IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イビデン株式会社の特許一覧

特開2025-34691防炎シート及びその製造方法、並びに組電池
<>
  • 特開-防炎シート及びその製造方法、並びに組電池 図1
  • 特開-防炎シート及びその製造方法、並びに組電池 図2
  • 特開-防炎シート及びその製造方法、並びに組電池 図3
  • 特開-防炎シート及びその製造方法、並びに組電池 図4
  • 特開-防炎シート及びその製造方法、並びに組電池 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034691
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】防炎シート及びその製造方法、並びに組電池
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/18 20060101AFI20250306BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20250306BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20250306BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250306BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
B32B5/18
H01M50/293
H01M50/204 401F
B32B27/00 101
B32B27/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141218
(22)【出願日】2023-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達大
(72)【発明者】
【氏名】井戸 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】熊野 圭司
【テーマコード(参考)】
4F100
5H040
【Fターム(参考)】
4F100AA01
4F100AA01A
4F100AA17
4F100AA17A
4F100AD00
4F100AD00A
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK52
4F100AK52B
4F100AR00A
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA08
4F100CA08B
4F100DD32
4F100DD32A
4F100DD32B
4F100DE01
4F100DE01A
4F100DG01
4F100DG01A
4F100DJ01
4F100DJ01B
4F100JA02
4F100JA02A
4F100JJ02
4F100JJ02A
4F100JJ07
4F100JJ07B
4F100JK05
4F100JK07
5H040AA37
(57)【要約】
【課題】断熱材と弾性体とを組み合わせてなる防炎シートにおいて、断熱材かからの粉落ちの問題がなく、弾性体が破れにくいとともに、孔開きしにくく、弾性体を薄くすることもできる防炎シートを提供する。
【解決手段】防炎シート1は、断熱シート50と、熱硬化性樹脂の発泡体からなる弾性被覆60とを有するとともに、弾性被覆60が接合部を有することなく断熱シート50全体を被覆している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱シートと、熱硬化性樹脂の発泡体からなる弾性被覆とを有するとともに、
前記弾性被覆が接合部を有することなく前記断熱シート全体を被覆していることを特徴とする防炎シート。
【請求項2】
前記弾性被覆の、前記断熱シートの主面を被覆する平均膜厚が0.01~10mmであることを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項3】
前記弾性被覆の、前記断熱シートの端面の外側に位置する枠部領域の平均幅が0.01~2mmであることを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項4】
前記弾性被覆は、シリコーン樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項5】
前記弾性被覆は、難燃剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項6】
前記断熱シートは、セラミック粒子を含むことを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項7】
前記セラミック粒子は、金属酸化物粒子、無機水和物、熱膨張性無機材料及び含水多孔質体から選択される1又は2以上の粒子を含むことを特徴とする請求項6に記載の防炎シート。
【請求項8】
前記弾性被覆は、2MPaで圧縮した際の圧縮率が40~99%であることを特徴とする請求項1に記載の防炎シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の防炎シートの製造方法であって、
断熱シートを、熱硬化性樹脂前駆体及び発泡剤を含む弾性被覆原料で覆う被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とする防炎シートの製造方法。
【請求項10】
前記断熱シートの片面を前記弾性被覆原料で覆う第1の被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる第1の発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる第1の硬化工程と、
を有する第1工程と、
前記第1工程で得られた、片面が弾性被覆で被覆された断熱シートの他方の面を、前記弾性被覆原料で覆う第2の被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる第2の発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる第2の硬化工程と、
を有する第2工程と、
とを有することを特徴とする請求項9に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項11】
前記第1工程において、前記第1の被覆工程を、第1の成形枠の内部に前記断熱シートを収容した状態で前記弾性被覆原料を注入して行い、引き続き、前記第1の成形枠の内部で前記第1の発泡工程及び第1の硬化工程を行うとともに、
前記第2工程において、前記第2の被覆工程を、第2の成形枠の内部に前記第1工程後の前記断熱シートの表裏面を反転させて収容した状態で前記弾性被覆原料を注入して行い、引き続き、前記第2の成形枠の内部で前記第2の発泡工程及び第2の硬化工程を行う
ことを特徴とする請求項10に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項12】
前記熱硬化性樹脂前駆体は、シリコーン系原料を含むことを特徴とする請求項9に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項13】
前記弾性被覆原料は、難燃剤を含むことを特徴とする請求項9に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項14】
前記断熱シートは、セラミック粒子を含むことを特徴とする請求項9に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項15】
前記セラミック粒子は、金属酸化物粒子、無機水和物、熱膨張性無機材料及び含水多孔質体から選択される1又は2以上を含むことを特徴とする請求項14に記載の防炎シートの製造方法。
【請求項16】
電池セル間に、請求項1~8のいずれか1項に記載の防炎シートが、前記電池セル間に介挿されているとともに、前記電池セル同士が直列又は並列に接続されていることを特徴とする組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防炎シート及びその製造方法、並びに前記防炎シートを備える組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車又はハイブリッド車等の開発が盛んに進められている。この電気自動車又はハイブリッド車等には、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列又は並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池等に比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられている。そして、電池の内部短絡や過充電等が原因で、ある電池セルが急激に昇温し、その後も発熱を継続するような熱暴走を起こした場合、熱暴走を起こした電池セルからの熱が、隣接する他の電池セルに伝播することで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走を起こした電池セルからの熱の伝播を抑制する方法として、電池セル間に防炎シート(「熱伝達抑制シート」ともいう。)を介在させる方法が一般的に行われている。
【0005】
また、電池セルは、熱暴走時以外の通常の使用時でも、充放電の際に膨張・収縮を繰り返すため、それに追従するために弾性体と組み合わせて使用されることもある。また、弾性体により電池セルとの密着性を高める効果も得られる。例えば、特許文献1には、図5に示すように、熱可塑性樹脂からなる発泡体シート11と、発泡体シート11の内部に設けられた断熱シート12と、熱融着部15とを備えた断熱体13が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開第2021/079601号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の断熱体13では、発泡体シート11の端面に沿って切込み14を形成した袋状であり、袋内に断熱シート12を挿入して収容し、切込み14による開口に熱融着部15を形成して封止している。断熱シート12は、繊維シートにシリカゲルを含浸させたものであるため、シリカゲルの脱離(粉落ち)を防止するために、熱融着部15を形成して封止している。しかし、熱融着部15は、図中の上下2枚の発泡体シート11の重なり部分に圧力を加えながら加熱して形成されるため、熱融着部15には応力が残存し、外力を受けると剥離するおそれがある。
【0008】
また、発泡体シート11の切込み14から断熱シート12を挿入するため、発泡体シート11の断熱シート12のエッジ部との摺接部分に張力が加わりやすく損傷するおそれもある。また、断熱シート12を挿入すると、発泡体シートが部分的に延伸され、延伸部分に引張り応力が残存する。このように、発泡体シート11には、製造に由来する破れや孔開きのおそれもある。
【0009】
組電池では、電池セル以外の部材の体積を小さくして、できるだけコンパクトにすることが望まれており、弾性部を有する断熱材においては、弾性部の厚さを薄くするとともに弾性率を高くすることにより、組電池全体を小さくすることができる。しかしながら、弾性部の厚さを薄くするとともに、破れや孔開きのリスクが高まる。
【0010】
上記したように、特許文献1の断熱体13では、発泡体シート11に破損や孔開きが発生するおそれがあり、薄くなるほど破損や孔開きしやすくなる。また、熱融着部15にも両面から引っ張り応力が発生するため、十分な幅を確保する必要があり、断熱体13としてのコンパクト化に対応しきれない。更には、発泡体シート11に切り込みを入れて断熱シート12を挿入しているため、切り込み前に、発泡体シート11の表層から厚みの1/2以上の深さに到達する気泡があると、切り込み後に表面の極く薄い部分しか残らず、破れたり、孔開きしやすくなる。
【0011】
そこで本発明は、断熱材と弾性体とを組み合わせてなる防炎シートにおいて、断熱材かからの粉落ちの問題がなく、弾性体が破れにくいとともに、孔開きしにくく、弾性体を薄くすることもできる防炎シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、防炎シートに係る下記[1]の構成により達成される。
【0013】
[1] 断熱シートと、熱硬化性樹脂の発泡体からなる弾性被覆とを有するとともに、
前記弾性被覆が接合部を有することなく前記断熱シート全体を被覆していることを特徴とする防炎シート。
【0014】
また、防炎シートに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[8]に関する。
【0015】
[2] 前記弾性被覆の、前記断熱シートの主面を被覆する平均膜厚が0.01~10mmであることを特徴とする[1]に記載の防炎シート。
[3] 前記弾性被覆の、前記断熱シートの端面の外側に位置する枠部領域の平均幅が0.1~2mmであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の防炎シート。
[4] 前記弾性被覆は、シリコーン樹脂を含むことを特徴とする[1]~[3]のいずれか1つに記載の防炎シート。
[5] 前記弾性被覆は、難燃剤を含むことを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載の防炎シート。
[6] 前記断熱シートは、セラミック粒子を含むことを特徴とする[1]~[5]のいずれか1つに記載の防炎シート。
[7] 前記セラミック粒子は、金属酸化物粒子、無機水和物、熱膨張性無機材料及び含水多孔質体から選択される1又は2以上の粒子を含むことを特徴とする[6]に記載の防炎シート。
[8] 前記弾性被覆は、2MPaで圧縮した際の圧縮率が40~99%であることを特徴とする[1]~[7]のいずれか1つに記載の防炎シート。
【0016】
本発明の上記目的は、防炎シートの製造方法に係る下記[9]の構成により達成される。
【0017】
[9」 [1]~[8]のいずれか1つに記載の防炎シートの製造方法であって、
断熱シートを、熱硬化性樹脂前駆体及び発泡剤を含む弾性被覆原料で覆う被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる硬化工程と、
を有することを特徴とする防炎シートの製造方法。
【0018】
また、防炎シートの製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[10]~[15]に関する。
【0019】
[10] 前記断熱シートの片面を前記弾性被覆原料で覆う第1の被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる第1の発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる第1の硬化工程と、
を有する第1工程と、
前記第1工程で得られた、片面が弾性被覆で被覆された断熱シートの他方の面を、前記弾性被覆原料で覆う第2の被覆工程と、
前記断熱シートを前記弾性被覆原料で被覆した状態で、前記弾性被覆原料を発泡させる第2の発泡工程と、
前記弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる第2の硬化工程と、
を有する第2工程と、
とを有することを特徴とする[9]に記載の防炎シートの製造方法。
[11] 前記第1工程において、前記第1の被覆工程を、第1の成形枠の内部に前記断熱シートを収容した状態で前記弾性被覆原料を注入して行い、引き続き、前記第1の成形枠の内部で前記第1の発泡工程及び第1の硬化工程を行うとともに、
前記第2工程において、前記第2の被覆工程を、第2の成形枠の内部に前記第1工程後の前記断熱シートの表裏面を反転させて収容した状態で前記弾性被覆原料を注入して行い、引き続き、前記第2の成形枠の内部で前記第2の発泡工程及び第2の硬化工程を行うことを特徴とする[10]に記載の防炎シートの製造方法。
[12] 前記熱硬化性樹脂前駆体は、シリコーン系原料を含むことを特徴とする[9]~[11]のいずれか1つに記載の防炎シートの製造方法。
[13] 前記弾性被覆原料は、難燃剤を含むことを特徴とする[9]~[12]のいずれか1つに記載の防炎シートの製造方法。
[14] 前記断熱シートは、セラミック粒子を含むことを特徴とする[9]~[13]のいずれか1つに記載の防炎シートの製造方法。
[15] 前記セラミック粒子は、金属酸化物粒子、無機水和物、熱膨張性無機材料及び含水多孔質体から選択される1又は2以上を含むことを特徴とする[14]に記載の防炎シートの製造方法。
【0020】
本発明の上記目的は、組電池に係る下記[16]の構成により達成される。
【0021】
[16] 電池セル間に、[1]~[8]のいずれか1つに記載の防炎シートが、前記電池セル間に介挿されているとともに、前記電池セル同士が直列又は並列に接続されていることを特徴とする組電池。
【発明の効果】
【0022】
本発明の防炎シートは、断熱シート全体を弾性被覆で被覆したものであり、防炎シートからの粉落ちの問題が無い。しかも、断熱シートで被覆する際に、弾性被覆原料で被覆した後、弾性被覆原料を発泡、硬化するため、弾性被覆には熱融着部のような接合部が無く、接着層などを介することなく直接接合される、そのため、熱融着したり、接着剤を用いた場合のような、熱や振動などの外力により接合部が剥がれることもない。
【0023】
また、接合部を形成するための部位も不要で、防炎シートのコンパクト化にも対応できる。更には、弾性被覆には、断熱シートとの摺接部分が無く、破れたり、孔開きしたりするおそれがなく、弾性被覆は、熱硬化性樹脂の発泡体からなり、加熱してもクリープ変形しないため、薄くすることもでき、接合部が無いことと相俟って防炎シートのコンパクト化に寄与する。
【0024】
本発明の組電池は、本発明の断熱シートが電池セル間に配設されているため、熱暴走が起こったとしても、外部への延焼をより確実に防ぐことができるとともに、通常の充放電時における電池セルの膨張・収縮に良好に追従する。また、弾性被覆も、破れや孔開きがなく、薄くすることもでき、接合部が無いことと相俟って組電池のコンパクト化にも対応するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明の防炎シートの一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明の防炎シートの製造方法の一例を示す工程図であり、第1工程を示している。
図3図3は、本発明の防炎シートの製造方法の一例を示す工程図であり、第1工程に続いて行われる第2工程を示している。
図4図4は、本発明の組電池の実施の形態を示す断面図である。
図5図5は、特許文献1の断熱体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0027】
[防炎シート]
図1に断面図で示すように、本実施形態の防炎シート1は、断熱シート50の全体を弾性被覆60で被覆したものである。
【0028】
<弾性被覆60>
弾性被覆60は、熱硬化性樹脂の発泡体からなるので、弾性被覆60の全体にわたり、空気や発泡ガスからなる独立気泡65が無数に分散している。なお、発泡体は気泡が独立し、ガスが外部に放出しないため、外部から力が加わった際に気体が圧縮されても、気体の反発力により元の形状に戻りやすく、弾性作用が維持される。一方、連続気泡構造では、外部から力が加わると気体が放出されてしまうために、応力は樹脂が元に戻ろうとする力だけになるため弾性作用も弱くなる。
【0029】
なお、上記発泡体は、粉落ちしないように弾性被覆を貫通する気孔がなければよく、すべてが独立気泡である必要性はなく、熱硬化性樹脂内に存在する気泡の一部において、複数個の気泡が連通していることを妨げるものではない。
【0030】
また、熱硬化性樹脂は架橋しているので、加熱しても熱変形しにくく、熱疲労による孔開き、破れを起こりにくくすることができる。
【0031】
また、弾性被覆60には、特許文献1のような熱融着部(図5の符号15)や、接着剤を用いて接合するような「接合部」が無い。したがって、接合部を起点とする剥離の問題が無い。更には、接合部を形成する部位も不要であり、防炎シート1がコンパクトになり、ひいては組電池のコンパクト化に寄与する。なお、特許文献1のような熱融着部は、いったん形成された気泡を破壊するとともに、機械的な物性が周囲と異なる層(接合部)を形成するため、応力発生の起点となりやすい。
【0032】
図1に示すように、従来の接合部に相当する部分である断熱シート50の端面50aの外側に位置する枠部領域の平均幅(D1)を薄くすることができ、具体的には、2mm以下であることが好ましい。断熱シートの端面の外側に位置する枠部領域の平均幅(D1)が、2mm以下であると、電池セル間に断熱シートのない領域を少なくすることができるので、熱暴走時に火炎が隣の電池セルへの延焼を防止することができる。
また、同平均幅(D1)は、0.01mm以上とすることが好ましい。断熱シート50の端面50aの外側に位置する枠部領域の平均幅(D1)が、0.01mm以上であると、独立気泡65に対して十分な厚さを確保することができるので、断熱シート50を完全に覆い、断熱シート50からのパーティクルの発生を防止することができる。
【0033】
弾性被覆60では、断熱シート50の外表面に沿って賦形されているため、特許文献1のように断熱シート50を挿入することに伴って発生する変形や張力がなく、特にエッジ部において断熱シート50との摺接に伴う破れのおそれも無い。さらに断熱シート50の主面50bと接する部分の平均膜厚(D2)と、上記の断熱シート50の端面50aの外側に位置する枠部領域の平均幅(D1)を小さくすることと相俟って防炎シート1、組電池をよりコンパクトにすることができ組電池全体の体積当たりの容量を大きくすることができる。
【0034】
また、弾性被覆60と、断熱シート50は一体的に接合していることが好ましい。一体的に接合していると、断熱シート50と弾性被覆60との間に熱膨張差や膨張・収縮などに伴って寸法差が発生しても、断熱シート50のエッジ部周辺で弾性被覆60に局所的な張力を発生させない。
【0035】
断熱シート50の主面50bと接する部分の平均膜厚(D2)は0.01mm以上であることが好ましい。同平均膜厚(D2)が0.01mm以上であると、粉落ちしにくくすることができる。断熱シート50の主面50bと接する部分の平均膜厚(D2)は0.5mm以上であることがさらに好ましい。同平均膜厚(D2)が0.5mm以上であると、適度な弾力性を付与することができ、さらに、独立気泡65のサイズより十分大きくできるので、粉落ちしにくくすることができる。
【0036】
また、断熱シート50の主面50bと接する部分の平均膜厚(D2)は10mm以下であることが好ましい。同平均膜厚(D2)が10mm以下であると、組電池をよりコンパクトにすることができ組電池全体の体積当たりの容量を大きくすることができる。
断熱シート50の主面50bを被覆する平均膜厚(D2)とは、断熱シート50の主面50bと、弾性被覆60の表面との距離を非圧縮状態で測定する。
【0037】
弾性被覆60の母材となる熱硬化性樹脂には制限はなく、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂等の公知の熱硬化性樹脂を用いることができるが、シリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は、高温でセラミック化するので消失することがなく、電池セルが熱暴走を起こした時に防炎シート1を保護する。
【0038】
そして、熱硬化性樹脂を発泡させるために発泡剤が用いられるが、発泡剤にも制限はなく、例えば、炭化水素、ハロゲン化飽和炭化水素やハロゲン化不飽和炭化水素等のハロゲン化炭化水素、窒素やアルゴン、炭酸ガス、空気等の低沸点ガス、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アゾジカルボン酸アミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、トリヒドラジノトリアジン等の化学発泡剤、多孔質固体材料等の公知の発泡剤を用いることができる。また、発泡剤量には制限はないが、熱硬化性樹脂との合計量全体で、1~5質量%が適当である。
【0039】
弾性被覆60は、自身の耐火性を高めるために、難燃剤を含むことが好ましい。難燃剤には制限はなく、例えば、赤リン、リン酸グアニジン系化合物、ポリリン酸アンモニウム等のポリリン酸系化合物、有機ホウ素化合物やホウ酸、酸化ホウ素、ホウ酸エステル、メタホウ酸等のホウ素系化合物、酸化アルミニウムや水酸化アルミニウム、ベーマイト、ドロマイド、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化ジルコニウム、酸化スズ等の金属化合物、ハロゲン系化合物等の公知の難燃剤を用いることができる。難燃剤の配合量を適宜調整することにより、UL94V-0などの規格を満足することができる。
弾性被覆60は、さらに可塑剤、表面処理剤、充填剤、耐熱性付与剤、接着促進剤などの添加剤を含んでいてもよい。
充填剤としては、例えば、乾式シリカ、湿式シリカ、結晶性シリカなどのシリカ粒子、炭酸カルシウム、タルク、珪藻土などが使用できる。これらの充填剤は、弾性被覆の強度や硬度を高めることができる。
これらの充填剤を使用するにあたり、可塑剤として、例えばポリオルガノシロキサン、オルガノシロキサンのオリゴマー、充填剤表面の接着力を強化するため表面処理剤として例えば、シラン、シラザン、シランカップリング剤などのケイ素系の表面処理剤を使用できる。
【0040】
さらに弾性被覆60の耐熱性を高めるため、例えば、酸化鉄、酸化セリウム、酸化チタン、希土類化合物を使用してもよく、また、難燃性を付与するため、酸化チタン、カーボンブラック、水酸化アルミニウムなどの難燃剤を使用してもよい。さらに、接着促進剤として、有機金属化合物などを使用してもよい。
【0041】
弾性被覆60の物性面では、十分な弾性特性を確保、維持するために、2MPaで圧縮した際の圧縮率が40%以上であることが好ましい。
2MPaで圧縮した際の圧縮率は、防炎シート1の初期厚み(0MPa時)を100%とし、2MPaの圧力を加えたときの厚さを測定することで得られる。
2MPaで圧縮した際の圧縮率が40%以上であると、圧縮性の乏しい断熱シートを使用した際にも、防炎シート1全体で十分な圧縮性を確保することができ、設計の自由度を広げることができる。同圧縮率の上限は、99%が適当である。同圧縮率の上限が、99%であると、電池セルを複数個並べてスタックを形成した時に、十分な反発力を確保でき電池セルを確実に固定することができる。なお、同圧縮率の上限は、80%がより好ましい。同圧縮率の上限が80%であると、独立気泡の比率が大きくでき、気泡の壁部分の強度を十分に確保することができる。
【0042】
<断熱シート50>
断熱シート50には制限はないが、断熱性能が高いことから、セラミック粒子を含むことが好ましい。セラミック粒子としては、シリカ、チタニア、アルミナ、マグネシア、んなどの金属酸化物粒子、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化鉄、水酸化マンガンなどの無機水和物、バーミキュライト、ベントナイト、雲母、パーライトなどの熱膨張性無機材料、ゼオライト、カオリナイト、モンモリロナイト、酸性白土、珪藻土などの含水多孔質体などが利用できる。また、セラミック粒子の形態は、平均粒子径が1~100μm程度の通常の粉末に加え、球形または球形に近い平均粒子径が1μm以下のナノ粒子、シラスバルーン、シリカバルーン、フライアッシュバルーン、パーライトバルーン、ガラスバルーンなどの中空粒子などを挙げることができ、それぞれ単独で、混合して用いる。
なお、ナノ粒子としては、湿式シリカ、乾式シリカ、エアロゲルなどのシリカナノ粒子を使用することができる。
【0043】
以下に、セラミック粒子を含む配合の好ましい例を示す。
【0044】
(繊維質材料)
断熱シート50は、セラミック粒子と、セラミック粒子を保持するための繊維質材料とを含む。繊維質材料は、断熱性の高いセラミック粒子を保持することができれば特に限定されないが、有機繊維、無機繊維などを用いることができる。繊維質材料を含むことにより、断熱シート50の機械的強度、並びにセラミック粒子の保持性を向上させることができる。
無機繊維としては、具体的には、シリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナシリケート繊維、ジルコニア繊維、カーボンファイバ、ソルブルファイバ、リフラクトリーセラミック繊維、エアロゲル複合材、マグネシウムシリケート繊維、アルカリアースシリケート繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウムウィスカ繊維等のセラミックス系繊維、ガラス繊維、グラスウール、スラグウール等のガラス系繊維、ロックウール、バサルトファイバ、ムライト繊維、上記以外の鉱物系繊維として、ウォラストナイト等の天然鉱物系繊維等を使用することができる。
【0045】
また、融点が1000℃を超えるものであると、電池セルの熱暴走が発生しても、溶融又は軟化せず、その形状を維持することができるため、好適に使用することができる。上記繊維のうち、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維及びアルミナシリケート繊維等のセラミックス系繊維、並びに天然鉱物系繊維を使用することがより好ましく、この中でも融点が1000℃を超えるものを使用することが更に好ましい。
有機繊維としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)繊維、ポリエチレン繊維、ナイロン繊維、ポリウレタン繊維及びエチレン-ビニルアルコール共重合体繊維から選択された少なくとも1種を使用することができる。有機繊維を使用する場合、屈曲しても折れにくいので、変形に強く粉落ちしにくい断熱シートを得ることができる。
【0046】
(その他の配合材料)
断熱シート50には、上記繊維質材料、セラミック粒子の他に、添加物が含まれていてもよい。添加物としては、樹脂バインダやpH調整剤、凝集剤を含んでもよい。
【0047】
・樹脂バインダ
上記繊維質材料は、樹脂バインダにより結着することもできる。樹脂バインダとしては、後述する繊維質材料のガラス転移点よりも低いガラス転移点を有するものであれば、特に限定されない。例えば、スチレン-ブタジエン樹脂、アクリル樹脂、シリコン-アクリル樹脂及びスチレン樹脂から選択された少なくとも1種を含む樹脂バインダ9を使用することができる。
【0048】
樹脂バインダのガラス転移点は特に規定しないが、-10℃以上であることが好ましい。なお、樹脂バインダ9のガラス転移点が室温以上であると、樹脂バインダを有する断熱材が室温で使用された場合に、断熱シート50の強度をより一層向上させることができる。したがって、樹脂バインダのガラス転移点は、例えば20℃以上であることがより好ましく、30℃以上であることがさらに好ましく、50℃以上であることがさらにより好ましく、60℃以上であることが特に好ましい。
【0049】
樹脂バインダの含有量は、断熱シート50の全質量に対して0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。また、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
(断熱シート50の製造方法)
断熱シート50を製造するには、抄造法で行うことができる。すなわち、断熱シート50の形成材料であるセラミック粒子や繊維質材料、他の配合材料を水に分散させ、その分散液を脱水、成形、乾燥して製造する。
【0051】
また、乾式法で製造することもできる。すなわち、断熱シート50の形成材料であるセラミック粒子や繊維質材料、他の配合材料を適当な混合機に投入し、十分に分散させ、プレ成形して製造する。
【0052】
[防炎シート1の製造方法]
防炎シート1を製造するには、断熱シート50を、熱硬化性樹脂前駆体及び発泡剤、必要に応じて難燃剤を含む弾性被覆原料で覆う被覆工程と、断熱シート50を弾性被覆原料で被覆した状態で、弾性被覆原料を発泡させる発泡工程と、弾性被覆原料を発泡させた後に硬化させる硬化工程とを順次行う。
断熱シートの存在下で弾性被覆原料を発泡、硬化しているので、弾性被覆60と、断熱シートは一体的に接合することができる。
【0053】
なお、弾性被覆原料における熱硬化性樹脂前駆体の粘度は高い方が好ましく、粘度が低いと独立気泡65が粗大化しやすい。例えば、シリコーン樹脂では、10~1000Pa・sの粘度となるよう温度や、弾性被覆原料の成分比を調整して用いることが好適である。
【0054】
断熱シート50を弾性被覆原料で被覆する方法としては、ディップ法、インサート成形法などが利用できる。ディップ法は、断熱シートの表面に比較的薄い弾性被覆を形成する場合に有効であり、インサート成形法では、比較的厚い弾性被覆を形成する場合に有効である。ディップ法では液状の弾性被覆原料の貯蔵容器中に断熱シート50を浸漬し、引き上げることにより行うことができる。そして、引き上げ後に発泡剤の発泡温度に加熱して弾性被覆原料を発泡させ、硬化させる。これにより、熱融着部のような接合部の無い、連続した弾性被覆60で断熱シート50の全体を被覆した防炎シート1が得られる。
【0055】
また、上記一連の工程を「インサート成形法」で行うこともできる。例えば、図2及び図3に示す2段階方式で行うことができる。なお、図2は第1工程、図3は第2工程をそれぞれ示す工程図である。
【0056】
(第1工程)
第1工程では、まず、図2(A)に示すように、剥離紙70Aを敷いた上に枠体75Aを装着し、剥離紙70Aに断熱シート50を載置する。枠体75Aの高さは、断熱シート50の厚さよりも高くする。次いで、図2(B)に示すように、断熱シート50と枠体75Aとの隙間に弾性被覆原料80を注入する。そして、図2(C)に示すように、枠体75A及び弾性被覆原料80に剥離紙70Bを被せて封止し、発泡、硬化させる。硬化後に剥離紙70A,70Bを剥がし、後述する第2工程に供する。このとき、弾性被覆60Aの厚さや、枠部領域の幅を一定にするために、位置決めピンを用いたり、台座に位置決め用の凹部を有していてもよい。例えば、位置決めピンは、剥離紙70Aを貫通するように設け、断熱シート50に突き刺したり、断熱シート50の端面位置に設け、位置決めすることができる。また、台座に凹部を有している場合、断熱シート50を凹部に置き、断熱シート50の周囲に剥離紙70Aを敷くことにより、断熱シート50を正確に狙った位置に配置することができる。
【0057】
(第2工程)
第2工程では、まず、図3(D)に示すように、第1工程で得た片方の主面及び端面が弾性被覆60Aで被覆された片面被覆体55を、表裏面を反転させて、枠体75Bの剥離紙70Cに載置する。枠体75Bの高さは、片面被覆体55の厚さよりも高くする。次いで、図3(E)に示すように、片面被覆体55と枠体75Bとの隙間に弾性被覆原料80を注入する。そして、図3(F)に示すように、枠体75B及び弾性被覆原料80に剥離紙70Dを被せて封止し、発泡、硬化させる。硬化後に剥離紙70C,70Dを剥がすことにより、図1に示すような防炎シート1が得られる。
このように第1工程に続いて第2工程で弾性被覆を形成するので、接合部を有することなく断熱シート50全体を被覆することができる。
また、弾性被覆60は、断熱シート50の周囲に発泡させて形成されているので、断熱シート50のエッジ部に張力が残留しにくく、破れや穴開きを起こりにくくすることができる。
さらに、弾性被覆原料は、発泡したのち硬化されているので、架橋により、クリープ変形しにくく、熱疲労による破れや孔開きを起こりにくくすることができる。
【0058】
[電池モジュール(組電池)]
図4に示すように、組電池100は、複数の電池セル110を、電池ケース120に収容したものである。そして、本実施形態では、上記の防炎シート1を、電池セル110の間に配設する。なお、各電池セル110は、図示しないバスバーで、直列又は並列に接続されている。
【符号の説明】
【0059】
1 防炎シート(熱伝達抑制シート)
50 断熱シート
50a 端面
50b 主面
55 片面被覆体
60、60A 弾性被覆
65 独立気泡
70A、70B、70C、70D 剥離紙
75A、75B 枠体
80 弾性被覆原料
100 組電池
110 電池セル
120 電池ケース
図1
図2
図3
図4
図5