(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025003417
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】増粘組成物および製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/281 20160101AFI20241226BHJP
A23L 33/17 20160101ALI20241226BHJP
【FI】
A23L29/281
A23L33/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024100489
(22)【出願日】2024-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2023103663
(32)【優先日】2023-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 孝子
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 輪
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD20
4B018MD90
4B018MF06
4B018MF12
(57)【要約】
【課題】栄養的価値が高い増粘組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】飲食品を嚥下しやすくするために当該飲食品に添加される増粘組成物であって、タンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンを1質量%以上99質量%以下含む増粘組成物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品を嚥下しやすくするために当該飲食品に添加される増粘組成物であって、
タンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンを1質量%以上99質量%以下含む
増粘組成物。
【請求項2】
乾燥体であって、
前記架橋されたゼラチンを50質量%以上99質量%以下含む
請求項1の増粘組成物。
【請求項3】
ゾルゲル状であって、
前記架橋されたゼラチンを1質量%以上60質量%以下含む
請求項1の増粘組成物。
【請求項4】
前記タンパク質架橋酵素は、トランスグルタミナーゼである
請求項1の増粘組成物。
【請求項5】
0.1質量%以上4.0質量%未満の水溶液にした場合に、45℃でせん断速度100s-1における粘度を、45℃でせん断速度10s-1における粘度で除した値が0.1以上0.9以下である
請求項1の増粘組成物。
【請求項6】
前記水溶液の粘度は、45℃でせん断速度50s-1である場合において、100mPa・s以上400mPa・s以下である
請求項5の増粘組成物。
【請求項7】
飲食品を嚥下しやすくするために当該飲食品に添加される増粘組成物を製造する方法であって、
ゼラチンの濃度が1質量%以上60質量%以下であるゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加した後に、当該ゼラチンと当該タンパク質架橋酵素とを反応させる架橋工程を含む
製造方法。
【請求項8】
前記架橋工程においては、前記ゼラチン1gに対して1×10-5ユニット以上30ユニット以下になるように前記ゼラチン溶液に前記タンパク質架橋酵素を添加する
請求項7の製造方法。
【請求項9】
前記ゼラチン溶液は、前記ゼラチンの濃度が10質量%以上60質量%以下であり、
前記架橋工程は、希釈液で希釈しながら行う
請求項7の製造方法。
【請求項10】
前記ゼラチン溶液は、前記ゼラチンの濃度が1質量%以上10質量%未満であり、 前記架橋工程は、反応系が所望する粘度になった時点で前記反応を終了する
請求項7の製造方法。
【請求項11】
前記タンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンを乾燥させる乾燥工程を含む
請求項10の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚥下困難者に用いられる増粘組成物の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における顕著な高齢化の進行により、肺炎による死亡者数が増加している。肺炎患者の7割が75歳以上の後期高齢者であり、さらに高齢者の肺炎のうち7割以上が誤嚥性肺炎であることが先行研究で明らかとなった。誤嚥性肺炎とは、嚥下機能障害により、唾液や食べ物または胃液などと一緒に細菌を誤って気管に流入することで発症する肺炎である。このような誤嚥性肺炎の増加の背景には、誤嚥性肺炎を誘引する疾病や状況の増加がある。特に、筋力が低下した高齢者・後期高齢者、脳梗塞後遺症やパーキンソン病などの神経疾患、または、寝たきりの増加が、誤嚥性肺炎が増加した原因とされている。東京都健康安全研究センターで開発している疾病動向予測システムによると、現状のままでは誤嚥性肺炎による死亡者が2030年には男性77,000人、女性52,000人程度まで増加すると予測されている。したがって、誤嚥性肺炎の予防が強く望まれている。そこで、誤嚥を防止するために、飲食物に混ぜることで嚥下しやすくなる粘度に飲食物を調整するための増粘組成物が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、主成分として難消化性多糖類(デキストリンとキサンタンガム)を含むとろみ付与用組成物が開示されている。しかし、難消化性多糖類は、消化されにくく、エネルギー源になりにくい。とろみ付与用組成物は、飲食物に添加して使用されるため、かさが増してしまう。したがって、特許文献1の技術では、とろみ付与用組成物を飲食物に混ぜることで、とろみ付与用組成物を混ぜる前の飲食物と比較して、同量におけるエネルギー(カロリー)が低下する恐れがある。もし、とろみ付与用組成物を混ぜる前の飲食物と同量のエネルギーを確保しようとすると、より多くの食事摂取量が必要になってくる。しかし、そもそもの食事摂取量が低下してきている高齢者や要介護者などの嚥下困難者にとって、食事摂取量を増やすことは容易ではない。そうすると、とろみ付与用組成物を用いることで、嚥下困難者が食事において必要なエネルギーを摂取することが困難になるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献2では、高カロリーの飲み込みやすさ改善用組成物が提案されている。具体的には、食用油脂を添加することで、高カロリー化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-038291号公報
【特許文献2】特許第6598172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2の技術では、高カロリー化は図れるものの、筋肉、臓器、皮膚やホルモンといった人体を構成する各種の要素の栄養にはなりにくい。すなわち、特許文献2の技術としては、増粘組成物を用いることで利用者が低栄養状態になる恐れがある。誤嚥性肺炎と低栄養との関係をみると、誤嚥による「むせ」に注意するあまりに食事摂取量の低下が起こることで低栄養を招き、さらに低栄養からサルコペニア(筋肉量の低下)が起こり、摂食および嚥下機能に関連する筋肉が衰えて誤嚥性肺炎を招く、という悪循環の関係性にある。誤嚥性肺炎の予防には、十分な栄養を摂取する必要がある。以上の事情を考慮して、本発明では、栄養的価値が高い増粘組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]飲食品を嚥下しやすくするために当該飲食品に添加される増粘組成物であって、タンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンを1質量%以上99質量%以下含む増粘組成物。
【0008】
[2]乾燥体であって、前記架橋されたゼラチンを50質量%以上99質量%以下含む[1]の増粘組成物。
【0009】
[3]ゾルゲル状であって、前記架橋されたゼラチンを1質量%以上60質量%以下含む[1]の増粘組成物。
【0010】
[4]前記タンパク質架橋酵素は、トランスグルタミナーゼである[1]から[3]の何れかの増粘組成物。
【0011】
[5]0.1質量%以上4.0質量%未満の水溶液にした場合に、45℃でせん断速度100s-1における粘度を、45℃でせん断速度10s-1における粘度で除した値が0.1以上0.9以下である[1]から[4]の何れかの増粘組成物。
【0012】
[6]前記水溶液の粘度は、45℃でせん断速度50s-1である場合において、100mPa・s以上400mPa・s以下である[5]の増粘組成物。
【0013】
[7]飲食品を嚥下しやすくするために当該飲食品に添加される増粘組成物を製造する方法であって、ゼラチンの濃度が1質量%以上60質量%以下であるゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加した後に、当該ゼラチンと当該タンパク質架橋酵素とを反応させる架橋工程を含む製造方法。
【0014】
[8]前記架橋工程においては、前記ゼラチン1gに対して1×10-5ユニット以上30ユニット以下になるように前記ゼラチン溶液に前記タンパク質架橋酵素を添加する[7]の製造方法。
【0015】
[9]前記ゼラチン溶液は、前記ゼラチンの濃度が10質量%以上60質量%以下であり、前記架橋工程は、希釈液で希釈しながら行う[7]または[8]の製造方法。
【0016】
[10]前記ゼラチン溶液は、前記ゼラチンの濃度が1質量%以上10質量%未満であり、前記架橋工程は、反応系が所望する粘度になった時点で前記反応を終了する[7]から[9]の何れかの製造方法。
【0017】
[11]前記タンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンを乾燥させる乾燥工程を含む[10]の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る増粘組成物によれば、架橋されたゼラチン(タンパク質源)を主成分としているから、栄養的価値を高くすることができる。すなわち、誤嚥(誤嚥性肺炎)の予防と低栄養の予防とを両立することができる。本発明に係る製造方法によれば、栄養的価値が高い増粘組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1-1,1-2についてトランスグルタミナーゼと反応させたゼラチン溶液の複素粘度の経時変化を示すグラフである。
【
図2】実施例1-1および比較例1~5の増粘組成物100gにおけるタンパク質の含有量を示すグラフである。
【
図3】実施例1-1および比較例5の増粘組成物について、消化による粘度の変化を示すグラフである。
【
図4】実施例1-1の増粘組成物についてせん断速度と粘度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例1-1,2~6の増粘組成物について温度と複素粘度との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例1-2,7,8の増粘組成物について温度と複素粘度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る増粘組成物は、誤嚥を防止するために使用される組成物である。具体的には、増粘組成物は、飲食物に添加して粘度を調整することで、嚥下を容易にする(すなわち誤嚥を防止する)ために用いられる。
【0021】
ここで、従来の増粘組成物は、難消化性多糖類を主成分とする組成物(例えば特許文献1)や、食用油脂を添加した組成物(例えば特許文献2)であった。しかし、従来の増粘組成物は栄養的価値が低く、摂取する利用者に十分な栄養を供給することが困難であった。食事摂取量が低下してきている高齢者や要介護者にとって、増粘剤自体に栄養的価値を持たせることは非常に重要である。サルコペニアが起こりがちな高齢者や要介護者にとっては、特に人体を構成する各種の要素の栄養になるタンパク質を十分に摂取することが求められる。そこで、本発明の発明者らは、タンパク質由来であって、かつ、消化・吸収が可能な増粘組成物を発明した。
【0022】
日常的に摂取できるタンパク質としては、例えばゼラチンがあげられる。ゼラチンは、脊椎動物にもっとも多く含まれるタンパク質であるコラーゲンの熱変性物であり、無味無臭であることから各種の食品に広く利用されている。しかしながら、口腔内温度へ上昇すると粘度が著しく低下するという特徴がある。したがって、嚥下を容易にするための増粘組成物でゼラチンを主成分としたものはいまだ開発されていなかった。このような現状に対して、本発明の発明者らは、架橋構造を有するゼラチン(以下「架橋ゼラチン」と表記する)が増粘組成物として利用できることを見出した。以下、本発明に係る増粘組成物を詳述する。
【0023】
本発明に係る増粘組成物は、架橋ゼラチンを主成分とする。具体的には、架橋ゼラチンは、ゼラチンの分子内および分子間の少なくとも一方が、後述するタンパク質架橋酵素により架橋されたゼラチンである。架橋ゼラチンの原料となるゼラチンは、一般的に食品に利用可能なゼラチンであれば特に限定されず、牛や豚などの動物由来やサメやタラなどの魚由来のゼラチンが利用できる。
【0024】
本発明の増粘組成物は、架橋ゼラチンを1質量%以上99質量%以下含む。
【0025】
増粘組成物は、飲食物に直接的に添加してもよいし、水分に添加して希釈した後に飲食物に添加してもよい。なお、増粘組成物は、消費者庁が許可するとろみ調整用食品とする場合には、実際に使用する場面において、例えば0.1質量%以上4.0質量%未満の濃度になるようにして用いる。
【0026】
本発明の増粘組成物には、ゾルゲル状である場合と乾燥体である場合との双方の態様が含まれる。以下、ゾルゲル状の増粘組成物を「ゾルゲル組成物」と表記し、乾燥体の増粘組成物を「乾燥組成物」と表記する。ゾルゲル組成物と乾燥組成物とに分けて詳述する。
【0027】
[ゾルゲル組成物]
ゾルゲル組成物は、架橋ゼラチンと水分とを含む。ゾルゲル組成物は、ゾルとゲルとの中間の状態にある。ゾルは、架橋ゼラチン(コロイド粒子)が水分中に分散していて流動性がある状態である。一方で、ゲルは、架橋ゼラチン(コロイド粒子)が網目構造を持ち、その網目構造中に水分が閉じ込められていて流動性がない状態である。
【0028】
ゾルゲル組成物中の架橋ゼラチンの含有量は、例えば1質量%以上60質量%以下であり、好ましくは3質量%以上50質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以上30質量%以下である。ゾルゲル組成物中の架橋ゼラチンの含有量が以上の範囲内にあることで、十分なタンパク質量を確保しつつ、飲食物に添加した際に嚥下に適した粘度にすることができる。
【0029】
ゾルゲル組成物中の水分の含有量は、例えば40質量%以上99質量%以下であり、好ましくは60質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上90質量%以下である。ゾルゲル組成物中の水分の含有量が以上の範囲内にあることで、飲食物に添加した際に嚥下に適した粘度にすることができる。
【0030】
なお、ゾルゲル組成物中の架橋ゼラチンの含有量については、例えば、タンパク質の定量試験としてケルダール法を用い、窒素の定量を行って窒素-タンパク質換算係数を用いてタンパク質量を算出して、そこから推測できる。ゾルゲル組成物中の水分の含有量については、例えば減圧乾燥法やカールフィッシャー法で測定することができる。
【0031】
ゾルゲル組成物100gにおけるタンパク質量は、例えば1g以上であり、好ましくは10g以上であり、上限値は特に限定されない。
【0032】
[乾燥組成物]
乾燥組成物は、当該乾燥組成物中の水分の含有量が20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。なお、乾燥組成物中の水分の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば5質量%以上である。乾燥組成物は、典型的には粉末状が想定される。粉末状の乾燥組成物の平均粒子径は、例えば20μm以上2000μm以下である。平均粒子径は、例えば、レーザ回折散乱法に基づいて測定される体積基準での平均径である。ただし、乾燥組成物は、粉末状でなくてもよい。
【0033】
乾燥組成物中の架橋ゼラチンの含有量は、例えば50質量%以上99質量%以下であり、好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上90質量%以下である。乾燥組成物中の架橋ゼラチンの含有量が以上の範囲内にあることで、十分なタンパク質量を確保しつつ、飲食物に添加した際に嚥下に適した粘度にすることができる。
【0034】
乾燥組成物中の架橋ゼラチンの含有量については、例えば、タンパク質の定量試験としてケルダール法を用い、窒素の定量を行って窒素-タンパク質換算係数を用いてタンパク質量を算出して、そこから推測できる。乾燥組成物中の水分含有量については、例えば、減圧乾燥法やカールフィッシャー法で測定することができる。
【0035】
乾燥組成物100gにおけるタンパク質量は、例えば70g以上であり、80g以上であることが好ましく、上限値は特に限定されない。
【0036】
以上の説明では、増粘組成物の態様がゾルゲル状と乾燥体である場合を例示したが、本発明に係る増粘組成物は、飲食品に添加することが可能であり、本発明の効果が損なわなければ、ゾルゲル状および乾燥体には限定されない。
【0037】
以下、増粘組成物の態様に関わらず有する特徴について言及する。増粘組成物を0.1質量%以上4.0質量%未満の水溶液にした場合に、45℃でせん断速度100s-1における粘度を、45℃でせん断速度10s-1における粘度で除した値[せん断速度100s-1における粘度/せん断速度10s-1における粘度]は、例えば0.1以上0.9以下であり、好ましくは0.4以上0.6以下である。
【0038】
[せん断速度100s-1における粘度/せん断速度10s-1における粘度]が上記の範囲内であると、嚥下に適したシアシニング性を示すと言える。シアシニング性は、せん断速度の増加に伴い粘度が低下する特性を言う。なお、増粘組成物を1.5質量%の水溶液にしたときに、[せん断速度100s-1における粘度/せん断速度10s-1における粘度]が上記の範囲内であることが、シアシニング性の観点からはより好ましい。
【0039】
増粘組成物の濃度が0.1質量%以上4.0質量%未満である水溶液の粘度は、45℃でせん断速度50s-1である場合において、例えば100mPa・s以上400mPa・s以下である。水溶液の粘度が上記の範囲内にあることで、消費者庁が示すとろみ調整用食品として表示が許可される基準を満足することができる。なお、せん断速度50s-1は、嚥下のせん断速度とされている値である。
【0040】
増粘組成物の水溶液の粘度は、所望するせん断速度における粘度を測定できる測定装置(回転粘度計)を用いて測定することができる。
【0041】
本発明に係る増粘組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、架橋ゼラチン以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、飲食品に使用される成分であれば特に限定されず、例えば、砂糖、グラニュー糖、食塩、醤油、油脂、動植物由来のエキス、加工澱粉、増粘剤(例えばキサンタガム、グアーガムペクチン)、ミネラル類(例えば鉄、亜鉛、カルシウム、銅、マグネシウム)、各種アミノ酸、各種ビタミン、酸化防止剤、静菌剤、香辛料、色素等が挙げられる。さらに、増粘組成物は、架橋反応で消費しなかったタンパク質架橋酵素が含まれる場合がある。増粘組成物中のその他の成分の含有量は、例えば、ゾルゲル組成物の場合には1質量%以上60質量%以下が想定され、乾燥組成物の場合には50質量%以上99質量%以下が想定される。
【0042】
以下、本発明に係る増粘組成物の製造方法の一例を説明する。
本発明の製造方法は、タンパク質架橋酵素によりゼラチンを架橋する工程(以下「架橋工程」)を含む。
【0043】
ゼラチンを架橋するのに使用されるタンパク質架橋酵素は、食品に利用可能な酵素であれば特に限定されず、例えば、トランスグルタミナーゼやリジルオキシダーゼ(リシンオキシダーゼ)などを用いることができる。トランスグルタミナーゼをタンパク質架橋酵素として用いる場合には、ゼラチンの分子内または分子間のグルタミン残基とリジン残基との間にイソペプチド結合を形成することで、ゼラチンが架橋される。リジルオキシダーゼをタンパク質架橋酵素として用いる場合には、ゼラチンのリジン残基内にアルデヒド基を形成し、当該アルデヒド基がゼラチン内のアミノ基と反応することで、ゼラチンが架橋される。なお、ポリフェノールオキシダーゼ(チロシナーゼ)、ラッカーゼまたはペルオキシダーゼをタンパク質架橋酵素として使用してもよい。なお、誤嚥を防止する増粘組成物としての機能を十分に高める観点からは、タンパク質架橋酵素としてトランスグルタミナーゼを用いることが好ましい。トランスグルタミナーゼの種類は、特に限定されず、一般に市販されているものが利用できる。
【0044】
架橋工程は、ゼラチンとタンパク質架橋酵素とを反応させることで、ゼラチンを架橋する工程である。具体的には、ゼラチンの濃度が1質量%以上60質量%以下であるゼラチン溶液に、ゼラチン1gに対して、例えば1×10-5ユニット以上30ユニット以下になるようにタンパク質架橋酵素を添加する。以上のようにゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加することで、ゼラチンを十分に架橋することができる。なお、タンパク質架橋酵素の活性値の測定方法には、公知の任意の方法が採用され、例えば特開2023-066140号公報に記載の方法が採用される。
【0045】
まず、架橋工程の前準備として、ゼラチンを水に溶解させてゼラチン溶液を準備する。なお、ゼラチン溶液は、pH調整剤を添加することで、タンパク質架橋酵素の最適pHになるようにすることが好ましい。そして、ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加する。ゼラチン1gに対して、例えば1×10-5ユニット以上30ユニット以下になるように、ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素が添加される。
【0046】
そして、架橋工程では、ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加した後に、タンパク質架橋酵素の至適温度(最適温度)に加熱することで、ゼラチンとタンパク質架橋酵素とを反応させる。例えば、トランスグルタミナーゼをタンパク質架橋酵素として用いる場合には、45~60℃(好ましくは50~55℃)に加熱する。
【0047】
架橋工程は、架橋反応が進行するほど粘度が上昇するため、反応系(ゼラチン溶液とタンパク質架橋酵素との混合物)が完全にゲル化する前に終了する。
【0048】
架橋工程を終了させる方法には、公知の任意の方法が採用できる。例えば、酵素を失活または反応を停止させることで、架橋工程が終了される。酵素を失活させる処理としては、例えば、タンパク質架橋酵素の至適温度の範囲外の温度になるように加熱する処理、タンパク質架橋酵素の最適pHの範囲外にpHを変化させる処理、などが例示される。一方で、反応を停止させる処理としては、例えば、酵素阻害剤を添加する処理などが例示される。なお、ゼラチンが十分に架橋しきった場合にも反応が停止する。
【0049】
以下の説明では、製造方法の具体例(製造方法1~3)を詳述する。ただし、本発明に係る製造方法は、以下の製造方法1~3には限定されない。
【0050】
[製造方法1]
製造方法1では、架橋工程において使用するゼラチン溶液のゼラチンの濃度が低い(例えば1質量%以上10質量%未満である)場合を想定する。
【0051】
具体的には、製造方法1の架橋工程では、ゼラチンを十分に架橋する観点から、ゼラチン1gに対して、例えば1×10-5ユニット以上30ユニット以下、好ましくは0.2ユニット以上12ユニット以下になるように、ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加する。
【0052】
製造方法1では、架橋工程において反応系が所望する粘度(以下「目的粘度」という)になった時点で、ゼラチンとタンパク質架橋酵素との反応(架橋反応)を終了する。目的粘度は、例えば、消費者庁によるとろみ調製用食品の許可基準を踏まえて、45℃でせん断速度50s-1である場合において、100mPa・s以上400mPa・s以下である。反応系内を均一にし、目的粘度に調整する観点からは、架橋工程において用いるゼラチン溶液の濃度は、好ましくは1質量%以上7質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上5質量%以下である。
【0053】
製造方法1において、架橋工程を終了する方法には、上述した、タンパク質架橋酵素を失活させる処理や反応を停止させる処理が用いられる。例えば、加熱(例えば80~100℃で10~15分間加熱)によりタンパク質架橋酵素を失活させることで、架橋工程を終了する。製造方法1では、ゾルゲル状の増粘組成物(ゾルゲル組成物)が得られる。
【0054】
ここで、架橋ゼラチンを増粘組成物に用いると、実際に飲食物に増粘組成物を使用する場合に、室温(約20℃)まで温度が低下すると凝固しやすい場合がある。以上の事情を考慮して、製造方法2および製造方法3では、室温でも凝固しくい増粘組成物を得るための方法を例示する。
【0055】
[製造方法2]
製造方法2では、製造方法1における架橋工程で得られたゾルゲル組成物を乾燥させることで、乾燥組成物を得る。
【0056】
具体的には、製造方法2は、製造方法1における架橋工程の後に乾燥工程を含む。乾燥工程は、架橋ゼラチンを乾燥させる工程である。具体的には、乾燥工程では、製造方法1の架橋工程で得られたゾルゲル組成物を、例えば50~60℃で12~36時間加熱することで、乾燥組成物を得る。乾燥工程で得られた乾燥組成物は、所望する形状(例えば粉末状など)に調製される。
【0057】
製造方法2で得られた増粘組成物(乾燥体)を溶解させた水溶液は、室温になっても凝固しにくいという利点がある。なお、室温になっても凝固しにくくなる要因は、まだ明らかになっていないが、乾燥過程で基質(ゼラチン)の濃度が上昇する中、一部の活性が残存していたトランスグルタミナーゼが働くことで架橋ゼラチンにおける性質が変化(分子間架橋が増加)することにあると推測される。
【0058】
[製造方法3]
製造方法3では、架橋工程において使用するゼラチン溶液のゼラチンの濃度が高い(例えば10質量%以上60質量%以下である)場合を想定する。
【0059】
具体的には、製造方法3の架橋工程では、ゼラチンを十分に架橋する観点から、ゼラチン1gに対して、例えば1×10-5ユニット以上30ユニット以下、好ましくは1×10-5ユニット以上5ユニット以下、より好ましくは1×10-3ユニット以上0.1以下になるように、ゼラチン溶液にタンパク質架橋酵素を添加する。
【0060】
そして、製造方法3の架橋工程は、反応系を希釈液で希釈しながら行う。希釈液としては、例えば、水や水溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)が用いられ、架橋反応を阻害しないものが好ましい。なお、希釈液は、食品に利用可能な各種の添加剤を含んでもよい。
【0061】
希釈液による希釈は、例えば反応系におけるゼラチンの濃度が目的となる濃度(以下「目的濃度」という)になるまで行う。目的濃度は、例えば0.1質量%以上20質量%未満、0.5質量%以上15質量%未満、1.0質量%以上6質量%以下、1.0質量%以上4.5質量%以下、1.1質量%以上4.0質量%以下、1.2質量%以上3.7質量%以下、1.3質量%以上3.0質量%以下、1.0質量%以上2.5質量%以下の順番で好ましい範囲である。
【0062】
架橋反応が進行するとゼラチン分子同士の架橋を形成できる部位が消費されきることから、架橋反応が停止する。ただし、ゼラチンの濃度が目的濃度に到達した時点で、上述したような架橋反応を終了させる処理を行ってもよい。ゼラチン1gに対するタンパク質架橋酵素の添加量(ユニット)は、採用する製造方法に応じて、適宜に変更される。例えば、製造方法3のように時間をかけて反応させる場合には、製造方法1と比較すると酵素添加量が少なくてもよいことが多い。
【0063】
なお、製造方法3の後に、架橋工程で得られたゾルゲル組成物を乾燥させる乾燥工程を含んでもよい。製造方法3の乾燥工程は、架橋工程で得られたゾルゲル組成物を、例えば50~60℃で12~36時間加熱する。
【0064】
製造方法3で得られた増粘組成物は、室温になっても凝固しにくいという利点がある。なお、製造方法3で得られた増粘組成物が室温になっても凝固しにくくなる要因は、基質(ゼラチン)濃度を高めたことで、架橋ゼラチンの分子間架橋が多く形成できたことと推測される。ただ、基質が高濃度であると、架橋反応の途中で粘度が上昇して、反応系内が不均一となる可能性がある。一方で、製造方法3では、反応系を希釈しながら架橋反応を行うことで、粘度の上昇を抑制しつつ、分子間架橋を多く形成できると推測できる。室温以下になっても凝固しにくいという効果をより顕著にする観点からは、製造方法3において、ゼラチン溶液の濃度(希釈前)は、好ましくは10質量%以上55質量%以下であり、より好ましくは10質量%以上50質量%以下であり、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下であり、特に好ましくは20質量%以上40質量%以下であり、最も好ましくは25質量%以上35質量%以下である。なお、目的濃度についても上述した範囲内とすることで、室温以下になっても凝固しにくいという効果がより顕著になる。
【0065】
以上の説明から理解される通り、本発明に係る増粘組成物は、架橋ゼラチン(タンパク質源)を主成分としていることから、栄養的価値を高くすることができる。すなわち、誤嚥(誤嚥性肺炎)と低栄養との予防を両立することができる。
【実施例0066】
実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明は実施例には限定されない。
【0067】
[実施例1-1]
架橋ゼラチン(牛骨由来)の含有量が3.5質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)を得た。具体的には、以下の通り製造した。
【0068】
牛骨由来のゼラチンニューシルバー(新田ゼラチン)を3.5質量%となるようにリン酸緩衝生理食塩水に溶解させた。このゼラチン水溶液に1質量%程度のトランスグルタミナーゼを含む組成物であるアクティバTG-S(味の素)を4mg/mL(トランスグルタミナーゼ0.4ユニット/mL相当)となるように添加した。すなわち、ゼラチン1gに対して、11ユニットのトランスグルタミナーゼを添加したと言える。50℃に設定した恒温水槽中に設置し、電動攪拌機で200回転/分の速度で攪拌しながら120分架橋反応を行った。その後、100℃で15分加熱した。
【0069】
[実施例1-2]
架橋ゼラチン(魚由来)の含有量が3.5質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)を得た。具体的には、以下の通り製造した。
魚由来のフィッシュゼラチン(新田ゼラチン)を3.5質量%となるようにリン酸緩衝生理食塩水に溶解させた。このゼラチン水溶液に1質量%程度のトランスグルタミナーゼを含む組成物であるアクティバTG-S(味の素)を4mg/mL(トランスグルタミナーゼ0.4ユニット/mL相当)となるように添加した。すなわち、ゼラチン1gに対して、11ユニットのトランスグルタミナーゼを添加したと言える。50℃に設定した恒温水槽中に設置し、電動攪拌機で200回転/分の速度で攪拌しながら60分架橋反応を行った。その後、100℃で15分加熱した。
【0070】
実施例1-1および実施例1-2の増粘組成物における架橋ゼラチンの含有量は、3.5質量%である。増粘組成物中の架橋ゼラチンの含有量は、3.5質量%ゼラチン溶液中のほぼ全てのゼラチンが架橋したと考えられるので、架橋ゼラチンの含有量は3.5質量%とした。
【0071】
図1は、実施例1-1と実施例1-2とについて、トランスグルタミナーゼと反応させたゼラチン溶液の粘度の経時変化を示すグラフである。
図1に例示される通り、反応が進む(架橋が進む)につれて、粘度が増加することが把握できる。
【0072】
図2は、実施例1-1および比較例1~5の増粘組成物100gにおけるタンパク質の含有量を示すグラフである。比較例1~5の詳細は以下の通りである。
比較例1(でん粉系):「ムースアップ」ヘルシーフード株式会社
比較例2(グアーガム系):「トロミアップエース」日清オイリオグループ株式会社
比較例3(グアーガム系):「ハイトロミール」株式会社フードケア
比較例4(キサンタンガム系):「つるりんこQuickly」株式会社クリニコ
比較例5(キサンタンガム系):「トロミアップパーフェクト」日清オイリオグループ株式会社
なお、比較例1~5のタンパク質量は、成分表示に従った。実施例1-1は、使用したゼラチンの成分表示に従って、ゼラチン100g中のタンパク質量を89.0gとした。
【0073】
図2に示される通り、実施例1-1は、比較例1~5と比較して、タンパク質の含有量が非常に高いことが把握できる。
【0074】
実施例1-1と比較例5の増粘組成物について、消化による粘度の変化を調べた。具体的には、まず、増粘組成物に胃で分泌される消化酵素(ブタ胃由来ペプシン、富士フイルム和光純薬)を添加して、37℃で30分間保持して粘度を測定した後に、腸で分泌される消化酵素(ブタ膵臓由来パンクレアチン、富士フイルム和光純薬)をさらに添加して37℃で30分間保持した後に粘度を測定した。その結果を
図3に示す。
【0075】
図3に示される通り、実施例1-1は、比較例5と比較して、胃の消化酵素と腸の消化酵素との反応により粘度が大きく低下することが確認できた。すなわち、実施例1-1は、比較例5と比較して、消化されやすく、栄養として吸収されやすいと言える。
【0076】
図4は、実施例1-1について、せん断速度と粘度との関係を示すグラフである。なお、粘度は45℃で測定した。実施例1-1について、せん断速度100s
-1における粘度(B)を、せん断速度10s
-1における粘度(A)で除した値(B/A)が0.4であった。したがって、消費者庁が許可するとろみ調整用食品にも十分に適していることが確認できた。なお、
図1~
図4について、粘度は、動的粘弾性測定器(MCR302:アントンパールジャパン)で測定した。
【0077】
[実施例2]
実施例2の増粘組成物は、実施例1-1の増粘組成物を乾燥させることで得た。具体的には、実施例1-1の増粘組成物を55℃で24時間、定温乾燥器を用いて乾燥させた。そして、架橋ゼラチンの含有量が80質量%以上90質量%以下と推定される増粘組成物(乾燥体)を得た。
【0078】
[実施例3]
架橋ゼラチン(牛骨由来)の含有量が4質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)を得た。具体的には、以下の通り製造した。
【0079】
牛骨由来のゼラチンニューシルバー(新田ゼラチン)を30質量%となるようにリン酸緩衝生理食塩水に溶解させた。このゼラチン水溶液に1質量%程度のトランスグルタミナーゼを含む組成物であるアクティバTG-S(味の素)を40μg/mL(トランスグルタミナーゼ0.004ユニット/mL相当)となるように添加した。すなわち、ゼラチン1gに対して、1.3×10-2ユニットのトランスグルタミナーゼを添加したと言える。50℃に設定した恒温水槽中に設置し、電動攪拌機で200回転/分の速度で攪拌しながら架橋反応を行った。架橋反応の途中の任意のタイミングで、アクティバTG-Sを40μg/mL含んだリン酸生理食塩水を系内に添加する操作を行った。
【0080】
そして、反応系においてゼラチンの濃度が4.0質量%となった時点で、リン酸緩衝生理食塩水による希釈を終了した。
【0081】
[実施例4]
実施例4の増粘組成物は、架橋ゼラチンの含有量が3.5質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)である。リン酸緩衝生理食塩水による希釈をゼラチンの濃度が3.5質量%となった時点で終了した以外は、実施例3と同様の方法で製造した。
【0082】
[実施例5]
実施例5の増粘組成物は、架橋ゼラチンの含有量が2.5質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)である。リン酸緩衝生理食塩水による希釈をゼラチンの濃度が2.5質量%となった時点で終了した以外は、実施例3と同様の方法で製造した。
【0083】
[実施例6]
実施例6の増粘組成物は、架橋ゼラチンの含有量が1.7質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)である。リン酸緩衝生理食塩水による希釈をゼラチンの濃度が1.7質量%となった時点で終了した以外は、実施例3と同様の方法で製造した。
【0084】
図5は、実施例1-1,2~6の増粘組成物について温度と複素粘度との関係を示すグラフである。なお、実施例2については、1.5質量%になるよう、50℃で加温しながら溶かした水溶液について測定した。
【0085】
図5に示される通り、全ての実施例1-1,2~6において、温度が低下するにつれて粘度は上昇する傾向はみられるが、これらの中でも実施例2,4~6は室温(20℃)まで温度が低下しても粘度が上昇しにくいことが確認できた。したがって、実施例2,4~6は、例えば食事中に増粘組成物を添加した飲食物の温度が室温に低下した場合であっても、嚥下を補助する機能を十分に維持できるという利点がある。架橋反応を希釈しながら行った実施例3~6に着目すると、これらの中でも実施例4~6が室温まで温度が低下しても粘度が上昇しにくいという効果が顕著であった。なお、
図5において、粘度は動的粘弾性測定器(HAAKE MARS60:サーモフィッシャーサイエンティフィック)で測定した。
【0086】
[実施例7]
架橋ゼラチン(魚由来)の含有量が4質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)を得た。具体的には、以下の通り製造した。
【0087】
魚由来のフィッシュゼラチン(新田ゼラチン)を50質量%となるようにリン酸緩衝生理食塩水に溶解させた。このゼラチン水溶液に1質量%程度のトランスグルタミナーゼを含む組成物であるアクティバTG-S(味の素)を40μg/mL(トランスグルタミナーゼ0.004ユニット/mL相当)となるように添加した。すなわち、ゼラチン1gに対して、1.3×10-2ユニットのトランスグルタミナーゼを添加したと言える。50℃に設定した恒温水槽中に設置し、電動攪拌機で200回転/分の速度で攪拌しながら架橋反応を行った。架橋反応の途中の任意のタイミングで、アクティバTG-Sを40μg/mL含んだリン酸生理食塩水を系内に添加する操作を行った。
そして、反応系においてゼラチンの濃度が4.0質量%となった時点で、リン酸緩衝生理食塩水による希釈を終了した。
【0088】
[実施例8]
実施例8の増粘組成物は、架橋ゼラチンの含有量が3.5質量%の増粘組成物(ゾルゲル状)である。リン酸緩衝生理食塩水による希釈をゼラチンの濃度が3.5質量%となった時点で終了した以外は、実施例7と同様の方法で製造した。
【0089】
図6は、実施例1-2,7,8の増粘組成物について温度と複素粘度との関係を示すグラフである。
図6に示される通り、架橋反応を希釈しながら行った実施例7,8(特に実施例8)は、実施例1-2と比較して、室温(20℃)まで温度が低下しても粘度が上昇しにくいことが確認できた。したがって、実施例7,8は、例えば食事中に増粘組成物を添加した飲食物の温度が室温に低下した場合であっても、嚥下を補助する機能を十分に維持できるという利点がある。なお、
図6において、粘度は、動的粘弾性測定器(HAAKE MARS60:サーモフィッシャーサイエンティフィック)で測定した。