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特開2025-34514眼科装置、眼底撮影距離の決定方法、プログラム、及び記録媒体
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  • 特開-眼科装置、眼底撮影距離の決定方法、プログラム、及び記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034514
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】眼科装置、眼底撮影距離の決定方法、プログラム、及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/14 20060101AFI20250306BHJP
   A61B 3/11 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
A61B3/14
A61B3/11
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023140931
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100124626
【弁理士】
【氏名又は名称】榎並 智和
(72)【発明者】
【氏名】田中 恭平
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AA28
4C316AB16
4C316AB19
4C316FA07
4C316FB21
4C316FC01
4C316FY03
4C316FY06
(57)【要約】
【課題】スリットスキャン方式の眼底撮影においてフレアの無い画像を取得する。
【解決手段】実施形態に係る眼科装置1の撮影部2は、光スキャナー30を介して照明光を眼底Efに投射し、ローリングシャッターモードで動作可能なイメージセンサー51で戻り光を検出する。画像解析部421は、眼底Efの画像を解析して輝度パラメータ値を求める。瞳孔径データ取得部422は、被検眼Eの瞳孔径データを取得する。制御量決定部423は、画像解析部421により求められた輝度パラメータ値と、瞳孔径データ取得部422により取得された瞳孔径データとに基づいて、被検眼Eと撮影部2との間の距離の制御量を決定する。移動制御部424は、この制御量に基づいて移動機構3を制御する。これにより、被検眼Eと撮影部2との間の距離の調整がなされる。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射する照明光学系と、前記照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能な第1のイメージセンサーで検出する撮影光学系とを含む撮影部と、
前記撮影部を移動する移動機構と、
前記眼底の画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求める画像解析部と、
前記被検眼の瞳孔径データを取得する瞳孔径データ取得部と、
前記画像解析部により求められた前記輝度パラメータの前記値と、前記瞳孔径データ取得部により取得された前記瞳孔径データとに基づいて、前記被検眼と前記撮影部との間の距離の制御量を決定する制御量決定部と、
前記制御量決定部により決定された前記制御量に基づいて前記移動機構を制御する移動制御部と
を含む、眼科装置。
【請求項2】
前記照明光学系は、前記眼底に赤外照明光を投射可能であり、
前記第1のイメージセンサーは、更に、グローバルリセットリリースシャッターモードで動作可能であり、
前記撮影部は、前記赤外照明光と前記グローバルリセットリリースシャッターモードでの撮影とを用いて前記眼底の第1の赤外画像を取得し、
前記画像解析部は、前記第1の赤外画像を解析して前記輝度パラメータの前記値を求める、
請求項1の眼科装置。
【請求項3】
前記光スキャナーは、前記赤外照明光の投射位置を移動し、
前記撮影部は、前記赤外照明光の移動起点側に発生する第1の高輝度領域及び移動終点側に発生する第2の高輝度領域の双方が描出された前記第1の赤外画像が取得されるタイミングで前記撮影を実行する、
請求項2の眼科装置。
【請求項4】
前記照明光学系は、前記眼底に赤外照明光を投射可能であり、
前記撮影光学系は、グローバルシャッター型の第2のイメージセンサーを更に含み、
前記撮影部は、前記赤外照明光と前記第2のイメージセンサーとを用いて前記眼底の第2の赤外画像を取得し、
前記画像解析部は、前記第2の赤外画像を解析して前記輝度パラメータの前記値を求める、
請求項1の眼科装置。
【請求項5】
前記輝度パラメータは、前記眼底の前記画像における最大輝度、及び、前記眼底の前記画像における高輝度領域の態様を示すパラメータの少なくとも一方を含む、
請求項1の眼科装置。
【請求項6】
前記制御量決定部は、前記画像解析部により求められた前記輝度パラメータの前記値と既定の第1の閾値との比較の結果に基づいて前記制御量を決定する、
請求項1の眼科装置。
【請求項7】
前記移動制御部は、少なくとも前記眼底の前記画像の取得よりも前に、前記被検眼に対する前記撮影部の相対位置を調整するための前記移動機構の制御を実行し、
前記制御量決定部は、前記輝度パラメータの前記値が前記第1の閾値以上である場合にのみ、前記制御量の決定を実行する、
請求項6の眼科装置。
【請求項8】
予め取得された眼底画像データセットの最大輝度値分布を求め、前記最大輝度値分布に基づいて前記第1の閾値を決定する輝度閾値決定部を更に含み、
前記制御量決定部は、前記輝度パラメータの前記値と前記輝度閾値決定部により決定された前記第1の閾値との比較の結果に基づいて前記制御量を決定する、
請求項6の眼科装置。
【請求項9】
前記輝度閾値決定部は、前記最大輝度値分布の重み付きF値を算出し、前記重み付きF値に基づいて前記第1の閾値を決定する、
請求項8の眼科装置。
【請求項10】
前記輝度閾値決定部は、前記最大輝度値分布に基づいて少なくとも2つの第1の閾値を決定し、
前記制御量決定部は、前記少なくとも2つの第1の閾値から1つの第1の閾値を選択し、前記輝度パラメータの前記値と前記1つの第1の閾値との比較の結果に基づいて前記制御量を決定する、
請求項8の眼科装置。
【請求項11】
前記制御量決定部は、前記瞳孔径データの値の大きさに基づいて前記制御量を決定する、
請求項1の眼科装置。
【請求項12】
前記制御量決定部は、前記瞳孔径データの前記値の前記大きさに基づいて、前記照明光学系により前記眼底に投射される前記照明光の周辺光量の低下が既定の第2の閾値以下になるように前記制御量を決定する、
請求項11の眼科装置。
【請求項13】
前記制御量決定部は、瞳孔径値の2つ以上の範囲のそれぞれに制御量の値が割り当てられた既定の制御量情報から、前記瞳孔径データの前記値の前記大きさに対応する制御量の値を取得し、
前記移動制御部は、前記制御量情報から取得された前記制御量の前記値に基づいて前記移動機構を制御する、
請求項11の眼科装置。
【請求項14】
眼と前記撮影部との間の距離と、照明光の周辺光量の低下と、眼底画像に高輝度領域が発生する確率と、瞳孔径値との間の関係に基づいて、前記制御量情報を生成する制御量情報生成部を更に含む、
請求項13の眼科装置。
【請求項15】
前記制御量情報生成部は、前記瞳孔径値の前記2つ以上の範囲のそれぞれについて、前記照明光の前記周辺光量の前記低下が既定の第2の閾値以下になるように、当該範囲に割り当てられる制御量の値を決定する、
請求項14の眼科装置。
【請求項16】
前記制御量決定部は、前記輝度パラメータの前記値に基づいて前記制御量の決定を実行するか否か判断し、前記制御量の前記決定を実行すると判断された場合に前記瞳孔径データに基づいて前記制御量を決定する、
請求項1の眼科装置。
【請求項17】
前記画像解析部は、前記移動制御部により前記被検眼と前記撮影部との間の前記距離が拡大された後に取得された前記眼底の新たな画像を解析して前記輝度パラメータの新たな値を求め、
前記制御量決定部は、前記輝度パラメータの前記値と前記新たな値との比較の結果に基づいて新たな制御量を決定し、
前記移動制御部は、前記新たな制御量に基づいて前記移動機構を制御する、
請求項1の眼科装置。
【請求項18】
光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射し、前記照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能なイメージセンサーで検出するように構成された撮影部を含む眼科装置を用いた眼底撮影のために、前記被検眼と前記撮影部との間の距離を決定する方法であって、
前記眼底の画像を取得し、
前記眼底の前記画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求め、
前記被検眼の瞳孔径データを取得し、
前記輝度パラメータの前記値と前記瞳孔径データとに基づいて前記距離を決定する、
方法。
【請求項19】
請求項18の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項20】
請求項19のプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置、眼底撮影距離の決定方法、プログラム、及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
眼底撮影は、眼科診断のための強力且つ一般的な手法の1つであり、眼底カメラや走査型レーザー検眼鏡(SLO)を用いて実施されている。特許文献1に開示されている眼底撮影モダリティは、スリット光を用いて眼底を照明し、その戻り光をローリングシャッター型の撮像装置(例えば、ローリングシャッター型のCMOSイメージセンサー)で検出することによって眼底画像を生成するように構成されている。この眼底撮影モダリティは、眼底に対するスリット光の投射位置の移動と撮像装置による戻り光の検出(撮影)とを同期的に繰り返して複数の画像を収集し、これら画像を合成することによって、簡素な構成で眼底画像を取得することを可能にするものである。このような眼底撮影モダリティはスリットスキャンなどと呼ばれている。
【0003】
スリットスキャンで生成される画像にはフレアが発生する場合があることや、フレアの除去や低減には照明光量を低下することが一般に有効であることが知られている。また、スリットスキャンにおいては、照明光量と撮影時間とが互いにトレードオフの関係にあるため、照明光量の低下に伴う撮影時間の延長によって固視微動の発生可能性が高まること、逆に、撮影時間の短縮に伴う照明光量の増加によってフレアの発生可能性が高まることが知られている。更に、フレアの発生可能性は被検眼ごとに異なるため、被検眼ごとに対処する必要があることが知られている。なお、フレアは、被検眼からの戻り光(例えば、角膜反射光)が光学素子により反射及び散乱されることによって生じる不要光の像である。
【0004】
特許文献2には、これら事項の説明とともに、被検眼の赤外眼底像に基づきフレアの発生の有無を判定してスリットスキャンのための条件制御を行うように構成された眼科装置が開示されている。この条件制御は、照明光学系に設けられている光束制限部材(スリット、虹彩絞り)の制御、撮影光学系に設けられている光束制限部材(撮影絞り)の制御、照明光量の制御、及び、撮影時間(イメージセンサーの露光時間)の制御のいずれかを含んでいる。
【0005】
眼底撮影に使用される眼科装置の多くは、被検眼に対する光学系の自動位置合わせ(オートアライメント)を撮影前に実行するように構成されている。例えば、特許文献3に記載されている眼科装置は、被検眼に対するオートアライメントと眼底に対するオートフォーカスとを眼底撮影の前に実行している。この従来のオートアライメントは、被検眼の瞳孔の寸法に基づいて上下左右方向(XY方向)のアライメント目標位置を調整することを特徴としている。一方、前後方向(遠近方向、Z方向)のアライメントは、前眼部像のスプリット像を参照した周知の方法で実行される。また、特許文献3には、眼底像中のフレア領域の大きさに基づき被検眼が小瞳孔であると判定された場合にXY方向のアライメント目標位置の調整を自動で開始することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7831106号明細書
【特許文献2】特開2021-145896号公報
【特許文献3】特開2016-185192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の1つの目的は、スリットスキャン方式の眼底撮影においてフレアの無い画像を取得するための新規な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る実施形態の1つの態様は、撮影部と、移動機構と、画像解析部と、瞳孔径データ取得部と、制御量決定部と、移動制御部とを含む、眼科装置である。撮影部は、光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射する照明光学系と、照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能な第1のイメージセンサーで検出する撮影光学系とを含む。移動機構は、撮影部を移動するように構成されている。画像解析部は、被検眼の眼底の画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求めるように構成されている。瞳孔径データ取得部は、被検眼の瞳孔径データを取得するように構成されている。制御量決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値と、瞳孔径データ取得部により取得された瞳孔径データとに基づいて、被検眼と撮影部との間の距離の制御量を決定するように構成されている。移動制御部は、制御量決定部により決定された制御量に基づいて移動機構を制御するように構成されている。
【0009】
本開示に係る実施形態の別の態様は、眼底撮影のために被検眼と撮影部との間の距離を決定する方法である。この眼底撮影は、光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射し、前記照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能なイメージセンサーで検出するように構成された撮影部を含む眼科装置を用いて行われる。本態様の方法は、被検眼の眼底の画像を取得する第1の工程と、第1の工程で取得された画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求める第2の工程と、被検眼の瞳孔径データを取得する第3の工程と、第2の工程で求められた輝度パラメータの値と第3の工程で取得された瞳孔径データとに基づいて被検眼と撮影部との間の距離を決定する第4の工程とを含んでいる。
【0010】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、実施形態に係る方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0011】
本開示に係る実施形態の更に別の態様は、実施形態に係るプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体である。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る実施形態のいくつかの態様によれば、スリットスキャン方式の眼底撮影においてフレアの無い画像を取得するための新規な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例を説明するための概略図である。
図2】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例を説明するための概略図である。
図3】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図4】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図5】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図6】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図7】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図8】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図9A】ローリングシャッター方式のスリットスキャンで取得された、フレアが混入している眼底画像の例である。
図9B】グローバルシャッター方式の撮影で取得された、フレアが混入している眼底画像の例である。
図10】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図11】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例を説明するための概略図である。
図12】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例を説明するための概略図である。
図13】実施形態に係る眼科装置の構成の1つの非限定的な例を説明するための概略図である。
図14】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図15】実施形態に係る眼科装置の動作の1つの非限定的な例について説明するための概略図である。
図16】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の1つの非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
図17】実施形態に係る眼科装置が実行する動作の1つの非限定的な例について説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示に係る実施形態のいくつかの非限定的な態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
本開示に係るいずれかの態様に任意の公知技術を組み合わせることができる。例えば、本明細書で引用する文献に開示されている任意の事項を、本開示に係るいずれかの態様に組み合わせることができる。また、本開示に関連する技術分野における任意の公知技術を、本開示に係るいずれかの態様に組み合わせることができる。例えば、本開示に係るいずれかの態様に対し、本開示に関連する技術又は当該技術に応用可能な技術について本願の出願人により開示された任意の技術事項(特許出願、論文などにおいて開示された事項)を参照によって援用することが可能である。
【0016】
本開示に記載された様々な態様のうちのいずれか2つ以上の態様を、少なくとも部分的に組み合わせることが可能である。
【0017】
本開示において説明される要素の機能の少なくとも一部は、回路構成(circuitry)又は処理回路構成(processing circuitry)を用いて実装される。回路構成又は処理回路構成は、開示された機能の少なくとも一部を実行するように構成及び/又はプログラムされた、汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、従来の回路構成、及びそれらの任意の組み合わせのいずれかを含む。プロセッサは、トランジスタ及び/又は他の回路構成を含む、処理回路構成又は回路構成とみなされる。本開示において、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、開示された機能の少なくとも一部を実行するハードウェア、又は、開示された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されたハードウェアであってよく、或いは、記載された機能の少なくとも一部を実行するようにプログラム及び/又は構成された既知のハードウェアであってもよい。ハードウェアが或るタイプの回路構成とみなされ得るプロセッサである場合、回路構成、ユニット、手段、又はこれらに類する用語は、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであり、このソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサを構成するために使用される。
【0018】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第1の態様は、撮影部と、移動機構と、画像解析部と、瞳孔径データ取得部と、制御量決定部と、移動制御部とを含んでいる。
【0019】
撮影部は、被検眼の眼底を撮影するための要素であり、照明光学系と撮影光学系とを含んでいる。
【0020】
照明光学系は、被検眼の眼底を照明するための要素であり、光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射するように構成されている。
【0021】
光源は、撮影部(照明光学系)の要素であってもよいし、外部光源であってもよい。後者の場合、外部光源により発生された光がライトガイド(例えば、ファイバー光学系及び/又はバルク光学系)を通じて照明光学系に入力される。
【0022】
光スキャナーは、照明光学系の要素であり、照明光の進行方向を変化させるように構成されている。
【0023】
撮影光学系は、照明光学系によって被検眼の眼底に投射された照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能な第1のイメージセンサーで検出する。
【0024】
照明光の戻り光は、被検眼に適用された照明光の反射光や散乱光を含み、撮影部(撮影光学系)に入射した光である。
【0025】
第1のイメージセンサーは、撮影部(撮影光学系)の要素である。第1のイメージセンサーの動作モード(制御モード)は、ローリングシャッターモードのみであってもよいし、ローリングシャッターモード及び別のモードであってもよい。別のモードの例として、グローバルリセットリリースシャッターモードがある。ローリングシャッターモード及びグローバルリセットリリースシャッターモードについては後述する。別の例において、第1のイメージセンサーは、グローバルシャッター型のイメージセンサーとスリット絞りとを組み合わせた撮像ユニットであってよい。スリット絞りは、機械的及び/又は電子的に構成されていてよい。
【0026】
移動機構は、撮影部を移動するように構成されている。移動機構により移動される撮影部の箇所は、撮影部の全体でもよいし、撮影部の一部のみでもよい。
【0027】
画像解析部は、被検眼の眼底の画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求めるように構成されている。画像解析部の機能は、例えば、プロセッサを含むハードウェアと、このプロセッサに画像解析処理を実行させるためのプログラムを含むソフトウェアとの協働によって実現される。
【0028】
いくつかの例において、画像解析部によって解析される画像は、ローリングシャッター方式とは異なる撮影方式で取得された画像であってよく、その具体例として、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンを被検眼の眼底に適用して取得された画像、又は、グローバルシャッター型イメージセンサーを用いた撮影を被検眼の眼底に適用して取得された画像であってよい。
【0029】
撮影光学系の第1のイメージセンサーがグローバルリセットリリースシャッターモードで動作可能である場合、第1のイメージセンサーを用いたグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得された被検眼の眼底の画像を画像解析部に提供してもよいし、或いは、別のローリングシャッター型イメージセンサーを用いたグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得された被検眼の眼底の画像又は別のグローバルシャッター型イメージセンサーを用いた撮影で取得された被検眼の眼底の画像を画像解析部に提供してもよい。
【0030】
一方、撮影光学系の第1のイメージセンサーがグローバルリセットリリースシャッターモードで動作可能でない場合には、別のローリングシャッター型イメージセンサーを用いたグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得された被検眼の眼底の画像、又は、別のグローバルシャッター型イメージセンサーを用いた撮影で取得された被検眼の眼底の画像が、画像解析部に提供される。
【0031】
画像解析部によって求められる輝度パラメータ(パラメータの種類)は、例えば、予め決定されている。いくつかの態様において、輝度パラメータは、被検眼に投射された照明光の角膜反射光に関するパラメータ(角膜反射パラメータ)であってよい。
【0032】
被検眼の眼底の画像から求められる角膜反射パラメータの例として、当該画像の輝度情報(例えば、輝度ヒストグラム)から得られるパラメータ(例えば、最大輝度、輝度分布、閾値以上の輝度値を有する画素の個数など)、当該画像の部分領域の輝度情報(例えば、輝度ヒストグラム)から得られるパラメータ(例えば、最大輝度、輝度分布、閾値以上の輝度値を有する画素の個数など)、当該画像の部分領域の態様(例えば、形状、寸法、位置など)を示すパラメータなどがある。
【0033】
部分領域は、例えば、当該画像における高輝度領域であってよい。高輝度領域は、例えば、角膜反射光の像であると推定される画像領域であり、所定のセグメンテーション法(例えば、輝度に関する閾値処理)によって特定される。
【0034】
本開示において輝度パラメータのいくつかの例を説明するが、適用可能な輝度パラメータはそれらに限定されず、被検眼と撮影部との間の距離を制御するためのパラメータの値(制御量)を決定するために使用可能な任意の輝度パラメータであってよい。
【0035】
瞳孔径データ取得部は、被検眼の瞳孔径の測定データ(瞳孔径データ)を取得するように構成されている。
【0036】
被検眼の瞳孔径データを取得する方法は、予め決定された任意の方法であってよい。いくつかの例の瞳孔径データ取得部は、当該眼科装置により被検眼の前眼部を撮影して生成された前眼部像を解析して瞳孔径を算出する瞳孔径算出部を含んでいてよい。また、いくつかの例の瞳孔径データ取得部は、別の眼科装置により被検眼の前眼部を撮影して取得された前眼部像を解析して瞳孔径を算出する瞳孔径算出部を含んでいてよい。
【0037】
これら瞳孔径算出部の機能は、例えば、プロセッサを含むハードウェアと、このプロセッサに瞳孔径算出処理を実行させるためのプログラムを含むソフトウェアとの協働によって実現される。
【0038】
なお、前眼部像から瞳孔径を算出する処理としては様々な方法が知られており、例えば、閾値処理、エッジ検出、パターンマッチング、セグメンテーションなどを利用した方法が知られている。
【0039】
被検眼の瞳孔径データを取得するための別の方法として、別の眼科装置により得られた被検眼の瞳孔径データを受け付けることによって当該眼科装置に入力する方法がある。この場合、瞳孔径データ取得部は、瞳孔径データを受け付けるように構成されたデータ受付部を含む。いくつかの例のデータ受付部は、被検眼の瞳孔径データを通信回線を通じて受け付ける通信デバイスを含んでいてよい。
【0040】
また、いくつかの例のデータ受付部は、記録媒体に記録されている被検眼の瞳孔径データを当該記録媒体から読み出すデータリーダーデバイスを含んでいてよい。
【0041】
典型的な例において、瞳孔径データ取得部は、被検眼の瞳孔径の実際の測定データを取得するものである。しかしながら、被検眼の瞳孔径とその僚眼の瞳孔径とが実質的に等しいと仮定できる場合においては、被検眼の僚眼の瞳孔径データを取得し、被検眼の瞳孔径データとして使用してもよい。
【0042】
制御量決定部は、画像解析部により被検眼の眼底の画像から求められた輝度パラメータの値と、瞳孔径データ取得部により取得された被検眼の瞳孔径データとに基づいて、被検眼と撮影部との間の距離の制御量を決定するように構成されている。制御量決定部の機能は、例えば、プロセッサを含むハードウェアと、このプロセッサに制御量決定処理を実行させるためのプログラムを含むソフトウェアとの協働によって実現される。
【0043】
被検眼と撮影部との間の距離は、典型的には、撮影部に含まれる光学系を構成する部材のうち最も前側(被検眼に近い側)に配置されている特定の部材と、被検眼との間の距離として定義される。典型的な例において、この特定の部材は対物レンズであり、被検眼と撮影部との間の距離は、対物レンズの前面(被検眼に近い側の面)と被検眼との間の距離として定義される。なお、制御量決定部により決定される制御量に対応する距離は、このような典型的な例の距離に限定されず、被検眼と撮影部との間隔を表す任意の距離であってよい。
【0044】
被検眼と撮影部との間の距離を表す周知のパラメータとして作動距離(ワーキングディスタンス;WD)がある。作動距離は、眼科装置により被検眼のデータ取得(撮影、測定など)を行うために達成されるべき被検眼と眼科装置(光学系)との間の距離であり、それぞれの眼科装置に固有の値として予め設定されている(既定値、デフォルト値)。作動距離は、光学系の構成や、データ取得の対象となる被検眼の部位などに基づき決定される。一般に、被検眼と眼科装置との間の位置合わせ動作は、アライメントと呼ばれ、特に、被検眼と眼科装置との間の距離を作動距離に一致させるための動作はZアライメントと呼ばれる。
【0045】
制御量決定部により求められる制御量は、被検眼と撮影部との間の距離を制御するために使用可能な任意のパラメータの値(量)であってよい。いくつかの例において、制御量は、物理的距離の値(実空間における距離の値)であってよい。この物理的距離の値は、被検眼と撮影部との間の距離であってもよいし、被検眼と撮影部との間の現在の距離からの変化量(現在の位置からの移動距離)であってもよい。また、いくつかの例において、制御量は、被検眼と撮影部との間の距離を変化させるための要素(本実施形態では、移動機構)に印可される制御信号のパラメータ値(電圧値、電流値、パルス数など)であってよい。制御量は、スカラー値であってもよいし、ベクトル値であってもよい。
【0046】
いくつかの例において、制御量は、位置情報を含んでいてもよい。例えば、制御量は、上記の物理的距離の値に加えて又はそれの代わりに、当該物理的距離に対応する撮影部の位置を示す情報を含んでいてよい。
【0047】
移動制御部は、制御量決定部により決定された制御量に基づいて移動機構を制御するように構成されている。これにより、制御量に応じて撮影部を移動することが可能であり、特に、制御量に応じて被検眼と撮影部との間の距離を変化させる(調整する)ことが可能である。移動制御部の機能は、例えば、プロセッサを含むハードウェアと、このプロセッサに移動制御処理を実行させるためのプログラムを含むソフトウェアとの協働によって実現される。
【0048】
いくつかの例において、制御量は、被検眼と撮影部との間の距離の値(目標距離値)を含み、移動制御部は、被検眼と撮影部との間の距離がこの目標距離値に一致するように移動機構の制御を行う。いくつかの例において、制御量は、被検眼と撮影部との間の現在の位置からの移動距離を含み、移動制御部は、この移動距離だけ撮影部を移動させるように移動機構の制御を行う。いくつかの例において、制御量は、移動機構に印可される制御信号のパラメータ値を含み、移動制御部は、このパラメータ値に対応した制御信号を生成して移動機構に印可することによって移動機構の制御を行う。
【0049】
フレアは、被検眼からの戻り光(特に、比較的高い輝度を有する角膜反射光)に起因して画像に生じるアーティファクトである。フレアの発生の有無や程度に影響する条件としては、照明光の強度や、被検眼と撮影部との間の距離などがある。
【0050】
第1の態様によれば、被検眼の眼底の画像から求められた輝度パラメータの値と、被検眼の瞳孔径データとに基づいて、被検眼と撮影部との間の距離を自動で調整することができる。そして、この自動調整の後に、ローリングシャッターモードを用いた被検眼の眼底の撮影を行うことができる。これにより、スリットスキャン方式の眼底撮影によってフレアの無い画像を提供することが可能になる。
【0051】
なお、「フレアの無い画像」という表現には、フレアが全く混入していない画像だけでなく、混入しているフレアの程度が低い画像、混入しているフレアの程度が低減された画像、画像診断の観点からフレアの影響が小さい画像なども含まれるものとする。
【0052】
フレアを除去又は低減を目的とした従来の技術では、照明光量(照明強度)の制御を行うのが一般的である。これに対し、第1の態様では、被検眼と撮影部との間の距離を制御することによって、当該目的の達成を図っている。これにより、イメージセンサーによる受光時間(露光時間、撮影時間)を延長することなく、したがって、被検眼の撮影中に固視微動が発生する可能性を高めることなく、フレアの無い被検眼の画像を生成することが可能になる。
【0053】
また、第1の態様によれば、被検眼と撮影部との間の距離の制御を実行するように構成されているため、特許文献2に記載されている条件制御(具体的には、照明光学系の光束制限部材の制御、撮影光学系の光束制限部材の制御、照明光量の制御、撮影時間の制御)を実行する必要がない。したがって、光束制限部材の制御に伴う問題(例えば、眼底に投射される照明光の光量の低下、イメージセンサーに投射される戻り光の光量の低下など)も、照明光量の低下に伴う問題(例えば、撮影時間の延長など)も、撮影時間の延長に伴う問題(例えば、固視微動に起因する画像品質の低下など)も生じない。
【0054】
また、特許文献3に記載されている技術は、フレアの寸法に基づき被検眼が小瞳孔であると判定された場合に、XY方向のアライメントの目標位置を自動で調整することを特徴としている一方、Z方向のアライメントについては、前眼部像のスプリット像を参照した周知の方法で実行している。これに対し、第1の態様は、輝度パラメータの値と瞳孔径データとに基づきZ方向のアライメントを自動で行うように構成されており、特許文献3に記載の技術とは明らかに相違している。
【0055】
なお、第1の態様は、被検眼と撮影部との間の距離を制御することを1つの特徴としているが、別の制御の実行を禁止することを意図したものではない。いくつかの例は、被検眼と撮影部との間の距離の制御に加えて、別の制御(例えば、照明光学系の光束制限部材の制御、撮影光学系の光束制限部材の制御、照明光量の制御、撮影時間の制御、及び、これら以外の制御のうちの1つ以上の制御)を実行するように構成されてよい。
【0056】
また、いくつかの例は、被検眼と撮影部との間の距離の制御と、別の制御とを選択的に実行するように構成されてよい。制御の選択は、ユーザーによって行われてもよいし、被検眼の状態や画像の状態に基づき自動で行われてもよい。
【0057】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第2の態様は、上記の第1の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0058】
本態様の照明光学系は、被検眼の眼底に赤外照明光を投射可能に構成されている。いくつかの例の照明光学系は、赤外域の光を発する光源(赤外光源)を含んでいる。また、いくつかの例の照明光学系は、赤外域を含む波長域の光を発する光源(例えば、白色光源)と、この光の赤外成分を透過するフィルターとを含んでいる。
【0059】
本態様の第1のイメージセンサーは、ローリングシャッターモードに加えて、グローバルリセットリリースシャッターモードで動作することが可能に構成されている。いくつかの例の第1のイメージセンサーは、グローバルリセットリリースシャッター機能を備えたローリングシャッターカメラである。
【0060】
本態様の撮影部は、照明光学系により被検眼の眼底に投射される赤外照明光と、第1のイメージセンサーを用いたグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンとを用いて、被検眼の眼底の赤外画像(第1の赤外画像)を取得するように構成されている。
【0061】
本態様の画像解析部は、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得された被検眼の眼底の第1の赤外画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求めるように構成されている。
【0062】
第2の態様によれば、輝度パラメータの値を求めるための眼底の撮影(グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャン)と、診断などに用いられる眼底画像を取得するための撮影(ローリングシャッターモードのスリットスキャン)との双方を、1つのイメージセンサー(第1のイメージセンサー)で行うことができる。これにより、光学系の構成をシンプルにすることが可能になる。典型的には、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンは赤外照明光を用いて行われ、ローリングシャッターモードのスリットスキャンは可視照明光を用いて行われる。よって、第1のイメージセンサーは、赤外波長域の感度と可視波長域の感度との双方を有する。
【0063】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第3の態様は、上記の第2の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0064】
本態様の光スキャナーは、照明光学系により被検眼の眼底に投射される赤外照明光の投射位置を移動するように構成されている。すなわち、本態様の光スキャナーは、赤外照明光を用いた眼底のスリットスキャンを実現するための要素の1つであり、例えば、ガルバノスキャナー、MEMSスキャナー、レゾナントスキャナーなど、任意の種類の光偏向デバイスであってよい。
【0065】
グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで得られた画像には、グローバルシャッター型カメラで得られた画像に生じるフレアと同様に、(少なくとも)2箇所にフレアが発生する可能性があることが知られている。グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンにおいて、照明光が上下方向(Y方向)に移動される場合、典型的には、得られた画像の上部領域と下部領域とにそれぞれフレアが生じる。また、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンにおいて、照明光が左右方向(X方向)に移動される場合、典型的には、得られた画像の左部領域と右部領域とにそれぞれフレアが生じる。
【0066】
このように、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで得られた典型的な画像には、移動される照明光の起点側(移動起点側)に第1のフレアが発生するとともに、終点側(移動終点側)にも第2のフレアが発生する。第1のフレアと第2のフレアとの位置関係は相対的なものである。第1のフレアは、第2のフレアよりも移動起点に近い側に発生し、逆に、第2のフレアは、第1のフレアよりも移動終点に近い側に発生する。また、第1のフレアは、移動範囲の中心位置に対して移動起点に寄った位置に発生し、第2のフレアは、移動範囲の中心位置に対して移動終点に寄った位置に発生する。
【0067】
本態様の撮影部は、赤外照明光の移動起点側に発生する第1のフレア(第1の高輝度領域)と、移動終点側に発生する第2のフレア(第2の高輝度領域)との双方が描出された第1の赤外画像が取得されるタイミングで、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンを実行するように構成されている。このタイミングを決定する方法については、その例を後述する。
【0068】
第3の態様によれば、双方のフレアが描出された画像を1回のグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得することができるので、画像に発生するフレアの情報を豊富に且つ迅速に求めることが可能である。
【0069】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第4の態様は、上記の第1~第3の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0070】
第2及び第3の態様と同様に、本態様の照明光学系は、被検眼の眼底に赤外照明光を投射可能に構成されている。
【0071】
本態様の撮影光学系は、ローリングシャッターモードで動作可能な第1のイメージセンサーに加えて、グローバルシャッター型の第2のイメージセンサーを含んでいる。
【0072】
いくつかの例において、撮影光学系は、戻り光の光路を第1の分岐光路と第2の分岐光路とに分割する光路分割素子(ビームスプリッター)を含んでおり、第1のイメージセンサーは第1の分岐光路に配置されており、第2のイメージセンサーは第2の分岐光路に配置されている。
【0073】
典型的には、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンは、赤外照明光を用いて行われ、ローリングシャッターモードのスリットスキャンは、可視照明光を用いて行われる。よって、第1のイメージセンサーは可視波長域の感度を有し、第2のイメージセンサーは赤外波長域の感度との感度を有する。
【0074】
また、光路分割素子は、可視波長域の光を第1の光路に導き、赤外波長域の光を第2の光路に導くように構成されている。この光路分割素子は、例えば、ダイクロイックミラーである。光量の低下が許容される場合には、この光路分割素子としてハーフミラーを用いることができる。いくつかの例では、戻り光の偏光特性を利用して赤外波長域の光と可視波長域の光とを分ける偏光ビームスプリッターを用いることができる。
【0075】
本態様の撮影部は、照明光学系により被検眼の眼底に投射される赤外照明光と、グローバルシャッター型の第2のイメージセンサーとを用いて、被検眼の眼底の赤外画像(第2の赤外画像)を取得するように構成されている。第2の赤外画像を取得するための撮影方式は、一般的な眼底カメラ(グローバルシャッター型カメラを含む)による赤外眼底撮影と同様の方式である。
【0076】
本態様の画像解析部は、グローバルシャッター型の第2のイメージセンサーを用いた撮影で取得された第2の赤外画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求めるように構成されている。
【0077】
第4の態様は、輝度パラメータの値を求めるための眼底の撮影(グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャン)と、眼底のスリットスキャン(ローリングシャッターモードのスリットスキャン)との双方を、別々のイメージセンサーで行うように構成されている。よって、これら2つの種類の撮影方式をシンプルな制御(例えば、照明光の波長域の切り替え)によって切り替えることが可能である。
【0078】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第5の態様は、上記の第1~第4の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0079】
本態様の画像解析部は、所定の輝度パラメータの値として、被検眼の眼底の画像における最大輝度の値、及び/又は、被検眼の眼底の画像における高輝度領域の態様を示すパラメータの値を求めるように構成されている。
【0080】
第5の態様は、画像解析部によって求められる輝度パラメータの値のいくつかの例を提供する。本態様によって提供される輝度パラメータの種類の例には、画像において最も明るい画素の値(フレアにおいて最も明るい位置の明るさ)、フレアとして特定された画像領域(高輝度領域)の形状、寸法、位置などが含まれる。
【0081】
本態様に係る輝度パラメータを用いることにより、被検眼の画像に描出されているフレアの特徴や特性を把握することができ、被検眼と撮影部との間の距離の制御を好適に行うことが可能になる。なお、本態様によって提供される輝度パラメータの種類は、ここに挙げた例に限定されるものではない。
【0082】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第6の態様は、上記の第1~第5の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0083】
本態様の制御量決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値を既定の第1の閾値(輝度閾値)と比較し、この比較の結果に基づいて被検眼と撮影部との間の距離の制御量を決定するように構成されている。
【0084】
輝度閾値は、予め決定された値(デフォルト値)であってよい。いくつかの例では、複数の輝度閾値が事前に準備され、各処理において選択的に使用される。複数の輝度閾値は、例えば、被検者の属性(例えば、年齢、性別、人種、病歴など)や、被検眼の属性(例えば、瞳孔の寸法、虹彩の色、病歴など)に基づき決定されてよい。
【0085】
いくつかの例では、輝度閾値は、眼底撮影時に決定される。この輝度閾値は、例えば、被検者の属性、被検眼の属性、被検眼の眼底の画像の状態などに基づき決定されてよい。被検眼の眼底の画像の状態は、例えば、画像全体における輝度の状態(輝度の統計値、輝度分布、ノイズなど)や、画像の特定の領域における輝度の状態であってよい。
【0086】
第6の態様によれば、特定の基準(輝度閾値)に基づいて被検眼と撮影部との間の距離の制御内容を変更することが可能である。そのいくつかの例を以下に説明する。
【0087】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第7の態様は、上記の第6の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0088】
本態様の移動制御部は、画像解析部に提供される被検眼の眼底の画像を取得する時点よりも前に、被検眼に対する撮影部の相対位置を調整するための移動機構の制御を実行するように構成されている。すなわち、本態様では、被検眼に対する撮影部の位置合わせが実行された後に、画像解析部により解析される被検眼の眼底の画像が取得される。
【0089】
被検眼の眼底の画像を取得する前の実行される位置合わせは、少なくともアライメントを含み、更にトラッキングを含んでいてもよい。このアライメントは、典型的には、3次元的なアライメント(XYアライメント及びZアラメント)である。トラッキングは、アライメントにより達成された被検眼の眼底と撮影部との間の相対位置(適切なアライメント状態)を維持するために実行される、眼底と撮影部との間の位置関係の検出と、この検出の結果に基づく相対位置の調整との組み合わせ動作である。
【0090】
本態様の制御量決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値と輝度閾値とを比較し、輝度パラメータの値が輝度閾値以上である場合にのみ、制御量を決定する処理を実行するように構成されている。
【0091】
このような構成を有する第7の態様では、被検眼の眼底の画像に描出されているフレアが強い(つまり、フレアの強さが許容範囲に含まれない)と判定された場合にのみ、制御量の決定と、この制御量に基づく被検眼と撮影部との間の距離の制御とが実行される。本態様によれば、フレアを除去又は低減することが要求される場合には、フレアの除去又は低減を目的とした被検眼と撮影部との間の距離調整が実行される。これにより、この距離調整の後に行われるスリットスキャン方式の眼底撮影によって、フレアの無い画像を取得することが可能になる。
【0092】
一方、輝度パラメータの値が輝度閾値未満である場合、換言すると、被検眼の眼底の画像に描出されているフレアが強くはない(つまり、フレアの強さが許容範囲に含まれる)と判定された場合には、制御量の決定は実行されず、したがって、フレアの除去又は低減を目的とした被検眼と撮影部との間の距離調整は実行されない。これにより、画像診断の観点からフレアの除去又は低減が重要でないと考えられる場合には、この距離調整をスキップしてスリットスキャン方式の眼底撮影に移行する。よって、検査の迅速化、短時間化を図ることが可能になる。
【0093】
以上に説明したように、第7の態様によれば、フレアの除去又は低減によって検査の品質の向上を図ることができるとともに、検査の迅速化や短時間化によって検査の省力化やスループットの向上を図ることができる。本態様により達成されるこれらの効果は、実際の医療現場において有用なものである。
【0094】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第8の態様は、上記の第6又は第7の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0095】
本態様の眼科装置は、輝度閾値決定部を更に含んでいる。輝度閾値決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値と比較される輝度閾値を決定する機能を有する。輝度閾値決定部により決定された輝度閾値は、制御量決定部に提供され、輝度パラメータの値との比較処理に使用される。
【0096】
輝度閾値を決定するために本態様において実行される一連の処理では、まず、眼底画像データセットが準備される。眼底画像データセットは、複数の眼底画像を含むデータセットである。
【0097】
眼底画像データセットに含まれる眼底画像の種類は任意であってよい。いくつかの例の眼底画像データセットは、生体眼の眼底を撮影して取得された画像(生体眼底画像)を含んでいてよい。生体眼底画像には匿名化処理が施されていてよい。いくつかの例の眼底画像データセットは、生体眼底画像を加工して得られた加工眼底画像を含んでいてよい。加工眼底画像には匿名化処理が施されていてよい。いくつかの例の眼底画像データセットは、コンピュータグラフィクスや生成的人工知能などのコンピュータ技術を用いて生成された眼底画像(仮想眼底画像)を含んでいてよい。
【0098】
眼底画像データセットは、特定の属性を有する眼底画像を含んでいてよい。例えば、眼底画像データセットは、正常眼(健常眼)であると(医師及び/又はコンピュータにより)診断された眼の眼底の画像、特定の疾患を有しないと診断された眼の眼底の画像、特定の疾患を有すると診断された眼の眼底の画像、並びに、何らかの疾患を有すると診断された眼の眼底の画像のうちのいずれかを含んでいてよい。また、眼底画像の属性は、被検者の属性(例えば、年齢、性別、人種、病歴など)や、被検眼の属性(例えば、瞳孔の寸法、虹彩の色、病歴など)を含んでいてもよい。眼底画像データセットが2つ以上の属性にそれぞれ対応する2つ以上のサブデータセットを含んでいる場合、輝度閾値決定部は、これら2つ以上のサブデータセットにそれぞれ対応する2つ以上の輝度閾値を求めるように構成されてもよい。
【0099】
このようにして準備された眼底画像データセットは、輝度閾値決定部に提供される。輝度閾値決定部は、この眼底画像データセットの最大輝度値分布を求め、この最大輝度値分布に基づいて輝度閾値を決定するように構成されている。最大輝度値分布は、眼底画像データセットに含まれている複数の眼底画像の最大輝度値に基づき生成される分布情報である。
【0100】
いくつかの例において、輝度閾値決定部は、眼底画像データセットに含まれる複数の眼底画像のそれぞれにおける最大輝度値を特定する。これにより、眼底画像データセットに含まれる複数の眼底画像にそれぞれ対応する複数の最大輝度値が得られる。
【0101】
次に、本例の輝度閾値決定部は、得られた複数の最大輝度値の統計表現を求める。この統計表現の態様は任意であってよく、例えば、ヒストグラム、グラフ、マップなどであってよい。求められた統計表現が最大輝度値分布である。
【0102】
本例の輝度閾値決定部は、求められた最大輝度値分布に基づいて輝度閾値を決定する。最大輝度値分布から輝度閾値を決定する方法は任意であってよく、例えば、予め決定された演算処理(例えば、統計演算)が最大輝度値分布に適用される。この演算処理は、フレアが有る(又は、フレアが強い)眼底画像の最大輝度値の群と、フレアが無い(又は、フレアが弱い)眼底画像の最大輝度値の群とを比較する処理を含んでいてよい。輝度閾値を求める処理については、その例を後述する。
【0103】
本態様の制御量決定部は、このようにして決定された輝度閾値と、画像解析部によって求められた輝度パラメータの値とを比較し、この比較の結果に基づいて制御量を決定するように構成されている。
【0104】
第8の態様によれば、輝度閾値を決定するための例を提供することができ、しかも、眼底画像データセットに基づく統計的手法によって良好な品質の輝度閾値を提供することが可能である。
【0105】
また、複数の属性にそれぞれ対応する複数の輝度閾値を準備し、被検眼の状態に応じた輝度閾値を選択し、選択された輝度閾値を用いることによって、制御量決定処理の品質向上を図ることが可能である。
【0106】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第9の態様は、上記の第8の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0107】
本態様の輝度閾値決定部は、眼底画像データセットから求められた最大輝度値分布の重み付きF値(Fβスコア)を算出し、このFβスコアに基づいて輝度閾値を決定するように構成されている。本態様で実行される処理内容については、その例を後述する。
【0108】
第9の態様は、輝度閾値を決定するための統計的手法の1つの好適な例を提供するものである。
【0109】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第10の態様は、上記の第8又は第9の態様に加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0110】
本態様の輝度閾値決定部は、眼底画像データセットから求められた最大輝度値分布に基づいて少なくとも2つの輝度閾値を決定するように構成されている。
【0111】
いくつかの例の輝度閾値決定部は、前述したように、少なくとも2つの属性にそれぞれ対応する少なくとも2つの輝度閾値を決定するように構成されていてよい。
【0112】
いくつかの例の輝度閾値決定部は、フレア検知レベルに応じた少なくとも2つの輝度閾値を決定するように構成されていてよい。例えば、フレア検知の敏感さの程度(フレア検知感度)として3つの段階が設定された場合、輝度閾値決定部は、眼底画像データセットから求められた最大輝度値分布に基づいて、高感度検知用の輝度閾値、中感度検知用の輝度閾値、及び低感度検知用の輝度閾値を決定することができる。
【0113】
本態様の制御量決定部は、輝度閾値決定部により決定された少なくとも2つの輝度閾値から1つの輝度閾値を選択し、画像解析部により求められた輝度パラメータの値と、選択された輝度閾値とを比較し、この比較の結果に基づいて制御量の決定を行うように構成されている。
【0114】
第10の態様によれば、準備された複数の輝度閾値のうちから所望の輝度閾値を選択して使用することができるので、ユーザーの要望や検査内容の要求に応じてフレア除去やフレア低減を実施することが可能である。なお、本態様で実行される処理内容については、その例を後述する。
【0115】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第11の態様は、上記の第1~第10の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0116】
本態様の制御量決定部は、瞳孔径データ取得部により取得された瞳孔径データの値の大きさに基づいて制御量を決定するように構成されている。つまり、本態様では、被検眼と撮影部との間の距離の制御の内容が、少なくとも被検眼の瞳孔の寸法に応じて決定される。本態様の構成は、フレアの有無や程度が瞳孔の寸法に影響を受けることを考慮してなされたものである。
【0117】
このような第11の態様の非限定的な例として、第12の態様と、第13~第15の態様とがある。
【0118】
第12の態様では、制御量決定部は、瞳孔径データ取得部により取得された瞳孔径データの値の大きさに基づいて、照明光学系により被検眼の眼底に投射される照明光の周辺光量の低下が既定の第2の閾値(周辺光量閾値)以下になるように、制御量の決定を行うように構成されている。第12の態様の構成は、被検眼と撮影部との間の距離の変化に伴う照明光の周辺光量の変化が、被検眼の瞳孔径に依存することを考慮してなされたものである。
【0119】
本態様の制御量決定部により評価される周辺光量の低下を表す量は、任意の物理量であってよく、例えば、低下量又は低下率であってよい。低下量は、周辺光量の基準値に対する変化量である。低下率は、周辺光量の基準値に対する低下量の割合である。周辺光量の基準値は、例えば、画像解析部に提供された被検眼の眼底の画像における周辺光量の値であってよく、制御量決定部(又は、画像解析部若しくは別の要素)が当該画像を解析することによって算出される。周辺光量の変化量は、例えば、被検眼の眼底の画像における周辺光量の値からの変化量である。
【0120】
第12の態様によれば、被検眼と撮影部との間の距離を制御した後に行われるスリットスキャンによって、許容可能な明るさの画像が得られるように、被検眼と撮影部との間の距離の制御を実行することが可能である。
【0121】
第13の態様では、制御量情報が事前に準備される。制御量情報は、瞳孔径値と制御量との間の対応関係を含んでいる。この対応関係は、例えば、瞳孔径値の範囲(数値区間)と制御量との間の対応関係であってよい。
【0122】
いくつかの例の制御量情報では、瞳孔径値の2つ以上の範囲のそれぞれに制御量の値が割り当てられている。この制御量情報においては、例えば、第1の瞳孔径値範囲~第Kの瞳孔径値範囲に対して、それぞれ、第1の制御量~第Kの制御量が割り当てられている(Kは2以上の整数)。このような制御量情報は、瞳孔径値と制御量との間の離散的対応付けを定義したものである。離散的対応付けの態様は任意であってよく、例えば、テーブル又はグラフであってよい。
【0123】
いくつかの例の制御量情報は、瞳孔径値と制御量との間の連続的対応付けを定義したものである。この制御量情報は、例えば、瞳孔径値と制御量との間の関係を表すグラフ又は数式であってよい。
【0124】
制御量決定部は、例えば、制御量情報に含まれている制御量の複数の値のうちから、被検眼の瞳孔径データが示す値(瞳孔径値)に対応する値を選択する。より一般に、制御量決定部は、被検眼の瞳孔径データが示す値(瞳孔径値)を制御量情報に適用することによって、この被検眼に対応する制御量を求める。制御量情報に瞳孔径値を適用する処理は、例えば、瞳孔径値を数式に代入して制御量を算出する処理、瞳孔径値に対応する制御量をテーブル又はグラフから求める処理などを含んでいてよい。
【0125】
本態様の移動制御部は、例えば上記したいずれかの処理によって制御量決定部が制御量情報から取得した制御量の値に基づいて、被検眼と撮影部との間の距離を調整するための移動機構の制御を実行する。
【0126】
第13の態様によれば、被検眼と撮影部との間の距離を調整するための制御量を決定する処理の例を提供することができる。制御量情報の品質を向上させることによって、瞳孔の寸法に応じた被検眼と撮影部との間の距離調整の品質(確度、精度、再現性など)を向上させることが可能である。
【0127】
第13の態様で用いられる制御量情報は、実施形態に係る眼科装置とは別の装置や別のシステムによって生成されてもよいが、実施形態に係る眼科装置は、制御量情報を生成する機能を備えていてもよい。第14の態様は、制御量情報を生成する機能を備えた眼科装置の例を提供するものである。
【0128】
第14の態様に係る眼科装置は、制御量情報生成部を含んでいる。制御量情報生成部は、例えば、次に示す情報(1)~(4)のうちの1つ以上の情報に基づいて制御量情報を生成するように構成されている:(1)眼と撮影部との間の距離;(2)照明光の周辺光量の低下(例えば、低下量又は低下率;(3)眼底画像に高輝度領域が発生する確率;(4)瞳孔径値。
【0129】
本開示では、これら4つの情報(1)~(4)の間の関係に基づき制御量情報を生成するケースについて後に詳述する。情報(1)~(4)の間の関係は、実際の測定及び/又は計算(レイトレーシングなどのコンピュータシミュレーション)によって求めることができる。なお、実施形態が本ケースに限定されないことは、当業者であれば本ケースの説明から理解することができるであろう。
【0130】
第14の態様によれば、制御量情報を生成する処理の例を提供することができるとともに、4つの情報(1)~(4)のいずれかに基づく良好な品質の制御量情報を提供することが可能である。
【0131】
第15の態様は、4つの情報(1)~(4)の関係に基づき制御量情報を生成する上記ケースの例を提供する。本態様では、瞳孔径値の2つ以上の範囲のそれぞれに対応する制御量の値が記録された制御量情報が生成される。
【0132】
まず、瞳孔径値の2つ以上の範囲が設定される。これら範囲は、瞳孔径の標準的な分類に基づき設定されてもよいし、臨床データなどに基づき設定されてもよい。本態様の制御量情報生成部は、瞳孔径値の2つ以上の範囲のそれぞれについて、照明光の周辺光量の低下が既定の第2の閾値(周辺光量閾値)以下になるように、この範囲に割り当てられる制御量の値を決定するように構成されている。
【0133】
第12の態様と同様に、第15の態様の構成は、被検眼と撮影部との間の距離の変化に伴う照明光の周辺光量の変化が、被検眼の瞳孔径に依存することを考慮してなされたものである。第12の態様に係る任意の事項を第15の態様に適用することができる。本態様の例については後述する。
【0134】
第15の態様によれば、被検眼と撮影部との間の距離を制御した後に行われるスリットスキャンによって、許容可能な明るさの画像が得られるように、被検眼と撮影部との間の距離の制御を実行することが可能である。
【0135】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第16の態様は、上記の第1~第15の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0136】
本態様の制御量決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値に基づいて、被検眼と撮影部との間の距離を調整するための制御量を決定する処理を実行するか否か判断するように構成されている。例えば、第7の態様と同様に、本態様の制御量決定部は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値と既定の閾値とを比較し、輝度パラメータの値が閾値以上である場合には制御量を決定する処理を実行すると判断し、輝度パラメータの値が閾値未満である場合には制御量を決定する処理を実行しないと判断するように構成されていてよい。
【0137】
制御量を決定する処理を実行すると判断された場合、本態様の制御量決定部は、瞳孔径データ取得部により取得された瞳孔径データに基づいて制御量を決定するように構成されている。瞳孔径データに基づいて制御量を決定する方法は、例えば、第11~第15の態様において説明した複数の方法のうちのいずれかであってもよいし、本開示で説明する別の方法であってもよいし、これら以外の方法であってもよい。
【0138】
第16の態様によれば、第1~第15の態様の動作の例を提供することができる。この動作例は、画像解析部により求められた輝度パラメータの値に基づき被検眼と撮影部との間の距離調整を行うか否か判断するものである。距離調整を行わないと判断された場合には、被検眼の眼底のスリットスキャンに移行する。距離調整を行うと判断された場合には、瞳孔径データ取得部により取得された瞳孔径データに基づき制御量を決定し、この制御量に基づき移動機構を制御することによって被検眼と撮影部との間の距離を調整した後に、被検眼の眼底のスリットスキャンを実行する。
【0139】
非限定的な実施形態に係る眼科装置の第17の態様は、上記の第1~第16の態様のいずれかに加えて、以下に説明する事項を具備していてよい。
【0140】
本態様では、移動制御部は、制御量決定部により決定された制御量に基づき移動機構を制御することによって、被検眼と撮影部との間の距離を拡大する。これにより、当該制御量を求めるために画像解析部により解析された被検眼の眼底の画像(第1の画像)に含まれるフレアの除去又は低減を図ることができる。つまり、当該距離の拡大後に行われるスリットスキャンで取得される画像(第2の画像)にはフレアは発生せず、又は、第2の画像に発生するフレアは第1の画像中のフレアよりも弱い(例えば、輝度が低い、及び/又は、寸法が小さい)。一方、フレアを除去又は低減するために被検眼と撮影部との間の距離が拡大されたことに伴って画像の明るさが低下し、許容範囲よりも暗い第2の画像が得られる場合がある。本態様は、このような問題に着目してなされたものであり、次のような構成を有する。
【0141】
本態様の画像解析部は、移動制御部により被検眼と撮影部との間の距離が拡大された後に取得された被検眼の眼底の新たな画像を解析することによって、輝度パラメータの新たな値を求めるように構成されている。
【0142】
この輝度パラメータは、上記の第1の画像から求められた輝度パラメータと同じ種類であってもよいし、別の種類であってもよい。また、この新たな画像は、スリットスキャンで取得された画像であってもよいし、別のモダリティで取得された画像(例えば、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得された画像、グローバルシャッター型カメラで取得された画像など)であってもよい。
【0143】
本態様の制御量決定部は、この新たな画像を解析して求められた輝度パラメータの新たな値に基づいて、被検眼と撮影部との間の距離を制御するための新たな制御量を決定するように構成されている。
【0144】
例えば、制御量決定部は、輝度パラメータの新たな値を所定の値と比較することによって新たな制御量を決定する。輝度パラメータの新たな値と比較される所定の値は、既定の閾値であってもよいし、上記の第1の画像から求められた輝度パラメータの値であってもよいし、別の値であってもよい。
【0145】
この比較処理によって、新たな画像が十分な明るさを有するか否か判定される。新たな画像が十分な明るさを有すると判定された場合、本態様に係る動作は終了となる。つまり、新たな制御量を決定する処理は実行されない。一方、新たな画像が十分な明るさを有しないと判定された場合、制御量決定部は、この新たな画像よりも明るい画像を取得するための新たな制御量を決定する。この新たな制御量は、被検眼と撮影部との間の距離を縮小するための値である。本態様の移動制御部は、この新たな制御量に基づき移動機構を制御する。
【0146】
第17の態様によれば、フレアの除去又は低減を目的として被検眼と撮影部との間の距離が拡大された後に得られた画像の明るさが十分でない場合に、より明るい画像が得られるように被検眼と撮影部との間の距離を短縮することができる。画像の明るさとフレアの発生状態とは互いにトレードオフの関係にある。第17の態様の構成や動作は、このトレードオフ関係を考慮して、フレアの程度がより低く且つより明るい画像を得ることができるように設計される。
【0147】
本開示に係る任意の事項及び/又は任意の公知技術に係る事項を第1~第17の態様に組み合わせることが可能である。そのような組み合わせによって得られる眼科装置は、組み合わされた事項による作用及び効果、並びに、当該事項の組み合わせによる相乗的な作用及び効果を更に奏するものである。
【0148】
実施形態に係る別の態様は、スリットスキャンを行う眼科装置と被検眼との間の距離を決定する方法を提供する。この眼科装置は、撮影部を含んでいる。撮影部は、光源からの照明光を光スキャナーを介して被検眼の眼底に投射し、この照明光の戻り光をローリングシャッターモードで動作可能なイメージセンサーで検出するように構成されている。
【0149】
本態様の方法は、この眼科装置を用いた眼底撮影のために被検眼と撮影部との間の距離を決定する方法であり、次の工程を含んでいる。第1の工程では、コンピュータが、被検眼の眼底の画像を取得する。第2の工程では、コンピュータが、第1の工程で取得された被検眼の眼底の画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求める。第3の工程では、コンピュータが、被検眼の瞳孔径データを取得する。第4の工程では、コンピュータが、第2の工程で求められた輝度パラメータの値と、第3の工程で取得された瞳孔径データとに基づいて、被検眼と撮影部との間の距離を決定する。眼科装置は、被検眼と撮影部との間の距離を第4の工程で決定された距離に一致させるように、撮影部を移動することができる。
【0150】
第1~第4の工程を実行するコンピュータは、眼科装置に含まれるプロセッサ(及びメモリ)でもよいし、眼科装置とは別の装置であってもよい。
【0151】
第1~第4の工程、及び、それにより決定された距離に基づく撮影部の移動は、前述した第1の態様の眼科装置の要素に相当している。具体的には、第1の工程は、画像解析部により解析される被検眼の眼底を取得する要素に相当し、第2の工程は画像解析部に相当し、第3の工程は瞳孔径データ取得部に相当し、第4の工程は制御量決定部に相当し、撮影部の移動は移動制御部に相当する。
【0152】
本態様に係る方法によれば、第1の態様に係る眼科装置と同様に、スリットスキャン方式の眼底撮影によってフレアの無い画像を提供することが可能になる。
【0153】
本開示に係る任意の事項(例えば、実施形態に係る眼科装置に関する任意の事項)、及び/又は、任意の公知技術に係る事項を、実施形態に係る方法に組み合わせることが可能である。そのような組み合わせによって得られる方法は、組み合わされた事項による作用及び効果、並びに、当該事項の組み合わせによる相乗的な作用及び効果を更に奏するものである。
【0154】
実施形態に係る更に別の態様は、実施形態に係る方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。また、実施形態に係る更に別の態様は、実施形態に係るプログラムが記録された、コンピュータ可読な非一時的記録媒体を提供する。これら態様によっても同様の効果が奏される。なお、実施形態に係る記録媒体は、任意の形態の記録媒体であってよく、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、及び半導体メモリのいずれかであってよい。
【0155】
本開示に係る実施形態の態様は、眼科装置、眼底撮影距離を決定する方法、プログラム、及び記憶媒体に限定されるものではない。例えば、本開示が、眼科装置を制御する方法の実施形態、被検眼を撮影する方法の実施形態、眼科情報を処理する方法の実施形態などを提供するものであること、更には、眼科以外の分野における類似の実施形態を提供するものであることは、当業者であれば理解することができるであろう。
【0156】
<例示的な実施形態>
実施形態に係る眼科装置の構成の非限定的な例を図1に示す。本例の眼科装置1は、スリットスキャン型のモダリティを用いて生体眼の眼底を画像化することが可能な眼科イメージング装置として機能する。
【0157】
眼科装置1は、撮影部2、移動機構3、プロセッサ4、メモリ5、及びユーザーインターフェイス6を含む。眼科装置1に含まれるハードウェア要素は、特に言及しない限り、既存のスリットスキャン型の眼科イメージング装置のハードウェア要素と同様であってよい。
【0158】
撮影部2は、例えば、被検眼の眼底に対するスリット光の投射位置を移動しつつローリングシャッター型のイメージセンサー(撮像装置)で撮影を行うことによってスリットスキャンを実行可能に構成されている。換言すると、撮影部2は、スリット状の照明光(スリット光)の照射位置(照射範囲)を移動させながら被検眼の眼底を照明し、1次元的に又は2次元的に受光素子が配列されたイメージセンサーによって眼底からの戻り光を受光するように構成されている。
【0159】
戻り光を検出したイメージセンサーからの信号読み出しは、プロセッサ4の制御の下に実行され、スリット光の照射位置の移動タイミングに同期して、スリット光の各照射位置に対応した戻り光の受光位置にある受光素子から信号が順次に読み出される。この信号読み出しはローリングシャッター方式で行われる。撮影部2の具体的な構成については、その非限定的な例を後述する。
【0160】
眼科装置1に設けられたイメージセンサーは、少なくともローリングシャッターモードで動作可能である。いくつかの態様のイメージセンサーは、ローリングシャッターモード及びグローバルリセットリリースシャッターモードで動作可能であってもよい。
【0161】
いくつかの態様では、ローリングシャッター型のイメージセンサーの代わりに、グローバルシャッター型のイメージセンサーと、機械的構成又は電子的構成のスリット絞りとを組み合わせた撮像ユニット(撮像装置)を用いることによって、ローリングシャッター型のイメージセンサーと同様の撮影動作を行うことができる。本態様の撮影動作は、ローリングシャッターモードのスリットスキャンの1つの例である。
【0162】
撮影部2は、撮影部2に設けられた光学系のフォーカス調整(ピント合わせ)を行うためのハードウェア要素(フォーカス調整ユニット)を含む。フォーカス調整の手法は任意であってよい。例えば、被写体(被検眼の眼底)とイメージセンサーとの間に配置されているレンズの焦点距離(焦点の位置)を変化させる構成を用いてフォーカス調整を行ってもよいし、レンズとイメージセンサーとの間の距離を変化させる構成を用いてフォーカス調整を行ってもよい。
【0163】
移動機構3は、撮影部2を移動するように構成されている。移動機構3は、プロセッサ4の制御の下に、撮影部2を3次元的に移動するように構成され、例えば、撮影部2が搭載されているステージをX方向に移動する機構、Y方向に移動する機構、及びZ方向に移動する機構を含む。各機構は、プロセッサ4の制御の下に動作するアクチュエータ(例えば、ステッピングモーター)を含む。
【0164】
プロセッサ4は、メモリ5及び/又は他の記憶装置に記憶されているプログラムにしたがって処理を実行することにより本実施形態に係る機能を実現する。
【0165】
メモリ5は、各種のコンピュータプログラムや各種のデータを記憶している。典型的な実施形態において、メモリ5は、不揮発性メモリと揮発性メモリとを含んでいる。
【0166】
メモリ5には、眼科装置1に所定の動作を実行させるための制御プログラム及び/又は制御データや、眼科装置1に所定の演算処理を実行させるための演算プログラム及び/又は演算データが格納されている。
【0167】
また、メモリ5には、眼科装置1により取得されたデータが保存される。例えば、眼科装置1により生成されたデータや、眼科装置1が外部から取得したデータがメモリ5に保存される。メモリ5に格納されるプログラムやデータは、ここに例示したものに限定されない。
【0168】
ユーザーインターフェイス6は、眼科装置1とそのユーザーとの間で情報をやりとりするための要素(ハードウェア要素、ソフトウェア要素、プロトコル)である。ユーザーインターフェイス6は、例えば、ユーザーから眼科装置1に情報を提供するための手段である入力部(操作部)と、眼科装置1からユーザーに情報を提供するための手段である出力部とを含んでいる。入力部のハードウェア要素の非限定的な例として、操作パネル、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ダイアル、スキャナー、光学文字認識(OCR)デバイス、マイクロフォン、カメラ(ビデオカメラ)などがある。出力部のハードウェア要素の非限定的な例として、ディスプレイ、プリンタ、スピーカーなどがある。ユーザーインターフェイス6は、例えばタッチスクリーンのような、入力機能と出力機能とが一体化されたデバイスを含んでいてもよい。
【0169】
図示は省略するが、眼科装置1は、既存の同種の眼科装置と同様に、被検眼Eに対する撮影部2のアライメント(位置合わせ)を行うための要素を備えている。眼科装置1により実行されるアライメントの方法は任意であってよく、例えば、特開2013-248376号公報に記載された2つ以上の前眼部カメラを用いて被検眼Eの位置を求めるステレオアライメントであってもよいし、被検眼Eの正面画像(例えば前眼部Eaの観察画像)を解析して被検眼Eの位置を求める方法であってもよいし、前眼部Eaにアライメント指標を投影して被検眼Eの位置を求める方法であってもよい。眼科装置1は、アライメントの手法に応じたハードウェア要素及びソフトウェア要素を備えている。
【0170】
撮影部2の構成の非限定的な例を図2に示す。図2は側面図である。図2において、光学系の光軸(対物レンズ46の光軸)に沿った方向をZ方向(前後方向、作動距離方向)とし、Z方向に直交する1つの方向(本例では左右方向、水平方向)をX方向とし、Z方向及びY方向の双方に垂直な方向(本例では上下方向、鉛直方向)をY方向とする。
【0171】
本例の撮影部2は、光源10、照明光学系20、光スキャナー30、撮影光学系40、及び撮像装置50を含んでいる。照明光学系20は、光源10からの照明光を光スキャナー30を介して被検眼Eの眼底Efに投射する。光源10を照明光学系20の要素とみなしてもよい。光スキャナー30は、照明光学系20により眼底Efに投射されるスリット光の位置(投射位置)を移動する。光スキャナー30を照明光学系20の要素とみなしてもよい。撮影光学系40は、照明光学系20により眼底Efに投射されたスリット光の戻り光を撮像装置50に導く。撮像装置50を撮影光学系40の要素とみなしてもよい。以下、撮影部2のそれぞれの要素について説明する。
【0172】
光源10は、被検眼Eを照明するための光(照明光)を発生する。光源10は、可視領域の光を発生する可視光源(例えば、白色光を発生する白色光源)を含んでいてよい。また、光源10は、赤外領域(近赤外領域)の光を発生する赤外光源(近赤外光源)を含んでいてもよい。
【0173】
光源10は、異なる2つ以上の波長域の光を切り替えて出力することが可能であってもよい。その場合、光源10は、異なる2つ以上の波長域の光を出力可能な1つの光源(波長可変光源)を含んでいてもよいし、白色光源などの広帯域光源とバンドパスフィルタなどの波長選択素子とを組み合わせた光源装置を含んでいてもよいし、異なる波長域の光を出力する2つ以上の光源と光路結合素子(ダイクロイックミラー、ハーフミラーなど)とを組み合わせた光源装置を含んでいてもよい。
【0174】
光源10は、任意の種類の光源を含んでいてよく、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、ハロゲンランプ、及びキセノンランプのうちの1つ以上を含んでいてよい。
【0175】
被検眼Eに対する撮影部2のアライメントが適切な状態において、光源10は、眼底Ef及び虹彩のそれぞれに対して光学的に非共役な位置に配置される。
【0176】
いくつかの態様では、プロセッサ4の制御の下に、光源10は、ローリングシャッターモードのスリットスキャンを行うときには可視光を出力し、別の目的のときには赤外光を出力する。別の目的の例としては、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャン、アライメント、フォーカス調整などがある。なお、可視光を用いてフォーカス調整を行ってもよい。
【0177】
照明光学系20は、光源10により発せられた光からスリット状の照明光(スリット光)を生成して被検眼Eの眼底Efに投射する。本例において、照明光学系20は、虹彩絞り21、スリット開口絞り(スリット)22、リレーレンズ23、光スキャナー30、リレーレンズ31、ホールミラー45、及び対物レンズ46を含む。リレーレンズ23は1つ以上のレンズを含み、リレーレンズ31は1つ以上のレンズを含み、対物レンズ46は1つ以上のレンズを含む。
【0178】
撮影光学系40は、照明光学系20(及び光スキャナー30)により被検眼Eの眼底Efに投射された照明光(スリット光)の戻り光を撮像装置50に導く。本例において、撮影光学系40は、対物レンズ46、ホールミラー45、フォーカスレンズ47、及び結像レンズ48を含む。フォーカスレンズ47は1つ以上のレンズを含み、結像レンズ48は1つ以上のレンズを含む。フォーカスレンズ47と結像レンズ48との間にリレーレンズが設けられていてもよい。このリレーレンズは1つ以上のレンズを含む
【0179】
光源10から出力された光(具体的には、この光の一部)は、虹彩絞り21に形成された開口部、スリット開口絞り22に形成された開口部、及びリレーレンズ23を通過して光スキャナー30に導かれる。
【0180】
被検眼Eに対する撮影部2のアライメントが適切な状態において、虹彩絞り21(具体的には、虹彩絞り21に形成された開口部)は、被検眼Eの虹彩(瞳孔)に対して光学的に略共役な位置に配置される。
【0181】
虹彩絞り21には、照明光学系20の光軸から離隔した位置に1つ以上の開口部が形成されている。例えば、図3に示す非限定的な例に係る虹彩絞り21には、照明光学系20の光軸Oを中心とする円に沿って、所定の寸法(所定の長さ及び所定の幅)を有する2つの開口部21A及び21Bが形成されている。
【0182】
虹彩絞り21の開口部は、被検眼Eの瞳孔における照明光の入射状態(入射位置、入射形状)を規定する。例えば、開口部21A及び21Bが形成された虹彩絞り21が用いられる場合には、被検眼Eの瞳孔中心に略一致するように照明光学系20の光軸O(対物レンズ46の光軸)が配置された状態において(つまり、XY方向のアライメントが適切な状態において)、瞳孔中心から離間した位置(具体的には、瞳孔中心に対して点対称に配置された2つの位置)を通じて照明光(スリット光)を眼底Efに導くことができる。
【0183】
いくつかの態様では、光源10からの光を偏向する光学素子を光源10と虹彩絞り21との間に設けることによって、虹彩絞り21の開口部とスリット開口絞り22の開口部(スリット)とを結ぶ方向における光量分布を最適化してもよい。また、光源10と虹彩絞り21の開口部との間の相対位置を変更可能に構成することによって、虹彩絞り21の開口部を通過する光の光量分布を可変にしてもよい。
【0184】
被検眼Eに対する撮影部2のアライメントが適切な状態において、スリット開口絞り22(具体的には、スリット開口絞り22に形成された開口部)は、被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置に配置される。
【0185】
スリット開口絞り22には、後述するイメージセンサー51からローリングシャッター方式で信号読み出しが行われるラインに沿う方向(ロウ(row)方向)に対応した方向を長手方向とする開口部が形成されている。例えば、図4に示す非限定的な例に係るスリット開口絞り22には、照明光学系20の光軸Oを含む領域に所定の寸法(所定の長さ及び所定の幅)を有する開口部22Aが形成されている。
【0186】
スリット開口絞り22に形成された開口部は、被検眼Eの眼底Efにおけるスリット光の投射像の形状を規定する。スリット開口絞り22に形成されたスリットの長手方向をスリット長方向と呼ぶことがある。また、スリット開口絞り22に形成されたスリットの短手方向をスリット幅方向と呼ぶことがある。
【0187】
スリット開口絞り22は、移動機構22Mにより、照明光学系20の光軸に沿う方向に移動可能である(図2を参照)。移動機構22Mは、プロセッサ4の制御の下に動作する。プロセッサ4は、被検眼Eの状態(例えば、屈折力(屈折度数、視度)、眼底形状など)に応じて移動機構22Mを制御するように構成されてよい。
【0188】
虹彩絞り21の開口部を通過した光は、スリット開口絞り22の開口部を通過することによってスリット状の照明光(スリット光)に変換される。スリット光は、リレーレンズ23を介して光スキャナー30に導かれ、光スキャナー30により偏向され、リレーレンズ31を介してホールミラー45に導かれる。
【0189】
ホールミラー45は、既存の眼底カメラなどに用いられる光学部材であり、照明光学系20の光路と撮影光学系40の光路とを結合する光路結合部材として機能する。ホールミラー45の中心位置には開口部(又は、光透過部)が形成されている。例えば、この開口部の外縁は円形である。照明光学系20の光軸と撮影光学系40の光軸とは、ホールミラー45の開口部において交差している。ホールミラー45の開口部の周囲には反射部(ミラー部)が形成されている。
【0190】
リレーレンズ31を介してホールミラー45に導かれたスリット光は、反射部により反射され、対物レンズ46により屈折されて被検眼Eに入射する。被検眼Eに入射したスリット光は、眼底Efに投射される。
【0191】
いくつかの態様において、眼底Efにおけるスリット光の投射像(投射領域)の形状は略スリット形状であり、このスリット形状の投射像の長手方向はX方向に略一致している。この場合、光スキャナー30は、眼底Efにおけるスリット光の投射像をY方向に移動させるように、虹彩絞り21及びスリット開口絞り22によって生成されたスリット光を偏向する。
【0192】
なお、眼底Erにおけるスリット光の投射像の長手方向の向きはX方向に限定されず、光スキャナー30による投射像の移動方向はY方向に限定されない。例えば、スリット光の投射像の長手方向の向きをY方向に設定するとともに、光スキャナー30による投射像の移動方向をX方向に設定することができる。また、スリット光の投射像の向き及び移動方向の少なくとも一方が可変であってもよい。
【0193】
被検眼Eに対する撮影部2のアライメントが適切な状態において、光スキャナー30は、被検眼Eの虹彩と光学的に略共役な位置に配置される。これにより、被検眼Eの瞳孔内の位置(又は瞳孔の近傍位置)をピボット(スキャン軸、偏向中心軸)としてスリット光を所定の方向(本実施形態の典型的な態様では、Y方向)に偏向することができ、眼底Efの所定のスキャン範囲を仮想的に分割して形成される複数のスリット状の部分領域に対して逐次にスリット光を投射することが可能になる。つまり、眼底Efのスリットスキャンを行うことが可能になる。
【0194】
眼底Efに投射されたスリット光の反射光は、被検眼Efの瞳孔を介して被検眼Eから出射し、撮影部2に入射する。被検眼Eから撮影部2に入射した光(戻り光)は、対物レンズ46を介してホールミラー45に導かれる。この戻り光は、ホールミラー45の開口部を通過し(又は、光透過部を透過し)、フォーカスレンズ47及び結像レンズ48を介して撮像装置50に導かれて検出される。
【0195】
光スキャナー30は、例えば、スリット光を1次元的又は2次元的に偏向することが可能である。1次元偏向用の光スキャナー30は、所定の方向を基準とした所定の偏向角度範囲においてスリット光を偏向する。この偏向角度範囲は、眼底Efにおけるスリット光の移動方向(例えば、Y方向)に対応した方向において定義されている。2次元偏向が可能な光スキャナー30は、例えば、互いに異なる偏向方向を提供する2つの光スキャナーを組み合わせたものである。光スキャナー30に使用される光偏向デバイスの種類は任意であってよく、例えばガルバノスキャナーであってよい。
【0196】
フォーカスレンズ47は、移動機構47Mにより、撮影光学系40の光軸に沿う方向に移動可能である(図2を参照)。移動機構47Mは、プロセッサ4の制御の下に動作する。プロセッサ4は、被検眼Eの状態(例えば、屈折力、眼底形状など)に応じて移動機構47Mを制御するように構成されてよい。
【0197】
撮像装置50は、撮影光学系40によって導かれてきた戻り光を検出するイメージセンサー51を含んでいる。撮像装置50は、プロセッサ4の制御の下に、戻り光を検出したイメージセンサー51から信号を読み出すことができる。
【0198】
イメージセンサー51は、ピクセル化された受光器としての機能を実現する。被検眼Eに対する撮影部2のアライメントが適切な状態において、イメージセンサー51の受光面(検出面、撮像面)は、被検眼Eの眼底Efに対して光学的に略共役な位置に配置される。イメージセンサー51が光電変換により生成した信号は、プロセッサ4の制御の下に、ローリングシャッター方式で読み出される。
【0199】
いくつかの態様において、イメージセンサー51はCMOSイメージセンサーを含む。この場合、イメージセンサー51においては、ロウ(row)方向に配列されたピクセル群が複数個設けられており、これら複数のピクセル群がカラム(column)方向に配列されている。より具体的には、イメージセンサー51は、2次元的に配列された複数のピクセルと、複数の垂直信号線と、水平信号線とを含む。各ピクセルは、フォトダイオードと、キャパシタとを含む。垂直信号線は、ロウ方向(水平方向)に直交するカラム方向(垂直方向)に配列されたピクセル群ごとに設けられている。各垂直信号線は、戻り光の検出結果に対応した電荷が蓄積されたピクセル群に対して選択的に電気的に接続される。水平信号線は、複数の垂直信号線に対して選択的に電気的に接続される。各ピクセルは、戻り光の検出結果に対応した電荷を蓄積し、蓄積された電荷は、例えばロウ方向のピクセル群ごとに順次に読み出される。例えば、ロウ方向のラインごとに、各ピクセルに蓄積された電荷に対応した電圧が垂直信号線に供給される。複数の垂直信号線は、選択的に水平信号線に対して電気的に接続される。上記したロウ方向のラインごとの読み出し動作を垂直方向に順次に行うことで、2次元的に配列された複数のピクセルから検出結果を読み出すことができる。
【0200】
このようなイメージセンサー51からの検出結果の読み出しをローリングシャッター方式で行うことにより、ロウ方向に延びる所望の仮想的な開口形状に対応した受光像が取得される。この制御は公知であり、例えば米国特許第7831106号明細書などに開示されている。
【0201】
眼科装置1により実行されるスリットスキャンについて、図5を参照しつつ説明する。図5において、符号IPは、眼底Efにおけるスリット光の投射像の位置(投射範囲)を示し、符号OPは、イメージセンサー51の受光面SRにおける仮想的な開口の位置(開口範囲)を示している。
【0202】
眼科装置1は、光スキャナー30を用いてスリット光を偏向することにより、眼底Efにおけるスリット光の投射範囲IPをスリット長方向(例えば、X方向、ロウ方向、水平方向)に対して垂直なスリット幅方向(例えば、Y方向、カラム方向、垂直方向)に移動させる。
【0203】
プロセッサ4の制御の下に行われるイメージセンサー51からの信号の読み出しにおいては、信号読み出しの対象となるピクセル群をライン単位で逐次に切り替えることによって、開口範囲OPが逐次に設定される。
【0204】
投射範囲IPに対応する開口範囲OPは、投射範囲IPに投射されたスリット光の戻り光が受光面SRに投射される範囲IP´を含むように設定される。すなわち、スリット光の投射範囲IPに対応する受光面SRの開口範囲OPは、投射範囲IP´に一致する受光領域として設定され、又は、投射範囲IP´を含むより広い受光領域として設定される。
【0205】
プロセッサ4は、スリット光の投射範囲IPを移動するための制御と、開口範囲OPを移動するための制御とを、互いに並行して実行する。例えば、プロセッサ4は、これら2つの制御(及び、更なる1つ以上の制御)を同期的に(連係的に)実行する。
【0206】
このようにして実行されるスリットスキャンによれば、スリット光の投射範囲IPとイメージセンサー51の開口範囲OPとを連係的に移動しながら眼底Efの撮影対象範囲をスキャンすることができる。これにより、不要な散乱光の影響を受けることなく、高いコントラストを有する高品質の眼底画像を取得することができる。しかも、簡素な構成によって、この効果を達成することが可能である。
【0207】
前述したように、スリットスキャンには、いくつかの動作モード(動作方式)がある。本実施形態は、ローリングシャッターモード及びグローバルリセットリリースシャッターモードについて説明する。
【0208】
ローリングシャッターモードのスリットスキャンについて説明する。ローリングシャッターモードのスリットスキャンのための制御態様の例を図6に示す。
【0209】
図6において、横軸は時間[t]を示し、縦軸はライン番号を示す。縦軸と横軸との交点は、スリットスキャンの開始時間に相当する。
【0210】
ライン番号は、イメージセンサー51の受光面に配列されている受光素子アレイ(ピクセルアレイ)に含まれる複数のピクセルラインの識別子である。いくつかの態様では、ライン番号は、ロウ(row)方向に配列された複数のピクセルラインの識別子であり、各ピクセルラインは、カラム(column)方向に配列されたピクセル群からなる。別のいくつかの態様では、ライン番号は、カラム(column)方向に配列された複数のピクセルラインの識別子であり、各ピクセルラインは、ロウ(row)方向に配列されたピクセル群からなる。
【0211】
各ピクセルラインは、1列に並ぶピクセル群でもよいし、2列以上でもよい。また、ライン番号が連続する2つのピクセルラインは、イメージセンサー51のピクセルアレイにおける隣接ピクセルラインでもよいし、イメージセンサー51のピクセルアレイにおいて1つ以上のピクセルラインが介在する非隣接ピクセルラインでもよい。
【0212】
ローリングシャッターモードのスリットスキャンに使用されるピクセルラインの個数は、任意であってよい。図6に示す例では、1920個のピクセルラインが使用される。図6の各ピクセルラインをL(n)で示す(n=1、2、・・・、1920)。
【0213】
各ピクセルラインラインL(n)において、斜線で示されている期間は、スキャンを実行する期間(スキャン期間)を示し、塗りつぶしで示されている期間は、信号を読み出す期間(読み出し期間)を示す。図6のローリングシャッターモードでは、全てのピクセルラインL(1)~L(1920)のスキャン期間の長さ(スキャン時間)RStが等しく設定されているが、実施形態はこのような設定に限定されない。読み出し期間については、任意に設定されてよい。
【0214】
図6のローリングシャッターモードでは、第n番目のピクセルラインL(n)のスキャン開始時間と、次の第n+1番目のピクセルラインL(n+1)のスキャン開始時間との間の差は、一定値ΔRStである(n=1~1919)。なお、スキャン開始時間の差は、一定でなくてもよい。
【0215】
図6のRRtは、1920個のピクセルラインL(1)~L(1920)からの信号読み出しに掛かる時間(総読み出し時間)を示している。また、RTtは、スリットスキャンに掛かる時間(スキャン時間)を示している。
【0216】
このように、図6のローリングシャッターモードのスリットスキャンでは、ライン番号n=1~1920の順にしたがって、複数のピクセルラインL(1)~L(1920)に対応するスキャン及び信号読み出しを、一定の時間差ΔRStをもって逐次に実行するように制御が行われる。
【0217】
グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンについて説明する。グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンのための制御態様の例を図7に示す。図6と同様に、横軸は時間[t]を示し、縦軸はライン番号を示し、縦軸と横軸との交点は、スリットスキャンの開始時間に相当する。
【0218】
グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンに使用されるピクセルラインの個数は、任意であってよい。図7に示す例では、図6と同様に、1920個のピクセルラインL(n)が使用される(n=1、2、・・・、1920)。
【0219】
図6のローリングシャッターモードの場合とは異なり、図7のグローバルリセットリリースシャッターモードでは、全てのピクセルラインL(1)~L(1920)のスキャン開始時間が一致されており、且つ、全てのピクセルラインL(1)~L(1920)のスキャン時間がそれぞれ異なっている。各ピクセルラインL(n)のスキャン時間をGSt(n)で示すと、任意の異なるライン番号n1及びn2(n1≠n2)について、GSt(n1)とGSt(n2)とは異なる(GSt(n1)≠GSt(n2))。
【0220】
図7のグローバルリセットリリースシャッターモードでは、第n番目のピクセルラインL(n)のスキャン時間GSt(n)と、次の第n+1番目のピクセルラインL(n+1)のスキャン時間GSt(n+1)との間の差は、一定値ΔGStである(n=1~1919)。なお、スキャン時間の差は、一定でなくてもよい。
【0221】
GRtは、1920個のピクセルラインL(1)~L(1920)からの信号読み出しに掛かる時間(総読み出し時間)を示している。また、GTtは、スリットスキャンに掛かる時間(スキャン時間)を示している。
【0222】
このように、図7のグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンでは、全てのピクセルラインL(1)~L(1920)に対応するスキャンが同時に開始し、ライン番号n=1~1920の順にしたがってピクセルラインL(1)~L(1920)のスキャンを一定の時間差ΔGStをもって逐次に終了して信号読み出しを実行するように制御が行われる。
【0223】
このようなグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンにおいては、全てのピクセルラインL(1)~L(1920)に共通の露光期間(共通露光時間Ct)が設定されている。この共通露光時間Ctは、グローバルシャッター型イメージセンサーを用いた撮影における露光時間に相当するものである。
【0224】
いくつかの実施形態では、光スキャナー30とホールミラー45との間に、有害反射光を除去するための黒点を設けることができる。黒点は、対物レンズ46によるスリット光の反射に起因する中心ゴーストの位置に対して光学的に略共役な位置に配置される。
【0225】
いくつかの実施形態では、眼底Efに投射されるフォーカス調整用指標(スプリット指標)を生成するフォーカス指標投影光学系が光スキャナーとホールミラーとの間に設けられ、且つ、フォーカス指標投影光学系を移動するための機構が設けられる。なお、フォーカス調整のための構成は、これに限定されない。
【0226】
プロセッサ4は、様々な制御処理や様々な演算処理を実行する。プロセッサ4は、例えば、図5図7を参照して説明したスリットスキャンを撮影部2に実行させるための制御(スリットスキャン制御)と、フレアの無い画像を取得するための撮影部2の位置調整(アライメント処理)とを実行するように構成されている。プロセッサ4により実行される処理はこれらに限定されず、例えば、フォーカス調整や表示制御を実行することが可能である。
【0227】
スリットスキャン制御は、公知の手法で実行されてよい。これに対し、本実施形態のアライメント処理は、新規な技術である。以下、アライメント処理のいくつかの例を説明する。
【0228】
本実施形態の眼科装置1は、新規なアライメント処理を実行するために、眼底画像の解析と、瞳孔径データの取得と、アライメント制御量の決定と、撮影部2の移動とを含む一連の処理を実行するように構成されている。眼科装置1は、この新規な一連の処理を実行することによって(すなわち、新規なソフトウェア要素を備えた構成を採用することによって)、スリットスキャン方式の眼底撮影においてフレアの無い画像を取得することを可能にする。
【0229】
プロセッサ4の構成の非限定的な例を図8に示す。本例のプロセッサ4は、撮影制御部410と、アライメント処理部420とを含んでいる。アライメント処理部420は、画像解析部421と、瞳孔径データ取得部422と、制御量決定部423と、移動制御部424とを含んでいる。
【0230】
撮影制御部410は、被検眼Eを撮影するために撮影部2の制御を実行する。撮影制御部410の制御の下に、撮影部2は、被検眼Eの眼底Efの撮影を行うことが可能であり、更に、前眼部Eaの撮影を行うことが可能であってもよい。
【0231】
撮影制御部410は、例えば、図5のスリットスキャンを撮影部2に実行させる。撮影制御部410は、例えば、図6のローリングシャッターモードのスリットスキャンを撮影部2に実行させるように構成されている。本例のローリングシャッターモードのスリットスキャンは、可視光及び/又は赤外光を用いて行われる。このスリットスキャンで取得された可視画像及び/又は赤外画像は、例えば、被検眼Eの診断に提供される。
【0232】
撮影制御部410は、例えば、図7のグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンを撮影部2に実行させるように構成されていてよい。本例のグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンは、例えば、赤外光を用いて行われる。このスリットスキャンで取得された赤外画像は、例えば、ローリングシャッターモードのスリットスキャンの準備として実行されるアライメント処理に提供される。アライメントに赤外画像を用いることで、被検眼Eの縮瞳を回避することができる。
【0233】
撮影部2が、一般的な眼底カメラの光学系(つまり、グローバルシャッター型カメラを含む光学系)を含んでいる場合、撮影制御部410は、一般的な眼底カメラのプロセッサと同様の撮影制御を実行するように構成される。
【0234】
アライメント処理部420は、被検眼Eに対する撮影部2(照明光学系20及び撮影光学系40)のアライメントのための処理を実行する。
【0235】
本実施形態のアライメントは、一般的な位置合わせ(つまり、被検眼の軸と装置光学系の光軸とを一致させるためのXYアライメント、及び、被検眼と装置光学系との間の距離を作動距離に一致させるためのZアライメント)とは異なる効果を提供するための動作であり、具体的には、フレアの無い眼底画像をスリットスキャンで取得することを1つの目的とした被検眼と装置光学系との間の位置調整である。
【0236】
図9Aに示す眼底画像101は、ローリングシャッター方式のスリットスキャンを用いて被検眼の眼底を撮影して取得された画像である。このスリットスキャンは、可視照明光を用いて行われたものであり、眼底画像101はカラー画像である。このカラー眼底画像101には、フレア101Aが発生している。
【0237】
また、図9Bに示す眼底画像102は、同じ被検眼の眼底にグローバルシャッター方式の撮影を適用することによって取得された画像である。この撮影は、赤外照明光を用いて行われたものであり、眼底画像102はグレースケール画像である。この撮影は、例えば、グローバルリセットリリースシャッター方式のスリットスキャン、又は、グローバルシャッター型カメラを用いた撮影である。この赤外眼底画像102には、2つのフレア102A及び102Bが発生している。
【0238】
フレア101A並びにフレア102A及び102Bは、いずれも、照明光の角膜反射に由来している。よって、フレア102A及び102Bの状態から、フレア101Aの状態を推測することが可能と考えられる。例えば、画像診断などに使用されるカラー眼底画像を取得するためのローリングシャッター方式のスリットスキャンを行う前に、グローバルシャッター方式の赤外撮影を行い、取得された赤外眼底画像中のフレアの状態を解析することによって、スリットスキャンで取得される画像中のフレアの状態を推測することが可能と考えられる。より具体的には、赤外眼底画像にフレアが含まれているか否かに基づいてスリットスキャン画像にフレアが含まれるか否かを推測することができ、また、赤外眼底画像中のフレアの状態(輝度、寸法、位置など)に基づいてスリットスキャン画像に生じ得るフレアの状態を推測することができる。これらの事項は、発明者が見出した知見である。
【0239】
なお、フレアの発生しやすさは、個々の眼に依存している。例えば、角膜反射量(角膜反射率)や眼組織構造(組織の形状、組織の配置など)は、被検眼ごとに様々である。そのため、照明光の角膜反射が装置光学系に入射するか否かは被検眼ごとに異なり、また、装置光学系に入射する角膜反射の強度や向きも被検眼ごとに異なる。したがって、ローリングシャッター方式のスリットスキャンで得られる画像におけるフレアの状態の推測を、予備的な撮影及び処理を行わずに行うことは、非常に困難である。本実施形態では、この予備的な撮影及び処理として、グローバルシャッター方式の赤外撮影及び赤外眼底画像の解析を行うことによって、ローリングシャッター方式のスリットスキャンで得られる画像におけるフレアの状態を推測することを可能にしている。
【0240】
前述したように、アライメント処理部420は、画像解析部421と、瞳孔径データ取得部422と、制御量決定部423と、移動制御部424とを含む。
【0241】
画像解析部421は、被検眼Eの眼底Efの画像を解析して所定の輝度パラメータの値を求めるように構成されている。
【0242】
画像解析部421に提供される画像は、被検眼Eの眼底Efを撮影して取得された任意の画像であってよい。いくつかの例では、眼科装置1によって生成された画像が、画像解析部421に提供される。いくつかの例では、眼科装置1以外の眼科イメージング装置によって生成された画像が、画像解析部421に提供される。
【0243】
いくつかの例では、ローリングシャッター型カメラを用いた撮影によって生成された画像(つまり、スリットスキャンによって生成された画像)が、画像解析部421に提供される。ここで、ローリングシャッター型カメラを用いた撮影は、ローリングシャッターモードのスリットスキャンでもよいし、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンでもよい。
【0244】
いくつかの例では、グローバルシャッター型カメラを用いた撮影によって生成された画像が、画像解析部421に提供される。この画像は、例えば、一般的な眼底カメラ光学系を用いた撮影によって生成された画像であってよい。
【0245】
以上に例示したように、画像解析部421へ画像を提供する処理には様々な態様があるが、その典型的な例として次の3つの態様がある。
【0246】
第1の態様例では、撮影部2は、赤外照明光を用いたグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンを被検眼Eの眼底Efに適用する。このスリットスキャンで生成された画像(第1の赤外画像)が画像解析部421に提供される。本態様例は、図2の光学系を用いて実行可能である。
【0247】
本態様例において画像解析部421に提供される典型的な画像には、図9Bに示すような2つのフレアが混入している。本態様例は、このような画像におけるフレアの情報を豊富に且つ迅速に求めるために、双方のフレアが描出された画像を1回のグローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで取得するように撮影制御を実行してもよい。この撮影制御の例について図10を参照しつつ説明する。
【0248】
図10において、横軸は時間[t]を示し、縦軸はスリット光の投射位置の移動方向(スキャン方向)を示している。本例のスキャン方向はY方向であり、縦軸はY座標を示している。符号FU及びFLは、画像に混入する2つのフレアを示している。
【0249】
本例では、上方から下方に向けてスリットスキャンを行う。符号SPはスキャン開始位置を示し、符号EPはスキャン終了位置を示す。上方のスキャン開始位置SPから下方のスキャン終了位置EPに向けてスリットスキャンを開始すると、まず下方のフレアFL(スキャン終了位置EP側のフレアFL)が発生し、続いて上方のフレアFU(スキャン開始位置SP側のフレアFUが発生する。以下、前者を下側フレアFLと呼び、後者を上側フレアFUと呼ぶ。
【0250】
本例の撮影制御部410は、下側フレアFL及び上側フレアFUの双方が描出された単一の画像を生成するために、双方のフレアFL及びFUが発生している期間を含むようにイメージセンサー51の露光制御を実行する。図10においては、時間t1から時間t2までの期間に露光が行われる。
【0251】
このような露光制御を含む撮影制御は、例えば、プロセッサ4の制御の下に実行されるXYアライメント及びZアライメントの後に、次のようにして実行される。XYアライメント及びZアライメントの完了時点では、撮影部2の光軸(対物レンズ46の光軸)と被検眼Eの軸とが実質的に一致しており、且つ、撮影部2(対物レンズ46)と被検眼Eとの間の距離が所定の作動距離に実質的に一致している。また、イメージセンサー51の動作モード(シャッターモード)は、グローバルリセットリリースシャッターモードに設定されている。
【0252】
所定の撮影トリガー(例えば、XYアライメント及びZアライメントが完了したことを示す信号)を受けると、撮影制御部410は、スキャン開始位置SPから赤外照明光(スリット光)の移動を開始する(時間t0)。使用される赤外照明光の強度は、例えば、可能な設定値のうちの最小の設定値とされる。
【0253】
撮影制御部410は、時間t0から所定の遅延時間が経過した時点で、イメージセンサー51の露光を開始させる(時間t1)。この遅延時間は、予め設定された時間であり、例えば、フレアの発生タイミングを事前に測定することによって決定され、或いは、スリット光の移動速度や光学系の構成などに基づく理論的計算及び/又はシミュレーションによって決定される。
【0254】
露光開始(時間t1)から所定の露光時間が経過した時点で、撮影制御部410は、イメージセンサー51の露光を終了する(時間t2)。この露光時間は、予め設定された時間であり、例えば、上記の遅延時間と同じ要領で決定される。
【0255】
スリット光の投射位置がスキャン終了位置EPに到達した時点で、撮影制御部410は、本例のスリットスキャンを終了する(時間t3)。
【0256】
このような撮影制御を実行することにより、上側フレアFU及び下側フレアFLの双方が描出された単一の画像を、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャンで生成することができる。本例では、このようにして生成された画像が画像解析部421に提供される。
【0257】
第2の態様例では、撮影部2は、ローリングシャッター型のイメージセンサー51に加えて、グローバルシャッター型のイメージセンサーを含んでいる。このグローバルシャッター型カメラを用いて生成された画像(第2の赤外画像)が画像解析部421に提供される。
【0258】
本態様例は、例えば、図2の撮像装置50の代わりに図11に示す撮像装置50Aを用いることによって実行可能である。図11の撮像装置50Aは、図2の撮像装置50と同様のイメージセンサー51に加えて、イメージセンサー52を含む。イメージセンサー51はローリングシャッター型であり、イメージセンサー52はグローバルシャッター型である。
【0259】
撮像装置50Aは、光路分割素子(ビームスプリッター)53を更に含んでいる。光路分割素子53は、結像レンズ48を通過した光の光路を、イメージセンサー51に到達する光路と、イメージセンサー52に到達する光路とに分割する。光路分割素子53は、光路分割機能を有する任意の光学素子であってよく、例えば、ハーフミラー、ダイクロイックミラー、及び偏光ビームスプリッターのいずれかであってよい。
【0260】
本態様例に適用可能な光学系は、図11の構成に限定されない。いくつかの例の光学系は、図2のフォーカスレンズ47を通過した光路を第1の光路と第2の光路とに分割する光路分割素子と、第1の光路に配置された第1の結像レンズ及びローリングシャッター型イメージセンサーと、第2の光路に配置された第2の結像レンズ及びグローバルシャッター型イメージセンサーとを含む。
【0261】
第3の態様例では、別の眼科イメージング装置により生成された被検眼Eの眼底Efの画像が画像解析部421に提供される。この別の眼科イメージング装置のモダリティは任意であってよい。
【0262】
図示は省略するが、本態様例は、別の眼科イメージング装置により生成された画像を受け付けるデータ受付部を含んでいる。データ受付部は、例えば、通信回線を通じて画像を受け付ける通信デバイス、及び、記録媒体から画像を読み出すデータリーダーデバイスのいずれかを含む。
【0263】
次に、画像解析部421により算出される輝度パラメータの例を説明する。輝度パラメータは、眼底画像に発生するフレアに関連する任意の種類のパラメータであってよく、例えば、照明光の角膜反射光に関する任意の種類のパラメータ(角膜反射パラメータ)であってよく、また、被検眼Eと撮影部2との間の距離を調整するため制御量を決定するために使用可能な任意の輝度パラメータであってよい。
【0264】
本実施形態では、画像解析部421が最大輝度値を求める場合について説明するが、別の種類の輝度パラメータの値を求める場合においても同様の処理を実行できることは、当業者であれば理解することができるであろう。なお、別の種類の輝度パラメータについては、そのいくつかの例が前述されている。
【0265】
画像解析部421は、入力された画像を構成する複数の画素の値(輝度値)のうちの最大値を特定する。この最大輝度値は、画像を構成する全ての画素から特定された値でもよいし、一部の画素から特定された値でもよい。前者の場合、画像解析部421は、この画像の全ての画素の輝度値の大きさを比較することによって最大輝度値を特定することができる。
【0266】
入力された画像の一部の画素から最大輝度値を求める場合の例を説明する。本例の画像解析部421は、まず、入力された画像の部分領域を特定する。この部分領域は高輝度領域である。高輝度領域の特定は、例えば、画素の位置(座標)、輝度値の大きさ(閾値との比較など)、領域の態様(位置、形状、寸法など)などに基づいて実行される。更に、本例の画像解析部421は、特定された高輝度領域に含まれる全ての画素の輝度値のうちの最大値を特定する。このようにして特定された輝度値が、この画像の最大輝度値として用いられる。本例によれば、例えば、図10の上側フレアFU及び下側フレアFLにそれぞれ相当する2つの高輝度領域が特定され、これら高輝度領域における最大輝度値が特定される。
【0267】
瞳孔径データ取得部422は、被検眼Eの瞳孔径データを取得するように構成されている。
【0268】
いくつかの例では、撮影部2が被検眼Eの前眼部Eaを撮影して生成した画像(前眼部像)が瞳孔径データ取得部422に提供される。本例の瞳孔径データ取得部422は、例えば、所定の画像処理(例えば、閾値処理、エッジ検出、パターンマッチング、セグメンテーションなど)を前眼部像に適用することによって瞳孔領域を特定する処理と、特定された瞳孔領域の寸法(瞳孔径)を求める処理とを実行するように構成されている。
【0269】
いくつかの例では、別の眼科イメージング装置が被検眼Eの前眼部Eaを撮影して前眼部像を生成する。本例の瞳孔径データ取得部422は、別の眼科イメージング装置により生成された前眼部像を受け付けるデータ受付部(通信デバイス、データリーダーデバイスなど)を含む。更に、本例の瞳孔径データ取得部422は、例えば、所定の画像処理を前眼部像に適用することによって瞳孔領域を特定する処理と、特定された瞳孔領域の寸法(瞳孔径)を求める処理とを実行するように構成されている。
【0270】
制御量決定部423は、画像解析部421により求められた輝度パラメータ値と、瞳孔径データ取得部422により取得された瞳孔径データとに基づいて、被検眼Eと撮影部2との間の距離の制御量を決定するように構成されている。
【0271】
制御量決定部423により求められる制御量は、被検眼Eと撮影部2との間の距離を制御するために使用可能な任意のパラメータの値(量)であってよく、例えば、被検眼Eと撮影部2(対物レンズ46)との間の距離、被検眼Eと撮影部2(対物レンズ46)との間の現在の距離からの変化量、及び、移動機構3に提供される制御信号のパラメータ値のいずれかであってよい。
【0272】
いくつかの例において、制御量決定部423は、画像解析部421により求められた輝度パラメータ値を閾値(輝度閾値)と比較し、この比較の結果に基づいて制御量を決定するように構成されていてよい。
【0273】
輝度パラメータ値との比較に適用される輝度閾値は、例えば、予め設定された1つの値(デフォルト値)、予め設定された複数の輝度閾値(複数のデフォルト値)から選択された1つ以上の値、及び、被検眼Eの撮影時に決定された1つ以上の値のうちのいずれかであってよい。輝度閾値を決定する方法は任意であってよく、そのいくつかの非限定的な例が後述される。
【0274】
本例において、アライメント処理部420により処理される被検眼Eの眼底Efの画像を撮影部2によって取得する前に、被検眼Eに対する撮影部2の位置調整(例えば、XYアライメント及びZアライメントのみ、又は、XYアライメント及びZアライメント並びにトラッキング)を実行することができる。これにより、位置調整を行わずに眼底撮影を行う場合と比べて良好な眼底画像をアライメント処理部420に提供することが可能になる。この眼底撮影前の位置調整は、公知の方法にしたがって移動制御部424が移動機構3を制御することによって実行されてよい。
【0275】
位置調整後の眼底撮影によって取得された被検眼Eの眼底Efの画像がアライメント処理部420に入力されると、画像解析部421は、この画像から輝度パラメータ値を算出し、制御量決定部423は、この輝度パラメータ値を輝度閾値と比較する。本例の制御量決定部423は、輝度パラメータ値が輝度閾値以上である場合には制御量決定処理を実行し、輝度パラメータ値が輝度閾値未満である場合には制御量決定処理を実行しない。
【0276】
このように、本例では、強いフレアが発生しているときには、制御量の決定と、被検眼Eと撮影部2との間の距離調整とを実行するが、強いフレアが発生していないとき(フレアが発生していないとき、又は、弱いフレアのみ発生しているとき)には、これらの処理を実行しない。ここで、強いフレアと弱いフレアとは、輝度閾値に基づいて判別される。
【0277】
眼底撮影前にXYアライメント及びZアライメントに加えてトラッキングも実行される場合には、アライメントと眼底撮影との間に眼球運動などが発生したときでも、トラッキングによって位置ずれをキャンセルできるため、常に、被検眼Eと撮影部2との相対位置が良好な状態で眼底撮影を行うことができる。よって、本例に係る処理(つまり、輝度パラメータ値と輝度閾値との比較、この比較結果に基づく制御量の決定、及び、この制御量に基づく撮影部2の移動制御)を有効に行うことが可能である。
【0278】
これに対し、眼底撮影前にXYアライメント及びZアライメントのみが実行される場合、つまり、XYアライメント及びZアライメントの後にトラッキングを実行することなく眼底撮影を行う場合には、被検眼Eと撮影部2との間に位置ずれが生じている状態で行われた眼底撮影で得られた画像がアライメント処理部420に入力される可能性がある。
【0279】
眼科装置1は、このような場合において、例えば、次の動作例(1)~(3)のいずれかを実行するように構成されてよい:(1)本例に係る処理を実行する;(2)輝度パラメータ値と輝度閾値との大小関係にかかわらず、制御量の決定と、この制御量に基づく撮影部2の移動制御とを実行する;(3)輝度パラメータ値が輝度閾値以上である場合には、制御量の決定と、この制御量に基づく撮影部2の移動制御とを実行し、輝度パラメータ値が輝度閾値未満である場合には、別のアライメント(オートアライメント、及び/又は、マニュアルアライメント)を実行する。
【0280】
次に、輝度閾値の決定について、いくつかの例を説明する。輝度閾値を決定する処理を実行するプロセッサは、眼科装置1に設けられてもよいし、別の装置(眼科装置、情報処理装置など)に設けられていてもよい。前者の場合の構成例を図12に示す。後者の場合の図示は省略する。
【0281】
図12のプロセッサ4Aは、図8のプロセッサ4の代わりに眼科装置1に適用可能な要素であり、輝度閾値決定部430を含んでいることを除いて、プロセッサ4と同様の構成を有している。なお、輝度閾値決定プロセッサが別の装置に設けられている場合において、この輝度閾値決定プロセッサは、輝度閾値決定部430と同様の機能及び構成を有していてよい。
【0282】
輝度閾値決定部430は、例えば、予め取得された眼底画像データセットの最大輝度値分布を求める処理と、この最大輝度値分布に基づいて輝度閾値を決定する処理とを実行するように構成されてよい。この輝度閾値決定処理は前述した要領で実行可能であるが、発明者が実施した例示的な処理内容について以下に説明する。
【0283】
発明者は、3台の眼科イメージング装置のそれぞれを用いて、10名の被検者の左眼及び右眼の眼底撮影を2回ずつ行った。各眼底撮影では、赤外照明光を用いたグローバルシャッター方式の撮影を3回ずつ行った。これにより、360枚の赤外眼底画像からなる眼底画像データセットが得られた。
【0284】
発明者は、各赤外眼底画像の最大輝度値を特定し、最大輝度値と画像枚数との関係を表すヒストグラムを作成した。このヒストグラムは、この眼底画像データセットにおける最大輝度値の分布状態を表す統計表現であり、更に、フレアの状態(フレアの有無や強度)と最大輝度値との関係を表す統計表現と考えることができる。
【0285】
発明者は、このような最大輝度値分布に対して統計演算を適用することによって輝度閾値を決定した。この統計演算は、重み付きF値(Fβスコア)である。Fβスコアは、二値分類の問題に対する評価指標の1つであり、互いにトレードオフ関係にある適合率及び再現率の重み付き調和平均によって定義される。具体的には、Fβスコアは次式により定義される:Fβ=[(1+β)×適合率×再現率]/[β×適合率+再現率]。
【0286】
ここで、適合率は、正と予測したもののうち実際に正であった割合を示し、再現率は、実際に正であるもののうち正と予測できた割合を示す。また、βは、正の実数であり、適合率と比較して再現率を何倍重視するかを表す係数である。Fβスコアの最小値は0であり、最大値は1である。
【0287】
係数βの値を大きくするほど、フレア検知の敏感さ(フレア検知感度、フレア検知能力)が高くなる。すなわち、係数βの値が大きくなるほど、フレアであると判定される輝度値が小さくなる(つまり、輝度閾値が小さくなる)。その一方で、実際にはフレアが発生していない画像を、フレアを含む画像であると誤って判断する可能性も高くなる。
【0288】
発明者は、このような最大輝度値分布及び統計演算を用いることで、次のような輝度閾値セットを決定した。この輝度閾値セットは、フレア検知感度が異なる3つの輝度閾値を含む。高いフレア検知感度を有する輝度閾値(高感度検知用の輝度閾値)は輝度値40に設定され、中程度のフレア検知感度を有する輝度閾値(中感度検知用の輝度閾値)は輝度値66に設定され、低いフレア検知感度を有する輝度閾値(低感度検知用の輝度閾値)は輝度値88に設定された。
【0289】
高感度検知用の輝度閾値を用いる場合、低輝度のフレアを検知できるという長所がある一方で、フレアではない領域をフレアであると誤って判定する可能性が高まるという短所がある。また、低感度検知用の輝度閾値を用いる場合には、このような誤検知を引き起こす可能性が低くなるという長所がある一方で、低輝度のフレアを検知できないという短所がある。中感度検知用の輝度閾値は、高感度検知用の輝度閾値と低感度検知用の輝度閾値との中間の性質を有する。なお、決定される輝度閾値の個数は3つに限定されず、1つ以上の任意の個数であってよい。
【0290】
複数の輝度閾値が準備されている場合、各輝度閾値の性質を考慮して、使用する輝度閾値を選択することができる。また、1つの眼底画像に基づくアライメント処理において2つ以上の輝度閾値を使用してもよい。この場合、2つ以上の輝度閾値を用いて得られた2つ以上のフレア検知結果に基づいて制御量を決定することができる。例えば、2つ以上のフレア検知結果のうちから1つを選択して制御量を決定することや、2つ以上のフレア検知結果を統合して制御量を決定することが可能である。
【0291】
いくつかの例において、制御量決定部423は、画像解析部421により求められた輝度パラメータ値を、上記の要領で決定された輝度閾値と比較する。輝度パラメータ値が輝度閾値以上である場合には、制御量決定処理の次の工程に移行し、輝度パラメータ値が輝度閾値未満である場合には、制御量決定処理(したがって、アライメント処理)は終了となる。つまり、眼底画像にフレアが含まれていると判断された場合には、制御量決定処理の次の工程に移行し、眼底画像にフレアが含まれていないと判断された場合には、制御量決定処理(したがって、アライメント処理)は終了となる。
【0292】
前述したように、制御量決定処理は、輝度パラメータ値と瞳孔径データとに基づき実行される。いくつかの例では、制御量決定部423は、輝度パラメータ値が輝度閾値以上である場合に、瞳孔径データに基づき制御量を決定する工程に移行する。この工程のいくつかの例を以下に説明する。
【0293】
瞳孔径データは、被検眼Eの瞳孔径の測定データを含む。この測定データは、例えば、被検眼Eの瞳孔径の測定値、及び/又は、被検眼Eの瞳孔径の測定値の評価結果であってよい。この評価結果は、例えば、測定値と輝度閾値との比較の結果、測定値が属する数値範囲などであってよい。これらの場合、瞳孔径データの値の大きさに基づいて制御量が決定される。
【0294】
瞳孔径データの値の大きさに基づき制御量を決定する態様のいくつかの例では、眼底撮影時の周辺光量に着目して制御量が決定される。より具体的には、眼底撮影時の周辺光量の低下が大きくならないように、換言すると、許容される周辺光量で眼底撮影が行われるように、制御量が決定される。
【0295】
本例の制御量決定部423は、瞳孔径データの値の大きさに基づいて、照明光学系20により被検眼Eの眼底Efに投射される照明光の周辺光量の低下が閾値(周辺光量閾値)以下になるように制御量を決定するように構成されていてよい。ここで、周辺光量の低下は、例えば、低下率、低下量、低下率の評価結果、及び、低下量の評価結果のいずれかであってよい。
【0296】
制御量の決定に使用される周辺光量閾値は、例えば、予め設定された1つの値(デフォルト値)、予め設定された複数の周辺光量閾値(複数のデフォルト値)から選択された1つ以上の値、及び、被検眼Eの撮影時に決定された1つ以上の値のうちのいずれかであってよい。周辺光量閾値を決定する方法は任意であってよく、そのいくつかの非限定的な例が後述される。
【0297】
瞳孔径データの値の大きさに基づき制御量を決定する態様のいくつかの例では、事前に準備された制御量情報が用いられる。制御量情報は、瞳孔径値と制御量との間の対応関係を示す情報である。例えば、制御量情報には、瞳孔径値の2つ以上の範囲(瞳孔径値の2つ以上の区間)が定義されており、各範囲に対して制御量の値が割り当てられている。
【0298】
本例の制御量決定部423は、瞳孔径データ取得部422により取得された瞳孔径データの値(つまり、被検眼Eの瞳孔径の測定値など)に対応する制御量の値を制御量情報から取得する。そして、本例の移動制御部424は、取得された制御量の値に基づき移動機構3を制御することによって、撮影部2の位置調整を行う。
【0299】
次に、制御量情報の生成について、いくつかの例を説明する。制御量情報を生成する処理を実行するプロセッサは、眼科装置1に設けられてもよいし、別の装置(眼科装置、情報処理装置など)に設けられていてもよい。前者の場合の構成例を図13に示す。後者の場合の図示は省略する。
【0300】
図13のプロセッサ4Bは、図8のプロセッサ4の代わりに眼科装置1に適用可能な要素であり、制御量情報生成部440を含んでいることを除いて、プロセッサ4と同様の構成を有している。なお、制御量情報生成プロセッサが別の装置に設けられている場合において、この制御量情報生成プロセッサは、制御量情報生成部440と同様の機能及び構成を有していてよい。
【0301】
制御量情報生成部440は、例えば、次の4つのファクターの間の関係に基づいて制御量情報を生成するように構成されていてよい:(1)眼と撮影部2との間の距離;(2)照明光の周辺光量の低下;(3)眼底画像に高輝度領域が発生する確率(4)眼の瞳孔径値。
【0302】
XY方向のアライメント状態は良好である(つまり、眼の軸と撮影部2の光軸とが一致している)という前提の下に、第1のファクター(1)の「距離」は、Z方向における距離として定義されてよい。第2のファクター(2)の「低下」は、低下率又は低下量として定義されてよい。第3のファクター(3)の「高輝度領域」は、フレアと推定される画像領域として定義されてよい。
【0303】
これら4つのファクターの間の関係の例を図14に示す。図14には、4つのグラフF、P(2.5)、P(3.0)、及びP(3.5)が示されている。
【0304】
これらグラフが定義されている座標系の横軸は、既定の作動距離からのオフセット量、つまり、作動距離に対応する基準位置からのオフセット量を示している。オフセット量の単位はミリメートルである。オフセット量「0」は、眼科装置1(撮影部2の照明光学系20及び撮影光学系40)の作動距離に対応する基準位置を示す。負のオフセット量は、基準位置よりも眼に近い位置を示し、正のオフセット量は、基準位置よりも眼から遠い位置を示している。一方、この座標系の縦軸は、フレアの発生確率及び周辺光量の低下率を示している。
【0305】
グラフFは、作動距離からのオフセット量と、フレアの発生確率との間の関係を示している。グラフP(2.5)は、瞳孔径値が2.5ミリメートルの眼が撮影対象である場合における、作動距離からのオフセット量と、周辺光量の低下率との間の関係を示している。グラフP(3.0)は、瞳孔径値が3.0ミリメートルの眼が撮影対象である場合における、作動距離からのオフセット量と、周辺光量の低下率との間の関係を示している。グラフP(3.5)は、瞳孔径値が3.5ミリメートルの眼が撮影対象である場合における、作動距離からのオフセット量と、周辺光量の低下率との間の関係を示している。
【0306】
これら4つのグラフF、P(2.5)、P(3.0)、及びP(3.5)により示される関係は、発明者が見出したものである。これらグラフを求めるために、次の2つの条件を前提とした:(1)作動距離からのオフセット量が+1.0ミリメートル以上であるときには、フレアは発生しない;(2)周辺光量の低下率の許容範囲は、0パーセントから40パーセントまでの範囲とする。図14のグラフL(40)は、許容される周辺光量の低下率の最大値である40パーセントを示している。
【0307】
このような前提条件の下に導出された4つのグラフF、P(2.5)、P(3.0)、及びP(3.5)を考察することで、次の3つのことが分かる。
【0308】
第1に、瞳孔径値が2.5ミリメートル以下である場合において、作動距離からのオフセット量が正値になると、周辺光量の低下率が40パーセントを超えてしまう。つまり、瞳孔径値が2.5ミリメートル以下である場合において、作動距離に対応する基準位置よりも眼から遠い位置に撮影部2が配置されると、得られる画像の明るさが足りなくなってしまう。したがって、撮影対象の眼の瞳孔径値が2.5ミリメートル以下である場合には、作動距離に対応する基準位置よりも眼から遠い位置に撮影部2が配置された状態で眼底撮影を行うべきではない。すなわち、瞳孔径値が2.5ミリメートル以下の眼の眼底撮影は、作動距離に対応する基準位置(又は、基準位置よりも眼に近い位置)に撮影部2が配置されている状態で行うべきである。
【0309】
第2に、瞳孔径値が2.5ミリメートルよりも大きく且つ3.5ミリメートルよりも小さい場合には、例えば、次のようにして作動距離からのオフセット量を決定することができる。
【0310】
本例の瞳孔径値をφとすると、図14のグラフP(2.5)などと同様にして、当該瞳孔径値φに対応するグラフP(φ)が得られる。本例におけるオフセット量は、少なくともグラフP(φ)及びグラフL(40)に基づいて決定することができる。例えば、グラフP(φ)とグラフL(40)との交点を第1の端とし、且つ、グラフP(φ)とオフセット量「ゼロ」を示すラインとの交点を第2の端とする線分(グラフP(φ)の一部である)上の任意の点に相当するオフセット量を、当該瞳孔径値φに対応するオフセット量に設定することが可能である。
【0311】
その1つの具体例として、瞳孔径値φ=3.0ミリメートルである場合、図14のグラフP(3.0)が考慮される。本例では、図15に示すように、グラフP(3.0)とグラフL(40)との交点Q1を第1の端とし、且つ、グラフP(3.0)とオフセット量「ゼロ」を示すラインM(0)との交点Q2を第2の端とする線分Q(グラフP(3.0)の一部である)上の任意の点に相当するオフセット量が、本例の瞳孔径値φ=3.0ミリメートルに対応するオフセット量に設定される。
【0312】
例えば、1つの基準となる瞳孔径値φ0=2.5ミリメートルに対する本例の瞳孔径値φ=3.0ミリメートルの差(φ-φ0=+0.5ミリメートル)が、本例の瞳孔径値φ=3.0ミリメートルに対応するオフセット量Δ(3.0)に設定される。ここで、本例の瞳孔径値φ=3.0ミリメートルに対応するオフセット量Δ(3.0)=+0.5ミリメートルは、線分Q上の点Q0に相当する。つまり、本例の瞳孔径値φ=3.0ミリメートルに対応するオフセット量Δ(3.0)=+0.5ミリメートルは、線分Qとオフセット量「+0.5」を示すラインとの交点Q0に相当する。
【0313】
このように、瞳孔径値φが2.5ミリメートルよりも大きく且つ3.5ミリメートルよりも小さい場合において(つまり、2.5<φ<3.5の場合において)、当該瞳孔径値φ(ミリメートル)から2.5(ミリメートル)を減算して得られる差の値(φ-2.5)を、当該瞳孔径値φに対応するオフセット量Δ(φ)に設定することにより、瞳孔径値φが区間(2.5,3.5)に属する場合におけるオフセット量Δ(φ)を連続関数として表現することができる。
【0314】
なお、本例の瞳孔径値の範囲のオフセット量は、連続関数として定義されてもよいし、離散関数として定義されてもよいし、別の関数として定義されてもよい。別の範囲の瞳孔径値が適用される場合においても同様である。
【0315】
第3に、瞳孔径値が3.5ミリメートル以上である場合、上記の前提条件(1)や、グラフP(3.5)とグラフFとの関係などから分かるように、作動距離からのオフセット量が+1.0ミリメートル以上である場合にはフレアは発生しない。したがって、3.5ミリメートル以上の瞳孔径値φに対応するオフセット量Δ(φ)は+1.0ミリメートルに設定される。なお、オフセット量を+1.0ミリメートルよりも大きくしても、フレア低減効果が無いばかりか、周辺光量の低下が大きくなってしまうため、オフセット量Δ(φ)=+1.0ミリメートルとすることが有利であると考えられる。
【0316】
以上に述べた第1~第3の考察により、本例では、瞳孔径値φに対応するオフセット量Δ(φ)が次のように定義される:Δ(φ)=0(φ≦2.5の場合)、Δ(φ)=φ-2.5(2.5<φ<3.5の場合)、Δ(φ)=1(Δ≧3.5の場合)。
【0317】
このように、本例では、2つの瞳孔径値「2.5」及び「3.5」は、被検眼の瞳孔径の大きさを評価するための閾値として、つまり、作動距離からのオフセット量を決定するための閾値として使用される。なお、閾値として使用される瞳孔径値は、本例の値に限定されるものではなく、眼科装置の制御に関する設計思想や考慮される条件などに応じて任意に決定されてよい。
【0318】
制御量情報生成部440は、以上のようにして決定されたオフセット量Δ(φ)を示す制御量を含む制御量情報を生成する。オフセット量Δ(φ)を示す制御量は、例えば、オフセット量Δ(φ)そのもの(つまり、物理的距離の値)であってもよいし、移動機構3に印可される制御信号のパラメータ値(オフセット量Δ(φ)から求められた電圧値、電流値、パルス数など)であってよい。生成された制御量情報は、例えば、メモリ5に保存される。
【0319】
移動制御部424は、制御量決定部423により決定された制御量に基づき移動機構3を制御することによって、被検眼Eと撮影部2との間の距離を調整するように構成されている。移動制御部424が実行する処理については、いくつかの非限定的な例が後述される。
【0320】
本実施形態に係る眼科装置1の動作の非限定的な例について、図16及び図17を参照しつつ説明する。図16は、本動作例の全体(ステップS1~S5)を示すフローチャートであり、図17は、図16のフローチャートのステップS3の詳細を示すフローチャートである。
【0321】
本動作例において、眼科装置1は、まず、オートアライメント(S1)及びオートフォーカス(S2)を実行する。ステップS1及びS2は、被検眼Eの眼底Efを撮影するための準備的な動作の少なくとも一部である。
【0322】
ステップS1のオートアライメントは、被検眼Eに対する撮影部2のXYアライメント及びZアライメントを含む。オートアライメントは、プロセッサ4の制御の下に実行される。オートアライメントの代わりに、又は、オートアライメントに加えて、マニュアルアライメントを実行してもよい。オートアライメントが完了したことをトリガーとして、眼科装置1はトラッキングを開始してもよい。トラッキングは、プロセッサ4の制御の下に実行される。
【0323】
ステップS2のオートフォーカスは、被検眼Eの眼底Efに対する撮影部2のピントを合わせるための動作である。オートフォーカスは、プロセッサ4の制御の下に実行される。オートフォーカスは、トラッキングと並行して行われてもよい。オートフォーカスの代わりに、又は、オートフォーカスに加えて、マニュアルフォーカスを行ってもよい。
【0324】
ステップS2のオートフォーカスが完了したことをトリガーとして、眼科装置1は、撮影部2の作動距離のオフセット、つまり、被検眼Eと撮影部2との間の距離の調整を実行する(S3)。
【0325】
本動作例では、ステップS1でアライメント(特に、Zアライメント)が実行されるので、ステップS3の開始時における被検眼Eと撮影部2との間の距離は、既定の作動距離に実質的に等しいと考えることができる。一般的に、ステップS2のオートフォーカスに要する時間は十分に短いため、ステップS1で達成されたアライメント状態がほぼ維持されつつステップS3が開始されると考えられる。また、トラッキングが実行される場合には、ステップS1で達成されたアライメント状態を維持する能力が向上する。
【0326】
従来の眼科装置では、オートアライメント及びオートフォーカスの完了をトリガーとして撮影を行っていた(オートシュート機能)ため、フレアが混入した画像や明るさが十分でない画像が得られる事態を回避することができなかった(少なくとも、そのような事態を回避することは困難であった)。これに対し、本実施形態は、オートフォーカス(S2)とオートシュート(S4)との間に作動距離オフセット工程(S3)を行うことによって、フレアの無い、十分な明るさの画像を取得しようとするものである。ステップS3の詳細については後述する。
【0327】
撮影部2の作動距離のオフセット(S3)が完了したことをトリガーとして、眼科装置1は、被検眼Eの眼底Efに対して、ローリングシャッター方式(ローリングシャッターモード)のスリットスキャンを適用する(S4)。
【0328】
ステップS4で生成された眼底画像は、例えば、メモリ5又は別の記憶装置に保存される(S5)。また、この眼底画像は、例えば、ユーザーインターフェイス6の表示デバイスに表示され、別のデバイスにより出力され、別の装置に送信され、プロセッサ4又は別のプロセッサにより加工される。以上で、本動作例に係る処理は終了である(エンド)。
【0329】
次に、図17を参照しつつ、ステップS3(作動距離のオフセット)を実行するための一連の工程の非限定的な例を説明する。オートフォーカス(S2)が完了したことをトリガーとして、眼科装置1(撮影部2)は、被検眼Eの眼底Efに対して、グローバルシャッター方式の赤外眼底撮影を適用する(S11)。
【0330】
ステップS11の赤外眼底撮影は、プロセッサ4(撮影制御部410)の制御の下に実行される。この赤外眼底撮影は、例えば、グローバルリセットリリースシャッターモードのスリットスキャン、又は、グローバルシャッター型イメージセンサーを用いた撮影である。このようなステップS11により、被検眼Eの眼底Efの赤外眼底画像が取得される(例えば、図9Bを参照)。
【0331】
次に、眼科装置1(画像解析部421)は、ステップS11で取得された赤外眼底画像を解析して輝度パラメータ値を算出する(S12)。この工程は、前述したいずれかの例にしたがって実行される。
【0332】
次に、眼科装置1(制御量決定部423)は、ステップS12で求められた輝度パラメータ値を閾値と比較する(S13)。この閾値は、例えば、眼科装置1(図12の輝度閾値決定部430)又は別の装置によって事前に決定され、制御量決定部423又はメモリ5に格納される。
【0333】
ステップS12で求められた輝度パラメータ値が閾値以上である場合(S13:Yes)、本例の動作はステップS14の工程に移行する。一方、ステップS12で求められた輝度パラメータ値が閾値未満である場合(S13:No)、本例の動作はステップS15cの工程に移行する。
【0334】
ステップS12で求められた輝度パラメータ値が閾値以上である場合(S13:Yes)、眼科装置1(制御量決定部423)は、被検眼Eの瞳孔径値φの大きさの評価を実行する(S14)。
【0335】
被検眼Eの瞳孔径値φは、ステップS14よりも前の任意の段階で取得される。例えば、ステップS2の完了直後からステップS14の開始直前までの期間に、眼科装置1は、撮影部2によって被検眼Eの前眼部像を取得し、瞳孔径データ取得部422によってこの前眼部像から瞳孔径値φを求めることができる。或いは、ステップS14の開始前に、眼科装置1は、瞳孔径データ取得部422によって別の装置から被検眼Eの瞳孔径値φを取得することができる。
【0336】
ステップS14の評価には、事前に生成された制御量情報が用いられる。制御量情報には、瞳孔径値φと制御量との関係が記録されており、より具体的には、瞳孔径値φの2つ以上の範囲にそれぞれ割り当てられた、制御量の2つ以上の値が記録されている。制御量情報は、例えば、眼科装置1(図13の制御量情報生成部440)又は別の装置によって事前に生成され、制御量決定部423又はメモリ5に格納される。
【0337】
本動作例の制御量情報には、次の情報が記録されている:(1)瞳孔径値φの第1の範囲(φ≧3.5)についてのオフセット量Δ(φ)=+1.0(ミリメートル);(2)瞳孔径値φの第2の範囲(2.5<φ<3.5)についてのオフセット量Δ(φ)=φ-2.5(ミリメートル)(0<Δ(φ)<+1.0);(3)瞳孔径値φの第3の範囲(φ≦2.5)についてのオフセット量Δ(φ)=0(ミリメートル)。
【0338】
換言すると、本動作例の制御量情報には、次の情報が記録されている:(1)瞳孔径値φが3.5ミリメートル以上である場合には、作動距離に対応する基準位置から1.0ミリメートルだけ撮影部2を後退させる(つまり、被検眼Eと撮影部2との間の距離を「作動距離+1.0(ミリメートル)」にする);(2)瞳孔径値φが2.5ミリメートルよりも大きく且つ3.5ミリメートルよりも小さい場合には、作動距離に対応する基準位置から「φ-2.5(ミリメートル)」だけ撮影部2を後退させる(つまり、被検眼Eと撮影部2との間の距離を「作動距離+φ-2.5(ミリメートル)」にする);(3)瞳孔径値φが2.5ミリメートル以下である場合には、作動距離に対応する基準位置から撮影部2を移動させない(つまり、被検眼Eと撮影部2との間の距離を作動距離のまま維持する)。
【0339】
ステップS14において、制御量情報に示された第1の範囲に瞳孔径値φが属すると判断された場合(S14:φ≧3.5)、眼科装置1(制御量決定部423)は、オフセット量Δ(φ)の値を「+1.0(ミリメートル)」に設定する(S15a)。
【0340】
また、瞳孔径値φが第2の範囲に属すると判断された場合(S14:2.5<φ<3.5)、眼科装置1(制御量決定部423)は、オフセット量Δ(φ)の値を「φ-2.5(ミリメートル)」に設定する(S15b)。
【0341】
また、瞳孔径値φが第3の範囲に属すると判断された場合(S14:φ≦2.5)、眼科装置1(制御量決定部423)は、オフセット量Δ(φ)の値を「0(ミリメートル)」に設定する(S15c)。この場合には、撮影部2の移動を行うことなく、ステップS3の処理を終了し(S3:エンド)、ステップS4(オートシュート)に移行する。
【0342】
ステップS15a又はS15bにおいてオフセット量Δ(φ)が設定された後、眼科装置1(移動制御部424)は、このオフセット量Δ(φ)だけ撮影部2を移動するように移動機構3の制御を行う(S16)。
【0343】
以上で、ステップS3の処理(撮影部2の作動距離のオフセット)は終了となる(S3:エンド)。ステップS3の処理が完了したことをトリガーとして、眼科装置1は、被検眼Eの眼底Efに対してローリングシャッター方式のスリットスキャンを適用して眼底画像を生成し(S4)、この眼底画像を保存する(S5)。以上で、本動作例に係る処理は終了である(エンド)。
【0344】
以上に説明した動作例の変形について説明する。上記の動作例では、瞳孔径値φが2.5を超えるときに、既定の作動距離よりも遠い距離に撮影部2を配置して眼底撮影を行っている。この条件で取得される画像の明るさが、例えば図14及び図15に基づき予測された明るさよりも低くなる(つまり、予測されたよりも暗い画像が得られる)可能性がある。この問題に対処するために、以下に説明する任意的な処理を実行することができる。
【0345】
図17のステップS16において被検眼Eと撮影部2との間の距離が拡大された後、眼科装置1は、グローバルシャッター方式の赤外眼底撮影を被検眼Eの眼底Efに再度適用して、眼底Efの新たな画像を取得する。
【0346】
次に、画像解析部421は、この新たな画像を解析して新たな輝度パラメータ値(第2の輝度パラメータ値)を求める。
【0347】
次に、制御量決定部423は、第2の輝度パラメータ値と、ステップS12で算出された輝度パラメータ値(第1の輝度パラメータ値)とを比較し、この比較の結果に基づいて新たな制御量を決定する。
【0348】
例えば、次のいずれかの比較結果が得られた場合、制御量決定部423は、負値のオフセット量を設定することができる:(1)第2の輝度パラメータ値が、第1の輝度パラメータ値よりも小さい場合;(2)第1の輝度パラメータ値に対する第2の輝度パラメータ値の低下(低下率、低下量)が、既定の閾値よりも大きい場合;(3)第2の輝度パラメータ値が既定の閾値よりも小さい場合。ここで、負値のオフセット量は、被検眼Eと撮影部2との間の距離を小さくする制御に相当する。負値のオフセット量の大きさ(絶対値)は、デフォルト値でもよいし、上記比較の結果に基づき決定された値でもよい。
【0349】
移動制御部424は、制御量決定部423により設定された新たな制御量(負値のオフセット量)に基づいて移動機構3の制御を実行する。これにより、被検眼Eと撮影部2との間の距離が小さくなり、画像の明るさを増加させるように作用する。
【0350】
なお、前述したように、画像の明るさとフレアの発生状態とは互いにトレードオフの関係にある。この変形例は、このトレードオフ関係を考慮して設計される。例えば、画像の明るさに関する条件とフレアに関する条件との双方を満足するように、この変形例に係るいずれかの工程やパラメータを設計することができ、また、この変形例に係る一連の工程を繰り返すように構成することができる。
【0351】
本実施形態に係る眼科装置1が、眼科装置以外のカテゴリーの実施形態を提供するものであることは、当業者であれば理解することができるであろう。例えば、本実施形態に係る眼科装置1によって、眼底撮影距離を決定する方法の実施形態、眼科装置を制御する方法の実施形態、被検眼を撮影する方法の実施形態、眼科情報を処理する方法の実施形態、いずれかの方法をコンピュータに実行させるプログラムの実施形態、いずれかのプログラムが記録された記憶媒体の実施形態などを提供することが可能である。
【0352】
本開示は、いくつかの実施形態及びそのいくつかの態様を提示するものである。これらの実施形態及び態様は、本発明の非限定的な例示に過ぎない。したがって、本発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加など)を、本開示において提示された実施形態や態様に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0353】
1 眼科装置
2 撮影部
3 移動機構
4 プロセッサ
5 メモリ
6 ユーザーインターフェイス
410 撮影制御部
420 アライメント処理部
421 画像解析部
422 瞳孔径データ取得部
423 制御量決定部
424 移動制御部
430 輝度閾値決定部
440 制御量情報生成部
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