(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025034896
(43)【公開日】2025-03-13
(54)【発明の名称】水素吸蔵材料、水素放出・貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
C01B 3/00 20060101AFI20250306BHJP
C01B 35/18 20060101ALI20250306BHJP
【FI】
C01B3/00 B
C01B35/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023141568
(22)【出願日】2023-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [1] 開催日 現地時間:令和4年9月6日 (11:50-12:10) 日本時間:令和4年9月6日 (18:50-19:10) 集会名・開催場所 ISBB2022 The 21st International Symposium on Boron, Borides and Related Materials Sorbonne Universite-campus Marie et Pierre CURIE 4 Place Jussieu, 75005 PARIS, FRANCE [2] 開催日 令和5年2月16日 集会名・開催場所 国立大学法人筑波大学 令和4年度 数理物質科学研究群(研究科)応用理工学学位プログラム/物性・分子工学サブプログラム(物性・分子工学専攻) 修士論文公開発表会 茨城県つくば市天王台一丁目1番1第三エリア3B303講義室
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦
(72)【発明者】
【氏名】澤津橋 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和歩
(72)【発明者】
【氏名】野口 夏未
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140AA33
4G140AA44
4G140AA46
(57)【要約】
【課題】水素放出温度が低く、水素を放出するためのエネルギーを削減することができる水素吸蔵材料、および水素吸蔵材料を含む水素放出・貯蔵システムを提供する。
【解決手段】ホウ化水素と前記ホウ化水素に担持されたニッケルとから構成されるホウ化水素-ニッケル担持体と、前記ホウ化水素-ニッケル担持体にさらに担持された水素化マグネシウムと、を含み、前記ニッケルの含有量が5質量%以下である、水素吸蔵材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ化水素と前記ホウ化水素に担持されたニッケルとから構成されるホウ化水素-ニッケル担持体と、前記ホウ化水素-ニッケル担持体にさらに担持された水素化マグネシウムと、を含み、
前記ニッケルの含有量が5質量%以下である、水素吸蔵材料。
【請求項2】
前記ニッケルに対する前記ホウ化水素の比は、モル比で、5以上100以下である、請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項3】
前記ニッケルの粒子径は100nm以下である、請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項4】
前記ホウ化水素は、(HB)n(n≧4)からなる二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートである、請求項1に記載の水素吸蔵材料。
【請求項5】
水素製造反応部と、
水素吸蔵部と、
前記水素製造反応部および前記水素吸蔵部を収容する容器と、
前記容器内を加熱する加熱装置と、を備え、
前記前記水素吸蔵部は、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素吸蔵材料を含む、水素放出・貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水素吸蔵材料、水素吸蔵材料を含む水素放出・貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニア合成、ガス燃焼、固体酸化物燃料電池の製造、製鉄等の様々なプロセスにおいて、水素エネルギーが活用されている。原料となる水素ガスの供給には、膨大な労力とコストがかかることが知られており、これを改善する技術が求められている。また、水素エネルギーを活用する過程においては、膨大な排熱が発生するため、その有効な利用方法が求められている。
【0003】
可逆的な水素吸蔵材料としては、ホウ化水素(HB)(例えば、特許文献1参照)や水素化マグネシウム(MgH2)(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/074518号
【特許文献2】特開昭59-174501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ホウ化水素や水素化マグネシウムは水素放出温度が高く、水素を放出するために多くのエネルギーが必要であるという課題があった。
【0006】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、水素放出温度が低く、水素を放出するためのエネルギーを削減することができる水素吸蔵材料、および水素吸蔵材料を含む水素放出・貯蔵システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係る水素吸蔵材料は、ホウ化水素と前記ホウ化水素に担持されたニッケルとから構成されるホウ化水素-ニッケル担持体と、前記ホウ化水素-ニッケル担持体にさらに担持された水素化マグネシウムと、を含み、前記ニッケルの含有量が5質量%以下である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、水素吸蔵材料の水素放出温度を低くし、水素を放出するためのエネルギーを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示における二次元ホウ素含有シートの分子構造を示す模式図であり、(a)がXY平面を示す図、(b)がYZ平面を示す図、(c)がZX平面を示す図である。
【
図2】本開示の水素放出・貯蔵システムの構成を示す模式図である。
【
図3】実施例1におけるX線回折の結果を示す図である。
【
図4】実施例2における赤外吸収スペクトル測定の結果を示す図である。
【
図5】実施例3におけるX線光電子分光分析の結果を示す図である。
【
図6】実施例3におけるX線光電子分光分析の結果を示す図である。
【
図7】実施例4における透過型電子顕微鏡像である。
【
図8】実施例5における粒度分布の測定の結果を示す図である。
【
図9】実施例6におけるX線回折の結果を示す図である。
【
図10】実施例6における結晶子サイズの測定の結果を示す図である。
【
図11】実施例7における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図12】実施例8における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図13】実施例9における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図14】比較例における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図15】比較例における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図16】比較例における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【
図17】比較例における加熱発生ガス分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本開示が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0011】
[水素吸蔵材料]
本開示の水素吸蔵材料は、ホウ化水素(HB)と前記ホウ化水素に担持されたニッケル(Ni)とから構成されるホウ化水素-ニッケル担持体(Ni-HB)と、前記ホウ化水素-ニッケル担持体にさらに担持された水素化マグネシウム(MgH2)と、を含む。
【0012】
「ホウ化水素」
本開示におけるホウ化水素は、(HB)n(n≧4)からなる二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートであることが好ましい。すなわち、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:1の割合で存在し、これら2つの原子のみから形成される二次元ネットワークを有するシートである。
【0013】
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、
図1に示すように、ホウ素原子(B)が、ベンゼン環のような六角形の環状に配列するとともに、その六角形の頂点に存在しており、ホウ素原子(B)によって形成される六角形が隙間なく連接して、網目状の面構造(二次元ネットワーク)をなしている。さらに、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、
図1に示すように、ホウ素原子(B)のうち隣接する2つが同一の水素原子(H)と結合する部位を有する。なお、ホウ素原子(B)1つが1つの水素原子(H)と結合する部位を有していてもよい。
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートにおいて、ホウ素原子(B)によって形成される六角形の網目状とは、例えば、ハニカム状のことを言う。
【0014】
このような本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、ホウ素原子(B)と水素原子(H)からなる二次元ネットワークを有する薄膜状の物質である。また、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、後述する本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法に用いられる二ホウ化金属に由来する金属原子、または、その他の金属原子をほとんど含まない。
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートにおいて、上記の網目状の面構造を形成するホウ素原子(B)と水素原子(H)の総数は、1000個以上である。
【0015】
図1(a)に示す、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d1は、0.17nm~0.18nmである。また、
図1(b)に示す、1つの水素原子(H)を介して、隣り合う2つのホウ素原子(B)間の結合距離d2は、0.17nm~0.18nmである。また、
図1(b)に示す、隣り合うホウ素原子(B)と水素原子(H)間の結合距離d3は、0.125nm~0.135nmである。
【0016】
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートの厚さは、0.23nm~0.50nmである。
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートにおいて、少なくとも一方向の長さ(例えば、
図1(a)においてX方向またはY方向の長さ)が100nm以上であることが好ましい。
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートの大きさ(面積)は、特に限定されず、後述する本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法によって、任意の大きさに形成することができる。
【0017】
本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、酸化物で終端されていてもよい。すなわち、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、その分子構造の末端が酸化物を形成していてもよい。本開示における二次元水素化ホウ素含有シートの分子構造の末端をなす酸化物としては、例えば、ホウ酸(B(OH)3)や酸化ホウ素(B2O3)が挙げられる。本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、酸化物で終端されることにより、より安定な分子構造を形成する。
【0018】
このような本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、結晶構造を有する物質である。また、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートでは、六角形の環を形成するホウ素原子(B)間、および、ホウ素原子(B)と水素原子(H)の間の結合力が強い。そのため、本開示における二次元水素化ホウ素含有シートは、製造時に複数積層されてなる結晶(凝集体)を形成したとしても、グラファイトと同様に結晶面に沿って容易に劈開し、単層の二次元シートとして分離(回収)することができる。
【0019】
本開示の水素吸蔵材料におけるホウ化水素の含有量は、水素吸蔵材料の全質量(100質量%)に対して、1.0質量%以上95質量%以下が好ましく、2.0質量%以上95質量%以下がより好ましく、4.0質量%以上63質量%以下がさらに好ましい。ホウ化水素の含有量が前記下限値以上であると、適切量のニッケルの微粒子を含むことができ、水素化マグネシウムへの接点となるニッケルの微粒子を確保することができる。ホウ化水素の含有量が前記上限値以下であると、水素化マグネシウムとニッケルの微粒子の接点を十分に確保することができる。
【0020】
「二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法」
本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法は、MB2(但し、Mは、AlおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種である。)型構造の二ホウ化金属と、その二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂とを極性有機溶媒中で混合する工程(以下、「第1の工程」と言う。)を有する方法である。
【0021】
MB2型構造の二ホウ化金属としては、六角形の環状の構造を有するものが用いられ、例えば、二ホウ化アルミニウム(AlB2)、二ホウ化マグネシウム(MgB2)、二ホウ化タンタル(TaB2)、二ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、二ホウ化レニウム(ReB2)、二ホウ化クロム(CrB2)、二ホウ化チタン(TiB2)、二ホウ化バナジウム(VB2)が用いられる。
極性有機溶媒中にて、容易にイオン交換樹脂とのイオン交換を行うことができることから、二ホウ化マグネシウムを用いることが好ましい。
【0022】
二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位したイオン交換樹脂としては、特に限定されないが、例えば、二ホウ化金属を構成する金属イオンとイオン交換可能なイオンを配位した官能基(以下、「官能基α」と言う。)を有するスチレンの重合体、官能基αを有するジビニルベンゼンの重合体、官能基αを有するスチレンと官能基αを有するジビニルベンゼンの共重合体等が挙げられる。
官能基αとしては、例えば、スルホ基、カルボキシル基等が挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中にて、容易に二ホウ化金属を構成する金属イオンとのイオン交換を行うことができることから、スルホ基が好ましい。
【0023】
極性有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、アセトニトリルN,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらの中でも、酸素を含んでいない点からアセトニトリルが好ましい。
【0024】
第1の工程では、極性有機溶媒に二ホウ化金属とイオン交換樹脂を投入し、極性有機溶媒、二ホウ化金属およびイオン交換樹脂を含む混合溶液を撹拌し、二ホウ化金属とイオン交換樹脂を充分に接触させる。これにより、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換して、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成される二次元ネットワークを有する二次元ホウ素化合物含有シートが生成する。
【0025】
例えば、二ホウ化金属として二ホウ化マグネシウムを用い、イオン交換樹脂としてスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いれば、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオン(Mg+)と、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオン(H+)とが置換して、上述のようなホウ素原子(B)と水素原子(H)からなる二次元ネットワークを有する二次元水素化ホウ素含有シートが生成する。
【0026】
第1の工程では、混合液に超音波等を加えることなく、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとがイオン交換する反応を、穏やかに進めることが好ましい。
【0027】
混合溶液を撹拌する際、混合溶液の温度は、15℃~35℃であることが好ましい。
混合溶液を撹拌する時間は、特に限定されないが、例えば、700分~7000分とする。
【0028】
また、第1の工程は、窒素(N2)やアルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる不活性雰囲気下で行う。
【0029】
次いで、撹拌が終了した混合溶液を濾過する(第2の工程)。
混合溶液の濾過方法は、特に限定されず、例えば、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過等の方法が用いられる。また、濾材としては、例えば、セルロースを基材とする濾紙、メンブランフィルター、セルロースやグラスファイバー等を圧縮成型した濾過板等が用いられる。
【0030】
濾過により沈殿物と分離されて回収された生成物を含む溶液を、自然乾燥するか、または、加熱により乾燥することにより、最終的に生成物のみを得る。
この生成物は、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成される二次元ネットワークを有する二次元ホウ素化合物含有シートである。
【0031】
本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法によって得られた、生成物の分析方法としては、例えば、X線光電子分光分析法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope、TEM)および透過型電子顕微鏡内で行うエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray Spectroscopy、EDS)と電子エネルギー損失分光(Electron energy loss Spectroscopy、EELS)による観察等が挙げられる。
【0032】
X線光電子分光分析法(XPS)では、例えば、日本電子(JEOL)社製のX線光電子分光分析装置(商品名:JPS9010TR)を用いて、生成物の表面にX線を照射し、そのときに生じる光電子のエネルギーを測定することによって、生成物の構成元素とその電子状態を分析する。この分析において、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素に起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素のみから構成されていると言える。X線光電子分光分析法による分析により、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因する光電子のエネルギーがほとんど検出されず、ホウ素と水素に起因する光電子のエネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と水素のみから構成されていると言える。
【0033】
透過型電子顕微鏡(TEM)による観察では、例えば、日本電子(JEOL)社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F TEM/STEM)を用いて、生成物を観察することにより、生成物の形状(外観)等を分析する。この分析において、膜状(シート状)の物質が観察されれば、生成物は二次元的なシート状の物質であると言える。透過型電子顕微鏡内において、エネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことにより、生成物のTEM観察した部位における金属元素の存在の有無を観察できる。この分析において、原料の二ホウ化金属を構成する金属元素に起因するX線のエネルギーがほとんど検出されず、金属元素(例えば、Mg)のピークが現われなければ、金属元素が存在しないと言える。また、透過型電子顕微鏡内において、電子エネルギー損失分光(EELS)を行うことにより、生成物のTEM観察した部位における構成元素を観察できる。この分析において、ホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素に起因するX線エネルギーのみが検出されれば、生成物はホウ素と上記のイオン交換樹脂の官能基αに由来する元素のみから構成されていると言える。
【0034】
本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法によれば、ホウ素原子と、イオン交換樹脂の官能基αに由来する原子によって形成される二次元ネットワークを有する二次元ホウ素化合物含有シートを容易に生成することができる。
【0035】
また、本開示における二次元ホウ素化合物含有シートの製造方法によれば、二ホウ化金属を構成する金属イオンと、イオン交換樹脂の官能基αのイオンとをイオン交換させるために酸性溶液を用いずに、極性有機溶媒を用いるため、極性有機溶媒、二ホウ化金属およびイオン交換樹脂を含む混合溶液のpHの調整が不要である。
【0036】
「ニッケル」
本開示におけるニッケルは、ニッケルアセチルアセトナート(Ni(C5H7O2)2)、塩化ニッケル(NiCl2)、硫酸ニッケル(NiSO4)等に由来し、ホウ化水素の表面に単体の金属として存在する。また、本開示におけるニッケルは、ホウ化水素の表面にて凝集することなく、分散して存在している。
【0037】
ホウ化水素の表面に存在するニッケルの粒子径は0.25nm以上100nm以下が好ましく、0.25nm以上50nm以下がより好ましく、0.25nm以上10nm以下がより好ましく、0.25nm以上5nm以下がより好ましく、0.25nm以上2nm以下がさらに好ましい。ニッケルの粒子径が前記上限値以下であると、水素化マグネシウムに対して適切なニッケルの微粒子の接点を確保することができる。
【0038】
ニッケルの粒子径は、透過型顕微鏡による観察で測定することができる。
【0039】
本開示の水素吸蔵材料におけるニッケルの含有量は、水素吸蔵材料の全質量(100質量%)に対して、5.0質量%以下であり、1質量%以上5質量%以下が好ましく、1.3質量%以上3.0質量%以下がより好ましく、2.0質量%以上3.0質量%以下がさらに好ましい。ニッケルの含有量が前記上限値を超えると、ニッケルを介して、水素吸蔵材料の水素放出温度が、水素化マグネシウムと同等に高くなる。ホウ化水素の含有量が前記下限値未満であると、ホウ化水素-ニッケル担持体の表面に水素化マグネシウムを十分に結合させることができない。
【0040】
「ホウ化水素-ニッケル担持体」
本開示におけるホウ化水素-ニッケル担持体は、ホウ化水素とホウ化水素の表面に担持されたニッケルとから構成される。
ホウ化水素-ニッケル担持体において、ニッケルに対するホウ化水素の比(ホウ化水素/ニッケル)は、モル比で、5以上100以下が好ましく、5以上50以下がより好ましく、10が最も好ましい。前記比が前記下限値以上であると、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。前記比が前記上限値以下であると、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。
【0041】
「ホウ化水素-ニッケル担持体の製造方法」
本開示におけるホウ化水素-ニッケル担持体の製造方法は、ニッケルアセチルアセトナートを含む溶液とホウ化水素を混合して混合溶液を調製する工程(以下、「第1の工程」と言う。)と、前記混合溶液を、不活性ガス雰囲気下で撹拌する工程(以下、「第2の工程」と言う。)と、前記混合溶液の撹拌によって生じた生成物(沈殿物)を回収して、乾燥する工程(以下、「第3の工程」と言う。)と、を有する。
【0042】
第1の工程の工程において、ニッケルアセチルアセトナートを含む溶液に用いられる溶媒としては、例えば、アセトニトリル、メタノール等が挙げられる。
【0043】
第1の工程の工程において、ニッケルアセチルアセトナートを含む溶液とホウ化水素の混合比は、ニッケルアセチルアセトナートに対するホウ化水素の比(ホウ化水素/ニッケルアセチルアセトナート)が、モル比で、5以上100以下となるようにすることが好ましく、5以上50以下となるようにすることがより好ましく、10となるようにすることが最も好ましい。前記比が前記下限値以上であると、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。前記比が前記上限値以下であると、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。
【0044】
第2の工程の工程において、不活性ガスは、窒素ガス、ヘリウム、アルゴン等を用いることができる。
【0045】
第2の工程の工程において、混合溶液を撹拌する時間(撹拌時間)は、20時間以上30時間以下が好ましく、22時間以上26時間以下がより好ましく、23時間以上24時間以下がさらに好ましい。
【0046】
第3の工程の工程において、生成物を回収する方法としては、ろ過法等を用いることができる。
【0047】
第3の工程の工程において、回収された生成物を乾燥する方法としては、オーブンによる乾燥法、真空乾燥法等を用いることができる。
【0048】
「水素化マグネシウム」
本開示における水素化マグネシウムは、例えば、特開昭59-174501号公報に記載の方法によって製造されたものである。水素化マグネシウムは、水素放出温度を低下する効果を得るために、できるだけ粒径が小さいものが好ましい。
【0049】
本開示の水素吸蔵材料では、ホウ化水素とニッケルを除いた残部が水素化マグネシウムである。すなわち、本開示の水素吸蔵材料において、水素化マグネシウムの含有量は、ホウ化水素およびニッケルの含有量によって決まる。
【0050】
[水素吸蔵材料の製造方法]
本開示の水素吸蔵材料の製造方法は、上記ホウ化水素-ニッケル担持体と上記水素化マグネシウムを、所定の配合比にて、ボールミルで混合する工程を有する。
ここで、所定の配合比とは、本開示の水素吸蔵材料におけるホウ化水素、ニッケルおよび水素化マグネシウムの含有量を満たす比率である。
【0051】
本開示の水素吸蔵材料によれば、従来の水素吸蔵材料である水素化マグネシウムよりも水素放出温度が低くなる。すなわち、ニッケルの含有量が5質量%以下であれば、ニッケルが触媒として機能し、水素放出能を促進することができる。
【0052】
[水素放出・貯蔵システム]
図2は、本開示の水素放出・貯蔵システムの構成を示す模式図である。
本開示の水素放出・貯蔵システム100は、水素製造反応部101と、水素吸蔵部102と、容器103と、加熱装置104と、を備える。
【0053】
水素製造反応部101は、公知のホウ化水素を含む。
【0054】
水素吸蔵部102は、本開示の水素吸蔵材料を含む。
【0055】
容器103は、水素製造反応部101および水素吸蔵部102を収容する。
【0056】
加熱装置104は、熱媒を供給する手段(熱媒供給手段)104Aと、熱媒の温度を調整する手段(温度調整手段)104Bとを備える。
【0057】
本開示の水素放出・貯蔵システム100によれば、水素吸蔵部102が本開示の水素吸蔵材料を含むため、水素製造反応部101で生成した水素を水素吸蔵部102に吸蔵させて後、より低い温度で水素吸蔵部102から水素を放出することができる。従って、本開示の水素放出・貯蔵システム100は、水素の放出および貯蔵に要するエネルギーを少なくすることができる。
【実施例0058】
以下、実施例により本開示をさらに具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
ニッケルアセチルアセトナート(Ni(acac)
2)を含むアセトニトリル溶液と二次元ホウ素含有シートを混合して混合溶液を調製した。
混合溶液を調製において、ニッケルアセチルアセトナートに対する二次元ホウ素含有シートの比(二次元ホウ素含有シート/ニッケルアセチルアセトナート)を、モル比で、5、10、100とした。
次いで、上記混合溶液を、窒素ガス雰囲気下で24時間撹拌した。
次いで、上記混合溶液の撹拌によって生じた生成物を回収して、その生成物を真空乾燥し、ホウ化水素-ニッケル担持体を得た。
得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、X線回折測定を行った。X線回折測定には、リガク社製のX線回折装置(商品名:MiniFlex)を用いた。
また、比較例として、ニッケルアセチルアセトナートのX線回折測定を同様に行った。
得られたX線回折パターンを
図3に示す。
図3に示す結果から、ホウ化水素-ニッケル担持体のX線回折パターンでは、ニッケルアセチルアセトナートに由来するピークが消えていることが確認された。すなわち、得られたホウ化水素-ニッケル担持体では、ニッケルアセチルアセトナートの結晶が結晶性を失っており、ニッケルがホウ化水素に高分散して担持されている可能性がある。
【0060】
[実施例2]
実施例1で得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、Bruker社製のフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)(商品名:ALPHA II)により、赤外吸収スペクトルを測定した。
また、比較例として、ニッケルアセチルアセトナートの赤外吸収スペクトルを同様に測定した。
得られた赤外吸収スペクトルを
図4に示す。
図4に示す結果から、ホウ化水素-ニッケル担持体では、ニッケルアセチルアセトナートに由来するピークが弱くなっていることが確認された。
【0061】
[実施例3]
実施例1で得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、X線光電子分光(XPS)分析を行った。
X線光電子分光分析の分析装置として、JEOL社製のX線光電子分光分析装置(商品名:JPS-9010 TR)を用いた。X線光電子分光分析の結果を
図5および
図6に示す。
図5に示す結果から、B1sでは、ニッケルアセチルアセトナートの還元に伴うホウ素の酸化が発生していることが確認された。
図6に示す結果から、Ni2p3/2では、ニッケルアセチルアセトナートに対するホウ化水素の比(二次元ホウ素含有シート/ニッケルアセチルアセトナート)がモル比で100の場合のみ中性状態のニッケル(852.9eV)が確認され、その他は正に帯電したニッケルアセチルアセトナートが確認された。前記比(二次元ホウ素含有シート/ニッケルアセチルアセトナート)がモル比で100近傍にホウ化水素の還元性能の上限があるものと思われる。
【0062】
[実施例4]
実施例1で得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、JEOL社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F)による観察を行った。観察結果を、
図7に示す。
図7に示す結果から、二次元ホウ素含有シートの表面にニッケルが高分散に担持されていることが確認された。
【0063】
[実施例5]
実施例1で得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、二次元ホウ素含有シートの表面に担持されているニッケルの粒度分布を測定した。
ニッケルの粒度分布の測定には、JEOL社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F)を用いた。結果を、
図8に示す。
図8に示す結果から、粒子径が約2nmのニッケルが二次元ホウ素含有シートの表面に高分散に担持されていることが確認された。
【0064】
[実施例6]
実施例1と同様にして、ホウ化水素-ニッケル担持体を得た。混合溶液を調製において、ニッケルアセチルアセトナートに対する二次元ホウ素含有シートの比(二次元ホウ素含有シート/ニッケルアセチルアセトナート)を、モル比で、10とした。
特開昭59-174501号公報に記載の方法に従って、水素化マグネシウム(MgH
2)を得た。
ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、所定の配合比にて、ボールミルで混合し、水素吸蔵材料を得た。
得られた水素吸蔵材料は、以下の7種類((1)~(7))であった。
(1)ニッケルの含有量が1質量%、ホウ化水素の含有量が2質量%、水素化マグネシウムの含有量が97.0質量%
(2)ニッケルの含有量が1.3質量%、ホウ化水素の含有量が2.6質量%、水素化マグネシウムの含有量が96.1質量%
(3)ニッケルの含有量が2質量%、ホウ化水素の含有量が4質量%、水素化マグネシウムの含有量が94質量%
(4)ニッケルの含有量が3質量%、ホウ化水素の含有量が6質量%、水素化マグネシウムの含有量が91質量%
(5)ニッケルの含有量が5質量%、ホウ化水素の含有量が10.1質量%、水素化マグネシウムの含有量が84.9質量%
(6)ニッケルの含有量が10質量%、ホウ化水素の含有量が20.1質量%、水素化マグネシウムの含有量が69.9質量%
(7)ニッケルの含有量が15質量%、ホウ化水素の含有量が30.2質量%、水素化マグネシウムの含有量が54.8質量%
得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、X線回折測定を行った。X線回折測定には、リガク社製のX線回折装置(商品名:MiniFlex)を用いた。得られたX線回折パターンを
図9に示す。
また、得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、水素化マグネシウムの(110)面の結晶子サイズを測定した。結晶子サイズの測定には、JEOL社製の透過型電子顕微鏡(商品名:JEM-2100F)を用いた。得られた結果を
図10に示す。
図9および
図10に示す結果から、粒子径が10nm~15nmの水素化マグネシウムが、ニッケルのナノ粒子が高分散に担持されている二次元ホウ素含有シートの表面に結合していることが確認された。
【0065】
[実施例7]
二次元ホウ素含有シートについて、加熱発生ガス分析を行い、水素放出量と水素放出温度の関係を調べた。加熱発生ガス分析には、MKS社製の四重極質量分析器(商品名:Microvision2)を用いた。得られた結果を
図11に示す。
図11に示す結果から、二次元ホウ素含有シートは、150℃近傍、250℃近傍および350℃近傍に水素放出ピークを有することが確認された。
【0066】
[実施例8]
実施例1で得られたホウ化水素-ニッケル担持体について、実施例7と同様にして、加熱発生ガス分析を行い、水素放出量と水素放出温度の関係を調べた。得られた結果を
図12に示す。
図12に示す結果から、ホウ化水素-ニッケル担持体は、350℃近傍に水素放出ピークを有することが確認された。
【0067】
[実施例9]
実施例6で得られた水素吸蔵材料について、実施例7と同様にして、加熱発生ガス分析を行い、水素放出量と水素放出温度の関係を調べた。
また、比較例として、市販の水素化マグネシウムの加熱発生ガス分析を同様に行った。
得られた結果を
図13に示す。
図13に示す結果から、ニッケルの含有量が1.3質量%、2質量%または3質量%の場合、水素化マグネシウムよりも水素放出温度が低くなることが確認された。すなわち、ニッケルの含有量が1.3質量%、2質量%または3質量%の場合、ニッケルが触媒として機能し、水素放出能を促進することが確認された。
【0068】
[比較例]
二次元ホウ素含有シートと実施例6で得られた水素化マグネシウムを、所定の配合比にて、ボールミルで混合した。
水素化マグネシウムの含有量を20質量%、30質量%、40質量%、50質量%とした。
得られた混合物について、実施例7と同様にして、加熱発生ガス分析を行い、水素放出量と水素放出温度の関係を調べた。得られた結果を
図14~
図17に示す。
図14~
図17に示す結果から、本開示の水素吸蔵材料のようにニッケルを含んでいないと、二次元ホウ素含有シートの水素放出温度に引っ張られて、混合物の水素放出温度は広範囲となることが確認された。
【0069】
<付記>
各実施形態に記載の水素吸蔵材料、および水素吸蔵材料を含む水素放出・貯蔵システムは、例えば、以下のように把握される。
【0070】
(1)第1の態様に係る水素吸蔵材料は、ホウ化水素と前記ホウ化水素の表面に担持されたニッケルとから構成されるホウ化水素-ニッケル担持体と、前記ニッケルを介して、前記ホウ化水素-ニッケル担持体の表面に結合した水素化マグネシウムと、を含み、前記ニッケルの含有量が5質量%以下である。
【0071】
上記構成によれば、従来の水素吸蔵材料である水素化マグネシウムよりも水素放出温度が低くなる。すなわち、ニッケルの含有量が5質量%以下であれば、ニッケルが触媒として機能し、水素放出能を促進することができる。
【0072】
(2)第2の態様に係る水素吸蔵材料は、前記ニッケルに対する前記ホウ化水素の比は、モル比で、5以上100以下である。
【0073】
上記構成によれば、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。
【0074】
(3)第3の態様に係る水素吸蔵材料は、前記ニッケルの粒子径は100nm以下である。
【0075】
上記構成によれば、ホウ化水素-ニッケル担持体と水素化マグネシウムを、ニッケルを介して結合することができる。
【0076】
(4)に係る水素吸蔵材料は、前記ホウ化水素は、(HB)n(n≧4)からなる二次元ネットワークを有する二次元ホウ化水素含有シートである。
【0077】
上記構成によれば、ホウ化水素の表面にニッケルを高分散に担持することができる。
【0078】
(5)第5の態様に係る水素放出・貯蔵システムは、水素製造反応部と、水素吸蔵部と、前記水素製造反応部および前記水素吸蔵部を収容する容器と、前記容器内を加熱する加熱装置と、を備え、前記前記水素吸蔵部は、第1~第4の態様のいずれかに記載の水素吸蔵材料を含む。
【0079】
上記構成によれば、水素製造反応部で生成した水素を水素吸蔵部に吸蔵させて後、より低い温度で水素吸蔵部から水素を放出することができる。従って、第5の態様に係る水素放出・貯蔵システムは、水素の放出および貯蔵に要するエネルギーを少なくすることができる。