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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003403
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】燃料電池セルアセンブリ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0284 20160101AFI20241226BHJP
   H01M 8/0273 20160101ALI20241226BHJP
   H01M 8/0226 20160101ALI20241226BHJP
   H01M 8/0213 20160101ALI20241226BHJP
   H01M 8/0221 20160101ALI20241226BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20241226BHJP
【FI】
H01M8/0284
H01M8/0273
H01M8/0226
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/1004
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024099963
(22)【出願日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023103237
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(72)【発明者】
【氏名】須部 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】林 宏和
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA02
5H126AA12
5H126AA13
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD04
5H126DD05
5H126FF07
5H126GG05
5H126GG17
5H126GG18
5H126JJ00
5H126JJ05
5H126JJ08
5H126JJ09
(57)【要約】
【課題】 構成要素同士を湿熱耐久性に優れる接着部材により接着し、耐久性に優れる燃料電池セルアセンブリを提供する。
【解決手段】 燃料電池セルアセンブリ(10)は、電極部材(2)と、電極部材(2)の面方向外側に配置され、ソリッドゴムを有するゴム組成物から製造されるガスケット(30)と、電極部材(2)およびガスケット(30)に積層されるセパレータ(50)と、ポリプロピレン系樹脂を有し、電極部材(2)およびセパレータ(50)の少なくとも一方と、ガスケット(30)と、を接着する接着部材(40)と、を備える。該ソリッドゴムは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上であり、該ポリプロピレン系樹脂は、温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が7g/10分以上700g/10分以下である。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜および電極触媒層を有する膜電極接合体を有する電極部材と、
該電極部材の厚さ方向に対して交差する方向を面方向として、該電極部材の面方向外側に配置され、ソリッドゴムを有するゴム組成物から製造されるガスケットと、
該電極部材および該ガスケットに積層されるセパレータと、
ポリプロピレン系樹脂を有し、該電極部材および該セパレータの少なくとも一方と、該ガスケットと、を接着する接着部材と、
を備え、
該ソリッドゴムは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上であり、
該ポリプロピレン系樹脂は、温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が7g/10分以上700g/10分以下であることを特徴とする燃料電池セルアセンブリ。
【請求項2】
前記接着部材は、融点が160℃以上208℃以下の酸化防止剤を有する請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項3】
前記酸化防止剤の含有量は、前記ポリプロピレン系樹脂の質量を100質量部とした場合の0.01質量部以上10質量部以下である請求項2に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項4】
前記酸化防止剤は、フェノール系化合物およびアミン系化合物から選ばれる一種以上である請求項2に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項5】
前記接着部材の接着成分は、前記ポリプロピレン系樹脂のみである請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂は、酸により変性されていない請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項7】
前記接着部材は、前記電極部材の周縁部に配置され、該電極部材と前記ガスケットとを接着し、
前記ポリプロピレン系樹脂の融点は、130℃以上150℃以下である請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項8】
前記電極部材は、前記膜電極接合体の厚さ方向両面の少なくとも片面に配置されるガス拡散層を有し、
前記接着部材は、該ガス拡散層の周縁部に含浸される請求項7に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項9】
前記セパレータは、カーボン粉末および樹脂を有し、
前記接着部材は、該セパレータと前記ガスケットとを接着し、
前記ポリプロピレン系樹脂の融点は、130℃以上168℃以下である請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項10】
前記セパレータに含まれる前記樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびペルフルオロアルコキシアルカン樹脂から選ばれる一種以上である請求項9に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【請求項11】
前記接着部材は、前記電極部材と前記ガスケットとを接着し、前記セパレータと該ガスケットとを接着して、該電極部材、該セパレータ、および該ガスケットを一体化する請求項1に記載の燃料電池セルアセンブリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極部材およびセパレータの少なくとも一方が接着部材によりガスケットと一体化されている燃料電池セルアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、多数のセルが積層されたスタック構造を呈する。セルの積層体は、積層方向両側に配置されたエンドプレートにより締結される。例えば、固体高分子型燃料電池のセルは、膜電極接合体(MEA)およびガス拡散層を有する電極部材と、電極部材を挟んで配置されるセパレータと、電極部材の周囲に配置され、反応ガスや冷媒に対して電極部材をシールするゴム製のガスケットと、を有する。MEAの電解質膜には、全フッ素系スルホン酸膜などの高分子膜が用いられる。このため、ガスケットの材料であるゴム組成物をMEAの近くに配置して硬化させる場合には、硬化時の加熱により電解質膜が変質しないように配慮する必要がある。また、樹脂を含んで形成されるセパレータを用いる場合にも、加熱によるセパレータの変形や劣化に配慮する必要がある。また、ゴム組成物を射出成形する場合には、射出圧によりガス拡散層を破損しないように配慮する必要がある。
【0003】
ガスケットのゴム成分としては、耐久性および高温特性に優れ、ガス透過性が小さいなどの観点から、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)などのソリッドゴムが用いられる。ソリッドゴムは、常温下で混練可能な固体であるが、シリコーンゴムなどの液状ゴムと比較すると流動性は低い。また、電解質膜などの耐熱温度を考慮した温度下では、硬化時間を長くせざるを得ず、生産性の低下を招く。よって、ソリッドゴムを用いる場合には、射出成形のように、ゴム組成物の硬化を利用して相手部材と接着させる方法ではなく、予めゴム組成物からガスケットを製造しておき、それを接着剤を用いて相手部材と接着させる方法が採用される。
【0004】
例えば、特許文献1には、ゴムガスケット表面の一部にプライマーを塗布し、当該プライマー塗布面を燃料電池を構成する金属部材に密着させて、ゴムガスケットを圧着固定した状態で加熱することにより、ゴムガスケットと金属部材とを接着させる方法が記載されている。プライマーとしては、シランカップリング剤系プライマー、変性オレフィン系接着剤などが挙げられている。特許文献2には、燃料電池の構成要素と架橋ゴム部材とを接着する接着剤層を、酸により変性されたオレフィン系熱可塑性樹脂の粉末と、シランカップリング剤含有液と、を有する液状組成物から形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-183198号公報
【特許文献2】特開2023-34863号公報
【特許文献3】特開2014-22131号公報
【特許文献4】特開2007-66766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガスケットのシール性を高めるためには、相手部材との接着性を高める必要がある。固体高分子型燃料電池を作動させると、構成要素は70~90℃程度の温度で水分が存在する環境(湿熱環境)に晒される。よって、ガスケットと相手部材とを接着する接着部材には、初期(使用前)の接着性に加えて、湿熱環境で使用しても接着力が低下しにくい湿熱耐久性が要求される。特に、燃料電池をバスやトラックなどの長時間運転が求められる商用車に搭載する場合には、接着部材のより高い湿熱耐久性が要求される。
【0007】
この点、特許文献1に記載されている接着方法によると、相手部材が金属製の部材に限られるし、プライマーの湿熱耐久性も十分ではない。また、同文献において、プライマーを塗布したゴムガスケットと金属部材とを圧着させて50~120℃の温度で24時間以上保持する、と記載されているように、シランカップリング剤による接着性を発現させるためには長い時間を要するため、生産性が低い。特許文献2に記載されている接着剤層においても、シランカップリング剤は必須であり、酸変性オレフィン系熱可塑性樹脂の粉末を併用することにより接着時間を短縮できるものの、湿熱耐久性は十分とはいえない。
【0008】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、構成要素同士を湿熱耐久性に優れる接着部材により接着し、耐久性に優れる燃料電池セルアセンブリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本開示の燃料電池セルアセンブリは、電解質膜および電極触媒層を有する膜電極接合体を有する電極部材と、該電極部材の厚さ方向に対して交差する方向を面方向として、該電極部材の面方向外側に配置され、ソリッドゴムを有するゴム組成物から製造されるガスケットと、該電極部材および該ガスケットに積層されるセパレータと、ポリプロピレン系樹脂を有し、該電極部材および該セパレータの少なくとも一方と、該ガスケットと、を接着する接着部材と、を備え、該ソリッドゴムは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上であり、該ポリプロピレン系樹脂は、温度230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)が7g/10分以上700g/10分以下であることを特徴とする。
【0010】
本開示の燃料電池セルアセンブリにおいては、電極部材およびセパレータのいずれか一方またはその両方とガスケットとが、熱可塑性のポリプロピレン系樹脂を有する接着部材により接着される。接着部材として用いられるポリプロピレン系樹脂のMFRは、7g/10分以上である。本明細書におけるMFRは、特に断りがない限り、温度230℃、荷重2.16kgで測定される値とする。ポリプロピレン系樹脂において、MFRが7g/10分以上と比較的大きい場合、分子量は比較的小さくなる。よって、比較的低分子量のポリプロピレン系樹脂が、接着対象であるガスケットのゴム分子の間に入りこみ、分子間力が働くことにより、接着性が向上すると考えられる。ここで、ガスケットのゴム成分として用いられるソリッドゴムは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムのなかから選ばれる。一般に、オレフィン系樹脂とエチレン-プロピレン系ゴムとは接着しにくいことが知られているが、本開示の燃料電池セルアセンブリにおいては、燃料電池のガスケットに必要なシール性などの特性が優れることに加えて、ポリプロピレン系樹脂とSP値(溶解度パラメータ)が近い先の三種類のゴムを選択することにより、ポリプロピレン系樹脂とのなじみ性を高めて、接着性を向上させている。このように、接着部材とガスケットとが強固に接着されるため、水分や酸素などが侵入しにくくなり、樹脂の酸化劣化などが抑制されて、接着部材の湿熱環境における耐久性が向上する。結果、燃料電池を長時間作動した場合にもガスケットによる高いシール性を維持することができ、耐久性に優れる燃料電池セルアセンブリを実現することができる。
【0011】
また、ポリプロピレン系樹脂のMFRが7g/10分以上と比較的大きい場合、溶融時の粘度は比較的小さくなる。よって、例えば接着部材の材料である接着剤組成物をディスペンサーなどを用いて接着対象の部材に塗布する場合、溶融した接着剤組成物が吐出されやすくなり、生産性を高めることができる。また、後述するように、電極部材がガス拡散層を有し、接着部材を当該ガス拡散層と接するように配置する場合には、接着剤組成物をガス拡散層に含浸させて、接着性を高めることができる。他方、ポリプロピレン系樹脂のMFRが大きすぎると、分子量が小さくなりすぎ、融点が低下する。この場合、燃料電池の作動時の熱により接着部材が変形するおそれがあり、劣化も進みやすい。したがって、本開示の燃料電池セルアセンブリにおいては、ポリプロピレン系樹脂のMFRを700g/10分以下とする。
【0012】
ちなみに、ポリプロピレン系樹脂を用いた接着剤については、特許文献3に、ポリオレフィンに官能基を導入して接着性を付与した変性ポリオレフィンを用いて、ガス拡散電極および樹脂枠体を接合することが記載されている。しかしながら、同文献に記載されている接着対象はポリプロピレン(PP)製の樹脂枠体であり、ゴム製の部材ではない。また、同文献には、変性ポリオレフィンのメルトフローレートについての記載はない。
【0013】
特許文献4には、MEAおよびガス拡散層を有する電極部材と、該電極部材の外周に配置されるガスケット構造体と、を備える接合体において、電解質膜とガスケット構造体とが接着層を介して接着されることが記載されている。接着層に使用できる材料としては、ポリプロピレンなどのホットメルト系接着剤が記載されている。しかしながら、ガスケット構造体は、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)から形成されており、ゴム製の部材ではない。また、同文献には、接着剤のメルトフローレートについての記載はない。さらに、同文献には、ガスケット構造体上にゴム製のシール用凸部(リップ)が配置される形態も記載されているが、リップとガスケット構造体とは材料が異なる別体であり、リップは電解質膜などに接着層を介して接着されるものではない。
【0014】
(2)上記(1)の構成において、前記接着部材は、融点が160℃以上208℃以下の酸化防止剤を有する構成としてもよい。本構成によると、ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化をより抑制することができるため、接着部材の湿熱耐久性がより向上する。また、上記(1)の構成の接着部材においては、樹脂の酸化劣化が進行しにくいことに加えて、酸化防止剤の消費を促進する水分や酸素などの侵入が抑制される。よって、酸化防止剤の消費速度が遅くなり、その効果をより長く発揮させることができる。ここで、酸化防止剤の融点は160℃以上であるため、燃料電池の作動温度下では溶け出さない。また、酸化防止剤の融点は208℃以下であるため、酸化防止剤をポリプロピレン系樹脂に添加して接着剤組成物を調製する際に、酸化防止剤が溶融しやすく、ポリプロピレン系樹脂と混ざりやすくなる。
【0015】
(3)上記(2)の構成において、前記酸化防止剤の含有量は、前記ポリプロピレン系樹脂の質量を100質量部とした場合の0.01質量部以上10質量部以下である構成としてもよい。ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化を抑制するという観点においては、酸化防止剤の含有量は多い方が望ましい。しかしながら、酸化防止剤はポリプロピレン系樹脂とのなじみ性がよくないため、過剰に含有されるとブルームするおそれがある。本構成によると、酸化防止剤のブルームを抑制しつつ、その添加効果を得ることができる。
【0016】
(4)上記(2)または(3)の構成において、前記酸化防止剤は、フェノール系化合物およびアミン系化合物から選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成によると、ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化を効果的に抑制することができる。
【0017】
(5)上記いずれかの構成において、前記接着部材の接着成分は、前記ポリプロピレン系樹脂のみである構成としてもよい。本構成によると、高い湿熱耐久性を実現することができる。加えて、シランカップリング剤などの他の接着成分を使用しないため、接着剤組成物の調製が容易であり、コストを削減することができる。
【0018】
(6)上記いずれかの構成において、前記ポリプロピレン系樹脂は、酸により変性されていない構成としてもよい。酸により変性されていないポリプロピレン系樹脂は、比較的安価で品揃えも豊富である。また、金型などに付着しにくいため、接着剤組成物の調製、塗布、成形などの工程において作業性を損なうおそれが少ない。
【0019】
(7)上記いずれかの構成において、前記接着部材は、前記電極部材の周縁部に配置され、該電極部材と前記ガスケットとを接着し、前記ポリプロピレン系樹脂の融点は、130℃以上150℃以下である構成としてもよい。本構成によると、燃料電池の作動温度に対する十分な耐熱性を実現すると共に、接着時の加熱温度を低くして、電解質膜などへの影響を少なくすることができる。
【0020】
(8)上記(7)の構成において、前記電極部材は、前記膜電極接合体の厚さ方向両面の少なくとも片面に配置されるガス拡散層を有し、前記接着部材は、該ガス拡散層の周縁部に含浸される構成としてもよい。本構成によると、接着部材の一部が電極部材のガス拡散層に含浸されることにより、電極部材と接着部材とがより強固に接着され、電極部材の周囲におけるシール性を高めることができる。
【0021】
(9)上記(1)から(6)のいずれかの構成において、前記セパレータは、カーボン粉末および樹脂を有し、前記接着部材は、該セパレータと前記ガスケットとを接着し、前記ポリプロピレン系樹脂の融点は、130℃以上168℃以下である構成としてもよい。セパレータには、金属またはカーボン単体から形成されるものや、カーボン粉末を樹脂により結合するなどして形成されるものがある。本構成によると、燃料電池の作動温度に対する十分な耐熱性を実現すると共に、接着時の加熱温度を低くして、樹脂を含むセパレータの変形や劣化を抑制することができる。
【0022】
(10)上記(9)の構成において、前記セパレータに含まれる前記樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびペルフルオロアルコキシアルカン樹脂から選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成によると、セパレータに含まれる樹脂の融点が、ポリプロピレン系樹脂の融点より高いため、接着時の加熱によるセパレータの変形や劣化が抑制される。
【0023】
(11)上記(1)から(6)のいずれかの構成において、前記接着部材は、前記電極部材と前記ガスケットとを接着し、前記セパレータと該ガスケットとを接着して、該電極部材、該セパレータ、および該ガスケットを一体化する構成としてもよい。本構成によると、電極部材およびセパレータの両方が、接着部材によりガスケットに接着されることにより、シール性および耐久性が向上する。また、セパレータを含めてセルの主な構成要素が接着部材により一体化される。これにより、燃料電池セルアセンブリを積層する際に扱いやすくなり、スタッキング工程を簡略化することができる。そして、積層時における部材のずれなども生じにくくなる。これにより、作業性が向上して生産性が向上する。
【発明の効果】
【0024】
本開示の燃料電池セルアセンブリによると、接着部材とガスケットとが強固に接着されるため、水分や酸素などが侵入しにくくなり、接着部材における樹脂の酸化劣化などが抑制される。これにより、接着部材の湿熱環境における耐久性が向上し、燃料電池を長時間作動した場合にもガスケットによる高いシール性を維持することができる。結果、燃料電池セルアセンブリの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の一実施形態である燃料電池セルアセンブリの上面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】実施例で作製した接着性評価用の積層シートの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の燃料電池セルアセンブリの一実施形態を説明する。まず、本実施形態の燃料電池セルアセンブリの構成を説明する。図1に、本実施形態の燃料電池セルアセンブリの上面図を示す。図2に、図1のII-II断面図を示す。図の方位のうち、前後左右方向は各部材の面方向、上下方向は各部材の厚さ方向、積層方向を示す。図1においては、説明の便宜上、接着部材が存在している部分にハッチングを施して示す。図1図2に示すように、燃料電池セルアセンブリ10は、電極部材2と、上側ガスケット30と、下側ガスケット31と、第一接着部材40と、第二接着部材41と、第三接着部材42と、セパレータ50と、を備えている。
【0027】
電極部材2は、矩形薄膜状を呈している。電極部材2は、MEA20と、その厚さ方向両面に配置される一対の上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22と、を有している。MEA20、上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22の面方向の大きさ(面積)は、同じである。MEA20は、電解質膜とその厚さ方向両面に配置される一対の電極触媒層と、を有している。電解質膜は、全フッ素系スルホン酸膜であり、電極触媒層は、白金を含む触媒を担持したカーボン粒子を有している。上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22の構成は同じであり、各々、カーボンペーパーを有している。上側ガス拡散層21は、第一接着部材40が含浸されている上側含浸部210を有している。上側含浸部210は、上側ガス拡散層21の周縁部に配置されている。同様に、下側ガス拡散層22も、第一接着部材40が含浸されている下側含浸部220を有している。下側含浸部220は、下側ガス拡散層22の周縁部に配置されている。
【0028】
セパレータ50は、カーボン粉末およびアクリル樹脂を有するカーボンプレートであり、矩形薄板状を呈している。電極部材2および上側ガスケット30は、セパレータ50の上面に配置されている。下側ガスケット31は、セパレータ50の下面に配置されている。セパレータ50の上面および下面の電極部材2と重なる領域には、凹凸状の流路が形成されている。
【0029】
上側ガスケット30は、上方から見て枠状を呈しており、電極部材2の外側に配置されている。上側ガスケット30は、EPDMを有するゴム組成物の架橋物からなる。上側ガスケット30は、上方に突出するリップ部300を有している。リップ部300の頂部は、曲面状を呈している。上側ガスケット30は、燃料電池を構成した場合に、積層される別の燃料電池セルアセンブリに弾接する。
【0030】
下側ガスケット31も枠状を呈しており、セパレータ50の下面に、上方から見て上側ガスケット30と重なる位置に配置されている。下側ガスケット31も、上側ガスケット30と同じEPDMを有するゴム組成物の架橋物からなる。下側ガスケット31は、下方に突出するリップ部310を有している。リップ部310の頂部は、曲面状を呈している。下側ガスケット31は、燃料電池を構成した場合に、積層される別の燃料電池セルアセンブリに弾接する。
【0031】
第一接着部材40は、上方から見て枠状を呈しており、面方向において電極部材2と上側ガスケット30との間に配置されている。第一接着部材40は、接着成分として、酸により変性されていないポリプロピレン系樹脂のみを有し、酸化防止剤としてフェノール系化合物を有している。当該ポリプロピレン系樹脂のMFRは8g/10分、融点は、138℃である。酸化防止剤の融点は174℃である。前述したように、第一接着部材40の一部は、上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22の周縁部に含浸している(上側含浸部210および下側含浸部220)。加えて、第一接着部材40は、接触している部材、具体的には、電解質膜を含むMEA20の外周端面および上側ガスケット30に接着している。このようにして、第一接着部材40は、電極部材2と上側ガスケット30とを接着している。
【0032】
第二接着部材41は、上方から見て枠状を呈しており、上側ガスケット30とセパレータ50との間に配置されている。第二接着部材41の成分は、第一接着部材40のそれと同じである。第二接着部材41は、上側ガスケット30とセパレータ50とを接着している。第三接着部材42は、上方から見て枠状を呈しており、下側ガスケット31とセパレータ50との間に配置されている。第三接着部材42の成分も、第一接着部材40のそれと同じである。第三接着部材42は、下側ガスケット31とセパレータ50とを接着している。このように、電極部材2、上側ガスケット30、下側ガスケット31、およびセパレータ50は、第一接着部材40、第二接着部材41、および第三接着部材42により一体化されている。上側ガスケット30および、下側ガスケット31は、本開示の燃料電池セルアセンブリを構成するガスケットの概念に含まれる。第一接着部材40、第二接着部材41、および第三接着部材42は、本開示の燃料電池セルアセンブリを構成する接着部材の概念に含まれる。
【0033】
次に、本実施形態の燃料電池セルアセンブリの製造方法を説明する。本実施形態の燃料電池セルアセンブリの製造方法は、ガスケット成形工程と、ガスケットとセパレータとの接着工程と、電極部材一体化工程と、を有している。
【0034】
(1)ガスケット成形工程
本工程においては、EPDMを有するゴム組成物を射出成形して、上側ガスケット30と下側ガスケット31とを別々に成形する。
【0035】
(2)ガスケットとセパレータとの接着工程
本工程においては、まず、プレス機に下側ガスケット31を配置して、その上面の所定位置に、第三接着部材42の材料である接着剤組成物をディスペンサーを用いて塗布する。接着剤組成物については、所望の流動性を有するよう予め140℃以上の温度に加熱しておく(以下、第二接着部材41、第一接着部材40の接着性組成物をディスペンサーを用いて塗布する場合も同じ。)。次に、セパレータ50を積層し、その上面の所定位置に、第二接着部材41の材料からなる接着剤組成物をディスペンサーを用いて塗布した後、上側ガスケット30を積層する。それから、140℃に加熱されたプレス板で、上側ガスケット30および下側ガスケット31の積層部分を押圧する。その後、自然冷却により接着剤組成物を硬化させて、上側ガスケット30、セパレータ50、下側ガスケット31が、第二接着部材41および第三接着部材42により一体化されたガスケット付きセパレータを製造する。
【0036】
(3)電極部材一体化工程
本工程においては、まず、製造したガスケット付きセパレータをプレス機に配置して、上側ガスケット30の内側に電極部材2を配置する。次に、電極部材2と上側ガスケット30との隙間に、第一接着部材40の材料からなる接着剤組成物をディスペンサーを用いて塗布する。それから、140℃に加熱されたプレス板で積層体を押圧する。これにより接着剤組成物が、電極部材2の上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22の周縁部に含浸する。その後、自然冷却により接着剤組成物を硬化させて、ガスケット付きセパレータ、電極部材2が、第一接着部材40により一体化された燃料電池セルアセンブリ10を製造する。
【0037】
次に、本実施形態の燃料電池セルアセンブリおよびその製造方法の作用効果について説明する。本実施形態の燃料電池セルアセンブリ10の接着部材(第一接着部材40、第二接着部材41、第三接着部材42)は、接着成分としてMFRが8g/10分のポリプロピレン系樹脂を有する。また、いずれの接着部材も酸化防止剤を有する。他方、ガスケット(上側ガスケット30、下側ガスケット31)は、EPDM製である。このため、各々の接着部材とガスケットとの接着性が良好で、接着部材の湿熱耐久性も高い。また、ポリプロピレン系樹脂のMFRが比較的大きいため、接着剤組成物をディスペンサー用いて塗布することができ、生産性を向上させることができる。また、接着剤組成物を電極部材2の上側ガス拡散層21および下側ガス拡散層22に含浸させて、接着性を高めることができる。また、ポリプロピレン系樹脂の融点は138℃であり、ガスケットとセパレータとの接着工程におけるホットプレスを140℃で行うため、アクリル樹脂を含むセパレータ50が加熱時に変形するおそれは少ない。同様に、電極部材一体化工程におけるホットプレスを140℃で行うため、加熱時に電解質膜が変質するおそれは少ない。燃料電池セルアセンブリ10においては、電極部材2およびセパレータ50の両方が、接着部材によりガスケットに接着され一体化される。これにより、シール性および耐久性が向上すると共に、燃料電池セルアセンブリ10の取り扱い性が向上し、部材のずれなども生じにくい。
【0038】
以上、本開示の燃料電池セルアセンブリの一実施形態について説明したが、本開示の燃料電池セルアセンブリは、上記形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0039】
本開示の燃料電池セルアセンブリは、電極部材、ガスケット、および接着部材を必須の構成要素としていればよい。本開示の燃料電池セルアセンブリにおいては、これら必須の構成要素に加えて他の構成要素が存在していてもよく、その種類は限定されない。接着部材によりガスケットに接着される部材は、電極部材およびセパレータの一方のみでも両方でもよい。例えば、電極部材およびガスケットが接着部材により一体化されたガスケット付き電極部材を、セパレータに積層させて、燃料電池セルアセンブリを構成してもよい。また、セパレータおよびガスケットが接着部材により一体化されたガスケット付きセパレータを、電極部材と組み合わせて、燃料電池セルアセンブリを構成してもよい。
【0040】
<電極部材>
本開示の燃料電池セルアセンブリの構成要素のうち、電極部材は、MEAを有する。MEAは、電解質膜と、電解質膜の両面に配置される一対の電極触媒層と、を有する。電解質膜としては、燃料電池に用いられるプロトン伝導性のイオン交換膜を用いればよい。電極触媒層は、白金、白金合金などの触媒を担持した導電性の担体などを含んで構成すればよい。電極触媒層は、必ずしも電解質膜の表面全体に形成される必要はない。電極触媒層は、MEAにおける発電領域に応じて、電解質膜の表面に適宜形成すればよい。電極部材は、MEAに供給されるガスの拡散、電解質膜の保湿、発電で生じた生成水の排出および電子の集電などを担う部材として、ガス拡散層を有することが望ましい。ガス拡散層としては、カーボンペーパー、カーボンクロスなどのカーボン多孔質体、金属メッシュなどの金属多孔質体などを用いればよい。
【0041】
ガス拡散層は、MEAの厚さ方向の片面または両面に配置すればよい。ガス拡散層は、単層でも二層以上でもよい。ガス拡散層をMEAの厚さ方向の両面に配置する場合、厚さ方向の一面と他面とにおいて、ガス拡散層の厚さ、面方向の大きさ(面積)などは同じでも異なってもよい。例えば、一面に配置されるガス拡散層の面積が、他面に配置されるガス拡散層の面積よりも小さい場合、面積が小さい方のガス拡散層側に、MEAの一部が露出する。この形態において、電極部材とガスケットとを接着部材により接着させる場合には、電解質膜を保護する観点から、露出したMEAの一部に接着部材を接着させることが望ましい。また、ガス拡散層の面積よりも、MEAの面積が大きい場合にも、MEAの一部が露出する。この形態においても、電解質膜を保護する観点から、露出したMEAの一部に接着部材を接着させることが望ましい。
【0042】
<ガスケット>
ガスケットは、電極部材の面方向外側に配置されれば、配置形態や形状などは特に限定されない。例えば、電極部材の周囲に配置されるものの他、セパレータとセパレータとの間に配置されるもの、セパレータに開設されるマニホールド孔などの所定の部位を囲むように配置されるものでもよい。ガスケットは、ソリッドゴムを有するゴム組成物を、射出成形、プレス成形するなどして製造すればよい。ソリッドゴムは、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、エチレン-ブテン-ジエンゴムから選ばれる一種以上である。ゴム組成物は、ゴム成分の他に、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、補強剤、酸化防止剤、加工助剤などを含んでいてもよい。架橋剤としては、硫黄などの揮発成分を含まないという理由から、有機過酸化物を用いることが望ましい。上記実施形態においては、燃料電池セルアセンブリを積層した際のシール性を高めるという観点から、ガスケットにリップ部を配置した。リップ部の有無を含めて、ガスケットの形状、厚さなどは適宜決定すればよい。
【0043】
<セパレータ>
セパレータの材質としては、ステンレス鋼、チタン、銅、マグネシウム、アルミニウム、カーボン、グラファイト、セラミックス、導電性樹脂(カーボン、グラファイト、ポリアクリロニトリル系炭素繊維などを有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂)などが挙げられる。導電性樹脂製のセパレータのうち、例えば、カーボン粉末を樹脂により結合して形成されるカーボンプレートは、金属製のセパレータと比較して、低コストである場合が多く好適である。バインダーとなる樹脂は、セパレータに必要な特性や接着剤組成物の溶融温度などを考慮して適宜選択すればよい。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ペルフルオロアルコキシアルカン樹脂などが挙げられる。なかでも、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびペルフルオロアルコキシアルカン樹脂は、高い融点を有するため、接着時の加熱によるセパレータの変形、劣化が生じにくい。
【0044】
また、これらの材料からなる本体部の表面に、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)などの処理によりダイヤモンドライクカーボン膜(DLC膜)、グラファイト膜などの炭素薄膜が形成されたものでもよい。また、接着剤組成物を付着しやすくして接着性を高めるなどの観点から、凹凸を形成するなどの表面処理が施されてもよい。形成される流路、マニホールド孔などを含めて、セパレータの構成は限定されず、形状、厚さなどは適宜決定すればよい。
【0045】
<接着部材>
接着部材は、MFRが7g/10分以上700g/10分以下のポリプロピレン系樹脂を有する。接着剤組成物の粘度を小さくして、ディスペンサーなどを用いて塗布する場合の生産性を高めたり、ガス拡散層の周縁部に含浸しやすくする、セパレータなどの凹凸面にも付着しやすくするなどの観点から、MFRは8g/10分以上、さらには360g/10分以上であることが望ましい。他方、湿熱環境での変形や劣化を考慮すると、MFRは600g/10分以下であることが望ましい。
【0046】
接着部材の接着性および湿熱耐久性の観点においては、接着成分は、当該ポリプロピレン系樹脂のみで十分である。しかし、接着部材は、当該ポリプロピレン系樹脂の効果を阻害しない範囲で、他の接着成分を含んでいてもよい。ポリプロピレン系樹脂の構造は、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなど特に限定されない。ポリプロピレン系樹脂は、酸による変性の有無を問わない。すなわち、酸、酸無水物、酸エステル、メタロセンなどにより変性されたものでも、変性されていないものでもよい。酸による変性は、ポリプロピレン系樹脂に酸成分をグラフト化したり、共重合したり、これらの組み合わせにより行えばよい。酸により変性されていないポリプロピレン系樹脂は、比較的安価で品揃えも豊富である。また、金型などに付着しにくいため、酸変性なしのポリプロピレン系樹脂を用いると、接着剤組成物の調製、塗布、成形などの工程において作業性を損なうおそれが少ないという利点がある。
【0047】
燃料電池の作動温度を考慮すると、ポリプロピレン系樹脂の融点は130℃以上であることが望ましい。他方、接着部材を電極部材に接着させる場合には、電解質膜の耐熱温度などを考慮して、ポリプロピレン系樹脂の融点は150℃以下であることが望ましい。なお、電極部材に対する接着部材の接着形態は、ガス拡散層に含浸してもよく、MEAに接着してもよく、その両方でもよい。また、接着部材をセパレータに接着させる場合であって、セパレータが樹脂などの比較的耐熱性が低い成分を有する場合には、セパレータの変形や劣化を抑制するために、ポリプロピレン系樹脂の融点は168℃以下であることが望ましい。
【0048】
接着部材は、接着成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、酸化防止剤を含む場合には、ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化が抑制され、接着部材の湿熱耐久性がより向上する。酸化防止剤の融点は、燃料電池の作動温度を考慮すると、160℃以上であることが望ましい。また、接着剤組成物を調製しやすくするという観点から、208℃以下であることが望ましい。酸化防止剤としては、フェノール系化合物、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、リン酸系化合物などが挙げられる。なかでも、ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化を抑制する効果が高いという理由から、フェノール系化合物およびアミン系化合物から選ばれる一種以上を用いることが望ましい。ポリプロピレン系樹脂の酸化劣化を抑制するという観点においては、酸化防止剤の含有量を、ポリプロピレン系樹脂の質量を100質量部とした場合の0.01質量部以上にするとよい。0.1質量部以上にするとより好適である。他方、酸化防止剤はポリプロピレン系樹脂とのなじみ性がよくないため、過剰に含有されるとブルームするおそれがある。よって、酸化防止剤の含有量は、ポリプロピレン系樹脂の質量を100質量部とした場合の10質量部以下にするとよい。2質量部以下、さらには0.2質量部以下にするとより好適である。
【0049】
<燃料電池セルアセンブリの製造方法>
本開示の燃料電池セルアセンブリは、予めガスケットを成形しておき、成形されたガスケットと電極部材などとを、接着剤組成物中のポリプロピレン系樹脂の溶融、硬化を利用して接着することにより製造される。接着剤組成物の供給方法としては、溶融させた状態で刷毛塗り、ディスペンサーなどの塗工機、スプレーなどを使用して塗布する方法、成形型を使用する方法の他、予め接着剤組成物をシート状に成形した接着剤シートを配置する方法などが挙げられる。接着剤組成物を溶融、硬化させる場合には、ホットプレス機などを使用すればよい。あるいは、成形型に接着剤組成物を注入し硬化させる場合には、射出成形機などを使用すればよい。接着剤組成物を溶融して接着させる際、必ずしも加圧することは必要ではないが、溶融させた状態で加圧すると、例えばガス拡散層に含浸しやすくなる。接着剤組成物を溶融させるための加熱温度は、ポリプロピレン系樹脂の融点、部材の耐熱性などを考慮して適宜決定すればよい。加圧する際の圧力は、接着性、部材の破壊抑制などを考慮して適宜決定すればよい。
【実施例0050】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。接着対象の部材に接着部材を接着したサンプルを製造し、その接着性と湿熱耐久性を評価した。接着対象の部材としては、ガスケットに対応するゴムシート、セパレータに対応する金属プレート、カーボンプレートを使用した。
【0051】
(1)接着対象の部材がゴムシートの場合:実施例1~4、比較例1~3
<サンプルの製造>
まず、次のようにしてゴムシートを製造した。ゴム成分のEPDM(住友化学(株)製「エスプレン(登録商標)505」、)100質量部と、架橋剤のジアルキルパーオキサイド(日油(株)製「パーヘキサ(登録商標)25B-40」)6質量部と、可塑剤のパラフィン系プロセスオイル(出光興産(株)製「ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW380」)20質量部と、補強剤のカーボンブラック(東海カーボン(株)製「シースト(登録商標)S」)50質量部と、をバンバリーミキサーおよびオープンロールを用いて混練することにより、ゴム組成物を調製した。調製したゴム組成物を、プレス機を用いて加圧しながら、185℃下で10分間保持して架橋して、厚さ2mmのゴムシートを製造した。製造したゴムシートを縦(長辺)100mm、横(短辺)40mmの長方形状に切り出して、サンプルの製造に供した。
【0052】
次に、後出の表1に示す種々の接着剤組成物から厚さ0.6mmの接着剤シートを製造し、これを同じく縦100mm、横40mmの長方形状に切り出してサンプルの製造に供した。接着剤組成物の製造に使用した原料は、次の通りである。
[ポリプロピレン系樹脂]
PP-A:三井化学(株)製「アドマー(登録商標)QE060」、MFR7g/10分、融点140℃。
PP-B:東洋紡(株)製「ハードレン(登録商標)PMA-F2」、MFR720g/10分、融点120℃。
PP-C:住友化学(株)製「ノーブレン(登録商標)AD571」、MFR0.6g/10分、融点165℃。
PP-D:住友化学(株)製「ノーブレン(登録商標)W531D」、MFR8g/10分、融点138℃。
PP-E:(株)プライムポリマー製「S23B」、MFR360g/10分、融点133℃。
[ポリエチレン系樹脂]
日本ポリエチレン(株)製「ノバテック(登録商標)HD HF560」、MFR7g/10分、融点134℃。
[酸化防止剤]
フェノール系化合物、川口化学工業(株)製「アンテージ(登録商標)HP-200」、融点174℃。
【0053】
ゴムシートの上に離型紙を配置し、さらに接着剤シートを横方向に10mmずらした状態で積層した状態で、ゴムシート側を下にして、194℃に加熱した鉄板上に載置した。そして、接着剤シート側を140℃に加熱したプレス板で5分間加圧した。離型紙は、ゴムシートと接着剤シートとが重なり合う部分に、横方向に幅3mmの隙間を空けて二枚並置した。これにより、プレス板による加圧時に接着剤シートが溶融し、溶融物が離型紙の隙間を通過してゴムシートに到達する。この後、室温(20℃±5℃)下で自然冷却し、溶融物を硬化させて、両シートを接着した。それから、離型紙を取り除き、ゴムシートと接着剤シートとが、縦方向に延びる幅3mmの接着部で接着された積層シートを得た。図3に、得られた積層シートの上面図を示す。図3においては、説明の便宜上、接着剤シート82に重なるゴムシート81を透過して示す。また、ゴムシート81と接着剤シート82との接着部83にハッチングを施して示す。そして、図3中、点線で示すように、積層シート80を短辺に沿って5mm幅で切断して短冊状のサンプル84を作製し、接着性を評価するための引張剥離試験に供した。
【0054】
<サンプルの評価方法>
サンプルの接着性については、次の引張剥離試験で測定される剥離力により評価した。引張剥離試験においては、短冊状のサンプルを長手方向(図3の横方向)に10mm/秒の速度で引っ張り、二つのシートが剥離した時の応力を測定した。そして、剥離時の応力が0.4MPa以上の場合を接着性良好(後出の表1中、○印で示す)、0.4MPa未満の場合を接着性不良(同表中、×印で示す)と評価した。
【0055】
引張剥離試験は、「初期」、「湿熱環境500時間後」、および「湿熱環境1500時間後」の三種類のサンプルで実施した。「初期」のサンプルは、短冊状のサンプルを製造した後、室温下で放置したサンプルである。「湿熱環境500時間後」、「湿熱環境1500時間後」の各サンプルは、製造したサンプルを耐圧容器に入れ、120℃の水蒸気が充満した雰囲気(湿熱環境)で500時間または1500時間保持した後、取り出して室温下で自然冷却したサンプルである。湿熱環境に保持したサンプルについては、接着部材(接着剤シート)の外観脆化の有無を目視で観察した。湿熱環境に保持したサンプルの結果は、接着部材の湿熱耐久性を評価する指標になる。接着性の評価結果については後述する。
【0056】
(2)接着対象の部材がゴムシートおよびカーボンプレートの場合:実施例5、6
<サンプルの製造>
まず、カーボン粉末およびポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂から製造されたカーボンセパレータ((株)FJコンポジット製、厚さ0.3mm)を、50mm角に切り出して第一のカーボンプレートとした。これとは別に、カーボン粉末およびペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂から製造されたカーボンセパレータ((株)FJコンポジット製、厚さ0.3mm)を、50mm角に切り出して第二のカーボンプレートとした。次に、前述した(1)のサンプルの製造と同様にして、厚さ1.5mmのゴムシートを製造し、これを幅2mm、長さ60mmの帯状に切り出した。続いて、ポリプロピレン系樹脂(PP-A:三井化学(株)製「アドマー(登録商標)QE060」、MFR7g/10分、融点140℃)を有する接着剤組成物から厚さ80μmの接着剤シートを製造し、これを幅2mm、長さ40mmの帯状に切り出した。それから、第一、第二の各々のカーボンプレートの上に、帯状の接着剤シートと帯状のゴムシートとを、短辺の一方が揃うようにしてこの順に積層した。接着剤シートに重ならないゴムシートの長さ20mm分は、引張剥離試験を行う際のつかみ部になる。そして、積層部分をゴムシート側から加熱したプレス板で1分間加圧した。プレス板の温度は170℃、面圧は2MPaとした。この後、室温下で自然冷却し、カーボンプレートとゴムシートとが接着剤シート(接着部材)により接着された二種類の積層体サンプルを得た。
【0057】
<サンプルの評価方法>
積層体サンプルを万能材料試験機((株)東洋精機製作所製「ストログラフ」)にセットして、ゴムシートのつかみ部を10mm/秒の速度で引っ張り、ゴムシートが剥離した時の応力を測定した。そして、剥離時の応力が0.4MPa以上の場合を接着性良好(後出の表1中、○印で示す)、0.4MPa未満の場合を接着性不良(同表中、×印で示す)と評価した。この引張剥離試験は、前述した(1)のサンプルの評価方法と同様に、「初期」、「湿熱環境500時間後」、および「湿熱環境1500時間後」の三種類の積層体サンプルで実施した。接着性の評価結果については後述する。
【0058】
(3)接着対象の部材がゴムシートおよび金属プレートの場合:実施例7
<サンプルの製造>
カーボンセパレータを、ステンレス鋼(SUS304)板(JX金属(株)製、厚さ0.1mm)に変更して、50mm角の金属プレートとした点以外は、前述した(2)のサンプルの製造と同様にして、金属プレートとゴムシートとが接着剤シート(接着部材)により接着された積層体サンプルを製造した。
【0059】
<サンプルの評価方法>
前述した(2)のサンプルの評価方法と同様にして、「初期」、「湿熱環境500時間後」、および「湿熱環境1500時間後」の三種類の積層体サンプルの引張剥離試験を行い、接着性を評価した。
【0060】
(4)評価結果
表1に、接着剤組成物(接着部材)の成分および接着性の評価結果をまとめて示す。表1においては、接着性の総合評価として、三種類のサンプルの全てが接着性良好である場合を「A」、湿熱環境1500時間後のサンプルのみが接着性不良である場合を「B」、それ以外の場合を「C」と示す。本実施例においては、総合評価が「A」または「B」であれば、接着性および湿熱耐久性に優れると評価した。
【表1】
【0061】
表1に示すように、接着部材として、MFRが7g/10分以上700g/10分以下のポリプロピレン系樹脂を用いた実施例1~7のサンプルにおいては、実施例4を除いて総合評価がAとなり、接着対象の部材がゴムシート、金属プレート、カーボンプレートのいずれであっても、接着性および湿熱耐久性に優れることが確認された。実施例4のサンプルにおいては、接着部材に酸化防止剤が含まれない。このため、湿熱環境1500時間後の接着性が低下して、総合評価がBとなった。また、実施例1~7のサンプルにおいては、湿熱環境に晒された後も接着部材の外観脆化は見られなかった。
【0062】
他方、MFRが0.6g/10分と小さいポリプロピレン系樹脂を用いた比較例1のサンプルにおいては、初期の接着性が不良となった。MFRが720g/10分と大きいポリプロピレン系樹脂を用いた比較例2のサンプルにおいては、初期の接着性は良好であったが、樹脂の融点が低く、湿熱環境で変形しやすいため、湿熱環境に晒されると接着性は低下した。また、比較例2のサンプルにおいては、湿熱環境に晒された後、接着部材の外観脆化も見られた。比較例3のサンプルにおいては、接着部材としてポリエチレン系樹脂を使用した。このため、初期の接着性が不良となった。
【符号の説明】
【0063】
10:燃料電池セルアセンブリ、2:電極部材、20:MEA、21:上側ガス拡散層、22:下側ガス拡散層、210:上側含浸部、220:下側含浸部、30:上側ガスケット、300:リップ部、31:下側ガスケット、310:リップ部、40:第一接着部材、41:第二接着部材、42:第三接着部材、50:セパレータ、80:積層シート、81:ゴムシート、82:接着剤シート、83:接着部、84:サンプル。
図1
図2
図3