカレータの駆動装置の概略側面図である。
【
図3】実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する方向から視た概略図である。
【
図4】実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸に沿った方向から視た概略図である。
【
図5】実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する第1方向から視た概略図である。
【
図6】実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置及びその使用状態を、エスカレータ微速運転装置の第1回転軸と直交する第2方向から視た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態を説明する。なお、同一の構成には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。また、図面は、本実施の形態に係るエスカレータ微速運転装置の構成要素とエスカレータの主要な構成要素との接続関係を示しており、各構成要素の物理的な空間における配置を必ずしも示すものではない。
【0012】
<エスカレータの構成>
図1に示されるように、エスカレータ1は、トラス2と、上側スプロケット3と、下側スプロケット4と、ステップチェーン5と、駆動装置6と、制御装置7と、複数のステップ8と、欄干9と、移動手摺10と、とを備える。
【0013】
トラス2は、上側スプロケット3、下側スプロケット4、ステップチェーン5、駆動装置6、及び制御装置7を収容する。上側スプロケット3は、トラス2のうち上階の部分に設置される。下側スプロケット4は、トラス2のうち下階の部分に設置される。ステップチェーン5は、上側スプロケット3と下側スプロケット4とに巻き掛けられている。駆動装置6は、エスカレータ1の主電源から供給された電力によりステップチェーン5を駆動する。ステップチェーン5が移動して、複数のステップ8は、上階と下階との間を循環走行する。
【0014】
トラス2の上方に、欄干9が設けられている。欄干9は、トラス2の長手方向に延在している。欄干9には、移動手摺10が設けられている。移動手摺10は、上階と下階との間を循環移動する。駆動装置6は、移動手摺10をさらに駆動してもよい。移動手摺10は、ステップ8と連動して移動する。
【0015】
図2に示されるように、駆動装置6は、駆動モータ11、減速機15、及びディスクブレーキ22を主に含む。
【0016】
駆動モータ11は、第2中心軸C2周りに回転可能な第2回転軸12を有する。第2回転軸12には、モータ側プーリ13及びフライホイール14が固定されている。駆動モータ11は、エスカレータ1の主電源から供給された電力により、第2回転軸12、モータ側プーリ13、及びフライホイール14を第2中心軸C2周りに回転駆動する。
【0017】
フライホイール14の外径は、モータ側プーリ13の外径よりも大きい。なお、フライホイール14は、第2回転軸12に着脱可能とされており、エスカレータ1の保守作業時にのみ第2回転軸12に固定されてもよい。フライホイール14は、第2回転軸12に沿った方向の一方を向いている第1側面14Aと、第1側面14Aとは反対方向を向いている第2側面14Bと、第1側面14A及び第2側面14Bの外周縁間を接続する外周面14Cとを有している。
【0018】
減速機15は、減速機入力軸16と、減速機出力軸17とを有する。減速機15は、減速機入力軸16から入力された動力の回転速度を減じて、減速機出力軸17から出力する。減速機入力軸16には、減速機プーリ18及びディスクブレーキ22が固定されている。減速機出力軸17には、駆動チェーンスプロケット19が固定されている。モータ側プーリ13と減速機プーリ18との間には、ベルト20が巻き掛けられている。駆動チェーンスプロケット19と上側スプロケット3との間には、駆動チェーン21(
図1参照)が巻き掛けられている。
【0019】
ディスクブレーキ22は、エスカレータ1の主ブレーキである。ディスクブレーキ22は、電磁力を利用して減速機入力軸16の回転運動を制動する電磁ブレーキである。ディスクブレーキ22の制動動作は、制御装置7によって制御される。ディスクブレーキ22には、ディスクブレーキ22を機械的に強制的に開放するためのブレーキ開放レバー23が設けられている。ブレーキ開放レバー23は、例えば作業者が足でこれを踏み込むことによりディスクブレーキ22を機械的に開放するように設けられている。
【0020】
エスカレータ1の保守作業時は、主電源を遮断し、駆動装置6及び制御装置7が通電されていない状態において行われる。
【0021】
以下では、本開示に係るエスカレータ微速運転装置を説明する。本開示に係るエスカレータ微速運転装置は、エスカレータ1の保守作業時に、ステップチェーン5を微側で走行させるとともに、必要に応じてステップチェーン5を即時停止させるために用いられる。
【0022】
実施の形態1.
<エスカレータ微速運転装置の構成>
図3に示されるように、実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置100は、電動装置110と、摩擦部材120とを備える。
【0023】
電動装置110は、エスカレータ1の主電源とは異なる電源により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸111を有する。電動装置110は、第1回転軸111が回転している状態と、第1回転軸111が回転停止している状態とを切り替えるためのスイッチ112をさらに有する。電動装置110は、ステップチェーン5及びそれに取り付けられているステップ8等を含むユニット(以下、ステップチェーンンユニットと記載する)を走行させるために必要なトルク以上のトルクを出力可能である。
【0024】
好ましくは、電動装置110は、出力するトルクを可変である。電動装置110は、例えば出力するトルクを段階的に変更可能である。この場合、電動装置110は、ステップチェーンンユニットを走行させるために必要なトルクよりも1段階大きなトルクを出力可能であることが好ましい。
【0025】
保守作業では、その作業によって、ステップチェーンンユニット重量が異なる。そのため、保守作業時において、ステップチェーンユニットを走行させるために必要なトルク、すなわちフライホイールを回転するために必要なトルクは、その作業に応じて異なる。例えば、第1作業時においてフライホイールを回転するために必要な第1トルクは、第1作業とは異なる第2作業時においてフライホイールを回転するために必要な第2トルクよりも小さい。この場合、電動装置110は、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能であることが好ましい。
【0026】
電動装置110は、手持ち式の電動装置である。好ましくは、電動装置110は、充電式の電動工具である。電動装置110は、電動工具の市販品として準備されてもよい。
【0027】
摩擦部材120は、第1回転軸111に取り付けられ、電動装置110の駆動時及び駆動停止時のそれぞれにおいて上記フライホイール14に押し当てられる。摩擦部材120は、電動装置110の駆動時に電動装置110から出力されたトルクをフライホイール14に伝達し、かつ電動装置110の駆動停止時にフライホイール14に制動力を付与するように設けられている。摩擦部材120は、例えば弾性部材である。
【0028】
摩擦部材120は、フライホイール14の第1側面14A、第2側面14B、及び外周面14Cの少なくともいずれかと摩擦する摩擦面を有している。摩擦部材120の上記摩擦面は、例えば第1中心軸C1に直交する任意の断面において円形状である。摩擦部材120は、第1中心軸C1に対する外径が相対的に短い第1摩擦面121と、第1中心軸C1に対する外径が第1摩擦面121よりも長い第2摩擦面122とを有している。第1摩擦面121は、例えば第2摩擦面122よりも第1回転軸111の先端側に配置されている。
【0029】
第1摩擦面121及び第2摩擦面122の少なくともいずれかは、外径が第1回転軸111の一端から他端に向かうにつれて徐々に変化するように、傾斜している。例えば、第1摩擦面121及び第2摩擦面122の各々は、それぞれの外径が第1回転軸111の先端から離れるにつれて徐々に長くなるように、傾斜している。第1摩擦面121及び第2摩擦面122の各々は、例えば円錐面である。第1摩擦面121及び第2摩擦面122の各々は、例えば1つの円錐面の一部分である。
【0030】
好ましくは、摩擦部材120の第1摩擦面121と第2摩擦面122との間には、第1中心軸C1に対する周方向において環状に連なる環状溝123が形成されている。環状溝123の内面も、上記摩擦面として設けられている。環状溝123の内面は、第1回転軸111が駆動装置6の第2回転軸12と平行に配置されたときに、フライホイール14の第1側面14A、第2側面14B、及び外周面14Cの各々の一部と接触するように設けられている。環状溝123のうち互いに対向する1対の壁面は、フライホイール14の第1側面14A及び第2側面14Bの各々の外周縁部と接触する。環状溝123の底面は、フライホイール14の外周面14Cと接触する。好ましくは、環状溝123は、環状溝123の内面は、第1回転軸111が駆動装置6の第2回転軸12と平行に配置されたときに、フライホイール14の外周縁部と隙間無く嵌め合うように設けられている。
【0031】
<エスカレータ微速運転装置の使用方法>
エスカレータ1の保守作業時には、エスカレータ1の主電源が遮断されている。この状態において、フライホイール14を回転させることにより、第2回転軸12及びモータ側プーリ13も回転する。これにより、フライホイール14に入力したトルクは、モータ側プーリ13、ベルト20、減速機入力軸16、減速機出力軸17、駆動チェーンスプロケット19、駆動チェーン21、及び上側スプロケット3を介して、ステップチェーン5に伝達される。
【0032】
上述のように、エスカレータ微速運転装置100は、エスカレータ1の保守作業時に、ステップチェーン5に伝達されるべきトルクをフライホイール14に入力するとともに、必要に応じてステップチェーン5を即時停止させるために用いられる。
【0033】
以下では、エスカレータ微速運転装置100の使用方法の一例を説明する。
図3及び
図4に示されるように、作業者は、第1回転軸111が駆動装置6の駆動モータ11の第2回転軸12と平行となり、かつ摩擦部材120の摩擦面がフライホイール14の表面に接触するように、エスカレータ微速運転装置100を配置する。さらに作業員は、ブレーキ開放レバー23を足で踏み込むことにより、ディスクブレーキ22を機械的に開放する。その後、作業者は、電動装置110のスイッチ113をONにして、フライホイール14にトルクを入力する。これにより、ステップチェーンユニットは微速にて走行する。ステップチェーンユニットが必要な距離を移動した後、あるいは、ステップチェーン5を即時停止させる必要が生じた場合、作業者は摩擦部材120の摩擦面がフライホイール14の表面に接触した状態を保持したまま、電動装置110のスイッチ113をOFFにする。これにより、摩擦部材120とフライホイール14との間に生じる摩擦力によってフライホイール14が慣性により回転し続けることを防ぎ、ステップチェーンユニットは即時停止する。作業者は、保守作業の終了後、エスカレータ微速運転装置100を回収する。
【0034】
エスカレータ微速運転装置100では、摩擦部材120の摩擦面とフライホイール14の表面との接触状態が、フライホイールを回転するために必要なトルクの大きさに応じて、変更可能である。
【0035】
フライホイール14を回転するために必要な第1トルクが第2作業時必要とされる第2トルクよりも小さい上記第1作業では、電動装置110が上記第1状態とされるとともに、摩擦部材120の第1摩擦面121がフライホイール14の外周面14Cと接触した状態とされることが好ましい。
【0036】
上記第1作業において、ステップチェーンユニットの移動速度をさらに低速にする必要がある場合には、電動装置110が上記第1状態とされるとともに、摩擦部材120の第2摩擦面122がフライホイール14の外周面14Cと接触した状態とされることが好ましい。
【0037】
上記第2作業では、電動装置110が上記第2状態とされるとともに、
図3及び
図4に示されるように、摩擦部材120の環状溝123がフライホイール14の外周縁部と嵌め合わされている状態とされることが好ましい。
【0038】
<変形例>
摩擦部材120の摩擦面の形状は、エスカレータ1の保守作業において必要とされるトルクの数及び各トルクの大きさに応じて、適宜変更され得る。例えば、比較的大きな複数のトルクが必要とされる場合、第1中心軸C1に対する底面の距離が互いに異なる複数の環状溝123が、第1中心軸C1に沿った方向において互いに間隔を空けて設けられていてもよい。
【0039】
第1摩擦面121及び第2摩擦面122の各々は、例えば互いに異なる円錐面の一部として設けられていてもよい。言い換えると、第1中心軸C1を通る断面において、第1中心軸C1に対する第1摩擦面121の傾斜角は、第1中心軸C1に対する第2摩擦面122の傾斜角とは異なっていてもよい。第1中心軸C1に対する第1摩擦面121の上記傾斜角は、第1中心軸C1に対する第2摩擦面122の上記傾斜角よりも小さくてもよい。
【0040】
また、環状溝123は、第1中心軸C1に沿った方向において、第2摩擦面122に対して第1摩擦面121とは反対側に配置されていてもよい。
【0041】
<効果>
エスカレータ微速運転装置100は、電動装置110と摩擦部材120とを備え、摩擦部材120は、電動装置110の駆動時には電動装置110から出力されたトルクをフライホイール14に伝達し、かつ電動装置110の駆動停止時にはフライホイール14に制動力を付与するように設けられている。そのため、エスカレータ微速運転装置100によれば、主電源を遮断した状態で行われるエレベータの保守作業において手動にてフライホイールを回転させる場合と比べて、保守作業の労力を大幅に低減できる。
【0042】
特に、ステップチェーン5のユニットの交換作業を従来のように手動で行う場合には、複数の作業者が交代でフライホイールを回転させる必要があった。本発明者らは、エスカレータ微速運転装置100を用いてステップチェーンユニットを1周走行させる試験を行った。その結果、エスカレータ微速運転装置100を用いることにより、一人の作業者が、ステップチェーンユニットを1周スムーズに走行させることができた。
【0043】
また、エスカレータ微速運転装置100は、比較的簡便な構造を有しており、駆動装置6がフライホイール14を備える既設のエスカレータ1の保守作業に容易に用いられ得る。そのため、エスカレータ微速運転装置100によれば、設備投資及びランニングコストが抑制され得る。
【0044】
さらにエスカレータ微速運転装置100では、電動装置110として充電式の電動工具が採用され得る。この場合、エスカレータ微速運転装置100は、保守作業に用いられる電動工具に、第1回転軸111と摩擦部材120との一体物をその先端工具として取りつけることにより、容易に準備され得る。さらに、上記使用後には、第1回転軸111と摩擦部材120との一体物を、電動ドライバ等の他の先端工具に取り換えることにより、電動装置110を他の保守作業に流用できる。このようなエスカレータ微速運転装置100では、設備投資及びランニングコストがさらに抑制され得る。
【0045】
摩擦部材120は、第1中心軸C1に対する外径が相対的に短い第1摩擦面121と、第1中心軸C1に対する外径が第1摩擦面121よりも長い第2摩擦面122とを有している。このようなエスカレータ微速運転装置100によれば、フライホイール14に押し当てる摩擦面として第1摩擦面121又は第2摩擦面122を選択することにより、フライホイール14の回転速度を容易に調整できる。
【0046】
好ましくは、電動装置110は、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能である。1つのエスカレータ微速運転装置100は、第1トルクが必要とされる第1作業時にも、第2トルクが必要とされる第2作業時にも、対応可能である。
【0047】
実施の形態2.
実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置は、特に説明しない限り、実施の形態1に係るエスカレータ微速運転装置と同一の構成を有し、同一の効果を奏する。
【0048】
図5及び
図6に示されるように、実施の形態2に係るエスカレータ微速運転装置200は、電動装置210と、摩擦部材220と、第2摩擦部材230と、位置決め部材240とを備える。
【0049】
電動装置210は、エスカレータ1の主電源とは異なる電源により第1中心軸C1周りに回転駆動される第1回転軸211を有する。電動装置210は、第1回転軸211が回転している状態と、第1回転軸211が回転停止している状態とを切り替えるためのスイッチ212をさらに有する。電動装置210は、ステップチェーンンユニット走行させるために必要なトルク以上のトルクを出力可能である。電動装置210は、手持ち式ではなく、据付式の電動装置である。電動装置210は、位置決め部材240によって、エスカレータ1のトラス2の壁面等に着脱可能に固定される。
【0050】
好ましくは、電動装置210は、出力するトルクを可変である。電動装置210は、例えば出力するトルクを段階的に変更可能である。この場合、電動装置210は、ステップチェーンンユニットを走行させるために必要なトルクよりも1段階大きなトルクを出力可能であることが好ましい。
【0051】
電動装置210も、第1トルクよりも大きく第2トルクよりも小さい第3トルクを出力可能な第1状態と、第2トルクよりも大きい第4トルクを出力可能である第2状態とを切り替え可能であることが好ましい。電動装置210は、充電式の電動工具であってもよい。
【0052】
摩擦部材220は、フライホイール14の第1側面14Aと摩擦する第3摩擦面221を有している。第3摩擦面221は、例えば第1中心軸C1に直交する任意の断面において円形状である。第3摩擦面221は、例えば円柱面である。
【0053】
第2摩擦部材230は、第3摩擦面221と対向しかつフライホイール14の第2側面14Bと接触可能な第4摩擦面231を有する。第4摩擦面231は、例えば第1中心軸C1に直交する任意の断面において円形状である。第4摩擦面231は、例えば円柱面である。第2摩擦部材230は、例えば第3回転軸232に固定されている。
【0054】
位置決め部材240は、第2摩擦部材230を電動装置210及び摩擦部材220に対して位置決めする。位置決め部材240は、第3摩擦面221が第1側面14Aに接触しかつ第3摩擦面221が第1側面14Aに接触している第3状態を実現可能である。第3状態では、摩擦部材220及び第2摩擦部材230が第2中心軸C2に沿った方向においてフライホイール14を挟み込んでいる。摩擦部材220及び第2摩擦部材230の各々は、上記第3状態において、上記フライホイール14に押し当てられる。
【0055】
位置決め部材240は、例えば電動装置210を収容する第1収容部241と、第3回転軸232を収容する第2収容部242とを有する。第1収容部241及び第2収容部242の各々は、例えば貫通孔として構成されている。電動装置210は、第1収容部241に嵌め合わされて固定されている。第3回転軸232は、第2収容部242に挿通されている状態において、固定部材233により位置決め部材240の第2収容部242に対して位置決めされている。例えば第3回転軸232にはネジ山が設けられており、ナットなどの固定部材233が当該ネジ山に緊締される。
【0056】
位置決め部材240は、エスカレータ微速運転装置200をトラス2の壁面に着脱可能に固定するための固定部材243をさらに有する。固定部材243は、任意の構造を有していればよいが、例えばトラス2のL字状のアングル2Aを挟み込むように設けられている。固定部材243は、例えば、アングル2Aの一方の面に接触する接触部と、接触部に接続されておりかつアングル2Aの他方の面と対向しかつネジ孔が形成されている対向部と、対向部のネジ孔と螺合してアングル2Aの他方の面を押圧する先端部を有するボルトとを含む。
【0057】
摩擦部材220は、上記第3状態において、電動装置210の駆動時に電動装置210から出力されたトルクをフライホイール14に伝達し、かつ電動装置210の駆動停止時にフライホイール14に制動力を付与するように設けられている。第2摩擦部材230は、第3状態において、摩擦部材220の回転に伴い従動回転するように設けられている。摩擦部材220及び第2摩擦部材230の各々は、例えば弾性部材である。
【0058】
好ましくは、位置決め部材240は、上記第3状態と、第3摩擦面221と第4摩擦面231との間の距離が上記第3状態とは異なる第4状態とを切り替え可能である。第2中心軸C2に沿った方向において、第2収容部242の開口幅W(
図5参照)は、第3回転軸232の幅(外径)よりも広い。第3回転軸232は、第2収容部242内を第2中心軸C2に沿った方向に移動可能である。固定部材233は、第2中心軸C2に沿った方向において第2収容部242内の任意の位置に配置されている第3回転軸232を、第2収容部242に固定可能である。これにより、エスカレータ微速運転装置200では、摩擦部材220と第2摩擦部材230とによりフライホイール14を挟み込む圧力を調整可能である。つまり、エスカレータ微速運転装置200によれば、フライホイール14の厚みが異なる複数種のエスカレータ1の各保守作業において、フライホイール14に適切な圧力を付与できる。
【0059】
電動装置210は、ディスクブレーキ22に給電して、ディスクブレーキ22を開放するように設けられていてもよい。この場合、作業者は、ブレーキ開放レバー23を機械的に操作することなく、エスカレータ微速運転装置200のスイッチ212をONにすることのみにより、ディスクブレーキ22を開放し、かつステップチェーンユニットを微速で走行させることが可能となる。
【0060】
今回開示された実施の形態及びその変形例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 エスカレータ、2 トラス、2A アングル、3 上側スプロケット、4 下側スプロケット、5 ステップチェーン、6 駆動装置、7 制御装置、8 ステップ、9 欄干、10 移動手摺、11 駆動モータ、12 第2回転軸、13 モータ側プーリ、14 フライホイール、14A 第1側面、14B 第2側面、14C 外周面、15 減速機、16 減速機入力軸、17 減速機出力軸、18 減速機プーリ、19 駆動チェーンスプロケット、20 ベルト、21 駆動チェーン、22 ディスクブレーキ、23 ブレーキ開放レバー、100,200 エスカレータ微速運転装置、110,210 電動装置、111,211 第1回転軸、112,113,212 スイッチ、120,220 摩擦部材、121 第1摩擦面、122 第2摩擦面、123 環状溝、221 第3摩擦面、230 第2摩擦部材、231 第4摩擦面、232 第3回転軸、233,243 固定部材、240 位置決め部材、241 第1収容部。242 第2収容部。