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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003392
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】活性炭の処理方法および蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/372 20170101AFI20241226BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20241226BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20241226BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20241226BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C01B32/372
H01G11/86
H01G11/24
H01M12/08 K
H01M12/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099439
(22)【出願日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023102180
(32)【優先日】2023-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和6年2月29日にウェブサイトにおいて学会の予稿集を掲載、令和6年3月14日に電気化学会第91回大会にて学会発表
(71)【出願人】
【識別番号】000244176
【氏名又は名称】明智セラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090239
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 始
(74)【代理人】
【識別番号】100100859
【弁理士】
【氏名又は名称】有賀 昌也
(72)【発明者】
【氏名】恩田 潔
【テーマコード(参考)】
4G146
5E078
5H032
【Fターム(参考)】
4G146AA06
4G146AB01
4G146AD23
4G146BA27
4G146BC08
4G146BC32A
4G146BC33A
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146CB11
4G146CB23
4G146CB33
5E078AA15
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA21
5E078BA31
5E078BB09
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS12
5H032BB02
5H032HH06
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、活性炭の吸着能力を抑制してガス発生を低減できる活性炭の処理方法、およびその活性炭の処理方法にて処理された活性炭を電極として使用した蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】本発明の活性炭の処理方法は、活性炭1と加熱により気相状炭素を発生する炭素源2を同時に熱処理して、熱分解された炭素源2を活性炭1の表面に吸着させて付着させる活性炭の処理方法である。また、本発明の蓄電デバイス10は、活性炭の処理方法にて処理された活性炭1を電極として使用した蓄電デバイスである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭と加熱により気相状炭素を発生する炭素源を同時に熱処理して、熱分解された前記炭素源を前記活性炭の表面に吸着させ付着させることを特徴とする活性炭の処理方法。
【請求項2】
前記活性炭の処理方法によって得られた前記活性炭は、処理前の前記活性炭と同じ細孔プロファイルを有している請求項1に記載の活性炭の処理方法。
【請求項3】
前記炭素源は、熱分解された前記炭素源が前記活性炭の表面に付着すると、前記活性炭が低抵抗化する請求項1または2に記載の活性炭の処理方法。
【請求項4】
前記炭素源は生コークスである請求項1に記載の活性炭の処理方法。
【請求項5】
前記熱処理の温度は、450~1200℃である請求項1に記載の活性炭の処理方法。
【請求項6】
前記熱処理の温度は、800~1100℃である請求項1に記載の活性炭の処理方法。
【請求項7】
活性炭の表面に加熱により気相状炭素を発生する炭素源が付着した前記活性炭を電極として使用したことを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項8】
前記炭素源は、生コークスである請求項7に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記活性炭は、前記炭素源と同時に熱処理することで熱分解された前記炭素源が前記活性炭の表面に吸着され付着されており、処理前の前記活性炭と同じ細孔プロファイルを有すると共に低抵抗化している請求項7または8に記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記蓄電デバイスは、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタまたは空気電池である請求項7に記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記蓄電デバイスは電気二重層キャパシタであって、前記活性炭の表面に加熱により気相状炭素を発生する前記炭素源を付着処理した前記活性炭を電極として使用した前記電気二重層キャパシタは、処理前の前記活性炭を電極として使用した電気二重層キャパシタに比して、低温でも内部抵抗が低く電流密度に対する容量値変化が少ない請求項7に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性炭の処理方法およびその活性炭の処理方法にて処理された活性炭を電極として使用した蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から活性炭は比表面積が大きく、電気二重層キャパシタの正極や負極またはリチウムイオンキャパシタの正極などに使用されている(例えば特開2022-55902号公報)。
【0003】
しかし、活性炭は比表面積が大きいことに加えて表面吸着能が高いため、吸着したガスが動作中に発生するなどの問題がある。また、蓄電デバイスの電極では低抵抗であることが重要な要素であるが、活性炭はアモルファスカーボンであるため、カーボン材料の中では電気抵抗が高いことが懸案となっており、電極として使用するためには導電助剤を使用するのが必須となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-55902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、活性炭の吸着能力を抑制してガス発生を低減できる活性炭の処理方法、及びその活性炭の処理方法にて処理された活性炭を電極として使用した蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するものは、活性炭と加熱により気相状炭素を発生する炭素源を同時に熱処理して、熱分解された前記炭素源を前記活性炭の表面に吸着させ付着させることを特徴とする活性炭の処理方法である(請求項1)。
【0007】
前記活性炭の処理方法によって得られた前記活性炭は、処理前の前記活性炭と同じ細孔プロファイルを有していることが好ましい(請求項2)。前記炭素源は、熱分解された前記炭素源が前記活性炭の表面に付着すると、前記活性炭が低抵抗化することが好ましい(請求項3)。
【0008】
前記炭素源は生コークスであることが好ましい(請求項4)。前記熱処理の温度は、450~1200℃であることが好ましい(請求項5)。また、前記熱処理の温度は、800℃から1100℃であることがより望ましい(請求項6)。
【0009】
また、上記課題を解決するものは、活性炭の表面に加熱により気相状炭素を発生する炭素源が付着した前記活性炭を電極として使用したことを特徴とする蓄電デバイスである(請求項7)。
【0010】
前記炭素源は、生コークスであることが好ましい(請求項8)。前記活性炭は、前記炭素源と同時に熱処理することで熱分解された炭素源が前記活性炭の表面に吸着され付着されており、処理前の前記活性炭と同じ細孔プロファイルを有すると共に低抵抗化していることが好ましい(請求項9)。前記蓄電デバイスは、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタまたは空気電池であることが好ましい(請求項10)。前記蓄電デバイスは電気二重層キャパシタであって、前記活性炭の表面に加熱により気相状炭素を発生する炭素源を付着処理する前の未処理の活性炭を電極として使用した蓄電デバイスに比して、低温でも内部抵抗が低く電流密度に対する容量値変化が少ない請求項7に記載の蓄電デバイス(請求項11)。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載した活性炭の処理方法によれば、活性炭の吸着能力を抑制してガス発生を低減できる。
請求項2に記載した活性炭の処理方法によれば、コーティングによる比表面積の減少を抑制することができる。
請求項3に記載した活性炭の処理方法によれば、電流密度が増加しても、また導電助剤を特に使用しなくても、充電側でも放電側でもIRドロップが小さく、良好な充放電曲線を示し容量も維持できる蓄電デバイスの電極を作製できる。
請求項4に記載した活性炭の処理方法によれば、上記請求項1の効果を有する活性炭をより容易に作製することができる。
請求項5に記載した活性炭の処理方法によれば、上記請求項1の効果を有する活性炭をより確実に作製することができる。
請求項6に記載した活性炭の処理方法によれば、上記請求項1の効果に加え、活性炭の表面に低抵抗膜をより確実に生成できる。
請求項7に記載した蓄電デバイスによれば、吸着能力を抑制した電極を使用した高性能な蓄電デバイスが構成される。
請求項8に記載した蓄電デバイスによれば、上記請求項7の効果を有する蓄電デバイスが容易に作製される。
請求項9に記載した蓄電デバイスによれば、上記請求項7の効果に加え、電流密度が増加しても、また導電助剤を特に使用しなくても、充電側でも放電側でもIRドロップが小さく、良好な充放電曲線を示し容量も維持できる蓄電デバイスが作製される。
請求項10に記載した蓄電デバイスによれば、吸着能力を抑制した活性炭を電極に使用した、より高性能な電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタまたは空気電池が構成される。
請求項11に記載した蓄電デバイスによれば、処理前の前記活性炭を電極として使用した電気二重層キャパシタに比して、低温でも内部抵抗が低くなり、電流密度に対する容量値変化が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の活性炭の処理方法の一実施例を説明するための説明図である。
図2図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験1の結果を対比した表である。
図3図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験の結果(BJH法による細孔分布解析結果)を対比したグラフである。
図4図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験1の結果(HK法によるミクロポア解析結果)を対比したグラフである。
図5図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験2の方法を説明するための説明図である。
図6図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験2の結果を対比した表である。
図7図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験2の結果(試験力)を対比したグラフである。
図8図1に示した活性炭の処理方法にて得られた低抵抗活性炭(パイロコート)と比較例の活性炭(未処理)の評価試験2の結果(抵抗値)を対比したグラフである。
図9】本発明の蓄電デバイスの一実施例を説明するための模式図である。
図10】蓄電デバイスの比較例1(未処理:導電助剤なし)の充放電特性を示したグラフである。
図11】本発明の蓄電デバイスの実施例1(低抵抗活性炭:導電助剤なし)の充放電特性を示したグラフである。
図12】蓄電デバイスの比較例2(未処理活性炭:導電助剤添加)と本発明の蓄電デバイスの実施例2(低抵抗活性炭:導電助剤添加)を容量測定した結果をそれぞれ示した表である。
図13】本発明の蓄電デバイスの実施例3(低抵抗活性炭:導電助剤添加)の充放電曲線を示したグラフである。
図14】本発明の蓄電デバイスの実施例3(低抵抗活性炭:導電助剤添加)の充放電曲線を示したグラフである。
図15】蓄電デバイスの比較例2,3(未処理活性炭:導電助剤添加)と本発明の蓄電デバイスの実施例2,3(低抵抗活性炭:導電助剤添加)の容量維持率を対比したグラフである。
図16】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)の充放電曲線(室温25℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける充放電曲線)を示したグラフである。
図17】本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)の充放電曲線(室温25℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける充放電曲線)を示したグラフである。
図18】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)と本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)について、室温25℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける容量を測定した結果をそれぞれ示した表である。
図19】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)と本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)について、室温25℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける内部抵抗を測定した結果をそれぞれ示した表である。
図20】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)の充放電曲線(-40℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける充放電曲線)を示したグラフである。
図21】本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)の充放電曲線(-40℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける充放電曲線)を示したグラフである。
図22】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)と本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)について、-40℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける容量を測定した結果をそれぞれ示した表である。
図23】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)と本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)について、-40℃で電流密度80mA/gと500mA/gにおける内部抵抗を測定した結果をそれぞれ示した表である。
図24】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)のインピーダンスを室温25℃と-40℃で測定した結果を示したグラフである。
図25】本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)のインピーダンスを室温25℃と-40℃で測定した結果を示したグラフである。
図26】蓄電デバイスの比較例4(未処理活性炭を電極として使用したもの)の室温25℃と-40℃におけるインピーダンスを示した表である。
図27】本発明の蓄電デバイスの実施例4(低抵抗活性炭を電極として使用したもの)の室温25℃と-40℃におけるインピーダンスを示した表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、活性炭と加熱により気相状炭素を発生する炭素源とを同時に熱処理して、熱分解された炭素を活性炭の表面に吸着させて付着させることで、活性炭の吸着能力を抑制してガス発生を低減できる活性炭の処理方法、およその活性炭の処理方法にて処理された活性炭を電極として使用した蓄電デバイスを実現した。
【実施例0014】
本発明の活性炭の処理方法を図1に示した一実施例を用いて説明する。
この実施例の活性炭の処理方法は、活性炭1と加熱により気相状炭素を発生する炭素源2とを同時に熱処理して、熱分解された炭素源2を活性炭1の表面に吸着させ付着させることを特徴とする活性炭の処理方法である。以下、その処理方法について詳述する。
【0015】
この実施例の活性炭の処理方法では、図1に示すように、容器3内において、活性炭1とその下方に加熱により気相状炭素を発生する炭素源2を配置し、蓋4をして熱処理した。
【0016】
活性炭1と炭素源2の比率は1:10としたが、これに限定されるものではなく適宜変更可能である。
【0017】
加熱により気相状炭素を発生する炭素源2としては、生コークスを使用した。ただし、本発明における加熱により気相状炭素を発生する炭素源2は、生コークスに限定されるものではなく、加熱により気相状炭素を発生する炭素源を広く包含する。
【0018】
熱処理の温度としては、450~1200℃であることが好ましい。450℃未満であると、炭素源2から吸着させたい気相状炭素が発生しないためであり、1200℃を超えると、活性炭1が変質して比表面積が大きく減少してしまうためである。また、熱処理の温度は、800℃から1100℃であることがより望ましい。800℃未満であると、活性炭表面に生成した膜の抵抗が低くならないためであり、1100℃を超えると、生成した膜が活性炭内部に拡散して表面の低抵抗膜が失われるためである。
【0019】
具体的には、図1に示した実施例では、活性炭1として平均粒径35μmの粉末の活性炭素(富士フィルム和光純薬社製)を使用し、熱処理条件としては、1000℃×2hrを窒素雰囲気下で行った。昇温速度は100℃/hrとし、熱処理終了後、活性炭1と炭素源2をふるい分けしてコーティングされた低抵抗活性炭(処理済活性炭)を得た。
【0020】
(評価試験1)
低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)の評価を、比較例(未処理)と低抵抗活性炭(パイロコート)について、BET比表面積、真密度、全官能基量およびラマン分光のR値を測定し対比することで行った。
【0021】
BET比表面積は、活性炭1が吸着した窒素量から比表面積を測定する多検体高性能比表面積/細孔分布測定装置(3Flex:Micrometrics社製)にて測定した。真密度は乾式法による真密度計(アキュピックII 1345:島津製作所社製)にて測定した。全表面官能基量は、0.1mol/lの水酸化ナトリウム溶液と反応させたのち、0.1mol/lのHCl溶液で滴定したBoehm法によって測定した。結晶性はラマン分光測定(inVia:レニショー社製)にて評価した。
【0022】
評価試験1の結果を図2に示した。ラマン分光のR値は、以下の式で計算した。
【0023】
【数1】
【0024】
(考察)
低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)は、熱分解コーティング処理により比表面積は約2/3に減少するが、真密度は約17パーセント増加した。表面官能基量は重量当たりで約1/3となり、比表面積当たりでは約1/2となったことから、活性炭の吸着能が抑制されていることが確認された。ラマン分光のR値は上昇し、アモルファスのものが表面に堆積したと考えられる。これらのことから、熱分解コーティング処理によるコーティング層は、活性炭粒子の表面に形成されていると推定される。
【0025】
また、図3または図4に示すように、窒素吸着で求めた細孔分布量は減少するもののプロファイルが同様な形状を示し、元の細孔構造が維持されている(低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)は処理前の活性炭(比較例(未処理))と同じ細孔プロファイルを有する)ことが確認された。なお、図3はBJH法による細孔分布解析結果であり、図4はHK法によるミクロポア解析結果である。
【0026】
(評価試験2)
低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)の評価を、比較例(未処理)と低抵抗活性炭(パイロコート)について、微小圧縮試験によってそれぞれ粉末抵抗を測定し対比することで行った。
【0027】
この実施例の微小圧縮試験では、図5に示すような微小圧縮試験機(島津製作所製MCT-510)を用いて、比較例(未処理)と低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)についてそれぞれ粉末1粒子の圧縮挙動と同時に抵抗値を測定した。具体的には、粉末1粒子を圧縮しながら圧縮荷重を測定し、同時に金属製の圧子6,7間における抵抗を測定した。試験条件は、比較例(未処理)では試験力のレンジが20mN、負荷速度(圧縮速度)が0.446mN/sec、低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)では試験力のレンジが100mN、負荷速度(圧縮速度)が1.937mN/secとした。
【0028】
(評価試験2及び結果)
評価試験2の結果を図6に示した。なお、接触抵抗に近くなることから、それぞれ粒子が1%変形した時点での試験力及び抵抗値を示すと共に、図7に試験力の対比グラフ、図8に抵抗値の対比グラフを示した。試験力とは粉末が1%圧縮された時の圧縮荷重であり抵抗値はその時の抵抗値である。
【0029】
(考察)
低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)は、比較例(未処理)の活性炭に比して、抵抗値が比較例(未処理)の活性炭の0.00024倍(0.024%)に減少し、著しく低抵抗化(3桁ほど低下)したことが確認された。低抵抗活性炭(処理済活性炭:パイロコート)の表面に、加熱により気相状炭素を発生する炭素源が付着(熱分解コーティング)したことで著しく低抵抗化させたものと推測される。
【0030】
つぎに、本発明の蓄電デバイスを図9に示した一実施例を用いて説明する。
この実施例の蓄電デバイス10は、活性炭1の表面に加熱により気相状炭素を発生する炭素源(炭素)が付着した低抵抗活性炭を電極(正極11および負極12)として使用した蓄電デバイスである。以下、各構成について詳述する。
【0031】
この実施例の蓄電デバイス10は電気二重層キャパシタ(EDLC)であるが、本発明の蓄電デバイスは電気二重層キャパシタに限定されるものではなく、活性炭を電極として使用する蓄電デバイスを広く包含し、例えばリチウムイオンキャパシタ(LIC)または空気電池などであってもよく、それらの場合は、低抵抗活性炭が正極に使用される。
【0032】
また、この実施例の蓄電デバイス10は、コイン型の電気二重層キャパシタであるが、これに限定されるものではなく、例えばパウチ型または円筒型などであってもよい。
【0033】
低抵抗活性炭は、前述した本発明の活性炭の処理方法にて処理されたもので、炭素源2が活性炭1の表面に熱分解コーティング(被覆)されたものである。すなわち、低抵抗活性炭は、炭素源2が活性炭1と同時に熱処理されることで活性炭1の表面に吸着されて付着されたものであり、炭素源2としては生コークスが使用されている。
【0034】
具体的には、この実施例の蓄電デバイス10の電極(正極11および負極12)は、低抵抗活性炭と導電助剤とを、バインダー溶液(PVDFのNMP溶液)を種々の配合で混合し、Al箔の集電体14を塗布し120℃で12時間真空乾燥して電極を作製した。
【0035】
上記電極(正極11および負極12)として対向させ、セパレータとしてセルロースを使用し、電解液13として1MのTEMA・BF4(トリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)のPC溶液を使用した。コインセルの組み立てはAr雰囲気のグローブボックス中で行いコイン型の蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)10を作製した。
【0036】
(評価試験3及び結果)
蓄電デバイス(電気二重層キャパシタ)10の評価を、充放電評価装置(HJ1001SD8:北斗電工社製)を用いて室温25℃で行った。充放電試験は最初に80mA/gの電流密度で50サイクル充放電を行い、その後に12.5mA/g~1000mA/gの電流密度で5サイクル充放電した充放電特性を評価した。
【0037】
活性炭とバインダーの比は重量比で9:1とし、導電助剤を使用しない場合の電流密度25mA/gにおける充放電曲線を図10図11に示した。図10は活性炭が未処理のもの(比較例1)図11はパイロコートした低抵抗活性炭のもの(実施例1)である。
【0038】
活性炭が未処理の場合は、図10に示すように、導電助剤を使用しないと充電から放電に移り変わる際の電圧降下が大きく、波形がなまってしまい十分な充放電特性が得られなかった。他方、パイロコート処理を行った低抵抗活性炭を使用したもの(実施例1)は、図11に示すように通常と同様の充放電曲線が得られた。
【0039】
(評価試験4及び結果)
つぎに、導電助剤を添加した場合の各電流密度における重量当たりの容量の結果を図12に示した。この時の活性炭と導電助剤とバインダーの比は80:5:15とした。
【0040】
活性炭が未処理のもの(比較例2)はオーバーシュートが発生したため電流密度が100mA/gまでしか充放電曲線が得られなかったが、パイロコート処理を行った低抵抗活性炭を使用したもの(実施例2)は、電流密度が1000mA/gまで充放電曲線が得られた。
【0041】
(評価試験5及び結果)
さらに、コート処理を行った低抵抗活性炭を使用したものの導電助剤の比率を変更し、低抵抗活性炭:導電助剤:バインダーの比率を89:1:10とした(実施例3)。この実施例3の電流密度25mA/gと電流密度1000mA/gにおける充放電曲線をそれぞれ図13または図14に示した。図13図14に示すように、電流密度25mA/gでも電流密度1000mA/gでも良好な充放電曲線を示し、容量も9割以上保っていることが確認された。
【0042】
(評価試験6及び結果)
電流密度12.5mA/gの値を100とした容量維持率を図15に示した。ここでは、活性炭が未処理のものと、パイロコート処理を行った低抵抗活性炭を使用したものの配合(活性炭:導電助剤:バインダーの比率)がそれぞれ80:5:15(比較例2,実施例2)のものと、89:1:10(比較例3,実施例3)のものとの計4種類について示した。パイロコート処理を行った低抵抗活性炭を使用したもの(実施例2,実施例3)は、いずれも電流密度が増加しても容量が維持されており性能が保たれていることが確認された。
【0043】
(評価試験7及び結果)
活性炭が未処理のものと、パイロコート処理を行った低抵抗活性炭を使用し、電極の配合(活性炭:導電助剤:バインダーの比率)がそれぞれ80:10:10(CMCを4、SBRを6)である比較例4と実施例4を、Al箔を集電体として120℃で12時間真空乾燥して作製した。上記電極を対向させ、セパレータとしてセルロースを使用し、電解液として1MのTEMA・BF4(トリエチルメチルアンモニウム・テトラフルオロボラート)のPC溶液を用いて比較例4と実施例4のコインセルを作製した。コインセルの組み立てはAr雰囲気のグローブボックス中で行った。
これら比較例4と実施例4コインセルの評価を、充放電評価装置(HZ-Pro:明電北斗社製)を用いて、まず、室温25℃で行った。この充放電試験は最初に80mA/gの電流密度で50サイクル充放電を行い、その後に80mA/gと500mA/gの電流密度で5サイクル充放電した充放電特性を評価し、5サイクル目のものを結果として用いた。
その結果、比較例4に関しては、図16に示した充放電曲線が得られ、実施例4に関しては、図17に示した充放電曲線が得られ、両者の容量として図18の数値が得られた。内部抵抗は充電から放電に変わる際の電圧降下から計算し、図19の数値が得られた。
【0044】
つぎに、比較例4と実施例4の評価を、充放電評価装置(HZ-Pro:明電北斗社製)を用いて低温-40℃で行った。80mA/gと500mA/gの電流密度で5サイクル充放電した充放電特性を評価した。
その結果、比較例4に関しては、図20に示した充放電曲線が得られ、実施例4に関しては、図21に示した充放電曲線が得られ、両者の容量として図22の数値が得られた。内部抵抗は充電から放電に変わる際の電圧降下から計算し、図23の数値が得られた。
【0045】
(考察)
比較例4の25℃における容量は、図18に示すように、80mA/gの電流密度で26.68F/g、500mA/gの電流密度で25.36F/g、変化量が-4.95%であるのに対して、実施例4の25℃における容量は、80mA/gの電流密度で23.89F/g、500mA/gの電流密度で23.66F/g、変化量が-0.97%であり、電流密度に対する容量値変化が、実施例4の方が小さいことが確認された。
【0046】
他方、比較例4の-40℃における容量は、図22に示すように、80mA/gの電流密度で25.68F/g、500mA/gの電流密度で23.62F/g、変化量が-8.05%であるのに対して、実施例4の-40℃における容量は、80mA/gの電流密度で21.45F/g、500mA/gの電流密度で20.29F/g、変化量が-5.41%であり、電流密度に対する容量値変化が、実施例4の方が2.64%低いことが確認された。
【0047】
比較例4の25℃における内部抵抗は、図19に示すように、80mA/gの電流密度で359.7Ω、500mA/gの電流密度で54.0Ωであるのに対して、実施例4の25℃における内部抵抗は、80mA/gの電流密度で73.9Ω、500mA/gの電流密度で21.7Ωであり、実施例4の方が内部抵抗が低いことが確認された。
【0048】
他方、比較例4の-40℃における内部抵抗は、図23に示すように、80mA/gの電流密度で229.2Ω、500mA/gの電流密度で119.7Ωであるのに対して、実施例4の-40℃における内部抵抗は、80mA/gの電流密度で118.6Ω、500mA/gの電流密度で75.0Ωであり、実施例4の方が内部抵抗が低いことが確認された。
【0049】
(評価試験8及び結果)
比較例4と実施例4の評価として、室温25℃におけるインピーダンスと低温-40℃におけるインピーダンスを測定した。インピーダンスの測定は測定装置(HZ-Pro:明電北斗社製)を用い、10mVの印加電圧で100kHz~10mHzの周波数で行い、測定結果をpyZwx(電気化学インピーダンス(Z)解析ソフトウェア)により下記の等価回路(表1)を用いてフィッティングを行って解析した。
【0050】
【表1】
【0051】
比較例4に関しては、図24および図26の結果が得られ、実施例4に関しては、図25および図27の結果が得られた。
【0052】
(考察)
比較例4の25℃におけるインピーダンスは、図26に示すように、Rsが5.14Ω、R1が3.64Ω、Rs+R1が8.78Ωであるのに対して、実施例4の25℃におけるインピーダンスは、図27に示すように、Rsが10.37Ω、R1が3.31Ω、Rs+R1が13.68Ωで、実施例4の方がインピーダンスが高いことが確認された。ただし、活性炭の接触抵抗を示すR1は実施例4の方が低いことが確認された。
【0053】
他方、比較例4の-40℃におけるインピーダンスは、図26に示すように、Rsが30.48Ω、R1が10.19Ω、Rs+R1が40.67Ωであるのに対して、実施例4の-40℃におけるインピーダンスは、図27に示すように、Rsが10.62Ω、R1が9.03Ω、Rs+R1が19.65Ωで、実施例4の方がインピーダンスが低いことが確認された。
【0054】
以上の評価試験及び結果から、コート処理を行った低抵抗活性炭を電極に使用した蓄電デバイスは、電流密度が増加しても、また導電助剤を特に使用しなくても、充電側でも放電側でもIRドロップが小さくなり、良好な充放電曲線を示し容量も維持されることが確認された。また、コート処理を行った活性炭を電極として使用した電気二重層キャパシタは、未処理の活性炭を電極として使用した電気二重層キャパシタに比して、低温でも内部抵抗が低く電流密度に対する容量値変化が少ないことが確認され、例えば寒冷地において自動車等に使用しても有益であることが確認された。
【符号の説明】
【0055】
1 活性炭
2 炭素源
3 カーボン容器
4 蓋
5 微小圧縮試験機
6,7 圧子
10 蓄電デバイス
11 正極
12 負極
13 電解液
14 集電体
図1
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